説明

不織布製買物袋、並びにこれと同様の材質からなる製品

【課題】不織布製買物袋、並びにこれと同様の材質からなる製品を提供すること。
【解決手段】少なくとも表面部分がポリオレフィン不織布2から成る不織布製買物袋1であって、該不織布の表面上に印刷インク層13を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなることを特徴とする。また不織布製買物袋のリサイクル方法は、使用済みの前記不織布製買物袋を回収する工程と、回収された不織布製買物袋を温水又はアルカリ水に浸漬し、その際、前記高分子域の温水又はアルカリ水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布製買物袋の不織布より取り除く浸漬工程と、次いで、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製買物袋を原料として、新たに不織布製買物袋を再生産する再生工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織布製品、特に不織布製買物袋に関する。より詳しくは、リサイクルが容易であり、さらに重い荷物を収納した場合にも破損しにくく、また軽量かつコンパクトで携帯にも適した不織布製買物袋に関する。そして、本発明は買物袋に限らず、衣服、包装材又は袋物などの不織布製品にも関する。
【背景技術】
【0002】
以前より、資源の有効利用という観点から、再生紙が使用されてきた。再生紙は、一般に新聞紙、雑誌等の印刷古紙から、それに含まれるインクが抜かれた脱墨パルプを製造し、この脱墨パルプ単独又は脱墨パルプを他のパルプと混合したものを原料として抄紙することにより、製造されている。再生紙の製造には脱墨の工程が必要不可欠であり、バージンパルプだけで作った紙よりも割高になるが、脱墨技術の確立により紙の再生リサイクル化が達成されており、斯かる再生紙の活用により資源の有効利用が促進されている。しかしながら、合成樹脂等のシート、フィルムの表面に印刷がなされている製品について、その印刷インクを取り除く技術は未だ十分に確立されているとはいえない。
【0003】
一方、現在、顧客がスーパー等の小売店で購入した商品を持ち帰る手段として、無料で配布される樹脂フィルム製の買物袋が主に使用されている。そして中でも広く利用されているのは、低密度ポリエチレンの薄いフィルムを溶着して袋状に製造された買物袋である。しかしながら、この種の買物袋は伸び耐性が低く、重い商品を詰めて提げると、樹脂フィルムがたやすく延伸して該買物袋が裂けたり変形したりしてしまい、このため該樹脂フィルム製買物袋は多くの場合使い捨てで使用されている。
樹脂フィルム製の買物袋は石油を原料として製造されるものであるので、その使い捨ては、貴重な石油資源の浪費に繋がる。また、樹脂フィルム製買物袋には一般に種々の添加剤が配合されるため、これを焼却により処分すると、例えばCO2等の有害なガスの発生
源となる。二酸化炭素は、温室効果ガスとも呼ばれ、地球温暖化の原因となることが知られている。従って、樹脂フィルム製買物袋の使い捨てという使用態様は環境保全・資源節約の観点より非常に好ましくない。
そこで、本発明者は、この課題を考慮し、本願より以前に主にポリエステル樹脂製の不織布を同じポリエステル樹脂製の糸で袋状に縫製して製造したところの回収・再生産(リサイクル化)が可能な買物袋を提案している(特許文献1及び特許文献2)。
【特許文献1】特許第3876409号公報
【特許文献2】特許第3959674号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、小売店で配布される買物袋には、各小売店独自のロゴマーク等が印刷される。ロゴマークは小売店ごとに識別する機能、宣伝広告する機能を果たすことから、小売店としては再利用を目的とした上記の不織布製買物袋にもロゴマーク等を印刷することを望んでいる。
しかしながら、従来の不織布からなる買物袋にロゴマークなどを印刷した場合、買物袋の基材となる不織布を再生するためにそれら印刷インクを取り除く必要があるが、その技術が未だ開発提案されていない。ゆえに、不織布からなる買物袋において、ロゴマーク等を印刷しても回収された買物袋から新たな買物袋への再生産が容易でありリサイクルが促進される新たな買物袋を提供する必要があった。
また、繰り返して使用できる買物袋は、重い商品或いは嵩張る商品を収納した場合であってもより破損しにくいような強度を有していることが望まれるが、特許文献1の樹脂製
買物袋は、強度の点からみてさらに改良の余地を有するものであった。
すなわち、印刷された不織布製買物袋から未印刷の新たな不織布製品への再生産を容易にし、更なる強度を有するところの不織布製買物袋及び該不織布買物袋のリサイクル方法を提供するべきとの課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、少なくとも表面部分が不織布から成る不織布製品、特に不織布製買物袋において、該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることにより、該不織布製買物袋を温水に浸漬するだけで、印刷インク層を不織布より容易に分離除去することができ、よって印刷された不織布製買物袋のリサイクル化促進が期待されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
本発明は、以下の(1)ないし(14)に記載される不織布製品、並びに不織布製買物袋及び該不織布製買物袋のリサイクル方法に関する。
(1)線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部と、
内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部と、
折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部とを備えてなる、
少なくとも表面部分がポリオレフィン不織布から成る不織布製買物袋であって、
該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなることを特徴とする不織布製買物袋。
(2)前記高分子域は、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、前記(1)に記載の不織布製買物袋。
(3)前記高分子域は、架橋構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする、前記(1)又は(2)に記載の不織布製買物袋。
(4)前記変性ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、前記(3)に記載の不織布製買物袋。
(5)前記高分子域は、該高分子の層が前記ポリオレフィン不織布の表面上に形成されてなる、前記(1)ないし(4)のうちいずれか一つに記載の不織布製買物袋。
(6)前記高分子域は、該高分子が前記ポリオレフィン不織布内に含浸して形成されてなる、前記(1)ないし(4)のうちいずれか一つに記載の不織布製買物袋。
(7)使用済みの前記(1)ないし(6)のうちいずれか一つに記載の不織布製買物袋を回収する工程と、
回収された不織布製買物袋を温水又はアルカリ水に浸漬し、その際、前記高分子域の温水又はアルカリ水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布製買物袋の不織布からなる表面部分より取り除く浸漬工程と、
次いで、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製買物袋を原料として、新たに不織布製買物袋を再生産する再生工程とを含むことを特徴とする、不織布製買物袋のリサイクル方法。
(8)前記浸漬工程において、温水又はアルカリ水に浸漬された不織布製買物袋に振動を加えることを特徴とする、前記(7)に記載の不織布製買物袋のリサイクル方法。
(9)前記不織布製買物袋がポリプロピレン不織布から作られていることを特徴とする、前記(1)に記載の不織布製買物袋。
(10)ポリプロピレン連続フィラメントにより縫製されていることを特徴とする、前記(9)に記載の不織布製買物袋。
(11)少なくとも表面部分が不織布から成る不織布製品であって、
該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなり、且つ前記高分子域が架橋構造を有する変性ポ
リビニルアルコールを含むことを特徴とする不織布製品。
(12)前記変性ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、前記(11)に記載の不織布製品。
(13)前記不織布はポリオレフィン不織布である前記(11)に記載の不織布製品。
(14)衣服、包装材又は袋物である前記(11)乃至(13)のうちいずれか一つに記載の不織布製品。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、不織布製品、特に不織布製買物袋に印刷を施しても印刷インク層と不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることで、該高分子域の温水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布より容易に取り除くことができる不織布製品、特に不織布製買物袋が提供される。
さらに本発明の不織布製買物袋は、軽量であり且つコンパクトに折畳むこともできるため、携帯に非常に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の不織布製品は、少なくとも表面部分が不織布から成るものである。本願明細書における“不織布製品”としては、例えば、衣服(手術着、実験着、防護服)、防護用品(作業手袋、防煙マスク、防じんマスク、防毒マスク)、医療用品(キャップ、マスク、シーツ類、抗菌マット)、収納用(収納袋、スーツカバー、防虫カバー)、包装資材、袋物(乾燥剤袋、買物袋)、生活雑貨(カレンダー、滑り止めシート、アイマスク、ブックカバー、防臭シート)、テーブルトップ(テーブルクロス、ランチョンマット、コースター)、事務用品(封筒)、手芸用品、アイロンマット、OA機器(フロッピー(登録商標)ディスクライナー、CD/DVDケース)などが挙げられる。なかでも、本発明の不織布製品として好ましいものは、回収しリサイクル化し易い、袋(特に買物袋)、衣服(手術着、実験着、防護服)又はスーツカバーである。
【0009】
また、本発明の不織布製品の具体例として、線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部と、内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部と、折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部とを備えてなる、少なくとも表面部分がポリオレフィン不織布から成る不織布製買物袋が挙げられる。
【0010】
また、本発明の不織布製買物袋には、リサイクルの容易さ、強度、成形性等の面から、素材としてポリオレフィン不織布、例えばポリエチレン不織布又はポリプロピレン不織布が使用される。なかでも、再生が容易なポリプロピレン不織布が好ましい。
【0011】
また、本発明の不織布製買物袋に用いられる不織布は軽量であり、しかもコンパクトに折り畳むこと、並びに折畳み後に再展開して元の形状に戻すことも容易であるので、該買物袋は携帯にも大変適している。また、該買物袋は、好ましくは袋全体が同一の不織布からなるため、分解分別する必要がないので、そのまま再生工程に送ることができ、ゆえに該買物袋のリサイクル化は非常に容易である。
【0012】
また、本発明の不織布製買物袋は少なくとも表面部分が不織布から成るものであって、該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなるものである。
さらに、本発明の不織布製買物袋が、少なくともその表面部分が不織布から成る積層体から形成される場合、該積層体の基材として用いられる基材に特に制限はなく、該積層体から形成される前記買物袋が十分な強度を有するものとなればよい。前記基材として、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリエチ
レン、ポリプロピレン等のプラスチックフィルム;クラフト紙、上質紙、グラシン紙、セロファン等の紙類;デンプンやセルロースシート;綿、麻、ポリアミド、ポリエステル等の織布が挙げられる。前記積層体の積層方法は、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0013】
また、本発明に用いられる前記不織布は、無着色のもの、又は慣用の不織布染色技術、例えばビーム染色、液流染色、ディッピングなどの染色法によって染色したものを用いることができる。染色した不織布によって製造された本発明の買物袋をリサイクルにより再利用する場合、色別に分別回収し、各々再生することによって、回収された袋材料を脱色することなくそれより新たな買物袋を再生産することができる。
【0014】
本発明における高分子域は、本発明の買物袋が雨に濡れても印刷インク層の溶解分離によって変化しないものであることが求められる観点から低温の水には溶解せず、一方該高分子域が不織布表面から容易に分離されるようにするために該高分子域が60℃以上の高温の水に接触(浸漬)したときには、容易に溶解してしまう性質を有するものであることが求められる。従って、それら要求を満たすところの高分子としては溶解度が、20℃の水100gに対して20g未満、及び60℃の水100gに対して60g以上であることが好ましい。
【0015】
また、本発明では上記のような特異な耐水性、すなわち60℃以上の高温水には易溶解するが、常温水のような低温水には溶解し難い性質を有する高分子として、ポリビニルアルコールが好適に用いられる。
本発明に用いられるポリビニルアルコールとしては、上記のような耐水性を有するポリビニルアルコールであれば特に限定はされない、例えばアルコキシ基、エステル基、アルキレンエーテル基など各種の修飾基を有する変性ポリビニルアルコールでもよい。けん化度は、97.5モル%以上が好ましい。とりわけ、ポリビニルアルコールと架橋剤とを重合して得られる架橋構造を有する変性ポリビニルアルコールが好適に用いられる。なかでも、例えば下記式
【化1】

(式中、0≦l≦1、0≦m≦1、0≦n≦1、0.8≦l+m+n≦1)で表される構造を含むアセトアセチル化ポリビニルアルコール(l、m及びnは各構造のモル比を表す。この高分子はランダム重合体であってよく、またブロック重合部分を有していてもよい。)を架橋剤と重合することによって得られる変性ポリビニルアルコールが好ましい。市販品としては、例えばゴーセファイマーZ−200、Z−410(日本合成化学工業(株)製)が好ましい。
【0016】
本発明で用いられる架橋剤としては、ポリビニルアルコールを架橋させることで上記のような耐水性を付与しうる化合物であれば特に限定されず、例えば、多価金属化合物、ホウ素化合物、アミン化合物、ヒドラジン化合物、シラン化合物、メチロール基含有化合物、アルデヒド基含有化合物、エポキシ化合物、チオール化合物、イソシアネート化合物等を用いることができる。これらは単独で用いても二種類以上を組み合わせて用いても良い。市販品としては、例えばグリオキザールGX(日本合成化学工業社製)、スミマールM−30W(住友化学社製)、ハイリンクDM(Clariant製)が好ましい。架橋剤は、ポリビニルアルコールの質量に対して、0.1質量%より多く2.0質量%以下、好
ましくは1.0質量%より多く1.5質量%以下、また好ましくは0.5より多く1.0質量%以下の量で添加される。架橋剤の添加量が上記の範囲の下限量より少ない場合、架橋度が不十分に低くなるため常温水及び高温水に対する所期の耐水性が得られず、また添加量が上記の範囲の上限量、特に2.0質量%より多くなると、架橋度が相当に高くなるため常温水に対する耐水性が高くなるとともに高温水に対する耐水性も高くなり過ぎ、60℃以上の高温水には易溶解するが、常温水のような低温水には溶解し難いという本発明の高分子域に要求される耐水性が得られない。
【0017】
本発明で用いられるアセトアセチル化ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールをアセトアセチル化したものが望ましく、その方法としては、ポリビニルアルコールを酢酸溶媒中に分散させておき、これにジケテンを添加させる方法、ポリビニルアルコールをジメチルホルムアルデヒドまたはジオキサンなどの溶媒にあらかじめ溶解しておき、これにジケテンを添加する方法、あるいはポリビニルアルコールにジケテンガスまたは液状ジケテンを直接接触させる方法等が好適に用いられる。
【0018】
本発明において、アセトアセチル基が側鎖に導入されたポリビニルアルコールと、架橋剤としてアミン化合物とを反応させた場合、下記のような架橋構造を形成する。
【化2】

また、分子内にアセトアセチル基を有するポリビニルアルコールと、架橋剤としてアルデヒド基含有化合物とを反応させた場合、下記のような架橋構造を形成する。
【化3】

また、分子内にアセトアセチル基を有するポリビニルアルコールと、架橋剤としてメチロール基含有化合物とを反応させた場合、下記のような架橋構造を形成する。
【化4】

また、分子内にアセトアセチル基を有するポリビニルアルコールと、架橋剤として多価金属化合物とを反応させた場合、下記のような架橋構造を形成する。
【化5】

【0019】
また、本発明の上記のような架橋構造を有するアセトアセチル化ポリビニルアルコールは、酸性に溶けにくく強アルカリ性に溶け易い性質を有するため、60℃以上の高温水以外に、例えば水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ水を用いることによって容易に溶解することができる。
【0020】
また、前記高分子域は、例えばフィルムの形態にある高い温水溶解性を有する高分子を前記不織布の表面に熱融着によりアイロン接着することによって、該高分子の層が該不織布の表面上に形成される。あるいは、前記高分子域は、例えば前記不織布の表面に前記高分子の水溶液を塗付又は噴き付け、乾燥することによって、該高分子が該不織布内に含浸して形成される。不織布の表面に高分子を積層する場合、該不織布と印刷インク層との間に十分な厚みを有する高分子域が形成されるので、該不織布から該印刷インク層を分離するときに容易に分離することができる。一方、不織布内に高分子を含浸する場合、該不織布における該高分子の密着性が高くなるので、見た目にも綺麗に仕上がる。
【0021】
また本発明の不織布製買物袋は、その使用用途などによってその不織布の表面上に印刷が施され、例えば、各小売店独自のロゴマーク等が印刷される。小売店ごとに識別する機能、宣伝広告する機能を果たすロゴマークは、上述したような方法によって形成された高分子域を介して前記不織布の表面上に印刷される。印刷方法は、従来、不織布の印刷に採用される方法であれば特に制限はなく、凸版印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、シルクスクリーン印刷、転写印刷等いずれも採用可能である。なかでも、厚さ、大小、平面、曲面を問わず印刷が可能なことからシルクスクリーン印刷が好ましい。前記買物袋に印刷する場合、印刷が予め施されたフィルムを該買物袋の表面にアイロン接着してもよく、不
織布表面にフィルムをアイロン接着した後にその上から印刷してもよく、又は高分子溶液を含浸させた不織布表面に印刷をしてもよい。
【0022】
本発明の不織布製買物袋において、不織布と印刷インク層との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させることにより、該不織布製買物袋を一定温度以上の温水に浸漬することで、前記高分子域が温水中に溶解し、前記印刷インク層を前記不織布の表面から容易に分離することができる。このとき温水に浸漬された不織布製買物袋に振動、特に超音波振動を加えることによって更により一層印刷インク層が不織布から剥がれ易くなる。また、分離された前記印刷インク層を構成する印刷インクは一般に水不溶性であり、温水であっても溶解しないので、容易に温水から印刷インク層のみを取り除くことができる。また、本発明の不織布製品から印刷インク層を分離する際、有機溶剤などを使用せず水だけを使用するので、作業者の健康面への影響、更には土壌汚染等の環境への影響もない。
【0023】
さらに本発明の不織布製買物袋のリサイクル方法は、不織布製買物袋を回収する回収工程と、印刷インク層を不織布より取り除く浸漬工程と、新たに不織布製買物袋を再生産する再生工程とを含むものである。回収工程では、本発明の不織布製買物袋が複数回使用された後、使用済みの不織布製買物袋として回収される。浸漬工程では上述した方法により印刷インク層が不織布から取り除かれる。また再生工程では、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製買物袋を原料として、新たに不織布製買物袋が再生産される。
【0024】
本発明の不織布製買物袋は、下記の方法により成形されるものであるが、下記以外の異なる方法によっても成形することができる。
本発明の不織布製買物袋の成形方法において、長方形をなす不織布シートを用意し、該不織布シートを一方の短辺部が他方の短辺部に重なるように折畳み、形成された折り目部の一部を切除して取手部及び封止片を形成する。次に重ねられた左右の長辺部を袋本体と同材質の糸でミシン縫製或いはヒートシールして袋側部を形成する。続いて縫合或いはヒートシールされた左右の袋側部を、袋体にマチを設ける長さだけ内側に折り込み、前記折り込み部の下端とこれに重なる底辺部とを前記糸でミシン縫製或いはヒートシールして、袋体の左右の袋側部と袋下部とを形成する。そしてこうして得られた袋体を裏返すことにより、本発明の不織布製買物袋が得られる。
【0025】
また、本発明の不織布製買物袋の別の成形方法において、二つ目の態様においては、上述の態様と同様に不織布シートの一部を切除して取手部を形成するが、該取手部を折り目部にではなく、縫合或いはヒートシールされた短辺部に形成する点で、上述の態様とは異なる。即ち、長方形をなす不織布シートを用意し、該不織布シートを一方の短辺部が他方の短辺部に重なるように折畳み、そして重ねられた短辺部の縁を袋本体と同材質の糸でミシン縫製或いはヒートシールし、さらに縫合或いはヒートシールされた短辺部の一部を切除して取手部及び封止片が形成される。次に重ねられた左右の長辺部を袋本体と同材質の糸でミシン縫製或いはヒートシールして袋側部を形成する。続いて縫合或いはヒートシールされた左右の袋側部を、袋体にマチを設ける長さだけ内側に折り込み、前記折り込み部の下端とこれに重なる底辺部とを前記糸でミシン縫製或いはヒートシールして、袋体の左右の袋側部と袋下部とを形成する。そしてこうして得られた袋体を裏返すことにより、本発明の不織布製買物袋が得られる。
本発明の不織布製買物袋は、袋体及び糸をすべて同材質とすることにより、リサイクルの際にこれらを分別するという煩わしい作業が省ける。
【実施例】
【0026】
実施例1
以下に図面を参照して本発明をより詳細に説明する。図1は本発明の一実施例の不織布製買物袋を図示する斜視図であり、そして図3の(a)ないし(f)は、図1の買物袋の
成形過程の一例を図示する模式図である。
【0027】
本実施例の買物袋1は、ポリプロピレン不織布シート2をヒートシールにより袋状にシールした。買物袋1は例えば、図3の(a)ないし(f)に図示するように製造した。図3に図示する方法では、細長い長方形のポリプロピレン不織布シート2を用意し、該不織布シートを一方の短辺部が他方の短辺部に重なるように折り畳む(図3(b)参照)。そして折り畳んだ不織布シート2の折り目を含む一部(図3(b)において斜線で示す部分)を切除して、耳部3、取手部4及び封止片5を形成した。次に、長方形の長辺であった辺に沿って不織布シート2をヒートシールし(図3(c)中、6はヒートシール部を示す
)、買物袋1の袋側部10を形成する(図3(c)参照)。そして、取手部4を二重の不織布シート2から構成するために、また完成した不織布買物袋1にまち9を設けるために、ヒートシールした不織布シート2の両側を内側に折り返し(例えば、図3(c)の線X及び線X’に沿って)、取手部4及び封止片5に対向する辺に沿って不織布2をヒートシールして(図3(d)中、6はヒートシール部を示す)買物袋1を成形した。次に買物袋1を裏返し、買物袋1の外表面となる不織布シート2表面に変性ポリビニルアルコールフィルム12を重ね合わせ、熱溶着により不織布シート2と変性ポリビニルアルコールフィルム12を貼り合わせた。さらにその上からシルクスクリーン印刷をすることによって印刷インク層13が形成され、本発明の買物袋1を製造することができた(図2参照)。この変性ポリビニルアルコールフィルム12は、20℃の水100gには約2gしか溶解し
ないが、60℃の温水に対しては約80gも易溶解するものである。また、変性ポリビニルアルコールフィルム12は、架橋剤としてハイリンクDM(Clariant製)をゴーセファイマーZ−200(日本合成化学工業(株)製)に対して1.0質量%となるように調製し、約40μmの厚さのフィルムに成形されたものである。
【0028】
このようにして作られた本発明の買物袋1は、図1に示すように、耳部3の上縁が湾曲した凸曲線状に形成され、且つ、耳部3の側縁から袋側部10の上縁までの部位が湾曲した凹曲線状に形成されている。また買物袋1は、図1に示すように、線状に閉じて伸びる底辺部7を有する袋下部8と、内側に折り畳まれてマチ9を有する左右の袋側部10と、折り重ねられた幅広の取手部4を一対で形成する袋上部11とを備えてなるものである。
従って、買物袋1は、沢山の商品や重い商品を入れても袋側部の繋ぎ目から袋が裂けたり、破けたりせず、耳部の無い従来の不織布買物袋と比べて、袋内に詰める内容物の荷重限度、並びに許容体積が著しく向上することができ、ゆえに本発明の買物袋1は、重い商品や嵩張る商品を入れ繰り返し使用しても、通常5回以上繰り返して使用することができた。また、ポリオレフィン製の不織布2は軽量であり、しかもコンパクトに折り畳むこと、並びに折り畳み後に再展開して元の形状に戻すことも容易であるので、本発明の買物袋1は携帯にも大変適している。
【0029】
また、買物袋1を65℃に保たれた温水槽に入れ、超音波による振動を与えながら約3分間浸漬したところ、買物袋1の表面から印刷インク層13を分離することができた。前記温水槽から印刷インク層13が分離された買物袋を取り出し、分離した印刷インクは水よりも比重が大きいことから該温水槽の底に沈んだ。沈んだ印刷インクを該温水槽から取り出した。
このように、買物袋1は、ポリオレフィン不織布2の表面に印刷を施しても、ポリオレフィン不織布2と印刷インク層13との間に高分子域として変性ポリビニルアルコール12を介在させることによって、印刷インク層13を容易に分離することができた。
さらに、印刷インク層が取り除かれた買物袋を原料として不織布を再生しそして袋形成することにより、新たな買物袋を再生産することができた。
従って、買物袋1は図4に示されるようなリサイクル方法によりリサイクル化することができた。
【0030】
実施例2
実施例1と同様の手順により成形された買物袋14を裏返し、買物袋14の外表面となる不織布シート15表面に、予めシルクスクリーン印刷によってその表面に印刷インク層16を有する変性ポリビニルアルコールフィルム17を重ね合わせ、アイロンによる熱溶着により不織布シート15と変性ポリビニルアルコールフィルム17を貼り合わせ、本発明の買物袋14を製造した(図5参照)。前記変性ポリビニルアルコールフィルムは、実施例1において使用したものと同じである。
また、実施例1と同様な方法により、買物袋14から印刷インク層16を分離した。その結果、予め表面に印刷がなされた変性ポリビニルアルコールフィルムを用いても実施例1の買物袋1と同様に、不織布シート15と印刷インク層16との間に高分子域として変性ポリビニルアルコールを介在させることによって、印刷インク層16を容易に分離することができた。
さらに、印刷インク層が取り除かれた買物袋を原料として不織布を再生しそして袋形成することにより、図4に示されるようなリサイクル方法により新たな買物袋を再生産することができた。
【0031】
実施例3
実施例1と同様の手順により成形された買物袋18を裏返し、買物袋18の外表面となる不織布シート19の表面に、変性ポリビニルアルコール水溶液20を塗布し、水分を蒸発させた後、その表面にシルクスクリーン印刷によって印刷をすることにより印刷インク層21を形成し、本発明の買物袋18を製造した(図6参照)。また、前記変性ポリビニルアルコール水溶液20は、架橋剤としてハイリンクDM(Clariant製)をゴーセファイマーZ−200(日本合成化学工業(株)製)に対して1.0質量となるように混合して調製したものである。
次に、実施例1と同様な方法により、買物袋18から印刷インク層21を分離した。その結果、上記のようにして得られた買物袋18は実施例1の買物袋1と同様に、不織布シート19と印刷インク層21との間に高分子域として変性ポリビニルアルコール20を介在させることによって、印刷インク層21を容易に分離することができた。
さらに、印刷インク層が取り除かれた買物袋を原料として不織布を再生しそして袋形成することにより、図4に示されるようなリサイクル方法により新たな買物袋を再生産することができた。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、本発明の実施例1の買物袋を図示する斜視図である。
【図2】図2は、図1の買物袋の印刷層を含むA−A’断面の拡大図である。
【図3】図3(a)ないし(f)は、実施例1の買物袋の製造過程を図示する模式図である。
【図4】図4は、本発明の買物袋のリサイクル方法を示した図である。
【図5】図5は、実施例2の買物袋の製造過程を図示する模式図である。
【図6】図6は、実施例3の買物袋の製造過程を図示する模式図である。
【符号の説明】
【0033】
1 買物袋
2 ポリプロピレン不織布シート
3 耳部
4 取手部
5 封止片
6 ヒートシール部
7 底辺部
8 袋下部
9 マチ
10 袋側部
11 袋上部
12 変性ポリビニルアルコールフィルム
13 印刷インク層
14 買物袋
15 不織布シート
16 印刷インク層
17 変性ポリビニルアルコールフィルム
18 買物袋
19 不織布シート
20 変性ポリビニルアルコール水溶液
21 印刷インク層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状に閉じて伸びる底辺部を有する袋下部と、
内側に折り畳まれてマチを有する左右の袋側部と、
折り重ねられた幅広の取手部を一対で形成する袋上部とを備えてなる、
少なくとも表面部分がポリオレフィン不織布から成る不織布製買物袋であって、
該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなることを特徴とする不織布製買物袋。
【請求項2】
前記高分子域は、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、請求項1に記載の不織布製買物袋。
【請求項3】
前記高分子域は、架橋構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の不織布製買物袋。
【請求項4】
前記変性ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、請求項3に記載の不織布製買物袋。
【請求項5】
前記高分子域は、該高分子の層が前記ポリオレフィン不織布の表面上に形成されてなる、請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載の不織布製買物袋。
【請求項6】
前記高分子域は、該高分子が前記ポリオレフィン不織布内に含浸して形成されてなる、請求項1ないし請求項4のうちいずれか一項に記載の不織布製買物袋。
【請求項7】
使用済みの請求項1ないし請求項6のうちいずれか一項に記載の不織布製買物袋を回収する工程と、
回収された不織布製買物袋を温水又はアルカリ水に浸漬し、その際、前記高分子域の温水又はアルカリ水への溶解により、前記印刷インク層を前記不織布製買物袋の不織布からなる表面部分より取り除く浸漬工程と、
次いで、印刷インク層が取り除かれた使用済みの不織布製買物袋を原料として、新たに不織布製買物袋を再生産する再生工程とを含むことを特徴とする、不織布製買物袋のリサイクル方法。
【請求項8】
前記浸漬工程において、温水又はアルカリ水に浸漬された不織布製買物袋に振動を加えることを特徴とする、請求項7に記載の不織布製買物袋のリサイクル方法。
【請求項9】
前記不織布製買物袋がポリプロピレン不織布から作られていることを特徴とする、請求項1に記載の不織布製買物袋。
【請求項10】
ポリプロピレン連続フィラメントにより縫製されていることを特徴とする、請求項9に記載の不織布製買物袋。
【請求項11】
少なくとも表面部分が不織布から成る不織布製品であって、
該不織布の表面上に印刷インク層を設け、該印刷インク層と前記不織布との間に高い温水溶解性を有する高分子域を介在させてなり、且つ前記高分子域が架橋構造を有する変性ポリビニルアルコールを含むことを特徴とする不織布製品。
【請求項12】
前記変性ポリビニルアルコールは、20℃の水100gに対して20g未満そして60℃
の水100gに対して60g以上の溶解度を有する高分子からなることを特徴とする、請求項11に記載の不織布製品。
【請求項13】
前記不織布はポリオレフィン不織布である請求項11に記載の不織布製品。
【請求項14】
衣服、包装材又は袋物である請求項11乃至請求項13のうちいずれか一項に記載の不織布製品。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−119459(P2010−119459A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293686(P2008−293686)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(598110219)株式会社アクシス (24)
【Fターム(参考)】