説明

不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】ホットスポット部の温度を低下させ、高い不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率、収率が得られる方法を提供する。
【解決手段】触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、TBA及びMTBEからなる群から選択される少なくとも一種を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、触媒が、モリブデン、ビスマス及び鉄を少なくとも含む複合酸化物であり、固定床管式反応器内の反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、反応管の原料入口側から出口側に向けて触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が大きくなるように反応管内の各反応帯に触媒が充填されている方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法に関する。詳しくは、触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール(以下、TBAともいう)及びメチル第3級ブチルエーテル(以下、MTBEもという)から選ばれる少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、触媒を充填した固定床多管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、TBA及びMTBEから選ばれる少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、それぞれに対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法に関しては数多くの提案がなされている。
【0003】
前記酸化反応は、通常、固定床多管式反応器を用いて行われるが、大きな発熱を伴う反応であるため、過度の酸化反応による収率の低下と、触媒劣化が加速されることによる触媒寿命の低下の問題がある。ホットスポット部の温度を低く抑え、生産性と触媒寿命を改善するためにいくつかの提案がなされている。
【0004】
例えば、アルカリ土類金属の種類及び/又は量を変更して調製した活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口部から出口部に向かって活性がより高くなるように充填する方法が開示されている(特許文献1)。また、触媒成形体中の不活性成分の含有量を変更するとともに、触媒成形体の占有容積、アルカリ金属の種類及び/又は量、及び焼成温度の少なくとも一つを変更して活性を調整した、活性の異なる複数種の触媒成形体を各反応管の反応ガス入口側から出口側に向かって活性がより高くなるように充填する方法が開示されている(特許文献2)。
【0005】
更には、固定床多管型反応器における各反応管の内部を管軸方向に分割することにより複数個の反応帯を設け、触媒の真密度に対する触媒の見掛け密度の比が異なる触媒を充填する方法が開示されている(特許文献3)。また、触媒充填層を複数の反応帯に区分し、反応帯間で触媒の孔径がそれぞれ異なるように触媒を充填する方法が開示されている(特許文献4)。また、複数の反応帯の少なくとも2つにおいて占有容積が異なり、複数の反応帯の少なくとも1つにおいて不活性物質成形体を混合する充填方法が開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−72389号公報
【特許文献2】特開2001−328951号公報
【特許文献3】特開2004−2209号公報
【特許文献4】特開2004−2323号公報
【特許文献5】特開2005−320315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来公知のいずれの提案も、ホットスポット部の温度を低く抑えることに着目した提案である。しかしながら、固定床多管式反応器を用いた酸化反応を実施する場合、触媒層におけるホットスポット部の発生を完全になくすことはできず、ホットスポット部に位置する触媒の劣化度合いが他の部分に位置する触媒の劣化度合いに比較して相対的に大きいという問題は解決できていない。特に、モリブデン系の触媒を使用する場合や高い原料ガス濃度で反応を行う場合には、この問題は顕著となる。
【0008】
また、プロピレン、イソブチレン、TBA及びMTBEから選ばれる少なくとも一種の化合物を接触気相酸化してそれぞれに対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する反応においては、高温のホットスポット部の発生により並列反応、逐次反応等の望ましくない副反応が起こりやすく、目的生成物の選択率、収率が低下する。この副反応は触媒の好ましくない酸化還元状態への移行、細孔閉塞等を引き起こし、触媒寿命を短くする原因ともなる。
【0009】
そこで本発明は、固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、TBA及びMTBEからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、ホットスポット部の温度を低下させ、高い不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率、収率を得ることが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法は、触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、前記触媒が、モリブデン、ビスマス及び鉄を少なくとも含む複合酸化物であり、前記固定床管式反応器内の反応管の内部を管軸方向に分割することにより、複数個の反応帯を設け、前記反応管の原料入口側から出口側に向けて、前記触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が大きくなるように、前記反応管内の各反応帯に前記触媒が充填されている方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る方法によれば、固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、TBA及びMTBEからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、ホットスポット部の温度を低下させ、高い不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率、収率を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法は、触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、前記触媒が、モリブデン、ビスマス及び鉄を少なくとも含む複合酸化物であり、前記固定床管式反応器内の反応管の内部を管軸方向に分割することにより、複数個の反応帯を設け、前記反応管の原料入口側から出口側に向けて、前記触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が大きくなるように、前記反応管内の各反応帯に前記触媒が充填されている。
【0013】
従来、本発明に係る方法において行われる気相接触酸化のような発熱反応においては、使用する触媒内部の細孔構造を制御することでホットスポット部の温度低下を試みる検討はなされていなかった。本発明では、触媒内部の細孔構造を制御することでホットスポット部の温度を低下させ、さらには目的生成物の選択率、収率を向上させる方法を見出した。具体的には、細孔構造の異なる複数種の触媒を用い、反応管の管軸方向に複数個に分割された反応帯に、原料入口側から出口側に向けて、触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が順次大きくなるように触媒を配置する。即ち、原料入口側に前記細孔容積比が最も低い触媒を充填した反応帯を設け、出口側に前記細孔容積比が最も高い触媒を充填した反応帯を設け、その間の反応帯は原料入口から出口側に向けて、順次前記細孔容積比が大きくなる触媒を充填した反応帯とする。これによりホットスポット部の温度を低下させることができ、反応が安全かつ効率的に行われ、触媒の寿命を損なうことなく生産性の向上が達成できる。
【0014】
(触媒、触媒の製造方法)
本発明で使用する触媒は、モリブデン、ビスマス及び鉄を少なくとも含む複合酸化物である。特に、前記触媒は下記式(I)で表される組成を有することが好ましい。
【0015】
MoaBibFecdefgSihi (I)
前記式(I)において、Mo、Bi、Fe、Si及びOはそれぞれモリブデン、ビスマス、鉄、ケイ素及び酸素を示す。Mはコバルト及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Xはクロム、鉛、マンガン、カルシウム、マグネシウム、ニオブ、銀、バリウム、スズ、タンタル及び亜鉛から選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Yはリン、ホウ素、硫黄、セレン、テルル、セリウム、タングステン、アンチモン及びチタンから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。Zはリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。a、b、c、d、e、f、g、h及びiは各元素の原子比率を表し、a=12のときb=0.01〜3、c=0.01〜5、d=1〜12、e=0〜8、f=0〜5、g=0.001〜2及びh=0〜20であり、iは前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素原子比率である。なお、前記式(I)に示される組成は各元素の原料の仕込み量から算出した値とする。
【0016】
本発明に係る触媒の製造方法としては特に限定されないが、例えば触媒成分を含む溶液又はスラリーを調製し、該溶液又はスラリーを乾燥、焼成し、成形することにより製造することができる。
【0017】
触媒成分の出発原料としては、各元素の酸化物、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ハロゲン化物等を使用することができる。モリブデン原料としては、例えばパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン等が挙げられる。ビスマス原料としては、例えば、三酸化ビスマス、硝酸ビスマス、炭酸ビスマス、水酸化ビスマス等が使用できる。鉄原料としては、例えば、硝酸第二鉄、塩化第二鉄等が使用できる。前記触媒成分の原料は、各元素について1種のみでもよく、2種以上を併用してもよい。また、硝酸ビスマス等の水に不溶な原料は、予め硝酸等の酸に溶かして用いてもよい。
【0018】
触媒成分を含む溶液又はスラリーを調製する方法としては、触媒成分の著しい偏在を伴わない範囲で、沈殿法、酸化物混合法等の公知の方法を適用することができる。該溶液又はスラリーの溶媒としては水、アルコール等を用いることができる。
【0019】
触媒成分を含む溶液又はスラリーの乾燥方法としては、種々の方法を用いることが可能であり、例えば、蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等が挙げられる。乾燥に使用する乾燥機の機種や乾燥時の温度等は特に限定されず、乾燥条件を適宜変えることで目的に応じた触媒前駆体の乾燥物を得ることができる。中でも、後述するように、乾燥物の平均粒子径を制御し易いことから、噴霧乾燥法を用いることが好ましい。
【0020】
噴霧乾燥法は、例えば回転円板型遠心アトマイザー、二流体ノズル型アトマイザー等を備えたスプレー乾燥機を使用して行うことができる。スプレー乾燥機の入口温度や出口温度等の条件は、所望の平均粒子径が得られるように適宜設定される。例えば、固形物を35〜55質量%含む水性スラリーを、回転円板型遠心アトマイザーを備えたスプレー乾燥機を用いて噴霧乾燥する場合の一般的な乾燥条件は、入口温度100〜500℃、出口温度100〜200℃、アトマイザー回転数は4000〜25000rpmである。
【0021】
触媒成分を含む溶液又はスラリーを乾燥した後の粉体は、触媒成分の出発原料等に由来する硝酸塩等の塩を含んでいる場合がある。塩が残存していると触媒成形体の機械的強度が低下する場合があるため、乾燥後、塩を分解するために焼成する。塩分解のための焼成条件としては公知の焼成条件を適用できるが、空気雰囲気下、200〜600℃で行われることが好ましい。焼成時間は、目的とする触媒成形体に応じて適宜選択される。当該焼成により、触媒粉体が得られる。
【0022】
前記触媒粉体の平均粒子径を小さくすると細孔径2μmより大きな細孔が触媒内部に多く形成される傾向にある。一方、前記触媒粉体の平均粒子径を大きくすると2μmより小さな細孔が触媒内部に多く形成される傾向がある。また、前記触媒粉体の平均粒子径を小さくすると単位体積当たりの粒子同士の接触点が増加するため得られる触媒成形体の機械的強度が向上する傾向がある。
【0023】
これらを考慮すると、前記触媒粉体の平均粒子径は10μm以上、200μm以下が好ましい。平均粒子径が前記範囲であれば、選択率及び機械的強度のバランスに優れている。前記触媒粉体の平均粒子径は、20μm以上、150μm以下がより好ましい。なお、触媒粉体の平均粒子径は、触媒成分を含む溶液又はスラリーの乾燥条件、焼成条件等を適宜選択することにより前記範囲内に制御することができる。また、触媒粉体の平均粒子径は、粒度分布測定装置「SALD−7000」(商品名、島津製作所製)を用いて測定した平均粒子径である。
【0024】
前記触媒粉体の嵩比重は、成形する際の取り扱い性と触媒の性能の面から0.5〜1.8kg/Lの範囲であることが好ましい。この範囲であれば成形に耐えうる十分な強度が得られるため成形の際に粒子が潰れ難く、また、触媒の活性及び選択性も高い。前記触媒粉体の嵩比重は、0.8〜1.2kg/Lであることがより好ましい。ここで、嵩比重とは、JIS K 6720−2:1999記載の方法で測定した値である。前記触媒粉体の嵩比重は、例えば、噴霧乾燥する溶液又はスラリーの濃度、該溶液又はスラリーを調製する際の混合速度や攪拌速度等で調節することができる。
【0025】
前記触媒粉体は次いで成形され、触媒成形体とする。触媒粉体を成形する方法としては特に限定されないが、例えば押出成形、打錠成形、転動造粒、鋳型成形等により行うことができる。
【0026】
触媒成形体を製造する際には、公知の添加剤、例えば、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の有機化合物を添加しても良い。さらにグラファイトやケイソウ土等の無機化合物、ガラス繊維、セラミックファイバーや炭素繊維等の無機ファイバーを添加してもよい。
【0027】
上記のようにして得られた触媒成形体は再度焼成しても構わない。焼成は通常200〜600℃の温度範囲で1〜3時間行われる。これにより触媒が製造される。
【0028】
触媒の形状については特に制限はなく、球状、円柱状(ペレット状)、リング状、不定形などのいずれの形状でもよい。球状の場合、真球である必要はなく実質的に球状であればよい。円柱状及びリング状についても同様である。触媒の大きさについては、触媒の形状が球状の場合、平均直径は1〜15mmが好ましく、1〜10mmがより好ましく、3〜10mmが更に好ましく、3〜8mmが特に好ましい。触媒の細孔容積としては、好ましくは0.2〜0.7cm3/gである。
【0029】
なお、本発明における触媒の細孔容積及び細孔径分布は、水銀圧入式ポロシメーター(商品名:「AutoPore IV 9500」、micromeritics社製)を用い、平均昇圧速度0.01〜0.3MPa/秒で昇圧し、細孔径0.006〜300μmの範囲について測定された触媒単位質量あたりの細孔容積及び細孔径分布である。
【0030】
本発明において用いることのできる触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は、特に限定されないが、好ましくは0.30〜0.98の範囲であり、より好ましくは0.35〜0.85の範囲である。細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比を0.30以上とすることによって、細孔内拡散効率が向上し、目的生成物への選択率が向上する傾向にある。一方、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比を0.98以下とすることによって、触媒強度が向上する傾向にある。
【0031】
(不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法)
本発明に係る方法では、触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する。
【0032】
本発明においては、固定床管式反応器内の反応管の内部を管軸方向に分割することにより、複数個の反応帯を設け、反応管の原料入口側から出口側に向けて、前記触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が大きくなるように、反応管内の各反応帯に前記触媒を充填する。細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の割合が大きい触媒を出口側に配置することにより、前記不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造においてホットスポット部の温度を低下させ、かつ不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の選択率、収率を向上させることができる。
【0033】
各反応帯に充填する触媒の組成は、同一でも、あるいは異なっていてもよいが、触媒活性は同一であることが好ましい。また、各反応帯に充填する触媒の形状は、同一でも、あるいは異なっていてもよいが(例えば、原料入口側:球状触媒、出口側:ペレット状触媒)、通常、同一形状の成形触媒又は同一形状の触媒を充填するのが好ましい。また、各反応帯に充填する触媒の充填密度(嵩密度)は、同一でも、あるいは異なっていてもよい。充填密度が極端に高い部分があると、反応が急激に進行しホットスポット部が発生しやすくなるため、触媒充填密度は、0.3〜1.2g/mlの範囲が好ましい。
【0034】
反応管内の反応帯の数は特に限定されず、多いほど触媒層のホットスポット部の温度を制御しやすくなるが、工業的には2又は3程度にすることで十分目的とする効果を得ることができる。また、各反応帯に充填される触媒層の長さの比については、酸化反応条件や各反応帯に充填される触媒の組成、形状、サイズ等によって最適値が異なるため特に制限されず、全体として最適な活性、選択率及び収率が得られるように適宜選択することができる。触媒の反応管への充填に際しては、不活性物質で希釈した触媒を各反応帯に充填することもできる。
【0035】
本発明に係る方法では、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、それと分子状酸素又は分子状酸素含有ガスとを固体触媒に接触させる。前記原料並びに分子状酸素もしくは分子状酸素含有ガス(以下「原料ガス」という)中の前記化合物の濃度は通常1〜20容量%である。前記原料ガス中の前記化合物と分子状酸素とのモル比は1:0.5〜1:3が好ましい。前記原料ガスには水蒸気を加えてもよく、水蒸気の濃度は通常1〜45容量%である。また、反応圧力は通常0〜数100kPa、反応温度は通常250〜400℃である、接触時間は通常1.5〜15秒である。
【実施例】
【0036】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。実施例及び比較例中の「部」は質量部である。原料ガス及び反応ガスは、ガスクロマトグラフィーにより分析した。触媒成分の組成は触媒原料の仕込み量から求めた。
【0037】
実施例及び比較例の反応原料の転化率、生成する不飽和アルデヒド又は不飽和カルボン酸の選択率、不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の合計収率、並びにΔTは、それぞれ以下のように定義される。
【0038】
転化率(%)=A/B×100
不飽和アルデヒドの選択率(%)=C/A×100
不飽和カルボン酸の選択率(%)=D/A×100
合計収率(%)=(C+D)/B×100
ΔT=(ホットスポット部温度(℃))−(反応温度(℃))
ここで、Aは反応した原料のモル数、Bは供給した原料のモル数、Cは生成した不飽和アルデヒドのモル数、Dは生成した不飽和カルボン酸のモル数である。ホットスポット部の温度は反応管内部に熱伝対を設置し、軸方向に1cmあるいは0.5cm間隔で実反応温度を測定し、反応温度は熱媒の温度とした。
【0039】
充填密度は、JIS K 7365:1999にしたがって測定を行った。
【0040】
細孔容積及び細孔径分布の測定は、水銀圧入式ポロシメーター(商品名:「AutoPore IV 9500」、micromeritics社製)を用い、平均昇圧速度0.01〜0.3MPa/秒で昇圧し、細孔径0.006〜300μmの範囲について行った。また、触媒粉体の平均粒子径の測定は、粒度分布測定装置(商品名:「SALD−7000」、島津製作所製)を用いて行った。
【0041】
<触媒製造例1:触媒(1)の調製>
純水2000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、パラタングステン酸アンモニウム12.4部、硝酸セシウム23.0部、三酸化アンチモン27.4部及び三酸化ビスマス33.0部を加え、加熱、撹拌した。更に、硝酸第二鉄209.8部、硝酸ニッケル75.5部、硝酸コバルト453.3部、硝酸鉛31.3部及び85質量%リン酸5.6部を順次加え、加熱、撹拌し、水性のスラリーとした。その後、該水性のスラリーを、回転円板型遠心アトマイザーを備えたスプレー乾燥機を用いて噴霧乾燥した。このとき、スプレー乾燥機のアトマイザーの回転数は22,000rpm、スプレー乾燥機の入口温度は250℃、出口温度は170℃であった。次いで、この乾燥粒子を300℃で1時間、510℃で3時間焼成を行い、触媒粉体とした。このときの触媒粉体の平均粒子径は30μmであった。
【0042】
このようにして得られた触媒粉体100部に対して2質量%水溶液としたときの20℃における粘度が10,000mPa・sのヒドロキシプロピルメチルセルロース5部を加え、乾式混合した。ここに純水45部を混合し、双腕型の撹拌羽根を有するバッチ式の混練機を用いて混練した後、押出成形機にて、外径5mm、内径2mm、及び長さ5mmのリング状物を成形した。次いで、得られた成形物を、熱風乾燥機を用いて110℃で乾燥し、更に400℃で3時間焼成を行い、触媒(1)を得た。
【0043】
得られた触媒(1)の酸素以外の元素の組成は、Mo120.2Bi0.6Fe2.2Sb0.8Ni1.1Co6.6Pb0.40.2Cs0.5であった。触媒(1)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.36であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.60ml/gであった。
【0044】
<触媒製造例2:触媒(2)の調製>
前記触媒製造例1の触媒(1)の調製方法において、スプレー乾燥機のアトマイザーの回転数を12,000rpmとし、触媒粉体の平均粒子径を80μmとした以外は前記触媒製造法1と同様にして触媒(2)を得た。触媒(2)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.62であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.53ml/gであった。
【0045】
<触媒製造例3:触媒(3)の調製>
前記触媒製造例1の触媒(1)の調製方法において、スプレー乾燥機のアトマイザーの回転数を7,000rpmとし、触媒粉体の平均粒子径を120μmとした以外は触媒製造法1と同様にして触媒(3)を得た。触媒(3)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.84であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.43ml/gであった。
【0046】
<触媒製造例4:触媒(4)の調製>
水2000部に、パラモリブデン酸アンモニウム500部、硝酸セシウム27.6部、酸化スズ3.2部、二酸化ケイ素14.2部、二酸化チタン0.18部及び三酸化アンチモン17.2部を加え加熱撹拌した(A液)。A液とは別に、水1000部に60質量%硝酸75部を加え、均一にした後、硝酸ビスマス103.0部を加え溶解した。これに硝酸第二鉄238.4部、硝酸ニッケル137.2部、硝酸コバルト343.3部、硝酸マグネシウム484.3部及び硝酸セリウム2.05部を順次加え溶解した(B液)。A液にB液を加え水性のスラリーとした。その後、前記水性のスラリーを触媒製造例1の調製条件にて乾燥、焼成、成形を行い、触媒(4)を得た。このときの触媒粉体の平均粒子径は30μmであった。
【0047】
得られた触媒(4)の酸素以外の元素の組成は、Mo12Bi0.9Fe2.5Ni2Co5Mg0.8Sn0.1Si1Ce0.02Ti0.01Sb0.5Cs0.6であった。触媒(4)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.36であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.63ml/gであった。
【0048】
<触媒製造例5:触媒(5)の調製>
前記触媒製造例4の触媒(4)の調製方法において、スプレー乾燥機のアトマイザーの回転数を12,000rpmとし、触媒粉体の平均粒子径を80μmとした以外は触媒製造法4と同様にして触媒(5)を得た。触媒(5)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.58であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.60ml/gであった。
【0049】
<触媒製造例6:触媒(6)の調製>
前記触媒製造例4の触媒(4)の調製方法において、スプレー乾燥機のアトマイザーの回転数を7,000rpmとし、触媒粉体の平均粒子径を120μmとした以外は触媒製造法4と同様にして触媒(6)を得た。触媒(6)の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比は0.76であった。また、細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積は0.48ml/gであった。
【0050】
[実施例1]
内径25.4mmのステンレス製反応管の原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(1)を層長1500mm、触媒(2)を層長1500mmとなるように充填した。前記反応器入口からイソブチレン5容量%、酸素12容量%、水蒸気10容量%及び窒素73容量%の原料混合ガスを導入し、前記反応管の周囲に熱媒を循環させて反応熱を除去しながら、反応温度345℃、空間速度1400hr-1で反応を行った。結果を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
実施例1において、反応ガス入口側から出口側に向けて順に、触媒(1)を層長1000mm、触媒(2)を層長1000mm、触媒(3)を層長1000mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0052】
[比較例1]
実施例1において、触媒(1)のみを3000mm充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0053】
[比較例2]
実施例1において、触媒(2)のみを3000mm充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0054】
[比較例3]
実施例1において、触媒(3)のみを3000mm充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0055】
[比較例4]
実施例1において、原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(2)を層長1500mm、触媒(1)を層長1500mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例3]
実施例1において、原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(5)を層長1000mm、触媒(6)を層長2000mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0057】
[実施例4]
実施例1において、原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(4)を層長500mm、触媒(5)を層長1000mm、触媒(6)を層長1500mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0058】
[比較例5]
実施例1において、触媒(4)のみを3000mm充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0059】
[比較例6]
実施例1において、原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(6)を層長1000mm、触媒(4)を層長2000mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0060】
[比較例7]
実施例1において、原料入口側から出口側に向けて順に、触媒(6)を層長1500mm、触媒(5)を層長1500mmとなるように充填した以外は実施例1と同様に反応を行った。結果を表1に示す。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を充填した固定床管式反応器を用いて、プロピレン、イソブチレン、第三級ブチルアルコール及びメチル第三級ブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種の化合物を原料とし、分子状酸素又は分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、原料に対応する不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸を製造する方法において、
前記触媒が、モリブデン、ビスマス及び鉄を少なくとも含む複合酸化物であり、
前記固定床管式反応器内の反応管の内部を管軸方向に分割することにより、複数個の反応帯を設け、
前記反応管の原料入口側から出口側に向けて、前記触媒の細孔径0.1〜100μmの範囲の細孔容積に対する細孔径0.1〜2μmの範囲の細孔容積の比が大きくなるように、前記反応管内の各反応帯に前記触媒が充填されている不飽和アルデヒド及び不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2011−246384(P2011−246384A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120464(P2010−120464)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】