説明

中性子モデレータ及び中性子照射方法並びに危険物質検出装置

【課題】中性子モデレータ及び中性子照射方法並びに危険物質検出装置において、発生する2次ガンマ線を低減して必要となる高速中性子及び熱中性子を取り出し可能とし、危険物質の構成元素に拘らず高精度にこの危険物質を検出可能とする。
【解決手段】検査対象物Aを挿入及び排出可能な検査室21を設けると共に、この検査室21の周囲に熱中性子吸収材15を設け、検査室21内で検査対象物Aに対向して中性子発生源11を配置する一方、中性子発生源11に対して検査対象物とは反対側に中性子減速材12を配置し、中性子減速材12の周囲をガンマ線遮蔽材13,14により被覆し、検査対象物Aから発生するガンマ線を検出するGe検出器24及びBGO検出器25を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中性子源で発生したエネルギの非常に高い高速中性子を減速し、エネルギの低い中性子を生成する中性子モデレータ、並びにこの中性子モデレータを用いて爆発物などの危険物を検査する危険物質検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、駅、空港、港湾、野球場、サッカー場、イベントホール、美術館など多数の人が集まる大規模集客施設では、入場時に利用者の手荷物を検査し、爆発物などの危険物質の持ち込みを阻止して安全性を確保している。従来から、中性子を用いて爆発物を検出することが知られている。爆発物の構成元素としては、窒素が含有されたものが多く、これまでの開発では、中性子発生源からの高速中性子を減速材を通過させることで熱中性子に減速し、この熱中性子を爆発物に照射することで発生したガンマ線のエネルギを検出し、窒素の存在及び濃度に基づいて爆発物を検出することが提案されてきている。ところが、近年、炭素(カーボン)、水素、酸素などの元素で構成され、窒素を含有しない爆発物が開発されている。これらの爆発物では、中性子発生源からの高速中性子を爆発物に照射すると、高速中性子と各構成元素との非弾性散乱によりガンマ線が発生することから、このガンマ線のエネルギを検出することで、各構成元素の濃度に基づいて爆発物を検出可能となる。
【0003】
このような危険物質検出装置としては、下記特許文献1に記載されたものがある。この特許文献1に記載された爆発物検出方式用の複合空洞構成体は、高エネルギ中性子供給源からの中性子を低エネルギ熱中性子へスローダウンさせ、この低エネルギ熱中性子が窒素を収容するトランクまたは小荷物において多用な原子核と反応してガンマ線を発生し、これを検出器で検出解析することで窒素の存在及び濃度を検出して爆発物を検出するものである。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−086047号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、中性子の減速材は、爆発物と同様に、炭素、水素、酸素、窒素などの構成元素からなるものであり、中性子発生源からの高速中性子を、減速材を通過させて熱中性子に減速してから爆発物に照射し、発生したガンマ線を検出すると、検出したガンマ線量に、爆発物から発生したガンマ線に加えて中性子減速材から発生したガンマ線が混在してしまい、測定精度が悪化して爆発物の検出精度が低下してしまうという問題がある。また、熱中性子を爆発物に照射して発生したガンマ線から爆発物の構成元素を検出する場合、検出したガンマ線量に、爆発物から発生したガンマ線に加えて空気中の炭素、水素、酸素、窒素から発生したガンマ線が混在してしまい、爆発物の検出精度が低下してしまう。
【0006】
本発明は上述した課題を解決するものであり、中性子モデレータ内部で発生する2次ガンマ線が、検出器で検出されないように低減しつつ、中性子モデレータ内部で発生する熱中性子の照射方向以外への漏出を防ぎ、必要となる高速中性子及び熱中性子を取り出し可能とした中性子モデレータ及び中性子照射方法、並びに、この中性子モデレータを用いて危険物質の構成元素に拘らず高精度にこの危険物質を検出可能とした危険物質検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1の発明の中性子モデレータは、中性子発生源と、該中性子発生源の一方側に設けられた中性子減速材と、該中性子減速材の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源の配置方向を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する熱中性子吸収材とを具えたことを特徴とするものである。
【0008】
請求項2の発明の中性子モデレータでは、前記ガンマ線遮蔽材は、前記中性子発生源の配置部分を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源と前記中性子減速材との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを有することを特徴としている。
【0009】
請求項3の発明の中性子照射方法は、中性子発生源で発生した高速中性子を前方に照射する一方、該中性子発生源で発生した高速中性子のうち後方に照射された高速中性子を中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速し、前方に反射される中性子だけを取り出して前記高速中性子と共に前方に照射し、前記高速中性子の減速時に発生する2次ガンマ線を遮蔽するものである。
【0010】
請求項4の発明の危険物質検出装置は、検査対象物を挿入及び排出可能な検査室と、該検査室の周囲に設けられた熱中性子吸収材と、前記検査室内で前記検査対象物に対向して配置された中性子発生源と、該中性子発生源に対して前記検査対象物とは反対側に配置された中性子減速材と、該中性子減速材の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材と、前記検査対象物から発生するガンマ線を検出するガンマ線検出器とを具えたことを特徴とするものである。
【0011】
請求項5の発明の危険物質検出装置では、前記ガンマ線遮蔽材は、前記中性子発生源に対向する部分を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源と前記中性子減速材との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを有することを特徴としている。
【0012】
請求項6の発明の危険物質検出装置では、前記ガンマ線検出器は、ゲルマニウム半導体検出器と、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器とを有することを特徴としている。
【0013】
請求項7の発明の危険物質検出装置では、前記検査対象物の両側に対向して一対の中性子検出器が設けられたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明の中性子モデレータによれば、中性子発生源の一方側に中性子減速材を設け、この中性子減速材の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材を設けると共に、中性子発生源の配置方向を除く中性子減速材の周囲を被覆する熱中性子吸収材を設けたので、中性子発生源から照射される高速中性子は、前方に照射されると共に後方及び側方に照射され、この後方及び側方に照射された高速中性子は、中性子減速材により中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速され、これら一部の中性子が前方に反射する一方、残りの熱中性子が熱中性子吸収材により吸収され、また、高速中性子の減速時に発生した2次ガンマ線はガンマ線遮蔽材により外部への漏洩が阻止されることとなり、発生する2次ガンマ線を低減し、必要となる高速中性子及び熱中性子を確実に取り出して照射することができる。
【0015】
請求項2の発明の中性子モデレータによれば、ガンマ線遮蔽材として、中性子発生源の配置部分を除く中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、中性子発生源と中性子減速材との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを設けたので、高速中性子は、中性子減速材により中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速され、このときに発生する2次ガンマ線は、第1、第2ガンマ線遮蔽材により低減されるが、減速された中性子のうち、中速中性子及び熱外中性子の一部は第2ガンマ線遮蔽材で更に減速され、熱中性子数は増幅されてから前方に照射されることとなり、熱中性子を効率的に取り出して照射することができる。
【0016】
請求項3の発明の中性子照射方法によれば、中性子発生源で発生した高速中性子を前方に照射する一方、中性子発生源で発生した高速中性子のうち後方に照射された高速中性子を中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速し、前方に反射される中性子だけを取り出して高速中性子と共に前方に照射し、高速中性子の減速時に発生する2次ガンマ線を遮蔽するようにしたので、中性子発生源で発生した高速中性子と、中性子減速材により減速されて反射した中性子とを確実に取り出して前方に照射することができる。
【0017】
請求項4の発明の危険物質検出装置によれば、検査対象物を挿入及び排出可能な検査室を設けると共に、この検査室の周囲に熱中性子吸収材を設け、検査室内で検査対象物に対向して中性子発生源を配置する一方、中性子発生源に対して検査対象物とは反対側に中性子減速材を配置し、中性子減速材の周囲をガンマ線遮蔽材により被覆し、検査対象物から発生するガンマ線を検出するガンマ線検出器を設けたので、中性子発生源から照射される高速中性子は、検査対象物に照射されると共に、後方及び側方に照射され、この後方及び側方に照射された高速中性子は中性子減速材により中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速され、一部の中性子が前方に反射して検査対象物に照射される一方、残りの熱中性子が熱中性子吸収材により吸収され、また、高速中性子の減速時に発生した2次ガンマ線はガンマ線遮蔽材により外部への照射が阻止され、その結果、検査対象物に対して高速中性子と熱中性子を照射することができ、この照射により発生するガンマ線をガンマ線検出器により検出することで、そのガンマ線エネルギの大小により危険物質を検出することができ、危険物質の構成元素に拘らず高精度にこの危険物質を検出することができ、検出精度を向上することができる。
【0018】
請求項5の発明の危険物質検出装置によれば、ガンマ線遮蔽材として、中性子発生源に対向する部分を除く中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、中性子発生源と中性子減速材との間に位置して熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを設けたので、高速中性子は、中性子減速材により中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速され、このときに発生する2次ガンマ線は、第1、第2ガンマ線遮蔽材により低減されることで、検査対象物に高速中性子及び熱中性子を照射して発生したガンマ線と混在することはなく、また、熱中性子は第2ガンマ線遮蔽材により増幅されてから前方に照射されることとなり、危険物質の検出精度を向上することができる。
【0019】
請求項6の発明の危険物質検出装置によれば、ガンマ線検出器として、ゲルマニウム半導体検出器と、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器とを設けている。これは、ゲルマニウム半導体検出器により検出したガンマ線の高精度な分解能を確保し、ゲルマニウム半導体検出器に比べて分解能は劣るが感度の良いビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器により検出したガンマ線の高精度な信号強度を確保し、ガンマ線の検出精度を向上することができる。
【0020】
請求項7の発明の危険物質検出装置によれば、検査対象物の両側に対向して一対の中性子検出器を設けたので、一対の中性子検出器により検査対象物からほぼ同時に発生した中性子を検出することで、検査対象物に核物質が含まれていることを確実に検出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る中性子モデレータ及び中性子照射方法並びに危険物質検出装置の好適な実施例を詳細に説明する。なお、この実施例により本発明が限定されるものではない。
【実施例】
【0022】
図1は、本発明の一実施例に係る中性子モデレータを表す概略側面図、図2は、本実施例の中性子モデレータを表す概略平面図、図3は、本実施例の中性子モデレータによる高速中性子及び熱中性子の照射方法を表す概略図、図4は、本実施例の中性子モデレータが適用された危険物質検出装置を表す概略図、図5は、本実施例の危険物質検出装置による2次ガンマ線の検出タイミングを表す概略図である。
【0023】
まず、本実施例の中性子モデレータについて説明する。図1及び図2に示すように、中性子発生源11は、中性子を発生する物質または装置であって、D−T反応、D−D反応及び(α、n)反応の他に自発核分裂に基づくものがある。そして、この中性子発生源11は管形状をなし、電源ユニット11aが接続されており、全周囲に高速中性子を照射することができる。この中性子発生源11の一方側(図1及び図2にて、右側)には、中性子減速材12が配置されている。この中性子減速材12は、例えば、ポリエチレンにより構成され、中性子発生源11から照射された高速中性子を減速して高速中性子、中速中性子、低速中性子、熱外中性子、熱中性子に変換するものである。なお、この中性子減速材12は、上述したポリエチレンの他に、ポリエチレンを含んだ物質(ボロン入りポリエチレンなど)、グラファイト、カーボンを含んだ物質(ボロンカーバイトなど)、フッ素化合物(フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ガドリニウムなど)等を用いてもよいものである。
【0024】
そして、この中性子減速材12の周囲には、これを被覆するガンマ線遮蔽材としての第1ガンマ線遮蔽材13と第2ガンマ線遮蔽材14が配置されている。第1ガンマ線遮蔽材13は、中性子発生源11の配置部分を除く中性子減速材12の周囲を被覆するように配置されており、中性子発生源11から照射された高速中性子が中性子減速材12で減速されたときに発生した2次ガンマ線を減衰・吸収して遮断することで、外部漏洩を防止するものである。この第1ガンマ線遮蔽材13は、例えば、鉛、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、鉄などを含んだ重金属により構成されている。一方、第2ガンマ線遮蔽材14は、中性子発生源11と中性子減速材12との間に配置され、この第1ガンマ線遮蔽材13及び第2ガンマ線遮蔽材14により中性子減速材12の周囲を全て被覆している。そして、第2ガンマ線遮蔽材14は、第1ガンマ線遮蔽材13に中性子減速材12に対応して形成された熱中性子照射口13aを閉止するように配置されており、中速中性子及び熱外中性子を減速し、照射対象物質に照射する熱中性子を増幅する機能を有している。この第2ガンマ線遮蔽材14は、ビスマスが最も望ましいが、鉛、ジルコニウム、タングステン、モリブデン、鉄などを含んだ重金属により代換し構成しても良い。
【0025】
更に、中性子発生源11の配置方向を除く中性子減速材12及び第1ガンマ線遮蔽材13と第2ガンマ線遮蔽材14の周囲を被覆するように熱中性子吸収材15が配置されている。この熱中性子吸収材15は、中性子発生源11から照射された高速中性子が中性子減速材12で減速された熱中性子の一部を吸収することで、中性子発生源11の側方及び後方からの外部漏洩を防止するものである。この場合、中性子減速材12の周囲を熱中性子吸収材15により被覆し、この熱中性子吸収材15の周囲を第1ガンマ線遮蔽材13により被覆してもよい。
【0026】
本実施例の中性子モデレータは、検査対象物Aに対して、少なくとも高速中性子及び熱中性子を照射するものである。
【0027】
即ち、図3に示すように、中性子発生源11で発生した高速中性子FN(Fast Neutron)は、前方に照射される一方、側方及び後方に照射され、この側方及び後方に照射された高速中性子FNは、中性子減速材12を通過する間に熱外中性子(中速中性子を含む)ETN(Epithermal Neutron)、熱中性子TN(Thermal Neutron)に減速される。そして、この熱外中性子ETN、熱中性子TN、高速中性子FNは、前方側に反射されると共に、一部の高速中性子FN及び熱外中性子ETNが第1ガンマ線遮蔽材13及び熱中性子吸収材15を通過し、一部の熱中性子TNが熱中性子吸収材15により吸収される。このとき、反射した高速中性子FN、熱外中性子(中速中性子を含む)ETNは、第2ガンマ線遮蔽材14を通過するときに更に減速され、熱中性子TNとなり、この熱中性子TNが増幅される。また、高速中性子FNが中性子減速材12に減速されるときに発生した2次ガンマ線(γ線)は、第1ガンマ線遮蔽材13及び第2ガンマ線遮蔽部材14により遮蔽される。
【0028】
従って、検査対象物Aに対して、中性子発生源11から直接照射された高速中性子FNと反射された高速中性子FN、熱外中性子ETN、熱中性子TNを照射することができる。
【0029】
次に、上述した中性子モデレータを適用した本実施例の危険物質検出装置について説明する。図4に示すように、検査室21は、所定厚さのコンクリート壁22によって囲繞されて形成されており、検査対象物Aを挿入及び排出可能な図示しない出入口が設けられている。この場合、コンクリート壁22は、ボロンや鉛などを含有するコンクリートにより形成することが望ましく、その他、ポリエチレン、ポリエチレンを含んだ物質(ボロン入りポリエチレンなど)、グラファイト、カーボンを含んだ物質(ボロンカーバイトなど)、フッ素化合物(フッ化リチウム、フッ化マグネシウム、フッ化ガドリニウムなど)等を含有するコンクリート壁としてもよい。そして、この検査室21の内壁には、全周にわたって上述した熱中性子吸収材15が配置されている。
【0030】
この検査室21にて、検査対象物Aに対向した一側部には、中性子発生源11が配置されており、この中性子発生源11に対して検査対象物Aとは反対側に中性子減速材12が配置されている。そして、中性子発生源11に対向する部分を除く中性子減速材12の周囲を被覆するように第1ガンマ線遮蔽材13が熱中性子吸収材15に密着して配置されると共に、中性子発生源11と中性子減速材12との間に位置して熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材14が配置されている。また、検査室21のコンクリート壁22と熱中性子吸収材15との間には、第1ガンマ線遮蔽材13が配置された部分を除いてこの第1ガンマ線遮蔽材13と同材料の第3ガンマ線遮蔽材23が配置されている。この場合、熱中性子吸収材15の内側に第3ガンマ線遮蔽材23を配置してもよい。
【0031】
また、検査室21にて、検査対象物Aから発生するガンマ線(γ線)を検出するガンマ線検出器としてのゲルマニウム半導体検出器(以下、Ge検出器と称する。)24と、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器(以下、BGO検出器と称する。)25とが設けられている。この場合、Ge検出器24及びBGO検出器25は、検査対象物Aと中性子発生源11とが対向する領域の両側に互いに対向して配置されており、それぞれカドミウムで被覆処理されている。なお、Ge検出器24は、ガンマ線エネルギスペクトルを測定するものであり、検出したガンマ線の高精度な分解能を要しており、BGO検出器25は、同様に、ガンマ線エネルギスペクトルを測定するものであり、検出したガンマ線の高精度な感度を有している。
【0032】
更に、検査室21にて、検査対象物Aから発生する中性子を検出する一対の中性子検出器26が設けられている。この一対の中性子検出器26は、検査対象物Aの両側に対向し、且つ、同距離をもって、Ge検出器24とBGO検出器25にそれぞれ隣接して配置されている。そして、中性子検出器26は、検査対象物Aから照射された中性子の数を同時に計測することができるものである。
【0033】
このように構成された本実施例の危険物質検出装置において、図3及び図4に示すように、検査対象物Aが検査室21における所定の位置、つまり、中性子発生源11と対向する位置に配置された状態で、中性子発生源11を稼動すると、前方に検査対象物Aに向けて高速中性子FNが照射される一方、側方及び後方に中性子減速材12に向けて高速中性子FNが照射される。すると、この側方及び後方に照射された高速中性子FNは、中性子減速材12を通過する間に減速され、熱外中性子ETN、熱中性子TNに変換される。そして、高速中性子FN、熱外中性子ETN、熱中性子TNは、減速時に前方側に反射されると共に、一部の高速中性子FN及び熱外中性子ETNが第1ガンマ線遮蔽材13及び熱中性子吸収材15を通過し、一部の熱中性子TNが熱中性子吸収材15により吸収される。このとき、反射した熱中性子TNは、第2ガンマ線遮蔽材14を通過するときに増幅される。また、高速中性子FNが中性子減速材12に減速されるときに発生した2次ガンマ線(γ線)は、第1ガンマ線遮蔽材13及び第2ガンマ線遮蔽部材14により遮蔽される。
【0034】
そのため、中性子発生源11から直接照射された高速中性子FNと、中性子減速材12にて減速されて反射された高速中性子FN、熱外中性子ETN、熱中性子TNが検査対象物Aに対して照射される。すると、高速中性子FN及び熱外中性子ETNが検査対象物Aに照射されたとき、中性子と原子核とが相互作用を起こすと、中性子の持つエネルギが原子核に付与され、励起された原子核から2次ガンマ線が発生するが、この発生過程は2種類に大別される。
【0035】
一つは、高速中性子FN及び熱外中性子ETNと原子核との非弾性散乱反応であり、この場合、中性子のエネルギの一部が原子核に付与され、主に、付与されたエネルギ以下の2次γ線が発生する。この非弾性散乱ガンマ線の反応は、主として、熱中性子以上のエネルギを持つ中性子により生じるが、中性子のエネルギが熱中性子レベル以下に低下するまで何度も起こるため、発生するガンマ線のエネルギは低くても大量に発生する。
【0036】
もう一つは、熱中性子TNまたはこの非弾性散乱の結果、高速中性子FN及び熱外中性子ETNのエネルギが低下した熱中性子による捕獲反応であり、この場合、中性子が一旦、原子核に捕獲されてしまい、核変換が起こった後に2次ガンマ線(捕獲ガンマ線と呼ばれている)を放出する。そのため、放出されるガンマ線は、付与されたエネルギよりもはるかに巨大なエネルギを持って放出される。即ち、非弾性散乱反応は、中性子の速度が速いために原子核に捕まらないので、散乱反応となり、散乱を繰り返すうちに、速度の落ちてきた中性子は原子核に捕まりやすくなる。
【0037】
そして、Ge検出器24及びBGO検出器25は、高速中性子FN、熱外中性子ETN、熱中性子TNが検査対象物Aに照射されたときに発生する2次ガンマ線エネルギスペクトルを1サイクルごとに連続して検出する。すると、図5に示すように、高速中性子FN及び熱外中性子ETNと原子核との非弾性散乱反応で発生した非弾性散乱ガンマ線は、1サイクルの中の初期に大量に発生し、熱中性子TNと原子核との弾性散乱反応(捕獲反応)で発生した捕獲ガンマ線は、1サイクルの中の中期に比較的緩やかに発生する。
【0038】
従って、Ge検出器24及びBGO検出器25が、高速中性子FN及び熱外中性子ETNが検査対象物Aに照射されたときに発生する2次ガンマ線エネルギスペクトル(非弾性散乱ガンマ線)を検出すると共に、熱中性子TNが検査対象物Aに照射されたときに発生する2次ガンマ線エネルギスペクトル(捕獲ガンマ線)を検出することで、この2次ガンマ線のエネルギにより検査対象物Aの構成元素(炭素、水素、酸素、窒素)の種類及びその濃度に基づいて爆発物を検出することができる。
【0039】
また、検査対象物Aが核物質(ウランやプルトニウムなど)である場合には、中性子を照射しなくても、自発核分裂を起こしている。自発核分裂反応では、2つ以上の中性子が同時に別々の方向に発生することがある。一対の中性子検出器26は、検査対象物Aから発生する中性子の数を同時に計測することで、検査対象物Aが自発核分裂を起こしている核物質であるかどうかを判定することができる。
【0040】
なお、中性子減速材12で減速された熱中性子TNは、検査対象物A側に反射するが、その他の熱中性子TNは、熱中性子吸収材15により吸収されて消滅するため、熱中性子TNが検査対象物Aの方向以外に照射されて空気と反応を起こすことはなく、Ge検出器24及びBGO検出器25の検出ノイズの発生が抑制される。一方、高速中性子FN及び熱外中性子ETNは、熱中性子吸収材15を通過するが、空気と反応しても、Ge検出器24及びBGO検出器25の検出ノイズになる反応は少ない。また、高速中性子FNが中性子減速材12で減速されときに発生する2次ガンマ線は、第1ガンマ線遮断材13により遮断されて外部に漏洩することはなく、Ge検出器24及びBGO検出器25による誤検出が防止される。
【0041】
このように本実施例の中性子モデレータ及び中性子照射方法にあっては、中性子発生源11の一方側に中性子減速材12を設け、この中性子減速材12の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材13,14を設けると共に、中性子発生源11の配置方向を除く中性子減速材12の周囲を被覆する熱中性子吸収材15を設けている。
【0042】
従って、中性子発生源11から照射される高速中性子は、前方に照射されると共に後方及び側方に照射され、この後方及び側方に照射された高速中性子は、中性子減速材12により熱中性子に減速され、一部の熱中性子が前方に反射する一方、残りの熱中性子が熱中性子吸収材15により吸収され、また、高速中性子の減速時に発生した2次ガンマ線はガンマ線遮蔽材13,14により外部への漏洩が阻止されることとなり、発生する2次ガンマ線を低減し、必要となる高速中性子及び熱中性子を確実に取り出して照射することができる。
【0043】
また、本実施例の中性子モデレータでは、中性子発生源11の配置部分を除く中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材13と、中性子発生源11と中性子減速材12との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材14を設けている。従って、高速中性子は、中性子減速材12により熱中性子に減速され、このときに発生する2次ガンマ線は、第1、第2ガンマ線遮蔽材13,14により低減されるが、減速された中速中性子、熱外中性子、熱中性子は第2ガンマ線遮蔽材14により熱中性子数を増幅して前方に照射されることとなり、発生する熱中性子を効率的に取り出して照射することができる。
【0044】
一方、本実施例の危険物質検出装置にあっては、検査対象物Aを挿入及び排出可能な検査室21を設けると共に、この検査室21の周囲に熱中性子吸収材15を設け、検査室21内で検査対象物Aに対向して中性子発生源11を配置する一方、中性子発生源11に対して検査対象物とは反対側に中性子減速材12を配置し、中性子減速材12の周囲をガンマ線遮蔽材13,14により被覆し、検査対象物Aから発生するガンマ線を検出するGe検出器24及びBGO検出器25を設けている。
【0045】
従って、中性子発生源11から照射される高速中性子は、検査対象物Aに照射されると共に、後方及び側方に照射され、この後方及び側方に照射された高速中性子は中性子減速材12により中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速され、一部の中性子が前方に反射して検査対象物Aに照射される一方、残りの熱中性子が熱中性子吸収材15により吸収され、また、高速中性子の減速時に発生した2次ガンマ線はガンマ線遮蔽材13,14により外部への照射が阻止され、その結果、検査対象物Aに対して高速中性子と熱中性子を照射することができ、この照射時に発生する2次ガンマ線をGe検出器24及びBGO検出器25により検出することで、そのエネルギにより危険物質を検出することができ、危険物質の構成元素に拘らず高精度にこの危険物質の種類を検出することができ、検出精度を向上することができる。
【0046】
また、本実施例の危険物質検出装置では、中性子発生源に対向する部分を除く中性子減速材12の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材13と、中性子発生源11と中性子減速材12との間に位置して熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材14と、検査室21を周囲を被覆する第2ガンマ線遮蔽材23を設けている。従って、高速中性子は、中性子減速材12により熱中性子に減速され、このときに発生する2次ガンマ線は、各ガンマ線遮蔽材13,14,23により低減されることで、検査対象物Aに高速中性子及び熱中性子を照射して、発生した2次ガンマ線と混在することはなく、また、熱中性子は第2ガンマ線遮蔽材14により増幅されてから前方に照射されることとなり、危険物質の検出精度を向上することができる。
【0047】
そして、本実施例の危険物質検出装置では、ゲルマニウム半導体検出器24と、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器25を設けている。従って、ゲルマニウム半導体検出器23により検出したガンマ線の高精度な分解能を確保し、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器25により検出したガンマ線の高精度な感光度を確保し、ガンマ線の検出精度を向上することができる。
【0048】
更に、本実施例の危険物質検出装置では、検査対象物Aの両側に対向して一対の中性子検出器26を設けている。従って、一対の中性子検出器26により検査対象物Aからほぼ同時に発生した中性子を検出することで、検査対象物Aに核物質が含まれていることを確実に検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る中性子モデレータ及び中性子照射方法並びに危険物質検出装置は、発生する2次ガンマ線を低減して必要となる高速中性子及び熱中性子を取り出し可能とし、これを検査対象物に照射することで、危険物質の構成元素に拘らず高精度にこの危険物質の種類を検出するものであり、いずれの中性子モデレータや危険物質検出装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】本発明の一実施例に係る中性子モデレータを表す概略側面図である。
【図2】本実施例の中性子モデレータを表す概略平面図である。
【図3】本実施例の中性子モデレータによる高速中性子及び熱中性子の照射方法を表す概略図である。
【図4】本実施例の中性子モデレータが適用された危険物質検出装置を表す概略図である。
【図5】本実施例の危険物質検出装置による2次ガンマ線の検出タイミングを表す概略図である。
【符号の説明】
【0051】
11 中性子発生源
12 中性子減速材
13 第1ガンマ線遮蔽材(ガンマ線遮蔽材)
14 第2ガンマ線遮蔽材(ガンマ線遮蔽材)
15 熱中性子吸収材
21 検査室
23 第3ガンマ線遮蔽材(ガンマ線遮蔽材)
24 ゲルマニウム半導体検出器、Ge検出器(ガンマ線検出器)
25 ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器、BGO検出器(ガンマ線検出器)
26 中性子検出器
A 検査対象物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性子発生源と、該中性子発生源の一方側に設けられた中性子減速材と、該中性子減速材の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源の配置方向を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する熱中性子吸収材とを具えたことを特徴とする中性子モデレータ。
【請求項2】
請求項1に記載の中性子モデレータにおいて、前記ガンマ線遮蔽材は、前記中性子発生源の配置部分を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源と前記中性子減速材との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを有することを特徴とする中性子モデレータ。
【請求項3】
中性子発生源で発生した高速中性子を前方に照射する一方、該中性子発生源で発生した高速中性子のうち後方に照射された高速中性子を中速中性子、熱外中性子、熱中性子に減速し、前方に反射される中性子だけを取り出して前記高速中性子と共に前方に照射し、前記高速中性子の減速時に発生する2次ガンマ線を遮蔽することを特徴とする中性子照射方法。
【請求項4】
検査対象物を挿入及び排出可能な検査室と、該検査室の周囲に設けられた熱中性子吸収材と、前記検査室内で前記検査対象物に対向して配置された中性子発生源と、該中性子発生源に対して前記検査対象物とは反対側に配置された中性子減速材と、該中性子減速材の周囲を被覆するガンマ線遮蔽材と、前記検査対象物から発生するガンマ線を検出するガンマ線検出器とを具えたことを特徴とする危険物質検出装置。
【請求項5】
請求項4に記載の危険物質検出装置において、前記ガンマ線遮蔽材は、前記中性子発生源に対向する部分を除く前記中性子減速材の周囲を被覆する第1ガンマ線遮蔽材と、前記中性子発生源と前記中性子減速材との間に設けられて熱中性子増幅機能を有する第2ガンマ線遮蔽材とを有することを特徴とする危険物質検出装置。
【請求項6】
請求項4に記載の危険物質検出装置において、前記ガンマ線検出器は、ゲルマニウム半導体検出器と、ビスマスジャーマネイトオキサイドシンチレータ検出器とを有することを特徴とする危険物質検出装置。
【請求項7】
請求項4に記載の危険物質検出装置において、前記検査対象物の両側に対向して一対の中性子検出器が設けられたことを特徴とする危険物質検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−96405(P2008−96405A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−281903(P2006−281903)
【出願日】平成18年10月16日(2006.10.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】