説明

乗員保護装置及び乗員保護方法

【課題】一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、このエアバッグにより車両側壁と乗員との間の空間を確保するとともに、乗員の胸部を保護することで、車両側壁への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高めること。
【解決手段】サイドエアバッグ装置10は、一つのインフレータ11で複数のチャンバを形成することが可能な胸部チャンバ12cを有し、このエアバッグ12をサイドドア20と乗員との間で展開させることで、サイドドア20への衝突から乗員を保護するものであって、エアバッグ12は、複数のチャンバのうち、車両5の上下方向におけるドアアームレスト25の上部及び下部で展開可能な上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bと、車両5の幅方向における上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bよりも車室側で、かつ、乗員の胸部付近で展開可能な胸部チャンバ12cと、を有して構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗員保護装置及び乗員保護方法に関し、特に、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、このエアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、車両側壁への側面衝突(以下、単に側突という。)による衝撃から乗員を保護する乗員保護装置及び乗員保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、乗員保護装置は、一つのインフレータで一つのチャンバを形成するエアバッグを有し、このエアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、車両側壁への側突による衝撃から乗員を保護するものが一般的に知られている。
【0003】
このような一つのインフレータで一つのチャンバを形成するエアバッグを有する乗員保護装置は、例えば、エアバッグの車両の幅方向における厚みを厚くすると、車両側壁と乗員との間で空間を確保することが可能になり、側突に対する乗員への安全性を高めることができるという利点がある。
【0004】
ここで、車両側壁と乗員との間の空間を確保することにより、側突に対する乗員への安全性を高めることができるとは、側突時に、車両側壁は車両の幅方向における車室側に変位するが、車両側壁と乗員との間でエアバッグを展開させることで、車両側壁を乗員に接触させないようにすることで、安全性を高めることをいう。
【0005】
しかしながら、エアバッグの車両の幅方向における厚みを厚くすると、エアバッグの展開時に、エアバッグが車両側壁と乗員との間の空間に位置するドアアームレスト等にぶつかってしまい、車両側壁と乗員との間でエアバッグを確実に展開させる点について改善の余地があった。
【0006】
これに対し、エアバッグの車両の幅方向における厚みを薄くすると、エアバッグの展開時に、ドアアームレスト等にぶつかり難くなるものの、車両側壁と乗員との間で空間を確保する点については改善の余地があった。
【0007】
ここで、エアバッグの展開時に、車両側壁と乗員との間でエアバッグを確実に展開させ、かつ、車両側壁と乗員との間で空間を確保することが可能なものとして、例えば、複数のサイドエアバッグ装置を用いることが考えられる。
【0008】
しかしながら、複数のサイドエアバッグ装置を用いた場合、互いのエアバッグを展開させるタイミングを制御するための制御手段等が必要になり、構成が複雑になるという技術的課題がある。
【0009】
そして、このような制御手段等が必要になることで、コストを増大させてしまうという技術的課題がある。また、複数のサイドエアバッグ装置を用いた場合、互いのエアバッグが干渉してしまうという技術的課題がある。
【0010】
このため、近年、乗員保護装置には、この乗員保護装置を簡易的な構成とするために、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、これら複数のチャンバを確実に展開させて車両側壁と乗員との間の空間を確保することが可能なものが求められている。
【0011】
そこで、乗員保護装置を簡易的な構成とするものとして、例えば、特許文献1には、高圧バッグと低圧バッグとを一つのインフレータにより展開させる際、高圧バッグを先に展開させ、その後低圧バッグを展開させることが可能なサイドエアバッグ装置が開示されている。
【0012】
また、特許文献2には、アームレストの上方に向けて展開される上部チャンバと、アームレストの下方に向けて展開される下部チャンバとを有するサイドエアバッグ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2008−201172号公報
【特許文献2】特開2011−001051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、上記特許文献1は、一つのインフレータで高圧バッグと低圧バッグとを展開させ、低圧バッグにより乗員の胸部付近を保護しているが、高圧バッグがドアアームレストにぶつかってしまう可能性が考えられる。このため、上記特許文献1は、高圧バッグを確実に展開させる点について改善の余地がある。
【0015】
また、上記特許文献2は、上部チャンバと下部チャンバとで、アームレストにぶつからないように展開しているものの、乗員の胸部付近を保護するものではないため、車両側壁への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高める点について改善の余地がある。
【0016】
本発明の目的は、上記従来の実状に鑑みて、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有する乗員保護装置及び乗員保護方法に関し、車両側壁と乗員との間の空間を確保するとともに、乗員の胸部を保護することで、車両側壁への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高めることが可能な乗員保護装置及び乗員保護方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
このような課題を解決するために、本発明に係る乗員保護装置は、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、当該エアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、上記車両側壁への衝突から上記乗員を保護するものであって、上記エアバッグは、複数の上記チャンバのうち、車両の上下方向におけるドアアームレストの上部及び下部で展開可能なドアアームレスト側チャンバと、上記車両の幅方向における上記ドアアームレスト側チャンバよりも車室側で、かつ、上記乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバと、を有して構成されている。
【0018】
また、本発明に係る乗員保護装置は、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、当該エアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、上記車両側壁への衝突から上記乗員を保護するものであって、上記エアバッグは、複数の上記チャンバのうち、車両の幅方向におけるドアアームレストの車室側の面に向かって展開可能なドアアームレスト側チャンバと、上記車両の幅方向における上記ドアアームレスト側チャンバよりも車室側で、かつ、上記乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバとを有して構成されている。
【0019】
また、本発明に係る乗員保護装置の上記エアバッグは、上記インフレータにより上記ドアアームレスト側チャンバに供給される供給ガスの圧力が、当該車両側壁側チャンバ内で所定の圧力に達すると、上記ドアアームレスト側チャンバと胸部側チャンバとを連通する圧力弁を具備して構成されている。
【0020】
また、本発明に係る乗員保護装置の上記エアバッグのドアアームレスト側チャンバは、上記ドアアームレストの上記上部を展開可能な上部チャンバと、上記ドアアームレストの上記下部を展開可能な下部チャンバと、を有して構成されている。
【0021】
このような課題を解決するために、本発明に係る乗員保護方法は、一つのインフレータで複数のチャンバを形成するエアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、上記車両側壁への衝突から上記乗員を保護し、複数の上記チャンバは、少なくとも一つの上記チャンバがドアアームレストの車両の上下方向における上部及び下部で展開し、少なくとも一つの上記チャンバが乗員の胸部を保護するように展開している。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有する乗員保護装置及び乗員保護方法に関し、車両側壁と乗員との間の空間を確保するとともに、乗員の胸部を保護することで、車両側壁への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高めることが可能な乗員保護装置及び乗員保護方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態である乗員保護装置を適用した車両のサイドドア及び車両用シートを示し、サイドエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【図2】本発明の一実施の形態である乗員保護装置を適用した車両のサイドドア及び車両用シートを示し、サイドエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の側方側から模式的に示す側方面図である。
【図3A】本発明の一実施の形態である乗員保護装置の第1の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【図3B】本発明の一実施の形態である乗員保護装置の第2の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【図3C】本発明の一実施の形態である乗員保護装置の第3の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【図4A】本発明の一実施の形態である乗員保護装置のエアバッグの第1の状態を模式的に示す斜視図である。
【図4B】本発明の一実施の形態である乗員保護装置のエアバッグの第2の状態を模式的に示す斜視図である。
【図4C】本発明の一実施の形態である乗員保護装置のエアバッグの第3の状態を模式的に示す斜視図である。
【図5】本発明の他の実施の形態である乗員保護装置を適用した車両のサイドドア及び車両用シートを示し、サイドエアバッグ装置のエアバッグが展開した状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図を用いて説明する。本発明の実施の形態であるサイドエアバッグ装置10は、一つのインフレータ11で複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグ12を有し、このエアバッグ12をサイドドア20(車両側壁)と乗員との間で展開させることで、サイドドア20への側突による衝撃から乗員を保護するものである。
【0025】
すなわち、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、乗員保護装置に相当する。また、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10により乗員を保護する方法は、乗員保護方法に相当する。
【0026】
(実施の形態1)
まず、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10を適用した車両5のサイドドア20及び車両用シート30について、図1及び図2を用いて説明する。図1は、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10を適用した車両5のサイドドア20及び車両用シート30を示し、サイドエアバッグ装置10のエアバッグ12が展開した状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【0027】
また、図2は、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10を適用した車両5のサイドドア20及び車両用シート30を示し、サイドエアバッグ装置10のエアバッグ12が展開した状態を車両の側方側から模式的に示す側方面図である。
【0028】
図1及び図2に例示されるように、本実施の形態のサイドドア20は、このサイドドア20のフレームを構成するインナーパネル21及びアウターパネル22を備えて構成されている。
【0029】
また、サイドドア20は、インナーパネル21とアウターパネル22との間に、インナーパネル21とアウターパネル22との間を車両5の上下方向で上下動可能な窓ガラス23を備えて構成されている。
【0030】
そして、サイドドア20を構成するインナーパネル21の車両5の幅方向における車室側には、ドアトリム24が取り付けられている。このドアトリム24には、車両の幅方向における車室側に向かって突出するドアアームレスト25が配設されている。そして、ドアアームレスト25の車両5の幅方向における車室側には、乗員が着座するための車両用シート30が配設されている。
【0031】
この車両用シート30は、乗員が着座するためのシートクッション31と、このシートクッション31の車両の前後方向における後端部に配置され、乗員が寄り掛かるためのシートバック32と、を備えて構成されている。また、車両用シート30は、車両の上下方向におけるシートバック32の上端部にヘッドレスト33を備えて構成されている。
【0032】
この車両用シート30を構成するシートクッション31は、スライド機構34を介して車両の前後方向にスライド可能となるように車両5のフロア6に取り付けられている。このため、乗員が車両用シート30を利用する際、車両用シート30を乗員の好みに応じて車両の前後方向でスライドさせることが可能になる。そして、車両5の前後方向におけるシートクッション31の後端部には、上述したように、シートバック32が取り付けられている。
【0033】
このシートバック32は、シートクッション31に図示しないリクライニング機構を介して取り付けられている。このため、乗員が車両用シート30を利用する際、シートバック32を乗員の好みに応じて車両の前後方向で起立させたり、寝かせたりすることが可能になる。
【0034】
また、シートバック32の車両5の幅方向におけるサイドドア20側の端部には、サイドエアバッグ装置10が配設されている。具体的には、サイドエアバッグ装置10は、シートバック32からサイドドア20側、或いは、車両5の前後方向における前方側に向かって展開可能となるように配設されている。
【0035】
なお、本実施の形態において、サイドエアバッグ装置10は、上述したように、シートバック32の車両5の幅方向におけるサイドドア20側の端部に配設されているが、これに限定されず、例えば、シートクッション31の車両5の幅方向におけるサイドドア20側の端部に配設しても良い。
【0036】
このとき、サイドエアバッグ装置10は、シートクッション31からサイドドア20側、或いは、車両5の上下方向における上方側に向かって展開可能となるように配設されている。
【0037】
このサイドエアバッグ装置10は、ガス噴出手段としてのインフレータ11と、インフレータ11に連結して配置され、インフレータ11から噴出されたガスにより展開するエアバッグ12と、を備えて構成されている。そして、サイドエアバッグ装置10は、これらインフレータ11及びエアバッグ12を収容する図示しないケースを備えて構成されている。
【0038】
また、サイドエアバッグ装置10は、シートバック32の図示しないフレームに取り付けられている。そして、フレームには、このフレームを覆うようにカバーが設けられている。すなわち、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、シートバック32の内部に埋設されている。
【0039】
また、サイドエアバッグ装置10は、サイドドア20への側突による衝撃を検知する図示しないセンサを備えて構成されている。このセンサは、図示しない制御回路に接続されている。そして、制御回路は、センサの検知信号に基づいてインフレータ11を制御している。
【0040】
本実施の形態のインフレータ11は、車両5の上下方向に沿って配設されたインフレータケース11aと、このインフレータケース11a内に収容された図示しない火薬と、を備えて構成されている。
【0041】
そして、このインフレータケース11aは、インフレータケース11aの軸方向における両端に位置し、このインフレータケース11aの内部で発生した供給ガスをエアバッグ12の内部に噴出するための第1ガス供給口11b及び第2ガス供給口11cを有して構成されている。
【0042】
すなわち、インフレータ11の第1ガス供給口11bのガス供給方向は、後述するエアバッグ12の上部チャンバ12aに供給可能となるよう配設されている。また、インフレータ11の第2ガス供給口11cのガス供給方向は、後述するエアバッグ12の下部チャンバ12bに供給可能となるよう配設されている。
【0043】
ここで、サイドエアバッグ装置10は、インフレータ11の第1ガス供給口11b及び第2ガス供給口11cから噴出された供給ガスの噴出方向をエアバッグの展開状態に応じて偏向させる図示しないインナーチューブを備えて構成しても良い。
【0044】
このように、サイドエアバッグ装置10は、制御回路により制御されたインフレータ11によりエアバッグ12内に供給ガスを供給することで、エアバッグ12の展開を開始している。
【0045】
このエアバッグ12は、上述したように、インフレータ11による供給ガスの供給によりサイドドア20と車両用シート30に着座した乗員との間で展開させるものであるが、通常時は、ケース内に収容されている。
【0046】
具体的には、エアバッグ12は、ケース内にロール状に折り畳んで収容されている。なお、本実施の形態のエアバッグ12は、上述したように、ケース内にロール状に折り畳んで収容されているが、これに限定されず、例えば、蛇腹状に折り畳んで収容しても良い。
【0047】
このエアバッグ12は、防炎加工が施された織布等からなる一対の基布の外周縁を縫製することにより袋状に形成されている。そして、エアバッグ12の一対の基布の何れか一方には、後述する上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cと外部とを連通する図示しないベントホールが形成されている。
【0048】
すなわち、エアバッグ12は、インフレータ11によりエアバッグ12の上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12c内に供給された供給ガスをベントホールで外部に排出可能となるよう構成されている。
【0049】
なお、エアバッグ12は、上述したように、一対の基布の外周を縫製することで袋状に形成されているが、これに限定されず、例えば、一対の基布の外周を接着、溶着等の手法で袋状に形成しても良い。
【0050】
また、エアバッグ12のベントホールは、一対の基布の何れか一方に形成されているが、これに限定されず、例えば、一対の基布の両方に形成しても良い。また、ベントホールが形成される位置に関しても、インフレータ11により上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12c内に供給された供給ガスを外部に排出可能な位置であれば、特に限定されない。
【0051】
本実施の形態において、エアバッグ12は、ドアアームレスト25の車両5の上下方向における上部及び下部で展開可能な上部チャンバ12a及び下部チャンバ12b(ドアアームレスト側チャンバ)と、乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバ12cと、を有して構成されている。
【0052】
また、エアバッグ12は、上部チャンバ12aと下部チャンバ12bとの間に、これら上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bを区画するための非膨出部12dを備えて構成されている。
【0053】
そして、エアバッグ12の内部における非膨出部12dの近傍には、インフレータ11が配設されている。すなわち、サイドエアバッグ装置10は、インフレータ11の第1ガス供給口11b及び第2ガス供給口11cにより、エアバッグ12の非膨出部12dを境界にして上部チャンバ12aと下部チャンバ12bとに分かれて展開可能となるように構成されている。
【0054】
ここで、インフレータ11は、車両5の上下方向におけるドアアームレスト25と同位置に配設されている。すなわち、非膨出部12dも、インフレータ11と同様に、ドアアームレスト25に対し、車両5の上下方向における同位置で展開可能となるよう配設されている。そして、エアバッグ12は、上述したように、非膨出部12dを境界にして上部チャンバ12aと下部チャンバ12bとを有して構成されている。
【0055】
これにより、サイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12を展開させる際、ドアアームレスト25を基点として、ドアアームレスト25の上部と下部とに分かれて展開させているため、ドアアームレスト25にエアバッグ12がぶつからないように展開させることが可能になる。
【0056】
このため、サイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12の上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bの車両5の幅方向における厚みを厚く形成しても、上述したように、ドアアームレスト25にエアバッグ12がぶつからないように展開させることが可能になる。
【0057】
したがって、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10によれば、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bの車両5の幅方向における厚みを厚くすることで、サイドドア20と乗員との間の空間を確保、すなわち、サイドドア20との距離を確保することが可能になり、側突に対する安全性を高めることができる。
【0058】
ここで、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12の上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bは、上述したように、ドアアームレスト25の上部及び下部で展開するものである。
【0059】
すなわち、上部チャンバ12aにより乗員の肩部付近を押圧し、下部チャンバ12bにより乗員の臀部付近を押圧している。このため、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bのみでは、乗員の胸部付近を押圧していないため、胸部傷害値が上がってしまう可能性がある。つまり、胸部傷害値を低減させるために、乗員の肩部付近から臀部付近にかけて面押圧可能なものが求められる。
【0060】
そこで、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12は、上述したように、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bに加えて、乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバ12cを備えて構成されている。
【0061】
具体的には、エアバッグ12は、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bと胸部側チャンバ12cとの間に圧力弁12eを有して構成されている。この圧力弁12eは、エアバッグ12を構成する基布よりも薄い布により構成されている。
【0062】
このため、圧力弁12eは、インフレータ11により上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bに供給ガスが供給され、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12b内の圧力が高圧になると、破れるようになっている。
【0063】
そして、エアバッグ12は、圧力弁12eが破れた後に、インフレータ11により上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bとともに、胸部側チャンバ12cにも供給ガスが供給されるようになっている。
【0064】
このように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、乗員の胸部付近で胸部側チャンバ12cを展開させることで、サイドドア20と乗員の胸部付近との空間を確保、すなわち、サイドドア20との距離を確保することが可能になり、側突に対する安全性を高めることができる。
【0065】
さらに、サイドエアバッグ装置10は、上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cにより乗員の肩部から臀部にかけて面押し可能にしているため、胸部傷害値を低減させることができる。
【0066】
また、サイドエアバッグ装置10は、乗員の胸部付近で胸部側チャンバ12cを展開させることで、乗員の胸部付近を保護する役目を果たしている。これにより、サイドエアバッグ装置10は、サイドドア20への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高めることができる。
【0067】
なお、本実施の形態の圧力弁12eは、上述したように、エアバッグ12を構成する基布よりも薄い布により構成されているが、これに限定されず、例えば、仮縫い等を施して構成しても良い。
【0068】
このように、仮縫い等を施して構成されると、圧力弁12eは、インフレータ11により上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bに供給ガスが供給され、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12b内の圧力が高圧になると、ほどけるようになっている。
【0069】
以上のように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、サイドドア20への側突時に、一つのインフレータ11で上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cを形成するエアバッグ12を有し、これら上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cによりサイドドア20と乗員との間の空間を確保、及び、乗員の胸部を保護することで、サイドドア20への側突による衝撃から乗員を保護する際の安全性を高めることができる。
【0070】
また、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12を展開させ難い部位である乗員の胸部付近への展開を、一つのインフレータ11で実行可能にしている。このため、サイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12を展開させ難い部位に、簡易的な構成で実行可能にしている。これにより、サイドエアバッグ装置10は、コストを低減させることができる。
【0071】
次に、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10の動作について、サイドエアバッグ装置10により乗員を保護する乗員保護方法と併せて、図3A、図3B、図3C、図4A、図4B及び図4Cを用いて説明する。図3Aは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10の第1の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図であり、図3Bは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10の第2の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図であり、図3Cは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10の第3の状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【0072】
また、図4Aは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12の第1の状態を模式的に示す斜視図であり、図4Bは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12の第2の状態を模式的に示す斜視図であり、図4Cは、本発明の一実施の形態であるサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12の第3の状態を模式的に示す斜視図である。
【0073】
図3A及び図4Aに例示されるように、通常、サイドエアバッグ装置10のエアバッグ12は、図示しないケース内に収容されている。このとき、本実施の形態のエアバッグ12は、ロール状に折り畳んで収容されている。なお、本実施の形態のエアバッグ12は、上述したように、ロール状に折り畳んで収容されているが、これに限定されず、例えば、蛇腹状に折り畳んで収容しても良い。
【0074】
図3B及び図4Bに例示されるように、サイドドア20への側突により図示しないセンサが所定以上の衝撃を検知したとき、図示しない制御回路がインフレータ11に動作信号を供給する。
【0075】
そして、この制御回路による動作信号に応答して、インフレータ11がエアバッグ12内に供給ガスを供給する。これにより、エアバッグ12の展開が開始される。そして、インフレータ11の第1ガス供給口11bからエアバッグ12の上部チャンバ12a側に供給ガスを供給し、第2ガス供給口11cからエアバッグ12の下部チャンバ12b側に供給ガスを供給している。
【0076】
このとき、インフレータ11は、エアバッグ12の非膨出部12d付近に配設されている。そして、非膨出部12dは、ドアアームレスト25の車両5の上下方向における同位置に配設されている。
【0077】
すなわち、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12の非膨出部12d付近から上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bに供給ガスが供給されるため、ドアアームレスト25を基点としてドアアームレスト25の上部及び下部で上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bの展開を可能にしている。
【0078】
これにより、サイドエアバッグ装置10は、エアバッグ12を展開させる際、このエアバッグ12をドアアームレスト25にぶつからないように展開させることが可能になり、エアバッグ12をより確実に展開させることができる。
【0079】
このとき、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10は、上述したように、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bをドアアームレスト25にぶつからないように展開させることが可能になるため、車両5の幅方向における幅をサイドドア20と乗員との間の幅とほぼ同じ幅で形成することが可能になる。
【0080】
これにより、サイドエアバッグ装置10によれば、サイドドア20と乗員との間の空間を確保、すなわち、サイドドア20から乗員を遠ざけることが可能になり、側突により生じる衝撃に対し、安全性を高めることができる。
【0081】
図3C及び図4Cに例示されるように、本実施の形態のエアバッグ12は、インフレータ11による供給ガスの供給により上部チャンバ12a及び下部チャンバ12b内での圧力が高まると、圧力弁12eが開放される。
【0082】
そして、エアバッグ12は、圧力弁12eが開放されることで、インフレータ11により胸部側チャンバ12c内に供給ガスが供給される。ここで、本実施の形態の胸部側チャンバ12cは、乗員の胸部付近で展開可能となるように構成されている。
【0083】
このように、乗員の胸部付近で胸部側チャンバ12cを展開させることで、サイドドア20と乗員の胸部付近との空間を確保、すなわち、サイドドア20との距離を確保することが可能になり、側突に対する安全性を高めることができる。
【0084】
さらに、乗員の胸部付近で胸部側チャンバ12cを展開させることで、上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cで乗員の肩部から臀部にかけて面押しすることが可能になり、胸部傷害値を低減させることができる。
【0085】
また、エアバッグ12は、上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bを展開させた後、胸部側チャンバ12cへの展開を開始しているため、胸部側チャンバ12cを上部チャンバ12a及び下部チャンバ12bよりも低圧力で展開させることが可能になる。
【0086】
このように、サイドエアバッグ装置10は、胸部側チャンバ12cを低圧力で展開させることが可能になるため、胸部側チャンバ12cによる乗員への押圧力を軽減させることができる。
【0087】
これにより、サイドエアバッグ装置10によれば、胸部側チャンバ12cによる乗員への胸部障害値を低減させることが可能になり、サイドドア20への側突に対し、安全性を高めることができる。
【0088】
以上のように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10によれば、サイドドア20への側突時に、一つのインフレータ11で上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cが展開可能なエアバッグ12を有し、これら上部チャンバ12a、下部チャンバ12b及び胸部側チャンバ12cにより、サイドドア20と乗員との間の空間を確保、及び、乗員の胸部を保護することで、サイドドア20への側突による衝撃に対する安全性を高めることができる。
【0089】
また、本実施の形態のサイドエアバッグ装置10のエアバッグ12の展開により乗員を保護する乗員保護方法によれば、サイドドア20への側突による衝撃に対する安全性を高めることができる。
【0090】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態について、図5を用いて説明する。図5は、本発明の他の実施の形態であるサイドエアバッグ装置50を適用した車両のサイドドア20及び車両用シート30を示し、サイドエアバッグ装置50のエアバッグ52が展開した状態を車両の前方側から模式的に示す前方面図である。
【0091】
このサイドエアバッグ装置50は、上述の実施の形態1に対し、エアバッグ52のドアアームレスト側チャンバ52aが一つのチャンバにより構成され、このドアアームレスト側チャンバ52aがドアアームレスト25に向かって展開するよう構成された点が異なり、他の点は同様である。したがって、上述の実施の形態1と同一又は相当する部分には、同様の符号を付してその説明を省略する。
【0092】
図5に例示されるように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置50のエアバッグ52は、ドアアームレスト25の車両5の幅方向における車室面側に向かって展開可能なドアアームレスト側チャンバ52aと、乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバ52cと、を備えて構成されている。
【0093】
このように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置50は、エアバッグ52のドアアームレスト側チャンバ52aをドアアームレスト25の車両5の幅方向における車室面側に向かって展開させているため、サイドドア20を構成する各部の中で、乗員に最も近い位置に位置するドアアームレスト25と乗員との空間を確保、すなわち、ドアアームレスト25乗員との距離を確保することが可能になる。
【0094】
以上のように、本実施の形態のサイドエアバッグ装置50によれば、一つのインフレータ51でドアアームレスト側チャンバ52a及び胸部側チャンバ52cを形成するエアバッグ52を有し、これらドアアームレスト側チャンバ52a及び胸部側チャンバ52cによりドアアームレスト25と乗員との間の空間の確保、及び、乗員の胸部を保護することで、サイドドア20への側突による衝撃から乗員を保護することができる。
【符号の説明】
【0095】
5 車両
6 フロア
10 サイドエアバッグ装置
11 インフレータ
12 エアバッグ
12a 上部チャンバ
12b 下部チャンバ
12c 胸部側チャンバ
12e 圧力弁
20 サイドドア(車両側壁)
25 ドアアームレスト
30 車両用シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、当該エアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、前記車両側壁への衝突から前記乗員を保護する乗員保護装置であって、
前記エアバッグは、複数の前記チャンバのうち、
車両の上下方向におけるドアアームレストの上部及び下部で展開可能なドアアームレスト側チャンバと、
前記車両の幅方向における前記ドアアームレスト側チャンバよりも車室側で、かつ、前記乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバと、を有すること、
を特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
一つのインフレータで複数のチャンバを形成することが可能なエアバッグを有し、当該エアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、前記車両側壁への衝突から前記乗員を保護する乗員保護装置であって、
前記エアバッグは、複数の前記チャンバのうち、
車両の幅方向におけるドアアームレストの車室側の面に向かって展開可能なドアアームレスト側チャンバと、
前記車両の幅方向における前記ドアアームレスト側チャンバよりも車室側で、かつ、前記乗員の胸部付近で展開可能な胸部側チャンバと、を有すること、
を特徴とする乗員保護装置。
【請求項3】
前記エアバッグは、前記インフレータにより前記ドアアームレスト側チャンバに供給される供給ガスの圧力が、当該車両側壁側チャンバ内で所定の圧力に達すると、前記ドアアームレスト側チャンバと胸部側チャンバとを連通する圧力弁を具備すること、
を特徴とする請求項1又は2記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記エアバッグのドアアームレスト側チャンバは、前記ドアアームレストの前記上部を展開可能な上部チャンバと、前記ドアアームレストの前記下部を展開可能な下部チャンバと、を有すること、
を特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項5】
一つのインフレータで複数のチャンバを形成するエアバッグを車両側壁と乗員との間で展開させることで、前記車両側壁への衝突から前記乗員を保護する乗員保護方法であって、
複数の前記チャンバは、
少なくとも一つの前記チャンバがドアアームレストの車両の上下方向における上部及び下部で展開し、
少なくとも一つの前記チャンバが乗員の胸部を保護するように展開すること、
を特徴とする乗員保護方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−179956(P2012−179956A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42649(P2011−42649)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】