説明

乗員拘束装置

【課題】車両の側面衝突時に乗員をシートに拘束することが可能であり、且つ、前方衝突時にも有効な拘束及び保護性能を発揮しうる乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【解決手段】乗員拘束装置は、車両のシート1に着座した乗員の車室中央側の頭部の側方を通って該乗員の上半身の前面側を斜めに引き回されるショルダーベルト部11及び該乗員の腰部付近の上側を左右方向に引き回されるラップベルト部12を有したエアベルト10と、該シート1の車室中央側と反対側に隣接して設置されたバックル装置13と、エアベルト装着時に該バックル装置13に挿入係止されるタング14と、該ショルダーベルト部11が掛通されたショルダーアンカ15等を備えている。ショルダーアンカ15は、シート1に着座した乗員の頭部よりも車室中央側に位置するように設置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のシートに座った乗員を膨張可能なエアベルトにより該シートに拘束する乗員拘束装置に関する。詳しくは、本発明は、エアベルトのショルダーベルト部が乗員の頭部の側方を通って該乗員の上半身の前面側に斜めに引き回される乗員拘束装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両のシートに座った乗員を膨張可能なエアベルトにより該シートに拘束する乗員拘束装置は周知である(例えば、特開2003−312439号公報)。
【0003】
上記特開2003−312439号公報の乗員拘束装置にあっては、車両のシートの車室中央側と反対側、即ち該シートに近い方の車室側面側の斜め後方に位置するセンターピラーの上部にショルダーアンカが取り付けられており、このショルダーアンカに掛通されたエアベルトが、該シートに座った乗員の前面側へ引き回される。以下、シートの車室中央側と反対側、即ちこのシートに近い方の車室側面側を、単にこのシートの車室側面側ということがある。
【0004】
このエアベルトは、乗員の上半身に掛けられるショルダーベルト部と、該乗員の腰部付近に掛けられるラップベルト部とを有している。同号公報では、該ショルダーベルト部は、ショルダーアンカから乗員の頭部の車室中央側と反対側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に引き回され、該乗員の車室中央側と反対側の肩部から腰部付近の車室中央側まで斜めに掛けられている。また、ラップベルト部は、該乗員の腰部付近の前面側を左右方向に引き回されている。
【0005】
該ショルダーベルト部及びラップベルト部にはそれぞれ膨張可能なショルダーバッグ及びラップバッグが設けられている。同号公報では、該ショルダーバッグは、ショルダーベルト部に沿って乗員の肩部の上方から腰部付近まで延在しており、その上端側は、乗員の頭部の車室中央側と反対側の側方に配置されている。また、同号公報では、ラップバッグは、乗員の腰部付近の車室中央側と反対側に配置されている。
【0006】
車両衝突時や横転時等には、該ショルダーバッグ及びラップバッグが膨張して乗員をシートに拘束する。
【0007】
同号公報では、エアベルトのショルダーベルト部が乗員の頭部の車室側面側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられているので、車両の側面衝突時には、このショルダーベルト部により乗員の車室側面側への移動が拘束される。この際、膨張したショルダーバッグの上端部が車室側面側から乗員の頭部を受け止め、乗員の頭部の車室側面側への移動を拘束すると共に、該頭部に加えられる衝撃を吸収する。
【0008】
また、この際、乗員の腰部付近の車室側面側においてラップバッグが膨張するので、この膨張したラップバッグによって乗員の腰部付近が車室中央側へ押されると共に、該腰部付近に加えられる衝撃が吸収される。
【特許文献1】特開2003−312439号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、車両の側面衝突時に乗員をシートに拘束することが可能であり、且つ、前方衝突時にも有効な拘束及び保護性能を発揮する乗員拘束装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明(請求項1)の乗員拘束装置は、車両のシートに着座した乗員の頭部の側方を通って該乗員の上半身の前面側を斜めに引き回されるショルダーベルト部と、該乗員の腰部付近の前面側を左右方向に引き回されるラップベルト部とを有し、該ショルダーベルト部及びラップベルト部の少なくとも一方に膨張可能なバッグが設けられたエアベルトと、該バッグを膨張させるインフレータと、前記乗員の頭部の側方に設置されており、該ショルダーベルト部が掛通されたショルダーアンカとを備えた乗員拘束装置において、該ショルダーアンカは、前記乗員の頭部よりも車室中央側に配置されていることを特徴とするものである。
【0011】
請求項2の乗員拘束装置は、請求項1において、該ショルダーアンカは、前記シートのシートバックの上部の車室中央側に設置されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項3の乗員拘束装置は、請求項1又は2において、前記バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が前記乗員の頭部の車室中央側に配置されることを特徴とするものである。
【0013】
請求項4の乗員拘束装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が前記乗員の腰部付近の車室中央側と反対側の車室側面側に配置されることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明(請求項1)の乗員拘束装置にあっては、ショルダーアンカが乗員の頭部よりも車室中央側に配置されているので、エアベルトのショルダーベルト部は、乗員の頭部の車室中央側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられる。これにより、車両の側面衝突時には、このショルダーベルト部により乗員の車室中央側への移動が拘束される。
【0015】
ショルダーアンカは、請求項2のようにシートのシートバックの上部の車室中央側に設置されていてもよい。なお、本発明においては、ショルダーアンカはシート後方部材等に設置されてもよい。
【0016】
請求項3のように、バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が前記乗員の頭部の車室中央側に配置されることが好ましい。このように構成することにより、車両の側面衝突時には、膨張したバッグが車室中央側から乗員の頭部を受け止め、乗員の頭部の車室中央側への移動を拘束すると共に、該頭部に加えられる衝撃を吸収する。
【0017】
請求項4のように、バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が乗員の腰部付近の車室中央側と反対側の車室側面側に配置されることが好ましい。このように構成することにより、車両の側面衝突時には、膨張したバッグによって乗員の腰部付近が車室中央側へ押されるため、乗員の車室側面側への移動が拘束されると共に、膨張したバッグの形状次第では、側面衝突時に乗員の側面に加えられる衝撃のエネルギーも吸収される。
【0018】
即ち、この請求項4の態様にあっては、エアベルトのショルダーベルト部によって乗員の車室中央側への移動が拘束されると共に、膨張したバッグによって乗員の車室側面側への移動が拘束されるため、シートの車室側面側及び車室中央側のどちら側の側面衝突においても乗員を拘束することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0020】
第1図は実施の形態に係る乗員拘束装置を備えた車両の車室内のシート付近の斜視図、第2図及び第3図はこのシート付近の正面図、第4図はエアベルトのラップベルト部の斜視図、第5図はエアベルトのショルダーベルト部の斜視図である。なお、第2図はエアベルト膨張前の状態を示し、第3図はエアベルトが膨張した状態を示している。また、第4図及び第5図において、該ラップベルト部及びショルダーベルト部は、それぞれ膨張した状態にて図示されている。
【0021】
この実施の形態では、車室内の右側(この左右方向はシートに着座した乗員にとっての左右方向と合致する。以下、同様。)シートに設置された乗員拘束装置について説明する。なお、図示は省略するが、車室内の左側シート用の乗員拘束装置の構成は、この右側シート用の乗員拘束装置の構成を左右逆にしたものとなっている。
【0022】
車両のシート1は、シートクッション2と、該シートクッション2の後部から立ち上がるシートバック3とを有している。該シートバック3の上部の左右方向の中央部にヘッドレスト4が設置されている。
【0023】
乗員拘束装置は、このシート1に着座した乗員の車室中央側(この実施の形態では左側)の頭部の側方を通って該乗員の上半身の前面側を斜めに(この実施の形態では左上から右下へ)引き回されるショルダーベルト部11及び該乗員の腰部付近の上側を左右方向に引き回されるラップベルト部12を有したエアベルト10と、該シート1の車室中央側と反対側(この実施の形態では右側)に隣接して設置されたバックル装置13(第2,3図)と、エアベルト装着時に該バックル装置13に挿入係止されるタング14(第4,5図)と、該ショルダーベルト部11が掛通されたショルダーアンカ15等を備えている。
【0024】
該ショルダーアンカ15は、このシート1に着座した乗員の頭部よりも車室中央側に位置するように設置されている。
【0025】
この実施の形態では、該ショルダーアンカ15は、シートバック3の上部の車室中央側に一体的に設けられている。詳しくは、この実施の形態では、該シートバック3の上部の車室中央側に、ヘッドレスト4と隣接して凸部15aが設けられている。この凸部15aの前面側にはベルト挿通口15bが設けられており、ショルダーベルト部11は、このベルト挿通口15bを通ってシート1の前面側に引き出されている。この凸部15a内にはガイドローラ(図示略)が設けられており、このガイドローラに該ショルダーベルト部11の途中部が掛けられている。即ち、この実施の形態では、これらの凸部15a、ベルト挿通口15b及びガイドローラによってショルダーアンカ15が構成されている。
【0026】
なお、ショルダーアンカ15の構成はこれに限定されない。
【0027】
図示は省略するが、シートバック3内にはベルト通路が設けられており、ショルダーベルト部11の基端側(後述のウェビング16)は、このベルト通路を通ってショルダー用リトラクタに連結されている。この実施の形態では、該ショルダー用リトラクタもシートクッション3内に設置されている。なお、このショルダー用リトラクタは、車体衝突時や横転時等の緊急時にショルダーベルト部11の引き出しをロックするロック機構を備えている。
【0028】
該ショルダーベルト部11は、この実施の形態では、乗員の上半身の前面側を引き回されるウェビング16と、該ウェビング16に沿って配置された膨張可能なショルダーバッグ17とを有している。該ウェビング16は、非膨張式の通常のシートベルトと同様のベルト材料よりなる。該ウェビング16は、基端側が前記ショルダー用リトラクタに対し巻き取り及び引き出し可能に連結されており、先端側はタング14に連結されている。
【0029】
ショルダーバッグ17は、太幅帯状のショルダーバッグ本体(図示略)を細幅帯状となるように折り畳んでカバー(図示略)により覆ったものであり、通常時には帯状に保形されている。
【0030】
この実施の形態では、第5図の通り、該ショルダーバッグ17をその長手方向に貫通するようにトンネル状のウェビング挿通部17bが設けられており、このウェビング挿通部17bにウェビング16が挿通されることにより、該ウェビング16にショルダーバッグ17が装着されている。該ショルダーバッグ本体は、先端側がウェビング16の先端側と共にタング14に連結され、後端側が該ウェビング16の途中部に縫着等により結合されている。なお、本発明においては、該ショルダーバッグ17の端部は、ウェビング16に縫い込んでもよいし、縫い込まなくてもよい。
【0031】
このショルダーバッグ17は、第2,3図に示すように、エアベルト装着時において乗員の頭部の側方に配置される頭部側方配置部17Sと、該乗員の上半身の前面側、即ち該乗員の肩部の前面側から腰部の前面側にかけて配置される前側配置部17Fとを有している。この頭部側方配置部17Sと前側配置部17Fとは一連のものとなっている。
【0032】
この実施の形態では、第3図の通り、ショルダーバッグ17が膨張した状態において、頭部側方配置部17Sは、乗員の肩部上面から好ましくは100〜300mm、特に140〜250mmの高さまで上方へ突出状に膨張しうるものとなっている。前側配置部17Fは、膨張した状態において、太さが該頭部側方配置部17Sよりも細く、且つその全長にわたって略一様の太さとなるように構成されている。
【0033】
ショルダーバッグ17は、ショルダー膨張部を細幅帯状となるように折り畳み、また場合によっては頭部側方配置部17Sを前側配置部17Fに折り込んでカバーによって覆ったものであり、通常は帯状に保形されている。
【0034】
ラップベルト部12も、この実施の形態では、乗員の腰部付近の上側を引き回されるウェビング18と、該ウェビング18に沿って配置された膨張可能なラップバッグ19とを有している。該ウェビング18は、非膨張式の通常のシートベルトと同様のベルト材料よりなる。該ウェビング18は、基端側がラップ用リトラクタ20に対し巻き取り及び引き出し可能に連結されており、先端側はタング14に連結されている。第2,3図の通り、該ラップ用リトラクタ20は、前記シートクッション2を挟んでバックル装置13と反対側、即ちシートクッション2の車室中央側に配置されている。このラップ用リトラクタ20も、車体衝突時や横転時等の緊急時にラップベルト部12の引き出しをロックするロック機構を備えている。
【0035】
ラップバッグ19も、太幅帯状のラップバッグ本体(図示略)を細幅帯状となるように折り畳んでカバー(図示略)により覆ったものであり、通常時には帯状に保形されている。
【0036】
この実施の形態では、ラップバッグ19にも、第4図の通り、該ラップバッグ19をその長手方向に貫通するようにトンネル状のウェビング挿通部19bが設けられており、このウェビング挿通部19bにウェビング18が挿通されることにより、該ウェビング18にラップバッグ19が装着されている。該ラップバッグ19は、長手方向の両端側がそれぞれウェビング18の途中部に縫着等により結合されている。これにより、膨張したラップバッグ19がヘッドパスを持ち上げることでプリテンショナ効果も期待される。なお、本発明においては、該ラップバッグ19の端部は、ウェビング19に縫い込んでもよいし、縫い込まなくてもよい。
【0037】
この実施の形態では、ラップバッグ19は、第2,3図に示すように、エアベルト装着時において乗員の腰部付近の車室中央側と反対側の車室側面S側に位置するようにウェビング18の先端側に配置されている。
【0038】
この実施の形態では、該ラップバッグ19は、膨張時に乗員の腹部(脇腹)を覆うように上方へ突出状に膨張する上方膨出部19Uを有している。このラップバッグ19の膨張時の下面から該上方膨出部19Uの上端までの上下方向の幅は、50〜250mm、特に100〜150mmであることが好ましい。
【0039】
この実施の形態では、バックル装置13に、ショルダーバッグ17及びラップバッグ19をそれぞれ膨張させるためのインフレータ(図示略)が設置されている。また、該バックル装置13には、このインフレータからのガスをショルダーバッグ17とラップバッグ19とに分配するためのショルダー用ガス通路(図示略)とラップ用ガス通路(図示略)とが設けられている。タング14には、該タング14をバックル装置13にラッチさせたときに該ショルダー用ガス通路に接続されるショルダー用インフレータパイプ21Sと、該ラップ用ガス通路に接続されるラップ用インフレータパイプ21Rとが取り付けられている。該ショルダー用インフレータパイプ21Sはダクト17cを介して前記ショルダーバッグ本体にガス供給可能に接続されており、ラップ用インフレータパイプ21Rは、ダクト19cを介して前記ラップバッグ本体にガス供給可能に接続されている。
【0040】
このように構成された乗員拘束装置の作動は次の通りである。
【0041】
エアベルト10を装着する場合、通常のシートベルトと同様に、シート1に着座した乗員の前面側に該エアベルト10を引き回し、タング14をバックル装置13に挿入係止する。
【0042】
この際、第2図の通り、ショルダーアンカ15が乗員の頭部よりも車室中央側に配置されているので、エアベルト10のショルダーベルト部11は、乗員の頭部の車室中央側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられる。このショルダーベルト部11は、乗員の車室中央側の肩部から腰部付近の車室中央側と反対側(即ち車室側面S側)まで斜めに引き回される。また、ラップベルト部12は、乗員の腰部付近の上側を左右方向に引き回される。
【0043】
車両の衝突時や横転時等には、ショルダー用リトラクタ及びラップ用リトラクタ20がそれぞれロック状態になると共に、インフレータがガス噴出作動し、このインフレータからのガスがショルダー用及びラップ用の各インフレータパイプ21S,21Rを介してショルダーバッグ17及びラップバッグ19に分配供給され、該ショルダーバッグ17及びラップバッグ19がそれぞれ膨張する。
【0044】
ショルダーバッグ17及びラップバッグ19が膨張すると、該ショルダーバッグ17及びラップバッグ19の厚みが増大するのに伴ってウェビング16,18が乗員の身体表面から離反する方向へ押し上げられる。この結果、ショルダーベルト部11及びラップベルト部12が引き締まり、乗員がシート1に拘束される。また、膨張したショルダーバッグ17及びラップバッグ19により、乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0045】
この乗員拘束装置にあっては、前述の通り、エアベルト10のショルダーベルト部11は、乗員の頭部の車室中央側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられている。これにより、車両の側面衝突時には、このショルダーベルト部11により乗員の車室中央側への移動が拘束される。
【0046】
この際、第3図のように、膨張したショルダーバッグ17の頭部側方配置部17Sが車室中央側から乗員の頭部を受け止め、乗員の頭部の車室中央側への移動を拘束すると共に、該頭部に加えられる衝撃を吸収する。なお、この実施の形態では、該頭部側方配置部17Sは、乗員の肩部上面から上方へ突出状に膨張するため、この膨張した頭部側方配置部17Sが乗員の頭部の側面の広い範囲に対面するようになる。これにより、この膨張した頭部側方配置部17Sによって十分に乗員の頭部を受け止めることができる。
【0047】
また、車両側面衝突時には、膨張したラップバッグ19により、乗員の車室側面S側への移動が拘束される。即ち、この乗員拘束装置においては、ラップバッグ19は、乗員の車室側面S側に配置されている。そのため、ラップバッグ19が膨張すると、この膨張したラップバッグ19によって乗員の腰部付近が車室中央側へ押される。これにより、乗員の車室側面S側への移動が拘束される。
【0048】
この実施の形態では、該ラップバッグ19は、乗員の腹部(脇腹)を覆うように上方へ突出状に膨張する上方膨出部19Uを有しているので、この上方膨出部19Uにより、乗員の腰部付近から脇腹にかけての広い範囲が保護される。なお、このラップバッグ19により、乗員の胸部保護もしくは腰部を押えることが可能である。
【0049】
以上の通り、この乗員拘束装置にあっては、エアベルト10のショルダーベルト部11によって乗員の車室中央側への移動が拘束されると共に、膨張したラップバッグ19によって乗員の車室側面S側への移動が拘束されるため、乗員の車室中央側及び車室側面S側の双方の移動を拘束することが可能である。
【0050】
上記の実施の形態では、エアバッグ10のショルダーベルト部11及びラップベルト部12は、それぞれ、ウェビング16,18がショルダー用リトラクタ及びラップ用リトラクタ20からタング14まで連続した構成となっているが、エアベルトのショルダーベルト部及びラップベルト部の構成はこれに限定されない。
【0051】
第6図はエアベルトのラップベルト部の別の構成例を示す斜視図、第7図はエアベルトのショルダーベルト部の別の構成例を示す斜視図である。なお、第6図及び第7図において、該ラップベルト部及びショルダーベルト部は、それぞれ膨張した状態にて図示されている。
【0052】
第6図のラップベルト部12Aは、ラップバッグ19Aにウェビング挿通部19bが設けられておらず、ラップ用リトラクタ20から引き出された第1ウェビング18aの先端が該ラップバッグ19Aの後端に結合されると共に、該ラップバッグ19Aの先端に、第2ウェビング18bの後端が結合されている。符号23は、該第1及び第2ウェビング18a,18bとラップバッグ19Aとを縫合したシームを示している。このラップベルト部12Aは、該第2ウェビング18bの先端がタング14に連結されている。
【0053】
この実施の形態でも、該ラップバッグ19Aは、膨張時に乗員の腹部(脇腹)を覆うように上方へ突出状に膨張する上方膨出部19Uを有している。そのため、このラップバッグ19Aによっても、乗員の胸部保護もしくは腰部を押えることが可能である。
【0054】
なお、ラップベルト部12Aを構成するウェビングは、上記のようにラップバッグ19Aよりもラップ用リトラクタ20側の第1のウェビング18aと、ラップバッグ19Aよりもタング14側の第2のウェビング18bとに分離していなくてもよい。即ち、図示は省略するが、前述の実施の形態と同様に、ウェビングをラップ用リトラクタ20からタング14まで連続したものとし、このウェビングに沿ってラップバッグ19Aを配置し、このウェビングにラップバッグ19Aを連結してもよい。
【0055】
第7図のショルダーベルト部11Aも、ショルダーバッグ17Aにウェビング挿通部17bが設けられておらず、ショルダー用リトラクタ(図示略)から引き出された第1ウェビング16aの先端が該ショルダーバッグ17Aの後端に結合されると共に、該ショルダーバッグ17Aの先端に、第2ウェビング16bの後端が結合されている。符号22は、該第1及び第2ウェビング16a,16bとショルダーバッグ17Aとを縫合したシームを示している。このショルダーベルト部11Aも、該第2ウェビング16bの先端側がタング14に連結されている。
【0056】
なお、ショルダーベルト部11Aを構成するウェビングに関しても、上記のようにショルダーバッグ17Aよりもショルダー用リトラクタ側の第1ウェビング16aと、ショルダーバッグ17Aよりもタング14側の第2のウェビング16bとに分離していなくてもよい。即ち、図示は省略するが、前述の実施の形態と同様に、ウェビングをショルダー用リトラクタからタング14まで連続したものとし、このウェビングに沿ってショルダーバッグ17Aを配置し、このウェビングにショルダーバッグ17Aを連結してもよい。
【0057】
この第6,7図の実施の形態のその他の構成は、前述の第1〜5図と同様であり、第6,7図において第1〜5図と同一符号は同一部分を示している。
【0058】
第8図はエアベルトのラップベルト部のさらに別の構成例を示す斜視図、第9図はエアベルトのショルダーベルト部のさらに別の構成例を示す斜視図である。
【0059】
第8図のラップバッグ19Bは、太幅帯状のラップバッグ本体19hを細幅帯状となるように折り畳んでメッシュウェビング19aにより覆ったものであり、通常時には帯状に保形されている。該メッシュウェビング19aは、ラップバッグ本体19hの長手方向には殆ど伸長しないが、該ラップバッグ本体19hの周方向には柔軟に伸張しうる編物により構成されている。
【0060】
この実施の形態でも、ラップ用リトラクタ20から引き出された第1ウェビング18aの先端が該メッシュウェビング19aの後端に結合されると共に、該メッシュウェビング19aの先端に、第2ウェビング18bの後端が結合されることにより、ラップベルト部12Bが構成されている。符号23は、該第1及び第2ウェビング18a,18bとメッシュウェビング19aとを縫合したシームを示している。このラップベルト部12Bも、該第2ウェビング18bの先端がタング14に連結されている。
【0061】
なお、このラップベルト部12Bを構成するウェビングに関しても、上記のようにラップバッグ19Bよりもラップ用リトラクタ20側の第1のウェビング18aと、ラップバッグ19Bよりもタング14側の第2のウェビング18bとに分離していなくてもよい。即ち、図示は省略するが、前述の第1〜5図の実施の形態のように、ウェビングをラップ用リトラクタ20からタング14まで連続したものとし、このウェビングに沿ってラップバッグ19Bを配置し、このウェビングにラップバッグ19Bを連結してもよい。
【0062】
第9図のショルダーバッグ17Bも、太幅帯状のショルダーバッグ本体17hを細幅帯状となるように折り畳んでメッシュウェビング17aにより覆ったものであり、通常時には帯状に保形されている。このメッシュウェビング17aも、ショルダーバッグ本体17hの長手方向には殆ど伸長しないが、該ショルダーバッグ本体17hの周方向には柔軟に伸長しうる編物により構成されている。
【0063】
また、このショルダーベルト部11Aも、ショルダー用リトラクタ(図示略)から引き出された第1ウェビング16aの先端が該メッシュウェビング17aの後端に結合されると共に、該メッシュウェビング17aの先端に、第2ウェビング16bの後端が結合されている。符号22は、該第1及び第2ウェビング16a,16bとメッシュウェビング17aとを縫合したシームを示している。このショルダーベルト部11Bも、該第2ウェビング16bの先端側がタング14に連結されている。
【0064】
なお、このショルダーベルト部11Bを構成するウェビングに関しても、上記のようにショルダーバッグ17Bよりもショルダー用リトラクタ側の第1ウェビング16aと、ショルダーバッグ17Bよりもタング14側の第2のウェビング16bとに分離していなくてもよい。即ち、図示は省略するが、前述の第1〜5図の実施の形態のように、ウェビングをショルダー用リトラクタからタング14まで連続したものとし、このウェビングに沿ってショルダーバッグ17Bを配置し、このウェビングにショルダーバッグ17Bを連結してもよい。
【0065】
この第8,9図の実施の形態のその他の構成は、前述の第6,7図と同様であり、第8,9図において第6,7図と同一符号は同一部分を示している。
【0066】
このように構成されたショルダーベルト部11B及びラップベルト部12Bを備えた乗員拘束装置にあっては、周方向には柔軟に伸長するが、長手方向には殆ど伸長しない編物にて構成されたメッシュウェビング17a,19aによってショルダーバッグ17B及びラップバッグ19Bがそれぞれ被包されているので、該ショルダーバッグ17B及びラップバッグ19Bが膨張すると、これらのメッシュウェビング17a,19aは、ショルダーバッグ17B及びラップバッグ19Bの膨張に追従して周方向に伸長するのに伴い、長さが短くなる。この結果、ショルダーバッグ17B及びラップバッグ19Bの膨張に伴ってショルダーベルト部11B及びラップベルト部12Bが引き締まり、乗員がシート1に拘束される。
【0067】
第10図は別の実施の形態に係る乗員拘束装置を備えた車両の車室内のシート付近の正面図である。
【0068】
上記の第1〜9図の各実施の形態では、ショルダーベルト部11,11A,11B及びラップベルト部12,12A,12Bにそれぞれ膨張可能なショルダーバッグ17,17A,17B及びラップバッグ19,19A,19Bが設けられているが、この第10図の実施の形態では、ショルダーベルト部11にのみ膨張可能なショルダーバッグ17が設けられており、ラップベルト部12には膨張可能なラップバッグは設けられていない。このショルダーバッグ17の構成は、第1〜5図の実施の形態と同様である。
【0069】
詳しい図示は省略するが、バックル装置13には、インフレータからのガスをショルダーバッグ17に供給するためのショルダー用ガス通路のみが設けられている。また、タング14にも、該タング14をバックル装置13にラッチさせたときに該ショルダー用ガス通路に接続されるショルダー用インフレータパイプ21S(第5図参照)のみが設けられている。該ショルダー用インフレータパイプ21Sは、ダクト17c(第5図参照)を介してショルダーバッグ17のショルダーバッグ本体にガス供給可能に接続されている。
【0070】
この実施の形態のその他の構成は、第1〜5図の実施の形態と同様である。
【0071】
このように構成された乗員拘束装置にあっても、第10図の通り、ショルダーアンカ15が乗員の頭部よりも車室中央側に配置されているので、エアベルト10の装着時には、ショルダーベルト部11は、乗員の頭部の車室中央側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられ、乗員の車室中央側の肩部から腰部付近の車室側面S側まで斜めに引き回される。また、ラップベルト部12は、乗員の腰部付近の上側を左右方向に引き回される。
【0072】
車両の衝突時や横転時等には、ショルダー用リトラクタ及びラップ用リトラクタ20がそれぞれロック状態になると共に、インフレータがガス噴出作動し、このインフレータからのガスがショルダーバッグ17に供給されて該ショルダーバッグ17が膨張する。
【0073】
ショルダーバッグ17が膨張すると、該ショルダーバッグ17の厚みが増大するのに伴ってウェビング16が乗員の身体表面から離反する方向へ押し上げられる。この結果、ショルダーベルト部11が引き締まり、乗員がシート1に拘束される。また、膨張したショルダーバッグ17により、乗員に加えられる衝撃が吸収される。
【0074】
この乗員拘束装置にあっても、エアベルト10のショルダーベルト部11は、乗員の頭部の車室中央側の側方を通って該乗員の上半身の前面側に掛けられているので、車両の側面衝突時には、このショルダーベルト部11により乗員の車室中央側への移動が拘束される。
【0075】
詳しい図示は省略するが、この実施の形態でも、第1〜5図の実施の形態と同様のショルダーバッグ17が設けられているので、膨張したショルダーバッグ17の頭部側方配置部17Sが車室中央側から乗員の頭部を受け止め、乗員の頭部の車室中央側への移動を拘束すると共に、該頭部に加えられる衝撃を吸収する。この頭部側方配置部17Sは、乗員の肩部上面から上方へ突出状に膨張するため、この膨張した頭部側方配置部17Sが乗員の頭部の側面の広い範囲に対面するようになる。これにより、この膨張した頭部側方配置部17Sによって十分に乗員の頭部を受け止めることができる(第3,5図参照)。
【0076】
なお、このショルダーバッグ17の代わりに、第7図のショルダーバッグ17A又は第9図のショルダーバッグ17Bが設けられてもよい。
【0077】
上記の各実施の形態は本発明の一例を示すものであり、本発明は図示の構成に限定されない。
【0078】
例えば、上記の実施の形態では、ショルダーアンカ15はシートバック3に一体的に設けられているが、本発明においては、ショルダーアンカはシートバック3以外の部材に設けられてもよい。例えば、本発明を車両の後部シートや、所謂ツーシータータイプの車両のシートに適用する場合には、これらのシートの後方に配置されたトランクリッド等のシート後方部材にショルダーアンカが設けられてもよい。
【0079】
上記の各実施の形態では、ショルダーバッグ17,17Aは、その膨張時において、乗員の頭部の側方に配置される頭部側方配置部17Sが乗員の肩部上面から所定高さまで上方へ突出状に膨張し、この膨張した頭部側方配置部17Sが乗員の頭部の側面の広い範囲に対面するように構成されているが、ショルダーバッグの構成はこれに限定されない。例えば、ショルダーバッグの膨張時に頭部側方配置部17Sと前側配置部17Fとが略同等の太さとなるように構成されてもよい。
【0080】
また、上記の各実施の形態では、ラップバッグ19,19Aは、膨張時に乗員の腹部(脇腹)を覆うように上方へ突出状に膨張する上方膨出部19Uを有しているが、この上方膨出部19Uは省略されてもよい。
【0081】
上記の第1〜9図の各実施の形態では、バックル装置13に設けられた共通のインフレータからショルダー用インフレータパイプ21S及びラップ用インフレータパイプ21Rを介してショルダーバッグとラップバッグとにそれぞれガスが分配供給されるように構成されているが、ショルダーバッグ及びラップバッグへのガス供給構造はこれに限定されない。また、インフレータはバックル装置以外の部材、例えばタングやシートフレーム、又は車室床面等に設置されてもよい。
【0082】
上記の第10図の実施の形態ではショルダーベルト部11にのみ膨張可能なショルダーバッグ17(あるいは17A又は17B)を設けているが、ラップベルト部12にのみ膨張可能なラップバッグ19(あるいは19A又は19B)を設けてもよい。
【0083】
ショルダーベルト部11からラップベルト部12に連続して膨張可能なバッグが設けられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施の形態に係る乗員拘束装置を備えた車両の車室内のシート付近の斜視図である。
【図2】図1のシート付近のエアベルト非膨張時における正面図である。
【図3】図1のシート付近のエアベルト膨張時における正面図である。
【図4】図1のエアベルトのラップベルト部の斜視図である。
【図5】図1のエアベルトのショルダーベルト部の斜視図である。
【図6】エアベルトのラップベルト部の別の構成例を示す斜視図である。
【図7】エアベルトのショルダーベルト部の別の構成例を示す斜視図である。
【図8】エアベルトのラップベルト部の別の構成例を示す斜視図である。
【図9】エアベルトのショルダーベルト部の別の構成例を示す斜視図である。
【図10】別の実施の形態に係る乗員拘束装置を備えた車両の車室内のシート付近の正面図である。
【符号の説明】
【0085】
10 エアベルト
11,11A,11B ショルダーベルト部
12,12A,12B ラップベルト部
13 バックル装置
14 タング
15 ショルダーアンカ
17,17A,17B ショルダーバッグ
17F 前側配置部
17S 頭部側方配置部
19,19A,19B ラップバッグ
19U 上方膨出部
21S,21R インフレータパイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のシートに着座した乗員の頭部の側方を通って該乗員の上半身の前面側を斜めに引き回されるショルダーベルト部と、該乗員の腰部付近の前面側を左右方向に引き回されるラップベルト部とを有し、該ショルダーベルト部及びラップベルト部の少なくとも一方に膨張可能なバッグが設けられたエアベルトと、
該バッグを膨張させるインフレータと、
前記乗員の頭部の側方に設置されており、該ショルダーベルト部が掛通されたショルダーアンカと
を備えた乗員拘束装置において、
該ショルダーアンカは、前記乗員の頭部よりも車室中央側に配置されていることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項2】
請求項1において、該ショルダーアンカは、前記シートのシートバックの上部の車室中央側に設置されていることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が前記乗員の頭部の車室中央側に配置されることを特徴とする乗員拘束装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記バッグは、膨張した状態において、少なくとも一部が前記乗員の腰部付近の車室中央側と反対側の車室側面側に配置されることを特徴とする乗員拘束装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−202861(P2009−202861A)
【公開日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262932(P2008−262932)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(306009581)タカタ株式会社 (812)
【Fターム(参考)】