説明

乳酸の連続的製造方法

本発明は、(a)発酵により得られそして主として乳酸塩を含有する水性原料を、無機酸を含有する流を用いて1〜4のpHに酸性化して、主として乳酸および塩よりなる水性流を生成し、(b)塩を主として乳酸および塩を含有する水性流から濾過により除去して、主として乳酸を含有する第一の水性流を生成し、(c)主として乳酸を含有する第一の水性流を活性炭を含有するカラムに通して、主として乳酸を含有する第二の水性流を生成し、(d)主として乳酸を含有する第二の水性流を第一の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸を含有する第二の水性流を抽出剤を含有する実質的に水−不溶性である流と接触させて、主として乳酸および抽出剤を含有する有機相並びに主として不純物を含有する第一の水相を生成し、(e)主として乳酸および抽出剤を含有する有機相を第二の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸および抽出剤を含有する有機相を水性流と接触させて、主として乳酸を含有する水相および主として抽出剤を含有する有機相を生成し、ここで抽出剤を含有する有機相を段階(d)に再循環させ、そして(f)主として乳酸を含有する水相を水の蒸発により濃縮して、濃縮された乳酸の水溶液を生成することを含んでなる乳酸の連続的製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、発酵により得られそして主として乳酸塩を含有する水性原料から乳酸を製造するための連続的方法に関する。用語「主として乳酸塩を含有する原料」は、原料の合計量を基準として、約250gもしくはそれ以下の乳酸塩イオン/lを含有する原料を示し、乳酸塩イオンの少なくとも90重量%は遊離乳酸塩イオンとして存在しそして乳酸塩イオンの残りの量は解離されていない酸として存在する。
【0002】
多くの方法が先行技術から知られている。1999年4月22日に公開されたWO99/19290は内部に溶解された乳酸および乳酸の塩(乳酸塩)の水性組成物から乳酸を精製するための種々の方法を記載しており、水性組成物は4.8もしくはそれ以下のpHにおける適当な原料の発酵により得られた(請求項1)。水性組成物のpHは従って中程度ないし強い酸性であるため、組成物はかなりの量の乳酸およびかなりの量の乳酸塩を含有する。WO99/19290の4頁、21〜28行によると、乳酸の分離後に乳酸塩を発酵段階に再循環させることができ、そこでそれが発酵中のpHを調節するための緩衝剤として機能するため、これは実際に有利である。他方では、WO99/19290の14頁、21〜30行は少なくとも0.86ないし6.0より低いpHを有する組成物を用いてこれらの方法を実行できると述べており、これは25℃においてこれらの組成物中の乳酸およびその塩のモル比が1000:1〜0.007:1の間であることを意味する。好ましくは、これらの組成物は1.98〜5.00のpH(乳酸およびその塩のモル比は75:1〜0.070:1の間である)をそして特に3.0〜4.5のpH(乳酸およびその塩のモル比は7.0:1〜0.23:1の間である)を有する。WO99/19290に従う方法により得られる乳酸は、特に、ポリ乳酸の製造用に使用される。
【0003】
WO99/19290の40頁、23行〜41頁、11行は好ましい態様を記載しており、そこでは適当な培養培地を発酵させて乳酸および乳酸塩を含有する組成物を生成する。その後の段階で、固体を例えば濾過、フロキュレーション、遠心またはそのような技術の組み合わせにより分離して、乳酸および乳酸塩の水性混合物を生成する。乳酸および乳酸塩の水性混合物を抽出装置に直接送るが、水性混合物を抽出装置に送る前にある操作にかけることも可能である。そのような操作は、例えば、硫酸の如き酸の添加によるpHの調節であり、乳酸塩はそれにより乳酸に転化される(WO99/19290の5頁、8〜14行)。しかしながら、そのような操作は例えば硫酸カルシウムよりなる廃産物の生成をもたらすという欠点を有するであろう(硫酸カルシウムは発酵中に生成する乳酸塩と硫酸との間の反応により生成し、発酵中に、例えば開始段階中に、発酵培地のpHを充分高い値に保つために次に炭酸カルシウムを加える)。さらに、WO99/19290の13頁、33−36行はこの参考文献に記載された方法が酸で処理する必要がなく且つ好ましくは実際にそのような操作を受けていない比較的酸性である培養培地から乳酸を精製するために特に適することをはっきり述べている。
【0004】
WO99/19290の上記の好ましい態様によると、乳酸および乳酸塩の水性混合物を、抽出により、主として乳酸を含有する有機相および主として乳酸塩を含有する水相に分離する。この抽出は15℃〜60℃の温度および大気圧において行うことができ、そしてWO99/19290の28頁、29〜32行によると、使用される有機抽出剤は第三級アミン、酸素を含有する溶媒および炭化水素、好ましくは60〜80重量%の第三級アルキルアミン、例えばヘンケル・コーポレーション(Henkel Corp.)から販売されているアラミン(Alamine)336(炭素数が少なくとも18のトリアルキルアミン類の混合物、トリアルキルアミン類はデシルおよびオクチル基を含有する)、5〜20重量%のメチルイソブチルケトンおよび10〜30重量%の炭化水素、例えばイソパル(Isopar)KTMを含んでなる。次に、主として乳酸を含有する有機相を逆抽出にかけ、乳酸を再び極性溶媒相、例えば水、の中に移す。この逆抽出は、例えば、30℃〜160℃もしくはそれ以上の温度において、そして一般的には90℃〜160℃の温度において、行われる(WO99/19290の30頁、26〜28行)。WO99/19290の26頁、22および23行によると、この逆抽出は少なくとも100℃、例えば150℃もしくはそれ以上、の温度においてそして少なくとも30psi(g)(約2.1バール)の圧力において行うこともできる。逆抽出から得られそして乳酸を含有する極性溶媒相を次に蒸留により濃縮し、各々の揮発度により乳酸または極性溶媒のいずれかが蒸気として分離される。WO99/19290の20頁、15〜21行は、乳酸の二量体化およびオリゴマー化をできるだけ防止するためにそのような蒸留を好ましくは300mmHg(約0.4バール)より低い圧力において行うことを記載している。抽出で生成しそして主として乳酸塩を含有する水相を(場合により精製後に)発酵段階に再循環させる。この方法を実行可能に且つ有効にするためには、この方法に従い精製される乳酸および乳酸塩の水性混合物は必ずかなりの量の乳酸およびかなりの量の乳酸塩を含有しなければならない。従って、乳酸および乳酸塩の水性混合物は中程度ないし強い酸性、例えば4.8もしくはそれ以下、であることが必要である。乳酸のpKaは25℃において約3.86であり、そして50℃において約3.89である(WO99/19290の図11も参照のこと)。
【0005】
乳酸を精製する方法の上記の好ましい態様は多くの欠点を有する。大規模な精製または連続的精製の目的のためには、抽出を米国特許第5,510,526号の請求項30に記載されているように二酸化炭素圧力下で行わなければならず、そこでは二酸化炭素分圧は少なくとも50psi(g)(約3.5バール)であり、従って比較的高い圧力に耐えうる比較的高価な装置が必要である。さらに、二酸化炭素圧力下の抽出速度が緩慢であることも証明された。効果的な抽出のためには、有機相および水相の間の接触を約100時間にわたり維持して撹拌系で平衡に達するようにしなければならない。
【0006】
上記の好ましい態様のさらに別の欠点は、主として乳酸塩を含有する水相の発酵への再循環が発酵中の乳酸塩および不純物の集積をもたらすことである。WO99/19290には物質収支は記載されていないが、発酵中に生成する乳酸および乳酸塩の水性組成物の一部を(いわゆるシンクまたは「パージ」により)発酵から除去することが必要であるが、これはWO99/19290には記載されていない。このタイプの再循環段階でのシンクまたは「パージ」の必要性は、対照的に、WO98/15517の5頁、最終章に記載されている。WO98/15517およびWO99/19290は、さらに、同一出願人によるものでありそして同一発明者を列記している。シンクまたは「パージ」の使用はもちろん精製の収率を減ずる。好ましい態様によると、生産量は従って低く、そして好ましい態様は原料の単位重量当たり単位時間当たりの比較的低い収率を有する。WO99/19290中の実験データの欠如が当業者によるそこに記載された方法の再現を非常に困難にしている。
【0007】
二酸化炭素圧力下での抽出は炭酸カルシウムも生ずる。実際に、この炭酸カルシウムは比較的不純でありそして鉱物栄養素が不充分であり、従って発酵に再循環させることができない。上記の好ましい態様に従うこの抽出段階は従って、WO99/19290が防止するために的確に試みている問題である廃産物を生ずる。5頁、3〜18行は、乳酸および乳酸塩の水性組成物の一般的精製の第一段階が硫酸の添加を含んでなり、(炭酸カルシウムが発酵中にpH調節剤として使用される場合には)硫酸カルシウムが工程中に生成することを記載している。該硫酸カルシウムは廃産物であると述べられている。しかしながら、廃産物である硫酸カルシウムの除去および硫酸の入手に関連する費用は抽出段階中の二酸化炭素の使用に関連する費用よりかなり低い。この方法の別の欠点は、三−または時には四−相系(有機相、水相、炭酸カルシウムの形態の固体相および二酸化炭素の形態の気相)が生成するため、複雑で且つその結果として高価な装置を必要とすることである。
【0008】
さらに、二酸化炭素圧力下の抽出の場合には、主として乳酸を含有する水相が比較的大量の乳酸を含有するため、発酵から得られる水性組成物からの乳酸の効果的な精製は該水相の再循環を必要とすることも見いだされた。WO99/19290のこの好ましい態様(すなわち(1)発酵、(2)抽出、(3)逆抽出および(4)濃縮)の収率は従って比較的低くそして不適切な純度の乳酸を与える。さらに、この好ましい態様は実行するのが困難であるかまたは、特に実験データの欠如の点からみて、WO99/19290には充分にはっきり記載されていない。この方法の別の欠点は、それが結晶化工程(平衡を乳酸に対して充分遠くに移行させるために炭酸カルシウムを沈澱させなければならない)を包含し、それがこの方法を機能不全にしがちなことである。さらに、固体炭酸カルシウムの存在はエマルションの生成を容易に生じうる。
【0009】
1998年8月27日に公開されたWO98/37050はアルカリ土類金属乳酸塩を含有する培地から乳酸およびその生成物を製造する方法を記載しており、そこでは前以て行われた段階から得られたアルカリ金属の共役塩基を培地と反応させて水溶性アルカリ金属乳酸塩およびアルカリ土類金属の塩基性化合物を生成し、水溶性アルカリ金属乳酸塩およびアルカリ土類金属の塩基性化合物を分離し、そして水溶性アルカリ金属乳酸塩を劈開して、アルカリ金属の共役塩基および乳酸生成物を生成する。乳酸生成物は乳酸自体、誘導体または乳酸および誘導体の組み合わせでありうる。
【0010】
1998年4月16日に公開されたWO98/15519は、乳酸、乳酸塩またはそれらの混合物を含有する水性原料から精製された乳酸生成物を回収する方法を記載しており、そこでは原料を実質的に非混和性であるアニオン交換体と接触させてイオン交換体と乳酸の付加物を含んでなる実質的に水−非混和性である相を生成して、実質的に水−非混和性である相の中での乳酸のカルボキシル基とヒドロキシル基、第一級アミン基または第二級アミン基との間の縮合反応を行い、乳酸エステルまたは乳酸アミドを生成し、そして乳酸エステルまたは乳酸アミドをイオン交換体から分離する。
【0011】
1998年4月16日に公開されたWO98/15517は、乳酸および乳酸塩を含有する水溶液から乳酸およびその生成物を回収する方法を記載している。この方法は、水溶液を塩基性抽出剤と接触させて乳酸を含有する抽出物および乳酸塩水溶液を生成することによる水溶液からの少なくとも70%の乳酸の抽出、乳酸を含有する抽出物および乳酸水溶液の分離、並びにそれ自体既知である方法による乳酸を含有する抽出物のストリッピングを含んでなる。好ましい態様によると、乳酸塩水溶液を、例えば硫酸を用いて、酸性化して乳酸および硫酸カルシウム(廃産物)を生成することができ、そして乳酸を次に水溶液から、例えば抽出により、回収することができる。WO98/15517に従う抽出段階も同様に二酸化炭素圧力下で行わなければならない。実施例8によると、この圧力は30気圧(約30バール)でありうる。WO98/15517による方法は従って、炭酸カルシウム(二酸化炭素圧力下で行われる抽出中に生成する)および硫酸カルシウムの廃産物としての生成、高い費用および比較的低い収率並びに比較的低い生産高という欠点を有する。
【0012】
1998年6月16日に許可された米国特許第5,766,439号は、例えば乳酸の如き有機酸の製造方法を記載しており、発酵が炭素数3〜8の有機一−、二−または三−塩基酸の水性混合物を生ずる。混合物をアルカリ土類金属塩基と、混合物のpHが充分高くなるような量で混合すると、酸およびアルカリ土類金属の塩が生成する。酸およびアルカリ土類金属の塩を次にアンモニウムイオンと反応させて酸のアンモニウム塩を生成する。アンモニウム塩を次にいわゆる塩−分解電気透析により遊離酸に転化させる。
【0013】
1996年1月18日に公開されたWO96/01247は、抽出−促進剤を含有する抽出物のアミンをベースにした水−非混和性溶液からカルボン酸を回収する方法を記載している。カルボン酸の不純な水溶液を抽出剤の溶液と接触させ、その後に、得られたカルボン酸を含有する抽出物から、カルボン酸の塩の水溶液により、抽出−促進剤を抽出して、抽出−促進剤を含有する水相およびカルボン酸を含有する抽出物(有機相)を生成する。抽出−促進剤を含有する水相から、抽出−促進剤を蒸留により除去する。カルボン酸を、酸を含有する抽出物から水を用いる逆抽出により、回収する。乳酸はWO96/01247には挙げられていない。
【0014】
WO98/55442は、発酵または他の源から得られた状態の乳酸の水溶液を少なくとも三つの段階にかける方法を記載している。第一段階は、乳酸のオリゴマー化に触媒作用を与えうるような乳酸の水溶液からの該イオノゲン物質の除去を含んでなり、この溶液は80%より少ない、好ましくは50%より少ないそして特に30%より少ない乳酸を含有する。好ましくは、アニオン交換体を使用してカチオノゲン物質を除去し、そしてカチオン交換体を次に使用してアニオノゲン物質を除去する。第二段階は、溶液を50〜90%、好ましくは70〜90%、の濃度に減圧下での蒸発により濃縮することを含んでなり、圧力は50〜500ミリバールそして好ましくは50〜250ミリバールでありそして温度はできるだけ低く保たれる。好ましくは、蒸発は流下フィルム蒸発により行われる。第三段階は、0.001〜100ミリバール、好ましくは0.1〜20ミリバールそして特に1〜10ミリバール、の圧力における蒸留を含んでなり、蒸発装置の壁温度は80〜160℃そして好ましくは110〜160℃である。蒸留は好ましくは機械的に撹拌されている薄膜蒸発器または短路蒸発器により行われそして純粋な乳酸を与える。場合により、後濃縮段階を第二および第三段階の間に行うこともできる。この後濃縮も同様に好ましくは機械的に撹拌されている薄膜蒸発器または短路蒸発器により10〜500ミリバール、好ましくは50〜250ミリバールの圧力においてそして50〜150℃、好ましくは80〜120℃、の温度において行われる。該後濃縮工程における第一濃縮段階(段階2)から得られた溶液の濃縮を100%の乳酸まで高めうることが特許請求されている。この方法の欠点は、第一濃縮段階(段階2)の工程中に濃縮された乳酸を含有する溶液と主として水を含有する画分との間の分離が劣悪であるため、主として水を含有する画分がかなりの量の乳酸および方法の効率にとって有害である不純物、例えば乳酸のオリゴマー類、を含有することである。さらに、この水を含有する画分はそれを廃棄または工程に再循環可能にする前に精製しなければならない。
【0015】
有機酸、例えば乳酸またはクエン酸、を発酵により製造および精製する別の方法は、例えば、WO95/32301、WO93/06226(乳酸)、WO93/00440(乳酸)、US3,944,606(クエン酸)、US4,275,234(クエン酸、乳酸、シュウ酸および燐酸)、US5,132,456(乳酸、フマル酸、琥珀酸、マレイン酸、アジピン酸、イタコン酸、安息香酸およびサリチル酸)、US5,510,526(乳酸)、US5,766,439(乳酸)、EP A 159,585(乳酸)、EP A 432,610(クエン酸)、およびEP A 613,878(クエン酸)に記載されている。発酵はクエン酸の方がはるかに高い濃度(約40重量%)で生ずるため、クエン酸の精製には乳酸の精製よりはるかに問題が少ないことに注目することが重要である。乳酸を製造するための発酵では、多くとも約30重量%の乳酸カルシウム(約21重量%の乳酸に相当する)の濃度を得ることができる。
【0016】
WO95/32301は有機酸またはその塩の連続的製造方法を記載しており、その工程中にバイオリアクター中で発酵により酸性水溶液を製造され、それをアニオン交換体の上に送る。カラムをアルカリ金属水酸化物で処理することにより、酸がカラムから放出される。
【0017】
WO93/06226は乳酸を製造するための発酵を記載しており、そこでは解離されていない乳酸を主として含有する発酵生成物が得られる。乳酸は発酵生成物からピリジン基を含有する固体重合体との接触により回収され、酸は重合体により吸収される。
【0018】
WO93/00440は発酵生成物から乳酸エステル類および乳酸を製造する方法を記載しており、それは強酸、アルコールおよび主として乳酸塩を含有する濃縮発酵生成物の同時反応、並びに水とアルコールとの共沸混合物の除去を含む。エステル類は濾過および蒸留により精製される。
【0019】
US5,132,456はカルボン酸、例えば乳酸、を酸のpKaに近いpHを有する水性組成物から回収する方法を記載しており、それはアニオン交換体による酸の精製を包含する。
【0020】
US5,510,526は乳酸塩を含有する原料から乳酸を抽出により製造する方法を記載しており、それは原料を少なくとも50psi(g)(約3.5バール)の二酸化炭素分圧下で炭素数が少なくとも18の水−非混和性アミンと接触させて酸を有機アミン相の中に加えることを包含する。酸は逆抽出により再び放出される。
【0021】
US5,766,439は発酵による有機酸、例えば乳酸、の製造方法を記載しており、それは酸の塩の水溶液の生成を包含する。塩をアンモニウム塩に転化させ、そこから酸が引き続き得られる。
【0022】
EP A 159,585は乳酸の製造方法を記載しており、その工程中に−発酵および酸性化後に−乳酸を直接、すなわち固体を除去するための濾過段階なしに、好ましくはアルコールを用いて、特殊な抽出カラム中で抽出にかける。
【0023】
しかしながら、乳酸を製造しそして精製するための先行技術に記載されている方法は、乳酸が比較的低い収率で得られるため、不満足である。さらに、得られた乳酸の純度は例えば製剤および化粧品組成物の如きある種の用途、例えば電子部品(例えばチップ)用のコーテイング組成物中の如き工業的用途、並びに環境に優しい用途(例えば生分解性ポリ乳酸の製造)にとっては不適切である。
【0024】
従って、本発明の目的は乳酸を効率的に且つ非常にきれいに製造できる方法を提供することである。本発明は従って、下記の段階:(a)発酵により得られそして主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を、無機酸を含有する流[2]を用いて1〜4、好ましくは1.5〜3そして特に1.7〜2.3のpHに酸性化して、主として乳酸および塩よりなる水性流[3]を生成し、(b)塩を主として乳酸および塩を含有する水性流[3]から濾過(または傾斜)により除去して、主として乳酸を含有する第一の水性流[4]を生成し、(c)主として乳酸を含有する第一の水性流[4]を活性炭を含有するカラムに通して、主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を生成し、(d)主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を第一の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を抽出剤を含有する実質的に水−不溶性である流[6]と接触させて、主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]並びに主として不純物を含有する第一の水相[8]を生成し、(e)主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を第二の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を水性流[9]と接触させて、主として乳酸を含有する水相[10]および主として抽出剤を含有する有機相[11]を生成し、ここで主として抽出剤を含有する有機相[11]を段階(d)に再循環させ、そして(f)主として乳酸を含有する水相[10]を水の蒸発により濃縮して、濃縮された乳酸の水溶液[12]を生成することを含んでなる乳酸の連続的製造方法を提供する。
【0025】
上記のように、用語「主として乳酸塩を含有する原料」は、原料の合計量を基準として、約250gもしくはそれ以下の乳酸塩イオン/lを含有する原料を関し、乳酸塩イオンの少なくとも90重量%は遊離乳酸塩イオンとして存在しそして乳酸塩イオンの残りの量は解離されていない酸として存在する。しかしながら、他の乳酸および/または乳酸塩を含有する水溶液を本発明に従う方法を用いて精製できることは当業者に明らかであろう。それ故、主として乳酸を含有する溶液を段階(c)−(f)だけを行うことにより精製することが可能であろう。
【0026】
図1は本発明に従う方法を描写する。図2および3は本発明に従う方法の好ましい態様を描写する。
【0027】
図1によると、主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を無機酸を含有する流[2]を用いて酸性化して、主として乳酸および塩よりなる流[3]を生成する。次に塩を除去して、主として乳酸および塩を含有する第一の水性流[4]を生成する。この水性流[4]を活性炭を含有するカラムを通すことにより、主として乳酸を含有する第二の流[5]を生成する。流[5]を第一の抽出段階にかけ、流[6]は抽出剤を含有する。そこで、乳酸を水相から有機相(流[7])に抽出し、水相は主として不純物および少量の乳酸を含有する(流[8])。流[7]を第二の抽出にかけて、主として乳酸を含有する水相(流[10])および主として抽出剤を含有する有機相(流[11])を生成する。最後に、流[10]を水の蒸発により濃縮して、濃縮された乳酸の水溶液[12]をこの工程で生成する。
【0028】
図2によると、流[7]を水を用いる洗浄段階にかけ、以下でさらに詳細に記載されているように、その工程中に依然として残存する水溶性不純物を乳酸を含有する有機相から除去する。この洗浄段階中に、少量の乳酸を有機相(流[7])から同時に洗浄除去して、流[13]を好ましくは工程に、好ましくは段階(c)の上流でまたは段階(d)の上流で、特に(c)の上流で、再循環させることが不可欠である。さらに、依然として存在する酸および他の不純物を流[11]から除去するために、第二の抽出後に生成した主として抽出剤を含有する有機相(流[11])を好ましくはアルカリ金属の無機塩基、好ましくは水酸化ナトリウム、の水溶液で洗浄する。このようにして精製された流[11]を第一の抽出用に再び使用することができ、すなわち[6]用の原料として使用することができる。流[11]の精製工程中に、水性流[14]が放出され、それは廃棄流として廃棄される。さらに、濃縮された乳酸溶液[12]は好ましくは真空中で蒸留され、実質的に純粋な乳酸(流[15])および残渣を生成し、それは可能なさらなる処理、例えば解重合段階、後に工程に、好ましくは段階(c)の上流に再循環させる。しかしながら、好ましくは、流[12]を真空蒸留前に、好ましくは活性炭を含有するカラム上およびイオン交換体上に連続的に送ることによりさらに精製する。特に、流[12]を活性炭を含有するカラムにそして次にイオン交換体に通しそして最後に真空蒸留にかける。本発明によると、流[12]を(a)活性炭を含有するカラムにそして(b)イオン交換体に通し、その後に、真空中で蒸留して非常に純粋な乳酸を生成するために、乳酸を含有する溶液を、1つもしくはそれ以上の蒸留カラムと組み合わせたまたは組み合わされていない、1つもしくはそれ以上の流下フィルム蒸発器、潤滑化フィルム蒸発器および/または薄膜蒸発器を用いてさらに濃縮する。この態様では、イオン交換体はより高い乳酸の濃度では操作が難しいことが見いだされたため、流[12]は流[12]の合計量を基準として50重量%より多くない乳酸を含有するであろう。次に、イオン交換体を出た乳酸を含有する溶液は、真空中で蒸留する前に、特に、1つもしくはそれ以上の蒸留カラムと組み合わせたまたは組み合わされていない、1つもしくはそれ以上の流下フィルム蒸発器、潤滑化フィルム蒸発器および/または薄膜蒸発器を用いることにより、さらに濃縮されるであろう。全てのこれらの具体的な追加精製段階およびそれらの利点は以下でさらに詳細に論じられるであろう。
【0029】
図3は別の好ましい態様を描写しており、そこでは流[5]を蒸発段階にかける。この蒸発段階は大気圧から0.1バールの圧力まで、特に0.8〜0.2バール、の圧力においてそして25°〜140℃、より好ましくは40°〜100℃そして特に50°〜90℃、の温度において行われる。この蒸発段階が、流[17]の合計量を基準として、30〜50重量%の乳酸を含有する濃縮された流[17]を与える。流[17]を次に第一の抽出段階に供給し、少なくとも99.5重量%の水を含有しそしてさらなる精製または処理なしに廃棄できる流[8]が生成する。流[5]の代わりに、流[4]をこの蒸発段階にかけることもできる。
【0030】
本発明の利点は、乳酸が高い純度および単位時間当たり供給原料の単位重量当たりの高い収率で得られうることである。さらに、本発明に従う連続的方法はWO99/19290に記載されたように4.8もしくはそれ以下のpHにおいて行われる発酵により得られた原料を用いて得られた効率の少なくとも2倍そして4倍でもある効率で製造できることも見いだされた。さらに、本発明に従う連続的方法により(還流下で2時間にわたり加熱した後に)50APHAより大きくない、好ましくは25APHAより大きくない、そして特に10APHAより大きくない色を有する乳酸が得られる(これらの値は92重量%の純粋な乳酸を含有する乳酸に適用される)。段階(a)で生成した塩を放棄する費用および段階(a)で使用する無機酸の入手費用は例えばUS5,510,526に従う方法を行うために必要な抽出装置のような高められた圧力下で操作可能な抽出装置に関する投資費用よりかなり低いため、本発明に従う方法は先行技術から既知である方法より安い費用で操作することもできる。本発明のさらに別の利点は、第一の抽出段階(d)を大気圧で行えることである。抽出の場合の大気圧で操作する別の利点は短い反応時間であり(系は急速に平衡に達する)、それはこの方法を容易に監視し且つ容易に調節できそして過誤傾向が少ないことを意味する。さらに、これらの方法を大規模な工業用方法への規模拡大もより容易である。最後に、液体/液体系だけが含まれるため、抽出は先行技術から既知である対応する抽出より簡単である。
【0031】
好ましくは、発酵は5.2〜7.0のpHにおいて行われ、pHは有機塩基の添加により5.2〜7.0の範囲内の値に維持される。また、段階(a)の上流で、主として乳酸塩を含有する水性混合物を好ましくは濾過してバイオマスを除去し、換言すると、段階(a)の上流で主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を濾過する。バイオマスを他の既知の方法で、例えば傾斜により、分離できることも当業者に明らかであろう。
【0032】
酸性化段階の下記の例により示されるように、段階(a)で生成した塩は無機酸のアニオンおよび無機塩基のカチオンから構成される:
【0033】
【化1】


【0034】
第一の抽出段階(先に行われる抽出)中に生成する水性流[8]は好ましくは、混合物全体を基準として、少なくとも約90重量%の水、そして特に少なくとも95重量%の水を含有する。さらに、流[8]は好ましくは5重量%より多くない乳酸を含有する。効果的な抽出のためには、流[8]を従って段階(c)の上流でまたは段階(d)の上流で、特に段階(c)の上流で、工程に再循環させる。両方の場合とも、不純物の集積を防止するために、該流[8]を工程に再循環させる前に「パージ」を導入することがしばしば必要であろう。さらに、主として不純物を含有する第一の水相[8]を廃棄流としてまたは再循環流としてのいずれかのさらなる処理を受ける前に、それを水の蒸発により濃縮する。
【0035】
本発明に従う別の好ましい態様によると、流[8]の濃縮を省略することができる。この場合には、濃縮段階は段階(c)の上流でまたは段階(d)の上流で行われ、流[4]または流[5]のいずれかが濃縮されて流の合計量を基準として30〜50重量%の乳酸を含有する濃縮された乳酸を含有する流を与える。この濃縮された乳酸を含有する水性流を次に第一の抽出段階にかけて、主として水だけ(少なくとも99.5重量%の水)を含有する流[8]を与え、この流は直接、すなわちさらなる精製なしに、廃棄することができる。
【0036】
好ましくは、主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を、段階(e)の上流で、水を用いる洗浄段階にかけて、主として不純物を含有する第二の水相[30]を生成する。流[13]が依然として乳酸を含有するため、この流を好ましくは本発明に従う工程に、好ましくは段階(c)の上流でまたは段階(d)の上流でそして特に段階(c)の上流で、再循環される。
【0037】
主として抽出剤を含有する有機相[11]を、部分的でも可能であるが好ましくは全部で、第一の抽出段階に再循環させる。それ故、抽出剤は工程中に簡単に再循環させられる。この流[11]を無機塩基の水溶液、好ましくはアルカリ金属水酸化物、例えば水酸化ナトリウム、の水溶液を用いる洗浄段階にかけて、水相[14]を生成することが好ましい。この流[14]を廃棄流として廃棄する。
【0038】
本発明に従う方法の段階(a)は好ましくは大気圧において20°〜100℃の温度において、より好ましくは40°〜90℃の温度において、そして特に50°〜80℃の温度において、行われる。段階(a)で使用される無機酸は好ましくは、発酵で使用される無機塩基のカチオンとの実質的に水−不溶性である塩を生成するアニオンを有する。これは、以上で示された反応式中のMn+nが水中に微溶性であるかまたは実質的に不溶性である塩であることを意味する。
【0039】
発酵で使用される無機塩基は好ましくはアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物またはアルカリ土類金属酸化物であり、アルカリ土類金属は段階(a)で使用される酸のアニオンとの実質的に不溶性の塩を生成しそして好ましくはカルシウムまたはマグネシウムである。特に、無機塩基は炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムである。
【0040】
本発明によると、段階(a)で使用される無機酸は好ましくは硫酸であり、そして発酵で使用される塩基は特にカルシウム塩基である。その場合、硫酸カルシウムは酸性化で生成する。
【0041】
本発明に従う方法の段階(b)は好ましくは大気圧および周囲温度において行われる。場合により、特に段階(a)が高められた圧力で行われなかった場合には、塩を段階(b)後に乾燥する。塩は濾過もしくは傾斜または何らかの他の匹敵する技術により主として乳酸および塩を含有する水性流[3]から除去することができる。
【0042】
乾燥剤結晶を段階(b)で製造することが所望される場合には、段階(a)は好ましくは5〜10バールの圧力、特に6〜8バールの圧力、および100℃の温度、特に100°および120℃の温度、において行われる。塩が硫酸カルシウムである場合には、これは乾燥剤である硫酸カルシウム結晶を種々の他の目的のために、例えば石膏ボードおよび陶器の製造において、直接使用できる利点を有する。
【0043】
本発明に従う方法の段階(c)は好ましくは大気圧において50°〜70℃の温度において、特に55°〜65℃の温度において、行われる。1リットルの乳酸当たり0.1〜5gの活性炭が活性炭を含有するカラム中で好ましく使用される。
【0044】
本発明に従う方法の段階(d)は好ましくは大気圧および0°〜60℃の温度において、特に10°〜50℃の温度において、行われる。しかしながら、抽出剤がアルコールおよび/またはケトンを含有しない場合には、段階(d)は好ましくは大気圧および60°〜100℃の温度において行われる。主として乳酸を含有する第二の水性流[5](または[17])および抽出剤を含有する実質的に水−不溶性である流[6]の容量比は好ましくは20:1〜1:20の間、より好ましくは3:1〜1:7の間、そして特に2:1〜1:5の間である。
【0045】
本発明に従う方法の段階(d)で使用される抽出剤は好ましくは(1)アミンおよび(2)炭化水素を含んでなる。好ましくは、抽出剤は(3)アルコールおよび/またはケトンも含んでなる。上記のように、本発明に従う方法の段階(d)を行うための条件は変動するであろう。抽出剤がアルコールおよび/またはケトンを含有しない場合には、段階(d)は好ましくは大気圧および60°〜100℃の温度において行われる。他の場合には、段階(d)は好ましくは大気圧および0°〜60℃の温度において、特に10°〜50℃の温度において、行われる。アミンは好ましくは炭素数が少なくとも18、そして好ましくは炭素数24〜42、の第三級アミンである。抽出剤がアルコールを含有する好ましい場合には、アルコールはC8−C12アルコールであり、アルコールは場合により線状もしくは分枝鎖状でありそして好ましくは分枝鎖状アルコールである。炭化水素は好ましくは、飽和アルカン類よりなる石油画分であり、そして好ましくは少なくとも40℃、より好ましくは少なくとも70℃、そして特に少なくとも90℃、の引火点を有する。より高い引火点は、段階(e)で使用される装置に課される安全条件が厳しくないという利点を有する。炭化水素の沸騰範囲は好ましくは150〜275℃、特に170〜260℃である。炭化水素は特にイソパルKTMまたはイソパルMTMである。抽出剤は好ましくは40〜75重量%の(1)、5〜60重量%の(2)および0〜25重量%の(3)、そして特に45〜60重量%の(1)、40〜55重量%の(2)および0〜10重量%の(3)、を含有する。
【0046】
主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]と水性相[9]との容量比−段階(e)−は好ましくは20:1〜1:20の間、より好ましくは3:1〜1:7の間、そして特に2:1〜1:5の間、そして特別に1:2〜1:4の間である。
【0047】
本発明に従う方法の段階(e)は好ましくは1〜10バールの圧力において、特に2〜9バールの圧力において、そして100℃〜180℃の温度において、特に120℃〜160℃の温度において、行われる。
【0048】
本発明に従う方法の段階(f)は好ましくは1つもしくはそれ以上の流下フィルム蒸発器および/または薄膜蒸発器および/または潤滑化フィルム蒸発器の中で行われ、段階(f)は好ましくは大気圧から0.1バールまでの、特に0.8〜0.2バールの、圧力においてそして25°〜140℃、より好ましくは40°〜100℃、そして特に60°〜85℃の温度において行われる。この方法では、流[10]は好ましくは0.5〜1バール、特に0.7〜0.9バールの圧力および50°〜100℃、特に70°〜90℃の温度を受ける。
【0049】
本発明によると、濃縮された乳酸の水溶液[12]を真空中で蒸留して乳酸[15]および蒸留残渣[16]を生成することが好ましく、流[12]は少なくとも95重量%のそして好ましくは99〜99.9重量%の乳酸を含有しそして流[15]は少なくとも99.5重量%の乳酸を含有する。本発明の目的のためには、真空とは0.1〜20ミリバール、特に2〜10ミリバール、の範囲内の圧力であると理解すべきである。真空蒸留中の温度は好ましくは100〜200℃、好ましくは110〜140℃、である。
【0050】
本発明の別の好ましい態様によると、濃縮された乳酸の水溶液[12]を好ましくは第一および第二の蒸留段階にかける。第一の蒸留段階は好ましくは80°〜150℃の温度において、特に100°〜140℃の温度において、そして50〜250ミリバールの圧力において、特に60〜150ミリバールの圧力において、行われる。第一の蒸留段階は好ましくは、溶液がフィルム蒸発により蒸気相に転化されるような方法で行われ、そして蒸気が第一の蒸留カラムに送られる。この方法では、還流下で、二画分への分離が起き、頂部画分は水および多くとも1重量%、好ましくは多くとも0.1重量%の乳酸を含有し、そして底部画分は95〜100重量%の乳酸、好ましくは99〜100重量%の乳酸を含有する。フィルム蒸発は好ましくは潤滑化フィルム蒸発、薄膜蒸発および/または流下フィルム蒸発により行われ、1つもしくは複数の蒸留カラムは1〜10の理論的トレー数を有する。第一の蒸留段階から得られた生成物は、生成物の合計重量を基準として、少なくとも95重量%の乳酸を含有する。
【0051】
次に第一の蒸留段階から得られた生成物を、第二の蒸留段階で、真空蒸留にかけ、それは好ましくは0.1〜20ミリバール、特に2〜10ミリバール、の圧力において、そして100°〜200℃の温度において、特に110°〜140℃の温度において、行われる。第二の蒸留段階では、第一の蒸留段階の生成物を蒸気相の中に、好ましくはフィルム蒸発により移し、そして蒸気を次に第二の蒸留カラムに送る。ここでも再び、還流下で二画分への分離が起き、頂部画分は少なくとも99.5重量%の乳酸と乳酸以外の糖を含有する残渣とを含有する。第二の蒸留段階では、フィルム蒸発は好ましくは潤滑化フィルム蒸発、薄膜蒸発および/または流下フィルム蒸発により行われ、1つもしくは複数の蒸留カラムは好ましくは1〜10の理論的トレー数を有する。
【0052】
本発明によると、第一の蒸留段階の生成物をコンディショニング段階(いわゆる「プレフラッシュ」)にかけることが好ましく、そこでは圧力は好ましくは第二の蒸留のものに等しい。しかしながら、圧力はその代わりにそれより100%ほど高くてもよく、すなわち多くとも40ミリバールであってよい。この好ましい態様は、生成物を第二の蒸留段階にかける前にさらに少量の水が除去されるという利点を有する。一般的には、分離された水相は10〜20重量%の乳酸を含有する。
【0053】
流[12]の合計量を基準として、50重量%より多くない乳酸を含有する流[12]を活性炭を含有するカラム上に送りそして次にイオン交換体上に送る場合には、該流[12]をコンディショニング段階にかける前に、該流[12]を場合により1〜10の理論的トレー数を有する1つもしくはそれ以上の蒸留カラムと組み合わされていてもよい、1つもしくはそれ以上の潤滑化フィルム蒸発器、薄膜蒸発器、および/または流下フィルム蒸発器を用いて濃縮する。この濃縮工程中に、流の合計量を基準として、少なくとも98重量%の乳酸を含有する流が得られる。この濃縮は0.5〜0.8バールの圧力および65°〜150℃の温度において行われる。
【0054】
蒸留残渣[16]を工程に、好ましくは段階(c)の上流もしくは段階(d)の上流のいずれかで、または第一の蒸留段階に、特に段階(c)の上流で、再循環させる。蒸留残渣[16]を工程に段階(c)の上流でまたは段階(d)の上流で再循環させる場合には、シンクが必要である。
【0055】
蒸留残渣[16]を工程に再循環させる前に、特に残渣が乳酸のオリゴマー類を含有するため、該残渣を好ましくは解重合段階にかける。
【0056】
解重合は、好ましくは80〜100重量%の水を含有する水性流30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%と、第二の蒸留段階の残渣70〜30重量%、好ましくは60〜40重量%との混合物を1〜10時間にわたり大気圧下で60°〜100℃の温度に加熱することにより好ましく行われる。この水性流は好ましくは第一の蒸留および/または「プレフラッシュ」から生ずる。
【0057】
本発明はまた、本発明による連続的方法に従い得られうる濃縮された乳酸の水溶液[12]にも関する。本発明はさらに、本発明による連続的方法に従い得られうる乳酸、特に(2時間にわたり還流下で加熱した後に)好ましくは25APHA単位より大きくない、特に10APHA単位より大きくない、色を有する乳酸にも関する。連続的方法が濃縮された乳酸の水溶液[12]の第一および第二の蒸留段階も含んでなり、ここで該溶液が活性炭を含有するカラム上にそして次にイオン交換体の上に送られる場合には、本発明はさらに(2時間にわたり還流下で加熱した後に)60APHA単位より大きくない、好ましくは40APHA単位より大きくない、そして特に5APHA単位より大きくない、乳酸にも関する。
【0058】
実施例1.不純な乳酸溶液の製造。
【0059】
6.4のpHで行われる発酵により得られそして13重量%の乳酸カルシウムを含有する7リットルの量の水性原料を、約45分間の期間にわたり、硫酸を用いて約72°〜75℃の温度において2.0のpHまで酸性化した。次に得られた混合物をブフナーフィルター(S&S595フィルター)上で、硫酸カルシウムを分離する目的のために、濾過した。硫酸カルシウムは表1に示された性質を有していた。
【0060】
表1 不純物 量 (ppm) 塩化物 <40 珪素 <200 カリウム 28 ナトリウム 45 砒素 <3 カドミウム 0.5 クロム <3 銅 <3 鉄 <50 マグネシウム <20 ニッケル <2 鉛 <3 亜鉛 <10 燐 62 水銀 0.09 2.活性炭を用いる処理 活性炭を脱イオン水ですすいだ。活性炭を含有する2つの75mlカラムを使用した。カラム中の温度を60℃に保った。4リットルの量の不純な乳酸溶液をカラムに毎時5ベットボリュームの速度で通し、最初の5ベットボリュームの生成物は除外し、残りを抽出試験用に使用した。
3.抽出抽出剤の製造。 2種の抽出剤を試験用に使用した:(a)48:30;22(抽出剤の合計量を基準として、重量%で表示)のアラミン336TM、1−オクタノールおよびイソパルKTMを含有する抽出剤、並びに(b)48:7;45(抽出剤の合計量を基準として、重量%で表示)のアラミン336TM、1−オクタノールおよびイソパルKTMを含有する抽出剤。アラミン336TMを予め水酸化ナトリウムの4重量%水溶液で、1:1の容量比で、そして次に脱イオン水で、水相のpHが9.0より低くなるまで洗浄した。次に、アラミン336TMを他の成分と混合した。
第一の抽出段階。 これらの試験は両方の抽出剤(a)および(b)を用いて5回行った。有機相対水相の比は1:1であり、二相を120秒間にわたり300〜450rpmのスタラー速度で混合した。混合をコール−パーマー(Cole-Palmer)P−06367−10タイプの静止2ブレードスタラーが装備された混合装置の中で行った。600ml容器(直径8cm)に150mlの抽出剤を充填した。次に150mLの精製されていない乳酸溶液を段階2で得られた状態で加え、そして混合物を120秒間にわたり撹拌した。次に混合物を周囲温度で放置すると二相に分離し、それにかかった時間を測定した。
第二の抽出段階。 これらの試験はオートクレーブ中で120℃において行われ、350mlの脱イオン水および500mlの乳酸と抽出剤との混合物が前の段階で得られた状態でオートクレーブ中に加えられた。混合物を50rpmおよび120℃において撹拌し、温度を周囲温度から120℃に高めるためには約1時間の時間が必要であった。温度が120℃になった時に、撹拌速度を50から200rpmに高めた。約10分間後に、撹拌を停止しそして約10分間にわたり放置して相を分離させた。次にサンプルを両方の相から採取しそしてオートクレーブの内容物を放冷して周囲温度にした。
分析: 全てのサンプルを乳酸、他の有機酸類、全窒素、アミノ酸類、乳酸オクチル、カチオン、アニオン、硫酸塩、燐酸塩、フラン類、ポリフラン類、色(加熱前)、色(加熱後)、残存する糖および多糖類のそれらの含有量に関して分析した。データを以下の表に示す。流は下記の通りである:(A)流[1]、(B)流[4]、(C)流[5]、(D)流[10]、(E)流[8]、(F)流[7]および(G)流[11]。(D1)−(G1)を用いる試験はアラミン336TM、1−オクタノールおよびイソパルKTMを48:30:22の重量比で含有する抽出剤を用いて行われ、(D2)−(G2)を用いる試験はアラミン336TM、1−オクタノールおよびイソパルKTMを48:7:45の重量比で含有する抽出剤を用いて行われた。
【0061】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 下記の段階:(a)発酵により得られそして主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を、無機酸を含有する流[2]を用いて1〜4のpHに酸性化して、主として乳酸および塩よりなる水性流[3]を生成し、(b)塩を主として乳酸および塩を含有する水性流[3]から濾過により除去して、主として乳酸を含有する第一の水性流[4]を生成し、(c)主として乳酸を含有する第一の水性流[4]を活性炭を含有するカラムに通して、主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を生成し、(d)主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を第一の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を抽出剤を含有する実質的に水−不溶性である流[6]と接触させて、主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]並びに主として不純物を含有する第一の水相[8]を生成し、(e)主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を第二の抽出段階にかけ、ここで主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を水性流[9]と接触させて、主として乳酸を含有する水相[10]および主として抽出剤を含有する有機相[11]を生成し、ここで主として抽出剤を含有する有機相[11]を段階(d)に再循環させ、そして(f)主として乳酸を含有する水相[10]を水の蒸発により濃縮して、濃縮された乳酸の水溶液[12]を生成することを含んでなる、乳酸の連続的製造方法。
【請求項2】 主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を5.2〜7.0のpHにおける発酵により製造し、pHを無機塩基の添加により5.2〜7.0の範囲内の値に保つ、請求項1に記載の方法。
【請求項3】 段階(a)を主として乳酸塩を含有する水性原料[1]を濾過または傾斜させることにより進める、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】 水性流[8]が、混合物全体を基準として、少なくとも90重量%の水を含有する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項5】 水性流が少なくとも95重量%の水を含有する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】 主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]を、段階(e)の上流で、水を用いる洗浄段階にかけて、主として不純物を含有する第二の水相[13]を生成する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項7】 主として不純物を含有する第二の水相[13]を段階(c)の上流の工程に再循環させる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】 主として抽出剤を含有する有機相[11]を第一の抽出段階に再循環させるか、または部分的に再循環させる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項9】 主として不純物を含有する第一の水相[8]を水の蒸発により濃縮する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項10】 主として不純物を含有する第一の水相[8]を段階(c)の上流の工程に部分的に再循環させる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項11】 主として乳酸を含有する第二の流[5]を蒸発段階にかける、請求項1−8のいずれかに記載の方法。
【請求項12】 蒸発を大気圧から0.1バールの圧力までの圧力においてそして25°から140℃までの温度において行う、請求項11に記載の方法。
【請求項13】 流[5]を濃縮して、30〜50重量%の乳酸を含有する濃縮された流[17]を製造する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】 主として乳酸を含有する第一の流[4]を蒸発段階にかける、請求項1−8のいずれかに記載の方法。
【請求項15】 蒸発を大気圧から0.1バールの圧力までの圧力においてそして25°から140℃までの温度において行う、請求項14に記載の方法。
【請求項16】 流[4]を濃縮して、30〜50重量%の乳酸を含有する濃縮された流[17]を製造する、請求項14または15に記載の方法。
【請求項17】 濃縮された流[17]を第一の抽出段階にかける、請求項13に記載の方法。
【請求項18】 濃縮された流を活性炭を含有するカラム上に送って、主として乳酸を含有する第二の水性流[5]を生成する、請求項16に記載の方法。
【請求項19】 主として乳酸塩を含有する水性原料[1]が5.2〜7.0の範囲内のpHを有しそして、混合物の合計量を基準として、1リットル当たり0.1〜250gの乳酸塩イオンを含有する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項20】 段階(a)を大気圧および20℃〜100℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項21】 温度が40°〜90℃の間である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】 温度が50°〜80℃の間である、請求項20または21に記載の方法。
【請求項23】 段階(a)を5〜10バールの圧力および100℃もしくはそれ以上の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項24】 温度が100°〜120℃の間である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】 段階(b)を大気圧および周囲温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項26】 塩を段階(b)後に乾燥する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項27】 段階(c)を大気圧および50°〜70℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項28】 温度が55°〜65℃の間である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】 段階(d)を大気圧および0°〜60℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項30】 温度が10°〜50℃の間である、請求項29に記載の方法。
【請求項31】 段階(d)を大気圧および60°〜100℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項32】 主として乳酸を含有する第二の水性流[5]または流[17]および抽出剤を含有する実質的に水−不溶性である流[6]の容量比が20:1〜1:20の間である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項33】 段階(e)を1〜10バールの圧力および100℃〜180℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項34】 圧力が2〜9バールの間である、請求項33に記載の方法。
【請求項35】 温度が120°〜160℃の間である、請求項33または34に記載の方法。
【請求項36】 主として乳酸および抽出剤を含有する有機相[7]および水性流[9]の容量比が20:1〜1:20の間である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項37】 段階(f)を1つもしくはそれ以上の流下フィルム蒸発器および/または薄膜蒸発器および/または潤滑化フィルム蒸発器の中で行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項38】 段階(f)を大気圧から0.1バールの圧力においてそして25°から140℃の温度において行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項39】 無機塩基がアルカリ土類金属炭酸塩、アルカリ土類金属炭酸水素塩、アルカリ土類金属水酸化物またはアルカリ土類金属酸化物である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項40】 アルカリ土類金属がカルシウムまたはマグネシウムである、請求項39に記載の方法。
【請求項41】 無機塩基が炭酸カルシウムまたは水酸化カルシウムである、請求項39または40に記載の方法。
【請求項42】 段階(a)で使用される無機酸が硫酸である、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項43】 抽出剤が(1)アミンおよび(2)炭化水素を含んでなる、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項44】 抽出剤が(3)アルコールおよび/またはケトンを含んでなる、請求項43に記載の方法。
【請求項45】 アミンが炭素数が少なくとも18の第三級アミンである、請求項43に記載の方法。
【請求項46】 アミンの炭素数が24〜42である、請求項45に記載の方法。
【請求項47】 抽出剤がアルコールを含有する、請求項44に記載の方法。
【請求項48】 アルコールがC8−C12アルコールである、請求項47に記載の方法。
【請求項49】 アルコールが分枝鎖状アルコールである、請求項47または48に記載の方法。
【請求項50】 炭化水素が飽和アルカン類よりなる石油画分である、請求項43に記載の方法。
【請求項51】 炭化水素が少なくとも40℃の引火点を有する、請求項50に記載の方法。
【請求項52】 炭化水素がイソパル(Isopar)KTMまたはイソパルMTMである、請求項50または51に記載の方法。
【請求項53】 抽出剤が40〜75重量%の(1)、5〜60重量%の(2)および0〜25重量%の(3)を含有する、請求項43〜52のいずれかに記載の方法。
【請求項54】 主として抽出剤を含有する有機相[11]を無機塩基の水溶液を用いる洗浄段階にかける、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項55】 主として乳酸を含有する水相[10]が0.1〜30重量%の乳酸を含有する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項56】 濃縮された乳酸の水溶液[12]を真空中で蒸留して、乳酸[15]および蒸留残渣[16]を生成する、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項57】 真空蒸留を0.1〜20ミリバールの圧力および100〜200℃の温度において行う、請求項56に記載の方法。
【請求項58】 蒸留残渣[16]を段階(c)の上流の工程に再循環させる、請求項56または57に記載の方法。
【請求項59】 濃縮された乳酸溶液[12]を活性炭を含有するカラム上に送ることにより真空蒸留段階を行う、前記請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項60】 濃縮された乳酸溶液[12]をイオン交換体上に送ることにより真空蒸留段階を行う、請求項59に記載の方法。
【請求項61】 濃縮された乳酸溶液[12]を活性炭を含有するカラム上にそして次にイオン交換体上に送ることにより真空蒸留段階を行う、請求項59または60に記載の方法。
【請求項62】 流[12]が50重量%より多くない乳酸を含有しそしてイオン交換体を用いる処理後に濃縮して、少なくとも98重量%の乳酸を含有する流を製造する、請求項61に記載の方法。
【請求項63】 流[12]を、濃縮段階後に且つ真空蒸留前に、コンディショニング段階にかける、請求項62に記載の方法。
【請求項64】 濃縮を0.5〜0.2バールの圧力においてそして65°〜150℃の温度において行う、請求項62に記載の方法。
【請求項65】 請求項1〜64のいずれかに記載の連続的方法に従い得られうる濃縮された乳酸の水溶液[12]。
【請求項66】 請求項1〜64のいずれかに記載の連続的方法に従い得られうる乳酸。
【請求項67】 乳酸が、92重量%の純粋な乳酸を含有する乳酸を基準として、(還流下で2時間にわたり加熱した後に)50APHA単位より大きくない色を有する、請求項66に記載の乳酸。
【請求項68】 乳酸が25APHAより大きくない色を有する、請求項66または67に記載の乳酸。
【請求項69】 乳酸が10APHAより大きくない色を有する、請求項66−68のいずれかに記載の乳酸。
【請求項70】 石膏ボードおよび陶器中での段階(b)に従い得られる硫酸カルシウムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2003−518476(P2003−518476A)
【公表日】平成15年6月10日(2003.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2001−530086(P2001−530086)
【出願日】平成12年10月12日(2000.10.12)
【国際出願番号】PCT/NL00/00731
【国際公開番号】WO01/027064
【国際公開日】平成13年4月19日(2001.4.19)
【出願人】
【氏名又は名称】プラク・ビオヘム・ベー・ブイ
【Fターム(参考)】