説明

乾燥ガラス系フリットを製造する方法

乾燥ガラス系フリット、および乾燥ガラス系フリットを製造する方法が開示されている。ある実施の形態において、乾燥ガラス系フリットは、バナジウム、リンおよび金属ハロゲン化物を含む。ハロゲンは、例えば、フッ素または塩素であってよい。別の実施の形態において、乾燥ガラス系フリットを製造する方法は、そのフリットのバッチ材料をか焼し、次いで、バッチ材料を窒素雰囲気などの不活性雰囲気中で溶融する各工程を有してなる。さらに別の実施の形態において、乾燥ガラス系フリットを製造する方法は、フリットのバッチ材料をか焼し、次いで、バッチ材料を窒素雰囲気などの空気雰囲気中で溶融する各工程を有してなる。

【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本出願は、その内容に依拠し、その全てがここに引用される、2008年10月20日に出願された米国仮特許出願第61/106730号および2009年7月16日に出願された米国特許出願第12/504276号の優先権の恩恵を主張する。
【技術分野】
【0002】
本発明は、無機ガラス系の乾燥フリットを製造する方法に関する。より詳しくは、本発明は、ガラスパッケージ用のシーリング媒体として使用するのに適した乾燥無機ガラス系フリットを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
有機発光ダイオード素子などのエレクトロルミネセント(EL)素子は、典型的に、大型のマスター(母材)ガラス板を使用して一度のアセンブリで多数の素子を形成することによって製造される。すなわち、複合アセンブリを形成するために素子が2枚のガラス板またはプレートの間に被包され、その後、個々の素子が複合アセンブリから切断される。ある素子、特に有機発光ダイオードは、周囲雰囲気中に見られる酸素と水分の存在下で劣化するので、複合アセンブリの各素子は、上面と下面のプレートを一緒に封止し、内部に配置された有機発光ダイオードを保護する、個々の素子の有機発光ダイオードを取り囲むシールを備えている。EL素子は、接着剤、例えば、エポキシを使用して、もしくは近年では、フリットを溶融するために加熱され、2枚のプレートの間にシールを形成するガラスフリットを使用して、封止されるであろう。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フリット封止された素子は、接着剤封止された素子よりも優れたある利点を示す。特に、その利点には、素子内に封止されたゲッターが汚染物を除去する必要のない優れた密封性がある。それゆえ、フリット封止された素子は、接着剤シールにより達成できるよりも長寿命の素子を提供できる。それにもかかわらず、フリット封止された素子が、封止プロセス中に有機発光材料を収容する空洞中にフリットから放出される水分とフリット内に含まれる水分のために劣化する虞がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
電子素子、特に、有機発光ダイオード・ディスプレイ、有機発光ダイオード照明パネル、およびある部類の有機系光起電装置などの、有機材料を含む電子素子を封止するのに適した乾燥ガラス系フリットを形成する方法が開示される。
【0006】
ある実施の形態において、乾燥ガラス系フリットを製造する方法であって、バナジウムおよびリンを含むバッチ材料を形成し;状態調節工程において、そのバッチ材料を少なくとも1時間に亘り約450℃と約550℃の間の温度まで加熱し;この状態調節工程後にバッチ材料を溶融して、ガラス溶融物を形成し;そのガラス溶融物を冷却して、ガラスを形成する各工程を有してなり、このガラスのOH含有量が、直接導入プローブ質量分析法により測定して、約20ppm以下である方法が開示される。
【0007】
別の実施の形態において、ガラス系フリットを形成するためのガラス粉末であって、バナジウム、リンおよび金属ハロゲン化物を含むガラス粉末が開示される。
【0008】
さらに別の実施の形態において、ガラス系フリットを製造するためのガラス粉末であって、V25、P25および金属ハロゲン化物を含むガラス粉末が開示される。
【0009】
さらにまた別の実施の形態において、ガラスフリットを製造する方法であって、V25、P25および金属ハロゲン化物を含むバッチ材料を形成し;状態調節工程において、そのバッチ材料を少なくとも1時間に亘り約450℃と約550℃の間の温度まで加熱し;この状態調節工程後にバッチ材料を溶融して、ガラス溶融物を形成し;そのガラス溶融物を冷却して、ガラスを形成する各工程を有してなり、このガラスのOH含有量が約20ppm以下である方法が開示される。
【0010】
本発明は、より容易に理解され、本発明の他の目的、特徴、詳細および利点は、添付の図面を参照して、まったく制限を意味せずに、与えられた以下の説明の記載の過程で、より明らかになるであろう。そのような追加のシステム、方法、特徴および利点の全ては、この記載に含まれ、本発明の範囲内であり、添付の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】有機材料を含む例示のガラスパッケージの断面図
【図2】β−OHに関する典型的に測定を示す波数の関数としての透過率パーセントのグラフ
【図3】ガス放出水蒸気を測定するためのDIP−MS装置の概略図
【図4】本発明の実施の形態による標準的な加熱スケジュールを示すグラフ
【図5】本発明の実施の形態による短縮加熱スケジュールを示すグラフ
【図6】水に関する抽出イオンクロマトグラムを示す、フリット組成物C1の粗い手粉砕サンプルに行ったDIP−MS測定の結果を示すプロット
【図7】図6に示された事象(瞬時過渡現象)が400〜700℃の温度勾配中の構造水種のガス放出に関連していることを示す、サンプルがないが、図6において行ったような対照DIP−MS測定の結果を示すプロット
【図8】ピークを示さないサンプルC2に関する結果と比較して、400〜700℃の温度勾配中の構造水種のガス放出を示す、対照(非乾燥)フリット組成物C1の粗い手粉砕サンプルに行ったDIP−MS測定の結果を示すプロット
【図9】485℃のか焼(左側)および600℃のか焼(右側)後の対照バッチ組成物の溶融石英坩堝を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下の詳細な説明において、限定ではなく説明の目的で、本発明を完全に理解するために、特定の詳細を開示した例示の実施の形態が挙げられている。しかしながら、本開示の恩恵を受けた当業者には、本発明は、ここに開示された特定の詳細から逸脱した他の実施の形態においても実施してよいことが明白である。さらに、公知の素子、方法および材料の説明は、本発明の説明を分かりにくくしないように省かれているであろう。最後に、できる限り、同様の参照番号が同様の要素を参照する。
【0013】
密封封止されたガラスパッケージが、光学ディスプレイ(例えば、フラットパネルテレビ、携帯電話のディスプレイ、カメラのディスプレイ)および光起電装置(例えば、太陽電池)などのフォトニック装置を含む、様々な用途に使用されているであろう。液晶ディスプレイ(LCD)などのある構成部材に、エポキシシールが広範囲に使用されてきたが、より最近の研究は、同様の目的に使用されるであろうカプセル封入された有機材料について行われている。例えば、有機発光ダイオードは、ディスプレイ装置および照明の両方に用途が見出されている。ある有機材料は、光起電の分野にも用途が見出されており、有機太陽電池が有望である。
【0014】
有機材料をいくつかの利点を提供するが、素子を構成する有機材料は、高温、酸素および水分への曝露を受けやすい。すなわち、約100℃を超える温度、もしくは酸素または水に曝露されると、有機材料は急激に劣化し得る。この理由のために、有機材料を利用した素子が密封封止されることを確実にするために、多大な注意を払わなければならない。そのような方法の1つは、ガラス板の間に有機材料を封止する工程を含む。無機ガラスは、有機材料を収容するための容器として独特に適している。無機ガラスは、実質的に環境的に安定であり、水分および酸素の拡散に対して極めて不浸透性である。しかしながら、それにより得られたパッケージは、板の間にシールを形成する材料と同じ程度しか良好ではない。
【0015】
従来技術の素子は、しばしば、ガラス板の間の封止媒体としてエポキシ接着剤を使用してきた。LCDディスプレの製造がそのような一例である。しかしながら、上述したディスプレイ、照明パネルおよび光起電装置などの電子素子に使用するのに適したある有機材料に要求される長期の密封性の程度は、板の間のガラスシールによりうまく満たされる。それゆえ、無機ガラス系フリットの使用が、有機電子素子の最適な封止媒体となった。
【0016】
制限ではなく例として、有機発光ダイオード・ディスプレイ10(図1)の例示のフリット封止法は、第1のガラス(バックプレーン)基板14上にフォトニック素子12を形成する工程を含むであろう。フォトニック素子12は、典型的に、アノード電極とカソード電極(図示せず)および2つの電極間に位置するフォトニック材料(例えば、有機発光材料)の1つ以上の層を備えている。フリット16は、バックプレーン基板と第2のガラス(カバー)基板18との間に位置している。このフリットは、例えば、カバー基板に最初に分配されてもよい。いくつかの実施の形態において、フリットは、カバー基板18上にペーストとして最初に分配され、次いで、加熱されて、フリットが焼結され、カバー基板に接着される。焼結は炉内で行ってもよい。次いで、カバー基板18は、バックプレーン基板と少なくとも部分的に重なるように位置合わせされて配置され、フリットは、フリットを軟化させ、カバー基板とバックプレーン基板との間に密封シールを形成するようにレーザビーム22を発するレーザ20などの照射源20により加熱され、それによって、OLEDを収容する密封ガラスパッケージが製造される。
【0017】
一般に、ガラス中に存在する水は、2つの広い種類の分類できる:水原子(一般に、ヒドロキシルまたはOHイオンとして存在する)が、溶融プロセス中にガラス形成多面体分子構造に結合し、ガラス網状構造の基本部分となる構造水;および例えば、フリットを製造するためのガラスのボールミル粉砕中に存在する水分子が、ミル粉砕中にそれら自体で、壊れた結合により形成されるフリット粒子の表面上の満たされていない原子価部位に結合する、表面水。典型的に、表面水は、フリットのガラスの加熱などによる、単純な乾燥プロセスにより除去できるのに対し、構造水は、はるかに頑強に結合しており、どのような乾燥工程中にもガラス中に存続し得る。
【0018】
ガラス中の水の存在は、必ずしも、ガラスの性質を劣化させないが(増加した中間赤外吸光度を除く)、フリット封止プロセスにおけるその後の加熱中の放出(ガス放出)は、ガラスの工業用途にとって影響があるであろう。水のガス放出による影響を受ける特定の用途の1つとして、数ppmレベルの水でさえ極めて感受性であるOLED素子を封止するためのガラスフリットの使用が挙げられる。ここに用いられる水は、気相の形態(ガス放出中、またはヒドロキシルイオン、OHとしてなどの)をとってもよい。
【0019】
典型的にフリット製造プロセスにおいて、ガラスは、従来のガラス形成法、例えば、ゾルゲル法により、または粒状バッチ材料(砂)を加熱することにより、形成される。次いで、これにより得られたガラスは、溶融し、薄いリボン状にし、次いで、所望の粒径にボールミル粉砕することができる。例えば、3μmの平均粒径がOLED素子の製造に使用するのに適している。ボールミル粉砕後、粉末のフリットガラスを充填剤とブレンドして、所定の熱膨張係数のフリットブレンドを得てもよい。例えば、適切な熱膨張係数の充填剤はベータユークリプタイトである。ブレンドが一旦製造され、炉内でのブレンドの加熱などにより、予備乾燥されたら、フリットガラス(または場合によってはブレンドされたフリット)を、必要に応じて、有機ビヒクル(例えば、テキサノール)、有機結合剤(例えば、エチルセルロース)、および様々な分散剤および界面活性剤と混合することによって、ペーストを調製する。次いで、このフリットペーストをガラス基板上に特定のパターン(例えば、ループまたはフレーム状パターン)に分配し、空気中で加熱して有機物質を焼き切り、その後、N2中で400℃に加熱して、フリットを予備焼結する。予備焼結工程は、その用語が含意するように、フリットを固結し、(カバー)基板にフリットを付着させる。1つ以上のOLED素子の対応する基板(バックプレーン基板)に予備焼結された基板をレーザ封止する工程は、典型的に、固結されたフリットを縦断し、フリットを加熱し、軟化させ、その際に、フリットが冷却されて固化したときに、カバー基板とバックプレーン基板との間にシールが形成される、レーザを使用して行われる。レーザ封止中、フリットシールは少なくとも十分の数秒間に亘り400℃を超えて加熱され、フリット中の構造水(すなわち、OH)が放出され、おそらくOLEDが劣化される。
【0020】
フリットの700℃へのその後の加熱中におけるガラス中の水のガス放出をなくす試みは、ガラスのOH含有量を減少させることに焦点を当ててきた。以下の2つのアプローチが利用された:(1)ガラスの組成の変更、および(2)溶融プロセスの物理的な変更。水の量に測定は、2つの方法にしたがって行った:β−OHの測定(実質的にOH-イオンの中間赤外吸光度ピークを測定)、およびDIP−MS(直接導入プローブ質量分析法)。本発明によれば、乾燥ガラス(およびそれにより得られた乾燥フリット)は、約0.3mm-1以下のβ−OH値、あるいは直接導入プローブ質量分析法により測定した場合、約20ppm以下のOH含有量を有すると定義される。ガラスが、約0.3mm-1以下のβ−OH値、および直接導入プローブ質量分析法により測定した場合、約20ppm以下のOH含有量を有することが好ましい。ガラスが、粗い手粉砕粉末、または微細な(3μm)ボールミル粉砕した粉末のいずれかとして、700℃に再加熱されたときに、DIP−MSにより水の検出可能なガス放出を示さないことが好ましい。
【0021】
β−OH測定は、研削され、次いで、0.1〜0.4mmの厚さに研磨されたガラスのアニール済み片に行った。β−OH測定は、ガラス中のヒドロキシルイオンの総濃度についてのデータだけでなく、特定の温度領域に亘り脱着されるヒドロキシルについてのデータを提供する。図2と以下の式1に示されるように、β−OHは、OH-吸収ピークでの透過率に対する基線透過率の比であり、組成が互いに同一または非常に類似しているガラスについてヒドロキシルイオン濃度に正比例する。
β−OH=log(ref%T/OH%T)/(thk)
ここで、ref%Tは、近くの非−OH吸収領域での透過率レベルであり、OH%Tは、OHピークのふもとでの(約3380cm-1)透過率レベルであり、thkはサンプルの厚さ(mm)である。
【0022】
β−OHは、組成が互いに同一または非常に類似しているガラスについてヒドロキシルイオン濃度に正比例する。β−OH測定は、ガラス中の全てのヒドロキシルイオンに関する相対的なヒドロキシル(OH)吸収係数だけでなく、特定の温度領域に亘り脱着されるヒドロキシルにつていのデータも提供する。測定には、フーリエ変換赤外分光などのどのような従来の赤外分光技法を使用しても差し支えない。
【0023】
DIP−MS測定を、粗い手粉砕(−200M/+100M、または約75〜150μm)粉末、または微細なボールミル粉砕(3μmの平均粒径以下)粉末のいずれかに、行った。多くの標準的な質量分析研究に使用される真空炉質量分析技法とは異なる、図3に図示されたDIP−MS装置では、質量分析計34のイオン化領域(電子衝撃イオナイザ32)内に直接配置された、試験すべきサンプル30を収容する加熱プローブ28を使用する。上述した構成要素に加え、図3の例示のDIP−MS装置は、四重極イオン分析器36および検出器38をさらに備えている。波線40は、サンプル30から検出器38へのイオン経路を示す。真空炉質量分析測定とは異なり、石英移送管および関連する化学種の堆積の問題、または高温での管の透過性の必要がない。それゆえ、DIP−MS測定は、化学種のより信頼性のある定量分析に適している。
【0024】
DIP−MS測定には、2つの異なる加熱スケジュールを使用した:a)サンプルを400℃に加熱し、5時間に亘り保持して、表面水を除去し、次いで、10℃/分の速度で700℃に加熱した標準サイクル(図4)、およびb)400℃まで標準スケジュールと同じ温度勾配を使用するが、400℃での短い保持時間(2時間)を含み、700℃までのより速い加熱勾配(50℃/分)を利用した短縮スケジュール(図5)。全てのサンプルは、DIP−MSの運転全体に亘り真空中で加熱した。
【0025】
図6には、OLED素子のレーザ封止に適したフリットガラス組成物の粗い手粉砕サンプルについて行った(分の時間の関数としてナノアンペアをプロットした)DIP−MS測定の結果が示されており、水の抽出イオンクロマトグラムを示している。運転は、標準スケジュールについて行った。サンプルが400℃に加熱されたときに、運転の最初の数分間で、表面水からガス放出された少量の水が記録された。400℃で保持された4時間(20分から260分まで)の最中に、追加の水のガス放出は記録されず、最初の水の放出は表面水に関連したことが確認された。サンプルの加熱を一旦再開すると、約550℃で始まる、水の放出に関連したいくつかの別個の事象が観察された。
【0026】
サンプルを含まずに対照測定を行ったときに(図7)、これらの別個の事象が観察されず、それらの事象は、400〜700℃の温度領域中の構造水種のガス放出に関連することを示していることに留意されたい。対照測定中の装置の一般的なバックグラウンド信号の特徴として、広い漠然とした浅いピークしか観察されない。
【0027】
表Iに示したように、ハロゲン化物含有組成物の著しく低下したβ−OHレベルと、DIP−MS測定により検出された400〜700℃の加熱勾配中の検出可能な水ガス放出の完全にないことの両方に示されるように、ハロゲン化合物の使用が、構造水レベルを減少させるのに特に効果的であることが分かった。表Iは、ハロゲン化物を含まない対照組成物(C1)と比べた4つの組成物(C2〜C4)に関する結果の要約を提供する。ハロゲン化物を含有しないC1サンプルと、全てのAl23がAlF3により置き換えられた実質的に同一のC2サンプルに関するDIP−MS走査の高温部分の比較が図8に示されている。両方の材料は、粗い手粉砕されたガラス粉末であった。曲線42により表されたフッ素含有ガラス(C2)の走査は、別個の事象のない特色のないパターンを示している。対照的に、曲線44により表されたC1サンプルに関する走査は、約550〜650℃の範囲で生じるいくつかの別個の水放出事象を示している。C5サンプルに関するβ−OH値は、予測されるよりも高く、他のハロゲン化物の結果と一線ではなく、粗末なサンプル調製の結果であると考えられる(β−OH測定は、サンプルの表面の清浄度に敏感であるので)。サンプルC3およびC4に関するDIP−MS測定は行わなかった。
【表1】

【0028】
フリットにハロゲン化物を含ませることに加え、ハロゲン化物の含有とは独立して、低いβ−OH値を有するガラスを製造するために溶融プロセスを改良し、その後のDIP−MS分析中に構造水のガス放出を示さなかった追加の試行を行った。
【0029】
表IIには、様々なプロセス変化実験および測定した構造水レベル(β−OH)および/または放出された構造水の量(DIP−MS)の列記が示されている。明らかに、これらの様々な実験は、溶融中の熱サイクル(実験1)、N2溶融によるバッチ材料の空気か焼(実験2)、バッチ材料の空気か焼(485℃または600℃のいずれか)と組み合わされたバッチ材料のその後の空気溶融(実験3および4);基礎ガラスのV25成分以外の全てを溶融し、次いで、V25の溶融(実験5);および誘導炉内の標準的なカレットの再溶融および再溶融中の溶融物のO2またはN2/O2バブリング(実施例6および7)の効果の測定を含んだ。これらのアプローチのほとんどで、溶融中の高から低から高の熱サイクル(実験1);および600℃のか焼と標準的な1000℃溶融(実験5)を除き、標準プロセスと比べて、実質的に低いβ−OH値および/またはDIP−MS測定により検出された構造水のガス放出のないことが生じた。
【表2】

【0030】
これらの結果の興味深い特徴は、か焼温度の影響である。か焼により、フリットブレンドの原料の一成分として存在する水を、溶融物の構造に収容する前にバッチから逃がせるであろうから、構造水を減少させるための潜在的な手段としてか焼を選択した。興味深いことに、485℃の空気か焼/1000℃の空気溶融(実験3)は、構造水の量を低下させるのに実質的な効果があった(β−OH=0.205)が、600℃の空気か焼/1000℃の空気溶融(実験5)は比較的効果がなかった(β−OH=0.433)。考えられる説明は、図9により与えられる。この図は、それぞれ、485℃のか焼および600℃のか焼に続く、対照バッチ組成物の溶融石英坩堝46および48を示している。485℃でか焼したバッチは、実質的にばらばらで多孔質の固結されていない粉末であるのに対し、バッチの主成分の1つ(五酸化リン)の融点は563℃であるので、600℃でか焼したバッチでは、実質的な溶融が生じた。考えられる説明の1つは、600℃で生じた液相が、放出された水の多くの逃げ道を封鎖し、より低い温度の485℃でのか焼によるよりも、溶融物構造中により多くの水を含むことになったことである。485℃の空気か焼/1000℃のN2溶融の組合せ(実験2)で、全ての手法の中で最低のβ−OHが生じた。これは、485℃の空気か焼の効果が、ガラス溶融物を通って掃引し、水種を運び去るN2の能力と組み合わさったために生じたと考えられる。従来のように溶融したカレットがN2雰囲気内で溶融され、その溶融物にO2またはN2/O2いずれかの泡立てが行われた、実験6および7についても、N2の有益な効果が観察された。
【0031】
表IIの物理的実験の完了後、これのら手法を、水を含まない結果の再現性を決定するために繰り返しの試験に選択した。これらを以下に挙げる:Al23のハロゲン化物置換(例えば、AlF3);2時間に亘る空気中での485℃のか焼と、その後の空気中での1000℃の溶融;および2時間に亘る空気中での485℃のか焼と、その後のN2雰囲気中での1000℃の溶融。これらの技法の比較が、β−OH値および水ガス放出の結果について表IIIに示されている。最初の実験で乾燥ガラスを製造したこれらの3つの手法で、繰り返しの研究において乾燥ガラスが製造された。
【表3】

【0032】
上記手法のいくつかについて先に見られた構造水のガス放出のないことが、微細な(約3μmの粒径以下)ボールミル粉砕粉末、並びに表IVに与えられたDIP−MSの結果により示されるような400℃の予備焼結後の微細な粉砕粉末から製造されたフリットブレンドペーストについても見られた。
【表4】

【0033】
乾燥ガラスおよびフリットを製造するための上述したいくつかの技法は、OLEDフリット封止に現在使用されているまさにSb23リン酸バナジウムガラスよりも、一般的なバナジウムおよびリン酸塩含有ガラスに関連性があるようである。以下の表Vには、本発明の実施の形態によるSbを含まない、Fe23−V25−P25ガラスに関するβ−OH値が示されている。
【表5】

【0034】
本発明の上述した実施の形態、特に任意の「好ましい」実施の形態は、本発明の原理を明白に理解するために単に述べられた、実施例の単なる考えられる例であることを強調すべきである。多くの改変および変更を、本発明の精神および原理から実質的に逸脱せずに、本発明の上述した実施の形態に行ってもよい。そのような改変および変更の全ては、この開示および本発明の範囲に含まれ、以下の特許請求の範囲により保護されることが意図されている。
【符号の説明】
【0035】
10 有機発光ダイオードディスプレイ
12 フォトニック素子
14 バックプレーン基板
16 フリット
18 カバー基板
30 サンプル
32 電子衝撃イオナイザ
36 四重極イオン分析器
38 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスフリットを製造する方法であって、
バナジウムおよびリンを含むバッチ材料を形成し、
状態調節工程において、前記バッチ材料を、少なくとも約1時間に亘り約450℃と約550℃の間の温度まで加熱し、
前記状態調節工程後、前記バッチ材料を溶融して、ガラス溶融物を形成し、
前記ガラス溶融物を冷却して、アンチモンを含まないガラスを形成し、
前記ガラスを粉砕して、ガラス粒子を形成する、
各工程を有してなり、
前記ガラス中のOH含有量が約20ppm以下であることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記ガラスが約0.3以下のβ−OHを含むことを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガラス微粒子を、熱膨張係数を低下させる充填材料とブレンドする工程をさらに含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記バッチ材料が、少なくとも約2時間の期間に亘り前記状態調節工程中に加熱されることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記溶融工程が、窒素雰囲気中で行われることを特徴とする請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記溶融工程が、前記バッチ材料を少なくとも約1000℃の温度に加熱して、該バッチ材料を溶融する工程を含むことを特徴とする請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
25、P25および金属ハロゲン化物を含むガラス系フリットを製造するためのガラス粉末であって、前記金属ハロゲン化物の金属が、鉄、バナジウムおよびアルミニウムからなる群より選択され、前記ガラス粉末がアンチモンを含まないことを特徴とするガラス粉末。
【請求項8】
前記金属ハロゲン化物がAlF3を含むことを特徴とする請求項7記載のガラス粉末。
【請求項9】
前記ガラス粉末がAlCl3を含むことを特徴とする請求項7記載のガラス粉末。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−505826(P2012−505826A)
【公表日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−533242(P2011−533242)
【出願日】平成21年10月16日(2009.10.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/060956
【国際公開番号】WO2010/048042
【国際公開日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】