説明

乾燥装置

【課題】乾燥ムラの発生を抑制することができる乾燥装置を提供する。
【解決手段】走行する帯状可撓性基材に塗工ヘッドによって連続的に塗布された塗布膜を前記基材を重力方向と反対方向に走行させながら乾燥する乾燥装置であって、基材の塗布膜面側に近接して設けられ、塗布膜面の幅方向と同等以上の幅方向の大きさを有し、且つ、複数のスリットを設けたスリット板と、前記スリット板に対して前記基材の反対側に設けられ、塗布膜面から蒸発した溶剤成分を凝縮回収する手段と、前記基材に対し前記スリット板の反対側に設けられ、基材を加熱する手段と、を備え、前記スリット板の複数のスリットは、基材の走行方向に対して傾斜して設けられ、且つ、スリットの前記基材に近い側の開口が重力方向の上側で、スリットの前記基材に遠い側の開口が重力方向の下側であることを特徴とする乾燥装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行する可撓性フィルムに各種液状組成物を塗布して形成した塗布膜面を乾燥する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
連続して走行する長尺状の可撓性フィルムに各種液状組成物を塗布して形成した塗布膜面を乾燥する乾燥装置としては、非塗布面側をローラで支持し、塗布面側にエア・ノズルから風を吹いて乾燥させる乾燥装置や、塗布面、非塗布面ともにエア・ノズルから風を吹いて、基材を浮上させた状態、すなわち基材がローラ等に接触しないで乾燥させる非接触式のエア・フローティング乾燥装置等が良く知られている。
【0003】
通常これらの風を吹かせて乾燥させる装置では、調湿した風を塗布面に吹きつけることにより、塗布面中に含まれる溶媒を蒸発させて乾燥させている。こういった風を吹きつける方式の乾燥装置は乾燥効率に優れるものの、塗布面に直接又は多孔板、整流板等を介して風をあてるために、この風によって塗布面が乱れて塗布層の厚さが不均一となってムラを生じたり、対流によって塗布面での溶媒の蒸発速度が不均一になったりし、いわゆるユズ肌が発生して、均一な塗布層が得られないという問題があった。
【0004】
特に、塗布液中に有機溶剤を含む場合には、このようなムラの発生は顕著である。この理由は、乾燥初期には塗布膜中に有機溶剤が十分に含まれた状態であり、この段階で有機溶剤の蒸発分布が生じると、その結果、塗布膜面に温度分布、表面張力分布が生じ、塗布膜面内で、いわゆるマランゴニー対流等の流動が起きることによる。このようなムラの発生は重大な塗布欠陥となる。
【0005】
また、そのようなムラを起こさないために行う方法として、塗布膜面全体に覆いを被せる事によって外乱風を遮る方法が用いられるが、塗布膜面上の気流の乱れの原因として蒸発溶剤ガスと乾燥用の空気が混ざるときに発生する気流の乱れもある為に、塗布ムラが消えないことがしばしばあった。
【0006】
したがって、蒸発する溶剤成分を取り除きながら、気流の乱れを起こさないために、たとえば特許文献1のような方法が開示されている。特許文献1では、乾燥装置内で基材上に形成された塗布膜に対して平行、かつ、塗布膜の搬送方向に向って熱風を送り、その層流である熱風の速度を基材の搬送速度に対して0.1m/秒〜5m/秒の相対速度になるよう制御している。しかし、この構造では、搬送する基材面上の空気の流れを層流に保つには高い精度で吹き込み風量と角度を設定しなければならず、実用的な搬送速度では困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−340479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑みて、精密な膜厚制御を必要とする成膜工程において、乾燥ムラの発生を抑制することができる塗布膜の乾燥装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するために、まず発明の請求項1に係る発明は、
走行する帯状可撓性基材に塗工ヘッドによって連続的に塗布された塗布膜を前記基材を重力方向と反対方向に走行させながら乾燥する乾燥装置であって、
基材の塗布膜面側に近接して設けられ、塗布膜面の幅方向と同等以上の幅方向の大きさを有し、且つ、複数のスリットを設けたスリット板と、
前記スリット板に対して前記基材の反対側に設けられ、塗布膜面から蒸発した溶剤成分を凝縮回収する手段と、
前記基材に対し前記スリット板の反対側に設けられ、基材を加熱する手段と、を備え、
前記スリット板の複数のスリットは、基材の走行方向に対して傾斜して設けられ、且つ、スリットの前記基材に近い側の開口が重力方向の上側で、スリットの前記基材に遠い側の開口が重力方向の下側であることを特徴とする乾燥装置である。
【0010】
請求項2に係る発明は、前記スリット板は基材の走行方向の塗工ヘッドの直後に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置である。
【0011】
請求項3に係る発明は、前記スリット板と塗工ヘッドの間がカバーで覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥装置である。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記スリット板と、前記基材との間隔が1mmから50mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の乾燥装置である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、塗布膜面から蒸発した溶剤成分が、その自重によって緩やかに基材とスリット板間を落下し、重力方向に対し上側に位置する基材に近い側の開口から、下側に位置する基材に遠い側の開口に向かって流れを自然に形成することが出来、蒸発した溶剤成分の流れが整流され、その結果、塗布膜の乾燥ムラの発生を抑制することが出来る。特に、ムラの発生に大きく影響を与える、塗布直後の乾燥初期部分に上記スリット板を設置することにより、より効果を発揮することが出来る。
【0014】
また、乾燥した溶剤を連続的に回収することが出来、安定した乾燥効率の維持と、溶剤飛散による環境影響抑制が可能となる。
【0015】
また、スリット板と塗工ヘッドの間をカバーで覆うことにより、気化溶剤を含む気体をスリット板と塗工ヘッドの間から漏れ出すことなく全てスリット板を経由してボックス内に移行させることが可能となる。
【0016】
また、基材を加熱することにより、ムラを抑制しつつ、乾燥効率を上げることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の乾燥装置の一実施例の概略の断面を示す図。(a)は本発明の乾燥装置の一例を示す図。(b)はスリット板を図1(a)の紙面の左側から見た側面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の乾燥装置を実施の形態に沿って以下に図面を参照しながら詳細に説明する。図1(a)は本発明の乾燥装置の一例を示す図である。
【0019】
図1に示される本発明の乾燥装置は、巻き出しロール5より巻き出された基材8の片方の面に、塗工ヘッド7にて液状組成物を塗布した後に、塗布面近傍にスリット板2が近接
して設置される。
【0020】
スリット板2は、基材幅方向に、少なくとも塗布幅以上に開口しており、幅方向全体に空気の出入りが可能となっている。図1(b)はスリット板2を図1(a)の紙面の左側から見た側面を示す図である。スリット2a、2b〜2nは、基材8の流れ方向に連続的に設けられており、例えばスリット2aでは開口2a−1は基材8に近い側、開口2a−2は遠い側に設けられ、スリット2a、2b〜2nは基材の走行方向に対して傾斜して設けられ、且つ、スリットの前記基材に近い側の開口が重力方向の上側で、スリットの前記基材に遠い側の開口が重力方向の下側に設けられている。即ち、スリット2aの場合、スリットの前記基材に近い側の開口2a−1が重力方向の上側で、スリットの前記基材に遠い側の開口2a−2が重力方向の下側に設けられている。
【0021】
ここでスリット2a、2b〜2nの基材に対する傾斜角度は、塗布対象品種や、含有溶剤種類によって任意に設定される。
【0022】
また、スリット板2と塗工ヘッド7の間をカバー10で覆うことで、溶剤を含む気体がスリット板2と塗工ヘッド7の間から漏れ出すことを防ぐことができる。
【0023】
スリット板2に対して、基材8と反対側に、気体冷却装置1による、溶剤凝縮回収手段3を設置する。これにより、スリットより流入した、溶剤を多く含有した気体は、凝縮現象によって、溶剤が液化され、溶剤溜り9を形成して、廃液部11を介して矢印15で示す方向に廃液を排出回収することが出来る。気体冷却装置1の気体冷却方式としては、スパイラル管を使った冷水方式や、冷却フィンを用いても良く、またペルチェ素子による電気的冷却方法を用いても良い。
【0024】
また、基材8に対してスリット板2と反対側に、基材加熱手段4を設置する。基材加熱方式としては、近赤外線ヒーター、遠赤外線ヒーター、熱線ヒーター、マイクロ波ヒーター、等による非接触加熱方式や、温水、蒸気、オイル、熱線等によって熱せられたロールに基材を接触させることによって基材を加熱する接触加熱方式でも良い。基材加熱手段4によって、塗布液中の有機溶剤の蒸発を促進することが出来、乾燥ムラを抑制しつつ、乾燥効率を上げることが可能となる。
【0025】
本発明における乾燥装置は、塗布膜面に悪影響を与えず蒸発溶剤を取り除き、わずかな乾燥ムラの発生を抑制することができるため、その効果が最も現れるのは乾燥初期である。したがって、乾燥装置の全長すべてが本発明の乾燥装置によるものではなく、基材8への塗布直後の乾燥初期段階だけに本発明の乾燥装置を導入しても効果が得られる。その場合、本発明の乾燥装置の後に、公知の乾燥装置を第二の乾燥装置として導入しても良い。
【0026】
第二乾燥装置としては、スリットノズルやパンチングメタルから基材に形成された塗布膜に温度を上昇させた噴流を当てるような方式を導入しても良いし、クイックリターン方式のノズルや基材の搬送方向に平行流を流す方式のノズルから熱風を噴出する方式でも良い。また、片面だけでなく両面から加熱手段を設けても良い。一般的に使用されているいかなる乾燥装置を使用しても本発明の効果を妨げるものではない。
【0027】
本発明で使用される塗工ヘッド7としては、ダイコーター、バーコーター、カーテンコーター、エクストルージョンコーター、ロールコーター、ディップコーター、スピンコーター、グラビアコーターなどの装置を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明で使用される基材8は、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナ
フタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート(トリアセチルセルロース)、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフイルムなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、紙および紙にポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートしたもの、さらに、アルミニウム、銅、錫等の金属箔も挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明で使用される塗布液は、溶剤を含むものであり、基材上に塗膜を形成するものであれば、公知のいずれの塗布液を用いることができる。
【0030】
本発明で使用される溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチル等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール・ブチルカルビトール等のグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタン・オクタン等の脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、1種、または、2種類以上の混合物として用いて良いが、これらに限定されるものではない。
【0031】
(実施例)
図1に示すような乾燥装置により、基材に塗布液を塗布した直後の塗布膜を乾燥させて、乾燥ムラが発生するかどうかを確認した。
【0032】
塗布直後よりスリット板2を配置し、スリット板2に対して基材8と反対側に、同等の大きさのボックスを設置し、その中に、水冷式のスパイラル管冷却装置を設けた。また、基材に対してスリット板と反対側に、遠赤外線ヒーターを設置した。ここで、スリット板の基材8の搬送方向における全長は2mとし、基材8とスリット板2の間隔を10mmとした。各スリットの長さは50mmとし、スリット板の厚さを30mm、スリットの幅は5mmとした。また、スリットの角度は基材垂直方向に対して45°のものを用い、基材側が上となるように配置した。冷却装置の温度は17℃になるように調整し、凝縮した溶剤が自然に溶剤溜りに落下し、溶剤排出部から排出回収できるようにした。また、遠赤外線ヒーターの表面温度が100℃になるように調整し、基材からの距離が100mmになるように配置した。
【0033】
塗布液としては、トルエン溶剤50%、アクリル系樹脂50%の塗布液を用い、基材8には厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフイルムを用いた。塗布条件としては、塗布速度20m/minでダイコーティングにより塗布を行った。
【0034】
上記条件にて塗布を行ったところ、問題となるようなムラは確認できなかった。
【0035】
(比較例)
本発明の乾燥装置を全く設置していない状態にて、上記実施例と同じ条件にて塗布を行ったところ、塗布膜にモヤモヤとしたムラ、或いは製品上に目視可能なこすり傷が確認でき、製品としては良品を得ることが出来なかった。
【0036】
表1は上記条件で、スリット板と塗布された基材との距離を変えた場合の乾燥後の塗布膜の外観評価を行った結果を示す。スリット板と塗布された基材との距離を、0.5mmから60mmの間で変化させた。その場合の乾燥後の塗布膜は、0.5mmの場合にはス
リット板と基材が接触してしまい塗布膜表面にこすり傷が認められた。55mmの場合には塗布膜にモヤモヤとした若干の乾燥ムラを確認することが出来、更に60mmの場合にはモヤモヤが明確に確認することが出来た。このことから、スリット板と塗布された基材との距離は下限間隔1mmから上限間隔50mmの間に設定することが望ましい。
【0037】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明の乾燥装置は、高精度な品質を要求する、光学膜、電子基板、食品用包装材、医療用包装材等の、乾燥工程を必要とするウェットコーティング方式を利用した大量生産分野において、安定した生産品質を確保し、低コスト化、高精度化に寄与できる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・気体冷却装置
2・・・スリット板
3・・・溶剤凝縮回収手段
4・・・基材加熱手段
5・・・巻き出しロール
6・・・コーティングロール
7・・・塗工ヘッド
8・・・基材
9・・・溶剤溜り
10・・・カバー
11・・・廃液部
12・・・ボックス
13・・・液体の状態の溶剤の流れ
14・・・気体の状態の溶剤の流れ
15・・・廃液を排出回収する方向を示す矢印
2a、2b〜2n・・・スリット
2a−1、2a−2・・・スリットの開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する帯状可撓性基材に塗工ヘッドによって連続的に塗布された塗布膜を前記基材を重力方向と反対方向に走行させながら乾燥する乾燥装置であって、
基材の塗布膜面側に近接して設けられ、塗布膜面の幅方向と同等以上の幅方向の大きさを有し、且つ、複数のスリットを設けたスリット板と、
前記スリット板に対して前記基材の反対側に設けられ、塗布膜面から蒸発した溶剤成分を凝縮回収する手段と、
前記基材に対し前記スリット板の反対側に設けられ、基材を加熱する手段と、を備え、
前記スリット板の複数のスリットは、基材の走行方向に対して傾斜して設けられ、且つ、スリットの前記基材に近い側の開口が重力方向の上側で、スリットの前記基材に遠い側の開口が重力方向の下側であることを特徴とする乾燥装置。
【請求項2】
前記スリット板は基材の走行方向の塗工ヘッドの直後に設けられたことを特徴とする請求項1に記載の乾燥装置。
【請求項3】
前記スリット板と塗工ヘッドの間がカバーで覆われていることを特徴とする請求項1または2に記載の乾燥装置。
【請求項4】
前記スリット板と、前記基材との間隔が1mmから50mmであることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の乾燥装置。

【図1】
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【公開番号】特開2013−57427(P2013−57427A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−194743(P2011−194743)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】