説明

亀裂形成が減少したワニス層形成性防食剤、およびその無電流塗布のための方法

本発明は、基板の腐食時に放出される金属イオンとともに、および/または基板表面とともにキレートを形成する共有結合した配位子Aを有し、またそれ自身と、ポリマーPの別の相補的官能B’と、および/または別の官能基Bおよび/またはB’と架橋剤上に共有結合を形成することができる架橋性官能基B1を含む水分散性および/または水溶性ポリマーPと、コーティングされる基板の表面上で表面活性を示す少なくとも1つの物質OSと、を含む金属基板用水性コーティング剤に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
種々の金属基板の無電解腐食抑制コーティングのための方法およびコーティング材が知られている。これらは、電界の印加が必要なアニオンまたはカチオン電着(それぞれATLまたはKTL)と比較して、利点、具体的には、より単純かつ低費用の作業、およびより短い作業時間という利点を提供する。無電解方法は、具体的には、電界の印加を必要とする方法を用いるよりも効果的に、対象基板の空洞または縁部をコーティングすることを可能にする。
【0002】
ACC(autophoretic chemical coating)方法とも称される無電解腐食抑制コーティングの場合、一般的にポリマーを使用するが、例として、アクリレートまたはスチレン/ブタジエンを含有するエマルジョンポリマーがあり、これらはアニオン的に安定化される。しかしながら、前述のATLおよびKTL方法と比較すると、ACC方法は、沈着したコーティングが欠陥を呈し、それが基板を著しく腐食しやすくするという欠点を有する。したがって、ACC方法によって沈着したこの種のコーティングは、一般的に、クロムを含有する水性コーティング材ですすいで処理することにより、欠陥部の腐食抑制を向上させる。しかしながら、近年、クロムコーティング材は、環境適合性の点で大きな問題を有することが判明し、健康に非常に有害として分類されることになっている。したがって、目的は、腐食抑制コーティング中のクロムを完全に置き換えることである。
【0003】
クロムを含有しないコーティング材の開発の結果として、さらに、ランタニド元素の塩およびd元素の塩、ならびに有機塗膜形成成分を含むACCコーティング材も、クロムコーティング材のものと同程度の、非常に良好な腐食抑制を同様に確保することがわかった。国際特許出願第01/86016(A)号は、バナジウム成分と、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タングステン、マンガン、およびセリウムからなる群から選択された少なくとも1つの金属を含むさらなる成分とを含む腐食防止剤を記載している。国際特許出願第01/86016(A)号のタイプの腐食防止剤の欠点は、ポリマーが不十分な塗膜形成をもたらすために、基板から形成された金属イオンが沈着された腐食抑制コーティングを通って移動する傾向にあることである。
【0004】
国際特許出願第99/29927(A)号は、その成分が、チタン(IV)および/またはジルコニウム(IV)のヘキサフルオロアニオン、バナジウムイオン、遷移金属イオン、およびリン酸および/またはホスホン酸を含む、クロムを含有しない水性腐食防止剤を記載している。国際特許出願第99/29927(A)号のタイプの腐食防止剤に付随する不利点は、ポリマーが不十分な塗膜形成をもたらすために、基板から形成された金属イオンが沈着された腐食抑制コーティングを通って移動する傾向にあること、また環境に危険な物質、具体的にはフッ化水素酸またはフッ化物などを使用することである。
【0005】
国際特許出願第96/10461(A)号は、その成分が、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、およびシリコンからなる群から選択された中心原子および少なくとも4個のフッ素原子配位子とを備えるアニオンと、有機ポリマー分散液とを含む水性腐食防止剤を記載している。国際特許出願第96/10461(A)号による発明の欠点は、基板表面上への腐食防止剤の沈着が、ポリマー分散粒子の凝集を伴い、それによりその表面の接触面積が小さくなることである。さらに、ラテックス粒子は、その分布が分子的に分散しているポリマーと比較して、三次元基板の空洞内または縁部上への拡散という状況で、移動速度が比較的低いという欠点を有する。
【0006】
さらに、1マイクロメートル〜1mmの厚さのコーティングが形成され、対応するコーティングされる基板の単位面積当たりの材料消費をもたらす。このような厚さのコーティングは、乾燥過程において、特に高温で、亀裂を生じる顕著な傾向がある。さらなる欠点には、基板から形成された金属イオンが沈着された腐食抑制コーティングを通って移動する傾向にあること、また環境に危険な物質、具体的にはフッ化水素酸またはフッ化物などを使用することが含まれる。
【0007】
ドイツ特許第37 27 382号は、金属製表面の自動泳動(autophoretic)コーティングに適した、カルボン酸およびイソシアネートのエポキシドとの付加物の、クロムを含有しない水性分散液を包含する。分散形態において、かかる分散液は、300nm未満、好ましくは100〜250nmの粒径を有し、金属表面上への沈着後、60〜200℃の温度で架橋することができる。この種のラテックス粒子も、その分布が分子的に分散しているポリマーと比較して、三次元基板の空洞内または縁部上への拡散という状況で、比較的低い移動速度を有するという欠点を有する。さらに、1マイクロメートル〜1mmの厚さのコーティングが形成され、対応するコーティングされる基板の単位面積当たりの材料消費をもたらす。このような厚さのコーティングは、乾燥過程において、特に高温で、亀裂を生じる顕著な傾向がある。さらなる欠点には、基板から形成された金属イオンが沈着された腐食抑制コーティングを通って移動する傾向にあること、また環境に危険な物質、具体的にはフッ化水素酸またはフッ化物などを使用することが含まれる。
【0008】
ドイツ特許第103 30 413号は、金属製表面をコーティングするのに適し、ポリエチレンイミンに基づくカプロラクタムで改質されたポリイソシアネートを含みうるコーティング材を記載している。このコーティング材は、沈着コーティングによって塗布することができ、乾燥後、1〜300マイクロメートルの厚さを有する。このようにして作成されたコーティングも、同様に多量の材料を必要とし、また特に高温で顕著な亀裂を生じる傾向がある。
【0009】
前述の従来技術を考慮して、本発明が対処した課題は、環境問題の観点からほぼ異論がなく、容易に技術的に達成できる作業によって保護すべき基板に塗布できる腐食防止剤を発見することであった。さらに、腐食防止剤は、基板から形成された金属イオンの移動を実質的に防止すべきであり、また基板の縁部上および空洞内に効果的に沈着できるべきである。さらに、外来金属イオンの影響は、非常に低く抑えるべきであり、比較的低量の使用材料で、効果的な腐食抑制を得るべきである。さらに、化成コーティング材は、可能な限り多くの金属基板に対して効果的な保護を展開するべきであり、コーティングされる基板の酸化還元電位と実質的に無関係であるべきである。具体的には、乾燥過程で、また焼き付けステップ時に腐食抑制コーティングに亀裂を生じる傾向は、亀裂が発生した場合に生じるコーティングを通る溝によって腐食抑制効果が著しく損なわれるため、抑えるべきである。
【0010】
前述の課題を考慮して、水分散性および/または水溶性ポリマーPと、コーティングされる基板の表面上で表面活性を示す物質OSとを含む水性コーティング材であって、ポリマーPは、基板の腐食時に放出される金属イオン、および/または基板表面とキレートを形成する、ランダムに分布した共有結合した配位子Aを有し、またそれ自身と、ポリマーPの別の官能B’と、および/または別の官能基Bおよび/またはB’とともに、架橋剤Vとの共有結合を形成することができる、ランダムに分布した架橋性官能基Bを有する、水性コーティング材を発見した。
【0011】
また、前述の水分散性および/または水溶性ポリマーPと、コーティングされる基板の表面で表面活性を示す物質OSとを含む、効果的な腐食抑制を特徴とする金属基板用水性コーティング材の自動泳動塗布のための方法であって、自動泳動塗布後のコーティングの厚さは5〜900nmである方法も発見した。
【0012】
本発明の方法の別の好ましい実施形態では、本発明の腐食防止剤の沈着前に、さらに上流の方法ステップにおいて、基板を腐食防止剤Kで前処理する。
【0013】
本発明のコーティング材
本発明のコーティング材の水分散性および/または水溶性ポリマーPは、基板の腐食時に放出される金属イオンとキレートを形成する配位子A、ならびにそれ自身と、および/または別の官能基Cとともに、架橋剤Vとの共有結合を形成することができる架橋性官能基Bを担持する。
【0014】
本発明において、水分散性または水溶性とは、ポリマーPが、水相中で平均粒径<50nm、好ましくは<35nm、より好ましくは<20nmの凝集体を形成する、あるいは分子的に分散した溶液中にあることを意味する。かかる凝集体は、その平均粒径が分散粒子と大きく異なるが、これは例えばドイツ特許第37 27 382号または国際特許出願第96/10461(A)号に記載されている。分子的に分散した溶液中のポリマーPは、一般的に分子量<100,000、好ましくは<50,000、より好ましくは<1,000ダルトンを有する。
【0015】
ポリマーPからなる凝集体のサイズは、従来の方法で、ポリマーPへの親水性基HGの導入によって生じる。ポリマーP上の親水性基HGの数は、溶媒和能および基HGの立体アクセス性に依存し、当業者により同様に従来的に調整することができる。ポリマーP上の好ましい親水性基HGは、イオン性基、具体的には、硫酸基、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、アンモニウム基、および/またはカルボキシル基など、および非イオン性基、具体的には、ヒドロキシル基、1級、2級、および/または3級アミン基、アミド基、および/またはさらなる基でエーテル化されていてもよい、オリゴアルコキシまたはポリアルコキシ置換基、例えば好ましくは、エトキシル化またはプロポキシ化置換基などである。親水性基HGは、下記の配位子Aおよび/または架橋性官能基BおよびB’と同一であってもよい。
【0016】
ポリマーPの骨格として使用できるポリマーは、それ自体が任意であり、分子量500〜50,000ダルトンを有するポリマーが好ましく、分子量700〜20,000ダルトンを有するポリマーがより好ましい。使用される好ましい骨格ポリマーは、ポリオレフィンまたはポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリアルキレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアルキレンアミン、ポリエーテル、ポリエステル、およびポリアルコールであり、特に部分的にアセタール化された、および/または部分的にエステル化されたものである。ポリマーPは、構造が線状、分岐状、および/または樹枝状であってもよい。特に好ましいポリマー骨格は、ポリアルキレンイミン、ポリビニルアミン、ポリアルコール、ポリ(メタ)アクリレート、および例えば国際特許出願第01/46296(A)号に記載されているような超分岐ポリマーである。
【0017】
ポリマーPは、好ましくは、酸性pH領域、具体的にはpH値<5、より好ましくはpH値<3において、加水分解に対して安定である。
【0018】
好適な配位子Aは、基板の腐食時に放出される金属イオンとキレートを形成することができる全ての基または化合物である。単座および/または多座の潜在的アニオン性配位子が好ましい。特に好ましい配位子は、以下のとおりである:
−非官能化または官能化尿素および/またはチオ尿素、特にアシルチオ尿素、例えばベンゾイルチオ尿素など;
−非官能化または官能化アミンおよび/またはポリアミン、具体的にはEDTAなど;
−非官能化または官能化アミド、特にカルボキサミド;
−イミンおよびイミド;
−オキシム、好ましくは1,2−ジオキシム、例えば官能化ジアセチルジオキシムなど;
−有機硫黄化合物、具体的には、非官能化または官能化チオール、例えばチオエタノールなど、チオカルボン酸、チオアルデヒド、チオケトン、ジチオカルバメート、スルホンアミド、チオアミド、また特に好ましくはスルホン酸塩;
−有機リン化合物、具体的には、リン酸塩、より好ましくは(メタ)アクリレートのリン酸エステル、またホスホン酸塩、より好ましくはビニルホスホン酸、およびヒドロキシ−、アミノ−、およびアミド−官能化ホスホン酸塩;
−非官能化または官能化有機ホウ素化合物、具体的にはホウ酸エステルなど;
−非官能化または官能化ポリアルコール、具体的には炭水化物およびその誘導体、ならびにキトサン;
−非官能化または官能化酸、具体的には二官能性および/またはオリゴ官能性酸、あるいは非官能化または官能化(ポリ)カルボン酸、具体的には金属中心にイオン的におよび/または配位的に結合しうるカルボン酸、好ましくは酸性基、あるいは二官能性またはオリゴ官能性酸を含む(ポリ)メタクリレート;
−非官能化または官能化カルベン;
−アセチルアセトネート;
−非官能化または官能化複素環、例えばキノリン、ピリジン、具体的にはイミン−官能化ピリジン、ピリミジン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、好ましくはメルカプトベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、あるいはインドール;
−非官能化または官能化アセチレン;および
−フィチン酸およびその誘導体。
【0019】
ポリマーP上の好適な架橋性官能基Bは、それ自身と、および/または相補的官能基B’と共有結合を形成することができるものである。好ましくは、共有結合は、熱的におよび/または放射線への曝露によって形成される。特に好ましくは、共有結合は熱的に形成される。架橋性官能基BおよびB’は、ポリマーPの分子間に分子間ネットワークの形成をもたらす。
放射線への曝露時に架橋する官能基Bおよび/またはB’は、活性化可能な結合、例えば炭素−水素、炭素−炭素、炭素−酸素、炭素−窒素、炭素−リン、または炭素−シリコン結合を含有し、これらは単結合または二重結合であってよい。炭素−炭素二重結合は、この状況で特に有利である。基Bとして特に好適な炭素−炭素二重結合は、以下のとおりである:
− 特に好ましくは、(メタ)アクリレート基
− エチルアクリレート基
− ビニルエーテル基およびビニールエステル基
− クロトン酸基および桂皮酸基
− アリル基
− ジシクロペンタジエニル基
− ノルボルニル基およびイソプレニル基
− イソプロペニル基またはブテニル基。
【0020】
熱架橋性官能基Bは、熱エネルギーへの曝露時に、それ自身と、あるいは好ましくは相補的な架橋性官能基B’と共有結合を形成する。
【0021】
特に好適な熱架橋性官能基BおよびB’は、以下のとおりである:
− 特に好ましくは、ヒドロキシル基
− メルカプト基およびアミノ基
− アルデヒド基
− アジド基
− 酸性基、特にカルボン酸基
− 無水酸基、特に無水カルボン酸基
− 酸エステル基、特にカルボン酸エステル基
− エーテル基
− 特に好ましくは、カルバメート基
− 尿素基
− エポキシド基
− 特に好ましくは、イソシアネート基、これは非常に好ましくは、本発明のコーティング材の焼き付け温度で脱ブロックする、および/または脱ブロックせずにその形成するネットワークに組み込まれるブロック剤と反応させてある。
【0022】
熱架橋性基Bと相補的な基B’との特に好ましい組み合わせは以下のとおりである:
− ヒドロキシル基と、イソシアネート基および/またはカルバメート基、
− アミノ基と、イソシアネート基および/またはカルバメート基、ならびに
− カルボン酸性基とエポキシド基。
【0023】
熱的におよび/または放射線への曝露によって架橋する、基Bおよび/またはB’を含有する好適な架橋剤Vは、原則として、当業者に周知の全ての架橋剤である。分子量<20,000ダルトン、より好ましくは<10,000ダルトンを有する、低分子量またはオリゴマーの架橋剤Vが好ましい。架橋性基Bおよび/またはB’を担持する架橋剤Vの骨格は、構造が線状、分岐、および/または超分岐であってもよい。分岐および/または超分岐構造体、特に例えば国際特許出願第01/46296(A)号に記載されるようなものが好ましい。
【0024】
架橋剤Vは、好ましくは酸性pH領域、具体的にはpH値<5、より好ましくはpH値<3において、加水分解に対して安定である。特に好ましい架橋剤Vは、ポリマーPの架橋性基と反応して共有結合を形成する、上述の架橋性基Bおよび/またはB’を担持する。特に好ましい架橋剤Vは、熱的に、また所望であればさらに放射線への曝露によって架橋する、基Bおよび/またはB’を有するものである。本発明の別の特に好ましい一実施形態において、架橋剤Vは、架橋性基Bおよび/またはB’と同様に配位子A’を担持するが、これはポリマーPの配位子Lと同一であっても、および/または異なってもよい。
【0025】
架橋剤Vの特に好適な架橋性官能基BおよびB’は以下のとおりである:
− 特に、ヒドロキシル基
− 特に、アルデヒド基
− アジド基
− 無水酸基、特に無水カルボン酸基
− カルバメート基
− 尿素基
− 特にイソシアネート基、これは非常に好ましくは、本発明のコーティング材の焼き付け温度で脱ブロックする、および/または脱ブロックせずに形成するネットワークに組み込まれるブロック剤と反応させる
− (メタ)アクリレート基
− ビニル基
またはそれらの組み合わせ。
【0026】
特に好ましい架橋剤Vは、少なくとも部分的にブロックされ、また配位子Lをさらに担持する、分岐および/または超分岐ポリイソシアネートである。
【0027】
本発明の別の一実施形態では、架橋剤Vは、ポリマーPの配位子Lと共有結合形成することができる、基Bおよび/またはB’を担持する。
【0028】
コーティングされる基板の表面で活性を示す表面活性物質OSは、コーティングされていない基板表面上への自動泳動沈着の過程、および/またはその後の乾燥ステップの過程において、本発明のコーティング材の表面張力を減少させる、少なくとも1つの成分KOSを含む。
【0029】
成分KOSは、アニオン性、カチオン性、および非イオン性表面活性物質の群から選ぶことができる。両親媒性物質を使用することが好ましいが、これは低分子量、オリゴマー、および/またはポリマーの物質であってもよい。「両親媒性」とは、物質が、親水性および疎水性の構造成分を有することを意味する。「低分子量」とは、表面活性成分KOSの平均分子量が、2000ダルトンまで、より好ましくは1000ダルトンまでであることを意味し;「オリゴマーの」とは、表面活性成分KOSが、約2〜30個、好ましくは3〜15個の好ましくは反復する構造単位を含有し、約200〜4000ダルトン、好ましくは約500〜3000ダルトンの平均分子量を有することを意味し;「ポリマーの」とは、表面活性成分KOSが、10個を上回る好ましくは反復する構造単位を含有し、500ダルトンを上回る、好ましくは1000ダルトンを上回る平均分子量を有することを意味する。表面活性成分KOSは、本発明のポリマーPと異なってもよい。
【0030】
表面活性成分KOSには、好ましくは、低分子量の物質として、アルキルカルボン酸およびその塩、α,ω−ジカルボン酸およびその塩、α,ω−ジアルコール、α,ω−ジアミンならびにジアミドおよびそれらの塩、アルキルスルホン酸およびその塩、およびアルキルリン酸ならびにアルキルホスホン酸およびそれらの塩を使用する。使用するオリゴマーおよび/またはポリマーの表面活性物質は、好ましくは、ポリアルキレングリコール、ポリビニルラクタム、例えばポリビニルピロリドンおよびポリビニルカプロラクタムなど、例えば、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルアルコール、およびポリ酢酸ビニルである。表面活性成分KOSとして非常に好ましいのは、低分子量の物質としては、アジピン酸および/または1,6−ヘキサンジオールであり、オリゴマーおよび/またはポリマーの物質としては、ポリ(オリゴ)エチレングリコールおよび/またはポリ(オリゴ)プロピレングリコールである。
【0031】
本発明のコーティング材に対する比率としての表面活性物質OSの割合は、コーティング材に対して、好ましくは10-4〜5質量%、好ましくは10-2〜2質量%であり、成分KOSは、OSに対して、好ましくは1〜100質量%の割合で、より好ましくは2〜100質量%の割合で、表面活性物質OS中に存在する。
【0032】
本発明のコーティング材に使用する連続相は、水、好ましくは脱イオン水および/または蒸留水である。さらに、連続相中に、主として水混和性の溶媒が、連続相に基づき30質量%、好ましくは25質量%までの割合で存在することも可能である。好ましい水混和性溶媒は、エタノール、プロパノール、メチルエチルケトン、およびN−エチルピロリドンである。特に本発明のコーティング材を使用して、すでに塗装された基板上の塗料の損傷修復する場合、水混和性溶媒を、連続相に基づき1〜30質量%の割合、好ましくは2〜25質量%の割合で使用する。
【0033】
使用する別の好ましい成分は、酸化が可能な少なくとも1つの酸であり、これは本発明のコーティング材のpHが好ましくは1〜5、より好ましくは2〜4となるように使用される。特に好ましい酸は、酸化性鉱酸、具体的には、硝酸、亜硝酸、硫酸、および/または亜硫酸などからなる群から選択される。必要な場合、pHを調整するために、緩衝媒体、例えば強塩基および弱酸、具体的には酢酸アンモニウムなどの塩などを使用することができる。本発明の特に好ましい一実施形態において、本発明のコーティング材は、そのカチオン性構成物質として、ランタニド金属カチオンおよび/またはd金属カチオンを有する塩をさらに含む。好ましいランタニド金属カチオンは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、および/またはジスプロシウムカチオンである。ランタン、セリウム、およびプラセオジムカチオンは、特に好ましい。ランタニド金属カチオンは、一価、二価、および/または三価の酸化状態であってよく、三価の酸化状態が好ましい。
【0034】
好ましいd金属カチオンは、チタン、バナジウム、マンガン、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、および/またはイリジウムカチオンである。d元素カチオンとしての検討から除外されるのは、あらゆる酸化状態のクロムカチオンである。バナジウム、マンガン、タングステン、モリブデン、および/またはイットリウムカチオンは、特に好ましい。d元素カチオンは、一価から六価までの酸化状態で存在してよいが、三価から六価までの酸化状態が好ましい。
【0035】
本発明のコーティング材を塗布するための方法
本発明のコーティング材を塗布する前に、本発明の好ましい一実施形態では、好ましくは洗剤および/またはアルカリ性洗浄剤を用いて、基板の特に油性および脂肪性の残留物を洗浄する。本発明の別の好ましい変形形態では、洗剤および/またはアルカリ性洗浄剤による洗浄のあと、本発明のコーティング材の塗布前に、水ですすぐ。基板表面から沈着物および/または化学的に改質された膜、特に酸化膜を除去するために、本発明の別の好ましい実施形態では、すすぎステップの前に、例えば研磨媒体を用いて、および/または例えば脱酸素洗浄剤を用いた表面膜の化学的除去によって、表面の機械的清浄をおこなう。
【0036】
このように前処理した基板を本発明のコーティング材と接触させる。これは好ましくは、基板を本発明のコーティング材を含む浴に浸漬する、あるいは通すことによって実施される。本発明のコーティング材中の基板の滞留時間は、好ましくは1秒〜15分、より好ましくは10秒〜10分、非常に好ましくは30秒〜8分となる。本発明のコーティング材を含む浴の温度は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは25〜80℃、非常に好ましくは30〜70℃である。
【0037】
本発明のコーティング材を用いて作成された自動泳動塗布後のコーティングの厚さは、好ましくは5〜900nm、さらに好ましくは10〜800nmであり、これは防食効果を踏まえて、使用する材料を著しく減らすことを可能にする。
【0038】
本発明のコーティング材を用いた基板の処理後、好ましくは、基板およびコーティング材を含む系を約30〜200℃、具体的には100〜180℃の温度で乾燥させる。乾燥装置は、本発明のコーティング材の効果にとってほぼ重要ではないとみなすことができる。架橋性基Bおよび/またはB’が少なくとも部分的に放射線硬化性である場合、本発明のコーティング材のコーティングは、好ましくは当業者に周知の方法で、化学放射によっておよび/または電子線によって放射線照射され、この放射線照射は、適切な場合には、熱処理に加えて実施される。
【0039】
本発明のコーティング材は、驚くべきことに、広範な基板上に使用することができ、基板の酸化還元電位とはほぼ無関係である。
【0040】
好ましい基板材料は、亜鉛、鉄、マグネシウム、およびアルミニウム、またそれらの合金であり、前記の合金は、好ましくは前述の金属を少なくとも20質量%含有する。基板は、好ましくは、例えば自動車、建築、および機械工学産業で使用されているものと同様の金属板として形成される。本発明のコーティング材でコーティングされた板は、特に成形板、および板のコイルコーティングに関連して使用される。
【0041】
本発明の別の実施形態では、本発明のコーティング材は、上述の板の切断端部をシーリングするため、特にすでにコーティングされた板の切断端部をシーリングするために使用される。
【0042】
本発明の別の実施形態では、上述の基板は、本発明のコーティング材が沈着される前に、同様に無電解沈着が可能なさらなる腐食防止剤でコーティングされる。本発明のコーティング材によるコーティング、および未コーティング基板の双方に対して有効な接着性を示す無機構成物質を有する腐食防止剤が好ましい。この種の無機腐食防止剤は、例えば、欧州特許出願第1 217 094(A)号、欧州特許出願第0 534 120(A)号、US−A−5,221,371号、および国際特許出願第01/86016(A)号に記載されている。
【0043】
本発明の特に好ましい一実施形態では、本発明のコーティング材の塗布は、別個のステップにおいて、pH1〜5を有し、そのカチオンとしてランタニド金属および/またはクロムを除くd元素金属、および/またはそのアニオンとしてクロム含有メタレートを除くd元素メタレートを有する少なくとも1つの化合物AAと、リン酸および/またはクロム酸を除く酸化が可能な少なくとも1つの酸BBとを有する水性腐食防止剤Kの塗布のあとにおこなわれる。
【0044】
塩形成性成分AAは、そのカチオン性構成物質として、ランタニド金属カチオンおよび/またはd金属カチオンを有する。好ましいランタニド金属カチオンは、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、プロメチウム、サマリウム、ユーロピウム、および/またはジスプロシウムカチオンである。ランタン、セリウム、およびプラセオジムカチオンは特に好ましい。
【0045】
ランタニド金属カチオンは、一価、二価、および/または三価の酸化状態であってよく、三価の酸化状態が好ましい。好ましいd金属カチオンは、チタン、バナジウム、マンガン、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、タングステン、コバルト、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、および/またはイリジウムカチオンである。d元素カチオンとしての検討から除外されるのは、あらゆる酸化状態のクロムカチオンである。バナジウム、マンガン、タングステン、モリブデン、および/またはイットリウムカチオンは、特に好ましい。d元素カチオンは、一価から六価までの酸化状態で存在してよいが、三価から六価までの酸化状態が好ましい。
【0046】
前述の成分AAのカチオンの塩は、好ましくは、非常に良好な水可溶性を有する。溶解度積SP、つまり[カチオン]n×[アニオン]mが、>10-8×mol(n+m)/l(n+m)の[カチオン]n[アニオン]m塩(nおよびmはそれぞれ≧1)は特に好ましく、溶解度積SP>10-6×mol(n+m)/l(n+m)を有する塩が非常に好ましい。本発明の特に好ましい一実施形態では、腐食防止剤中の塩(A)の濃度は、10-1〜10-4mol/l、具体的には5×10-1〜10-3mol/lである。d元素カチオンとともに塩AAを形成するアニオンは、好ましくは、前述の溶解度積SPの条件が満たされるように選択される。元素周期表の第6、7、および8族遷移族元素の酸化性酸のアニオン、および元素周期表の第5または6族主族元素の酸化性酸のアニオン(リンおよびクロムの酸化性酸のアニオンを除く)を使用することが好ましく、硝酸塩、亜硝酸塩、亜硫酸塩、および/または硫酸塩の使用が特に好ましい。さらなる好ましいアニオンは、ハロゲン化物、具体的には塩化物および臭化物などである。
【0047】
本発明の別の好ましい実施形態では、d元素カチオンが、単座および/または多座の潜在的アニオン性配位子との複合体の形態で存在してもよい。好ましい配位子は、非官能化または官能化ターピリジン、および/またはピリジン、具体的には、イミン−官能化ピリジンなど、非官能化または官能化ピリミジン、非官能化または官能化ベンズイミダゾール、非官能化または官能化キノリン、非官能化または官能化イミダゾール、非官能化または官能化チアゾール、非官能化または官能化オキサゾール、非官能化または官能化ピラゾール、非官能化または官能化尿素および/または非置換または置換チオ尿素、非官能化または官能化アミンおよび/またはポリアミン、具体的にはEDTAなど、イミン、具体的にはイミン−官能化ピリジンなど、有機硫黄化合物、具体的には非官能化または官能化チオール、チオカルボン酸、チオアルデヒド、チオケトン、ジチオカルバメート、スルホンアミド、チオアミド、また特に好ましくはスルホン酸塩、非官能化または官能化有機ホウ素化合物、具体的にはホウ酸エステルなど、非官能化または官能化ポリアルコール、具体的には炭水化物およびその誘導体、ならびにキトサン、非官能化または官能化酸、具体的には二官能性および/またはオリゴ官能性酸、非官能化または官能化カルベン、アセチルアセトネート、官能化複素環、例えばキノリン、ピリジン、具体的にはイミン−官能化ピリジン、ピリミジン、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、好ましくはメルカプトベンズイミダゾール、ベンゾチアゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、あるいはインドール、非官能化または官能化アセチレン、非官能化または官能化カルボン酸、具体的には金属中心にイオン的におよび/または配位的に結合しうるカルボン酸、およびフィチン酸およびその誘導体である。
【0048】
特に好ましい配位子は、フィチン酸、その誘導体、およびスルホン酸塩であり、これは官能化されていてもよい。
【0049】
本発明の別の実施形態では、塩AAは、そのアニオンとしてd元素メタレートを含有し、これはd元素カチオンとともに、あるいは単独で、塩AAを形成することができる。メタレートに好ましいd元素は、バナジウム、マンガン、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、および/またはタングステンである。バナジウム、マンガン、タングステン、および/またはモリブデンが、特に好ましい。d元素メタレートとしての検討から除外されるのは、あらゆる酸化状態のクロム酸塩である。特に好ましいd元素メタレートは、オキソアニオン、具体的にはタングステン酸塩、過マンガン酸塩、バナジウム酸塩、および/またはモリブデン酸塩である。d元素メタレートが単独で塩AAを形成する場合、すなわちランタニド金属カチオンおよび/またはd金属カチオンを用いない場合も、かかる塩の好ましい溶解度積SPに関する上述の説明は当てはまる。かかる塩の好ましいカチオンは、有機基で置換されたまたは置換されていないアンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、および/またはスルホニウムイオン;アルカリ金属カチオン、具体的には、リチウム、ナトリウム、および/またはカリウムなど;およびアルカリ土類金属カチオン、具体的にはマグネシウムおよび/またはカルシウムである。特に好ましいイオンは、有機基により置換または非置換のアンモニウムイオン、およびアルカリ金属カチオンであり、これらは塩AA側の特に高い溶解度積SPを確保する。
【0050】
腐食防止剤Kの成分BBとして、酸化可能な少なくとも1つの酸を使用するが、これは腐食防止剤のpHが1〜5、好ましくは2〜4となるように使用される。好ましい酸BBは、酸化性鉱酸、具体的には、硝酸、亜硝酸、硫酸、および/または亜硫酸などからなる群から選択される
pHを設定するために、必要な場合には、緩衝媒体、例えば強塩基および弱酸、具体的には酢酸アンモニウムなどの塩などを使用することができる。
【0051】
本発明のコーティング材に使用する連続相は、水、好ましくは脱イオン水および/または蒸留水である。
【0052】
本発明の好ましい一実施形態では、腐食防止剤Kの塗布前に、好ましくは洗剤および/またはアルカリ性洗浄剤を用いて、基板の特に油性および脂肪性の残留物を洗浄する。本発明の別の好ましい変形形態では、洗剤および/またはアルカリ性洗浄剤による洗浄のあと、腐食防止剤Kの塗布前に、水ですすぐ。本発明の別の好ましい実施形態では、基板表面から沈着物および/または化学的に改質された膜、特に酸化膜を除去するために、すすぎステップの前に、例えば研磨媒体を用いて、および/または例えば脱酸素洗浄剤を用いた表面膜の化学的除去によって、表面の機械的清浄をおこなう。
【0053】
このように前処理した基板を腐食防止剤Kと接触させる。これは好ましくは、基板を腐食防止剤Kを含む浴に浸漬する、あるいは通すことによって実施される。腐食防止剤K中の基板の滞留時間は、好ましくは1秒〜10分、好ましくは10秒〜8分、より好ましくは30秒〜6分となる。腐食防止剤Kを含む浴の温度は、好ましくは25〜90℃、より好ましくは30〜80℃、非常に好ましくは35〜70℃である。
【0054】
基板を本発明の腐食防止剤で処理した後、ブロー乾燥によって、または温度約30〜200℃での乾燥によって、基板および腐食防止剤を含む系の乾燥をおこなうことが好ましい。乾燥温度、および乾燥の種類または乾燥装置は、腐食防止剤Kの有利な効果にとってほぼ重要ではないとみなすことができる。
【0055】
好ましい方法の第2のステップでは、腐食防止剤Kでコーティングされた基板を本発明のコーティング材でコーティングする。これは好ましくは、コーティングされた基板を本発明のコーティング材を含む浴に浸漬する、または通すことによって実施される。本発明のコーティング材中の基板の滞留時間は、好ましくは1秒〜15分、より好ましくは10秒〜10分、非常に好ましくは30秒〜8分となる。本発明のコーティング材を含む浴の温度は、好ましくは20〜90℃、より好ましくは25〜80℃、非常に好ましくは30〜70℃である。
【0056】
本発明のコーティング材を用いて作成された自動泳動塗布後のコーティングの厚さは、好ましくは5〜900nm、特に好ましくは10〜800nmであり、これは防食効果を踏まえて、使用する材料を著しく減らすことを可能にする。
【0057】
本発明のコーティング材を用いて基板を処理した後、基板ならびに腐食防止剤Kおよび本発明のコーティング材のコーティングを含む系の乾燥を約30〜200℃、具体的には100〜180℃の温度でおこなうことが好ましい。乾燥装置は、本発明のコーティング材の有利な効果にとってほぼ重要ではないとみなすことができる。架橋性基Bおよび/またはB’が少なくとも部分的に放射線硬化性である場合、本発明のコーティング材のコーティングの放射線照射は、好ましくは当業者に周知の方法で、化学放射および/または電子線を用いておこない、適切な場合にはこれは熱処理に加えて実施される。
【0058】
下記の実施例は、本発明をさらに説明することを目的とする。
【0059】
実施例
実施例1a 腐食防止剤K1を有する第1槽の製造
水1リットルに、モリブデン酸アンモニウム四水和物1.77g(0.01モル)を溶解し、また表面活性物質OSとしてDisperbyk 184を0.1g溶解する。この溶液をアンモニアを用いてpH=2.5に調整する。前述のpHを設定するために、所望であれば、硝酸溶液での逆の緩衝を用いる。比較例1a’では、表面活性物質Disperbyk 184を含まずに、上記の配合物を使用した。
【0060】
実施例1b 腐食防止剤K2を有する第1槽の製造
水1リットルに、硝酸アンモニウムセリウム5.5g(0,01モル)、硝酸イットリウム六水和物3.8g(0.001モル)、フィチン酸(水中濃度40%)3.3gを溶解し、次に、同溶液にモリブデン酸アンモニウム四水和物1.77g(0.01モル)を溶解し、また表面活性物質OSとしてDisperbyk 184を0.1g溶解する。この溶液をアンモニアを用いてpH=2.5に調整する。前述のpHを設定するために、所望であれば、硝酸溶液での逆の緩衝を用いる。比較例1b’では、表面活性物質Disperbyk 184を含まずに、上記の配合物を使用した。
【0061】
実施例2a 本発明のコーティング材用のポリマー成分P1の合成
エタノール100g中に含まれる平均分子量Mw=800g/molのポリエチレンイミン(BASF AG製Lupasol FG、1級対2級対3級アミノ基の比(p−s−t)は、1:0.9:0.5)5g(6.25×10-3モル)を初期充填物として、窒素雰囲気下、75℃で導入する。エタノール86g中にイソチオシアン酸ベンゾイル10.7g(0.066モル)を含む溶液を45分間かけて添加する。この温度で4時間攪拌を継続し、生成物をさらに精製せずに使用する。
【0062】
実施例2b 本発明のコーティング材用のポリマー成分P2の合成
エタノール100g中に含まれる平均分子量Mw=2000g/molのポリエチレンイミン(BASF AG製Lupasol PR 8515、1級対2級対3級アミノ基の比(p−s−t)は、1:0.9:0.6)5g(6.25×10-3モル)を初期充填物として、窒素雰囲気下、75℃で導入する。エタノール86g中にイソチオシアン酸ベンゾイル10.3g(0.066モル)を含む溶液を45分間かけて添加する。この温度で4時間攪拌を継続し、生成物をさらに精製せずに使用する。
【0063】
実施例2c 本発明のコーティング材用の架橋剤V1の合成
ジエチル(ヒドロキシメチル)ホスホネート12g(0.07モル)を、ジメチルピラゾールで50%ブロックした分岐ポリイソシアネート(Bayer AG製Bayhydur VP LS 2319)の濃度81%酢酸ブチル溶液50g(NCO含有量5.81%)とともに、80℃で4時間反応させる。溶媒を除去したあと、30℃で、残留物を150mlの10M NaOHと混合し、混合物をこの温度で4時間処理する。これにより白色固体が得られ、これをさらに精製せずに使用する。
【0064】
実施例2d 本発明のコーティング材用の架橋剤V2の合成
水50ml中の塩化セリウム(III)七水和物3.1g(0.008モル)を初期充填物として導入する。溶液を水50mlに加えた4−ヒドロキシ桂皮酸4.1g(0.025モル)と水酸化ナトリウム1g(0.025モル)とから製造し、塩酸を用いてpH=7.9に調整する。この溶液をセリウム溶液にゆっくりと添加し、セリウム溶液のpHが6を上回って上昇しないようにする。沈殿物をエタノールと水とで洗浄する。
【0065】
このセリウム複合体1.7g(0.003モル)をジメチルピラゾールで75%ブロックされた分岐ポリイソシアネート(Bayer AG製Bayhydur VP LS 2319)9.1g(NCO含有量2.5%)と、酢酸エチル80.1gおよびOH−官能性ジプロピレントリアミン(Huntsmann製Jeffcat−ZR 50)0.7g中で、40℃で5時間反応させる。生成物は、さらに精製せずに使用する。
【0066】
実施例3a 本発明のコーティング材を有する第2槽の製造
水1リットルに、実施例2aおよび2bによるポリマー成分P1およびP2をいずれの場合も3g、またAlbritect CP30(ホスホン酸の割合およそ30%の、アクリル酸とビニルホスホン酸とのコポリマー、Rhodia)3gおよび実施例2cによる架橋剤V1 6g、ならびに表面活性物質OSとしてのDisperbyk 184(Byk−Chemie製)0.1gを溶解する。溶液を硝酸を用いてpH=2.5に調整する。前述のpHを設定するために、所望であれば、アンモニア水溶液での逆の緩衝を用いる。
【0067】
実施例3b 本発明のコーティング材を有する第2槽の製造
1リットルの水に、実施例2aによるポリマー成分P1 3gと、実施例2dによる架橋剤V2 2g、ならびに表面活性物質OSとしてのDisperbyk 184(Byk−Chemie製)0.1gを溶解する。この溶液を硝酸を用いてpH=2.5に調整する。前述のpHを設定するために、所望であれば、アンモニア水溶液での逆の緩衝を用いる。
【0068】
比較例3a’および3b’ 実施例3aおよび3bによる、表面活性物質OSを用いないコーティング材を有する第2槽の製造
実施例4a 腐食防止剤Kおよび本発明のコーティング材による基板のコーティング
基板(亜鉛メッキされた鋼板)を洗浄溶液(Henkel製Ridoline C72)を用いて55℃で5分間洗浄し、その後蒸留水ですすぐ。
【0069】
続いて、蒸留水ですすいだ板を直ちに実施例1aによる腐食防止剤K1の第1槽に45℃で4分間浸漬する。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0070】
その直後に、板を実施例3bによる本発明の腐食防止剤の第2槽に、35℃で5分間浸漬する。
【0071】
λ/4領域の可視光において、不可視ないし乳白光を発するコーティングが形成される。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0072】
続いて板を80℃で20分間乾燥させる。
【0073】
実施例4b 腐食防止剤Kおよび本発明のコーティング材による基板のコーティング
基板(亜鉛メッキされた鋼板)を洗浄溶液(Henkel製Ridoline C72)を用いて55℃で5分間洗浄し、その後蒸留水ですすぐ。
【0074】
続いて、蒸留水ですすいだ板を直ちに実施例1bによる腐食防止剤K2の第1槽に45℃で4分間浸漬する。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0075】
その直後に、板を実施例3aによる本発明の腐食防止剤の第2槽に、35℃で5分間浸漬する。λ/4領域の可視光において、不可視ないし乳白光を発するコーティングが形成される。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0076】
続いて板を80℃で20分間乾燥させる。
【0077】
実施例4a’ 腐食防止剤Kおよびコーティング材による基板のコーティング(表面活性物質OSを用いない)
基板(亜鉛メッキされた鋼板)を洗浄溶液(Henkel製Ridoline C72)を用いて55℃で5分間洗浄し、その後蒸留水ですすぐ。
【0078】
続いて、蒸留水ですすいだ板を直ちに実施例1a’による腐食防止剤K1の第1槽に(表面活性物質OSを用いずに)45℃で4分間浸漬する。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0079】
その直後に、板を実施例3b’による本発明の腐食防止剤の第2槽に、(表面活性物質OSを用いずに)35℃で5分間浸漬する。λ/4領域の可視光において、不可視ないし乳白光を発するコーティングが形成される。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0080】
続いて板を80℃で20分間乾燥させる。
【0081】
実施例4b’ 腐食防止剤Kおよびコーティング材による基板のコーティング(表面活性物質OSを用いない)
基板(亜鉛メッキされた鋼板)を洗浄溶液(Henkel製Ridoline C72)を用いて55℃で5分間洗浄し、その後蒸留水ですすぐ。
【0082】
続いて、蒸留水ですすいだ板を直ちに実施例1b’による腐食防止剤K2の第1槽に(表面活性物質OSを用いずに)45℃で4分間浸漬する。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0083】
その直後に、板を実施例3a’による本発明の腐食防止剤の第2槽に、(表面活性物質OSを用いずに)35℃で5分間浸漬する。λ/4領域の可視光において、不可視ないし乳白光を発するコーティングが形成される。その後、コーティングした板を蒸留水ですすぎ、窒素でブロー乾燥する。
【0084】
続いて板を80℃で20分間乾燥させる。
【0085】
実施例5 実施例4のとおりにコーティングされた基板に対する、Harrison溶液を用いた促進腐食試験
完全脱塩水1000ml中のHarrison溶液(NaCl 5g+(NH42SO4 35g)を使用する。ここで使用できる基板は、鋼鉄、亜鉛メッキされた鋼、または亜鉛合金である。上記で説明したコートでコーティングした試料(6×6cm)の表面に、直径48mm、高さ6cmのプラスチック製シリンダーを接着剤(Scrintec 600透明シリコン接着剤、RTV 1k オキシム系(Ralicks製、46459 Rees、ドイツ))を用いて付着させる。Harrison溶液70mlをこのシリンダーに入れる。これらの試料を用いて、電気化学インピーダンス測定(EIS)を2電極配列、1MHz〜100mHz、振幅1mVおよび開路電位で、対極として白金メッシュを使用して実施する。上述のように製造した試料を、最高温度および最低温度をそれぞれ1時間以内に通過するようにした25℃〜73℃の温度範囲で、合計20サイクルの大気曝露をおこなう。このサイクルのあと、もはや乾燥したシリンダーにHarrison溶液30mlを再度充填し、10分の滞留時間後、この溶液を使用して、ICP−OES(誘導結合プラズマ−発光分析)によって、大気曝露の過程で溶解したあらゆるイオンを判定する。続いて、再び、Harrison溶液70mlをシリンダーに導入し、さらなるEIS測定を実施する。EIS測定後、促進試験によるさらなる大気曝露を実施し、その後再び、ICP−OES試料を採取して、さらなるEIS測定を実施する。
【0086】
測定値は、二重判定によって検証する。
【0087】
腐食試験の評価:
a)浸漬溶液のICP−OESデータ
ICP−OESデータは、試料の面積に対して標準化する。これらのデータは、線形プロットを生成する。腐食反応速度の線形性により、グラフの傾斜によって様々なコーティングを比較することが可能である。ICP−OESデータは、単位面積当たりおよび単位時間当たりの基板の溶解を再現するため、いかなる特定のコーティングの場合にも可能な、腐食速度の直接の指標である。
【0088】
b)EIS測定値
EIS測定値を孔形成に関して、またはスペクトルのその他の時定数に関して解釈する。この場合、コーティングを見ることだけでなく、特性に関して、コーティング材をより効果的に特徴付けることが可能である。
【0089】
腐食試験の評価:
第1表 腐食試験の結果
【表1】

【0090】
腐食試験の結果は、市販の常用の腐食抑制組成物(Granodine)と比較して、また表面活性物質OSを含有しない本発明の腐食抑制剤と比較して、本発明のコーティング材による腐食抑制の改善を明らかに示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板用水性コーティング材であって、
a)前記基板の腐食時に放出される金属イオン、および/または基板表面とキレートを形成する、共有結合した配位子Aを備え、
b)それ自身と、前記ポリマーPの別の相補的官能基B’と、および/または別の官能基Bおよび/またはB’とともに、架橋剤Vとの共有結合を形成することができる架橋性官能基Bを有する、水分散性および/または水溶性ポリマーPと、
コーティングされる前記基板の表面に表面活性な、少なくとも1つの物質OSと、
を含む、金属基板用水性コーティング材。
【請求項2】
前記表面活性物質OSが、前記コーティング材に基づき、10-4〜5質量%の割合で存在する、請求項1に記載の水性コーティング材。
【請求項3】
前記表面活性物質OSが、ポリアルキレングリコール、ポリビニルラクタム、ポリビニルイミダゾール、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、アルキルカルボン酸およびその塩、α,ω−ジカルボン酸およびその塩、α,ω−ジアルコール、α,ω−ジアミンならびにジアミドおよびそれらの塩、アルキルスルホン酸およびその塩、アルキルリン酸ならびにアルキルホスホン酸およびそれらの塩の群から選択される、少なくとも1つの成分KOSを含む、請求項1または2に記載の水性コーティング材。
【請求項4】
前記架橋剤Vは、共有結合した配位子Aを含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の水性コーティング材。
【請求項5】
前記配位子Aが、尿素、アミン、アミド、イミン、イミド、ピリジン、有機硫黄化合物、有機リン化合物、有機ホウ素化合物、オキシム、アセチルアセトネート、ポリアルコール、酸、フィチン酸、アセチレン、および/またはカルベンからなる群から選択される、請求項1から4までのいずれか1項に記載の水性コーティング材。
【請求項6】
前記ポリマーPおよび前記架橋剤Vが、熱的におよび/または放射線によって架橋可能な架橋性基Bおよび/またはB’を含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の水性コーティング材。
【請求項7】
カチオン性構成物質としてランタニド金属カチオン、および/またはクロムカチオンを除くd金属カチオンを含有する塩をさらに含む、請求項1から6までのいずれか1項に記載の水性コーティング材。
【請求項8】
自動泳動塗布後のコーティングの厚さが5〜900nmである、請求項1から7までのいずれか1項に記載の水性コーティング材の自動泳動塗布のための方法。
【請求項9】
前記基板を請求項1から7までのいずれか1項に記載のコーティング材の浴に、1秒〜15分間、20〜90℃の温度で浸漬するステップを含む、金属基板の腐食抑制処理のための方法。
【請求項10】
金属基板の腐食抑制処理のための2段階方法であって、
(I)第1ステップにおいて、前記基板を腐食防止剤Kの浴に浸漬し、その結果前記基板表面における転換をもたらすステップと、
(II)第2ステップにおいて、ステップ(I)のとおりに処理された前記基板を請求項1から7までのいずれか1項に記載のコーティング材の浴に浸漬するステップと、
を含む方法。
【請求項11】
前記第1ステップ(a)において、そのカチオンとして、ランタニド金属および/またはクロムを除くd元素金属を有する、および/またはそのアニオンとして、クロムを含有するメタレートを除くd元素メタレートを有する、少なくとも1つの化合物と、リン酸および/またはクロム酸を除く、酸化が可能な少なくとも1つの酸とを含む水性腐食防止剤Kが使用される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1から7までのいずれか1項に記載のコーティング材の沈着後、前記基板は、温度50〜200℃で熱的に、および/または放射線照射によって後処理される、請求項8から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記基板が、Fe、Al、および/またはZnからなる群から選択される金属少なくとも20質量%を含有する、請求項8から12までのいずれか1項に記載の方法。

【公表番号】特表2010−509503(P2010−509503A)
【公表日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−536614(P2009−536614)
【出願日】平成19年9月19日(2007.9.19)
【国際出願番号】PCT/EP2007/008136
【国際公開番号】WO2008/058587
【国際公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【出願人】(390008981)ビーエーエスエフ コーティングス アクチェンゲゼルシャフト (155)
【氏名又は名称原語表記】BASF Coatings AG
【住所又は居所原語表記】Glasuritstrasse 1, D−48165 Muenster,Germany
【Fターム(参考)】