説明

二官能化された多糖類

【課題】本発明は、特に治療および/または予防の目的で、人または動物への有効成分の投与のために用いられる、少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化された、新規な多糖類、そして特にはデキストリンを提供するものである。
【解決手段】本発明は、少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化されたデキストランおよび/またはデキストラン誘導体に関し、このイミダゾリル基およびこの疎水性基はそれぞれ同一および/または異なっており、また1つまたはそれ以上の連結基R、RiもしくはRhおよび官能基F、FiもしくはFhを経由して、デキストランおよび/またはデキストラン誘導体にグラフトまたは結合している。また本発明は、前記のデキストランおよび少なくとも1つの有効成分を含む医薬組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多糖類系の、そして特にはデキストラン系の、新規な生分解性のポリマーに関する。
【背景技術】
【0002】
これらのポリマーは、特に治療および/または予防の目的で、人または動物への有効成分(AP)の投与のために用いられる。これらのポリマーはまた、内在の有効成分の薬効を高め、また保護するのに役立つことができる。
【0003】
これらのポリマーはいくつかの用途に合致するように設計されてきている。
・全身的なAP、例えばタンパク質、例えばインスリンまたは成長ホルモンの放出。
・局部的なAP、例えば成長因子、例えば形質転換成長因子または骨形態形成タンパク質の放出。
・体外での(in vitro)細胞培養。
・体内での(in vivo)細胞の移植。
・APが内在の成長因子である治療。
【0004】
これらの分野において研究がなされてきたにも関わらず、これらの用途に関して多くの問題が残っている。先ず第一に、タンパク質の全身的な放出については、APの濃度を長期にわたって一定に保つことが望ましい。実際は、インスリン用の、例えばランタス(Lantus)という製品の場合には、その濃度は1日を通して変化する可能性があり、それは高血糖をもたらす可能性がある。成長因子の投入の場合には、これは強力な局部的治療薬剤であるので、主要な問題の1つは、それの全身的な循環を防止するために、それを投与したその場所に保持することにあり、このことはシーハーマン(Seeherman)の、「サイトカインおよび成長因子の総説(Cytokines and Growth Factors Reviews)」、2005年、第16巻、p.329〜345にまとめられている。細胞培養の場合は、成長因子の供給が有益であることが認められている。しかしながら、溶液中でのこれらの分子の低い安定性のために、これらの高価な薬剤を大量に使用しなければならない。
【0005】
そこで、以下の事柄を可能にする医薬組成物に対する未だに満足されていない必要性が存在している。
・全身的AP、例えばインスリンまたはhGHの放出時間を延長すること。
・例えばAPが成長因子である場合には、有効成分を投与された場所に保持すること。
・細胞培養に用いられる、通常は成長因子であるAPの量を制限すること。
・特に治療の場合に、内在するAPの作用を促進すること。
【0006】
これらの医療上の目的を達成するための新規なポリマーを開発する多くの試みにも関わらず、薬物送達分野においては今までPLAGAだけが承認されている。これらのポリマーは、水性の媒体中で、APを含む高密度の固体を形成する。この場合には、APは数週間にわたって放出されていることができ、これは望ましい目的の1つである。製剤の1つの例はニュートロピンデポ(Nutropin Depot.)であり、アルケルメス(Alkermes)およびジェネンテック(Genentech)により開発され、人成長ホルモンの長期に及ぶ放出(2週間)のためのものであり、国際公開第95/29664号パンフレットに記載されている。
【0007】
しかしながら、この取り組みは、以下のような多くの欠点に悩まされている。
・「破裂」効果、すなわちAPのかなりの部分が、注入の後で即座に放出されること。
・PLAGAポリマーの化学的分解、これは固体の内部に乳酸およびグリコール酸を形成し、この酸はポリマーの分解を触媒し、また場合によっては、APの分解を触媒する。
・酸性の局部的な増大は炎症の原因である。これらの2つの現象はアンダーソン(Anderson)による報文、アドヴドラッグデルレヴ(Adv. Drug Del. Rev.)、1997年、第28巻、p.5〜24に記載されている。
【0008】
これらの理由により、ニュートロピンデポ(Nutropin Depot.)は市場から最近撤退している。
【0009】
アトリックス(Atrix)は、米国特許第5990194号明細書の中に、アトリゲル(Atrigel)の名称で、ぺプチド、ロイプロリドの放出のためのPLAGAの使用を記載しており、これは有機溶媒系の製剤である。上記のPLAGAに関する問題に加えて、この技術は以下の欠点を示している。
・有機溶媒の注入。アトリゲル(Atrigel)の場合にはこの溶媒はCMR化合物に分類される。
・NMPの変性効果のために、この系はタンパク質に適用することが困難である。
【0010】
製薬のAPの制御された放出を目的とした他の製剤は架橋可能なポリマーを用いているが、多くの研究努力にも関わらず、医薬組成物中に含まれる生体材料はいずれも、有効成分の全身的放出または局部的放出を制御するための、有効成分の注入可能性の要求と、有効成分を投入の場所に保持する要求を、同時に解決することを可能にはしない。
【0011】
本発明は、少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化された、新規な多糖類、そして特にはデキストリンに関し、それは今日まで解決策が見出されなかった、上記で目標とした用途を満足することを可能にする。官能化された多糖類の中で、その酸がアミン、そして特にはイミダゾール環を持つアミンによって変性されているペクチン(ガラクツロナン)を、国際公開第99/09067号パンフレットから知ることができる。これらの単官能性化されたポリマーは両親媒性ではない。
【0012】
疎水性基によって単官能化された他の多糖類が当業者には知られている。アキヨスキー(Akiyoski)らの、制御された放出誌(J. Controlled Release)、1998年、第54巻、p.313〜320の研究には、インスリンの制御された放出のためのコレステロールによって変性されたプルランが記載されている。
【0013】
デラシェリー(Dellacherie)らは、仏国特許第2794763号明細書中にC12またはC18の脂肪族アルキル鎖によって変性されたヒアルロン酸誘導体を記載している。このグループはまた、仏国特許第2781677号明細書に、脂肪族アルキル鎖によって変性されたアルギン酸誘導体を記載している。
【0014】
官能化されたデキストランの中で、米国特許第6646120号明細書に記載されている、バイオデックス(Biodex)からのカルボキシメチルデキストランは、ベンジルアミンによって変性されている。これらのポリマーはイミダゾリル基によっては官能化されていない。
【0015】
デラシェリー(Dellacherie)らはまた、疎水性物質によって官能化されたデキストランを記載しており(デュラン、エー(Durand A.)ら、生体高分子(biomacromolecules)、2006年、第7巻、p.958〜964)、(デュラン、アラン(Durand, Alain)ら、コロイドポリマー科学(Colloid polym. Sci.)、2006年、第284巻、p.536〜545)、それはデキストランのヒドロキシ官能基とエポキシド(フェニルグリシジルエーテル、1,2−エポキシオクタンまたは1,2−エポキシドデカン)との反応によって得られている。従って、そこに記載されているポリマーはイミダゾリル基によって2官能化されておらず、またイミダゾリル基を有してもいない。
【0016】
バウアー(Bauer)らは、米国特許第5750678号明細書中にC10〜C14の脂肪酸によって官能化されたデキストランを記載している。これらのポリマーもまた、単官能化されている。
【0017】
デキストラン系の官能性ポリマーの最近の総説(ハインツ、トーマス(Heinze, Thomas)ら、ポリマー科学の発展(Adv. Polym. Sci.)、2006年、第205巻、p.199〜291)には、疎水性物質およびイミダゾリル基によって2官能化されたデキストランは報告されていない。
【0018】
求核試薬によるアニオン性多糖類の化学変性によって水中に不溶となった組成物もまた、国際公開第92/20349号パンフレットによって知られている。ヒスチジンおよびその誘導体のいくつかが求核試薬の中に現れるが、しかしながらこれらのポリマーは単官能性である。
【0019】
従って、本発明の2官能化された多糖類、そして特には2官能化されたデキストランは、これらの従来技術では知られていない。
【0020】
【特許文献1】国際公開第95/29664号パンフレット
【特許文献2】米国特許第5990194号明細書
【特許文献3】国際公開第99/09067号パンフレット
【特許文献4】仏国特許第2794763号明細書
【特許文献5】仏国特許第2781677号明細書
【特許文献6】米国特許第6646120号明細書
【特許文献7】米国特許第5750678号明細書
【特許文献8】国際公開第92/20349号パンフレット
【非特許文献1】シーハーマン(Seeherman)、「サイトカインおよび成長因子の総説(Cytokines and Growth Factors Reviews)」、2005年、第16巻、p.329〜345
【非特許文献2】シーハーマン(Seeherman)、「サイトカインおよび成長因子の総説(Cytokines and Growth Factors Reviews)」、2005年、第16巻、p.329〜345
【非特許文献3】アンダーソン(Anderson)、アドヴドラッグデルレヴ(Adv. Drug Del. Rev.)、1997年、第28巻、p.5〜24
【非特許文献4】アキヨスキー(Akiyoski)ら、制御された放出誌(J. Controlled Release)、1998年、第54巻、p.313〜320
【非特許文献5】デュラン、エー(Durand A.)ら、生体高分子(biomacromolecules)、2006年、第7巻、p.958〜964
【非特許文献6】デュラン、アラン(Durand, Alain)ら、コロイドポリマー科学(Colloid polym. Sci.)、2006年、第284巻、p.536〜545
【非特許文献7】ハインツ、トーマス(Heinze, Thomas)ら、ポリマー科学の発展(Adv. Polym. Sci.)、2006年、第205巻、p.199〜291
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明は、今日まで解決策が見出されなかった、上記で目標とした用途を満足することを可能にする、少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化された、新規な多糖類、そして特にはデキストリンを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
従って、本発明は少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化された多糖類に関し、このイミダゾリル基およびこの疎水性基はそれぞれ同一および/または異なっており、また1つまたはそれ以上の連結基R、RiもしくはRhおよび官能基F、FiもしくはFhを経由して多糖類にグラフトまたは結合している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
1つの実施態様では、本発明による多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、キトサン、ガラクツロナン、コンドロイチン硫酸塩、デキストラン、カルボキシメチルデキストランおよびカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる。
【0024】
1つの実施態様では、本発明による多糖類は、ヒアルロン酸、アルギン酸塩、キトサンおよびカルボキシメチルデキストランからなる群から選ばれる。
【0025】
1つの実施態様では、本発明による多糖類は、デキストランおよびカルボキシメチルデキストランからなる群から選ばれる。
【0026】
本発明は、少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化されたデキストランおよび/またはデキストラン誘導体に関し、このイミダゾリル基およびこの疎水性基はそれぞれ同一および/または異なっており、また1つまたはそれ以上の連結基R、RiもしくはRhおよび官能基F、FiもしくはFhを経由して、デキストランおよび/またはデキストラン誘導体にグラフトまたは結合している。
・Rは、1〜18の範囲の炭素原子を含み、ただし、分岐していてもよいし、および/もしくは不飽和でも、1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えばO、Nおよび/もしくはSを含んでいてもよい、化学結合または鎖からなる連結基を表す。
Rは、イミダゾリル基を保持する場合にはRiと表し、また疎水性基を保持する場合にはRhを表し、RiとRhは同じでも異なっていてもよい。
・Fは、エステル、チオエステル、アミド、炭酸塩、カルバミン酸塩、エーテル、チオエーテルまたはアミン官能基から選ばれた官能基を表す。
Fは、イミダゾリル基を保持する場合にはFiと表し、また疎水性基を保持する場合にはFhと表し、FiとFhは同じでも異なっていてもよい。
・Imは、炭素原子の1つがC〜Cアルキル基(Alky)によって置換されていてもよい、下式のイミダゾリル基を表す。
【0027】
【化1】

【0028】
・Hyは、下記の基から選ばれる疎水性基を表す。
・線状もしくは分岐したC〜C30のアルキル基(ただし、不飽和であってもよいし、および/または1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えばO、NもしくはSを含んでいてもよい。)
・線状もしくは分岐したC〜C30のアルキルアリール基またはアリールアルキル基(ただし、不飽和であってもよいし、および/またはヘテロ原子を含んでいてもよい。)
・C〜C30の多環式基(ただし、不飽和であってもよい。)
前記のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、それが溶液中にある場合には両親媒性である。
1つの実施態様では、デキストランおよび/またはデキストラン誘導体は酸性のpHで両親媒性である。
【0029】
本明細書の中では、用語「デキストラン」は、本発明によれば、デキストランおよびデキストラン誘導体を意味すると理解される。
デキストラン誘導体は、1つの実施態様では、カルボキシル化誘導体である。
デキストランのカルボキシル化誘導体は、特にはカルボキシメチルデキストランおよび無水コハク酸およびデキストランの間の反応生成物から選ばれる。
【0030】
本発明によれは、2官能化されたデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、次の一般式に該当していてよい。
【0031】
【化2】

【0032】
nは1〜3の範囲であり、
iは、1つの単糖単位に対するイミダゾリル基のモル分率を表し、0.1〜0.9の範囲である。
hは、1つの単糖単位に対する疎水性基のモル分率を表し、0.01〜0.5の範囲である。
【0033】
【化3】

【0034】
nは1〜3の範囲である。
iは、1つの単糖単位に対するイミダゾリル基のモル分率を表し、0〜0.9の範囲である。
kは、1つの単糖単位に対する疎水性基のモル分率を表し、0.01〜0.5の範囲である。
【0035】
驚くべきことに、本発明による、少なくとも1つのイミダゾリル基および少なくとも1つの疎水性基によって2官能化されたデキストランは、生理的なpHで凝固し、更にポリマー中でのAPの保持を可能にする。従って、有効成分は、分解されることや、変性されることのいずれもなく、生体内で注入の場所に保持される。
【0036】
用語「凝固」は、ポリマーが固体を形成する、またはヒドロゲルを形成することのいずれかができることを意味すると理解される。
【0037】
ヒドロゲルは、コロイドの一種であり水性媒体中で得られ、その中では液体が、その系中に微細な網目組織を形成している固体を含んでいる。その固体相および液体相は、その中で連続している。
【0038】
2種の2官能化デキストランが本発明に該当しており、カチオン性デキストランおよびアニオン性デキストランである。
【0039】
本発明によるカチオン性デキストランは、6未満のpHの範囲で均質な溶液を形成し、そして生理的pHに近いpHで凝固する特性を有する。
【0040】
生理的pHに近いpHでは、全てのまたは一部の荷電された、そして従って親水性のイミダゾールセグメントは、中性のセグメントに転換され、そのことがその凝固をもたらす。
【0041】
この凝固の効果は、ポリマーのイミダゾリル環および、有効成分上に恐らく存在するであろうイミダゾリル環と、多価の遷移金属、例えば亜鉛との配位による物理的架橋の効果と組み合わせることができる。この配位は6超のpHでのみ起こる。
【0042】
本発明のアニオン性デキストランは中性のpHで均質な溶液を形成し、そして遷移金属塩の存在下で、生理的pHに近いpHで凝固する特性を有している。
【0043】
アニオン性デキストランが均質な溶液を形成する場合は、本発明のデキストランは両親媒性であり、そして従ってミセルおよび/またはナノ粒子の形態で溶解している。
【0044】
生理的pHに近いpHでは、物理的な架橋効果によってもたらされる凝固は、ポリマーのイミダゾリル環および、有効成分上に恐らく存在するであろうイミダゾリル環と、多価の遷移金属、例えば亜鉛との配位によって起こる。
【0045】
下記の図式は、生理的pHでの金属塩の、ポリマーまたはAPによって保持されているイミダゾールとの作用の様式を示している。
【0046】
【化4】

【0047】
生理的pHで凝固が得られることを可能にするポリマーの特性に応じて、注入可能な製剤が、該ポリマーが均質な溶液を形成するpH領域で調製される。
【0048】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Ri基が、それが結合でない場合には、以下の基から選ばれることを特徴としている。
【0049】
【化5】

【0050】
n=1〜6
R1=H、COOH、COOR2、CONH
R3=H、R2、Hy
R2は、1〜18の炭素原子を含むアルキル基から選ばれる。
【0051】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Ri基が結合であることを特徴としている。
【0052】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、イミダゾール−Ri基がヒスチジンエステル、ヒスチジノール、ヒスチジンアミドまたはヒスタミンをグラフトすることによって得られる基から選ばれることを特徴としている。
【0053】
それらのイミダゾール誘導体は以下のように表すことができる。
【0054】
【化6】

【0055】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体はHyが、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、コレステロール誘導体、例えばコール酸、およびフェノール、例えばα−トコフェロール、からなる群から選ばれることを特徴としている。
【0056】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Rh基が、それが結合でない場合には、以下の基から選ばれることを特徴としている。
【0057】
【化7】

【0058】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Rh基が結合であることを特徴としている。
【0059】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Ri基が、それが結合でない場合には、以下の基から選ばれることを特徴としている。
【0060】
【化8】

【0061】
n=1〜6
R1=H、COOH、COOR2、CONH
R3=H、R2、Hy
R2は、1〜18の炭素原子からなるアルキル基から選ばれる。
また、Rh基は結合である。
【0062】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、イミダゾール−Ri基が、ヒスチジンエステル、ヒスチジノール、ヒスチジンアミドまたはヒスタミンから選ばれることを特徴としている。
【0063】
1つの実施態様では、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、Hyが脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、コレステロール誘導体、例えばコール酸、フェノール、例えばα−トコフェロールおよび疎水性アミノ酸、からなる群から選ばれることを特徴としている。
【0064】
この疎水性アミノ酸は、トリプトファン誘導体、例えばトリプトファンエチルエステル、フェニルアラニン誘導体、ロイシン誘導体、バリン誘導体またはイソロイシン誘導体から選ばれる。
【0065】
デキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、10〜10000の範囲の重合度mを有することができる。
【0066】
1つの実施態様では、それは10〜1000の範囲の重合度mを有している。
【0067】
他の実施態様では、それは10〜500の範囲の重合度mを有している。
【0068】
本発明はまた、上記の本発明による1つのデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および少なくとも1つの有効成分を含む医薬組成物に関する。
【0069】
用語「有効成分」は、生理学的な活性を有する、単一の化学物質の形態の、または配合物の形態の生成物を意味すると理解される。前記の有効成分は外因性であることができ、換言すると、本発明による組成物によって持ち込まれる。有効成分はまた内因性であることができ、例えば成長因子であって、それは治癒の第一段階では傷の中に隠れており、そしてそれは本発明による組成物によって前記の傷上に保持されていることができる。
【0070】
本発明はまた、上記の本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体の1つと遷移金属塩とを含む医薬組成物に関する。
1つの実施態様では、この遷移金属は、亜鉛、鉄、銅およびコバルトからなる群から選ばれる。
【0071】
本発明はまた、均質な水溶液または水性懸濁液の形態で、6未満のpHで提供されることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0072】
本発明はまた、6未満のpHの、均質な溶液および/または懸濁液がミセルおよび/またはナノ粒子からなることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。用語「ナノ粒子」は、その平均直径が600nm未満である、水性懸濁液中の物を意味すると理解される。
【0073】
本発明はまた、生理的pHに近いpHで、微小粒子の水性懸濁液の形態で提供されることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。用語「微小粒子」は、平均直径が600nm超のものを意味すると理解され、また「生理的pHに近いpH」は、6〜8の範囲のpHを意味すると理解される。
【0074】
本発明はまた、静脈内に、筋肉内に、骨内に、皮下に、経皮で、または眼に投与することができることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0075】
本発明はまた、経口で、経鼻的に、経膣的に、または口腔投与することができることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0076】
本発明はまた、固体の形態で提供されることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0077】
本発明はまた、pHによって制御された凝固によって得られることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0078】
1つの実施態様では、凝固は6.5超のpHで行われる。
【0079】
本発明はまた、乾燥および/または凍結乾燥によって得られることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0080】
本発明はまた、ステント、インプラント可能な生体材料の膜もしくは被覆、またはインプラントの形態で投与することができることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0081】
本発明はまた、注入の場所で物理的な架橋を受けることを特徴とする、上記の組成物に関する。
【0082】
本発明はまた、有効成分の、注入の場所での保持を可能にすることを特徴とする、上記の組成物に関する。
【0083】
本発明による医薬組成物は、当業者に知られた慣用の医薬製剤技術によって得られ、また商業的に、もしくは使用の時のいずれでも調製することができる。
【0084】
本発明はまた、有効成分が、タンパク質、糖タンパク質、ペプチドおよび非ペプチド治療用分子からなる群から選ばれることを特徴とする、上記の本発明による医薬組成物に関する。
【0085】
本発明によれば、タンパク質または糖タンパク質は、ホルモン、例えばインスリンもしくはhGHから、または成長因子、例えば形質転換成長因子−β(TGF−β)のスーパーファミリーの一員、例えば骨形態形成タンパク質(BMP)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン(IL)型のサイトカインまたはインターフェロン(IFN)、から選ばれる。
【0086】
医療の治療用の用途としては次のものが挙げられる。
・AP、例えば成長因子、例えばTGF類、BMP類、PDGF類、NGF類、VEGF類、IGF類、FGF類またはEGF類の局部的な放出。
・AP、例えばタンパク質、例えばインスリン、成長ホルモン、EPO、IL類、またはIFN類の全身的な放出。
・細胞の生体内投与。
・体外での細胞の培養。
・AP類が内因性の成長因子であるところの治療。
【0087】
有効成分が、タンパク質、糖タンパク質、ペプチドおよび非ペプチド治療用分子からなる群から選ばれる、上記の発明による組成物は、組成物の総質量に対して0.005質量%〜2質量%の範囲の有効成分を含んでいる。
【0088】
1つの実施態様では、この組成物は、組成物の総質量に対して0.01質量%〜0.5質量%の範囲のタンパク質、糖タンパク質、ペプチドおよび非ペプチド治療用分子を含む。
【0089】
成長因子、とくにBMP類の局部的な放出において、引用した医療用途の中で目標とされるのは、骨粗しょう症によって衰弱した骨の局部的処置である。これらの処置は、特に臀部、手首および脊椎の、骨折し、また強い物理的圧力を受ける骨の最も迅速な再生からなっている。これらの処置は、骨折した場合には治療的であり、また高い危険性の状況では予防的である。
【0090】
本発明は、従って、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/もしくは組成物の、骨粗しょう症によって衰弱した骨の局部的な処置を意図した薬剤の製剤または処置における使用に関する。
【0091】
この特定の場合において、この組成物は、組成物の総質量に対して0.005%〜2%の範囲のBMPを含んでいる。
【0092】
1つの実施態様では、この組成物は、組成物の総質量に対して0.01%〜0.5%の範囲のBMPを含んでいる。
【0093】
成長因子、特にNGF類、またはTGF−β類の局部的な放出において、引用した医療用途の中で目標とされるのは、神経組織の再生のための処置である。
【0094】
本発明は従って、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/もしくは組成物の、神経組織の再生を意図した薬剤の製剤または処置における使用に関する。
【0095】
この特定の場合において、この組成物は、組成物の総質量に対して0.005%〜2%の範囲のNGFまたはTGF−βを含んでいる。
【0096】
1つの実施態様では、この組成物は、組成物の総質量に対して0.01%〜0.5%の範囲のNGFまたはTGF−βを含んでいる。
【0097】
成長因子、特にTGF−β、PDGF類またはVEGF類の局部的な放出において、引用した医療用途の中で目標とされるのは、心臓血管組織の再生のための処置である。
【0098】
本発明は従って、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/もしくは組成物の、心臓血管組織の再生を意図した薬剤の製剤または処置における使用に関する。
【0099】
この特定の場合において、この組成物は、組成物の総質量に対して0.005%〜2%の範囲のVEGFまたはTGF−βを含んでいる。
【0100】
1つの実施態様では、組成物は、組成物の総質量に対して0.01%〜0.5%の範囲のVEGFまたはTGF−βを含んでいる。
【0101】
成長因子、特にPDGF類またはFGF類の局部的な放出において、引用した医療用途の中で目標とされるのは、皮膚組織の再生のための処置である。
【0102】
本発明は従って、本発明によるデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/もしくは組成物の、皮膚組織の再生を意図した薬剤の製剤または処置における使用に関する。
【0103】
この特定の場合において、この組成物は、組成物の総質量に対して0.005%〜2%の範囲のPDGFまたはFGFを含んでいる。
【0104】
1つの実施態様では、この組成物は、組成物の総質量に対して0.01%〜0.5%の範囲のPDGFまたはFGFを含んでいる。
【0105】
本発明によれば、タンパク質は、インスリンまたは成長ホルモンhGHからなる群から選ばれる。
【0106】
本発明によれば、非ペプチド治療用分子は、抗がん剤、例えばタクソールまたはシスプラチンからなる群から選ばれる。
【0107】
この特定の場合において、この組成物は、組成物の総質量に対して0.005%〜2%の範囲のインスリンまたは成長ホルモンhGHを含んでいる。
【0108】
1つの実施態様では、この組成物は、組成物の総質量に対して0.01%〜0.5%の範囲のインスリンまたは成長ホルモンhGHを含んでいる。
【0109】
本発明によれば、有効成分は、ロイプロリドまたは副甲状腺ホルモン(PTH)の短シーケンスから選ばれるペプチドの群から選ばれる。
【0110】
本発明の医薬組成物は、液体の形態(水性懸濁液もしくは溶媒混合物中の懸濁液中のナノ粒子または微小粒子)、または粉体、インプラント、膜、ゲルまたはクリームの形態のいずれかで提供される。
【0111】
局部的な、また全身的な放出の場合には、想定された投与の様式は皮下の、皮内の、筋肉内の、経口の、経鼻的、経膣的、眼への、口腔の、などの投与である。
【0112】
本発明の医薬組成物は、従って、長期にわたっての制御された放出のための1種またはそれ以上の医薬の有効成分を含むインプラントを形成するのに用いることができる。この用途は、固形腫瘍の抗がん剤での治療または細胞再生に特に有利である。
【0113】
本発明はまた、タンパク質、糖タンパク質、ペプチドおよび非ペプチド治療用分子からなる群から選ばれた有効成分を含む、注入場所で物理的に架橋した医薬組成物に関する。
【0114】
本発明はまた、上記のような医薬組成物の調製における、本発明による2官能化されたデキストランおよび/またはデキストラン誘導体の使用に関する。
【実施例】
【0115】
実施例1
ヒスチジンエチルエステルおよびベンジルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、NMP中でN−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ベンジルアミンとそれからヒスチジンエチルエステルをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは下記の構造を有していた。
【0116】
【化9】

【0117】
HisOEtは下式の通り。
【0118】
【化10】

【0119】
変性された酸官能基の水準は次の通りである。
−ヒスチジンエチルエステルによって55%、
−ベンジルアミンによって45%。
変性されなかった酸の水準は0であった。
【0120】
実施例2
ヒスチジンエチルエステルおよびドデシルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、DMF中でN−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンエチルエステルおよびドデシルアミンをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは下記の構造を有していた。
【0121】
【化11】

【0122】
HisOEtは下式の通り。
【0123】
【化12】

【0124】
変性された酸官能基の水準は次の通りである。
−ヒスチジンエチルエステルによって85%、
−ドデシルアミンによって10%。
変性されなかった酸の水準は5%であった。
【0125】
実施例3
ヒスチジンアミドおよびベンジルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、NMP中でN−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンアミドおよびベンジルアミンをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは下記の構造を有していた。
【0126】
【化13】

【0127】
HisNHは下式の通り。
【0128】
【化14】

【0129】
変性された酸官能基の水準は次の通りである。
−ヒスチジンアミドによって65%、
−ベンジルアミンによって30%。
変性されなかった酸の水準は5%であった。
【0130】
実施例4
ヒスチジンエチルエステルおよびトリプトファンエチルエステルによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、DMF中で0℃で、N−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンエチルエステルおよびトリプトファンエチルエステルをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは、変性された酸官能基の水準によって以下のように特徴づけられた。
−ヒスチジンエチルエステルによって70%、
−トリプトファンエチルエステルによって30%。
変性されなかった酸の水準は0であった。
【0131】
実施例5
ヒスチジンエチルエステルおよびトリプトファンエチルエステルによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が0.7)を、DMF中で0℃で、N−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンエチルエステルおよびトリプトファンエチルエステルをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは、変性された酸官能基の水準によって以下のように特徴づけられた。
−ヒスチジンエチルエステルによって60%、
−トリプトファンエチルエステルによって40%。
変性されなかった酸の水準は0であった。
【0132】
実施例6
ヒスチジンエチルエステルおよびベンジルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、DMF中で0℃で、N−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンエチルエステルおよびベンジルアミンをこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは下記の構造を有していた。
【0133】
【化15】

【0134】
HisOEtは下式の通り。
【0135】
【化16】

【0136】
変性された酸官能基の水準は次の通りである。
−ヒスチジンエチルエステルによって10%、
−ベンジルアミンによって45%。
変性されなかった酸の水準は45%であった。
【0137】
実施例7
ヒスチジンエチルエステルおよびベンジルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
カルボキシメチルデキストランの酸官能基(グリコシド単位当りの平均酸度が1.0)を、DMF中で0℃で、N−メチルモルホリンおよびイソブチルクロロギ酸エステルの存在の下に活性化した。ヒスチジンエチルエステル(酸に対して0.2当量)およびベンジルアミン(酸に対して0.45当量)をこの活性化したポリマーへグラフトした。得られたポリマーは下記の構造を有していた。
【0138】
【化17】

【0139】
HisOEtは下式の通り。
【0140】
【化18】

【0141】
変性された酸官能基の水準は次の通りである。
−ヒスチジンエチルエステルによって30%、
−ベンジルアミンによって45%。
変性されなかった酸の水準は25%であった。
【0142】
比較例8
ベンジルアミンによって変性されたカルボキシメチルデキストランの合成
ポリマーを米国特許第6646120号明細書に従って調製した。ベンジルアミンによって変性された酸官能基の水準は40%であった。
【0143】
実施例9
pHの関数としてのポリマーの溶解性の検討
前記の実施例1〜8に記載したポリマーを、pHが6未満の酸性のpHで溶解した。酸性のpHでのポリマー溶液の状態を表の2番目の欄に記載した。次いで、酸性のpHにあるこれらの溶液を、緩衝液を入れて中性のpH(PBS緩衝液)にした媒体中に分散させた。中性のpHにあるこの溶液の状態を表の3番目の欄に記載した。
【0144】
【表1】

【0145】
実施例1〜5で得られたポリマーの場合には、中性のpHで2つの相が共存しており、凝縮したポリマーの相と透明な水性溶液である。実施例6および7で得られたポリマーの場合には、単一の相しか存在せず、それは均質で、またポリマーのより希薄な溶液である。イミダゾール環によるポリマーの官能基化の不存在または少ない官能基化は、中性のpHでの凝縮を可能にしない。
【0146】
実施例10
ZnClの存在下での凝縮の検討
前記の実施例1〜8に記載したポリマーを、ポリマー1〜5については酸性のpHで、またポリマー6〜8については中性のpHで、水に溶解させた。ポリマー1〜5については、酸性のpHのポリマー溶液にZnClを加えた。ZnClの数は、イミダゾール2当り1であった。ZnClを含むポリマー1〜5の酸性のpHの溶液を、緩衝液を加えて中性のpHにした(PBs緩衝液)媒体中に分散させた。ポリマー6〜8の中性のpHの溶液を、緩衝液を加えて中性のpHにした(PBS緩衝液)ZnClを含む媒体中に分散させた。中性のpHで、ZnClが存在しているポリマーの溶液の状態を、表の3番目の欄に記載した。
【0147】
【表2】

【0148】
実施例1〜5で得たポリマーのイミダゾールによる亜鉛の配位による物理的な架橋は、効果的な、実に強化さえされている凝固をもたらす。ポリマー6および7は亜鉛イオンの存在下で中性のpHで沈殿するのに対して、亜鉛イオンが存在しないとそれらは沈殿しない。比較例8で得たポリマーは、いずれのpHでも可溶であり、遷移金属塩の存在に鈍感である。イミダゾール環によるポリマーの少ない官能化は、中性のpHで、ZnClを通した凝固を可能にする。一方、イミダゾール環によるポリマーの官能化が存在しなければ、中性のpHでのZnClを通した凝固は可能にならない。
【0149】
固体と溶液の間の遷移金属塩の分布の検討
全ての金属塩が、生理的pHで、凝固したポリマー相の中にまさに捕捉されることを示すことができるように、塩化亜鉛(II)の分布を調べた。この塩の溶液は無色である。実施例1で得たポリマーを酸性のpHで溶解し、イミダゾールに対して半分の当量のZnClで処理した。この溶液は均質で、また無色であった。この溶液を次いで、緩衝液を加えて中性のpH(PBS緩衝液)にした媒体中に分散させた。瞬時に形成された沈殿は白色であり、また上澄みは透明で無色であった。後者の固形物含量を測定し、そしてこの相中の亜鉛の不存在を確認した。このことは中性のpHでポリマーによって形成された固体中に金属塩が定量的に捕捉されたことを示している。比較例8で得たポリマーの場合には、中性のpHで得た均質な溶液は亜鉛の塩を含んでいた。
【0150】
中性のpHでポリマーによって形成された固体中のタンパク質の隔離(sequestration)の検討
シトクロムC、赤色タンパク質の、生理的pHでのポリマー相中への隔離を調べた。このために、酸性のpHで、実施例1で得たポリマーの溶液を調製した(30mg/mL)。シトクロムCを、10mg/mLに溶解した。このタンパク質の溶液は赤色であった。このタンパク質2mgを、実施例1で得、酸性のpHで溶解されたポリマー30mgに加えた。この溶液は均質で、また赤色であった。この溶液を次いで、緩衝液を加えて中性のpH(PBS緩衝液)にした媒体中に分散した。瞬時に形成された沈殿は赤色だったが、上澄みは透明で、また無色であった。このことは、中性のpHでポリマーによって形成された固体中にタンパク質が定量的に隔離されていることを示している。
この実験は他のポリマーについても成功裏に繰り返された。一方、比較例8で得たポリマーの場合には、中性のpHの溶液は赤色であり、また沈殿を含まなかった。
【0151】
実施例13
ZnClの存在下で中性のpHでポリマーによって形成された固体中へのタンパク質の隔離の検討
ZnClの存在下での生理的pHの固体中のシトクロムCの隔離を調べた。このために、酸性のpHで、実施例1で得たポリマーの溶液を調製した(30mg/mL)。シトクロムCを10mg/mLに溶解した。このタンパク質の溶液は赤色であった。ZnClを13.6mg/mLに溶解した。2mgのタンパク質および6.8mgのZnClを、酸性のpHで溶解した実施例1で得たポリマー30mgに加えた。酸性の溶液は均質で、また赤色であった。この溶液を次いで、緩衝液を加えて中性のpH(PBS緩衝液)にした媒体中に分散した。瞬時に形成された沈殿は赤色であったが、上澄みは透明で、また無色であった。このことは、ZnClの存在下で、中性のpHでポリマーによって形成された固体中にタンパク質が定量的に隔離されていることを示している。
この実験は、実施例1〜7で得たポリマーについて成功裏に繰り返された。金属塩はこのように、亜鉛/イミダゾール配位によるポリマー鎖の物理的架橋のおかげで、タンパク質を捕捉する固体を形成することを可能にする。
【0152】
ZnClの存在下で中性のpHでポリマーによって形成された固体中へのPDGF−BBの隔離の検討
生理的pHの固体中のPDGF−BBの隔離を、ZnClの存在下で調べた。このために、実施例1で得たポリマーの溶液を酸性pHで調製した(20mg/mL)。0.02mgのPDGF−BBおよび6.5mgのZnClを酸性のpHの100μLのポリマー溶液に加えた。この酸性溶液は均質で、また透明であった。この溶液を次いで、緩衝液を加えて中性のpH(30mMのPBS緩衝液の10体積)にした媒体中に分散した。沈殿が急速に形成された。不均一な媒体を遠心分離した後に、上澄み中に存在するPDGF−BBをELISAによって定量的に測定した。上澄み中のPDGF−BBの濃度は0.2μg/mL未満であり、一方でポリマーを含まない対照では、それは2μg/mLであった。従って、ZnClの存在下で、中性のpHでポリマーによって形成された固体中では、90%超の、実際に実質的に定量的なタンパク質の隔離が起こっている。
【0153】
実施例1で得たポリマー+BMP−2製剤
実施例1で得たポリマーの溶液No.1を50mg/mLの濃度で、pH5で調製した。BMP−2の溶液No.2を1mg/mLの濃度で、pH7で調製した。それぞれの溶液の浸透圧は、NaClの添加によって300mOsmに調整した。これらの溶液を4℃で貯蔵した。患者の大腿部の首部中への注入の1時間前に、0.9mLの溶液No.1と0.1mLの溶液No.2を混合することによって溶液No.3を調製した。得られた溶液は均質で、また5に近いpHを有していた。
【0154】
実施例1で得たポリマー+ZnCl+BMP−2製剤
実施例15に記載した溶液No.1とNo.2の浸透圧を、ZnClの添加によって調整した。次いで、最終的な溶液No.3を、実施例15で記載した方法で、使用時に調製した。
【0155】
実施例17
実施例1で得たポリマー+BMP−2製剤
実施例15に記載した最終的な溶液No.3を、凍結乾燥した実施例1で得たポリマーおよび凍結乾燥したBMP−2から、使用時に調製することができた。最終的な溶液の浸透圧は、NaClの添加によって300mOsmに調整した。このポリマーは緩衝能を有しており、そして5に近いpHを有する溶液をもたらした。この最終的な溶液は透明であった。
【0156】
実施例18
実施例1で得たポリマー+ZnCl+BMP−2製剤
実施例15に記載した最終的な溶液No.3を、凍結乾燥した実施例1で得たポリマーおよび凍結乾燥したBMP−2から、使用時に調製することができた。この場合には、最終的な溶液の浸透圧は、ZnClの添加によって300mOsmに調整した。この最終的な溶液は透明であった。
【0157】
実施例19
実施例1で得たポリマー、BMP−2製剤
製剤を、0.1mgの凍結乾燥したBMP−2を、実施例1で得たポリマーの45mg/mLでpH5の溶液1mL中に溶解することによって、使用時に調製し、そしてNaClの添加によって300mOsmに調整することができた。この最終的な溶液は透明であった。
【0158】
実施例20
実施例1で得たポリマー+ZnCl+BMP−2製剤
実施例17に記載したように、実施例1で得たポリマーの45mg/mLでpH5の溶液を、ZnClの添加によって300mOsmに調整した。使用時に、0.1mgの凍結乾燥したBMP−2を1mLのポリマー溶液中に溶解した。この最終的な溶液もまた、透明であった。
【0159】
実施例21
実施例1で得たポリマー+PDGF−BB製剤
この事例は実施例1で得たポリマーおよびPDGF−BBで形成された製剤の調製に関している。この製剤は、実施例15〜20に記載した6種の方法の内の1つに従って調製した。この製剤は、溶液1mL当りにポリマー45mgとPDGF−BB0.1mgを含んでいる。この溶液は透明で、また5に近いpHを有していた。この製剤を糖尿病患者の足の潰瘍の治療に用いた。
【0160】
実施例22
実施例1で得たポリマー+hGH製剤
この事例は、実施例1で得たポリマーおよびhGHで形成される製剤の調製に関する。この製剤は、実施例15〜20に記載した6種の方法の内の1つに従って調製した。この製剤は、溶液1mL当りにポリマー45mgとhGH5mgを含んでいる。この溶液は透明で、また5に近いpHを有していた。この製剤は患者に週に1回注入した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのイミダゾリル基Imおよび少なくとも1つの疎水性基Hyによって2官能化されたデキストランおよび/またはデキストラン誘導体であって、このイミダゾリル基およびこの疎水性基はそれぞれ同一および/または異なっており、また1つまたはそれ以上の連結基R、RiもしくはRhまたは官能基F、FiもしくはFhを経由して、デキストランおよび/またはデキストラン誘導体にグラフトまたは結合しており、
・Rは、1〜18の範囲の炭素原子を含み、ただし、分岐していてもよいし、および/もしくは不飽和でも、1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えばO、Nおよび/もしくはSを含んでいてもよい、化学結合または鎖からなる連結基を表し、
Rは、イミダゾリル基を保持する場合にはRiと表し、また疎水性基を保持する場合にはRhと表し、RiとRhは同じでも異なっていてもよく、
・Fは、エステル、チオエステル、アミド、炭酸塩、カルバミン酸塩、エーテル、チオエーテルまたはアミン官能基から選ばれた官能基を表し、
Fは、イミダゾリル基を保持する場合にはFiと表し、また疎水性基を保持する場合にはFhと表し、FiとFhは同じでも異なっていてもよく、
・Imは、炭素原子の1つがC〜Cアルキル基(Alky)によって置換されていてもよい、下式のイミダゾリル基を表し、
【化1】

・Hyは、
・線状もしくは分岐したC〜C30のアルキル基(ただし、不飽和であってもよいし、および/または1つまたはそれ以上のヘテロ原子、例えばO、NもしくはSを含んでいてもよい。)、
・線状もしくは分岐したC〜C30のアルキルアリール基またはアリールアルキル基(ただし、不飽和であってもよいし、および/またはヘテロ原子を含んでいてもよい。)、
・C〜C30の多環式基(ただし、不飽和であってもよい。)、
から選ばれる疎水性基を表し、
前記のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体は、それが溶液中にある場合には両親媒性である、
ことを特徴とするデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項2】
デキストラン誘導体がカルボキル化誘導体から選ばれることを特徴とする請求項1記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項3】
カルボキル化デキストラン誘導体が、カルボキシメチルデキストランおよび無水コハク酸とデキストランの間の反応生成物から選ばれることを特徴とする請求項2記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項4】
デキストランおよび/またはデキストラン誘導体が、次の一般式Iに該当し、
【化2】

nは1〜3の範囲であり、
iは、1つの単糖単位に対するイミダゾリル基のモル分率を表し、0.1〜0.9の範囲であり、
hは、1つの単糖単位に対する疎水性基のモル分率を表し、0.01〜0.5の範囲であることを特徴とする、請求項1記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項5】
デキストランおよび/またはデキストラン誘導体が、次の一般式IIに該当し、
【化3】

nは1〜3の範囲であり、
iは、1つの単糖単位に対するイミダゾリル基のモル分率を表し、0〜0.9の範囲であり、
kは、1つの単糖単位に対する疎水性基のモル分率を表し、0.01〜0.5の範囲であることを特徴とする、請求項1記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項6】
Ri基が、それが結合でない場合には、以下の基から選ばれ、
【化4】

nは1〜6であり、
R1はH、COOH、COOR2、CONHであり、
R2は、1〜18の炭素原子を含むアルキル基から選ばれ、
R3はH、R2、Hyである、
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項7】
Ri基が結合であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項8】
Rh基が、それが結合でない場合には、以下の基、
【化5】

から選ばれることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項9】
Rh基が結合であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項10】
Ri基が下記の基から選ばれ、
【化6】

nは1〜6であり、
R1はH、COOH、COOR2、CONHであり、
R2は、1〜18の炭素原子を含むアルキル基から選ばれ、
R3はH、R2、Hyであり、
そしてRh基は結合である、
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項11】
イミダゾール−Ri基が、ヒスチジンエステル、ヒスチジノール、ヒスチジンアミドまたはヒスタミンから選ばれることを特徴とする請求項1〜4または6〜8のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項12】
Hyが、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族アミン、コレステロール誘導体、例えばコール酸、およびフェノール、例えばα−トコフェロール、および疎水性アミノ酸からなる群から選ばれることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項記載の多糖類の1種および少なくとも1種の有効成分を含む医薬組成物。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項記載の多糖類の1種および遷移金属塩を含む医薬組成物。
【請求項15】
遷移金属が、亜鉛、鉄、銅およびコバルトからなる群から選ばれることを特徴とする請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
医薬組成物が、pHが6.5未満の均質な水溶液または水性懸濁液の形態で供給されることを特徴とする請求項13〜16のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項17】
均質溶液および/または懸濁液が、ミセルおよび/またはナノ粒子からなっていることを特徴とする請求項16記載の医薬組成物。
【請求項18】
医薬組成物が、微少粒子の水性懸濁液の形態で、生理的pHに近いpHで供給されることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項19】
医薬組成物が、静脈内に、筋肉内に、骨内に、皮下に、経皮で、または眼に投与することができることを特徴とする請求項13〜18のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項20】
医薬組成物が、経口で、経鼻的に、経膣的に、または口腔に投与することができることを特徴とする請求項13〜18のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項21】
医薬組成物が、固体の形態で供給されることを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項22】
医薬組成物が、6超のpHであるpHによって制御される凝固によって得られることを特徴とする請求項21記載の医薬組成物。
【請求項23】
医薬組成物が、注入の場所で物理的な架橋を受けることを特徴とする請求項21記載の医薬組成物。
【請求項24】
医薬組成物が、有効成分が注入の場所に保持されるのを可能にすることを特徴とする請求項21記載の医薬組成物。
【請求項25】
医薬組成物が、乾燥および/または凍結乾燥によって得られることを特徴とする請求項21記載の医薬組成物。
【請求項26】
医薬組成物が、ステント、インプラント可能な生体材料の膜もしくは被覆、インプラント、ゲルまたはクリームの形態で投与することができることを特徴とする請求項21〜23のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項27】
有効成分が、タンパク質、糖タンパク質、ペプチドおよび非ペプチド治療用分子からなる群から選ばれることを特徴とする請求項13〜24のいずれか1項記載の医薬組成物。
【請求項28】
タンパク質または糖タンパク質が、成長因子、例えば形質転換成長因子−β(TGF−β)のスーパーファミリーの一員、例えば骨形態形成タンパク質(BMP)、血小板由来成長因子(PDGF)、インスリン成長因子(IGF)、神経成長因子(NGF)、血管内皮成長因子(VEGF)、線維芽細胞成長因子(FGF)、上皮成長因子(EGF)、インターロイキン(IL)型のサイトカインまたはインターフェロン(IFN)から選ばれることを特徴とする請求項25記載の医薬組成物。
【請求項29】
有効成分が、ロイプロリドまたは副甲状腺ホルモンPTHの短シーケンスから選ばれるペプチドの群から選ばれることを特徴とする請求項27記載の医薬組成物。
【請求項30】
有効成分が、非ペプチド治療用分子、例えば抗がん剤、例えばタクソールまたはシスプラチンの群から選ばれることを特徴とする請求項27記載の医薬組成物。
【請求項31】
有効成分が、インスリンまたは成長ホルモンhGHからなる群から選ばれることを特徴とする請求項27記載の医薬組成物。
【請求項32】
請求項1〜12のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/または請求項13〜31のいずれか1項記載の組成物の使用を含むことを特徴とする、神経組織の再生を意図した薬剤の製剤方法または治療方法。
【請求項33】
請求項11および12のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/または請求項13〜31のいずれか1項記載の組成物の使用を含むことを特徴とする、心臓血管組織の再生を意図した薬剤の製剤方法または治療方法。
【請求項34】
皮膚組織の再生を意図した治療または薬剤の製剤における、請求項1〜31のいずれか1項記載のデキストランおよび/またはデキストラン誘導体および/または組成物の使用。

【公表番号】特表2009−532552(P2009−532552A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−503619(P2009−503619)
【出願日】平成19年4月6日(2007.4.6)
【国際出願番号】PCT/FR2007/000595
【国際公開番号】WO2007/116143
【国際公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【出願人】(508090088)
【Fターム(参考)】