説明

二次電子像観察装置

【課題】高いコントラストで、アモルファスと結晶との差異を画像化して観察可能なSEM装置を提供する。
【解決手段】試料に対して電子顕微鏡を走査しながら観察を行う構成を有し、紫外光、X線の、少なくともいずれかを照射可能な、照射系15を具備している二次電子像観察装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料に対して電子顕微鏡を走査しながら観察を行う二次電子像観察装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、レーザ光の照射による情報の記録、再生、及び消去が可能な光学記録媒体の一つとして、結晶相とアモルファス相との相変化を利用する、相変化光ディスクが知られており、実用化されている。
このような光学記録媒体は、単一ビームによるオーバーライトが可能なものであるため、記録再生装置の光学系がより構造的に単純化することができるという利点を有しており、コンピュータ関連や映像、音響を記録する媒体として広く利用されている。
【0003】
相変化型の光学記録媒体の記録層構成材料は、具体的には、GeTe、GeTeSe、GeTeS、GeSeS、GeSeSb、GeAsSe、InTe、SeTe、SeAs、GeTe(Sn、Au、Pd)、GeTeSeSb、GeTeSb、AgInSbTe等がある(例えば、特許文献1〜6参照。)。
また、SbTeを主成分とし、これにAg、In、Ga、Si等を添加した記録材料で、単一なγ相を形成したものについての開示もなされている(例えば、特許文献7参照。)。
また、IをI族元素、IIIをIII族元素、VをV族元素、VIをVI族元素として、I・(III1−γVγ)VI2型の一般組成式で表される記録層を有する相変化型の光学記録媒体についての開示もなされている(例えば、特許文献8参照。)。
【0004】
また、その他として、波長780nm程度のレーザ光を使用するCD−RW(Compact Disc Re-writable)等のように、比較的低い記録密度を有する光学記録媒体や、波長680nm以下のレーザ光を使用し、記録密度がCD−RWの約7倍であるDVD(Digital Versatile Disk)−RAMや、DVD−RW、DVD+RW等の高密度記録媒体が広く実用化されている。
【0005】
上述したような相変化型の光学記録媒体等の各種記録媒体においては、結晶相とアモルファス相との相変化を利用して記録マークの形成と消去が行われるが、かかる書き込みや読み取りが正常に行われるようにするため、記録マーク形状(0.8μm程度)の観察は重要な管理項目であると言え、記録マーク形状の観察を行う際には、二次電子像観察装置(以下、SEM装置とする)が適用されていた(例えば、特許文献9参照。)。
【0006】
しかしながら、特に、相変化型の光学記録媒体においては、記録マーク形成領域とその他の領域とは化学成分的には全く同一の材料であり、アモルファスであるか結晶であるかの構造のみしか異ならないものであるため、SEM装置による二次電子像のコントラストは不明瞭になりやすく、微細な記録マークの観察は困難なものであった。かかるコントラストの向上を図るためには、走引する電子ビームの加速電圧や電流を絞る等の操作上の高度な技術が必要とされていた。
また、相変化型の記録媒体以外の光学記録媒体においても、同様に、微細な記録マークの観察を行う際には、コントラストの明瞭化を向上させることが課題とされてきた。
【0007】
ところで、従来において一般的なSEM装置においては、試料上で電子ビームプローブを走引し、各々の照射点から放出される二次電子を集収し、検出された二次電子の強度を、電子ビームプローブ走査と同期して再構成することにより、フレーム画像として形成するようになされている。
このようなSEM装置においては、絶縁体等の試料の観察を行う場合には、チャージアップが起こり、明瞭な画像観察ができなくなるため、かかる問題を解決するために、試料の表面上に中和電子を放出するニュートラライザーを設置するという技術に関する提案もなされている。
【0008】
【特許文献1】特開平3−231889号公報
【特許文献2】特開平4−191089号公報
【特許文献3】特開平4−232779号公報
【特許文献4】特開平4−267192号公報
【特許文献5】特開平5−345478号公報
【特許文献6】特開平6−166266号公報
【特許文献7】特開平1−303643号公報
【特許文献8】特開平3−231889号公報
【特許文献9】特願2003−052764号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、ニュートラライザーは、チャージアップの低減化には効果があるが、アモルファスと結晶とのコントラストの差を強調させて解像度を向上させる効果は無い。
そこで本発明においては、照射系に関する検討を行い、絶縁性試料の電気伝導度を上げることによりチャージアップを抑制し、高いコントラストで、アモルファスと結晶との差異を画像化して観察可能なSEM装置を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、上述したような従来における技術上の課題の解決を図るべく、下記の提案を行った。
すなわち、試料に対して電子顕微鏡を走査しながら観察を行う構成を有し、紫外光、X線の、少なくともいずれかを照射可能な、照射系を具備している二次電子像観察装置を提供する。
上記紫外光、X線のエネルギーの範囲を、4eV〜10keVの範囲に特定する。
上記紫外光、X線の照射系を、観察室、導入室、試料処理室の少なくともいずれかに設置する。
上記紫外光、X線の照射とSEM観察とを、観察試料台上で、周期的に繰り返し行うこととする。
照射光のエネルギーを選別できるバンドパス・単色器が備えられた照射系とする。
照射光が照射される試料表面部位の一部に、密着してAu等のドープ材料を接触させる。
【発明の効果】
【0011】
請求項1に係る発明によれば、照射系から試料に対し紫外光及び/又はX線を照射するようにしたので、試料の電気伝導度が大きくなり、チャージアップが減少し、余裕度をもってコントラストの高い良好な観察条件に設定することができた。
請求項2に係る発明によれば、照射光エネルギー範囲を数値的に限定したことにより、DVDやその他の材料よりなる記録層を有する記録媒体等、各種の対象の材料構造を変化させたり、化学結合を切断させたりせずに、材料の電子伝導の改善のみを行うことができ、観察対象の材料へのダメージや汚染の発生を回避しながら、コントラストの高い良好な観察条件に設定することができた。
また、照射系の設置場所は、観察を行う試料台に対して直接照射可能な位置とすることが好ましいが、光照射後の電気伝導度の向上効果は、数分以上の長時間持続することに鑑みて、請求項3に係る発明によれば、試料処理室や導入室に、照射系を設置した構成とすることができ、これによって、装置構成の簡易化、及び装置設計の自由度の高さを担保することができた。
請求項4に係る発明によれば、試料に対する光照射と、SEM像測定とを周期的に行う測定・照射モードを採用したことにより、試料の不可逆構造変化を抑制でき、電気伝導度のみを向上でき、試料のダメージの無い状態での測定が可能となった。
請求項5に係る発明によれば、試料の電気伝導度を改善し、構造変化を防ぐことができ、試料のダメージの回避しつつ測定を行うことが可能となった。
請求項6の発明によれば、試料に微量の光ドーピングを行うようにしたことにより、試料の原子的構造には影響を与えず、電子的構造のみ変化させることができ、観察コントラストをエンハンスすることができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の二次電子像観察装置の一実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、二次電子像観察装置の一例の概略構成図を示す。なお、本発明は下記に示す例に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない範囲において従来公知の構成を付加することができるものとする。
【0013】
二次電子像観察装置10は、所望の環境に設定可能な観察室11内に、試料20を載置する試料台12と、この試料台12に対向して、偏向装置13を具備する電子ビーム発生装置14が配置されている。
また、紫外光、X線の、少なくともいずれかを出射する照射系15が観察室11内の所定の位置に配置されており、ここから出射された紫外線又はX線が試料20の表面に照射されるようになされている。
【0014】
なお、照射系15の紫外線光源には、例えば紫外線ランプ、水銀ランプ、レーザーダイオード等が適用できる。
X線光源の場合には、通常のX線管球を適用できる。
これらの照射光源は、適当な窓材、紫外光の場合には蛍石等、X線の場合にはBe等を介して装置外部に設置してもよい。
【0015】
試料20は、試料処理室21から導入室31を介して観察室11内に搬入されるようになされており、観察室11内において、照射系15から紫外線又はX線の照射を受け、電子ビーム発生装置14から出射された電子ビームBによって試料から放出される光電子(二次電子e)を二次電子検出器16によって結像し光電子顕微鏡によって観察する。
このように、試料に対し、紫外光又はX線を照射することにより、試料の電気伝導度が大きくすることができ、チャージアップが減少し、コントラストの高い良好な観察条件に設定できるようになる。
【0016】
なお、図1においては、照射系15が観測室11に設置されている状態を示したが、照射系15は、必ずしも観測室11に設置する必要は無く、これと連結する導入室31や、所定の処理を行う別室の試料処理室21に設けてもよい。
これは、光照射後の電気伝導度の向上効果は、数分以上の長時間持続するので、観察室に限らず、試料処理室21や導入室31に設置してもコントラストの向上効果が得られるからである。
【0017】
照射系15からの紫外線又はX線の照射時間は、試料の条件に従って選択する。標準的には数分〜1時間程度である。
なお、照射系15には、照射光のエネルギーを選別できるバンドパス・単色器が備えられたものとすることが好ましく、紫外光、X線のエネルギーの範囲は、4eV〜10keVとすることが望ましい。これにより、特に、DVDに係る観察対象の構造を変化させたり化学結合を切断させたりせず、材料の電子伝導の改善に寄与のみとすることができ、材料へのダメージや汚染の発生を回避できる。
【0018】
観察室11内に照射系15を設置した場合、紫外線又はX線の照射と、二次電子検出器16による検出と観測を周期的に繰り返して行ったり、あるいは紫外線又はX線の照射を行いながら検出と観測を行ったりしてもよい。このように、試料20に対する光照射と、SEM像測定とを周期的に行う測定・照射モードを採用することにより、試料の不可逆構造変化を抑制でき、電気伝導度のみを向上でき、試料のダメージの無い状態での測定が可能となる。
【0019】
また、試料20には、照射される試料表面部位の一部に密着してAu等のドープ材料を接触させてもよい。
このように、微量の光ドーピングを行うことにより、試料の原子的構造には影響を与えず、電子的構造のみ変化させることができ、観察コントラストをエンハンスすることができる。
なお、試料表面の一部に密着させるAu層は、表面の一部に真空蒸着法で形成してもよく、あるいは試料表面にAuプローブを圧接させる等のコンタクト方式を用いて形成してもよい。
【0020】
試料20が、相変化型光ディスクであり、これの記録マーク形状を観察する場合を例に挙げて説明する。
相変化型光記録ディスクは、GeTe、GeTeSe、GeTeS、GeSeS、GeSeSb、GeAsSe、InTe、SeTe、SeAs、GeTe(Sn,Au,Pd)、GeTeSeSb、GeTeSb、AgInSbTe等の材料よりなる記録層に信号の記録を行うものである。
【0021】
初期化された記録層は結晶相であるが、信号が書き込まれた記録マークはアモルファス相である。
相変化光記録ディスクは、高速で消去/再書き込み、の繰り返し使用が可能な記録媒体である。繰り返し消去/書き込みによる劣化等のため、記録マーク位置のずれや、マーク形状の変形等が起こると、光記録のエラー率が増加してしまうので、安定した高速の消去/書き込みを行うために、消去/書き込み条件、及び材料やディスク構成を管理する必要があり、記録マーク形状の観察は非常に重要度の高い管理項目である。
【0022】
現在汎用されているDVD+RWにおいても、記録マークのサイズは、0.8μm程度の微細なパターンであるため、その観察及び管理を行うためには、二次電子像観察装置(SEM)を利用しなければならなかったが、SEMによるアモルファス相と結晶相の観察は、コントラスト差が極めて僅かなものであるため、明瞭かつ確実な観察及び測定は非常に困難なものであった。
【0023】
ところで、一般的に、紫外線又はX線を試料に照射し、試料から放出される光電子を結像し観察する光電子顕微鏡(Photoelectron emission microscopy : PEEM)を用いることによって、DVD+RW上の各書き込みビットをコントラスト良く観察することが可能であることが知られている。紫外線を照射し、光電子像を得る装置はPEEM、X線を照射して光電子像を得る装置はXPEEMと呼ばれている。
【0024】
上記PEEM及びXPEEMにより観察した光電子像を、それぞれ図2(水銀ランプで励起)、図3(放射光X線で励起:4132eV)に示した。
図2のPEEM画像においては、アモルファス相と結晶相の仕事関数の差異が放出される光電子強度にそのまま反映され、結晶相は明るく、アモルファス相(書き込み部分)は暗く観測された。
一方、図3のXPEEM画像においては、光電子の運動エネルギーが大きいため、表面の仕事関数の違いよりもバルク中の散乱の寄与の違いが反映されることになり、結晶相が暗く、アモルファス相(書き込み部分)は明るく観測された。
【0025】
上述したように、図2、図3のPEEM及びXPEEM画像によれば、アモルファス相と結晶相とをコントラスト良く見分けることは可能である。
しかし、PEEM装置は極めて特殊かつ高価なものであるため、一般的には普及しておらず、また、XPEEMは放射光を構成要素とするものであり、やはり装置は複雑かつ大型で高価なものであるため、普及率は低い。
【0026】
本発明においては、上述したような問題に鑑みて、簡易な高分解能SEM装置を利用して、容易にアモルファス相と結晶相を、明瞭なコントラストをもって識別可能な装置を提供した。
【0027】
すなわち、図1に示した二次電子像観察装置10においては、照射系15から紫外線又はX線を試料表面に照射するようにしたことによって、試料20のアモルファス相と結晶相のコントラスト比がエンハンスされて、記録マークを容易に観察できるようになるのである。
図4に、照射系15からX線を照射した場合の試料20のSEM画像を示す。
図4に示すように、X線を照射した4つの円形領域においては、アモルファス相よりなる記録マークが、明瞭なコントラストをもって観察できた。
【0028】
また、図4中のSEM観察像中の、四角の部分は、Auを蒸着した部分であり、この部分の周囲において、特にコントラストがエンハンスされていることが確かめられた。
この現象は、極微のAu原子が光ドープされたためと推測される。
すなわち、観察材料の原子的構造に変化は無いが、電子的構造変化を起こすことにより、アモルファス相と結晶相の二次電子放出コントラストを増加させ、更に明瞭なマーク観察を行うことができるという効果が得られた。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の二次電子像観察装置の一例の概略構成図を示す。
【図2】紫外線を照射した場合の光電子観察画像を示す。
【図3】X線を照射した場合の光電子観察画像を示す。
【図4】本発明の二次電子像観察装置を用いた場合の観察画像を示す。
【符号の説明】
【0030】
10…二次電子像観察装置、11……観察室、12……試料台、13……偏向装置、14……電子ビーム発生装置、15……照射系、16……二次電子検出器、20……試料、21……試料処理室、31……導入室






【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して電子顕微鏡を走査しながら観察を行う二次電子像観察装置であって、
前記試料に対して、紫外光、X線の、少なくともいずれかを照射する照射系を具備していることを特徴とする二次電子像観察装置。
【請求項2】
前記紫外光、又はX線のエネルギー範囲が、4eV〜10keVであることを特徴とする請求項1に記載の二次電子像観察装置。
【請求項3】
前記電子顕微鏡は観察室内に配置されており、
前記試料は、前記観察室に連通する導入室を介して試料処理室から搬入されるようになされており、
前記紫外線、X線の少なくともいずれかを照射可能な照射系は、前記試料処理室、前記導入室、前記観察室の少なくともいずれかに設置されていることを特徴とする請求項1に記載の二次電子像観察装置。
【請求項4】
前記試料に対する紫外光の照射又はX線の照射と、二次電子像観察とを、周期的に繰り返して行うようになされていることを特徴とする請求項1に記載の二次電子像観察装置。
【請求項5】
前記照射系が、前記紫外光及び/又はX線の照射エネルギーを選別可能な、バンドパス・単色器を具備していることを特徴とする請求項1に記載の二次電子像観察装置。
【請求項6】
前記紫外線及び/又はX線が照射される前記試料の表面部位の少なくとも一部に、密着してドープ材料を接触させるようになされていることを特徴とする請求項1に記載の二次電子像観察装置。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−120505(P2006−120505A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−308088(P2004−308088)
【出願日】平成16年10月22日(2004.10.22)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】