説明

二酸化炭素冷媒用成形材料

【課題】二酸化炭素冷媒接触装置のシール材成形材料等として好適に使用され、ブリスターの発生を有効に防止し得る二酸化炭素冷媒用成形材料を提供する。
【解決手段】塩素含有量が25〜47重量%の塩素化ポリエチレンまたはこれと塩化ビニル系樹脂とのブレンド物当り1〜10重量部の有機過酸化物および0.2〜5重量部のビニル系、エポキシ系またはメタクリロキシ系シランカップリング剤を配合してなる二酸化炭素冷媒用成形材料。この成形材料は、冷媒として二酸化炭素を用いる二酸化炭素冷媒接触装置のシール材の成形材料などとして好適に用いることができる。この成形材料中には、特定のシランカップリング剤が添加されて用いられているため、加硫成形物のブリスター発生が有効に防止される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素冷媒用成形材料に関する。更に詳しくは、炭酸ガス透過性および体積膨潤性に対する抵抗性にすぐれ、かつブリスターの発生を有効に防止し得る二酸化炭素冷媒用成形材料に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍機等に現在用いられている冷媒は、新冷媒と呼ばれるフロンR-134a(1,1,1,2-テトラフルオロエタン)が主流であるが、環境規制等の問題から将来使用禁止が予定されている。この冷媒の代替品として近年注目されているのは、炭化水素系ガスと二酸化炭素である。炭化水素系ガスは、爆発や燃焼の危険性が著しく高いため、世界的にみても次期冷媒は二酸化炭素を使用する方向に進んでいる。
【0003】
しかるに、二酸化炭素はフロンよりも高圧になり、また一般的な高分子材料への透過性や溶解度も高いためブリスター(発泡)が発生し易く、仮りにブリスターが発生しなかったとしても、材料それ自身から炭酸ガスが透過して、圧力維持や密封を困難なものとしている。
【0004】
ゴム材料にあっても、一般的には炭酸ガス透過率が高く、それは特に圧力が10気圧以上では著しく高いため、炭酸ガスを十分に密封することができない。また、二酸化炭素はポリマー中へ溶解し易いため、膨潤性も大きく、このため二酸化炭素を用いる装置には、ゴム材料部品を使用できないのが実情である。
【0005】
従来のフロンガス冷媒の場合には、水素添加NBRやEPDM等がシール材等の成形材料として用いられているが、これらのゴム材料は二酸化炭素との接触で大きく膨潤し、またブリスターを生ずるという欠点を有している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、二酸化炭素冷媒接触装置のシール材成形材料等として好適に使用され、ブリスターの発生を有効に防止し得る二酸化炭素冷媒用成形材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、塩素含有量が25〜47重量%の塩素化ポリエチレン100重量部当り1〜10重量部の有機過酸化物および0.2〜5重量部のビニル系、エポキシ系またはメタクリロキシ系シランカップリング剤を配合してなる二酸化炭素冷媒用成形材料によって達成される。塩素化ポリエチレンは、塩化ビニル系樹脂とのブレンド物として用いることもできる。
【発明の効果】
【0008】
塩素化ポリエチレンおよび有機過酸化物よりなる二酸化炭素冷媒用成形材料は、60気圧におけるCO2透過率が10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgのオーダー以下で、しかも体積膨張変化率△Vが約10体積%以下というすぐれた値を示している。また、塩素化ポリエチレンが塩化ビニル系樹脂とブレンドして用いられた場合には、炭酸ガス透過性および体積膨潤性に対する抵抗性は若干犠牲にされるが、引張強さが18MPa以上、また伸びが250%以上という良好な加硫物性が保持されるようになる。さらに、塩素化ポリエチレンまたはこれと塩化ビニル系樹脂とのブレンド物に特定のシランカップリング剤を添加したものを用いることにより、ブリスター発生有効に防止される。
【0009】
このような性質を示す本発明の二酸化炭素冷媒用成形材料は、冷媒として二酸化炭素を用いるエアコンプレッサ、冷凍機、超臨界CO2抽出(クロマトグラフィー)装置等の二酸化炭素冷媒接触装置のパッキン、ガスケット、Oリング等のシール材の成形材料として好適に用いることができる。また、二酸化炭素冷媒に適用可能な冷凍機油(ポリアルキレングリコール等)のシール材の成形材料としても好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
塩素化ポリエチレンとしては、25〜47重量%、好ましくは28〜45重量%の塩素含有量を有するものが用いられる。これ以下の塩素含有量のものを用いると、漸次ポリエチレンの性質に近付いてゴム弾性を失ない、これから成形されたシール材はシール性が損われるようになる。一方、これ以上の塩素含有量のものを用いると、低温性、耐熱性などが低下するようになる。実際には、上記塩素含有量の市販品、例えば昭和電工製品エラスレンシリーズのものなどをそのまま用いることができる。
【0011】
このような塩素含有量を有する塩素化ポリエチレンは、一般には単独で用いられるが、炭酸ガス透過性および体積膨潤性に対する抵抗性を若干犠牲にしても、引張強さ、伸び等の加硫物性の点での改良を図ろうとする場合には、塩化ビニル系樹脂、一般にはポリ塩化ビニルとのブレンド物として用いることもできる。その場合の塩化ビニル系樹脂のブレンド割合は、ブレンド物中約50重量%以下、好ましくは約10〜40重量%である。
【0012】
塩素化ポリエチレンまたはそれのブレンド物中には、力学的物性や耐ガス透過性を高めるといった観点から、塩素化ポリエチレンまたはそれのブレンド物100重量部当り約5〜150重量部、好ましくは約10〜100重量部の無機充填材が添加される。無機充填材としては、カーボンブラック、シリカ等の補強性充填材が一般に用いられ、それと共にメタけい酸カルシウム、けいそう土、グラファイト、雲母、炭酸カルシウム、酸化亜鉛等の非補強性充填材を併用することもできる。
【0013】
これらの各成分を含有する成形材料中には、架橋剤としての有機過酸化物が更に添加されて用いられる。有機過酸化物としては、例えば1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、n-ブチル-4,4-ジ(第3ブチルパーオキシ)バレレート、α,α-ビス(第3ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ジ(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン等が、塩素化ポリエチレンまたはそれのブレンド物100重量部当り約1〜10重量部、好ましくは約2〜8重量部の割合で用いられる。有機過酸化物の配合割合がこれ以下では、十分なる架橋密度が得られず、一方これ以上の割合で用いられると、発泡して加硫成形物が得られなかったり、得られてもゴム弾性や伸びの低下、圧縮永久歪特性の低下などを免れない。
【0014】
有機過酸化物を架橋剤とする成形材料中には、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート等によって代表される多官能性不飽和化合物共架橋剤が、塩素化ポリエチレンまたはそれのブレンド物100重量部当り約0.1〜10重量部、好ましくは約1〜5重量部の割合で添加されて用いられる。架橋剤および共架橋剤がこれ以上の割合で用いられると、生地焼けなどを生ずる。
【0015】
さらに、塩素化ポリエチレンまたはそれと塩化ビニル系樹脂とのブレンド物に、それらの100重量部当り0.2〜5重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の特定のシランカップリング剤を添加すると、二酸化炭素との接触によるブリスターの発生を有効に防止することができる。
【0016】
かかる特定のシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリクロロシラン等のビニル系シランカップリング剤、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン等のエポキシ系シランカップリング剤、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン等のメタクリロキシ系シランカップリング剤が用いられる。
【0017】
以上の各成分よりなる塩素化ポリエチレン組成物の調製は、さらにステアリン酸、パルミチン酸、パラフィンワックス等の加工助剤、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の受酸剤、老化防止剤、可塑剤等の各種配合剤が必要に応じて適宜添加された後、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機またはオープンロールを用いて混練することによって行われる。
【0018】
それの加硫は、加硫プレス、射出成形機、圧縮成形機などを用いて、一般に約150〜200℃で約3〜60分間程度加熱することによって行われ、必要に応じて約120〜200℃で約1〜24時間程度加熱する二次加硫が行われる。
【実施例】
【0019】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0020】
参考例1
塩素化ポリエチレン(昭和電工製品エラスレン302NA; 100重量部
塩素含有量29重量%)
カーボンブラック(Cancarb社製品サーマックスN990) 120 〃
酸化マグネシウム(協和化学製品キョーワマグ#150) 5 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パークミルD) 5 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイク) 3 〃
以上の各成分を10インチオープンロール(ロール温度130℃)で混練し、混練物を180℃で6分間プレス加硫し、直径90mm、厚さ0.5mmの円形シートを加硫成形した。
【0021】
この円形シートから直径50mmの円形試料を切取り、これを高圧ガス透過率装置に取付け、高圧(60気圧)のCO2透過率を測定すると、2.7×10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであった。また、円形シートから20×5mmの短冊状試料を切取り、窓付き高圧装置内で高圧(60気圧)のCO2雰囲気中に曝し、カセトメーターで体積膨潤変化率△Vを測定すると、10体積%であった。
【0022】
参考例2
参考例1において、塩素化ポリエチレンとして昭和電工製品エラスレン406AE(塩素含有量39.5重量%)を同量用い、またカーボンブラックとして東海カーボン製品シーストG-S 70重量部を用いると、CO2透過率は4.8×10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであり、また体積膨潤変化率△Vは11体積%であった。
【0023】
参考例3
参考例2において、カーボンブラック量を50重量部に変更し、またホワイトカーボンとして日本シリカ製品ニップシールER 40重量部を加えて用いると、CO2透過率は3.0×10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであり、また体積膨潤変化率△Vは10体積%であった。
【0024】
参考例4
参考例1において、塩素化ポリエチレンとして昭和電工製品エラスレン452NA(塩素含有量44.5重量%)を同量用い、またカーボンブラック量を90重量部に変更して用いると、CO2透過率は2.2×10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであり、また体積膨潤変化率△Vは9体積%であった。
【0025】
参考例5
参考例1において、塩素化ポリエチレン量を70重量部とし、ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ製品ZEST800Z)30重量部とブレンドして用いると、CO2透過率は7.6×10-10cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであり、また体積膨潤変化率△Vは16体積%であった。
【0026】
参考比較例
水素添加NBR(日本ゼオン製品ゼットポール1020) 100重量部
カーボンブラック(サーマックスN990) 80 〃
酸化マグネシウム(キョーワマグ#150) 5 〃
有機過酸化物(パークミルD) 5 〃
トリアリルイソシアヌレート(タイク) 3 〃
以上の各成分を用い、参考例1と同様に混練、加硫成形および測定を行うと、CO2透過率は7.3×10-9cm3(STP)・cm/cm2・秒・cmHgであり、また体積膨潤変化率△Vは31体積%であった。
【0027】
更に、以上の各参考例および参考比較例の加硫成形物について、JIS K-6301に準じて常態物性を測定し、次の表1に示されるような結果を得た。
表1
引張強さ(MPa) 伸び(%)
参考例1 15 200
〃 2 16 210
〃 3 17 190
〃 4 17 205
〃 5 22 275
参考比較例 18 250
【0028】
実施例1
塩素化ポリエチレン(昭和電工製品エラスレン352NA; 100重量部
塩素含有量35重量%)
SRFカーボンブラック 55 〃
酸化マグネシウム 5 〃
ジクミルパーオキサイド 4 〃
トリアリルイソシアヌレート 5 〃
ビニル系シランカップリング剤 2 〃
(ビニルトリエトキシシラン)
以上の各成分をニーダおよびオープンロールで混練し、混練物を170℃で30分間プレス加硫し、次いで140℃で10時間オーブン加硫(二次加硫)して、150×150×2mmの加硫シートを得た。
【0029】
実施例2
実施例1において、ビニル系シランカップリング剤の代りに、同量のエポキシ系シランカップリング剤(γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン)が用いられた。
【0030】
実施例3
実施例1において、ビニル系シランカップリング剤の代りに、同量のメタクリロキシ系シランカップリング剤(γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン)が用いられた。
【0031】
比較例1
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が0.5重量部に変更された。
【0032】
比較例2
実施例1において、ジクミルパーオキサイド量が12重量部に変更された。
【0033】
比較例3
実施例1において、ビニル系シランカップリング剤の代りに、同量のアミノ系シランカップリング剤(γ-アミノプロピルトリエトキシシラン)が用いられた。
【0034】
以上の実施例1〜3および比較例1〜3で得られた加硫シートについて、次の各項目の測定および評価を行ない、表2に示されるような結果を得た。なお、比較例2は、発泡したため、加硫成形ができなかった。
常態物性:JIS K-6253,JIS K-6251準拠
圧縮永久歪:JIS K-6262準拠
耐CO2性:液化CO2に25℃で24時間浸せきした後、150℃に1時間加熱し、シート表面の
ブリスター発生の有無を目視で観察
表2
測定・評価項目 実-1 実-2 実-3 比-1 比-3
[常態物性]
硬さ(デュロメーターA) 85 85 84 74 85
引張強さ (MPa) 20.0 20.2 20.7 24.8 17.9
伸び (%) 200 210 190 500 350
[圧縮永久歪]
120℃、70時間 (%) 20 20 18 67 43
[耐CO2性]
ブリスター発生の有無 なし なし なし なし あり

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有量が25〜47重量%の塩素化ポリエチレン100重量部当り1〜10重量部の有機過酸化物および0.2〜5重量部のビニル系、エポキシ系またはメタクリロキシ系シランカップリング剤を配合してなる二酸化炭素冷媒用成形材料。
【請求項2】
塩素化ポリエチレンが塩化ビニル系樹脂とのブレンド物として用いられた請求項1記載の二酸化炭素冷媒用成形材料。
【請求項3】
さらに無機充填剤を含有してなる請求項1または2記載の二酸化炭素冷媒用成形材料。
【請求項4】
二酸化炭素冷媒接触装置のシール材成形材料として用いられる請求項1、2または3記載の二酸化炭素冷媒用成形材料。
【請求項5】
請求項4記載の二酸化炭素冷媒用成形材料から架橋成形された二酸化炭素冷媒接触装置用シール材。
【請求項6】
請求項4記載の二酸化炭素冷媒用成形材料から架橋成形された二酸化炭素冷媒に適用される冷凍機油用シール材。

【公開番号】特開2008−184613(P2008−184613A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−36059(P2008−36059)
【出願日】平成20年2月18日(2008.2.18)
【分割の表示】特願2001−514036(P2001−514036)の分割
【原出願日】平成12年7月31日(2000.7.31)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】