説明

二酸化炭素固定化表面層及びその製造方法

【課題】簡易に所望の領域に形成することができ、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる二酸化炭素固定化表面層を提供する。
【解決手段】法面12或いは建造物の表面に、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維14を含有するコンクリート組成物を吹き付けて構成され、コンクリート組成物中に三次元配向された該有機繊維に起因する空洞孔を設けてなる二酸化炭素固定化表面層10を形成し、大気中の二酸化炭素を固定化することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、法面などの任意の建造物の表面に配置される、セメント系材料の反応を利用して大気中の二酸化炭素を効率よく固定化しうる表面層、及び、そのような二酸化炭素固定化表面層を容易に形成しうる製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我国のCO排出量は年間約12億5000万トンに達し、世界の約5.1%を占めるに至っている。1997年の京都議定書における我国のCO排出量削減の目標値は1990年比6%削減であるが、現行の対策では、7%の増加となることが予想され、内閣に設置された地球温暖化対策推進本部を中心に関係各分野での早急な有効方策の実施が求められている。
一方、CO抑制対策の柱の一つに「革新的技術開発の強化」が揚げられており、省エネ、太陽光発電などの技術と並んで、いったん排出されたCOを貯蔵・固定化する技術の開発が揚げられている。具体的な研究課題として、プランクトンなどの海洋生物や、樹木などの利用技術、電気化学的手法、地中隔離などの技術が提案されているが、COをいかに効率よく、低コストで固定するかが将来的な課題として研究途上である。
【0003】
土木建築建造物に使用されるセメントコンクリートは、硬化後、主要な化学成分である、水酸化カルシウムや、カルシウムシリケート水和物が大気中のCOと反応し、炭酸カルシウムを生じる過程で徐々にアルカリ性を失う、いわゆる炭酸化・中性化現象を生じる性質がある。炭酸化・中性化現象は、コンクリート中の鉄筋の発錆につながるため、従来は炭酸化を抑制する技術が多く研究されてきた。本発明は、逆にこの反応を利用することにより、建物の外壁を構成するセメントコンクリート成型体にCOを積極的に固定する技術を提案するものである。
【0004】
一般のコンクリートの炭酸化反応は、硬化したセメント水和物に含まれる水酸化カルシウムが大気中よりコンクリートに浸透した二酸化炭素と反応し炭酸カルシウムを生じる以下の反応式で表すことができる。
Ca(OH) + CO → CaCO + H
上式の反応により、大気中の二酸化炭素が炭酸カルシウムとしてコンクリート中に固定され、大気中の二酸化炭素がコンクリート成型体への固定化により減少することになる。コンクリート中の炭酸カルシウムは安定な反応物として存在し、分解しにくいため、二酸化炭素はそのままコンクリート中に固定される状態が続く。このような反応は、通常、大気中の二酸化炭素が徐々にコンクリート成型体中に浸透、拡散し、セメント水和物中に含まれる水酸化カルシウムと接触することにより生起、進行する。
【0005】
従来、一般的に使用されるコンクリート成型体は、コンクリートの微細構造が緻密であり、気体の拡散係数が小さく、大気中の二酸化炭素の浸透速度は極めて緩慢であるため、上式で表される如き炭酸化の進行速度は極めて緩やかであり、大気中の二酸化炭素を固定化する特性は極めて弱いといえる。例えば、一般の土木建築物のコンクリートでは、表層から20mm程度の深さまで炭酸化反応が進行するには約50年程度の時間を要し、コンクリート中への二酸化炭素の固定量も限定されている。
一方、コンクリート成型体に透水性、通気性を与えたり、爆裂を防止するなどの目的で、種々の多孔質コンクリートが提案されている。
【0006】
例えば、骨材とセメントとの配合量を調整し、骨材間に空隙を保持させて多孔質コンクリートを得る方法(例えば、特許文献1〜3参照。)や、軽量気泡コンクリートいわゆるALCコンクリートのように大量の空気をコンクリート中に連行する方法、空隙形成材料をコンクリート組成物に混入し、硬化後に空隙材料を収縮或いは分解させ空隙を形成する方法(例えば、特許文献4参照。)などが提案されている。しかしながら、これらの方法では、形成される空隙の体積が大きいため、コンクリートの圧縮強度や曲げ強度など力学特性が大きく損われる欠点があり、また、空隙面積が大きいために、二酸化炭素の吸着に有用なコンクリート表面積の増加が十分に得られず、二酸化炭素を効果的に固定化するには至ってはいない。
このように、一般に法面や建造物の表面に配置して、積極的に二酸化炭素を吸収、固定化しうる表面層の形成は、大気中の二酸化炭素量抑制の観点から熱望されているのが現状である。
【特許文献1】特開平8−105052号公報
【特許文献2】特開平9−205875号公報
【特許文献3】特開平11−268969号公報
【特許文献4】特開2003−277164公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点を考慮してなされた本発明の目的は、法面などの任意の領域に容易に形成可能な、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる表面層、及び、その簡易な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、モルタル、コンクリート中へ大気中の二酸化炭素を大幅に浸透しやすくし、効率よく二酸化炭素を固定化しうる炭酸化反応を非常に促進するコンクリート組成物を用いて、吹き付け法により層を形成することで、上記問題点を解決しうることを見出し、本発明を成すに至った。
即ち、本発明は以下に示す構成である。
<1> 法面、トンネルの内壁或いは建造物の表面に、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けて構成され、コンクリート組成物中に三次元配向された該有機繊維に起因する空洞孔を有し、大気中の二酸化炭素を固定化する二酸化炭素固定化表面層。
<2> 前記コンクリート組成物に含まれるアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維の長さが20mm以下であり、該有機繊維がコンクリート組成物中にプレミックスにより混合されてなる<1>記載の二酸化炭素固定化表面層。
<3> 前記コンクリート組成物を建造物表面に吹き付ける際、前記有機繊維がコンクリート組成物中で三次元配向している<1>記載の二酸化炭素固定化表面層。
<4> 前記二酸化炭素固定化表面層の表面における二酸化炭素固定化量が0.8kg/m以上であることを特徴とする<1>乃至<3>のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化表面層。
【0009】
<5> 法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に二酸化炭素を固定化しうる表面層を形成する二酸化炭素固定化表面層の製造方法であって、法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に繊維配向用の突起物を設け、その後、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けにより敷設し、コンクリート組成物中に三次元配向された該有機繊維を分解、減容させてコンクリート組成物表層部に空洞孔を設ける、二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
<6> 前記繊維配向用の突起物が、棒状、板状、或いは、櫛状の形状を有する固体であることを特徴とする<5>に記載の二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
<7> 法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に二酸化炭素を固定化しうる表面層を形成する二酸化炭素固定化表面層の製造方法であって、法面、トンネルの内壁又は建造物にコンクリート組成物吹きつけ用の保護壁を形成する工程と、該保護壁に向かって、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂、或いは、紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けにより敷設する工程と、該コンクリート組成物が硬化した後、コンクリートが硬化した領域に近接してさらにコンクリート組成物を吹き付けにより敷設する工程と、を有し、前記各工程を所望の表面層を形成するまで繰り返すことを特徴とする二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
<8> 前記コンクリート組成物に含まれるアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維の長さが20mm以下であり、該有機繊維がコンクリート組成物中にプレミックスにより混合されている<5>乃至<7>のいずれか1項記載の二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
【0010】
本発明において用いられる、二酸化炭素固定化表面層を形成するコンクリート組成物は、水、セメント、混和材料、骨材に、アルカリ分解性樹脂からなる有機繊維及び紫外線分解性樹脂からなる有機繊維のうち少なくとも1種を含有することを特徴とし、このコンクリート組成物を混練し、任意の法面や建造物の表面に吹きつけ法によって適用し、硬化した後、アルカリ或いは紫外線によりコンクリート組成物中に含まれる樹脂からなる有機繊維が分解し、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表面部が形成される。
二酸化炭素固定化能を有する前記コンクリート組成物には、空隙を形成するための分解性有機繊維に加え、二酸化炭素吸収を有する種々の化合物を添加することができる。
【0011】
なお、本発明の二酸化炭素固定化表面層の表面における二酸化炭素固定化量は、前記の如く0.8kg/m以上であることが好ましい。通常のンクリート構造物の表面における二酸化炭素固定化量は、0.30〜0.40kg/mであることを考慮すれば、この二酸化炭素固定化表面層が優れた二酸化炭素固定化能を有することがわかる。
【0012】
セメントモルタル、コンクリートの炭酸化は、セメントの水和反応によって形成される水酸化カルシウムが大気中よりコンクリート中に浸透した二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムとなる反応によって生じる。炭酸カルシウムは化学的に安定な化合物であり、通常の環境条件のコンクリート中では分解されにくいため、コンクリート中に浸透した二酸化炭素は炭酸カルシウムとしてコンクリート中に固定されることになる。
本発明の表面層は、モルタル、コンクリート中のセメント水和物の炭酸化反応を促進するため、より多くの二酸化炭素がモルタル、コンクリート中に浸透するよう、モルタル、コンクリートに、分解性の繊維を応用した多数の微細な空隙が形成されており、且つ、このような表面層はコンクリートの吹き付け法を利用して容易に形成できる。このため、このような表面層を法面や建造物の表面に形成することで、法面、トンネルの内壁や建造物の表面を保護するとともに、該表面に空気中の二酸化炭の優れた固定化能を発現させることができる。
また、吹き付け法を利用することで、二酸化炭素固定化に有用な、薄く、且つ、大面積の表面層を容易に形成することができるという利点をも有する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、法面などの任意の領域に容易に形成可能な、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる表面層を得ることができ、且つ、本発明の二酸化炭素固定化表面層の製造方法によれば、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化しうる表面層を任意に領域に簡易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の二酸化炭素固定化表面層は、法面や建造物の表面に、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けし、硬化することで得られ、好ましくは、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を0.05容積%〜10容積%設けてなり、大気中の二酸化炭素を効果的に固定化することができる。
【0015】
以下、本発明の種々の態様について、図を参照して説明する。
図1は、本発明の二酸化炭素固定化表面層10の第一の態様の例を示す断面図である。
二酸化炭素固定化表面層10は、二酸化炭素固定化能に優れたコンクリート組成物を地山12の法面に吹き付け法により敷設して形成されたものである。
二酸化炭素固定化能に優れたコンクリート組成物中には、分解性の繊維14が三次元配向するように分散されており、この分解性の繊維が、コンクリート組成物の硬化後、養生中にアルカリ成分により分解(減容)するか、或いは、紫外線により分解して、微少な空洞孔を形成する。
このように、二酸化炭素固定化表面層10内に、二酸化炭素固定化能を効率的に付与するためには、分解性繊維14がコンクリート組成物内で三次元配向するように分散することが重要であるが、そのための一つの方法として、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる長さが20mm以下の有機繊維14を、コンクリート組成物中にプレミックスにより混合し、それを法面などに吹きつけ法により適用する方法がある。
【0016】
ここで、プレミックス法とは、コンクリートの練混時点において繊維を混合することを指す。なお、その他の繊維の混合法としては、コンクリート組成物の圧送の時点で混入する方法(ホースに繊維注入口をつけて吹き付ける方法)があり、これを吹付け形成法と称する。
【0017】
ここで用いられる有機繊維は、コンクリート組成物を吹き付けた後、分解、減容してコンクリート組成物中に空隙を形成する機能を有する分解性の繊維を選択する必要がある。有機繊維の長さが20mmを超えると、プレミックスによる均一分散が困難になる。ここで用いる有機繊維については、以下に詳述するが、本態様に使用する場合には、形状が直径5〜100μm、長さ50μm〜20mmのものが好ましく、より好ましくは直径10〜50μm、長さ1〜15mmであり、さらに好ましくは直径10〜25μm、長さ5〜10mmである。
【0018】
図2は、本発明の二酸化炭素固定化表面層20の第2の態様を示す概略断面図である。 二酸化炭素固定化表面層12は、繊維を配向させるための突起物22を予め所定の間隔で設けた地山12の法面に、二酸化炭素固定化能に優れたコンクリート組成物を吹き付け法により敷設して形成されたものである。
図2に示すように、地山12の表面に所定の間隔で突起物22を設けることで、コンクリート組成物を吹きつけ形成法により適用した場合、コンクリート組成物がその障害物(突起物)22により複雑な流動経路をとり、これにより組成物中の有機繊維が三次元配向され、二酸化炭素固定化に有用な空孔が均一に形成される。この方法によれば、有機繊維は、その長さや形状にかかわらず三次元配向されるため、有機繊維として、長さが50μm〜500mmといった広い範囲にわたって好適に使用しうる。
【0019】
次に、第2の態様における突起物22について説明する。この突起物22は、吹き付けられたコンクリート組成物の流動方向に影響を与える形状で、所定の間隔で形成される。効果の観点からは、太さは円柱換算で、直径1mm〜20mm程度が好ましく、5mm〜10mmであることがさらに好ましい。長さは、所望の表面層の厚さにより適宜決定され、20mm〜100mm程度が好ましく、40mm〜80mmであることがさらに好ましい。
また、突出物22の配置密度は、1m当たり4〜400個程度が好ましく、25〜45個の範囲であることがより好ましい。
突出物を構成する素材としては特に制限はなく、コンクリート組成物の吹きつけによる大きな変形や破損が生じない限り、どのようなものであってもよいが、コンクリート組成物による劣化や経時的な強度低下のない、耐久性に優れたものという観点からは、例えば、鋼、プラスチック、ガラス、炭素、ゴムなどの素材製であることが好ましく挙げられる。また、金属材料をもちいる場合には、コンクリート組成物の中性化に伴う炭酸化の影響を抑制するため、防錆処理されたものを用いることが好ましい。
突出物を法面や建造物表面に固定化する方法としては、それを構成する材質にもよるが、突出物を1つ1つ個別に敷設する方法、ネット状に連続に形成した状態で敷設する方法などが挙げられる。また、ラス網の如き金属の網状体に、所定の間隔で突出部を設けたもの、不織布や合成樹脂フィルムに樹脂製の突出部を密着させたものなどのシート状、網状体を法面全体に固定するといった方法をとることもできる。
本態様では、突出物は棒状のものを用いたが、必ずしもこれには限定されず、板状の突出物を均等に設けてもよく、櫛歯状のものを用いることもできる。
この突出物はトンネルの内壁、特に天井近傍に配置することで、繊維配向に有用であるばかりでなく、形状によっては保護壁としての機能をも有することがある。
【0020】
図3及び図4は、本発明の二酸化炭素固定化表面層の別の形成方法を示す概略断面図である。吹き付け方法による施工で有機繊維を三次元配向させる別の方法としては、吹き付け方向を法面や建造物の表面に対して垂直に近い方向より行うことが好ましく、このため、断面形状が菱形となるように、極力細長く仕上げる方法が挙げられる。
即ち、吹き付けの性質上、圧縮空気により圧送されたコンクリート組成物は、施工面に押しつけられるように打設されるため、有機繊維は、吹き付け面に平行に配列されやすい。繊維が法面に沿うように二次元配向されると、表面層の最表面から深部に至る空隙が形成され難くなり、二酸化炭素固定化能が低下する可能性がでてくる。しかしながら、局所的に一定方向から吹き付けを行い、このような菱形の硬化部分を順次作製することで繊維長に依存しない繊維の三次元配向を実現するものである。
ここで、三次元配向とは、三次元的に繊維がランダムに存在している配向(X,Y,Zの空間に繊維がランダムな位置・ランダムな方向で存在する配向)を指す。
図3は、表面層30を形成する地山12の法面の傾斜が急峻な場合の表面層30の形成方法を示す。このように傾斜が急峻である場合、地山12の法面の最上部において、地面に垂直な保護壁32を配置し、図中に矢印で示す方向よりコンクリート組成物を吹き付け、まず、表面層のうち(1)で示される領域を形成する。(1)の領域が安定した後、この側面を保護壁32に代えて同様の吹き付けを行い(2)の領域を形成する。これを下方にむかって順次繰り返し、法面全体に表面層を形成する。また、(1)、(2)、(3)、・・・で示される各領域毎に保護壁を設置して、上部領域が安定化し、完全に硬化する前に順次、各領域の吹き付けを行ってもよい。
【0021】
図4は、表面層40を形成する地山42の法面の傾斜が緩やかな場合の表面層40の形成方法を示す。このように傾斜が緩やかな場合、地山42の法面の下部において、図中に矢印で示す方向よりコンクリート組成物を吹き付け、まず、表面層の最下部である(1)で示す領域を形成する。この場合には、地面や法面自体が保護壁としての機能を有するため、斜面の角度によっては、保護壁を人工的に設けず、地面や法面或いは建造物に形成された凹凸などを保護壁として機能させることができる。この二酸化炭素固定化能に優れたコンクリート組成物の安定化後、当該領域(1)の上面に、同様の方向からコンクリート組成物を吹き付け、(2)で示す領域を形成する。これと同様の工程を上方にむかって順次繰り返し、法面全体に表面層40を形成する。
図3及び図4で示した態様の如く、部分的に、一定の方向、即ち、法面に対して垂直に近い、即ち、地面に水平に近い方向から、局所的な領域にコンクリート組成物を吹き付けて表面層の一部分を形成することで、有機繊維の配向を設計通りの三次元配向とすることができる。この場合、有機繊維の配合は、プレミックス法によるものであっても、吹き付け時に有機繊維のみを供給して混合する方法によるものであっても同様の効果が得られる。
本発明の二酸化炭素固定化表面は、その内部に補強を目的として、鉄筋などの金属材料や無機繊維などの補強材を配置することができる。
【0022】
以下、本発明の二酸化炭素固定化表面を構成する二酸化炭素固定化能に優れたコンクリート組成物について説明する。
【0023】
〔二酸化炭素固定化コンクリート組成物〕
本発明の表面層形成に用いられる大気中の二酸化炭素を固定化しうる二酸化炭素固定化成型体は、少なくともその表層部に直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔を、0.05容積%〜10容積%の範囲で設けてなるものである。この空隙は、アルカリ分解性樹脂或いは紫外線分解性樹脂の有機繊維をコンクリート組成物中に含有させ、コンクリート硬化後、アルカリ雰囲気下に晒すか、自然光、或いは、人工的に紫外線を照射するなどの手段により、これらの樹脂を分解、減容させて形成される。空隙量や空隙間隔は、含有させる樹脂からなる有機繊維のサイズ、添加量などにより容易に調整することができる。
本発明の効果は、コンクリート組成物の硬化体表層部に形成された空隙、空洞孔の存在により達成される。本発明でいう表層部とは、コンクリート硬化体からなる表面層の断面において表面からの深さ方向で0〜100mm程度、即ち、大気と接触する最表面から100mmまでの深さの範囲を指し、この領域に前記の如き空隙、空洞孔を有することで本発明の効果を達成しうる。空隙が形成される深さは本発明の表面層の厚みとの関係で最大深度が決定される。空隙は、底部、即ち、法面や建造物の表面との界面まで均一に存在していてもよいが、深さ方向の表面近傍のみに形成されていてもよい。
【0024】
これら空隙を形成する有機繊維を構成する樹脂は、アルカリ雰囲気下、或いは、紫外線照射により分解して減容、或いは消滅する特性を有するものであれば、特に制限はないが、アルカリにより速やかに加水分解する脂肪族ポリエステル、ポリアクリル酸などの生分解性樹脂、アルカリにより加水分解するポリエチレンテレフタレート等や、紫外線照射により分解するポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂などが好ましく挙げられる。
なかでも、脂肪族ポリエステルは、コンクリート組成物に混入する前は、繊維強度が十分に高く、良好な取扱い性を有しているが、コンクリート組成物に混入させて、硬化させ、セメント系成型体を形成した場合、アルカリ雰囲気に曝されることで、繊維を構成する樹脂が加水分解して低分子化し、ガス化し、成型体中で良好な空隙を形成するという観点から特に好ましい。
【0025】
このようなアルカリ雰囲気下において加水分解性を有する樹脂として、まず、脂肪族ポリエステル樹脂を例に挙げて説明する。
本発明において用いられる脂肪族ポリエステル樹脂は、単独重合樹脂、共重合樹脂のいずれであってもよいが、自己縮重合および/または開環重合によって得られる単独重合樹脂が好ましい。このような単独重合脂肪族ポリエステル樹脂は公知の種々の樹脂を用いることができるが、より具体的には、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ3−ヒドロキシブチレートおよびポリカプロラクトンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
前記例示の単独重合脂肪族ポリエステル樹脂は、いずれも生分解性樹脂として知られているが、アルカリ雰囲気下で加水分解して容易に低分子量化するため、本発明に好適に用いられる。
【0026】
また、本発明においては、ポリマー分子内に、前記各樹脂の構成単位を2種以上有する共重合脂肪族ポリエステル樹脂、あるいは前記各樹脂の構成単位とその他の構成単位を有する共重合脂肪族ポリエステル樹脂も用いることができる。
これらの樹脂の中で、経済性や、カーボンニュートラル、効果などの点から、特に発酵法による乳酸を原料とするポリ乳酸が好ましい。
本発明においては、有機繊維の素材として、これらの脂肪族ポリエステル樹脂を、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
空隙を形成する場合、脂肪族ポリエステル樹脂は、紡糸など公知の方法により繊維状に成形して用いる。有機繊維に成形する場合、その紡糸方法については特に制限はなく、従来、熱可塑性樹脂の紡糸において慣用されている公知の方法の中から、任意の方法を適宜選択して用いることができる。また、紡糸繊維を、必要に応じ公知の方法で延伸処理してもよい。繊維状に成形された樹脂は、コンクリート内部で、細長い連続的な空隙を形成するため、効果の観点から好ましい。
また、前記の脂肪族ポリエステル樹脂には、成形性、紡糸性や、繊維にした場合のアルカリ加水分解性以外の物性を向上させるなどのために、本発明の目的が損なわれない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニールアルコール、ポリアセタール、芳香族ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミドなどを併用してもよく、また、可塑剤等の公知の添加剤を適宜添加することもできる。
【0028】
このような素材からなる本発明のセメント系成型体用有機繊維は、アルカリ雰囲気下において加水分解性を有しており、したがって、セメント配合物に混入させて、セメント系成型体を形成した場合、セメント水和物が本来有するアルカリ雰囲気に曝されることで、該繊維を構成する樹脂が加水分解する。例えば、ポリ乳酸繊維を用いた場合、セメント水和物中に一定期間、具体的には、概ね4週間程度おくことにより、減容し、空隙が形成される。
【0029】
脂肪族ポリエステル樹脂からなる有機繊維をコンクリート組成物に配合する場合、有機繊維としては、形状が、直径5〜100μm、長さ50μm〜20mmのものが好ましく、より好ましくは直径10〜50μm、長さ1〜15mmであり、さらに好ましくは直径10〜25μm、長さ5〜10mmである。
上述したように、有機繊維をコンクリート組成物中にプレミックスして吹き付けを行い、有機繊維の三次元配向を達成しようとする場合には、有機繊維の長さは20mm以下であることが好ましい。
なお、有機繊維の形状は、電子顕微鏡或いは高倍率の光学顕微鏡による映像を用いて常法により測定することができる。
【0030】
本発明における該コンクリート組成物は、前述のアルカリ分解性或いは紫外線分解性樹脂からなる有機繊維と、水、セメント、混和材料、骨材を含有することを特徴とする。本発明においては、コンクリート組成物を吹き付け法により打設するため、有機繊維は必ずしもコンクリート組成物中に配合されていなくてもよく、吹き付け時に後から供給し、コンクリート組成物中に添加する方法をとることも可能である。
コンクリート組成物中の有機繊維の配合量としては、二酸化炭素固定化能や形成される表面層の強度などを考慮すると、組成物全量に、0.05〜1.0体積%の範囲であることが好ましく、より好ましくは0.05〜0.5体積%、さらに好ましくは0.3〜0.5体積%である。なお、この含有量は、形成された表面層中におけるものであり、有機繊維を後添加する場合にも標記範囲となるように、供給条件、供給量などを適宜選択することが好ましい。
形成された表面層は、水、セメント、混和材料、骨材、化学混和剤よりなるコンクリート組成物からなり、用途に応じて各種材料の、重量比を適宜調整することができる。
【0031】
コンクリート組成物には、二酸化炭素固定化能を向上させる観点から、二酸化炭素を吸着しうる微粉末または吸着剤(以下、適宜、二酸化炭素吸着物質と称する)、酸化カルシウム(CaO)微粉末などの添加剤を含有することができる。
ここで、コンクリート組成物に配合可能な二酸化炭素を吸着しうる微粉末または吸着剤としては、γ−2CaO・SiOを含有するスラグが好ましく挙げられる。このようなγ−2CaO・SiOを含有するスラグとしては、例えば、ステンレススラグ、製鋼スラグが挙げられる。該スラグは、ブレーン比表面積が3000cm/g以上であることを要し、4000〜10000cm/gの範囲であることがより好ましい。なお、スラグのブレーン比表面積は、JIS R 5201に記載のブレーン法により、或いは、レーザー回析粒度計を用いる方法により測定することができる。
該スラグを二酸化炭素吸着物質として使用する場合には、コンクリート組成物中に含まれるセメントの含有量に対して15〜45質量%の範囲であることが好ましく、この範囲において優れた二酸化炭素吸着能が発現され、力学的特性にも優れる。
【0032】
二酸化炭素を吸着しうる微粉末または吸着剤の他の好ましい例としては、ゼオライト微粉末、シリカゲル微粉末、アルミナ微粉末、甲殻類微粉末からなる群より選択される微粉末が挙げられる。なかでも、好ましくはゼオライト微粉末及び甲殻類微粉末である。甲殻類は、カルシウムを多量に含有するため、微粉末にすると優れた二酸化炭素吸着能を示す。
これら微粉末の粒径は、1μm〜3mm程度が好ましく、さらに好ましくは10μm〜1mmの範囲である。
これら微粉末を二酸化炭素吸着物質として用いる場合、その含有量はコンクリート組成物に含まれるセメントの含有量に対して5〜30質量%の範囲であることが好ましい。この範囲において、顕著な二酸化炭素吸収効果が発現され、コンクリート成形体の力学的特性には影響を与える懸念はない。
【0033】
本発明に用いうるCaO微粉末としては、CaOを含有し、且つ、ブレーン比表面積が2000cm/g以上であるものを用いる。
CaOを主成分とする微粉末は、生石灰や石灰系膨脹材などをブレーン比表面積が2,000cm/g以上の微粉末状に粉砕したものを用いることができる。このような微粉末は、石灰系混和材と同様に、混和材料としても使用することができる。
微粉末のブレーン比表面積は3000cm/g以上であることを要し、3000〜4000cm/gの範囲であることがより好ましい。
CaO微粉末は、コンクリート組成物中に0.5〜2.0容積%の範囲で含まれることが好ましく、この範囲において優れた二酸化炭素吸着能が発現され、成形体の力学的特性にも優れる。
【0034】
本発明において表面層の素材であるコンクリート組成物に用いられるセメントとしては特に制限はなく、形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント類の中から、適宜選択することができる。セメントとして、普通ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、高炉セメント、フライアッシュセメント、などが使用できる。
前記混和材料としては特に制限はなく形成されるセメント系表面層の用途に応じて、各種セメント、コンクリート用混和材料から適宜種類、使用量を選択できる。混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどが一般的に使用できる。
また、骨材の種類や量は特に制限はなく、形成される成型体の用途に応じて、骨材の種類及び配合割合を適宜選択することができる。
【0035】
本発明の表面層を形成するコンクリート組成物には、通常セメントに配合されている各種添加剤、例えば減水剤、空気連行剤、消泡剤などを、適宜配合することができる。
本発明で用いられるコンクリート組成物の水とセメントの重量比は、形成される表面層の設置場所や用途に応じて適宜選択することができるが、大気中の二酸化炭素との炭酸化反応を促進するためには、水と結合材の重量比は30%以上70%以下が好ましく、より好ましくは40%以上65%以下である。
【0036】
本発明の二酸化炭素固定化表面層は、前記した空隙形成用の分解性樹脂からなる有機繊維を含有する二酸化炭素固定化コンクリート組成物を混練し、吹き付け法により所望の領域に打設し、硬化した後、アルカリ或いは紫外線によりコンクリート組成物中に含まれる樹脂微粒子もしくは樹脂からなる有機繊維を分解させ、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表層部を形成することにより製造することができる。
アルカリ雰囲気下に暴露した場合には、アルカリに接触した成形体の表面領域から徐々に樹脂が分解(/減容)し、空隙が形成される。アルカリ雰囲気の特性やアルカリ雰囲気への接触条件を制御することにより、表面層の表層部のみに空隙を形成することができる。また、空隙形成用の分解性樹脂を含まないコンクリート組成物を先に吹き付け、その表面に空隙形成用の分解性樹脂を含んだコンクリートを打設、硬化して空隙を形成させることにより、表層部のみに空隙を有する表面層を形成することもできる。
このように、空隙は少なくとも二酸化炭素の固定化に関与する表層部に形成されていればよいが、コンクリートのさらなる深部まで均一に形成されていてもかまわない。
【0037】
このような空隙を有する表層部において空隙の開口部から徐々に二酸化炭素が浸透し、コンクリート組成物中においてセメントの水和反応の反応生成物である水酸化カルシウムと反応して炭酸カルシウムを形成し、二酸化炭素の固定化がなされる。
【0038】
表層部に形成された空隙のサイズや形状は、成型体断面を電子顕微鏡で観察することにより、検知できる。また、空隙率は水銀圧入ポロシメータなどにより測定することができる。
ここで用いられる二酸化炭素固定化成形体形成用のコンクリート組成物は、従来のセメントコンクリート組成物に比較して大気中の二酸化炭素による炭酸化反応が早く進行し、セメント成型体中に炭酸カルシウムとして固定される量が増大する効果を持つとともに、力学特性は従来と同程度の成型体を得ることができる。
【0039】
次に、吹き付け法の詳細についてのべる。
法面や建築物の表面にコンクリート組成物を吹き付け法により打設するための装置としては、コンクリートの吹き付けに一般に用いられる装置、例えば、空気圧縮機、計量機、吹付け機,ミキサーなどを用いればよく,材料分離や吹付け時のはね返りの観点から,スクイーズ式やピストン式のポンプ圧送吹付け機が好ましい。また、
吹き付け条件としては、圧送距離200m以内、直高50m以内が好ましい。
【0040】
本発明の表面層においては、その内部に鉄筋や枠材などの補強材を配置して強度を向上させることも可能である。
本発明に使用される二酸化炭素固定化表面層は、主として中性化を促進することにより二酸化炭素の効率的な固定化を達成しているために、通常のコンクリートからなる表面層に比較してアルカリ雰囲気の中性化が早いため、補強材として中に用いられる鉄筋、鉄骨は酸化されにくい素材を用いたもの、耐久性に優れた防錆加工を施したものを選択することが好ましい。
即ち、成形体に補強材として、鉄筋や鉄骨をもちいる場合、表面を防錆処理したものを用いることが好ましい。防錆処理としては、公知の方法、例えば、亜鉛メッキ処理やエポキシ樹脂などの樹脂系材料による表面被覆などが挙げられる。また、鉄材に代えて、酸化されにくいステンレススチール、チタン、ニッケルなどの金属材、錆びることのないFRP筋(ガラス繊維や炭素繊維を樹脂で固めた複合補強筋)などを補強材として埋設することも好ましい。さらに、炭素繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維,アラミド繊維など非鋼製繊維混入によるタフネス増加を計ることにより構造物を無筋化することも可能である。
さらに、炭素繊維、ステンレス繊維、及び、ビニロン繊維からなる群より選択される補強用繊維をコンクリート組成物に分散、混合することも好ましい態様である。
【0041】
本発明の二酸化炭素固定化表面層における二酸化炭素固定化量が0.8g/m以上であることが効果の観点から好ましく、さらに好ましくは、1.5kg/m以上である。
本発明の表面層の厚みは、表面層が形成される地山の法面や建造物の表面に状態や使用目的に応じて適宜選択されるが、一般的には、3cm〜15cmの範囲であることが好ましい。
【0042】
本発明の表面層は。ビルなどの建築物の外壁、地山や堤防などの法面などに配置することで、表面の強度向上が計れ、且つ、二酸化炭素の吸収能が高い表面を任意の領域に形成しうる。
【0043】
本発明において二酸化炭素固定化表面層が有する二酸化炭素固定化能を推定する方法としては、本願出願人が先に提案した特願2005−145628明細書に記載の方法を適用することができる。
即ち、該コンクリート建造物に用いられる二酸化炭素固定化成形体の二酸化炭素固定化能に応じて、成形体が大気に接触した時間を発生時Tより、解体時などの固定化終了時Tまでの間に吸収する二酸化炭素の量を推定する方法であり、より具体的には、発生時Tからの経過時間tにおけるコンクリート製ガス吸収素材の炭酸化深度cを、炭酸化速度方程式c=f(t)で表し、更に建造物に用いられる二酸化炭素固定化成形体のうち既に炭酸化した領域と未炭酸化領域との境界面sの面積をSとして、炭酸化がdc(表面からの深さ)だけ進行したときの体積部分に含まれる炭素の密度をaとして、炭酸化深度cに達したときのガス吸収量WをW(c)=∫(a×S)dcと表して、これら両式から所定時間内での温室効果ガス吸収量を推定するものである。
【0044】
コンクリートの炭酸化反応は一般に中性化反応とも呼ばれるが、その炭酸化(中性化)速度式としては、ルート則と呼ばれるc=A×tを用いることができる。ここでcは反応量、Aは炭酸化速度係数、tは経過時間である。また、nは実験的に決定される定数で一般的にはn=0.5である。
【0045】
炭酸化速度式c=A×t0.5中の炭酸化速度係数Aは、従来様々な研究が行われているが、簡単には水セメント比(W/C)に依存するAと、それ以外の要因に依存する定数Rとで、A=A×Rで表すことができる、Rは炭酸化率と呼ばれる定数であり、コンクリートの属性による係数をA、仕上げ材による係数をA、環境(温湿度、二酸化炭素濃度)の区分による係数をAとすると、R=A×A×Aとなる。
【0046】
に関しては、例えば実験的にW/C≧0.6であるときに次の数式1が知られており、又、W/C≦0.6であるときに数式2が知られている(岸谷 著「鉄筋コンクリートの耐久性」鹿島建設技術研究所出版部 1963年刊)。
【0047】
[数式1]
={(W/C)−0.25}/[0.3×{1.15+3(W/C)}]0.5
【0048】
[数式2]
={4.6×(W/C)−1.76}/√(7.2)
なお、上述のW(c)=∫(a×S)dcを用いれば任意の形状のコンクリート建造物の温室効果ガスの吸収量を計測することができるが、平板状のコンクリート板に関しては、W/S=∫abcとすることで単位表面積当りの吸収量を求めることもできる。
このようにして本発明の表面層における二酸化炭素固定化能を推定し、その設計に役立てることができる。
本発明の表面層を大気と接するように、任意の位置に設置することで、二酸化炭素固定化能を有する領域を形成しうる。配置する場所としては、具体的には、例えば、戸建て住宅、ビルディングなどの建築物の表面、橋脚や橋梁床版、擁壁、ダムやトンネルなどの土木建造物表面、地山、護岸などの法面、トンネルの内壁などが挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に制限されるものではない。
(コンクリート組成物の配合)
普通ポルトランドセメントと水、砂(骨材)を含有するセメント組成物100質量部中に、下記表1に示す量の分解性樹脂からなる有機繊維を配合して、水/セメント組成物比(W/C 比)が55%、セメント組成物と砂の比率が1/3のモルタルを調製してコンクリート組成物を調製した。
また、比較のために、アルカリ分解性有機繊維に代えて、一般の建材に補強材として使用される分解性を有しない有機繊維を配合し、同一混入量にてコンクリート組成物を調製して比較例とした。
【0050】
[使用材料]
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)比重3.15
水:水道水
砂:木更津産山砂、表乾密度2.65g/cm、吸水率0.46%、実積率60.4%、粗粒率6.70
AE減水剤:チューポールEX20(竹本油脂社製)
消泡剤:AFK−2(竹本油脂社製)
【0051】
有機繊維:
ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸した繊維(表中にPLA繊維と記載、以下同様)、繊維径20μm、長さ5.0mm
【0052】
[コンクリート組成物の配合]
表1にコンクリート組成物の配合を示す。表中で使用した各材料の詳細は上記の通りである。なお、下記表1中、W/Cは、水/結合材比を、S/Cは砂/セメント比を表す。
【0053】
【表1】

【0054】
[二酸化炭素固定化表面層の製造]
前記表1に記載のコンクリート組成物について、水、セメント、砂および有機繊維または樹脂微粒子を所定量ミキサ(ホバート社製 SK−30Sミキサ、容量30L)に投入し、3分間練り混ぜた。この際、練りあがったモルタルの空気量が一定の値(5.0容量%)と成るよう、AE減水剤および消泡剤を適量添加し調整した。
練り混ぜ後、モルタルポンプ(新明和工業製 MM−105HA)および空気圧縮機(MEIJI社製G−75K)にて圧送し、角度45度の法面に吹き付けて表面層を形成し、100mmの二酸化炭素固定化表面層を形成した。
【0055】
[二酸化炭素固定化能の評価]
促進中性化後、形成された表面層にφ10cmのコアカッターにてコア抜きし、それを割裂して二酸化炭素固定量を測定した。
二酸化炭素固定量測定は、破断塊の断面からコンクリート組成物片を採取し、ボールミルで粉砕し,#200ふるいを通過するものをスクリーニングし、熱重量測定装置(TG8110C、株式会社リガク製)を用いて粉末試料中の炭酸カルシウムに含まれる二酸化炭素重量を測定した。その結果、二酸化炭素固定化量は、1.92kg/mであった。
通常のコンクリート組成物により、表面層を形成し、同様に評価したところ、二酸化炭素固定化量は0.34kg/mであり、本発明の表面層は、通常のコンクリート組成物による表面層に比較して、二酸化炭素を5倍以上の高効率で固定化していることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】有機繊維をプレミックスする方法により得られた、本発明の二酸化炭素固定化表面層の第一の態様の例を示す断面図である。
【図2】繊維を配向させるための突起物を設けた地山の法面に二酸化炭素固定化表面層を形成した一態様を示す断面図である。
【図3】勾配が急峻な法面に二酸化炭素固定化表面層を形成する方法を示す概略断面図である。
【図4】勾配が緩やかな法面に二酸化炭素固定化表面層を形成する方法を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0057】
10、20、30、40 二酸化炭素固定化表面
12、42 地山
14 有機繊維
22 突出物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面、トンネルの内壁或いは建造物の表面に、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けて構成され、コンクリート組成物中に三次元配向された該有機繊維に起因する空洞孔を有し、大気中の二酸化炭素を固定化する二酸化炭素固定化表面層。
【請求項2】
前記コンクリート組成物に含まれるアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維の長さが20mm以下であり、該有機繊維がコンクリート組成物中にプレミックスにより混合されてなる請求項1記載の二酸化炭素固定化表面層。
【請求項3】
前記コンクリート組成物を法面、トンネルの内壁或いは建造物の表面に吹き付ける際、前記有機繊維がコンクリート組成物中で三次元配向している請求項1記載の二酸化炭素固定化表面層。
【請求項4】
前記二酸化炭素固定化表面層の表面における二酸化炭素固定化量が0.8kg/m以上であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化表面層。
【請求項5】
法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に二酸化炭素を固定化しうる表面層を形成する二酸化炭素固定化表面層の製造方法であって、法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に繊維配向用の突起物を設け、その後、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けにより敷設し、コンクリート組成物中に三次元配向された該有機繊維を分解、減容させてコンクリート組成物表層部に空洞孔を設ける、二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
【請求項6】
前記繊維配向用の突起物が、棒状、板状、或いは、櫛状の形状を有する固体であることを特徴とする請求項5に記載の二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
【請求項7】
法面、トンネルの内壁又は建造物の表面に二酸化炭素を固定化しうる表面層を形成する二酸化炭素固定化表面層の製造方法であって、法面、トンネルの内壁又は建造物にコンクリート組成物吹きつけ用の保護壁を形成する工程と、該保護壁に向かって、水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂、或いは、紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有するコンクリート組成物を吹き付けにより敷設する工程と、該コンクリート組成物が安定した後、コンクリートが安定した領域に近接してさらにコンクリート組成物を吹き付けにより敷設する工程と、を有し、前記各工程を所望の表面層を形成するまで繰り返すことを特徴とする二酸化炭素固定化表面層の製造方法。
【請求項8】
前記コンクリート組成物に含まれるアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる有機繊維の長さが20mm以下であり、該有機繊維がコンクリート組成物中にプレミックスにより混合されている請求項5乃至請求項7のいずれか1項記載の二酸化炭素固定化表面層の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−177585(P2007−177585A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−380264(P2005−380264)
【出願日】平成17年12月28日(2005.12.28)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】