説明

人工衛星を利用した放送システム

【課題】人工衛星を介して、地域毎の放送を視聴可能にすること。
【解決手段】複数の領域にビームを照射する第1の人工衛星(4)と、複数の領域の全てをカバーする1つのビームを照射する第2の人工衛星(5)と、第1の人工衛星(4)を介して放送された領域毎テレビジョン放送と第2の人工衛星(5)を介して放送された共通テレビジョン放送とに基づいて、共通テレビジョン放送から領域毎テレビジョン放送に放送を差し替える差し替え期間である場合に、領域毎テレビジョン放送を表示器(6f)に表示し、且つ、差し替え期間でない場合に、共通テレビジョン放送を表示器(6f)に表示する放送表示制御手段(633)と、を備えた人工衛星を利用した放送システム(1)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星を利用した放送システムに関し、特に、人工衛星を通じてテレビジョン放送を行う放送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年の放送技術の進展により、テレビジョン放送がアナログからデジタルに移行しつつあり、2011年には、アナログテレビジョン放送(以下、「アナログ放送」と表記する)が停止され、UHF(Ultra High Frequency)帯の電波を使用した地上デジタルテレビジョン放送(以降、「地デジ放送」と表記する)のみとなることが予定されている。山間部や離島等では、VHF(Very High Frequency)帯の電波を使用していたアナログ放送においても電波が到達しにくくテレビジョン放送が視聴しにくい難視聴地域が存在したが、VHFよりも高い周波数帯のUHFを使用する地上デジ放送では、電波がさらに到達しにくくなる。したがって、難視聴地域が増大することが予想され、アナログ放送の難視聴地域10万世帯に加えて、20万世帯が増大し、合計30万世帯が難視聴地域となるという推計もある。
【0003】
これら難視聴地域においてテレビジョン放送を受信できないということは取得できる情報に格差が生じるという問題があり、難視聴地域をできるだけ減らす必要がある。難視聴地域を減らす方法としては、有線ケーブルや光ファイバ等を難視聴地域に敷設して有線ケーブルテレビジョン放送を行うことが考えられるが、費用や時間から実現は困難である。このほかの方法として、人工衛星を利用した衛星テレビジョン放送(BS/CS放送、以下「衛星放送」と表記する)が考えられる。現在商用化されている衛星放送では、電波帯域としてKu帯(アップリンク14GHz/ダウンリンク12GHz)を使用しており、放送衛星から照射されるビーム1本で広い地域(例えば日本全域)をカバーしている。
【0004】
このように衛星放送を使用する場合、難視聴地域においても各世帯でアンテナとチューナを設置することで放送が受信可能となるが、以下のような問題がある。
(1)衛星放送が広い地域をカバーしているため、日本全国で同一の番組しか放送されない。すなわち、民間放送局(以下、「民放」と表記する)の放送を行う場合、系列ネットワークの中心局、いわゆるキー局の放送が流れることとなり、日本全国で東京地区の放送しか流れなくなってしまう。この状態では、日本の各地方に根ざした番組やCMが流れず、視聴者に不利益になると共に、系列ネットワークの地方局、いわゆるローカル局の番組製作や広告収入減少等の問題もある。
(2)国政選挙、地方選挙などでは、その地方の候補者の所信表明を放送することが法的に定められているが、全国一斉放送では、地方毎の候補者の所信表明を視聴する機会がなくなるという問題もある。
(3)全国一斉放送では、台風情報等の地方に密着した情報の配信が困難であり、避難指示等が遅れる等の問題が発生する恐れがある。
(4)衛星放送では、雲や降雨等で電波が減衰しやすく、電波が減衰すると放送を視聴できない問題もある。
【0005】
日本のキー局およびローカル局全ての放送を衛星放送で流すことも考えられるが、公共放送も含めると日本には180局の放送局があり、Ku帯を使用する衛星放送では、放送番組の情報量が大容量すぎて全ての放送局の放送を流すことはできない。
【0006】
従来のKu帯の衛星放送では、降雨対策は、リードソロモン符号による誤り訂正と畳み込み符号化だけで行っており、降雨状況が変わってもこの誤り訂正方式は変更ができず、電波が減衰すると情報が視聴できなくなる問題が残る。
近年、情報通信技術の進展に伴って、光ファイバ等の通信回線が整備されていない地域における情報格差を解消するために新たに打ち上げられた人工衛星である「きずな」(WINDS:Wideband InterNetworking engineering test and Demonstration Satellite)は、9つのビーム(マルチビーム)で日本の9つの地域をカバーする衛星である。この衛星は、現在は情報通信に使用され、放送には使用されていないが、放送に使用可能となる可能性がある。WINDSは、電波の帯域としてKa帯(30GHz/20GHz)が使用されており、Ku帯に比べて、降雨状況等に対して電波の減衰がさらに発生しやすく、放送に使用する場合、さらなる降雨対策は必要となる。このようなマルチビームを使用する人工衛星における降雨対策に関する技術として、下記の特許文献が公知である。
【0007】
特許文献1(特開2002−335198号公報)には、衛星局(1)からユーザ局(U1,U2)に対してビーコン信号(13,14)を送信して、大気の減衰量を測定し、衛星局(1)からユーザ局(U1,U2)へのダウンリンクの送信電力を適正なレベルに制御することで、効率的なダウンリンクの通信を補償する送信電力制御を行う技術が記載されている。すなわち、電波の減衰が大きい場合に出力を大きくすることで、通信速度を制御している。
【0008】
【特許文献1】特開2002−335198号公報(要約書)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(従来技術の問題点)
前述のように、現在の衛星放送の技術では、(1)〜(4)の問題が残っている。
前記WINDSが対象としている情報通信が未整備の地域と、地デジ放送の難視聴地域は重なる部分が大きく、WINDSを放送に利用可能であれば、9つのビームでカバーされる日本の各地方にある難視聴地域において、地方密着の放送を配信可能になる可能性がある。
しかしながら、情報通信のためのWINDSにおいて電波で送受信される情報の容量全てを放送に使用することは、打ち上げられた人工衛星の目的から外れてしまう問題もあり、容量の一部を放送に使用することが求められる。また、全ての放送局の放送データを通信すると負荷が大きすぎて、やはり放送は困難である。そして、降雨状況等の受信状況に応じて通信の容量が減少した場合でも、放送が視聴できることが必要とされており、特に、台風や豪雨のような場合には、気象情報の放送が視聴可能になることが重要である。
【0010】
前述の事情に鑑み、本発明は、人工衛星を介して、地域毎の放送を視聴可能にすることを第1の技術的課題とする。
また、本発明は、人工衛星を介して放送を受信する際に、受信地域毎の受信状況に応じ、受信不能となることを低減することを第2の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記技術的課題を解決するために、請求項1記載の発明の人工衛星を利用した放送システムは、
予め設定された複数の領域にそれぞれビームを照射する第1の人工衛星と、
前記複数の領域の全てをカバーする1つのビームを照射する第2の人工衛星と、
前記第2の人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送である共通テレビジョン放送を送信する第2の放送局と、
前記第1の人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送である領域毎テレビジョン放送と、前記共通テレビジョン放送から前記領域毎テレビジョン放送に放送を差し替える差し替え期間を特定する差し替え期間特定情報と、を含む情報を送信する第1の放送局と、
受信した領域毎テレビジョン放送と共通テレビジョン放送とに基づいて、前記差し替え期間でない場合に、共通テレビジョン放送を表示し、且つ、前記差し替え期間である場合に、前記領域毎テレビジョン放送を表示器に表示する放送表示制御手段を有する放送受信局と、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の人工衛星を利用した放送システムにおいて、
差し替え期間の開始時期を特定する情報である予め設定された複数枚の静止画像により構成された差し替え開始情報と、差し替え期間の終了時期を特定する情報である予め設定された着色無地画像により構成された差し替え終了情報と、からなる差し替え期間特定情報、
を備えたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の人工衛星を利用した放送システムにおいて、
前記第1の放送局および前記放送受信局と送受信を行う電波帯域がKa帯の広帯域相互通信用の人工衛星により構成された前記第1の人工衛星と、
前記第2の放送局および前記放送受信局と送受信を行う電波帯域がKu帯の衛星放送用の人工衛星により構成された前記第2の人工衛星と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
前記技術的課題を解決するために、請求項4に記載の発明の人工衛星を利用した放送システムは、
予め設定された複数の領域にそれぞれビームを照射する人工衛星と、
前記人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送を送信する放送局と、
前記人工衛星から送信された前記テレビジョン放送を受信するアンテナを有する放送受信局と、
を備え、
前記放送局が、
前記人工衛星と前記放送受信局との間で、単位時間当たりに通信可能な情報量である通信速度を判別する通信速度判別手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記テレビジョン放送の解像度に比べて低解像度であり且つ単位時間当たりの情報量が少なく前記人工衛星に向けて送信可能な低解像度放送情報と、前記低解像度放送情報に比べて高い解像度であり且つ前記低解像度放送情報に比べて単位時間当たりの情報量が多い前記人工衛星に向けて送信可能な非低解像度放送情報と、に変換する放送情報変換手段と、
前記通信速度判別手段で判別された通信速度に基づいて、前記通信速度が非低解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記非低解像度放送情報に設定すると共に、前記通信速度が非低解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する放送情報設定手段と、
を有し、
前記放送受信局が、
前記人工衛星を介して前記放送局から送信された前記非低解像度放送情報または前記低解像度放送情報を、表示器に表示する放送表示制御手段、
を有する
ことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の人工衛星を利用した放送システムにおいて、
前記放送情報変換手段は、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、
地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成された前記低解像度放送情報と、
前記低解像度放送情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報と前記低解像度放送情報との差分情報により構成された中解像度放送差分情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報と、前記低解像度放送情報および前記中解像度放送差分情報との差分情報により構成された高解像度放送差分情報と、を含む前記非低解像度放送情報と、
に変換し、
前記放送情報設定手段は、
前記通信速度が、前記低解像度放送情報、前記中解像度放送差分情報および高解像度放送差分情報からなる高解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記高解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記低解像度放送情報および前記中解像度放送差分情報からなる中解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記中解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する
ことを特徴とする。
【0016】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の人工衛星を利用した放送システムにおいて、
スケーラブルH.264形式で前記テレビジョン放送の情報を変換する前記放送情報変換手段と、
を備えたことを特徴とする。
【0017】
請求項7に記載の発明は、請求項4に記載の人工衛星を利用した放送システムにおいて、
前記低解像度放送情報は、地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成され、
前記非低解像度放送情報は、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報により構成された中解像度放送情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報により構成された高解像度放送情報と、からなり、
前記放送情報変換手段は、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成された前記低解像度放送情報に変換する低解像度用変換手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報により構成された中解像度放送情報に変換する中解像度用変換手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報により構成された高解像度放送情報に変換する高解像度用変換手段と、
を有し、
前記放送情報設定手段は、
前記通信速度が、前記高解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記高解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が、高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記中解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
請求項1に記載の発明によれば、人工衛星を介してそれぞれ受信した共通テレビジョン放送と領域毎テレビジョン放送を切り替えることで、人工衛星を介して、地域毎の放送を視聴可能にすることができる。
請求項2に記載の発明によれば、送信される画像を使用して共通テレビジョン放送と領域毎テレビジョン放送を切り替えることができる。
請求項3に記載の発明によれば、現在運用中の通信用の人工衛星と、現在運用中の衛星放送用の人工衛星を使用して放送を行うことができる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、送信する放送情報の情報量を通信速度に応じて変化させることで、人工衛星を介して放送を受信する際に、受信地域毎の受信状況に応じ、受信不能となることを低減することができる。
請求項5に記載の発明によれば、通信速度に応じて、低解像度放送情報、中解像度放送情報、高解像度放送情報の3種類の中から送信可能且つ最も高画質の放送情報を送信できる。
請求項6に記載の発明によれば、スケーラブルH.264形式で変換を行うため、高い圧縮率で高速に放送情報を圧縮することができる。
請求項7に記載の発明によれば、放送情報に基づいてそれぞれ変換された低解像度放送情報、中解像度放送情報、高解像度放送情報の3種類の中から、通信速度に応じて、送信可能且つ最も高画質の放送情報を送信できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態の具体例(以下、実施例と記載する)を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0021】
図1は本発明の実施例1の人工衛星を利用した放送システムの全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の人工衛星を利用した放送システム1は、第1の放送局(地上局)の一例としてのローカル局2と、第2の放送局(地上局)の一例としてのキー局3と、第1の人工衛星(衛星局)の一例としてのKa帯マルチビーム衛星4と、第2の人工衛星(衛星局)の一例としての放送衛星5と、利用者の放送受信施設(放送受信局、地上局)6とを有する。
【0022】
実施例1では、前記ローカル局2とキー局3とは系列の放送ネットワークを構成し、キー局3は全国放送として東京地区の放送を行うと共に、ローカル局2はローカル局2が設置された東京地区以外の地区の特定の地方(例えば、関西地方)の放送を行う。前記ローカル局2は、全国放送はキー局3からの放送を流すと共に、キー局3の東京地区の放送時間帯にローカル局2の担当する地方に対応した放送を行う。前記キー局3は、図示しない地デジ放送用のアンテナと、放送衛星5に向けて放送番組を送信するアンテナ3aを有する。また、前記ローカル局2は、図示しない地デジ放送用のアンテナと、Ka帯マルチビーム衛星4に向けて放送番組のデータを送信するアンテナ2aを有する。
【0023】
図2は実施例1のKa帯マルチビーム衛星がカバーする日本の9つの地方の説明図である。
前記Ka帯マルチビーム衛星4は、ローカル局2および放送受信施設6と情報の送受信を行う人工衛星により構成されており、広帯域相互通信、いわゆるブロードバンドによる情報の送受信が可能な衛星である。前記Ka帯マルチビーム衛星4として、現在運用中の「きずな」を使用可能であり、電波帯域がKa帯の人工衛星を使用可能である。前記「きずな」は、予め設定された複数の領域である9つの地方にそれぞれビームを照射する人工衛星であって、図2に示すように、北海道、東北、関東甲信越、中部北陸、関西、中四国、九州、南西諸島、伊豆小笠原諸島、の9つの地方にそれぞれビームが照射可能に構成されている。
【0024】
前記放送衛星5は、キー局3および放送受信施設6と情報の送受信を行う人工衛星により構成されており、衛星放送、いわゆる、BS/CS放送が可能な衛星である。前記放送衛星として、現在運用中の「BSAT−2c」や「BSAT−3a」等が使用可能であり、電波帯域がKu帯の人工衛星を使用可能である。放送衛星5は、日本全国を1つのビームでカバーしており、日本全国で一斉放送が可能に構成されている。
【0025】
図3は実施例1の放送受信施設の説明図である。
図3において、実施例1の放送受信施設6の一例としての利用者の住居6aには、第1のアンテナの一例としての衛星通信用アンテナ6bと、第2のアンテナの一例としての衛星放送用アンテナ6cとが設置されている。前記衛星通信用アンテナ6bは、Ka帯マルチビーム衛星4との情報の送受信を行い、衛星放送用アンテナ6cは放送衛星5との情報の送受信が可能に構成されている。なお、実施例1では、前記Ka帯マルチビーム衛星4の使用する電波帯域がKa帯で、放送衛星5の使用する電波帯域がKu帯であるため、同じ利得を得る場合、衛星通信用アンテナ6bは、衛星放送用のアンテナ6cよりも小型のアンテナを使用可能である。
【0026】
前記住居6a内には、衛星放送用アンテナ6cとケーブルで接続された衛星放送用の情報変換装置、いわゆるBSチューナ6dと、衛星通信用アンテナ6bとケーブルで接続された衛星通信用の情報変換装置の一例である追加チューナ6eと、が設置されている。実施例1では、前記BSチューナ6dから延びるケーブルにより追加チューナ6eが接続されており、追加チューナ6eがテレビジョン表示器、いわゆるテレビ6fに接続されている。なお、実施例1の追加チューナ6eは、情報処理装置の一例としてのパーソナルコンピュータPCと接続されており、パーソナルコンピュータPCを使用して追加チューナ6e、衛星通信用アンテナ6b等を介してインターネット回線にアクセス可能に構成されている。
【0027】
(実施例1のローカル局2の制御手段の説明)
図4は実施例1の放送局が備えている機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図であり、図4Aはローカル局の機能ブロック図、図4Bはキー局の機能ブロック図である。
図4Aにおいて、ローカル局2は、地デジ放送や衛星を通じて放送される領域毎番組データの一例としてのローカル番組データが記憶されるローカル番組データ記憶手段201を有する。前記ローカル番組データ記憶手段201には、ローカル局2から放送される領域毎番組の一例としてのローカル番組のデータが記憶されている。
【0028】
ローカル局2の差し替え開始情報記憶手段202は、キー局3の放送番組からローカル番組に放送を差し替える差し替え開始時期を特定する差し替え開始情報を記憶する。
また、ローカル局2の差し替え終了情報記憶手段203は、ローカル番組の差し替えを終了する時期を特定する差し替え終了情報とを記憶する。
実施例1の差し替え開始情報は、赤の着色無地画像の静止画像と、緑の着色無地画像の静止画像からなる2つの静止画像により構成されており、差し替え終了情報は青の着色無地画像の静止画像が使用されている。前記ローカル番組データのような放送データは、地デジ放送で採用されているHDTV(High Definition Television:高精細度テレビジョン放送)方式では、1秒間に29.97枚のフレーム(静止画)を連続的に表示することで視聴者に動画のように認識させており、差し替え開始情報および差し替え終了情報としての赤、緑、青の静止画像は、それぞれ放送時の1フレームとして使用される。
【0029】
図5は実施例1の放送されるデータの一例の説明図であり、図5Aはローカル局から放送されるローカル放送の一例の説明図、図5Bはキー局から放送される全国放送の一例の説明図、図5Cは図5Aおよび図5Bの放送を受信した利用者のテレビに表示される画像の説明図である。
ローカル局2の差し替え期間判別手段204は、全国放送番組からローカル番組に差し替える差し替え期間k2(図5参照)になったか否かを判別する。実施例1の差し替え期間判別手段204は、差し替え開始時期t1になったか否かと差し替え終了時期t2になったか否かを判別することにより、その間の期間である差し替え期間k2を判別している。なお、実施例1では、前記差し替え期間は、キー局3とローカル局2との間での取り決め等で予め設定されている。
【0030】
放送データ作成手段205は、差し替え期間判別手段204の判別結果に基づいて、Ka帯マルチビーム衛星4を通じて放送される領域毎テレビジョン放送の一例としてのローカル放送のデータを作成する。実施例1の放送データ作成手段205は、差し替え期間判別手段204の判別結果に基づいて、ローカル番組データ記憶手段201、差し替え開始情報記憶手段202および差し替え終了情報記憶手段203から情報を取得してローカル放送データを作成する。図5Aにおいて、放送データ作成手段205は、差し替え期間k2になっていないと判別されると、図5Aの全国放送期間k1に示すように、差し替え終了信号の一例としての青色着色無地画像(いわゆるブルーバック画像)をローカル放送データに使用する。そして、差し替え開始時期t1になると判別されると、その直前の2つのフレームを差し替え開始情報の一例としての赤と緑の着色無地画像をローカル放送データに使用する。そして、差し替え期間であるローカル放送期間k2は、ローカル番組データ201に記憶された番組データが使用され、差し替え終了時期t2になると再び青色着色無地画像がローカル放送データとして使用される。すなわち、実施例1では、前記差し替え開始情報(赤と緑の静止画像)と差し替え終了情報(ブルーバック画像)とにより差し替え期間特定情報が構成されている。
【0031】
放送情報変換手段または情報符号化手段の一例としてのスケーラブルH.264変換手段206は、放送データ作成手段205で作成されたローカル放送データに基づいて、データの変換を行う。実施例1のスケーラブルH.264変換手段206は、画像および音声からなる動画を、従来公知のスケーラブルH.264方式のデータに圧縮、符号化するプログラム手段、いわゆるエンコーダ(encoder)により構成されている。実施例1のスケーラブルH.264変換手段206は、地デジ放送のワンセグメント部分受信サービス(以下、「ワンセグ」と表記)用の放送情報(ワンセグデータ)と、地デジ放送の標準画質放送(SDTV:Standard Definition Television)用の放送情報とワンセグデータとの差分情報により構成された中解像度放送差分情報(以下、「SDTV差分データ」)と、地デジ放送の高画質放送(HDTV:High Definition Television:)用の放送情報と、ワンセグデータおよびSDTV差分データとの差分情報により構成された高解像度放送差分情報(以下、「HDTV差分データ」と表記)と、に変換する。なお、実施例1では、日本で採用されている放送方式として、HDTV形式が有効走査線1080本(例えば、1920×1080の1080i)の高解像度画像(高精細画像)、SDTV形式が有効走査線480本(例えば、720×480または640×480の480i)の標準解像度画像(標準画質画像)、ワンセグ形式が320×240または320×180の低解像度画像に設定されている。
【0032】
したがって、ワンセグデータは、高解像度のローカル放送データから、ワンセグメント形式の解像度に対応する部分だけにしたデータ(いわゆる間引きしたデータ)となっている。また、SDTV差分データは、ローカル放送データから、SDTV形式の解像度に対応する部分だけに間引きしたデータから、ワンセグデータと重複する部分がさらに除かれたデータとなっている。そして、HDTV差分データは、高解像度のローカル放送データから、ワンセグデータおよびSDTV差分データが除かれたデータとなっている。
よって、ワンセグデータのみにより構成された低解像度放送情報では低解像度画像となり、ワンセグデータとSDTV差分データとを合わせた中解像度放送情報ではSDTV画質の中解像度画像となり、ワンセグデータとSDTV差分データとHDTV差分データとを合わせた高解像度放送情報ではHDTV画質の高解像度画像となる。すなわち、実施例1では、低解像度放送情報としてワンセグデータが使用され、非低解像度放送情報として、SDTV、HDTV画質のデータが使用されている。
【0033】
また、実施例1のスケーラブルH.264変換手段206では、放送データのような動画の圧縮時の1秒間あたりのデータ転送の効率であるビットレートが可変のVBR(Variable bitrate)方式でデータ変換が行われる。VBR方式では、各フレームと、前後の1または複数フレームとの差分に基づいてデータ変換が行われるため、青色着色無地画像が連続する場合には、変換後のワンセグデータやSDTV差分データ等のデータ量を非常に小さく(ほとんどゼロに)することが可能になっている。
情報一時記憶手段の一例としてのバッファ207a,207b,207cには、スケーラブルH.264変換手段206で変換された各データがそれぞれ一時記憶される。
【0034】
通信速度判別手段208は、Ka帯マルチビーム衛星(通信衛星)から送信されてアンテナ2aで受信した情報であって、Ka帯マルチビーム衛星4と利用者の放送受信施設6との間で、単位時間当たりに通信可能な情報量である通信速度の情報に基づいて、通信速度を判別する。実施例1の通信速度判別手段208は、放送受信施設6の降雨状況等に応じて変動する通信速度が、どの程度の通信速度、例えば50Mbps等を判別する。なお、実施例1では、複数の放送受信施設6から通信速度の情報を受信した場合には、その平均をローカル局2が担当する領域の通信速度と判別するが、平均に限定されず、最低値とすることも可能である。
【0035】
放送情報設定手段209は、通信速度判別手段208で判別された通信速度に基づいて、ローカル局2から送信する放送情報の設定を行う。実施例1の放送情報設定手段209は、通信速度の中の予め設定された割合だけ放送に割り当てるようにするために、例えば、通信速度の30%(50Mbpsなら50×0.3=15Mbps)が放送に割り当てられている場合には、その中に収まるデータをローカル放送のデータとして送信する。なお、実施例1では、放送に割り当てられる割合は、予め設定されており、設計や仕様等に応じて任意に変更可能であり、全てを放送に使用しても良い場合は100%に設定することも可能である。
【0036】
また、前記放送情報設定手段209は、通信速度の放送割り当て分が、予め設定された高解像度送信可能判別値(例えば10Mbps)よりも大きい場合には、高解像度放送情報を受信可能な通信速度であると判別し、送信する情報を高解像度情報(HDTV画質のデータ)に設定する。さらに、前記放送情報設定手段209は、通信速度の放送割り当て分が、予め設定された中解像度送信可能判別値(例えば5Mbps)よりも大きく且つ高解像度送信可能判別値よりも小さい場合には、通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ中解像度放送情報を受信可能な通信速度であると判別し、送信する情報を中解像度放送情報(SDTV画質のデータ)に設定する。また、前記放送情報設定手段209は、通信速度の放送割り当て分が、前記中解像度送信可能判別値よりも小さい場合には、通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ中解像度放送情報を受信不能な通信速度であると判別し、送信する情報を低解像度放送情報(ワンセグ画質のデータ)に設定する。
【0037】
放送情報選択手段210は、放送情報設定手段209での判別結果に基づいて、設定された放送情報(ワンセグ、SDTVまたはHDTV)に対応する情報をバッファ207a〜207cから選択して取得する。なお、放送情報選択手段210は、取得したデータに基づいて、取得した放送データを構成する画像データと音声データとを多重化して1つの情報ストリーム(ビデオストリーム)に展開し、送信されるローカル放送データを作成する。すなわち、通信速度に応じて送信可能な情報量に合ったローカル放送データが送信可能になっている。
放送情報選択手段210で選択されたデータ(ワンセグデータ、SDTV差分データ、HDTV差分データ)は、バッファ211で一時記憶される。
【0038】
バッファ211に記憶されたデータは、領域毎放送用の変調手段212でKa帯マルチビーム衛星4に送信する周波数の信号に変調され、アンテナ2aを介してKa帯マルチビーム衛星4に送信される。実施例1の領域毎放送用の変調手段212では、通信速度に基づいて、変調方式を切り替えるACM(Adaptive Coding and Modulation:適応型符号変調)が使用されている。なお、前記ACMは、例えば、携帯電話での通信時に使用されるデジタル変調であるQAM(Quadrature Amplitude Modulation:直交振幅変調)等のように従来公知であるため、詳細な説明は省略する。実施例1では、変調方式として、例えば、搬送波の振幅と位相を同時に変調することが可能な方式であるAPSK(Amplitude and Phase Shift Keying:振幅位相シフト変調)方式を使用可能である。この方式を使用した場合、雨天の地区がある場合(通信速度が遅い地区がある場合)はマルチビーム衛星4の利点を生かして、他の晴れた地区(通信速度が速い地区)へのビーム電力を抑え、その余力により電力配分を増加させることができると共に、APSK方式における振幅と位相の配分を減少させることで送出ビットレートを下げ、伝送誤り率を上げないACMを活用することができる。なお、ACMでは、同一ビーム内でも時分割で変調方式を替えることができ、例えば、関東地方で山梨県が雨で東京都が晴れの場合に、山梨県を対象とした放送だけを低ビットレートの変調方式にすることも可能であり、これにより山梨県が雨でも東京都はHDTVで視聴することが可能になる。
したがって、実施例1の領域毎放送用の変調手段212では、ACM技術を使用して、通信速度に応じて変調方式を変化させる。
【0039】
復調手段213は、Ka帯マルチビーム衛星(通信衛星)から送信されてアンテナ2aで受信した情報を復調する。実施例1の復調手段213は、変調手段212に対応してACM方式が採用されている。実施例1の復調手段213では、Ka帯マルチビーム衛星4を介して送信されるBER信号(Bit Error Rate信号:符号誤り率信号)に基づいて、ローカル局3と放送受信施設6との通信速度が検知可能になっており、変調手段212や通信速度判別手段208に出力されるBER信号に基づいて、各手段212,208で処理が行われている。
【0040】
(実施例1のキー局3の制御手段の説明)
図4Bにおいて、実施例1のキー局3は、現在運用中の衛星放送(BS)のシステムと同様の構成を有し、図5Bに示すように、放送衛星5を介して放送される共通テレビジョン放送の一例としての全国一斉放送の番組データ(図5Bの期間k1のデータ)およびキー局3が担当する地方(例えば、関東地方)のローカル番組データ(図5Bの期間k2のデータ)とからなるキー局放送データを記憶するキー局放送データ記憶手段301を有する。そして、キー局放送データ記憶手段301に記憶されたキー局放送データは、バッファ302に一時記憶され、共通放送用の変調手段303で放送衛星5に送信する周波数の信号に変調され、アンテナ3aを介して放送衛星5に送信される。なお、実施例1では、前記キー局放送データは、現在運用中のBSデジタル放送と同様に、MPEG2−TS形式(MPEG2 Transport Stream、音声情報と画像情報が多重化されたデータ形式)に符号化されたデータが使用されている。
【0041】
(実施例1のBSチューナ6dの制御手段の説明)
図6は実施例1の放送受信施設における追加チューナとBSチューナの機能をブロック図(機能ブロック図)で示した説明図である。
図6において、放送受信施設6のBSチューナ6dは、従来公知のBSチューナにより構成されており、放送衛星5から送信されて衛星放送用アンテナ6cで受信された電波が衛星放送用の復調手段601でMPEG2−TS形式のデータに復調される。そして、復調されたデータは、共通放送情報復号化手段の一例としてのMPEGデコーダ602でMPEG2−TS形式から、動画像データと音声データに復号化される。復号されたデジタルデータは、衛星放送用の画像/音声処理手段603でテレビ6fで表示可能な画像信号と音声信号に処理され、追加チューナ6eに送られる。
【0042】
(実施例1の追加チューナ6eの制御手段の説明)
図6において、実施例1の追加チューナ6eでは、Ka帯マルチビーム衛星4から送信された衛星通信用アンテナ6bで受信した電波が、通信用の復調手段611で復調される。復調されたデータは、スプリッタ612で、モデム621、スケーラブルH.264復号手段631に分配される。通信用情報変換手段の一例としてのモデム621は、パーソナルコンピュータPCを介して行われるインターネット回線へのアクセス時のデータの変換が行われる。
【0043】
領域毎放送情報復号化手段の一例としてのスケーラブルH.264復号手段631は、受信したローカル放送データに基づいて、スケーラブルH.264形式のデータを、動画像データと音声画像データに復号化する。
復号化された動画像データおよび音声画像データは、ローカル放送用の画像/音声処理手段632でテレビ6fで表示可能な画像信号と音声信号に処理され、放送表示制御手段633に送られる。
【0044】
実施例1の放送表示制御手段633には、ローカル放送用の画像/音声処理手段632からのローカル放送の動画像および音声と、衛星放送(キー局放送)用の画像/音声処理手段603からのキー局放送の動画像および音声が入力されている。そして、放送表示制御手段633は、ローカル放送のデータとキー局放送のデータとに基づいて、ローカル放送の画像信号が差し替え終了情報(青色着色無地画像)であった場合に、キー局放送をテレビ6fに表示し、且つ、ローカル放送の画像信号が差し替え開始情報(図5Aの時期t1の前の赤色と緑色の着色無地画像)であった場合に、ローカル放送をテレビ6fに表示する。すなわち、実施例1の放送表示制御手段633は、受信した差し替え開始情報と差し替え終了情報とからなる差し替え時期特定情報に基づいて、差し替え時期k2であるか否かを判別する差し替え判別手段としての機能も有する。
【0045】
したがって、図5Aに示すローカル放送データと、図5Bに示すキー局放送データとを受信した場合、ローカル放送データが青色着色無地画像(図5Aで「青」と図示したフレーム)である場合には、図5Cの期間k1に示すように、図5Bのキー局放送データが表示される。そして、図5Aの差し替え開始時期t1の赤色と緑色の着色無地画像が連続した場合には、図5Cの期間k2に示すように次のフレームからローカル放送データが表示される。そして、差し替え終了時期t2となり、ローカル放送データが青色着色無地画像になると、図5Cに示すように、キー局放送が表示される。
【0046】
なお、実施例1では、放送表示制御手段633に入力されるローカル放送のデータは、ローカル局3からの送信時に通信速度に応じて設定された解像度のデータが表示される。すなわち、ローカル放送のデータがワンセグデータの場合は、ワンセグデータの画質の画像がテレビ6f表示され、SDTV、HDTVの場合はそれぞれの画質の画像がテレビ6fに表示される。
【0047】
実施例1のACM復調器(復調手段611)では、Ka帯マルチビーム衛星4から送信される通信速度判別用の信号の一例であり、降雨状況等に応じて変化するAPSKの振幅方向の変化に基づいて、変調方式切り替え信号(Coding Modulation切り替え信号)が生成される。したがって、前記変調方式切り替え信号に基づいて、ローカル局3と放送受信施設6との通信速度が検知可能になっている。
変調手段641は、変調手段212と同様にACM変調器により構成されており、復調手段611からの変調方式切り替え信号に基づいて、通信速度に応じて変調方式を変化させ、復調手段611で演算されたBERの情報であるBER信号を衛星通信用の電波信号に変調し、衛星通信用アンテナ6bからKa帯マルチビーム衛星4を介してローカル局3に送信される。また、パーソナルコンピュータPCからの通信データも通信速度に応じて変調手段641で変調され、データの送信先に送信される。
【0048】
(実施例1の作用)
前記構成を備えた実施例1の人工衛星を利用した放送システム1では、ローカル局2からの放送データが青色着色無地画像の場合は、キー局3からの全国放送が表示され、差し替え開始信号としての赤色と緑色の着色無地画像が連続して受信されると、ローカル局の放送に差し替えられる。したがって、難視聴地域であっても、9つのビームでそれぞれカバーされる地方毎に、各ローカル局の放送を受信することができる。この結果、各地方でローカル局の番組を受信でき、その地方の選挙区の候補者の所信表明演説が受信でき、地方に密着した気象情報やCM、地方ニュースのような地方密着の情報を視聴することが可能となる。なお、9つのビームで各地方をカバーするため、1つのビームでは平均して20局程度の放送局があり、最大で34Mbps程度しか確保できないKu帯の放送衛星5に比べて、600Mbps以上の通信速度が得られるKa帯の通信衛星4で放送することができる。
【0049】
また、実施例1の放送システム1では、降雨等により影響を受ける通信速度の変動に対して、ローカル局2からの送信時に、通信速度に応じて、ワンセグ画質、SDTV画質、HDTV画質のいずれかが選択され、送信される。さらに、ACMにより、通信速度に応じて、変調方式も切り替えられる。したがって、通信速度が十分に速い場合は、視聴者は高画質の画像を視聴することができると共に、降雨等で通信速度が十分にでない場合でも、減衰に対する耐性の強い変調方式でワンセグ画質の放送が送信され、最低限の視聴は確保されやすくなっている。したがって、台風や豪雨時にも、ローカル局2から、その地方に対応した気象情報や避難指示等の情報を得やすくなっている。
【0050】
なお、降雨時等に、ACMで変調方式が降雨に対する耐性を高くすると、送信時のビットレートが低下するため、HDTVデータを送信すると、1秒間に29.97フレームが送信できず、いわゆるコマ落ちの画像となってしまう恐れがある。しかしながら、実施例1では、降雨時にはデータ量が比較的小さいワンセグデータ(512kB程度)であるため、降雨に対する耐性を向上させつつ、ローカル放送を視聴することができる。
【0051】
さらに、実施例1の放送システム1では、通信速度に対して画質の選択を行う際に、実際の通信速度の中の放送割り当て分に応じて、選択が行われており、パーソナルコンピュータPCによるインターネット通信を妨げにくくなっている。
特に、現状では、全体の放送時間に対して、キー局3からの放送が70%程度を占めており、残りの30%程度のローカル局2からの放送を、Ka帯マルチビーム衛星4を介して行うため、キー局3の放送も含めて全ての放送をKa帯マルチビーム衛星4を使用して行う場合に比べて、Ka帯マルチビーム衛星4を介した通信に対する負荷は低減されている。
また、実施例1では、差し替え開始信号や差し替え終了信号として、着色無地画像を使用しており且つ、放送データの圧縮形式としてVBRを採用しているため、データ量を非常に少なくすることができ、Ka帯マルチビーム衛星4を介した通信に対する負荷が低減されている。
【0052】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H09)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、降雨等の通信速度の変動に対する対策として、ACMと、ワンセグ、SDTV、HDTVの選択の両方を実行することが望ましいが、通信速度の変動に対して、変調方式の変更は行わず、すなわち、ACMは使用せず、送信するデータの選択のみを行うようにすることも可能である。さらに、降雨等による通信速度の変動の対策は行うことが望ましいが、行わないことも可能である。この場合には、ローカル局2からのローカル放送データと、キー局3からの全国放送データの切り替えのみで、各地方に応じたローカル放送が実現できる。
【0053】
(H02)前記実施例において、キー局3からの放送を現在運用中の放送衛星5を使用したBS方式としたが、この構成に限定されず、通信衛星を全面的に放送に利用可能であれば、例えば、キー局3からの放送もローカル局2からの放送と同様に、通信衛星4を使用し、住居6で受信したローカル放送データとキー局放送データを同様の方法で復調、復号し、切り替えることも可能である。この場合、キー局放送データもローカル放送データと同様に通信速度に応じた送信データや変調方式の変更を行うことができ、キー局放送データにも降雨対策を行うことができる。
【0054】
(H03)前記実施例において、切り替え開始信号や切り替え終了信号として、着色無地画像を採用したが、この構成に限定されず、例えば、制御信号を送信して制御したり、その他の画像を採用することも可能である。
(H04)前記実施例において、放送受信施設6では、アンテナを衛星通信用のアンテナ6bと衛星放送用のアンテナ6cの2つにしたが、放送用のアンテナ6cの方が大きいため、放送用のアンテナ6cに共通化することも可能である。また、BSチューナ6dと追加チューナ6eを別の装置構成としたが、一体的に構成することも可能であり、テレビ6fに内蔵させることも可能である。
【0055】
(H05)前記実施例において、放送データを圧縮する方式として、スケーラブルH.264やMPEG2−TSを例示したが、この方式に限定されず、従来公知あるいは今後開発される任意の圧縮方式を採用可能である。例えば、ワンセグ用、SDTV用、HDTV用のエンコーダをそれぞれ設け、放送情報を各エンコーダでそれぞれ符号化するように構成することも可能である。この場合、実施例と異なり、SDTVやHDTV用のデータは差分データではなく、SDTV用の放送データ(中解像度放送情報)、HDTV用の放送データ(高解像度放送情報)を使用することとなり、ワンセグ用のエンコーダ(低解像度用変換手段)、SDTV用のエンコーダ(中解像度用変換手段)、HDTV用のエンコーダ(高解像度用変換手段)を有する構成とすることが可能である。
【0056】
(H06)前記実施例では、ローカル放送データは、通信速度の状況に応じて、ワンセグ、SDTV、HDTVの3種類のいずれかを選択するようにしたが、この構成に限定されず、例えば、ワンセグとHDTVの2種類から選択したり、ワンセグとSDTV、SDTVとHDTV等の2種類から選択するようにしたりすることも可能である。このほかにも、ワンセグ、SDTV、HDTVに加えて、他の解像度の画質も加えて、4種類以上の中から選択するように構成することも可能である。
【0057】
(H07)前記実施例では、共通テレビジョン放送としてキー局3からの全国放送を例示し、領域毎テレビジョン放送としてローカル局2からのローカル放送を例示したが、この構成に限定されず、ビームの数が9より多い人工衛星が運用され、さらに領域が細分化(例えば、都道府県単位に細分化)された場合には、東北地方や関東甲信越地方のような地方毎でなく、さらに細分化された領域毎テレビジョン放送(例えば、都道府県単位のローカル放送)と全国放送を切り替え、表示することが可能である。また、全国放送、地方単位のローカル放送、都道府県単位のローカル放送の3つを切り替えることも可能である。
【0058】
(H08)前記実施例において、放送衛星4からのビームが重複する地域で2つのローカル放送を両方とも受信することも可能であり、いずれか一方の放送のみを受信するように設定することも可能である。この場合、通常の衛星放送と同じメカニズムでローカル放送1局を選択してデコードすることで実現できる。
(H09)前記実施例において、関東地区は全国放送で対応したが、キー局からKa帯マルチビーム衛星4に放送情報を送信して、関東地区内でもローカル放送を放送するように構成することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は本発明の実施例1の人工衛星を利用した放送システムの全体説明図である。
【図2】図2は実施例1のKa帯マルチビーム衛星がカバーする日本の9つの地方の説明図である。
【図3】図3は実施例1の放送受信施設の説明図である。
【図4】図4は実施例1の放送局が備えている機能をブロック図(機能ブロック図)で示した図であり、図4Aはローカル局の機能ブロック図、図4Bはキー局の機能ブロック図である。
【図5】図5は実施例1の放送されるデータの一例の説明図であり、図5Aはローカル局から放送されるローカル放送の一例の説明図、図5Bはキー局から放送される全国放送の一例の説明図、図5Cは図5Aおよび図5Bの放送を受信した利用者のテレビに表示される画像の説明図である。
【図6】図6は実施例1の放送受信施設における追加チューナとBSチューナの機能をブロック図(機能ブロック図)で示した説明図である。
【符号の説明】
【0060】
1…人工衛星を利用した放送システム、
2…放送局,第1の放送局、
3…第2の放送局、
4…人工衛星,第1の人工衛星、
5…第2の人工衛星、
6…放送受信局、
6b…アンテナ、
6f…表示器、
206…放送情報変換手段、
208…通信速度判別手段、
209…放送情報設定手段、
633…放送表示制御手段、
k2…差し替え期間。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された複数の領域にそれぞれビームを照射する第1の人工衛星と、
前記複数の領域の全てをカバーする1つのビームを照射する第2の人工衛星と、
前記第2の人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送である共通テレビジョン放送を送信する第2の放送局と、
前記第1の人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送である領域毎テレビジョン放送と、前記共通テレビジョン放送から前記領域毎テレビジョン放送に放送を差し替える差し替え期間を特定する差し替え期間特定情報と、を含む情報を送信する第1の放送局と、
受信した領域毎テレビジョン放送と共通テレビジョン放送とに基づいて、前記差し替え期間でない場合に、共通テレビジョン放送を表示し、且つ、前記差し替え期間である場合に、前記領域毎テレビジョン放送を表示器に表示する放送表示制御手段を有する放送受信局と、
を備えたことを特徴とする人工衛星を利用した放送システム。
【請求項2】
差し替え期間の開始時期を特定する情報である予め設定された複数枚の静止画像により構成された差し替え開始情報と、差し替え期間の終了時期を特定する情報である予め設定された着色無地画像により構成された差し替え終了情報と、からなる差し替え期間特定情報、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の人工衛星を利用した放送システム。
【請求項3】
前記第1の放送局および前記放送受信局と送受信を行う電波帯域がKa帯の広帯域相互通信用の人工衛星により構成された前記第1の人工衛星と、
前記第2の放送局および前記放送受信局と送受信を行う電波帯域がKu帯の衛星放送用の人工衛星により構成された前記第2の人工衛星と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の人工衛星を利用した放送システム。
【請求項4】
予め設定された複数の領域にそれぞれビームを照射する人工衛星と、
前記人工衛星を介して放送されるテレビジョン放送を送信する放送局と、
前記人工衛星から送信された前記テレビジョン放送を受信するアンテナを有する放送受信局と、
を備え、
前記放送局が、
前記人工衛星と前記放送受信局との間で、単位時間当たりに通信可能な情報量である通信速度を判別する通信速度判別手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記テレビジョン放送の解像度に比べて低解像度であり且つ単位時間当たりの情報量が少なく前記人工衛星に向けて送信可能な低解像度放送情報と、前記低解像度放送情報に比べて高い解像度であり且つ前記低解像度放送情報に比べて単位時間当たりの情報量が多い前記人工衛星に向けて送信可能な非低解像度放送情報と、に変換する放送情報変換手段と、
前記通信速度判別手段で判別された通信速度に基づいて、前記通信速度が非低解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記非低解像度放送情報に設定すると共に、前記通信速度が非低解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する放送情報設定手段と、
を有し、
前記放送受信局が、
前記人工衛星を介して前記放送局から送信された前記非低解像度放送情報または前記低解像度放送情報を、表示器に表示する放送表示制御手段、
を有する
ことを特徴とする人工衛星を利用した放送システム。
【請求項5】
前記放送情報変換手段は、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、
地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成された前記低解像度放送情報と、
前記低解像度放送情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報と前記低解像度放送情報との差分情報により構成された中解像度放送差分情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報と、前記低解像度放送情報および前記中解像度放送差分情報との差分情報により構成された高解像度放送差分情報と、を含む前記非低解像度放送情報と、
に変換し、
前記放送情報設定手段は、
前記通信速度が、前記低解像度放送情報、前記中解像度放送差分情報および高解像度放送差分情報からなる高解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記高解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記低解像度放送情報および前記中解像度放送差分情報からなる中解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記中解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の人工衛星を利用した放送システム。
【請求項6】
スケーラブルH.264形式で前記テレビジョン放送の情報を変換する前記放送情報変換手段と、
を備えたことを特徴とする請求項4または5に記載の人工衛星を利用した放送システム。
【請求項7】
前記低解像度放送情報は、地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成され、
前記非低解像度放送情報は、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報により構成された中解像度放送情報と、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報により構成された高解像度放送情報と、からなり、
前記放送情報変換手段は、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、地上デジタルテレビジョン放送のワンセグメント部分受信サービス用の放送情報により構成された前記低解像度放送情報に変換する低解像度用変換手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記地上デジタルテレビジョン放送の標準画質放送用の放送情報により構成された中解像度放送情報に変換する中解像度用変換手段と、
前記テレビジョン放送の情報に基づいて、前記地上デジタルテレビジョン放送の高画質放送用の放送情報により構成された高解像度放送情報に変換する高解像度用変換手段と、
を有し、
前記放送情報設定手段は、
前記通信速度が、前記高解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記高解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が、高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信可能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記中解像度放送情報に設定し、
前記通信速度が高解像度放送情報を受信不能且つ前記中解像度放送情報を受信不能な通信速度である場合に、前記人工衛星に送信する情報を前記低解像度放送情報に設定する
ことを特徴とする請求項4に記載の人工衛星を利用した放送システム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−50915(P2010−50915A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−215811(P2008−215811)
【出願日】平成20年8月25日(2008.8.25)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【Fターム(参考)】