説明

付着性および防汚性非粘着性コーティングを有するガラス物品

本発明は、非粘着性コーティングの耐磨耗性を維持したまま良好な付着性および防汚性を有するガラス調理用具のための非粘着性コーティングを提供する。非粘着性コーティングは、フルオロポリマーとコロイドシリカとを含有するベースコートと、無機充填剤フィルム硬化剤を含有する1つまたは複数のポリマー層を含むオーバーコートとを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスに付着された非粘着性コーティングに関する。より詳しくは、本発明は、ガラス基材に付着された防汚性非粘着性コーティングに関する。
【背景技術】
【0002】
フルオロポリマー樹脂は、それらの低表面エネルギーおよび非粘着性性質ならびに耐熱性および耐化学薬品性について公知である。特許文献1に記載されているような公知の非粘着性コーティングは、三コート層系を用いて耐磨耗性を提供する。装飾調理用具、特にガラスについては、調理用具などの装飾物品のために時間が経っても良好な付着性および耐久性を有することがますます望ましくなっている。すなわち、それは摩耗および反復清浄による時間の経過に伴う付着性の低下に対して耐性である必要がある。そしてさらに、装飾調理用具は配膳皿として見た目が良いことが重要である。すなわち、ストーブ/オーブンからテーブルまで配膳皿として利用する際に、装飾調理用具は、調理器具から配膳皿まで容易に適合するように、耐磨耗性であることに加えて、防汚性である必要がある。
【0003】
Strolleに対する特許文献2には、二コート系においてフルオロカーボンポリマートップコートの付着性を改良するために表面をプライマー処理するための組成物が開示されている。
【0004】
良好な耐磨耗性の特性を維持したままガラスに対する良好な付着性および良好な防汚性の両方を有する非粘着性コーティングがあることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,592,977B2号明細書
【特許文献2】米国特許第3,655,604号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
簡潔に言えば、本発明の一態様によれば、表面を有するガラス基材と、b)基材の表面に付着された防汚性非粘着性コーティングとを含む被覆物品が提供され、前記非粘着性コーティングが、i)フルオロポリマーとコロイドシリカとを含むベースコートと、
ii)セラミック粒子を含有する1つまたは複数のポリマー層を含むオーバーコートとを含む。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、調理用具または他の物品上に層状コーティング系を用いることによって耐磨耗性を維持したまま非粘着性の被覆された調理用具または他の物品のための良好な付着性および防汚性を達成する。用語「調理用具(cookware)」は、耐熱皿、レンジ上で使用する調理用具(top−of−range cookware)、電子レンジ調理用の皿の他、調理以外にも貯蔵および特に配膳などの多数の用途があるそれらの調理物品が挙げられるがそれらに限定されない調理および加熱において使用される全ての物品を意味する。これらの特性(例えば耐磨耗性、防汚性、非粘着性コーティング付着性、および耐久性)は、調理または清浄のために調理用具を反復使用することによって調理用具の美観が損なわれる(例えば引っ掻き、不十分な付着性および/または汚染)ことがないので、例えば、装飾調理用具がオーブン/ストーブからテーブルまで配膳皿として利用することが可能であるため有利である。また、これらの特性は、調理または配膳から冷凍庫または冷蔵庫などの低温での貯蔵まで利用するのに有利である。本発明の実施形態は、表面を有するガラス基材と、b)基材の表面に付着された防汚性非粘着性コーティングとを含む被覆物品を提供し、前記非粘着性コーティングが、i)フルオロポリマーとコロイドシリカとを含むベースコートと、ii)無機充填剤フィルム硬化剤、好ましくはセラミック粒子を含有する1つまたは複数のポリマー層を含むオーバーコートとを含む。
【0008】
本発明の好ましい実施形態は、物品に適用された四コート系である。本発明の耐久性、付着性および防汚性は、本明細書に記載された試験方法の結果および比較例によって示される。四コート系は、1)ベースコート、2)プライマー層、3)ミッドコートまたは中間層および4)トップコートを備える連続した順序の4層を含む。
【0009】
四コート系の組成層は、ベースコートを除いて、吹付けおよび浸漬などの多数の公知の従来の方法のいずれかによって物品の表面に適用される。被覆される物品または基材が、適用する最も便利な/適切なコーティング方法を決定する。非粘着性コーティング組成物は、ベースコートとオーバーコートとを含む多コート系である。1つまたは複数のフルオロポリマー含有層のオーバーコートは、ベースコート層にその乾燥前に従来の方法によって適用されうる。ベースコートは、粗面化されたガラス基材上に軽く吹付けられる。ベースコートは、8.0ミクロンまで、好ましくは0.1〜8.0ミクロン、より好ましくは0.1〜5ミクロン、さらにより好ましくは0.25〜2.5ミクロン、最も好ましくは1.25ミクロンの乾燥フィルム厚さに基材に適用されうる。
【0010】
プライマー層または中間層およびオーバーコート層の組成物が水性分散体であるとき、オーバーコート組成物は、好ましくは指触乾燥状態になった後にプライマー層または中間層に適用されうる。プライマー層または中間層は組成物を有機溶剤から適用することによって製造され、次の層(中間コートまたはトップコート)が水性媒体から適用されるとき、プライマー層または中間層は、かかる次の層を適用する前に全ての水非相溶性溶剤が除去されるように乾燥させる必要がある。
【0011】
得られた複合構造物を焼成して全てのコーティングを同時に溶融し、基材上に非粘着性コーティングを形成することができる。フルオロポリマーがPTFEであるとき、急な高い焼成温度が好ましく、例えば、5分間、800°F(427℃)から開始して825°F(440℃)に上昇する温度が好ましい。プライマーまたはオーバーコート中のフルオロポリマーがPTFEとFEPとのブレンド、例えば、50〜70重量%のPTFEおよび50〜30重量%のFEPであるとき、焼成温度は、780°F(415℃)に低下されて、3分(全焼成時間)で800°F(427℃)に上昇してもよい。焼成されたプライマー層または中間層の厚さは、渦流原理(ASTM B244)または磁気誘導原理(ASTM B499)に基づいたフィルム厚計測器で測定され、一般に5〜20マイクロメートルである。オーバーコート層の厚さは一般に、(中間コート層とトップコート層との両方について)10〜25マイクロメートルである。
【0012】
得られた複合構造物において、基材は好ましくは透明なガラスおよびより好ましくはホウケイ酸である。ホウケイ酸ガラスは典型的に、シリカ(70〜80重量%)および三酸化二ホウ素(7〜13重量%)を含有する。透明ガラスはクリアであるかもしくは色味を付けられてもよい。ガラス基材は好ましくは粗面化される。ホウケイ酸ガラスは、脆性物質であり、グリットブラスチング方法を用いてガラスの表面を粗面化するのは、ガラス基材を弱くする可能性がある。このため、表面は好ましくは、軽いグリットブラスチングによって粗面化される。好ましくは、グリットブラスチングされた表面は、Fred V.Fowler Co.Inc.(Newton,MA)によって製造されたPocketsurf 1表面試験機によって測定されたとき、2マイクロメートル超、より好ましくは2〜4マイクロメートルの平均粗さを有する。次いで、ガラス表面は十分に清浄にされる。ベースコート組成物の実施形態は、表1に示される。
【0013】
本発明の一実施形態において、本発明のプライマー層は、被覆物品の防汚性を達成するためのバリアを設けるために炭化ケイ素(SiC)およびポリアミドイミド(PAI)を含有する。プライマー層組成物の実施形態は表2、5および6に示される。
【0014】
本発明の実施形態において、プライマー層および/または1つまたは複数の中間層がセラミック粒子を含有してもよい。セラミック粒子が炭化ケイ素であることが好ましい。本発明の実施形態において、本発明の被覆物品の少なくとも1つのポリマー層がフルオロポリマーを含有する。フルオロポリマーを含有するこのポリマー層は、ベースコートに含有されたフルオロポリマーの他にさらに利用される。
【0015】
本発明の別の実施形態は、被覆物品のプライマーおよび/または中間層の1つまたは複数の層がフルオロポリマーおよび/またはセラミック粒子を含有することである。例えば、プライマーがフルオロポリマーを含有してもよく、中間層がセラミック材料を含有してもよく、またはその逆であってもよい。あるいは、プライマーは、セラミック粒子およびフルオロポリマーの両方を含有してもよく、あるいは、1つまたは複数の中間層が両方を含有してもよい。
【0016】
ベースコート
ベースコートは、ガラス表面に適用されたコーティングである。ベースコートは、ガラス表面に対する防汚性非粘着性コーティングの付着性を促進し、その結果、それは本明細書に記載された食器洗浄機の付着性試験(Dishwasher Adhesion Test)に合格する。
【0017】
ベースコートは、フルオロポリマーおよびコロイドシリカを含み、任意選択的にシリコン樹脂をさらに含む。ベースコートにおいて使用されたフルオロポリマーは、本明細書においてオーバーコートのために記載されたフルオロポリマーと同じである。
【0018】
このベースコートにおいて使用されたフルオロポリマーには、オーバーコートについて以下に記載されたフルオロポリマーが挙げられる。フルオロポリマーは組成物中、全固形分の約20重量%〜約90重量%の濃度である。30〜80の濃度が好ましく、40〜50湿潤重量%または63〜68乾燥重量%がさらにより好ましい。
【0019】
組成物中で使用されたコロイドシリカは一般に、シリカ粒子の水性ゾルの形態である。シリカ粒子は、内部表面積または検出可能な結晶度を有さないシリカの不連続な均一な球である。いくつかの表面シリカ原子がアルミニウム原子によって置換されてもよい。粒子は、標準に対して光学的に測定されたとき、5〜100ミリミクロン、好ましくは7〜25ミリミクロンのサイズを有する。シリカの水性ゾルは、25Cにおいて125〜420平方メートル/グラムの比表面積および8.4〜9.9のpHを有する。また、安定化添加剤が水性ゾル中に存在しうる。安定化添加剤の例は水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、およびアルミン酸ナトリウムである。このようなコロイドシリカの典型は、E.I.duPont de Nemours and Companyによって「Ludox HS−40」、「Ludox−HS」、「Ludox−LS」、「Ludox SM−30」、「Ludox TM」、「Ludox−AS」、および「Ludox−AM」として販売されたコロイドシリカである。シリカの混合物を使用することができる。
【0020】
コロイドシリカは、組成物中に全固形分の約10重量%〜80重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜35重量%の濃度において存在する。
【0021】
任意選択的に、ベースコートはシリコーン樹脂を含有することができる。シリコーン樹脂は、ベースコート中に0〜3重量パーセント(乾燥または湿潤)のアルキルフェニルポリシロキサン樹脂を含む。
【0022】
オーバーコート
オーバーコート層は、ベースコートに適用された1つまたは複数のポリマー層を含む。オーバーコートは、プライマー層および/または1つまたは複数の中間層(例えば中間層)およびトップコート層を含有してもよい。このオーバーコートにおいて使用するために好ましいポリマーはフルオロポリマーである。
【0023】
本発明において使用されるフルオロポリマーは好ましくは、組成物を調合するときに簡単にするためにおよびPTFEがフルオロポリマーの中で最も高い熱安定性を有するという事実のために、380℃において少なくとも1×108Pa・sの溶融粘度を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE)である。また、このようなPTFEは、ペルフルオロオレフィン、特にヘキサフルオロプロピレン(HFP)またはペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルなど、焼成(溶融)の間にフィルム形成能力を改良する少量のコモノマー改質剤を含有することができ、特にそこで、アルキル基は1〜5個の炭素原子を含有し、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)が好ましい。このような改質剤の量は、PTFEに溶融加工適性(melt−fabricability)を与えるのに不十分であり、概して0.5モル%以下である。PTFEは、同じく簡単にするために、単一溶融粘度、通常少なくとも1×109Pa・sを有することができるが、異なった溶融粘度を有するPTFEの混合物を用いてフルオロポリマー成分を形成することができる。組成物中での単一フルオロポリマーの使用は、好ましい条件であり、フルオロポリマーが単一の化学的本性および溶融粘度を有することを意味する。
【0024】
PTFEが好ましいが、フルオロポリマー成分はまた、PTFEを配合(ブレンド)されるか、またはその代わりに、溶融加工可能なフルオロポリマーであってもよい。このような溶融加工可能なフルオロポリマーの例には、TFEと、コポリマーの融点をTFEホモポリマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の融点より実質的に低く、例えば、315℃以下の融解温度に低減するために十分な量においてポリマー中に存在する少なくとも1つのフッ素化共重合性モノマー(コモノマー)とのコポリマーがある。TFEとの好ましいコモノマーには、3〜6個の炭素原子を有するペルフルオロオレフィンおよびペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)(そこでアルキル基が1〜5個の炭素原子、特に1〜3個の炭素原子を含有する)などの過フッ素化モノマーがある。特に好ましいコモノマーには、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、ペルフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)およびペルフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)などがある。好ましいTFEコポリマーには、FEP(TFE/HFPコポリマー)、PFA(TFE/PAVEコポリマー)、TFE/HFP/PAVE(そこでPAVEがPEVEおよび/またはPPVEである)、およびMFA(TFE/PMVE/PAVE、そこでPAVEのアルキル基が少なくとも2個の炭素原子を有する)などがある。溶融加工可能なテトラフルオロエチレンコポリマーの分子量は重要でないが、ただし、それはフィルム形成性でありかつプライマーの適用において結合性を有するように成形された形状を持続できるのに十分である。典型的に、溶融粘度は、ASTMD−1238によって372℃において測定された時に少なくとも1×102Pa・sであり、約60〜100×103Pa・sまでの範囲であってもよい。
【0025】
フルオロポリマー成分は概して、水中のポリマーの分散体として市販されており、適用の容易さおよび環境受入性のために本発明の組成物のために好ましい形である。「分散体」とは、フルオロポリマー粒子が水性媒体中に安定に分散され、その結果、粒子の沈降が、分散体が使用される時間内に起こらないことを意味し、これは、典型的に0.2マイクロメートルのオーダーのフルオロポリマー粒子の小さなサイズによって、および分散体の製造元によって水性分散体中の界面活性剤の使用によって達成される。このような分散体は、分散重合として公知の方法によって直接に、任意選択的に、その後に、界面活性剤を濃縮および/またはさらに添加することによって得られる。
【0026】
あるいは、フルオロポリマー成分は、PTFE極小粉末などのフルオロポリマー粉末であってもよい。この場合、典型的に有機液体がフルオロポリマーとポリマーバインダーとの完全な混合物を達成するために使用される。バインダーがその特定の液体に溶解するので、有機液体が選択されてもよい。バインダーが前記液体中に溶解されない場合、バインダーを微細にすることができ、液体中にフルオロポリマーと共に分散させることができる。得られたコーティング組成物は、有機液体中に分散されたフルオロポリマーと、所望の完全な混合物を達成するために前記液体中に分散されるかまたは溶解されるかどちらかの、ポリマーバインダーとを含むことができる。有機液体の特性は、ポリマーバインダーの本性およびその溶液または分散体が望ましいかどうかに依存する。このような液体の例には、とりわけ、N−メチルピロリドン、ブチロラクトン、高沸点芳香族溶剤、アルコール、それらの混合物などがある。有機液体の量は、特定のコーティング作業のために望ましい流動特性に依存する。
【0027】
ポリマーバインダー
オーバーコート、特にプライマーおよび/または中間層は好ましくは、耐熱性ポリマーバインダーを含有する。バインダー成分は、溶融状態に加熱した時にフィルム形成性であり同じく熱安定性であるポリマーからなる。この成分は、フルオロポリマー含有プライマー層を基材に付着するためにおよびプライマー層内およびその一部としてフィルム形成するために、非粘着仕上のためのプライマー適用において公知である。フルオロポリマーそれ自体には、平滑な基材への接着力がほとんどないし全くない。バインダーは概してフッ素を含有しておらず、そしてなおかつフルオロポリマーに付着する。好ましいバインダーは、水または水とバインダーのための有機溶剤との混合物中に可溶性であるかまたは可溶化されるバインダーであり、その溶剤は水と混和性である。この溶解性は、水性分散体の形でバインダーとフルオロカーボン成分とをブレンドするのを助ける。
【0028】
バインダー成分の例は、組成物を焼成したときにポリアミドイミド(PAI)に変換してプライマー層を形成するポリアミック酸塩である。ポリアミック酸塩を焼成することによって得られた完全にイミド化された形において、このバインダーは250℃を超える連続使用温度を有するので、このバインダーは好ましい。ポリアミック酸塩は概して、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定されたときに少なくとも0.1のインヘレント粘度を有するポリアミック酸として入手可能である。米国特許第4,014,834号明細書(Concannon)により詳細に記載されているように、それはN−メチルピロリドンなどの融合助剤、およびフルフリルアルコールなどの粘度降下剤中に溶解され、第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応させられて、水に可溶性である塩を形成する。次に、ポリアミック酸塩を含有する、得られた反応媒体をフルオロポリマー水性分散体とブレンドすることができ、そして融合助剤および粘度降下剤が水に混和性であるので、ブレンディングは均一なコーティング組成物を生じさせる。ブレンディングは、フルオロポリマー水性分散体の凝固を避けるために過剰な撹拌を使用せずに液体を一緒に簡単に混合することによって行われてもよい。使用可能な他のバインダーには、ポリエーテルスルホン(PES)およびポリフェニレンスルフィド(PPS)などがある。
【0029】
プライマー組成物が液体媒体(液体は水および/または有機溶剤である)として適用されようとされまいと、上に記載された接着力の性質は、プライマー層を、次いで適用されたフルオロポリマー層の焼成と一緒に乾燥および焼成して基材の非粘着コーティングを形成する時に明らかにされる。簡単にするために、1つだけのバインダーを用いて本発明の組成物のバインダー成分を形成してもよい。しかしながら、多数のバインダーもまた、特に、可撓性、硬度、または防蝕などの特定の最終用途性質が望ましいとき、本発明においての使用が予想される。一般的な組合せには、PAI/PES、PAI/PPSおよびPES/PPSなどがある。
【0030】
フルオロポリマーとバインダーとの比率は、特に組成物が平滑な基材上のプライマー層として使用される場合、好ましくは、0.5〜2.0:1の重量比である。本明細書に開示された、フルオロポリマーのバインダーに対する重量比は、その基材に適用した後に組成物を焼成することによって形成された適用された層中のこれらの成分の重量に基づいている。焼成は、焼成する間にイミド結合が形成されるのでポリアミック酸塩の塩部分など、コーティング組成物中に存在する揮発性材料を追い出す。便宜上、バインダーの重量は、それが焼成工程によってポリアミドイミドに変換されるポリアミック酸塩であるとき、出発組成物中のポリアミック酸の重量とされてもよく、それによってフルオロポリマーのバインダーに対する重量比を出発組成物中のフルオロポリマーおよびバインダーの量から定量することができる。本発明の組成物が好ましい水性分散体の形であるとき、これらの成分は、全分散体の約5〜50重量%を占める。
【0031】
無機充填剤フィルム硬化剤
本発明において使用されたオーバーコート、好ましくはプライマーおよび/または中間層は、無機充填剤フィルム硬化剤を含有する。無機充填剤フィルム硬化剤の構成成分は、組成物の他の構成成分に対して不活性でありプライマーのフルオロポリマーおよびバインダーを溶融するその最終焼成温度において熱安定性である1つまたは複数の充填剤タイプの材料である。充填剤フィルム硬化剤は、水不溶性であり、その結果、典型的に均一に分散性であるが水性分散体の形態の本発明の組成物に溶解されない。典型的に、本発明の充填剤フィルム硬化剤は好ましくは、少なくとも10マイクロメートル、好ましくは14〜60マイクロメートル、より好ましくは少なくとも20〜25マイクロメートルの平均粒度を有するセラミック粒子を含む。
【0032】
さらに、無機フィルム硬化剤のセラミック粒子は好ましくは、少なくとも1200、より好ましくは少なくとも1500のヌープ硬度を有する。ヌープ硬度は、窪みまたは引掻きに対する材料の耐性を記述するための尺度である。鉱物およびセラミックスの硬度の値は、ShackelfordおよびAlexander、CRC Materials Science and Engineering Handbook,CRC Press、Boca Raton Fla.、1991年からの基準材料に基づいてHandbook of Chemistry、第77版、12−186、187に記載されている。フィルム硬化剤成分は、コーティング表面に加えられた研磨力をそらすことによっておよびフルオロポリマーオーバーコートを貫通した鋭い物体の貫通を抑えることによって基材上にコーティングとして適用された非粘着フルオロポリマー組成物に耐久性を与える。
【0033】
無機フィルム硬化剤のセラミック粒子は好ましくは、2.5以下、より好ましくは1.5以下のアスペクト比を有する。アスペクト比は、好ましい粒子形状を定量化する手段である。アスペクト比は、米国特許第6,592,977号明細書に、より完全に記載されている。高アスペクト比を有する粒子は本発明の好ましい粒子と異なり平らであるが、より球形になり1の理想アスペクト比にさらに近づくのが好ましい。基材上のコーティング中の粒子が小さく高アスペクト比を有する場合、それらは基材に平行に配向される場合があり、被覆された基材に適用された研磨力をそらすことができない。粒子が大きく高アスペクト比を有する場合、それらは基材に垂直に配向され、コーティングを通して突き出る場合がある。研磨力がこのような粒子の上部を押し、コーティングを変形し、粒子をコーティングから引っ張ることもあり、孔を残し、コーティングをより急速に磨耗させることがある。
【0034】
好ましくは、プライマーの焼成層は、10〜13ミクロンの乾燥フィルム厚さ(DFT)、プライマー中の炭化ケイ素および酸化アルミニウム40〜50重量パーセントを有し、中間層の焼成層は、中間層中の炭化ケイ素および酸化アルミニウム14〜18重量パーセントを含有する中間層について18〜23ミクロンの乾燥フィルム厚さを有する。
【0035】
無機充填剤フィルム硬化剤の例には、少なくとも1200のヌープ硬度を有する無機酸化物、炭化物、ホウ化物および窒化物などがある。好ましいのは、ジルコニウム、タンタル、チタン、タングステン、ホウ素、アルミニウムおよびベリリウムの無機酸化物、窒化物、ホウ化物および炭化物である。炭化ケイ素および酸化アルミニウムが特に好ましい。好ましい無機組成物の典型的なヌープ硬度値は、ジルコニア(1200)、窒化アルミニウム(1225)、酸化ベリリウム(1300)、窒化ジルコニウム(1510)、ホウ化ジルコニウム(1560)、窒化チタン(1770)、炭化タンタル(1800)、炭化タングステン(1880)、アルミナ(2025)、炭化ジルコニウム(2150)、炭化チタン(2470)、炭化ケイ素(2500)、ホウ化アルミニウム(2500)、ホウ化チタン(2850)である。
【0036】
他の充填剤
上に記載された無機充填剤フィルム硬化剤の粒子の他に、本発明の非粘着性コーティング組成物は、1200より小さいヌープ硬度値を有する無機充填剤フィルム硬化剤ならびに他の充填剤材料のより小さな粒子を含有してもよい。適した他の充填剤には、酸化アルミニウム、焼成酸化アルミニウム、炭化ケイ素等の小さな粒子ならびにガラスフレーク、ガラスビード、ガラス繊維、ケイ酸アルミニウムまたはケイ酸ジルコニウム、マイカ、金属フレーク、金属繊維、微細セラミック粉末、二酸化ケイ素、硫酸バリウム、タルク等がある。
【0037】
試験方法
1.食器洗浄機の付着性試験
食器洗浄機試験:比較例1および実施例1のコーティングの付着性およびふくれの形成(blistering)をBrewster Productsによって製造されたGoal 2液体洗剤およびRedy Rinse液を用いてHobart産業食器洗浄機内で試験した。
【0038】
引っ掻き付着性の試験手順は以下の通りである。かみそりの刃を用いて、被覆されたガラス基材にクロスハッチングをして、100の四角形を有する約18mm×18mmのグリッドを残した。同じかみそりの刃を用いてXをコーティングに刻印した。被覆されたガラスを食器洗浄機内に置き、食器洗浄機を製造元の説明書に従って作動させ、1サイクルの試験を行なった。1サイクルは典型的に、3分かからない。10サイクルが終わる毎に、ガラスを食器洗浄機から取り出し、冷却し、乾燥させる。Scotch(登録商標)8981テープをクロスハッチの跡およびXの上に置き、テープを引っ張り、いずれかのクロスハッチの四角形またはXの部分が除去されるかどうか調べる。1つまたは複数の四角形が除去される場合、試験に不合格であるとみなされる。不合格が記録される前にサイクルは完了される。試験が終了し、四角形または定められたXの部分が除去されずに100サイクルが完了されるとき、コーティングは試験に合格する。また、100サイクル未満のものは全て試験に不合格であるとみなされる。
【0039】
2.加速チキン・ロースティング試験
加速チキン・ロースティング試験方法を用いてガラスコーティングの汚染が試験される。防汚性の結果は、表8の実施例1および比較例2によって示される。Vulcanオーブンを200Cに予熱する。試験される被覆されたガラスを用いて、50gのバターを耐熱皿内に置き、2分間オーブン内で溶かす。塩コショウした一切れのチキンを1時間200Cにおいて、被覆されたガラス耐熱皿内でローストする。冷ました後に、焼いたチキンおよび脂肪を耐熱皿から取り出す。コーティングの非粘着性性質は、焼いたチキンの残存物がコーティングに粘着するかどうか観察することによって測定される。次に、ガラスを産業食器洗浄機内に入れ、清浄にする。試験を30サイクルにわたり繰り返す。30サイクルを終えるとき、肉がコーティングに粘着せずにチキンを調理用具から容易に除去することができるならばコーティングは合格する。肉がコーティングに粘着する場合、試験は不合格であるとみなされ、不合格時のサイクルが記録される。コーティングのわずかな変色があるだけでコーティングが5サイクル超を終える場合、汚染は合格とみなされる。汚染がひどい場合、試験は不合格であるとみなされ、不合格になるまでのサイクルが記録される。被覆されたガラスに関して、ガラス耐熱皿を通して見たときに汚染は主にプライマー層中に観察される。
【実施例】
【0040】
フルオロポリマー
PTFE分散体:DuPont Company(Wilmington,DE)から入手可能なDuPont TFEフルオロポリマー樹脂分散体グレード30
【0041】
FEP分散体:54.5〜56.5重量%の固形分および150〜210ナノメートルのRDPSを有するTFE/HFPフルオロポリマー樹脂分散体であり、前記樹脂はHFP含有量が9.3〜12.4重量%であり、米国特許第4,380,618号明細書に記載されているように改良されたASTMD−1238の方法によって372℃において測定された溶融流量が11.8〜21.3である。
【0042】
PFA分散体:DuPont Company(Wilmington,DE)から入手可能なDuPont PFAフルオロポリマー樹脂分散体グレード335
【0043】
ポリマーバインダー
PAIは、Torlon(登録商標)AI−10ポリ(アミド−イミド)(Amoco Chemicals Corp.)であり、残余のNMPを6〜8%含有する固体樹脂(ポリアミック塩に戻すことができる)である。
【0044】
ポリアミック酸塩は概して、30℃においてN,N−ジメチルアセトアミド中の0.5重量%溶液として測定された時に少なくとも0.1のインへレント粘度を有するポリアミック酸として入手可能である。米国特許第4,014,834号明細書(Concannon)により詳細に記載されているように、それをN−メチルピロリドンなどの融合助剤、およびフルフリルアルコールなどの粘度降下剤中に溶解し、第三アミン、好ましくはトリエチルアミンと反応させて、水に可溶性である塩を形成する。
【0045】
無機充填剤フィルム硬化剤
Micro Abrasives Corp.(Westfield,MA)に販売された、Elektroschmelzwerk Kempten GmbH(ESK)(Munich Germany)製の炭化ケイ素。炭化ケイ素の粒度は14.5〜60.9マイクロメートルの範囲であり、平均粒度は20.8〜22.8マイクロメートルであった。供給元によって提供された情報によってCoulter Multisizer IIを用いて粒度を測定した。Coulter Multisizer IIは、Beckman Coulter Incorporated(Fullerton,CA)によって製造されている。
【0046】
Aluminum Corporation of America(ALCOA)(Pittsburgh,PA)によって供給された酸化アルミニウム。平均粒度の測定値は0.3〜0.5マイクロメートルである。
【0047】
コロイドシリカ
Ludox AMポリシリケートはW.R.Grace(Columbia,MD)から得られた。
【0048】
シリコーン樹脂:
アルキルフェニルポリシロキサン樹脂は、商品名Silres(登録商標)としてWacker Chemical Corporationによって販売されている。Silres(登録商標)REN−50は、ベースコート中で使用されうるポリシロキサンの1つである。
【0049】
耐久性、付着性および防汚性を観察するために2つの試験を実施した。これらは、加熱試験方法として詳細に説明される。これらの実験的試験の目的のために、使用された四コート系は、ベースコート(表1)、プライマー(表2)、中間コート(表3)およびトップコート(表4)を含み、それぞれ参照された表において組成に関して説明される。表5および6は、代替のプライマーを提供する。比較用に使用された三コート系は、ベースコートを有さなかった。三コートおよび四コート系は、実施例の節で以下にさらに詳細に説明される。コーティングは、Saint Gobain(San Paulo,Brazil)から得られたMarinex(登録商標)ガラス耐熱皿の8インチ×8インチの四角形に適用される。3M Company(Minneapolis,MN)製のScotch(登録商標)8981テープが付着性引っ掻き試験のために使用される。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

【0056】
比較例1:ベースコートのない三コート系の作製
ホウケイ酸ガラス耐熱皿の表面は、軽いグリットブラスチングとみなされる30psiにおいて80メッシュのグリットを用いるグリットブラスト方法を用いて機械的に粗面化される。得られたガラスは、3〜4ミクロンの粗さ平均測定値を有する。プライマー(表2)、プライマー組成物A(表5)またはプライマー組成物B(表6)を、粗面化された基材上に吹付け、150°F(66℃)において5分間乾燥させる。プライマーコートの乾燥フィルム厚さは、10〜13ミクロンである。次に、中間コート(表3)を、乾燥されたプライマーの上に吹付ける。中間層の乾燥フィルム厚さは18〜23ミクロンである。トップコート(表4)を中間コート(表3)にウエット・オン・ウエットで適用(吹付け)する。トップコートの乾燥フィルム厚さは8〜10ミクロンである。コーティングは、800°F(427℃)の温度において5分間焼成することによって硬化される。
【0057】
実施例1:四コート系の作製
四コート系の作製は、表1のベースコートを、粗面化されたガラス上に吹付けて0.3ミクロンの乾燥フィルム厚さ(DFT)を得たことを除いて、三コート系と同じである。プライマー(表2)をベースコートにウエット・オン・ウエットで適用して、全ての他のコーティングを実施例1と同じ方法で適用した。プライマー層の乾燥フィルム厚さは10〜13ミクロンであり、中間層は18〜23ミクロンであり、トップコートは8〜10ミクロンである。
【0058】
比較例2:プライマーのない三コート系の作製
プライマー層が省かれる三コート系の作製は、中間コート(表3)がベースコート(表2)上に直接に吹付けられることを除いて、実施例1と同様な方法で行なわれる。全ての他のコーティングを実施例1と同じ方法で適用する。
【0059】
表7は、ベースコート(表1)を適用することによって、ガラス基材上へのコーティングの付着性を改良し、食器洗浄機の性能を改良し、被覆されたガラス器が食器洗浄機の付着性試験によって100サイクルの合格目標を満たすことを可能にすることを示す。
【0060】
【表7】

【0061】
表8は、実施例1の四コート組成物が比較例2の三コート組成物(プライマー層が省かれる)よりも優れており、プライマー層が本発明に対して汚染バリアとして作用することを示す。
【0062】
【表8】

【0063】
従って、上述した目的および利点を完全に満たす、防汚性非粘着性の被覆物品が本発明によって提供されたことは明らかである。本発明はその特定の実施形態と共に記載されたが、多くの代替物、改良、および変形が当業者には明白であることは明らかである。したがって、添付の特許請求の範囲の趣旨および広い範囲に含まれる全てのかかる代替物、改良、および変形を包含することが意図される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)表面を有するガラス基材、ならびに
b)上記基材の表面に付着している防汚性非粘着性コーティング(ここで、該非粘着性コーティングが、
i)フルオロポリマーとコロイドシリカとを含むベースコート、および
ii)無機充填剤フィルム硬化剤を含有する1つまたはそれ以上のポリマー層を含むオーバーコートとを含む)
を含む被覆物品。
【請求項2】
無機充填剤フィルム硬化剤がセラミック粒子である、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項3】
被覆物品が調理用具である、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項4】
ベースコートがシリコーン樹脂をさらに含む、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項5】
セラミック粒子が1200より大きいヌープ硬度を有することを含む、請求項2に記載の被覆物品。
【請求項6】
セラミック粒子が10マイクロメートルより大きい平均粒度を有することを含む、請求項2に記載の被覆物品。
【請求項7】
セラミック粒子が炭化ケイ素を含む、請求項2に記載の被覆物品。
【請求項8】
ベースコートが8ミクロンまでの乾燥フィルム厚さを有する、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項9】
オーバーコートがプライマー層と、任意選択的に、1つまたはそれ以上の中間層とトップコートとを含む、請求項2に記載の被覆物品。
【請求項10】
オーバーコートを構成する層の1つまたはそれ以上がセラミック粒子を含有する、請求項9に記載の被覆物品。
【請求項11】
ガラス基材がホウケイ酸ガラスである、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項12】
ガラス基材が、ベースコートを適用する前に粗面化される、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項13】
ガラス基材が、2ミクロンより大きい平均粗さを有する、請求項12に記載の被覆物品。
【請求項14】
ガラス基材が、グリットブラスチングによって粗面化される、請求項13に記載の被覆物品。
【請求項15】
オーバーコートが、フルオロポリマーを含む少なくとも1つのポリマー層を含む、請求項1に記載の被覆物品。
【請求項16】
プライマーがフルオロポリマーを含む、請求項9に記載の被覆物品。
【請求項17】
1つまたはそれ以上の中間層がフルオロポリマーを含む、請求項9に記載の被覆物品。
【請求項18】
オーバーコートがポリマーバインダーをさらに含む、請求項9に記載の被覆物品。
【請求項19】
プライマーがポリマーバインダーをさらに含む、請求項16に記載の被覆物品。
【請求項20】
1つまたはそれ以上の中間層がポリマーバインダーをさらに含む、請求項17に記載の被覆物品。
【請求項21】
被覆物品が、加速ローストチキン試験に合格するのに十分な防汚性を有する、請求項18に記載の被覆物品。
【請求項22】
被覆物品が、100サイクルの食器洗浄機付着性試験に合格する、請求項1に記載の被覆物品。

【公表番号】特表2010−510158(P2010−510158A)
【公表日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−537224(P2009−537224)
【出願日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際出願番号】PCT/US2007/024070
【国際公開番号】WO2008/063560
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】