説明

伏びの補修方法

【課題】伏びの内周面にライナー層を形成する補修方法において、必要基材を軽量化・小型化し、実作業時間の短縮、機動性・安全性の向上を図る方法の提供。
【解決手段】常温で硬化するライニング材料41をチューブ状に成形し、その内表面及び外表面をガスバリヤ性の高いフィルム42,43で被覆した補修用ライナー部材40を伏びF内へ挿通し、一方の端部を閉塞すると共に他方の端部に通気口51を有する閉塞部材50aを装着し、通気口51からインナーフィルム42内へ加圧空気を送り込むことによりライナー部材40を膨らませて伏びFの内周面に圧接させたのち、ライナー部材40が地熱で硬化するまで加圧状態を維持して、伏びF内周面にライナー層を形成する。従来の水蒸気発生装置が不要なので設備規模が縮小し、人手による機材の運搬・搬入が可能なので機動性が向上し実作業時間も短縮され、熱源を使用しないから安全性に優れる補修方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道線路の路盤内に埋設された伏びを補修する技術に関し、詳しくは、損傷のある伏びの内周面にライナー層を形成することにより補修する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道線路の軌道を支える路盤には、農業用水を横断させて線路両側間の通水を確保したり、生活排水や雨水等の排水路とするなどの目的で、「伏び」と称される通水管が軌道を横切るように埋設されている。伏びの多くは陶管・ヒューム管などで製作されるため、長期間にわたって鉄道車両の振動や荷重などを受ける結果、また老朽化により、ひび割れを起こしたり破管したり継ぎ目が外れたりする等の損傷を招くことがあった。伏びに損傷が発生すると、発生個所から土砂が伏び内へ流入することにより、路盤に空洞が形成され、やがて路盤陥没を引き起こす原因となる。
【0003】
このような不具合の有る伏びを発見した場合、伏びを交換することが考えられる。しかしながら、その作業には大形の機械装置が必要であり、伏びの埋設箇所は幹線道路から離れている場合が多いため、このような大形機械装置を用いる伏びの交換は実際的には困難であった。そこで、伏びの簡便な補修手段として、特許文献1に記載の方法が提案されている。
【0004】
特許文献1に記載される伏びの補修方法は、伏び内にスリップシートを挿通敷設し、このスリップシート上に折り畳んだチューブ状のライナー部材を挿通し、次いでライナー部材内に水蒸気を送り込んで膨らませつつ、該ライナー部材を加熱して硬化させることにより、伏びの内周面にライナー層を形成するというものである。
上記伏びの補修方法によれば、ひび割れを起こしたり破管したり継ぎ目が外れた伏びを交換することなく、簡易に補修することができる。そして、必要基材は比較的小型であるから、施工現場が幹線道路から離れていても、短時間で伏びの補修ができるという効果が発揮されるとされている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−355050号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の伏び補修方法は、ライナー部材を膨らませ硬化させるのに水蒸気を使用する。従って、水蒸気の供給装置を必要とするが、通常の水蒸気供給装置は人手により運搬するのが困難な大きさ・重量であるため、機動性が悪く、寄りつきの悪い施工現場への適用が難しいという問題があった。そこで、水蒸気供給装置を施工現場から離れた個所に設置し、長いホースを用いて水蒸気を供給することも考えられるが、この場合は、供給路の距離が長くなるために水蒸気の温度低下の問題が生じる。また、高温の水蒸気を使用するから、作業者がこれに触れて火傷を負う危険を確実に防止できる措置を講じる必要があった。さらに、ライナー部材内へ送り込んだ水蒸気は凝縮して水となるから、この凝縮水をライナー部材内から排出する手段を設ける必要がある。しかもその上、排出時の凝縮水は比較的高温なので、これを作業者と接触させないようにする工夫が必要であった。
【0007】
本発明は、前記従来技術の問題点を解消して、使用装置の構成をより簡単且つ軽量にすることができると共に、機動性・安全性に優れた伏びの補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明が採用する伏び補修方法の特徴とするところは、請求項1に記載する如く、常温で硬化するライニング材料をチューブ状に成形し、その内表面及び外表面をガスバリヤ性の高いフィルムで被覆して補修用ライナー部材を製作し、該ライナー部材を伏び内へ挿通し、該ライナー部材の一方の端部を閉塞すると共に、他方の端部に通気口を有する閉塞部材を装着し、該閉塞部材の通気口から上記ライナー部材の内表面を被覆するインナーフィルム内へ加圧空気を送り込むことにより上記ライナー部材を膨らませて伏びの内周面に圧接させたのち、上記ライナー部材が地熱で硬化するまでライナー部材内部の加圧状態を維持して伏びの内周面にライナー層を形成することである。
【0009】
前記において、補修用ライナー部材を構成するライニング材料は、繊維状の補強材に常温硬化性の合成樹脂を含浸させたものであり、補強材には、例えばガラスロービング、PETフェルト、ポリエステル繊維シート、又は、これらの複合材若しくは積層材等が挙げられる。常温硬化性の合成樹脂とは、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などであって、硬化開始温度を15〜30°Cに調整したものが用いられる。
【0010】
チューブ状に成形したライニング材料の内表面及び外表面を覆うガスバリヤ性の高いフィルムとは、通気性が皆無又はきわめて低い性質のフィルムであり、さらに耐薬品性・耐熱性・耐蝕性を持ち、スチレン等の有機溶剤に対し非透過性であることが望ましい。このようなものとしては、例えばナイロンとポリエチレンとの複層フィルムが考えられる。ナイロンはガスバリヤ性を発揮し、ポリエチレンは引っ張り強度と柔軟性とを付与する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る伏びの補修方法は、伏び内に挿通したチューブ状のライナー部材を、常温で硬化するライニング材料で成形したので、ライナー部材を膨らませる手段は加圧空気でよく、また伏びが埋設されている路盤の地熱でライナー部材を硬化させるものである。それ故、補修作業を実施するのに水蒸気等の熱源を必要としないから、従来の如き水蒸気供給装置や、凝縮水の排出手段や、水蒸気及び排出水に対する安全対策を不要にできると共に、ライナー部材の硬化に要する時間を除いた実作業時間を、大幅に短縮することができる。また、必要とする機械装置を軽量化・小型化できると共に、設備構成が簡略になるから機動性が向上し、その結果、寄りつきの悪い施工現場に対しても補修作業の実施が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態を、図面に基づいて説明する。図1に示すように、鉄道線路Sは一般に、土台である路盤Pの上に、所定の厚さに盛り上げたバラスト等で道床Qを形成し、その上に配設した枕木M上に軌道Rを敷設して構築される。そして伏びFが、軌道Rを横切る方向に、所定間隔を置いて路盤P内に埋設される。伏びFは、主として農業用水や生活排水・雨水などを、線路Sを横断して通水させるためのものである。
【0013】
伏びFには、ヒューム管のほか、古くから陶製のものが多用されてきており、鉄道車両の走行による振動や荷重などの影響で、ひび割れを起こしたり、破管したりする。また伏びFが、複数本の管を連結して構成されている場合は、継ぎ目が外れることがある。そこで補修作業に当たっては、各伏びFについて、ひび割れ・破管・継ぎ目外れ等の損傷の有無を調査し、補修が必要と判断された伏びFについて、以下に説明する手順により、内周面にライナー層を形成する。
【0014】
まず始めに、伏びFの状況及び周囲の環境について事前調査を行なう。具体的には、伏びの施工位置及び周囲の状況・施工基面の状況・機材搬入路の状況・伏びの管径及び延長・伏び内温度・外気温などについて検査又は測定を行なう。
【0015】
次いで、図1に示す如く、適宜の清掃器具10や浚渫装置、高圧洗浄水等を用いて、伏びF内の堆積物除去・清掃・洗浄等を施す。続いて、図2に示す如く、例えばTVカメラ21と記録装置22とから成る検査装置20により伏びF内周面の観察・撮影を行い、ひび割れや破管や継ぎ目の外れ等の損傷の有無を調査する。
【0016】
調査の結果、伏びFが損傷を有し補修の必要が有ると判断したならば、エアコンプレッサーや発電機等の必要機材を搬入し設置する。そして図3に示すように、必要に応じて伏びF内にスリップシート30を挿通したのち、その上に補修用ライナー部材40を敷設する。このとき、ライナー部材40の先端を、伏びFの開口端部よりも突出させておくことが望ましい。
【0017】
スリップシート30は、伏びFの損傷部分でライナー部材40が傷つくのを防止すると同時に、伏びF内へライナー部材40を引き込むのを円滑にするためのものであって、比較的強靱でスリップ性の良好な素材、例えばポリエチレン・ポリプロピレン・ナイロン等の合成樹脂製シートから成る。
【0018】
補修用ライナー部材40は、図4(A)に示す如く、常温硬化性のライニング材料41をチューブ状に成形し、同図(B)に示す如く、その内表面及び外表面をガスバリヤ性の高いインナーフィルム42及びアウターフィルム43で被覆したものである。ライニング材料41は、繊維質の補強材に常温硬化性の合成樹脂を含浸させて構成される。補強材としては、ガラスロービング、PETフェルト、ポリエステル繊維シート等のほか、これを複合させたもの、あるいは積層したものが用いられる。常温硬化性の合成樹脂には、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂などであって、硬化開始温度を15〜30°Cに調整したものが用いられる。従ってライナー部材40は、施工直前まで、例えば10°C以下の保冷コンテナなどに保管することが好ましい。またチューブ状に成形したライニング材料41の層厚みは、補修対象となる伏びFの管径に応じて設定されるが、管径200〜450mmに対しては4mm程度とすればよい。またライニング材料41の望ましい機械的性質は、硬化後の曲げ強さが50N/mm以上、曲げ弾性率が4000N/mm以上である。
【0019】
ライニング材料41の内表面を覆うインナーフィルム42及び外表面を覆うアウターフィルム43には、例えばナイロンとポリエチレンとを熱融着させた複層フィルムなどの、通気性を持たず、耐薬品性・耐熱性・耐蝕性を有し、有機溶剤に対し非透過性の素材が用いられる。
【0020】
なおライナー部材40には、長手方向の引っ張り強度が大きく且つ伸び率が小さいものを用いることが望ましい。これにより、伏びF内への引き込み時における長手方向の伸縮を抑制して、層厚みの変動を防止できる。他方、径方向の伸び率は適度に大きいことが望ましい。これにより、後述する加圧空気の供給工程において、ライナー部材40を伏びFの内周面へ確実に密着させることができる。
【0021】
前記の如く構成されるライナー部材40は、伏びF内への挿入を容易にするため、例えば図4(C)に示す如く、径方向に圧縮して折り畳んだ状態で使用するのが望ましい。
【0022】
ライナー部材40を伏びF内へ引き込んでスリップシート30上に敷設したのち、必要に応じ、基端側を伏びFの開口部の近傍位置で切断する。そして図5に示すように、ライナー部材40の両端部にプラグと呼ばれる閉塞部材50(a),50(b)を装着し、気密的に締結する。締結手段52には、ワイヤー・バンド・ロープなどが用いられる。
【0023】
先端側の閉塞部材(プラグ)50bは、開口部の無いものを用いるが、基端側の閉塞部材50aには、通気口51を有するものを用いる、そして、この通気口51に、エアコンプレッサー60に連結したエアホース61を接続し、エアコンプレッサー60からエアホース61を通じて、ライナー部材40のインナーフィルム42内へ加圧空気を供給する。これにより、ライナー部材40が膨らみ、伏びFの内周面に圧接する。しかるのち、エアコンプレッサー60により供給される加圧空気の供給圧を一定に保ち、ライナー部材40の圧接状態を所定時間以上維持する。
【0024】
ライナー部材40を構成しているライニング材料41は、常温硬化性の合成樹脂を含浸させたものであるから、外気温にもよるが、普通は施工開始時から硬化を開始し、伏びF内へ敷設されてからは、伏びFが埋設されている路盤Pの地熱により硬化が進行する。従って、ライナー部材40内の空気圧を一定以上に保った状態を、所定時間以上維持することにより、ライナー部材40が硬化して、伏びFの内周面にライナー層が形成されることになる。加圧空気の保持時間は、ライニング材料41に用いた常温硬化性合成樹脂の物性や、伏びF内の温度によって決まるが、硬化完了まで24〜28時間を要する場合が多い。本発明では、路盤Pの地熱でライナー部材40の硬化が進行するから、外気温が多少低くても、ライナー部材40を確実に硬化させることができるという利点を有する。なお外気温が低いときは、硬化工程の間、ライナー部材40における伏びFの両管端部から露出している部分を保温材で被覆することが望ましい。
【0025】
ライナー部材40の硬化が完了したならば、ライナー部材40内から圧力を抜き、図6(A)に示す如く、ライナー部材40における伏びFから突出している部分を切断し、プラグ50a、50bの取り外しを行なう。そして、インナーフィルム42除去し、伏びFの両端開口部に仕上げ処理を施す。しかる後、必要に応じ、TVカメラ21を用いた検査装置20(図2参照)で、伏びF内部の施工状態を検査し、補修作業を完了する。
【0026】
以上述べた如く、本発明に係る伏びの補修方法によれば、必要機材として、エアコンプレッサー・発電機・検査装置を用意すればよく、従来必要としていた水蒸気発生装置と比較すると設備規模が格段に縮小されるので、人手による機材の運搬・搬入が可能になり、機動性が向上する。また熱源を使用しないから、安全対策を簡単に済ませられる。さらに水蒸気を使用しないことにより、補修作業における実作業時間が大幅に短縮されるから、鉄道車両の運行スケジュールにより作業可能時間が制限されている個所に対しても、適用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態に係るものであって、伏びの清掃工程を示す概略断面図である。
【図2】本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態に係るものであって、伏び内の検査工程を示す概略断面図である。
【図3】本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態に係るものであって、図(A)は伏び内へライナー部材を挿通する工程を示す概略断面図、図(B)は伏び挿通後におけるライナー部材の先端部を拡大して示す図面である。
【図4】本発明に用いるライナー部材に関するものであって、図(A)はチューブ状に成形したライニング材料の要部を示す斜視図、図(B)は図(A)のライニング材料の内表面及び外表面をフィルムで被覆した状態を示す要部の斜視図、図(C)は径方向に圧縮して折り畳んだ状態のライナー部材の要部を示す斜視図である。
【図5】本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態に係るものであって、図(A)は伏びに挿通したライナー部材内に加圧空気を供給して硬化させる工程を示す概略断面図、図(B)は図(A)におけるライナー部材の基端部を拡大して示す概略断面図である。
【図6】本発明に係る伏びの補修方法の一実施形態に係るものであって、図(A)は補修作業が完了した伏びの概略断面図、図(B)は図(A)におけるX部分を拡大して示す断面図、図(C)は図(B)の伏びにおける長手方向に対し垂直な方向の断面図、図(D)は図(B)におけるY部分を拡大して示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
F…伏び P…路盤 Q…道床 R…軌道 S…線路 40…ライナー部材 41…ライニング材料 42…インナーフィルム 43…アウターフィルム 50(a,b)…閉塞部材(プラグ) 51…通気口 52…締結手段 60…エアコンプレッサー 61…エアホース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
常温で硬化するライニング材料をチューブ状に成形し、その内表面及び外表面をガスバリヤ性の高いフィルムで被覆して補修用ライナー部材を製作し、該ライナー部材を伏び内へ挿通し、該ライナー部材の一方の端部を閉塞すると共に、他方の端部に通気口を有する閉塞部材を装着し、該閉塞部材の通気口から上記ライナー部材の内表面を被覆するインナーフィルム内へ加圧空気を送り込むことにより上記ライナー部材を膨らませて伏びの内周面に圧接させたのち、上記ライナー部材が地熱で硬化するまでライナー部材内部の加圧状態を維持して伏びの内周面にライナー層を形成することを特徴とする伏びの補修方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−131916(P2010−131916A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−311430(P2008−311430)
【出願日】平成20年12月5日(2008.12.5)
【出願人】(000196587)西日本旅客鉄道株式会社 (202)
【出願人】(597110995)株式会社レールテック (3)
【出願人】(501345091)栄光テクノ株式会社 (2)
【出願人】(505354095)タキロンエンジニアリング株式会社 (5)
【Fターム(参考)】