説明

伝送線路の終端回路

【課題】高速信号伝送において、損失の少ない線路長に対しても過補償による波形劣化が発生しない波形補償機能を有する伝送線路の終端回路を実現する。
【解決手段】伝送線路2の終端部に接続されたダイオード4aと、前記ダイオード4aとグランド100との間に接続された伝送線路2の特性インピーダンスとほぼ等しい抵抗値を持つ抵抗5aとを備え、前記伝送線路2から前記抵抗5aに向かう方向を前記ダイオード4aの順方向または逆方向とする。または伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、前記ダイオードと電源との間に接続された抵抗とを備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの逆方向または順方向とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伝送線路の終端回路に関するもので、特に、伝送線路の減衰が小さい場合においても過補償による波形劣化が発生しないようにするものである。
【背景技術】
【0002】
従来のディジタルデータ伝送における終端回路は、信号線を抵抗やダイオードを介してグランドあるいは電源に接続することで、反射の抑制あるいはオーバーシュートの抑制等波形の歪みを軽減する機能を実現していた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、近年の信号伝送レートの増加に伴って顕在化した伝送路の周波数依存性の減衰による波形歪みに対応するため、抵抗、キャパシタ、インダクタ等の素子で構成され、伝送路の周波数依存性を打ち消す特性を持つことで、周波数依存性を平坦化し、波形を補償するイコライザ回路も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開昭61−128646号公報
【非特許文献1】電子情報通信学会論文誌 C Vol. J87-C No. 11 pp. 873-880、 2004年11月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した従来の終端回路は、反射やオーバーシュート等の抑制を目的としたものであり、近年の信号伝送レートの増加に伴って顕在化した伝送路の周波数依存性の減衰による波形歪みに対しては効果がないという問題点があった。
【0006】
また、上述した従来のイコライザ回路は、伝送路の周波数依存性の減衰による波形歪みの補償を目的としたものであるが、伝送路の長さが短い場合など減衰が小さい場合では、イコライザ回路により周波数特性の平坦さが損なわれ、逆に波形が劣化してしまうという問題点があった。このため、ケーブルによる伝送やバックプレーンによる伝送等の運用により配線長が変化するシステムに適用することが困難であった。
【0007】
この発明は上記のような問題点を解決するためになされたもので、高速信号伝送において、損失の少ない線路長に対しても過補償による波形劣化が発生しない波形補償機能を有する伝送線路の終端回路を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係る伝送線路の終端回路は、伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、前記ダイオードとグランドとの間に接続された抵抗とを備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの順方向または逆方向とし、前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しくしたことを特徴とする。
【0009】
また、伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、前記ダイオードと電源との間に接続された抵抗とを備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの逆方向または順方向とし、前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しくしたことを特徴とする。
【0010】
さらに、伝送線路の終端部に接続された第1のダイオードと、前記第1のダイオードとグランドとの間に接続された第1の抵抗と、前記伝送線路の終端部に接続された第2のダイオードと、前記第2のダイオードと電源との間に接続された第2の抵抗とを備え、前記伝送線路から前記第1の抵抗に向かう方向を前記第1のダイオードの順方向または逆方向とし、前記伝送線路から前記第2の抵抗に向かう方向を前記第2のダイオードの逆方向または順方向とし、前記第1とおよび第2の抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
この発明によれば、伝送線路の終端部にダイオードと抵抗とからなる回路を設けることで、伝送線路の減衰が小さい場合においても過補償による波形劣化が発生しない波形補償回路を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。信号を送出するドライバ1と信号を受信するレシーバ3との間に設けられた伝送線路2の終端部である、レシーバ3の入力部には、ダイオード4aのアノードが接続され、ダイオード4aのカソードは抵抗5aを経由してグラウンド100に接続されている。抵抗5aの抵抗値は伝送線路2の特性インピーダンスとほぼ等しいとする。
【0013】
すなわち、伝送線路2の終端部に接続されたダイオード4aと、ダイオード4aとグランド100との間に接続された抵抗5aとを備え、伝送線路2から抵抗5aに向かう方向をダイオード4aの順方向としている。
【0014】
次に動作について説明する。ドライバ1から送信されたデータパターンは、伝送線路2を経由してレシーバ3に到達する。伝送線路2は、導体損失や誘電体損失などの周波数に依存する損失があるため、レシーバ3に到達した波形の各ビットにおける振幅は不均一な状態となる。
【0015】
図2は、ダイオードの一般的なIV特性を示した図である。図2に示すように、正の電圧範囲に注目すると、カットイン電圧以下の電圧では電流はほとんど流れず、カットイン電圧以上になると電流が急激に流れる性質がある。つまり、ダイオードは、印加電圧がカットイン電圧以下の場合に高いインピーダンスとなり、カットイン電圧以上になると低いインピーダンスとなる。
【0016】
図1においては、ダイオード4aのカットイン電圧以下の信号に対しては、ダイオード4aが高インピーダンス回路として振舞うため、大きな正反射が発生し、レシーバ3の入力端における振幅は増加する。他方、ダイオード4aのカットイン電圧以上の信号に対しては、ダイオード4aは低いインピーダンスになるため抵抗5aを経由してグラウンド100に電流が流れ終端される。
【0017】
従って、実施の形態1によれば、従来の波形補償回路のような周波数に依存させるのではなく、実際にレシーバ3に到達した信号レベルが小さい場合に、大きな反射が発生し振幅を増加させるように構成しているので、伝送路の減衰が小さい場合であっても過補償が起こらない波形補償を実現できる。
【0018】
実施の形態2.
図3は、この発明の実施の形態2に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。図3に示す実施の形態2に係る伝送線路の終端回路は、図1に示す構成図において、終端回路の接続先をグラウンド100から電源101に変更し、ダイオードの向きを逆にしたものである。なお、図2においては、ダイオードを符号4bとし、抵抗を符号5bとして示している。抵抗5bの抵抗値は伝送線路2の特性インピーダンスとほぼ等しいとする。
【0019】
図3に示す実施の形態2においては、信号振幅の基準が電源101となる。それ以外は実施の形態1と同様に、電源電圧から見て電圧が小さい信号に対しては、ダイオード4bが高インピーダンスとなり反射波によって振幅が増加する。電源電圧から見て電圧が大きい信号に対しては、ダイオード4bが低インピーダンスとなり抵抗5bに電流が流れ終端される。
【0020】
従って、実施の形態2によれば、電源電圧を基準とした、実施の形態1の波形補償機能を実現できる。
【0021】
実施の形態3.
図4は、この発明の実施の形態3に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。図4に示す実施の形態3に係る伝送線路の終端回路は、図1に示す実施の形態1と図3に示す実施の形態2による伝送線路の終端回路を両方接続したものである。ダイオード4aおよび4bのカットイン電圧は電源電圧101の電圧の半分より小さいとする。抵抗5a及び5bの抵抗値は伝送線路2の特性インピーダンスとほぼ等しいとする。
【0022】
図4に示す実施の形態3における動作は、実施の形態1、2と同様に、グラウンド100を基準に振幅が小さい信号および電源電圧101を基準に振幅が小さい信号は、それぞれダイオード4aまたは4bのどちらかが低インピーダンスになるので終端される。電源電圧101の半分程度付近の信号に関しては、ダイオード4aおよび4bが高インピーダンスになるため反射波が発生し振幅が増幅される。
【0023】
従って、実施の形態3によれば、一般的なディジタル信号伝送に適した波形補償機能を実現できる。
【0024】
実施の形態4.
図5は、この発明の実施の形態4に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。図5に示す実施の形態4に係る伝送線路の終端回路は、図1に示す実施の形態1の構成図において、ダイオード4aの向きを逆にしたものである。
【0025】
ダイオードの一般的なIV特性を示した図2の負の電圧範囲に注目すると、逆降伏領域以下の逆電圧では電流はほとんど流れず、逆降伏領域以上の逆電圧になると電流が急激に流れる性質がある。つまり、実施の形態4は、ダイオード4aの向きを逆にして逆降伏領域を利用することで、信号の大小の基準値が異なる、実施の形態1と同様な波形補償が可能となる。
【0026】
従って、実施の形態4によれば、信号の大小の基準値が異なる、実施の形態1の波形補償機能を実現できる。
【0027】
実施の形態5.
図6は、この発明の実施の形態5に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。図6に示す実施の形態5に係る伝送線路の終端回路は、図3に示す実施の形態2の構成図において、ダイオード4bの向きを逆にしたものである。
【0028】
従って、実施の形態5によれば、ダイオード4bの向きを逆にして逆降伏領域を利用することで、信号の大小の基準値が異なる、実施の形態2と同様な波形補償が可能となる。
【0029】
実施の形態6.
図7は、この発明の実施の形態6に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。図7に示す実施の形態6に係る伝送線路の終端回路は、図4に示す実施の形態3の構成図において、ダイオード4a、4bの向きを逆にしたものである。
【0030】
従って、実施の形態6によれば、ダイオード4a、4bの向きを逆にして逆降伏領域を利用することで、信号の大小の基準値が異なる、実施の形態3と同様な波形補償が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】この発明の実施の形態1に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【図2】ダイオードの一般的なIV特性を示した図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【図7】この発明の実施の形態6に係る伝送線路の終端回路を示す構成図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ドライバ、2 伝送線路、3 レシーバ、4a、4b ダイオード、5a、5b 抵抗、100 グラウンド、101 電源。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、
前記ダイオードとグランドとの間に接続された抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの順方向とし、
前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。
【請求項2】
伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、
前記ダイオードと電源との間に接続された抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの逆方向とし、
前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。
【請求項3】
伝送線路の終端部に接続された第1のダイオードと、
前記第1のダイオードとグランドとの間に接続された第1の抵抗と、
前記伝送線路の終端部に接続された第2のダイオードと、
前記第2のダイオードと電源との間に接続された第2の抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記第1の抵抗に向かう方向を前記第1のダイオードの順方向とし、前記伝送線路から前記第2の抵抗に向かう方向を前記第2のダイオードの逆方向とし、
前記第1および第2の抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。
【請求項4】
伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、
前記ダイオードとグランドとの間に接続された抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの逆方向とし、
前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。
【請求項5】
伝送線路の終端部に接続されたダイオードと、
前記ダイオードと電源との間に接続された抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記抵抗に向かう方向を前記ダイオードの順方向とし、
前記抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。
【請求項6】
伝送線路の終端部に接続された第1のダイオードと、
前記第1のダイオードとグランドとの間に接続された第1の抵抗と、
前記伝送線路の終端部に接続された第2のダイオードと、
前記第2のダイオードと電源との間に接続された第2の抵抗と
を備え、前記伝送線路から前記第1の抵抗に向かう方向を前記第1のダイオードの逆方向とし、前記伝送線路から前記第2の抵抗に向かう方向を前記第2のダイオードの順方向とし、
前記第1および第2の抵抗の値は前記伝送線路の特性インピーダンスとほぼ等しい
ことを特徴とする伝送線路の終端回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−131141(P2008−131141A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−311334(P2006−311334)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】