説明

伝送路特性測定器

【課題】本発明では、任意の複数のチャンネルのスペクトルに基づいて、高い分解能の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器の測定方式を提案する。
【解決手段】伝送路特性を測定する伝送路特性測定器であって、離散フーリエ変換手段と、平均値算出手段と、スペクトル補正手段と、逆離散フーリエ変換手段からなり、放送される1つまたはそれ以上のチャンネルのスペクトルを用いて高い分解能の伝送路特性を測定できることを特徴とする伝送路特性測定器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受信した直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:OFDM)信号を用いて、親局から中継局もしくは受信局への直接波(希望波)と、親局から中継局もしくは受信局の間にある建築物や山などの反射などにより生じた遅延波や、他の中継局から送信された同一信号の飛び込み波(以降遅延波に含める)や、単一周波数ネットワーク(Single Frequency Network:SFN)中継局において自局で再送信した信号が直接、あるいは周りの建築物や山などに反射して再び受信される回り込み波の関係を示す伝送路特性の測定に係り、特に複数チャンネル分、もしくは任意の周波数帯域幅のスペクトルを用いて伝送路特性を測定する伝送路特性測定装置に関するものである。
【0002】
また、本発明はOFDM信号から測定した伝送路特性を用いて、親局から中継局もしくは受信局の間にある建築物や山などの反射などにより生じた遅延波や、他の中継局から送信された同一信号の飛び込み波(以降遅延波に含める)や、SFN中継局において自局で再送信した信号が直接、あるいは周りの建築物や山などに反射して再び受信される回り込み波をキャンセルする回り込みキャンセラに係り、特に複数チャンネル分、もしくは任意の周波数帯域幅の回り込み波や遅延波の一括した消去を実現する回り込みキャンセラに関するものである。

【背景技術】
【0003】
近年、例えば地上波デジタル放送において、OFDM伝送方式が用いられている。OFDM伝送方式は、伝送するデジタルデータによって互いに直交する多数のキャリアを変調し、それらの変調波を多重して伝送する方式である。
【0004】
OFDM伝送方式においては、周波数帯域幅を一定として、使用するキャリアの数を多くするとシンボル時間が長くなることに加え、ガードインターバル信号の付加により遅延波の影響を受けにくいという特徴を有している。そしてこの特徴により、単一周波数による放送ネットワーク、すなわちSFNを構築できる可能性があることから、上述したように、OFDM伝送方式は地上デジタル放送の伝送方式として日本のIntegrated Services Digital−Terrestrial(ISDB−T)や欧州のDigital Video Broadcasting−Terrestrial(DVB−T)に採用されている。
【0005】
しかしながら、遅延波の影響を受けにくいことを特徴とするOFDM伝送においても遅延波が存在する場合には信号品質の劣化は避けられないことから、伝搬路状況の解析手段として伝送路特性の正確な測定法が望まれている。また、中継段にあっては可能な限り信号品質の劣化を抑える目的から、回り込み波や遅延波を消去することが望まれている。
【0006】
ここで図1を用いて遅延波と回り込み波について説明する。中継局111は本来OFDM波101のみを必要とするが、他の中継局からの到来波103や、障害物などにより反射して到来する遅延波107が到来する。また、SFNにおいては、遅延波に加え中継局111自身の送信波の回り込み波105が中継局111の受信アンテナに到来する。ユーザー世帯への再送信波109を正常にするには、他の中継局からの到来波103、遅延波107や回り込み波105の希望波101に対する特性を測定し、101以外を消去することが望ましい。本発明は希望波、他の中継局からの到来波、遅延波や回り込み波の伝送路特性を正確に測定、およびその測定結果に基づき不要なOFDM波を効率的に消去するためのものである。
【0007】
他の中継局からの到来波、遅延波、および回り込み波の伝送路特性を測定する方法として、例えば次の2つの方法が考えられ、これらの方法により伝送路特性(伝送路の伝達関数や遅延プロファイル(複素インパルス応答))を測定する。また、回り込みキャンセラでは、これら2つのいずれかの方法で測定した遅延プロファイルに基づいてタップ係数を算出することで回り込み波や遅延波を消去する。
【0008】
(1)OFDM信号に挿入されたパイロットキャリアから伝達関数を求め、この伝達関数を逆離散フーリエ変換(IDFT)して遅延プロファイルつまり複素インパルス応答を求める。ここでパイロットキャリアとは、変調された信号を復調する際に用いられる、位相と振幅がわかっている基準信号のことである。詳しくは、非特許文献1参照。
【0009】
(2)OFDM信号帯域のスペクトルを算出し、スペクトルをIDFTして遅延プロファイルを求める。詳しくは、非特許文献2参照。
【0010】
しかし、これら従来の伝送路特性測定器では、1つのチャンネルの信号帯域内のキャリアもしくはスペクトルからその1つのチャンネルの信号帯域内の遅延波や回り込み波の伝送路特性を測定するので遅延プロファイルの時間分解能が制限されていた。また、これらの伝送路特性の測定法に基づいた従来の回り込みキャンセラでは、1つのチャンネルの信号帯域内のキャリアもしくはスペクトルからその1つのチャンネルの信号帯域内の遅延波や回り込み伝送路特性を測定するので、消去できる回り込み波や遅延波は1つのチャンネルの信号帯域についてのみであり、1つのチャンネル帯域内であっても信号帯域外の周波数や、複数チャンネルに対応する周波数帯域、あるいは任意の周波数帯域の回り込み波や遅延波は消去できなかった。
【0011】
従来の伝送路特性測定器では、より詳細な遅延プロファイルを測定する場合は、複数チャンネルの信号を用いることが考えられるが、信号帯域以外の周波数ではパイロット、および信号スペクトルが存在しないので、遅延プロファイルが図11(b)のようになり遅延波や回り込み波の識別が困難となる問題があった。また、従来の回り込みキャンセラでは、複数チャンネルに対応する周波数帯域の回り込み波や遅延波を消去する場合は、複数個の回り込みキャンセラを用意することになり、中継局における中継装置、および、中継装置類を接続するケーブル、さらに中継装置の設置空間を増加させることになり、高コストになるばかりか設置費用がさらに必要になるという問題があった。
【0012】
以上述べたように、より高い時間分解能で遅延プロファイルを算出する伝送路特性測定器が強く要求されている。また、1つのチャンネルの信号帯域に加え信号帯域外の回り込み波や遅延波を消去する回り込みキャンセラや、複数チャンネルに対応する周波数帯域の回り込み波や遅延波を消去する回り込みキャンセラ、あるいは任意の周波数帯域の回り込み波や遅延波を消去する回り込みキャンセラが強く要求されている。
【0013】
複数チャンネルの回り込み波や遅延波を1台の回り込みキャンセラで正確に消去するためには、複数のチャンネルの相対的な周波数配置を維持し、伝送路特性を同時に測定し、中継局における複数チャンネル分の伝送路特性を測定するとともに、有限長インパルス応答(Finite Impulse Respons:FIR)フィルタにタップ係数を反映させる必要がある。
【0014】
複数チャンネル分の伝送路特性を同時に測定するには次の2つの方法が考えられる。1つはチャンネル毎に伝送路特性を測定する方法であり、もう1つは複数チャンネルの伝送路特性を一括して測定する方法である。
【0015】
しかるに、この1つめの方法では、図2に示すように一般にOFDM信号のシンボルタイミングはチャンネル毎に揃っているわけではないため、伝送路特性を調べるタイミング、つまり復調のタイミングがチャンネル毎に違うことになる。従って、伝送路特性が時間変動するような場合には、キャンセラの動作が不安定になり、発振する可能性も高くなる。また、OFDM復調器が複数必要になるので、コストも高くなる問題がある。
【0016】
また、2つめの方法では、複数チャンネルのOFDM信号を一括して復調する必要があるが、図2に示すようにOFDM信号のシンボルタイミングがチャンネル毎に違うのでOFDM信号の復調の際に全てのチャンネルに対して最適な時間窓(FFT窓)をかけることは現実的には不可能であり、チャンネルによってはOFDM復調できなくなるような状況もありえる。つまり、伝送路特性の測定ができなくなる場合がある。
【0017】
このように、シンボルタイミングを元にOFDM復調をする手法では、複数チャンネルの伝送路特性を測定することが困難であった。また同様に回り込みキャンセラの設計も困難であった。
【0018】
更に、2つめの方法で複数チャンネルのスペクトルを利用する場合にはスペクトルの形状さえ得られれば良いのでFFT窓の位置は任意で良い。しかし、複数チャンネル存在下では遅延波や回り込み波が存在しない状態でもスペクトル形状が平坦ではなくなるので伝送路特性の測定、すなわち遅延プロファイルを測定しても図11(b)のように希望波との有意的な差が小さく、遅延波の識別が困難になる問題が残る。
【非特許文献1】Michael Speth、Stefan Fechtel、Gunnar Fock、and Heinrich Meyr、“Optimum Receiver Design for OFDM−Based Broadband Transmission―Part2:A Case Study”、IEEE Transactions on Communications、vol.49、No.4、April 2001、pp.571−578.
【非特許文献2】S.スタイン、J.J.ジョーンズ(著)、関英男(訳)、「現代の通信回線理論」、森北出版、1970年10月、pp.121−130.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
遅延波や回り込み波が存在する伝送路では、その遅延波や回り込み波の遅延時間や振幅、および位相に対応して、受信OFDM信号の周波数特性の振幅、および位相が変化する。従来の伝送路特性測定器では、1つのチャンネルの信号帯域内のスペクトルから伝達関数や遅延プロファイルなどの伝送路特性を測定していた。
【0020】
また、従来の回り込みキャンセラでは、1つのチャンネルの信号帯域内のスペクトルから測定した伝送路特性を用いてFIRフィルタのタップ係数を算出し、このFIRフィルタによって遅延波や回り込み波を除去するための信号を生成していた。
【0021】
従って、伝送路特性測定器では、チャンネルの帯域幅の逆数で決まる時間分解能でしか遅延プロファイルを測定できなかった。
【0022】
また、回り込みキャンセラでは、測定したチャンネル帯域内の遅延波や回り込み波については、FIRフィルタによって除去することは可能であったが、そのチャンネル帯域外については遅延波や回り込み波を除去することはできなかった。
【0023】
更に、回り込みキャンセラでは、中継局毎に中継すべきチャンネルの数やチャンネル間の周波数関係が異なること、および、チャンネル数の増加や減少などなどに留意し、これまでは中継局ごとに遅延波や回り込み波のキャンセラの構成を適宜変えておかねばならなかった。
【0024】
そこで本発明では、複数のチャンネルにわたる帯域幅の逆数で決まる時間分解能を持つ伝送路特性測定器の測定法を提案する。
【0025】
また、同一周波数による中継(SFN)を行う中継局において、中継を行わねばならない複数のチャンネルの遅延波や回り込み波を1台のキャンセラで消去することを可能にし、さらにそのことによって各地の中継局における遅延波や回り込み波のキャンセラを同一に設計することを可能にする回り込みキャンセラの方式を提案する。

【課題を解決するための手段】
【0026】
所定の周波数チャンネルのサブキャリア信号を多重化して含む信号の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器において、
信号帯域外の周波数帯域、および信号帯域外の周波数帯域と信号帯域の境界周波数帯のスペクトルの信号強度レベルを信号帯域のスペクトルの信号強度レベルと同レベルに引き上げることを特徴とする伝送路特性測定器とする。

【0027】
所定の周波数チャンネルのサブキャリア信号を多重化して含む信号の回り込み成分や遅延波成分を消去する回り込みキャンセラにおいて、
信号帯域外の周波数帯域、および信号帯域外の周波数帯域と信号帯域の境界周波数帯のスペクトルの信号強度レベルを信号帯域のスペクトルの信号強度レベルと同レベルに引き上げることを特徴とする回り込みキャンセラとする。

【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、複数のチャンネルの信号を用いて従来の伝送路特性測定器よりも高精度で周波数特性や遅延プロファイル等の伝送路特性の測定が可能となる。
【0029】
更に、本発明によれば、複数チャンネルの信号を中継する中継放送局で生じる遅延波、および回り込み波を、1台の回り込みキャンセラで消去できる。従って、複数チャンネル向けの中継装置の低コスト化が可能となる。

【実施例】
【0030】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
図4は本発明の第一の実施形態にかかる伝送路特性測定器である。本実施形態にかかる伝送路特性測定器は,デジタル化された受信信号(OFDM信号)を離散フーリエ変換処理して受信スペクトルを算出する離散フーリエ変換部と、算出された受信スペクトルを複数用いて周波数毎の平均値を算出する平均値算出部と,算出された受信スペクトルから参照スペクトルを算出し、算出した参照スペクトルを用いて受信スペクトルを補正するスペクトル補正部と,補正した受信スペクトルに対して複素インパルス応答値(遅延プロファイル)を算出する逆離散フーリエ変換処理する逆離散フーリエ変換部と,を備える。
【0032】
このうち離散フーリエ変換部は、受信信号に対してシンボルタイミングを気にせず、任意の開始タイミングでサンプリングを開始し離散フーリエ変換により時間信号である受信信号の離散的な周波数毎の信号強度|Ri(k)|(または|Ri(k)|)を取得する。このRi(k)はスペクトルに相当する。ただし、iは離散フーリエ変換部による測定開始後からの通算のN点離散フーリエ変換回数であり、0≦k<N(N:離散フーリエ変換のポイント数)である。なお、Ri(k)の取得点(すなわちk)は、OFDM信号のサブキャリア信号の周波数に必ずしも整合させる必要はなく、kの取得点数NはOFDM信号の周波数帯域に整合させる必要も無く、必要な精度を確保できる程度に適宜選択すればよい。
【0033】
平均値算出部は、複数のスペクトル|Ri(k)|(または|Ri(k)|)を周波数毎に平均値を算出し、|R(k)|=E[|Ri(k)|](または|R(k)|=E[|Ri(k)|])を得る。
(数1)
|R(k)|
=E[|Ri(k)|]
=(|RjM+1(k)|+|RjM+2(k)|+
…+|RjM+M(k)|)/M (0≦k<N)
(または、
(数2)
|R(k)|
=E[|Ri(k)|
=(|RjM+1(k)|+|RjM+2(k)|
…+|RjM+M(k)|)/M (0≦k<N)

ただし、jは平均値算出部による、測定を開始してからの通算の平均値を求めた回数でありj≧0を満たす、Mは平均値を求める際に用いるスペクトルの個数でありM≧1を満たす。
【0034】
次に、スペクトル補正部では、送信スペクトルの平均値X(k)と伝送路の伝達関数S(k)により、受信スペクトルの平均値R(k)が
(数3)
|R(k)|=|S(k)|・|X(k)| (0≦k<N)
(または、
(数4)
|R(k)|=|S(k)|・|X(k)| (0≦k<N)

と表される(詳しくは、高畑文雄、「ディジタル無線通信」、培風館、2002年6月、pp.127-129、および、斉藤洋一、「ディジタル無線通信の変復調」、電子情報通信学会、1996年2月、pp.164-166、および、桑原守二、「ディジタルマイクロ波通信」、企画センター、1984、p.196に詳述されている。)ことから、後述する参照スペクトル|X(k)|(または|X(k)|)で平均値算出部より入力されたスペクトル|R(k)|(または|R(k)|)を割り、|S(k)|(または|S(k)|)を得る。
(数3)
|S(k)|=|R(k)|/|X(k)| (0≦k<N)
(または、
(数4)
|S(k)|=|R(k)|/|X(k)| (0≦k<N)

【0035】
但し、ここでの参照スペクトル|X(k)|(または|X(k)|)は、受信スペクトルの平均値|R(k)|(または|R(k)|)において、信号帯域(以降、信号領域と呼ぶ)、信号領域と信号帯域外の周波数帯域の境界領域(以降、境界領域と呼ぶ)、および信号帯域外の周波数帯域(以降、信号外領域と呼ぶ)の3つの領域に分けて参照スペクトルを算出する。まず、信号領域、および信号外領域それぞれの周波数方向の平均値TとUを算出し、境界領域のスペクトルは信号領域の平均値Tと信号外領域の平均値Uを変数とする関数F(T,U)により算出する。関数F(T,U)は、サンプリング周波数と信号が存在する周波数の関係、および離散フーリエ変換のポイント数に基づいて、次の三つのいずれかの形式
1.各々の正規化周波数(以降、周波数と呼ぶ)kで異なる関数
2.信号領域より低い周波数側(以降、下境界領域と呼ぶ)の幾つかのkで異なり、かつ信号領域より高い周波数側(以降、上境界領域と呼ぶ)の幾つかのkで異なる関数
3.全ての周波数kで同一の関数
に予め決定できる。
【0036】
ここで図5と図6を参照しながら参照スペクトルの算出手順の一例を示す。図5は希望波の他に遅延波が存在する場合の受信スペクトルである。同図では受信スペクトルが信号外領域1、下境界領域1、信号領域1、上境界領域1、信号外領域2、下境界領域2、信号領域2、上境界領域2、信号外領域3、下境界領域3、信号領域3、上境界領域3、…、信号領域5、上境界領域5、信号外領域6に分割できる。まず、|R(k)|(または|R(k)|)の信号領域1から5の全ての周波数kの受信スペクトルの周波数方向の平均値T、および信号外領域1から6の全ての周波数方向の平均値Uを算出して、それぞれを信号領域の全ての周波数のスペクトル、信号外領域の全ての周波数のスペクトルとする。次に、算出した平均値TとUを予め決定しておいた関数F(T,U)に代入し、境界領域の各周波数kのスペクトルを算出する。以上の手順により図5の受信スペクトルより求めた参照スペクトル|X(k)|(または|X(k)|)の一例が図6である。図5と図6をまとめたのが図7である。図7では、図7(a)が遅延波も回り込み波も存在しない場合の正常なOFDM信号のスペクトルである。この図7(a)では5つのチャンネルが連続した周波数に存在せず、点在している場合のスペクトルの一例を示している。また、図7(b)は図5と同じスペクトルであり、図7(c)は図6と同じ参照スペクトルであり、図7(d)はスペクトル補正部が図5の受信スペクトルを補正した後の受信スペクトル|S(k)|(または|S(k)|)である。この|S(k)|(または|S(k)|)は、厳密にはスペクトルではなく伝送路の伝達関数(または、電力伝達関数)と呼ばれるが、本明細書では補正した後の(受信)スペクトルと呼ぶこととする。
【0037】
図8、図9は図7と異なるチャンネル配置とした場合の通常のスペクトル(図8(a)、図9(a))、遅延波が存在する場合の受信スペクトル(図8(b)、図9(b))、参照スペクトル(図8(c)、図9(c))、および補正した後の受信スペクトル(図8(d)、図9(d))である。また、図10は1チャンネルのみ受信した場合の通常のスペクトル(図10(a))、遅延波が存在する場合の受信スペクトル(図10(b))、参照スペクトル(図10(c))、および補正した後の受信スペクトル(図10(d))である。
【0038】
次に逆フーリエ変換部では、スペクトル補正部より入力されたスペクトル|S(k)|(または|S(k)|)を逆フーリエ変換し遅延プロファイルつまり複素インパルス応答を計算する。図11(a)は図7(d)のスペクトル(補正後の受信スペクトル)から算出した遅延プロファイルである。比較のため、図7(b)の受信スペクトル(補正前の受信スペクトル)から算出した遅延プロファイルを図11(b)に示す。図11(a)では希望波と遅延波の区別が容易であるのに対し、図11(b)では、希望波と遅延波の区別が困難である。従って、本発明の第一の実施形態では、従来の伝送路特性測定器と比較して伝送路特性が高精度に測定できることがわかる。
【0039】
次に本発明の第二の実施形態にかかる回り込みキャンセラについて図12を参照して説明する。
【0040】
回り込みキャンセラを含む中継装置は、上位側装置から所定の搬送周波数の複数チャンネル分の信号を受信する受信アンテナと、下位側装置に向けて同じ搬送周波数の複数チャンネル分の信号を送信する送信アンテナと複数のチャンネル分の信号を増幅処理する中継処理を行う中継処理部と、を備える。そして回り込みキャンセラは、受信アンテナと送信アンテナとの間(本実施形態では、受信アンテナと中継処理部との間)に設けられる。この回り込みキャンセラは、回り込み波や遅延波を消去する遅延波消去部(加算器とフィルタで構成)と、回り込み波や遅延波の特性を検出し、遅延波消去部の制御パラメータを算出する制御パラメータ算出部とを備える。
【0041】
このうち、制御パラメータ算出部(図13)は、上記第一の実施形態にかかる伝送路特性測定器のスペクトル補正部と逆離散フーリエ変換部との間に逆数算出部を挿入し、逆離散フーリエ変換部の後にタップ係数値算出部を備え、逆離散フーリエ変換の算出結果より取得した複素数値または各回り込み波や遅延波の特性値(振幅比、遅延時間、および位相)に基づいて制御パラメータを算出する。
【0042】
ここで、単一周波数ネットワーク向け中継装置における回り込みキャンセラのスペクトル補正部の動作について図14を使って説明する。中継装置が中継動作を開始し、回り込み波が存在した場合の受信スペクトルが図14(a)であるとする。このとき、スペクトル補正部では図14(a)に基づいて図14(b)を参照スペクトルとして算出する。更に、スペクトル補正部では図14(a)の受信スペクトルから図14(b)の参照スペクトルを割って図14(c)のスペクトルを算出する。
【0043】
次に、逆数算出部の動作について説明する。逆数算出部では、スペクトル補正部から出力されたスペクトル(図14(c))のスペクトルの逆数(図14(d))を算出する。
【0044】
また、図13の制御パラメータ算出部におけるスペクトル補正部と逆数算出部の機能は、図15のスペクトル逆補正部として一つにまとめることが可能である。すなわち、スペクトル補正部における受信スペクトルから参照スペクトルを割るスペクトルの補正、および逆数算出部におけるスペクトル補正部より出力されたスペクトルの逆数の算出は、参照スペクトルから受信スペクトルを割ることで実現できる。従って、図13の制御パラメータ算出部におけるスペクトル補正部と逆数算出部の機能は、図15のスペクトル逆補正部として一つにまとめることで計算量の削減が可能である。
【0045】
図14とは異なるチャンネル配置におけるスペクトル補正部と逆数算出部の動作の例を図16から18に示す。特に図18は1つのチャンネルのみ中継する場合である。図16(a)、図17(a)、および図18(a)は、中継動作を開始し、回り込み波が存在した場合の受信スペクトル、図16(b)、図17(b)、および図18(b)は参照スペクトル、図16(c)、図17(c)、図18(c)は補正した後の受信スペクトル、並びに図16(d)、図17(d)、および図18(d)は補正後のスペクトルを逆数化したスペクトルを示す。
【0046】
次に、逆離散フーリエ変換部について説明する。逆離散フーリエ変換部では、逆数算出部が出力したスペクトルを逆離散フーリエ変換し、遅延プロファイル(複素インパルス応答値)を得る。例えば、図14(d)を逆離散フーリエ変換部に入力した際には、図19(a)の遅延プロファイルが得られる。
【0047】
ここで、逆数算出部が無い場合は逆離散フーリエ変換部に図14(c)が入力され、図19(b)の遅延プロファイルが得られる。この図19(b)では、回り込み波を消去する際にFIRフィルタのタップ係数値として必要な1次成分の他に、不要な2次成分以上のインパルス応答値が算出される。この不要な2次成分以上のインパルス応答値は回り込みキャンセラによって回り込み波を消去する能力を劣化させる要因となる。
【0048】
また、遅延波消去部は、加算器とフィルタ(例えば複素FIRフィルタ)とを含む。加算器は、受信アンテナで受信した受信信号とフィルタより出力される(回り込み波や遅延波と逆位相の)信号を加算することで、受信信号に含まれる回り込み波や遅延波を消去する。また、フィルタは、加算器から出力された信号の特性を制御パラメータに基づいて変化させ、これをフィルタの出力信号とする。このような構成において、制御パラメータ算出部は、直接波(希望波)を含まず、回り込み波や遅延波をフィルタから出力させるように係数(例えば、FIRフィルタのタップ係数)を算出する。尚、係数更新の際には良く知られた更新係数などを導入することもできる。
【0049】
以上のように、本発明によれば複数チャンネル分の回り込み波を正確に測定でき、かつ消去が可能となる。

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】OFDM伝送の一例として地上波デジタル放送の送信、受信を示した図である。直接波(希望波)、反射による遅延波や回り込み波などが存在する。
【図2】複数チャンネルが存在する場合の周波数配置と、複数チャンネルを含むOFDM波の復調タイミングを示す図である。
【図3】信号帯域とチャンネル帯域の関係を示す図である。
【図4】伝送路特性測定器の構成を示す図である。
【図5】希望波の他に遅延波が存在する場合の複数チャンネル受信時の受信スペクトルを示す図である。
【図6】図5から算出した参照スペクトルを示す図である。
【図7】図7は複数のチャンネルがまばらに配置されている場合の受信スペクトルを示す図であり、図7(a)−(d)はそれぞれ、通常時(遅延波や回り込み波が無い時)の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(b)の受信スペクトルから(c)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトルを示す図である。
【図8】図8は複数のチャンネルが連続して配置されている場合の受信スペクトルを示す図であり、図8(a)−(d)はそれぞれ、通常時(遅延波や回り込み波が無い時)の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(b)の受信スペクトルから(c)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトルを示す図である。
【図9】図9は複数チャンネルが存在し測定帯域に比べ信号帯域が狭い場合の受信スペクトルを示す図であり、図9(a)−(d)はそれぞれ、通常時(遅延波や回り込み波が無い時)の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(b)の受信スペクトルから(c)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトルを示す図である。
【図10】図10は1チャンネルのみ存在し測定帯域に比べ信号帯域が狭い場合の受信スペクトルを示す図であり、図10(a)−(d)はそれぞれ、通常時(遅延波や回り込み波が無い時)の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトル、遅延波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(b)の受信スペクトルから(c)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトルを示す図である。
【図11】図11は遅延プロファイル(インパルス応答値)を示す図であり、図11(a)は図7(d)を逆離散フーリエ変換して求めた遅延プロファイルであり、図11(b)は図7(b)を逆離散フーリエ変換して求めた遅延プロファイルを示す図である。
【図12】回り込みキャンセラの構成を示す図である。
【図13】図4の伝送路特性測定器の原理を回り込みキャンセラの制御パラメータ算出部に用いた場合の構成を示す図であり、図12における制御パラメータ算出部である。
【図14】図14は複数のチャンネルがまばらに配置されている場合の受信スペクトルを示す図であり、図14(a)−(d)はそれぞれ、回り込み波が存在する時の受信スペクトル、回り込み波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(a)の受信スペクトルから(b)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトル、(c)の受信スペクトルを逆数化して求めた受信スペクトルを示す図である。
【図15】図13の回り込みキャンセラの制御パラメータ算出部の構成を変形し計算量を減らした構成の一例を示す図である。
【図16】図16は複数のチャンネルが連続して配置されている場合の受信スペクトルを示す図であり、図16(a)−(d)はそれぞれ、回り込み波が存在する時の受信スペクトル、回り込み波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(a)の受信スペクトルから(b)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトル、(c)の受信スペクトルを逆数化して求めた受信スペクトルを示す図である。
【図17】図17は複数チャンネルが存在し測定帯域に比べ信号帯域が狭い場合の受信スペクトルを示す図であり、図17(a)−(d)はそれぞれ、回り込み波が存在する時の受信スペクトル、回り込み波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(a)の受信スペクトルから(b)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトル、(c)の受信スペクトルを逆数化して求めた受信スペクトルを示す図である。
【図18】図18は1チャンネルのみ存在し測定帯域に比べ信号帯域が狭い場合の受信スペクトルを示す図であり、図18(a)−(d)はそれぞれ、回り込み波が存在する時の受信スペクトル、回り込み波が存在する時の受信スペクトルから算出した参照スペクトル、(a)の受信スペクトルから(b)の参照スペクトルを割って補正した後の受信スペクトル、(c)の受信スペクトルを逆数化して求めた受信スペクトルを示す図である。
【図19】図19は遅延プロファイル(インパルス応答値)を示す図であり、図19(a)は図14(d)を逆離散フーリエ変換して求めた遅延プロファイルであり、図19(b)は図14(c)を逆離散フーリエ変換して求めた遅延プロファイルを示す図である。
【符号の説明】
【0051】
101…送信器から中継器への直接波
103…他の送信器からの到来波
105…中継器自身の出力の回り込み波
107…障害物からの反射波
109…中継器から受信アンテナへの送信波
111…中継器
601…信号領域の周波数方向の平均値
603…信号外領域の周波数方向の平均値
1201…受信アンテナ
1203…送信アンテナ
1205…回り込みキャンセラ
1207…中継処理部




【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の周波数チャンネルのサブキャリア信号を多重化して含む信号の伝送路特性を測定する伝送路特性測定器において、
信号帯域外の周波数帯域、および信号帯域外の周波数帯域と信号帯域の境界周波数帯のスペクトルの信号強度レベルを信号帯域のスペクトルの信号強度レベルと同レベルに引き上げることを特徴とする伝送路特性測定器。

【請求項2】
所定の周波数チャンネルのサブキャリア信号を多重化して含む信号の回り込み成分や遅延波成分を消去する回り込みキャンセラにおいて、
信号帯域外の周波数帯域、および信号帯域外の周波数帯域と信号帯域の境界周波数帯のスペクトルの信号強度レベルを信号帯域のスペクトルの信号強度レベルと同レベルに引き上げることを特徴とする回り込みキャンセラ。


























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【公開番号】特開2008−17236(P2008−17236A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−187293(P2006−187293)
【出願日】平成18年7月7日(2006.7.7)
【出願人】(000004330)日本無線株式会社 (1,186)
【Fターム(参考)】