説明

位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置

【課題】延伸ムラの少ない位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム偏光板及び液晶表示装置を提供することを目的とする。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルムを、延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]で延伸したときに、下記式(1)(2)を満たすように延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]を調整して延伸して位相差フィルムを製造したので、延伸ムラを防止することができる。
Z>X ・・・ (1)
(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/k ・・・ (2)
(但し、X:応力ひずみ曲線における降伏応力[MPa],Y:降伏応力までのひずみ量をk[%]としたとき、降伏応力から更にk[%]延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa],Z:α[%]に延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa]、を表す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関し、特に、延伸ムラが生じにくく液晶表示装置に好適な品質を有する位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム、偏光板及び液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂フィルムの製造は大きく分けて、溶液製膜法と溶融製膜法とに分類される。溶液製膜法は熱可塑性樹脂を溶剤に溶解したドープをダイから支持体、例えば冷却ドラム上に流延してフィルム状にする方法である。一方、溶融製膜法は熱可塑性樹脂を押出機で溶融した後、ダイから支持体、例えば冷却ドラム上に押し出してフィルム状にする方法である。これらの方法により製膜された熱可塑性樹脂フィルムを、縦(長手)方向に一軸、もしくは横(幅)方向に一軸、もしくは縦横の二軸に延伸することにより、面内レターデーション(Re)、厚み方向のレターデーション(Rth)が発現する。レターデーションのRe及びRthが発現した熱可塑性樹脂フィルムは液晶表示素子の位相差フィルムとして、視野角拡大を図るため使用される。(例えば特許文献1、及び特許文献2参照)。
【特許文献1】特表平6−501040号公報
【特許文献2】特開2001−42130号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムを縦及び/又は横方向に延伸して位相差フィルムを製造する際、これまでの汎用フィルムのように厚みの均一性だけでなく、Re・Rthといった光学特性を高いレベルで均一であることが求められている。そのため、熱可塑性樹脂フィルムを延伸する際に延伸ムラの起きにくい状態で延伸して位相差フィルムを製造する必要がある。
【0004】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、延伸工程において応力ひずみ曲線の傾き変化が所定範囲となるよう延伸倍率、温度、延伸速度を調整することで、延伸ムラの少ない位相差フィルムの製造方法、位相差フィルム偏光板及び液晶表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明の位相差フィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムを供給する工程と、前記熱可塑性樹脂フィルムを、延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]で延伸したときに、下記式(1)(2)を満たすように延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]を調整して延伸する工程と、を特徴とする。
【0006】
Z>X ・・・ (1)
(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/k ・・・ (2)
(但し、X:応力ひずみ曲線における降伏応力[MPa],Y:降伏応力までのひずみ量をk[%]としたとき、降伏応力から更にk[%]延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa],Z:α[%]に延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa]、を表す)
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムの応力ひずみ曲線における傾きを降伏応力発生の前後で大きく変化しない上記条件で熱可塑性樹脂フィルムを延伸するので、熱可塑性樹脂フィルムの延伸ムラを小さくすることできる。熱可塑性樹脂フィルムの延伸が上記条件を満たさない場合、熱可塑性樹脂フィルム面内において延伸が開始された領域だけが延伸
され、その他領域が延伸されない状況となる。面内での一様な延伸がなされないため、延伸ムラが生じてしまう。
【0007】
本発明において、熱可塑性樹脂フィルムにレターデーションが発現される限り、延伸には縦方向(Machine Direction: MD)への延伸、幅方向(Transverse direction:TD)への延伸、また縦方向又は幅方向だけ延伸する一軸延伸、縦方向及び幅方向の両方向を延伸する二軸延伸が含まれる。延伸方法としてテンターによる延伸や周速度の異なるローラでの延伸等の方法を利用することができる。
【0008】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、前記発明において、面内レターデーションReが20nm〜100nm、厚み方向のレターデーションRthが40nm〜300nm、ReとRthの比率Rth/Reが0.4〜8であることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムの延伸工程で上記式(1)(2)を満たすように延伸するので、面内レターデーションReが20nm〜100nm、厚み方向のレターデーションRthが40nm〜300nm、ReとRthの比率Rth/Reが0.4〜8の特性を有する位相差フィルムを好適に製造することができる。
【0010】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、前記発明において、幅方向のReムラが10nm以下、Rthムラが20nm以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムの延伸工程で上記式(1)(2)を満たすように延伸するので、幅方向のReムラが10nm以下、Rthムラが20nm以下のムラの小さい位相差フィルムを好適に製造することができる。
【0012】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、前記発明において、前記熱可塑性樹脂は、セルロースアシレート樹脂であることを特徴とする。
【0013】
本発明は、レターデーションの発現性の良いセルロースアシレートフィルムの製造において特に有効である。
【0014】
本発明の位相差フィルムの製造方法は、前記発明において、前記熱可塑性樹脂は、飽和ノルボルネン系樹脂であることを特徴とする。
【0015】
本発明は、レターデーションの発現性の良い飽和ノルボルネンフィルムの製造において特に有効である。
【0016】
本発明の位相差フィルムは、前記製造方法で製造されることを特徴とする。
【0017】
本発明の偏光板は、前記位相差フィルムを基材に用いたことを特徴とする。
【0018】
本発明の液晶表示装置は、前記偏光板を用いたことを特徴とする。
【0019】
前記製造方法により製造された位相差フィルム、この位相差フィルムを基材に用いたことを特徴とする偏光板、この偏光板を用いた液晶表示装置である。本発明の位相差フィルムは、延伸ムラが生じにくいので均一なRe,Rthを発現でき、上記用途に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムの延伸工程に関して、熱可塑性樹脂フィルムの
応力ひずみ曲線における降伏応力の前後で応力ひずみ曲線の傾き変化が所定範囲となるよう延伸倍率、温度、延伸速度を調整したので、延伸ムラの少ない位相差フィルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法の実施の形態について説明する。本発明は以下の好ましい実施の形態により説明されるが、本発明の範囲を逸脱すること無く、多くの手法により変更を行うことができ、本実施の形態以外の他の実施の形態を利用することができる。従って、本発明の範囲内における全ての変更が特許請求の範囲に含まれる。また、本明細書において「〜」を用いて表される数値範囲は、「〜」の前後に記載される数値を含む範囲を意味する。
【0022】
以下添付図面に従って本発明に係るセルロースアシレートフィルムの製造方法の好ましい実施の形態について説明する。しかし、本発明はこれに限定するものではなく、飽和ノルボルネン系樹脂フィルムにも適用することができる。
【0023】
図1は、セルロースアシレートフィルムの製造装置の概略構成の一例を示している。図1に示すように製造装置10は主として、延伸前のセルロースアシレートフィルム12を製造する製膜工程部14と、製膜工程部14で製造されたセルロースアシレートフィルム12を縦延伸する縦延伸工程部16と、横延伸する横延伸工程部18と、延伸されたセルロースアシレートフィルム12を巻き取る巻取工程部20とで構成される。
【0024】
製膜工程部14では、押出機22で溶融されたセルロースアシレート樹脂がダイ24からシート状に吐出され、回転する一対のポリシングローラ26、28間に供給される。そして、ポリシングローラ28上で冷却されて固化したセルロースアシレートフィルム12がポリシングローラ28から剥離された後、縦延伸工程部16、横延伸工程部18に順に送られて延伸され、巻取工程部20でロール状に巻き取られる。これにより、延伸セルロースアシレートフィルム12が製造される。なお、延伸工程は縦(長手)方向に一軸、もしくは横(幅)方向に一軸、もしくは縦横の二軸に延伸のいずれであっても良い。以下、各工程部の詳細について説明する。
【0025】
図2に製膜工程部14の単軸スクリューの押出機22を示す。図2に示すように、シリンダー32内にはスクリュー軸34にフライト36が取り付けられた単軸スクリュー38が配設される。図示しないホッパからセルロースアシレート樹脂が供給口40を介してシリンダー32内に供給される。シリンダー32内は供給口40側から順に、供給口40から供給されたセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(Aで示す領域)と、セルロースアシレート樹脂を混練・圧縮する圧縮部(Bで示す領域)と、混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(Cで示す領域)とで構成される。押出機22で溶融されたセルロースアシレート樹脂は、吐出口42からダイ24に連続的に送られる。
【0026】
押出機22のスクリュー圧縮比は、2.5〜4.5に設定され、L/Dは20〜50に設定されている。スクリュー圧縮比とは、供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さ当たりの容積÷計量部Cの単位長さ当たりの容積で表される。供給部Aのスクリュー軸34の外径d1、計量部Cのスクリュー軸34の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2と、を使用して算出される。また、L/Dとは、図2のシリンダー内径(D)に対するシリンダー長さ(L)の比である。押出温度は190〜240℃に設定される。押出機22内での温度が240℃ を超える場合には、押出機22とダイ24との間に冷却機(図示せず)を設けるようにするとよい。
【0027】
上記の如く構成された製膜工程部14によれば、ダイ24から溶融樹脂を吐出することにより、吐出された溶融樹脂が一対のポリシングローラ26、28の隙間の上で液溜まり(バンク)を形成する。そして、溶融樹脂は、一対のポリシングローラ26、28で挟圧されることによって、厚みが均一に調整されながらシート状になり、ポリシングローラ28に巻きかけられて冷却される。その後、ポリシングローラ28の表面から剥離され、後段の縦延伸工程部16、横延伸工程部18に送られる。
【0028】
上述の製膜方法は、熱可塑性樹脂を押出機で溶融した後、ダイから支持体、例えば冷却ドラム上に押し出してフィルム状にする溶融製膜法について説明したが、熱可塑性樹脂を溶剤に溶解したドープをダイから支持体、例えば冷却ドラム上に流延してフィルム状にする溶液製膜法を適用することができる。
【0029】
以下に、製膜工程部14で製膜したセルロースアシレートフィルム12を延伸し、延伸セルロースアシレートフィルム12を製造するまでの延伸工程について説明する。
【0030】
セルロースアシレートフィルム12の延伸は、セルロースアシレートフィルム12中の分子を配向させ、面内のレターデーション(Re)と厚み方向のレターデーション(Rth)を発現させるために行われる。ここで、レターデーションRe、Rthは、以下の式で求められる。
【0031】
Re(nm)=|n(MD)−n(TD)|×T(nm)
Rth(nm)=|{(n(MD)+n(TD))/2}−n(TH)|×T(nm)
式中のn(MD)、n(TD)、n(TH)は縦方向、幅方向、厚み方向の屈折率を示し、Tはnm単位で表した厚みを示す。
【0032】
発明者は、熱可塑性樹脂フィルムの延伸ムラを防止し、上記レターデーションRe、Rthが均一となるよう、熱可塑性樹脂フィルムの延伸過程における応力ひずみ関係に着目した。応力ひずみ関係の測定に、例えばSTROGRAPH VE50((株)東洋精機製)を用いた。測定方法は以下の手順で行われた。(a)未延伸の熱可塑性樹脂フィルムを縦方向に幅20mm、横方向に長さ100mmになるように切り出す。(b)次いで、チャック間50mmで、所定の延伸温度、延伸速度で延伸し、その際の応力ひずみ関係を測定し、応力ひずみ曲線を得た。
【0033】
複数の熱可塑性樹脂フィルムの延伸工程における応力ひずみ関係を測定した結果、下記2式を満たす場合に延伸ムラが少なくなることを見出した。
Z>X ・・・(1)
(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/k・・・(2)
上記2式を満たすように延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]を調整して延伸する。
【0034】
但し、Xは、熱可塑性樹脂フィルムを延伸したときの応力ひずみ曲線上での降伏応力〔MPa〕を表している。kは降伏応力Xが発生するまでの歪量〔%〕を表している。また、Yは降伏応力発生点から更にk[%]の歪量で延伸した際の応力[MPa]を表している。Zは延伸倍率をα[%]に延伸した際の応力[MPa]を表している。温度β[℃]は延伸時のフィルム温度を表している。
【0035】
次に図3を参照に、本発明かかる熱可塑性樹脂フィルムの応力ひずみ曲線について説明する。グラフにおいて、縦軸は応力〔MPa〕を、横軸は歪量〔%〕を示している。応力ひずみ曲線上に上述したX[MPa]、Y[MPa]及びZ[MPa]の各点がプロットされている。図3の応力ひずみ曲線を示す熱可塑性樹脂フィルムにおいて、(1)式を満たさな
いと、つまり降伏応力X[MPa]よりも延伸後の応力Z[MPa]が大きくないと延伸ムラが発生しRe・Rthムラが悪化する。その理由は、降伏現象によりネッキング延伸と呼ばれるフィルムの一部分のみが伸びる延伸ムラが生じるが、そのネッキング延伸は降伏応力を越える応力で延伸することによりはじめて解消されるからである。その観点から、好ましくは、Z>X×2.0、より好ましくはZ>X×2.5、更に好ましくはZ>X×3.0である。
【0036】
また、(2)式を満たさないと延伸ムラが発生しRe・Rthムラが悪化する。(2)式において(X×100/k)は、降伏応力までの応力ひずみ曲線の傾きを示している。一方、((Y−X)×100/k)は降伏応力から一定量延伸したときの応力ひずみ曲線の傾きを示している。(2)式では、降伏応力以降の応力ひずみ曲線の傾きが降伏応力までの応力ひずみ曲線の傾きの20%より大きいことを規定している。その理由は、曲線の傾きが小さいと外乱等による応力の微妙な振れで倍率が変動してしまい、延伸ムラが生じやすくなるからである。また、(2)式を要件とすることで、明確に上降伏点、下降伏点を応力ひずみ曲線上に示すような延伸条件は排除される。ここで降伏点とは応力ひずみ曲線の傾きが変化する点を意味する。
【0037】
かかる観点から、好ましくは、(X×100/k)×0.3 < (Y−X)×100/k、より好ましくは、(X×100/k)×0.4 < (Y−X)×100/k、更に好ましくは、(X×100/k)×0.5 < (Y−X)×100/kとなる。
【0038】
(1)(2)式を満たす延伸条件でRe及びRthを発現させた位相差フィルムについてRe及びRthムラの測定を行なった。Re及びRthムラの測定には、例えばKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)を用いた。測定方法については以下手順で行なった。(a)延伸後フィルムのうちテンター延伸時のクリップ耳部を含めて端部から200mmの位置まで切り落とす。(b)両端から均等に幅方向20点切り出しRe, Rth測定する。(c)その際の、Reの最大値をRemax・最小値をReminとし、Rthの最大値をRthmax・最小値をRthminとする。(d)Reムラ=Remax−Remin、 Rthムラ=Rthmax−Rthminとする。
【0039】
上記方法でRe及びRthムラの測定したところ、Reムラが10nmより大きく、Rthムラが20nmより大きくなる、偏光板にして液晶表示装置に取り付けた際、ディスプレイに光漏れや色むらが生じる。Reムラは10nm以下,Rthムラは20nm以下、好ましくはReムラ8nm以下, Rthムラ15nm以下、より好ましくはReムラ6nm以下, Rthムラ10nm以下、更に好ましくはReムラ4nm以下、Rthムラ6nm以下となる。
【0040】
《セルロースアシレートフィルム》
[透湿度]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、40℃・相対湿度90%における透湿度が100〜400g/(m2・day)であり、60℃・相対湿度95%で1000時間保持した後の透湿度変化が−100g/(m2・day)〜10g/(m2・day)であることが好ましい。「透湿度」とは、塩化カルシウムを入れたカップをフィルムで蓋をし、全体を密閉器内に入れて40℃・相対湿度90%の条件で24時間保持したときの保持前後の質量変化(g/(m2・day))である。透湿度は、温度の上昇に伴い上昇し、また、湿度の上昇に伴い上昇するが、いずれの温度や湿度を採用した場合であっても、フィルム間における透湿度の大小関係は不変である。そのため、本発明においては40℃・相対湿度90%における前記質量変化の値を基準として用いた。
【0041】
本発明のセルロースアシレートフィルムの透湿度は、100〜400g/(m2・da
y)が好ましく、120〜350g/(m2・day)がより好ましく、150〜300g/(m2・day)がさらに好ましい。
【0042】
また、フィルムを60℃・相対湿度95%で1000時間保持したときの保持前後の透湿度を前述の方法に従って測定し、保持後の透湿度から保持前の透湿度を引いた値を「60℃・相対湿度95%で1000時間保持した後の透湿度変化」とした。本発明のセルロースアシレートフィルムの60℃・相対湿度95%で保持した後の透湿度変化は−100g/(m2・day)〜10g/(m2・day)であり、−50〜5g/(m2・day)が好ましく、−20〜0g/(m2・day)がより好ましい。
【0043】
さらに、透湿度は、膜厚の上昇に伴い低下し、膜厚の低下に伴い上昇するため、まず実測した透湿度に実測した膜厚を乗じ、それを80で割った値を本発明では「膜厚80μm換算の透湿度」とした。本発明のセルロースアシレートフィルムの膜厚80μm換算の透湿度は、100〜420g/(m2・day)が好ましく、150〜400g/(m2・day)がより好ましく、180〜350g/(m2・day)がさらに好ましい。
【0044】
このような透湿度に関する条件を満たすセルロースアシレートフィルムを使用すれば、湿度もしくは湿熱に対する耐久性に優れた偏光板や、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0045】
[セルロースアシレート]
本発明のセルロースアシレートフィルムは、主成分としてのポリマーがセルロースアシレートである。ここで、「主成分としてのポリマー」とは、単一のポリマーからなる場合には、そのポリマーのことを示し、複数のポリマーからなる場合には、構成するポリマーのうち、最も質量分率の高いポリマーのことを示す。
【0046】
本発明のセルロースアシレートフィルムを製造する際に用いるセルロースアシレートとしては、粉末や粒子状のものを使用することができ、また、ペレット化したものも用いることができる。また、セルロースアシレートの含水率は、1.0質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以下であることがさらに好ましく、0.5質量%以下であることが最も好ましい。また、含水率は場合により0.2質量%以下であることが好ましい。セルロースアシレートの含水率が好ましい範囲内にない場合には、加熱などにより乾燥してから使用することが好ましい。これらのポリマーは単独で用いてもよいし、2種類以上のポリマーを併用してもよい。
【0047】
前記セルロースアシレートとしては、セルロースアシレート化合物、および、セルロースを原料として生物的或いは化学的に官能基を導入して得られるアシル置換セルロース骨格を有する化合物が挙げられる。
【0048】
前記セルロースアシレートは、セルロースとカルボン酸とのエステルである。前記エステルを構成するカルボン酸としては、炭素原子数が2〜22の脂肪酸がさらに好ましく、炭素原子数が2〜4の低級脂肪酸が最も好ましい。
【0049】
前記セルロースアシレートは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子の全部または一部が、アシル基で置換されている。前記アシル基の例としては、例えば、アセテル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ビバロイル基、へブタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、シクロヘキサンカルポニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルポニル基、および、シンナモイル基が挙げられる。前記アシル基としては
、アセテル基、プロピオニル基、ブチリル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、ビバロイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルポニル基、シンナモイル基が好ましく、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基が最も好ましい。
【0050】
セルロースアシレートは、複数のアシル基で置換されていてもよく、具体的には、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートプチレート、セルロースアセテートプチレートプロピオネート、セルロースプチレートプロピオネート等が挙げられる。
【0051】
本発明のセルロースアシレートフィルムを構成するセルロースアシレートとしては、酢酸とのエステルを有するセルロースアセテートが特に好ましく、溶媒への溶解性の観点から、アセチル置換度が2.70〜2.87のセルロースアセテートがより好ましく、2.80〜2.86のセルロースアセテートが最も好ましい。ここでいう置換度とは、セルロースを構成するグルコース単位の2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子が置換されている程度を表すもので、2位、3位および6位に存在するヒドロキシル基の水素原子が置換されている場合の置換度は3である。
【0052】
セルロースアシレートの合成方法について、基本的な原理は、右田仲彦他、木材化学180〜190頁(共立出版、1968年)に記載されている。セルロースアシレートの代表的な合成方法としては、カルボン酸無水物−カルボン酸−硫酸触媒による液相アシル化法が挙げられる。具体的には、まず、綿花リンタや木材パルプ等のセルロース原料を適当量の酢酸などのカルボン酸で前処理した後、予め冷却したアシル化混液に投入してエステル化し、完全セルロースアシレート(2位、3位および6位のアシル置換度の合計が、はば3.00)を合成する。前記アシル化混液は、一般に溶媒としてのカルボン酸、エステル化剤としてのカルボン酸無水物および触媒としての硫酸を含む。また、前記カルボン酸無水物は、これと反応するセルロースおよび系内に存在する水分の合計よりも、化学量論的に過剰量で使用することが普通である。
【0053】
次いで、アシル化反応終了後に、系内に残存している過剰カルボン酸無水物の加水分解を行うために、水または含水酢酸を添加する。さらに、エステル化触媒を一部中和するために、中和剤(例えば、カルシウム、マグネシウム、鉄、アルミニウムまたは亜鉛の炭酸塩、酢酸塩、水酸化物または酸化物)を含む水溶液を添加してもよい。さらに、得られた完全セルロースアシレートを少量のアシル化反応触媒(一般には、残存する硫酸)の存在下で、20〜90℃に保つことにより鹸化熱成し、所望のアシル置換度および重合度を有するセルロースアシレートまで変化させる。所望のセルロースアシレートが得られた時点で、系内に残存している触媒を前記中和剤などを用いて完全に中和するか、或いは、前記触媒を中和することなく水若しくは希酢酸中にセルロースアシレート溶液を投入(或いは、セルロースアシレート溶液中に、水または希酢酸を投入)してセルロースアシレートを分離し、洗浄および安定化処理により目的物であるセルロースアシレートを得ることができる。
【0054】
前記セルロースアシレートの重合度は、粘度平均重合度で150〜500が好ましく、200〜400がより好ましく、220〜350がさらに好ましい。前記粘度平均重合度は、宇田らの極限粘度法(宇田和夫、斉藤秀夫、繊維学会誌、第18巻第1号、105〜120頁、1962年)の記載に従って測定することができる。前記粘度平均重合度の測定方法については、特開平9−95538号公報にも記載がある。
【0055】
また、低分子成分が少ないセルロースアシレートは、平均分子量(重合度)が高いが、粘度は通常のセルロースアシレートよりも低い値になる。このような低分子成分の少ないセルロースアシレートは、通常の方法で合成したセルロースアシレートから低分子成分を除去することにより得ることができる。低分子成分の除去は、セルロースアシレートを適
当な有機溶媒で洗浄することにより行うことができる。また、低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成により得ることもできる。低分子成分の少ないセルロースアシレートを合成する場合、アシル化反応における硫酸触媒量を、セルロース100質量に対して0.5〜25質量部に調整することが好ましい。前記硫酸触媒の量を前記範囲にすると、分子量分布の点でも好ましい(分子量分布の均一な)セルロースアシレートを合成することができる。セルロースエステルの原料綿や合成方法については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745号、2001年3月15日発行、発明協会)7〜12頁にも記載がある。
【0056】
《セルロースアシレートフィルムの作製》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、セルロースアシレートや各種添加剤を含有する溶液から溶液流延製膜方法によって作製することができる。溶液流延製膜方法については、以下に詳細に説明する。
【0057】
また、本発明のセルロースアシレートの融点、もしくはセルロースアシレートと各種添加剤との混合物の融点が、これらの分解温度よりも低くかつ延伸温度よりも高い場合には、溶融製膜法によって製膜することで作製することもできる。溶融製膜法については、特開2000−352620号公報などに記載がある。
【0058】
[セルロースアシレート溶液]
(溶媒)
本発明のセルロースアシレートフィルムを溶液流延製膜方法で作製する場合、セルロースアシレート溶液を調製する。このとき用いられるセルロースアシレート溶液用の主溶媒としては、該セルロースアシレートの良溶媒である有機溶媒を好ましく用いることができる。このような有機溶媒としては、沸点が80℃以下の有機溶媒が乾燥負荷低減の観点からより好ましい。前記有機溶媒の沸点は、10〜80℃であることがさらに好ましく、20〜60℃であることが特に好ましい。また、場合により沸点が30〜45℃である有機溶媒も前記主溶媒として好適に用いることができる。
【0059】
このような主溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記主溶媒は、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−O−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれかを二つ以上有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。なお、本発明のセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレートの主溶媒とは、単一の溶媒からなる場合には、その溶媒のことを示し、複数の溶媒からなる場合には、構成する溶媒のうち、最も質量分率の高い溶媒のことを示す。
【0060】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートなどが挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチル−tert−プチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどが挙げられる。前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどが挙げられる。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエンなどが挙げられる。
【0061】
これら主溶媒と併用される有機溶媒としては、ハロゲン化炭化水素、エステル、ケトン、エーテル、アルコールおよび炭化水素などが挙げられ、これらは分岐構造若しくは環状構造を有していてもよい。また、前記有機溶媒としては、エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの官能基(即ち、−〇−、−CO−、−COO−、−OH)のいずれか二つ以上を有していてもよい。さらに、前記エステル、ケトン、エーテルおよびアルコールの炭化水素部分における水素原子は、ハロゲン原子(特に、フッ素原子)で置換されていてもよい。
【0062】
前記ハロゲン化炭化水素としては、塩素化炭化水素がより好ましく、例えば、ジクロロメタンおよびクロロホルムなどが挙げられ、ジクロロメタンがさらに好ましい。前記エステルとしては、例えば、メチルホルメート、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテート、ペンチルアセテートなどが挙げられる。前記ケトンとしては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソプチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノンなどが挙げられる。前記エーテルとしては、例えば、ジエチルエーテル、メチルーtert−プチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、4−メチルジオキソラン、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどが挙げられる。
【0063】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、tert−ブタノール、1−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロヘキサノール、2−フルオロエタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、2,2,3,3−テトラフルオロー1−プロパノールなどが挙げられる。前記炭化水素としては、例えば、n−ペンタン、シクロヘキサン、n−ヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどが挙げられる。前記2種類以上の官能基を有する有機溶媒としては、例えば、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノール、2−ブトキシエタノール、メチルアセトアセテートなどが挙げられる。
【0064】
本発明のセルロースアシレートフィルムでは、全溶媒中に好ましくは5〜30質量%、より好ましくは7〜25質量%、さらに好ましくは10〜20質量%のアルコールを含有することがバンドからの剥離荷重低減の観点から望ましい。
【0065】
本発明のセルロースアシレートフィルムの作製に用いられるセルロースアシレート溶液の溶媒として好ましく用いられる有機溶媒の組み合せの例を以下に挙げるが、本発明で採用することができる組み合わせはこれらに限定されるものではない。なお、比率の数値は、質量部を意味する。
(1)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/10/5/5
(2)ジクロロメタン/メタノール/エタノール/ブタノール=80/5/5/10
(3)ジクロロメタン/イソプチルアルコール=90/10
(4)ジクロロメタン/アセトン/メタノール/プロパノール=80/5/5/10
(5)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール/シクロヘキサン=80/8/10/2(6)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/10/5/5
(7)ジクロロメタン/ブタノール=90/10
(8)ジクロロメタン/アセトン/メチルエチルケトン/エタノール/ブタノール=68/10/10/7/5
(9)ジクロロメタン/シクロペンタノン/メタノール/ペンタノール=80/2/15/3
(10)ジクロロメタン/メチルアセテート/エタノール/ブタノール=70/12/15/3
(11)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/メタノール/ブタノール=80/5/5/10
(12)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/メタノール/ペンタノール=50/20/15/5/10
(13)ジクロロメタン/1,3−ジオキソラン/メタノール/ブタノール=70/15/5/10
(14)ジクロロメタン/ジオキサン/アセトン/メタノール/ブタノール=75/5/10/5/5
(15)ジクロロメタン/アセトン/シクロペンタノン/エタノール/イソプチルアルコール/シクロヘキサン=60/18/3/10/7/2
(16)ジクロロメタン/メチルエチルケトン/アセトン/イソプチルアルコール=70/10/10/10
(17)ジクロロメタン/アセトン/エチルアセテート/ブタノール/ヘキサン=69/10/10/10/1
(18)ジクロロメタン/メチルアセテート/メタノール/イソプチルアルコール=65/15/10/10
(19)ジクロロメタン/シクロペンタノン/エタノール/ブタノール=85/7/3/5
(20)ジクロロメタン/メタノール/ブタノール=83/15/2
(21)ジクロロメタン=100
(22)アセトン/エタノール/ブタノール=80/15/5
(23)メチルアセテート/アセトン/メタノール/ブタノール=75/10/10/5(24)1,3−ジオキソラン=100
また、非ハロゲン系有機溶媒を主溶媒とした場合の詳細については発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、本発明において適用することができる。
【0066】
(溶液濃度)
調製する前記セルロースアシレート溶液中のセルロースアシレート濃度は、5〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましく、15〜30質量%が最も好ましい。前記セルロースアシレート濃度は、セルロースアシレートを溶媒に溶解する段階で所定の濃度になるように調整することができる。また予め低濃度(例えば4〜14質量%)の溶液を調製した後に、溶媒を蒸発させる等によって濃縮してもよい。さらに、予め高濃度の溶液を調製後に、希釈してもよい。また、添加剤を添加することで、セルロースアシレートの濃度を低下させることもできる。
【0067】
(添加剤)
本発明のセルロースアシレートフィルムの作製に用いられる前記セルロースアシレート溶液は、各調製工程において用途に応じた各種の液体または固体の添加剤を含むことができる。前記添加剤の例としては、可塑剤(好ましい添加量はセルロースアシレートに対して0.01〜10質量%、以下同様)、紫外線吸収剤(0.001〜1質量%)、平均粒子サイズが5〜3000nmである微粒子粉体(0.001〜1質量%)、フッ素系界面活性剤(0.001〜1質量%)、剥離剤(0.0001〜1質量%)、劣化防止剤(0.0001〜1質量%)、光学見方性制御剤(0.01〜10質量%)、赤外線吸収剤(0.001〜1質量%)が含まれる。
【0068】
前記可塑剤や前記光学異方性制御剤は、分子量3000以下の有機化合物であり、好ましくは疎水部と親水部とを併せ持つ化合物である。これらの化合物は、セルロースアシレート鎖間で配向することにより、レターデーション値を変化させる。さらに、これらの化合物は、フィルムの疎水性を向上させ、レターデーションの湿度変化を低減させることが
できる。また、前記紫外線吸収剤や前記赤外線吸収剤を併用することで、効果的にレターデーションの波長依存性を制御することもできる。本発明のセルロースアシレートフィルムに用いられる添加剤は、いずれも乾燥過程での揮散が実質的にないものが好ましい。
【0069】
レターデーションの湿度変化低減を図る観点からは、これらの添加剤の添加量は多いほうが好ましいが、添加量の増大に伴い、セルロースアシレートフィルムのガラス転移温度(Tg)低下や、フィルムの製造工程における添加剤の揮散問題を引き起こしやすくなる。従って、本発明においてより好ましく用いられるセルロースアセテートを用いる場合、前記分子量3000以下の添加剤の添加量は、前記セルロースアシレートに対し0.01〜30質量%が好ましく、2〜30質量%がより好ましく、5〜20質量%がさらに好ましい。
【0070】
本発明のセルロースアシレートフィルムに好適に用いることのできる可塑剤については、特開2001−151901号公報に記載がある。また、赤外吸収剤については、特開平2001−194522号公報に記載がある。添加剤を添加する時期は、添加剤の種類に応じて適宜決定することができる。また、前記添加剤については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)16頁〜22頁にも記載がある。
【0071】
(セルロースアシレート溶液の調製)
前記セルロースアシレート溶液の調製は、例えば、特開2005−104148号公報の106〜120頁に記載されている調製方法に準じて行うことができる。具体的には、セルロースアシレートと溶媒とを混合撹拝し膨潤させ、場合により冷却や加熱等を実施して溶解させた後、これをろ過してセルロースアシレート溶液を得ることができる。
【0072】
<飽和ノルボルネン 樹脂フィルムの製造>
以下に、本発明の飽和ノルボルネン 樹脂フィルムを製造する工程を手順にそって詳細に説明する。
【0073】
《飽和ノルボルネン 樹脂》
本発明の飽和ノルボルネン 樹脂フィルムの原料となる飽和ノルボルネン 樹脂として、以下に記載する飽和ノルボルネン 樹脂−Aと飽和ノルボルネン 樹脂−Bを好ましい例として挙げることができる。これらの飽和ノルボルネン 樹脂は、いずれも後述の溶液製膜法、溶融製膜法により製膜することができるが、飽和ノルボルネン 樹脂−Aは溶融製膜法により製膜することがより好ましく、飽和ノルボルネン 樹脂−Bは溶液製膜法により製膜することがより好ましい。これらの飽和ノルボルネン を原料とするフィルムは、延伸により適度なRe、Rthを発現する性質を有しているうえ、高温高湿環境下に長時間置いてもRe、Rthが変動しにくく、微細Reむらが発現しにくいという優れた性質も有している。
【0074】
(飽和ノルボルネン 樹脂−A)
飽和ノルボルネン 樹脂−Aとして、(1)ノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体に対して、必要に応じてマレイン酸付加、シクロペンタジエン付加のようなポリマー変性を行ない、その後さらに水素添加して得られた樹脂、(2)ノルボルネン系モノマーを付加型重合させて得られた樹脂、(3)ノルボルネン系モノマーとエチレンやα−オレフィンなどのオレフィン系モノマーとを付加型共重合させて得られた樹脂などが挙げることができる。重合方法および水素添加方法は、常法により行なうことができる。
【0075】
ノルボルネン系モノマーとしては、例えば、ノルボルネン、およびそのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体(例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5−ジメチル−
2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン等)、これらのハロゲン等の極性基置換体;ジシクロペンタジエン、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、そのアルキルおよび/またはアルキリデン置換体、およびハロゲン等の極性基置換体(例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等);シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物;シクロペンタジエンの3〜4量体(例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン)等が挙げられる。これらのノルボルネン系モノマーは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
(飽和ノルボルネン 樹脂−B)
飽和ノルボルネン 樹脂−Bとして、下記一般式(1)〜(4)で表わされるものを挙げることができる。これらのうち、下記一般式(1)で表されるものが特に好ましい。
【0076】
【化1】

【0077】
一般式(1)〜(4)中、R1〜R12は、各々独立に水素原子または1価の置換基(好ましくは有機基)を示し、これらのうち少なくとも1つは極性基であることが好ましい。これらの飽和ノルボルネン 樹脂の質量平均分子量は、通常5,000〜1,000,000が好ましく、より好ましくは8,000〜200,000である。
【0078】
上記の置換基としては、ハロゲン原子(例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子)、アルキル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキル基で、例えばメチル基、エチル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ヘキサデシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。)、アルケニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルケニル基で、例えばビニル基、アリル基、2−ブテニル基、3−ペンテニル基などが挙げられる。)、アルキニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキニル基で、例えばプロパルギル基、3−ペンチニル基などが挙げられる。)、アリール基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリール基で、例えばフェニル基、p−メチルフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基、ピレニル基などが挙げられる。)、アミノ基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のアミノ基で、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジルオキシ基、ピリミジニルオキシ基、ピリダジニルオキシ基、ベンズイミダゾリルオキシ基などが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数7〜20、好ましくは7〜15のアリールオキシカルボニルアミノ基で、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、アルキルチオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルチオ基で、例えばメチルチオ基、エチルチオ基などが挙げられる。)、アリールチオ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールチオ基で、例えばフェニルチオ基などが挙げられる。)、ヘテロ環チオ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環チオ基で、例えばピリジニルチオ基、ピリミジニルチオ基、ピリダジニルチオ基、ベンズイミダゾリルチオ基、チアジ
アゾリルチオ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニル基で、例えばメシル基、トシル基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルフィニル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニル基で、例えばメタンスルフィニル基、ベンゼンスルフィニル基などが挙げられる。)、ヒドロキシ基、メルカプト基、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環基で、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的には例えばイミダゾリル基、ピリジル基、キノリル基、フリル基、チエニル基、ピペリジル基、モルホリノ基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、カルバゾリル基、アゼピニル基などが挙げられる。)、シリル基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリル基で、例えばトリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などが挙げられる。)などが挙げられる。これらの置換基の水素原子は更に置換されてもよい。また、1分子中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。置換基としてはハロゲン原子、アルキル基、シリル基、アリール基、アルコキシ基及びアリールオキシ基が好ましく、メチル基、トリメチルシリル基、フェニル基およびメトキシ基が特に好ましい。
【0079】
上記の極性基とは、酸素、硫黄、窒素、ハロゲンなど電気陰性度の高い原子によって分極が生じている有機基のことをいう。具体的には、アミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアミノ基で、例えばアミノ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジベンジルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルコキシ基で、例えばメトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基などが挙げられる。)、アリールオキシ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシ基で、例えばフェニルオキシ基、2−ナフチルオキシ基などが挙げられる。)、ヘテロ環オキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のヘテロ環オキシ基で、例えばピリジニルオキシ基、ピリミジニルオキシ基、ピリダジニルオキシ基、ベンズイミダゾリルオキシ基などが挙げられる。)、シリルオキシ基(炭素数3〜20、好ましくは3〜10のシリルオキシ基で、例えばトリメチルシリルオキシ基、t−ブチルジメチルシリルオキシ基などが挙げられる。)、アシル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシル基で、例えばアセチル基、ベンゾイル基、ホルミル基、ピバロイル基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニル基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニル基で、例えばメトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニル基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15のアリールオキシカルボニル基で、例えばフェニルオキシカルボニル基などが挙げられる。)、アシルオキシ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルオキシ基で、例えばアセトキシ基、ベンゾイルオキシ基などが挙げられる。)、アシルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアシルアミノ基で、例えばアセチルアミノ基、ベンゾイルアミノ基などが挙げられる。)、アルコキシカルボニルアミノ基(炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルコキシカルボニルアミノ基で、例えばメトキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アリールオキシカルボニルアミノ基(炭素数6〜20、好ましくは6〜15アリールオキシカルボニルアミノ基で、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ基などが挙げられる。)、アルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のアルキルもしくはアリールスルホニルアミノ基で、例えばメタンスルホニルアミノ基、ベンゼンスルホニルアミノ基などが挙げられる。)、スルファモイル基(炭素数0〜20、好ましくは0〜10のスルファモイル基で、例えばスルファモイル基、N−メチルスルファモイル基、N,N−ジメチルスルファモイル基、N−フェニルスルファモイル基などが挙げられる。)、カルバモイル基(炭素数1〜20、好ましくは1〜10のカルバモイル基で、例えばカルバモイル基、N−メチルカルバモイル基、N,N−ジエチルカルバモイル基、N−フェニルカルバモイル基などが挙げられる。)、ウレイド基(炭素数
1〜20、好ましくは1〜10のウレイド基で、例えばウレイド基、メチルウレイド基、フェニルウレイド基などが挙げられる。)、ヒドロキシ基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基などが挙げられる。これらの置換基は、ノルボルネン環に直接連結していてもよく、アルキレン基などで連結されていてもよく、更に置換されてもよい。また、1分子中に置換基が二つ以上ある場合は、それらの置換基は同じであっても異なっていてもよい。また、可能な場合には互いに連結して環を形成してもよい。極性基として好ましいものは、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、シリルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、およびアリールオキシカルボニルアミノ基であり、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基およびアルコキシカルボニルアミノ基がさらに好ましく、アルコキシカルボニル基が特に好ましい。
【0080】
本発明で用いることができる飽和ノルボルネン 樹脂としては、例えば、特開昭60−168708号公報、特開昭62−252406号公報、特開昭62−252407号公報、特開平2−133413号公報、特開昭63−145324号公報、特開昭63−264626号公報、特開平1−240517号公報、特公昭57−8815号公報などに記載されている樹脂などを挙げることができる。
【0081】
これらの樹脂の中でも、ノルボルネン系モノマーの開環重合体を水素添加して得られる水添重合体が特に好ましい。
【0082】
これらの飽和ノルボルネン 樹脂のガラス転移温度(Tg)は120℃以上であることが好ましく、さらに好ましくは140℃以上であり、飽和吸水率は1質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは0.8質量%以下である。上記一般式(1)〜(4)で表わされる飽和ノルボルネン 樹脂のガラス転移温度(Tg)および飽和吸水率は、R1〜R12の種類を選択することにより制御することができる。
【0083】
本発明では、飽和ノルボルネン 樹脂として、下記一般式(5)で表わされる少なくとも1種のテトラシクロドデセン誘導体を単独で、あるいは、当該テトラシクロドデセン誘導体と、これと共重合体可能な不飽和環状化合物とをメタセシス重合して得られる重合体を水素添加して得られる水添重合体を用いることもできる。
【0084】
【化2】

【0085】
一般式(5)中、R13〜R16は、各々独立に水素原子または1価の置換基(好ましくは有機基)を示し、これらのうち少なくとも1つは極性基であることが好ましい。ここでいう置換基と極性基の具体例と好ましい範囲については、一般式(1)〜(4)について説明したのと同一である。
【0086】
上記一般式(5)で表わされるテトラシクロドデセン誘導体において、R13〜R16のう
ち少なくとも1つが極性基であることにより、他の材料との密着性、耐熱性などに優れた偏光フィルムを得ることができる。さらに、この極性基が−(CH2 )nCOOR(ここで、Rは炭素数1〜20の炭化水素基、nは0〜10の整数を示す。)で表わされる基であることが、最終的に得られる水添重合体(偏光フィルムの基材)が高いガラス転移温度を有するものとなるので好ましい。特に、この−(CH2)nCOORで表わされる極性置換基は、一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体の1分子あたりに1個含有されることが吸水率を低下させる点から好ましい。上記極性置換基において、Rで示される炭化水素基の炭素数が多くなるほど得られる水添重合体の吸湿性が小さくなる点では好ましいが、得られる水添重合体のガラス転移温度とのバランスの点から、当該炭化水素基は、炭素数1〜4の鎖状アルキル基または炭素数5以上の(多)環状アルキル基であることが好ましく、特にメチル基、エチル基、シクロヘキシル基であることが好ましい。
【0087】
さらに、−(CH2)nCOORで表わされる基が結合した炭素原子に、炭素数1〜10の炭化水素基が置換基として結合されている一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体は、得られる水添重合体の吸湿性が低いものとなるので好ましい。特に、この置換基がメチル基またはエチル基である一般式(5)のテトラシクロドデセン誘導体は、その合成が容易な点で好ましい。具体的には、8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ〔4,4,0,12.5,17.10〕ドデカ−3−エンが好ましい。これらのテトラシクロドデセン誘導体、およびこれと共重合可能な不飽和環状化合物の混合物は、例えば特開平4−77520号公報第4頁右上欄12行〜第6頁右下欄第6行に記載された方法によってメタセシス重合、水素添加することができる。
【0088】
これらのノルボルネン樹脂は、クロロホルム中、30℃で測定される固有粘度(ηinh)が、0.1〜1.5dl/gであることが好ましく、さらに好ましくは0.4〜1.2dl/gである。また、水添重合体の水素添加率は、60MHz、1H−NMRで測定した値が50%以上であることが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上である。水素添加率が高いほど、得られる飽和ノルボルネン 樹脂フィルムは、熱や光に対する安定性が優れたものとなる。該水添重合体中に含まれるゲル含有量は5質量%以下であることが好ましく、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0089】
(その他の開環重合可能なシクロオレフィン類)
本発明においては、本発明の目的を損なわない範囲内において、開環重合可能な他のシクロオレフィン類を併用することができる。このようなシクロオレフィンの具体例としては、例えば、シクロペンテン、シクロオクテン、5,6−ジヒドロジシクロペンタジエンなどのごとき反応性の二重結合を1個有する化合物が例示される。これらの開環重合可能なシクロオレフィン類の含有量は、上記ノルボルネン系モノマーに対して0モル%〜50モル%であることが好ましく、0.1モル%〜30モル%であることがより好ましく、0.3モル%〜10モル%であることが特に好ましい。
【0090】
≪添加剤≫
(1)微粒子
飽和ノルボルネン 樹脂フィルム中には微粒子を含有させることが好ましい。特に、マット剤として微粒子を加えることが好ましい。本発明に使用される微粒子としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成珪酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムおよびリン酸カルシウムを挙げることができる。また架橋高分子からなる微粒子なども用いることができる。
【0091】
これらの微粒子は、通常平均粒子サイズが0.1〜3.0μmの2次粒子を形成し、これらの微粒子はフィルム中では、1次粒子の凝集体として存在し、フィルム表面に0.1
〜3.0μmの凹凸を形成させる。2次平均粒子サイズは0.2μm〜1.5μmが好ましく、0.4μm〜1.2μmがさらに好ましく、0.6μm〜1.1μmが最も好ましい。1次、2次粒子サイズは、フィルム中の粒子を走査型電子顕微鏡で観察し、粒子に外接する円の直径をもって粒子サイズとする。また、場所を変えて粒子200個を観察し、その平均値をもって平均粒子サイズとする。
【0092】
好ましい微粒子の量は飽和ノルボルネン 樹脂に対し重量比で1ppm〜10000ppmが好ましく、より好ましくは5ppm〜7000ppm、さらに好ましくは10ppm〜5000ppmである。
【0093】
微粒子はケイ素を含むものが濁度を低くできるため好ましく、特に二酸化珪素を用いることが好ましい。二酸化珪素の微粒子は、1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上であるものが好ましい。1次粒子の平均径が5〜16nmと小さいものがフィルムのヘイズを下げることができるため、より好ましい。見かけ比重は90〜200g/リットル以上が好ましく、100〜200g/リットル以上がさらに好ましい。見かけ比重が大きい程、高濃度の分散液を作ることが可能になり、ヘイズ、凝集物が良化するため好ましい。
【0094】
二酸化珪素の微粒子は、例えば、アエロジルR972、R972V、R974、R812、200、200V、300、R202、OX50、TT600(以上日本アエロジル(株)製)などの市販品を使用することができる。酸化ジルコニウムの微粒子は、例えば、アエロジルR976およびR811(以上日本アエロジル(株)製)の商品名で市販されており、使用することができる。
【0095】
これらの中では、アエロジル200V、アエロジルR972Vが1次平均粒子サイズが20nm以下であり、かつ見かけ比重が70g/リットル以上である二酸化珪素の微粒子であり、光学フィルムの濁度を低く保ちながら、摩擦係数を下げる効果が大きいため特に好ましい。
【0096】
(2)酸化防止剤
本発明の飽和ノルボルネン 樹脂には、公知の酸化防止剤、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2′−ジオキシ−3,3′−ジ−t−ブチル−5,5′−ジメチルフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ステアリル−β−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−ジオキシ−3,3′−ジ−t−ブチル−5,5′−ジエチルフェニルメタン、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−〔β−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル]、2,4,8,10−テトラオキスピロ[5,5]ウンデカン、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト;紫外線吸収剤、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどを添加することによって安定化することができる。また、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
これらの酸化防止剤の添加量は、飽和ノルボルネン 樹脂100質量部に対して、通常0.1〜3質量部、好ましくは0.2〜2質量部である。
【0097】
(3)その他の添加剤
さらに飽和ノルボルネン 樹脂には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤、耐電防止剤、紫外線吸収剤、上述の易滑剤などの各種添加剤を添加してもよい。特に、液晶は、通常、紫外線により劣化するので、ほかに紫外線防護フィルターを積層するなどの防護手段をとらない場合は、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾル系紫外線吸収剤、アクリルニトリル系紫外線吸収剤などを用いることができ、それらの中でもベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、添加量は、飽和ノルボルネン 樹脂に対して、通常10〜100,000質量ppm、好ましくは100〜10,000質量ppmである。また、溶液流延法によりシートを作製する場合は、表面粗さを小さくするため、レベリング剤を添加することが好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤など塗料用レベリング剤を用いることができ、それらの中でも溶媒との相溶性の良いものが好ましい。添加量は、飽和ノルボルネン 樹脂に対して、通常5〜50,000質量ppm、好ましくは10〜20,000質量ppmである。
【0098】
上記セルロースアシレートまたはと添加物は溶融製膜に先立ち混合しペレット化するのが好ましい。
【0099】
ペレット化を行うにあたりセルロースアシレートおよび添加物は事前に乾燥を行うことが好ましいが、ベント式押出機を用いることで、これを代用することも出来る。乾燥を行う場合は、乾燥方法として、加熱炉内にて90°Cで8時間以上加熱する方法等を用いることが出来るが、この限りではない。ペレット化は上記セルロースアシレートと添加物を2軸混練押出機を用い150°C以上250°C以下で溶融後、ヌードル状に押出したものを水中で固化し裁断することで作成することができる。また、押出機による溶融後水中に口金より直接押出ながらカットする、アンダーウオーターカット法等によりペレット化を行ってもかまわない。
【0100】
押出機は十分な、溶融混練が得られる限り、任意の公知の単軸スクリュー押出機、非かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型異方向回転二軸スクリュー押出機、かみ合い型同方向回転二軸スクリュー押出機などを用いることができる。
【0101】
好ましいペレットの大きさは断面積が1mm2 以上300mm2 以下、長さが1mm以上30mm以下がこのましく、より好ましくは断面積が2mm2 以上100mm2 以下、長さが1.5mm以上10mm以下である。
【0102】
またペレット化を行う時に、上記添加物は押出機の途中にある原料投入口やベント口から投入する異も出来る。
【0103】
押出機の回転数は10rpm以上1000rpm以下が好ましく、より好ましくは、20rpm以上700rpm以下、さらにより好ましくは30rpm以上500rpm以下である。これより、回転速度が遅くなると滞留時間が長くなり、熱劣化により分子量が低下したり、黄色味が悪化しやすくなる為、好ましくない。また回転速度が速すぎると剪断により分子の切断がおきやすくなり、分子量低下を招いたり、架橋ゲルの発生は増加するなどの問題が生じやすくなる。
【0104】
ペレット化における押出滞留時間は10秒以上、30分以内、より好ましくは、15秒以上10分以内、さらに好ましくは30秒以上3分以内である。十分に溶融が出来れば、滞留時間は短い方が、樹脂劣化、黄色み発生を抑えることが出来る点で好ましい。
【0105】
(溶融製膜)
(i)乾燥
上述の方法でペレット化したものを用いるのが好ましく、溶融製膜に先立ちペレット中の水分を減少させることが好ましい。
【0106】
本発明においてセルロースアシレートの含水率を好ましい量に調整するためには、セルロースアシレートを乾燥することが好ましい。乾燥の方法については、除湿風乾燥機を用いて乾燥する事が多いが、目的とする含水率が得られるのであれば特に限定されない(加熱、送風、減圧、攪拌などの手段を単独または組み合わせで用いることで効率的に行うことが好ましい、更に好ましくは、乾燥ホッパ−を断熱構造にする事が好ましい)。乾燥温度として好ましくは0〜200°Cであり、さらに好ましくは40〜180°Cであり、特に好ましくは60〜150°Cである。乾燥温度が低過ぎると乾燥に時間がかかるだけでなく、含有水分率が目標値以下にならず好ましくない。一方、乾燥温度が高過ぎると樹脂が粘着してブロッキングして好ましくない。乾燥風量として好ましくは20〜400m3 /時間で有り、更に好ましくは50〜300m3 /時間、特に好ましくは100〜250m3 /時間である。乾燥風量が少ないと乾燥効率が悪く好ましくない。一方、風量を多くしても一定量以上あれば乾燥効果の更なる向上は小さく経済的でない。エアーの露点として、好ましくは0〜−60°Cで有り、更に好ましくは−10〜−50°C、特に好ましくは−20〜−40°Cである。乾燥時間は少なくとも15分以上必要で有り、さらに好ましくは、1時間以上、特に好ましくは2時間以上である。一方、50時間を超えて乾燥させても更なる水分率の低減効果は少なく、樹脂の熱劣化の懸念が発生するため乾燥時間を不必要に長くすることは好ましくない。本発明のセルロースアシレートは、その含水率が1.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0.01質量%以下であることが特に好ましい。
【0107】
(ii)溶融押出し
上述したセルロースアシレート樹脂は押出機(上記ペレット化の押出機とは別)の供給口を介してシリンダー内に供給される。シリンダー内は供給口側から順に、供給口から供給したセルロースアシレート樹脂を定量輸送する供給部(領域A)とセルロースアシレート樹脂を溶融混練・圧縮する圧縮部(領域B)と溶融混練・圧縮されたセルロースアシレート樹脂を計量する計量部(領域C)とで構成される。樹脂は上述の方法により水分量を低減させるために、乾燥することが好ましいが、残存する酸素による溶融樹脂の酸化を防止するために、押出機内を不活性(窒素等)気流中、あるいはベント付き押出し機を用い真空排気しながら実施するのがより好ましい。押出機のスクリュー圧縮比は2〜5に設定され、L/Dは20〜50に設定されている。ここでスクリュー圧縮比とは供給部Aと計量部Cとの容積比、即ち供給部Aの単位長さあたりの容積÷計量部Cの単位長さあたりの容積で表され、供給部Aのスクリュー軸の外径d1、計量部Cのスクリュー軸の外径d2、供給部Aの溝部径a1、及び計量部Cの溝部径a2とを使用して算出される。また、L/Dとはシリンダー内径に対するシリンダー長さの比である。
【0108】
スクリュー圧縮比が2を下回って小さ過ぎると、十分に溶融混練されず、未溶解部分が発生したり、せん断発熱が小さ過ぎて結晶の融解が不十分となり、製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなり、さらに、気泡が混入し易くなる。これにより、セルロースアシレートフィルムの強度が低下したり、あるいはフィルムを延伸する場合に、残存した結晶が延伸性を阻害し、配向を十分に上げることが出来なくなる。逆に、スクリュー圧縮比が5を上回って大き過ぎると、せん断応力がかかり過ぎて発熱により樹脂が劣化し易くなるので、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出易くなる。また、せん断応力がかかり過ぎると分子の切断が起こり分子量が低下してフィルムの機械的強度が低下する。したがって、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、スクリュー圧縮
比は2〜5の範囲が良く、より好ましくは2.5〜4.5、特に好ましいのは3.0〜4.0の範囲である。
【0109】
又、L/Dが20を下回って小さ過ぎると、溶融不足や混練不足となり、圧縮比が小さい場合と同様に製造後のセルロースアシレートフィルムに微細な結晶が残存し易くなる。逆に、L/Dが50を上回って大き過ぎると、押出機内でのセルロースアシレート樹脂の滞留時間が長くなり過ぎ、樹脂の劣化を引き起こし易くなる。又、滞留時間が長くなると分子の切断が起こったり分子量が低下してセルロースアシレートフィルムの機械的強度が低下する。したがって、製造後のセルロースアシレートフィルムに黄色味が出にくく且つフィルム強度が強く更に延伸破断しにくくするためには、L/Dは20〜50の範囲が好ましく、より好ましくは25〜45の範囲、特に好ましくは30〜40の範囲である。
【0110】
又、押出温度は上述の温度範囲にすることが好ましい。このようにして得たセルロースアシレートフィルムは、ヘイズが2.0%以下、イエローインデックス(YI値)が10以下である特性値を有している。
【0111】
ここで、ヘイズは押出温度が低過ぎないかの指標、換言すると製造後のセルロースアシレートフィルムに残存する結晶の多少を知る指標になり、ヘイズが2.0%を超えると、製造後のセルロースアシレートフィルムの強度低下と延伸時の破断が発生し易くなる。また、イエローインデックス(YI値)は押出温度が高過ぎないかを知る指標となり、イエローインデックス(YI値)が10以下であれば、黄色味の点で問題無い。
【0112】
押し出し機の種類として、一般的には設備コストの比較的安い単軸押し出し機が用いられることが多く、フルフライト、マドック、ダルメージ等のスクリュータイプがあるが、熱安定性の比較的悪いセルロースアシレート樹脂には、フルフライトタイプが好ましい。
【0113】

なお、好ましいスクリューの直径は目標とする単位時間あたりの押出量によってことなるが、10mm以上300mm以下、より好ましくは20mm以上250mm以下、更に好ましくは30mm以上150mm以下である。
【0114】
(iii)濾過
樹脂中の異物濾過のためや異物によるギアポンプ損傷を避けるため押出機出口にフィルター濾材を設けるいわゆるブレーカープレート式の濾過を行うことが好ましい。またさらに精度高く異物濾過をするために、ギアポンプ通過後にいわゆるリーフ型ディスクフィルターを組み込んだ濾過装置を設けることが好ましい。濾過は、濾過部を1カ所設けて行うことができ、また複数カ所設けて行う多段濾過でも良い。フィルター濾材の濾過精度は高い方が好ましいが、濾材の耐圧や濾材の目詰まりによる濾圧上昇から、濾過精度は15μm〜3μmが好ましく更に好ましくは10μm〜3μmである。特に最終的に異物濾過を行うリーフ型ディスクフィルター装置を使用する場合では品質の上で濾過精度の高い濾材を使用することが好ましく、耐圧,フィルターライフの適性を確保するために装填枚数にて調整することが可能である。濾材の種類は、高温高圧下で使用される点から鉄鋼材料を用いることが好ましく、鉄鋼材料の中でも特にステンレス鋼,スチールなどを用いることが好ましく、腐食の点から特にステンレス鋼を用いることが望ましい。濾材の構成としては、線材を編んだものの他に、例えば金属長繊維あるいは金属粉末を焼結し形成する焼結濾材が使用でき、濾過精度,フィルターライフの点から焼結濾材が好ましい。
【0115】
(iv)ギアポンプ
厚み精度を向上させるためには、吐出量の変動を減少させることが重要であり、押出機とダイスの間にギアポンプを設けて、ギアポンプから一定量のセルロースアシレート樹脂
を供給することは効果がある。ギアポンプとは、ドライブギアとドリブンギアとからなる一対のギアが互いに噛み合った状態で収容され、ドライブギアを駆動して両ギアを噛み合い回転させることにより、ハウジングに形成された吸引口から溶融状態の樹脂をキャビティ内に吸引し、同じくハウジングに形成された吐出口からその樹脂を一定量吐出するものである。押出機先端部分の樹脂圧力が若干の変動があっても、ギアポンプを用いることにより変動を吸収し、製膜装置下流の樹脂圧力の変動は非常に小さなものとなり、厚み変動が改善される。ギアポンプを用いることにより、ダイ部分の樹脂圧力の変動巾を±1%以内にすることが可能である。
【0116】
ギアポンプによる定量供給性能を向上させるために、スクリューの回転数を変化させて、ギアポンプ前の圧力を一定に制御する方法も用いることが出来る。又、ギアポンプのギアの変動を解消した3枚以上のギアを用いた高精度ギアポンプも有効である。
【0117】
ギアポンプを用いるその他のメリットとしては、スクリュー先端部の圧力を下げて製膜できることから、エネルギー消費の軽減・樹脂温上昇の防止・輸送効率の向上・押出機内での滞留時間の短縮・押出機のL/Dを短縮が期待できる。又、異物除去のために、フィルターを用いる場合には、ギアポンプが無いと、ろ圧の上昇と共に、スクリューから供給される樹脂量が変動したりすることがあるが、ギアポンプを組み合わせて用いることにより解消が可能である。一方、ギアポンプのデメリットとしては、設備の選定方法によっては、設備の長さが長くなり、樹脂の滞留時間が長くなることと、ギアポンプ部のせん断応力によって分子鎖の切断を引き起こすことがあり、注意が必要である。
【0118】
樹脂が供給口から押出機に入ってからダイスから出るまでの樹脂の好ましい滞留時間は2分以上60分以下であり、より好ましくは3分以上40分以下であり、さらに好ましくは4分以上30分以下である。
【0119】
ギアポンプの軸受循環用ポリマーの流れが悪くなることにより、駆動部と軸受部におけるポリマーによるシールが悪くなり、計量及び送液押し出し圧力の変動が大きくなったりする問題が発生するため、セルロースアシレート樹脂の溶融粘度に合わせたギアポンプの設計(特にクリアランス)が必要である。また、場合によっては、ギアポンプの滞留部分がセルロースアシレート樹脂の劣化の原因となるため、滞留の出来るだけ少ない構造が好ましい。押出機とギアポンプあるいはギアポンプとダイ等をつなぐポリマー管やアダプタについても、出来るだけ滞留の少ない設計が必要であり、且つ溶融粘度の温度依存性の高いセルロースアシレート樹脂の押出圧力安定化のためには、温度の変動を出来るだけ小さくすることが好ましい。一般的には、ポリマー管の加熱には設備コストの安価なバンドヒーターが用いられることが多いが、温度変動のより少ないアルミ鋳込みヒータを用いることがより好ましい。さらに上述のように押出機の吐出圧力を安定させるために、押出機のバレルを3以上20以下に分割したヒータで加熱し溶融することが好ましい。
【0120】
(v)ダイ
上記の如く構成された押出機によってセルロースアシレート樹脂が溶融され、必要に応じ濾過機、ギアポンプを経由して溶融樹脂がダイに連続的に送られる。ダイはダイス内の溶融樹脂の滞留が少ない設計であれば、一般的に用いられるTダイ、フィッシュテールダイ、ハンガーコートダイの何れのタイプでも構わない。又、Tダイの直前に樹脂温度の均一性アップのためのスタティックミキサーを入れることも問題ない。Tダイ出口部分のクリアランスは一般的にフィルム厚みの1.0〜5.0倍が良く、好ましくは1.2〜3倍、更に好ましくは1.3〜2倍である。リップクリアランスがフィルム厚みの1.0倍未満の場合には製膜により面状の良好なシートを得ることが困難である。また、リップクリアランスがフィルム厚みの5.0倍を超えて大きい場合にはシートの厚み精度が低下するため好ましくない。ダイはフィルムの厚み精度を決定する非常に重要な設備であり、厚み
調整がシビアにコントロール出来るものが好ましい。通常厚み調整は40〜50mm間隔で調整可能であるが、好ましくは35mm間隔以下、更に好ましくは25mm間隔以下でフィルム厚み調整が可能なタイプが好ましい。また、セルロールアシレート樹脂は、溶融粘度の温度依存性、せん断速度依存性が高いことから、ダイの温度ムラや巾方向の流速ムラの出来るだけ少ない設計が重要である。また、下流のフィルム厚みを計測して、厚み偏差を計算し、その結果をダイの厚み調整にフィードバックさせる自動厚み調整ダイも長期連続生産における厚み変動の低減に有効である。
【0121】
フィルムの製造は設備コストの安い単層製膜装置が一般的に用いられるが、場合によっては機能層を外層に設け、多層製膜装置を用いて2種以上の構造を有するフィルムの製造も可能である。一般的には機能層を表層に薄く積層することが好ましいが、特に層比を限定するものではない。
【0122】
(vi)キャスト
上記方法にて、ダイよりシート上に押し出された溶融樹脂を冷却ドラム上で冷却固化し、フィルムを得る。この時、静電印加法、エアナイフ法、エアーチャンバー法、バキュームノズル法、タッチロール法等の方法を用い、冷却ドラムと溶融押出ししたシートの密着を上げることが好ましい。このような密着向上法は、溶融押出しシートの全面に実施してもよく、一部に実施しても良い。特にエッジピニングと呼ばれる、フィルムの両端部にのみを密着させる方法が取られることも多いが、これに限定される物ではない。
【0123】
冷却ドラムは複数本用い、徐冷する方法がより好ましい、特に一般的には3本の冷却ドラムを用いることが比較的よく行われているが、この限りではない。冷却ドラムの直径は100mm以上1000mm以下が好ましく、よりに好ましくは150mm以上1000mm以下である。複数本ある冷却ドラムの間隔は、面間で1mm以上50mm以下が好ましく、より好ましくは1mm以上30mm以下である。
【0124】
冷却ドラムは60°C以上160°C以下が好ましく、より好ましくは70°C以上150°C以下、さらに好ましくは80°C以上140°C以下である。この後、冷却ドラムから剥ぎ取り、引取ローラ(ニップロール)を経た後巻き取る。巻き取り速度は10m/分以上100m/分以下が好ましく、より好ましくは15m/分以上80m/分以下、さらに好ましくは20m/分以上70m/分以下である。
【0125】
製膜幅は0.7m以上5m以下、さらに好ましくは1m以上4m以下、さらに好ましくは1.3m以上3m以下が好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムの厚みは30μm以上400μm以下が好ましく、より好ましくは40μm以上300μm以下、さらに好ましくは50μm以上200μm以下である。
【0126】
また、いわゆるタッチロール法を用いる場合、タッチロール表面は、ゴム、テフロン(登録商標)等の樹脂でもよく、金属ロールでも良い。さらに、金属ロールの厚みを薄くすることでタッチしたときの圧力によりロール表面が若干くぼみ、圧着面積が広くなりフレキシブルロールと呼ばれる様なロールを用いることも可能である。
【0127】
タッチロール温度は60°C以上160°C以下が好ましく、より好ましくは70°C以上150°C以下、さらに好ましくは80°C以上140°C以下である。
【0128】
(vii)巻き取り
このようにして得たシートは両端をトリミングし、巻き取ることが好ましい。トリミングされた部分は、粉砕処理された後、或いは必要に応じて造粒処理や解重合・再重合等の処理を行った後、同じ品種のフィルム用原料として又は異なる品種のフィルム用原料とし
て再利用してもよい。トリミングカッターはロータリーカッター、シャー刃、ナイフ等の何れのタイプの物を用いても構わない。材質についても、炭素鋼、ステンレス鋼何れを用いても構わない。一般的には、超硬刃、セラミック刃を用いると刃物の寿命が長く、また切り粉の発生が抑えられて好ましい。
【0129】
また、巻き取り前に、少なくとも片面にラミフィルムを付けることも、傷防止の観点から好ましい。好ましい巻き取り張力は1kg/m幅以上50kg/幅以下、より好ましくは2kg/m幅以上40kg/幅以下、更に好ましくは3kg/m幅以上20kg/幅以下である。巻き取り張力が1kg/m幅より小さい場合には、フィルムを均一に巻き取ることが困難である。逆に、巻き取り張力が50kg/幅を超える場合には、フィルムが堅巻きになってしまい、巻き外観が悪化するのみでなく、フィルムのコブの部分がクリープ現象により延びてフィルムの波うちの原因になったり、あるいはフィルムの伸びによる残留複屈折が生じるため好ましくない。巻き取り張力は、ラインの途中のテンションコントロールにより検知し、一定の巻き取り張力になるようにコントロールされながら巻き取ることが好ましい。製膜ラインの場所により、フィルム温度に差がある場合には熱膨張により、フィルムの長さが僅かに異なる場合があるため、ニップロール間のドロー比率を調整し、ライン途中でフィルムに規定以上の張力がかからない様にすることが必要である。
【0130】
巻き取り張力はテンションコントロールの制御により、一定張力で巻き取ることもできるが、巻き取った直径に応じてテーパーをつけ、適正な巻取り張力にすることがより好ましい。一般的には巻き径が大きくなるにつれて張力を少しずつ小さくするが、場合によっては、巻き径が大きくなるにしたがって張力を大きくする方が好ましい場合もある。
【0131】
(viii)未延伸セルロースアシレートフィルムの物性
このようにして得た未延伸セルロースアシレートフィルムはRe=0〜20nm,Rth=0〜80nmが好ましく、より好ましくはRe=0〜15nm,Rth=0〜70nm、さらに好ましくはRe=0〜10nm,Rth=0〜60nmである。Re、Rthは各々面内のレターデーションおよび厚さ方向のレターデーションを表す。ReはKOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)で光をフィルム法線方向に入射させて測定される。Rthは、上述のReおよび、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフィルム法線方向に対して+40°、−40°傾斜した方向から光を入射させて測定したレターデーションの計3方向から測定したレターデーション値を基に算出する。また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。
【0132】
全光透過率は90%〜100%が好ましく、より好ましくは91〜99%、さらに好ましくは92〜98%である。好ましいヘイズは0〜1%であり、より好ましくは0〜0.8%、さらに好ましくは0〜0.6%である。
【0133】
厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%以上4%以下が好ましく、より好ましくは0%以上3%以下、さらに好ましくは0%以上2%以下である。
【0134】
引張り弾性率は1.5kN/mm2 以上3.5kN/mm2 以下が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2 以上2.8kN/mm2 以下、さらに好ましくは1.8kN/mm2 以上2.6kN/mm2 以下である。
【0135】
破断伸度は3%以上100%以下が好ましく、より好ましくは5%以上80%以下、さらに好ましくは8%以上50%以下である。
【0136】
Tg(フィルムのTg即ちセルロースアシレートと添加物の混合体のTgを指す)は9
5°C以上145°C以下が好ましく、より好ましくは100°C以上140°C以下、さらに好ましくは105°C以上135°C以下である。
【0137】
80°C1日での熱寸法変化は縦、横両方向とも0%以上±1%以下が好ましく、より好ましくは0%以上±0.5%以下、さらに好ましくは0%以上±0.3%以下である。
【0138】
40°C90%rhでの透水率は300g/m2 ・日以上1000g/m2 ・日以下が好ましく、より好ましくは400g/m2 ・日以上900g/m2 ・日以下、さらに好ましくは500g/m2 ・日以上800g/m2 ・日以下である。
【0139】
25°C80%rhでの平衡含水率は1wt%以上4wt%以下が好ましく、より好ましくは1.2wt%以上3wt%以下、さらに好ましくは1.5wt%以上2.5wt%以下である。
【0140】
(延伸)
上記の方法で製膜したフィルムが縦及び又は横方向に延伸され、Re,Rthが発現し、位相差フィルムが製造される。
【0141】
本発明においては、延伸ムラを防止し、均一なレターデーションを発現させるため、下記の条件を満たすよう延伸される。
Z>X ・・・(1)
(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/k・・・(2)
上記2式を満たすように延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]を調整して延伸する。
【0142】
但し、Xは、熱可塑性樹脂フィルムを延伸したときの応力ひずみ曲線上での降伏応力〔MPa〕を表している。kは降伏応力Xが発生するまでの歪量〔%〕を表している。また、Yは降伏応力発生点から更にk[%]の歪量で延伸した際の応力[MPa]を表している。Zは延伸倍率をα[%]に延伸した際の応力[MPa]を表している。
【0143】
縦(MD)、横(TD)方向に均等に延伸してもよいが、一方の延伸倍率を他方より大きくし不均等に延伸しても良い。縦(MD)、横(TD)方向の延伸は、さらにこれらと組み合わせて緩和処理をおこなっても良い。これらは例えば以下の組合せで実施できる。1 横延伸
2 横延伸→緩和処理
3 縦延伸→横延伸
4 縦延伸→横延伸→緩和処理
5 縦延伸→緩和処理→横延伸→緩和処理
6 横延伸→縦延伸→緩和処理
7 横延伸→緩和処理→縦延伸→緩和処理
8 縦延伸→横延伸→縦延伸
9 縦延伸→横延伸→縦延伸→緩和処理
10 縦延伸
11 縦延伸→緩和処理
これらの延伸は1段で実施しても、多段で実施しても良い。ここで云う延伸倍率は、以下の式を用いて求めたものである。
【0144】
延伸倍率(%)=100×{(延伸後の長さ)−(延伸前の長さ)}/(延伸前の長さ)このような延伸は出口側の周速を速くした2対以上のニップロールを用いて、長手方向に延伸してもよく(縦延伸)、フィルムの両端をチャックで把持しこれを直交方向(長手
方向と直角方向)に広げても良い(横延伸)。また、特開2000−37772、特開2001−113591、特開2002−103445に記載の同時2軸延伸法を用いても良い。
【0145】
Re、Rthの比を自由に制御するには、縦延伸の場合、ニップロール間をフィルム幅で割った値(縦横比)を制御することでも達成できる。即ち縦横比を小さくすることで、Rth/Re比を大きくすることができる。また、縦延伸と横延伸とを組み合わせてRe,Rthを制御することもできる。即ち縦延伸倍率と横延伸倍率を差が小さくすることでReは小さくでき、この差を大きくすることでReは大きくできる。
【0146】
このようにして延伸したセルロースアシレートフィルムのRe、Rthは下式を満足することが好ましい。
100≧Re≧20nm、300≧Rth≧40nm、8≧Rth/Re≧0.4
また製膜方向(長手方向)と、フィルムのReの遅相軸とのなす角度θが0°、+90°もしくは−90°に近いほど好ましい。即ち、縦延伸の場合は0°に近いほど好ましく、0±3°が好ましく、より好ましくは0±2°、さらに好ましくは0±1°である。横延伸の場合は、90±3°あるいは−90±3°が好ましく、より好ましくは90±2°あるいは−90±2°、さらに好ましくは90±1°あるいは−90±1°である。
【0147】
延伸後のセルロースアシレートフィルムの厚みはいずれも15μm以上200μm以下が好ましく、より好ましくは30μm以上170μm以下、さらに好ましくは40μm以上140μm以下である。厚みむらは長手方向、幅方向いずれも0%以上3%以下が好ましく、より好ましくは0%以上2%以下、さらに好ましくは0%以上1%以下である。
【0148】
延伸セルロースアシレートフィルムの物性は以下の範囲が好ましい。引張り弾性率は1.5kN/mm2 以上3.0kN/mm2 未満が好ましく、より好ましくは1.7kN/mm2 以上2.8kN/mm2 以下、さらに好ましくは1.8kN/mm2 以上2.6kN/mm2 以下である。破断伸度は3%以上100%以下が好ましく、より好ましくは5%以上80%以下、さらに好ましくは8%以上50%以下である。
【0149】
[表面処理]
本発明のセルロースアシレートフィルムには、適宜、表面処理を行うことにより、各機能層(例えば、下塗層、バック層、光学異方性層)との接着を改善することが可能となる。前記表面処理には、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理、鹸化処理(酸鹸化処理、アルカリ鹸化処理)が含まれ、特にグロー放電処理およびアルカリ鹸化処理が好ましい。ここでいう「グロー放電処理」とは、プラズマ励起性気体存在下でフィルム表面にプラズマ処理を施す処理である。これらの表面処理方法の詳細は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)に記載があり、適宜、使用することができる。
【0150】
フィルム表面と機能層との接着性を改善するため、表面処理に加えて、或いは表面処理に代えて、本発明のセルロースアシレートフィルム上に下塗層(接着層)を設けることもできる。前記下塗層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁に記載があり、これらを適宜、使用することができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルム上に設けられる機能性層については、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)32頁〜45頁に記載があり、これに記載のものを適宜、使用することができる。
【0151】
《光学補償フィルム》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、光学補償フィルムとして用いることもでき
る。なお、「光学補償フィルム」とは、一般に液晶表示装置等の表示装置に用いられ、光学異方性を有する光学材料のことを意味し、位相差フィルム、位相差板、光学補償フィルム、光学補償シートなどと同義である。液晶表示装置において、光学補償フィルムは表示画面のコントラストを向上させたり、視野角特性や色味を改善したりする目的で用いられる。
【0152】
本発明のセルロースアシレートフィルムは、そのまま光学補償フィルムとして用いることもできる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムを複数枚積層したり、本発明のセルロースアシレートフィルムと本発明外のフィルムとを積層したりしてReやRthを適宜調整して光学補償フィルムとして用いることもできる。フィルムの積層は、粘着剤や接着剤を用いて実施することができる。
【0153】
また、場合により、本発明のセルロースアシレートフィルムを光学補償フィルムの支持体として用い、その上に液晶等からなる光学異方性層を設けて光学補償フィルムとして使用することもできる。本発明の光学補償フィルムに適用される光学見方性層は、例えば、液晶性化合物を含有する組成物から形成してもよいし、複屈折を持つセルロースアシレートフィルムから形成してもよい。
【0154】
前記液晶性化合物としては、ディスコティック液晶性化合物または棒状液晶性化合物が好ましい。
【0155】
[ディスコティック液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能なディスコティック液晶性化合物の例には、様々な文献(例えば、C.Destradeetal.,Mol.Crysr.Liq.Cryst.,VOl.71,pagelll(1981);日本化学会編、季刊化学総説、No.22、液晶の化学、第5章、第10章第2節(1994);B.Kohne et al.,Angew.Chem.Soc.Chem.Comm.,page1794(1985);J.Zhang etal.,J.Am.Chetn.Soc.,VOl.116,page2655(1994))に記載の化合物が含まれる。
【0156】
前記光学異方性層において、ディスコティック液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。また、ディスコティック液晶性分子の重合については、特開平8−27284公報に記載がある。ディスコティック液晶性分子を重合により固定するためには、ディスコティック液晶性分子の円盤状コアに、置換基として重合性基を結合させる必要がある。ただし、円盤状コアに重合性基を直結させると、重合反応において配向状態を保つことが困難になる。そこで、円盤状コアと重合性基との間に、連結基を導入する。重合性基を有するディスコティック液晶性分子については、特開2001−4387号公報に開示されている。
【0157】
[棒状液晶性化合物]
本発明において前記液晶性化合物として使用可能な棒状液晶性化合物の例には、アゾメテン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルビリミジン類、アルコキシ置換フェニルビリミジン類、フエニルジオキサン類、トラン類およびアルケニルシクロへキシルベンゾニトリル類が含まれる。また、前記棒状液晶性化合物としては、以上のような低分子液晶性化合物だけではなく、高分子液晶性化合物も用いることができる。
【0158】
前記光学異方性層において、棒状液晶性分子は配向状態で固定されているのが好ましく、重合反応により固定されているのが最も好ましい。本発明に使用可能な重合性棒状液晶
性化合物の例は、例えば、Makrotnol.Chem..190巻、2255頁(1989年)、AdvancedMaterials 5巻、107頁(1993年)、米国特許第4,683,327∵号明細書、同5,622,648号明細書、同5,770,107号明細書、国際公開第95/22586号パンフレット、同95/24455号パンフレット、同97/00600号パンフレット、同98/23580号パンフレット、同98/52905号パンフレット、特開平1−272551号公報、同6−16616号公報、同7−110469号公報、同11−80081号公報、および特開2001−328973号公報等に記載の化合物が含まれる。
【0159】
(ポリマーフィルムからなる光学異方性層)
前記光学異方性層は、ポリマーフィルムから形成してもよい。前記ポリマーフィルムは、光学異方性を発現し得るポリマーから形成することができる。前記光学異方性を発現し得るポリマーの例には、ポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン、ノルポルネン系ポリマー)、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル、および、セルロースエステル(例、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート)が含まれる。また、前記ポリマーとしては、これらポリマーの共重合体若しくはポリマー混合物を用いてもよい。
【0160】
《偏光板》
本発明のセルロースアシレートフィルムまたは光学補償フィルムは、偏光板(本発明の偏光板)の保護フィルムとして用いることができる。本発明の偏光板は、偏光膜とその両面を保護する二枚の偏光板保護フィルム(セルロースアシレートフィルム)からなり、本発明のセルロースアシレートフィルムまたは光学補償フィルムは少なくとも一方の偏光板保護フィルムとして用いることができる。また、本発明のセルロースアシレートフィルムは、接着剤を用いて偏光膜とロールツーロールで貼合することができる。
【0161】
本発明のセルロースアシレートフィルムを前記偏光板保護フィルムとして用いる場合、本発明のセルロースアシレートフィルムには前記表面処理(特開平6−94915号公報、同6−118232号公報にも記載)を施して親水化しておくことが好ましく、例えば、グロー放電処理、コロナ放電処理、または、アルカリ鹸化処理などを施すことが好ましく、特に、前記表面処理としてはアルカリ鹸化処理が最も好ましく用いられる。
【0162】
また、前記偏光膜としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸したもの等を用いることができる。ポリビニルアルコールフィルムを沃素溶液中に浸漬して延伸した偏光膜を用いる場合、接着剤を用いて偏光膜の両面に本発明のセルロースアシレートフィルムの表面処理面を直接貼り合わせることができる。本発明の製造方法においては、このように前記セルロースアシレートフィルムが偏光膜と直接貼合されていることが好ましい。前記接着剤としては、ポリビニルアルコールまたはポリビニルアセタール(例、ポリビニルブチラール)の水溶液や、ビニル系ポリマー(例、ポリプチルアクリレート)のラテックスを用いることができる。特に好ましい接着剤は、完全鹸化ポリビニルアルコールの水溶液である。
【0163】
一般に液晶表示装置は二枚の偏光板の間に液晶セルが設けられるため、4枚の偏光板保護フィルムを有する。本発明のセルロースアシレートフィルムは、4枚の偏光板保護フィルムのいずれにも好適に用いることができる。中でも、本発明のセルロースアシレートフィルムを液晶表示装置における偏光膜と液晶層(液晶セル)との間に配置されない外側の保護フィルムとして用いることが特に好ましく、この場合、透明ハードコート層、防眩層、反射防止層などを設けることができる。
【0164】
《液晶表示装置》
本発明のセルロースアシレートフィルム、光学補償フィルムおよび偏光板は、様々な表示モードの液晶表示装置に用いることができる。本発明のセルロースアシレートフィルムおよび光学補償フィルムは透湿度が低く、この透湿度は湿熱下にさらされても上昇しないため、これを用いた偏光板では、長期に渡って偏光度の低下を抑制することができる。したがって、信頼性の高い液晶表示装置を提供することができる。
【0165】
以下にこれらのフィルムが用いられる各液晶モードについて説明する。これらの液晶表示装置は、透過型、反射型および半透過型のいずれでもよい。
【0166】
(TN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TNモードの液晶セルを有するTN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体として用いることができる。TNモードの液晶セルとTN型液晶表示装置とについては、古くからよく知られている。TN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開平3−9325号、特開平6−148429号、特開平8−50206号および特開平9−26572号の各公報の他、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.143や、Jpn.J.Appl.Phys.Vol.36(1997)p.1068)に記載がある。
【0167】
(STN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、STNモードの液晶セルを有するSTN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体として用いてもよい。一般的にSTN型液晶表示装置では、液晶セル中の棒状液晶性分子が90〜360度の範囲にねじられており、棒状液晶性分子の屈折率其方性(△n)とセルギャップ(d)との積(△nd)が300〜1500nmの範囲にある。STN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、特開2000−105316号公報に記載がある。
【0168】
(VA型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、VAモードの液晶セルを有するVA型液晶表示装置の光学補償フィルムや光学補償フィルムの支持体として用いることができる。VA型液晶表示装置は、例えば特開平10−123576号公報に記載されているような配向分割された方式であっても構わない。
【0169】
(IPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、IPSモードおよびECBモードの液晶セルを有するIPS型液晶表示装置およびECB型液晶表示装置の光学補償フィルムや光学補償フィルムの支持体、または偏光板の保護フィルムとして特に有利に用いられる。これらのモードは黒表示時に液晶材料が略平行に配向する態様であり、電圧無印加状態で液晶分子を基板面に対して平行配向させて、黒表示する。
【0170】
(OCB型液晶表示装置およびHAN型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、OCBモードの液晶セルを有するOCB型液晶表示装置或いはHANモードの液晶セルを有するHAN型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体としても有利に用いられる。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムには、レターデーションの絶対値が最小となる方向が光学補償フィルムの面内にも法線方向にも存在しないことが好ましい。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムの光学的性質も、光学的其方性層の光学的性質、支持体の光学的性質および光学的異方性層と支持体との配置により決定される。OCB型液晶表示装置或いはHAN型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムに
ついては、特開平9−197397号公報に記載がある。また、モリ(Mori)他の論文(Jpn.J.Appl.Phys.Vol.38(1999)p.2837)に記載がある。
【0171】
(反射型液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは、TN型、STN型、HAN型、GH(Guest−Host)型の反射型液晶表示装置の光学補償フィルムとしても有利に用いられる。
【0172】
これらの表示モードは古くからよく知られている。TN型反射型液晶表示装置については、特開平10−123478号、国際公開第98/48320号パンフレット、特許第3022477号公報に記載がある。反射型液晶表示装置に用いる光学補償フィルムについては、国際公開第00/65384号パンフレットに記載がある。
【0173】
(その他の液晶表示装置)
本発明のセルロースアシレートフィルムは・ASM(AxiallySynmetricAlignedMicrocell)モードの液晶セルを有するASM型液晶表示装置の光学補償フィルムの支持体としても有利に用いられる。ASMモードの液晶セルは、セルの厚さが位置調整可能な樹脂スぺ−サーにより維持されているとの特徴がある。その他の性質は、TNモードの液晶セルと同様である。ASMモードの液晶セルとASM型液晶表示装置とについては、クメ(Kume)他の論文(Kume et al.,SID98DigestlO89(1998))に記載がある。
【0174】
《ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルム》
本発明のセルロースアシレートフィルムは、場合により、ハードコートフィルム、防眩フィルム、反射防止フィルムへ適用してもよい。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、本発明のセルロースアシレートフィルムの片面または両面にハードコート層、防眩層、反射防止層の何れか或いは全てを付与することができる。このような防眩フィルム、反射防止フィルムとしての望ましい実施態様は、発明協会公開技報(公技番号2001−1745、2001年3月15日発行、発明協会)54頁〜57頁に詳細に記載されており、本発明のセルロースアシレートフィルムにおいても好ましく用いることができる。
【実施例】
【0175】
未延伸の熱可塑性樹脂フィルムとして、セルロースアシレート樹脂フィルムと飽和ノルボルネン樹脂フィルムが用いられた。この未延伸の熱可塑性樹脂フィルムを横延伸することでフィルム製品を得た。
【0176】
図4の表は、本発明の実施例(1〜6)と比較例(1〜4)についての横延伸条件(横延伸倍率α〔%〕、横延伸温度β〔℃〕、横延伸速度γ〔%/min〕)、各点(降伏応力X、α%延伸後Z)における応力、Re,Rth、Reムラ,Rthムラ及びパネル実装評価等をまとめて一覧表としたものである。Reムラが10nm以下かつRthムラ20nm以下のものを○、Reムラが10nmを越えるもしくはRthムラが20nmを越えるものを×とした。
【0177】
実施例1〜4及び比較例1,2は、熱可塑性樹脂としてセルロースアシレート樹脂を使用した。図4に示す横延伸条件で横延伸を行った。実施例1〜4及び比較例1,2は、(1)式(X<Z)を満たしていた。一方で、比較例1,2は(2)式(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/kを満たしていなかった。その結果、Reムラ,Rthムラに関し、実施例1〜4が比較例1,2より小さかった。パネル実装評価においても
実施例1〜4が○であり、一方比較例1,2は×であった。
【0178】
実施例5,6及び比較例3,4は、熱可塑性樹脂として飽和ノルボルネン樹脂を使用した。図4に示す横延伸条件で横延伸を行った。実施例5,6は(1)式を満たしていた。一方で、比較例3は(1)式を満していなかった。また、比較例3,4は満たしていなかった。その結果、Reムラ,Rthムラに関し、実施例5,6が比較例3,4より小さかった。パネル実装評価においても実施例5,6が○であり、一方比較例3,4は×であった。
【0179】
なお、実施例では横延伸を例に説明したが、縦延伸でも同様の結果が得られる。
【0180】
以上説明したように、(1)式、(2)式を満たすように延伸された位相差フィルムは、Reムラ,Rthムラ及びパネル実装評価において良好な結果を示した。その結果、位相差フィルムの延伸ムラは小さくなり、液晶表示装置等の光学フィルムとして好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0181】
【図1】本発明が適用されるフィルム製造装置の構成を示す模式図
【図2】押出機の構成を示す概略図
【図3】本発明にかかる応力ひずみ曲線を示す図
【図4】実施例の条件及びフィルム評価をまとめた表図
【符号の説明】
【0182】
10…フィルム製造装置、12…セルロースアシレートフィルム、14…製膜工程部、16…縦延伸工程部、18…横延伸工程部、20…巻取工程部、22…押出機、24ダ
イ、2 6 … ポリシングローラ、2 8 … ポリシングローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂フィルムを供給する工程と、
前記熱可塑性樹脂フィルムを、延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]で延伸したときに、下記式(1)(2)を満たすように延伸倍率α[%]、温度β[℃],延伸速度γ[%/min]を調整して延伸する工程と、
を含む位相差フィルムの製造方法。
Z>X ・・・ (1)
(X×100/k)×0.2 < (Y−X)×100/k ・・・ (2)
(但し、X:応力ひずみ曲線における降伏応力[MPa],Y:降伏応力までのひずみ量をk[%]としたとき、降伏応力から更にk[%]延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa],Z:α[%]に延伸したときの応力ひずみ曲線における応力[MPa]、を表す)
【請求項2】
面内レターデーションReが20nm〜100nm、厚み方向のレターデーションRthが40nm〜300nm、ReとRthの比率Rth/Reが0.4〜8であることを特徴とする請求項1記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
幅方向のReムラが10nm以下、Rthムラが20nm以下であることを特徴とする請求項1又は2記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂は、セルロースアシレート樹脂であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂は、飽和ノルボルネン系樹脂であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1に記載の製造方法で製造されることを特徴とする位相差フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の位相差フィルムを基材に用いたことを特徴とする偏光板。
【請求項8】
請求項7に記載の偏光板を用いたことを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−181056(P2009−181056A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−21608(P2008−21608)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】