説明

位相補正板、撮像システム、撮像装置、携帯電話、車載機器、監視カメラ、内視鏡装置、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、およびレンズユニット

【課題】撮像レンズの解像力および明るさの低下を抑制しつつ容易にこの撮像レンズの被写界深度を拡大する。
【解決手段】位相補正板100の中央領域U1を通過後の光K1の位相差δ1maxがこの位相補正板100の周辺領域U2を通過後の光K2の位相差δ2maxよりも小さくなるように、かつ、周辺領域U2中の中央領域U1の側から周辺側に行くにしたがって上記位相補正板通過後の光の位相差が増加するように構成した位相補正板100を、被写体を表す像を結像させる撮像レンズ200に装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像レンズに装着される位相補正板、位相補正板を装着した撮像レンズを通して得た被写体を表す画像データに復元処理を施す撮像システム、この撮像システムを備えた装置である撮像装置、携帯電話、車載機器、監視カメラ、内視鏡装置、デジタルカメラ、およびデジタルビデオカメラ、ならびに位相補正板を備えたレンズユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、カメラを内蔵した携帯電話機等の携帯端末装置が知られている。このような携帯端末装置に搭載される小型カメラ用の撮像レンズとして、合焦方式を採用した焦点合わせ機構を有するものや固定焦点方式を採用した焦点合わせ機構を有していないものが知られている(特許文献1、2、3参照)
固定焦点方式を採用した撮像装置は、ピントの合う範囲を拡大するために解像力の低下および明るさの低下(Fナンバーの増大)をある程度許容して被写界深度を深くするように設計されており、近距離撮影については撮像レンズの被写界深度の範囲、すなわち撮影対象範囲から外されるのが一般的である。
【0003】
また、合焦方式を採用した撮像装置は、上記固定焦点方式の撮像装置に比して、解像力が高く、撮影対象範囲が近距離を含む広い範囲であり、明るい(Fナンバーの小さい)レンズとなるように設計されるのが一般的である。このような合焦方式を採用した撮像装置には、オートフォーカス機構やマクロ切替機構を備えたものが知られている。
【0004】
さらに、波面変調面(位相変調面)を有するレンズユニットを用いて被写体を撮像して得た画像に対して復元処理を施し、被写界深度が拡大された画像を取得する手法も知られている(特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−246492号公報
【特許文献2】特開2005−292443号公報
【特許文献3】特開2004−258111号公報
【特許文献4】特開2009−8935号公報
【特許文献5】国際公開第2009/106996号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、携帯電話機等に搭載されている小型カメラは、風景や人物の撮影に利用されるだけではなく、バーコードや文字原稿の読取りに利用されることが多くなっており、遠距離から近距離まで被写界深度が拡大されたレンズが望まれている。
【0007】
しかしながら、合焦方式を採用した撮像レンズを用いて比較的暗い室内での近距離撮影を行うときには絞りを開いてFナンバーを小さく(例えばF2.8等に)設定するため被写界深度が非常に浅くなる。そのため、バーコードや文字原稿を斜めから撮影しようとするとその被写体の一部にしかピントが合わないことがある。それゆえ、バーコードや文字原稿の表面に対して撮像レンズの光軸が直交するようにこの撮像レンズの姿勢を調節して撮影を行うことになるが、そのようにしても、被写界深度が浅いため光軸方向への手ブレの影響によるピントずれが生じることがある。
【0008】
一方、この合焦方式を採用した撮像レンズの開口を絞って(Fナンバーを大きくして)被写界深度を拡大し光軸方向のピントずれを抑制しようとすると、開口を絞って受光光量が減少した分だけシャッタースピードを遅く設定する必要がある。そのため光軸方向と直交する方向への手ブレの影響が顕著に顕れるとともに解像力が低下するという問題が生じる。
【0009】
このようなことにより、撮像レンズにおいて絞りを開いたときの明るさ(Fナンバー)および解像力を維持しつつ、被写界深度を拡大したいという要請がある。
【0010】
なお、この問題は、携帯電話機等の携帯端末装置に搭載される撮像レンズに限らず、広く被写体の像を結像させる撮像レンズにおいて、一般に生じる問題である。
【0011】
また、体腔内を撮像する内視鏡においては十分な光量を得ることが困難であり開口を絞ってしまうと撮影が困難になる。
【0012】
また、監視カメラや車載用レンズやビデオ用レンズにおいては光量の変化が大きいが、コストや構造上の問題から絞り可変機構を入れることが困難な場合には、十分な光量を得られない時の撮影が困難になる。
【0013】
なお、明るさ(Fナンバー)および解像力を確保しつつ被写界深度を拡大するために、波面変調面(位相変調面)を有する撮像レンズを用いて被写体を撮像して得た画像に対して復元処理を施し、被写界深度が拡大された画像を取得する特許文献4に記載の手法を採用することも考えられる。しかしながら、この手法によれば、レンズユニットを構成するレンズ面上に波面変調面(位相変調面)が一体的に形成されているので、波面変調面(位相変調面)を除いたレンズユニットの光学性能の測定が困難であり、レンズユニットを製造するときの性能検査が難しくなる。そのため、レンズユニットの製造コストが増大してしまうという問題がある。
【0014】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、撮像レンズの解像力および明るさの低下を抑制しつつ、容易にこの撮像レンズの被写界深度を拡大することができる位相補正板、撮像システム、撮像装置、携帯電話、車載機器、監視カメラ、内視鏡装置、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、およびレンズユニットを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の位相補正板は、撮像レンズに装着される位相補正板であって、この位相補正板の中央領域を通過後の光の位相差の最大値がこの位相補正板の周辺領域を通過後の光の位相差の最大値よりも小さくなるように、かつ、周辺領域中の中央領域の側から周辺側に行くにしたがって前記位相補正板通過後の光の位相差が増加するように構成されたことを特徴とするものである。
【0016】
前記位相補正板は、この位相補正板の中央領域を通る光の位相差がその位相補正板の周辺領域を通る光の位相差よりも小さくなるように、かつ、周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、この周辺領域を通る光の波面形状の変形量が、前記基準の位置から周辺側に行くにしたがって単調増加するように構成されたものとすることもできる。
【0017】
本発明の位相補正板は、この位相補正板を装着した撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径のデフォーカス時の変化量それぞれが、撮像レンズのみを通して結像面上の前記各位置に対応するように結像させたスポット径のデフォーカス時の変化量よりも小さくなるように構成されたものでもある。
【0018】
位相補正板を装着した撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径のデフォーカス時の変化量それぞれに対する、撮像レンズのみを通して前記結像面上の前記各位置に対応するように結像された各スポット径のデフォーカス時の変化量の比率はいずれも50%以下とすることができる。上記比率は20%以下であることがより望ましく、7%以下であることがさらに望ましい。
【0019】
前記位相補正板は単レンズとすることができ、さらに、この単レンズの片面を平面とすることができる。その平面となる片面は、この位相補正板が撮像レンズに装着されて被写体を撮像するときに入射側に配されるレンズ面とすることができる。
【0020】
前記単レンズの瞳と向き合う面の反対側は平面とすることができる。
【0021】
前記中央領域を通る光の位相差は1/2波長未満とすることが望ましい。
【0022】
前記周辺領域を通る光の位相差は1/2波長以上とすることが望ましい。
【0023】
なお、この波長は、基準波長における波長とすることができ、一般に使用される可視波長領域を撮影対象する場合にはd線の波長(587.6nm)、赤外光学系を用いて赤外線の波長領域を撮影対象とする場合には赤外領域の波長(1200nm)等を採用することができる。
【0024】
前記位相補正板は回転対称形状とすることができる。なお、「回転対称形状とすることができる」とは、完全に回転対象形状である場合に限らず略回転対象形状である場合をも含む。
【0025】
前記位相補正板は、式:5/100<A/(A+B)<100/100、を満足するものとすることが望ましい。ここで、Aは中央領域の面積、Bは周辺領域の面積、A+Bは中央領域の面積に周辺領域の面積を加えてなる有効領域の面積である。
【0026】
なお、中央領域は、光軸を含む近軸領域のみからなるものとしたり、有効領域の面積の5%の面積を有する領域からなるものとしたりすることができ、より好ましくは有効領域の面積の10%、さらに好ましくは有効領域の面積の50%の面積を有する領域からなるものとすることができる。また、光軸上を通る光との位相差が1/2波長未満である領域を中央領域とし、光軸上を通る光との位相差が1/2波長以上である領域を周辺領域とすることもできる。
【0027】
また、前記スポット径のデフォーカス時の変化量は、例えば、デフォーカス時のスポット径の最小値と最大値との比率とすることができる。
【0028】
なお、前記位相補正板は、位相補正板の周辺領域を通る光のうち最も中心側の位置を通る光の位相を基準として、この位相補正板の中央領域の側から周辺側に行くほど、位相補正板通過後の光の位相が進むように(少なくとも位相が遅れることなく単調に進むように)、あるいは位相補正板通過後の光の位相が遅れるように(少なくとも位相が進むことなく単調に遅れるように)構成されたものとすることができる。
【0029】
なお、位相補正板通過後の光の位相は、位相補正板が無い場合に同じ領域を通る光の位相よりも遅れる。すなわち、位相補正板通過後の光は、位相補正板が無い場合に同じ領域(同じ位置)を通る光に対して常に位相が遅れる。この位相の遅れは、光の波長をλとしたときに、1λ以上、例えば3.5λ、20.3λ等であってもよく、この位相の遅れは0≦λ<1の範囲のみで規定されるものではない。
【0030】
また、前記「位相補正板の周辺領域を通過後の光の位相差」は、「位相補正板の周辺領域通過後の光の位相変化の最大値と最小値との差」に対応するものであり、さらに、上記位相補正板の周辺領域を通過後の光の位相差は「位相補正板の周辺領域を通る光の波面形状の変形量の最大値(最大幅)」に対応するものを意味するものでもある。
【0031】
また、前記「位相補正板の中央領域を通過後の光の位相差」は、「位相補正板の中央領域通過後の光の位相変化の最大値と最小値との差」に対応するものであり、さらに、上記位相補正板の中央領域を通過後の位相差は「位相補正板の中央領域を通る光の波面形状の変形量の最大値(最大幅)」に対応するものを意味するものでもある。
【0032】
上記のように、ここでは位相差は、大きさだけで表現できる物理量であり、符号を伴わない物理量である。
【0033】
前記位相補正板による位相差は、以下のように定義することができる。図27A〜図27Dに示すように、入射光の波面の位相形状を、光軸を原点として表した位相形状をI(1)〔図27A参照〕、位相補正板を透過後の射出波面の位相を、光軸を原点として表した位相形状をI(2)〔図27B参照〕とするときに、I(2)-I(1)〔図27C、図27D参照〕を位相差と定義する。
【0034】
なお、図27A〜図27Dそれぞれは、横軸に光軸Z1、縦軸に光軸と直交する方向Hを示す座標上に位相形状や位相差を示すものである。図27Aは位相形状I(1)を示す図、図27Bは位相形状I(2)を示す図、図27Cは位相差I(2)-I(1)を示す図、図27Dは、位相形状I(1)を基準とした位相差I(2)-I(1)を示す図である。
【0035】
なお、I(2)-I(1)の計算においては、光線の進行方向のベクトルに沿って計算することが望ましい。
【0036】
入射光の波面形状が平面波の場合、位相差はI(2)に一致する。
【0037】
なお、前記周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、この周辺領域を通る光の波面形状の変形量は、その周辺領域に光が通る前のこの光の波面形状である第1の周辺波面形状とこの周辺領域に光が通った後のこの光の波面形状である第2の周辺波面形状とを、上記周辺領域を通る光の波面の最も中心側の位置を基準として比較して求めることができる。
【0038】
また、位相補正板を装着した撮像レンズにおいて被写体を表す像を結像させる光を通す位相補正板中の領域が、前記中央領域と周辺領域とからなる有効領域であり、この有効領域から中央領域を除いた部分が周辺領域となる。
【0039】
前記撮像装置には、合焦機構を有する撮像装置および固定焦点の撮像装置を採用することができる。
【0040】
位相補正板は、撮像レンズの瞳位置の近傍に配置することが望ましい。これにより、画角の広い光学系においても同様の効果が得られる。
【0041】
位相補正板はνd>45の材料を含めることが好ましい。さらに、νd>50とすることがより好ましい。また、位相補正板には異常分散性の材料を用いることが望ましい。これによりレンズ枚数が少ない位相補正板において、色収差の発生を抑えることが可能となる。
【0042】
本発明のレンズユニットは、上記位相補正板と、1枚以上のレンズとからなるものである。
【0043】
上記位相補正板は、位相補正部分と基台部分とを光軸方向に積層してなる複合体であって、位相補正部分と基台部分とが互に異なる光学特性を有する部材で形成されたものとすることができる。なお、位相補正部分は位相補正板を通る光に対して位相差を与えるものであり、基台部分は位相補正板を通る光に対して位相差を与えないものである。
【0044】
なお、前記位相差は、位相補正板を通った平面波の平面からのずれ(あるいは位相補正板を通った球面波の球面からのずれ)とすることができる。例えば、位相補正板がパワーのない平行平面板であれば、この“平行平面板に垂直に入射した”平面波には平面からのずれは生じない、すなわち位相差は生じない。しかしながら、位相補正板中に平行でない部分や段差があればこの位相補正板を通った平面波には平面からのずれが生じる、すなわち位相差が生じる。
【0045】
また、例えば、位相補正板がパワーのない球面板であれば、この“パワーのない球面板に対して垂直に入射した”球面波には球面からのずれは生じない、すなわち位相差は生じない。しかしながら、その位相補正板中に厚みが均一でない部分や段差があればこの位相補正板を通った球面波には球面からのずれが生じる、すなわち位相差が生じる。
【0046】
また、位相補正板が、位相補正板の周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準として、この位相補正板の中央領域の側から周辺側に行くほど位相補正板通過後の光の位相が進むように形成されたものであるときには、この位相補正板が配された撮像レンズを通して結像される像の深度(被写界深度)が拡大される(延びる)方向は結像位置よりも手前側(被写体の側)となる。
【0047】
一方、位相補正板が、位相補正板の周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準として、この位相補正板の中央領域の側から周辺側に行くほど位相補正板通過後の光の位相が遅れるように形成されたものであるときには、この位相補正板が配された撮像レンズを通して結像される像の深度(被写界深度)が拡大される(延びる)方向は結像位置よりも奥側(結像面に入射した光がこの結像面を貫通したときにその結像面から射出される側)となる。
【0048】
本発明の他の位相補正板は、被写体を表す像を結像させる撮像レンズに装着される位相補正板であって、この位相補正板の中央領域を通る光の波面形状の最大変形量が、その位相補正板の周辺領域を通る光の波面形状の最大変形量よりも小さくなるように、かつ、周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、この周辺領域を通る光の波面形状の変形量が、前記基準の位置から周辺側に行くにしたがって単調増加するように構成されたことを特徴とするものである。
【0049】
前記位相補正板は、この位相補正板を装着した撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化量それぞれが、撮像レンズのみを通して結像面上の前記各位置に対応するように結像された集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化量よりも小さくなるように構成されたものとすることができる。
【0050】
前記位相補正板は単レンズとすることができ、さらに、この単レンズの片面を平面とすることができる。その平面となる片面は、この位相補正板が撮像レンズに装着されて被写体を撮像するときに入射側に配されるレンズ面とすることができる。
【0051】
前記中央領域を通る光の波面形状の最大変形量は、1/2波長未満とすることが望ましい。
【0052】
前記周辺領域を通る光の波面形状の最大変形量は、1/2波長以上とすることが望ましい。なお、この波長は、基準波長における波長であり、一般に使用される可視波長領域を撮影対象する場合にはd線の波長(587.6nm)、赤外光学系を用いて赤外線の波長領域を撮影対象とする場合には赤外領域の波長(1200nm)等を採用することができる。
【0053】
前記位相補正板は、式:5/100<A/(A+B)<100/100、を満足するものとすることが望ましい。なお、Aは中央領域の面積、Bは周辺領域の面積、A+Bは中央領域の面積に周辺領域の面積を加えてなる有効領域の面積である。
【0054】
ここで、後述する図3を参照する。中央領域U1は主に像形成のための画像の芯を形成する領域であり、周辺領域U2は焦点深度を広げるための作用を持つ領域である。中央領域U1と周辺領域U2とは、レンズに要求される深度範囲の仕様と周辺領域U2の位相差の幅δ2の量により適宜変動する。
【0055】
すなわち、δ2maxの値が小さい場合は深度拡張効果が弱くなるので周辺領域U2を広く確保する必要があり、逆にδ2maxの値が大きい場合、深度を広げることは可能になるが、画像のフレアーが増大するので、画像の芯を形成する中央領域U1を広くする必要がある。
【0056】
また、前記集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化量は、例えば、デフォーカス時の集光スポットの大きさの最小値と最大値との比率とすることができる。
【0057】
なお、前記周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、この周辺領域を通る光の波面形状の変形量は、その周辺領域に光を通す前のこの光の波面形状である第1の周辺波面形状とこの周辺領域に光を通した後のこの光の波面形状である第2の周辺波面形状とを、上記周辺領域を通る光の波面の最も中心側の位置を基準として比較して求めることができる。
【0058】
また、位相補正板を装着した撮像レンズにおいて被写体を表す像を結像させる光を通す位相補正板中の領域が前記中央領域と周辺領域とからなる有効領域であり、この有効領域から中央領域を除いた部分が周辺領域となる。
【0059】
前記撮像レンズには、合焦機構を有する撮像レンズおよび固定焦点の撮像レンズを採用することができる。
【0060】
位相補正板は、撮像レンズの瞳位置の近傍に配置することが望ましい。これにより、画角の広い光学系においても同様の効果が得られる。
【0061】
位相補正板はνd>45の材料を含めることが好ましい。さらに、νd>50とすることがより好ましい。また、位相補正板には異常分散性の材料を用いることが望ましい。これによりレンズ枚数が少ない位相補正板において、色収差の発生を抑えることが可能となる。
【0062】
本発明のレンズユニットは、上記本発明の他の位相補正板と、1枚以上のレンズとからなるものである。
【0063】
本発明の撮像システムは、上記本発明の位相補正板および他の位相補正板のいずれかを装着した撮像レンズを通して投影された被写体の光学像を撮像する撮像手段と、この撮像手段の撮像で得られた被写体を表す画像データに対して復元処理を施す信号処理手段とを備えたことを特徴とするものである。
【0064】
本発明の撮像装置は、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0065】
本発明の携帯電話は、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0066】
本発明の車載機器は、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0067】
本発明の監視カメラは、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0068】
本発明の内視鏡装置は、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0069】
本発明の撮像装置は、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0070】
本発明のデジタルカメラは、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0071】
本発明のデジタルビデオカメラは、上記撮像システムを備えたことを特徴とするものである。
【0072】
なお、撮像システムは、上記撮像手段と信号処理手段とが一体化されたものとしたり、あるいは、上記撮像手段と信号処理手段それぞれが個別に配されたものとすることができる。
【0073】
前記撮像システムに適用する「復元処理」には、例えば特開2000-123168号公報、段落0002〜0016に紹介されている画像復元処理等を採用することができる。なお、復元処理の実施においては、後述する非特許文献〔鷲沢嘉一・山下幸彦著、題名「Kernel Wiener Filter」、2003 Workshop on Information-Based Induction Sciences、(IBIS2003)、Kyoto, Japan, Nov 11 -12, 2003〕の技術等を適用することができる。
【発明の効果】
【0074】
本発明の位相補正板によれば、この位相補正板の中央領域を通過後の光の位相差の最大値が、その位相補正板の周辺領域を通過後の光の位相差の最大値よりも小さくなるように、かつ、周辺領域中の中央領域の側から周辺側に行くにしたがって前記位相補正板通過後の光の位相差が増加するように構成したので、解像力および明るさの低下を抑制しつつ被写界深度を拡大することができる。すなわち、この位相補正板を撮像レンズに装着して被写体を撮像して得た画像に復元処理を施せば、この撮像レンズの絞りの開口を小さく(Fナンバーを大きく)することなく被写界深度を拡大した画像を得ることができる。
【0075】
また、本発明の位相補正板を、位相補正板の中央領域を通る光の位相差が、位相補正板の周辺領域を通る光の位相差よりも小さくなるように、かつ、周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、周辺領域を通る光の波面形状の変形量が基準の位置から周辺側に行くにしたがって単調増加するように構成すれば、上記と同様に解像力および明るさの低下を抑制しつつ被写界深度を拡大した画像を得ることができる。すなわち、位相補正板を撮像レンズに装着して被写体を撮像して得た画像に復元処理を施せば、この撮像レンズの絞りの開口を小さく(Fナンバーを大きく)することなく被写界深度を拡大した画像を得ることができる。
【0076】
本発明の他の位相補正板によれば、位相補正板の中央領域を通る光の波面形状の最大変形量が、位相補正板の周辺領域を通る光の波面形状の最大変形量よりも小さくなるように、かつ、周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準とした、周辺領域を通る光の波面形状の変形量が基準の位置から周辺側に行くにしたがって単調増加するように構成したので、解像力および明るさの低下を抑制しつつ被写界深度を拡大することができる。すなわち、位相補正板を撮像レンズに装着して被写体を撮像して得た画像に復元処理を施せば、この撮像レンズの絞りの開口を小さく(Fナンバーを大きく)することなく被写界深度を拡大した画像を得ることができる。
【0077】
より詳しくは、本発明の位相補正板および本発明の他の位相補正板のいずれの場合においても、撮像レンズに位相補正板を装着したときにFナンバーは殆ど変わらないので、例えば、暗い室内で近距離撮影を行うときに、撮像レンズに位相補正板を装着してなるレンズ系のFナンバーを小さく(例えばF2等に)定めたとしても、この位相補正板を装着した撮像レンズを用いて被写体を撮像して得た画像に対して復元処理を施せば、被写界深度の深い画像を得ることができる。これにより、バーコードや文字原稿を撮影するときに、斜めから撮影したり、光軸方向への手ブレが生じたりしても、被写界深度を深くすることができるので、ピントずれの発生を抑制することができる。さらに、上記のように撮像レンズに位相補正板を装着しても光学系の明るさ(Fナンバー)は殆ど変化しないので、シャッタースピードを遅く設定する必要もなく、光軸方向と直交する方向への手ブレの影響が増大することもない。
【0078】
通常の撮影においても撮影レンズ直前の被写体と無限遠の被写体を同時に撮影したいという要求に応えることができる。
【0079】
なお、本発明の位相補正板および本発明の他の位相補正板のいずれの場合においても、所定の性能を有する撮像レンズ(例えば既存の撮像レンズ)に対して位相補正板を装着して被写体を撮像することにより、被写界深度が拡大された画像を得るための復元処理を施すことが可能な画像を得ることができる。そのため、位相補正板、すなわち波面変調面(位相変調面)が形成された位相補正板を除いた撮像レンズ単体の光学性能の測定が容易であり、位相補正板が装着された撮像レンズを製造するときの性能検査も容易に行なうことができる。
【0080】
さらに、位相補正板を、撮像レンズの瞳位置の近傍に配置することにより、解像力および明るさの低下を抑制しつつ被写界深度を拡大する顕著な効果を得ることができる。
【0081】
なお、合焦機構を有する撮像レンズおよび固定焦点の撮像レンズのいずれに位相補正板を装着した場合においても上記効果を享受することができ、特に明るいレンズ(Fナンバーの小さいレンズ)に位相補正板を装着して近距離撮影を行うときには顕著な効果を奏することができる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明の実施の形態による位相補正板を撮像レンズに取り付けた状態を示す断面図
【図2A】位相補正板を光軸方向から見た様子を示す図
【図2B】位相補正板を光軸と直交する方向から見た様子を示す断面図
【図3】位相補正板を通る光の波面形状が変形する様子を示す図
【図4A】位相補正板が装着された撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化を示す図
【図4B】撮像レンズのみを通して結像面上の各位置に結像された各集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化を示す図
【図5】撮像レンズ単体および位相補正板を装着した撮像レンズを通して集光された集光スポットの大きさのデフォーカス時の変化を示す図
【図6A】実施例A1の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図6B】実施例A1の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図6C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図6D】実施例A1の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図6E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図6F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図7A】実施例A2の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図7B】実施例A2の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図7C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図7D】実施例A2の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図7E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図7F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図8A】実施例A3の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図8B】実施例A3の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図8C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図8D】実施例A3の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図8E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図8F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図9A】実施例A4の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図9B】実施例A4の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図9C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデーフォーカス時の変化を示す図
【図9D】実施例A4の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図9E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図9F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図10A】実施例B1の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図10B】実施例B1の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図10C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図10D】実施例A1の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図10E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図10F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図11A】実施例B2の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図11B】実施例B2の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図11C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図11D】実施例B2の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図11E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図11F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図12A】実施例C1の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図12B】実施例C1の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図12C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図12D】実施例C1の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図12E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図12F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図13A】実施例C2の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図13B】実施例C2の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図13C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図13D】実施例C2の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図13E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図13F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図14A】実施例C3の位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図14B】実施例C3の位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図14C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図14D】実施例C3の位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図14E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図14F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図15A】実施例Dの位相補正板装着撮像レンズの概略構成を示す断面図
【図15A1】実施例Dの撮像レンズ単体の複合非球面の構成を示す断面図
【図15B】実施例Dの位相補正板装着撮像レンズの球面収差を示す図
【図15C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図15D】実施例Dの位相補正板装着撮像レンズのMTF特性を示す図
【図15E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図15F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図16A】実施例A0の撮像レンズ単体の概略構成を示す断面図
【図16B】実施例A0の撮像レンズ単体の球面収差を示す図
【図16C】結像面上の各位置に結像された各集光スポットのデフォーカス時の変化を示す図
【図16D】実施例A0の撮像レンズ単体のMTF特性を示す図
【図16E】デフォーカスさせたときの70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図16F】デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図
【図17】実施例A1の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図18】実施例A2の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図19】実施例A3の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図20】実施例A4の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図21】実施例B1の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図22】実施例B2の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図23】実施例C1の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図24】実施例C2の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図25】実施例C3の位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図26】実施例Dの位相補正板のレンズ面の形状を示す図
【図27A】位相形状I(1)を示す図
【図27B】位相形状I(2)を示す図
【図27C】位相差I(2)-I(1)を示す図
【図27D】位相形状I(1)を基準として位相差I(2)-I(1)を示す図
【発明を実施するための形態】
【0083】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図1は本発明の実施の形態による位相補正板が撮像レンズに取り付けられた状態を示す断面図である。図2Aは位相補正板を光軸方向から見た様子を示す図、図2Bは位相補正板を光軸と直交する方向から見た様子を示す断面図である。図3は、位相補正板を通る光の波面形状が変形する様子を示す図である。
【0084】
図4Aは、横軸Z1に光軸、縦軸Hに光軸と直交する方向を示す座標上に、位相補正板が装着された撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径のデフォーカス時の変化を示す図であり、図4Bは撮像レンズのみを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径のデフォーカス時の変化を示す図である。
【0085】
図5は、縦軸Dにスポット径の直径、横軸である光軸Z1に結像面のデフォーカス位置を示す座標上に、位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して集光されたスポット径(直径)のデフォーカス時の変化を示す曲線Epと、撮像レンズ200のみを通して集光されたスポット径(直径)のデフォーカス時の変化を示す曲線Eqとを比較して示す図である。
【0086】
なお、上記図1、2、3はレンズのみを示したものであり、このレンズを支持する枠や、位相補正板を撮像レンズに装着する構成等は省略している。なお、位相補正板を撮像レンズに装着する機構は、通常のフィルタ(例えば、NDフィルタ等)をレンズ鏡筒に装着する場合と同様にネジを介して装着する等の方式を採用することができる。
【0087】
なお、この実施の形態では、撮像レンズの入射側に取り付ける位相補正板について説明するが、そのような場合に限らず、撮像レンズの射出側等に取り付ける位相補正板等についても本願発明を適用することができる。また、この位相補正板は、固定焦点方式の撮像レンズ、および特定撮影距離への焦点合わせが可能な合焦方式を採用した撮像レンズのいずれにもに適用することができる。
【0088】
図示の既存の撮像レンズ200の入射側に取り付けられる位相補正板100は、この撮像レンズ200の持つ性能(例えば解像力や明るさ)の低下を抑制しつつ被写界深度を拡大するものである。また、この位相補正板100は撮像レンズ200に対して容易に着脱可能である。
【0089】
<撮像レンズの基本構成について>
撮像レンズ200は、図1に示すように、光軸Z1に沿って物体側から順に、開口絞りSTO、レンズL1、レンズL2、レンズL3、レンズL4、カバーガラスL5をこの順に備えている。また、図1に示すように、位相補正板100を取り付けた撮像レンズ200を通して被写体を表す像が結像される結像面Mpには、例えば、撮像素子の受光面が配置される。
【0090】
なお、カバーガラスL5として、ローパスフィルタや赤外線カットフィルタ等を配置するようにしてもよい。
【0091】
なお、撮像レンズ200の入射側に取り付けられた位相補正板100は、撮像レンズ200の瞳位置の近傍に位置している。
【0092】
<位相補正板の基本構成について>
位相補正板100は、この位相補正板100が撮像レンズ200の入射側に取り付けられたときに、この位相補正板100および撮像レンズ200を通して被写体の像を結像面に結像させる光線が通る領域である有効領域部Uoが定められている(図2A、2B参照)。
【0093】
上記有効領域部Uoは、この有効領域部Uoの中心側に位置する中央領域部分U1と、有効領域部Uoの周辺側に位置する周辺領域部分U2、すなわち有効領域部Uoから中央領域部分U1を除いてなる周辺領域部分U2とからなる。
【0094】
図3に示すように、この位相補正板100は、中央領域部分U1を通る光束K1のこの中央領域部分U1を通る前後における波面形状の変形量の最大値である最大変形量δ1maxが、周辺領域部分U2を通る光束K2のこの周辺領域部分U2を通る前後における波面形状の変形量の最大値である最大変形量δ2maxよりも小さくなるように(すなわち、δ1max<δ2maxとなるように)形成されている。
【0095】
図3に示すように、位相補正板100の有効領域部Uoを通る前の光束の波面形状Waは平面であり、この有効領域部Uoを通った後の光束の波面形状Wbはうねりを有するものとなる。
【0096】
なお、位相補正板100の中央領域部分(中央領域ともいう)は、以下のように定めることができる。
【0097】
図3に示すように、位相補正板100に入射する光の波面形状Waとこの光が位相補正板100を通って射出されたときの光の波面形状Wbとの形状のズレ量(位相の差)の最大値がλ/2を超える直前の変曲点の位置を位置Q2とし、この位置Q2を光軸Z1からの半径とする領域を、位相補正板100の中央領域部分U1として定めることができる。
【0098】
すなわち、光軸Z1を中心軸とし上記変曲点の位置Q2を半径として形成される円筒の内側に含まれる位相補正板100中の領域を上記中央領域部分U1とすることができる。
【0099】
なお、上記「直前」は、光軸Z1から周辺へ向けて変曲点等を探索する範囲を拡大することを前提とした表現であり、光軸Z1からの距離が近い位置ほど早く探索されることを前提としたものである。
【0100】
このように中央領域部分U1が定められたとき、この中央領域部分U1を通る光の波面形状の最大変形量は、上述の中央領域部分U1を通る光のこの中央領域部分U1を通る前後における波面形状の変形量の最大値である最大変形量δ1maxと一致する。上記中央領域部分U1中には、この中央領域部分U1を通る光の波面形状の変形量がλ/2を超える領域を持たない。
【0101】
また、位相補正板100により発生した位相差の形状において、光軸Z1を含む領域の位相差の幅がλ/2を超える部分の位相形状のその最も光軸側の変曲点(Q2)の光軸からの高さを半径とする領域を中央領域(U1)、上記変曲点(Q2)から外側の有効領域を周辺領域(U2)と定義する。
【0102】
この周辺領域部分U2を通る光のこの周辺領域部分U2を通る前後における波面形状の変形量の最大値である最大変形量δ2maxは上記最大変形量δ1maxよりも大きい。
【0103】
光(光束)の波面はその光(光束)の同じ位相の部分を連ねてなる面である。ここで、上記中央領域を通る前後における光(光束)の波面形状の変形量の最大値である最大変形量δ1maxは、その光(光束)の位相に応じて定められるものである。同じ位相の部分を連ねてなる面は等位相面となり、等位相面の形状は波面形状に対応する。
【0104】
位相差は、位相のそろった軸上光線を中央領域に入射させ、この中央領域を通って射出された後の上記軸上光線の位相変化の最大値と最小値との差に対応するものとすることができる。
【0105】
また、この位相補正板100は、周辺領域部分U2を通る光束K2の上記周辺領域部分U2を通る前後における波面形状の変形量が、周辺領域部分U2を通る光束K2の中心側の位置Q2を基準として周辺側へ離れるにつれて単調増加するように形成されたものである。すなわち、光束K2を周辺領域部分U2へ通す前後における、この光束K2の中心側の位置Q2を基準とした波面形状の変形量δ2は、周辺側へ行くにしたがって単調増加する。
【0106】
さらに、位相補正板100は、この位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して結像面上の各位置に結像させた各スポット径(すなわち、被写体の像を表す画素のボケ量)のデフォーカス時の変化量それぞれが、撮像レンズ200のみを通して結像面上の上記各位置に対応するように結像させたスポット径のデフォーカス時の変化量よりも小さくなるように構成されている。
【0107】
なお、デフォーカス時のスポット径は、結像面に平行な平面をこの結像面の位置から撮像レンズ200の光軸方向に所定量だけ平行移動させたときに、この平面上に形成されるスポットを表す像の径として定めることができる。
【0108】
また、デフォーカス時のスポット径の変化量は、例えば、結像面に形成されたスポットSp1を表す像の径(Ds1)に対する、この結像面の位置から撮像レンズ200の光軸方向へ所定量だけ平行移動させた平面に形成された上記スポットSp1に対応するスポットSp2を表す像の径(Ds2)の比率ε(ε=Ds2/Ds1)として求めることができる。
【0109】
なお、位相補正板100を装着してなる撮像レンズ200をレンズユニットという。
【0110】
すなわち、位相補正板100が装着された撮像レンズ200であるレンズユニットを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径はデフォーカス時に変化する。図4Aに示すように、光軸Z1に直交する結像面Mpの基準位置(スポットの面積が最小となる位置でありデフォーカス量が0の位置)から、この結像面MpをZ1軸に沿って−100μm、−50μm、+50μm、+100μmの各位置へ平行移動(デフォーカス)させたときの、光軸Z1上におけるスポットSp(o)の面積は最小960平方μm(直径約35μm)〜最大2400平方μm(直径約55μm)まで変化する。すなわち、デフォーカス時のスポットSp(o)の面積の最大値が最小値に対して2.5倍であり、上記位相補正板100が装着された撮像レンズ200を通して結像面上の各位置に結像された光軸上のスポット面積のデフォーカス時変化量の値は2.5(変化量=スポット面積の最大値/スポット面積の最小値)となる。
【0111】
このように、スポットの大きさは、例えば、スポットの面積としたり、スポットの直径とすることができる。
【0112】
また、結像面Mp上における光軸外の位置に結像されたスポットSp(g)について、この結像面MpをZ1軸に沿って−100μm、−50μm、±0μm、+50μm、+100μmの各位置にデフォーカスさせたときのスポット面積のデフォーカス時変化量の値も、上記光軸Z1上に結像されたスポットSp(o)の場合と同様に2.5程度となる。
【0113】
さらに、結像面Mp上のいずれの位置に結像されたスポットについても、結像面MpをZ1軸に沿って−100μm、−50μm、±0μm、+50μm、+100μmの各位置にデフォーカスさせたときのスポット面積のデフォーカス時変化量の値は2.5程度となる。
【0114】
これに対して、位相補正板100を装着することなく撮像レンズ200のみを通して結像面上の各位置に結像された各スポット(面積)のデフォーカス時変化量は、図4Bに示すように変化する。すなわち、結像面Mpの基準位置(スポットの面積が最小となる位置でありデフォーカス量が0の位置)から、この結像面MpをZ1軸に沿って−100μm、−50μm、+50μm、+100μmの各位置へ平行移動(デフォーカス)させたときの、光軸Z1上におけるスポットSq(o)の面積は最小79平方μm(直径約10μm)〜最大2800平方μm(直径約60μm)まで変化する。すなわち、デフォーカス時のスポットSq(o)の面積の最大値が最小値に対して35倍であり、撮像レンズ200のみを通して結像面上の各位置に結像された光軸上のスポット面積のデフォーカス時変化量の値は35(変化量=スポット面積の最大値/スポット面積の最小値)となる。
【0115】
また、結像面Mp上のいずれの位置に結像されたスポットについても、結像面MpをZ1軸に沿って−100μm、−50μm、±0μm、+50μm、+100μmの各位置にデフォーカスさせたときのスポット面積のデフォーカス時変化量の値は35程度となる。
【0116】
上記のように、位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して集光させたスポットの面積のデフォーカス時変化量は、撮像レンズ200のみを通して集光させたスポットの面積のデフォーカス時変化量の0.07倍(2.5/35倍)程度となる。
【0117】
なお、位相補正板を装着した撮像レンズを通して結像面上の各位置に集光させた各スポットの面積のデフォーカス時変化量それぞれに対する、この撮像レンズのみを通して上記結像面上の各位置に対応するように集光させた各スポットの面積のデフォーカス時変化量の比率は、いずれも50%以下とすることができる。また、この比率は20%以下であることがより望ましく、7%以下であることがさらに望ましい。
【0118】
ここで、図5に示すように、位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して集光させたスポット径(直径)のデフォーカス時変化量を示す曲線Epと、位相補正板100を装着せずに撮像レンズ200のみを通して集光させたスポット径(直径)のデフォーカス時変化量を示す曲線Eqとを比較する。なお、図5に係る説明においては、スポット径としてこのスポットの直径を採用しているが、スポット径の代わりにスポットの面積を採用しても同様の説明が可能である。
【0119】
撮像レンズ200のみを通して集光させたスポットは、図5中の曲線Eqから読み取れるように、結像面Mpの基準位置(スポット径が最小となる位置でありデフォーカス量が0の位置)において最小となる。この撮像レンズ200に位相補正板100を装着すると、この位相補正板100付き撮像レンズ200を通して集光されたスポット径が最小となるデフォーカス位置は、図5中の曲線Epから読み取れるように、結像面Mpの基準位置(上記デフォーカス量が0の位置)から+70μm程度離れた位置となる。
【0120】
また、位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して集光させたスポットのデフォーカス時の変化(曲線Ep参照)は、撮像レンズ200のみを通して集光させたスポットのデフォーカス時の変化(曲線Eq参照)よりも緩やかである。
【0121】
そして、スポット径が50μm以下となる範囲をピントの合っている範囲と仮定すると、曲線Epにおいてスポット径が50μm以下となるデフォーカス範囲Jp1の幅、すなわち被写界深度に対応するデフォーカス範囲Jp1は約220μmであり、曲線Eqにおいてスポット径が50μm以下となるデフォーカス範囲Jq1の幅、すなわち被写界深度に対応するデフォーカス範囲Jq1も約220μmとなる。したがって、スポット径が50μm以下となるデフォーカス範囲の幅は、曲線Epおよび曲線Eqにおいて略一致する。
【0122】
ここで、ピントが合っていると判定されるスポット径が50μmを超えて定められた場合には、位相補正板100付き撮像レンズ200(曲線Ep参照)の方が位相補正板100なし撮像レンズ200(曲線Eq参照)よりもデフォーカス範囲すなわち被写界深度が深くなる。
【0123】
より具体的には、バーコードや文字原稿等を撮影するときには高い解像力は要求されないので、例えばスポット径が70μmあるいは80μmとなるようにデフォーカスした場合でもピントが合っていると判定される。そのようにピントの合う範囲を規定した場合には、位相補正板100の装着により撮像レンズ200の被写界深度が拡大されたとみなすことができる。
【0124】
図5において、スポット径が80μm以下となる範囲をピントの合っている範囲(被写界深度に対応する範囲)として許容すると、撮像レンズ200のみを通して被写体を撮影する場合の被写界深度に対応するデフォーカス範囲の幅Jq2は250μm程度であるが、位相補正板100付き撮像レンズ200を通して被写体を撮影する場合の被写界深度に対応するデフォーカス範囲の幅Jp2は400μm程度となる。すなわち、位相補正板100の装着により、ピントが合っているとみなせる被写体までの距離の範囲(被写界深度)が大幅に拡大される。
【0125】
なお、撮像レンズ200のみを通して撮影を行う場合の明るさ(Fナンバー)と、位相補正板100を装着した撮像レンズ200を通して撮影を行う場合の明るさ(Fナンバー)とは略同等なので、撮影時のシャッタースピードの設定も同等とすることができる。
【0126】
上記のようなことにより、撮像レンズ200に位相補正板100を装着することにより、解像力および明るさの低下を抑制しつつ被写界深度を拡大することができる。特に室内等の比較的暗い場所で開口絞りを開いてバーコードや文字原稿等を近距離撮影するような場合においては、撮像レンズ200の光軸に対する原稿の傾きや、撮像レンズ200の光軸方向の手ブレの影響で生じる、結像面上に結像される被写体像のボケを防止する顕著な効果を得ることができる。
【0127】
<具体的な実施例>
以下、本発明の位相補正板を装着した撮像レンズの実施例A1〜A4、実施例B1〜B2、実施例C1〜C3、実施例Dそれぞれの数値データ等についてまとめて説明する。これとともに、実施例A1〜A4の位相補正板を装着した撮像レンズから位相補正板を取り除いた撮像レンズ単体(比較例A0)についての数値データ等についても説明する。
【0128】
なお、以下に説明する表1〜23についてはそれらの表を最後にまとめて表示する。
【0129】
図6A、6B、6C、6D、6E、6F、および後述する表1A、1B、1Cは、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0130】
図7A〜7F、および後述する表2A〜2Cは、実施例A2の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0131】
図8A〜8F、および後述する表3A〜3Cは、実施例A3の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0132】
図9A〜9F、および後述する表4A〜4Cは、実施例A4の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0133】
図10A〜10F、および後述する表5A〜5Cは、実施例B1の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0134】
図11A〜11F、および後述する表6A〜6Cは、実施例B2の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0135】
図12A〜12F、および後述する表7A〜7Cは、実施例C1の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0136】
図13A〜13F、および後述する表8A〜8Cは、実施例C2の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0137】
図14A〜14F、および後述する表9A〜9Cは、実施例C3の位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0138】
図15A、15A1、15B、15C、15D、15E、15F、および後述する表10A〜10Cは、実施例Dの位相補正板付き撮像レンズに関するデータを示すものである。
【0139】
なお、実施例Dの位相補正板は、位相補正部分と基台部分とを光軸方向に積層してなる複合体であり、位相補正部分と基台部分とが互に異なる光学特性を有する部材で形成されたものである。
【0140】
図16A〜16F、および後述する表11A〜11Cは、比較例A0の撮像レンズ(撮像レンズ単体)に関するデータを示すものである。この比較例A0の撮像レンズは、実施例A1〜A4の位相補正板の装着された撮像レンズから位相補正板を取り除いてなるものである。
【0141】
図17〜26は、縦軸に光軸Z1方向の位置、横軸に光軸Z1と直交するH方向の位置を示す座標上に実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dそれぞれに用いられる位相補正板の像側のレンズ面の形状(非球面形状)を示す図である。
【0142】
表12は、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dそれぞれの位相補正板付き撮像レンズ、および比較例A0、B0、C0の撮像レンズ単体に関するデータをまとめて示すものである。なお、比較例B0の撮像レンズ単体は、実施例B1の位相補正板付き撮像レンズから位相補正板を取り除いてなるものである。また、比較例C0の撮像レンズ単体は、実施例C1の位相補正板付き撮像レンズから位相補正板を取り除いてなるものである。
【0143】
表13は、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dそれぞれに用いられる位相補正板の像側のレンズ面の非球面係数をまとめて示すものである。なお、表13に示す位相補正板の像側のレンズ面の非球面係数は、上記表1B〜11Bそれぞれから読み取ることもできる。
【0144】
表14〜23は、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dそれぞれに用いられる位相補正板の像側レンズ面上の位置を表す座標値を示すものであり、レンズ面上の各位置を、光軸Z1方向の位置を表す横軸の座標と光軸Z1に直交するH方向の位置を表す縦軸の座標とで示すものである。
【0145】
図6A、7A、・・・16Aは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの概略構成を示す断面図であり、図1中の符号と一致する図6A、7A、・・・16A中の符号は、互に対応する構成を示している。なお、図6A、7A、・・・16Aの各図中には、後述する4種類の入射角(像高)で結像面へ入射する光線の軌跡等が示されている。
【0146】
なお、図中の符号R1、R2、・・・は以下の構成要素を指している。すなわち、R1とR2は位相補正板の物体側のレンズ面と像側のレンズ面、R3は開口絞りSTOの位置、R4とR5は第1レンズL1の物体側のレンズ面と像側のレンズ面、R6とR7は第2レンズL2の物体側のレンズ面と像側のレンズ面、R8とR9は第3レンズL3の物体側のレンズ面と像側のレンズ面、R10とR11は第4レンズL4の物体側のレンズ面と像側のレンズ面、R12とR13は第5レンズL5であるカバーガラス(Cov)の物体側の表面と像側の表面、R14は結像面Mpを示している。
【0147】
なお、実施例Dの位相補正板付き撮像レンズにおける図15A中の符号R1′は、互に異なる部材を積層してなる位相補正板の接合面を示している。
【0148】
また、表1A、2A、・・・11Aに示すレンズデータにおいて、レンズ等の光学部材の面番号を物体側から像側に向かうに従い順次増加するi番目(i=1、(1′)、2、3、…)の面番号として示す。なお、これらのレンズデータには、開口絞りSTOの面番号(i=3)、および平行平面板であるカバーガラス(Cov)の物体側の面と像側の面の面番号、結像面(Mp)の面番号等も含めて記載している。なお、OBJは被写体を示している。
【0149】
表1A、2A、・・・11Aの各表中のRiはi番目の面の近軸曲率半径を示し、Diはi番目の面とi+1番目の面との光軸Z1上の面間隔を示す。なお、レンズデータの符号Riは、図1中のレンズ面を示す符号Riと対応している。
【0150】
また、表1A、2A、・・・11A中に示す記号Ndjは物体側から像側に向かうに従い順次増加するj番目の光学要素のd線(波長587.6nm)に対する屈折率を示し、νdjはj番目の光学要素のd線に対するアッベ数を示す。
【0151】
なお、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの設計基準波長は546.1nmである。
【0152】
また、表1A、2A、・・・11A中に示す記号φは直径を示す
なお、近軸曲率半径、面間隔、および直径の単位はmmであり、近軸曲率半径は物体側に凸の場合を正、像側に凸の場合を負としている。
【0153】
ここで、各非球面は下記非球面式により定義される。
【数1】

【0154】
表1B、2B・・・11Bに、各非球面Riを表す非球面式の各係数K、h^3、h^4、h^5・・・の値を示す。
【0155】
表1C、2C・・・11Cに示す概略仕様は、以下の各値を示す。
【0156】
設計基準波長、焦点距離、Fナンバー(Fno)、および図6A〜16A、図6C〜16C、図6D〜16D、図6E〜16E、図6F〜16Fそれぞれに示す4種類の像高を通る光線の結像面への入射角。
【0157】
図6B、7B、・・・16Bは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの球面収差を示す図である
図6C、7C、・・・16Cは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれを通して結像面上の各位置に結像された(上記4種類の入射角(像高)で結像面に入射して結像された)各スポットのデフォーカス時の変化を示すものである。ここでは、デフォーカス量として、結像面を光軸Z1方向に−100μm、−50μm、±0μm、+50μm、+100μm平行移動させたときにこの結像面に結像(集光)されるスポットの形状を示している。
【0158】
図6D、7D、・・・16Dは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの上記4種類の入射角(像高)で結像面に入射して結像される像についてのMTF特性を示す図である。
【0159】
図6E、7E、・・・16Eは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの上記4種類の入射角(像高)で結像面に入射して結像される像について、デフォーカスさせたときの、70本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図である。
【0160】
図6F、7F、・・・16Fは、実施例A1〜A4、B1〜B2、C1〜C3、Dの位相補正板付き撮像レンズ、および実施例A0の撮像レンズそれぞれの上記4種類の入射角(像高)で結像面に入射して結像される像について、デフォーカスさせたときの、140本/mmにおけるMTF特性の変化を示す図である。
【0161】
実施例A1の位相補正板付き撮像レンズと、この実施例A1の位相補正板付き撮像レンズから位相補正板を取り除いた比較例A0の撮像レンズとを比較すると、両者の性能に以下のような違いがあることがわかる。
【0162】
すなわち、デフォーカスさせたときの140本/mmにおけるMTF特性について、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズのMTFのピーク値が、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズのMTFのピーク値よりも大幅に低下している。また、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズが、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズを上回る性能を得られるデフォーカス範囲は殆ど生じない。
【0163】
一方、70本/mmにおけるMTF特性について、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズのMTFのピーク値が、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズのMTFのピーク値よりも大幅に低下していることは、上記140本/mmの場合と同様である。しかしながら、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズは、デフォーカスしたときに緩やかにMTFの値が低下し、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズは、デフォーカスしたときに急激にMTFの値が低下する。
【0164】
そのため、MTFの値がピークを示すデフォーカス範囲の近傍から外れたデフォーカス範囲においては、実施例A1の位相補正板付き撮像レンズのレンズ性能が、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズのレンズ性能を上回っている(MTFの値が大きくなる)。
【0165】
すなわち、MTFの値がピークを示すピント位置から外れているときに得られる解像力について比較すると、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズよりも実施例A1の位相補正板付き撮像レンズの方が優れていると言える。
【0166】
したがって、低解像力でも使用可能な用途においては、実施例A0の位相補正板無し撮像レンズよりも実施例A1の位相補正板付き撮像レンズの方が、広いデフォーカス範囲に亘って所望以上の解像力が得られる。すなわち、解像力が低くても使用可能な用途においては、既存の撮像レンズに位相補正板を装着することにより、レンズの明るさや解像力を犠牲にすることなくその撮像レンズの被写界深度を拡大することができる。
【0167】
なお、上記位相補正板付き撮像レンズの70本/mmにおけるMTF特性について、4種類の入射角(像高)で結像面へ結像される像に関して、その結像面をデフォーカスさせたときのMTF特性曲線が示されている。ここで、MTF特性曲線が最大値を示すデフォーカス位置およびMTF特性曲線が最小値を示すデフォーカス位置が、4種類のMTF特性曲線について互に揃っている場合には、上記撮像レンズの解像力および明るさの低下を抑制しつつこの撮像レンズの被写界深度を拡大する顕著な効果を得ることができる。
【0168】
さらに、MTF特性曲線が最大値を示すデフォーカス位置とMTF特性曲線が最小値を示すデフォーカス位置との間隔が離れている方が、すなわち、デフォーカスによるMTF値の低下が緩やかな方が、上記撮像レンズの解像力および明るさの低下を抑制しつつこの撮像レンズの被写界深度を拡大するより大きな効果を得ることができる。
【0169】
なお、上記位相補正板を装着した撮像レンズを通して投影された被写体の光学像を撮像する撮像部と、この撮像部の撮像で得られた被写体を表す画像データに対して復元処理を施す信号処理手段とを備えた撮像システムを構成することもできる。
【0170】
なお、本発明は、上記実施の形態および各実施例に限定されず種々の変形実施が可能である。
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【表2A】

【表2B】

【表2C】

【表3A】

【表3B】

【表3C】

【表4A】

【表4B】

【表4C】

【表5A】

【表5B】

【表5C】

【表6A】

【表6B】

【表6C】

【表7A】

【表7B】

【表7C】

【表8A】

【表8B】

【表8C】

【表9A】

【表9B】

【表9C】

【表10A】

【表10B】

【表10C】

【表11A】

【表11B】

【表11C】

【表12】

【表13】

【表14】

【表15】

【表16】

【表17】

【表18】

【表19】

【表20】

【表21】

【表22】

【表23】

【符号の説明】
【0171】
100 位相補正板
200 撮像レンズ
U1 中央領域
U2 周辺領域
K1 中央領域を通る光
K2 周辺領域を通る光
δ1max 中央領域を通る光の位相差
δ2max 周辺領域を通る光の位相差
Q2 周辺領域を通る光の最も中心側の位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
撮像レンズに装着される位相補正板であって、
該位相補正板の中央領域を通過後の光の位相差の最大値が、該位相補正板の周辺領域を通過後の光の位相差の最大値よりも小さくなるように、かつ、前記周辺領域中の前記中央領域の側から周辺側に行くにしたがって前記位相補正板通過後の光の位相差が増加するように構成されたものであることを特徴とする位相補正板。
【請求項2】
撮像レンズに装着される位相補正板であって、該位相補正板を装着した前記撮像レンズを通して結像面上の各位置に結像された各スポット径のデフォーカス時の変化量それぞれが、前記撮像レンズのみを通して前記結像面上の各位置に対応するように結像されたスポット径のデフォーカス時の変化量よりも小さくなるように構成されたものであることを特徴とする位相補正板。
【請求項3】
前記位相補正板が単レンズであることを特徴とする請求項1または2記載の位相補正板。
【請求項4】
前記単レンズの片面が平面であることを特徴とする請求項3記載の位相補正板。
【請求項5】
前記単レンズの瞳と向き合う面の反対側が平面であることを特徴とする請求項4記載の位相補正板。
【請求項6】
前記中央領域を通る光の位相差は1/2波長未満であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の位相補正板。
【請求項7】
前記周辺領域を通る光の位相差は1/2波長以上であることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項記載の位相補正板。
【請求項8】
前記位相補正板は回転対称形状であることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項記載の位相補正板。
【請求項9】
以下の式を満足することを特徴とする請求項1から8のいずれか1項記載の位相補正板。
5/100<A/(A+B)<100/100
ここで、
A:中央領域の面積
B:周辺領域の面積
A+B:中央領域の面積に周辺領域の面積を加えてなる有効領域の面積
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項記載の位相補正板を装着した撮像レンズを通して投影された被写体の光学像を撮像する撮像手段と、該撮像手段の撮像で得られた前記被写体を表す画像データに対して復元処理を施す信号処理手段とを備えたことを特徴とする撮像システム。
【請求項11】
請求項10記載の撮像システムを備えた撮像装置。
【請求項12】
請求項10記載の撮像システムを備えた携帯電話。
【請求項13】
請求項10記載の撮像システムを備えた車載機器。
【請求項14】
請求項10記載の撮像システムを備えた監視カメラ。
【請求項15】
請求項10記載の撮像システムを備えた内視鏡装置。
【請求項16】
請求項10記載の撮像システムを備えたデジタルカメラ。
【請求項17】
請求項10記載の撮像システムを備えたデジタルビデオカメラ。
【請求項18】
請求項1から9のいずれか1項記載の位相補正板と、1枚以上のレンズとからなるものであることを特徴とするレンズユニット。
【請求項19】
前記位相補正板が、位相補正部分と基台部分とを光軸方向に積層してなる複合体であり、前記位相補正部分と前記基台部分とが互に異なる光学特性を有する部材で形成されたものであることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項記載の位相補正板。
【請求項20】
前記位相補正板が、該位相補正板の周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準として、この位相補正板の中央領域の側から周辺側に行くほど位相補正板通過後の光の位相が進むように形成されたものであることを特徴とする請求項1から9、および請求項19のいずれか1項記載の位相補正板。
【請求項21】
前記位相補正板が、該位相補正板の周辺領域を通る光の最も中心側の位置を基準として、この位相補正板の中央領域の側から周辺側に行くほど位相補正板通過後の光の位相が遅れるように形成されたものであることを特徴とする請求項1から9、および請求項19から20のいずれか1項記載の位相補正板。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6A】
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【図6B】
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【図6C】
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【図6D】
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【図6E】
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【図6F】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図7F】
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【図8A】
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【図8B】
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【図8C】
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【図8D】
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【図8E】
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【図8F】
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【図9A】
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【図9B】
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【図9C】
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【図9D】
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【図9E】
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【図9F】
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【図10A】
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【図10B】
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【図10C】
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【図10D】
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【図10E】
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【図10F】
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【図11A】
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【図11B】
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【図11C】
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【図11D】
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【図11E】
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【図11F】
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【図12A】
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【図12B】
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【図12C】
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【図12D】
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【図12E】
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【図12F】
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【図13A】
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【図13B】
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【図13C】
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【図13D】
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【図13E】
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【図13F】
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【図14A】
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【図14B】
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【図14C】
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【図14D】
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【図14E】
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【図14F】
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【図15A】
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【図15A1】
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【図15B】
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【図15C】
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【図15D】
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【図15E】
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【図15F】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図16F】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27A】
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【図27B】
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【図27C】
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【図27D】
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【公開番号】特開2010−271689(P2010−271689A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−262086(P2009−262086)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】