説明

位置決め制御装置

【課題】状態フィードバック制御により駆動ローラまたは用紙搬送ベルトの高速且つ確実な位置決めが可能な位置決め制御装置を提供する。
【解決手段】この位置決め制御装置は、用紙搬送ベルト駆動機構の位置決め制御を行うものであり、モータと減速機構を含む駆動側慣性体と、用紙搬送ベルトとこれを支えるローラ群とを含む従動側慣性体とが柔結合される2慣性体近似で構成される機構の場合に、従動側慣性体の軸に角度検出器を設けて、この角度検出器の出力を基に用紙搬送機構を状態フィードバック制御するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め制御装置に関し、特に、用紙搬送ベルト駆動を行って位置決め制御するOA機器やFA機器に適用して好適である。
【背景技術】
【0002】
図4は、インクジェット方式プリンタ等に用いられる用紙搬送ベルト駆動機構の構成例である。この構成例では、従動プーリ2側面部にエンコーダホイール6が取り付けてあり、エンコーダホイール6円周部に刻まれているスリットの数をエンコーダセンサ5で読み取ることにより、検出装置10で従動プーリ角度を検出し、制御装置20で従動プーリ角度をもとに移動量を計算し、駆動装置30では計算された移動量と目標とする移動量との差異がなくなるようにモータ4を回転駆動してフィードバック制御する構成となっている。
【0003】
この場合、駆動プーリ1から従動プーリ2まではタイミングベルト3で接続され、従動プーリ2と駆動ローラ8とはシャフト7で接続されている。
しかし、コストや構造上の制約によりシャフト7の剛性には限度があり、従動プーリ2と駆動ローラ8間にトルクが作用するとそこに捩れが発生し、従動プーリ角度と駆動ローラ角度とに差異を生じる。
【0004】
したがって、従動プーリ角度を検出して用紙搬送ベルト9の位置決め制御を行っても、従動プーリ2の角度を制御していることになり、用紙搬送ベルト9の駆動ローラ8を直接制御することができない。
【0005】
そこで、従動プーリ2側ではなく駆動ローラ8側の軸にエンコーダを取付け、駆動ローラ8の角度を直接検出する構成を考えると、制御ループ内にシャフト回りの捩れが存在することになってしまう。
このように、トルク伝達機構に弾性体要素が含まれていると、慣性体の慣性モーメントと関係して共振系を成すようになる。
【0006】
以上のことは、図5で示すようなモータ側(駆動側慣性体)と負荷側(従動側慣性体)が捩れのあるバネ系により結合されている2慣性系の物理モデルとして説明できる。
このような2慣性系では、目的値追従性と外乱抑制性を向上させようとすると、モータ側は指示通り動こうとするが、負荷側には振動が生じてしまう。制御の目的は、負荷側を指令通りに動かすことであるため、この振動は好ましくない。
【0007】
この場合の共振周波数ωは以下の式で計算することができる。
ω=√(K(1/J+1/J))
ここで、J:駆動側慣性モーメント、J:従動側慣性モーメント、K:捩り軸バネ定数である。
【0008】
また、上記のような捩り振動を制御する技術としては、特許文献1、2、3がある。
【特許文献1】特許第3244184号公報
【特許文献2】特許第3266391号公報
【特許文献3】特開平11−282539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述のような2慣性系を上記のような従来の制御手法(PID(Proportional Integral Derivative)や位相補償等)で制御しようとすると、制御対象の出力の1変数のみで制御を行うため、制御対象の共振周波数において位相遅れの増大が問題となり、これを越えて制御を行うことは困難である。
一方、状態フィードバック制御による方法では、制御対象の内部状態すべてを扱うため、制御対象が線形システムとみなせる範疇では、状態フィードバック制御することにより、共振周波数を越えて制御することが可能となる。
【0010】
本発明は、上述の実情を考慮してなされたものであって、状態フィードバック制御により駆動ローラまたは用紙搬送ベルトの高速且つ確実な位置決めが可能な位置決め制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、用紙搬送ベルト駆動機構の位置決め制御を行う位置決め制御装置において、モータと減速機構を含む駆動側慣性体と、用紙搬送ベルトとこれを支えるローラ群とを含む従動側慣性体とが柔結合される2慣性体近似で構成される機構の場合に、従動側慣性体の軸に角度検出器を設けて、この角度検出器の出力を基に用紙搬送機構を状態フィードバック制御することを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、用紙搬送ベルト駆動機構の位置決め制御を行う位置決め制御装置において、モータと減速機構を含む駆動側慣性体と、用紙搬送ベルトとこれを支えるローラ群とを含む従動側慣性体とが柔結合される2慣性体近似で構成される機構の場合に、従動側慣性体の一部である用紙搬送ベルト面上に位置検出器を設けて、この位置検出器の出力を基に用紙搬送機構を状態フィードバック制御することを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、状態推定を行う手段として、状態オブザーバを用いることを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、機構の負荷を推定する手段として外乱オブザーバを用いることを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、予め制御対象モデルを用いて、要求仕様を満たす最適な状態軌道系列および操作量系列を求めておき、これらの系列でフィードフォワード制御を行い、誤差修正としてフィードバック制御を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、従動側慣性体の一部である駆動ローラの角度を検出することにより、用紙搬送ベルトを駆動するローラ角度を観測できるため、負荷トルクにより従動プーリと駆動ローラ間のシャフトが捩れる場合でも、確実な駆動ローラの位置制御が可能になる。
【0017】
また、従動側慣性体の一部である用紙搬送ベルトの位置を検出することにより、用紙搬送ベルトの位置を直接観測できるため、負荷トルクにより従動プーリと駆動ローラ間のシャフトが捩れる場合でも、確実な搬送ベルトの位置制御が可能になる。
【0018】
さらに、捩れを有する2慣性体を制御する場合には、状態フィードバック制御が有効であり、その実装上、状態の検出個所や個数が制限されることから、状態オブザーバを用いて推定することで制御が可能になる。
ここで、状態オブザーバを用いて状態を推定する場合、制御対象の入力と出力から内部状態を推定するが、一般に制御対象には外乱(負荷)が混入する。このため状態推定誤差を低減するためには外乱の推定が必要となり、外乱オブザーバを用いることにより推定誤差を低減できる。
【0019】
また、予め制御対象モデルを用いて、要求仕様を満たす最適な状態軌道系列および操作量系列を求めておき、これらの系列でフィードフォワード制御を行い、誤差修正としてフィードバック制御を用いることにより、フィードバック制御のみでは得られない高い応答性が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。この実施形態においては、インクジェット方式の用紙搬送ベルト駆動機構を例にして説明するが、これに限ったものではなく、2慣性系の物理モデルで表現される位置決め機構であれば適用可能である。
【0021】
図1は、実施形態1に係るインクジェット方式の用紙搬送ベルト駆動機構、図2は実施形態2に係るインクジェット方式の用紙搬送ベルト駆動機構を示す構成図である。図1および図2において、図4と同じものは同じ符号を付してその説明を省略する。
【0022】
図1は、用紙搬送ベルト9を駆動ローラ8の軸の延長上にエンコーダホイール6を設け、エンコーダセンサ(角度検出器)5で駆動ローラ8の軸の回転角度を検出する構成であり、エンコーダホイール6と駆動ローラ8間のシャフト7には殆どトルクがかからないため、駆動ローラ軸角度がそのままエンコーダを通して読み取ることができる。
【0023】
また、図2は、用紙搬送ベルト9の裏面に位置読取用のリニアスケール11を貼りつけ、これをセンサ12で読み取ることで用紙搬送ベルト9の位置を検出する構成であり、回転軸の偏心やベルト厚みの影響を受けずに直接用紙搬送ベルト9の位置を検出できる。
【0024】
これら何れの場合でも、従動プーリ2にエンコーダを設けてその角度を読み取る場合と比べて、より用紙上のインク着弾位置に近い場所で位置検出しているために、精度よく位置情報を得ることができる。
【0025】
また、制御ループ内に従動プーリ⇔駆動ローラ間の機構捩れが存在するため、従来の制御法では位置決め制御が困難であるが、これは状態フィードバック制御方式により解決できる。
【0026】
図3は、本発明による状態フィードバック制御系の全体構成図を示している。
状態フィードバック制御を実現するためには、全ての状態変数を知っておく必要があり、このままでは状態フィードバック制御することができないが、実際の制御対象では状態観測できるものは限られることが多い。
【0027】
そこで、状態フィードバック制御を実現するために、まず、制御対象50の内部状態Xを推定する状態推定部23を用意する。このとき状態推定部23の入力として、操作量τと観測出力θのほかに外乱トルクτが必要である。
しかし、一般には外乱トルクτの計測は困難であることから、簡単にするために外乱トルクを零、または一定値に設定することが考えられるが、いずれも実際に発生する外乱トルクとの差異により状態推定部23の出力に大きな誤差を生じるため、系を不安定化させる恐れがある。
【0028】
この点に関しては、さらに外乱トルクτLEを推定するための外乱推定部24を追加する。これにより、推定したトルク値τLEを状態推定部23に入力することで、状態推定誤差を低減し、負荷変動に対するロバスト性を向上させることができる。
【0029】
さらに、目標仕様を満足する制御対象の動きについて、予めその動的モデルを用いて予測される状態軌道や操作量が得られる場合には、それらの値を操作量軌道系列や状態軌道系列として、それぞれフィードフォワード制御部21内部の操作量軌道系列記憶部21aや状態軌道系列記憶部21bに用意しておき、実時間で系列を出力し、フィードフォワード制御することにより、動的モデルに基づいた理想に近い応答をさせることができる。
【0030】
次に、図1〜図3を用いて、状態フィードバック制御方式の動作について説明する。
図1または図2に示すように、駆動ローラ8軸に取り付けられた角度検出器(エンコーダセンサ5)、または、用紙搬送ベルト9に取り付けられた位置検出器(センサ12)から得られるエンコーダ出力は角度(位置)に応じたパルスが出力され、検出装置10でこのパルス数をカウントすることにより、現在の変位情報(角度・位置)を得ることができる。また、パルス入力の前段処理として方向判別も同時に行うことで、双方向動作が可能となる。
【0031】
制御装置20内では、図3に示すように、得られた変位情報が、外乱推定部24と状態推定部23に入力される。
また、状態フィードバック制御部22から出力される操作量τは、制御対象50に入力されると共に、外乱推定部24と状態推定部23にも入力される。制御対象50から被制御量(観測出力)として出力される。ここでは、被制御量として回転角θを用いて説明する。
【0032】
外乱推定部24では、操作量τと回転角θから制御対象のモデルを使って、駆動ローラ8回りに印加される外乱トルクτLEを推定し、その推定値は状態推定部23に入力されると共に、操作量τの補正に用いられる。
【0033】
状態推定部23では、予め推定しておいた外乱トルクτLE、および操作量τと回転角θから制御対象のモデルを使って、制御対象50の内部状態X(ωME,ωLE,θME,θLE)を推定する。ここで、ωMEは駆動側角速度、ωLEは従動側角速度、θMEは駆動側角度、θLEは従動側角度の推定値である。
このとき、常に推定状態θLEと回転角θとを比較し、誤差が生じたときにはフィードバックゲインの効果によって回転角θに合わせて推定状態θLEを修正する動作を行う。
【0034】
状態フィードバック制御部22では、制御対象50の内部状態Xと目標状態Xとの偏差に対し、状態フィードバックを行うことで、操作量τを算出し、これに推定した外乱トルクによる補正を行った操作量を制御対象50の入力とする。
【0035】
この際、予め制御対象50の動的モデルを用いて、予測される状態軌道や操作量が得られる場合には、それらの値を操作量軌道系列記憶部21aや状態軌道系列記憶部21bから実時間で出力することで、目標状態Xおよび目標操作量Uを生成してもよい。この場合には、フィードフォワード制御の効果により、フィードバック制御のみでは得られない理想的な応答を得ることができる。
【0036】
そして、駆動装置30内では、図1または図2に示すように、操作量に基づいて電源から必要な電流をモータ4に供給する。操作量が指令電流値を指し示している場合には、この指令電流と実際にモータ4に流れる電流が一致するように内部で電流制御が行われ、必要な電圧がモータ4に印加される。あるいは、印加電圧相当のPWM電圧でモータ4が駆動されて用紙搬送ベルト9が動作する。
【0037】
以上、説明したように、制御ループ内に弾性体要素を含む機構が存在する場合でも、状態フィードバック制御を行うことにより、トルク伝達時の捩れの影響を受けない高精度な位置決めが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態1に係るインクジェット方式の用紙搬送ベルト駆動機構を示す構成図である。
【図2】実施形態2に係るインクジェット方式の用紙搬送ベルト駆動機構を示す構成図である。
【図3】本発明による状態フィードバック制御系の全体構成図である。
【図4】インクジェット方式プリンタ等に用いられる用紙搬送ベルト駆動機構の構成例である。
【図5】制御対象となる柔結合された2慣性系の物理モデルである。
【符号の説明】
【0039】
1…駆動プーリ、2…従動プーリ、3…タイミングベルト、4…モータ、5…エンコーダセンサ、6…エンコーダホイール、7…シャフト、8…駆動ローラ、9…用紙搬送ベルト、11…リニアスケール、12…センサ、10…検出装置、20…制御装置、21…フィードフォワード制御部、21a…操作量軌道系列記憶部、21b…状態軌道系列記憶部、22…状態フィードバック制御部、23…状態推定部、24…外乱推定部、30…駆動装置、50…制御対象。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
用紙搬送ベルト駆動機構の位置決め制御を行う位置決め制御装置において、モータと減速機構を含む駆動側慣性体と、用紙搬送ベルトとこれを支えるローラ群とを含む従動側慣性体とが柔結合される2慣性体近似で構成される機構の場合に、従動側慣性体の軸に角度検出器を設けて、この角度検出器の出力を基に用紙搬送機構を状態フィードバック制御することを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項2】
用紙搬送ベルト駆動機構の位置決め制御を行う位置決め制御装置において、モータと減速機構を含む駆動側慣性体と、用紙搬送ベルトとこれを支えるローラ群とを含む従動側慣性体とが柔結合される2慣性体近似で構成される機構の場合に、従動側慣性体の一部である用紙搬送ベルト面上に位置検出器を設けて、この位置検出器の出力を基に用紙搬送機構を状態フィードバック制御することを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、状態推定を行う手段として、状態オブザーバを用いることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、機構の負荷を推定する手段として外乱オブザーバを用いることを特徴とする位置決め制御装置。
【請求項5】
請求項1または2に記載の位置決め制御装置において、状態フィードバック制御を実現するにあたり、予め制御対象モデルを用いて、要求仕様を満たす最適な状態軌道系列および操作量系列を求めておき、これらの系列でフィードフォワード制御を行い、誤差修正としてフィードバック制御を用いることを特徴とする位置決め制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−335529(P2006−335529A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−163514(P2005−163514)
【出願日】平成17年6月3日(2005.6.3)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】