説明

位置決め装置

【課題】簡便かつ安価な構成で、可動部材の傾きを抑えながら位置決め制御できる位置決め装置を提供する。
【解決手段】位置決め装置10は、圧電素子14、圧電素子14の一端に固定された駆動部材16、および、駆動部材16上に移動可能に摩擦保持された可動部材18からなる圧電アクチュエータ20と、圧電素子14を駆動する駆動回路21と、可動部材18の位置を検出する位置センサ25と、位置センサ25からの信号を処理する検出回路26と、検出回路26による位置検出値に基づいて駆動回路21に駆動指令信号を与えることで可動部材18の位置フィードバック制御を行う制御回路28とを備え、可動部材18の位置決め動作の際、制御回路28は、可動部材18が目標停止位置に一旦到達した後に、オーバーシュートを伴う位置決め制御を所定時間以上さらに継続する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置決め装置に関し、例えばカメラや光ピックアップにおけるレンズ駆動や精密ステージ駆動などに好適に用いられる位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1には、圧電素子を用いた駆動装置における移動部材の位置検出装置が開示されている。この駆動装置では、圧電素子の一端に駆動軸が連結され、この駆動軸に可動部材が摩擦係合されており、圧電素子に電圧を印加することにより伸び速度と縮み速度とが異なる伸縮振動させて、この振動を駆動軸に伝達することによって移動部材を駆動軸上で移動させるようになっている。そして、一定間隔で凹凸部が形成された検出部材を駆動軸と微小空隙を隔てて平行に配置し、可動部材の移動に伴って可動部材と検出部材との間の空隙(すなわち静電容量)が周期的に変化するのを利用して、可動部材から検出部材に流れる電流の変化を検出することにより、可動部材の位置を検出するようになっている。
【0003】
また、図9に、位置センサ付き摩擦駆動型圧電アクチュエータSを示す。この圧電アクチュエータSでは、固定部1に一端が固定された圧電素子2の他端に駆動軸3が固定されており、駆動軸3上に可動部材4が移動可能に保持されている。可動部材4は、駆動軸3上に摩擦力で係合する摩擦保持部5と、摩擦保持部5に連結されて図示しないレンズを保持するレンズホルダ6とからなっている。また、摩擦保持部5の中央部に摩擦保持点Xが位置している。
【0004】
レンズホルダ6の端部近傍には、駆動軸3と平行に配設されたガイド軸7が係合しており、このガイド軸7によって駆動軸3を中心とする回動が規制されながら駆動軸3に沿って移動する可動部材4がガイドされるようになっている。また、レンズホルダ6の端部には、磁石8が付設されており、この磁石8に対向するように磁気センサ9が固定配置されている。
【0005】
このような構成からなる圧電アクチュエータSにおける可動部材4の駆動原理は、上述した特許文献1の駆動装置と全く同じであり、可動部材4の位置検出方法が磁気方式によるものである点において異なるだけである。
【0006】
前記圧電アクチュエータSにおいて、可動部材4の位置決め制御を行って可動部材4が目標とする停止位置に到達したとき直ちに可動部材4の駆動を停止すると、慣性モーメントによって可動部材4が矢印C方向に傾く現象が発生する。この現象は、可動部材4でレンズなどの光学素子を駆動する場合に問題となる。例えば前記圧電アクチュエータSを光ディスク装置における収差補正駆動に用いた場合、レンズの位置決め完了後にレンズに傾きが生じると、トラッキングエラーが発生することになる。この問題は、静電容量方式で可動部材の位置検出を行う特許文献1に開示される駆動装置を光ディスク装置に用いて収差補正用レンズを駆動する場合も同様である。
【0007】
図10に可動部材4の位置とレンズ傾きの関係を示すが、可動部材4が目標位置に到達したとき直ちに駆動を停止すると、レンズ傾きは次第に減衰するものの停止直後にはレンズ傾きはかなり大きくなっている。
【0008】
【特許文献1】特開2003−185406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、簡便かつ安価な構成で、可動部材の傾きを抑えながら位置決め制御できる位置決め装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明の第1態様の位置決め装置は、電気機械変換素子、前記電気機械変換素子の一端に固定された駆動部材、および、前記駆動部材上に移動可能に摩擦保持された可動部材からなる圧電アクチュエータと、
前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路と、
前記可動部材の位置を検出する位置センサと、
前記位置センサからの信号を処理する検出回路と、
前記検出回路による位置検出値に基づいて前記駆動回路に駆動指令信号を与えることで前記可動部材の位置フィードバック制御を行う制御回路と、を備えた位置決め装置であって、
前記可動部材の位置決め動作の際、前記制御回路は、前記可動部材が目標停止位置に一旦到達した後に、オーバーシュートを伴う位置決め制御を所定時間以上さらに継続することを特徴とするものである。
【0011】
この構成によれば、可動部材が目標停止位置に一旦到達した後にオーバーシュートさせてから戻すというような位置決め制御を所定時間以上さらに継続してから可動部材を駆動停止することにより、目標停止位置に到達したとき直ちに可動部材を駆動停止する場合に比べて、可動部材の位置決め時の傾きをごく僅かに抑えることができる。また、可動部材をオーバーシュートさせてから戻すというような位置決め制御は、通常用いられる制御回路で対応可能であるので、構成を簡便かつ安価なものにできる。
【0012】
本発明の第1態様の位置決め装置において、前記所定時間は、前記可動部材の摩擦保持点を中心とする慣性モーメントと前記駆動部材に対する前記可動部材の摩擦保持トルクとから決まる前記可動部材の固有振動周期の半分の時間であってもよい。
【0013】
この構成によれば、可動部材の駆動停止時に発生する可動部材の傾きは減衰振動するので、前記オーバーシュートを伴う位置決め制御を前記固有振動周期の半分以上の時間継続することで可動部材の傾きは問題がない程度に十分に小さいものになる。
【0014】
また、本発明の第1態様の位置決め装置において、前記所定時間が、前記固有振動周期のn/2(nは1から始まる自然数)であってもよい。
【0015】
この構成によれば、前記固有振動周期のn/2の時間で前記オーバーシュートを伴う位置決め制御を停止することで、可動部材の傾きが無い状態で可動部材を位置決めすることができる。
【0016】
本発明の第2態様の位置決め装置は、電気機械変換素子、前記電気機械変換素子の一端に固定された駆動部材、および、前記駆動部材上に移動可能に摩擦保持された可動部材からなる圧電アクチュエータと、
前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路と、
前記可動部材の位置を検出する位置センサと、
前記位置センサからの信号を処理する検出回路と、
前記検出回路による位置検出値に基づいて前記駆動回路に駆動指令信号を与えることで前記可動部材の位置決め制御を行う制御回路と、を備えた位置決め装置であって、
前記位置センサが、前記可動部材に設けられた磁界発生部材と、固定部に設けられた磁気検出部材とからなり、前記可動部材の摩擦保持点を基準として前記可動部材の重心が位置する方向と反対方向において前記磁界発生部材が前記可動部材に設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
この構成によれば、磁界発生部材を可動部材の駆動部材側に設けたことで、可動部材の慣性モーメントが小さくなるので、可動部材を位置決め停止したときの可動部材の傾きを小さくすることができる。
【0018】
本発明の位置決め装置において、前記可動部材が光学素子を保持してもよい。
【0019】
この構成によれば、可動部材を位置決め停止したときの光学素子の傾きを小さくすることができる。
【0020】
また、本発明の位置決め装置において、前記光学素子の光軸と、前記可動部材の移動方向が平行であることが好ましい。
【0021】
この構成によれば、収差補正すべき光線が光学素子の光軸に常に一致した状態で可動部材を移動させることができる。
【0022】
また、本発明の位置決め装置において、前記光学素子が撮影光学系の一部をなしてもよい。
【0023】
また、本発明の位置決め装置において、前記光学素子が光ピックアップ光学系の一部をなしてもよい。この場合、前記光学素子が光ピックアップ光学系のレンズであり、前記レンズが光軸方向に移動することにより収差補正を行ってもよい。
【0024】
この構成によれば、レンズの傾きを抑えながら可動部材を位置決めでるので、精度良く収差補正することができる。
【0025】
さらに、前記可動部材が目標停止位置に一旦到達した後に行うオーバーシュートを伴う位置決め制御の継続時間は、光ディスク回転周期以上であってもよい。
【0026】
この構成によれば、光ディスク1周内で発生する光ディスクの保護層の厚み変化に基づく収差をリアルタイムに補正することが可能になり、光ディスク装置の信頼性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0027】
上述したように本発明の位置決め装置によれば、可動部材が目標停止位置に一旦到達した後にオーバーシュートさせてから戻すというような位置決め制御を所定時間以上さらに継続してから可動部材を駆動停止することにより、目標停止位置に到達したとき直ちに可動部材を駆動停止する場合に比べて、可動部材の位置決め時の傾きをごく僅かに抑えることができる。また、可動部材をオーバーシュートさせてから戻すというような位置決め制御は、通常用いられる制御回路で対応可能であるので、構成を簡便かつ安価なものにできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の第1実施形態である位置決め装置10のシステム構成図である。この位置決め装置10は、固定部12に接着等の方法で一端が固定された電気機械変換素子としての圧電素子14と、圧電素子14の他端に接着等の方法で固定された例えば丸棒状の駆動部材16と、駆動部材16上に摩擦保持されている可動部材18とからなる圧電アクチュエータ20を備えている。
【0029】
可動部材18は、圧電素子14の伸縮方向である矢印D方向に駆動部材16に沿って移動可能になっている。また、可動部材18は、図9に示す可動部材4と同様に、駆動部材16上に摩擦力で係合する摩擦保持部と、この摩擦保持部に連結されて図示しないレンズ(光学素子)を保持するレンズホルダとからなっており、このレンズの光軸が可動部材18の移動方向と平行になっている。また、可動部材18が駆動部材16に沿って移動するときにガイド軸によって駆動部材16を中心とする回動が規制されながらガイドされるようになっている点も図9に示す圧電アクチュエータSと同様である。さらに、可動部材18の摩擦保持部の中央部に摩擦保持点Xが位置している点も前記圧電アクチュエータSと同様である。
【0030】
圧電アクチュエータ10が例えばカメラ等の撮影装置に適用される場合には、前記レンズは撮影光学系の一部を構成し、圧電アクチュエータ10が光ピックアップ装置に適用される場合には、前記レンズは光ピックアップ光学系の一部を構成する。さらに、圧電素子14は、駆動回路21から電圧が印加されて駆動されるようになっている。なお、電気変換素子は例えばピエゾ素子等の圧電素子に限定されず、他の電歪素子であってもよい。
【0031】
可動部材18には、磁界発生部材22が取り付けられている。磁界発生部材22は、可動部材18と共に移動するようになっている。この磁界発生部材22に対向するようにして固定部12上に磁界検出部材24が固定されている。磁界検出部材24は、磁界発生部材22により生成される磁界を検出するものである。磁界検出部材24として、例えばホール素子やMR素子などが好適に用いられる。これら磁界発生部材22および磁界検出部材24が、可動部材18の位置を検出する位置センサ25を構成する。
【0032】
磁界検出部材24は、検出回路26に電気的に接続されており、磁界検出部材24による検出信号が検出回路26に入力されるようになっている。検出回路26は、前記検出信号に基づいて演算処理することにより可動部材18の位置を求めるものである。検出回路26は、制御回路28に電気的に接続されており、検出回路26による位置検出値が制御回路28に入力されるようになっている。制御回路28は、前記位置検出値に基づいて駆動回路21に駆動指令信号を与えることで、可動部材18の位置決めフィードバック制御を行うためのものである。
【0033】
続いて、前記圧電アクチュエータ10の作動原理について説明する。図2は駆動部材16上における可動部材18の移動状態を示す模式図であり、図3は駆動部材16の軸変位を時間軸に示したグラフである。つまり、図3に示すような軸変位動作を駆動部材16が為すように、圧電素子14に対して鋸歯状の駆動パルス電圧が印加されるものである。なお、図2中のa,b,cの各状態と、図3中に示す記号a,b,cの時間ポイントとは一致させて描いている。
【0034】
まず、図2のa状態を初期状態とすると、この初期状態から図2のb状態に移行するとき、前記鋸歯状駆動パルス電圧の緩慢な立ち上がり部の電圧が印加されることによって圧電素子14は緩やかに伸長し、これに伴って駆動部材16も図3に示すように緩やかな速度で繰り出し方向に変位する。このとき、駆動部材16に摩擦係合された可動部材18は、その摩擦係合力により駆動部材16と同期追随して移動する。次に、図2のb状態からc状態へ移行するとき、前記鋸歯状駆動パルス電圧の急峻な立ち下がり部の電圧が印加されることによって圧電素子14は急速に収縮し、これに伴って駆動部材16も図3に示すように急速に戻り方向に変位する。このとき、可動部材18と駆動部材16の摩擦係合部に滑りが生じることになる。この滑りにより、可動部材18は駆動部材16の軸変位に追随して変位せず、戻り方向に僅かに移動するだけになり、その結果として、初期状態であるa状態と比べると、c状態では可動部材18は繰り出し方向に移動している。このような動作が繰り返されることにより、可動部材18は駆動部材16上を圧電素子14から離れる方向である繰り出し方向に移動されることになる。
【0035】
一方、可動部材18は、上述したのと逆の原理で圧電素子14に近づく方向である戻り方向に移動される。すなわち、鋸歯状駆動パルス電圧の急峻な立ち上がり部の電圧が印加されることによって圧電素子14は急速に伸長し、これに伴って駆動部材16も急速に繰り出し方向に移動する。このとき、可動部材18と駆動部材16の摩擦係合部に滑りが生じ。この滑りにより可動部材18は駆動部材16の軸変位に追随して変位せず、繰り出し方向に僅かに移動するだけになる。次に、鋸歯状駆動パルス電圧の緩慢な立ち下がり部の電圧が印加されることによって圧電素子14は緩やかに収縮し、これに伴って駆動部材16も緩やかな速度で戻り方向に移動する。このとき、駆動部材16に摩擦係合された可動部材18は、その摩擦係合力により駆動部材16と同期追随して戻り方向に変位する。その結果、初期状態と比べると、可動部材18は戻り方向に移動している。このような動作が繰り返されることにより、可動部材18は駆動部材16上を戻り方向に移動されることになる。
【0036】
続いて、図4を参照して前記位置センサ25および検出回路26について詳細に説明する。
位置センサ25を構成する磁界発生部材22は、厚さ方向に正着磁(つまり、磁界検出部材24に対向する面がN極で、その裏面がS極)された略三角形状の第1磁石22aと、厚さ方向に負着磁(つまり、磁界検出部材24に対向する面がS極で、その裏面がN極)された略三角形状の第2磁石22bとを備えており、第1磁石22aおよび第2磁石22bの各斜辺同士を対向させて固着した略四角形状をなしている。このような磁界発生部材22であれば、N極部分とS極部分とが斜面形状に応じて、緩やかに入れ替わることとなる。したがって、かかる磁界発生部材22が可動部材3と共に矢印D方向に移動された場合、定点で磁界観測すると、検出される表面磁束密度が略線形に変化するように検出されることとなる。
【0037】
このような磁界発生部材22が磁界検出部材24に対向するように可動部材18に固定されている。そして、磁界検出部材24は、磁界発生部材22の移動方向に沿って第1の磁界検出素子24aと第2の磁界検出素子24bとが固定的に並置されて構成されている。したがって、磁界発生部材22が矢印D方向に移動すると、第1の磁界検出素子24aおよび第2の磁界検出素子24b周辺の磁界が、磁界発生部材22から与えられる表面胃磁束密度の変化に応じてそれぞれ変化するため、第1,第2の磁界検出素子24a,24bが検出する出力信号も変化することとなる。しかも、第1の磁界検出素子24aと第2の磁界検出素子24bとが同時刻において検出する磁束密度は、磁界発生部材22がN極部分からS極部分へ緩やかに変化する形状を備えていることから、それぞれの配置位置に応じて異なる磁束密度が検出されることとなる。すなわち、磁界発生部材22の表面磁束密度は、その移動方向に対して、図中左端近傍で正の最大値をとり、中央部でゼロになり、図中右端近傍で負の最大値(絶対値)をとり、またその変化は略線形となることから、第1の磁界検出素子24aと第2の磁界検出素子24bとからは、同時刻において異なる表面磁束密度が検出されるものである。
【0038】
検出回路26は、演算増幅器からそれぞれなる第1の加算器26aおよび第2の加算器26bと、第1の加算器26aおよび第2の加算器26bの各出力値に基づいて演算処理を行う演算器26cとを備えている。
【0039】
第1の加算器26aは、第1の磁界検出素子24aが磁界を検出して出力する出力電気信号を増幅するもので、第1の磁界検出素子24aのプラス側端子30aが第1の加算器26aの非反転入力端子に接続されている。また、第1の磁界検出素子24aのマイナス側端子32aは、第1の加算器26aの反転入力端子に接続されている。
【0040】
一方、第2の加算器26bは、第2の磁界検出素子24bが磁界を検出して出力する出力電気信号を増幅するもので、第2の磁界検出素子24bのプラス側端子30bが第2の加算器26bの反転入力端子に接続されている。また、第2の磁界検出素子24bのマイナス側端子32bは、第2の加算器26bの非反転入力端子に接続されている。
【0041】
演算器26cは、第1の磁界検出素子24aから出力される電気信号を出力A、第2の磁界検出素子24bから出力される電気信号を出力Bとするときに、次式(1)に基づいて演算を行い、その演算結果を位置検出値として制御回路28に送信する。
【0042】
【数1】

【0043】
このような(A−B)/(A+B)の演算処理を演算器26cにおいて実行させる目的は、検出回路26が検出する可動部材18の位置信号の動作環境温度特性を改善させることにある。すなわち、一般に磁石は環境温度が変化すると、その温度特性により磁束密度が変化する。例えば環境温度が上昇した場合、磁界発生部材22が備える第1磁石22aおよび第2磁石22bがもつ温度特性によって、その表面磁束密度が低下することになる。これに伴い、第1,第2の磁界検出素子24a,24bの出力値も、環境温度の上昇に伴い低下する傾向がある。演算器26cは、このような動作環境温度の変化による第1,第2の磁界検出素子24a,24bの出力値低下の影響を受けずに可動部材18の位置検知が行い得るように、演算処理を行うものである。
【0044】
なお、本実施形態では、位置センサとして磁気方式のものを用いたが、これに限らず、他の方式(例えば静電容量式や光学式など)の位置センサを用いてもよい。
【0045】
次に、前記位置決め装置10の位置フィードバック制御について説明する。
図5は、本実施形態の位置決め装置10における可動部材18の位置とレンズ傾きの関係を示す。位置決め装置10において、例えば撮影装置の本体制御部から位置指令信号が制御回路28に入力されると、制御回路28は駆動回路21に駆動指令信号を送信する。これにより、駆動回路21が圧電素子14に駆動電圧を印加することで、可動部材18が駆動される。可動部材18の位置は、位置センサ25によって随時検出され、その位置検出値が検出回路26から制御回路28に入力される。制御回路28は、図5に示すように、指令された目標位置と、位置センサ25による位置検出値との差がゼロになるまで、可動部材18を駆動する。
【0046】
可動部材18が目標位置に到達したとき、直ちに可動部材18の駆動を停止すると、可動部材18が有する慣性モーメントによって可動部材18に傾きが生じ、可動部材18に保持されたレンズにも傾きが発生する。この可動部材18の傾きを、駆動部材16に対する直交面からの角度θとすると、次式(2)で表すことができ、これを具体的にグラフ化したものが図6である。
【0047】
なお、下記の運動方程式において、Jは可動部材18の駆動部材16に対する摩擦保持点Xを基準とする慣性モーメント、Cは振動減衰係数、Kはバネ定数を示す。ここで、図9を参照すると、可動部材4の摩擦保持部5は、図示しない板ばね等の付勢部材の付勢力によって駆動部材3に対して圧接されていることで摩擦保持部5と駆動部材3との間に所定の摩擦力を生じることになるが、摩擦保持部5は前記付勢部材によって駆動部材3に押し付けられているだけなので、レンズホルダ6および摩擦保持部5を含む可動部材4は図示する状態から矢印C方向(または逆方向)に或る程度の角度範囲で弾性的復元力をもって回動可能になっている。そのために上述したような可動部材およびレンズの傾きが生じることになるのだが、このときの弾性的復元力を前記バネ定数Kで表したものであり、このバネ定数Kは摩擦保持トルクとも表現される。このバネ定数K(すなわち摩擦保持トルク)は、本実施形態の位置決め装置10についても同様である。
【0048】
【数2】

【0049】
図6に示すように、目標位置到達後直ちに可動部材18を駆動停止した場合には、停止直後にレンズを保持する可動部材18にはかなり大きな傾きが生じることになる。そこで、本実施形態の位置決め装置10では、可動部材18(すなわちレンズ)の傾きを抑えるために、可動部材18が目標停止位置に一旦到達した後に、次のような位置フィードバック制御を所定時間以上さらに継続する。
【0050】
図5に示すように、制御回路28は、可動部材18が目標停止位置に到達した後もさらに可動部材18の駆動を継続して僅かにオーバーシュートさせから逆方向に駆動して戻すというような位置決め制御を少なくとも1回以上行う。このような制御を行うことで、目標停止位置に到達したとき直ちに可動部材18を駆動停止する場合(図10参照)に比べて、可動部材18およびレンズの傾きをごく僅かに抑えることができる。また、可動部材18をオーバーシュートさせてから戻すというような位置フィードバック制御は、通常用いられる一般的な制御回路28で対応可能であるので、構成を簡便かつ安価なものにできる。
【0051】
上述したような可動部材18をオーバーシュートさせる制御は、次のようにして行われる。本実施形態の位置決め装置10は、図7に示す制御ブロック図で表すことができ、制御回路28は、その運動方程式に基づいて可動部材18の位置xの挙動がオーバーシュートを伴う減衰振動的なものになるように積分ゲインKiを選択する。
【0052】
【数3】

【0053】
なお、上記のような制御回路はPIコントローラと一般的に称され、Pは比例を、Iは積分をそれぞれ意味する。また、Kpを比例ゲイン、Kiを積分ゲインと言い、Kiを上述のように選択するとオーバーシュートが出る制御系になる。
【0054】
このようなオーバーシュートを伴う位置決め制御を継続する所定時間は、可動部材18の摩擦保持点Xを中心とする慣性モーメントと駆動部材16に対する可動部材18の摩擦保持トルクとから決まる可動部材18の固有振動周期frの半分以上の時間であることが好ましい。このようにすれば、可動部材18の駆動停止時に発生する可動部材18の傾きは減衰振動するので、オーバーシュートを伴う位置決め制御を固有振動周期frの半分以上の時間継続することで可動部材18の傾きは問題がない程度に十分に小さいものになる。
【0055】
前記所定時間の上限は、特に限定されるものではないが、あまり長くなるとレンズの位置決めに時間がかかって撮影装置や光ピックアップ装置などの使い勝手が悪くなる。例えば前記位置決め装置10がDVDドライブの光ピックアップ光学系に用いられた場合には、DVDドライブの平均アクセス時間が約150msecであり、ピックアップ用レンズの位置決めに要する時間はその10分の1程度に収まっている必要があることから、この場合における前記所定時間の上限は例えば15msecが適当である。
【0056】
また、前記所定時間を、前記固有振動周期frのn/2(nは1から始まる自然数)としてもよい。具体的には、図5のレンズ傾きを示す時間軸上における丸印34,36,38の位置が固有振動周期frのn/2の時間になる。このようにすれば、固有振動周期frのn/2の時間でオーバーシュートを伴う位置決め制御を停止することで、可動部材18の傾きが無い状態で可動部材18を位置決めすることができる。
【0057】
ここで、可動部材18の固有振動周期は次式(3)で表される。
【数4】

【0058】
次に、図8を参照して本発明の第2実施形態の位置決め装置40について説明する。
位置決め装置40は、従来例として説明した圧電アクチュエータSとほぼ同様の構成を備えている。すなわち、圧電アクチュエータ40では、固定部42に一端が固定された圧電素子44の他端に駆動部材46が固定されており、駆動部材46上に可動部材48が移動可能に保持されている。可動部材48は、駆動部材46上に摩擦力で係合する摩擦保持部50と、摩擦保持部50に連結されて図示しないレンズを保持するレンズホルダ52とからなっている。可動部材48について、摩擦保持部5の中央部に摩擦保持点Xが位置しており、レンズホルダ52の略中央部に可動部材48の重心Gが位置している。
【0059】
レンズホルダ52の端部近傍には、駆動部材46と平行に配設されたガイド軸54が係合しており、このガイド軸54によって駆動部材46を中心とする回動が規制されながら駆動部材46に沿って移動する可動部材48がガイドされるようになっている。
【0060】
位置決め装置40もまた、可動部材48に設けられた磁界発生部材56と、磁界発生部材56に対向して固定部57上に固定配置された磁界検出部材58とからなる位置センサ60を備えている。この位置センサ60は、上述した第1実施形態の位置決め装置10における位置センサ25と同様である。
【0061】
従来例の圧電アクチュエータSでは、駆動軸3から離れた可動部材48の先端部に磁石8を設けたが、位置決め装置40では、可動部材48の摩擦保持点Xを基準として可動部材48の重心Gが位置する方向と反対方向において磁界発生部材56が可動部材48の摩擦保持部50に設けられている。
【0062】
なお、駆動回路、検出回路および制御回路を備えている点と、位置決め装置40の動作および制御は、第1実施形態の位置決め装置10と同様であるため、ここでの説明を省略する。
【0063】
このように本実施形態の位置決め装置40では、磁界発生部材56を可動部材48の駆動部材46側に設けたことで、可動部材48の慣性モーメントが小さくなるので、可動部材48を位置決め停止したときの可動部材48とそれに保持されているレンズの矢印C方向への傾きを小さくすることができる。
【0064】
ところで、前記位置決め装置10,40が光ピックアップ装置に適用されたときには、可動部材18,48に保持されたレンズが光ピックアップ光学系のレンズになり、このレンズが光軸方向に移動することにより収差補正が行われる。この場合、レンズの傾きを抑えながら可動部材18,48を位置決めでるので、精度良く収差補正することができる。
【0065】
また、可動部材18,48が目標停止位置に一旦到達した後に行うオーバーシュートを伴う位置決め制御の継続時間は、光ディスク回転周期以上であってもよい。このようにすれば、光ディスク1周内で発生する光ディスクの保護層の厚み変化に基づく収差をリアルタイムに補正することが可能になり、光ディスク装置の信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】第1実施形態の位置決め装置のシステム構成図。
【図2】図1に示す圧電アクチュエータの作動原理を説明するための図。
【図3】圧電アクチュエータの駆動部材の軸変位を示す図。
【図4】磁界発生部材、磁界検出部材および検出回路の詳細図。
【図5】オーバーシュートを伴う位置決め制御を行ったときの可動部材の位置とレンズ傾きを示すグラフ。
【図6】目標位置で直ちに駆動停止した後の可動部材の傾きを示すグラフ。
【図7】位置決め装置の制御ブロック図。
【図8】第2実施形態の位置決め装置の構成図。
【図9】従来例の位置センサ付き摩擦駆動型圧電アクチュエータの構成図。
【図10】図9の圧電アクチュエータにおける可動部材の位置とレンズ傾きを示すグラフ。
【符号の説明】
【0067】
10…位置決め装置
12…固定部
14…圧電素子(電気変換素子)
16…駆動部材
18…可動部材
20…圧電アクチュエータ
21…駆動回路
22…磁界発生部材
24…磁界検出部材
25…位置センサ
26…検出回路
28…制御回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気機械変換素子、前記電気機械変換素子の一端に固定された駆動部材、および、前記駆動部材上に移動可能に摩擦保持された可動部材からなる圧電アクチュエータと、
前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路と、
前記可動部材の位置を検出する位置センサと、
前記位置センサからの信号を処理する検出回路と、
前記検出回路による位置検出値に基づいて前記駆動回路に駆動指令信号を与えることで前記可動部材の位置フィードバック制御を行う制御回路と、を備えた位置決め装置であって、
前記可動部材の位置決め動作の際、前記制御回路は、前記可動部材が目標停止位置に一旦到達した後に、オーバーシュートを伴う位置決め制御を所定時間以上さらに継続することを特徴とする位置決め装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記可動部材の摩擦保持点を中心とする慣性モーメントと前記駆動部材に対する前記可動部材の摩擦保持トルクとから決まる前記可動部材の固有振動周期の半分の時間であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め装置。
【請求項3】
前記所定時間が、前記固有振動周期のn/2(nは1から始まる自然数)であることを特徴とする請求項2に記載の位置決め装置。
【請求項4】
電気機械変換素子、前記電気機械変換素子の一端に固定された駆動部材、および、前記駆動部材上に移動可能に摩擦保持された可動部材からなる圧電アクチュエータと、
前記電気機械変換素子を駆動する駆動回路と、
前記可動部材の位置を検出する位置センサと、
前記位置センサからの信号を処理する検出回路と、
前記検出回路による位置検出値に基づいて前記駆動回路に駆動指令信号を与えることで前記可動部材の位置決め制御を行う制御回路と、を備えた位置決め装置であって、
前記位置センサが、前記可動部材に設けられた磁界発生部材と、固定部に設けられた磁気検出部材とからなり、前記可動部材の摩擦保持点を基準として前記可動部材の重心が位置する方向と反対方向において前記磁界発生部材が前記可動部材に設けられていることを特徴とする位置決め装置。
【請求項5】
前記可動部材が光学素子を保持することを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の位置決め装置。
【請求項6】
前記光学素子の光軸と、前記可動部材の移動方向が平行であることを特徴とする請求項5に記載の位置決め装置。
【請求項7】
前記光学素子が撮影光学系の一部をなすことを特徴とする請求項5に記載の位置決め装置。
【請求項8】
前記光学素子が光ピックアップ光学系の一部をなすことを特徴とする請求項5に記載の位置決め装置。
【請求項9】
前記光学素子が光ピックアップ光学系のレンズであり、前記レンズが光軸方向に移動することにより収差補正を行うことを特徴とする請求項8に記載の位置決め装置。
【請求項10】
前記可動部材が目標停止位置に一旦到達した後に行うオーバーシュートを伴う位置決め制御の継続時間は、光ディスク回転周期以上であること特徴とする請求項8または9に記載の位置決め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−113874(P2006−113874A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−301514(P2004−301514)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】