説明

低温流体用継手

【課題】 ガス置換の必要がなく低温流体の漏れを可及的に防止できる低温流体用継手を提供することを目的とする。
【解決手段】 雌側ポペット弁30の先端面と雄側ポペット弁40の先端面とが、対向した際に略一致する形状とされ、摺動リング体13には、軸線方向に伸縮可能とされ、その内周側に低温流体の流路が形成されたベローズ20が液密に接続され、摺動リング体13に対して先端筒部54が当接し押圧することによって、摺動リング体13を雌側ポペット弁30に対して相対的に移動させて雌側ポペット弁30を開弁し、かつ、雌側ポペット弁30の先端面が雄側ポペット弁40に当接し押圧することによって雄側ポペット弁40が開弁することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばLNG(液化天然ガス)、液体窒素等の低温流体の輸送に用いて好適な低温流体用継手に関するものである。
【背景技術】
【0002】
LNG供給基地やLNG供給スタンド等の貯蔵タンク側に接続された固定側カプラと、タンクローリ車やLNG駆動車等に設置された移動体タンクに接続された移動体側カプラとを接続して、LNGなどの低温流体を供給する低温流体用継手がある。
このような低温流体用継手として、特許文献1に記載されたものが知られている。同文献に記載された低温流体用継手は、差し込み構造とされたバイヨネット継手方式とされ、接続時に空気が混入しないように配慮されている。また、同文献の図17に示されているように、雄側カプラと雌側カプラのそれぞれにポペット弁を設け、これらポペット弁の先端同士を当接させて押圧することによって開弁する構造が採用されている。
【0003】
特許文献2の流体継手は、同文献の図1に示されているように、雄側カプラおよび雌側カプラに設けたポペット弁の先端形状を平面形状とし、当接時に一致してポペット弁の先端周りに空間が形成されないようになっている。
【0004】
【特許文献1】特許第3389241号公報(図17)
【特許文献12】特表平8−501135号公報(図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された継手では、対向するそれぞれのポペット弁の先端に凸部が形成されているため、接続時にはポペット弁の先端周りに空間が形成されることになり、空気の混入を防ぐには十分な構造とは言えない。
空気の混入が発生するおそれがある場合には、カプラの接続時に空気を置換するために窒素ガスを吹き付けてガス置換を行う必要があり、継手の構造が複雑になるとともに作業が繁雑となる。
【0006】
これに対して、特許文献2では、ポペット弁の先端周りに空間が形成されないような構造として、ガス置換を回避できるようになっている。
しかし、同文献では、ポペット弁の弁軸を低温流体の流路から外部へと取り出しているので、この部分での低温流体の漏れが発生するおそれがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、ガス置換の必要がなく低温流体の漏れを可及的に防止できる低温流体用継手を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の低温流体用継手は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明にかかる低温流体用継手は、低温流体を貯蔵する貯蔵タンク側に接続された第1カプラと、移動体に設置された移動体タンク側に接続された第2カプラとを備え、これらカプラ同士を接続することによって前記貯蔵タンクと前記移動体タンクとの間で低温流体を流通させる低温流体用継手において、前記第1カプラは、筒状の第1本体と、該第1本体の内周面に対して軸線方向に摺動可能に収納されるとともに先端面にて前記第2カプラに液密に当接可能とされた摺動リング体と、該摺動リング体の内周側にて前記第1本体の略軸線上に延在するとともに該摺動リング体に対して開閉する第1ポペット弁とを備え、前記第2カプラは、前記第1本体の内周面に沿って挿入されるとともに前記摺動リング体に対して当接する先端筒部を有する第2本体と、該第2本体内に収容されて該第2本体の略軸線上に延在するとともに前記先端筒部に対して開閉する第2ポペット弁とを備え、前記第1ポペット弁の先端面と前記第2ポペット弁の先端面とは、接続時に対向した際に略一致する形状とされ、前記摺動リング体には、軸線方向に伸縮可能とされ、その内周側に低温流体の流路が形成されたベローズが液密に接続され、前記第1カプラの前記摺動リング体に対して前記第2カプラの前記先端筒部が当接し押圧することによって、該摺動リング体を前記第1ポペット弁に対して相対的に移動させて該第1ポペット弁を開弁し、かつ、該第1ポペット弁の先端面が前記第2ポペット弁に当接し押圧することによって該第2ポペット弁が開弁することを特徴とする。
【0009】
第1ポペット弁の先端面と第2ポペット弁の先端面とが、接続時に対向した際に、略一致する形状とされているので、接続時にポペット弁の先端周りに形成される空隙を極めて小さくすることができる。したがって、接続の際に空気が混入することを防止することができ、ガス置換を行う必要がなくなる。
さらに、本発明では、軸線方向に伸縮可能としたベローズを摺動リング体に対して液密に接続し、このベローズの内周側に低温流体の流路を形成することとしたので、ベローズの外側に位置する摺動リング体の摺動部に低温流体が流れ込むことがない。したがって、摺動リング体と第1本体の内周面との間の摺動部における低温流体の漏れを考慮する必要がなくなり、低温流体の漏れを可及的に少なくすることができる。また、当該摺動部のシール構造を排除することができるので、複雑な構造を避けることができる。
また、第1カプラの摺動リング体に対して第2カプラの先端筒部が当接し押圧することによって、摺動リング体を第1ポペット弁に対して相対的に移動させて第1ポペット弁を開弁し、かつ、第1ポペット弁の先端面が第2ポペット弁に当接し押圧することによって第2ポペット弁を開弁する構成としたので、特許文献2で示した従来技術のようにポペット弁の弁軸を低温流体流路の外部に取り出す構造が不要となる。したがって、流路内にポペット弁を配置したままで弁の開閉を行うことができ、これにより、低温流体の漏れを少なくすることができる。
【0010】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記摺動リング体には、前記ベローズの内周側に位置するとともに、該摺動リング体の内周面から軸線方向に延長形成された内筒が設けられていることを特徴とする。
【0011】
摺動リング体の内周面から軸線方向に延長形成された内筒を設けることによって、低温流体を円滑に流通させることができる。また、内筒は、ベローズの内周側に位置しているので、低温流体の流れがベローズの凹凸面によって阻害されることがない。
【0012】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記第1カプラは、前記第1本体の外周側に位置するとともに該第1本体の先端側に突出し、先端部に第1爪部が設けられた外筒を備え、前記第2カプラの前記第2本体には、前記第1爪部に係合可能とされた第2爪部が設けられ、前記第1カプラの前記第1本体に対して前記第2カプラの前記第2本体を挿入する際に、前記外筒を回動させることによって前記第1爪部と前記第2爪部とが係合して該外筒と前記第2本体とが軸線方向に固定されることを特徴とする。
【0013】
第1カプラの第1本体に対して第2カプラの第2本体を挿入する際に、外筒を回動させることによって爪部同士を係合させて外筒と第2本体とを軸線方向に固定することができる。このように、機械的な簡便な動作によってカプラを固定することができるので作業性が大幅に向上する。
【0014】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記外筒は、前記第1本体に対して軸線方向に相対移動可能とされ、前記外筒を前記第1本体に対して軸線方向に相対移動させるレバーを備えていることを特徴とする。
【0015】
第1爪部および第2爪部によって外筒を第2カプラの第2本体に対して軸線方向に固定した後に、レバーを操作して、外筒に対して第1本体を軸線方向に移動させて、第1本体を第2カプラ側に移動させる。これにより、第1カプラの摺動リング体が第2カプラの第2本体の先端筒部によって押圧されることにより、第1ポペット弁が開弁され、また、第1ポペット弁によって押圧されることで第2ポペット弁が開弁する。
【0016】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記摺動リング体は、前記第2カプラの前記先端筒部に当接するシール部を先端部に備え、該シール部は、前記第1カプラの先端側から着脱可能とされた固定手段によって固定されていることを特徴とする。
【0017】
摺動リング体の先端部にシール部を設け、第1カプラの先端側から着脱可能とされた固定手段(例えばボルト)によって固定することとしたので、第1カプラの先端側から容易にアクセスしてシール部を交換することができる。
【0018】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記第1ポペット弁は、前記摺動リング体の弁座部に対して当接するシール部を備える弁体と、該弁体に一端が接続されるとともに他端が前記第1本体の基端側に位置する弁軸とを備え、該弁軸の前記他端は、前記第1本体の基端部に着脱可能に固定されていることを特徴とする。
【0019】
弁軸の他端が、第1本体の基端部に対して着脱可能に固定されているので、弁軸の他端を第1本体の基端部から取り外すことによって第1ポペット弁を第1本体から取り外すことができる。これにより、第1ポペット弁のシール部を容易に交換することができ、メンテナンス性が向上する。
【0020】
さらに、本発明の低温流体用継手では、前記第2ポペット弁は、前記第2本体の前記先端筒部に対して当接するシール部を備える弁体と、該弁体に一端が接続されるとともに他端が前記第2本体の基端側に位置する弁軸とを備え、前記第2本体の基端部には、前記弁軸の他端側が移動可能に挿通され、前記第2ポペット弁の前記弁体を前記先端筒部側に付勢する圧縮バネの一端を押さえるバネ押えが着脱可能に固定され、前記第2ポペット弁は、前記バネ押えを前記第2本体の前記基端部から取り外すことによって、取り外されることを特徴とする。
【0021】
第2ポペット弁は、その弁体の他端がバネ押えに挿通させられた状態で支持されている。このバネ押えを着脱可能としたので、バネ押えとともに第2ポペット弁を取り外すことができる。これにより、第2ポペット弁のシール部を容易に交換することができ、メンテナンス性が向上する。
【発明の効果】
【0022】
本発明の低温流体用継手によれば、以下の作用効果を奏する。
第1ポペット弁の先端面と第2ポペット弁の先端面とを、接続時に対向した際に、略一致する形状とし、接続時にポペット弁の先端周りに形成される空隙を極めて小さくすることとしたので、接続の際に空気が混入することを防止することができ、ガス置換を不要とすることができる。
また、軸線方向に伸縮可能としたベローズを摺動リング体に対して液密に接続し、このベローズの内周側に低温流体の流路を形成することとしたので、低温流体の漏れを可及的に少なくすることができる。
また、第1カプラの摺動リング体に対して第2カプラの先端筒部が当接し押圧することによって、摺動リング体を第1ポペット弁に対して相対的に移動させて第1ポペット弁を開弁し、かつ、第1ポペット弁の先端面が第2ポペット弁に当接し押圧することによって第2ポペット弁を開弁する構成としたので、特許文献2で示した従来技術のようにポペット弁の弁軸を低温流体流路の外部に取り出す構造が不要となる。したがって、流路内にポペット弁を配置したままで弁の開閉を行うことができ、これにより、低温流体の漏れを少なくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下に、本発明にかかる実施形態について、図面を参照して説明する。
図1(a)には、LNG(低温流体)供給基地の貯蔵タンク1と、LNGローリ(移動体)2との間でLNGの供給が行われている状態が示されている。貯蔵タンク側配管1aとローリ側配管2aとの間には、LNG用継手(低温流体用継手)3が設けられている。
LNG用継手(以下、単に「継手」という。)3は、図1(b)に示したように、雌側カプラ(第1カプラ)4と、雄側カプラ(第2カプラ)5とを備えている。雌側カプラ4と雄側カプラ5とを接続し、後述するポペット弁を開閉することによって、LNGの供給および停止が行われる。
【0024】
雌側カプラ4のフランジ4bは、貯蔵タンク側配管1aのフランジ1bに対してボルト及びナットによって固定されており、雄側カプラ5のフランジ5bは、ローリ側配管2aのフランジ2bに対してボルト及びナットによって固定されている。
なお、図1(a)では、理解の容易のために、継手3がLNGローリ2から離間した位置に示されているが、実際には、雄側カプラ5はLNGローリ2のタンクに設けられた接続口に固定されている。
【0025】
図2には、継手3の詳細が示された縦断面が示されている。同図には、雌側カプラ4と雄側カプラ5とが離間した状態が示されている。
雌側カプラ4は、筒状の雌側本体10(第1本体)を備えている。雌側本体10は、先端側(図において左方)が円筒形状とされており、基端部(図において右方)11に上述のフランジ4bを備えている。
なお、本実施形態において、以下では、基端側とは、カプラ4,5のフランジ4b,5b側を意味し、先端側とは、軸線方向に見た基端側の反対側を意味する。また、軸線方向とは、カプラ4,5が延在する方向すなわちポペット弁が延在する方向(図において水平方向)を意味する。
【0026】
雌側本体10の内側には、雌側本体10と同一軸線を有する摺動リング体13が収納されている。摺動リング体13は、略リング形状とされており、雌側本体10の内周面に対して軸線方向に摺動し得るようになっている。
摺動リング体13の先端側には、摺動リング体13の外周に形成された凹部に嵌挿されたシール用ブロック15が設けられている。シール用ブロック15は、ボルト(固定手段)16によって摺動リング体13に対して固定されている。ボルト16は、周方向に複数設けられており、雌側カプラ4の先端側から螺結されている。シール用ブロック15は、リング形状とされており、内周側にテーパ状に形成されたシール面18にシール材17が設置されるようになっている。シール材17としては、−162℃程度の低温であってもシール機能を発揮する材料が用いられ、例えば、3フッ化塩化エチレン樹脂や4フッ化エチレン樹脂が好適である。なお、後述するポペット弁30,40のシール材についても、同様の材質が用いられる。
このように、シール面18に対して、後述する雄側カプラ5の先端が液密に当接され得るようになっている。なお、シール用ブロック15は、雌側カプラ4の先端側からアクセスしてボルト16を外すことによって摺動リング体13から取り外すことができるようになっている。
【0027】
摺動リング体13の基端側(図において右方)には、摺動リング体13と同一軸線を有する蛇腹形状のベローズ20の一端が固定されている。ベローズ20の他端は、雌側本体4の基端部11に固定された固定ブロック21に固定されている。ベローズ20は、軸線方向に伸縮可能となっている。また、ベローズ20によってLNG流路23の外周限界が形成されている。すなわち、ベローズ20の内周側にLNG流路23が形成され、ベローズ20の外周側にはLNGが流れないようになっている。したがって、LNGは、固定ブロック21、ベローズ20及び摺動リング体13の内側を流れる。
【0028】
ベローズ20の内側には、ベローズ20と同一軸線を有する圧縮バネ25が設置されている。圧縮バネ25は、固定ブロック21の内周側に隣接配置されたバネ押え26と摺動リング体13の基端側端面との間に配置されており、これにより、摺動リング体13を先端側に付勢し、摺動リング体13に負荷が加わらない図2の状態では閉弁状態を保持している。
【0029】
ベローズ20の内側でかつ圧縮バネ25の内側には、摺動リング体13と同一軸線を有する内筒27が設けられている。内筒27は、摺動リング体13の内周面から軸線方向に基端側に向かって延長された状態で一体的に形成されている。LNGは、一連に形成された内筒27及び摺動リング体13の内周面に沿って流れる。
【0030】
摺動リング体13の内周側には、雌側本体10の軸線上に延在する雌側ポペット弁(第1ポペット弁)30が設けられている。
雌側ポペット弁30は、軸線上に延在する弁軸33と、弁軸33の先端に設けられた弁体32とを有している。
弁体32は、弁軸33に対して拡径された略円錐台形状とされており、摺動リング体13の先端側の最内周に形成された弁座部に対して当接するシール部31を有している。シール部31には、上述した3フッ化塩化エチレン樹脂等のシール材が設置されている。弁体32の先端面は、中心に設けられ先端側に突出する凸部32aと、凸部32aの周囲に平坦状に延在する平坦面32bとが設けられている。凸部32aは、後述する雄側ポペット弁40の弁体42の中心位置に形成された凹所42a内に収納されるようになっている。平坦面32bは、上述したシール用ブロック15の先端から僅かに基端側に退避した位置に設置されている。
【0031】
弁軸33は、基端側が雌側本体10の基端部11に固定されている。具体的には、雌側本体10の基端部11の中央に弁軸固定部材35が固定されており、この弁軸固定部材35の中心に形成された孔に弁軸33を挿通させ、ナット36によって弁軸33を固定するようになっている。弁軸固定部材35は、周方向に複数設けられたボルト37によって、固定ブロック21及びバネ押え26と共に、雌側本体10に対して固定されている。なお、雌側ポペット弁30は、ナット36を外すことによって、取り外すことができるようになっている。
【0032】
雌側本体10の外周側には、外筒38が設けられている。外筒38は、その先端部が雌側本体10の先端側に突出した状態で設けられている。外筒38の先端には、内周に突出する第1爪部38aが設けられている。第1爪部38aは、円周方向に所定長さで間隔をおいて複数設けられている。第1爪部38aは、後述する雄側本体50に設けた第2爪部51に対して係合するようになっている。外筒38には、回動レバー39が固定されており、回動レバーを軸線回りに回動することによって、雌側本体10に対して外筒38を回動させることができる(図3(a)及び(b)を参照)。
外筒38の円筒壁部には、複数の孔38bが形成されている。これらの孔38は、湿分を含んだ空気のパージ穴またはガス漏れ検知穴として用いることができる。
外筒38は、さらに、雌側本体10に対して軸線方向に相対移動可能とされている。具体的には、図4に示すように、作動レバー45を回動することによって外筒38を軸線方向に移動させる。作動レバー45は、その回動支点45aが外筒38に設けられており、また、雌側本体10とは作用点45bにて回転自由に固定されている。これにより、図4に示す矢印方向に作動レバー45を回動させることによって、雌側本体10と外筒38とを軸線方向に相対移動させることができるようになっている。すなわち、作動レバー45の把持部45cが外筒38の上方に位置する状態から、矢印方向に示すように把持部45cを雌側本体10側に引きつけて作動レバー45を倒すことによって、雌側本体10を外筒38に対して先端側に移動させることができる。
【0033】
雄側カプラ5は、筒状の雄側本体50を備えている。雄側本体50は、先端側(図において右方)が円筒形状とされており、基端部(図において左方)52に上述のフランジ5bを備えている。この基端部52の外周には、先端側に突出する突出部52aが形成されている。突出部52aは、周方向に所定長さで間隔をおいて複数設けられている。突出部52によって、内周側に差し込み凹部52bが形成される。この差し込み凹部52b内に、上述した外筒38の先端が挿入されるようになっており、これにより、両カプラ4,5の軸心合わせが容易に行われるようになっている。差し込み凹部52bを形成する雄側本体50の外周面には、外周側に突出する第2爪部51が設けられている。第2爪部51は、周方向に所定長さで間隔をおいて複数設けられている。第2爪部51は、雌側カプラ4に設けられた第1爪部38aに係合するようになっている。
雄側本体50の先端には、先端筒部54が設けられている。先端筒部54は、先端面の内周側が、前述した摺動リング体13の先端に設けられたシール面18に当接するシール面55となっている。また、先端筒部54の基端側壁部56は、円錐状のテーパ面となっており、雄側ポペット弁40のシール部が当接する弁座となっている。
【0034】
雄側本体50内には、雄側ポペット弁(第2ポペット弁)40が設けられている。
雄側ポペット弁40は、軸線上に延在する弁軸43と、弁軸43の先端に設けられた弁体42とを有している。
弁体42は、弁軸43に対して拡径された形状とされており、先端筒部54の基端側壁部56に形成された弁座部に対して当接するシール部41を有している。シール部41には、上述した3フッ化塩化エチレン樹脂等のシール材が設置されている。弁体42の先端面は、中心に設けた凹所42aと、凹所42aの周囲に平坦状に延在する平坦面42bとが設けられている。凹所42aは、上述した雌側ポペット弁30の弁体32の中心位置に形成された凸部32aを収納するようになっている。このように、雄側ポペット弁40の凹所42aと雌側ポペット弁30の凸部32aとが対応し、雄側ポペット弁40の平坦面42bと雌側ポペット弁30の平坦面32bとが対応している。したがって、カプラ4,5同士を接続する際にポペット弁30,40の先端面同士を対向させた場合に、ポペット弁30,40の先端部周りには空隙がほとんど形成されない形状となっている。
平坦面42bは、上述した先端筒部54の先端から僅かに基端側に退避した位置に設置されている。
【0035】
雄側本体50の基端側内周には、バネ押え60が設けられている。バネ押え60は、外周の複数位置に設置されるボルト61によって雄側本体50に固定されている。バネ押え60の中心には、孔部が形成されており、雄側ポペット弁40の弁軸43の基端側が挿通されるようになっている。弁軸43は、バネ押え60に対して軸線方向に移動自在とされている。したがって、雄側ポペット弁40は、ボルト61を外すことによってバネ押え60とともに取り外すことができるようになっている。
バネ押え60と弁体40の基端側面との間には、弁体40と同一軸線を有する圧縮バネ63が配置されている。この圧縮バネ63によって、雄側ポペット弁40は先端側に付勢され、雄側ポペット弁40の先端面に対して基端側に向けた負荷が加わらない図2の状態では閉弁状態を保持している。
【0036】
次に、上記構成の継手3の使用方法について説明する。
先ず、貯蔵タンク側配管1aに接続された雌側カプラ4を、LNGローリ2のローリ側配管2aに接続された雄側カプラ5に対して接近させる。そして、雌側カプラ4の外筒38の内周側に雄側カプラ5の雄側本体50の先端筒部54が収納されるように差し込む。
そして更にカプラ同士を接近させ、図5に示すように、雄側本体50の先端筒部54を雌側本体10の内部に挿入する。この状態では、両カプラのポペット弁30,40はいずれも閉とされている。図5に示すように、雄側カプラの先端筒部54を雌側本体10に挿入した開弁前の状態では、ポペット弁30の凸部32aが雄側ポペット弁40の凹所42aに挿入され、各ポペット弁の先端面形状が略一致しており、ほとんど空隙が形成されていない。
【0037】
そして、回動レバー39を回動させて、図3(a)に示す位置から、図3(b)に示す位置まで外筒38を回動させる。この際に、外筒38の先端が雄側本体50に形成された差し込み凹部52bにガイドされる。これにより、外筒38の第1爪部38aと雄側本体50の第2爪部51とが係合し、外筒38と雄側本体50とが軸線方向に移動しないように固定される。
【0038】
次に、図4に示すように、作動レバー45(図4参照)を回動させることによって、外筒38に対して雌側本体10を軸線方向に沿って先端側(図において左方)へと移動させる。この動作により、図6に示すように、摺動リング体13のシール面18と先端筒部54のシール面55とが押圧されて確実に接触する。そして、摺動リング体13が雌側ポペット弁30に対して基端側に移動し、雌側ポペット弁30のシール面31が摺動リング体13から離間させられることによって雌側ポペット弁30が開弁される。この摺動リング体13の移動に伴って、ベローズ20は圧縮されて縮む。
一方、雌側ポペット弁30は、雄側本体50内へと移動し、雄側ポペット弁40の先端面に当接して軸線方向に押圧し、雄側ポペット弁40を軸線方向に沿って基端側(図において左方)へと移動させる。これにより、雄側ポペット弁40のシール面41が先端筒部54から離間して開弁する。雄側ポペット弁40の移動に伴い、雄側ポペット弁40の弁軸43の基端側は、ローリ側配管2a内へと入り込む。
【0039】
このようにして、雌側ポペット弁30及び雄側ポペット弁40が開弁され、図6の矢印で示す方向にLNGが流れる。なお、同図に示したLNGの流れ方向は、貯蔵タンク側からローリ側へとなっているが、もちろん、逆の流れ(すなわちローリ側から貯蔵タンク側)が行われる場合もある。特にこのときには、ローリ側のタンクの内圧が貯蔵側に比べて乏しいので、継手3内の圧損を極力小さくすることが好ましい。本実施形態では、摺動リング体13の内周面に連続的に接続した内筒27を設け、ベローズ20の凹凸面による圧損を回避するようになっている。
【0040】
LNGの供給を停止する場合には、上述の逆の手順を行う。すなわち、作動レバーを図4の矢印の逆方向に回動させて、外筒38に対して雌側本体10を軸線方向に沿って図において右側に離間させることによって、ポペット弁30,40を閉弁させる。そして、回動レバー39を回動させて爪部38a,51の係合を解除した後に、雌側カプラ4を雄側カプラ5から離間させる。
【0041】
以上説明したように、本実施形態にかかる継手3によれば、以下の作用効果を奏する。
雌側ポペット弁30の先端面と雄側ポペット弁40の先端面とが、接続時に対向した際に略一致する形状とされているので、ポペット弁30,40同士を当接する際にポペット弁の先端周りに形成される空隙を極めて小さくすることができる。したがって、接続の際に空気が混入することを防止することができ、ガス置換を行う必要がなくなる。
【0042】
軸線方向に伸縮可能としたベローズ20を摺動リング体13に対して液密に接続し、このベローズ20の内周側にLNGの流路を形成することとしたので、ベローズ20の外側に位置する摺動リング体13の摺動部にLNGが流れ込むことがない。したがって、摺動リング体13と雌側本体10の内周面との間の摺動部におけるLNGの漏れを考慮する必要がなくなるとともに、当該摺動部のシール構造を排除することによって複雑な構造を避けることができる。
【0043】
雌側カプラ4の摺動リング体13に対して雄側カプラ5の先端筒部54が当接し押圧することによって、摺動リング体13を雌側ポペット弁30に対して相対的に移動させて雌側ポペット弁30を開弁し、かつ、雌側ポペット弁30の先端面が雄側ポペット弁40に当接し押圧することによって雄側ポペット弁40を開弁する構成としたので、特許文献2で示した従来技術のようにポペット弁の弁軸をLNG流路の外部に取り出す構造が不要となる。したがって、流路内にポペット弁を配置したままで弁の開閉を行うことができ、これにより、LNGの漏れを少なくすることができる。
【0044】
雌側カプラ4の雌側本体10に対して雄側カプラ5の雄側本体50を挿入する際に、これら回動レバー39によって外筒38を回動させて爪部38a,51同士を係合させて外筒38と雄側本体50とを軸線方向に固定することとした。このように、機械的な簡便な動作によってカプラを固定することができるので作業性が大幅に向上する。
【0045】
爪部38a,51によって外筒38を雄側カプラ5の雄側本体50に対して軸線方向に固定した後に、作動レバー45を操作して、外筒38に対して雌側本体10を軸線方向に移動させて、雌側本体10を雄側カプラ5側に移動させる。これにより、雌側カプラ4の摺動リング体13が雄側カプラ5の先端筒部54によって押圧されることにより、雌側ポペット弁30が開弁され、また、雌側ポペット弁30によって押圧されることで雄側ポペット弁40が開弁する。このように、作動レバー45を回動させるだけで開弁させてLNGの供給を開始させ、また停止させることができるので、作業が極めて容易となる。
【0046】
シール材18を備えたシール用ブロック15を、ボルト16を取り外すことによって取り外すことができるようにしたので、シール材18の交換を容易に行うことができ、メンテナンス作業が容易となる。
また、雌側ポペット弁30の弁軸33の基端部に固定されたナット36を外すことによって雌側ポペット弁30を取り外すことができるので、シール材の交換を容易に行うことができる。
また、バネ押え60を固定しているボルト61を外すことによって、バネ押え60とともに雄側ポペット弁40を取り外すことができるので、シール材の交換を容易に行うことができる。
【0047】
なお、上述した実施形態では、低温流体の一例としてLNGを用いて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば液体窒素に対して適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】本発明の一実施形態にかかる低温流体用継手の使用例を示し、(a)はLNG貯蔵タンクとLNGローリとの間でLNGの供給が行われている状態を示した模式図であり、(b)は低温流体用継手の周辺を拡大して示した側面図である。
【図2】本発明の一実施形態にかかる低温流体用継手であり、接続前の状態を示した縦断面図である。
【図3】雌側カプラの正面図であり、(a)は固定前の回動レバー位置を示し、(b)は固定後の回動レバー位置を示す。
【図4】作動レバーの動作を示した側面図である。
【図5】雄側カプラと雌側カプラとを接続し、開弁前の状態を示した縦断面図である。
【図6】開弁状態を示した縦断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 貯蔵タンク
2 LNGローリ(移動体)
3 LNG用継手(低温流体用継手)
4 雌側カプラ(第1カプラ)
5 雄側カプラ(第2カプラ)
13 摺動リング体
20 ベローズ
27 内筒
30 雌側ポペット弁(第1ポペット弁)
38 外筒
40 雄側ポペット弁(第2ポペット弁)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低温流体を貯蔵する貯蔵タンク側に接続された第1カプラと、移動体に設置された移動体タンク側に接続された第2カプラとを備え、これらカプラ同士を接続することによって前記貯蔵タンクと前記移動体タンクとの間で低温流体を流通させる低温流体用継手において、
前記第1カプラは、筒状の第1本体と、該第1本体の内周面に対して軸線方向に摺動可能に収納されるとともに先端面にて前記第2カプラに液密に当接可能とされた摺動リング体と、該摺動リング体の内周側にて前記第1本体の略軸線上に延在するとともに該摺動リング体に対して開閉する第1ポペット弁とを備え、
前記第2カプラは、前記第1本体の内周面に沿って挿入されるとともに前記摺動リング体に対して当接する先端筒部を有する第2本体と、該第2本体内に収容されて該第2本体の略軸線上に延在するとともに前記先端筒部に対して開閉する第2ポペット弁とを備え、
前記第1ポペット弁の先端面と前記第2ポペット弁の先端面とは、接続時に対向した際に略一致する形状とされ、
前記摺動リング体には、軸線方向に伸縮可能とされ、その内周側に低温流体の流路が形成されたベローズが液密に接続され、
前記第1カプラの前記摺動リング体に対して前記第2カプラの前記先端筒部が当接し押圧することによって、該摺動リング体を前記第1ポペット弁に対して相対的に移動させて該第1ポペット弁を開弁し、かつ、該第1ポペット弁の先端面が前記第2ポペット弁に当接し押圧することによって該第2ポペット弁が開弁することを特徴とする低温流体用継手。
【請求項2】
前記摺動リング体には、前記ベローズの内周側に位置するとともに、該摺動リング体の内周面から軸線方向に延長形成された内筒が設けられていることを特徴とする請求項1記載の低温流体用継手。
【請求項3】
前記第1カプラは、前記第1本体の外周側に位置するとともに該第1本体の先端側に突出し、先端部に第1爪部が設けられた外筒を備え、
前記第2カプラの前記第2本体には、前記第1爪部に係合可能とされた第2爪部が設けられ、
前記第1カプラの前記第1本体に対して前記第2カプラの前記第2本体を挿入する際に、前記外筒を回動させることによって前記第1爪部と前記第2爪部とが係合して該外筒と前記第2本体とが軸線方向に固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載の低温流体用継手。
【請求項4】
前記外筒は、前記第1本体に対して軸線方向に相対移動可能とされ、
前記外筒を前記第1本体に対して軸線方向に相対移動させるレバーを備えていることを特徴とする請求項3記載の低温流体用継手。
【請求項5】
前記摺動リング体は、前記第2カプラの前記先端筒部に当接するシール部を先端部に備え、
該シール部は、前記第1カプラの先端側から着脱可能とされた固定手段によって固定されていることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の低温流体用継手。
【請求項6】
前記第1ポペット弁は、前記摺動リング体の弁座部に対して当接するシール部を備える弁体と、該弁体に一端が接続されるとともに他端が前記第1本体の基端側に位置する弁軸とを備え、
該弁軸の前記他端は、前記第1本体の基端部に着脱可能に固定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の低温流体用継手。
【請求項7】
前記第2ポペット弁は、前記第2本体の前記先端筒部に対して当接するシール部を備える弁体と、該弁体に一端が接続されるとともに他端が前記第2本体の基端側に位置する弁軸とを備え、
前記第2本体の基端部には、前記弁軸の他端側が移動可能に挿通され、前記第2ポペット弁の前記弁体を前記先端筒部側に付勢する圧縮バネの一端を押さえるバネ押えが着脱可能に固定され、
前記第2ポペット弁は、前記バネ押えを前記第2本体の前記基端部から取り外すことによって、取り外されることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の低温流体用継手。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−286339(P2008−286339A)
【公開日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−133345(P2007−133345)
【出願日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】