説明

低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質

【課題】温度により親水性が変化するポリアミドアミンデンドロン脂質を提供する。
【解決手段】ポリアミドアミンデンドロン脂質中の1以上のアミノ基が、炭素数3〜6の低級アシル基で置換されてなる、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低級アシル基を有するポリアミドアミンデンドロン脂質に関する。
【背景技術】
【0002】
疾患の原因となる標的細胞に遺伝子などの薬剤を直接送達するドラッグデリバリーシステム(DDS)において使用可能な薬剤運搬用担体として、カプセル状分子集合体(ベシクル)が知られている。ベシクルの代表的なものとしては、脂質二重膜を有し、その内部又は膜内に薬剤を保持できるリポソームが知られている。
【0003】
近年、ベシクルの一種として、ポリアミドアミンデンドロン脂質を基本構造とするものが開発されている(特開2004−159504;特許文献1)。
特許文献1には、このポリアミドデンドロン脂質をDNAと組み合わせて得られる複合体を用いることにより、該DNAを細胞内により高い効率で導入できることが開示されている。
【特許文献1】特開2004−159504号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、特許文献1に開示されるポリアミドアミンデンドロン脂質の末端のアミノ基の水素を低級アシル基で置換することにより、得られる低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質が、あるpH条件下で温度応答性を示すことを見出し、本発明を完成した。
このような低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を用いれば、所定の条件で所望の温度において形状を変化させ得るベシクルを得ることができ、これを用いて温度によりベシクルの挙動を制御できると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
よって、本発明は、炭素数3〜6の低級アシル基を有するポリアミドアミンデンドロン脂質である、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を提供する。
また、本発明は、ポリアミドアミンデンドロン脂質を、該脂質を溶解可能な溶媒中で、低級脂肪酸又はその反応性誘導体と反応させることを含む、上記の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の製造方法も提供する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、温度に応じてその性質、特に親水性を変化させる温度応答性を有する。このような低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質からなるベシクルは、ある特定の温度条件にすることにより、別のベシクル又は標的細胞と融合したり、凝集したりできると考えられる。よって、本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質からなるベシクルに遺伝子などの薬剤を含有させて、ドラッグデリバリーシステム(DDS)において用いることにより、細胞への薬剤の導入を温度により制御できると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、炭素数3〜6の低級アシル基を含有するポリアミドアミンデンドロン脂質である。
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を構成する基本構造であるポリアミドアミンデンドロン脂質は、樹状(デンドロン)構造を有する化合物であり、以下の式に示される構造を有するものである。
DL−G1:R12NX(XH22
DL−G2:R12NX(X(XH222
DL−G3:R12NX(X(X(XH2222
DL−G4:R12NX(X(X(X(XH22222
DL−G5:R12NX(X(X(X(X(XH222222
DL−G6:R12NX(X(X(X(X(X(XH2222222
DL−G7:R12NX(X(X(X(X(X(X(XH22222222
DL−G8:R12NX(X(X(X(X(X(X(X(XH222222222
(式中、R1及びR2は同一又は異なって、C6〜C20アルキル基、C6〜C20アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を表し、Xは、−CH2CH2CONHCH2CH2N<を表す。)
【0008】
上記の構造式において、「DL」は「デンドロン」の略称から命名したものである。また、末端に2つのアミノ基を有する構造のものを第1世代(G1)とし、以下、枝分かれの段階に応じて第2世代(G2)、第3世代(G3)・・・などと命名している。
【0009】
上記のポリアミドアミンデンドロン脂質は、第8世代(DL−G8)のものよりも多い末端アミノ基を有するもの、すなわち第9世代、第10世代・・・のものであることも理論的に可能である。
【0010】
本発明において、上記のポリアミドアミンデンドロン脂質は、DL−G2以上かつDL−G8までのものが好ましく、DL−G2又はDL−G3がより好ましい。
【0011】
上記のポリアミドデンドロン脂質の式において、R1及びR2は、C6〜C20アルキル基であることが好ましい。該アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜20のアルキル基であり、ヘキシル、イソヘキシル、ヘプチル、5−メチルヘキシル、オクチル、ビス(2−エチルヘキシル)、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシルなどを含む。なかでも、直鎖状の炭素数12〜18のアルキル基がより好ましい。
【0012】
上記のR1及びR2としてのC6〜C20アルコキシ基としては、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数6〜20のアルコキシ基が挙げられ、例えばヘキシルオキシ、ヘプチルオキシ、オクチルオキシ、ノニルオキシ、デシルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、トリデシルオキシ、テトラデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ、エイコシルオキシなどを含む。
【0013】
上記のR1及びR2としてのアリール基は、フェニル、ナフチル、ビフェニル、アントラニル、フェナントリルなどを含む。
上記のR1及びR2としてのアラルキル基は、ベンジル、フェネチルなどを含む。
【0014】
上記のポリアミドアミンデンドロン脂質は、公知の方法により製造できる。公知の方法としては、原料である第2級アミンR12NHに、アクリル酸エステルを反応させるマイケル付加反応と、ジアミノアルカンを用いるエステルアミド交換反応とにより第0世代のアミド化合物を得て、マイケル付加反応及びエステルアミド交換反応を繰り返す方法が挙げられる(Tomalia, D.ら、Polym. J. 17、117〜132 (1985);Frechet, J. M. J., Tomalia, D. A.編、(2001) Dendrimers and other dendritic polymers, J. Wiley & Sons, West Sussexを参照)。原料となる第2級アミンは、市販で入手可能である。
該ポリアミドアミンデンドロン脂質の製造方法の例を、以下のスキームに示す。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、上記のポリアミドアミンデンドロン脂質の末端のアミノ基の水素を低級アシル基で置換したものである。末端のアミノ基は2個の水素原子を有するが、2個ともに低級アシル基で置換したものであってもよいし、いずれか一方の水素原子を低級アシル基で置換したものであってもよい。好ましくは、いずれか一方の水素原子を低級アシル基で置換したものである。
また、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質1分子中の複数の低級アシル基は、2種以上であってもよいが、製造工程の簡便さの点から、1種(同一種)であることが好ましい。
2種以上の低級アシル基を有するポリアミドアミンデンドロン脂質を得るためには、それぞれの低級アシル基を有するポリアミドアミンデンドロン脂質を別々に製造して、これらを混合することが、製造が簡便であることから好ましい。
【0017】
上記の低級アシル基は、炭素数が3〜6の直鎖又は分枝鎖状の脂肪酸から誘導されたものを意味する。本明細書において、低級アシル基についての炭素数は、カルボニル基の炭素原子をも含む。よって、本発明において、低級アシル基は、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、2−メチルブチリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、4−メチルバレリル基、3−メチルバレリル基、2−メチルバレリル基、2,3−ジメチルブチリル基及び3,3−ジメチルブチリル基を含む。
好ましくは、上記の低級アシル基は、ブチリル基又はイソブチリル基である。
【0018】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、上記のようにして製造したポリアミドアミンデンドロン脂質を、該脂質を溶解可能な溶媒中で、低級脂肪酸又はその反応性誘導体と反応させることにより製造できる。
【0019】
上記の低級脂肪酸又はその反応性誘導体は、上記の低級アシル基を与えることとなる低級脂肪酸又はその反応性誘導体であればよい。上記の低級脂肪酸の反応性誘導体は、当該技術において公知であり、例えばR3(C=O)X(式中、R3は炭素数3〜6の低級アルキル基であり、Xはハロゲン原子、−OR4(R4は、低級アルキル基、ペンタクロロフェニル基、パラニトロフェニル基またはスクシミジル基である)、−OCOR5(R5は、低級アルキル基である)で表される化合物が挙げられる。上記の低級脂肪酸の反応性誘導体は、例えばハロゲン化低級アルカノイル、脂肪酸無水物を含み、例えば塩化ブチリル、塩化イソブチリル、塩化プロピオニル、塩化ヘプタノイルなどを含む。
上記の低級脂肪酸を用いる場合、従来公知の縮合剤、例えばN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)などの存在下で行うことが好ましい。
【0020】
上記のポリアミドアミンデンドロン脂質を溶解可能な溶媒は、非プロトン性極性溶媒が好ましい。非プロトン性極性溶媒は、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)などを含む。
【0021】
低級脂肪酸又はその反応性誘導体は、用いるポリアミドデンドロン脂質の末端アミノ基のモル量に対して1モル等量より多く用いることが好ましく、より好ましくは1モル等量より多く、2モル等量未満である。このような範囲の低級脂肪酸又はその反応性誘導体を用いることにより、ポリアミドアミンデンドロン脂質の全ての末端アミノ基に対して1つずつ低級アシル基を導入することができる。2モル等量以上の低級脂肪酸又はその反応性誘導体を用いてもよいが、経済的な観点から、2モル等量未満がより好ましい。
【0022】
上記の反応は、−10〜40℃の温度において行うことが好ましく、より好ましくは0〜30℃の温度である。また、反応時間は、12〜72時間が好ましく、より好ましくは24〜48時間である。
【0023】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の特に好ましい例は、以下に示すものである。
【0024】
【化2】

【0025】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、低級アシル基を含有することにより、ある条件下で温度応答性を有する。本明細書において「温度応答性」とは、ある特定の温度において該脂質の親水性が変化することをいう。温度応答性は、具体的には、以下の実施例に示すように、本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質分散液の光学密度の変化を測定することにより検出することができる。
本発明において、このような温度応答性が得られる原因は明らかではないが、おそらく、低級アシル基が温度の変化に応じて疎水性を増し、低級アシル基同士が凝集することにより、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質自体の疎水性も変化することによると考えられる。
【0026】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、一定のpH条件下である特定の温度においてその親水性が変化するので、例えばドラッグデリバリーシステム(DDS)などにおいて遺伝子などの薬剤を保持させるベシクルとして用いれば、薬剤の送達を温度により制御することができる。具体的には、本発明の脂質からなるベシクルに薬剤を保持させ、該ベシクルを対象に投与した後に、治療すべき患部の温度を所定の温度に上昇させて患部でのベシクルをある特定の温度にすることにより、ベシクルの親水性が変化してその形態を変化させるか、或いは患部の標的細胞と融合及び/又は凝集できるので、薬剤を放出するか又は標的細胞の内部に薬剤を効率よく送達できると考えられる。
また、本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、pHの変化に応じてその温度応答性が変化するので、同じ温度であっても、上記のようなベシクルが存在する環境のpHを変化させることにより、親水性が変化してその形態を変化させることができると考えられる。このようなpHの変化は、例えば細胞の周囲と細胞の内部とで観察される。
【0027】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、2種以上を混合することによっても温度応答性を変化させることができる。例えば、低級アシル基が異なり、基本のポリアミドアミンデンドロン脂質の構造が同じである2種以上の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を混合してもよいし、低級アシル基が同じであり、基本のポリアミドアミンデンドロン脂質の構造又は世代数が異なる2種以上の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を混合してもよい。
これらの2種以上の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の混合比は、所望の温度応答性が得られるように適宜調節すればよい。
【0028】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、該低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質以外のポリアミドアミンデンドロン脂質と混合することによって温度応答性を変化させることもできる。
低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質以外のポリアミドアミンデンドロン脂質とは、ポリアミドアミンデンドロン脂質中のアミノ基が置換されていないか又は低級アシル基以外の基で置換されてなるポリアミドアミンデンドロン脂質を含む。
上記の低級アシル基以外の基としては、ホルミル基、アセチル基などが挙げられる。
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質と、それ以外のポリアミドアミンデンドロン脂質との混合比は、所望の温度応答性が得られるように適宜調節すればよい。
【0029】
本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を用いて薬剤を保持するベシクルを作製する方法は、例えば特開2004−159504号公報に記載された方法を用いることができる。
該薬剤としては、遺伝子、抗癌剤、あるいはアンチセンス核酸、siRNA、リボザイムなどの核酸医薬、タンパク質などが挙げられる。
【実施例】
【0030】
本発明の実施形態を、以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下の実施例において、プロトン核磁気共鳴(1H NMR)は、JEOL JNM-LA 400を用いて
測定した。また、シリカゲルクロマトグラフィーは、Merck Kieselgel 60 (230-400 mesh)を用いて行った。
【0031】
製造例1 C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の製造
製造例1.1
【化3】

【0032】
アクリル酸メチル(53 ml, 0.59 mmol、キシダ化学社製)に、ジ−n−オクタデシルアミン(3.0 g, 5.7 mmol、Fluka社製)を溶解し、窒素雰囲気において80℃で18時間還流した。その後、未反応のアクリル酸メチルを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 石油エーテル:ジエチルエーテル=2:1, v/v)で精製した(収率:74.2%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.23 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.41 (m, -CH2CH2N-), δ 2.38 (t, -CH2COOCH3), δ 2.44 (t, -CH2N-), δ 2.77 (t, -CH2CH2COOCH3), δ 3.67 (s, -OCH3).
【0033】
製造例1.2
【化4】

製造例1.1で得られた化合物(2.6 g, 4.2 mmol)を、メタノール(50 ml)に溶解した。この溶液を、シアン化ナトリウム(45 mg, 0.92 mmol、和光純薬工業社製)を含むエチレンジアミン(88 ml, 1.3 mol、キシダ化学社製)に徐々に加え、窒素雰囲気において50℃で7日間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンと反応により生成したメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 クロロホルム:メタノール:水=60:35:5, v/v)によって精製した(収率76.6%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.44 (m, -CH2CH2N-), δ 2.36 (t, -CH2CONH-), δ 2.42 (t, -CH2N-), δ 2.65 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.79 (t, -CH2NH2), δ 3.28 (m, -CH2CH2NH2), δ 8.67 (m, -CONH-).
【0034】
製造例1.3
【化5】

製造例1.2で得られた化合物(1.7 g, 2.6 mmol)を、メタノール(28 ml)に溶解した。この溶液に、アクリル酸メチル(46.7 ml, 0.52 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において35℃で50時間撹拌した。その後、未反応のアクリル酸メチルとメタノールを減圧留去し、
シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 石油エーテル:ジエチルエーテル=2:1, v/v、のちクロロホルム:メタノール=95:5, v/v)で精製した(収率87.3%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.43 (m, -CH2CH2N-), δ 2.34 (t, -CH2CONH-), δ 2.42 (m, -CH2COOCH3), δ 2.44 (m, -CH2N-), δ 2.54 (t, -CONHCH2CH2-), δ 2.71 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.78 (t, -CH2CH2COOCH3), δ 3.29 (m, -CONHCH2-), δ 3.67 (s, -OCH3), δ 7.79 (m, -CONH-).
【0035】
製造例1.4
【化6】

製造例1.3で得られた化合物(1.8 g, 2.3 mmol)を、メタノール(61 ml)に溶解した。この溶液を、シアン化ナトリウム(27 mg, 0.55 mmol)を含むエチレンジアミン(80 ml, 1.2 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において45℃で64時間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンとメタノールを減圧留去し、Sephadex LH-20カラム(溶離液:クロロホルム)を用いて精製した(収率97.0%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-), δ 2.17 (m, -NH2), δ 2.32 (m, -CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.36 (m, -CH2CONH-), δ 2.42 (m, -CH2N-), δ 2.50 (t, -CONHCH2CH2-), δ 2.67 (t, -CH2CH2CONH-), δ 2.74 (t, -CH2CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.83 (t, -CH2NH2), δ 3.22 (m, -CONHCH2-), δ 3.29 (m, -CH2CH2NH2), δ 7.35 and 8.64 (m, -CONH-).
【0036】
製造例1.5
【化7】

【0037】
製造例1.4で得られた化合物(1.7 g, 2.0 mmol)を、メタノール(78 ml)に溶解した。この溶液を、アクリル酸メチル(145 ml, 1.6 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において35℃で50時間撹拌した。その後、未反応のアクリル酸メチルとメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 クロロホルム、のちクロロホルム:メタノール=9:1, v/v)で精製した(収率:86.9%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.43 (m, -CH2CH2N-), δ 2.37 (m, -CH2COOCH3), δ 2.43 (m, -CH2N-), δ 2.54 (m, -CONHCH2CH2-), δ 2.75 (m, -CH2CH2COOCH3), δ 3.29 (m, -CONHCH2-), δ 3.67 (s, -OCH3), δ 7.00 and 8.04 (m, -CONH-).
【0038】
製造例1.6
【化8】

【0039】
製造例1.5で得られた化合物(2.1 g, 1.7 mmol)を、メタノール(47 ml)に溶解した。この溶液を、シアン化ナトリウム(33 mg, 0.68 mmol)を含むエチレンジアミン(148 ml, 2.2 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において45℃で52時間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンとメタノールを減圧留去し、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)を用いて精製した(収率:82.6%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-), δ 2.09 (m,-NH2), δ 2.32 (m, -CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.37 (m, -CH2N-), δ 2.53 (m, -CONHCH2CH2-), δ 2.73 (m, -CH2CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.82 (m, -CH2NH2), δ 3.24 (m, -CONHCH2-), δ 3.28 (m, -CH2CH2NH2), δ 7.64, 7.87 and 8.58 (m, -CONH-).
【0040】
製造例2 C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の製造
製造例2.1
【化9】

【0041】
製造例1.6で得られた化合物(0.77 g, 0.59 mmol)を、メタノール(50 ml)に溶解した。この溶液を、アクリル酸メチル(45 ml, 0.50 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において30℃で50時間撹拌した。その後、未反応のアクリル酸メチルとメタノールを減圧留去し、シリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒 クロロホルム:メタノール=95:5, v/v、のち80:20, v/v)で精製した(収率:56.4%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.26 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.45 (m, -CH2CH2N-), δ 2.37 (m, -CH2COOCH3), δ 2.45 (m, -CH2N-), δ 2.56 (m, -CONHCH2CH2-), δ 2.76 (m, -CH2CH2COOCH3), δ 3.28 (m, -CONHCH2-), δ 3.67 (s, -OCH3), δ 7.07, 7.63 and 8.08 (m, -CONH-).
【0042】
製造例2.2
【化10】

【0043】
製造例2.1で得られた化合物(0.63 g, 0.31 mmol)を、メタノール(27 ml)に溶解した。この溶液を、シアン化ナトリウム(6.1 mg, 0.12 mmol)を含むエチレンジアミン(41 ml, 0.61 mol)に徐々に加え、窒素雰囲気において45℃で55時間撹拌した。その後、未反応のエチレンジアミンとメタノールを減圧留去し、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)を用いて精製した(収率:85.3%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-), δ 2.36 (br, -CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.54 (br, -CONHCH2CH2-), δ 2.74 (br, -CH2CH2CONHCH2CH2NH2), δ 2.83 (br, -CH2NH2), δ 3.26 (br, -CONHCH2-), δ 3.29 (br, -CH2CH2NH2), δ 7.75, 7.97 and 8.55 (br, -CONH-).
【0044】
製造例3 C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の製造
上記の製造例1.1において、ジ−n−オクタデシルアミンの代わりにジ−n−ドデシルアミンを用いた以外は、製造例1と同様にして、C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)を製造した。
【0045】
製造例4 C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の製造
製造例2において、製造例1で得られた化合物の代わりに製造例3で得られた化合物を用いた以外は、製造例2と同様にして、C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を製造した。
【0046】
実施例1 イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
【化11】

【0047】
製造例1で製造した化合物(83 mg, 63μmol)を、トリエチルアミン(TEA) (139μl, 1.0 mmol)を含むクロロホルム(3.8 ml)に溶解した。この溶液に、氷冷下にて塩化イソブチリル(52μl, 0.50 mmol、キシダ化学社製)を徐々に加え、窒素雰囲気において27時間撹拌した。その後、未反応の塩化イソブチリル、及びTEAとクロロホルムを減圧留去し、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)を用いて精製した(収率:79.7%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.14 (s, -CH(CH3)2), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.32 (m, -CH2CH2N-), δ 2.32 (m, -CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 2.35 (m, -CH2N-), δ 2.43 (m, -CH(CH3)2), δ 2.53 (m, -CONHCH2CH2-), δ 2.72 (m, -CH2CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 3.24 (m, -CONHCH2-), δ 3.34 (m, -CH2CH2NHCO-), δ 7.26, 7.30 and 8.00 (m, -CONH-).
【0048】
実施例1で得られた化合物について、1H NMRにおけるオクタデシル基末端のメチル基に由来する0.88ppm付近のピークの積分比と、導入されたイソブチリル基のメチル基に由来する1.14ppm付近のピークの積分比から、1分子当たりに導入されたイソブチリル基の数を求めたところ、4.1であった。
【0049】
実施例2 イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
【化12】

【0050】
製造例2で得られた化合物(110 mg, 49μmol)を、TEA(219μl, 1.6 mmol)を含むクロロホルム(3.7 ml)に溶解した。この溶液に、氷冷下にて塩化イソブチリル(83μl, 0.79 mmol)を徐々に加え、窒素雰囲気において3日間撹拌した。その後、未反応の塩化イソブチリル、およびTEAとクロロホルムを減圧留去し、pH 8.0に調製したリン酸緩衝液中で透析した後、更に蒸留水中で透析することによって精製した(収率:81.3%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.14 (s, -CH(CH3)2), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.42 (m, -CH2CH2N-), δ 2.36 (br, -CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 2.41 (m, -CH(CH3)2), δ 2.53 (br, -CONHCH2CH2-), δ 2.72 (br, -CH2CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 3.25 (br, -CONHCH2-), δ 3.35 (br, -CH2CH2NHCO-), δ 7.24, 7.72, 7.82 and 8.02 (br, -CONH-).
【0051】
実施例2で得られた化合物について、1H NMRにおけるオクタデシル基末端のメチル基に由来する0.88ppm付近のピークの積分比と、導入されたイソブチリル基のメチル基に由来する1.14ppm付近のピークの積分比から、1分子当たりに導入されたイソブチリル基の数を求めたところ、7.7であった。
【0052】
実施例3 ブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
【化13】

【0053】
製造例1で製造した化合物(0.19 g, 0.14 mmol)を、トリエチルアミン(TEA) (0.31 ml, 2.2 mmol)を含むクロロホルム(3.7 ml)に溶解した。この溶液に、氷冷下にて塩化ブチリル(0.12 ml, 1.12 mmol、キシダ化学社製)を徐々に加え、窒素雰囲気において20時間撹拌した。その後、未反応の塩化ブチリル、及びTEAとクロロホルムを減圧留去し、Sephadex LH-20カラム(溶離液:メタノール)を用いて精製した(収率:57.8%)。
1H NMR (CDCl3): δ0.88 (m, CH3(CH2)9-),δ0.95 (m, CH3(CH2)2CO-),δ1.26 (s, CH3(CH2)9-),δ1.42 (m, -CH2CH2N-),δ1.65 (m, CH3CH2CH2CO-),δ2.17 (t, CH3CH2CH2CO-),δ2.36 (br, -CH2CONHCH2CH2NHCO-),δ2.53 (br, -CONHCH2CH2-),δ2.73 (br, -CH2CH2CONHCH2CH2NHCO-),δ3.24 (m, -CONHCH2-),δ3.35 (m, -NHCH2CH2NH-),δ3.35 (m, -NHCH2CH2NH-),δ7.18, 7.64, 7.87 and 8.58 (m, -CONH-).
【0054】
実施例4 ブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
実施例2において、塩化イソブチリルの代わりに塩化n−ブチリルを用いることにより、ブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を合成できる。
【0055】
実施例5 バレリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
実施例1において、塩化イソブチリルの代わりに塩化バレロイルを用いることにより、バレリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)を合成できる。
【0056】
実施例6 バレリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
実施例2において、塩化イソブチリルの代わりに塩化バレロイルを用いることにより、バレリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を合成できる。
【0057】
実施例7 ヘキサノイル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
実施例1において、塩化イソブチリルの代わりに塩化ヘキサノイルを用いることにより、ヘキサノイル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)を合成できる。
【0058】
実施例8 ヘキサノイル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
実施例2において、塩化イソブチリルの代わりに塩化ヘキサノイルを用いることにより、ヘキサノイル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を合成できる。
【0059】
実施例9 イソブチリル基含有C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
実施例1において、製造例1で得られた化合物の代わりに、製造例3で得られた化合物を用いる以外は実施例1と同様にして、イソブチリル基含有C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)を合成できる。
【0060】
実施例10 イソブチリル基含有C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
実施例2において、製造例2で得られた化合物の代わりに、製造例4で得られた化合物を用いる以外は実施例2と同様にして、イソブチリル基含有C12ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を合成できる。
【0061】
比較例1 アセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)の合成
実施例1において、塩化イソブチリルの代わりに無水酢酸(和光純薬工業)を用いた以外は、実施例1と同様にして、アセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)を得た(収率:87.7%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.46 (m, -CH2CH2N-), δ 1.98 (m, -COCH3), δ 2.34 (m, -CH2CONHCH2CH2NHCO-),δ 2.53 (m, -CONHCH2CH2-), δ 2.72 (m, -CH2CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 3.25 (m, -CONHCH2-), δ 3.34 (m, -CH2CH2NHCO-), δ 7.30, 7.37, 7.69 and 8.62 (m, -CONH-).
【0062】
比較例2 アセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の合成
実施例2において、塩化イソブチリルの代わりに無水酢酸を用いた以外は、実施例2と同様にして、アセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)を得た(収率:77.3%)。
1H NMR (CDCl3): δ 0.88 (m, CH3(CH2)9-), δ 1.25 (s, CH3(CH2)9-), δ 1.46 (m, -CH2CH2N-), δ 1.98 (m, -COCH3) δ 2.36 (br, -CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 2.53 (br, -CONHCH2CH2-), δ 2.73 (br, -CH2CH2CONHCH2CH2NHCO-), δ 3.25 (br, -CONHCH2-), δ 3.33 (br, -CH2CH2NHCO-), δ 7.58, 7.72, 7.84,7.95 and 8.60 (br, -CONH-).
【0063】
実験例1 イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質の温度応答性の分析1−1)試料の調製
実施例1で得られたイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)のクロロホルム溶液からロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去することにより、脂質薄膜を形成させた。これに10 mMリン酸緩衝溶液を加えて、pH 3.0、上記の脂質の濃度2 mg/ml (1.25 mM)に調整した。これにバス型超音波照射装置を用いて超音波を45℃で10分間照射した後、45℃で20分間静置した。その後、氷冷下において10分以上静置したのち、10M及び1MのNaOH水溶液を用いてpHを6.0、6.3、6.5、7.0、7.2にそれぞれ調整して、イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)分散液を得た。
【0064】
また、上記と同様にして、実施例2で得られたイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)の分散液を得た。この分散液のpHは、6.0、6.3、7.0、7.5、8.0、9.0に調整した。
さらに、上記と同様にして、比較例1及び2で得られたアセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質の分散液もそれぞれ作製した。これらの分散液のpHは、7.0とした。
【0065】
1−2)光学密度の測定
1−1)で得られたそれぞれのイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質分散液を、4℃から80℃まで温度変化させたときの光学密度の変化を、V-560型 紫外・可視分光光度計(日本分光社製)を用いて測定した(昇温速度1.0℃/分)。温度制御は、ETC-505Tを用いて行った。この実験において、温度の上昇に対して光学密度が急激に上昇し始める点を曇点とした。
【0066】
pHが7.0の場合の実施例1及び2並びに比較例1及び2のポリアミドアミンデンドロン脂質分散液について、温度変化に対する光学密度の変化を示す結果を、図1及び2に示す。
図1及び2の結果から、pHが7.0の場合に、第2世代のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質の曇点は、35℃、第3世代のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質の曇点は、53℃であることがわかった。また、アセチル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質は、温度を変えても親水性が変化せず、温度応答性を示さないこともわかる。
【0067】
実施例1及び2のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質の温度変化に対する光学密度の変化におけるpHの影響を示すデータを、図3及び4に示す。
図3及び4の結果から、本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の曇点は、pHによって変化することがわかる。
図4において、pH 8以上の領域では、曇点がほぼ一定となっている。これは、pH 8以上では全ての二級アミノ基が脱プロトン化しているためと考えられる。
また、第2世代のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質はpH=6.0において、第3世代のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質はpH=6.5において、それぞれ、温度の変化によらずに安定にベシクルの形態を保ち得ることもわかる。
【0068】
1−3)透過型電子顕微鏡(TEM)による粒子観測
上記の1−1)で調製したpH 7.0のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)分散液を、4℃から25℃まで昇温させた試料と、4℃から50℃まで昇温させた試料とについて、透過型電子顕微鏡(TEM;JEOL 2000、日本電子株式会社)を用いて、該分散液中の該脂質の集合体の形状を観測した。温度制御は、ETC-505Tを用いて行った(昇温速度1.0℃/分)。
また、pH 7.0のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)分散液については、4℃から15℃まで昇温させた試料と、4℃から65℃まで昇温させた試料とについて、上記と同様にしてTEMを用いて観察した。
【0069】
イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)分散液について、TEMの写真を図5に示す。図5において、(A)は、4℃から25℃まで昇温させた試料、(B)及び(C)は、4℃から50℃まで昇温させた試料の結果を示す。
また、イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)分散液について、TEMの写真を図6に示す。図6において、(A)は4℃から15℃まで昇温させた試料、(B)は4℃から65℃まで昇温させた試料の結果を示す。
【0070】
イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)は、曇点以下の25℃においては、粒径が80〜200nmのベシクルの形態であることが観察された(図5(A))。しかし、同じ脂質を曇点以上の50℃にした場合、球状の集合体は観察されず、5〜8nmの幅の繊維状の構造が観察された(図5(B)及び(C))。この結果から、曇点を超える温度においては、イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)は逆ヘキサゴナル構造をとっているものと考えられる。これは、曇点以上でイソブチルアミド基が脱水和し、分子における親水性が変化したため、ベシクルから逆ヘキサゴナル構造に転移したと考えられる。
【0071】
また、イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)は、曇点以下の15℃においては、粒径が15〜30nmのベシクル状の集合体の形態であることが観察された(図6(A))。第3世代のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質は、より多くのイソブチリル基を有するので、第2世代のものに比べてベシクル径が小さいと考えられる。
また、曇点を超える65℃の温度にした場合、200〜500nmのベシクルが観察された(図6(B))。これは、温度を上昇させると、曇点以上の温度でイソブチルアミド基の脱水和が起こり、分子形状がより円筒状に近づき歪が小さな二重層をつくるため、小さな粒経のベシクルが融合し、大きな粒経のベシクルを形成したと考えられる。
【0072】
実験例2
実施例1のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)と、実施例3のブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)とを用いて、実験例1と同様にして、種々のpHでの曇点を調べた。
【0073】
結果を、図7に示す。図7では、実施例1(◆)及び実施例3(▲)の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質のpH 6.3、6.5、6.8(実施例3のみ)、7.0及び7.2(実施例1のみ)での曇点を示す。
この結果から、低級アシル基の構造を変化させることにより、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の温度応答性を変化させ得ることがわかる。
【0074】
実験例3
実施例1のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)(以下、G2という)のクロロホルム溶液と、実施例2のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第3世代)(以下、G3という)のクロロホルム溶液とを、G2のモル分率(G2のモル数/全脂質モル数)がそれぞれ1.0、0.75、0.5及び0となるように混合して、ロータリーエバポレーターを用いて溶媒を除去して脂質薄膜を形成させた。これを、10 mMリン酸緩衝溶液に溶解し、全脂質濃度を1.25μmol/mlとした。この溶液を、塩酸及び水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH 3.0に調整した。これにバス型超音波照射装置を用いて超音波を45℃で10分間照射した後、45℃で20分間静置した。その後、氷冷下において10分以上静置したのち、氷冷下でpH 7.0に調整して、G2/G3混合系の分散液を得た。
【0075】
得られたG2/G3混合系の温度変化に対する光学密度の変化を、実験例1−2)と同様にして測定した。
結果を、図8に示す。図8Aでは、G2のモル分率が(a) 1.0、(b) 0.75、(c) 0.5及び(d) 0の場合の温度に対する光学密度の変化を示す。図8Bでは、図8Aに基づいて得られた曇点と、G2のモル分率との関係を示す。
【0076】
これらの結果から、2種以上の本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を混合し、その混合比を変化させることにより、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の温度応答性を変化させ得ることがわかる。
【0077】
実験例4
実施例1のイソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)(以下、IBAM−G2という)のクロロホルム溶液と、比較例1のアセチル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)(以下、ACAM−G2という)のクロロホルム溶液とを、IBAM−G2のモル分率(IBAM−G2のモル数/全脂質モル数)がそれぞれ1.0、0.75及び0.5となるように混合した以外は、実験例3と同様にして、IBAM−G2/ACAM−G3混合系の分散液を得た。
【0078】
得られたIBAM−G2/ACAM−G3混合系の温度変化に対する光学密度の変化を、実験例1−2)と同様にして測定した。
結果を、図9に示す。図9Aでは、IBAM−G2のモル分率が(a) 1.0、(b) 0.75及び(c) 0.5の場合の温度に対する光学密度の変化を示す。図9Bでは、図9Aに基づいて得られた曇点と、IBAM−G2のモル分率との関係を示す。
【0079】
これらの結果から、本発明の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質を、それ以外のポリアミドアミンデンドロン脂質と混合し、その混合比を変化させることにより、低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の温度応答性を変化させ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】実施例1及び比較例1のデンドロン脂質分散液の温度に対する光学密度の変化を示すグラフである。
【図2】実施例1及び2並びに比較例2のデンドロン脂質分散液の温度に対する光学密度の変化を示すグラフである。
【図3】実施例1のイソブチリル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質分散液の光学密度の変化のpHによる影響を示すグラフである。
【図4】実施例2のイソブチリル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質分散液の光学密度の変化のpHによる影響を示すグラフである。
【図5】実施例1のイソブチリル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の透過型電子顕微鏡写真である:(A)25℃;(B)及び(C)50℃。
【図6】実施例2のイソブチリル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の透過型電子顕微鏡写真である:(A)15℃;(B)65℃。
【図7】実施例1(◆)及び実施例3(▲)の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質のpH 6.3、6.5、6.8(実施例3のみ)、7.0及び7.2(実施例1のみ)での曇点を示す。
【図8】(A)イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)(G2)のモル分率が(a) 1.0、(b) 0.75、(c) 0.5及び(d) 0の場合の温度に対する光学密度の変化を示す。(B)(A)に基づいて得られた曇点と、G2のモル分率との関係を示す。
【図9】(A)イソブチリル基含有C18ポリアミドアミンデンドロン脂質(第2世代)(IBAM−G2)のモル分率が(a) 1.0、(b) 0.75及び(c) 0.5の場合の温度に対する光学密度の変化を示す。(B)(A)に基づいて得られた曇点と、IBAM−G2のモル分率との関係を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドアミンデンドロン脂質中の1以上のアミノ基が、炭素数3〜6の低級アシル基で置換されてなる低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質。
【請求項2】
前記ポリアミドアミノデンドロン脂質が、下記式:
DL−G2:R12NX(X(XH222
DL−G3:R12NX(X(X(XH2222
DL−G4:R12NX(X(X(X(XH22222
DL−G5:R12NX(X(X(X(X(XH222222
DL−G6:R12NX(X(X(X(X(X(XH2222222
DL−G7:R12NX(X(X(X(X(X(X(XH22222222
DL−G8:R12NX(X(X(X(X(X(X(X(XH222222222
(式中、R1及びR2は同一又は異なって、アルキル基、アルコキシ基、アリール基又はアラルキル基を表し、Xは、−CH2CH2CONHCH2CH2N<を表す。)
で表される請求項1に記載の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質。
【請求項3】
前記ポリアミドアミンデンドロン脂質が、DL−G2又はDL−G3である請求項2に記載の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質。
【請求項4】
前記低級アシル基が、ブチリル基又はイソブチリル基である請求項1〜3のいずれか1項に記載の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質。
【請求項5】
前記低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質1分子中の複数の低級アシル基が、1種のものである請求項1〜4のいずれか1項に記載の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質。
【請求項6】
ポリアミドアミンデンドロン脂質を、該脂質を溶解可能な溶媒中で、低級脂肪酸又はその反応性誘導体と反応させることを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の低級アシル基含有ポリアミドアミンデンドロン脂質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−303210(P2008−303210A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111630(P2008−111630)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】