説明

低蒸気圧の可塑剤で可塑化されたフィルム

本発明の中心的態様は、低蒸気圧の可塑剤で可塑化された生分解性物質のフィルムであって、1又は両方の表面上にガラス又は金属の被膜を含む、フィルムに関する。これによりジレンマが解決される。可塑剤は真空プロセスの間に蒸発するので、ガラス及び金属は、可塑剤を含まないポリマー上に蒸着される。低蒸気圧を有する可塑剤を選択することにより、蒸発のため生じる問題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストーマ袋(ostomy bag)として使用するために適したフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸管の多くの疾患の手術に関連して、結果として多くの場合、結腸、回腸、又は尿道が外科的に露出されるようになり、そして患者に腹部ストーマが設置されるようになり、そして、これらの器官を通して排出される排出物又は排泄物が人口オリフィス又は開口部を通して排出され、そして回収バッグ中に回収されるようになる。回収バッグは通常、当該ストーマを収容するための内部開口部を有するプレート又は粘着ウエハーを用いることにより、皮膚に接着される。瘻孔に関して、患者は、このような開口部からでてくる体物質(bodily material)を回収するための器具に頼らなければならない。
【0003】
ストーマ袋を交換する場合、結果として臭いの問題を有する日中の排泄物を同伴しなければならない代わり、使用済みのストーマ袋がトイレに廃棄できるならば、ストーマ手術を受けた患者にとって利点があるであろう。しかしながら、使用済みのバッグのトイレに流すことを環境にやさしいものとするために、当該バッグを生分解性にすることが必要とされる。
【0004】
EP0703762は、いわゆるバッグ-イン-バッグの解決法を記載する。ここで、外側のバッグは、木炭フィルターを備えた慣用のストーマ袋に類似している。この外側バッグは、臭い対する障壁を提供する。トイレに流すことができる内部バッグは、生分解性であるか、及び/又は溶解性である。2つのバッグは、内部バッグをトイレに流す前に分離することができる。
【0005】
GB2083762は、PVDC、ビニルクロリドービニリデンクロリド-コポリマー、アタクチック・ポリプロピレン、ニトロセルロース、ワックス類、グリース類、シリコーン類、又は感圧接着剤で被膜されたPVOHから製造されたフィルムを記載する。多層積層物における原理は、生分解性及び/又は水溶性の層が、機械的強度の主要部分を与え、そして機械的に弱い層が、障壁性質の主要部分を与える。
【0006】
やがて、トイレに流せるストーマ袋を製造するために、幾つもの実験がなされたが、生分解性であり、かつ同時に糞便の臭いに対して十分な障壁を有するホイルの製造は現在までうまく行かなかった。
【発明の概要】
【0007】
本発明は、糞便の臭いに対して障壁を有し、そして有響音(cracking sound)を有さない生分解性フィルムの製造を開示する。これは、フィルム材料に低い蒸気圧の特定の可塑剤を用い、次にガラス又は金属層の通常の真空蒸着を行うことにより得られる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の中心的態様は、高分子量可塑剤又は別の低蒸気圧の可塑剤で可塑化された生分解性物質のフィルムに関し、当該フィルムは、ガラス又は金属を被膜する1又は2つの表面を含む。
【0009】
当該フィルムは以下の要件:
1)生分解性であること、つまり(ISO14852により規定されているように)当該フィルムの重量の90%が6ヶ月後に分解されること;
2)少なくとも10時間水及び糞便の臭いに対して不浸透性であること;
3)ストーマ袋に現在使用されるフィルムよりも硬くなく、又はそれよりも有響音(crackling)多くないこと
を満たす。
【0010】
好ましい実施態様では、フィルムは、熱密封可能であり、そして透明である。
【0011】
ここで、当該技術分野におけるジレンマを解決する。真空プロセスの間に可塑剤が蒸発するので、可塑剤を含まないポリマー上にのみガラス及び金属を蒸着させることができる。低い蒸気圧を有する可塑剤を選択することにより、蒸発のため生じる問題が解決される。こうして、本発明は、低い蒸気圧を有する可塑剤で可塑化された生分解性物質のフィルムであって、少なくとも1の表面にガラス又は金属の被膜を含むフィルムを含むストーマ袋を提供する。
【0012】
可塑剤の蒸気圧が、25℃で10-4mmHg未満であることが好ましい。蒸気圧は、ガラス蒸着プロセスのあいだに使用される圧力に左右される。1の実施態様では、可塑剤は、25℃で10-7mmHg未満の蒸気圧を有する可塑剤である。
【0013】
以下の表は、いくつかの一般的なモノマー可塑剤についてのおよその蒸気圧を示す。低い蒸気圧を有する一般的な可塑剤を選択することも可能であるということがわかる。Velsicol Chemicalから販売されているF.x.Benzoflex50(PLAと相性がよい)は、25℃で2.29×10-7mmHgの蒸気圧を有する。
【0014】
【表1】

【0015】
1の実施態様では、可塑剤はポリマー自身、例えばポリエステル系可塑剤である。別の実施態様では、可塑剤は、モノマー可塑剤である。
【0016】
使用される可塑剤の量は、5〜50%、例えば10〜30%であり、当該物質(フィルム)がどれだけ軟らかくなるべきかに左右される。
【0017】
可塑剤をフィルム物質に適用することは、当業者に周知である。1の方法では、可塑剤は、高温で押し出し機又はミキサーを用いることにより溶融状態でポリマーに混ぜ合わせられる。或いはポリマーを溶解させ、そして可塑剤と混合する。続いて、フィルムは混合物から成型される。
【0018】
フィルムの少なくとも1の側の被膜をする目的は、フィルムを臭い、水及び湿気に対し不浸透性にするためである。こうして、被膜は、ガラス又は金属の連続層である。SiOx又はアルミニウムの層が、PETフィルムの障壁性質を改善するということが周知である(Barrier Technologies, AIMCAL Fall Technical Conference, Dr. B. M. Henry, University of Oxford, 2005の図1を参照のこと)。同様の障壁の改善は、生分解性フィルムをSiOx又はアルミニウムで被膜することによりみられる。
【0019】
フィルム物質へのガラス又はアルミニウムの真空蒸着は、当業者に周知である。このような方法の例は、「Barrier Properties of SiOx-coated polymers: multi-layer modelling and effects of mechanical folding」 (M.S. Hedenqvist, Surface and Coatings Technology 172 (2003) 7 - 12)に記載されている。
【0020】
真空蒸着又は他の障壁被膜でのフィルム物質の共押し出しを考えることもできる。これは、他の金属酸化物又はDLC(ダイアモンド様炭素)及びSi、Cl又はFを場合により含む有機ポリマー性表面を含む。
【0021】
本発明の1の態様では、生分解性物質は、6ヶ月後に90%(重量)が分解する。しかしながら、生分解性物質は6ヵ月後に100%が分解することが好ましいが、これは、フィルム重量の10%が、非分解性物質(例えば、ガラス又は金属の被膜)であることを許容する。好ましい実施態様では、生分解性物質は、一般的な生分解性ポリエステル類のなかから選ばれる。PVOH(ポリビニルアルコール)、デンプン、PLA(ポリ酢酸)、PHB(ポリヒドロキシ酪酸)、及びポリカプロラクトンからなる群から選ばれる生分解性物質が特に好ましい。このようなフィルムの例は、Mater-Bi、Eco-Flex、及びPVOHである。
【0022】
本発明では、「フィルム」は、約10〜100μmの薄い平面シートとして理解される。一般的に、ストーマ袋として使用するためのフィルムの寸法(高さ×幅)は、126×200mmの範囲である。
【0023】
内部バッグをトイレに流す前にバッグを分離し、そして(ある程度汚れた)外側バッグを持ち続ける必要がないので、この解決法は利点がある。
【0024】
当該フィルムは、別の場面、生分解性/可溶性が例えば尿バッグ用に高い障壁性と組み合わされる場合、完全に他の関係では、例えば食品をパッケージングするために製品が密封されている場合、又は徐放性が所望される場合、つまり当該パッケージが分解し/溶解し、それにより内容物が放出される場合にも使用することもできる。
【実施例】
【0025】
実施例1:PLAの可塑化
16mmスクリュー直径及び30L/Dを備えた2軸押し出し機(ThermoPrismEurolab)を用いて可塑化PLAフィルムを製造した。処理温度を、入り口から押出型まで125〜180℃に設定する。押し出し機は、フィルムシート押出型とフィルム剥がしユニットを備える。
【0026】
PLAペレット(Biomer L9000)を重量測定して入れ、そして可塑剤(Benzoflex50[50:50ジエチレングリコールジベンゾエート:ジプロピレングリコールジベンゾエート])を容量測定して同時に加え、さらに押出バレルの下に行き、ここで当該PLAペレットが溶融した。これは、50μmの厚さ及び10cm幅のフィルムの押出をもたらす。フィルムの組成は、80%PLA及び20%Benzoflexである。
【0027】
実施例2:SiOxのプラズマ蒸着
50μm可塑化フィルムサンプル(80%PLA、20%Benzoflex)を、プラズマ蒸着を用いてSiOxで被膜する。可塑化フィルムサンプルを反応容器に置き、そしてヘキサメチルジシロキサン(HMDSO)と酸素の混合物を反応容器に加えて、SiOx化合物を生成させ、これはフィルムサンプルを被膜する。この蒸着は、以下の表に示されるパラメーター設定で行われる:
【0028】
【表2】

【0029】
実施例3:バッグの有響音
フィルムの有響音は望ましくないので、柔らかいフィルムであることは重要である。バッグの有響音を測定するために、3人の目隠しをした被験者に依頼して、1=有響音なし〜5=かなりの有響音、のスケールで有響音を測定した。
【0030】
以下の表は、3人の被験者による13種のフィルムの有響音の評価を示す。フィルムE及びFは、慣用のストーマ袋について使用されているフィルムタイプである。フィルムE及びFは、どれだけ小さな有響音が許容されるかについての高品位の標準である。
【0031】
フィルムIは、非可塑性生分解性フィルムである。フィルムJ、K、L及びMは可塑化生分解性フィルムである。フィルムIは、かなりの有響音を有する一方で、可塑フィルムはあまり有響音がない。これらすべてのフィルム(A−M)は、ガラス障壁層を伴わず、そしてガラス層(N)はかなりの有響音を加えるものとして予期されることはない。
【0032】
フィルムG及びHは、水溶性PVOHフィルムである。フィルムHはエンボス加工されている。つまり、表面が有響音を低下させるようにパターン構造を有する。
【0033】
フィルムA、B、C及びDは一般的なフィルムである。
【表3】

【0034】
可塑性PLAフィルム(J)が、ストーマ袋に典型的なフィルム(Saranex114、F)とおよそ同じ程度の有響音であるということを上記表から観察することができる。SiOx被膜が、有響音を著しく増加させるということは予測されないということが観察することができる。
【0035】
実施例4:バッグの臭い
バッグからもれる臭いを測定するために、以下の試験を行った。各物質でできたバッグを2枚のフィルムから製造した(120×120mm)。当該フィルムの3つの辺を加熱密封する。1mlの0.2%スカトール水溶液を加えた後に溶接する。当該バッグを別々の閉じたガラス製のジャーに置き、そして32℃に維持する。3人の目隠しをした被験者が3の異なる時点で臭いを評価する。
臭いのスケールは、0=臭いなし、3=強い臭いであった。
【0036】
【表4】

【0037】
Saranexフィルムを含むPVDCは、他のものよりずっと優れていることがわかり、そして臭い障壁のゴールとして設定された。一般的な生分解性フィルム、例えばLDPEも任意の生分解性フィルムのどちらも、臭いガスに対して十分な障壁を提供しない。蒸着されたガラス層を備えた可塑化生分解性フィルムは、このスカトール試験により測定した場合、臭いガスに対して十分な障壁を提供するということが期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
低蒸気圧を有する可塑剤で可塑化された生分解性物質のフィルムであって、当該フィルムが、少なくとも1の表面にガラス又は金属被膜を含む、前記フィルム。
【請求項2】
前記可塑剤の蒸気圧が、25℃で10-1mmHg未満である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項3】
前記可塑剤の蒸気圧が、25℃で10-4mmHg未満である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項4】
前記可塑剤の蒸気圧が、25℃で10-7mmHg未満である、請求項1に記載のフィルム。
【請求項5】
前記可塑剤が、高分子量可塑剤である、請求項1〜4のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項6】
前記高分子量可塑剤が、高分子量ポリエステル可塑剤である、請求項5に記載のフィルム。
【請求項7】
前記可塑剤が、25℃で10-4mmHg未満の蒸気圧を有する低分子量可塑剤である、請求項1〜6のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項8】
前記可塑剤が、25℃で10-7mmHg未満の蒸気圧を有する低分子量可塑剤である、請求項1〜7のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項9】
前記フィルムが、1の表面にガラス又は金属の被膜を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項10】
前記フィルムが、両方の表面にガラス又は金属の被膜を含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項11】
前記生分解性物質が、6ヶ月後に(重量の)90%が分解する、請求項1〜10のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項12】
前記生分解性物質が、PVOH(ポリビニルアルコール)、デンプン、PLA(ポリ乳酸)、PHB(ポリヒドロキシブチラート)、及びポリカプロラクトンからなる群から選ばれる、請求項1〜11のいずれか一項に記載のフィルム。
【請求項13】
前記フィルムが10〜100μmの厚さを有する、請求項1〜12のいずれか一項に記載のフィルム。

【公表番号】特表2009−545465(P2009−545465A)
【公表日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−522089(P2009−522089)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/DK2007/050095
【国際公開番号】WO2008/014789
【国際公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【出願人】(500085884)コロプラスト アクティーゼルスカブ (153)
【Fターム(参考)】