説明

作業車両

【課題】 閉回路に対して常に安定したチャージ圧油を補充することのできる作業車両を提供する。
【解決手段】 可変容量型油圧ポンプ11からの圧油は、圧力補償弁13を介してチャージ弁12に供給される。チャージ弁12からは所定圧力以上となったチャージ圧油が、常にチャージ圧油路39に出力される。チャージ圧油路39は、チェック弁23a、23bを介してHST回路の油路31、32にそれぞれ接続している。電磁比例弁18がコントローラ30によって制御されると、電磁比例弁18から出力されるパイロット圧が制御されて、チャージ弁12から出力するチャージ流量を制御できる。HST回路において必要とするチャージ流量をチャージ圧油路39から補充することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプと同油圧ポンプにより駆動される油圧モータとを繋ぐ閉回路を備えた作業車両に関し、特に、前記閉回路にチャージ圧油を補充することのできる作業車両に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から作業車両においては、原動機エンジンによって走行用油圧ポンプや作業用油圧ポンプ等の駆動を行っている。走行用油圧ポンプからの吐出圧油によって、走行用モータを回転させて駆動輪を駆動し、車両の走行を行わせている。また、作業用油圧ポンプからの吐出圧油によって、作業機用アクチュエータを作動させている。この油圧回路は、HST(ハイドロ・スタティック・トランスミッション)回路、作業機用HST回路として知られている。
【0003】
このような閉回路においては、閉回路内への圧油のチャージを行わずにいると、油圧ポンプや油圧モータから漏れ出た油によって、閉回路内における圧油の流量が減少してしまう。
【0004】
このため、必要な量のチャージ圧油を閉回路内にチャージできるようにしたものとして、エンジンに直結してチャージポンプを配設した作業車両(特許文献1参照。)や、チャージ弁を用いてアクチュエータからの戻り圧油をチャージ圧油として閉回路にチャージすることのできる作業機(特許文献2参照。)等が提案されている。
【0005】
本願発明の従来技術1として、特許文献1に記載された作業車両のHST回路図を図5に示す。図5に示すように、エンジン50の駆動軸には、走行用の可変容量形油圧ポンプ51、チャージポンプ55、フロント作業機のバケットシリンダ56およびリフトシリンダ57に圧油を供給する作業機用油圧ポンプ60、油圧モータ58の駆動にのみ使用される油圧ポンプ61及びブレーキ用油圧ポンプ62が接続されている。
【0006】
走行用の可変容量形油圧ポンプ51と可変容量形油圧モータ54とは、一対の主管路52、53によってHST回路としての閉回路が構成されている。可変容量形油圧モータ54の回転によって、車輪63を回転することができる。可変容量形油圧ポンプ51から主管路52に圧油が吐出されたときに、車輪63が正転して作業車両が前進するものとすると、可変容量形油圧ポンプ51から主管路53に圧油を吐出することによって、車輪63を後転させて作業車両を後進させることができる。
【0007】
チャージポンプ55からの吐出圧油は、チャージ圧油としてチェック弁59を介してそれぞれ主管路52、53に補充することができる。可変容量形油圧ポンプ51から主管路52に圧油が吐出されて車輪63が正転しているとき、主管路53には可変容量形油圧モータ54からの戻り油圧が流れ低圧回路となる。主管路53における油圧が、チェック弁59の上流側の油圧よりも低くなったときには、チャージポンプ55からの吐出圧油を主管路53に補充することができる。
【0008】
逆に、可変容量形油圧ポンプ51から主管路53に圧油が吐出されて車輪63が後転しているときには、主管路52には可変容量形油圧モータ54からの戻り油圧が流れ低圧回路となる。主管路52における油圧が、チェック弁59の上流側の油圧よりも低くなったときには、チャージポンプ55からの吐出圧油を主管路52に補充することができる。
【0009】
本願発明の従来技術2として、特許文献2に記載された作業機のHST回路図を図6に示す。図6に示すように、HST回路70は可変容量型油圧ポンプ76と油圧モータ77とによって閉回路が構成されている。可変容量型油圧ポンプ76と油圧ポンプ71とがエンジン81により駆動されている。油圧ポンプ71から吐出する作動油は、油圧パワーステアリング装置75と作業装置を昇降させる油圧シリンダ80とに供給される。
【0010】
油圧ポンプ71からの作動油が油圧パワーステアリング装置75を介して、昇降用シリンダ室72aに供給されると、非昇降用シリンダ室72bからは作動油給排路73に戻り圧が排出される。作動油給排路73に排出された戻り圧油は、チェック弁78を介してHST回路70に対してチャージ圧油として補充することができる。
【0011】
チャージ圧油は、リリーフ弁79によって所定の圧力状態となるように制御されている。HST回路70の低圧回路における圧力が、チェック弁78の上流側の圧力よりも低くなると、即ち、作動油給排路73における圧油の圧力よりも、HST回路70の低圧回路における圧力が低くなると、チェック弁78を通って低圧回路にチャージ圧油を補充することができる。
【0012】
また、昇降バルブ74を中立位置に操作して、昇降用シリンダ室72aに対する作動油の供給を停止すると、油圧ポンプ71から吐出した作動油は、油圧パワーステアリング装置75を通った後、昇降バルブ74を介してそのままHST回路70に対するチャージ圧油として補充することができる。
【0013】
従って、油圧シリンダ80が作動している間においては、油圧シリンダ80がHST回路70のチャージポンプとしての作用も奏することになる。このため、チャージポンプを別途設ける必要がない構成となっている。
【特許文献1】特開2001−173025号公報
【特許文献2】特開2004−332850号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1に記載された作業車両においては、走行系用、作業機用、チャージ用等として、それぞれ油圧ポンプを設けなければならなかった。しかも、各油圧ポンプをエンジン50の駆動軸に直列状態で配設するため、場積が大きくなってしまう問題があった。また、油圧ポンプの個数が多くなるため、製造価格の上昇を招いていた。
【0015】
特許文献2に記載された作業機では、昇降バルブ74によってチャージポンプを設けなくてもすむ。しかし、作業機の作動中においてはHST回路70に補充されるチャージ圧油は、油圧パワーステアリング装置75や全ての作業が終わった油圧シリンダ80からの戻り油である。このため、油圧ポンプ71のポンプ圧は、チャージリリーフ弁79の圧力に作業機のリリーフ圧、及びパワーステアリングのリリーフ圧を加えた圧力となる。そのため、油圧ポンプ71からの吐出圧を高くしておかなければならないという問題が発生する。
【0016】
本願発明では、これらの問題を解決し、閉回路に対して常に安定したチャージ圧油を補充することのできる作業車両を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本願発明の課題は請求項1〜3に記載された各発明により達成することができる。
即ち、本願発明では請求項1に記載したように、油圧ポンプと同油圧ポンプにより駆動される油圧モータとを繋ぐ閉回路と、可変容量型油圧ポンプと、前記可変容量型油圧ポンプからの圧油を、複数のアクチュエータにそれぞれ供給する負荷感応型の制御弁と、を備えた作業車両において、前記可変容量型油圧ポンプからの圧油を前記閉回路にチャージ圧油として補充するチャージ弁が、前記負荷感応型の制御弁として構成され、前記チャージ弁に一端が接続し、かつ他端が前記閉回路の高圧回路及び低圧回路に分岐して接続した油路と、前記油路上における前記分岐部よりも下流側にそれぞれ配設されたチェック弁と、を備え、前記チャージ弁からのチャージ圧油を、前記閉回路の低圧回路に補充してなることを最も主要な特徴となしている。
【0018】
また、本願発明では請求項2、3に記載したように、チャージ弁を操作する構成を特定したことを主要な特徴となしている。
【発明の効果】
【0019】
本願発明では、専用のチャージポンプを配設することなく、閉回路に対してチャージ圧油を補充することができる。しかも、各アクチュエータに供給する可変容量型油圧ポンプからの圧油を、チャージ弁を介して直接チャージ圧油として補充することができる。このため、特許文献2に記載されている作業機のように、作業機で使われた後の圧油を用いることなく、可変容量型油圧ポンプからの圧油を必要な流量だけ、いつでも閉回路に補充することができる。
【0020】
本願請求項2、3のように、作業車両の状態を検出するセンサからの検出信号に基づいて操作される操作手段を用いて、チャージ弁の操作を行うことができる。これによって、作業車両の車両状態に応じたモード切替が可能となり、閉回路に補充するチャージ圧油の補充効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の好適な実施の形態について、添付図面に基づいて以下において具体的に説明する。本願発明の作業車両における油圧回路構成としては、以下で説明する形状、配置構成以外にも本願発明の課題を解決することができる形状、配置構成であれば、それらの形状、配置構成を採用することができるものである。このため、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではなく、多様な変更が可能である。
また、チャージ圧油を補充することのできる閉回路としては、HST回路など作業車両において用いられている様々な閉回路に対して適用することができる。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施形態に係わる作業車両における油圧回路図である。同油圧回路では、2つの作業機5、8を駆動する回路とHST回路1及びHST回路1にチャージ圧油を補充するチャージ回路を備えている。作業機の配設個数は2つに限定されるものではないが、図示例では、2つの作業機5、8を例示的に示しているものである。
【0023】
油圧ポンプとしては、HST回路用の可変容量型油圧ポンプ2と作業機用及びチャージ回路用の可変容量型油圧ポンプ11とが配設されている。二つの可変容量型油圧ポンプ2、11はともに、エンジン4の駆動軸4aによって回転駆動される。可変容量型油圧ポンプ2と可変容量型モータ3とは、油路31、32によって接続され、閉回路を構成している。可変容量型モータ3からの出力は出力軸3aによって取り出され、図示せぬ車輪等を回転駆動させることができる。
【0024】
また、油路31、32には、それぞれ油路内の圧力を検出する圧力センサ26a、26bが配設されている。出力軸3aには、出力軸3aの回転数を検出する回転センサ27が配設されている。圧力センサ26a、26b及び回転センサ27からの検出信号は、それぞれコントローラ30に入力される。
【0025】
作業機用及びチャージ回路用の可変容量型油圧ポンプ11から吐出した圧油は、油路33、油路34等を通って作業機5、作業機8にそれぞれ供給される。また、油路33から分岐した油路37を通った圧油は、可変容量型油圧ポンプ11における斜板20の角度を制御する傾斜シリンダ21に供給される。油路37を通る圧油は、傾斜シリンダ21を制御する切換弁22に供給されるとともに、切換弁22に対するパイロット圧としても切換弁22に供給される。
【0026】
作業機5には、油路33から油路34を通り、圧力補償弁7、方向切換弁6を介して可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧油が供給される。作業機8には、油路33から油路34、油路34から分岐した油路34bを通り、圧力補償弁10、方向切換弁9を介して可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧油が供給される。また、チャージ弁12には、油路33から油路34、油路34から分岐した油路34dを通り、圧力補償弁13を介して可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧油が供給される。
【0027】
油路33は、リリーフ弁16によって、各圧力補償弁7、10、13に供給することのできる圧油の最高圧力値を設定している。また、油路33から分岐した油路34は、電磁比例弁18に接続されている。電磁比例弁18はコントローラ30からの制御信号により切換え制御され、電磁比例弁18から出力された圧油は、パイロット圧としてチャージ弁12に供給される。
【0028】
コントローラ30から電磁比例弁18に入力される制御電流値に応じて、電磁比例弁18からパイロット圧油路46に出力するパイロット圧を連続的可変に制御することができる。また、直接チャージ弁12のソレノイドに対して制御電流を流すことでチャージ弁12を連続的に切換えることもできる。
【0029】
圧力補償弁7は油圧パイロット部7a〜7dを有している。油圧パイロット部7aには、方向切換弁6の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部7bには、圧力補償弁7の上流圧をパイロット圧として、油路34から分岐したパイロット油路34aを介して供給している。パイロット部7cには、圧力補償弁7の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部7dには、作業機5の負荷圧、作業機6の負荷圧及びチャージ弁12からの出力圧のうちの最高圧をパイロット圧として供給している。
【0030】
方向切換弁6は、3位置(A)〜(C)に切換えることができ、5つのポート6a〜6eを有している。ポート6aは、タンク24に接続し、ポート6bは、圧力補償弁7の出力ポートと接続している。ポート6cとポート6eは、作業機5のアクチュエータにおける油圧室にそれぞれ接続している。方向切換弁6を切換えることで、ポート6c、ポート6eはそれぞれ作業機5のアクチュエータに対する圧油の出力ポート、アクチュエータからの戻り油のドレインポートとして機能する。
【0031】
ポート6dは、作業機5に圧油を供給する方向切換弁6の出力ポートと連通し、作業機5における負荷圧を取り出すことができる。ポート6dは、圧力補償弁7のパイロット部7a及びチェック弁46aに連通したパイロット油路47に接続している。
【0032】
方向切換弁6は、コントローラあるいは操作レバー等による操作制御によって、弁位置を3位置(A)〜(C)に切換えることができる。位置(A)では、ポート6cを作業機5のアクチュエータに対する出力ポートとし、ポート6eを作業機5のアクチュエータからの戻り圧油のドレインポートとする。このとき、ポート6eは、タンク24と連通し、ポート6dは、出力ポートであるポート6cと連通する。
【0033】
位置(B)では、ポート6dがタンク24と連通した状態となり、ポート6b、6c、6dは閉止された状態となっている。位置(C)では、ポート6dを作業機5のアクチュエータに対する出力ポートとし、ポート6cを作業機5のアクチュエータからの戻り圧油のドレインポートとする。このとき、ポート6cは、タンク24と連通し、ポート6dは、出力ポートであるポート6dと連通する。
【0034】
次に、圧力補償弁10は、2ポート切換弁6と同様の構成を有している。即ち、油圧パイロット部10a〜10dを有している。油圧パイロット部10aは、方向切換弁9の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部10bには、圧力補償弁10の上流圧をパイロット圧として、油路34から分岐した油路34bに接続したパイロット油路34cを介して供給している。パイロット部10cには、圧力補償弁10の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部10dには、作業機5の負荷圧、作業機8の負荷圧及びチャージ弁12からの出力圧のうちの最高圧をパイロット圧として供給している。
【0035】
方向切換弁9は、方向切換弁6と同様の構成を有している。即ち、3位置(D)〜(F)に切換えることができ、5つのポート9a〜9eを有している。ポート9aは、タンク24に接続し、ポート9bは、圧力補償弁10の出力ポートと接続している。ポート9cとポート9eは、作業機8のアクチュエータにおける油圧室にそれぞれ接続している。方向切換弁9を切換えることで、ポート9c、ポート9eはそれぞれ作業機8のアクチュエータに対する圧油の出力ポート、アクチュエータからの戻り油のドレインポートとして機能する。
【0036】
ポート9dは、作業機8に圧油を供給する方向切換弁9の出力ポートと連通し、作業機8における負荷圧を取り出すことができる。ポート9dは、圧力補償弁10のパイロット部10a及びチェック弁46bに連通したパイロット油路48に接続している。
【0037】
方向切換弁9は、コントローラあるいは操作レバー等による操作制御によって、弁位置を3位置(D)〜(F)に切換えることができる。位置(D)では、ポート9cを作業機8のアクチュエータに対する出力ポートとし、ポート9eを作業機8のアクチュエータからの戻り圧油のドレインポートとする。このとき、ポート9eは、タンク24と連通し、ポート9dは、出力ポートであるポート9cと連通する。
【0038】
位置(E)では、ポート9dがタンク24と連通した状態となり、ポート9b、9c、9dは閉止された状態となっている。位置(F)では、ポート9dを作業機8のアクチュエータに対する出力ポートとし、ポート9cを作業機8のアクチュエータからの戻り圧油のドレインポートとする。このとき、ポート9cは、タンク24と連通し、ポート9dは、出力ポートであるポート9dと連通する。
【0039】
更に、圧力補償弁13は、2ポート切換弁6、10と同様の構成を有している。即ち、油圧パイロット部13a〜13dを有している。油圧パイロット部13aには、チャージ弁12の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部13bには、圧力補償弁13の上流圧をパイロット圧として、油路34から分岐したパイロット油路34eを介して供給している。パイロット部13cには、圧力補償弁13の下流圧をパイロット圧として供給している。パイロット部13dには、作業機5の負荷圧、作業機8の負荷圧及びチャージ弁12からの出力圧のうちの最高圧をパイロット圧として供給している。
【0040】
チャージ弁12は、3位置(G)、(H)、(I)に切換えることができ、3ポート12a〜12cを有している。可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧油を電磁比例弁18によって制御したパイロット圧によって、チャージ弁12は3位置(G)、(H)、(I)に切換えられる。ポート12aは、圧力補償弁13の出力ポートに接続している。ポート12bは、チャージ圧油路39に接続している。ポート12bと連通しているポート12cは、圧力補償弁13のパイロット部13a及びチェック弁46cに連通したパイロット油路49に接続している。
【0041】
パイロット油路35は、チェック弁46a〜46cに接続し、作業機5の負荷圧、作業機8の負荷圧及びチャージ弁12からの出力圧のうちで最高圧となっている圧力をパイロット圧として取り出すことができる。パイロット油路35は、各圧力補償弁7、10、13におけるそれぞれのパイロット部7d、10d、13dに接続している。また、傾転シリンダ21を制御する切換弁22に対するパイロット油路として、切換弁22に接続している。
【0042】
チャージ弁12から出力したチャージ圧油は、チャージ圧油路39に出力される。チャージ圧油路39は途中で二又に分岐し、分岐した一方の油路40はチェック弁23aを介して、HST回路1における油路31に連通している。また、分岐した他方の油路41はチェック弁23bを介して、HST回路1における油路32に連通している。チャージ圧油路39には、チャージ圧油の温度、即ち、可変容量型油圧ポンプ11から吐出した作動圧油の温度を検出する油温センサ28が配設されている。油温センサ28からの検出信号は、コントローラ30に入力される。
【0043】
チェック弁23a、23bの上流側の圧力が、下流側の圧力よりも高圧となっているときには、チャージ圧油路39からのチャージ圧油を、油路31又は油路32に補充することができる。
【0044】
例えば、可変容量型油圧ポンプ2からの吐出圧油が、油路31を通って可変容量型モータ3に供給されているものとすると、油路31が高圧回路となり油路32が低圧回路となる。このとき、低圧回路側の油路32の圧力が、チャージ圧油路39における圧力よりも低圧状態となると、チャージ圧油路39から低圧回路側の油路32にチャージ圧油が補充されることになる。
【0045】
また、チャージ圧油路39はチャージリリーフ弁14を介してタンク24に接続している。チャージリリーフ弁14によって、チャージ圧油路39内の圧力が、チャージリリーフ弁14で規定する圧力以上とならないように制御されている。
【0046】
次に、圧力補償弁7、10、13、方向切換弁6、9及びチャージ弁12の作動について説明する。圧力補償弁7、10、13は、それぞれ同様の構成及び同様の作用を奏するように構成されているので、以下で行う圧力補償弁7の説明をもって、圧力補償弁10、13についての説明は省略する。
【0047】
圧力補償弁7は、可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧及び方向切換弁6の下流側の作業機5の負荷圧を加えた圧力と、方向制御弁6の上流側の圧力及びパイロット油路35における各負荷圧のうちで最高負荷圧力を加えた圧力とがバランスする位置に弁位置が制御される。このことにより、方向切換弁6の前後の圧力差が一定に制御され、方向切換弁6の開口面積に比例した流量が作業機に供給される。圧力補償弁13においては、作業機5の負荷圧に代えてチャージ弁12の出力圧が用いられている。
【0048】
次に、方向切換弁6と方向切換弁9とは、同様の構成を有しているので、以下で行う方向切換弁6の説明をもって、方向切換弁9の説明を省略する。方向切換弁6は3つの弁位置(A)、(B:中立位置)、(C)を有している。また、方向切換弁6は、パイロット信号29a、29bによって、弁位置が制御される。
【0049】
例えば、弁位置(A)は、作業機5の下げ位置とすることができ、弁位置(C)は、作業機5の上げ位置とすることができる。尚、方向切換弁6の弁位置は連続的に変化するものであり、開口面積も連続的に変化することができる。
【0050】
方向切換弁6に対してパイロット信号29aとして、パイロット圧又は方向切換弁6が電磁方向制御弁の場合には電流信号が、コントローラ30あるいは操作レバー等の操作によって入力されると、入力したパイロット信号29aに応じて、方向切換弁6の開口面積が変化して、方向切換弁6は弁位置(A)に切換わることができる。可変容量型油圧ポンプ11の吐出圧油がポート6bから供給されると、前記開口面積に応じた流量を、ポート6cから作業機5のアクチュエータに供給することができる。
【0051】
作業機5のアクチュエータからの戻り圧油は、ポート6eからタンク24に排出される。このとき、ポート6cとポート6dとが連通状態となるので、方向切換弁6の下流の圧力を、パイロット油路47を通じて圧力補償弁7のパイロットポート7aに出力している。
【0052】
方向切換弁6に対してパイロット信号29bが入力されると、入力したパイロット信号29bに応じて、方向切換弁6の開口面積が変化して、方向切換弁6は弁位置(C)に切換わることができる。方向切換弁6に対してパイロット信号29a、29bが入力されていないときには、方向切換弁6は中立位置である弁位置(B)に位置することになる。
【0053】
チャージ弁12は、3位置(G)、(H)、(I)に切換えることができる。チャージ弁12は、電磁比例弁18からのパイロット圧によって制御される。電磁比例弁18からのパイロット圧が供給されないときには、チャージ弁12は位置(G)に位置し、所定圧のチャージ圧油をチャージ圧油路39に出力させておくことができる。
【0054】
電磁比例弁18からのパイロット圧が、チャージ弁12に作用しているバネ力よりも少し大きくなると、チャージ弁12は位置(H)側に切換わることができる。このとき、電磁比例弁18からのパイロット圧とチャージ弁12に作用しているバネ力とがバランスした位置に応じて、チャージ弁12から出力される出力圧が制御される。また、電磁比例弁18からのパイロット圧が、チャージ弁12に作用しているバネ力よりも更に大きくなると、チャージ弁12は位置(H)側に切換わることができる。このとき、圧力補償弁13から出力された圧油をチャージ弁12からそのまま出力することができる。
【0055】
チャージ弁12から出力された出力圧は、チャージ圧油路39からチェック弁23a、23bを介して供給される。また、パイロット油路49を介してチェック弁46cの元圧として供給される。チェック弁46a、46bの元圧としてそれぞれ供給された作業機5、6の各負荷圧と、チェック弁46cの元圧として供給されたチャージ弁12からの出力圧のうちで最高圧の圧力が、パイロット油路35に出力されることになる。
【0056】
パイロット油路35の最高負荷圧は、切換弁22に対するパイロット圧として切換弁22に作用する。切換弁22は、パイロット油路35からのパイロット圧及び切換弁22に作用しているバネ力との合力と、可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧とがバランスした位置に制御される。
【0057】
図1に示すように、切換弁22に対してパイロット油路35からパイロット圧を供給することで、傾転シリンダ21の油室21aから圧油を排出する図示例の位置と、油室21aに可変容量型油圧ポンプ11からの吐出圧を供給する位置とに切換えることができる。切換弁22が、傾転シリンダ21の油室21aから圧油を排出する位置にあるときには、油路37における負荷圧に応じて可変容量型油圧ポンプ11からの吐出量を増減させることができる。
【0058】
油路37を通り油路42から切換弁22に作用するパイロット圧が、パイロット油路35から切換弁22に作用するパイロット圧及び切換え弁2に作用するバネ力よりも大きくなると、切換弁22は(L)位置に切換わる。このとき、油路37からのポンプ流量を油路42、切換弁22を通り油路43から、油室21aに供給することができる。従って、傾転シリンダ21のピストンは図1の右方向に移動して、可変容量型油圧ポンプ11の容量を減らすように作用する。
【0059】
また、油路37を通り油路42から切換弁22に作用するパイロット圧が、パイロット油路35から切換弁22に作用するパイロット圧及び切換え弁2に作用するバネ力よりも小さいときには、切換弁22は(M)位置に切換わる。このとき、油室21aは油路43、切換弁22を介してタンク24に接続する。したがって、傾転シリンダ21のピストンは図1の左側に移動して、可変容量型油圧ポンプ11の容量を増やすように作用する。
【0060】
図2、図3を用いてチャージ弁12から出力される流量についての説明を行う。図2、図3には、チャージ弁12におけるスプールの形状の例を示している。図2は、スプールの開口面積が多段階に切換えられるスプールを示し、図3には無段階に開口面積が切換えられるスプールを示している。
【0061】
また、図2、図3では、縦軸における正の方向をチャージ弁12の開口面積を示し、下向きに正の方向をチャージ弁12からのチャージ流量を示している。横軸は、電磁比例弁18から出力されるパイロット圧又は電磁比例弁18のソレノイドに供給される電流値を示している。
【0062】
図2に示すように、チャージ弁12の開口面積を多段階に構成することができる。また、図3に示すように、チャージ弁12の開口面積を連続的に変化する可変面積として構成することができる。
【0063】
図2に示すように、車両状態がモードM1のときには、図1に示す電磁比例弁18からはパイロット圧が出力されない。このとき、チャージ弁12の開口面積はA1となり、チャージ流量はQ1となる。即ち、チャージ弁12は図1において位置(G)となり、予め設定したチャージ流量Q1をチャージ圧油路39に出力させることができる。
【0064】
車両状態がモードM2のときには、図1に示す電磁比例弁18から出力されたイロット圧とチャージ弁12に作用するバネ力とがバランスした位置にスプールが移動し、チャージ弁12は位置(H)となって、その開口面積をA2とする。このときのチャージ流量はQ2となり、チャージ圧油路39には、チャージ流量Q2を出力させることになる。
【0065】
これによって、モード2では、モードM1のときよりもチャージ流量Q2を増大させることができ、HST回路1に対して更に補充するチャージ流量を増大させることができる。
【0066】
車両状態がモードM3のときには、図1に示す電磁比例弁18から出力されたパイロット圧によって、チャージ弁12は位置(I)となり、その開口面積をA3とする。このときのチャージ流量はQ3となる。チャージ圧油路39には、チャージ流量Q3を出力させることになる。
【0067】
これによって、モードM3の状態では、大量のチャージ流量Q3をチャージ圧油路39に出力させることができる。特に、重負荷状態で作業車両が前進している場合などのようにHST回路へ圧油を補給することが必要な時には、モードM3とすることができる。これにより、大量のチャージ流量をHST回路1に補充できる。
【0068】
図3に示すように、チャージ弁12の開口面積を連続的に可変に制御することもできる。このとき、図1に示す電磁比例弁18から出力されるパイロット圧に応じて、チャージ弁12のスプールを移動させ、例えば、チャージ弁12の開口面積がA1、A2、A3の各状態となるように制御することができる。チャージ弁12の開口面積をA1、A2、A3の各状態となるように制御することで、チャージ弁12からチャージ圧油路39に出力するチャージ流量を、Q1、Q2、Q3のように制御することができる。
【0069】
これによって、車両状態をモードM1〜M3としたとき、各モードM1〜M3に対応したチャージ流量Q1〜Q3をチャージ圧油路39に出力させることができる。
また、チャージ弁12における開口面積を連続的に変化させるには、電磁比例弁18からの圧油を連続的に変化させて制御することにより行うことができる。
車両状態における各モードM1〜M3についての説明は、後述する図4の説明において行うこととする。
【0070】
チャージ圧油路39におけるチャージ圧油の圧力よりも、HST回路1の低圧回路における圧力が低圧である場合について説明する。またこのとき、可変容量型油圧ポンプ2からの吐出圧が油路31に供給されているものとする。可変容量型油圧モータ3からの戻り回路となっている低圧側の油路32における圧力が、チャージ圧油路39の圧力よりも低圧になると、チェック弁23bを介してチャージ圧油が油路32に補充される。これにより、HST回路1における圧油の不足分を補うことができる。補充されないで余ったチャージ圧油は、チャージリリーフ弁14からタンク24に流入する。
【0071】
モードM1〜モードM3は、圧力センサ26a、26b、回転センサ27、油温センサ28等からの作業車両の車両状態に応じて、コントローラ30によって予め設定した条件に基づいて選択することができる。各種センサとモードM1〜M3との関係は、図4に示すような関係として捉えておくこともできる。また、作業車両の使用条件、作業車両の種類等に応じて、各種センサとモードM1〜M3との関係を適宜設定しておくことができる。
【0072】
図4を用いて、車両状態とモードM1〜M3との関係について、代表的な例を挙げて説明する。図4で示す車両状態とモードM1〜M3との関係は、例示であって実際の作業車両において各種作業条件、作業車両の種類等に応じて適宜設定することができるものである。
【0073】
図4における回転センサ27からの検出信号についてみると、検出信号によって走行始動時であるとコントローラ30が判断したときには、走行に伴うトルクロスを補うためモードM1としておくことができる。また、常用回転領域では、モードM2として、チャージ流量をモードM1のときよりも多くしておくことができる。
【0074】
圧力センサ26a、26bからの検出信号によって、HST回路1が常用負荷状態であるとコントローラ30が判断したときには、モードM2状態としておくことができる。重負荷状態やチャージ圧油を大量に必要とするストール状態であるときには、モードをM3にして、大量のチャージ流量をHST回路1に補充することができる。
【0075】
油温センサ28からの検出によって作動油の圧油が低温状態にあるとき、例えば、寒冷地におけるエンジン始動時においては、モードM1としておくことができる。作動圧油の温度が高温となったときには、作動圧油の温度を下げる意味合いからもモードをM3として、大量のチャージ流量をHST回路1に補充することができる。
【0076】
このように、HST回路1で必要とするチャージ流量を補充することができ、しかも、チャージポンプを設けることなく、チャージ流量の補充を行うことができる。また、チャージ流量は、作業車両の車両状態に応じて最適な流量とすることができる。このため、チャージ流量を無駄に排出することなく、効率的にチャージ流量の補充を行うことができる。
【0077】
チャージ圧油の流量を制御するためのセンサとしては、エンジンの回転を検出する回転センサ、閉回路内での圧油の圧力を検出する圧力センサ、チャージ圧油の圧力を検出する圧力センサ、作動圧油の温度を検出する温度センサ、作業車両の走行速度を検出する速度センサなどの各種センサを用いることができる。
【0078】
例えば、回転センサによるエンジン回転数の検出によって、走行始動時におけるトルクロスを解消させるためチャージ圧油の補充流量を制御することできる。また、閉回路内での圧油の圧力を検出する圧力センサが、走行系の閉回路に配設されている場合においては、例えば、作業車両が重負荷状態で走行しているときには、チャージ圧油を大量にHST回路内に補充するよう制御することができる。
【0079】
温度センサにおいては、例えば、寒冷地でのエンジン始動時や、油温が高温状態にある場合等の油温状態に応じて、閉回路に補充するチャージ圧油の流量を制御することができる。そのほか、作業車両の状態を検出する各センサからの検出信号に応じて、閉回路に補充するチャージ圧油の流量を適宜制御することができる。
【0080】
また、チャージ弁12の開口面積を可変に操作することにより、作業車両の車両状態に応じたモード切替をより細かく行うことができる。しかも、各モードに応じて、閉回路に補充するチャージ圧油の補充量を可変に変更することができるので、閉回路に補充するチャージ圧油の補充効率を更に向上させることができる。
【0081】
更に、チャージポンプを独立して設けることが不要となる。このため、通常、閉回路内において油圧ポンプを軸方向に複数配置する構成となっている。このため、専用のチャージポンプが不要となることによって、チャージポンプが占めていた場積を短縮することができる。従って、作業車両内での場積を確保することができ、しかも、専用のチャージポンプを不要にしたので、ポンプコストの低減を図ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本願発明は、本願発明の技術思想を適用することができる装置等に対しては、本願発明の技術思想を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】油圧回路図である。(実施例)
【図2】チャージ弁の開口面積とチャージ流量及びチャージ弁へのパイロット圧との関係を示す図である。(実施例)
【図3】チャージ弁の開口面積とチャージ流量及びチャージ弁へのパイロット圧との関係を示す変形図である。(図である。(実施例)
【図4】車両状態とチャージ流量を規定するモードとの関係を示す図である。(実施例)
【図5】油圧回路図である。(従来例1)
【図6】油圧回路図である。(従来例2)
【符号の説明】
【0084】
1・・・HST回路、 2・・・可変容量型油圧ポンプ、 3・・・可変容量型油圧モータ、 5・・・作業機、 6・・・方向切換弁、 7・・・圧力補償弁、 8・・・作業機、 9・・・方向切換弁、 10・・・圧力補償弁、 11・・・可変容量型油圧ポンプ、 12・・・チャージ弁、 13・・・圧力補償弁、 18・・・電磁比例弁、 26a、26b・・・圧力スイッチ、 27・・・回転スイッチ、 28・・・油温センサ、39・・・チャージ圧油路、 50・・・エンジン、 51・・・可変容量型油圧ポンプ、54・・・可変容量型油圧モータ、 55・・・チャージポンプ、 58・・・油圧モータ、 60・・・作業機用油圧ポンプ、 61・・・油圧ポンプ、 70・・・HST回路、 71・・・油圧ポンプ、 74・・・昇降バルブ、 75・・・油圧パワーステアリング装置、 76・・・可変容量型油圧ポンプ、 77・・・油圧モータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプと同油圧ポンプにより駆動される油圧モータとを繋ぐ閉回路と、
可変容量型油圧ポンプと、
前記可変容量型油圧ポンプからの圧油を、複数のアクチュエータにそれぞれ供給する負荷感応型の制御弁と、
を備えた作業車両において、
前記可変容量型油圧ポンプからの圧油を前記閉回路にチャージ圧油として補充するチャージ弁が、前記負荷感応型の制御弁として構成され、
前記チャージ弁に一端が接続し、かつ他端が前記閉回路の高圧回路及び低圧回路に分岐して接続した油路と、
前記油路上における前記分岐部よりも下流側にそれぞれ配設されたチェック弁と、
を備え、
前記チャージ弁からのチャージ圧油を、前記閉回路の低圧回路に補充してなることを特徴とする作業車両。
【請求項2】
前記チャージ弁を操作する操作手段と、
前記作業車両の状態を検出する1個以上のセンサと、
を備え、
前記操作手段が、前記センサからの検出信号に基づいて操作されてなることを特徴とする請求項1記載の作業車両。
【請求項3】
前記チャージ弁における開口面積が、前記操作手段により可変に操作されてなることを特徴とする請求項1又は2記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−336673(P2006−336673A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−158782(P2005−158782)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【Fターム(参考)】