説明

作業車両

【課題】ブレーキバルブに作動油を補充するためのリザーバタンクおよび当該リザーバタンクの代わりとなる油室を設ける必要のない作業車両を提供する。
【解決手段】変速用の第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43(油圧クラッチ)の断接を切り換えるクラッチバルブ30と、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14R(ブレーキ操作具)の操作に応じて左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70R(油圧ブレーキ)への作動油を給排出して、前記油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブ60と、クラッチバルブ30とブレーキバルブ60とを接続するとともに、クラッチバルブ30から漏れた作動油をブレーキバルブ60に補充するチャージ油路50と、を具備した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブを備える作業車両の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブを備える作業車両の技術は公知となっている。たとえば、特許文献1に記載の如くである。
【0003】
特許文献1に記載の作業車両は、ブレーキペダルの踏み込み操作に連動して、油圧ブレーキ(より詳細には、ブレーキを作動させるための油圧シリンダ)に作動油を供給する油圧ブレーキバルブを具備するものである。
【0004】
上述の油圧ブレーキバルブにおいては、当該油圧ブレーキバルブの各部から作動油が漏れ出すことが想定される。このため、当該油圧ブレーキバルブには、漏れ出した分の作動油を当該油圧ブレーキバルブに再度供給するためのリザーバタンク室(油室)が形成されている。
【0005】
リザーバタンク室に作動油を貯留しておくことによって、油圧ブレーキバルブから作動油が漏れ出した際には適宜リザーバタンク室から油圧ブレーキバルブへと作動油が供給され、作動油量の減少に起因する油圧ブレーキの作動不良の発生を防止することができる。
【0006】
また、特許文献1に記載の如く、油圧ブレーキバルブに一体的にリザーバタンク室を形成することで、当該油圧ブレーキバルブとは別体でリザーバタンクを設ける必要がない。これによって、配管の数の削減、着脱作業の容易化、および省スペース化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−230699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、リザーバタンクを油圧ブレーキバルブと別体で設ける必要はないものの、当該リザーバタンクの代わりとなるリザーバタンク室を油圧ブレーキバルブに形成する必要がある。このため、油圧ブレーキバルブの小型化が困難であり、製造コストが増加するという問題点があった。
【0009】
本発明は上記のような問題点に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、ブレーキバルブに作動油を補充するためのリザーバタンクおよび当該リザーバタンクの代わりとなる油室を設ける必要のない作業車両を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、請求項1においては、変速用の油圧クラッチの断接を切り換えるクラッチバルブと、ブレーキ操作具の操作に応じて油圧ブレーキへの作動油を給排出して、前記油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブと、前記クラッチバルブと前記ブレーキバルブとを接続するとともに、前記クラッチバルブから漏れた作動油を前記ブレーキバルブに補充するチャージ油路と、を具備するものである。
【0012】
請求項2においては、前記クラッチバルブと前記ブレーキバルブとを互いに近傍に配置したものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、ブレーキバルブに作動油を補充するためのリザーバタンクおよび当該リザーバタンクの代わりとなる油室を設ける必要がない、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の一形態に係るトラクタの側面図。
【図2】クラッチバルブおよびブレーキバルブの配置を示す前方斜視図。
【図3】同じく、側面図。
【図4】同じく、正面図。
【図5】トラクタの油圧回路の一部を示す油圧回路図。
【図6】(a)他の実施形態におけるクラッチバルブおよびブレーキバルブの配置を示す正面図。(b)同じく、側面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下では、本発明に係る作業車両の実施の一形態であるトラクタ1について説明する。
また、以下では図中の矢印Fの方向を前方向、矢印Lの方向を左方向とそれぞれ定義して説明を行う。
【0016】
図1に示すように、トラクタ1においては、機体フレーム2が長手方向を前後方向として配置され、その後部でエンジン3に連結される。エンジン3の後部には、トラクタ1の動力伝達機構を収納するトランスミッションケース4が長手方向を前後方向として連結される。機体フレーム2の前部はフロントアクスルを介して左右一対の前輪5・5に支持され、トランスミッションケース4の後部はリアアクスルを介して左右一対の後輪(左後輪6Lおよび右後輪6R)に支持される。
【0017】
そして、エンジン3の動力が前記動力伝達機構で変速された後、前記フロントアクスルを経て左右一対の前輪5・5に伝達可能とされるとともに、前記リアアクスルを経て左右一対の後輪(左後輪6Lおよび右後輪6R)に伝達可能とされる。エンジン3の動力が伝達されることによって、左右一対の前輪5・5および左右一対の後輪(左後輪6Lおよび右後輪6R)が回転駆動され、トラクタ1の走行が行われる。
【0018】
また、エンジン3の動力が前記動力伝達機構で変速された後、トランスミッションケース4に対して作業機装着装置7を介して装着された図示しない耕耘装置等の作業機にも伝達可能とされる。さらに、エンジン3の動力によって駆動される後述する油圧ポンプ21から圧送される作動油を、機体フレーム2およびトランスミッションケース4に対して装着された図示しないフロントローダ等の作業機に供給可能とされる。このようにして、エンジン3の動力が伝達されることによって、種々の作業機が駆動される。
【0019】
トランスミッションケース4の上部においては、作業者が搭乗してトラクタ1を操作するための運転操作部8が設けられ、キャビン9によって覆われる。また、キャビン9の前方には、エンジン3を覆うボンネット10が設けられる。ボンネット10は、トランスミッションケース4の前端上部に固定されるボンネットフレーム15に、上下方向に回動可能に支持される(図3参照)。
【0020】
図2から図4までに示すように、運転操作部8には、ステアリングホイール11、フロントコラム12、主クラッチペダル13、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14R等が設けられる。
【0021】
キャビン9内の前端部には、フロントコラム12が設けられ、当該フロントコラム12の上部には、後上方に向けてステアリングホイール11が設けられる。フロントコラム12の下部左側には主クラッチペダル13が、フロントコラム12の下部右側には左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rが、それぞれ設けられる。主クラッチペダル13、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rは、回動支点が踏み込み操作される部分(下端部)よりも高い位置に設けられる、いわゆる吊り下げ式のペダルである。左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rは、本発明に係るブレーキ操作具の実施の一形態である。
【0022】
以下では、図5を用いて、トラクタ1が具備する油圧回路の一部について説明する。トラクタ1の油圧回路は、油圧ポンプ21、フィルタ22、分流弁23、クラッチバルブ30、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42、第三変速クラッチ43、チャージ油路50、ブレーキバルブ60、左ブレーキ70L、右ブレーキ70Rおよび戻り油路80等を具備する。
【0023】
油圧ポンプ21はエンジン3によって駆動される。油圧ポンプ21は、フィルタ22を介してトランスミッションケース4内に貯溜された作動油を吸入し、その後圧送する。
【0024】
分流弁23は、油圧ポンプ21から圧送された作動油を二方向に分流して、各方向の油圧装置へ送油するものである。本実施形態では、分流弁23は、所定圧力の作動油を一方の油圧機器(クラッチバルブ30等)に送油し、他方を図示せぬ油圧変速装置等に送油する構成としている。
【0025】
クラッチバルブ30は、後述する第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43へ作動油を供給し、または当該第一変速クラッチ41等から作動油を排出することで、当該第一変速クラッチ41等の断接を切り換えるものである。クラッチバルブ30は、クラッチバルブボディ31、チェックバルブ32、主クラッチバルブ33、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36等を具備する。
【0026】
クラッチバルブボディ31は、クラッチバルブ30の主たる構造体となる箱状の部材である。クラッチバルブボディ31には、チェックバルブ32、主クラッチバルブ33、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36、ならびに油路およびポート等が適宜設けられる。
【0027】
油圧ポンプ21からクラッチバルブ30へと供給された作動油は、まずチェックバルブ32を介して主クラッチバルブ33に供給される。
【0028】
主クラッチバルブ33は、3ポート2位置切換弁により構成される。主クラッチバルブ33の操作部は、クラッチリンク13a(図3参照)を介して主クラッチペダル13と連結され、当該主クラッチペダル13の操作に基づいてポジションが切り換えられる。主クラッチバルブ33のポンプポート33pはチェックバルブ32の二次側と接続され、主クラッチバルブ33の二次側の一方の出力ポート33aは、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36のそれぞれのポンプポート34p・35p・36pと接続され、主クラッチバルブ33の二次側の他方の出力ポート33bは第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36のそれぞれのタンクポート34t・35t・36tと接続される。
主クラッチペダル13が踏み込み操作されていない場合、主クラッチバルブ33は、チェックバルブ32を介して供給される作動油を、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36へと流通させる(図5に示す状態)。
主クラッチペダル13が踏み込み操作された場合、主クラッチバルブ33のポジションが切り換えられ、当該主クラッチバルブ33は油路を遮蔽し、第一電磁バルブ34等への作動油の流通を遮断する。
【0029】
第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36は、油路を介して第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43にそれぞれ接続される。第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36は、図示せぬコントローラからの制御信号に基づいてポジションが切り換えられる。
第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36は、前記コントローラからの制御信号を受信しない場合、油路を遮蔽し、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43への作動油の流通をそれぞれ遮断する(図5に示す状態)。
第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36は、前記コントローラからの制御信号を受信した場合、ポジションが切り換えられ、主クラッチバルブ33を介して供給される作動油を第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43へとそれぞれ流通させる。
【0030】
第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43は、トランスミッションケース4に内装される動力伝達機構を構成する変速用の油圧クラッチである。本実施形態においては、第一変速クラッチ41は低速走行用のクラッチ、第二変速クラッチ42は高速走行用のクラッチ、第三変速クラッチ43は後進用のクラッチである。
第一電磁バルブ34を介して第一変速クラッチ41に作動油が供給された場合、当該第一変速クラッチ41が作動し、トラクタ1は低速で走行可能となる。
第二電磁バルブ35を介して第二変速クラッチ42に作動油が供給された場合、当該第二変速クラッチ42が作動し、トラクタ1は高速で走行可能となる。
第三電磁バルブ36を介して第三変速クラッチ43に作動油が供給された場合、当該第三変速クラッチ43が作動し、トラクタ1は後進することが可能となる。
【0031】
上述の如く構成されたクラッチバルブ30、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43において、主クラッチペダル13が踏み込み操作された場合、主クラッチバルブ33により第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36への作動油の流通が遮断される。このため、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43が作動することはなく、トラクタ1の動力伝達機構における動力の伝達を遮断することができる。
また、主クラッチペダル13が踏み込み操作されていない場合において、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35または第三電磁バルブ36のポジションを切り換えることにより、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42または第三変速クラッチ43を適宜断接することができる。このようにして、作業者は任意にトラクタ1を変速させることができる。
【0032】
チャージ油路50は、クラッチバルブ30から分岐して後述するブレーキバルブ60と接続し、クラッチバルブ30から漏れた作動油をブレーキバルブ60に補充するためのものである。より詳細には、チャージ油路50の一端側は、前記主クラッチバルブ33の二次側の他方の出力ポート33bと、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35および第三電磁バルブ36のそれぞれのタンクポート34t・35t・36tと、を接続する油路に接続される。これによって、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35、第三電磁バルブ36、および主クラッチバルブ33から漏れた作動油や、第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43から戻される作動油を、チャージ油路50へと回収することができる。
【0033】
ブレーキバルブ60は、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rの操作に応じて後述する左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rへ作動油を供給し、または当該左ブレーキ70L等から作動油を排出すること(すなわち、左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rへの作動油を給排出すること)で、当該左ブレーキ70L等の動作を切り換えるものである。ブレーキバルブ60は、ブレーキバルブボディ61、左ブレーキバルブ62、左ブレーキシリンダ63、右ブレーキバルブ64、右ブレーキシリンダ65およびチェックバルブ66等を具備する。
【0034】
ブレーキバルブボディ61は、ブレーキバルブ60の主たる構造体となる箱状の部材である。ブレーキバルブボディ61には、左ブレーキバルブ62、左ブレーキシリンダ63、右ブレーキバルブ64、右ブレーキシリンダ65およびチェックバルブ66、ならびに油路およびポート等が適宜設けられる。
【0035】
チャージ油路50の他端側は、左ブレーキバルブ62および右ブレーキバルブ64と接続される。
【0036】
左ブレーキバルブ62は、左ブレーキペダル14Lの踏み込み操作に基づいてポジションが切り換えられる。
左ブレーキペダル14Lが踏み込み操作されていない場合、左ブレーキバルブ62は、チャージ油路50を介して供給される作動油を、左ブレーキシリンダ63へと供給可能とする(図5に示す状態)。
左ブレーキペダル14Lが踏み込み操作された場合、左ブレーキバルブ62のポジションが切り換えられ、左ブレーキシリンダ63への作動油の流通を遮断する。
【0037】
左ブレーキシリンダ63は、左ブレーキペダル14Lの踏み込み操作に基づいて後述する左ブレーキ70Lへと作動油を圧送し、または当該左ブレーキ70Lから作動油を排出するものである。左ブレーキシリンダ63は、筒状に形成されたシリンダチューブ63a、シリンダチューブ63a内に摺動可能に配置されるピストン63bおよびピストン63bを一方向に付勢するスプリング63c等を具備する。
【0038】
左ブレーキペダル14Lが踏み込み操作された場合、ピストン63bがスプリング63cの付勢力に抗して左ブレーキシリンダ63の油室を圧縮する方向に摺動する。これによって、当該左ブレーキシリンダ63の油室内の作動油が左ブレーキ70Lへと圧送される。
左ブレーキペダル14Lが踏み込み操作されていない場合、スプリング63cの付勢力によってピストン63bが左ブレーキシリンダ63の油室を拡張する方向に摺動する。これによって、作動油が左ブレーキ70Lから左ブレーキシリンダ63の油室内へと戻される。
【0039】
右ブレーキバルブ64は、右ブレーキペダル14Rの踏み込み操作に基づいてポジションが切り換えられる。
右ブレーキペダル14Rが踏み込み操作されていない場合、右ブレーキバルブ64は、チャージ油路50を介して供給される作動油を、右ブレーキシリンダ65へと供給可能とする(図5に示す状態)。
右ブレーキペダル14Rが踏み込み操作された場合、右ブレーキバルブ64のポジションが切り換えられ、右ブレーキシリンダ65への作動油の流通を遮断する。
【0040】
右ブレーキシリンダ65は、右ブレーキペダル14Rの踏み込み操作に基づいて後述する右ブレーキ70Rへと作動油を圧送し、または当該右ブレーキ70Rから作動油を排出するものである。右ブレーキシリンダ65は、筒状に形成されたシリンダチューブ65a、シリンダチューブ65a内に摺動可能に配置されるピストン65bおよびピストン65bを一方向に付勢するスプリング65c等を具備する。
【0041】
右ブレーキペダル14Rが踏み込み操作された場合、ピストン65bがスプリング65cの付勢力に抗して右ブレーキシリンダ65の油室を圧縮する方向に摺動する。これによって、当該右ブレーキシリンダ65の油室内の作動油が右ブレーキ70Rへと圧送される。
右ブレーキペダル14Rが踏み込み操作されていない場合、スプリング65cの付勢力によってピストン65bが右ブレーキシリンダ65の油室を拡張する方向に摺動する。これによって、作動油が右ブレーキ70Rから右ブレーキシリンダ65の油室内へと戻される。
【0042】
チェックバルブ66は、チャージ油路50と左ブレーキバルブ62および右ブレーキバルブ64とを接続する油路の中途部に接続される。当該チェックバルブ66については、戻り油路80の説明とともに後述する。
【0043】
左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rは、トラクタ1の後輪(左後輪6Lおよび右後輪6R)を制動するための油圧ブレーキである。本実施形態においては、左ブレーキ70Lは左後輪6Lの車軸に、右ブレーキ70Rは右後輪6Rの車軸に、それぞれ設けられる。
左ブレーキ70Lは、左ブレーキシリンダ63から作動油が圧送された場合、当該作動油の油圧により左後輪6Lの車軸に設けられたブレーキディスクを押圧することで左後輪6Lを制動する。
右ブレーキ70Rは、右ブレーキシリンダ65から作動油が圧送された場合、当該作動油の油圧により右後輪6Rの車軸に設けられたブレーキディスクを押圧することで右後輪6Rを制動する。
【0044】
上述の如く構成されたブレーキバルブ60、左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rにおいて、左ブレーキペダル14Lが踏み込み操作されると、左ブレーキバルブ62のポジションが切り換えられてチャージ油路50と左ブレーキシリンダ63との連通が遮断されるとともに、左ブレーキシリンダ63から左ブレーキ70Lへと作動油が圧送される。これによって左後輪6Lが制動される。
また、左ブレーキペダル14Lの踏み込み操作が解除されると、作動油が左ブレーキ70Lから左ブレーキシリンダ63へと戻されるとともに、左ブレーキバルブ62のポジションが切り換えられてチャージ油路50と左ブレーキシリンダ63とが連通される。
この際、左ブレーキシリンダ63等から作動油が漏れ出していた場合、左ブレーキ70Lから戻される作動油だけでは左ブレーキシリンダ63内に作動油を十分に充填することができない。しかし、上記の如くチャージ油路50と左ブレーキシリンダ63とを連通することにより、左ブレーキシリンダ63等から漏れた分の作動油を、クラッチバルブ30からチャージ油路50を介して供給される作動油によって補充することができる。
【0045】
また、右ブレーキペダル14Rが踏み込み操作されると、右ブレーキバルブ64のポジションが切り換えられてチャージ油路50と右ブレーキシリンダ65との連通が遮断されるとともに、右ブレーキシリンダ65から右ブレーキ70Rへと作動油が圧送される。これによって右後輪6Rが制動される。
また、右ブレーキペダル14Rの踏み込み操作が解除されると、作動油が右ブレーキ70Rから右ブレーキシリンダ65へと戻されるとともに、右ブレーキバルブ64のポジションが切り換えられてチャージ油路50と右ブレーキシリンダ65とが連通される。
この際、右ブレーキシリンダ65等から作動油が漏れ出していた場合、右ブレーキ70Rから戻される作動油だけでは右ブレーキシリンダ65内に作動油を十分に充填することができない。しかし、上記の如くチャージ油路50と右ブレーキシリンダ65とを連通することにより、右ブレーキシリンダ65等から漏れた分の作動油を、クラッチバルブ30からチャージ油路50を介して供給される作動油によって補充することができる。
【0046】
戻り油路80は、ブレーキバルブ60およびトランスミッションケース4と接続し、チャージ油路50からブレーキバルブ60へと供給される作動油のうち余剰分をトランスミッションケース4へと戻すためのものである。より詳細には、戻り油路80の一端側は、チャージ油路50と左ブレーキバルブ62および右ブレーキバルブ64とを接続する油路の中途部に、チェックバルブ66を介して接続される。戻り油路80の他端側は、トランスミッションケース4に接続される。チェックバルブ66は、ブレーキバルブ60からトランスミッションケース4へと向かう作動油のみを流通可能としている。
【0047】
上述の如く戻り油路80を設けることによって、クラッチバルブ30から漏れた作動油の量が、ブレーキバルブ60において補充が必要な作動油の量よりも多い場合には、当該余剰分の作動油をトランスミッションケース4に戻すことができる。これによって、左ブレーキバルブ62および右ブレーキバルブ64に必要以上の量の作動油が供給され、左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rが作動不良を起こすことを防止することができる。
【0048】
以下では、図2から図4までを用いて、ブレーキバルブ60およびクラッチバルブ30の配置について説明する。
【0049】
ブレーキバルブ60のブレーキバルブボディ61は、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rの回動支点の概ね前方において、フロントコラム12の前面に固定されることにより、ボンネット10内に配置される。また、ブレーキバルブ60の後部はフロントコラム12に内挿され、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rと連動連結される。
【0050】
クラッチバルブ30のクラッチバルブボディ31は、トランスミッションケース4の左側面に固定される。より詳細には、クラッチバルブ30のクラッチバルブボディ31は、前後方向におけるフロントコラム12および主クラッチペダル13の概ね下方であって、トランスミッションケース4の左側面下部に固定される。
【0051】
また、前述のチャージ油路50および戻り油路80は、チャージ配管51および戻り配管81によってそれぞれ形成される。
【0052】
チャージ配管51の一端は、クラッチバルブボディ31の前端部に接続され、チャージ配管51の他端は、ブレーキバルブボディ61の上端部に接続される。
【0053】
戻り配管81の一端は、クラッチバルブボディ31のすぐ前方においてトランスミッションケース4の左側面に接続され、戻り配管81の他端は、ブレーキバルブボディ61の上端部に接続される。
【0054】
チャージ配管51および戻り配管81は、クラッチバルブボディ31の前方から概ね上方へと延設され、上下方向におけるブレーキバルブボディ61と略同一位置から概ね右方へと延設され、キャビン9とボンネットフレーム15との間を通ってブレーキバルブボディ61の上端部まで延設される。
【0055】
以上の如く、本実施形態に係るトラクタ1は、変速用の第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43(油圧クラッチ)の断接を切り換えるクラッチバルブ30と、左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14R(ブレーキ操作具)の操作に応じて左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70R(油圧ブレーキ)への作動油を給排出して、前記油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブ60と、クラッチバルブ30とブレーキバルブ60とを接続するとともに、クラッチバルブ30から漏れた作動油をブレーキバルブ60に補充するチャージ油路50と、を具備するものである。
【0056】
このように構成することにより、ブレーキバルブ60に作動油を補充するためのリザーバタンクおよび当該リザーバタンクの代わりとなる油室を設ける必要がない。すなわち、クラッチバルブ30(より詳細には、第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35、第三電磁バルブ36および主クラッチバルブ33)が作動する際に漏れる作動油を、ブレーキバルブ60に補充することができる。また、常時ブレーキバルブ60に作動油が供給されるため、当該ブレーキバルブ60で用いる作動油(ブレーキオイル)の交換作業が不要となる。
また、本実施形態の如く、複数のバルブ(第一電磁バルブ34、第二電磁バルブ35、第三電磁バルブ36および主クラッチバルブ33)を1つのクラッチバルブボディ31にまとめて配置することで、これら複数のバルブから漏れる作動油の回収を容易に行うことができる。
また、ブレーキバルブ60に作動油を補充するためのチャージ回路(ポンプや分流弁等を用いた回路)を別途設ける場合に比べて、分流弁等の部品点数を削減できる。さらに、クラッチバルブ30から漏れる作動油の回路圧は大気圧に近い値(低い値)になるため、前記チャージ回路を別途設ける場合に比べて圧力損失および馬力ロスを低減することができる。
また、上述の如くクラッチバルブ30から漏れる作動油の回路圧は大気圧に近い値(低い値)になるため、当該作動油をブレーキバルブ60へと導く配管(チャージ配管51)を容易かつ低コストで構成することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、クラッチバルブ30とブレーキバルブ60とを互いに近傍に配置したものである。
【0058】
このように構成することにより、クラッチバルブ30とブレーキバルブ60とを接続する油路(チャージ油路50)を短くすることができ、当該チャージ油路50を介してブレーキバルブ60へ作動油を安定して供給することができる。
【0059】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、ブレーキバルブ60をフロントコラム12の前面に配置し、クラッチバルブ30を前後方向におけるフロントコラム12の下方であってトランスミッションケース4の側面に配置したものである。
【0060】
このように構成することにより、クラッチバルブ30とブレーキバルブ60とを互いに近傍に配置することができ、チャージ油路50を短くすることができる。また、チャージ油路50を形成するチャージ配管51を、キャビン9とボンネットフレーム15との間を通すことで短く構成することができる。さらに、クラッチバルブ30とトランスミッションケース4内に配置される第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43とを互いに近傍に配置することができる。
【0061】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、クラッチバルブ30を前後方向における主クラッチペダル13の下方であってトランスミッションケース4の左側面に配置したものである。
【0062】
このように構成することにより、クラッチバルブ30を主クラッチペダル13の近傍に配置することができ、主クラッチペダル13とクラッチバルブ30の主クラッチバルブ33とを連結するクラッチリンク13aをコンパクトに構成することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、ブレーキバルブ60に供給された作動油のうち余剰分をトランスミッションケース4へと戻すための戻り油路80を具備するものである。
【0064】
このように構成することにより、ブレーキバルブ60における余剰分の作動油をトランスミッションケース4に戻すことができる。これによって、左ブレーキ70Lおよび右ブレーキ70Rが作動不良を起こすことを防止することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るトラクタ1は、戻り油路80を形成する戻り配管81の一端を、クラッチバルブ30のすぐ前方においてトランスミッションケース4の左側面に接続されるものである。
【0066】
このように構成することにより、戻り配管81をチャージ配管51と同様の経路を通してブレーキバルブ60に接続することができ、戻り配管81を短く構成することができる。さらに、戻り配管81およびチャージ配管51を同時に組み付けることで、組み付け作業の容易化および効率化を図ることができる。
【0067】
なお、本発明に係る作業車両は、本実施形態に係るトラクタ1に限るものではなく、その他の農業車両や建設車両、産業車両等、広く車両全般に適用することが可能である。
また、本発明に係る油圧クラッチは、上述の如くトラクタ1の走行速度を変速するための第一変速クラッチ41、第二変速クラッチ42および第三変速クラッチ43に限るものではなく、たとえばPTOの回転を変速するための油圧クラッチ等であってもよい。また、油圧クラッチの個数は限定するものではなく、いくつであってもよい。
また、本発明に係るブレーキ操作具は、上述の左ブレーキペダル14Lおよび右ブレーキペダル14Rの如く吊り下げ式のペダルに限定するものではなく、ブレーキバルブ60を操作することができるものであれば、どのような構成であってもよい。
また、本発明に係る油圧ブレーキは、上述の如くトラクタ1の後輪(左後輪6Lおよび右後輪6R)を制動するものに限るものではなく、前輪5・5を制動するものであってもよい。
【0068】
また、本発明に係る作業車両の他の実施形態として、図6に示す如く、クラッチバルブ30をトランスミッションケース4の右側面に配置することも可能である。
このように構成することにより、ブレーキバルブ60およびクラッチバルブ30を、いずれもトラクタ1の左右方向右側に集中して配置することができ、チャージ配管51をさらに短く構成することが可能となる。
【0069】
また、ブレーキバルブ60をより下方(トランスミッションケース4に近い位置)に配置すれば、さらにブレーキバルブ60とクラッチバルブ30とを近接させることができ、チャージ配管51をさらに短く構成することが可能となる。
【符号の説明】
【0070】
1 トラクタ(作業車両)
4 トランスミッションケース
14L 左ブレーキペダル(ブレーキ操作具)
14R 右ブレーキペダル(ブレーキ操作具)
30 クラッチバルブ
33 主クラッチバルブ
41 第一変速クラッチ(油圧クラッチ)
42 第二変速クラッチ(油圧クラッチ)
43 第三変速クラッチ(油圧クラッチ)
50 チャージ油路
60 ブレーキバルブ
70L 左ブレーキ(油圧ブレーキ)
70R 右ブレーキ(油圧ブレーキ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速用の油圧クラッチの断接を切り換えるクラッチバルブと、
ブレーキ操作具の操作に応じて油圧ブレーキへの作動油を給排出して、前記油圧ブレーキの動作を切り換えるブレーキバルブと、
前記クラッチバルブと前記ブレーキバルブとを接続するとともに、前記クラッチバルブから漏れた作動油を前記ブレーキバルブに補充するチャージ油路と、
を具備する作業車両。
【請求項2】
前記クラッチバルブと前記ブレーキバルブとを互いに近傍に配置した請求項1に記載の作業車両。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171380(P2012−171380A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−32328(P2011−32328)
【出願日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】