説明

保水性硬化体用セメント組成物、セメントミルク、保水性硬化体、及び保水性硬化体の製造方法

【課題】 低温環境下において、セメントミルクが開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填される際に流動性を有しつつ、保水性硬化体が、短期間の強度発現性、及び長期の高い強度を備えてなる保水性硬化体用セメント組成物を提供することにある。
【解決手段】 開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填し保水性の硬化体を構成する保水性硬化体用セメント組成物であって、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートとII型無水石膏とを有するセメント、ゼオライト、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムを含有してなり、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2〜2.4重量部、前記炭酸ナトリウムが0.2〜0.4重量部、及び前記酒石酸ナトリウムが0.1〜0.3重量部含有されてなることを特徴とする保水性硬化体用セメント組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保水性硬化体の製造に用いられるセメント組成物、セメントミルク、保水性硬化体及び保水性硬化体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面の温度上昇を抑制する観点から、15〜30%の空隙率を有する開粒度アスファルトやポーラスコンクリート等(以下、開粒度アスファルト等ともいう)の空隙中に、保水作用のある材料を含んだセメントミルクを充填させ、これを硬化させてなる保水性硬化体が知られている。
該保水性硬化体は、雨水等の水分を保水性材料に一時的に蓄えておき、晴天時の温度上昇に伴ってこの水分を蒸発させることにより、潜熱によって路面等の温度上昇を抑制するものであり、ヒートアイランド現象の防止策として注目されている。
【0003】
ところで、この保水性硬化体の形成に用いられるセメントミルクは、開粒度アスファルト等の空隙中に充填させる必要があることから、低粘度であって流動性に優れたものでなければならず、一般には、60〜120%という高水/粉体比のものが使用される。
【0004】
また、開粒度アスファルト等の空隙中で水和硬化した該セメントミルクは、該開粒度アスファルト等とともに道路面を構成するものとなるため、道路の交通解放をするにあたっては、短期間で十分な強度発現性を有することが求められる。さらには、車両の通過等による衝撃が加えられる状態で長期間使用された場合にも、容易に破壊されないような高い強度を有することが求められる。
【0005】
上記観点から、開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填し保水性の硬化体を構成する保水性硬化体用セメント組成物であって、ポルトランドセメント、カルシウムアルミネート、II型無水石膏、及びゼオライトを含有する保水性硬化体用セメント組成物、該保水性硬化体用セメント組成物と水とを混合してなるセメントミルク、並びに該セメントミルクを開粒度アスファルト又はポーラスコンクリート中の空隙中に充填させてなる保水性硬化体が提案されている(特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】特開2007−238369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、斯かる構成からなる保水性硬化体用セメント組成物は、低温環境下(例えば、温度5℃といった環境下)でセメントミルクが用いられた場合には、形成された保水性硬化体が、短期間で十分な強度発現性を備えることができず、さらに、長期間使用された状況でも容易に破壊されないような高い強度を備えることができないという問題を有している。
【0008】
本発明は、上記問題点、要望点等に鑑み、低温環境下においても、作製されるセメントミルクが開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填される際に流動性を有しつつ、形成された保水性硬化体が、十分な吸水性を備え、また、短期間で十分な強度発現性を備え、さらに、長期間使用された場合にも容易に破壊されないような高い強度を備えてなる保水性硬化体用セメント組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意研究したところ、保水性硬化体用セメント組成物が、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムをそれぞれ所定範囲の配合割合で備えてなることにより、低温環境下においても、作製されるセメントミルクが開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填される際に流動性を有しつつ、形成された保水性硬化体が、十分な吸水性を備え、また、短期間で十分な強度発現性を備え、さらに、長期間使用された場合にも容易に破壊されないような高い強度を備えてなることを見出し、本発明の完成を想到するに至った。
すなわち、本発明は、開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填し保水性の硬化体を構成する保水性硬化体用セメント組成物であって、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートとII型無水石膏とを有するセメント、ゼオライト、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムを含有してなり、前記セメントのSO3/Al23モル比が0.8〜1.4であり、前記セメントと前記ゼオライトとの配合割合が重量比で40:60〜70:30の範囲内であり、前記セメントと前記ゼオライトとの混合物中には前記ポルトランドセメントが20〜40重量%、前記カルシウムアルミネートが5〜15重量%、前記II型無水石膏が5〜15%、前記ゼオライトが30〜60重量%含有されてなり、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2〜2.4重量部、前記炭酸ナトリウムが0.2〜0.4重量部、及び前記酒石酸ナトリウムが0.1〜0.3重量部含有されてなることを特徴とする保水性硬化体用セメント組成物を提供する。
【0010】
斯かる保水性硬化体用セメント組成物によれば、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2重量部以上、前記炭酸ナトリウムが0.2重量部以上、前記酒石酸ナトリウムが0.3重量部以下含有されてなることにより、低温環境下(例えば、温度5℃といった環境下)においても、形成された保水性硬化体が短期間で十分な強度発現性を備えてなり、且つ長期間使用された場合にも容易に破壊されないような高い強度を備えてなることができる。また、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが2.4重量部以下、前記炭酸ナトリウムが0.4重量部以下、前記酒石酸ナトリウムが0.1重量部以上含有されてなることにより、低温環境下においても、作製されるセメントミルクが開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填される際に流動性を有することができる。
【0011】
また、本発明に係る水性硬化体用セメント組成物は、前記セメントが水酸化カルシウムを含有してなることが好ましい。
【0012】
斯かる保水性硬化体用セメント組成物によれば、さらに、前記セメントとして水酸化カルシウムが含まれてなることにより、形成された保水性硬化体がより硬化性を有することができるという利点がある。
【0013】
さらに、本発明は、前記保水性硬化体用セメント組成物と水とを混合してなり、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、水が80〜120重量部であることを特徴とするセメントミルクを提供する。
【0014】
また、本発明は、前記セメントミルクを、開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填させてなることを特徴とする保水性硬化体を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、保水性硬化体用セメント組成物と、水とを混合してセメントミルクを調製し、該セメントミルクを開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填させることを特徴とする保水性硬化体の製造方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明に係る保水性硬化体用セメント組成物は、セメント、ゼオライト、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムを含有してなる。
【0017】
本発明において用いられるセメントは、ポルトランドセメント、カルシウムアルミネート、及びII型無水石膏を含んでなる。
【0018】
ポルトランドセメントとしては、JISに規定された普通ポルトランドセメントを好適に使用できるが、本発明の効果を阻害しない範囲内で、他のポルトランドセメントを使用することができる。他のポルトランドセメントとしては、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントなどの各種ポルトランドセメント等が挙げられる。
【0019】
また、本発明において用いられるカルシウムアルミネートとしては、例えば11CaO・7Al23・CaF2、11CaO・7Al23・CaCl2、非晶質11CaO・7Al23・CaF2、12CaO・7Al23、CaO・Al23、CaO・2Al23、4CaO・3Al23・SO3、非晶質11CaO・7Al23・CaCl2、非晶質12CaO・7Al23等のカルシウムアルミネートを使用でき、さらに、これらを含有してなるジェットセメントやアルミナセメント等を使用することもできる。
該カルシウムアルミネートのうち、特に、CaO・Al23、11CaO・7Al23・CaF2、11CaO・7Al23・CaCl2、非晶質11CaO・7Al23・CaF2、12CaO・7Al23、非晶質11CaO・7Al23・CaCl2、非晶質12CaO・7Al23が好適であり、これを採用することによって短時間での強度発現性に優れたものとなる。
【0020】
前記セメントは、さらに、水酸化カルシウム(消石灰)を含んでなることが好ましい。
前記セメントが、水酸化カルシウムを含んでなることにより、形成された保水性硬化体がより硬化性を有することができるという利点がある。
【0021】
このように、本発明におけるセメントは、ポルトランドセメント、カルシウムアルミネート、及びII型無水石膏を必須成分として含み、さらに、好ましい成分として水酸化カルシウムを含み、その他の成分として、石灰石粉、スラグ粉末を含み得るものである。
また、本発明におけるセメントの成分としては、ゼオライト、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、酒石酸ナトリウムは含まれないものとする。
【0022】
スラグ粉末としては、例えば、JIS A 6206の「コンクリート用高炉スラグ微粉末」に規定された高炉スラグ微粉末や、JIS A 5011の「高炉スラグ骨材」に規定された高炉スラグ粗骨材又は高炉スラグ細骨材を粉砕したもの等を好適に使用することができる。
【0023】
前記セメントのSO3/Al23モル比は0.8〜1.4であることが好ましく、0.9〜1.3であることがより好ましく、1.0〜1.2であることが更に好ましい。前記セメントのSO3/Al23モル比を上記範囲とすることにより、前記保水性硬化体用セメント組成物をゼオライトと混合して開粒度アスファルト等の空隙中へ充填した際の中長期的な強度発現性(例えば、材例7日圧縮強度)が大幅に改善される。
また、前記セメントのSO3/Al23モル比が上記範囲であれば、硬化体は自己収縮量が少なく、しかも、低温時においても安定した強度発現性を有するものとなる。
【0024】
一方、本発明において用いるゼオライトは、ケイ素(Si)とアルミニウム(Al)とが酸素(O)を介して結合し、このSi−O−Al−O−Siの構造が三次元的に組み合わさった構造を有するものである。
従って、このようなゼオライトを用いることにより、高い圧縮強度を有しつつ優れた吸水性能を発揮するものとなる。
【0025】
さらに、該ゼオライトは、アルミニウム(+3価)とケイ素(+4価)が酸素(−2価)を互いに共有し、ケイ素の周りが電気的に中性、アルミニウムの周りが−1価となるものであるため、この負電荷を補償するべく陽イオンを吸着固定する性質を有する。
従って、該ゼオライトを用いることにより、六価クロム等の有害な重金属を吸着固定でき、環境汚染を低減できるという効果もある。
【0026】
また、該ゼオライトとしては、粒径75μm以下のものや、塩基置換容量が150meq/100g以上の純度のものを好適に使用することができる。
【0027】
前記セメントと前記ゼオライトとの配合割合が重量比で40:60〜70:30の範囲内であり、前記セメントと前記ゼオライトとの混合物中には、前記ポルトランドセメントが20〜40重量%、前記カルシウムアルミネートが5〜15重量%、前記II型無水石膏が5〜15%、前記ゼオライトが30〜60重量%含有されてなる。
【0028】
保水性硬化体用セメント組成物が、ポルトランドセメント、カルシウムアルミネート、前記II型無水石膏、及びゼオライトを、上記範囲で含有したものであれば、セメントミルクを調製する際に水材料比を低く抑えつつも流動性に優れたセメントミルクを調製でき、開粒度アスファルト等の空隙中への充填作業性が良好となる。さらに、該セメントミルクが開粒度アスファルト等の空隙内部で硬化した後には、優れた吸水性と高い強度とを併せ持つ硬化体となる。
【0029】
溶解度の遅いII型無水石膏を上記範囲で用いることにより、水和反応時の瞬結を防止し、短時間の強度発現に有効なエトリンガイトが生成し、かつ過剰なエトリンガイトが生成せず、モノサルフェートへの転移も緩やかになるSO3/Al23のモル比1.4〜0.8とすることが可能となる。従って、優れた作業性を有するとともに、自己収縮量が小さく、しかも安定した強度発現性を発揮しうるものとなる。
【0030】
炭酸リチウムは、面間隔が2.812オングストロームの結晶面(0.0.2)の回折ピークから測定した結晶度指数が半値幅で0.20以上のものが特に好ましい。
このような、結晶性が低く、より反応性の高い炭酸リチウムを使用することにより、強度発現性を更に改善するとともに、低温時の安定性をより良好にすることができる。
ここで、結晶度指数については、粉末X線回折装置(型番;ロータフレックスRU−200型、株式会社リガク製)で測定した半値幅を示す。
【0031】
また、炭酸リチウムの粉末度は限定されないが、好適には平均粒径10μm以下、好適には7μm以下、更に好適には5μm以下とすることが望ましい。炭酸リチウムの粉末度を上記範囲とすることにより、反応性が高まり、強度発現性を更に改善すると共に、低温時の安定性をより良好にすることができる。
尚、該炭酸リチウムの粒径は、レーザー回折式粒度分布装置(型番;マイクロトラックSRA 7995−10−30、LEEDS&NORTHRUP株式会社製)で測定した平均値を示す。
【0032】
保水性硬化体用セメント組成物には、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2〜2.4重量部、前記炭酸ナトリウムが0.2〜0.4重量部、及び前記酒石酸ナトリウムが0.1〜0.3重量部含有されてなる。
【0033】
保水性硬化体用セメント組成物において、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2重量部以上、前記炭酸ナトリウムが0.2重量部以上、前記酒石酸ナトリウムが0.3重量部以下含有されてなることにより、低温環境下(例えば、温度5℃といった環境下)においても、形成された保水性硬化体が短期間で十分な強度発現性を備えてなり、且つ長期間使用された場合にも容易に破壊されないような高い強度を備えてなることができる。また、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが2.4重量部以下、前記炭酸ナトリウムが0.4重量部以下、前記酒石酸ナトリウムが0.1重量部以上含有されてなることにより、低温環境下においても、作製されるセメントミルクが開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填される際に流動性を有することができる。
【0034】
また、本発明に係る保水性硬化体用セメント組成物中には、本発明の作用効果を阻害しない範囲内において、これ以外の成分を添加することができる。
他の成分の具体例としては、他の吸水性材料等が挙げられる。他の吸水性材料としては、パーライト、バーミキュライト、ベントナイト等の無機材料や、吸水性樹脂のような有機材料、あるいは吸水性を有する公知の多孔質フィラー等を使用できる。
【0035】
本発明に係るセメントミルクは、上記のような構成の保水性硬化体用セメント組成物を水と混合したものである。水材料比については特に限定されないが、作業性と強度の観点からは、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対し、水80〜120重量部となる配合が好ましい。
【0036】
また、必要に応じて適宜セメント用混和剤等を添加してセメントミルクを調製してもよく、混和剤としては、クエン酸等のオキシカルボン酸やリグニンスルホン酸等の公知の凝結遅延剤や、ポリカルボン酸系、ナフタレンスルフォン酸系、メラミン系等の公知の減水剤を使用することができる。
【0037】
本発明に係る保水性硬化体の製造方法は、上述のような構成のセメントミルクを調製した後、該セメントミルクを開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙内部へと充填させ、硬化させるものである。セメントミルクの調製手段や、開粒度アスファルト等の空隙中への充填手段などについては、従来公知の種々の手段を採用することが可能である。
【0038】
対象となる前記開粒度アスファルトやポーラスコンクリートとしては、上記のようなセメントミルクを充填させうる空隙を有するものであれば特に限定されるものではない。該開粒度アスファルト等は、通常、空隙率が10%以上であり、好ましくは15%以上、30%以下のものである。
これらの開粒度アスファルトやポーラスコンクリートの具体例としては、路面の舗装として構成されたものが最も一般的であるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
使用した材料は表1に示す通りである。また、表2に示す配合割合に基づきセメントを作製した。さらに、前記セメントにおけるSO3/Al23モル比は、1.01である。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
(実施例1)
セメント60重量部とゼオライト40重量部とを混合し、さらに、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウム2.4重量部、及び酒石酸ナトリウム0.3重量部を混合し、実施例1の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例2)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.2重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして実施例2の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例3)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.2重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.1重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして実施例3の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例4)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、炭酸ナトリウムを0.2重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.3重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして実施例4の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例5)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、炭酸ナトリウムを0.4重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.3重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして実施例5の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例6)
セメント70重量部とゼオライト30重量部とを混合したことを除き、他は実施例1と同様にして実施例6の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(実施例7)
セメント40重量部とゼオライト60重量部とを混合したことを除き、他は実施例1と同様にして実施例7の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例1)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを2.6重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例1の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例2)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.0重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.0重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例2の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例3)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.4重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例3の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例4)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.0重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例4の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例5)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、炭酸ナトリウムを0.1重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.3重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例5の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例6)
セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウムを1.8重量部とし、炭酸ナトリウムを0.5重量部とし、酒石酸ナトリウムを0.3重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例6の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例7)
セメント72重量部とゼオライト28重量部とを混合したことを除き、他は実施例1と同様にして比較例7の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例8)
セメント38重量部とゼオライト62重量部とを混合したことを除き、他は実施例1と同様にして比較例8の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例9)
酒石酸ナトリウムの代わりにクエン酸ナトリウムを、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、0.1重量部混合することを除き、他は実施例1と同様にして比較例9の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例10)
酒石酸ナトリウムの代わりにクエン酸ナトリウムを、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、0.1重量部混合し、さらに、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウム1.8重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例10の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例11)
酒石酸ナトリウムの代わりにクエン酸ナトリウムを、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、0.1重量部混合し、さらに、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、炭酸リチウム1.2重量部とすることを除き、他は実施例1と同様にして比較例11の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例12)
酒石酸ナトリウムの代わりにクエン酸ナトリウムを、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対し、0.05重量部混合することを除き、他は実施例1と同様にして比較例12の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
(比較例13)
酒石酸ナトリウムを混合しないことを除き、他は実施例1と同様にして比較例13の保水性硬化体用セメント組成物を調製した。
【0043】
上記実施例、及び比較例の保水性硬化体用セメント組成物の配合を下記表3に示す。また、実施例1〜7、及び比較例7、8の保水性硬化体用セメント組成物におけるポルトランドセメント、カルシウムアルミネート、II型無水石膏、消石灰、石灰石粉、及びゼオライトの配合割合を下記表4に示す。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
(流動性試験)
上述のようにして調製した得た実施例および比較例の各保水性硬化体用セメント組成物に水を、セメントとゼオライトとの合計量100重量部に対して水が100重量部となるように、それぞれ加え、ハンドミキサーにて均一に混合して、セメントミルクを調製し、セメントミルク調整後30分経過時のセメントミルクのPロート流下時間を測定した。
Pロート流下時間については、それぞれ、JSCE−F521のプレパックドコンクリートの注入モルタルの流動性試験方法に準じて試験を行った。
【0047】
(圧縮強度)
同様にして調製した各セメントミルクを内寸4×4×16cmの型枠に打設して、供試体を作製した。そして、材齢3時間となる直前に脱型して材齢3時間での供試体の圧縮強度を測定するとともに、材齢1日で脱型した後、材齢7日まで水中養生を行い材齢7日の圧縮強度を測定した。圧縮強度については、それぞれ、JIS R 5201の圧縮強さ試験に準じて試験を行った。
【0048】
(最大吸水率試験)
同様にして調製した各セメントミルクを内寸4×4×16cmの型枠に打設し、材齢3日で脱型することによって供試体を作製した。該供試体を24時間水中に浸漬させて吸水状態の重量(W1)を測定した後、60℃の通風式乾燥機内に24時間放置して乾燥させた状態の重量(W0)を測定し、次式に基づいて最大吸水率を算出した。
最大吸水率(%)=(W1−W0)/W0×100
【0049】
(判定)
セメントミルクのPロート流下時間が9〜13秒で、材齢3時間の供試体の圧縮強度が0.5N/mm2以上で、材齢7日の供試体の圧縮強度が5.0N/mm2以上で、供試体の最大吸水率が60%以上であるものを「○」と判定した。また、それ以外のものを「×」と判定した。
【0050】
実施例1〜3、及び比較例1〜4の各保水性硬化体用セメント組成物の上記試験の結果を表5に示す。
尚、実施例1〜3、及び比較例1〜4の各保水性硬化体用セメント組成物において、セメントとゼオライトとの配合割合、及びセメントとゼオライトとの合計量に対する炭酸ナトリウムの配合割合は同じであるため、表5でそれらは割愛した。
【0051】
【表5】

【0052】
表5より、セメント及びゼオライトに対する炭酸リチウムの配合割合が本発明の範囲より上回る比較例1、並びにセメント及びゼオライトに対する酒石酸ナトリウムの配合割合が本発明の範囲より下回る比較例4の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製したセメントミルクのPロート流下時間は高い値を示した。また、セメント及びゼオライトに対する炭酸リチウムの配合割合が本発明の範囲より下回る比較例2の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の材齢3時間及び材齢7日の圧縮強度は低い値を示した。さらに、セメント及びゼオライトに対する酒石酸ナトリウムの配合割合が本発明の範囲より上回る比較例3の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の材齢3時間の圧縮強度は低い値を示した。
一方で、本発明の範囲内の実施例1〜3の保水性硬化体用セメント組成物においては、セメントミルクのPロート流下時間、試供体の材齢3時間及び材齢7日の圧縮強度、並びに試供体の最大吸収率のすべての項目において良好の結果が得られた。
【0053】
実施例4、5、及び比較例5、6の各保水性硬化体用セメント組成物の上記試験の結果を表6に示す。
尚、実施例4、5、及び比較例5、6の各保水性硬化体用セメント組成物において、セメントとゼオライトとの配合割合、並びにセメントとゼオライトとの合計量に対する炭酸リチウム、及び酒石酸ナトリウムそれぞれの配合割合は同じであるため、表6でそれらは割愛した。
【0054】
【表6】

【0055】
表6より、セメント及びゼオライトに対する炭酸ナトリウムの配合割合が本発明の範囲より下回る比較例5の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の材齢3時間の圧縮強度は低い値を示した。また、セメント及びゼオライトに対する炭酸ナトリウムの配合割合が本発明の範囲より上回る比較例6の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製したセメントミルクのPロート流下時間は高い値を示した。
一方で、本発明の範囲内の実施例4、5の保水性硬化体用セメント組成物においては、セメントミルクのPロート流下時間、試供体の材齢3時間及び材齢7日の圧縮強度、並びに試供体の最大吸収率のすべての項目において良好の結果が得られた。
【0056】
実施例6、7、及び比較例7、8の各保水性硬化体用セメント組成物の上記試験の結果を表7に示す。
尚、実施例4、5、及び比較例5、6の各保水性硬化体用セメント組成物において、セメントとゼオライトとの合計量に対する炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムそれぞれの配合割合は同じであるため、表7でそれらは割愛した。
【0057】
【表7】

【0058】
表7より、セメントとゼオライトとの配合割合において本発明の範囲よりもゼオライトが少ない比較例7の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の最大吸収率は低い値を示した。また、セメントとゼオライトとの配合割合において本発明の範囲よりもゼオライトが多い比較例8の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の材齢3時間の圧縮強度は低い値を示した。
一方で、本発明の範囲内の実施例6、7の保水性硬化体用セメント組成物においては、セメントミルクのPロート流下時間、試供体の材齢3時間及び材齢7日の圧縮強度、並びに試供体の最大吸収率のすべての項目において良好の結果が得られた。
【0059】
比較例9〜13の各保水性硬化体用セメント組成物の上記試験の結果を表8に示す。
尚、比較例9〜13の各保水性硬化体用セメント組成物において、セメントとゼオライトとの配合割合、及びセメントとゼオライトとの合計量に対する炭酸ナトリウムの配合割合は同じであるため、表8でそれらは割愛した。
【0060】
【表8】

【0061】
表8より、本発明と異なり、酒石酸ナトリウムの代わりにクエン酸を含有している比較例9〜12の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製した試供体の材齢3時間の圧縮強度は低い値を示した。また、本発明と異なり、酒石酸ナトリウムを含有していない比較例13の保水性硬化体用セメント組成物を用いて作製したセメントミルクのPロート流下時間は測定不能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填し保水性の硬化体を構成する保水性硬化体用セメント組成物であって、ポルトランドセメントとカルシウムアルミネートとII型無水石膏とを有するセメント、ゼオライト、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、及び酒石酸ナトリウムを含有してなり、前記セメントのSO3/Al23モル比が0.8〜1.4であり、前記セメントと前記ゼオライトとの配合割合が重量比で40:60〜70:30の範囲内であり、前記セメントと前記ゼオライトとの混合物中には前記ポルトランドセメントが20〜40重量%、前記カルシウムアルミネートが5〜15重量%、前記II型無水石膏が5〜15%、前記ゼオライトが30〜60重量%含有されてなり、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、前記炭酸リチウムが1.2〜2.4重量部、前記炭酸ナトリウムが0.2〜0.4重量部、及び前記酒石酸ナトリウムが0.1〜0.3重量部含有されてなることを特徴とする保水性硬化体用セメント組成物。
【請求項2】
さらに、前記セメントが水酸化カルシウムを含有してなることを特徴とする請求項1記載の保水性硬化体用セメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の保水性硬化体用セメント組成物と水とを混合してなり、前記セメントと前記ゼオライトとの合計量100重量部に対して、水が80〜120重量部であることを特徴とするセメントミルク。
【請求項4】
請求項3記載のセメントミルクを、開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填させてなることを特徴とする保水性硬化体。
【請求項5】
請求項1又は2記載の保水性硬化体用セメント組成物と、水とを混合してセメントミルクを調製し、該セメントミルクを開粒度アスファルト又はポーラスコンクリートの空隙中に充填させることを特徴とする保水性硬化体の製造方法。

【公開番号】特開2009−234898(P2009−234898A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86611(P2008−86611)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】