説明

保護フィルムの製造方法

【課題】ケン化浴の汚染を抑制することができ、偏光子との接着性が良好で、耐擦傷性に優れた保護フィルムを、効率良く製造することができる保護フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】ポリビニルアルコール系の偏光子に、接着剤層を介して貼合される保護フィルムの製造方法であって、
透明基材の一方の面の最外層に、メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子を含有するハードコート層を有する積層体を、ケン化処理する工程を含む保護フィルムの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光子保護フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板(偏光膜とも呼ばれる)は、液晶ディスプレイの基本構成要素として用いられており、近年では高品位で高信頼性の要求される機器へとその使用が拡大されている。
【0003】
LCDは、一般に、電場の印加により液晶分子の配向方向を制御することで偏光の通過、遮断を切り替える機能を持つ液晶セルと、それを挟む状態で透過軸に直角に配置された二枚の偏光板から構成される。
偏光板は、通常、透明性に優れた基板(光学フィルム)と、偏光子から形成される。また、偏光板は、光学フィルムを延伸し、透過光に位相差を与える機能を付与したフィルム(位相差フィルム)と、偏光子から形成されていてもよい。
【0004】
前記偏光子としては、一般にポリビニルアルコール(以下、「PVA」という。)にヨウ素や二色性染料を吸着、分散させた一軸配向フィルムが用いられている。このPVA系偏光子は、偏光機能に優れているが、耐熱性が低く、温度変化や水分量の変化によって寸法変化が起こり、偏光機能の低下をきたすことが知られている。それを防止するため、前記基板が、PVA系偏光子の両面に保護層として接着されている。保護層としては、従来からトリアセチルセルロース樹脂フィルムや環状オレフィン系樹脂フィルムが主に用いられ、接着剤としてPVAを含有する水系の接着剤が用いられている。トリアセチルセルロース樹脂フィルムを水系接着剤で接着する場合は、十分な接着強度を得るために、接着前にトリアセチルセルロース樹脂フィルムを高温のアルカリ水溶液に浸漬し、その表面のアセチル基をケン化して除去する必要がある(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、シリカ粒子を含むフィルムをケン化処理すると、シリカ粒子は侵食されてしまい、ケン化浴を汚染するばかりでなく耐擦傷性が低下する原因となっていた。ケン化処理の際に該表面を保護し、シリカ粒子の侵食を防止するために、プロテクトフィルムを貼合する方法もあるが、その分コストが上昇してしまうという問題点がある。
【特許文献1】特開平9−258023号公報
【特許文献2】特開平10−268133号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述の問題に鑑みなされたものであり、ケン化浴の汚染を抑制することができ、偏光子との接着性が良好で、耐擦傷性に優れた保護フィルムを、効率良く製造することができる保護フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明者らは鋭意研究を行い、従来の保護フィルムに用いられているハードコート層には、平均粒径が10〜20nmの小さなシリカ粒子が含まれており、このシリカ粒子がケン化処理によって溶け出し、ケン化浴を汚染する原因となっていることを見出した。そして、従来の粒径の小さなシリカ粒子の代わりに粒径の大きなシリカ粒子を含有するハードコート層を用いることにより、ケン化浴中へのシリカ粒子の溶出を防止でき、ケン化浴の汚染を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は下記の保護フィルムの製造方法を提供する。
1.ポリビニルアルコール系の偏光子に、接着剤層を介して貼合される保護フィルムの製造方法であって、
透明基材の一方の面の最外層に、メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子を含有するハードコート層を有する積層体を、ケン化処理する工程を含む保護フィルムの製造方法。
2.前記透明基材が、トリアセチルセルロース(TAC)である上記1に記載の保護フィルムの製造方法。
3.前記ハードコート層が、下記成分(A)及び(B)を含有する塗膜形成用組成物を、前記透明基材に塗布して塗膜を形成する工程、及び該塗膜を、放射線照射及び/又は加熱によって硬化させて硬化膜とする工程を含む上記1又は2に記載の保護フィルムの製造方法。
(A)メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子
(B)分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
【発明の効果】
【0009】
本発明の保護フィルムの製造方法は、ケン化浴の汚染を抑制し、保護フィルムの生産効率を向上させることができる。
本発明の保護フィルムの製造方法によれば、ケン化処理工程の前後で耐擦傷性、ユニバーサル硬度が大きく低下することが無く、優れた硬度及び耐擦傷性を有する保護フィルムを得ることができる。
本発明によれば、高硬度で耐擦傷性に優れた保護フィルムを有する偏光板を効率よく製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
偏光板及び保護フィルムの構成を、図面を参照しながら説明する。
図1に本発明の偏光板の典型的な構成を示す模式図を示す。偏光板(1)は、偏光子(100)の片面又は両面に保護フィルム(10)が接着剤層(110)を介して配置された構造を有する。図1は、偏光子(100)の片面に保護フィルム(10)が配置された偏光板(1)を示している。
【0011】
保護フィルムとは、偏光子の傷付きを防止するために偏光子の片面又は両面に配置される保護膜であり、一般にトリアセチルセルロース(TAC)からなる透明基材から構成されており、さらに透明基材の偏光子と接着される面とは反対側の面に、より高硬度で耐擦傷性に優れるハードコート層が形成されたものが一般的である。本発明の保護フィルム(10)は、透明基材(12)の、偏光子(100)と接着される面とは反対側の面にハードコート層(14)を有するものである。尚、透明基材(12)とハードコート層(14)との間に、帯電防止層等が介在していてもよい。
【0012】
I.保護フィルム及びその製造方法
本発明の保護フィルムの製造方法(以下、本発明の製造方法という)は、透明基材の偏光子と接着される面とは反対側の面の最外層に、メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子を含有するハードコート層を有する積層体をケン化処理する工程を含むことを特徴とする。
【0013】
ケン化処理は、保護フィルムの透明基材と偏光子(一般にポリビニルアルコール)との接着剤であるPVA系接着剤との接着性を高めるために必須である。透明基材であるトリアセチルセルロースのハードコート層が設けられていない側の表面を、一般に、アルカリ水溶液を用いてケン化処理することによって、この表面を親水化する。このとき、保護フィルムのハードコート層に粒径の小さいシリカ粒子が含まれていると、これらがケン化処理の間にハードコート層のマトリックスから脱落してケン化浴中に溶出し、ケン化浴を汚染していた。また、シリカ粒子が脱落することにより、ハードコート層もまた、硬度や耐擦傷性が低下してしまっていた。
【0014】
本発明の保護フィルムのハードコート層は、メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子を含有することが必要である。シリカ粒子のメジアン径が30nm未満であると、ケン化浴中にシリカ粒子が溶出し、ハードコート層表面が荒れ、耐擦傷性が低下し、硬度も大きく低下するおそれがある。
【0015】
シリカ粒子のメジアン径は、目的とする用途により適宜選択すべきである。透明性が必要とされる場合には、例えば、30〜100nmの範囲内であることが好ましく、30〜80nmの範囲内であることがより好ましい。防眩性を目的とする場合には、透明性は要求されないため、100nmを超えるメジアン径を有するシリカ粒子を用いてもよい。
【0016】
ここで、メジアン径とは、粒子体の一つの集団の全体積を100%として累積曲線を求めた時、累積曲線が50%となる点の粒子径(累積平均径)であり、粒度分布を評価するパラメータの一つとして、一般的に利用されている。尚、本発明におけるメジアン径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0017】
本発明で用いるハードコート層は、塗膜形成用組成物を透明基材上に塗布、硬化させて作製される。
【0018】
ハードコート層を形成するための塗膜形成用組成物は、下記成分(A)及び(B)を含有するものであり、さらに(C)〜(E)を含有していることも好ましい。
(A)メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子
(B)分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
(C)有機溶剤
(D)放射線重合開始剤
(E)その他成分
以下、各成分について説明する。
【0019】
(A)メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子
本発明で用いるシリカ粒子としては、公知のものを使用することができる。また、その形状は、球状でも不定形のものでもよく、通常のコロイダルシリカに限らず中空粒子、多孔質粒子、コア・シェル型粒子等であっても構わない。
また、動的光散乱法で求めたシリカ粒子の数平均粒子径は30nm以上であり、30〜300nmであることがさらに好ましく、40〜100nmであることが特に好ましい。シリカ粒子の数平均粒子径が30nm未満であると、硬化膜の硬度や、ケン化耐性が低下するおそれがあり、300nmを超えると膜のヘイズが高くなるおそれがある。
【0020】
本発明で用いるシリカ粒子としては、コロイダルシリカが好ましい。シリカ粒子の分散媒は、水あるいは有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、メタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテル等のアルコール類;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトン等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエ−テル類等の有機溶剤を挙げることができ、これらの中で、アルコール類及びケトン類が好ましい。これら有機溶剤は、単独で、又は2種以上混合して分散媒として使用することができる。
【0021】
本発明で用いることができるシリカ粒子の市販品としては、例えば、MEK−ST−L(日産化学社製シリカ−メチルエチルケトン分散ゾル)、アデカAT−20QB(旭電化社製シリカ粒子水分散ゾル)、シリカドール30GE(日本化学社製シリカ粒子水分散ゾル)、JX−1018SIV(触媒化成社製シリカ粒子水分散ゾル)等が挙げられる。水分散ゾルの場合は溶剤置換して使用することが好ましい。
また、本発明で用いるシリカ粒子は、公知の方法、例えば、特開平9−100111号公報に記載の方法等で変性されていてもよい。
【0022】
本発明で使用される塗膜形成用組成物中における、成分(A)、即ち、シリカ粒子(A)の配合(含有)量は、組成物中の溶剤を除いた成分全量を100重量%としたときに、80重量%以下であり、5〜75重量%が好ましく、10〜70重量%がより好ましい。成分(A)を5〜80重量%の範囲内で含有させることにより、組成物を硬化して得られる硬化物の耐擦傷性を向上させることができる。
【0023】
(B)分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物
分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物(以下、多官能(メタ)アクリレート化合物という)は、本発明で用いる塗膜形成用組成物を硬化して得られる硬化物の硬度及び耐擦傷性を高めるために用いられる。
【0024】
成分(B)としては、分子内に少なくとも3個以上の(メタ)アクリロイル基を含有する化合物であれば特に制限されるものではない。(メタ)アクリロイル基が3個以上の化合物としては、例えば、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド(以下「EO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド(以下「PO」という。)変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテルの両末端(メタ)アクリル酸付加物、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、PO変性水添ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、EO変性ビスフェノールFジ(メタ)アクリレート、フェノールノボラックポリグリシジルエーテルの(メタ)アクリレート等を例示することができる。
【0025】
これらの多官能性モノマーの市販品としては、例えば、SA1002(以上、三菱化学(株)製)、ビスコート195、ビスコート230、ビスコート260、ビスコート215、ビスコート310、ビスコート214HP、ビスコート295、ビスコート300、ビスコート360、ビスコートGPT、ビスコート400、ビスコート700、ビスコート540、ビスコート3000、ビスコート3700(以上、大阪有機化学工業(株)製)、カヤラッドR−526、HDDA、NPGDA、TPGDA、MANDA、R−551、R−712、R−604、R−684、PET−30、GPO−303、TMPTA、THE−330、DPHA、DPHA−2H、DPHA−2C、DPHA−2I、D−310、D−330、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、T−1420、T−2020、T−2040、TPA−320、TPA−330、RP−1040、RP−2040、R−011、R−300、R−205(以上、日本化薬(株)製)、アロニックスM−210、M−220、M−233、M−240、M−215、M−305、M−309、M−310、M−315、M−325、M−400、M−6200、M−6400(以上、東亞合成(株)製)、ライトアクリレートBP−4EA、BP−4PA、BP−2EA、BP−2PA、DCP−A(以上、共栄社化学(株)製)、ニューフロンティアBPE−4、BR−42M、GX−8345(以上、第一工業製薬(株)製)、ASF−400(以上、新日鐵化学(株)製)、リポキシSP−1506、SP−1507、SP−1509、VR−77、SP−4010、SP−4060(以上、昭和高分子(株)製)、NKエステルA−BPE−4(以上、新中村化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0026】
これらのうち、分子内に3個の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(PETA)が特に好ましい。尚、本発明で用いる塗膜形成用組成物には、分子内に4個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物を用いることがさらに好ましい。かかる4個以上の化合物としては、上記に例示されたテトラ(メタ)アクリレート化合物、ペンタ(メタ)アクリレート化合物、ヘキサ(メタ)アクリレート化合物等の中から選択することができ、これらのうちジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(DPHA)、ペンタエリスリトールヒドロキシトリアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレートが特に好ましい。上記の化合物は、各々1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
また、これら多官能(メタ)アクリレート化合物はフッ素原子を含んでいてもよい。このような化合物の例として、パーフルオロ―1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクタン―1,6−ジ(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクタンジオールと2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルイソシアネート、1,1−(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートとの付加物等の一種単独又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0028】
(B)成分の添加量については、特に制限されるものではないが、本発明で用いる塗膜形成用組成物中の溶剤以外の成分を100重量%としたときに、通常5〜70重量%である。この理由は、添加量が5重量%未満となると、硬化性組成物を硬化させてなる硬化物の耐擦傷性が低下する場合があるためであり、一方、添加量が70重量%を超えると、硬化性組成物の硬化物の硬度が低下するおそれがある。
また、このような理由から、(B)成分の添加量を10〜60重量%とするのがより好ましく、20〜50重量%の範囲内の値とするのがさらに好ましい。
【0029】
(C)有機溶剤
本発明で用いる塗膜形成用組成物は、有機溶剤を含有していてもよく、かつ、有機溶剤全量を100重量%としたときに、メチルイソブチルケトン(MIBK)の割合が50重量%以上であり、50〜100重量%であることが好ましく、65〜90重量%であることがさらに好ましい。メチルイソブチルケトンの割合を50重量%以上とすることにより、塗膜の硬度が高くなる。
【0030】
メチルイソブチルケトン以外の有機溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、2−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン等の芳香族類、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族類等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。これらの内、アセトン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メタノール、エタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、2−プロパノール、イソプロパノール等のアルコール類が好ましく、より好ましくはメチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、t-ブタノールの一種単独又は二種以上の組み合わせである。
【0031】
本発明で用いる塗膜形成用組成物中における、メチルイソブチルケトンを含む(C)有機溶剤の合計の添加量については特に制限されるものではないが、組成物の固形分100重量部に対し、100〜100,000重量部とするのが好ましい。この理由は、添加量が100重量部未満となると、組成物の粘度調整が困難となる場合があるためであり、一方、添加量が100,000重量部を超えると、組成物の保存安定性が低下したり、あるいは粘度が低下しすぎて取り扱いが困難となる場合があるためである。
【0032】
(D)放射線重合開始剤
本発明で用いる塗膜形成用組成物には、放射線重合開始剤を含有させてもよい。本発明で用いる放射線(光)重合開始剤としては、光照射により分解してラジカルを発生して重合を開始せしめるものであれば特に制限はなく、例えば、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4′−ジメトキシベンゾフェノン、4,4′−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)等を挙げることができる。
【0033】
放射線(光)重合開始剤の市販品としては、例えば、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製イルガキュア 184、369、651、500、819、907、784、2959、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、BASF社製ルシリン TPO、8893UCB社製ユベクリル P36、フラテツリ・ランベルティ社製エザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/B等を挙げることができる。
【0034】
本発明で用いる塗膜形成用組成物に必要に応じて配合される放射線(光)重合開始剤(D)の含有量は、組成物中の固形分全量を100重量%としたときに、0.01〜20重量%配合することが好ましく、0.1〜10重量%がさらに好ましい。0.01重量%未満であると、硬化物としたときの硬度が不十分となることがあり、20重量%を超えると、硬化物としたときに内部(下層)まで硬化しないことがある。
【0035】
本発明で用いる塗膜形成用組成物を硬化させる場合、必要に応じて放射線(光)重合開始剤と熱重合開始剤とを併用することができる。好ましい熱重合開始剤としては、例えば、過酸化物、アゾ化合物を挙げることができ、具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチル−パーオキシベンゾエート、アゾビスイソブチロニトリル等を挙げることができる。
【0036】
(E)その他の成分
本発明の保護フィルムのハードコート層を形成するための塗膜形成用組成物は、上記成分の他、必要に応じて数平均粒子径が1nm以上30nm未満のシリカ粒子、シリカ粒子以外の無機粒子、光増感剤、熱重合開始剤、重合禁止剤、重合開始助剤、レベリング剤、濡れ性改良剤、界面活性剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、シランカップリング剤、顔料、染料、スリップ剤等を含有していてもよい。
【0037】
本発明で用いる上記と膜形成用組成物は、上記成分(A)〜(E)を混合・撹拌することによって製造することができる。
【0038】
前記塗膜形成用組成物からハードコート層を形成するには、例えばロールコーターやダイコーターで組成物を透明基材上に塗布し、放射線の照射や加熱によって硬化させればよい。
【0039】
本発明の製造方法におけるケン化処理条件は特に制限されないが、例えば、30〜70℃に温調した、濃度1〜3Nの水酸化ナトリウム水溶液に1〜10分間浸漬することで行われる。その後必要に応じ、0.001〜0.01Nの硫酸水溶液に浸したのち、水洗処理される。
【0040】
本発明の製造方法によって製造された保護フィルムは、ハードコート層の硬度及び耐擦傷性に優れており、特にプロテクトフィルムを使用せずにケン化処理を行った場合であっても硬度、耐擦傷性に優れている。
【実施例】
【0041】
以下、本発明を実施例によってさらに具体的に説明する。
【0042】
(製造例1)
重合性不飽和基を有する粒子変性剤(Ab)の製造
乾燥空気中、メルカプトプロピルトリメトキシシラン23.0部、ジブチルスズジラウレート0.5部からなる溶液に対し、イソホロンジイソシアネート60.0部を攪拌しながら50℃で1時間かけて滴下後、70℃で3時間攪拌した。これに新中村化学製NKエステルA−TMM−3LM−N(ペンタエリスリトールトリアクリレート60重量%とペンタエリスリトールテトラアクリレート40重量%とからなる。このうち、反応に関与するのは、水酸基を有するペンタエリスリトールトリアクリレートのみである。)202.0部を30℃で1時間かけて滴下後、60℃で3時間加熱攪拌することで粒子変性剤(S1)を得た。
【0043】
(製造例2)
製造例1で製造した組成物9.36部(重合性不飽和基を有する粒子変性剤(Ab)を7.28部含む)、シリカ粒子分散液MEK−ST−L(シリカ濃度31%、日産化学製MEKゾル)98.07部、イオン交換水0.13部、及びp−ヒドロキシフェニルモノメチルエーテル0.01部の混合液を、60℃、4時間攪拌後、オルト蟻酸メチルエステル1.45部を添加し、さらに1時間同一温度で加熱攪拌することで反応性粒子の分散液を得た。この分散液をアルミ皿に2g秤量後、175℃のホットプレート上で1時間乾燥、秤量して固形分含量を求めたところ、35.7%であった。また、分散液を磁性るつぼに2g秤量後、80℃のホットプレート上で30分予備乾燥し、750℃のマッフル炉中で1時間焼成した後の無機残渣より、固形分中の無機含量を求めたところ、77.7%であった。
【0044】
(製造例3)
製造例2で製造した粒子分散液109.36部、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10.06部、Irg184 0.9部、メチルイソブチルケトン60.0部をフラスコに入れ室温で30分間攪拌し均一な混合液を得た。この混合液を真空エバポレーターを用いて80hPaの減圧度で重量が100.0部になるまで減圧濃縮し、ハードコート用組成物を得た。
【0045】
(製造例4〜7)
下記表1に示すシリカ粒子を用いた以外は製造例2及び製造例3と同様にして各ハードコート用組成物を製造した。
【0046】
尚、製造例3〜7で使用した各シリカ粒子の水分散ゾルを純水で固形分濃度0.5%まで希釈し、HORIBA社製LB−500を用いて、各シリカ粒子のメジアン径及び90%径を測定した。結果を表1に示す。
【0047】
実施例1
(1)ハードコート層の作製
製造例3で製造したハードコート用組成物を、30ミル径のワイヤーバーでTAC基材(厚さ80μm)上に塗布し、80℃で1分間乾燥させ、高圧水銀灯300mJ/cm×2(合計照射量600mJ/cm)で窒素下硬化させた。硬化膜厚は12μmとした。
【0048】
(2)ケン化処理
前記条件で製造した10×15cmサイズのハードコート付き基材を、60℃の2N水酸化ナトリウム水溶液(30mL)に3分間浸漬した。その後、流水で1分間水洗した後、80℃のオーブンに2分間入れて乾燥させ、ケン化処理を施したフィルムを作製した。
【0049】
実施例2〜4及び比較例1
それぞれ製造例4〜7で製造したハードコート用組成物を用いた以外は実施例1と同様にしてハードコート層を形成し、ケン化処理を施したフィルムを作製した。
【0050】
上記実施例及び比較例で製造したケン化処理前及び後のフィルムを用いて、下記特性を評価した。結果を表1に示す。
【0051】
(1)スチールウール耐性
ケン化処理前及び後のフィルムを、それぞれ250g荷重の円筒治具(接触面積1cm)に#0000番のスチールウールを取り付け、学振式堅牢磨耗試験機で10回往復磨耗させ、傷の有無を目視にて観察し、下記基準に従って評価した。
(評価基準)
A:傷なし
B:傷1本〜10本
C:傷11本〜20本
D:傷20本以上
【0052】
(2)摩擦係数μ
ケン化処理前及び後のハードコート付き基材を、それぞれ摩擦係数測定装置(新東科学株式会社製 HEIDON トライボギア14S/14DR)を用い、鉄球、荷重50gの条件で測定した。
【0053】
(3)ユニバーサル硬度(N/mm
ケン化処理前及び後のハードコート付き基材を、それぞれユニバーサル硬度測定機(Fischer社製 PICODENTOR HM 500)を用いて測定した。
【0054】
(4)鉛筆硬度
ケン化処理前及び後のフィルムを、JIS K5600−5−4の方法(荷重750g)に従い評価した。
【0055】
【表1】

【0056】
表1中のシリカ粒子の商品名は、下記のものを表す。
MEK−ST−L:日産化学社製シリカ−メチルエチルケトン分散ゾル
アデカAT−20QB:旭電化社製
シリカドール30GE:日本化学社製
JX−1018SIV:触媒化成社製
アデカFM−01:旭電化社製
尚、上記2〜4番目の粒子は水分散ゾルをMEKに溶剤置換をして使用した。
【0057】
上記実施例及び比較例とは別に、下記のようにして製造したハードコート付き基材について、ケン化処理によって、ハードコート層からケン化浴中に溶出したケイ素(Si)の量を下記のようにして測定した。得られた結果を表3に示す。
【0058】
<Si溶出量の測定>
上記実施例及び比較例で作製したハードコート付き基材各5枚を浸漬した後の水酸化ナトリウム水溶液3mLをX線解析用容器(直径3cm×深さ3cmの円筒容器、底面:プロレンフィルム)に移し、プロレンフィルム側から蛍光X線解析装置(スペクトリス社製 Magix PRO)を用いて水酸化ナトリウム水溶液中のSi含有量を測定した。得られた結果を表2に示す。
【0059】
【表2】

【0060】
表1及び表2の結果から、本発明の方法によって製造された保護フィルムは、ハードコート層中の珪素のケン化浴中への溶出が抑制されており、ケン化処理によって、耐擦傷性(スチールウール耐性)、硬度(ユニバーサル硬度及び鉛筆硬度)の低下が殆ど無いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の偏光子保護膜及び偏光板は、液晶表示装置等の構成部材として有用である。
本発明の偏光子保護膜の製造方法は、ケン化浴の汚染を抑えることができるため、偏光子保護膜を高い生産効率で製造するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の偏光板の一実施形態を示す模式図である。
【符号の説明】
【0063】
1 偏光板
10 偏光子保護膜
12 透明基材
14 ハードコート層
100 偏光子
110 接着剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系の偏光子に、接着剤層を介して貼合される保護フィルムの製造方法であって、
透明基材の一方の面の最外層に、メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子を含有するハードコート層を有する積層体を、ケン化処理する工程を含む保護フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記透明基材が、トリアセチルセルロース(TAC)である請求項1に記載の保護フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記ハードコート層が、下記成分(A)及び(B)を含有する塗膜形成用組成物を、前記透明基材に塗布して塗膜を形成する工程、及び該塗膜を、放射線照射及び/又は加熱によって硬化させて硬化膜とする工程を含む請求項1又は2に記載の保護フィルムの製造方法。
(A)メジアン径が30〜300nmの範囲内のシリカ粒子
(B)分子内に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物


【図1】
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【公開番号】特開2009−134129(P2009−134129A)
【公開日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−310780(P2007−310780)
【出願日】平成19年11月30日(2007.11.30)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】