説明

信号処理装置、レーダ装置、車両制御システム、信号処理方法、および、プログラム

【課題】物体情報を正確に検出できるレーダ装置を提供する。
【解決手段】連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する。過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、この物体情報の略整数倍の物体情報を有する特定物体情報を検出し、特定物体情報が検出された場合には、特定物体情報の物体情報を整数で除算した物体情報を有する予測物体情報を仮想的に設定する。そして、物体情報の設定は直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とする。これにより、物体情報を正確に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信波と受信波の情報に基づいて、物体を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
レーダ装置を用いて物体を検出する場合、送信波から得られる送信信号と、受信波から得られる受信信号とをミキシングして両者の周波数差により検出されるピーク信号から物体の相対距離と相対速度を検出する。
【0003】
ピーク信号から物体の相対距離と相対速度を検出するには、送信信号と受信信号とをミキシングすることにより生じるビート信号をA/D変換器(Analog to Digital Converter)によりA/D変換して、マイクロコンピュータなどの信号処理装置に取り込み、信号処理装置によりビート信号にFFT(Fast Fourier Transform 高速フーリエ変換)処理を施して周波数スペクトルを検出する。
【0004】
一般的に物体の周波数スペクトルは、相対的にノイズなどの周波数スペクトルよりもパワーレベルが大きいので、所定のパワーレベルに設けられている閾値を超えた周波数スペクトルをピーク信号として検出する。そして検出されたピーク信号に基づいて、物体の相対距離、および、相対速度を検出する。
【0005】
物体の相対距離、および、相対速度を検出する際に、送信信号のレベルを一定とした場合、受信信号のパワーレベルには物体の反射断面積やレーダ装置から物体までの距離、レーダ装置を搭載した車両と物体との相対速度に応じてばらつきが生じる。特に相対距離が近い物体の受信信号のパワーレベルは相対距離が遠い物体の受信信号のパワーレベルと比べて大きくなる。受信信号のパワーレベルが大きくなることにより、ミキサやA/D変換器を含む受信回路の飽和レベルを超えると、ビート信号は略矩形波としてサンプリングされる。
【0006】
そして、略矩形波としてサンプリングされたビート信号をFFT処理すると、これに対応する周波数スペクトルが検出される。
【0007】
ここで、略矩形波のビート信号から生成される周波数スペクトルには、ある実在する物体に係る周波数スペクトルとともに、その物体に係る周波数の整数倍の周波数スペクトルとが含まれている。そして、略矩形波のビート信号から生成される周波数スペクトルのパワーレベルはA/D変換器を含む受信回路の飽和レベルに対応して、他の周波数スペクトルのレベルよりも大きいので、ピーク信号として検出するための閾値を超える。その結果、実在しない物体の相対距離、相対速度が誤検出されて、車両制御に支障をきたすおそれがある。
【0008】
また、物体との相対距離が近い場合、送信波の一部が物体に対して多重反射して、物体からの1回の反射により検出されるビート信号と、物体からの複数回の反射により検出されるビート信号とが発生する。その結果、物体からの複数回の反射により検出されるビート信号に対応する周波数スペクトルがピーク信号を検出するための閾値を超えると、物体として実在しないピーク信号が検出される。その結果、実在しない物体の相対距離、相対速度が誤検出され、車両制御に支障をきたすおそれがある。
【0009】
以上のような問題に対して、従来は送信信号のレベルを予め低下させることで、受信信号のレベルを低下させる方法が提案されている。
【0010】
また、飽和レベルが大きい受信回路を用いることで、整数倍した周波数スペクトルがピーク信号として検出されることを回避する方法が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平11−133144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、車両との相対距離の近い物体の周波数スペクトルのパワーを検出する閾値は、相対距離の近い物体のピーク信号を整数倍した周波数スペクトルのパワーを検出する閾値と比較して大きい値に設定されている。これは、送信波や受信波を周波数変調させることにより生じるノイズや、ハード機器から生じるノイズなどの影響により発生する周波数スペクトルが、低い周波数帯に多く発生することに伴い、このようなノイズを誤って物体のピーク信号として検出することを防止するためである。
【0013】
したがって、受信信号のレベルを低下させることにより、相対距離の近い物体の周波数スペクトルは、周波数スペクトルのパワーを検出する閾値の値が大きいため閾値を下回ってピーク信号として検出されず、相対距離の近い物体のピーク信号の整数倍の周波数スペクトルは、閾値の値が小さいため閾値を上回りピーク信号として検出される。そのため、実在しない物体が検出される一方で、実在する車両との相対距離の近い物体が検出できない可能性がある。その結果、同一の物体に係る情報が継続的に検出されるかを判定する連続判定処理において、実際には物体が存在しているにもかかわらず、物体の検出ができないことに起因して、物体が継続的に検出できず、車両制御の対象とされない可能性がある。
さらに、特許文献1に記載されているような飽和レベルが大きい受信回路を用いることはレーダ装置のコスト高につながるので望ましくない。
【0014】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、物体情報を正確に検出できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1の発明は、所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理装置であって、連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定手段と、過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する手段と、前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する手段と、を備え、前記連続検出判定手段は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とする。
【0016】
また、請求項2の発明は、請求項1に記載の信号処理装置において、前記連続検出判定手段は、前記特定物体情報に基づいて設定される検出範囲内に、直近の物体検出処理により検出された物体情報がない場合に、前記予測物体情報を判定対象としている。
【0017】
また、請求項3の発明は、請求項1または2に記載の信号処理装置において、前記信号処理装置は前記物体情報を保存する記憶手段を有し、前記連続検出判定手段は、前記過去の物体検出処理において検出された物体情報が、連続する複数回の物体検出処理で継続して検出されないことにより、前記記憶手段に保存された物体情報が消去される場合にのみ、前記予測物体情報を判定対象としている。
【0018】
また、請求項4の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の信号処理装置において、前記信号処理装置は車両に搭載されるものであり、前記車両の速度を取得する手段、をさらに備え、前記車両の速度が所定の速度よりも小さい場合にのみ、前記予測物体情報を判定対象とする手段、を備えている。
【0019】
また、請求項5の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の信号処理装置と、前記送信波を出力し、前記反射波を受信する手段と、前記物体検出処理で検出した物体情報を、該物体情報を利用する電子制御装置に出力する手段と、を備えている。
【0020】
また、請求項6の発明は、請求項5に記載のレーダ装置と、前記レーダ装置から出力された物体情報に基づいて車両を制御する手段と、を備えている。
【0021】
また、請求項7の発明は、所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理方法であって、連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定工程と、過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する工程と、前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する工程と、を備え、前記連続検出判定工程は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とする。
【0022】
また、請求項8の発明は、所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理装置に含まれるコンピュータによって実行可能なプログラムであって、前記プログラムの前記コンピュータによる実行は、前記コンピュータに、連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定工程と、過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する工程と、前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する工程と、を実行させ、前記連続検出判定工程は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とすることを特徴とする。+
【発明の効果】
【0023】
請求項1ないし8の発明によれば、物体検出処理により検出された物体情報と、この物体情報の倍波に基づく特定物体情報から導出された予測物体情報とのいずれも物体情報の候補とすることで、物体情報検出の連続性を確保できる。
【0024】
また、特に請求項2の発明によれば、物体検出処理により物体情報が検出されていない場合でも、この物体情報の倍波の特定物体情報が検出されている場合は、物体情報は存在しているものとして、倍波の特定物体情報を連続検出判定対象の物体情報として物体検出の連続性を確保できる。
【0025】
また、特に請求項3の発明によれば、信号処理装置の記憶手段に保存されている物体情報が連続検出されないことに伴い、記憶手段から消去される前に、物体情報に基づいて発生する特定物体情報の有無を確認して、特定物体情報があれば物体情報が存在するものとして、物体情報の連続性を確保できる。
【0026】
また、特に請求項4の発明によれば、車両が低速で走行している場合は、車両の近距離に検出される物体が多く存在している。そのため、物体情報が検出されずに物体情報に基づいて発生する倍波の特定物体情報のみが検出される場合がある。そのため、特定物体情報から物体情報の正確な位置や速度を検出することで、物体の挙動を連続的に検出できる
また、特に請求項5の発明によれば、物体情報が検出できなくてもこの物体情報の倍波に基づく特定物体情報を連続検出判定対象の物体情報とすることで、物体情報検出の連続性を確保する。これにより、車両制御対象の情報を電子制御装置に出力できる。
【0027】
また、特に請求項6の発明によれば、レーダ装置によって検出された正確な物体情報に基づいて、車両制御を行うことができる。また、これによりユーザに対して安全性の高い車両制御を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、車両1の全体図である。
【図2】図2は、物体検出システムブロック図である。
【図3】図3は、FM−CW信号とビート信号を示す図である。
【図4】図4は、倍波グループ検出処理を示す図である。
【図5】図5は、ペアリング処理を示す図である。
【図6】図6は、連続する複数回の物体検出処理を示す図である。
【図7】図7は、物体検出処理のフローチャートである。
【図8】図8は、基本波物体情報設定処理を示す図である。
【図9】図9は、基本波物体情報設定処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下では、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【実施例1】
【0030】
<1.構成>
図1は、車両1の全体図である。車両1は、本実施形態の物体検出システムが備える要素であるレーダ装置2と、電子制御装置3とを備えている。レーダ装置2は車両前方のフロント部分に設けられている。レーダ装置2は検出範囲R1の範囲を走査して、車両1と物体との相対距離、および、相対速度を算出するとともに、車両1からみた物体の角度を算出する。なお、レーダ装置2の搭載位置は車両前方のフロント部分に限らず、車両1の後方や側方でもよい。
【0031】
電子制御装置3は、レーダ装置2の物体の検出結果に応じて、車両1の車両制御を行う。車両制御の例としては、前方の車両に追従して走行する場合のアクセル制御やブレーキ制御、衝突防止のブレーキ制御がある。また、衝突時にシートベルト4を矢印方向に移動させて、乗員を座席に固定して衝撃に備えたり、衝突時にヘッドレスト5を矢印方向に移動させて乗員の身体へのダメージを軽減する。
【0032】
図2は物体検出システムブロック図である。物体検出システム10は、レーダ装置2と電子制御装置3とが電気的に接続して構成されている。また、物体検出システム10の電子制御部3は、車速センサ30、ステアリングセンサ31、および、ヨーレートセンサ32などの車両1に設けられる各種センサと電気的に接続されている。さらに、電子制御部3はブレーキ40、スロットル41、および、警報器42などの車両1に設けられる車両制御装置と電気的に接続されている。
【0033】
レーダ装置2は、信号処理部11、変調部12、VCOVoltage Controlled Oscillation)13、方向性結合器14、平面アンテナ15、ミキサ16、フィルタ17、A/D(Analog Digital)変換器18、モータ駆動回路19、モータ20、および、エンコーダ21を備える。なお、平面アンテナ15は送信アンテナ15a、および、受信アンテナ15bより構成されている。また、以下に述べる実施の形態では、レーダ装置2のアンテナ走査方式をメカスキャン方式として説明を行なうが、物体の方向推定にDBF(Digital Beam Formingなどの方式を採用するアンテナ固定の電子スキャン方式についても本発明は適用できる。
【0034】
レーダ装置2による物体検出は、信号処理部11からの信号に基づき、変調部12が予め定められた周波数帯の変調信号を生成する。この変調信号はVCO13により送信信号に変換され、方向性結合器14を介して送信波として送信アンテナ15aの平面アンテナ15から出力される。
【0035】
平面アンテナ15から出力された送信波は物体にあたって反射し、反射波として平面アンテナ15に受信される。この受信された反射波と発振信号は方向性結合器14を介して、ミキサ16でミキシングされる。
【0036】
送信信号とミキシングされた受信信号は、物体からの相対距離や相対速度の情報を含むビート信号であり、フィルタ17によりフィルタリングされ、レーダ装置2を備えた車両1から物体までの相対距離や相対速度の情報を含む帯域のビート信号が検出される。
【0037】
フィルタ17により所定の周波数帯にフィルタリングされたビート信号は、A/D変換器18によりアナログ信号からデジタル信号に変換された後、信号処理部11に入力される。
【0038】
また、レーダ装置2は平面アンテナ15を所定の角度範囲で走査させる。平面アンテナ15の角度は、レーダ装置2を車両1の前方のバンパー部分に備え、前方車両が車両1の真正面に位置している場合に、平面アンテナ15が前方車両と垂直の状態にある場合を0度とする。例えば、平面アンテナ15は0度の状態から左右にそれぞれ15度ずつ走査する。この平面アンテナ15の走査はモータ駆動部19とモータ20を用いて行われ、平面アンテナ15の走査に伴うエンコーダ21の図示しないスリットの通過数と通過方向の情報を信号処理部11へ出力する。
【0039】
信号処理部11にはレーダ装置2の各部の制御と、電子制御部3とのデータの送受信を行う場合に情報処理を行うCPU11aと、CPU11aの処理に用いられるプログラムが格納されているメモリ11bが備えられている。CPU11aの各種の機能は、このプログラムを実行することで実現される。A/D変換部18から出力された信号に基づいて、車両1からの物体の相対距離や相対速度を検出する。また、エンコーダ21から出力される情報により車両1からみた物体の角度を検出する。このようにそれぞれ物体情報のパラメータ値として検出する。
【0040】
本実施の形態では、レーダ装置2で検出される物体の情報を物体情報といい、この物体情報のパラメータ値として、相対距離、相対速度、および、角度などが存在している。物体情報のパラメータ値のうち、相対距離及び相対速度は、距離に関するものであるため、距離パラメータ値であるともいえる。
【0041】
また、信号処理部11のメモリ11bには物体検出処理により検出された物体情報などの複数のデータが格納されている。
【0042】
信号処理部11と電気的に接続されている電子制御部3はCPU3aとメモリ3bを備えており、CPU3aは車両1の各部の制御と、信号処理部11とのデータの送受信を行う際に情報処理を行う。また、メモリ3bはCPU3aの処理に用いられるプログラムが格納されており、さらに、信号処理部11から送信された物体情報のデータも格納されている。またCPU3aの各種機能は、このプログラムを実行することで実現される。
【0043】
この電子制御装置3にはブレーキ40、スロットル41、および、警報器42が電気的に接続されており、物体情報に応じてこれらを制御することで、車両1の動作が制御される。例えば、警報器42は車両1と物体との距離が接近している場合に警報を発してドライバーに異常を報知する。また、車両1と物体とが衝突する可能性がある場合は、ブレーキ40を作動させて車両1の速度を低下させたり、スロットル41を絞って、エンジンの回転数を低下させる。
【0044】
さらに、電子制御部3には車両1の速度を検出する車速センサ30、ステアリングホイールの操舵角を検出するステアリングセンサ31、および、車両1の旋回速度を検出するヨーレートセンサ32が接続されている。なお、ステアリングセンサ31とヨーレートセンサ32の両方を使用することで、ステアリング操作に応じた車両1の旋回方向、および、車両1の旋回速度を検出することが可能となる。そのため、両方のセンサを備えていることが好ましいが、ステアリングセンサ29またはヨーレートセンサ30のどちらか一方でも車両1の旋回方向を検出することは可能である。
【0045】
また、平面アンテナ15にて送受信される送信波および受信波は、電波、レーザ、または、超音波などの信号であり、平面アンテナ15から送信され、物体にあたってはね返り、反射波として受信することで、物体情報を検出できるものであればよい。
【0046】
さらに、本実施の形態ではアンテナを平面アンテナ15としているが、送信波を出力し、送信波の物体からの反射波を受信可能なアンテナであれば、平面アンテナ15以外にレンズアンテナ、または、反射鏡アンテナ等であってもよい。また、送信アンテナ15aと受信アンテナ15bとを別々の構成として述べているが、1本のアンテナで送信、および、受信の両方を行なうことができる送受信兼用のアンテナを用いてもよい。
【0047】
次に、物体検出処理において用いられる信号処理の一例としてFM−CW(Frequency Modulated Continuous Wave)のレーダ方式について説明する。なお、下記に記載の式や図3に示すFM−CW信号とビート信号についての各記号は以下に示すものである。f:ビート周波数、fs:周波数、f:距離周波数、f:速度周波数、f:送信波の中心周波数、△f:周波数偏移幅、f:変調波の繰り返し周波数、C:光速(電波の速度)、T:物体までの電波の往復時間、R:物体までの距離、v:物体との相対速度。
【0048】
図3上図はFM−CWの送信信号および受信信号の信号波形を示す図である。また、図3下図は送信信号と受信信号との差分周波数により生じるビート周波数を示す図である。送信波と受信波との関係は、レーダ装置2を備えた車両1と物体との間の距離、および、相対速度によるドップラーシフトに応じてずれを生じる。
【0049】
図3上図は横軸を時間とし、縦軸を周波数を示している。図中、実線で示す送信信号は、所定周期で周波数が変わる性質を有しており、周波数が上昇するアップ区間と、送信波が所定の周波数まで上昇した後に所定の周波数まで下降するダウン区間がある。そして、送信信号は、所定の周波数まで下降した後に再度所定の周波数まで上昇をするように一定の変化を繰り返す。また、送信信号は物体にあたって反射した後に受信され、同図の破線で示すような受信波となる。受信信号についても送信信号とおなじようにアップ区間とダウン区間が存在する。なお、本実施形態で用いられる周波数帯の例としては76Ghz帯の周波数があげられる。
【0050】
また、車両1と物体との距離に応じて、送信信号に比べて受信信号に時間的な遅れ(T=2R/C)が生じる。さらに、車両1と物体との間に速度差を有する場合は、送信信号に比べて受信信号が周波数fsの軸に平行にシフトする。このドップラーシフト分がfdとなる。
【0051】
図3下図は横軸を時間、縦軸をビート周波数として、式(1)に基づいてビート周波数を算出するものである。
=f±f=(4・△f・f/C)R+(2・f/C)v ・・・(1)
なお、式(1)に示されるビート信号を後述するFFT処理することで、周波数スペクトルを検出する。この検出された周波数スペクトルの中から所定の閾値を超えた周波数スペクトルをピーク信号として検出し、車両1と物体との相対距離、および、相対速度を算出する。
【0052】
FFT処理により検出されたピーク信号のうち同じ物体のピーク信号を1つのグループとする処理をグルーピングという。このグルーピングがなされたピーク信号のグループのうち基準となるグループの周波数を略整数倍した範囲にあるグループを検出する倍波グループを検出する処理を図4に示す。
【0053】
図4にはFFT処理後のピーク抽出処理により抽出されたピーク信号が、横軸X軸を角度(単位deg)、縦軸Y軸を周波数(単位khz)とする領域に示されている。また、横軸は前方車両が車両1の真正面に位置している場合に、平面アンテナ15が前方車両と垂直の状態にある場合を0度とし、左側をマイナスの角度、右側をプラスの角度とする。縦軸は車両1からの距離が離れるほど高い周波数を示す。また、各ピーク信号はグルーピングされており、アップ区間、ダウン区間それぞれにグルーピングされたピーク信号が示されている。
【0054】
なお、ピーク信号をグルーピングする処理はその信号の強度(パワー)、角度、周波数から関連する複数のピーク信号をひとつの物体の情報としてまとめてグルーピングする。図4に示すアップ区間ではピーク信号がグルーピングされたグループA1、B1、C1、および、D1が示され、ダウン区間では同じくピーク信号がグルーピングされたグループA2、B2、C2、および、D2が示されている。
【0055】
そして、アップ区間では、最も低い周波数の値であるグループA1を基本波グループとして、倍波グループ範囲αを設定する。ここで、倍波とは所定の周波数に基づいて、整数倍された周波数の値に周波数スペクトルが発生して、その周波数スペクトルが所定の閾値を超えてピーク信号として検出された場合に発生するものであり、本来であれば物体として存在しないにもかかわらずピーク信号として検出されるものである。
【0056】
なお、本実施形態では基本波グループのグループA1は他のグループを検出したのと同じ物体検出処理としているが、この基本波グループは過去の物体検出処理において検出された物体情報に係るピーク信号のグループとしてもよい。
【0057】
本実施形態の倍波グループ範囲αは、Y軸方向にグループA1の周波数f1から2倍した周波数(f1×2)で、その周波数よりも高い周波数に約2.0khz、低い周波数に約1.0khzの幅を設けている。また、X軸方向には前方車両が車両1の真正面に位置している場合に、平面アンテナ15が前方車両と垂直の状態にある場合を0degとすると、左右に例えば±4degの合計8degの範囲を倍波グループ範囲αとするものである。
【0058】
この倍波グループ範囲αにはグループB1とグループC1とが含まれている。これらのグループを特定ピーク信号グループとして設定する。設定の例としては倍波グループフラグをオン状態とすることがあげられる。これにより、本来物体としては存在しない倍波の特定ピーク信号のグループと、物体のピーク信号のグループとの判別が容易となる。
【0059】
また、ダウン区間においても最も低い周波数の値であるグループA2のピーク信号のグループを基本波グループとして、倍波グループ範囲βを設定する。なおアップ区間とダウン区間で倍波グループ範囲の周波数が異なるのは、アップ区間とダウン区間の時間差によるピーク信号の移動に伴うものである。他の範囲設定条件はアップ区間と同じである。なお、本実施例では、アップ区間とダウン区間の基本波グループを1つとしたが、基本波グループを2つ以上として倍波グループを検出することも可能である。
【0060】
さらに、グルーピング処理を行わずにFFT処理によりピーク信号を抽出した後に以下に述べるペアリング処理を行う場合は、ペアリング処理時に基本波と倍波に相当するピーク情報を上記の倍波グループ範囲を設定する方法と同様の方法で設定し、所定の範囲内にあるピーク信号を特定ピーク信号として設定する。
【0061】
次に、図5は図4で述べたアップ区間の各グループとダウン区間の各グループとをペアリングする処理を示している。Y軸とX軸の内容は上述の図4での説明と同じである。ペアリング処理については、アップ区間のグループA1はダウン区間のグループA2とペアリングされ、アップ区間のグループD1はダウン区間のグループD2とペアリングされる。ペアリングは、アップ区間とダウン区間にある各グループの周波数、角度、特定ピーク信号グループの設定状態(倍波グループフラグがオン状態か否か)などの条件に基づいて行われる。アップ区間のグループB1とダウン区間のグループB2とは倍波グループフラグがオン状態であることから、周波数、および、角度などのその他のペアリングの条件を満たせば、ペアリングが実施される。このペアリングがされたグループのデータは、物体情報として信号処理部11のメモリ11bに記憶される。ペアリングされなかったグループのデータはメモリ11bには保存されない。特に、倍波グループフラグがオン状態のグループ同士でペアリングされたもののデータは、特定物体情報として信号処理部11のメモリ11bに記憶される。この場合は、記録される物体情報のフラグである倍波ペアフラグがオン状態とされ、特定物体情報であることが示される。
【0062】
アップ区間のグループC1とダウン区間のグループC2とは、グループC1のみ倍波グループフラグがオン状態でグループC2は倍波グループフラグがオン状態ではないためペアリングは実施されない。
【0063】
図6は、連続する複数回の物体検出処理において、継続的に同一物体が検出されているかを判定する処理を示した図である。なお、上記図4、および、図5ではアップ区間とダウン区間の検出範囲をそれぞれ示したが、図6ではアップ区間とダウン区間のそれぞれのデータがペアリングの処理により物体情報、または、特定物体情報としてメモリ11bに記憶された後のデータが表示されており、物体情報、および、特定物体情報のデータが連続する複数回の物体検出処理ごとに検出されていることを示すものである。
【0064】
メモリ11bに記憶されているデータのうち、前回検出データには物体情報A3、特定物体情報B3、および、物体情報D3がある。また、今回検出データには物体情報A4、特定物体情報B4、および、物体情報D4がある。
【0065】
そして、前回検出データの物体情報A3と今回検出データの物体情報A4、前回検出データの特定物体情報B3と今回検出データの特定物体情報B4、および、前回検出データの物体情報D3と今回検出データの物体情報D4とが、連続する複数回の物体検出処理において、継続的に検出されている同一物体である。その中でも、特定物体情報B3と特定物体情報B4はそれぞれ倍波ペアフラグがオン状態となっていることから、連続性を有する今回検出データの特定物体情報B4の倍波判定フラグオン状態がなり、メモリ11bに記憶される。
【0066】
なお、今回検出データ内に前回検出データにはない新規の物体情報、または、特定物体情報が検出された場合は、それらの物体情報をメモリ11bに記憶しておき、次回以降の検出データと比較して継続的に同一物体が検出されているかの判定を行う。
【0067】
このように連続する複数回の物体検出処理において、継続的に同一物体が検出された場合は、レーダ装置2から電子制御装置3に物体情報、または、特定物体情報が送信され、電子制御装置3により各部の車両制御を行うためのデータとして使用される。これにより、物体の誤検出を防止することができ、レーダ装置2によって検出された正確な物体情報に基づいて、車両制御を行うことによりユーザに対して安全性の高い車両制御を提供できる。
【0068】
<2.動作>
次に、物体検出処理について図7のフローチャートを用いて説明する。
【0069】
レーダ装置2の平面アンテナ15から送信された送信波が物体にあたってはねかえり、受信した受信波をアップ区間およびダウン区間ごとにFFT処理することで周波数スペクトルが検出される(ステップS101)。
【0070】
検出された周波数スペクトルをノイズと区別するために所定の値の閾値(例えば、13khz以上をピーク信号とする閾値)を設けて、閾値を超えた周波数スペクトルをピーク信号として抽出する(ステップS102)。
【0071】
そして、抽出されたピーク信号をその周波数や信号のパワーに応じて、1つの物体からの情報のグループとしてグルーピングを行う(ステップS103)。具体的には図4に示すピーク信号をグルーピングしたものがこれにあたる。
【0072】
グルーピングを行った後、メモリ11bに記憶されている過去の物体情報から所定の条件に当てはまる物体情報を検索する。ここで所定の条件に当てはまる物体情報とは、例えば車両1から物体までの距離が10m以下で、かつ、車両1との距離が最も近い物体のように、車両1との距離が近く車両1の制御対象となり得る物体情報をいう。
【0073】
所定の条件に当てはまる過去の物体情報がある場合(ステップS104がYes)は、過去のデータの所定の条件に当てはまる物体情報から、その物体情報の略整数倍の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出するための処理を行う。具体的には、まず、特定ピーク信号グループにあたる倍波グループデータを検出するための倍波グループ範囲を設定する(ステップS105)。この倍波グループ範囲は図4に示したもので、アップ区間ではグループA1の周波数をY軸方向に整数倍(f×2)した周波数で、その周波数よりも高い周波数に約2.0khz、低い周波数に約1.0khzの幅を設けている。また、X軸方向には前方車両が車両1の真正面に位置している場合に、平面アンテナ15が前方車両と垂直の状態にある場合を0度とし、左右4度ずつの合計8degを倍波グループ範囲とするものである。
【0074】
設定した倍波グループ範囲内にグループが存在すれば(ステップS106がYes)、対象のグループの倍波グループフラグをオン状態とする(ステップS107)。図4ではアップ区間の倍波グループ範囲αにはグループB1とグループC1が含まれており、ダウン区間の倍波グループ範囲βにはグループB2が含まれている。設定した倍波グループ範囲内にグループが存在しなければ(ステップS106がNo)、対象グループがないためいずれのグループに対しても倍波グループフラグをオン状態とはしない。
【0075】
倍波グループの有無の判定が終了後、図5に示したアップ区間の各グループとダウン区間の各グループとのペアリングを行う(ステップS108)。ペアリングの対象となるグループの中で一方の区間で倍波グループフラグがオン状態のグループは、他方の区間で倍波グループがオン状態のグループとのみペアリングを行う。これにより、物体として存在しているピーク信号と、物体として存在していないピーク信号とを誤ってペアリングすることを防止できる。
【0076】
このように、倍波グループフラグがオン状態のグループがアップ区間とダウン区間のそれぞれに存在する場合(ステップS109がYes)のみ、両者のペアリングを行って、倍波ペアフラグをオン状態とする(ステップS110)。なお、倍波グループフラグがオン状態ではない(オフ状態の)グループ同士のペアリングは周波数や角度の情報に基づいて行われる。
【0077】
ペアリング処理において、アップ区間とダウン区間の両方に倍波グループフラグがオン状態のグループが存在しない場合(ステップS109がNo)は、ペアリングしたグループに対して倍波ペアフラグをオン状態とはせずに、物体情報としてメモリ11bにデータを記憶する。そして、メモリ11b内に複数回の物体検出処理データがある場合(ステップS111がYes)は、物体の連続性判定を行う(ステップS112)。
【0078】
ここで、物体の連続性判定とは、物体検出処理においてペアリングにより物体情報、または、特定物体情報としてメモリ11bに記憶されたデータが、複数回の物体検出処理において同一物体に係る物体情報が連続的に検出されているかを判定する処理である。なお、連続性判定の処理の中で倍波グループを算出するもととなった基本波の物体情報を設定する処理については、後に詳述する。
【0079】
これにより、倍波ペアフラグがオン状態の物体情報同士が複数回の物体検出処理において連続的に検出されているか否かを判定することができ、倍波ペアフラグがオン状態の物体情報と倍波ペアフラグがオフ状態の物体情報との誤った連続性判定を行うことを防止できる。なお、複数回の物体検出処理データがメモリ11bに記憶されていない場合(ステップS111がNo)は、新たな物体検出処理を初めから行う。
【0080】
連続性判定により、倍波ペアフラグがオン状態の物体情報に連続性があれば(ステップS113がYes)、連続性を有する対象に対して倍波判定フラグをオン状態とする(ステップS114)。また、倍波ペアフラグがオン状態の物体情報に連続性がなければ(ステップS113がNo)、いずれの対象のデータに対しても倍波判定フラグをオン状態とはせずに次の処理へ進む。
【0081】
そして、連続性が所定回数以上となれば(ステップS115がYes)、メモリ11bに記憶された複数の物体情報を組み合わせて一個の物体の情報とする物体結合を行い(ステップS116)、電子制御装置3へ物体情報を出力する(ステップS117)。ここで、連続性が所定回数以上とは、例えば2回または3回以上連続して同一物体に係る物体情報、または、特定物体情報が検出されている場合をいう。
【0082】
これにより、物体に対する車両制御を正確に行うことができ、ユーザに対して安全性の高い車両制御を提供できる。
【0083】
また、これまで述べた倍波グループに対する倍波グループフラグオン状態、倍波ペアに対する倍波ペアフラグオン状態、および、連続性を有する倍波グループペアに対する倍波判定フラグオン状態などの倍波判定処理を車両が低速走行中の場合にモードを通常物体情報検出のモードから倍波に係る特定物体情報検出のモードへの切替えを行うことも可能である。ここで、低速走行とは例えば車速センサ30からの情報により、車両1が10km/h以下で走行している場合をいい、このような場合に倍波に係る特定物体情報を検出するモードを作動させる。これにより、低速走行中で車両1から距離が近い位置に物体が多く存在する場合、言い換えれば倍波の出現する確率が高い場合に、このような処理を行うことにより、倍波グループと倍波ではない通常のグループとのペアリングの防止や、倍波ペアリングフラグがオン状態の物体情報と倍波ではない通常の物体情報との誤った連続性判定を防止することができる。また、これにより、物体検出システムの使用環境の拡大が図れ、ユーザに対して安全な車両制御を提供できる。
【0084】
次に、上記で説明を行った連続性判定(ステップS112)の中の基本波物体情報設定処理について図8を用いて説明する。図8の前回検出データには、信号処理装置11のメモリ11bに記憶されている物体情報A3、特定物体情報B3、物体情報D3が示されている。これらの物体情報は物体検出処理により検出された物体情報であり、その中で物体A3は基本波判定フラグがオン状態となっており、特定物体情報B3は倍波判定フラグがオン状態となっている。ここで、基本波判定フラグは、上記倍波グループ、倍波グループペアなどの倍波に係るデータを検出する基準となった物体情報に対してオン状態となるものである。
【0085】
そして、次の物体検出処理で倍波判定フラグがオン状態となっている物体情報と同じ角度で、距離パラメータ値である相対距離と相対速度の各々を半分(2分の1)とした位置で、その位置からY軸方向に前後約1メートルの幅を有し、上述の倍波グループ判定における角度と同じ、車両正面を0度とした±4度の範囲である予測基本波範囲γに基本波フラグオン状態の物体情報が存在するかを判定する。
【0086】
予測基本波範囲γ内に基本波判定フラグがオン状態となっている物体情報が検出されていない場合、言い換えれば連続的な物体検出処理において、継続的に基本波に係る物体情報が検出されていない場合は、上述の倍波判定フラグがオン状態となっている物体情報の距離パラメータ値である相対距離と相対速度とを半分とした同一角度の位置に基本波判定フラグをオン状態とする物体情報A4を仮想的に設定する。これにより、物体検出処理ごとの同一物体の継続的な判定処理を連続的に行うことができる。また、基本波とされた車両制御の必要性の高い物体情報が車両の周辺に存在しているにもかかわらず、車両制御の対象としないことを防止する。
【0087】
さらに、物体検出処理により検出された物体情報を信号処理装置11のメモリ11bに記憶する処理において、複数回の物体検出処理で同一物体に係る物体情報が連続的に検出されなかった場合はメモリ11bに記憶した物体情報を削除する。
【0088】
しかし、車両1との相対距離が近い物体に係る周波数スペクトルは、距離に比例して低い周波数帯(例えば13khz以下)にあり、このように低い周波数帯には送信波や受信波を周波数変調させることにより生じるノイズや、ハード機器から生じるノイズなどの影響により発生する周波数スペクトルが多く発生する。これにより、ピーク信号を検出するための閾値は高いパワーの値に設定されており、複数回の連続的な物体検出処理において、車両に近いピーク信号を継続的に検出できない場合がある。
【0089】
そのため、複数回の連続的な物体検出処理において、継続的な検出ができない場合で、メモリ11bに記憶している基本波判定フラグがオン状態となっている物体情報の削除処理を行う場合のみ、倍波判定フラグがオン状態となっている特定物体情報から予測基本波範囲γの範囲内に予測物体情報を仮想的に物体情報として設定することもできる。
【0090】
これにより、物体として存在しているにもかかわらず、メモリ11bから物体情報を消去してしまう不具合を防止し、ユーザに対して安全な車両制御を提供することができる。
【0091】
次にこれまで述べた基本波物体情報設定処理を図9のフローチャートを用いて説明する。まず、連続判定処理においてメモリ11bに記憶している過去の検出データに基本波判定フラグがオン状態かを判定し(ステップS201)、基本波判定フラグがオン状態の場合(ステップS201がYes)は、次に、今回の物体検出処理で倍波判定フラグがオン状態が存在するかを判定する(ステップS202)。なお、過去の検出データに基本波判定フラグがオン状態のデータがない場合(ステップS201がNo)は、処理を終了する。
【0092】
倍波判定フラグがオン状態のデータがある場合(ステップS202がYes)は、予測基本波範囲γを設定する(ステップS203)。この予測基本波範囲は上述のように倍波判定フラグがオン状態の物体情報の距離パラメータ値である相対距離と相対速度の各々を半分(2分の1)とする同一角度の位置でその位置からY軸方向に前後約1メートルの幅を有し、上述の倍波グループ判定における角度と同じ車両正面を0度とした±4度の範囲である。なお、倍波判定フラグがオン状態でない場合(ステップS202がNo)は、処理を終了する。
【0093】
予測基本波範囲γを設定後、基本波判定フラグがオン状態の物体情報の検出処理を行う(ステップS204)。この基本波検出処理により基本波判定フラグがオン状態となっている物体情報が検出されれば(ステップS205がYes)、この基本波判定フラグがオン状態となっている物体情報を基本波物体情報として設定する。(ステップS206)。
【0094】
基本波判定フラグがオン状態となっている物体情報が検出されない場合(ステップS205がNo)は、予測基本波範囲γ内に倍波判定フラグがオン状態のデータに基づいて算出した予測基本波物体情報を、連続性判定の判定対象とする基本波物体情報として設定する(ステップS207)。これにより、基本波とされた車両制御の必要性の高い物体情報が車両の周辺に存在しているにもかかわらず信号処理装置11のメモリ11bから削除されるのを防止することができ、ユーザに対する安全な車両制御を提供することができる。
【0095】
また、基本波フラグがオン状態となっている物体情報が検出されない場合に、予測基本波範囲γ内に倍波判定フラグがオン状態のデータに基づいて算出した予測基本波物体情報を基本波物体情報として設定する処理は、メモリ11bに記憶されている物体情報が、複数回の連続する物体検出処理において継続的に検出されない場合で、メモリ11b物体情報を削除する処理を行う場合にのみ実行することが可能である。
【0096】
これにより、車両制御対象の物体情報をメモリ11bから誤って消去することを回避し、ユーザに対する安全な車両制御を提供できる。
【0097】
また、基本波物体設定処理を低速走行中のみ行うことも可能である。ここで、低速走行とは例えば車両1が10km/h以下で走行している場合をいう。これにより、車両1からの距離が近い位置にある物体の情報、つまり基本波のデータが複数回の連続する物体検出処理において継続的に検出されない場合は、倍波判定フラグがオン状態となっている物体情報から、予測基本波物体情報を算出して基本波物体情報として設定する。または、基本波判定フラグがオン状態の物体情報があれば、その物体情報を基本波物体情報として設定する基本波物体情報設定処理を行う。これにより、ユーザに対して安全な車両制御を提供できる。
【0098】
なお、上記では、物体情報の距離パラメータ値として相対距離と相対速度との双方を用いていたが、いずれかのみであってもよい。また、物体情報の距離パラメータ値として、検出元となったピーク信号が示す周波数を用いてもよい。
【符号の説明】
【0099】
1・・・・・車両
2・・・・・レーダ装置
3・・・・・電子制御部
4・・・・・シートベルト
5・・・・・ヘッドレスト
10・・・・物体検出システム
11・・・・信号処理部
12・・・・変調部
13・・・・VCO
14・・・・方向性結合器
15・・・・平面アンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理装置であって、
連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定手段と、
過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する手段と、
前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する手段と、
を備え、
前記連続検出判定手段は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とすることを特徴とする信号処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の信号処理装置において、
前記連続検出判定手段は、前記特定物体情報に基づいて設定される検出範囲内に、直近の物体検出処理により検出された物体情報がない場合に、前記予測物体情報を判定対象とすることを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の信号処理装置において、
前記信号処理装置は前記物体情報を保存する記憶手段を有し、
前記連続検出判定手段は、前記過去の物体検出処理において検出された物体情報が、連続する複数回の物体検出処理で継続して検出されないことにより、前記記憶手段に保存された物体情報が消去される場合にのみ、前記予測物体情報を判定対象とすることを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の信号処理装置において、
前記信号処理装置は車両に搭載されるものであり、
前記車両の速度を取得する手段、
をさらに備え、
前記連続検出判定手段は、前記車両の速度が所定の速度よりも小さい場合にのみ、前記予測物体情報を判定対象とすることを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の信号処理装置と、
前記送信波を出力し、前記反射波を受信する手段と、
前記物体検出処理で検出した物体情報を、該物体情報を利用する電子制御装置に出力する手段と、
を備えることを特徴とするレーダ装置。
【請求項6】
請求項5に記載のレーダ装置と、
前記レーダ装置から出力された物体情報に基づいて車両を制御する手段と、
を備えることを特徴とする物体検出システム。
【請求項7】
所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理方法であって、
連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定工程と、
過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する工程と、
前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する工程と、
を備え、
前記連続検出判定工程は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とすることを特徴とする信号処理方法。
【請求項8】
所定周期で周波数が変わる送信信号と該送信信号に基づく送信波の物体での反射波を受信した受信信号との差分周波数を示すピーク信号を、前記送信信号の周波数が上昇する第1期間と周波数が下降する第2期間とで導出し、前記第1期間及び前記第2期間のピーク信号をペアリングすることで当該ピーク信号に係る物体情報を検出する物体検出処理を行う信号処理装置に含まれるコンピュータによって実行可能なプログラムであって、前記プログラムの前記コンピュータによる実行は、前記コンピュータに、
連続する複数回の物体検出処理において、同一の物体に係る物体情報が連続的に検出されるかを判定する連続検出判定工程と、
過去の物体検出処理において検出された物体情報に基づいて、所定の距離パラメータ値を有する特定物体情報を検出する工程と、
前記特定物体情報が検出された場合に、該特定物体情報から算出した距離パラメータ値を有する予測物体情報を仮想的に設定する工程と、
を実行させ、
前記連続検出判定工程は、直近の物体検出処理において検出される物体情報と、前記予測物体情報とのいずれも判定対象とすることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−47807(P2011−47807A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196712(P2009−196712)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】