説明

信号処理装置、及びレーダ装置

【課題】
車載レーダ装置の受信感度の低下を正確かつ迅速に検出する。
【解決手段】
車両に搭載されるとともに前記車両周囲に送信信号を送信して物標に反射された前記送信信号を受信するレーダ送受信機の信号処理装置において、前記車両に搭載された画像認識手段が前記物標の撮像画像に基づき前記物標の種別と距離とを検出し、受信感度監視手段が受信信号のレベルまたは前記受信信号から生成される信号のレベルが前記物標の距離と種別とに対応づけられた基準レベル以上であるか否かを検出するので、受信信号や受信信号から生成される信号のレベルに適切な基準レベルを適用できる。よって、受信感度の低下を正確かつ迅速に検出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載されるとともに前記車両周囲にレーダ信号を送信して物標に反射されたレーダ信号を受信するレーダ装置等に関し、特に、レーダ装置の受信感度を監視する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車載用のレーダ装置を用いた車両制御システムが知られている。かかるシステムでは、レーダ装置が車両周囲の状況を検出する。そして、その検出結果に基づいて車両制御装置が自動的に車両の動作を制御する。例えば、先行車両に対する追従走行制御では、レーダ装置が先行車両の位置と相対速度を検出する。そして、車両制御システムが一定の車間距離を保つように自車両の走行速度を制御する。また、他車両や障害物との衝突回避・対応制御では、レーダ装置が他の車両や路側の障害物の位置と相対速度を検出する。そして、車両制御システムが衝突を予測すると、衝突を回避するために自車両の進路や走行速度を制御したり、乗員保護のための安全装置を駆動したりする。
【0003】
かかる車両制御システムでは、車両制御の正確性を確保するために、レーダ装置が精度よく物標の位置や相対速度を検出することが求められる。そのためにレーダ装置は、ある程度以上の受信感度を必要とする。すなわち、ある程度以上のレベルの受信信号を必要とする。受信信号中には直流成分や熱雑音などのノイズがある程度混入しており、受信信号レベルが低下するとノイズに対する信号比が低下するからである。
【0004】
ここで、受信感度の低下、つまり受信信号レベルの低下は、回路部品の損耗や、アンテナへの異物付着により引き起こされる。レーダ装置は、かかる状況に早期に対処できるように、受信感度を監視する。具体的には、マイクロコンピュータなどの信号処理装置により、受信信号のレベルを基準レベルと比較し、初期の受信信号レベルが得られているか否かを定期的に確認する。特許文献1には、受信感度を監視する車載用のレーダ装置について記載されている。
【0005】
ところで受信信号レベルは、物標のサイズに応じて多岐にわたる。物標はたとえば、歩行者、小型バイク、乗用車、大型トラック、あるいはガードレールや標識などの路側の設置物、さらには陸橋や建築物などである。このように、物標のサイズが多岐にわたるので、受信信号レベルも多岐にわたる。また同じ物標であっても、向きによって反射断面積が異なるので、受信信号レベルが変動する。このようなことにより、基準レベルを一律に設定することは困難である。
【0006】
そこでかかる問題に対し、受信信号レベルの時間平均に対し基準レベルを設定する方法が提案されている。この方法は、受信信号レベルは、一定時間にわたって存在しうる路側設置物などの物標から得られるレベルに収束することを前提とする。かかる物標とは、たとえばガードレールなどである。よってレーダ装置は、信号処理装置により受信信号レベルの時間平均が基準レベルに達するか否かを判断する。このようにして、レーダ装置は受信感度を監視する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−275942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記方法では、受信信号レベルを時間平均するときのサンプルにばらつきが生じる場合がある。たとえば、郊外の路面を走行するときなど、路即設置物が少ない場合には、受信信号レベルの時間平均が基準レベルに満たない場合がある。またさらに、路側設置物が存在しない場合には、受信信号が得られない。このような場合には、受信感度が低下していなくても受信感度の低下を誤検出するおそれがある。
【0009】
また、受信信号レベルの時間平均を算出するためには、ある程度のサンプル収集時間が必要となる。するとその分、受信感度が低下したときにこれを検出するのが遅くなるという問題がある。
【0010】
このような受信感度低下の誤検出や検出遅れは、車両制御システムの正確かつ適時な制御動作を阻害する。
【0011】
そこで、本発明の目的は、受信感度の低下を正確かつ迅速に検出できるレーダ装置と、その信号処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の側面によれば、車両に搭載されるとともに前記車両周囲に送信信号を送信して物標に反射された前記送信信号を受信するレーダ送受信機の信号処理装置であって、前記車両に搭載された画像認識手段が前記物標の撮像画像に基づき前記物標の種別と距離とを検出し、受信信号のレベルまたは前記受信信号から生成される信号のレベルが前記物標の距離と種別とに対応づけられた基準レベル以上であるか否かを検出する監視手段を有する信号処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、受信感度の低下を正確かつ迅速に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。
【図2】レーダ装置10を中心とする車両制御システムのブロック図である。
【図3】送受信信号とビート信号の関係について説明する図である。
【図4】ピーク信号について説明する図である。
【図5】車両制御システムの基本的な動作手順を説明するフローチャート図である。
【図6】受信感度監視手順を説明するためのフローチャート図である。
【図7】車両1周囲の状況を模式的に説明する図である。
【図8】基準レベルデータ26について説明する図である。
【図9】実施例における受信感度監視手順を説明するフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面にしたがって本発明の実施の形態について説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された事項とその均等物まで及ぶものである。
【0016】
図1は、本実施形態におけるレーダ装置の使用状況を説明する図である。ここでは、レーダ装置は、車両制御システムに適用される。この車両制御システムは、車両周囲の状況に応じて車両1の制御を行う。この車両制御システムは、車両周囲の状況を検出するためのレーダ装置10、画像認識装置50と、車両1を制御する車両制御装置100とを有する。たとえば車両制御システムは、先行車両への追従走行制御、他の車両や障害物との衝突回避・対応制御を行う。あるいは車両制御システムは、車両1の走行車線を維持する制御を行う。
【0017】
レーダ装置10は、たとえば車両1の前部バンパー内部やフロントグリル内部に搭載される。そして、レーダ信号により車両1前方の走査領域を走査する。走査領域は、前方正面を中心とする例えば10〜20度の角度範囲に対応する。そしてレーダ装置10は、物標の位置や相対速度といった物標情報を検出する。物標には、先行車両や他の車両、あるいは路側の設置物が含まれる。レーダ装置10は、検出した物標情報を車両制御装置100に出力する。
【0018】
また画像認識装置50は、車両1のフロントガラス上部近傍の車室内に搭載される。そして、画像認識装置50は車両1前方を撮像し、撮影画像データに基づき進行路面のセンターラインを画像認識する。そして画像認識装置50は、検出したセンターラインの位置を車両制御装置100に出力する。
【0019】
車両制御装置100は、レーダ装置10から入力される物標情報に基づき、追従走行制御や衝突回避・対応制御を行う。追従走行制御では、車両制御装置100は先行車両に対し一定の車間距離を保つように車両1の走行速度を制御する。また、衝突回避・対応制御では、車両制御装置100は衝突を回避するために車両1の進路や走行速度を制御したり、乗員保護のための安全装置を駆動したりする。また、車両制御装置100は、画像認識装置50から入力されるセンターラインの位置に基づき車両1の進路を調整し、適正な車線内での走行を維持する。
【0020】
さらに本実施形態では、レーダ装置10は自らの受信感度を監視する。そして、受信感度が低下すると、レーダ装置10は車両制御装置100に受信感度低下を通知する。受信感度が低下すると物標の検出精度が低下するので、車両制御装置100は、レーダ装置10からの物標情報に基づく車両1の制御を中止する。このようにして車両制御装置100は、精度が低い物標情報に基づく制御を回避する。よって、車両制御システムとしての制御の正確性が確保される。
【0021】
ここで、画像認識装置50は、その撮影領域がレーダ装置10による走査領域と重複するように設けられる。そして、画像認識装置50は、物標を画像認識して認識結果をレーダ装置10に出力する。レーダ装置10は、この画像認識結果を用い、受信感度低下を検出する際の迅速性と正確性を向上させる。その方法は後に詳述する。
【0022】
図2は、レーダ装置10を中心とする車両制御システムのブロック図である。レーダ装置10は、レーダ送受信機12と信号処理装置14とを有する。レーダ装置10は、一例としてFM−CW(Frequency Modulated-Continuous Wave)方式のレーダ装置である。レーダ送受信機12は、周波数変調したミリ波長の連続波(電磁波)をレーダ信号として生成し、これをアンテナ11から送出する。この送信信号の周波数は、たとえば三角波状のベースバンド信号に基づいて変化する。たとえば、三角波の上昇区間で漸増し、三角波の下降区間で漸減する。さらに、レーダ送受信機12は、任意の一定周期ごとに周波数変調を休止する区間を設けてもよい。このとき送信信号の周波数は、一定に保たれる。
【0023】
レーダ送受信機12は、送信信号の指向方向を順次変化させることにより、走査領域を走査する。例えば、レーダ送受信機12は、アンテナ11を回動させることにより送信信号の指向方向を変化させる。あるいはレーダ送受信機12は、複数のアンテナ素子における送信位相差(あるいは受信位相差)を制御して、送信信号(あるいは受信信号)の指向方向を変化させる。
【0024】
そして、レーダ送受信機12は、物標に反射された送信信号を受信すると、送受信信号を混合してビート信号を生成する。すなわち、受信信号からビート信号を生成する。ビート信号の周波数は周波数変調された送信信号と物標により反射された受信信号の周波数差に対応する。送受信信号の周波数差は、受信信号の周波数が偏移することにより生じる。これは、受信信号の周波数は、物標の相対速度によるドップラ周波数と相対距離による時間的遅延の影響を受けることによる。このようにしてレーダ送受信機12は、ミリ波長の受信信号を中間周波数(たとえば数百KHz)のビート信号にダウンコンバートする。そしてレーダ送受信機12は、ビート信号をA/D変換して信号処理装置14に出力する。
【0025】
ここで、送受信信号とビート信号の関係を図3に示す。図3(A)には、送信受信信号それぞれの、時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化が示される。送信信号は、実線で示すように、周波数漸増期間UPと周波数漸減期間DNを反復する。これに対し、受信信号の周波数は、破線で示すように周波数偏移を受ける。ここでは、目標物体との相対距離による時間的遅延ΔTと、相対速度に応じたドップラシフトΔDが示される。その結果、送信信号の周波数漸増期間UPでは送受信信号の周波数差fuが生じ、送信信号の周波数漸減期間DNでは送受信信号の周波数差fdが生じる。
【0026】
図3(B)には、ビート信号の時間(横軸)に対する周波数(縦軸)の変化が示される。ビート信号の周波数は、上記した送受信信号の周波数差fuと、周波数漸減期間におけるfdを有する。これらの周波数は、次の数式に示すように、目標物体の相対速度Vと相対距離Rを反映している。ここで、Cは光速、fmは変調信号における三角波の周波数、f0は送信信号Stの中心周波数、ΔFは周波数偏移幅である。
【0027】
R=C・(fu+fd)/(8・ΔF・fm) ・・・式(1)
V=C・(fd−fu)/(4・f0) ・・・式(2)
図2に戻る。信号処理装置14では、送受信制御手段16が、レーダ信号の指向方向を制御する制御信号をレーダ送受信機12に出力する。また、FFT(Fast Fourier Transform: 高速フーリエ変換)手段18は、ビート信号をFFT処理してその周波数スペクトルを検出する。そしてピーク信号検出手段20は、周波数スペクトルにおけるピーク信号を検出する。
【0028】
図4は、ピーク信号について説明する図である。ビート信号にはもともと、物標の反射により得られたものと、路面の乱反射やマルチパス現象により得られたものが含まれる。よって、ビート信号は、FFTにより、反射物の相対速度・相対距離を反映した周波数スペクトルに分離される。ここで、物標の反射により得られたビート信号は、ほかよりレベルが大きい。よって、ピーク信号検出手段20は、閾値THv以上における周波数スペクトルでピーク(極大値)を形成するピーク信号を検出する。ここで閾値THvは、路面の乱反射やマルチパス現象によるノイズを除去するための値である。このようにしてピーク信号検出手段20は、物標の反射により得られたビート信号を検出する。
【0029】
ピーク信号検出手段20は、このようなピーク信号を周波数漸増期間、周波数漸減期間ごとに検出する。すると、周波数漸増期間で検出されたピーク信号は上述した周波数fuに対応し、周波数漸減期間で検出されたピーク信号は上述した周波数fdに対応する。
【0030】
図2に戻ると、物標情報検出手段22は、ピーク信号が得られたときのレーダ信号の指向方向に基づき物標の角度を検出する。レーダ信号の指向方向は、送受信制御手段16から与えられる。また物標情報検出手段22は、ピーク信号の周波数fu、fdに基づき、上述した式(1)、(2)に従って物標の相対速度と相対距離を算出する。
【0031】
そして物標情報検出手段22は、物標の相対距離と角度から物標の位置を検出する。そして物標情報検出手段22は、物標の位置や相対速度といった物標情報を車両制御装置100に出力する。
【0032】
受信感度監視手段24は、レーダ送受信機12の受信感度を監視する。具体的には、ビート信号のレベルが基準レベルに達したか否かを検出する。基準レベルと比較するビート信号には、ピーク信号が用いられる。ここで、送信されたレーダ信号のレベルは既知であり、またレーダ送受信機12による送受信信号の増幅率も既知である。よって、受信感度監視手段24は、ビート信号レベルを監視することで受信信号レベルを間接的に監視できる。すなわち、受信感度を監視できる。そして、受信感度監視手段24は、ビート信号レベルが基準レベル未満のときに受信感度低下を検出し、車両制御装置100に通知する。具体的には、受信感度監視手段24は、受信感度を示すフラグ変数(以下、受信感度フラグ)を車両制御装置100に出力する。その際、受信感度監視手段24は受信感度フラグの値を、受信感度低下を示す値に設定する。
【0033】
本実施形態では、受信感度監視手段24は、画像認識装置50から物標の画像認識結果を取得する。さらに好ましくは、受信感度監視手段24は、車両制御装置100から車両1の走行速度や旋回半径を取得する。そして、受信感度監視手段24は、後に詳述するように、物標に応じた基準レベルを設定して、ビート信号レベルと比較する。
【0034】
このような信号処理装置14は、DSP(Digital Signal Processor)やマイクロコンピュータを有する。FFT手段18は、高速フーリエ変換処理を実装したDSPにより構成される。送受信制御手段16、ピーク信号検出手段20、物標情報検出手段22、受信感度監視手段24は、各動作に対応する演算処理を実行する不図示のCPU(Central Processing Unit)と、その手順を記述したプログラムにより構成される。かかるプログラムは、不図示のROM(Read Only Memory、不揮発性のものを含む)に格納される。またROMには、基準レベルデータ26が予め格納される。なおCPUは演算処理の際、データを不図示のRAM(Random Access Memory)に一時的に保持させる。
【0035】
画像認識装置50では、撮像装置52が撮影領域を撮像し、撮影画像データを画像処理部54に出力する。撮像装置52は、たとえば光学式のデジタルスチルカメラで構成される。撮像装置52はこのほかに、赤外線カメラであってもよい。
【0036】
画像処理部54では、撮像制御手段56が、撮像動作を制御する制御信号を撮像装置52に出力する。また、二値化手段58は撮像画像を構成する画素の濃度階調を二値化する。そして、エッジ検出手段60が、二値化された画素の分布に基づき、画像のエッジを検出する。そして、画像認識手段62が、エッジの形状に基づき、被写体を識別する。ここで被写体には、走行路面のセンターラインや、レーダ装置10により検出される物標が含まれる。画像認識手段62は、エッジ形状のパターンマッチングを行い、被写体を識別する。エッジ形状データ64は、予め画像処理部54に格納される。
【0037】
また、画像認識手段62は、撮像画像内でのエッジの位置に基づき、被写体の位置を検出する。まず画像認識手段62は、撮影画像から路面のセンターラインの位置を検出する。そして、画像認識手段62は、検出したセンターラインの位置を車両制御装置100に出力する。さらに画像認識手段62は、センターライン以外の物標を識別し、その距離を検出する。そして、識別した物標の種別と検出した距離とをレーダ装置10に出力する。
【0038】
ここで、たとえば撮像装置52が複眼式のカメラで構成される場合には、画像認識手段62は複数のカメラによる視差を用いて被写体の距離を導出する。また、画像認識装置50は車両1に対し固定されているので、画像認識手段62は、撮像画像内横方向における被写体画像の位置から、車両1正面に対する被写体の位置を導出する。
【0039】
あるいは、撮像装置52が単眼式のカメラで構成される場合には、画像認識手段62は、画像認識装置50の取付け高さと撮像装置52の俯角とに基づき、被写体の接地部分までの距離を導出する。またこの場合、車両1正面に対する被写体の位置は、上記同様にして導出する。なお、単眼式のカメラは複眼式のカメラより廉価であるので、撮像装置52を単眼式のカメラで構成することにより低コスト化が可能となる。
【0040】
このように構成される画像処理部54は、撮像制御手段56、二値化手段58、エッジ検出手段60、画像認識手段62による上記の処理を実装したDSPやASIC(Application Specific Integrated Circuit)を有する。また、エッジ形状データ64は、不図示のROMに予め格納される。
【0041】
車両制御装置100は、制御目的に応じて車両1のアクチュエータを制御する。具体的には、各アクチュエータの制御装置に対し、制御を指示する信号を出力する。
【0042】
たとえば車両制御装置100は、追従走行制御を行う場合には、レーダ装置10から入力される物標情報に基づいて、スロットルやブレーキの制御装置に走行速度の加減を指示する。また車両制御装置100は、衝突回避制御を行う場合には、物標情報に基づいてスロットルやブレーキ、あるいはステアリング制御装置に走行速度の加減や進路変更を指示する。また車両制御装置100は、衝突対応制御を行う場合には、物標情報に基づいて車両1の安全装置や警報装置を差動させる。さらに車両制御装置100は、車両1の走行車線を維持する場合には、画像認識装置50から入力されるセンターラインの位置に基づいて、ステアリング制御装置に進路の調整を指示する。
【0043】
ここで、車両制御装置100は、レーダ装置10の受信感度が低下したときには、上記制御のうちレーダ装置10から与えられる物標情報に基づく制御を中止する。受信感度低下は、受信感度監視手段24から与えられる受信感度フラグの値に基づき判断する。そうすることにより、車両制御システムとしての制御の正確性が確保される。
【0044】
また車両制御装置100は、車速センサなどから車両1の走行速度を取得する。また、車両制御装置100は、ステアリング制御装置などから、車両1の旋回半径を取得する。これらは上述したように、レーダ装置10の受信感度監視手段24に出力される。
【0045】
このような車両制御装置100は、公知のマイクロコンピュータで構成される。マイクロコンピュータでは、CPUが、ROMに格納された制御プログラムに従って、RAMに演算データを保持させながら上記の制御動作を実行する。
【0046】
図5は、車両制御システムの基本的な動作手順を説明するフローチャート図である。手順 S12〜S20はレーダ装置10の動作手順を示す。手順S42〜S50は、画像認識装置50の動作手順を示す。手順S32〜S36は、車両制御装置100の動作手順を示す。そして、手順S60は、レーダ装置10と画像認識装置50の動作手順を示す。
【0047】
レーダ装置10は、一回のスキャンごとに次の手順を実行する。ここで、一回のスキャンは、走査領域の端部から端部までをレーダ信号により一回走査することをいう。まず、レーダ送受信機12と送受信制御手段16が、レーダ信号の指向方向を変化させながらレーダ信号を送受信する(S12)。次に、FFT手段18がビート信号をFFT処理する(S14)そして、ピーク信号検出手段20がビート信号の周波数スペクトルからピーク信号を検出する(S16)。そして、物標情報検出手段22が物標の位置、相対速度といった物標情報を検出する(S18)。そして、物標情報検出手段22が物標情報を車両制御装置100に出力する(S20)。なお、物標情報の出力前に、物標情報検出手段22がたとえば物標情報が過去複数回のスキャンにおいて連続性を有するかを判定する手順としてもよい。
【0048】
画像認識装置50は、任意に設定される周期(たとえば100ミリ秒)ごとに、次の手順を実行する。まず撮像装置52が撮影領域を撮像する(S42)。次に、二値化手段58が撮影画像データの二値化処理を行う(S44)。そして、エッジ検出手段60が撮影画像データからエッジを検出する(S46)。そして、画像認識手段62がエッジの形状や位置に基づき被写体を識別する画像認識を行う(S48)。そして、画像認識手段62が画像認識結果を車両制御装置100に出力する(S50)。具体的には、センターラインの位置を出力する。
【0049】
車両制御装置100は、レーダ装置10から物標情報が入力されたときに、レーダ装置10の受信感度が低下してなければ(S32のNO)、物標情報に基づき車両制御を行う。一方、受信感度が低下していれば(S32のYES)、車両制御装置100は物標情報に基づく処理を中止する。
【0050】
また、車両制御装置100は、画像認識装置50からセンターラインの位置が入力されると、これに基づき車両1の進路を維持する車両制御を行う(S36)。
【0051】
さらにレーダ装置10と画像認識装置50は、任意に設定される周期ごとにレーダ装置10の受信感度監視を行う(S60)。このとき処理が実行される周期は、レーダ装置10のスキャンごとでもよいし、画像認識装置50の処理周期でもよい。あるいは、これらと異なる任意の周期、たとえば数秒〜数十秒ごとであってもよい。またたとえば、レーダ信号の周波数変調を休止するタイミングに実行してもよい。
【0052】
図6は、受信感度監視手順を説明するためのフローチャート図である。図6の手順は、図5における手順S60を詳述するサブルーチンである。
【0053】
説明の便宜上、画像認識装置50の動作手順から説明する。画像認識手段62は、直前の処理周期における撮影画像から物標を画像認識し、その種別を識別する(S52)。あるいは、画像認識装置50は、図5と同様にして撮影領域の撮像、二値化処理、エッジ検出を実行し、撮像画像を取得してもよい。そして、画像認識手段62は、物標の距離を検出する(S54)。そして、画像認識手段62は、物標の種別と距離をレーダ装置10に出力する(S56)。
【0054】
レーダ装置10では、受信感度監視手段24が、直前の処理周期におけるピーク信号をビート信号のサンプルとして抽出する(S62)。あるいは、レーダ装置10は図5と同様にしてレーダ信号送受信、FFT処理、ピーク信号検出を実行して、ピーク信号を得てもよい。そして、受信感度監視手段24は、画像認識装置50から物標の種別と距離を取得し(S64)、これに対応した基準レベルを基準レベルデータ26から抽出する(S66)。
【0055】
ここで、図7、図8を用いて、物標の種別と距離に対応した基準レベルについて説明する。
【0056】
図7は、車両1周囲の状況を模式的に説明する図である。ここでは、車両1前方における走行路面近傍にガードレール、道路標識、陸橋といった静止した物標が存在する。そして、これらの物標は、画像認識装置50の撮影領域と、レーダ装置10の走査領域とに含まれる。よって、まず画像認識装置50はこれらの物標を画像認識し、その種別と距離とをレーダ装置10に出力する。なお、ガードレールは、路側に延在しているので、その距離はビート信号のレベルがもっとも大きくなるときの距離とすることができる。あるいは、予め任意に設定した固定値としてもよい。固定値は、たとえば平均的な路面幅においてもっともレベルが大きいビート信号が得られる角度方向の距離とすることができる。あるいは、レーダ装置10の走査領域端部におけるガードレールまでの平均距離としてもよい。
【0057】
一方、レーダ装置10は、上記物標に反射されたレーダ信号を受信してビート信号を生成する。そして、ビート信号(ピーク信号)のレベルと、次のようにして設定される基準レベルとを比較する。
【0058】
図8は、基準レベルデータ26について説明する図である。ここでは、横軸は物標の距離を示し、縦軸は基準レベルを示す。基準レベルデータ26は、物標の種別ごとに予め作成される。基準レベルデータ26のそれぞれは、距離と基準レベルを対応づけるマップデータである。基準レベルデータ26においては、距離が遠くなるにともない、基準レベルは低下する。レーダ信号が往復する距離が遠くなると減衰量が大きくなるからである。そして、物標のサイズが大きいほど、同じ距離における基準レベルが高くなる。反射断面積が大きいほど、受信信号レベルが高くなるからである。
【0059】
よって、図6の例では、道路標識の基準レベル、ガードレールの基準レベル、陸橋の基準レベルの順で物標のサイズが大きくなるので、この順序で基準レベルが高くなる。受信感度監視手段24は、このような基準レベルデータ26から、物標の距離と種別に対応した基準レベルを抽出して設定する。
【0060】
なお、複数の異なるサイズの物標が認識された場合には、ピーク信号検出手段20は、複数の異なる周波数におけるピーク信号を検出する。よってこのとき受信感度監視手段24は、たとえば最も大きいレベルのピーク信号に対し、最もサイズが大きい物標に対応する基準レベルを設定する。このようにすれば、ピーク信号と画像認識された物標との対応づけをするまでもなく、ビート信号のレベルに対し受信感度低下の検出に適した基準レベルを設定することができる。
【0061】
図6に戻る。受信感度監視手段24は、ピーク信号のレベルと基準レベルとを比較し、ピーク信号のレベルが基準レベル未満のときには(S68のNO)、受信感度フラグに受信感度低下を示す値を設定する(S70)。そして、受信感度監視手段24は、受信感度フラグを車両制御装置100に出力する(S72)。この受信感度フラグは、図3における手順S32で、車両制御装置100により参照される。そして車両制御装置100は、受信感度フラグの値に基づき、受信感度低下を検出する。
【0062】
一方、ピーク信号のレベルが基準レベル以上のときであって(S68のYES)、受信感度フラグに受信感度低下を示す値が設定されているときには(S74のYES)、受信感度監視手段24は受信感度フラグの値を解除して受信感度低下を示さない値に戻す(S76)。そして、受信感度監視手段24は、受信感度フラグを車両制御装置100に出力する(S72)。
【0063】
このようにして受信感度を監視すれば、物標に応じた基準レベルを用いるので、所期の受信信号レベルが得られているか否かを従来の方法より正確に判断できる。
【0064】
従来の方法だと時間平均した受信信号レベルが基準レベルより低いときに、受信感度低下によるものなのか、あるいは物標数が少なく、ある程度の受信信号レベルが得られても時間平均することで基準レベルより低いレベルまで平準化されたものなのかを判断することができなかった。よって、その場合には一律に受信感度低下を検出していた。この点、本実施形態によれば、物標の数や走査時間に依存することなく、画像認識により物標の存在を確実に検出できる。よって、物標が存在しない場合にある程度のビート信号レベルが得られなくても、受信感度低下を誤検出することを回避できる。そして、物標が存在するときには、物標のサイズに応じた適切な基準レベルを用いることができ、所期の受信感度が得られたか否かを正確に判断できる。
【0065】
また、本実施形態によれば、受信信号レベルあるいはビート信号レベルを時間平均する必要がない。よって、受信感度監視手順の処理周期を時間平均に要していたサンプル収集時間より短く設定することで、従来の方法より迅速に受信感度低下を検出できる。
【0066】
このように、従来の方法より正確かつ迅速に受信感度低下を検出できる。
【0067】
次に、本実施形態における好適な実施例について説明する。
【0068】
図9は、実施例における受信感度監視手順を説明するフローチャート図である。図9では、図8で説明した手順におけるレーダ装置10の動作手順にS61a、S61b、S71が追加される。また、画像認識装置50の動作手順に、S53が追加される。なお、これらの手順の全部ではなくいずれか1つ以上が追加された場合も本実施例に含まれる。ここでは、図8と異なる部分について説明し、重複する部分については説明を省略する。
【0069】
レーダ装置10では、受信感度監視手段24が、移動物標が存在しないときに(S61aのNO)、受信感度監視を行う。一方移動物標が存在するときには(S61aのYES)処理を終了する。ここで受信感度監視手段24は、前回のスキャンで検出した物標情報に基づき、移動物標か否かを判断する。具体的には、相対速度が車両1の走行速度と異なれば移動物標であり、一致すれば移動物標でない静止物標と判断する。なお、車両1の走行速度は、車両制御装置100から与えられる。
【0070】
ビート信号のレベルは、移動物標(たとえば他の車両など)から得られるものより、静止物標(ガードレールや道路標識などの路側設置物、あるいは陸橋などの建造物)から得られるものの方が安定している。つまり時間に対する変動が少ない。よって、静止物標から得られるものの方が、受信感度低下を検出するためのサンプルとして好ましい。このようなことから、受信感度監視手段24は、移動物標が検出されたときには処理を終了させ、検出精度が低下することを防止する。そして、移動物標が検出されないとき、つまりある程度の検出精度が担保される状況のときに、受信感度監視を行う。そうすることにより、受信感度低下の検出精度を向上させることができる。
【0071】
また、受信感度監視手段24は、車両1が直線道路を走行しているときに(S61bのYES)、受信感度監視を行う。一方直線道路を走行していないときには(S61bのNO)処理を終了する。ここで受信感度監視手段24は、車両1の旋回半径が基準値(直線道路と判断できる程度に大きい値であって、たとえば10,000m)以上のときには直線道路と判断し、基準値未満のときにはカーブ道路と判断する。旋回半径は、車両制御装置100から与えられる。
【0072】
路側の設置物などの物標は、直線道路を走行しているときにはレーダ信号の反射断面積がほぼ一定である。よって、このとき得られるビート信号のレベルは安定しており、受信感度低下を検出するサンプルに適している。一方、カーブ道路では、車両1に対する物標の相対的な向きが逐次変化する。すなわち、反射断面積が変化する。よって、このとき得られるビート信号のレベルは不安定になりやすく、受信感度低下を検出するサンプルとして不適切である。よって、受信感度監視手段24は、直線道路走行中に受信感度監視を行うことにより、安定したビート信号レベルと基準レベルとを比較できる。よって、より正確に受信感度低下を検出できる。
【0073】
また、受信感度監視手段24は、受信感度フラグを受信感度低下を示す値に設定した後、基準時間が経過したときに(S71のYES)、受信感度フラグを車両制御装置100に出力する。このようにして、ビート信号のレベルが時間に対し変動するような場合であっても、検出精度を確保できる。ビート信号のレベルが変動する場合とは、たとえば降雨などでレーダ信号の減衰量が大きい場合や、物標表面の形状が不均一でレーダ信号が乱反射されるような場合があげられる。あるいは、手順S61aを省略した実施例において、移動物標を検出した場合などである。
【0074】
なおこのとき、基準時間を従来の方法におけるサンプル収集時間より短く設定しておけば、受信感度低下をより迅速に検出できる。基準時間は、たとえば数分から数十分など、任意の時間を用いることができる。
【0075】
画像認識装置50では、画像認識手段62が、移動物標が存在しないときに(S53のNO)、物標の距離を検出し、物標の種別と距離をレーダ装置10に出力する。一方移動物標が存在するときには(S53のYES)処理を終了する。ここで画像認識手段62は、前回の処理で検出した物標の位置の変化量と車両1の走行速度とに基づき、移動物標か否かを判断する。具体的には、変化量が走行速度に対応していなければ移動物標であり、対応していれば移動物標でない静止物標と判断する。なお、車両1の走行速度は、車両制御装置100から与えられる。
【0076】
このような手順により、手順S61aと同じ効果が得られる。すなわち、移動物標が検出されたときには受信感度監視を行わず、受信感度低下の検出精度が低下することを防止する。そして、移動物標が検出されないとき、つまりある程度の検出精度が担保される状況のときに、受信感度監視を行う。そうすることにより、受信感度低下の検出精度を向上させることができる。
【0077】
本実施形態では、FM−CW方式のレーダ装置10を例として説明した。しかしながら、本実施形態は、受信信号レベルを検知するレーダ装置であればパルスレーダやドップラレーダなど、種々の方式のレーダ装置に適用できる。
【0078】
また、本実施形態では、FM−CW方式のレーダ装置10において、ビート信号のレベルを基準レベルと比較した、しかしながら、本実施形態は、受信信号レベルを直接的に検知するレーダ装置にも適用できる。その場合、受信信号レベルに応じた基準レベルデータが予めレーダ装置に格納される。あるいは、本実施形態は、上述の方法以外の方法により受信信号をダウンコンバートし、受信信号から中間周波数信号を生成する場合にも適用できる。その場合、受信信号から生成された中間周波数信号のレベルに応じた基準レベルデータが、予めレーダ装置に格納される。
【0079】
また、レーダ装置10から車両制御装置100に出力する受信感度フラグの履歴データは、レーダ装置10における信号処理装置14内のROMや車両制御装置100のROMに格納される。この履歴データは、車両整備時に参照される。
【0080】
また、上述の説明では、車両の前方を走査するレーダ装置を例として説明した。しかし本実施形態は、車両後方を撮像する画像認識装置と組み合わせることにより、車両後部(たとえばバンパー内など)に搭載され車両後方を走査するレーダ装置にも適用できる。
【0081】
以上説明したとおり、本発明によれば、レーダ装置の受信感度低下を迅速かつ確実に検出することができる。よって、正確かつ適時な車両制御が可能となる。
【符号の説明】
【0082】
10:レーダ装置、12:レーダ送受信機、14:信号処理装置、24:受信感度監視手段、50:画像認識装置、62:画像認識手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載されるとともに前記車両周囲に送信信号を送信して物標に反射された前記送信信号を受信するレーダ送受信機の信号処理装置であって、
前記車両に搭載された画像認識手段が前記物標の撮像画像に基づき前記物標の種別と距離とを検出し、
受信信号のレベルまたは前記受信信号から生成される信号のレベルが前記物標の距離と種別とに対応づけられた基準レベル以上か否かを検出する受信感度監視手段を有する信号処理装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記レーダ送受信機が周波数変調した前記送信信号を送信して前記送受信信号の周波数差を有するビート信号を前記受信信号から生成し、
前記受信感度監視手段は、前記ビート信号が前記基準レベル以上であるか否かを検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記受信感度監視手段は、前記物標が静止物標であるときに前記ビート信号が前記基準レベル以上であるか否かを検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項4】
請求項1において、
前記受信感度監視手段は、前記車両が直線路を走行しているときに前記受信信号のレベルまたは前記受信信号から生成される信号のレベルが前記基準レベル以上であるか否かを検出することを特徴とする信号処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載のレーダ送受信機と信号処理装置とを有するレーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−2307(P2011−2307A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−144831(P2009−144831)
【出願日】平成21年6月18日(2009.6.18)
【出願人】(000237592)富士通テン株式会社 (3,383)
【Fターム(参考)】