説明

個人認証方法及びシステム

【課題】生体認証の利便性を維持しつつ、システム運用上の問題や被認証者の心理的問題を最小化しうる新たな個人認証方法を提供する。
【解決手段】個人認証システムの利用者は、指の爪に描点14r、14bが印刷されたシール12を貼付する。シール12を貼付した利用者の指を撮像したデジタル画像から指の輪郭線と描点14r、14bを抽出した後、描点14r、14bに基づいて基準点および追跡始点を定義する。さらに、指の輪郭線を構成する各画素に対して追跡始点から順番に画素IDを連番付与した上で、指の輪郭線を構成する各画素と基準点との離間距離と画素IDを対応付けたテーブルを認証用データとして使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、個人認証技術に関し、より詳細には、生体情報を使用したキャンセラブルな個人認証技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く採用されている個人認証方法として、パスワードなどの本人しか知り得ない情報を利用する記憶認証やIDカードなどを利用する所有認証が挙げられるが、これらの方法には、悪意の第三者がパスワードを盗用したりIDカードを偽造したりすることで容易になりすまされるという問題があった。この問題に対して、指紋や静脈パターンなどの生体情報を利用する生体認証が提案されたことにより、なりすましの問題は解決されたかに見えた。なぜなら、人体と一体不可分である生体情報の紛失や盗難は理論上起こり得ず、生体情報を偽造したり盗用したりすることはできないと考えていたからである。
【0003】
ところが、最近になって、残留指紋を写し取った人工指を使ってなりすましに成功した事例が報告され、生体認証のなりすまし攻撃に対する脆弱性が指摘されるようになった。仮に、生体情報が悪意の第三者によって偽造・盗用された場合、生体認証システムには、生体情報を使用するがゆえの運用上の問題が発生する。つまり、指紋などの生体情報は、個体において終生不変であるがゆえにこれを更新することができず、生体情報を偽造・盗用された利用者は、結果的にそのシステムを二度と利用することができなくなるのである。
【0004】
さらに、生体認証には、個人情報の問題が絡んでくる。現在、使用されている指紋や静脈パターンなどの生体情報は、個人を特定することのできる情報であるため、システム運用者には個人情報保護法上の管理責任が生じる。また、そのような個人情報を他人に委ねることに一抹の不安を感じる人は少なくなく、特に、指紋照合は、犯罪捜査を連想させるため心理的な抵抗感が大きい。このような心理的要因により、特に、一見の出先の施設(例えば、商業施設、宿泊施設、アミューズメント施設など)において生体認証システムが受け入れられにくいことは想像に難くない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方で、生体認証には、パスワードを覚えたり、IDカードを持ち歩いたりする必要がないという捨てがたい利便性があるのも事実である。本発明は、上述した点に鑑みてなされたものであり、生体認証の利便性を維持しつつ、システム運用上の問題や被認証者の心理的問題を最小化しうる新たな個人認証方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、生体認証の利便性を維持しつつ、システム運用上の問題や被認証者の心理的問題を最小化しうる新規な個人認証方法につき鋭意検討した結果、認証用データとして、唯一性の低い生体情報である指の輪郭線と当該指の爪に貼付したシールの位置情報から事後的に再現不可能な二次情報を生成する構成に想到し、本発明に至ったのである。
【0007】
すなわち、本発明によれば、個人認証を行う方法であって、描点が印刷されたシールを指の爪に貼付した被認証者の該指のデジタル画像を取得するステップと、前記デジタル画像から前記指の輪郭線を抽出するステップと、前記デジタル画像から前記描点を抽出するステップと、前記描点に基づいて基準点を定義するステップと、前記描点に基づいて追跡始点を定義するステップと、前記指の輪郭線を構成する各画素に対して前記追跡始点から順番に画素IDを連番付与するステップと、前記指の輪郭線を構成する各画素と前記基準点との離間距離を算出するステップと、認証用データとして前記離間距離と前記画素IDを対応付けたテーブルを生成するステップと、被認証者の前記認証用データと登録ユーザの前記認証用データとの間の相関係数に基づいて認証の可否を判断するステップとを含む、個人認証方法が提供される。また、本発明によれば、コンピュータに対して上記個人認証方法の各ステップを実行させるためのコンピュータ実行可能なプログラムが提供される。さらに、本発明によれば、被認証者の指のデジタル画像を取得するための撮像部と、前記デジタル画像から認証用データを生成する認証用データ生成部と、登録ユーザの前記認証用データを登録データとして管理する登録データ管理部と、被認証者の前記認証用データと前記登録データとの間の相関係数に基づいて認証の可否を判断する認証部とを含む個人認証システムであって、前記認証用データ生成部は、前記デジタル画像から前記指の輪郭線および該指の爪に貼付されたシールに印刷された描点を抽出するための機能手段と、前記描点に基づいて基準点を定義するための機能手段と、前記描点に基づいて追跡始点を定義するための機能手段と、前記指の輪郭線を構成する各画素に対して前記追跡始点から順番に画素IDを連番付与するための機能手段と、前記指の輪郭線を構成する各画素と前記基準点との離間距離を算出するための機能手段と、前記認証用データとして前記離間距離と前記画素IDを対応付けたテーブルを生成する機能手段とを含む個人認証装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上述したように、本発明によれば、生体認証の利便性を維持しつつ、システム運用上の問題や被認証者の心理的問題を最小化しうる新規な個人認証方法及びシステムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の前提事項を説明するための図。
【図2】本実施形態の個人認証システムの機能ブロック図。
【図3】本実施形態の個人認証システムが実行する処理のフローチャート。
【図4】本実施形態における認証用データ生成部が実行する処理を説明するための図。
【図5】本実施形態における認証用データ生成部が実行する処理を説明するための図。
【図6】本実施形態における認証用データ生成部が実行する処理を説明するための図。
【図7】本実施形態における認証用データ生成部が実行する処理を説明するための図。
【図8】本実施形態における認証用データ(テーブル)を示す図。
【図9】本実施形態におけるシールの実施形態を示す図。
【図10】本人受入/他人拒否についての検証実験の結果を示す図。
【図11】本人受入/他人拒否についての検証実験の結果を示す図。
【図12】なりすまし耐性のシミュレーション結果を示す図。
【図13】なりすまし耐性のシミュレーション結果を示す図。
【図14】追跡画素の数と個人識別性の関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を図面に示した実施の形態をもって説明するが、本発明は、図面に示した実施の形態に限定されるものではない。なお、以下に参照する各図においては、共通する要素について同じ符号を用い、適宜、その説明を省略するものとする。
【0011】
最初に、本発明の個人認証システムにおける前提条件について説明する。本発明の個人認証システムの利用者は、システムの提供者から渡される所定のシールを指の爪に貼ることを要請される。図1(a)は、本発明におけるシールの実施形態であるシール12を拡大して示す。シール12は、人の指の爪の大きさに対してごく小さなシールとして構成される。なお、図1(a)には、長方形のシール12を示したが、シールの形状はこれに限定されるものではなく、円、楕円、その他のどのような形状であってもよい。
【0012】
シール12には2つの描点が印刷されている。ここで、各描点は、互いに異なる色で印刷される。図1(a)に示す例においては、赤色の描点14rと青色の描点14bが所定間隔をもって印刷されている。各描点が互いに異なる色で印刷されるのは、後の画像抽出処理に鑑みてのことであり、色の組み合わせは、赤と青に限定されるものではなく、色の距離が適切に離れていればどのような組み合わせであってもよい。また、描点が印刷されるシール12の表面基材の色は、描点と色の距離が大きく離れていることが好ましく、白などの明度の高い色を採用することが好ましい。
【0013】
本発明の個人認証システムの利用者は、システムの提供者から渡されたシール12を指の爪に貼る。この際、シールの貼り方については、利用者の自由に委ねられる。その結果、図1(b)に示すように、利用者の指におけるシール12の相対的な貼付位置にランダム性が発生することになる。上述した事項を前提とした上で、本発明の個人認証システムについて説明を始める。
【0014】
図2は、本発明の実施形態である個人認証システム100の機能ブロック図を示す。図2に示されるように、本実施形態の個人認証システム100は、撮像部10と、画像入力IF20と、認証用データ生成部30と、登録データ管理部40と、認証部50と、認証結果出力部60とを含んで構成されている。撮像部10は、3CCDカメラなどの高画質デジタルカメラ11を含んで構成され、被認証者の指(すなわち、爪の生えている面)のRGBデジタル画像を取得する。撮像部10が取得したデジタル画像は、画像入力IF20を介して認証用データ生成部30に転送される。認証用データ生成部30は、被認証者の指のデジタル画像から認証用データを生成する。生成された認証用データは、登録モードにおいては、被認証者を認証するための登録データとして登録データ管理部40に登録され、認証モードにおいては、照合データとして認証部50に提供される。認証部50は、照合データと登録データ管理部40に登録される各登録データとの間の相関係数に基づいて認証の可否を判断し、その結果を認証結果出力部60に通知する。認証結果出力部60は、認証結果を出力手段に応じた適切な出力データを変換して出力する。
【0015】
以上、本実施形態の個人認証システム100の基本構成について概略的に説明してきたが、次に、個人認証システム100が実行する処理について図3を参照しながら具体的に説明する。なお、以下の説明においては、適宜、図2を併せて参照するものとする。
【0016】
図3は、個人認証システム100が実行する処理のフローチャートを示す。まず、撮像部10が、被認証者の指(すなわち、爪の生えている面)のデジタル画像を取得する(ステップ101)。図4(a)は、撮像部10が取得したデジタル画像を示す。デジタル画像には、爪にシール12を貼付した被認証者の指の第一関節から先の部分が写っている。なお、シール12には、図4(a)の右側に拡大して示すように、赤色の描点14rと青色の描点14bが印刷されている。
【0017】
次に、認証用データ生成部30が、図4(a)に示すデジタル画像から指の輪郭線を取得する(ステップ102)。具体的には、取得したデジタル画像に対して二値化処理、ノイズ除去処理を施した後、ラプラシアンフィルタを用いてエッジ画素を抽出する。次に、抽出したエッジ画素に対して細線化処理を施すことによって、図4(b)に示すように、指の輪郭線Oを1ピクセルの太さで抽出する。
【0018】
次に、認証用データ生成部30が、指の輪郭線Oに基づいて追跡画素群O′を定義する(ステップ103)。具体的には、指の輪郭線Oを構成する画素のX座標値の最大値[Xmax]を特定した後、最大値[Xmax]から所定値[W]を減じた値[Xmax-W]をX座標値に持つ2つの画素、すなわち、P1(Xmax-W,Y1)およびP2(Xmax-W,Y2)を特定する。最後に、指の輪郭線Oを構成する画素のうちX座標値が[Xmax-W]より小さい画素を全て削除した上で、画素P1と画素P2を接続する直線を定義する。その結果、図5(a)に示すような追跡画素群O′が定義される。
【0019】
次に、認証用データ生成部30が、シール12に印刷された2つの描点14r,14bの代表座標値を決定する(ステップ104)。具体的には、まず、図4(a)に示すデジタル画像からシール12に印刷された描点14rおよび描点14bを構成する画素を取得する。ここで、描点14rおよび描点14bは、それぞれが異なる色(赤色および青色)で印刷されているので、描点14rおよび描点14bの画像をRGB値(あるいは輝度値)に基づいて別々に抽出することができる。なお、各描点の画像の抽出処理は、適切な色抽出フィルタ等を用いて行うことができる。
【0020】
ここで、抽出された描点14の画像は、一般に、複数の画素から構成される。したがって、本実施形態においては、所定の規則に従って、描点14の代表座標値を決定する。代表座標値を決定する規則の一例について、図6に基づいて説明する。まず、描点14を構成する画素のX座標値の最大値[Xmax]と最小値[Xmin]を取得してその平均値[Xave]を求め、平均値[Xave]をX座標値の代表値とする。なお、座標値の平均値が整数として求められるよう、切り捨てあるいは切り上げなど規則を設ける。同じく、描点14を構成する画素のY座標値の最大値[Ymax]と最小値[Ymin]を取得してその平均値[Yave]を求め、平均値[Yave]をY座標値の代表値とする。最後に、描点14の代表座標値を(Xave,
Yave)として決定する。
【0021】
次に、認証用データ生成部30が、描点14の代表座標値に基づき適切な規則に従って基準点Dを定義する(ステップ105)。ここで、基準点を定義する規則は種々想定することができ、特に限定するものではないが、最も簡単な例としては、代表画素Rあるいは代表画素Bのいずれか一方を基準点Dとする規則を挙げることができる。その他、代表画素Rと代表画素Bを結ぶ線分上のいずれかの画素(たとえば中点)を基準点Dとしたり、代表画素Rと代表画素Bを通る直線上のいずれかの画素(たとえば、代表画素から所定のピクセル距離離間した画素)を基準点Dとしたりする規則が考えられる。ここで、代表画素とは、代表座標値に対応する画素をいうものとする。図5(a)に示す例においては、描点14rの代表画素Rと描点14bの代表画素Bを結ぶ線分の中点を基準点Dとして定義している。
【0022】
次に、認証用データ生成部30が、描点14の代表座標値に基づいて追跡始点Sを定義する(ステップ106)。具体的には、基準点Dを通る直線を定義した上で、追跡画素群O′を構成する画素のうち、定義された直線上に存在する画素を追跡始点Sとして定義する。なお、本実施形態においては、上述した基準点Dを通る直線は、代表画素Rと代表画素Bを通る直線と所定の角度をなす直線として定義することができる。
【0023】
図5(a)は、最も簡単な例として、追跡画素群O′を構成する画素のうち、基準点Dと代表画素Rと代表画素Bを通る直線(すなわち、基準点Dを通る直線であって代表画素Rと代表画素Bを通る直線と0°の角度をなす直線)の上に存在する画素を追跡始点Sとして定義している。なお、基準点Dを通る直線上は、追跡画素群O′と2カ所で交わるので、所定の規則に従って、いずれか一方の画素を追跡始点Sとして定義する。本実施形態においては、図5(b)に示すように、代表画素Rから代表画素Bに向って延長線上に存在する画素を追跡始点Sとして定義している。
【0024】
次に、図5(c)に示すように、認証用データ生成部30が、追跡画素群O′を構成する全ての画素に対して、追跡始点Sから順番に画素IDを連番付与する(ステップ107)。この場合、画素IDを付与する順番として、時計回りおよび反時計回りの二通りの順番が想定されるので、所定の規則に従って、画素IDを付与する順番を規定しておく。図5(c)に示す例においては、追跡始点Sから反時計回りの順番でIDを連番付与する旨が規定されている。
【0025】
なお、他の実施形態においては、追跡画素群O′を構成する全ての画素に画素IDを連番付与するのではなく、所定の規則に則って選択された一部の画素についてのみ画素IDを連番付与することもできる。たとえば、基準点Dと追跡始点Sを通って延びる線を定義した後、その線を、基準点Dを回転中心として所定角度(θ)ずつ一定方向に回転移動させ、移動した線と指の輪郭線の交点にある画素についてのみ画素IDを連番で付与するように構成することができる。この場合、所定角度(θ)を大きく設定して選択される画素の数を減らすことができる。また、指の輪郭線に沿って1画素ずつを追跡しながら、(α)個の画素を隔てた画素ごとに画素IDを連番で付与するように構成することもできる。この場合も値(α)を大きく設定するほど選択される画素数が減少する。
【0026】
次に、図7(a)に示すように、認証用データ生成部30が、追跡画素群O′を構成する全ての画素について、各画素と基準点Dとの離間距離を算出する(ステップ108)。本実施形態における離間距離は、ピクセル距離として算出することができる。図7(b)は、画素IDと算出したピクセル距離との関係をプロットした図を示す。
【0027】
次に、認証用データ生成部30が、認証用データとして、算出したピクセル距離と画素IDを対応付けたテーブルを生成する(ステップ109)。図8は、生成されたテーブル(認証用データ)を例示する。ここで、生成される認証用データの個人識別性は、シール12が貼付される位置のランダム性に本質的に依存する。さらに加えて、指の輪郭線の形状は、個体によってかなりの分散が見込めるものであるから、シール12の相対的な貼付位置と指の輪郭線の形状に基づいて決定される二次情報である本実施形態の認証用データのランダム性はさらに増大する。このランダム性は、指紋などのように厳密な一意性を保証するものではないが、認証対象が数千人規模の用途において、必要十分な個人識別性を担保する。なお、本実施形態においては、図5(a)に示した画素P1と画素P2を結ぶ直線領域の各画素と基準点Dとの離間距離を認証用データの生成に使用しないこともできる。
【0028】
ステップ109において認証用データが生成されると、ステップ110に進んでモードが判断され、登録モードにおいては、生成されたテーブルが登録ユーザの登録データとして登録データ管理部40に登録され(ステップ111)、処理を終了する。一方、認証モードの場合においては、生成されたテーブルが照会データとして認証部50に提供され、一時的に保存される(ステップ112)。なお、認証用データを生成するために用いた一次情報(指の画像や輪郭線の座標情報)は、唯一性が低く個人を特定することのできない生体情報であるため、個人情報保護法上の問題を生じさせるものではないが、本実施形態においては、プライバシーの問題に配慮して、認証用データが生成された後、ただちに、一次情報を削除するように構成することが好ましい。
【0029】
ただし、一次情報を削除したとしても、テーブルの情報から指の輪郭線を再現することは不可能ではない。したがって、さらに好ましい実施形態においては、図5(a)に示した追跡画素群O′を構成する全ての画素についてピクセル距離を算出するのではなく、一定以上の間隔をもって互いに離間したごく一部の画素についてのみピクセル距離を算出することが好ましい。このよう構成することによって、テーブルの情報からは、元の指の形状を推察できない程度にまで離散した複数の点しか再現できなくなり、指の形状を他人に知られることがなくなるので、プライバシーの問題が完全にクリアされる。
【0030】
次に、認証部50が照会データと登録データ管理部40に登録された全ての登録データの間の相関係数を算出する(ステップ113)。その結果、所定の閾値よりも大きい相関係数を有する登録データが検出された場合には(ステップ114,Yes)、認証が成功した旨を認証結果出力部60に通知して(ステップ115)、処理を終了する。一方、所定の閾値よりも大きい相関係数を導出する登録データが見つからなかった場合には(ステップ114,No)、認証が失敗した旨を認証結果出力部60に通知して(ステップ116)、処理を終了する。
【0031】
以上、説明したように、本発明の個人認証方法は、利用者の身体の一部である指を利用するため利便性が高く、且つ、使用する生体情報が指の輪郭線の形状であり、それ自体に個人識別性が無いため、利用者に心理的な抵抗感を与えない。また、本発明においては、生体情報が単独で盗まれたとしても、そこから認証用データを再現することは実質的に不可能であり、万が一、認証用データ自体が盗まれた場合であっても、シールを貼り直すだけで古い認証用データをキャンセルし、新たな認証用データを再登録することができるので、利用者はその後も継続してシステムを利用することができる。
【0032】
以上、本発明について実施形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、たとえば、被認証者の爪に貼付するシールについては、図9に示すような実施形態をも含むものである。図9(a)に示す実施形態においては、シール12に色の異なる3つの描点14(赤・青・黒)が印刷されている。この場合、先に説明したのと同様に、描点14(赤)および描点14(青)に基づいて追跡始点Sと基準点Dを定義する一方、残りの描点14(黒)を撮像系に対する爪の傾きを補正するために利用することができる。
【0033】
図9(b)に示す別の実施形態においては、シール12に描点14がひとつだけ印刷されている。この場合、描点14の代表画素を基準点Dとして定義する一方、追跡始点Sについては適切な規則に従って定義する。たとえば、指の輪郭線を構成する画素のうち、最大のX座標値を有する画素を追跡始点Sとして定義したり、基準点Dと同じ値のX座標値を有する画素を追跡始点Sとして定義したりすることができる。
【0034】
また、上述した実施形態においては、2つの描点の色を異ならせることによって両者を区別する構成について説明してきたが、本発明は、これに限定されるものではなく、2つの描点の大きさや形状を異ならせることによって両者を区別するように構成してもよい。さらに、本発明においては、蛍光塗料によって印刷された描点に対して可視光以外の光を照射し、その発光輝度に基づいて描点を抽出するように構成することもできる。また、本発明においては、インクジェット装置などを使用して描点を指の爪に対して直接描画するように構成することもできる。その他、当業者が推考しうる実施態様の範囲内において、本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の認証システムについて、実施例を用いてより具体的に説明を行なうが、本発明は、後述する実施例に限定されるものではない。
【0036】
本発明の認証システムについて、以下の手順で検証実験を行った。
【0037】
(本人受入/他人拒否についての検証)
2.5mmの間隔を開けて2つの描点(赤・青)を印刷したシールを用意し、被験者Aに親指の爪の好きな位置にシールを貼るように指示した。その後、シールが貼付された親指を撮影し、取得したデジタル画像に基づいて登録データを生成した。図10(a)は、登録データの元となった画像を示す。
【0038】
続いて、被験者Aの同じ親指を、撮影の度に親指を撮影部にセットし直してもらう形で4回にわたって撮影した。そのようにして取得した4つのデジタル画像に基づいて4つの照会データを生成し、各照会データと登録データの間の相関係数を計算した。図10(b)〜(e)は、各照会データの元となった画像を相関係数とともに示す。
【0039】
次に、4人の被験者B〜Eに対して被験者Aの登録データの元となった画像(図11(a)に示す)をお手本として示し、これに倣って親指の爪にシールを貼るように指示した。その後、シールが貼付された被験者B〜Eの親指を撮影した。そのようにして取得した4つのデジタル画像に基づいて各人の照会データを生成し、被験者B〜Eの各照会データと被験者Aの登録データの間の相関係数を計算した。図11(b)〜(e)は、被験者B〜Eの照会データの元となった画像を相関係数とともに示す。
【0040】
上述した実験結果により、本実施例のシステムにおいては、相関係数の閾値kに適切な値(例えば、k=0.995)を設定することによって、本人受入と他人拒否を同時に実現できることが実証された。
【0041】
(なりすまし耐性の検証)
図10(a)に示した被験者Aの親指の輪郭線を利用して、以下の手順でシミュレーションを行った。まず、図12(a)に示すように、基準点Dと追跡始点Sを任意の位置に定義して認証用データを生成してこれを登録データとした。次に、追跡始点Sについては固定したままで、基準点Dの位置を初期位置からx軸方向に1ピクセルずつ移動させ、その都度、各位置における認証用データを生成した。同様に、基準点Dの位置を初期位置からy軸方向に1ピクセルずつ移動させ、その都度、各位置における認証用データを生成した。図12(b)は、上述した手順で生成した各認証用データと登録データの間の相関係数と、基準点Dのずれの度合い(ピクセル距離)の関係を移動軸方向ごとに示した図である。
【0042】
ここで、本人と他人を識別するための閾値kを「0.995」として、図12(b)を参照すると、基準点が初期位置から、x軸方向に11ピクセル(実寸で0.55mm)以上ずれると本人とは認証されず、y軸方向に10ピクセル(実寸で0.5mm)以上ずれると本人とは認証されないことがわかる。
【0043】
さらに、図13(a)に示すように、基準点Dを起点として初期方向に伸びる線分と指の輪郭線の交点にある画素を追跡始点Sの初期位置として定義した後、固定した基準点Dを中心に反時計回りに1°ずつ回転させた上記線分と指の輪郭線の交点にある画素を新たな追跡始点Sとして定義した。そして、定義された複数の追跡始点Sに基づいて複数の認証用データを生成した。図13(b)は、上述した手順で生成した各認証用データと登録データの間の相関係数と、初期方向に伸びる線分からのずれ(角度θ)の関係を示した図である。ここで、本人と他人を識別するための閾値kを「0.995」として、図13(b)を参照すると、追跡始点Sの初期位置と基準点Dを結ぶ線分からのずれが角度にして5°ずれると本人とは認証されないことがわかる。
【0044】
ここで、シールの貼付範囲を5.0×5.0mm四方と想定すると、上述したシミュレーションの結果から、ランダムに貼ったシールによって定義される基準点Dが本人のそれと実質的に一致する確率は、(0.55×0.5)mm2/(5×5)mm2=1/90となり、ランダムに貼ったシールによって定義される追跡始点Dが本人のそれと実質的に一致する確率は、5°/360°=1/72となる。したがって、本人の指を完全に再現した人工指の爪に対してシールを貼ることによって本人になりすますことができる確率は、1/90×1/72=1/6480となる。上述した結果により、仮に、本人の指の画像が単独で盗まれたとしても、そこから認証用データを再現することは実質的に不可能であるといえる。
【0045】
(追跡画素の数と個人識別性の関係)
先の実験で取得した被験者A〜Eの情報に基づいて、認証用データの生成に用いる追跡画素の数を減らした場合の影響について検証した。なお、本検証においては、(α)個の画素を隔てた画素ごとに画素IDを連番で付与する方式で追跡画素数を減らした。図14は、登録データと照会データの間の相関係数と、追跡画素群O′の全画素数に対する計算に使用した画素数の割合(%)との関係を被験者ごとに示した図である。図14に示されるように、画素数を全体の0.56%(この場合、画素数=8個)まで減らした場合においても、被験者A(1回目〜4回目)の照会データの相関係数は、被験者B〜Eの照会データの相関係数より有意な差をもって大きくなることが示された。この結果より、本発明においては、認証用データの生成において必ずしも追跡画素群O′の全画素を使用する必要はないことが示された。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上、説明したように、本発明によれば、生体認証の利便性を維持しつつ、システム運用上の問題や被認証者の心理的問題を最小化しうる新規な個人認証方法及びシステムが提供される。本発明は、これまで、生体認証の導入が敬遠されていた商業施設・宿泊施設・アミューズメント施設などでも抵抗なく受け入れられるであろう。たとえば、本発明をホテルなどの宿泊施設に適用すれば、宿泊客はチェックインの際、フロントで渡されたシールを爪に貼付して登録するだけで、ICカードなどを持ち歩かなくても部屋の入室や施設内での会計が可能になり、宿泊客の利便性が飛躍的に向上する。
【符号の説明】
【0047】
10…撮像部
11…高画質デジタルカメラ
12…シール
14…描点
20…画像入力IF
30…認証用データ生成部
40…登録データ管理部
50…認証部
60…認証結果出力部
100…個人認証システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
個人認証を行う方法であって、
描点が印刷されたシールを指の爪に貼付した被認証者の該指のデジタル画像を取得するステップと、
前記デジタル画像から前記指の輪郭線を抽出するステップと、
前記デジタル画像から前記描点を抽出するステップと、
前記描点に基づいて基準点を定義するステップと、
前記描点に基づいて追跡始点を定義するステップと、
前記指の輪郭線を構成する各画素に対して前記追跡始点から順番に画素IDを連番付与するステップと、
前記指の輪郭線を構成する各画素と前記基準点との離間距離を算出するステップと、
認証用データとして前記離間距離と前記画素IDを対応付けたテーブルを生成するステップと、
被認証者の前記認証用データと登録ユーザの前記認証用データとの間の相関係数に基づいて認証の可否を判断するステップと、
を含む、個人認証方法。
【請求項2】
前記シールには、少なくとも2つの描点が印刷され、
前記基準点を定義するステップは、前記2つの描点を通る直線上の画素を基準点として定義するステップである、請求項2に記載の個人認証方法。
【請求項3】
前記2つの描点を結ぶ線分の中点を前記基準点として定義する、請求項3に記載の個人認証方法。
【請求項4】
前記追跡始点を定義するステップは、前記指の輪郭線を構成する画素のうち、前記基準点を通る直線上に存在する画素を前記追跡始点として定義するステップであり、前記直線は、前記2つの描点を通る直線と所定の角度をなす、請求項2または3に記載の個人認証方法。

【請求項5】
前記追跡始点を定義するステップは、前記指の輪郭線を構成する画素のうち、前記2つの描点を通る直線上に存在する画素を前記追跡始点として定義するステップである、
請求項4に記載の個人認証方法。
【請求項6】
前記2つの描点は、互いに異なる色で印刷され、
前記デジタル画像から前記描点を抽出するステップは、RGB値に基づいて前記2つの描点をそれぞれ別々に抽出するステップである、
請求項2に記載の個人認証方法。
【請求項7】
コンピュータに対して請求項1〜6のいずれか一項に記載の個人認証方法の各ステップを実行させるためのコンピュータ実行可能なプログラム。
【請求項8】
被認証者の指のデジタル画像を取得するための撮像部と、
前記デジタル画像から認証用データを生成する認証用データ生成部と、
登録ユーザの前記認証用データを登録データとして管理する登録データ管理部と、
被認証者の前記認証用データと前記登録データとの間の相関係数に基づいて認証の可否を判断する認証部と
を含む個人認証システムであって、
前記認証用データ生成部は、
前記デジタル画像から前記指の輪郭線および該指の爪に貼付されたシールに印刷された描点を抽出するための機能手段と、
前記描点に基づいて基準点を定義するための機能手段と、
前記描点に基づいて追跡始点を定義するための機能手段と、
前記指の輪郭線を構成する各画素に対して前記追跡始点から順番に画素IDを連番付与するための機能手段と、
前記指の輪郭線を構成する各画素と前記基準点との離間距離を算出するための機能手段と、
前記認証用データとして前記離間距離と前記画素IDを対応付けたテーブルを生成する機能手段と
を含む、
個人認証装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−146121(P2012−146121A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3885(P2011−3885)
【出願日】平成23年1月12日(2011.1.12)
【出願人】(305027401)公立大学法人首都大学東京 (385)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】