説明

偏光子保護フィルムならびにそれを用いた偏光板

【課題】 製造が容易であり、耐熱性、強度、透湿性に優れ、かつ光弾性係数が十分に小さく、光学異方性が小さい偏光子保護フィルムおよびその製造方法を提供するものである。
【解決手段】 3つの特定の構造の繰り返し単位を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂からなり、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることを特徴とする偏光子保護フィルムを提供した。
本発明によれば、製造が容易であり、耐熱性、強度、透湿性に優れ、かつ光弾性係数が十分に小さく、光学異方性が小さい偏光子保護フィルムを提供することが可能となる。また、本発明の偏光子保護フィルムを用いることで、大型の液晶表示装置においても、周辺部のコントラストの低下を抑え、良好な表示を実現することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は偏光子保護フィルムならびにそれを用いた偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
直線偏光板は、通過する光のうちで特定の振動方向をもつ直線偏光のみを透過させ、その他の直線偏光を遮蔽する機能を有する材料であり、例えば液晶表示装置を構成する部品の一つとして広く使用されている。このような直線偏光板としては、偏光子フィルムと偏光子保護フィルムとが積層された構成をもつものが一般的に使用されている。
【0003】
前記偏光子フィルムとは、特定の振動方向をもつ直線偏光のみを透過する機能を有するフィルムであり、例えばポリビニルアルコール(以下PVAという)フィルム等を延伸して、ヨウ素や二色性染料などで染色したフィルムが一般に使用されている。
【0004】
前記偏光子保護フィルムとは、偏光子フィルムを保持して偏光板全体に実用的な強度を付与するなどの機能を担うものであり、例えばトリアセチルセルロース(以下TACという)フィルムなどが一般に使用されている。
【0005】
偏光子保護フィルムにおいては、一般的に不要な位相差をもつフィルムは好ましくないとされている。これは、たとえ偏光子フィルムが高精度の直線偏光機能を有するものであっても、偏光子保護フィルムの位相差や光軸のズレは、偏光子フィルムを通過した直線偏光に楕円偏光性を与えてしまうからである。
【0006】
フィルムの位相差は面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nz、フィルムの厚さをdとすると、面内位相差 Re=(nx−ny)×d、厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)であらわすことができる。前述のTACフィルムは基本的に面内位相差は小さい。しかしながら、TACフィルムは、外部応力の作用によって位相差を生じやすいフィルムであり、また、厚み方向位相差が比較的大きなフィルムである。このため、特に、大型の液晶表示装置において、周辺部のコントラストが低下するなどの問題を抱えている。
【0007】
TACフィルムよりも光弾性係数の小さいフィルム素材を偏光子保護フィルムとして用いる試みがなされている。一例を挙げると(例えば、特許文献1参照)、80℃、90%RHの透湿率が20g・mm/m2・24hr以下で、かつ光弾性係数が1×10-10cm2/N以下である保護フィルムが開示されている。
【0008】
ところで近年、透明性樹脂材料として、環状オレフィンの単独重合体(又はその水素添加物)、環状オレフィンを環状オレフィン以外のオレフィンと共重合した環状オレフィン系共重合体(又はその水素添加物)等が提案されている。
【0009】
これらの重合体は、低複屈折性、低吸湿性、耐熱性などの特徴を有しており、光学材料として開発が進められている。これらの重合体は、光弾性係数が比較的小さいため、環境の変化に対しても光学的特性が変化しにくいことが報告されている。
【0010】
ところが、一般にこのような環状オレフィン系の重合体は、合成に複雑なルートを必要とすることから、価格が高いという問題があった。また、このような環状オレフィン系重合体は、溶媒に対する溶解度が低いという問題があった。そこで、このような重合体をフィルム化しようとする場合、押出法が用いられているが、押出法では表面性が溶液流延法に比べ低下することから、特に、表面性を要求される分野には適用しにくいとの問題があった。
【0011】
一方、グルタルイミド構造単位を有する樹脂は、透明性、耐熱性に優れるとともに、光弾性係数が小さいことから、光学材料としての適用が検討されている。例えば、特許文献2には、グルタルイミドアクリル樹脂からなる光学フィルムが開示されている。グルタルイミドアクリル樹脂はフィルムにした場合の強度が低く、フィルムを延伸する必要があった。ところが、このフィルムは正の固有複屈折を有するため、延伸により位相差が発現するという問題があった。
【0012】
また、光学フィルムとして、実質的に配向複屈折を有さないフィルムを用いる試みがなされている。例えば、特許文献3には、正の配向複屈折を有するグルタルイミドアクリル系樹脂と負の配向複屈折を有するスチレン系樹脂をブレンドしたフィルムが開示されている。このような樹脂は、環境変化によって位相差が発現しにくいという特徴があるが、ブレンド体であるために、製造工程が複雑となったり、得られたフィルムの性能(例えば耐溶剤性等)が低下するといった問題があった。
【特許文献1】特開平7−77608号公報
【特許文献2】特開平6−256537号公報
【特許文献3】WO01/37007号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、従来技術が有する上記課題に鑑みてなされたもので、製造が容易であり、耐熱性、強度、透湿性に優れ、かつ光弾性係数が十分に小さく、光学異方性が小さい偏光子保護フィルムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、製造が容易であり、耐熱性、強度、透湿性に優れ、かつ光弾性係数が十分に小さく、光学異方性が小さい偏光子保護フィルムを得るために、特定の構造を有する熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることが極めて有効であることを見いだしたことに基づくものである。
【0015】
すなわち本発明は、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂からなり、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることを特徴とする偏光子保護フィルム(請求項1)、
【0016】
【化1】

【0017】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0018】
【化2】

【0019】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0020】
【化3】

【0021】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0022】
更に、延伸されていることを特徴とする請求項1記載の偏光子保護フィルム(請求項2)、
一般式(1)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位の重量比が、2.0:1.0〜4.0:1.0の範囲にあることを特徴とする偏光子保護フィルム(請求項3)、
熱可塑性樹脂の光弾性係数が10×10-122/N以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム(請求項4)、
熱可塑性樹脂のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする請求項1〜4記載のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム(請求項5)、
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルムを用いた偏光板(請求項6)、を提供した。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、製造が容易であり、耐熱性、強度、透湿性に優れ、かつ光弾性係数が十分に小さく、光学異方性が小さい偏光子保護フィルムを提供することが可能となる。また、本発明の偏光子保護フィルムを用いることで、大型の液晶表示装置においても、周辺部のコントラストの低下を抑え、良好な表示を実現することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の偏光子保護フィルムは、下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂からなり、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることを特徴としている。
【0025】
【化4】

【0026】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0027】
【化5】

【0028】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0029】
【化6】

【0030】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0031】
本発明で使用する熱可塑性樹脂を構成する、第一の構成単位は、下記一般式(1)で表される(以下、グルタルイミド単位と言うことがある)。
【0032】
【化7】

【0033】
(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0034】
好ましいグルタルイミド単位としては、R1、R2が水素またはメチル基であり、R3が水素、メチル基、またはシクロヘキシル基である。R1がメチル基であり、R2が水素であり、R3がメチル基である場合が、特に好ましい。
【0035】
該グルタルイミド単位は、単一の種類でもよく、R1、R2、R3が異なる複数の種類を含んでいても構わない。
【0036】
本発明で使用する熱可塑性樹脂を構成する、第二の構成単位は、下記一般式(2)で表される(以下、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸構成単位と言うことがある)。
【0037】
【化8】

【0038】
(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0039】
好ましい(メタ)アクリル酸エステル又は(メタ)アクリル酸構成単位としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等が挙げられる。これらの中でメタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0040】
これら第二の構成単位は、単一の種類でもよく、R4、R5、R6が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0041】
本発明の熱可塑性樹脂を構成する、第三の構成単位としては、下記一般式(3)で表される(以下、芳香族ビニル単位と言うことがある)。
【0042】
【化9】

【0043】
(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【0044】
好ましい芳香族ビニル構成単位としては、スチレン、α−メチルスチレン等が挙げられる。これらの中でスチレンが特に好ましい。
【0045】
これら第三の構成単位は、単一の種類でもよく、R7、R8が異なる複数の種類を含んでいてもかまわない。
【0046】
熱可塑性樹脂の、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、熱可塑性樹脂の20重量%以上が好ましい。グルタルイミド単位の、好ましい含有量は、20重量%から95重量%であり、より好ましくは40〜90重量%、さらに好ましくは、50〜80重量%である。グルタルイミド単位がこの範囲より小さい場合、得られるフィルムの耐熱性が不足したり、透明性が損なわれることがある。また、この範囲を超えると不必要に耐熱性が上がりフィルム化しにくくなる他、得られるフィルムの機械的強度は極端に脆くなり、また、透明性が損なわれることがある。
【0047】
熱可塑性樹脂の、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、熱可塑性樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上が好ましい。芳香族ビニル単位の、好ましい含有量は、10重量%から40重量%であり、より好ましくは15〜30重量%、さらに好ましくは、15〜25重量%である。芳香族ビニル単位がこの範囲より大さい場合、得られるフィルムの耐熱性が不足するとともに、光弾性係数が大きくなることがあり、この範囲より小さい場合、フィルムの機械的強度が低下することがある。また、芳香族ビニル単位がこの範囲を外れた場合、光学異方性が小さいフィルムを得ることが困難となる。
【0048】
本発明の偏光子保護フィルムは、光学異方性が小さいことを特徴としている。偏光子保護フィルムは、フィルムの面内方向(長さ方向、幅方向)の光学異方性だけでなく、厚み方向の光学異方性についても小さいことが要求される。すなわち、面内屈折率が最大となる方向をX軸、X軸に垂直な方向をY軸、フィルムの厚さ方向をZ軸とし、それぞれの軸方向の屈折率をnx、ny、nz、フィルムの厚さをdとすると、面内位相差 Re=(nx−ny)×d および厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)がともに小さいことを意味している(理想となる、3次元方向について完全光学等方であるフィルムでは、面内位相差Re、厚み方向位相差Rthともに0となる)。本発明の偏光子保護フィルムは、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、好ましくは5nm以下である。なおかつ厚み方向位相差が20nm以下であり、好ましくは10nm以下である。上記範囲より大きい位相差値をもつ偏光子保護フィルムを偏光板として使用した場合、液晶表示装置においてコントラストが低下するなどの問題が発生する。
【0049】
光学異方性の小さいフィルムを得るためには、熱可塑性樹脂中の各構成単位量を調節する必要があり、一般式(1)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位が、重量比で2.0:1.0〜4.0:1.0の範囲にあることが好ましく、2.5:1.0〜4.0:1.0の範囲がより好ましく、3.0:1.0〜3.5:1.0の範囲が更に好ましい。この範囲を外れた場合、分子配向により複屈折が生じ易くなり、面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であるようなフィルムを得ることが困難となる。
【0050】
本発明で使用する熱可塑性樹脂には、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下を満たす限り、第四の構成単位が含有されていてもかまわない。第四の構成単位として、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミドなどのマレイミド系単量体などを用いることができる。
【0051】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下を満たす限り、リニア(線状)ポリマーであっても、またブロックポリマー、コアシェルポリマー、分岐ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマーであっても構わない。ブロックポリマーはA−B型、A−B−C型、A−B−A型、またはこれら以外のいずれのタイプであっても問題ない。コアシェルポリマーはただ一層のコアおよびただ一層のシェルのみからなるものであっても、それぞれが多層になっていても問題ない。
【0052】
尚、本発明で使用する熱可塑性樹脂は、米国特許3284425号、米国特許4246374号、特開平2−153904号公報等に記載されているグルタルイミド樹脂と同様に、イミド化可能な単位を有する樹脂としてメタクリル酸メチルエステルなどを主原料として得られる樹脂を用い、該イミド化可能な単位を有する樹脂をアンモニアまたは置換アミンを用いてイミド化することにより得られる。
【0053】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は、例えば、メタクリル酸メチルとスチレンの共重合体(以下、MS樹脂と呼ぶ)を、上記の方法でイミド化することにより得ることができる。本発明では、スチレン含有量10重量%から40重量%のMS樹脂をイミド化するのが好ましく、スチレン含量15〜30重量%のMS樹脂をイミド化するのがより好ましく、スチレン含量15〜25重量%のMS樹脂をイミド化するのが更に好ましい。
【0054】
また、本発明で使用する熱可塑性樹脂は、1×104ないし5×105の重量平均分子量を有することが好ましい。重量平均分子量が上記の値以下の場合には、フィルムにした場合の機械的強度が不足し、上記の値以上の場合には、溶融時の粘度が高く、フィルムの生産性が低下することがある。
【0055】
本発明で使用する熱可塑性樹脂のガラス転移温度は100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、130℃以上であることが更に好ましい。
【0056】
本発明で使用する熱可塑性樹脂には、必要に応じて、他の熱可塑性樹脂を添加することができる。
【0057】
本発明で使用する熱可塑性樹脂は光弾性係数が小さいことが好ましい。本発明で使用する熱可塑性樹脂の光弾性係数は、20×10-122/N以下であることが好ましく、10×10-122/N以下であることがより好ましく、5×10-122/N以下であることが更に好ましい。光弾性係数の絶対値が20×10-122/Nより大きい場合は、応力により光学歪が生じ、光漏れが起きやすくなる。特に高温高湿度環境下において、その傾向が著しくなる。
【0058】
光弾性係数とは、等方性の固体に外力を加えて応力(△F)を起こさせると、一時的に光学異方性を呈し、複屈折(△n)を示すようになるが、その応力と複屈折の比を光弾性係数(c)と呼び、次式
c=△n/△F
で示される。
【0059】
上記熱可塑性樹脂を本発明の偏光子保護フィルムの形態に成形する方法としては、従来公知の任意の方法が可能である。例えば、溶液流延法および溶融押出法等などが挙げられる。そのいずれをも採用することができる。溶液流延法は、樹脂の劣化が少なく、表面性の良好なフィルムの作成に適しており、溶融成形法は生産性良くフィルムを得ることができる。溶液流延法の溶剤としては、塩化メチレン等が好適に使用できる。溶融成形法の例としては、溶融押出法、インフレーション法などが挙げられる。
【0060】
本発明の偏光子保護フィルムの厚みは、好ましくは、20μmから300μmであり、より好ましくは、30μmから200μmである。さらに好ましくは、40μmから100μmである。また、フィルムの厚みムラは、好ましくは平均厚みの10%以下、より好ましくは5%以下である。
【0061】
本発明の偏光子保護フィルムの光線透過率は、好ましくは85%以上、より好ましくは88%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。また、フィルムの濁度は、好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.5%以下である。
【0062】
本明細書中では、説明の便宜上、上記熱可塑性樹脂をフィルム状に成形した後、延伸を施す前のフィルムを「原料フィルム」と呼ぶことがある。
【0063】
原料フィルムは、延伸を施さずにそのままで偏光子保護フィルムとなり得るが、本発明の偏光子保護フィルムの製造においては、上述の方法で、フィルムを成形した後、一軸延伸あるいは二軸延伸して所定の厚みのフィルムを製造することが好ましい。延伸を行うことで、フィルムの機械的特性が更に向上する。実施態様の一例を挙げれば、溶融押出成形で厚み150μmの原料フィルムを製造した後、縦横二軸延伸により、厚み40μmのフィルムを製造することができる。
【0064】
フィルムの延伸は、原料フィルムを成形した後、すぐに連続的に行っても良い。ここで、上記「原料フィルム」の状態が瞬間的にしか存在しない場合があり得る。瞬間的にしか存在しない場合には、その瞬間的な、フィルムが形成された後延伸されるまでの状態を原料フィルムという。また、原料フィルムとは、その後延伸されるのに十分な程度にフィルム状になっていれば良く、完全なフィルムの状態である必要はなく、もちろん、完成したフィルムとしての性能を有さなくても良い。また、必要に応じて、原料フィルムを成形した後、一旦フィルムを保管もしくは移動し,その後フィルムの延伸を行っても良い。原料フィルムを延伸する方法としては、従来公知の任意の延伸方法が採用され得る。具体的には、例えば、ロールや熱風炉を用いた縦延伸、テンターを用いた横延伸、およびこれらを逐次組み合わせた逐次二軸延伸等がある。また、縦と横を同時に延伸する同時二軸延伸方法も採用可能である。ロール縦延伸を行った後、テンターによる横延伸を行う方法を採用しても良い。
【0065】
本発明の偏光子保護フィルムは、一軸延伸フィルムの状態で最終製品とすることができる。さらに、延伸工程を組み合わせて行って二軸延伸フィルムとしても良い。二軸延伸を行う場合、必要に応じ、縦延伸と横延伸の温度や倍率などの延伸条件が同等であってもかまわなく、また、意図的に変えることにより、フィルムに機械的な異方性を付与してもかまわない。
【0066】
フィルムの延伸温度および延伸倍率は、得られたフィルムの機械的強度および表面性、厚み精度を指標として適宜調整することができる。延伸温度の範囲は、DSC法によって求めたフィルムのガラス転移温度をTgとしたときに、好ましくは、Tg−30℃〜Tg+30℃の範囲である。より好ましくは、Tg−20℃〜Tg+20℃の範囲である。さらに好ましくは、Tg以上、Tg+20℃以下の範囲である。延伸温度が高すぎる場合、得られたフィルムの厚みむらが大きくなりやすい上に、伸び率や引裂伝播強度、耐揉疲労等の力学的性質の改善も不十分になりやすい。また、フィルムがロールに粘着するトラブルが起こりやすい。逆に、延伸温度が低すぎる場合、延伸フィルムの濁度が高くなりやすく、また、極端な場合には、フィルムが裂ける、割れる等の工程上の問題を引き起こしやすい。好ましい延伸倍率は、延伸温度にも依存するが、1.1倍から3倍の範囲で選択される。より好ましくは、1.3倍〜2.5倍である。さらに好ましくは、1.5倍〜2.3倍である。
【0067】
また、フィルム化の際に、必要に応じて熱安定剤、紫外線吸収剤、滑剤等の加工性改良剤、あるいは、フィラーなどの公知の添加剤やその他の重合体を含有していてもかまわない。特に、フィルムの滑り性を改善する目的でフィラーを含有させても良い。フィラーとして、無機または有機の微粒子を用いることができる。無機微粒子の例としては、二酸化珪素、二酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウムなどの金属酸化物微粒子、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウムなどのケイ酸塩微粒子、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、およびリン酸カルシウムなどを用いることが出来る。有機微粒子としては、シリコン系樹脂、フッ素系樹脂、アクリル系樹脂、架橋スチレン系樹脂などの樹脂微粒子を用いることができる。
【0068】
本発明の偏光子保護フィルムに紫外線吸収剤を含有させることにより、耐候性を向上する他、本発明の偏光子保護フィルムを用いる液晶表示装置の耐久性も改善することができ実用上好ましい。紫外線吸収剤としては、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−p−クレゾール、2−ベンゾトリアゾール−2−イル−4,6−ジ−t−ブチルフェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、2−(4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン−2−イル)−5−[(ヘキシル)オキシ]−フェノールなどのトリアジン系紫外線吸収剤、オクタベンゾン等のベンゾフェノン系紫外線吸収剤等が挙げられ、また、2,4−ジ−t−ブチルフェニル−3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系光安定剤やビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤も使用できる。
【0069】
本発明の偏光子保護フィルムには、必要に応じて表面処理を施し、他の材料との接着性を改善することも可能である。表面処理の方法としては、従来公知の任意の方法が可能である。例えば、コロナ放電処理や火花処理などの電気的処理、低圧または常圧下でのプラズマ処理、オゾン存在下または非存在下での紫外線照射処理、クロム酸等による酸処理、アルカリけん化処理、火焔処理、およびシラン系プライマー処理もしくはチタン系プライマー処理などが挙げられる。これらの方法により、フィルム表面の表面張力を50dyne/cm以上にすることが可能である。
【0070】
また、接着剤や粘着剤との親和性を改善するために、フィルムの片面あるいは両面に、易接着層を設けることができる。好ましい易接着層としては、共重合ポリエステルや、それらのウレタン変性したもの、更には、カルボキシル基やスルフォン酸基を有する共重合ポリエステルなどの他、ポリビニルアルコールなどの溶液又は水分散液を塗布乾燥した層を用いることができる。また、セルロースエステル樹脂などを易接着層として設け、これをアルカリけん化処理を施し親和性を改善する方法も用いることができる。
【0071】
本発明の偏光子保護フィルムには、必要に応じてハードコート、アンチグレアコート、無反射コート、その他の機能性コートなどのコーティング処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例にて具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した物性の各測定方法は次ぎのとおりである。
【0073】
(1)イミド化率の定量
生成物のペレットをそのまま用いて、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温にてIRスペクトルを測定した。得られたスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属される吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属される吸収強度(Absimide)の比から、以下の式1によりイミド化率(Im%)を求めた。
【0074】
【数1】

【0075】
(2)ガラス転移温度(Tg)
生成物10mgを用いて、示差走査熱量計(DSC、株式会社島津製作所製DSC−50型)を用いて、窒素雰囲気下、昇温速度20℃/minで測定し、中点法により決定した。
【0076】
(3)スチレン含量
Varian社製NMR測定装置Gemini−300を用い、芳香族由来の吸収と脂肪族由来の吸収の積分比から、スチレン含量を決定した。
【0077】
(4)全光線透過率
フィルムから50mm×50mmのサイズの試験片を切り出した。この試験片を、日本電色工業株式会社製濁度計NDH−300Aを用いて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%において、JIS K7105−1981の5.5記載の方法により測定した。
【0078】
(5)濁度
(4)で得た試験片を、日本電色工業株式会社製濁度計NDH−300Aを用いて、温度23℃±2℃、湿度50%±5%において、JIS K7105に準じて測定した。
【0079】
(6)面内位相差Reおよび厚み方向位相差Rth
フィルムから、4cm×4cmの試験片を切り出した。この試験片を、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃、湿度50±5%において、波長590nm、入射角0゜で面内位相差Reを測定した。デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した試験片の厚みd、および、アッベ屈折計(株式会社アタゴ製 3T)で測定した屈折率n、自動複屈折計で測定した波長590nm、面内位相差Reおよび40°傾斜方向の位相差値から3次元屈折率nx、ny、nz、を求め、厚み方向位相差 Rth=|(nx+ny)/2−nz|×d (||は絶対値を表す)を計算した。
【0080】
(7)光弾性係数
フィルムから、幅15mm×長さ60mmの短冊状に試験片を切り出し、自動複屈折計(王子計測株式会社製 KOBRA−WR)を用いて、温度23±2℃湿度50±5%において、波長590nmにて測定した。フィルムの一方を固定し、他方は無荷重から1000gfまで100gfごとに順次荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から単位応力による複屈折の変化量を算出した。
【0081】
(製造例1)
市販のMS樹脂(新日鐵化学株式会社製MS−800)を、イミド化剤としてメチルアミンを用い、イミド化樹脂を製造した。用いた押出機は口径15mmの噛合い型同方向回転式二軸押出機である。押出機の各温調ゾーンの設定温度を230℃、スクリュー回転数300rpm、MS樹脂を0.75kg/hrで供給し、メチルアミンの供給量はMS樹脂に対して40重量部とした。ホッパーからMS樹脂を投入し、ニーディングブロックによって樹脂を溶融、充満させた後、ノズルからメチルアミンを注入した。反応ゾーンの末端にはシールリングを入れて樹脂を充満させた。反応後の副生成物および過剰のメチルアミンをベント口の圧力を−0.02MPaに減圧して脱揮した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂は、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化した。
【0082】
(製造例2)
MS樹脂の供給量を1.0kg/hrとした以下は、製造例1と同様に行った。
【0083】
(比較製造例1)
メチルアミンの供給量をMS樹脂に対して30部とした以外は、製造例2と同様に行った。
【0084】
(比較製造例2)
MS樹脂として新日鐵化学株式会社製MS樹脂MS−600を使用し、メチルアミンの供給量を30重量部とした以外は、製造例2と同様に行った。
【0085】
(実施例1)
製造例1で得られたイミド化樹脂のイミド化率、ガラス転移温度、スチレン含量を表1に示す。得られたイミド化樹脂を塩化メチレンに溶解して(樹脂濃度25wt%)、PETフィルム上に塗布し、乾燥してキャストフィルムを作成した。このフィルムから、幅50mm×長さ150mmのサンプルを切り出し、延伸倍率2倍で、ガラス転移温度より5℃高い温度で、一軸延伸フィルムを作成した。この一軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。また、この一軸軸延伸フィルムの光弾性係数を測定したところ、3×10-122/Nであった。
【0086】
(実施例2)
実施例1と同じイミド化樹脂を用いて作成したキャストフィルムを延伸倍率2倍(縦・横)、ガラス転移温度より20℃高い温度で同時二軸延伸(株式会社東洋精機製 二軸延伸装置 X4HD)を行ない二軸延伸フィルムを作成した。この二軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。
【0087】
(実施例3)
製造例2で得られたイミド化樹脂のイミド化率、ガラス転移温度、スチレン含量、およびこの樹脂を用いて実施例1と同様の方法で作成した一軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。
【0088】
(実施例4)
製造例2で得られたイミド化樹脂のイミド化率、ガラス転移温度、スチレン含量、およびこの樹脂を用いて実施例2と同様の方法で作成した二軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。
【0089】
(比較例1)富士写真フィルム株式会社製トリアセチルセルロース(TAC)フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。このフィルムの光弾性係数を測定したところ、15×10-122/Nであった。
【0090】
(比較例2)
比較製造例1で得られたイミド化樹脂のイミド化率、ガラス転移温度、スチレン含量、およびこの樹脂を用いて実施例1と同様の方法で作成した一軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。
【0091】
(比較例3)
比較製造例2で得られたイミド化樹脂のイミド化率、ガラス転移温度、スチレン含量、およびこの樹脂を用いて実施例1と同様の方法で作成した一軸延伸フィルムの全光線透過率、濁度、面内位相差、厚み方向位相差を表1に示す。
【0092】
【表1】

【0093】
以上から本発明のフィルムは、いずれも良好な耐熱性、透明性を有しており、また、光学異方性が小さく、偏光子保護フィルムとして有用なことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)、(2)、(3)で表される繰り返し単位を含有することを特徴とする熱可塑性樹脂からなり、フィルムの面内位相差が10nm以下であり、かつ、厚み方向位相差が20nm以下であることを特徴とする偏光子保護フィルム。
【化1】

(ここで、R1およびR2は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【化2】

(ここで、R4およびR5は、それぞれ独立に、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【化3】

(ここで、R7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基を示し、R8は、炭素数6〜10のアリール基を示す。)
【請求項2】
延伸されていることを特徴とする請求項1記載の偏光子保護フィルム。
【請求項3】
熱可塑性樹脂における、一般式(1)で示される繰り返し単位と、一般式(3)で示される繰り返し単位の重量比が、2.0:1.0〜4.0:1.0の範囲にあることを特徴とする、請求項1または2記載の偏光子保護フィルム。
【請求項4】
熱可塑性樹脂の光弾性係数が10×10-122/N以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項5】
熱可塑性樹脂のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の偏光子保護フィルムを用いた偏光板。

【公開番号】特開2006−317560(P2006−317560A)
【公開日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−137903(P2005−137903)
【出願日】平成17年5月10日(2005.5.10)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】