説明

偏心形回転弁

【課題】弁本体の閉塞や動作不良の発生を抑制することができ、しかも弁プラグの摩滅を防止することができる偏心形回転弁を提供する。
【解決手段】流体搬送用の流路3を形成した弁本体2と、流路3の中途部に形成された弁室4と、流路3と直交する軸線P2を備えた弁軸5と、弁室4内で回転可能となるように弁軸5に設けられ且つ流路3を開閉する弁プラグ6とを備え、弁軸5の軸線P2が流路3の軸線P1から偏心していると共に、弁プラグ6は流路3を全閉しているときと全開しているときとで90°の範囲で弁室4内にて回転すると共に流路3を全開しているときには流路3の弁プラグ6によって開閉される開口部分が遮らない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、流体制御のための偏心形回転弁に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2004−337099号公報
【特許文献2】特開2001−349447号公報
【特許文献3】特開2006−090408号公報
【0003】
従来から、移動用手段としての自動車等の車両の利便性は高いが、地球環境資源との整合性をとる必要がある。
そこで再生可能なバイオマスを原料にしたエタノールをレギュラーガソリンに混合(例えば、5%/重量)した燃料は、既存のガソリンを駆動燃料とする車両エンジンを交換することなく用いられるため、石油危機が懸念される昨今、将来的には再生可能な重要なエネルギー資源として期待されている。
【0004】
エタノール醗酵はサトウキビ等の糖質資源,穀物等の澱粉質資源,農林産廃棄物やポプラ等のセルロース系資源を原料として醗酵プロセスによりエタノールを生成するものである。
この際、農作物を原料としたエタノール醗酵は実用化されつつあるが、本来食用に供されるものを用いているため、入手する原料価格がエタノール製造価格に対して非常に大きな影響を与えている。
【0005】
これに対して木質系バイオマスは資源量が豊富であり、食料資源との競合がなく安定して安価に供給される利点があるうえ、産出されている木質系廃材のうち、その一部がパルプ用のチップとしての需要があり、残りはエタノール醗酵用に利用可能となっている。
このような木材チップのような木質系バイオマスなどの天然系の資源収集したチップ化後のバイオマス原料は、加水分解等の糖化工程により糖質に分解した後、微生物の発酵工程によりエタノールに変換し、蒸留・脱水等の精製行程を経てエネルギーや化学原料として利用される(例えば、特許文献1参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、このようなバイオマスエタノール製造プロセスにおいて、上述した加水分解処理を行うに際して、高温希硫酸の分解槽から流体を抜き出す場合、バイオマスチップ残渣がスラリー成分として流体中に存在しているために、バルブの閉塞、作動不良、磨耗(摩滅)等の問題が発生していた。
この際、抜出弁として玉型弁(例えば、特許文献2参照)を用いた場合、主流路に弁プラグが存在しているために、そこを基点としてバイオマスチップ残渣が堆積してきわめて短時間で閉塞が発生してしまうという問題が生じる。
【0007】
また、このような閉塞を防止するためにボール弁(例えば、特許文献3参照)やプラグ弁を用いた場合、上述した閉塞の問題は発生し難いものの、弁本体と弁プラグとの間に入り込んだスラリーを含んだ流体の反応が進行して、腐食に伴う動作不良等の問題を引き起こしてしまう虞があるうえ、ボールやプラグ等の弁プラグ部分にも摩滅が進行し、早期にメンテナンスが効かない状況に陥ってしまうという問題が発生していた。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するため、弁本体の閉塞や動作不良の発生を抑制することができ、しかも弁プラグの摩滅を防止することができる偏心形回転弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
その目的を達成するため、本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、流体搬送用の流路を形成した弁本体と、前記流路の中途部に形成された弁室と、前記流路と直交する軸線を備えた弁軸と、前記弁室内で回転可能となるように前記弁軸に設けられ且つ前記流路を開閉する弁プラグとを備え、前記弁軸の軸線が前記流路の軸線から偏心している偏心形回転弁において、前記弁プラグは、前記流路を全閉しているときと全開しているときとで90°の範囲で前記弁室内にて回転すると共に、前記流路を全開しているときには前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口部分を遮らないことを特徴とする。
【0010】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、弁プラグが流路を全開しているときには流路の開口部分を遮らないことにより、流体の弁室内での閉塞を防止することができる。
【0011】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、前記流路の前記弁室よりも流体排出側にスリーブが設けられていることを特徴とする。
【0012】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、高差圧のスラリー流体が放出される弁室よりも流体排出側の流路にスリーブが設けられていることにより、流出側流路内に発生する摩滅による弁本体の寿命低下を防止することができる。
【0013】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、前記流路中の壁面には、その表面を平滑化すると共に硬度の高いコーティング処理が施されていることを特徴とする。この際、コーティングにはDLC(Diamond Like Carbon)を施すことが望ましい。また、コーティングに合成ダイヤモンドコーティングを用いることによって耐摩耗性を向上することができる。
【0014】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、コーティングを施したことにより、流路中の表面が平滑化されてスラリーの表面付着が防止されると共に硬度化による摩滅を防止することができる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、前記弁プラグの回転方向前後に位置する縁部はナイフエッジ状とされていることを特徴とする。この際、前記縁部は30度以下に設定されることが望ましい。
【0016】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、弁プラグによって開口部分を閉成する時に開口縁部の付着物を削ぎ落とすことができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、前記流路の軸線に対する前記弁軸の偏心量をe、前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口部分の口径をDとしたときのe/Dを1/10以下としたことを特徴とする。この際、前記弁プラグの少なくとも閉成方向前方に位置する縁部寄りの表面は、前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口縁部に対して摺接するように回転中心を基準とする円弧状に形成されていることが望ましい。
【0018】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、弁プラグによって開口部分を閉成する直前の弁プラグの進入角度を3度以下とすることができ、開口縁部への付着物を剥離する力学的くさび効果が発揮され、さらには異物噛み込みによる弁プラグの損傷を防止することができる。。
【0019】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁は、前記弁本体には、前記弁室に連通するパージ口が設けられていることを特徴とする。
【0020】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、弁本体にパージ口を設けて高圧スチームで定期パージすることでスラリーの堆積をより一層防止することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁によれば、弁本体の閉塞や動作不良の発生を抑制することができ、しかも弁プラグの摩滅を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
次に、本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁の実施の形態を、希硫酸法による木質片バイオマスエタノール製造プロセス用に適用し、図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁を示し、図1(A)は偏心形回転弁の平断面図、図1(B)は弁プラグの一部を拡大した説明図、図2は本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁の縦断面図、図3は要部の拡大断面図、図4は閉成過程における弁プラグの前縁部の回動奇跡の説明図、図5は開放過程における弁プラグの前縁部の回動奇跡の説明図である。
【0024】
図において、偏心形回転弁1は、鋳型等からなる弁本体2と、弁本体2内で直管状に伸びる流路3と、流路3の中途部に形成された弁室4と、流路3の軸線P1と直交する軸線P2を回転中心とする弁軸5と、弁軸5に保持された弁プラグ6とを備えている。
【0025】
弁本体2の流体流入側(図1の弁室4よりも図示左側)にはホルダー7とシートリング8とが設けられている。また、弁本体2の流体排出側(図1の弁室4よりも図示右側)にはスリーブ9が設けられている。流路3は実質的にこのホルダー7とシートリング8及びスリーブ9によって形成されている。さらに、これらホルダー7、シートリング8、スリーブ9の内壁面には、DLC(Diamond Like Carbon)コーティング10によって表面平滑化並びに表面高硬度化されている。尚、DLCコーティング10は、便宜上図面では厚肉に記載されているが、実際は薄膜状である。尚、弁本体2は、希硫酸法による木質片バイオマスエタノール製造システムの流路の一部を構成しており、図2に示すように、そのシステム全体流路(配管等)を支持するフレーム11,12等にボルト13等の固定手段を介して固定されている。さらに、弁本体2には、弁室4に連通するパージ口14が形成されている。
【0026】
弁軸5は、ここでは流路3を挟むように2本に分割されており、各一端が弁本体2を貫通して弁本体2又はフレーム11,12に固定若しくは回転可能に保持されている。また、弁軸5の軸線P2は、流路3の軸線P1に対する偏心量eは、流路3の開口径Dとしたときのe/Dを1/10以下に設定されている。これにより、図4,図5に示すように、閉弁間際の開口縁部に対する弁プラグ6の進入時(図4)又は退避時(図5)は進入・退避角度が3°以下となり、特に、進入時には弁プラグ6の表面が開口縁部に摺って進入するように設定されている。ここでの進入・退避角度とは、例えば、図4に示すように、弁プラグ6の回転中心(軸線P2)に直交する開口縁部の接線と弁プラグ6の表面とのなす角度αを示す。尚、弁プラグ6の回転方向前後に位置する両縁部付近の表面形状は、その回動奇跡が同心円上に位置するように円弧状とすることが好ましい。また、弁軸5は、図2の上方に位置する弁軸5を弁プラグ6と一体に回転するように弁本体2の外側で回転操作し、図2の下方に位置する弁軸5は弁本体2に対して相対回転不能とすることができる。
【0027】
弁プラグ6は、流路3の流入口を開閉する弁プラグ本体6aと、この弁プラグ本体6aを弁軸5に固定するための平面視略扇形状のフランジ6bとによって断面略コ字形状に形成されている。また、図3に示すように、弁プラグ本体6aの少なくとも閉弁時に流路3と対面する表面においてもDLCコーティング15(図3の太線で示す)が設けられている。さらに、弁プラグ6の回動方向前後の縁部6cは角度θ≧30°のナイフエッジ状とされている。また、弁プラグ2は、弁軸5の偏心により、てこの原理で流路33閉成したときの締切力を大きくすることができる。従って、弁軸5の軸線P1に対する軸線P2の偏心方向は弁プラグ6による流路3の閉成側に偏心させることが好ましい。尚、弁プラグ6は、ここでは一対の弁軸5によって支持されているが、一方(例えば、図2の上方)の弁軸5のみの方持ちとしても良い。
【0028】
上記の構成において、偏心形回転弁1では、弁プラグ6が流路3を開いているとき、弁本体2の流路3の内部を流体、例えば、木製バイオマス廃材(廃木材やサトウキビ等)をチップ化した後、希硫酸で加水分解(加温・加圧)された流体が流れる。
【0029】
このとき、図1(A)の鎖線で示すように、弁プラグ6は、流路3を全閉している状態から流路3を全開している状態までの回転角度は略90°であり、しかも弁プラグ本体6aは流路3を遮らないように弁室4内に位置している。
の中心線を通り弁軸12と平行な平面21に対して弁プラグ6が配置される一方側22aと、他方側22bとの流量をほぼ同じに設定してあり、その一方側22aより他方側22bが狭く、弁室19は非対称に形成されている。
【0030】
このように、本発明の偏心形回転弁1は、弁プラグ6を90°の回転型にして流路3を遮らないようにしたことにより、流路3を全開しているときには、流体を流路3並びに弁室4内に閉塞させることを防止することができる。
【0031】
また、流路3中の構成部品表面にDLCコーティング10,15を施したことにより、表面平滑化並びに表面高硬度化することができ、流体の通過に伴う構成部品の摩滅を防止することができる。
【0032】
さらに、弁プラグ6の回転方向前後に位置する縁部(リーディングエッジ)6cを角度30°以下の鋭利なナイフエッジ形状にし、特に、弁プラグ6による閉止時に流路3の開口縁部付近での弁プラグ6の表面との摺動時に付着物を削ぎ落とす効果を持たせることができ、スラリーの堆積をより一層防止することが可能となった。
【0033】
また、弁軸5の偏心量eを流路3の開口径Dに対して1/10以下とすることによって、弁閉止間際の弁プラグ6の進入角度を3度以下とすることができ、付着物を剥離する力学的くさび効果を増大することができ、しかも、異物噛み込みによる弁プラグ本体6aの損傷を防止することができる。
【0034】
さらに、スリーブ9を設けたことにより、流体を希硫酸で加水分解(加温・加圧)したものとした場合には、高差圧のスラリー流体を放出することとなるため、特に弁室3の下流側に位置する流路3の排出側の内壁に発生する摩滅による弁本体2の寿命低下を防止することができる。尚、スリーブ9は定期的に交換可能である。
【0035】
尚、弁プラグ6は、弁本体2と弁プラグ本体6aとの間にパージ不能のデットスペースは無く、この部分での化学反応の進行(腐食・作動不良)の問題は無いが、開放系ではあるが弁本体2と弁プラグ6との間には主流路から外れて滞留する部分が存在していることに起因するスラリー堆積を防止するため、弁本体2にパージ口14を設けて高圧スチームで定期パージすることで動作不良を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁を示し、(A)は偏心形回転弁の平断面図、(B)は弁プラグの一部を拡大した説明図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁の縦断面図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁の要部の拡大断面図である。
【図4】本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁を示し、閉成過程における弁プラグの前縁部の回動奇跡の説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る偏心形回転弁を示し、開放過程における弁プラグの前縁部の回動奇跡の説明図である。
【符号の説明】
【0037】
1…偏心形回転弁
2…弁本体
3…流路
4…弁室
5…弁軸
6…弁プラグ
6c…縁部
10…コーティング
15…コーティング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体搬送用の流路を形成した弁本体と、前記流路の中途部に形成された弁室と、前記流路と直交する軸線を備えた弁軸と、前記弁室内で回転可能となるように前記弁軸に設けられ且つ前記流路を開閉する弁プラグとを備え、前記弁軸の軸線が前記流路の軸線から偏心している偏心形回転弁において、
前記弁プラグは、前記流路を全閉しているときと全開しているときとで90°の範囲で前記弁室内にて回転すると共に、前記流路を全開しているときには前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口部分を遮らないことを特徴とする偏心形回転弁。
【請求項2】
前記流路の前記弁室よりも流体排出側にスリーブが設けられていることを特徴とする請求項1に記載の偏心形回転弁。
【請求項3】
前記流路中の壁面には、その表面を平滑化すると共に硬度の高いコーティング処理が施されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の偏心形回転弁。
【請求項4】
前記弁プラグの回転方向前後に位置する縁部はナイフエッジ状とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れかに記載の偏心形回転弁。
【請求項5】
前記縁部は30度以下に設定されていることを特徴とする請求項3に記載の偏心形回転弁。
【請求項6】
前記流路の軸線に対する前記弁軸の偏心量をe、前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口部分の口径をDとしたときのe/Dを1/10以下としたことを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れかに記載の偏心形回転弁。
【請求項7】
前記弁本体には、前記弁室に連通するパージ口が設けられていることを特徴とする請求項1乃至請求項6の何れかに記載の偏心形回転弁。
【請求項8】
前記弁プラグの少なくとも閉成方向前方に位置する縁部寄りの表面は、前記流路の前記弁プラグによって開閉される開口縁部に対して摺接するように回転中心を基準とする円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項7の何れかに記載の偏心形回転弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−303477(P2007−303477A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−129181(P2006−129181)
【出願日】平成18年5月8日(2006.5.8)
【出願人】(307009414)株式会社本山製作所 (5)
【Fターム(参考)】