説明

側突用エアバッグ装置

【課題】乗員を広い領域で拘束しつつ、エアバッグを展開膨張した位置に保持し、拘束性能のさらなる向上を図る。
【解決手段】側突用エアバッグ装置は、車幅方向に複数の後席15が並設された車両の側突に際し、基端部27Bにおいて固定されたエアバッグ27にインフレータ26から膨張用ガスGを供給し、同エアバッグ27を隣り合う後席15間で袋状に展開膨張させて乗員を拘束する。エアバッグ27の展開方向についての先端27Tよりも前方に引き込み装置29を設け、非伸縮性を有する織布により形成されたストラップ28の前端部28Fを引き込み装置29に接続し、後端部28Rを先端27Tに接続する。エアバッグ27の展開膨張時には引き込み装置29によりストラップ28を引き込んで緊張させ、エアバッグ27に張力を付与して車幅方向の変位を規制し、同エアバッグ27を展開膨張した位置に保持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車幅方向に複数の座席が並設された車両に対し、側突により側方から衝撃が加わったときに、インフレータ等の膨張流体発生源から膨張用ガス等の膨張流体をエアバッグに供給し、そのエアバッグを隣り合う座席間で展開膨張させて乗員を拘束するようにした側突用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車幅方向に複数の座席が並設された車両では、側突によりドア等のボディサイド部に衝撃が加わった場合に、そのボディサイド部に近い側(側突側)の乗員を保護することはもちろんのこと、ボディサイド部から遠い側(反側突側)の乗員を保護することも重要であり、その保護のための手段として側突用エアバッグ装置が有効である。この側突用エアバッグ装置の一態様として、側突により車両に側方から加わる衝撃に応じ、基端部において固定されたエアバッグに対しインフレータから膨張用ガスを供給し、エアバッグを車幅方向に隣り合う座席間で、すなわち車幅方向についての中央部付近で展開膨張させるものがある。この側突用エアバッグ装置によれば、反側突側の乗員をエアバッグによって受け止め、側突側の乗員又は内装品との干渉を抑制することができる。
【0003】
上記タイプの側突用エアバッグ装置では、展開膨張したエアバッグは基端部においてのみ固定された、いわゆる片持ち梁状態となる。そのため、反側突側の乗員の側突側へ向かう荷重がエアバッグに加わっても、エアバッグが展開膨張した位置から変位しないようにすることが重要である。
【0004】
この点、例えば、特許文献1には、気体発生器から発生される気体により膨張する一対の編組管を用いた乗員の保護装置が記載されている。各編組管は、屈曲された状態で座席の側部の格納位置に格納されている。この格納位置では、各編組管の両端が座部の側面前端及び背もたれ部の側面上端に固定されている。そして、側突による衝撃が検出されると、気体発生器から気体が各編組管に供給されて、同編組管が膨張する。各編組管は膨張に伴い太く短くなって格納位置から引き出され、座部の前端と背もたれ部の上端とを斜めに繋いだ状態となって乗員の側方への変位を規制する。各編組管は、その両端部において座席に固定されているため、反側突側の乗員の荷重が加わっても膨張した位置から変位しにくい。
【特許文献1】特表平10−501779号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記特許文献1に記載の保護装置では、編組管の変位を抑制することができるものの、同編組管が管状をなしているため、これを大きく膨張させるにも限度があり、乗員を拘束し得る領域が狭い。そのため、反側突側の乗員を編組管の広い面で受け止めることができず、乗員を意図したように拘束できないおそれがある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、乗員を広い領域で拘束しつつ、エアバッグを展開膨張した位置に保持し、拘束性能のさらなる向上を図ることのできる側突用エアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車幅方向に複数の座席が並設された車両の側突に際し、基端部において固定されたエアバッグに膨張流体発生源から膨張流体を供給し、隣り合う座席間で同エアバッグを袋状に展開膨張させて乗員を拘束するようにした側突用エアバッグ装置であって、前記エアバッグの展開膨張時には、自身の少なくとも一部が前記エアバッグに接した状態で、同エアバッグの展開方向についての先端よりも前方の箇所と、同先端又は先端よりも後方の箇所との間で緊張することにより、同エアバッグの車幅方向の変位を規制する変位規制部材を設けることを要旨とする。
【0008】
上記の構成によれば、車両に対し側突による衝撃が側方から加わると、エアバッグを挟んで反側突側の乗員が側突側へ倒れ込もうとする。一方、上記衝撃に応じ、膨張流体発生源から膨張流体がエアバッグに供給されて、同エアバッグが隣り合う座席間で展開膨張する。上記反側突側の乗員の倒れ込みに伴う荷重がこのエアバッグに作用する。
【0009】
ここで、展開膨張したエアバッグは基端部においてのみ固定された、いわゆる片持ち梁状態となる。そのため、何らの対策も講じられていないと、上記のように乗員からの荷重が作用した場合には、エアバッグが側突側へ変位するおそれがある。
【0010】
しかし、請求項1に記載の発明では、変位規制部材が、展開膨張されたエアバッグの展開方向についての先端よりも前方の箇所と、同先端又は先端よりも後方の箇所との間で緊張させられる。この緊張した変位規制部材の少なくとも一部がエアバッグに接することにより、エアバッグは、固定端である上記基端部に加え、さらに別の箇所でも動きを拘束される。そのため、乗員の上記荷重が作用してもエアバッグは側突側を含め車幅方向へは変位しにくく、展開膨張した位置に保持される。何らの対策も講じられていない場合よりも同荷重がエアバッグによって確実に受け止められて乗員が拘束されるようになる。
【0011】
また、このエアバッグは展開膨張時には袋状となるため、管状に展開膨張するものに比べて乗員を広い領域で受け止めて拘束することが可能となる。
なお、上記変位規制部材としては、例えば請求項2に記載の発明によるように、非伸縮性のストラップを用いることができる。こうしたストラップを用いることで、緊張したときにストラップが伸びにくいため、エアバッグにおいてストラップの接触した箇所の拘束を通じてエアバッグを展開膨張した位置に確実に保持することができる。
【0012】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の発明において、前記変位規制部材は、前記エアバッグの非展開膨張時には、弛緩させられた状態で乗員の着座領域から外れた箇所に配策されていることを要旨とする。
【0013】
変位規制部材が上記の態様で配索されれば、車両に対し側突による衝撃が加わらずエアバッグが膨張しないときに、変位規制部材が、着座姿勢を採っている乗員の邪魔になりにくい。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の発明において、前記変位規制部材は、前記車両の内装品の表面近傍に埋設されており、前記エアバッグの展開膨張に際し前記内装品の外部へ出て緊張するものであることを要旨とする。
【0015】
上記の構成によれば、車両に対し側突による衝撃が加わらずエアバッグが膨張しないときには、変位規制部材が車両の内装品から表出せず、見栄えを損なうことがない。また、車両に対し側突による衝撃が加わり、エアバッグが展開膨張するときには、変位規制部材は内装品から外へ出て緊張し、エアバッグの変位を規制する。
【0016】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれか1つに記載の発明において、前記エアバッグの展開方向についての前記先端よりも前方に設けられ、前記エアバッグの展開膨張時に前記変位規制部材を引き込む引き込み装置をさらに備えることを要旨とする。
【0017】
上記の構成によれば、エアバッグの展開膨張時に引き込み装置が作動させられることで、変位規制部材が引き込まれて緊張し、エアバッグに対し、これを展開方向前方へ引張る張力が付与される。この張力により、エアバッグが展開膨張した位置に確実に保持される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の側突用エアバッグ装置によれば、車両の側突に際しエアバッグを袋状に展開膨張させるとともに、変位規制部材を緊張させてエアバッグの車幅方向の変位を規制するようにしたため、乗員を広い領域で拘束しつつ、エアバッグを展開膨張した位置に保持し、拘束性能のさらなる向上を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を具体化した一実施形態について、図1〜図6を参照して説明する。
なお、以下の記載において、車両の前進方向を前方(車両前方)として説明し、車両の後進方向を後方(車両後方)として説明する。また、以下の記載における上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車両の車幅方向であって車両前進時の左右方向と一致するものとする。
【0020】
図1及び図2の少なくとも一方に示すように、車両の室内(車室11内)には複数の座席が配設されている。これらの座席は、車室11内の前部において車幅方向に並設された一対の前席(運転席12及び助手席13)と、同車室11内の後部において車幅方向に並設された一対の後席14,15とからなる。運転席12及び助手席13は、いずれも略水平状に配置された座部16と、その座部16の後側に配置された背もたれ部17とを備えて構成されている。運転席12の座部16と助手席13の座部16との間には、車両前後方向へ延びるセンターコンソール18が設けられている。センターコンソール18にはシフトレバー、サイドブレーキレバー等の操作部が設けられるほか、カップホルダ、灰皿、小物入れ等の収納スペースが設けられている。
【0021】
また、左右両側の後席14,15もまた上記運転席12等と同様に、座部21及び背もたれ部22を備えて構成されている。両座部21間には、同座部21の車両前後方向における長さと同程度の長さを有する中間部23が設けられている。また、両背もたれ部22間には、上記中間部23の後端部から上方に向けて延びる延設部24が設けられている。この延設部24の上部には収容部25が設けられている。
【0022】
本実施形態の車両には、側突により同車両に側方から衝撃が加わった場合に、反側突側(これについては後述する)の後席の乗員Pを保護する手段として側突用エアバッグ装置が装備されている。次に、この装置について説明する。
【0023】
図3及び図4の少なくとも一方に示すように、上記収容部25内には、側突用エアバッグ装置の主要部をなすエアバッグモジュールAMが収容されている。エアバッグモジュールAMは、膨張流体発生源及びエアバッグ27を備えて構成されている。膨張流体発生源は、膨張流体としての膨張用ガスGを発生するインフレータ26からなる。
【0024】
インフレータ26には、膨張用ガスGの生成態様の違いから複数のタイプがあるが、ここでは、パイロタイプと呼ばれるインフレータ26が用いられている。このタイプのインフレータ26の内部には、膨張用ガスGを発生するガス発生剤(図示略)が収容されている。インフレータ26には、上記ガス発生剤にて発生された膨張用ガスGを噴出する複数のガス噴出孔26A(図4参照)が設けられるとともに、同インフレータ26への制御信号の印加配線となるハーネス(図示略)が接続されている。そして、このインフレータ26は収容部25の内壁等に固定されている。
【0025】
なお、インフレータ26として、上記パイロタイプとは異なるタイプが用いられてもよい。こうしたタイプとしては、高圧ガスの充填された高圧ガスボンベの隔壁を火薬等によって破断して膨張用ガスGを噴出させるストアードガスタイプや、パイロタイプとストアードガスタイプの両者を組み合わせた形態のハイブリッドタイプ等が挙げられる。
【0026】
また、上記インフレータ26とともにエアバッグモジュールAMを構成するエアバッグ27は、折り畳まれることによりコンパクトにされた状態で収容部25内に収容されている。
【0027】
エアバッグ27は、強度が高く、かつ可撓性を有していて容易に折り畳むことのできる素材、例えばポリエステル糸やポリアミド糸等によって形成した織布等を基布30として用い、この基布30の周縁部を縫製糸で縫着すること等によって所定の袋状に形成されている。なお、図4中の太い破線は、縫製糸による縫着部分を示している。エアバッグ27は、その上端後部を基端部27Bとして上記収容部25の内壁等に固定されている。エアバッグ27は、展開膨張を完了したときに後席14,15の乗員Pを側方から保護し得る大きさ・形状を有している(図3参照)。この大きさは、エアバッグ27が、展開膨張を完了したときに車室11内の内装品、例えばルーフパネルRP、上記中間部23等に接触する大きさよりも小さい(図6参照)。
【0028】
さらに、車両には、図5及び図6の少なくとも一方に示すように、上記側突時に展開膨張するエアバッグ27の車幅方向の変位を規制する変位規制部材としてストラップ28が用いられている。このストラップ28は、柔軟性及び非伸縮性を有する材料によって形成されている。こうした素材としては例えば、緊密に織成された織布等が適している。
【0029】
上記ストラップ28による変位規制は、エアバッグ27の展開膨張時に、ストラップ28の少なくとも一部がエアバッグ27に接した状態で、同エアバッグ27の展開方向についての先端27Tよりも前方の箇所と、同先端27T又は先端27Tよりも後方の箇所との間で緊張することにより行われる。ここでは、センターコンソール18の後部が前者の箇所として設定され、エアバッグ27の先端27Tが後者の箇所として設定されている。
【0030】
そして、ストラップ28の後端部28Rはエアバッグ27の先端27Tの近傍に縫着、接着等の手段によって固定されている。上述したように、エアバッグ27が非展開膨張時には収容部25内に収容されていることから、ストラップ28の後端部28Rもまたエアバッグ27の非展開膨張時には収容部25内に収容されている(図5参照)。また、ストラップ28の前端部28Fは、センターコンソール18の後部に内蔵された引き込み装置29に接続されている。この引き込み装置29は、エアバッグ27の展開膨張時にストラップ28を巻き取る等して引き込む周知の機構を有しており、ストラップ28の引き込み装置29から後方へ出ている箇所を、エアバッグ27に張力を付与するのに適切な長さに調整・保持する。
【0031】
上記ストラップ28は、エアバッグ27の非展開膨張時には、弛緩させられた状態で乗員Pの着座領域A(図5参照)から外れた箇所に配策されている。ここで、着座領域Aとは、乗員Pが着座姿勢を採ったとき(後席14,15に着座したとき)に占める空間である。図5では、二点鎖線によって囲まれた空間が着座領域Aに該当する。ストラップ28は、上記の箇所として、それぞれ車両の内装品であるセンターコンソール18、フロアカーペット19、中間部23及び延設部24の各表面近傍に埋設されている。より詳しくは、センターコンソール18においては、ストラップ28は同センターコンソール18内であってその表面に近い箇所に配置されている。中間部23及び延設部24についても同様である。また、フロアカーペット19については、ストラップ28は車両のフロアとフロアカーペット19との間に配置されている。ストラップ28はフロアカーペット19により覆われており、同フロアカーペット19の表面近くに埋設されたのと同様の状態となっている。なお、以降では、これらのセンターコンソール18、フロアカーペット19、中間部23及び延設部24を特に区別する必要がないときには、単に「内装品」と記載する場合がある。各内装品の表面部分においてストラップ28の近傍は、他の表面部分よりも低い強度で形成されており、緊張するストラップ28による張力が作用したときに比較的容易に破断して、そのストラップ28の内装品からの飛び出しを許容するようになっている。
【0032】
側突用エアバッグ装置は、前述したインフレータ26及びエアバッグ27のほかに衝撃センサ31及び制御装置32を備えている。衝撃センサ31は加速度センサ等からなり、車両のボディサイド部33(図2参照)等に設けられている。ここで、ボディサイド部33とは、車両の側部に配置された部材を指し、主としてドア、ピラー等がこれに該当する。衝撃センサ31は、ボディサイド部33に側方から加えられる衝撃を検出する。制御装置32は、衝撃センサ31からの検出信号に基づきインフレータ26及び引き込み装置29の各作動を制御する。
【0033】
上記のようにして、本実施形態の側突用エアバッグ装置が構成されている。この側突用エアバッグ装置では、いずれのボディサイド部33に対しても所定値以上の衝撃が加わったことが衝撃センサ31によって検出されないと、制御装置32からインフレータ26及び引き込み装置29のそれぞれに対し、これらを作動させるための指令信号が出力されない。そのため、インフレータ26ではガス発生剤による膨張用ガスGの発生が行われない。また、引き込み装置29ではストラップ28の引き込みが行われない。ストラップ28は、弛緩させられた状態で、乗員Pの着座領域Aから外れた箇所に位置する車両の内装品(センターコンソール18、フロアカーペット19、中間部23及び延設部24)の各表面近傍に埋設され続ける。そのため、ストラップ28が上記各内装品から表出せず、乗員Pには視認されない。また、ストラップ28は着座姿勢を採っている乗員Pに触れることはない。
【0034】
ところで、左右両側の後席14,15にそれぞれ乗員Pが着座している状況のもと、一方のボディサイド部33に対し側突による衝撃が加わると、エアバッグ27を挟んで反側突側の乗員Pが側突側へ倒れ込もうとする。ここで、「側突側」、「反側突側」は、車幅方向における後席14,15、及びそれらの後席14,15に着座している乗員Pを区別するための語である。「側突側」とは、側突による衝撃が加わったボディサイド部33に近い側を指し、「反側突側」とは同ボディサイド部33から遠い側を指す。
【0035】
一方、ボディサイド部33に所定値以上の衝撃が加わり、そのことが衝撃センサ31によって検出されると、その検出信号に基づき制御装置32からインフレータ26に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じてインフレータ26では、ガス発生剤により高温高圧の膨張用ガスGが生成され、ガス噴出孔26Aから噴出される。この膨張用ガスGがエアバッグ27に供給されることで、同エアバッグ27が折りを解消しながら膨張を開始する。エアバッグ27は、一部(基端部27B)を収容部25内に残した状態で、同収容部25から前方へ出る。その後も膨張用ガスGの供給が一定期間継続されることにより、エアバッグ27は、両乗員P間の空隙を通り前下方へ向けて展開膨張して図3及び図6に示すように所定の形状になる。左右両側の後席14,15における座部21の上方空間がエアバッグ27によって左右に仕切られた状態になる。表現を変えると、左右両側の後席14,15に着座している乗員P間にエアバッグ27が介在した状態になる。このエアバッグ27に対し、上記反側突側の乗員Pの倒れ込みに伴う荷重が側方から作用する。
【0036】
ここで、展開膨張したエアバッグ27は基端部27Bにおいてのみ固定された、いわゆる片持ち梁状態となる。そのため、何らの対策も講じられていないと、上記のように乗員Pからの荷重が作用した場合には、エアバッグ27が側突側へ変位するおそれがある。
【0037】
この点、本実施形態では、衝撃センサ31による上記検出信号に基づき制御装置32から引き込み装置29に対し、これを作動させるための指令信号が出力される。この指令信号に応じ引き込み装置29が作動してストラップ28を引き込む。この引き込みに伴いストラップ28が前方へ引張られ、各内装品の表面部分におけるストラップ28近傍が破断させられ、ストラップ28が破断箇所を通じて各内装品の外部へ飛び出す。上記の引き込みは、展開膨張したエアバッグ27に張力を付与するのに適切な長さになるまで行われて同ストラップ28を緊張させる。この緊張に際し、ストラップ28自体は伸びにくい。この緊張したストラップ28により、エアバッグ27に対し、これを展開方向前方(斜め前下方)へ引張る張力が付与される。エアバッグ27は、固定端である基端部27B(後部上端)に加え、先端27Tの近傍でもストラップ28によって動きを拘束され、展開膨張した位置に保持される。さらに、エアバッグ27は展開膨張時には袋状となる。そのため、管状に展開膨張するもの(特許文献1がこれに該当する)に比べて、乗員Pがより広い領域でエアバッグ27によって受け止められて拘束される。その結果、乗員Pの上記荷重が作用してもエアバッグ27は側突側へは変位しにくく、何らの対策も講じられていない場合よりも同荷重が確実に受け止められて、同乗員Pに加わる衝撃が低減される。
【0038】
なお、上記実施形態では、左右両側の後席14,15に着座している二人の乗員P間にエアバッグ27を展開膨脹させる場合について説明したが、反側突側の後席14(又は15)にのみ乗員Pが着座している場合であっても、上記実施形態と同様の作用が行われる。また、側突側の後席15(又は14)が倒されて、その上方に荷物を搭載するためのスペース等の所定容積の空間が形成されているレイアウトであっても、上記実施形態と同様の作用が行われる。この場合には、荷物と反側突側の乗員Pとの干渉が抑制される。
【0039】
以上詳述した本実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)エアバッグ27として、隣り合う後席14,15間(乗員Pの側方近傍)で袋状に展開膨張するものを用いている。また、エアバッグ27の展開膨張時に、ストラップ28の少なくとも一部をエアバッグ27に接触(後端部28Rをエアバッグ27に固定)させた状態で、同ストラップ28をエアバッグ27の展開方向についての先端27Tよりも前方の箇所と、同先端27Tとの間で緊張させるようにしている。このストラップ28により、エアバッグ27に対し、これを展開方向前方へ引張る張力を付与し、エアバッグ27の車幅方向の変位を規制して、同エアバッグ27を展開膨張した位置に保持することができる。側突に伴う反側突側の乗員Pの側突側への荷重を、袋状に展開膨張するエアバッグ27によって広い領域で確実に受け止めることができる。編組管を管状に展開膨張させる特許文献1と比較して、乗員拘束性能のさらなる向上を図ることができる。
【0040】
(2)ストラップ28として、非伸縮性を有する織布によって形成されたものを用いている。そのため、ストラップ28は緊張したときに伸びにくくエアバッグ27に張力を適切に付与する。その結果、同エアバッグ27においてストラップ28の接触した箇所(先端27T)の拘束を通じて同エアバッグ27を展開膨張した位置に確実に保持することができる。
【0041】
(3)エアバッグ27の非展開膨張時には、ストラップ28を弛緩させた状態で乗員Pの着座領域A(図5の二点鎖線参照)から外れた箇所に配策している。そのため、車両に対し側突による衝撃が加わらず、エアバッグ27が膨張しないときにストラップ28が、着座姿勢を採っている乗員Pの邪魔にならないようにすることができる。
【0042】
(4)ストラップ28を車両の各内装品(中間部23、延設部24等)の表面近傍に埋設し、エアバッグ27の展開膨張に際し同ストラップ28を各内装品の外部へ出させて緊張させるようにしている。そのため、車両に対し側突による衝撃が加わらずエアバッグ27が膨張しないときには、ストラップ28を車両の各内装品から表出させず、表出による見栄え低下を抑制することができる。
【0043】
(5)エアバッグ27の展開方向についての先端27Tよりも前方に、エアバッグ27の展開膨張時にストラップ28を引き込む引き込み装置29を設けている。そのため、エアバッグ27の展開膨張時に引き込み装置29を作動させることで、ストラップ28を引き込み、エアバッグ27に張力を付与するのに適切な長さにして同ストラップ28を緊張させることができる。エアバッグ27を展開方向前方へ引張り、同エアバッグ27を展開膨張した位置に確実に保持することができる。
【0044】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
<ストラップ28について>
・図4において二点鎖線で示すように、エアバッグ27に対するストラップ28の後端部28Rの固定位置を、先端27Tよりも展開方向後方に変更してもよい。この場合には、ストラップ28の後端部28Rをエアバッグ27の一方の側面に固定することとなる。
【0045】
なお、ストラップ28を2本用い、各ストラップ28の後端部28Rをエアバッグ27の両方の側面に固定してもよい。
・図7に示すように、ストラップ28の後端部28Rをエアバッグ27の上記先端27Tに代え、基端部27B又はその近傍(エアバッグ27近傍の構造物)に固定する。エアバッグ27の展開膨張時には、ストラップ28の後半部をエアバッグ27の上縁部27Uに沿って緊張させることにより、同エアバッグ27の下縁部27Lを、同エアバッグ27よりも下方における内装品、例えば中間部23に押付けるようにしてもよい。
【0046】
この押付けに伴う下縁部27L及び中間部23間の摩擦により、同下縁部27Lは車幅方向へ動きにくくなる。エアバッグ27は、固定端である基端部27Bに加え、上縁部27U及び下縁部27Lにおいても動きを拘束された状態となる。このため、ストラップ28によってエアバッグ27の車幅方向の変位を規制して、同エアバッグ27を展開膨張した位置に保持することができ、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0047】
・ストラップ28の前端部28Fの固定箇所を、「エアバッグ27の展開方向について先端27Tよりも前方の箇所である」ことを条件に、引き込み装置29とは異なる箇所に変更してもよい。例えば、図8に示す中間部23の前端部23Fがこの箇所に該当する。この場合には、引き込み装置29によるストラップ28の長さ調節機能は失われるが、エアバッグ27の展開膨張時に、ストラップ28をエアバッグ27の上縁部27Uに沿って緊張させて、エアバッグ27に下方へ向かう力を作用させることは可能である。従って、この場合にも上記図7と同様、エアバッグ27の下縁部27Lを車両の内装品(中間部23)に押付け、エアバッグ27の車幅方向の変位を規制することができる。
【0048】
なお、図示はしないが、ストラップ28の前端部28Fを、エアバッグ27よりも上方における内装品であるルーフパネルRPに固定し、エアバッグ27の展開膨張時にはストラップ28の後半部をエアバッグ27の下縁部27Lに沿って緊張させることにより、同エアバッグ27の上縁部27UをルーフパネルRPに押付けるようにしてもよい。
【0049】
この押付けに伴う上縁部27U及びルーフパネルRP間の摩擦により同上縁部27Uは車幅方向へ動きにくくなる。エアバッグ27は、固定端である基端部27Bに加え、上縁部27U及び下縁部27Lにおいても動きを拘束された状態となる。このため、ストラップ28によってエアバッグ27の車幅方向の変位を規制して、同エアバッグ27を展開膨張した位置に保持することができ、上記実施形態と同様の作用及び効果が得られる。
【0050】
・変位規制部材として、上記ストラップ28とは異なる形態を有するものを用いてもよい。
<膨張流体発生源及び膨張流体について>
・膨張流体として膨張用ガスG以外の流体を用いてもよい。これに伴い膨張流体発生源として上記インフレータ26とは異なる構成を有するものを用いてもよい。
【0051】
<エアバッグ27及びインフレータ26の配置箇所について>
・エアバッグ27及びインフレータ26を、延設部24の上記上端部とは異なる箇所、例えば下端部に配置してもよい。また、エアバッグ27及びインフレータ26を、延設部24とは異なる箇所であって、エアバッグ27の展開膨張に際してその位置が変化しない箇所に配置してもよい。例えば、ルーフパネルRP、中間部23、センターコンソール18等が上記箇所として挙げられる。この変更に伴いエアバッグ27の展開方向が異なってくる。例えば、エアバッグ27及びインフレータ26がセンターコンソール18内に配置される場合には、エアバッグ27は斜め後上方へ向けて展開膨張させられる。
【0052】
ただし、上記実施形態のように、エアバッグ27を延設部24内に配置した場合には、他の箇所に配置した場合に比べ次の利点がある。それは、ルーフパネルRP等に配置する場合に比べて、エアバッグ27を、左右両側の後席14,15に着座している乗員Pの近くに配置でき、車両の側突時に、乗員Pに近い箇所からエアバッグ27を展開膨張させることができ、乗員Pを迅速に保護することができる。
【0053】
<引き込み装置29の配置箇所について>
・エアバッグ27及びインフレータ26の配置箇所の上記変更に伴い、必要に応じ引き込み装置29の配置箇所を変更してもよい。例えば、エアバッグ27及びインフレータ26をセンターコンソール18内に配置した場合には、引き込み装置29を延設部24内に配置してもよい。そのほか、引き込み装置29を車両の内装品であるルーフパネルRPに配置してもよい。
【0054】
<側突用エアバッグ装置の適用範囲について>
・本発明の側突用エアバッグ装置は、車両の後席14,15に限らず、前席(運転席12及び助手席13)に適用することも可能である。すなわち、運転席12に着座する乗員Pと同運転席12の車幅方向に隣接する助手席13との間でエアバッグ27を展開膨脹させて乗員Pを保護することも可能である。この場合、エアバッグモジュールAMが収容される収容部25を、例えば、インストルメントパネルの車幅方向中央部分に配設されるセンタクラスタパネルの内部に設けてもよい。要するに、側突用エアバッグ装置は、隣り合う座席間でエアバッグを展開膨張させるものであればよい。
【0055】
・本発明の側突用エアバッグ装置は、左右両側の後席14,15間に中間部23及び延設部24を有しない車両、すなわち左右両側の後席14,15が隣接している車両にも適用可能である。この場合、エアバッグ27を、いずれか一方の後席14(又は15)の他方の後席15(14)寄りの箇所に収容することが望ましい。
【0056】
・本発明の側突用エアバッグ装置は、車幅方向に3つ以上の座席が並設された車両にも適用可能である。この場合であっても、車両の側突に際し、隣り合う座席間でエアバッグを袋状に展開膨張させる。
【0057】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項1〜5のいずれか1つに記載の側突用エアバッグ装置において、前記変位規制部材は、その一端部において前記エアバッグの前記先端よりも前方の箇所に固定され、他端部において前記エアバッグの前記基端部又はその近傍に固定されており、前記エアバッグの展開膨張時には、同エアバッグの上縁部に沿って緊張することにより、同エアバッグの下縁部を車両の内装品に押付ける。
【0058】
上記の構成によれば、エアバッグの展開膨張時には、変位規制部材がエアバッグの上縁部に沿って緊張する。この緊張した変位規制部材によりエアバッグには下方へ向かう力が作用し、同エアバッグの下縁部が車両の内装品に押付けられる。そのため、エアバッグは、固定端である基端部に加え、上縁部及び下縁部においても動きを拘束された状態となる。このようにして、変位規制部材によるエアバッグの車幅方向の変位規制を行うことができる。
【0059】
(B)請求項1〜5のいずれか1つに記載の側突用エアバッグ装置において、前記変位規制部材は、その一端部において前記エアバッグの前記先端よりも前方の箇所に固定され、他端部において前記エアバッグの前記基端部又はその近傍に固定されており、前記エアバッグの展開膨張時には、同エアバッグの下縁部に沿って緊張することにより、同エアバッグの上縁部を車両のルーフパネルに押付ける。
【0060】
上記の構成によれば、エアバッグの展開膨張時には、変位規制部材がエアバッグの下縁部に沿って緊張する。この緊張した変位規制部材によりエアバッグには上方へ向かう力が作用し、同エアバッグの上縁部がルーフパネルに押付けられる。そのため、エアバッグは、固定端である基端部に加え、下縁部及び上縁部においても動きを拘束された状態となる。このようにして、変位規制部材によるエアバッグの車幅方向の変位規制を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明を具体化した一実施形態における側突用エアバッグ装置を車両の座席とともに示す部分斜視図。
【図2】同じく側突用エアバッグ装置及び座席の概略平面図。
【図3】同じく側突用エアバッグ装置及び座席の概略正断面図。
【図4】同実施形態におけるエアバッグモジュールを示す一部破断側面図。
【図5】同実施形態において、非側突時の側突用エアバッグ装置を車両の座席とともに示す概略側面図。
【図6】同実施形態において、側突時の側突用エアバッグ装置を車両の座席とともに示す概略側面図。
【図7】側突用エアバッグ装置の別の実施形態を示す概略側面図。
【図8】同じく側突用エアバッグ装置の別の実施形態を示す概略側面図。
【符号の説明】
【0062】
12…運転席(座席)、13…助手席(座席)、14,15…後席(座席)、18…センターコンソール(内装品)、19…フロアカーペット(内装品)、23…中間部(内装品)、24…延設部(内装品)、26…インフレータ(膨張流体発生源)、27…エアバッグ、27B…基端部、27T…先端、28…ストラップ(変位規制部材)、29…引き込み装置、A…着座領域、G…膨張用ガス(膨張流体)、P…乗員。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車幅方向に複数の座席が並設された車両の側突に際し、基端部において固定されたエアバッグに膨張流体発生源から膨張流体を供給し、隣り合う座席間で同エアバッグを袋状に展開膨張させて乗員を拘束するようにした側突用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグの展開膨張時には、自身の少なくとも一部が前記エアバッグに接した状態で、同エアバッグの展開方向についての先端よりも前方の箇所と、同先端又は先端よりも後方の箇所との間で緊張することにより、同エアバッグの車幅方向の変位を規制する変位規制部材を設けることを特徴とする側突用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記変位規制部材は非伸縮性のストラップからなる請求項1に記載の側突用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記変位規制部材は、前記エアバッグの非展開膨張時には、弛緩させられた状態で乗員の着座領域から外れた箇所に配策されている請求項1又は2に記載の側突用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記変位規制部材は、前記車両の内装品の表面近傍に埋設されており、前記エアバッグの展開膨張に際し前記内装品の外部へ出て緊張するものである請求項3に記載の側突用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記エアバッグの展開方向についての前記先端よりも前方に設けられ、前記エアバッグの展開膨張時に前記変位規制部材を引き込む引き込み装置をさらに備える請求項1〜4のいずれか1つに記載の側突用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−166680(P2009−166680A)
【公開日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−7120(P2008−7120)
【出願日】平成20年1月16日(2008.1.16)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】