説明

像加熱装置

【課題】 フィルム加熱方式の加熱定着装置が埃や砂の多い新興市場等で使用された場合に、フィルム端面に蓄積した砂や埃が内部に侵入し、それらが原因となって、フィルム内面を削ったり、フィルム破損の起点となる裂けを発生させたりする問題を防止する。
【解決手段】 セラミックヒータのフィルムとの接触面において、フィルムの長手端部より少し内側に、段差を設ける。段差は、表面発熱の場合は発熱体の保護ガラスによって、裏面発熱の場合は、表面に設ける摺動層等によって段差を設ける。埃や砂がフィルム端部から侵入しても、段差とフィルムの間に出来た隙間に引っかかって滞留するため、それ以上内部に侵入したり、フィルム内面を削ったりすることを防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録材に形成された画像を加熱する像加熱装置に関し、特に複写機やプリンタ等に搭載される加熱定着装置として用いれば有効な像加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子写真方式、静電記録方式等を採用する画像形成装置に具備される加熱定着装置(以下、定着装置と呼ぶ)においては、未定着トナー像を担持した記録材を、互いに圧接して回転する定着ローラと加圧ローラとで形成されるニップ部を通過させることにより記録材上に永久画像として定着させる、いわゆる熱ローラ方式の定着装置が広く用いられている。
【0003】
また一方で、スタンバイ時に定着装置に電力を供給せず、消費電力を極力低く抑えたフィルム加熱方式の定着装置が実用化されている。フィルム加熱方式の定着装置は、例えば特開昭63-313182号公報・特開平2-157878号公報・特開平4-44075号公報・特開平4-204980号公報等に提案され実用化されている。
【0004】
図10(a)に代表的なフィルム加熱方式の定着装置を表す概略構成図を記す。断熱性ホルダー52に保持されたセラミックヒータ51と加圧ローラ50との間に樹脂性や金属性の高熱伝導フィルム53(以下、定着フィルムと記す)を挟んで定着ニップ部Nを形成させ、その定着ニップ部Nに未定着トナー画像を形成担持させた記録材を導入して加熱定着を行う。良好な定着画像を得る為の十分な定着ニップ幅Nを形成する手段として、ヒータ51および定着フィルム53を含む定着部材は、加圧ローラ50に対して不図示の加圧バネ等によって、加圧ローラ50の弾性に抗して押圧されている。また、定着部材の長手方向に渡って、略均一な幅の定着ニップ幅Nを安定して形成する為に逆Uの字形状に成型した金属製のステー54を介して断熱性ホルダー52の長手方向に略均一な加圧力を与えている。
【0005】
このようなフィルム加熱方式の定着装置で用いられている代表的なヒータ51を図10(b)に示す。例えば特開平6-5356号公報に提案されているように、これらのヒータはアルミナや窒化アルミなどの平板細長形状をした高絶縁性基板51aの一面に通電発熱抵抗層51bを形成したものであり、その発熱抵抗層はガラス膜51cで保護されている。定着フィルムはこの保護ガラス膜と摺動するように接触して回転する。あるいは、セラミック基板のもう一方の面に摺動性の良いガラス膜が形成され、その摺動ガラス膜と定着フィルムが摺動するように用いられる。従って抵抗発熱体の熱はヒータの長手全域に渡って塗工されたガラス膜を介して定着フィルムに伝達される。
【0006】
このようなフィルム加熱方式の定着装置を用いたプリンター、複写機等の各種画像形成装置は、加熱効率の高さや立ち上りの速さにより、待機中の予備加熱の不要化や、ウエイトタイムの短縮化など従来の熱ローラ等を用いて加熱定着させる方式に比べて多くの利点を有している。
【特許文献1】特開昭63-313182号公報
【特許文献2】特開平2-157878号公報
【特許文献3】特開平4-44075号公報
【特許文献4】特開平4-204980号公報
【特許文献5】特開平6-5356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したようなフィルム加熱定着装置の構成では次に述べるような問題がある。
【0008】
昨今のプリンタや複写機等をはじめとするOA機器は、企業のオフィスのみならずSOHOや一般家庭においても高い需要があり、世界的にみても地域や経済格差に関係なく広く普及してきたといえる。特に中国やインドのように近年になって急激に経済発展してきたような新興市場では、普及型製品の需要の増加は著しいものである。しかしながら一方で、このような新興市場では環境やインフラの整備が十分でないために、先進国との環境の違いが製品に対して引き起こす問題も年々増えつつある。
【0009】
例えば、ユーザーの使用環境が劣悪な場合、ホコリや細かい砂などの塵埃が一般的なオフィス環境よりも多い。プリンタ・複写機等の精密機器では、製品が動作中に帯びる静電気等によって、ホコリが本体の内部に侵入して堆積し、それらが原因となって生じる問題も少なくない。
【0010】
上述したようなフィルム加熱定着器の場合、定着フィルムや加圧ローラの摺動により、各部材が静電気を帯びやすく、それらに引き寄せられて加熱定着器の周辺は特に多くのホコリが堆積している。また、加熱定着装置は画像形成プロセスの中でも最終工程になるので、画像形成装置の排紙口近くに設置されている。また加熱により機内昇温した雰囲気を機外に効率よく放出するために、排気口等が周辺に配置されることが多い。従って、扇風機やファンが作動しているような室内でホコリや砂が常に舞っているような環境では、容易に定着器周辺に付着することになる。一方で、フィルム加熱定着では、定着フィルムの摺動回転性を向上させる為に、フィルムと加熱ヒータとの間に耐熱性グリース等の潤滑剤を介在させることが多い。このグリースはヒータが加熱されて動作状態になると、グリースの粘度が下がりヒータとの間でよく潤滑するようになる。しかしながら流動性が上がる為に、長手方向のフィルム端部からグリースが流出し、フィルム端面や加圧ローラ端面を汚してしまうことが多い。前述した本体内部に侵入する砂や埃はこのような流出したグリスと付着しやすく、一旦付着すると半永久的にその周囲に付着したままとなる。これらの付着した砂埃のうち、フィルム端部近傍に存在するものの中には、フィルムの内面にもぐりこみ、ヒータや断熱ホルダーとの間に挟まって滞留するものもある。特にフィルム内面の定着ニップ内に滞留した砂埃は、長手中央の方向に移動する場合もあり、何かのきっかけである場所に滞留する。滞留した砂埃は高い圧力でフィルム内面を擦リ続ける為に、樹脂等で成型された定着フィルム内面は容易に周方向の傷がついてしまう。このような周方向の傷は加熱ヒータからの熱をフィルムに伝達する際に熱抵抗となり、加熱定着後の画像に縦スジを発生させてしまったり、またフィルムの回転数が増加すると、フィルム内面に亀裂を発生させる要因にもなったりする。一旦亀裂の入った定着フィルムは回転方向の力を受けると瞬時に裂けや破れに進行し、このようになればもはや記録材の加熱定着を行うことは不可能となる。
【0011】
そこで本発明に係る目的は、埃や砂の多い環境で画像形成装置が使用されても、画像不良や、定着フィルムの破損等が発生することのない像加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成する為に、本発明による像加熱装置は、互いに圧接させた加熱部材と加圧部材との間に形成されるニップ部に、記録材を導入して通過させることにより加熱をおこなう像加熱装置において、
前記加熱部材は、プレート状のヒータと、前記ヒータと加圧部材に挟まれて、ヒータと摺動しながら加圧部材と同速で移動する低熱容量の耐熱フィルムからなり、
前記ヒータのフィルムと接触する面上には、フィルムの長手端部より内側の位置において、フィルムの移動方向と平行な段差が設けてあることを特徴とする像加熱装置である。
【発明の効果】
【0013】
上記に説明した構成により、像加熱装置が埃や砂の多い環境において使用されても、フィルム端部から内部に侵入する埃や砂をヒータとフィルムの間に設けた段差によって形成される隙間に滞留させることが出来、砂や埃がそれ以上内部に侵入することを抑制する。また砂や埃によってフィルム内面が削れることを防止できるので、削れによって発生する画像縦スジの画像不良や、フィルム破損等の問題を防止することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
次に、本発明の詳細を実施例の記述に従って説明する。
【実施例1】
【0015】
(1)画像形成装置例
図1は本実施例における画像形成装置の概略構成図である。
【0016】
1は感光ドラムであり、OPC、アモルファスSe、アモルファスSi等の感光材料がアルミニウムやニッケルなどのシリンダ状の基盤上に形成されている。感光ドラム1は矢印の方向に回転駆動され、まず、その表面は帯電装置としての帯電ローラ2によって一様帯電される。次に、レーザースキャナ3より、画像情報に応じてON/OFF制御されたレーザビームLによる走査露光が施され、静電潜像が形成される。この静電潜像は、現像装置4で現像、可視化される。現像方法としては、ジャンピング現像法、2成分現像法、FEED現像法などが用いられ、イメージ露光と反転現像とを組み合わせて用いられることが多い。
【0017】
可視化されたトナー像は、転写装置としての転写ローラ5により、所定のタイミングで搬送された記録材P上に感光ドラム1上より転写される。ここで感光ドラム1上のトナー像の画像形成位置と記録材の先端の書き出し位置が合致するように8のセンサにて記録材の先端を検知し、タイミングを合わせている。所定のタイミングで搬送された記録材Pは感光ドラム1と転写ローラ5に一定の加圧力で挟持搬送される。このトナー像が転写された記録材Pは定着装置6へと搬送され、永久画像として定着される。一方、感光ドラム1上に残存する転写残りの残留トナーは、クリーニング装置7により感光ドラム1表面より除去される。また、9は加熱定着装置6内に設けられた排紙センサであり、紙がトップセンサ8と排紙センサの間で紙詰まりなどを起こした際に、それを検知する為のセンサである。
【0018】
(2)加熱定着装置6
図2は加熱定着装置6の概略構成模式図である。この加熱定着装置6は基本的には互いに圧接してニップ部Nを形成する定着アセンブリ10と加圧ローラ20よりなるフィルム加熱方式の加熱定着装置である。
【0019】
図2の断面図(a)、斜視図(c)において示すように、定着アセンブリ10は主に定着フィルム13と、加熱ヒータ11とヒータを保持する断熱ホルダー12、および加圧バネ15より加圧力を受けて断熱ホルダー12を加圧ローラ20に抗して押圧する金属ステー14から構成される。
1) 定着フィルム13
定着フィルム13は、クイックスタートを可能にするために総厚200μm以下の厚みの耐熱性フィルムである。ポリイミド、ポリアミドイミド、PEEK等の耐熱性樹脂、あるいは耐熱性、高熱伝導性を有するSUS、Al、Ni、Cu、Zn等の純金属あるいは合金を基層として形成されている。樹脂製の基層の場合は熱伝導性を向上させるために、BN、アルミナ、Al等の高熱伝導性粉末を混入してあっても良い。また、長寿命の加熱定着装置を構成するために充分な強度を持ち、耐久性に優れた定着フィルム13として、総厚20μm以上の厚みが必要である。よって定着フィルム13の総厚としては20μm以上200μm以下が最適である。さらにオフセット防止や記録材の分離性を確保するために表層にはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(テトラフルオロエチレン ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ETFE(エチレン テトラフルオロエチレン共重合体)、CTFE(ポリクロロトリフルオロエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフルオライド)等のフッ素樹脂、シリコーン樹脂等の離型性の良好な耐熱樹脂を混合ないし単独で被覆して離型性層を形成してある。被覆の方法としては、定着フィルム13の外面をエッチング処理した後に離型性層をディッピングするか、粉体スプレー等の塗布であってもよい。あるいは、チューブ状に形成された樹脂を定着フィルム13の表面に被せる方式であっても良い。または、定着フィルム13の外面をブラスト処理した後に、接着剤であるプライマ層を塗布し、離型性層を被覆する方法であっても良い。
2) 加熱ヒータ11
図2(b)ヒータ断面図に示すように加熱部材としての加熱ヒータ11は、定着フィルム13の内面に接触することによりニップ部Nの加熱を行う。低熱容量のプレート状であり、アルミナや窒化アルミ等の絶縁性セラミック基板11aの表面に、長手方向に沿って、Ag/Pd(銀パラジウム)、RuO2、Ta2N等の通電発熱抵抗層11bが、厚み約10μm、幅約1〜5mm程度でスクリーン印刷等により形成されている。この加熱ヒータ11が定着フィルム13と接する面には、熱効率を損なわない範囲で通電発熱抵抗層を保護する保護層11cを設ける。保護層の厚みは十分薄く、表面性を良好にする程度が望ましい。一般的には厚み30μm〜200μm程度のガラスコートが用いられる。本実施例に係る加熱ヒータの長手方向の構成に関する詳細は後述する。
【0020】
加熱ヒータ11を保持する断熱ホルダー12は、液晶ポリマー、フェノール樹脂、PPS、PEEK等の耐熱性樹脂により形成さる。熱伝導率が低いほど加圧ローラ20への熱伝導が良くなるので、樹脂層中にガラスバルーンやシリカバルーン等のフィラーを内包してあっても良い。定着フィルム13の回転を案内する役目も持つ。
【0021】
14は金属ステーであり、断熱ホルダー12と接触し、定着アセンブリ全体の撓みや捩れを抑制する。
3) 加圧ローラ20
加圧ローラ20はSUS、SUM、Al等の金属製芯金21の外側にシリコーンゴムやフッ素ゴム等の耐熱ゴムで形成した弾性ソリッドゴム層、あるいはより断熱効果を持たせるためにシリコーンゴムを発泡して形成した弾性スポンジゴム層、あるいはシリコーンゴム層内に中空のフィラー(マイクロバルーン等)を分散させ、硬化物内に気体部分を持たせて断熱効果を高めた弾性気泡ゴム層等の弾性層22からなる弾性ローラである。この上にパーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)等の離型性層を形成してあってもよい。
4) 加熱定着装置6の駆動および制御方法
定着部材10は次のような構成により加圧ローラ20の弾性に抗して押圧され、所定のニップNを形成する。すなわち、図2(c)に示すように、金属ステー14は、その長手方向の両端が断熱ホルダー12から突き出ていて、ステー両端部にあるバネ受け部14aがバネ受け部材を介してコイルバネ15によって加圧される(本実施例では総圧10.0〜12.0kg)。荷重はステー足部14bを介して断熱ホルダー12の長手方向に渡って均一に伝達される。
【0022】
定着ニップ部Nでは、加圧力によって定着フィルム13が加熱ヒータ11と加圧ローラ20の間に挟まれることで撓み、加熱ヒータ11の加熱面に密着した状態になる。
【0023】
加圧ローラ20は芯金21の端部に設けられた不図示の駆動ギアにより、図2(a)の矢印の方向に回転する駆動力を得る。駆動力は制御手段を統制する不図示のCPUからの指令に従い、不図示のモータより伝達される。
【0024】
この加圧ローラの回転駆動に伴って、定着フィルム13は加圧ローラ20との摩擦力により従動回転する。定着フィルム13と加熱ヒータ11との間には、フッ素系やシリコーン系の耐熱性グリース等の潤滑材を介在させることにより、摩擦抵抗を低く抑え、滑らかに定着フィルム13が回転可能となる。
【0025】
また、加熱ヒータの温度制御はセラミック基板の背面に設けた不図示のサーミスタ等温度検知素子の信号に応じて、CPUが通電発熱抵抗層に印加する電圧のデューティー比や波数等を決定し適切に制御することで、定着ニップ内の温度を所望の定着設定温度に保つ。
【0026】
未定着トナー画像を保持した記録材Pは所定のタイミングに、不図示の供給手段によって適宜供給され、定着ニップ内に搬送され加熱定着が行われる。定着ニップより排出された記録材Pは不図示の排紙ガイドに案内されて排出される。
(3)実施例における加熱ヒータの特徴
本実施例を代表する加熱ヒータ11の長手方向の詳細な構成を図3に示す。従来例に代表する加熱ヒータでは、図4に示すように、加熱ヒータ表面に設けた保護ガラスはフィルム端面よりも外側まで延長されているので、フィルム内面のヒータと接触している部分は、長手方向に一様にフラットな面を形成してある。これに対して図3に示すように本実施例では、定着フィルム13の端部の位置から内側で且つ通電発熱抵抗層より外側の領域において、保護ガラスに段差を設けることを特徴としている。このような段差は、例えばスクリーン印刷等の手法により、まず一層目を塗工し乾燥した後に、二層目を塗工する等の方法により形成することが可能である。保護ガラスは、本来通電発熱抵抗層をヒータと接触する部材に対して絶縁する目的で設ける為、抵抗層の厚みやガラスの材質にも因るが、少なくとも30〜50μmは必要である。従って、第一層の厚みを30〜50μmで塗工した後に第二層を塗工することになる。後述するが、フィルム内部に侵入してくる砂埃がそれ以上内側に侵入しないように食い止める為には砂埃の粒径以上の段差を設けることが好ましい。砂埃の粒径はおよそ10μm〜50μmとすれば、2層形成部分のガラスの総厚みは一層目の厚みに粒径相当の厚みが加わるので、50μmから100μmくらいが適当である。また、1層目のガラス対して、2層目のガラスの材質を変更したり、摺動性の向上を図る目的で、ポリイミド等のイミド系樹脂を塗工したりすることも可能である。
(4)効果の比較
1) 従来例との比較
以下に、本実施例を代表する構成としてヒータガラス面のフィルム端部より内側に段差を設けたものと、従来構成として段差のないヒータを用いて、それぞれのヒータを具備した加熱定着器をプリンタに搭載し、通紙耐久により性能比較を行った。段差による砂埃侵入の抑制効果を確かめる為に、フィルム端面が端部にヒータ面に塗布するグリースと同じものを2mg程度塗布して引き伸ばし、その上から、粒度分布が1μm〜100μmで分布する砂埃100mgをふりかけ、市場で起こり得るような埃の付着状態を模擬的に作り出し、その状態で5万枚の通紙耐久試験を行った。本実施例での比較実験では、ヒータ面のガラスの段差は50μmとしている。結果を表1に示す。
【0027】
【表1】

上記結果より明らかなように、ヒータガラス面に段差を設けた方が、通紙耐久に対して良好な結果であった。図5に従来例と本実施例において、通紙耐久途中のヒータ面上の状態を模式的に示す。16はフィルム13の長手端部方向への寄りを規制する規制フランジである。図5(a)の従来例では、ガラス面に段差が無い為に、フィルム端面から侵入した砂埃が数箇所において内部にまで進行しており、そのうちの幾つかにおいて画像上に縦スジが発生するような溝がフィルム内面に発生している。このような溝が掘られた箇所は、フィルムのベース層であるポリイミドが削れグリースや砂埃とともに大きな塊を形成し、それらが相まってさらに大きな傷を発生させる原因となる。また、耐久が経過するに従ってフィルムの亀裂や破損へと進行する。一方で図5(b)本実施例のようにフィルム端部よりも内側においてヒータ面に段差を設けることによって、保護ガラス段差部とフィルムの間に出来た空隙に砂埃が引っかかってそれ以上中に侵入することを食い止めることができる。さらに空隙部は加圧ローラとの押圧による圧力を受けにくいので、そこに溜まった砂埃で積極的にフィルム内部を削ることが無いので、フィルムへのダメージを抑制する効果もある。
【0028】
以上に説明したように、ヒータガラス面のフィルム端部より内側に段差を設けることにより、フィルム端部から砂埃が奥まで侵入することを防止でき、画像不良やフィルム破損の発生を抑制することが可能となる。
【実施例2】
【0029】
図6に実施例2を代表する加熱ヒータ11の構成を示す。本実施例では通電発熱抵抗層11bを設けた面と反対の面(裏面)に電極を設け、電極と通電発熱抵抗層はセラミック基板に設けたスルーホールによって導通経路を確保する。このような構成にすることで、発熱抵抗層の上に設けるガラス層1層のみによって、実施例1と同様の構成を達成できる。すなわち、保護ガラスの長手方向の塗布領域を定着フィルムの内側で且つ通電発熱抵抗層より外側とすることで、セラミック基板と保護ガラスによってできる段差を設けることができる。この段差を30μm〜100μmとすることで、砂埃の侵入を抑制することができる。また、保護ガラス1層のみで、段差を設けることができるので、通電発熱抵抗層部分の保護ガラスの膜厚を実施例1よりも薄くすることができるので、熱伝導性を向上させることが可能となる。実際に定着フィルム表面の温度を180℃に維持する為には、実施例1の構成で保護ガラスの総厚みを100μmとした場合は、ヒータの温調温度を205℃に設定する必要があるのに対して、実施例2の構成では、保護ガラスの厚みは50μmであり、ヒータの温調温度を195℃に下げることが可能である。
【実施例3】
【0030】
図7に実施例3を代表する加熱ヒータ11の構成を示す。本実施例では、ヒータに形成する通電抵抗発熱体11bをセラミック基板の裏面側(ニップ加熱面とは反対側)に形成し、発熱体の熱エネルギーを基板を介してニップ側へ伝達するような場合においては、セラミック基板の表面に設けた摺動層11dによって、実施例1、実施例2同様の構成を達成できる。実施例1や実施例2の場合は、通電発熱抵抗層と保護ガラスの耐圧を確保する必要があるので、少なくともガラスのように十分な絶縁性を確保できる材料で且つ厚みも30μm以上必要とするが、本実施例のように発熱抵抗層が裏面にあれば、ニップ側への絶縁はセラミック基板によって確保できる為、基板表面に設ける摺動層11dによって砂埃の侵入を食い止めることができる。
【0031】
この摺動層11dは主として定着フィルムとの摺動性向上を目的としているので、材料としてはガラス層のみならず、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂の他、PTFEやPFAのフッ素系樹脂、またはグラファイト、ダイアモンド・ライク・カーボン(DLC)、二硫化モリブデン等から成る乾性皮膜等によって形成することもできる。実施例1や実施例2のように加熱面に保護ガラスが設定されるような場合、例えば定着フィルムのベース層にステンレス等の金属製薄肉スリーブ等を用いると、ガラスと金属層の摺動性が悪いので金属スリーブ内面が削れたりする問題が生じる。このようなケースにおいては上記のような樹脂層により摺動層を形成することが望ましい。これら摺動層の長手方向の塗布域を実施例1、実施例2と同じく、定着フィルムの端面より内側でかつ通電発熱抵抗層より外側の位置までとして段差を設けることにより、同様の効果を得ることができる。また、摺動層の厚みも熱伝導性を考慮して薄く設定できるが、薄くしすぎるとフィルム内に侵入してくる砂埃の粒径が大きい場合は、侵入防止の効果が働かないので、実際には装置が使用されるユーザーの環境に応じて想定される埃や砂の粒径に応じて設定する必要がある。
【実施例4】
【0032】
図8に実施例4を代表する加熱ヒータの構成を示す。本実施例では、実施例1〜実施例3にあるようにヒータに設ける保護ガラスや摺動層によって砂埃の侵入防止用段差を設けるのではなく、図8に示すように、ヒータを構成する基板の厚みを長手方向で変化させることにより段差を形成する。主としてアルミナや窒化アルミで成型されるヒータ基板は、押し出し成型によって平板を形成し、平板を分割することによって複数の長手基板を得る。図のように段差を有するヒータ基板を成型する場合も、押し出し成型により、押し出し方向と平行に段差を有するような平板を形成した後、段差と垂直な方向に分割すれば、所望の基板を得ることができる。図に示すように、段差を有する基板に対して、通電発熱抵抗層と電極、保護ガラスを順次積層すれば、ガラスがヒータ基板の段差に倣う形で表面に段差が形成される。このようなヒータを用いることでも、フィルム内部への砂埃侵入を抑制することができ、実施例1〜実施例3と同様の効果を得ることができる。また、ヒータ裏面に発熱抵抗層を形成する場合で、ヒータ表面の摺動層をできるだけ薄く設定したい場合やあるいは摺動層を特に必要としなくてもフィルムとの良好な摺動状態を確保できるような場合は本実施例のようにヒータ基板によって段差を設けることによってのみ砂埃侵入防止の段差を形成することができる。
【0033】
(本発明の他の発展形態)
(1)図9に示すように、電磁誘導加熱方式の加熱定着器においては、励磁コイル42、磁性コア44によって、電磁誘導発熱性を有する金属製スリーブを基層とする定着フィルム43事体が発熱するため、ニップ部において上記実施例のようなプレート状のヒータを有さない。その代りに、定着に必要な適正幅のニップを形成する為に、ニップ部のフィルム内面側には摺動板41が設けられている。摺動板は、セラミックやガラスあるいは耐熱性と摺動性を有する樹脂等により成型されるが、このような摺動板の表面に、定着フィルム端部より内側の位置に段差を設けることによっても、砂埃等の侵入を段差によって防ぐことが出来、本発明の効果を得ることができる。
【0034】
(2)本発明では、各図に説明したようにヒータ面に設ける段差を、記録材の進行方向と平行になるように設けたが、段差の形態としてはこれに限られるものではない。例えば、段差が定着フィルムに対して傷を発生させるような要因になる場合等は、段差をフィルムの回転方向に対して直線あるいは曲線で斜めに設けることも可能である。また段差の形状も、直角に限られるものではなく、機能や定着フィルムとの接触状態を考慮して、鋭角や鈍角あるいはR形状にしたり、面取りを行ったりしても良い。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明に係る画像形成装置を表す概略断面図。
【図2】本発明に係る加熱定着装置を表す概略構成図。
【図3】実施例1に係る加熱ヒータを説明する概略構成図。
【図4】従来例に係る加熱ヒータを説明する概略構成図。
【図5】本発明の作用効果を説明する概略図。
【図6】実施例2に係る加熱ヒータを説明する概略構成図。
【図7】実施例3に係る加熱ヒータを説明する概略構成図。
【図8】実施例4に係る加熱ヒータを説明する概略構成図。
【図9】本発明の他の発展形態を説明する概略構成図。
【図10】従来例のフィルム加熱方式の加熱定着装置を表す概略断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 感光ドラム
2 帯電ローラ
3 スキャナー
4 現像装置
5 転写ローラ
6 加熱定着装置
7 クリーニング装置
8 トップセンサ
9 排紙センサ
10 定着アセンブリ
11 加熱ヒータ
11a ヒータ基板
11b 通電発熱抵抗層
11c 保護ガラス
11d 摺動層
12 断熱ホルダー
13 定着フィルム
14 金属ステー
15 加圧バネ
16 端部規制フランジ
20 加圧ローラ
21 芯金
22 弾性層
41 摺動板
42 励磁コイル
43 定着フィルム
44 磁性コア
50 加圧ローラ
51 セラミックヒータ
52 断熱ホルダー
53 定着フィルム
54 金属ステー
P 記録材
L レーザー光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに圧接させた加熱部材と加圧部材との間に形成されるニップ部に、記録材を導入して通過させることにより加熱をおこなう像加熱装置において、
前記加熱部材は、プレート状のヒータと、前記ヒータと加圧部材に挟まれて、ヒータと摺動しながら加圧部材と同速で移動する低熱容量の耐熱フィルムからなり、
前記ヒータのフィルムと接触する面上には、フィルムの長手端部より内側の位置において、段差が設けてあることを特徴とする像加熱装置。
【請求項2】
前記ヒータは、良熱伝導性基板と、その良熱伝導性基板上の第1の面に設けられた通電発熱抵抗層と、その通電発熱抵抗層の保護層としてガラスコート層を有するヒータであり、
前記段差は、前記ガラスコート層で形成した段差であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項3】
前記ヒータは、良熱伝導性基板と、その良熱伝導性基板上の第1の面に設けられた通電発熱抵抗層と、その通電発熱抵抗層の保護層としてガラスコート層を有するヒータであり、
前記段差は、前記良熱伝導性基板の第2の面に形成した、摺動層と良熱伝導性基板によって形成される段差であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項4】
前記ヒータは、良熱伝導性基板と、その良熱伝導性基板上の第1の面に設けられた通電発熱抵抗層と、その通電発熱抵抗層の保護層として設けたガラスコート層と、通電発熱抵抗層への通電を行う電極が良熱伝導性基板の第2の面に設けられ、電極と通電発熱抵抗層は良熱伝導性基板に設けられたスルーホールにより導通経路を有するヒータであり、
前記段差は、前記ガラスコート層と良熱伝導性基板によって形成される段差であることを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項5】
前記ヒータは、良熱伝導性基板と、その良熱伝導性基板上の第1の面に設けられた通電発熱抵抗層と、その通電発熱抵抗層の保護層としてガラスコート層を有するヒータであり、
前記段差は、予め良熱伝導性基板に設けた段差によって形成することを特徴とする請求項1に記載の像加熱装置。
【請求項6】
前記良熱伝導性基板は、セラミックからなることを特徴とする請求項2〜請求項5のいずれかに記載の像加熱装置。
【請求項7】
前記段差は、前記フィルムの長手端部より内側で且つ前記通電発熱抵抗層の長手端部より外側の位置に形成されることを特徴とする請求項2〜請求項6のいずれかに記載の像加熱装置。
【請求項8】
前記段差は、10μm以上200μm以下であることを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれかに記載の像加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−54821(P2010−54821A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−219963(P2008−219963)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】