説明

充放電制御装置及び充放電制御方法

【課題】蓄電器の内部抵抗に応じて蓄電器に過大な負荷をかけずに蓄電器を迅速に昇温可能な充放電制御装置を提供すること。
【解決手段】負荷に電力を供給する蓄電器と、動力源の運転によって発電した電力を負荷又は蓄電器に供給する発電機とを備え、蓄電器の温度が所定値未満のとき、蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御装置は、蓄電器の充電状態及び温度に基づいて、蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出する充放電可能量導出部と、蓄電器の内部抵抗に基づいて、パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する充放電時間導出部と、充放電可能量及び充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定するパターン決定部と、蓄電器がパータベーションパターンに応じた充放電を行うよう発電機を制御する制御部とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電制御装置及び充放電制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ハイブリッド車両(HEV)や電気自動車(EV)などは、バッテリを電源としてモータを駆動して走行している。したがって、走行中や長時間の駐停車などで生じる放電によってバッテリ残容量が低下すると、そのバッテリを充電する必要がある。このとき、バッテリを急速充電するとそのバッテリの劣化および寿命低下につながる。このため、バッテリの保護の観点から、例えば、定格容量の10分の1(0.1C)で10時間程度の充電を行うことが推奨されている。しかし、バッテリは、低温時においては内部インピーダンスが高くなるため、ヒータ等によってバッテリを加温してから充電を開始することで充電時間を短縮することができる。ところが、このような外部からの加温による充電方法では、ヒータなどの外部加温装置が必要になる。この方法は、車載のレイアウト上、およびヒータを加熱するための別電源を用意しなければならないなどの理由で、あまり好ましくない。
【0003】
特許文献1には、あらかじめ、バッテリに対してパルス充放電を行うことによってそのバッテリを加温してから通常充電に移行するバッテリの充電制御方法に関する技術が開示されている。この技術によれば、図13に示すように、バッテリ温度Tがかなり低いとき(例えば、0℃以下のとき)は、充放電量が等しい第1のパルス充放電を行ってバッテリを加温させ、バッテリ温度Tがやや高くなったとき(例えば、0℃から10℃のとき)は、充電量よりも放電量が少ない第2のパルス充放電を行うことにより、加温と同時に充電を行う。そして、バッテリがほぼ所定の温度になった以降は通常充電に移行している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−125326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたバッテリ充電制御方法では、第1のパルス充放電時、バッテリ温度Tが低いほど、充放電パルスの充電区間での充電量と放電区間での放電量が小さくなるように設定されている。また、当該方法では、充電区間と放電区間を合せた時間がバッテリ温度Tにかかわらず一定であり、充電区間中のバッテリの端子間電圧Vが上限電圧を越えないよう充電電流Iが設定され、放電区間中のバッテリの端子間電圧Vが下限電圧を下回らないよう放電電流Iが設定される。なお、「上限電圧」は、例えば、リチウム系バッテリでは電解液の分解を招く電圧であり、また、アルカリ系バッテリでは酸素ガスの発生を招く電圧である。
【0006】
しかし、同じ温度環境下で内部抵抗が異なる2つのバッテリに対して上記パルス充放電を行うと、各バッテリに対する加温効率又は負荷が異なる。図14(a)は、内部抵抗が低いバッテリに対してパルス充放電を行った際の端子間電圧の時間変化の一例を示すグラフであり、図14(b)は、内部抵抗が高いバッテリに対してパルス充放電を行った際の端子間電圧の時間変化の一例を示すグラフである。バッテリの内部抵抗に応じて上限電圧及び下限電圧は異なり、内部抵抗が大きいと下限電圧〜上限電圧の幅は狭くなる。
【0007】
図14(a)に示した例では、端子間電圧が上限電圧に達する前に充電区間が終了して放電区間に移行している。このようなパルス充放電は、端子間電圧が変化可能な幅(下限電圧〜上限電圧の幅)の全てを利用していないため、結果として、バッテリを昇温する時間が延びる。一方、図14(b)に示した例では、端子間電圧が上限電圧を超えた後に充電区間が終了して放電区間に移行している。このようなパルス充放電を行うとバッテリに過大な負荷がかかるため、バッテリが劣化してしまう。
【0008】
本発明の目的は、蓄電器の内部抵抗に応じて蓄電器に過大な負荷をかけずに蓄電器を迅速に昇温可能な充放電制御装置及び充放電制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決して係る目的を達成するために、請求項1に記載の発明の充放電制御装置は、負荷(例えば、実施の形態での電動機M)に電力を供給する蓄電器(例えば、実施の形態での蓄電器B)と、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関E)の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機(例えば、実施の形態での発電機G)と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御装置であって、前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出する充放電可能量導出部(例えば、実施の形態での充放電可能量導出部153)と、前記蓄電器の内部抵抗に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する充放電時間導出部(例えば、実施の形態での充放電時間導出部157)と、前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定するパータベーションパターン決定部(例えば、実施の形態でのパータベーションパターン決定部159)と、前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御する制御部(例えば、実施の形態での制御部109)と、を備えたことを特徴としている。
【0010】
さらに、請求項2に記載の発明の充放電制御装置では、前記充放電時間導出部は、前記蓄電器の内部抵抗が大きいときは前記一周期の充放電時間を短くし、前記蓄電器の内部抵抗が小さいときは前記一周期の充放電時間を長くすることを特徴としている。
【0011】
さらに、請求項3に記載の発明の充放電制御装置では、負荷(例えば、実施の形態での電動機M)に電力を供給する蓄電器(例えば、実施の形態での蓄電器B)と、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関E)の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機(例えば、実施の形態での発電機G)と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御装置であって、前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出する充放電可能量導出部(例えば、実施の形態での充放電可能量導出部153)と、前記蓄電器の内部抵抗及び充電状態に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する充放電時間導出部(例えば、実施の形態での充放電時間導出部257)と、前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定するパータベーションパターン決定部(例えば、実施の形態でのパータベーションパターン決定部159)と、前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御する制御部(例えば、実施の形態での制御部109)と、を備えたことを特徴としている。
【0012】
さらに、請求項4に記載の発明の充放電制御装置では、前記充放電時間導出部は、前記蓄電器の内部抵抗が大きくかつ前記蓄電器の充電率が高いときは前記一周期の充放電時間を短くし、前記蓄電器の内部抵抗が小さくかつ前記蓄電器の充電率が低いときは前記一周期の充放電時間を長くすることを特徴としている。
【0013】
さらに、請求項5に記載の発明の充放電制御装置では、前記負荷に対する要求出力が前記充放電可能量未満のとき、前記要求出力を超えた前記蓄電器の余剰出力によって前記動力源を空回しすることを特徴としている。
【0014】
さらに、請求項6に記載の発明の充放電制御装置では、前記負荷に対する要求出力が前記充放電可能量未満のとき、前記要求出力を超えた前記蓄電器の余剰出力によって前記システムに含まれる他の装置(例えば、実施の形態での補機)を駆動することを特徴としている。
【0015】
さらに、請求項7に記載の発明の充放電制御装置では、前記制御部は、前記負荷に対する要求出力に前記パータベーションのパターンを畳み込んだ補正要求出力に応じて前記発電機を制御することを特徴としている。
【0016】
さらに、請求項8に記載の発明の充放電制御方法では、負荷(例えば、実施の形態での電動機M)に電力を供給する蓄電器(例えば、実施の形態での蓄電器B)と、動力源(例えば、実施の形態での内燃機関E)の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機(例えば、実施の形態での発電機G)と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御方法であって、前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出し、前記蓄電器の内部抵抗を導出し、前記蓄電器の内部抵抗に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出し、前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定し、前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御することを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1〜7に記載の発明の充放電制御装置及び請求項8に記載の充放電制御方法によれば、蓄電器の内部抵抗に応じて蓄電器に過大な負荷をかけずに蓄電器を迅速に昇温できる。
【0018】
請求項2及び4に記載の発明の充放電制御装置によれば、蓄電器の状態に応じた充放電量の制限値範囲内で充放電を繰り返して蓄電器を加温するため、蓄電器の劣化を防止しつつ、蓄電器に過大な負荷をかけずに蓄電器を迅速に昇温できる。
【0019】
請求項5及び6に記載の発明の充放電制御装置によれば、前記要求出力を超えた前記蓄電器の余剰出力を消費できるため、蓄電器は充放電可能量を出力できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る充放電制御装置を含むシリーズ方式のHEVの概略構成図
【図2】パータベーション方式の充放電の制御に係る第1の実施形態の制御部109の内部構成を示すブロック図
【図3】蓄電器BのSOCに対する可能出力を3つの異なるバッテリ温度毎に示すグラフ
【図4】バッテリ温度−内部抵抗マップを示す図
【図5】蓄電器Bの内部抵抗Rに対するパータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を示すグラフ
【図6】パータベーションのパターンの一例を示す図
【図7】車両要求出力及び補正要求出力の時間変化の一例を示すグラフ
【図8】パータベーション方式の充放電を行う前の第1の実施形態の制御部109の動作を示すフローチャート
【図9】パータベーション方式の充放電の制御に係る第2の実施形態の制御部109の内部構成を示すブロック図
【図10】パータベーション方式の充放電を行う前の第2の実施形態の制御部109の動作を示すフローチャート
【図11】蓄電器Bの内部抵抗R及びSOCに対するパータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を示すグラフ
【図12】本発明に係る充放電制御装置を含むシリーズ/パラレル方式のHEVの概略構成図
【図13】特許文献1に開示されたバッテリ充電制御方法を実施した場合のバッテリ温度、充放電電圧、充放電電流及びバッテリ残容量の変化を示すタイムチャート
【図14】(a)は内部抵抗が低いバッテリに対してパルス充放電を行った際の端子電圧の時間変化の一例を示すグラフ、(b)は内部抵抗が高いバッテリに対してパルス充放電を行った際の端子電圧の時間変化の一例を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
HEV(Hybrid Electrical Vehicle:ハイブリッド電気自動車)は、電動機及び内燃機関を備え、車両の走行状態に応じて電動機及び/又は内燃機関の駆動力によって走行する。HEVには、大きく分けてシリーズ方式とパラレル方式の2種類がある。シリーズ方式のHEVは、電動機の動力によって走行する。内燃機関は発電のためだけに用いられ、内燃機関の動力によって発電機で発電された電力は蓄電器に充電されるか、電動機に供給される。
【0023】
なお、シリーズ方式のHEVは、「EV走行」又は「シリーズ走行」を行う。「EV走行」では、HEVは、蓄電器からの電源供給によって駆動する電動機の駆動力によって走行する。このとき内燃機関は駆動されない。また、「シリーズ走行」では、HEVは、蓄電器及び発電機の双方からの電力の供給や発電機のみからの電力の供給等によって駆動する電動機の駆動力によって走行する。このとき、内燃機関は発電機における発電のために駆動される。
【0024】
パラレル方式のHEVは、電動機及び内燃機関のいずれか一方又は双方の動力によって走行する。上記両方式を複合したシリーズ/パラレル方式のHEVも知られている。当該方式では、車両の走行状態に応じてクラッチを切断又は締結する(断接する)ことによって、駆動力の伝達系統をシリーズ方式及びパラレル方式のいずれかの構成に切り替える。特に低速走行時にはクラッチを切断してシリーズ方式の構成とし、特に中高速走行時にはクラッチを締結してパラレル方式の構成とする。
【0025】
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係る充放電制御装置を含むシリーズ方式のHEVの概略構成図である。図1に示すHEV(以下、単に「車両」という)は、内燃機関Eと、発電機Gと、電動機Mと、変速機構TMと、駆動輪Wと、蓄電器Bと、電流センサ101と、電圧センサ103と、温度センサ105と、電力制御部107と、制御部109とを備える。
【0026】
当該車両では、電動機Mの動力が変速機構TMを介して駆動輪Wに伝達される。内燃機関Eは発電のためだけに用いられ、発電機Gは内燃機関Eの出力によって駆動する。発電機Gで発電された電力は、車両の運転状態に応じて、蓄電器Bに充電されるか電動機Mに供給される。
【0027】
蓄電器Bは、直列に接続された複数の蓄電セルを有し、例えば100〜200Vの高電圧を供給する。蓄電セルは、例えば、金属水素化物を陰極活物質とするNi−MH(nickel-metal hydride)電池やリチウムイオン電池、電気二重層キャパシタ、コンデンサ等である。
【0028】
電流センサ101は、蓄電器Bの充放電電流Iを検出する。なお、充放電電流Iは、蓄電器Bから電動機M等に供給される放電電流、又は発電機Gから蓄電器Bに供給される充電電流である。電圧センサ103は、蓄電器Bの端子間電圧Vを検出する。温度センサ105は、蓄電器Bの温度(以下「バッテリ温度」という)Tを検出する。各センサは、検出した情報を制御部109に送る。
【0029】
電力制御部107は、蓄電器Bから電動機Mへの電力供給及び発電機Gから蓄電器Bへの電力供給を制御する。電力制御部107は、直流電圧を昇圧又は降圧を行うコンバータ及び交流電圧から直流電圧又は直流電圧から交流電圧に変換するインバータを含む。コンバータ及びインバータは、各々を構成するトランジスタが制御部109によってスイッチング制御されることで動作する。
【0030】
制御部109は、バッテリ温度Tが所定値未満のとき、蓄電器Bを昇温するために行う充放電を制御する。なお、当該充放電は、充電と放電を所定時間ずつ繰り返し行うパータベーション(perturbation)方式の充放電である。制御部109は、蓄電器Bが当該パータベーション方式の充放電を行うよう内燃機関E及び発電機Gの運転を制御する。
【0031】
図2は、パータベーション方式の充放電の制御に係る第1の実施形態の制御部109の内部構成を示すブロック図である。図2に示すように、制御部109は、SOC推定部151と、充放電可能量導出部153と、内部抵抗算出部155と、充放電時間導出部157と、パータベーションパターン決定部159と、車両要求出力導出部161と、パータベーション要求出力導出部163とを有する。
【0032】
SOC推定部151は、安定状態の蓄電器Bの端子間電圧Vは開放電圧(OCV:Open Circuit Voltage)に等しいとみなし、蓄電器Bが安定した状態のときには、蓄電器Bの開放電圧−SOC特性に基づいて、端子間電圧Vから蓄電器Bの残容量(SOC:State of Charge)を推定する。なお、SOC推定部151は、蓄電器Bが安定していない状態のときには、電流センサ101によって検出された充放電電流Iを所定期間毎に積算して積算充電量及び積算放電量を算出し、積算充電量及び積算放電量を初期状態又は充放電開始直前のSOC(初期SOC)に加算又は減算することによって蓄電器BのSOCを推定する。
【0033】
充放電可能量導出部153は、蓄電器BのSOC及びバッテリ温度Tに応じた、蓄電器Bに過大な負荷がかからずに充放電可能な電力量(以下「充放電可能量」という)を導出する。充放電可能量を導出する際、充放電可能量導出部153は、図3に示したグラフを参照する。図3は、蓄電器BのSOCに対する可能出力を3つの異なるバッテリ温度毎に示すグラフである。図3に示すように、蓄電器Bの可能出力はSOCによって異なり、かつ、バッテリ温度Tが低いほど蓄電器Bの可能出力は低い。充放電可能量導出部153は、蓄電器BのSOC及びバッテリ温度Tに応じた可能出力、例えば、SOCに応じた可能出力よりバッテリ温度Tに応じた可能出力の方が低いとき、バッテリ温度Tに応じた可能出力を導出した上で、当該可能出力に応じた蓄電器Bの充放電可能量を導出する。なお、可能動力として導出する基準は、この限りではなく、何れか高い方、あるいは平均を導出してもよい。
【0034】
内部抵抗算出部155は、蓄電器Bの端子間電圧V及び充放電電流Iに基づいて、内部抵抗R=端子間電圧V/充放電電流Iの計算式から内部抵抗Rを算出する。なお、蓄電器Bの内部抵抗Rは、電極表面の結晶構造の変化によって異なる。例えば、蓄電器Bが長時間にわたり放電し続けると、電極表面の活物質イオン濃度がイオン拡散により高まる。その結果、蓄電器Bの内部抵抗Rは高くなる。但し、結晶構造が変化しない材料を用いた蓄電器の場合は、温度による粘性等によって内部抵抗が変化する。したがって、蓄電器Bがこのような蓄電器の場合、内部抵抗算出部155は、図4に示すバッテリ温度−内部抵抗マップに基づいて、バッテリ温度Tから蓄電器Bの内部抵抗Rを導出する。
【0035】
充放電時間導出部157は、蓄電器Bの内部抵抗Rに基づいて、パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間(以下、単に「充放電時間」という)を導出する。充放電時間を導出する際、充放電時間導出部157は、図5に示したグラフを参照する。図5は、蓄電器Bの内部抵抗Rに対するパータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を示すグラフである。図5に示すように、内部抵抗Rが小さいときは一周期の充放電時間を長く設定し、内部抵抗Rが大きいときは一周期の充放電時間を短く設定する。
【0036】
パータベーションパターン決定部159は、充放電可能量及び充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定する。図6は、パータベーションのパターンの一例を示す図である。図6に示すように、本実施形態におけるパータベーション方式の充放電では、充放電可能量の電力変化を伴う蓄電器Bの充電及び放電を充放電時間の半分の時間ずつ交互に行う。
【0037】
車両要求出力導出部161は、アクセルペダル開度(AP開度)及び車両の走行車速(車速)に基づいて、車両に要求される出力(車両要求出力)を導出する。パータベーション要求出力導出部163は、車両要求出力にパータベーションのパターンを畳み込んだ補正要求出力を導出する。図7は、車両要求出力及び補正要求出力の時間変化の一例を示すグラフである。
【0038】
なお、バッテリ温度Tが所定値未満のとき、蓄電器Bは車両要求出力を出力できない可能性が高い。したがって、蓄電器Bが低温時には、基本的に、内燃機関Eの動力によって発電機Gを駆動することで得られる電力を電動機Mに供給する。但し、本実施形態では、パータベーションのパターンを畳み込んだ補正要求出力に応じて内燃機関E及び発電機Gが運転されるため、結果として、蓄電器Bがパータベーションパターンで充放電する。
【0039】
以下、蓄電器Bを昇温するためにパータベーション方式の充放電を行う際の制御部109の動作について、図8を参照して説明する。図8は、パータベーション方式の充放電を行う前の第1の実施形態の制御部109の動作を示すフローチャートである。図8に示すように、制御部109は、バッテリ温度Tが所定値未満か否かを判断し(ステップS101)、バッテリ温度Tが所定値未満のときはステップS103に進み、所定以上のときはステップS121に進む。ステップS121ではパータベーション方式の充放電は行わず、制御部109は通常の制御を行う。
【0040】
一方、ステップS103では、SOC推定部151が、蓄電器BのSOCを推定する。次に、充放電可能量導出部153は、蓄電器BのSOC及びバッテリ温度Tに応じた充放電可能量を導出する(ステップS105)。次に、内部抵抗算出部155は、蓄電器Bの端子間電圧V及び充放電電流Iに基づいて、蓄電器Bの内部抵抗Rを算出する(ステップS107)。次に、充放電時間導出部157は、蓄電器Bの内部抵抗Rに基づいて、パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する(ステップS109)。
【0041】
次に、パータベーションパターン決定部159は、充放電可能量及び充放電時間からパータベーションのパターンを決定する(ステップS111)。次に、車両要求出力導出部161は、AP開度及び車速に基づいて車両要求出力を導出する(ステップS113)。次に、パータベーション要求出力導出部163は、車両要求出力にパータベーションのパターンを畳み込んだ補正要求出力を導出する(ステップS115)。次に、制御部109は、補正要求出力に応じて発電機Gが所望の電力を出力するよう、内燃機関Eの運転を制御する。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、パータベーション方式の充放電における一周期の充放電時間を内部抵抗Rに基づいて導出している。図14(a)及び図14(b)に示したように、蓄電器Bの内部抵抗Rに応じて上限電圧及び下限電圧は異なり、内部抵抗が大きいと下限電圧〜上限電圧の幅は狭くなる。本実施形態では、このような特性に応じて、内部抵抗Rが小さいときは長い充放電時間が導出され、内部抵抗Rが大きいときは短い充放電時間が導出される。その結果、当該充放電によって、蓄電器Bに過大な負荷をかけずに迅速に蓄電器Bを昇温することができる。さらに、内部抵抗Rに応じて一周期の充放電時間を調節するため、蓄電器Bの劣化を防止しつつ、過大な負荷をかけず迅速に蓄電器Bを昇温することができる。
【0043】
また、充放電の切り替え頻度が蓄電器Bの内部抵抗Rに応じて異なり、内部抵抗Rが小さいときは充放電の切り替え頻度が低く設定されるため、電力制御部107のコンバータで発生するスイッチング損失を低減できる。
【0044】
なお、車両要求出力が蓄電器Bの充放電可能量未満であると、放電時の蓄電器Bの出力が車両要求出力を超えてしまう。本実施形態では、車両要求出力を超えた蓄電器Bの余剰出力を、図示しない補機の駆動や内燃機関Eの空回しによって消費する。
【0045】
(第2の実施形態)
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、車両が備える制御部の充放電時間導出部による充放電時間の導出の仕方である。この点以外は第1の実施形態と同様である。このため、第1実施形態と同一又は同等部分の説明は簡略化又は省略する。
【0046】
第1の実施形態では、車両が備える制御部109の充放電時間導出部157は、蓄電器Bの内部抵抗Rに基づいて、充放電時間を導出する。第2の実施形態では、図9及び図10のステップS209に示すように、充放電時間導出部257が、蓄電器Bの内部抵抗R及びSOCに基づいて、パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する。図9には、図2と共通する構成要素には同じ参照符号が付されている。また、図10には、図8と共通するステップには同じ参照符号が付されている。
【0047】
第2の実施形態の充放電時間導出部257は、充放電時間を導出する際、図11に示したグラフを参照する。図11は、蓄電器Bの内部抵抗R及びSOCに対するパータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を示すグラフである。図11に示すように、内部抵抗Rが小さくかつSOCが低いときは一周期の充放電時間を長く設定し、内部抵抗Rが大きくかつSOCが高いときは一周期の充放電時間を短く設定する。また、内部抵抗Rが小さくかつSOCが高いとき、及び、内部抵抗Rが大きくかつSOCが低いときは、中程度の充放電時間を設定する。
【0048】
本実施形態によれば、パータベーション方式の充放電における一周期の充放電時間を内部抵抗R及びSOCに基づいて導出している。このため、第1の実施形態よりも蓄電器Bの状態に応じた最適な充放電時間を導出することができる。その結果、当該充放電によって、蓄電器に過大な負荷をかけずに迅速に蓄電器Bを昇温することができるといった効果をより高めることができる。さらに、内部抵抗R及びSOCに応じて一周期の充放電時間を調節するため、蓄電器Bの劣化を防止しつつ、過大な負荷をかけず迅速に蓄電器Bを昇温することができる。
【0049】
上記第1及び第2の実施形態では、充放電制御装置がシリーズ方式のHEVに含まれた例について説明したが、図12に示すシリーズ/パラレル方式のHEVに含まれていても良い。但し、充放電制御装置による上記制御は、当該HEVにおいてクラッチが切断され、駆動力の伝達系統がシリーズ方式の構成であるときのみ行われる。
【0050】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正及び変更を加え得ることは勿論である。例えば、上記実施形態では、パータベーション方式の充放電における一周期の充放電時間を内部抵抗R、または内部抵抗R及びSOCに基づいて導出しているが、充放電時間導出部157,257は、充放電可能量をも考慮して当該充放電時間を導出しても良い。具体的には、現内部抵抗での蓄電器Bの端子間電圧Vが上限電圧から下限電圧に達するまでの時間と下限電圧から上限電圧に達するまでの時間の合計時間を、パータベーション方式の充放電における一周期の充放電時間として導出しても良い(フィードバック制御)。これにより、蓄電器Bの充放電によるジュール熱をより高精度に利用することができるので、蓄電器Bの加温をより迅速に行なうことができる。
【0051】
また、車両の始動時にパータベーションのパターンを設定すると、制御部109は、そのパターンで蓄電器Bの充放電を制御するが、所定時間毎にパータベーションのパターンが変更されても良い。例えば、パータベーションのパターンが設定されて所定時間が経過すると、充放電可能量導出部153がそのときの蓄電器BのSOC及びバッテリ温度Tに基づいて充放電可能量を算出し、充放電時間導出部157,257が一周期の充放電時間を導出する。そして、パータベーションパターン決定部159は、これら導出した充放電可能量及び充放電時間に応じたパータベーションのパターンを再度決定する。蓄電器Bが温まるにつれて充放電可能量は増加するため、パータベーションのパターンを所定時間間隔で更新することにより迅速に蓄電器を加温できる。
【符号の説明】
【0052】
E 内燃機関
G 発電機
M 電動機
TM 変速機構
W 駆動輪
B 蓄電器
101 電流センサ
103 電圧センサ
105 温度センサ
107 電力制御部
109 制御部
151 SOC推定部
153 充放電可能量導出部
155 内部抵抗算出部
157,257 充放電時間導出部
159 パータベーションパターン決定部
161 車両要求出力導出部
163 パータベーション要求出力導出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷に電力を供給する蓄電器と、動力源の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御装置であって、
前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出する充放電可能量導出部と、
前記蓄電器の内部抵抗に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する充放電時間導出部と、
前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定するパータベーションパターン決定部と、
前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする充放電制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の充放電制御装置であって、
前記充放電時間導出部は、前記蓄電器の内部抵抗が大きいときは前記一周期の充放電時間を短くし、前記蓄電器の内部抵抗が小さいときは前記一周期の充放電時間を長くすることを特徴とする充放電制御装置。
【請求項3】
負荷に電力を供給する蓄電器と、動力源の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御装置であって、
前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出する充放電可能量導出部と、
前記蓄電器の内部抵抗及び充電状態に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出する充放電時間導出部と、
前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定するパータベーションパターン決定部と、
前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御する制御部と、
を備えたことを特徴とする充放電制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の充放電制御装置であって、
前記充放電時間導出部は、前記蓄電器の内部抵抗が大きくかつ前記蓄電器の充電率が高いときは前記一周期の充放電時間を短くし、前記蓄電器の内部抵抗が小さくかつ前記蓄電器の充電率が低いときは前記一周期の充放電時間を長くすることを特徴とする充放電制御装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の充放電制御装置であって、
前記負荷に対する要求出力が前記充放電可能量未満のとき、前記要求出力を超えた前記蓄電器の余剰出力によって前記動力源を空回しすることを特徴とする充放電制御装置。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の充放電制御装置であって、
前記負荷に対する要求出力が前記充放電可能量未満のとき、前記要求出力を超えた前記蓄電器の余剰出力によって他の装置を駆動することを特徴とする充放電制御装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の充放電制御装置であって、
前記制御部は、前記負荷に対する要求出力に前記パータベーションのパターンを畳み込んだ補正要求出力に応じて前記発電機を制御することを特徴とする充放電制御装置。
【請求項8】
負荷に電力を供給する蓄電器と、動力源の運転によって発電した電力を前記負荷又は前記蓄電器に供給する発電機と、を備えたシステムにおいて、前記蓄電器の温度が所定値未満のとき、前記蓄電器がパータベーション方式の充放電を行うよう制御する充放電制御方法であって、
前記蓄電器の充電状態及び前記蓄電器の温度に基づいて、前記蓄電器が充放電可能な電力量である充放電可能量を導出し、
前記蓄電器の内部抵抗を導出し、
前記蓄電器の内部抵抗に基づいて、前記パータベーション方式の充放電を行う際の一周期の充放電時間を導出し、
前記充放電可能量及び前記充放電時間に応じたパータベーションのパターンを決定し、
前記蓄電器が前記パータベーションのパターンに応じた充放電を行うよう前記発電機を制御することを特徴とする充放電制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−119310(P2012−119310A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242376(P2011−242376)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】