説明

光ピックアップ装置および光ディスク装置

【課題】簡素な構成にてトラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制でき、また、効果的に迷光を除去し得る光ピックアップ装置および光ディスク装置を提供する。
【解決手段】ディスクによって反射されたレーザ光のうち、レーザ光軸の周りに設定された4つの光束領域A〜Dの光束の進行方向を変化させ、光束領域A〜Dの光束を互いに離散させる。光検出器の検出面には、信号光のみが存在する信号光領域が現れる。この領域に8つのセンサP11〜P18を配置する。P17とP18の加算信号と、P12とP11の加算信号との差分信号を信号PP1とし、P13とP14の加算信号と、P15とP16の加算信号との差分信号を信号PP2とすると、PP=PP1−k・PP2の演算によりプッシュプル信号を求める。これにより、迷光の影響が抑制され、且つ、DC成分が抑制されたプッシュプル信号が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ピックアップ装置および光ディスク装置に関するものであり、特に、複数の記録層が積層された記録媒体に対して記録/再生を行う際に用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
近年、光ディスクの大容量化に伴い、記録層の多層化が進んでいる。一枚のディスク内に複数の記録層を含めることにより、ディスクのデータ容量を顕著に高めることができる。記録層を積層する場合、これまでは片面2層が一般的であったが、最近では、さらに大容量化を進めるために、片面に3層以上の記録層を配することも検討されている。ここで、記録層の積層数を増加させると、ディスクの大容量化を促進できる。しかし、その一方で、記録層間の間隔が狭くなり、層間クロストークによる信号劣化が増大する。
【0003】
記録層を多層化すると、記録/再生対象とされる記録層(ターゲット記録層)からの反射光が微弱となる。このため、ターゲット記録層の上下にある記録層から、不要な反射光(迷光)が光検出器に入射すると、検出信号が劣化し、フォーカスサーボおよびトラッキングサーボに悪影響を及ぼす惧れがある。したがって、このように記録層が多数配されている場合には、適正に迷光を除去して、光検出器からの信号を安定化させる必要がある。
【0004】
以下の特許文献1には、ピンホールを用いて迷光を除去する技術が記載されている。また、特許文献2には、1/2波長板と偏光光学素子を組み合わせることにより迷光を除去する技術が記載されている。
【0005】
なお、特許文献3には、トラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−260669号公報
【特許文献2】特開2006−252716号公報
【特許文献3】特開平11−353666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術によれば、ターゲット記録層から反射されたレーザ光(信号光)の収束位置にピンホールを正確に位置づける必要があるため、ピンホールの位置調整作業が困難であるとの課題がある。位置調整作業を容易にするためピンホールのサイズを大きくすると、迷光がピンホールを通過する割合が増加し、迷光による信号劣化を効果的に抑制できなくなる。
【0008】
また、特許文献2の技術によれば、迷光を除去するために、1/2波長板と偏光光学素子が2つずつ必要である他、さらに、2つのレンズが必要であるため、部品点数とコストが増加し、また、各部材の配置調整が煩雑であるとの課題がある。また、これらの部材を並べて配置するスペースが必要となり、光学系が大型化するとの課題もある。
【0009】
なお、光ディスク装置においては、ディスクによって反射されたレーザ光の光量分布の偏りに基づいてトラッキングエラー信号が生成される。かかるトラッキングエラー信号には、レーザ光軸に対する対物レンズのオフセットに応じてDC成分が重畳される。よって、光ディスク装置では、かかるDC成分を円滑に抑制する手法が要求される。
【0010】
かかるDC成分は、たとえば、3つのビームを用いたDPP(Differential Push-Pull)法により抑制できる。しかし、3ビーム法ではレーザ光を3つのビームに分割する必要があり、光学系と光検出器の構成が複雑になるとの問題がある。また、上記特許文献3の手法では、1つのビームによってトラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制できる。しかし、この手法は、トラッキングエラー信号に特化したものであり、この手法に記載のセンサパターンからはフォーカスエラー信号を生成することができない。さらに、DC成分を検出するセンサパターン領域がビーム強度分布の弱い周辺部であるため、DC成分を検出するための信号量が小さい。
【0011】
本発明は、このような課題を解消するためになされたものであり、簡素な構成にてトラッキングエラー信号に生じるDC成分を効果的に抑制できるようにすることを主たる目的とする。加えて、本発明は、簡素な構成にて効果的に迷光を除去し得る光ピックアップ装置および光ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の第1の態様に係る光ピックアップ装置は、レーザ光源と、前記レーザ光源から出射されたレーザ光を記録媒体上に収束させる対物レンズと、前記記録媒体によって反射された前記レーザ光に非点収差を導入し、これにより、第1の方向に前記レーザ光が収束することによって生じる第1の焦線位置と、前記第1の方向に垂直な第2の方向に前記レーザ光が収束することによって生じる第2の焦線位置とを前記レーザ光の進行方向に互いに離間させる非点収差素子と、前記記録媒体によって反射された前記レーザ光の光束を、前記第1の方向と前記第2の方向にそれぞれ平行な第1および第2の直線によって4分割し、さらに分割後の各光束を、これら第1および第2の直線にそれぞれ45°の角度をもつ第3および第4の直線によって2分割した8つの光束をそれぞれ個別に受光するセンサを有する光検出器とを備える。ここで、前記非点収差素子は、前記記録媒体からのトラック像が前記第1、第2、第3および第4の直線の何れかと平行となるように配置されている。
【0013】
この場合、上記光ピックアップ装置または当該光ピックアップ装置が搭載される光ディスク装置に以下の構成を有する演算回路を配することにより、トラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制することができる。
【0014】
すなわち、演算回路は、前記光検出器からの出力信号を処理する。この演算回路は、前記第1、第2、第3および第4の直線のうちトラック像に対して45°の角度を有する2つの直線によって前記記録媒体から反射されたレーザ光の光束を4つに分割したとき、前記トラック像を横切る方向にある2つの光束の光量差をこれら2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第1の演算部と、残り2つの光束の前記トラック像を横切る方向の光量の偏りをこれら残り2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第2の演算部とを有する。また、この演算回路は、前記第2の演算部による演算値に変数kを乗算した値を前記第1の演算部による演算値から減算する第3の演算部をさらに備える。
【0015】
ここで、前記変数kは、前記レーザ光の光軸に対する前記対物レンズのオフセットに応じて、前記第1の演算部による演算値と前記第2の演算部による演算値が同じ方向に変位する場合には正の値を持ち、異なる方向に変位する場合には負の値を持つものとされる。
【0016】
このように第2の演算部による演算値を第1の演算部による演算値から減算すると、第3の演算部からの演算値(トラッキングエラー信号)に生じるDC成分を抑制することができる。ここで、上記変数kを、前記第1の演算部の演算値に生じるDC成分を最も抑制できる値に設定すると、トラッキングエラー信号に生じるDC成分を最も効果的に抑制することができる。
【0017】
なお、第1の態様に係る光ピックアップ装置では、光検出器が、第1および第2の直線によって分離された4つの光束を受光するセンサを有しているため、これらセンサからの出力を適宜演算回路にて演算処理することにより、非点収差法に基づくフォーカスエラー信号を生成することができる。
【0018】
第1の態様に係る光ピックアップ装置は、前記記録媒体によって反射された前記レーザ光の光束を前記第1および第2の直線によって4分割した4つの光束の進行方向を互いに異ならせ、これら4つの光束を互いに離散させる光学素子をさらに有する構成とされ得る。
【0019】
こうすると、ターゲット記録層にて反射されたレーザ光(信号光)と、当該ターゲット記録層の上および/若しくは下の記録層から反射されたレーザ光(迷光)とが、光検出器の受光面(オンフォーカス時に信号光スポットが最小錯乱円になる面)上において、互いに重なり合わないようにすることができる。したがって、光検出器により信号光のみを受光することができ、よって、迷光による検出信号の劣化を抑制することができる。また、この作用を、角度調整素子を光路中に配置するのみで実現できる。よって、この態様によれば、簡素な構成にて効果的に迷光による影響を除去することができる。
【0020】
なお、前記光学素子は、離散された前記4つの光束が前記光検出器の受光面上において直方形の異なる4つの頂角の位置にそれぞれ導かれるよう、前記4つの光束の進行方向を変化させる構成とされ得る。こうすると、前記センサを配置し易くなり、また、センサの配置領域をコンパクトにすることができる。
【0021】
ここで、前記4つの頂角のうち少なくとも一つの対角方向に向き合う一対の頂角に配置される前記センサを、前記直方形から、前記対角方向にはみ出すような形状とすることができる。こうすると、これら一対のセンサによって信号光をより円滑に受光することができる。
【0022】
本発明の第2の態様に係る光ディスク装置は、上記第1の態様に係る光ピックアップ装置と上記演算回路とを備える。よって、第2の態様に係る光ディスク装置においても、上記の如く、トラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制することができる。なお、上記演算回路の全部または一部は、第1の態様に係る光ピックアップ装置に装備されていても良い。
【発明の効果】
【0023】
以上のとおり、本発明によれば、簡素な構成にてトラッキングエラー信号に生じるDC成分を抑制することができる。加えて、上記光学素子を配することにより、簡素な構成にて効果的に迷光を除去することができる。
【0024】
本発明の効果ないし意義は、以下に示す実施の形態の説明により更に明らかとなろう。ただし、以下の実施の形態は、あくまでも、本発明を実施する際の一つの例示であって、本発明は、以下の実施の形態によって何ら制限されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施形態に係る技術原理(光線の進み方)を説明する図である。
【図2】実施形態に係る技術原理(光線の進み方)を説明する図である。
【図3】実施形態に係る技術原理(光線の進み方)を説明する図である。
【図4】実施形態に係る技術原理(光線の進み方)を説明する図である。
【図5】実施形態に係る技術原理(分割パターンと光束の分布)を説明する図である。
【図6】実施形態に係る技術原理(分割パターンと光束の分布)を説明する図である。
【図7】実施形態に係る技術原理(分割パターンと光束の分布)を説明する図である。
【図8】実施形態に係る技術原理(分割パターンと光束の分布)を説明する図である。
【図9】実施形態に係る技術原理(角度付与と光束の分布)を説明する図である。
【図10】実施の形態に係るセンサパターンの配置方法を示す図である。
【図11】プッシュプル信号のDC成分を検証(シミュレーション)するために用いた光学系を示す図である。
【図12】上記シミュレーションの条件を説明する図である。
【図13】レンズシフトが生じたときの信号光の光量バランスを検証したシミュレーション結果を示す図である。
【図14】レンズシフトが生じたときのプッシュプル信号と、信号PP1、PP2の状態を検証したシミュレーション結果を示す図である。
【図15】変数kを変化させたときのプッシュプル信号のオフセット状態を検証したシミュレーション結果を示す図である。
【図16】実施例に係る光ピックアップ装置の光学系を示す図である。
【図17】実施例に係る角度調整素子の構成例を示す図である。
【図18】実施例に係る演算回路の構成を示す図である。
【図19】実施例および本発明の技術原理の好ましい適用範囲を示す図である。
【図20】変更例に係るセンサパターンの構成例を示す図である。
【図21】実施例の他の変更例を示す図(光学系の変更に伴うセンサパターンの変更形態とトラック像の方向の変更に伴う演算式の変更を説明する図)である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態につき図面を参照して説明する。
【0027】
<技術的原理>
まず、図1ないし図10を参照して、本実施の形態に適用される技術的原理について説明する。
【0028】
図1(a)は、ターゲット記録層によって反射されたレーザ光(信号光)が、平行光の状態でアナモレンズ等の非点収差素子に入射されたときの信号光と迷光の収束状態を示す図である。なお、“迷光1”は、レーザ光入射面側から見てターゲット記録層よりも一つ奥側にある記録層にて反射されたレーザ光であり、“迷光2”は、ターゲット記録層よりも一つ手前にある記録層にて反射されたレーザ光である。また、同図は、信号光がターゲット記録層にフォーカス合わせされたときの状態を示している。
【0029】
図示の如く、アナモレンズの作用により、図中の“曲面方向”に信号光が収束することによって面S1に焦線が生じ、さらに、この曲面方向に垂直な図中の“平面方向”に信号光が収束することによって面S2に焦線が生じる。そして、面S1と面S2の間の面S0において、信号光のスポットが最小(最小錯乱円)となる。非点収差法に基づくフォーカス調整では、面S0に光検出器の受光面が置かれる。なお、ここではアナモレンズにおける非点収差作用を簡単に説明するために、便宜上、“曲面方向”と“平面方向”と表現しているが、実際には、互いに異なる位置に焦線を結ぶ作用がアナモレンズによって生じれば良く、図1中の“平面方向”におけるアナモレンズの形状を平面に限定するものではない。なお、アナモレンズに収束状態でレーザ光が入射する場合は、“平面方向”におけるアナモレンズの形状は直線状(曲率半径=∞)となり得る。
【0030】
なお、同図(a)に示す如く、迷光1の焦線位置(同図では、非点収差素子による2つの焦線位置の間の範囲を“収束範囲”と示す)は、信号光の焦線位置よりも非点収差素子に接近しており、また、迷光2の焦線位置は、信号光の焦線位置よりも非点収差素子から離れている。
【0031】
図1(b)〜(e)は、それぞれ、平行光部分および面S1、S0、S2上における信号光のビーム形状を示す図である。真円で非点収差素子に入射した信号光は、面S1上で楕円となり、面S0上で略真円となった後、面S2上にて再び楕円となる。ここで、面S1上のビーム形状と面S2上のビーム形状は、それぞれの長軸が互いに垂直の関係となっている。
【0032】
ここで、同図(a)および(b)のように、平行光部分におけるビームの外周に、反時計方向に8つの位置(位置1〜8:同図では丸囲み数字で表記)を設定すると、位置1〜8を通る光線は、非点収差素子によってそれぞれ収束作用を受ける。なお、位置4と位置8は、曲面方向に平行な直線にて平行光部分のビーム断面を2分割する場合の分割線上に位置しており、位置2と位置6は、平面方向に平行な直線にて平行光部分のビーム断面を2分割する場合の分割線上に位置している。位置1、3、5、7はそれぞれ、位置2、4、6、8によって区分される外周円弧の中間にある。
【0033】
平行光部分において位置4と位置8を通る光線は、面S1で曲面方向の焦線へと収束された後に面S0へと入射する。このため、これら位置4、8を通る光線は、面S0上において、同図(d)に示す位置4、8を通る。同様に、平行光部分において位置1、3、5、7を通る光線も、面S1にて曲面方向の焦線へと収束された後に面S0へと入射するため、面S0上では、同図(d)に示す位置1、3、5、7を通る。これに対し、平行光部分において位置2、6を通る光線は、面S1で曲面方向の焦線へと収束されずに面S0へと入射する。このため、これら位置2、6を通る光線は、面S0上において、同図(d)に示す位置2、6を通る。
【0034】
図2(b)〜(e)は、それぞれ、平行光部分および面S1、S0、S2上における迷光1のビーム形状と光線通過位置を示す図である。同図(b)に示すように、迷光1の外周にも、上記信号光の場合と同様に8つの位置1〜8を設定すると、これら8つの位置1〜8を通る光線は、曲面方向の焦線および平面方向の焦線の何れかに収束された後に面S0へと入射する。このため、平行光部分において位置1〜8を通る光線は、面S0上において、それぞれ、同図(d)に示す位置1〜8を通る。
【0035】
図3(b)〜(e)は、それぞれ、平行光部分および面S1、S0、S2上における迷光2のビーム形状と光線通過位置を示す図である。同図(b)に示すように、迷光2の外周にも、上記信号光の場合と同様に8つの位置1〜8を設定すると、これら8つの位置1〜8を通る光線は、曲面方向の焦線と平面方向の焦線の何れへも収束されることなく面S0へと入射する。このため、平行光部分において位置1〜8を通る光線は、面S0上において、それぞれ、同図(d)に示す位置1〜8を通る。
【0036】
図4は、以上に説明した平行光部分および面S1、S0、S2上におけるビーム形状と光線の通過位置を、信号光、迷光1および迷光2を対比して示す図である。同図中の(c)の段を対比して分かるとおり、平行光部分において位置1を通過した信号光、迷光1および迷光2の光束は、それぞれ、面S0上において、互いに異なる外周位置を通過する。同様に、平行光部分において位置3,4,5,7,8を通過した信号光、迷光1および迷光2の光束も、面S0において、互いに異なる外周位置を通過する。平行光部分において位置2,6を通過した信号光と迷光2の光束は、面S0において、同じ外周位置を通過する。この場合も、平行光部分において位置2,6を通過した信号光と迷光1の光束は、面S0において、互いに異なる外周位置を通過し、また、平行光部分において位置2、6を通過した迷光1と迷光2の光束は、面S0において、互いに異なる外周位置を通過する。
【0037】
次に、以上の現象を考慮して、平行光部分における信号光および迷光1、2の領域分割パターンと、面S0上における信号光および迷光1、2の照射領域との関係について検討する。
【0038】
まず、図5(a)に示すように、平行光部分における信号光および迷光1、2を、平面方向と曲面方向に対して45°傾いた2つの直線で分割し、4つの光束領域A〜Dに区分したとする。なお、この分割パターンは、従来の非点収差法に基づく領域分割に対応するものである。
【0039】
この場合、上述の現象により、光束領域A〜Dの信号光は、面S0上において、同図(b)のように分布する。また、光束領域A〜Dの迷光1および迷光2は、上述の現象により、それぞれ、同図(c)および(d)のように分布する。
【0040】
ここで、面S0上における信号光と迷光1、2を光束領域毎に取り出すと、各光の分布は、図6(a)ないし(d)のようになる。この場合、各光束領域の信号光には、同じ光束領域の迷光1および迷光2の何れか一方が必ず重なる。このため、各光束領域の信号光を光検出器上のセンサパターンで受光すると、少なくとも、同じ光束領域における迷光1または迷光2が対応するセンサパターンに同時に入射し、これにより検出信号に劣化が生じる。
【0041】
これに対し、図7(a)に示すように、平行光部分における信号光および迷光1、2を、平面方向と曲面方向に平行な2つの直線で分割し、4つの光束領域A〜Dに区分したとする。この場合、上述の現象から、光束領域A〜Dの信号光は、面S0上において、同図(b)のように分布する。また、光束領域A〜Dの迷光1および迷光2は、上述の現象により、それぞれ、同図(c)および(d)のように分布する。
【0042】
ここで、面S0上における信号光と迷光1、2を光束領域毎に取り出すと、各光の分布は、図8(a)ないし(d)のようになる。この場合、各光束領域の信号光には、同じ光束領域の迷光1および迷光2の何れも重ならない。このため、各光束領域内の光束(信号光、迷光1、2)を異なる方向に離散させた後に、信号光のみをセンサパターンにて受光するように構成すると、対応するセンサパターンには信号光のみが入射し、迷光の入射を抑止することができる。これにより、迷光による検出信号の劣化を回避することができる。
【0043】
以上のように、信号光および迷光1、2を平面方向と曲面方向に平行な2つの直線で4つの光束領域A〜Dに分割し、これら光束領域A〜Dを通る光を分散させて面S0上において離間させることにより、信号光のみを取り出すことができる。本実施の形態は、この原理を基盤とするものである。
【0044】
図9は、図7(a)に示す4つの光束領域A〜Dを通る光束(信号光、迷光1、2)の進行方向を、それぞれ、異なる方向に、同じ角度だけ変化させたときの、面S0上における信号光と迷光1、2の分布状態を示す図である。ここでは、同図(a)に示すように、光束領域A〜Dを通る光束(信号光、迷光1、2)の進行方向が、それぞれ、方向Da、Db、Dc、Ddに、同じ角度量α(図示せず)だけ変化している。なお、方向Da、Db、Dc、Ddは、平面方向と曲面方向に対して、それぞれ、45°の傾きを持っている。
【0045】
この場合、方向Da、Db、Dc、Ddにおける角度量αを調節することにより、S0平面上において、同図(b)に示すように各光束領域の信号光と迷光1、2を分布させることができる。その結果、図示の如く、信号光のみが存在する信号光領域をS0平面上に設定することができる。この信号光領域に光検出器のセンサパターンを設定することにより、各領域の信号光のみを、対応するセンサパターンにて受光することができる。
【0046】
図10は、センサパターンの配置方法を説明する図である。同図(a)および(b)は、従来の非点収差法に基づく光束の分割方法とセンサパターンを示す図であり、同図(c)および(d)は、上述の原理に基づく光束の分割方法とセンサパターンを示す図である。ここで、トラック方向は、平面方向および曲面方向に対して45°の傾きを持っている。なお、同図(a)および(b)には、説明の便宜上、光束が8つの光束領域a〜hに区分されている。また、トラック溝による回折の像(トラック像)が実線で示され、オフフォーカス時のビーム形状が点線によって示されている。
【0047】
なお、トラック溝による信号光の0次回折像と一次回折像の重なり状態は、波長/(トラックピッチ×対物レンズNA)で求められることが知られており、同図(a)、(b)、(d)のように、4つの光束領域a、d、e、hに一次回折像が収まる条件は、波長/(トラックピッチ×対物レンズNA)>√2となる。
【0048】
従来の非点収差法では、光検出器のセンサパターンP1〜P4(4分割センサ)が同図(b)のように設定される。この場合、光束領域a〜hの光強度に基づく検出信号成分をA〜Hで表すと、フォーカスエラー信号FEは、FE=(A+B+E+F)−(C+D+G+H)の演算により求まり、プッシュプル信号PPは、PP=(A+B+G+H)−(C+D+E+F)の演算により求まる。
【0049】
これに対し、上記図9(b)の分布状態では、上述の如く、信号光領域内に、図10(c)の状態で信号光が分布している。この場合、図10(a)に示す光束領域a〜hを通る信号光の分布を同図(c)の分布に重ねると、同図(d)のようになる。すなわち、同図(a)の光束領域a〜hを通る信号光は、光検出器のセンサパターンが置かれる面S0上では、同図(d)に示す光束領域a〜hへと導かれる。
【0050】
したがって、同図(d)に示す光束領域a〜hの位置に、同図(d)に重ねて示す如くセンサパターンP11〜P18を設定すれば、同図(b)の場合と同様の演算処理によって、フォーカスエラー信号とプッシュプル信号を生成することができる。すなわち、この場合も、光束領域a〜hの光束を受光するセンサパターンからの検出信号をA〜Hで表すと、同図(b)の場合と同様、フォーカスエラー信号FEは、FE=(A+B+E+F)−(C+D+G+H)の演算により取得でき、また、プッシュプル信号PPは、PP=(A+B+G+H)−(C+D+E+F)の演算により取得することができる。
【0051】
以上のように、本原理によれば、平行光部分における信号光および迷光1、2を、図1の平面方向と曲面方向に平行な2つの直線で4つの光束領域A〜Dに分割し、これら光束領域A〜Dを通る光を分散させ、さらに、分散させた後の各光束領域A〜Dにおける信号光を、2分割された受光部(2分割センサ)によって個別に受光することにより、従来の非点収差法に基づく場合と同様の演算処理にて、フォーカスエラー信号とプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を生成することができる。
【0052】
ところで、ここでは、図10(b)に示す従前の生成方法に倣って、プッシュプル信号PPが、PP=(A+B+G+H)−(C+D+E+F)の演算により取得されたが、かかる従前の演算手法では、生成されたプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に、レーザ光軸に対する対物レンズのシフト(光軸ずれ)に基づくDC成分が重畳されるとの問題が生じる。
【0053】
かかるDC成分は、図10(d)に示すセンサパターンにおいて、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を以下のように修正することにより、効果的に抑制され得る。
【0054】
以下、本件出願の発明者が行ったシミュレーション結果とともに、DC成分を効果的に抑制可能なプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)の生成手法について説明する。
【0055】
図11は、本シミュレーションに用いた光学系を示す図である。図中、10は、波長405nmのレーザ光を出射する半導体レーザ、11は、半導体レーザ10から出射されたレーザ光を略全反射する偏光ビームスプリッタ、12はレーザ光を平行光に変換するコリメートレンズ、13はコリメートレンズ12側から入射されるレーザ光(直線偏光)を円偏光に変換する1/4波長板、14はレーザ光のビーム形状をレーザ光軸を中心とする真円に調整するためのアパーチャ、15はレーザ光をディスク上に収束させる対物レンズ、16は偏光ビームスプリッタ11を透過したディスクからの反射光に非点収差を導入する検出レンズ、17は、上記図9(a)を参照して説明した作用をレーザ光に付与する角度調整素子、18は光検出器である。
【0056】
角度調整素子は、上記図9(a)を参照して説明したように、4つの光束領域A〜Dを通過するレーザ光を互いに分光させて、光検出面上で、図9(b)に示すように各光束領域を通過したレーザ光を分布させる作用を有する。
【0057】
本光学系の設計条件は、以下の通りである。
(1)往路倍率:10倍
(2)復路倍率:18倍
(3)角度調整素子17によって付与される分光角度:1.9度
(4)角度調整素子17の分光面と光検出器113の検出面の間の距離(空気換算):3mm
(5)角度調整素子17を配さないときの光検出面上におけるスポット径:60μm
(6)角度調整素子17を配したときの光検出面上における各信号光(光束領域A〜Dをそれぞれ通過)の変位距離:100μm
(7)レーザ光の広がり角:垂直広がり角=20.0度、水平広がり角=9.0度
(8)レンズ有効径:φ=2.4mm
(9)レンズの開口数:0.85
(10)ディスクのトラックピッチ:0.32μm
【0058】
なお、上記(1)の往路倍率とは、対物レンズの焦点距離に対するコリメートレンズの焦点距離の比であり、(2)の復路倍率とは、対物レンズの焦点距離に対するコリメートレンズと検出レンズの合成焦点距離の比のことである。本光学系では、ディスクによって反射されたレーザ光(信号光)は、角度調整素子17を除去すると検出面上において最小錯乱円となる。上記(5)のスポット径とは、この最小錯乱円の径のことである。
【0059】
また、上記(6)の変位距離とは、角度調整素子17を除去したときの検出面上における信号光の光軸中心と、角度調整素子17を配したときの各信号光の頂点位置(図8に示す扇型が直角となる頂点の位置)との間の距離のことである。なお、センサパターンの寸法条件は、図12(a)の通りである。
【0060】
上記(7)の垂直広がり角とは、光ピックアップ装置10に内蔵されるレーザ素子の半導体層の層間方向におけるレーザ光の広がり角を意味し、水平広がり角とは半導体層に平行な方向におけるレーザ光の広がり角を意味する。ここで、広がり角は、図12(b)に示すように、ピーク強度Pの半分以上の強度を持つビーム部分の広がり角とされている。上記(8)のレンズ有効径とは、アパーチャ14を通過した後、対物レンズ15に入射する際のビームの直径を意味する。
【0061】
なお、半導体レーザ10から出射されたレーザ光は、上記のように水平方向と垂直方向で広がり角が相違しているため、アパーチャ14からコリメートレンズ12へと向かう平行光束では、かかる広がり角の相違に基づいて、強度分布に偏りが生じている。図12(d)は、かかる平行光束における強度の偏りを模式的に示す図である。同図中、白色の部分は強度が高く、ハッチングが付された部分は強度が低いことを示す。なお、同図の左側は、レーザ光軸に対して対物レンズの光軸がずれていない状態を示し、同図の右側は、レーザ光軸に対して対物レンズの光軸がトラックを横切る方向にシフトしている状態(レンズシフトあり)を示している。同図には、図9(a)に示す平面方向と曲面方向の分割線が重ねて示されている。
【0062】
図13は、上記条件のもとで、レンズシフトがある場合とない場合の信号光の強度をシミュレーションしたシミュレーション結果である。同図上段は、レンズシフトがない状態で、ディスク上のビームスポットがトラックセンターに位置するときと、トラックセンターからディスク径方向にずれたときの信号光の強度をシミュレーションしたものである。また、同図下段は、レンズシフトが300μmである状態で、ディスク上のビームスポットがトラックセンターに位置するときと、トラックセンターからディスク径方向にずれたときの信号光の強度をシミュレーションしたものである。
【0063】
なお、デトラック=+T/4は、ビームスポットがトラックセンターからトラックピッチの1/4だけディスク外周方向にずれていることを示しており、デトラック=+T/4は、ビームスポットがトラックセンターからトラックピッチの1/4だけディスク内周方向にずれていることを示している。また、デトラック=0は、トラックセンターに対するビームスポットのずれ(デトラック)が生じていないことを示している。
【0064】
同図の上段を参照すると、ビームスポットがトラックセンターに位置づけられている状態では、4つの信号光のうち左右2つの信号光の強度が均等となっており、ビームスポットがトラックセンターからディスク外周方向および内周方向にずれると、ずれ方向に応じて、左右2つの信号光の強度に差が生じている。よって、レンズシフトがない場合には、左右2つの信号光を受光するセンサからの出力信号をもとに、左右2つの信号光の強度差を求めることにより、適正にプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を求めることができる。
【0065】
これに対し、同図の下段左端のシミュレーション結果を参照すると、ビームスポットがトラックセンターに位置づけられているにも関わらず、左右2つの信号光に強度差が生じている。すなわち、ここでは、右側の信号光の強度が左側の信号光の強度よりも大きくなっている。また、同図の下段中央のシミュレーション結果では、上段中央のシミュレーション結果よりも、右側の信号光と左側の信号光の強度差が小さくなっており、逆に、同図の下段右端のシミュレーション結果では、上段中央のシミュレーション結果よりも、右側の信号光と左側の信号光の強度差が大きくなっている。このように、レンズシフトが生じた場合には、信号光の左右のバランスが不適正となり、このため、左右2つの信号光を受光するセンサからの出力信号をもとに左右2つの信号光の強度差を求めても、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を適正に求めることができない。すなわち、この場合、プッシュプル信号には、レンズシフトに基づくDC成分が重畳されることとなる。
【0066】
次に、4つの信号光のうち上下2つの信号光について検討すると、同図上段の3つのシミュレーション結果では、デトラックの有無に拘わりなく、上下2つの信号光の左右の強度バランスは均等である。他方、同図下段の3つのシミュレーション結果では、デトラックの有無に拘わりなく、上下2つの信号光に同様のひずみが生じており、このひずみによって、上下2つの信号光の左右方向の強度バランスが不均等となっている。すなわち、ここでは、何れの場合も、上下2つの信号光の強度が左側に偏っている。
【0067】
かかるシミュレーション結果から、レンズシフトが生じると、上下2つの信号光にひずみが生じ、これら2つの信号光の強度が左右何れかの方向に偏ることが分かる。したがって、この偏りを上下2つの信号光を受光するセンサからの出力信号をもとに求めれば、求めた値は、レンズシフトに基づくDC成分を反映するものとなる可能性がある。
【0068】
そこで、本件出願の発明者は、さらに、左右の信号光の強度差に応じた信号PP1と、上下の信号光の強度の左右の偏りに応じた信号PP2をシミュレーションにより求め、PP2をもとに、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるDC成分を抑制できるかを検討した。ここで、PP1、PP2は、図12(c)に記載の演算式によって求めた。なお、シミュレーションの条件は、上記と同様である。
【0069】
図14(a)〜(c)は、シミュレーション結果を示す図である。
【0070】
同図(a)は、デトラック量を変化させたときのプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)の変化を求めたシミュレーション結果である。同図横軸のデトラック=0、0.08、0.24は、それぞれ、図13のデトラック=0、+T/4、−T/4に対応する。同図には、レンズシフト(LS)が0μm、100μm、200μm、300μmのときの4つのシミュレーション結果が併せて示されている。なお、ここでは、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)が図10(d)の演算式、すなわち、信号PP1と信号PP2の加算(PP1+PP2)によって求められている。このシミュレーション結果から、レンズシフト(LS)が大きくなるに従ってプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)が上方向にシフトし、DC成分が大きくなっていることが分かる。
【0071】
同図(b)は、同図(a)のシミュレーション結果から信号PP1の信号成分を抽出したシミュレーション結果を示す図である。なお、同図には、レンズシフト(LS)が0μm、300μmのときの信号PP1が示されている。また、レンズシフト(LS)が0μm、300μmのときのプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)PPが併せて示されている。なお、レンズシフト(LS)が0μmの信号PP1とプッシュプル信号PPは互いに重なり合っている。このシミュレーション結果から、レンズシフト(LS)が大きくなるに従って、信号PP1が上方向にシフトし、DC成分が大きくなっていることが分かる。
【0072】
同図(c)は、同図(a)のシミュレーション結果から信号PP2の信号成分を抽出したシミュレーション結果を示す図である。なお、同図には、レンズシフト(LS)が0μm、300μmのときの信号PP2が示されている。また、レンズシフト(LS)が0μm、300μmのときのプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)PPが併せて示されている。このシミュレーション結果から、レンズシフト(LS)が大きくなるに従って、信号PP2が増加することが分かる。したがって、図10(d)に示す従来の演算式に従い信号PP1に信号PP2を加算してプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)PPを生成すると、生成したプッシュプル信号PPに含まれるDC成分は、信号PP1のみの場合よりも、信号PP2の分だけさらに増大することが分かる。
【0073】
なお、上記のように、信号PP2はレンズシフト(LS)に伴い増加するため、信号PP1から信号PP2を減算することにより、プッシュプル成分の減少なしにDC成分を抑制することができることが分かる。そこで、本件出願の発明者は、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)PPを求めるための演算式として
PP=PP1−k・PP2 …(1)
を設定し、この演算式中の変数kを変化させることによりDC成分をどのように抑制できるかを上記と同様の条件のもとで検証した。
【0074】
図15は、シミュレーション結果を示す図である。
【0075】
同図(a)は、変数kをk=−1,1,2,3,4としたときの、レンズシフト対するプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット量(DC成分)をシミュレーションしたものである。なお、縦軸は、トラッキングエラー信号の振り幅(正負の極大値間の差分)に対するオフセット量(DC成分)の比率である。また、k=−1のときのシミュレーション結果は、図10(d)に示す従来の演算式(PP=PP1+PP2)にてプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)PPを求める場合に相当する。
【0076】
このシミュレーション結果から、変数kをk=3に設定すると、レンズシフトの大きさに拘わらず、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット量(DC成分)を略ゼロに維持できることが分かる。
【0077】
同図(b)は、変数kをk=−1(従来の演算式)に設定して、デトラック量を変化させたときのプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)の大きさをシミュレーションにより求めたものである。このシミュレーション結果は、図14(a)と同じである。この場合には、上述の如く、レンズシフトが大きくなるに伴って、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のDC成分が大きくなる。
【0078】
同図(c)は、同図(a)のシミュレーション結果をもとに、変数kをk=3に設定して、同図(b)と同様のシミュレーションを行ったときのシミュレーション結果である。このシミュレーション結果から分かるとおり、変数kをk=3に設定することにより、レンズシフト(LS)の大きさに拘わらず、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を効果的に抑制することができる。
【0079】
以上のシミュレーション結果から分かるとおり、上記式(1)の演算によりプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を求め、さらに、その際、変数kを適正値に調節することにより、レンズシフト(LS)の大きさに拘わらず、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を効果的に抑制することができる。したがって、上記図1〜図10を参照して説明した基本原理に、さらに、上記式(1)の演算を適用することにより、迷光の影響が除去された高品質の信号を生成できるとともに、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を効果的に抑制することができる。
【0080】
なお、変数kの値は、使用する光学系によって変動し得る。よって、光ピックアップ装置を光ディスク装置に搭載する場合には、適宜、変数kの値を適正値に調整する必要がある。
【0081】
また、上記シミュレーションでは、信号PP2を、PP2=(G+B)−(F+C)により求めたため、図15(a)のように、上記式(1)の変数kが正の値を持つときにプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を効果的に抑制できることとなったが、信号PP2を、PP2=(F+C)−(G+B)により求める場合には、上記とは信号PP2の極性が反対となるため、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を効果的に抑制するためには、上記変数kが負の値を持つ必要がある。よって、上記式(1)の変数は、信号PP2の求め方によっても、適宜、極性を調整する必要がある。すなわち、上記変数kは、レンズシフトに伴って、信号PP1と信号PP2が同じ方向に変位する場合には正の値を持ち、異なる方向に変位する場合には負の値を持つものとされる必要がある。
【0082】
なお、上記では、上下2つの信号光の双方から信号PP2を求め、求めた信号PP2に基づいてプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を抑制するようにしたが、上下2つの信号光の何れか一方のみから信号PP2を求め、求めた信号PP2に基づいて、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)を抑制するようにすることもできる。この場合、信号PP2は、たとえば、PP2=G−F、または、PP2=B−Cの演算により求められる。この場合、信号PP2の大きさは、上記の場合の半分程度となる。よって、これに応じて式(1)の変数kを調節する必要がある。
【0083】
<実施例>
以下、上記原理に基づく実施例について説明する。
【0084】
図16に、本実施例に係る光ピックアップ装置の光学系を示す。なお、同図には、便宜上、関連する回路構成が併せて図示されている。また、同図中のディスクには、複数の記録層が積層して配置されている。
【0085】
図示の如く、光ピックアップ装置の光学系は、半導体レーザ101と、偏光ビームスプリッタ102と、コリメートレンズ103と、レンズアクチュエータ104と、立ち上げミラー105と、1/4波長板106と、アパーチャ107と、対物レンズ108と、ホルダ109と、対物レンズアクチュエータ110と、検出レンズ111と、角度調整素子112と、光検出器113を備えている。
【0086】
半導体レーザ101は、所定波長のレーザ光を出射する。半導体レーザ101から出射されるレーザ光の広がり角は、上記シミュレーションの場合と同様、水平広がり角と垂直広がり角が異なっている。
【0087】
偏光ビームスプリッタ102は、半導体レーザ101から入射されるレーザ光(S偏光)を略全反射するとともに、コリメートレンズ103側から入射されるレーザ光(P偏光)を略全透過する。コリメートレンズ103は、偏光ビームスプリッタ102側から入射されるレーザ光を平行光に変換する。
【0088】
レンズアクチュエータ104は、サーボ回路203から入力されるサーボ信号に応じてコリメートレンズ103を光軸方向に変位させる。これにより、レーザ光に生じる収差が補正される。立ち上げミラー105は、コリメートレンズ103側から入射されたレーザ光を対物レンズ108に向かう方向に反射する。
【0089】
1/4波長板106は、ディスクへと向かうレーザ光を円偏光に変換するとともに、ディスクからの反射光をディスクへ向かう際の偏光方向に直交する直線偏光に変換する。これにより、ディスクによって反射されたレーザ光は、偏光ビームスプリッタ102を透過する。
【0090】
アパーチャ107は、図11におけるアパーチャ14と同様、対物レンズ108に対するレーザ光の有効径が適正となるように、レーザ光のビーム形状を円形形状に調整する。対物レンズ108は、レーザ光をディスク内のターゲット記録層に適正に収束できるよう設計されている。ホルダ109は、1/4波長板106と対物レンズ108を一体的に保持する。対物レンズアクチュエータ110は、従来周知の電磁駆動回路によって構成され、当該回路のうち、フォーカスコイル等のコイル部がホルダ109に装着されている。
【0091】
検出レンズ111は、ディスクからの反射光に非点収差を導入する。すなわち、検出レンズ111は、図1の非点収差素子に相当する。検出レンズ111は、平面方向と曲面方向が、ディスクからのトラック像に対してそれぞれ45°の傾きとなるよう配置される。このように検出レンズ111が配置されると、検出レンズ111の平面方向と曲面方向は、レーザ光の強度分布に対して図12(d)のように設定される。
【0092】
角度調整素子112は、検出レンズ111側から入射されたレーザ光の進行方向を、図9を参照して述べた如く変化させる。すなわち、角度調整素子112は、入射されたレーザ光のうち、図9の光束領域A〜Dを通過する光束の進行方向を、それぞれ、方向Da〜Ddに、同じ角度量αだけ変化させる。なお、角度量αは、面S0上における信号光と迷光1、2の分布状態が、図9(b)の分布状態となるように設定されている。
【0093】
光検出器113は、図10(d)に示すセンサパターンを有する。光検出器113は、このセンサパターンが図1の面S0の位置に位置づけられるように配置される。光検出器113には、図10(d)に示す8個のセンサP11〜P18が配されており、これらが、各々、図10(d)の光束領域a〜hを通る光束を受光する。
【0094】
信号演算回路201は、光検出器113の8個のセンサから出力された検出信号を、図10(d)を参照して述べた如く演算処理し、フォーカスエラー信号を生成する。また、信号演算回路201は、これら8個のセンサから出力された検出信号を加算して再生RF信号を生成する。さらに、信号演算回路201は、光検出器113の8個のセンサから出力された検出信号を、上記式(1)に従って演算処理し、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を生成する。生成されたフォーカスエラー信号とプッシュプル信号はサーボ回路203に送られ、再生RF信号は再生回路202とサーボ回路203に送られる。
【0095】
再生回路202は、信号演算回路201から入力された再生RF信号を復調して再生データを生成する。サーボ回路203は、信号演算回路201から入力されたプッシュプル信号とフォーカスエラー信号からトラッキングサーボ信号とフォーカスサーボ信号を生成し、これらを対物レンズアクチュエータ110に出力する。また、サーボ回路203は、信号演算回路201から入力された再生RF信号の品質が最良になるよう、レンズアクチュータ104にサーボ信号を出力する。コントローラ204は、内蔵メモリに格納されたプログラムに従って各部を制御する。
【0096】
図17は、角度調整素子112の構成例を示す図である。同図(a)は、回折パターンを有するホログラム素子によって角度調整素子112を構成する場合の構成例を示し、同図(b)および(c)は、多面プリズムによって角度調整素子112を構成する場合の構成例を示している。
【0097】
まず、同図(a)の構成例において、角度調整素子112は、正方形形状の透明板にて形成され、光入射面にホログラムパターンが形成されている。光入射面は、図示の如く、4つのホログラム領域112a〜112dに区分されている。これらホログラム領域112a〜112dに、それぞれ、図9(a)の光束領域A〜Dを通過したレーザ光(信号光、迷光1、2)が入射するよう、角度調整素子112が検出レンズ111の後段に配置される。
【0098】
ホログラム領域112a〜112dは、入射されたレーザ光(信号光、迷光1、2)を、それぞれ、方向Va〜Vdに回折させる。方向Va〜Vdは、図9(a)の方向Da〜Ddに一致している。よって、ホログラム領域112a〜112dは、回折により、検出レンズ111から入射されたレーザ光(信号光、迷光1、2)の進行方向を、それぞれ、図9(a)のDa〜Ddの方向に変化させる。各領域における回折角は同じとなっている。
【0099】
ここで、回折角は、ホログラム領域112a〜112dを通過したレーザ光(信号光、迷光1、2)が、図1の面S0において、図9(b)のように分布するよう調整されている。よって、上記の如く、図10(d)のセンサパターンを有する光検出器113の受光面を面S0に配置することにより、上記8個のセンサによって、対応する信号光を適正に受光することができる。
【0100】
なお、上記ホログラム領域112a〜112dの回折効率は互いに同じとなっている。ホログラム領域112a〜112dに形成されるホログラムがステップ型である場合、回折効率は、ホログラムパターンのステップ数と1ステップあたりの高さによって調整され、回折角は、ホログラムパターンのピッチによって調整される。よって、この場合には、予め決められた回折次数の回折効率が所期の値となるように、ホログラムパターンのステップ数と1ステップあたりの高さが設定され、さらに、当該回折次数における回折角が図9(b)の分布を与え得るように、ホログラムパターンのピッチが調整される。
【0101】
なお、ホログラム領域112a〜112dに形成されるホログラムをブレーズ型とすることも可能である。この場合、ステップ型のホログラムよりも回折効率を高めることができる。
【0102】
図17(b)の構成例において、角度調整素子112は、光出射面が平坦で、且つ、光入射面が4つの領域において異なる方向に個別に傾斜する透明体によって形成されている。同図(c)は同図(b)を光入射面側から見た図である。図示の如く、角度調整素子112の光入射面には、4つの傾斜面112e〜112hが形成されている。これら傾斜面に入射面側から光線がX軸に平行に入射すると、傾斜面112e〜112hに入射する際の屈折作用によって、光の進行方向が、それぞれ、同図(c)のVe〜Vhの方向に変化する。ここで、傾斜面112e〜112hにおける屈折角は、同じである。
【0103】
同図(b)の角度調整素子112は、傾斜面112e〜112hに、それぞれ、図9(a)の光束領域A〜Dを通過したレーザ光(信号光、迷光1、2)が入射するよう、検出レンズ111の後段に配置される。こうして角度調整素子112が配置されると、傾斜面112e〜112hにおける屈折方向Ve〜Vhが、図9(a)の方向Da〜Ddに一致することとなる。よって、傾斜面112e〜112hは、屈折により、検出レンズ111から入射されたレーザ光(信号光、迷光1、2)の進行方向を、一定角度だけ、それぞれ、図9(a)のDa〜Ddの方向に変化させる。
【0104】
ここで、各傾斜面における屈折角は、傾斜面112e〜112hを通過したレーザ光(信号光、迷光1、2)が、図1の面S0において、図9(b)のように分布するよう調整されている。よって、面S0に、図10(d)のセンサパターンを有する光検出器113を配置することにより、上記8個のセンサによって、対応する信号光を適正に受光することができる。
【0105】
なお、図16(a)の構成例では、ホログラム領域112a〜112dに、レーザ光の進行方向を一定角度だけ変化させる角度付与の回折作用のみを持たせるようにしたが、角度付与の他、検出レンズ111による非点収差作用をも同時に発揮するホログラムパターンを、ホログラム領域112a〜112dに設定しても良い。また、角度調整素子112の光入射面に上記角度付与のためのホログラムパターンを形成し、非点収差作用を持たせるためのホログラムパターンを角度調整素子112の光出射面に持たせるようにしても良い。同様に、図16(b)の角度調整素子112においても、光出射面に、非点収差を導入するためのレンズ面を形成するようにしても良く、あるいは、傾斜面112e〜112hを曲面形状として、傾斜面112e〜112hに非点収差のレンズ作用を持たせるようにしても良い。こうすると、検出レンズ111を省略することができ、部品点数とコストの削減を図ることができる。
【0106】
図18は、信号演算回路201のうち、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)を生成する演算処理部の構成を示す図である。図示の如く、プッシュプル信号の演算処理部は、加算回路21、22、24、25と、減算回路23、26、28と、乗算回路27とを備えている。
【0107】
なお、上記原理では、k>0でプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)が抑制されるとしたが、本実施例では、同図に示した演算回路に従い、k<0でかかるオフセット(DC成分)が適切に抑制される構成となっている。すなわち、上記原理では、図12(c)に示す如く信号PP2が、PP2=(G+B)−(F+C)で求められたが、本実施例では、信号PP2が、図18の演算回路に従って、PP2=(F+C)−(G+B)で求められるため、k<0のときにオフセット(DC成分)が適切に抑制される。
【0108】
加算回路21は、センサP11、P12からの出力信号を加算して、左右2つの信号光のうち左側の信号光の光量に応じた信号を出力する。加算回路22は、センサP17、P18からの出力信号を加算して、左右2つの信号光のうち右側の信号光の光量に応じた信号を出力する。減算回路23は、加算回路21、22からの出力信号の差分を取り、これにより、左右2つの信号光の光量差に基づく上記信号PP1を生成する。
【0109】
加算回路24は、センサP13、P14からの出力信号を加算して、上下2つの信号光の左側の光量に応じた信号を出力する。加算回路25は、センサP15、P16からの出力信号を加算して、上下2つの信号光の右側の光量に応じた信号を出力する。減算回路26は、加算回路24、25からの出力信号の差分を取り、これにより、上下2つの信号光の左右方向の偏りに基づく上記信号PP2を生成する。
【0110】
乗算回路27は、減算回路26から出力される信号PP2に上記変数kを乗じた信号を減算回路28に出力する。減算回路28は、減算回路23から入力される信号PP1から、乗算回路27から入力される信号を減算し、減算後の信号をプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)として出力する。
【0111】
乗算回路27における変数kは、手動または自動で最適値に調節される。手動により調節される場合には、たとえば、ネジを回すことにより変数kを変えることができるボリューム調節部が配される。この場合、製品出荷時に、テストディスクを用いて、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)をモニタしながら、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)のオフセット(DC成分)が最小となるよう、手動で変数kの値が調節される。
【0112】
変数kが自動で調節される場合には、変数kをΔkずつ加減する制御処理がコントローラ204に付加される。この場合には、製品出荷時に、テストディスクを用いて、変数kの調節動作が行われる。すなわち、コントローラ204は、変数k値をデフォルト値の前後でΔkずつ変化させながら、同時に、レンズシフト(LS)を発生させ、レンズシフトが0μmから300μmへと変化したときのプッシュプル信号のオフセット値(DC成分)の変動量を、それぞれの変数k値について取得する。そして、コントローラ204は、取得した変動量が最小となるときの変数kの値を、実動作時の乗算回路27の変数kの値として設定する。
【0113】
なお、図16に示す信号演算回路201は、光ピックアップ装置側にあっても、光ディスク装置側にあっても良い。また、信号演算回路201を構成する回路部の一部が光ピックアップ装置側にあってもよい。たとえば、図18に示す演算部の全てが、光ピックアップ装置側にあっても、光ディスク装置側にあっても良く、あるいは、信号PP1、PP2を生成する回路部は光ピックアップ装置側にあり、それより後段側の回路は光ディスク装置側にある等、演算部が光ピックアップ装置と光ディスク装置に分かれて配置されていても良い。
【0114】
以上、本実施例によれば、ディスク内に配された記録層のうちターゲット記録層から反射された信号光と、当該ターゲット記録層の上および下の記録層から反射された迷光1、2とが、光検出器113の受光面(オンフォーカス時に信号光スポットが最小錯乱円になる面S0)上において、互いに重なり合わないようにすることができる。具体的には、受光面(面S0)上における信号光と迷光1、2の分布を、図9(b)の状態にすることができる。したがって、図9(b)の信号光領域に、図10(d)に示すセンサパターンを配置することにより、センサP11〜P18によって、対応する信号光のみを受光することができる。このため、迷光による検出信号の劣化を抑制することができる。
【0115】
加えて、本実施例によれば、図18の回路構成によりプッシュプル信号(トラッキングエラー信号)が生成されるため、上記シミュレーション結果をもとに説明した如く、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を効果的に抑制することができる。
【0116】
また、これらの効果を、ディスクによって反射されたレーザ光の光路中、すなわち、図16の構成では検出レンズ111と光検出器113の間に、角度調整素子112を配置するのみで達成することができる。したがって、本実施例によれば、簡素な構成にて効果的に迷光による影響を除去することができ、かつ、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を抑制することができる。
【0117】
なお、上記原理による迷光除去効果は、図19に示すように、迷光1の平面方向の焦線位置が面S0(信号光のスポットが最小錯乱円となる面)よりも非点収差素子に接近した位置にあり、且つ、迷光2の曲面方向の焦線位置が面S0よりも非点収差素子から離れた位置にあるときに奏され得るものである。すなわち、この関係が満たされていれば、信号光と迷光1、2の分布は上記図8に示す状態となり、面S0において、信号光と迷光1、2が重なり合わないようすることができる。換言すれば、この関係が満たされる限り、たとえ、信号光の曲面方向の焦線位置よりも迷光1の平面方向の焦線位置が面S0に接近し、あるいは、信号光の平面方向の焦線位置よりも迷光2の曲面方向の焦線位置が面S0に接近したとしても、上記原理に基づく本発明ないし実施例の効果は奏され得る。
【0118】
<変更例>
上記実施例では、光検出器113は、図10(d)に示すセンサパターン有していたが、これに替えて、図20(b)、(c)に示すセンサパターンを有していても良い。こうすると、角度調整素子112がずれた場合や、ディスクにチルトが生じた場合にも、ディスクからの反射光が、より確実にセンサ領域に導かれる。
【0119】
以下、本変更例に係るシミュレーション結果を参照して、本変更例で用いるセンサパターンについて説明する。
【0120】
本変更例に係るシミュレーションは、上記原理に対して行ったシミュレーションの光学系(図11)を用いて行われた。シミュレーションは、上記(1)〜(10)の条件(以下、「基準条件」という)と、これに所定のパラメータ(後述)を追加した条件(以下、「付加条件」という)の2つの条件のもとで行われた。
【0121】
図20(a)の淡色で示す領域は、基準条件のもとで、光検出器18上のセンサパターンに照射する信号光の所定強度以上の分布を示している。図示の如く、所定強度以上の信号光の分布は、センサP11〜P18内に収まっている。
【0122】
次に、基準条件に対して、さらに下記(11)〜(14)のパラメータが付加された付加条件のもとで、シミュレーションが行われた。
(11)角度調整素子17のディスク径方向のずれ:15μm
(12)ディスクの径方向のチルト:0.6°
(13)ディスクの径方向と垂直な方向(円周方向)のチルト:0.3°
(14)レンズシフト:300μm
なお、上記(11)〜(14)に示す値は、基準条件からの、各パラメータの最大変化量を表している。すなわち、付加条件のもとでは、上記(11)〜(14)に示す値の範囲内で、各光学部品が変位されることになる。
【0123】
図20(a)の濃色で示す領域は、付加条件のもとで、光検出器18上のセンサパターンに照射する信号光の所定強度以上の分布を示している。図示の如く、所定強度以上の信号光の分布は、センサP11〜P18の外側にはみ出している。
【0124】
以上のシミュレーション結果から分かるとおり、基準条件に上記(11)〜(14)の条件が付加されると、所定強度以上の信号光の分布は、センサP11〜P18の外側に広がることになる。この場合、各センサによって受光される信号光の光量が減少するため、各センサから出力される信号光の検出信号は、基準条件の場合に比べ劣化することになる。そこで、本件出願の発明者は、付加条件下で、所定強度以上の信号光が分布する範囲を含み得る領域1〜4に対応したセンサを設けることを検討した。
【0125】
図20(b)は、付加条件下においても、所定強度以上の信号光を受光することができるセンサパターンを示す図である。センサP21〜P28は、センサP11〜P18の受光領域に、同図(a)の領域1〜4が加えられた受光領域を有するセンサである。こうすると、図9(b)に示す迷光が、信号光領域の外側にあるセンサP21〜P28の受光領域に掛かるものの、付加条件下であっても、所定強度以上の信号光をセンサP21〜P28にて受光することができる。
【0126】
図20(c)は、同図(b)のセンサP23〜P26が、センサP13〜P16に置き換えられたセンサパターンを示す図である。こうすると、センサP13〜P16は、センサP23〜P26に比べ、信号光領域からはみ出した信号光を受光することができないものの、センサP13〜P16は信号光領域外にはみ出さないため、センサP13〜P16に掛かる迷光は、センサP23〜P26に比べ、少なくなる。このため、同図(c)のセンサパターンが用いられると、PP2に係るセンサの検出信号の精度が、同図(b)に比べ、高められ得る。これにより、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)が適正に抑制され得る。
【0127】
なお、同図(a)を参照して分かるとおり、上下のセンサP13〜P16からはみ出した信号光の分布は、左右のセンサP11、P12、P17、P18からはみ出した信号光の分布に比べ、小さい。このため、付加条件下で、上下のセンサとして、同図(c)のセンサP13〜P16が用いられたとしても、十分な信号光がセンサP13〜P16によって受光され得る。
【0128】
なお、同図(c)では、左右のセンサの方を信号光領域からはみ出させたが、上下のセンサの方を、同図(b)のように信号光領域からはみ出させ、左右のセンサは、信号光領域内に収めるようにしても良い。こうすると、上下のセンサでより多くの信号光を受光することができるとともに、左右のセンサに対する迷光の影響を抑制することができる。
【0129】
また、上下のセンサは、同図(a)に示す領域2、3を網羅する領域でなくても良い。すなわち、上下のセンサの信号光領域の外側にある部分が、同図(b)のセンサP23〜P26の信号光領域の外側にある部分よりも小さくなっていても良い。こうすると、上下のセンサに入射する迷光の影響が、同図(b)よりも改善され、上下のセンサが受光する信号光の光量が、同図(c)よりも改善される。
【0130】
以上、本発明の実施例および変更例について説明したが、本発明は、上記実施例および変更例に制限されるものではなく、また、本発明の実施形態も上記以外に種々の変更が可能である。
【0131】
なお、上記実施例および変更例は、DC成分を抑制するための構成の他に迷光を除去するための構成をも含むものであったが、迷光を除去する必要がない場合には、図16の構成から角度調整素子112を削除し、光検出器113のセンサパターンを、図21(b)に示すパターンから図21(a)に示すパターンへと変更することで、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を抑制することができる。図21(a)の示すセンサパターンでは、図10(b)に示す4つのセンサがそれぞれビーム周方向に2分割されている。
【0132】
この場合、光束領域a〜hを受光する各センサの出力A〜Hについて、上記実施例と同様、PP1=(A+H)−(D+E)、PP2=(F+C)−(G+B)の演算により信号PP1、PP2を求め、求めた信号PP1、PP2について上記式(1)の演算を行うことにより、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を抑制することができる。なお、この場合、フォーカスエラー信号は、上記図10(b)を参照して説明した如く、FE=(A+B+E+F)−(C+D+G+H)の演算により求められる。
【0133】
また、ここでは、ディスクからのトラック像が非点収差の発生方向(平面方向/曲面方向)に対して45°傾くとして説明を行ったが、図21(c)に示すように、トラック像が非点収差の発生方向に平行となるよう光学系を調整することもできる。この場合、トラック像は、光検出器の受光面上の各光束領域に対して、同図(d)に示すように位置づけられる。なお、同図(d)では、トラック像が実線で示され、オフフォーカス時のビーム形状が点線によって示されている。
【0134】
よって、この場合には、光束領域a〜hを受光する各センサの出力A〜Hについて、PP1=(A+B)−(E+F)、PP2=(G+D)−(H+C)の演算により信号PP1、PP2を求め、求めた信号PP1、PP2について上記式(1)の演算を行うことにより、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を抑制することができる。この場合も、フォーカスエラー信号は、上記と同様、FE=(A+B+E+F)−(C+D+G+H)の演算により求められる。
【0135】
なお、同図(d)は、角度調整素子112が配されない場合のセンサパターンであるが、上記のように角度調整素子112を配して4つの光束領域を分散させ、各信号光を同図(b)のセンサパターンにて受光する場合にも、同様に、PP1=(A+B)−(E+F)、PP2=(G+D)−(H+C)の演算により信号PP1、PP2を求め、求めた信号PP1、PP2について上記式(1)の演算を行うことにより、プッシュプル信号(トラッキングエラー信号)に含まれるオフセット(DC成分)を抑制することができる。
【0136】
この他、本発明の実施の形態は、特許請求の範囲に示された技術的思想の範囲内において、適宜、種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0137】
101 半導体レーザ(レーザ光源)
108 対物レンズ
111 検出レンズ(非点収差素子)
112 角度調整素子(光学素子)
113 光検出器
P11〜P18 センサ
P21〜P28 センサ
21、22 加算回路(第1の演算部)
23 減算回路(第1の演算部)
24、25 加算回路(第2の演算部)
26 減算回路(第2の演算部)
27 乗算回路(第3の演算部)
28 減算回路(第3の演算部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光源と、
前記レーザ光源から出射されたレーザ光を記録媒体上に収束させる対物レンズと、
前記記録媒体によって反射された前記レーザ光に非点収差を導入し、これにより、第1の方向に前記レーザ光が収束することによって生じる第1の焦線位置と、前記第1の方向に垂直な第2の方向に前記レーザ光が収束することによって生じる第2の焦線位置とを前記レーザ光の進行方向に互いに離間させる非点収差素子と、
前記記録媒体によって反射された前記レーザ光の光束を、前記第1の方向と前記第2の方向にそれぞれ平行な第1および第2の直線によって4分割し、さらに分割後の各光束を、これら第1および第2の直線にそれぞれ45°の角度をもつ第3および第4の直線によって2分割した8つの光束をそれぞれ個別に受光するセンサを有する光検出器と、を備え、
前記記録媒体からのトラック像が前記第1、第2、第3および第4の直線の何れかと平行となるように前記非点収差素子が配置されている、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の光ピックアップ装置において、
前記記録媒体によって反射された前記レーザ光の光束を前記第1および第2の直線によって4分割した4つの光束の進行方向を互いに異ならせ、これら4つの光束を互いに離散させる光学素子をさらに有する、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の光ピックアップ装置において、
前記光学素子は、離散された前記4つの光束が前記光検出器の受光面上において直方形の異なる4つの頂角の位置にそれぞれ導かれるよう、前記4つの光束の進行方向を変化させる、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項4】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の光ピックアップ装置において、
前記光検出器からの出力を処理する演算回路をさらに備え、
前記演算回路は、
前記第1、第2、第3および第4の直線のうちトラック像に対して45°の角度を有する2つの直線によって前記記録媒体から反射されたレーザ光の光束を4つに分割したとき、前記トラック像を横切る方向にある2つの光束の光量差をこれら2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第1の演算部と、残り2つの光束の前記トラック像を横切る方向の光量の偏りをこれら残り2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第2の演算部とを有する、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の光ピックアップ装置において、
前記演算回路は、前記第2の演算部による演算値に変数kを乗算した値を前記第1の演算部による演算値から減算する第3の演算部をさらに備え、
前記変数kは、前記レーザ光の光軸に対する前記対物レンズのオフセットに応じて、前記第1の演算部による演算値と前記第2の演算部による演算値が同じ方向に変位する場合には正の値を持ち、異なる方向に変位する場合には負の値を持つ、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項6】
請求項5に記載の光ピックアップ装置において、
前記変数kは、前記オフセットによって前記第1の演算部による演算値に生じるDC成分を最も抑制できる値に設定されている、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項7】
請求項3に記載の光ピックアップ装置において、
前記4つの頂角のうち少なくとも一つの対角方向に向き合う一対の頂角に配置される前記センサが、前記直方形から、前記対角方向にはみ出すような形状となっている、
ことを特徴とする光ピックアップ装置。
【請求項8】
請求項1ないし3の何れか一項に記載の光ピックアップ装置と、
前記光検出器からの出力を処理する演算回路をさらに備え、
前記演算回路は、
前記第1、第2、第3および第4の直線のうちトラック像に対して45°の角度を有する2つの直線によって前記記録媒体から反射されたレーザ光の光束を4つに分割したとき、前記トラック像を横切る方向にある2つの光束の光量差をこれら2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第1の演算部と、残り2つの光束の前記トラック像を横切る方向の光量の偏りをこれら残り2つの光束に対応する前記センサからの出力信号に基づいて算出する第2の演算部と、前記第2の演算部による演算値に変数kを乗算した値を前記第1の演算部による演算値から減算する第3の演算部をさらに備え、
前記変数kは、前記レーザ光の光軸に対する前記対物レンズのオフセットに応じて、前記第1の演算部による演算値と前記第2の演算部による演算値が同じ方向に変位する場合には正の値を持ち、異なる方向に変位する場合には負の値を持つ、
ことを特徴とする光ディスク装置。
【請求項9】
請求項8に記載の光ディスク装置において、
前記変数kは、前記オフセットによって前記第1の演算部による演算値に生じるDC成分を最も抑制できる値に設定されている、
ことを特徴とする光ディスク装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−102813(P2010−102813A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−129668(P2009−129668)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】