説明

光ファイバ、光ファイバテープおよび光インターコネクションシステム

【課題】曲げ損失及び接続損失がともに低減され、曲げによる破断確率が小さい、光インターコネクションシステムを容易に構築するのに適した光ファイバを提供すること。
【解決手段】本発明による光ファイバは、設計の最適化により、波長1100nmにおけるMFDを拡大しつつ、波長1100nmにおけるシングルモード光伝搬を可能とする。また、本発明による光ファイバは、曲げによる損失増加が低減され、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であることを特徴とする。また、本発明による光ファイバは、クラッド径を縮小させ、40μm〜90μmとすることにより、曲げ応力が加わった際の破断確率が低減され、かつ配線のフレキシビリティが向上されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光ファイバに関し、詳細には、機器内光配線用光ファイバ、それを用いた光ファイバテープおよび光インターコネクションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
機器内の信号伝送に用いられる方式としては、電気伝送方式及び光インターコネクション方式の二種類がある。近年のCPUクロック周波数の高速化に伴い、電気伝送方式においては、高密度配線によるクロストークの発生が問題となり、波形成形技術等の適用が必要となってきている。この結果、機器内での信号伝送方式として電気伝送方式を適用した場合には、伝送距離100m及び伝送速度10Gbps程度が伝送限界となることが分かってきている。一方、機器内での信号伝送方式として光インターコネクション方式を適用すれば、電気伝送方式と比較して遥かに広帯域な伝送を行うことが可能であるとともに、小型かつ低消費電力の光部品を使用した信号伝送システムを構築できる。このため、光インターコネクション方式は、電気伝送方式に代わる機器内信号伝送技術として現在注目されている。
【0003】
光インターコネクション方式には、光伝送手段として光導波回路を用いた方式や光ファイバを用いた方式があるが、機器内で使用される全ての光部品はできるだけ省スペース収納可能であることが望ましいことから、フレキシブルな配線が可能であり、かつ低損失な光伝送が可能である光ファイバは光インターコネクションに適した光部品の一つと位置づけられている。
【0004】
従来、短距離光伝送用の光ファイバとしては、マルチモード光ファイバ(MMF)が使用されてきた。通常、MMFはシングルモード光ファイバ(SMF)の10倍程度のコア径を有し、その開口数の大きさにより、光ファイバと光源等との間の接続に際して高い精度を必要としないため、容易な接続を可能にする。特に、発振波長850nmの面発光型半導体レーザ(VCSEL)を光源とし、マルチモード光ファイバの一種であるグレーデッドインデックス光ファイバを光伝送媒体とする手法は頻繁に用いられている。グレーデッドインデックス光ファイバは、コア領域の屈折率分布形状を最適化することにより、モード分散の影響を抑制した光ファイバである。精密に屈折率分布形状を制御したグレーデッドインデックス光ファイバは、伝送速度10Gbps、距離100m程度の高速光通信が可能である。しかし、さらなる長距離伝送、あるいはさらなる高速伝送を行うことを目的として、広帯域なSMFの適用が検討されはじめている。このような場合に適用される光源として、近年、GaInAs/GaAs系半導体レーザの研究が進められている。このレーザは、1100nm〜1200nmの発振波長を有し、発振閾値が低く、温度特性が良好であり、また、10Gbpsでの直接変調ができる可能性があるなどの特長を有しており、LAN等の用途の光源として注目されつつある。発振波長は変化させることが可能であり、現在までに、1100nm及び1200nmの双方について研究開発が行われており、学会発表等がなされている。例えば、非特許文献1及び非特許文献2においては、GaInAs/GaAs量子井戸レーザを光源として使用し、SMFを介して伝送を行うことが開示されている。SMFを用いた場合、伝送速度40Gbps程度の高速光通信が可能になる。
【0005】
【非特許文献1】F.Koyama他、“1.2μm highly strained GaInAs/GaAs quantum well lasers for singlemode fibre datalink”、ELECTRONICS LETTERS、Vol.35、No.13、pp.1079−1081、June、1999.
【非特許文献2】F.Koyama他、“Data Transmission Over Single−Mode Fiber by Using 1.2−μm Uncooled GaInAs/GaAs Laser for Gb/s Local Area Network” 、PHOTONICS TECHNOLOGY LETTERS、Vol.12、No.2、pp.125−127、February、2000.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
曲げ損失及び接続損失がともに低減され、高速光伝送を可能とし、光インターコネクションシステムを容易に構築するのに適した光ファイバの実現に対する要求がある。また、小さな曲げ径で引き回すことができ、曲げによる破断確率が小さく、また余長を収納することが可能であるような光ファイバの実現に対する要求がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記要求に対応するため、本発明は、近年開発が行われている発振波長1100nm〜1200nmのVCSELを用いた光インターコネクションシステムの構築に適したSMFを提供する。
【0008】
本発明による光ファイバは、コア及びクラッドが石英系ガラスからなり、波長1100nmにおけるMFDを拡大しつつ、波長1100nmにおけるシングルモード光伝搬を可能とする。
【0009】
また、本発明による光ファイバは、曲げによる損失増加が低減され、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明による光ファイバは、クラッド径を縮小させ、40μm〜90μmとすることにより、曲げ応力が加わった際の破断確率が低減され、かつ配線のフレキシビリティが向上されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明による光ファイバは、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、第1コアの屈折率分布の形状を表すα値が1.5以上であり、第2コアの比屈折率差(Δ2)が−0.2%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の光ファイバは、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、αが1.5以上であり、第2コアの比屈折率差(Δ2)が0%であり、第3コアの比屈折率差(Δ3)が−0.2%以下であることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の光ファイバは、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、αが1.5以上であり、第2コアの比屈折率差(Δ2)が−0.2%以下、第3コアの比屈折率差(Δ3)が0.2%以上であることを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記の光ファイバを複数個平行に並べることによって形成された光ファイバテープを提供する。
【0015】
さらに、本発明は、上記の光ファイバ及びVCSELを使用した、通信波長1100nm〜1200nmの光インターコネクションシステムを提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、波長1100nmにおける曲げ損失特性及び接続損失特性に優れたシングルモード光ファイバが提供される。また、高速光インターコネクションを実現するシステムおよびそのようなシステムにおける使用に適したシングルモード光ファイバが提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
SMFのコア径は通常5〜10μm程度であり、50〜62.5μm程度のコア径を有するMMFと比較するとコア径が非常に小さいため、光ファイバと光源等との間での高精度な接続が必要であるという欠点がある。また、光インターコネクションによる機器内通信システムを構築する場合、光ファイバやVCSELなどの光部品はコネクタ等を用いた10箇所近くの空間結合によって接続されることが想定される。光部品を空間結合によって接続する場合、接続部品間において光軸のずれが生じ、接続損失が発生する。そのために、たとえ部品間のMFDが同程度であっても、軸ずれによって接続損失は誘起されてしまう。また、接続部品間のMFD差が大きいほど、軸ずれ時の結合効率の低下が著しく、軸ずれ量に対する接続損失は大きくなる傾向がある。
【0018】
例えば、同種のSMF同士の接続において、軸ずれに対する波長1550nmにおける接続損失を計算した結果を図1に示す。軸ずれは、光ファイバと光源、光ファイバと受光部、または光ファイバ同士の接続損失の低減のために重要なパラメータである。現状では、製造誤差による軸ずれの最大値は1μm程度になり得るため、最悪値設計の観点から1μmの軸ずれを許容できるよう考慮した損失設計が必要である。
【0019】
図1を参照すると、MFDが4μmの場合、軸ずれ1μmに対して1.1dB程度の接続損失が生じる。光源であるVCSELと受光器との間で接続点が10箇所存在し、各接続点における軸ずれが1μmであることを仮定した場合、軸ずれによる接続損失は最大11dB生じることになる。VCSELの出力光パワーが−3dBm、受光器の受信感度が−16dBm、光ファイバ長50cm程度以下の典型的な光インターコネクションシステムを構築することを仮定すると、光ファイバにおける曲げ部以外の伝送損失は0.01dB以下と小さいため、このシステムのダイナミックレンジは約13dBとなる。しかしながら、実際には、接続点においては上記の軸ずれによる損失11dBだけではなく、角度ずれによる接続損失も生じ得るので、上記の仮定の場合には、システムのダイナミックレンジ13dBに対してほとんどマージンがない。従って、4μm程度以下のMFDを有するSMFを適用して上記のような光インターコネクションシステムを構成することは困難である。
【0020】
一方、機器内光配線に石英系光ファイバを用いた場合、該光ファイバには、フレキシブルな配線が可能であって且つコンパクトに収納できることが求められる。一方、高速光インターコネクションシステムの構築を想定した場合、光ファイバの伝送損失は限りなく零であることが望ましい。つまり、光インターコネクション用光ファイバには、配線時に曲率半径の非常に小さい曲げが光ファイバに加わったとしても、曲げ損失が生じないことが要求される。実際に機器内光配線形態を想定した場合、配線後の光ファイバには最終的に曲率半径1mm程度の曲げが数箇所加わることが想定される。そこで、配線取りまわし時の局所的な曲げが加わった場合や最悪値設計の観点から必要な曲げ損失許容値を考えた場合、曲率半径1mmの曲げが1ターン加わった場合に曲げ損失が1dB以下であれば、十分に良好な曲げ損失特性であり、フレキシブル光配線が可能であるといえる。なお、本明細書では、曲げが形成されている部分(屈曲部)の数え方に「ターン」を用い、光ファイバが360度屈曲した場合に1ターンと数える。例えば、90度の屈曲部が4箇所ある場合を1ターン、90度の屈曲部が2箇所ある場合を1/2ターンというように用いる。
【0021】
例えば、通常のSMFにおいては、曲率半径5mm、1ターンの曲げが加えられた場合、波長1550nmにおいて30dB近い曲げ損失が生じる。さらに、曲率半径1m、1ターンの曲げが加えられた場合には60dB以上もの曲げ損失が生じる。例えば、上述したダイナミックレンジ13dBのシステムにおいては、曲げ損失による損失増加のマージンはたかだか2dBであり、光ファイバの取り回しにより曲率半径1mmの局所的な曲げが2ターン程度生じるような配線状態を考慮すると、1ターン当たり1dB程度以下という非常に小さな曲げ損失が要求されるため、このようなシステムの構築に際して通常のSMFを適用することはできない。また、通常の単峰型プロファイルを有するSMFにおいては、曲げ損失の抑制とMFDの拡大とはトレードオフの関係にあるため、曲げ損失及び接続損失を同時に改善することはできない。
【0022】
さらに、機器内光配線形態を想定した場合、コンパクトに収納されることが要求され、機器内の様々な箇所で、前述した曲げ半径1mm程度の曲げ以外に、チップ-チップ間の配線のたわみ等による曲げ半径5mm程度の曲率半径の小さい曲げが加わることが考えられる。曲げ半径1mm程度の曲げが加えられる箇所に関しては、熱処理等が施され、歪を開放させる処置がとられるが、機器内の様々な箇所で発生する曲げ半径5mm程度の曲げに対しては、そのような処置がとられない。したがって、光ファイバに曲げ半径5mm程度の曲げが加えられる箇所において、曲げ部位に生じる応力歪みによって光ファイバが破断してしまうことが懸念される。したがって、曲げによる破断確率を低減する必要がある。
【0023】
一般的に、クラッド径が大きいほど、光ファイバを曲げた時の歪が大きくなり、破断確率が大きくなる。例えば、光ファイバを用いた光インターコネクションシステムを構築した場合において、光ファイバに曲率半径5mm程度の角度90度の曲げが20箇所程度加わることを想定する。スクリーニングレベルを2%、被覆材との間の疲労係数を22、製品寿命を5年とすると、光ファイバのクラッド径が125μmの場合の故障率は5.5となる。しかし光ファイバのクラッド径を90μmにした場合の故障率は0.04となり、125μmの場合の0.7%程度にまで低減できる。システム設計上、故障率は0.05以下になることが好ましい。通常の光ファイバにおいては、曲げによる破断率の低減に対する要求はそれほど強くないが、光インターコネクションシステムに適用される光ファイバのように小径に曲げられる場合には、上記のように小径巻きつけによる破断率を低減させることによる効果は大きい。
【0024】
一般的に、SMFにおいては、MFDに対して10倍程度以下のクラッド径を有する場合に損失に悪影響を与えると言われている。このため、4μm以上のMFDを必要とする本用途の光ファイバでは、少なくとも40μm以上のクラッド径が必要となる。
【実施例1】
【0025】
図2に示すようなW型プロファイルを有する、本発明によるシリカベース光ファイバの特性をシミュレーションにより求めた。本光ファイバにおいては、1層目にゲルマニウムをドープしたコア(第1コア)、2層目にフッ素をドープしたディプレスト層(第2コア)が設けられている。各層についての詳細な設計値及び計算された特性を表1のファイバAに示す。表1において、α1は、第1コアの屈折率分布の形状を表すα値であり、以下の式(1)中のαで定義される。
2(r)=nc12{1−2・(Δ1/100)・(2r/a)α} (1)
但し、0<r<a/2
ここで、rは光ファイバの中心からの半径方向の位置を示し、n(r)は位置rにおける屈折率を表している。また、nc1は第1コアの最大屈折率であり、aは第1コアの直径である。
【0026】
また、Δ1及びΔ2は、それぞれ、クラッドに対する第1コアの比屈折率差、及びクラッドに対する第2コア2の比屈折率差であり、下記式(2)及び(3)で示される。
Δ1={(nc1−nc)/nc1}・100 (2)
Δ2={(nc2−nc)/nc2}・100 (3)
ここで、nc1は第1コアの最大屈折率、nc2は第2コア2の最小屈折率、ncはクラッドの屈折率である。
【0027】
波長1100nmにおいてMFDは5.1μmとなり、同波長でシングルモード動作し、なおかつ同波長において曲げ半径1mmでの曲げ損失は0.8dB/ターンであった。さらに、図2に示すW型プロファイルを有する光ファイバにおいて各パラメータ値を変化させたシミュレーション結果を表1のファイバA1〜A6に示す。表1のA及びA1〜A6において、波長1100nmにおけるMFDが4μm以上となり、波長1100nmにおいてシングルモード伝搬可能であり、かつ、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であるのは、A、A2、A4及びA6である。従って、これらのシミュレーション結果から、図2に示すようなW型プロファイルを有する光ファイバにおいては、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)を0.5%以上、αを1.5以上とし、第2コアの比屈折率差(Δ2)を−0.2%以下とすることにより、所望の特性を持つ本発明の光ファイバが得られることが分かった。
【0028】
上記の本発明による光ファイバと比較すべく、波長1100nmにおいて曲げ半径1mm、1.0dB/ターンの低曲げ損失特性を有する、図3に示すような単峰型プロファイルの光ファイバの特性をシミュレーションにより求めた。計算された特性を表1のファイバBに示す。波長1100nmにおけるMFDは3.9μmとなった。
【実施例2】
【0029】
図4に示すようなWセグメント型プロファイルを有する、本発明によるシリカベース光ファイバの特性をシミュレーションにより求めた。本光ファイバにおいては、1層目にゲルマニウムをドープしたコア(第1コア)、2層目にフッ素をドープしたディプレスト層(第2コア)、3層目にゲルマニウムをドープしたセグメント層(第3コア)が設けられている。各層についての詳細な設計値及び計算された特性を表1のファイバCに示す。Δ3はクラッドに対する第3コアの比屈折率差であり、下記式(4)で示される。
Δ3={(nc3−nc)/nc3}・100 (4)
ここで、nc3はWセグメント型プロファイルにおける第3コアの最大屈折率である。
【0030】
波長1100nmにおいてMFDは5.2μmとなり、同波長でシングルモード動作し、なおかつ同波長において曲げ径1mmでの曲げ損失は0.9dB/ターンであった。さらに、図4に示すWセグメント型プロファイルを有する光ファイバにおいて各パラメータ値を変化させたシミュレーション結果を表1のファイバC1〜C8に示す。表1のC及びC1〜C8において、波長1100nmにおけるMFDが4μm以上となり、波長1100nmにおいてシングルモード伝搬可能であり、かつ、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であるのは、C、C2、C4、C6及びC8である。従って、これらのシミュレーション結果から、図4に示すようなWセグメント型プロファイルを有する光ファイバにおいては、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)を0.5%以上、αを1.5以上とし、第2コアの比屈折率差(Δ2)を−0.2%以下、第3コアの比屈折率差(Δ3)を0.2%以上とすることにより、所望の特性を持つ本発明の光ファイバが得られることが分かった。
【実施例3】
【0031】
図5に示すような擬似W型プロファイルを有する、本発明によるシリカベース光ファイバの特性をシミュレーションにより求めた。本光ファイバにおいては、1層目にゲルマニウムをドープしたコア(第1コア)、2層目にシリカ層(第2コア)、3層目にフッ素をドープしたディプレスト層(第3コア)が設けられている。各層についての詳細な設計値及び計算された特性を表1のファイバDに示す。上記実施例2と同様、Δ3はクラッドに対する第3コアの比屈折率差であり、式(4)で示される。この場合、式(4)中のnc3は擬似W型プロファイルにおける第3コアの最小屈折率である。
【0032】
波長1100nmにおいてMFDは5.0μmとなり、同波長でシングルモード動作し、なおかつ同波長において曲げ径1mmでの曲げ損失は0.7dB/ターンであった。さらに、図5に示す擬似W型プロファイルを有する光ファイバにおいて各パラメータ値を変化させたシミュレーション結果を表1のファイバD1〜D6に示す。表1のD及びD1〜D6において、波長1100nmにおけるMFDが4μm以上となり、波長1100nmにおいてシングルモード伝搬可能であり、かつ、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であるのは、D、D2、D4及びD6である。従って、これらのシミュレーション結果から、図5に示すような擬似W型プロファイルを有する光ファイバにおいては、コアの屈折率分布において、第1コアの比屈折率差(Δ1)を0.5%以上、αを1.5以上とし、第2コアの比屈折率差(Δ2)を0%、第3コアの比屈折率差(Δ3)を−0.2%以下とすることにより、所望の特性を持つ本発明の光ファイバが得られることが分かった。
【0033】
単峰型プロファイルを有するSMFでは、コア径を変化させてカットオフ波長を決定すると、コア形状に殆ど依存することなく、MFDが同程度の光ファイバは同程度の曲げ損失を示す。しかし、第1コアの外周に第2コアとしてディプレスト層を設けたW型プロファイルなどにおいては、単峰型プロファイルと同等の曲げ損失、カットオフ波長でMFDを変化させることができる。これは、ディプレスト層を設けることで、中央コアの比屈折率差(Δ)を大きくしてもカットオフ波長が長波長にシフトせず、コア径を小さくする必要が無いからである。また、第2コアとしてディプレスト層を設けた場合、第1コアの形状がMFDに大きく影響する。第1コアの屈折率分布の形状を表すα値が小さい程光の閉じ込め効果が小さくなり、MFDが大きくなる。一方、MFDは、ディプレスト層のΔの大きさ、或いは幅には影響されない。
【実施例4】
【0034】
光インターコネクションに光ファイバを用いる場合、光ファイバをテープ化することで光伝送体をマルチチャンネル化し、高速光通信を行うことが想定される。通常石英系光ファイバの仕様はクラッド径125μmに対し、被覆後外径250μmであり、光ファイバを複数本平行に並べて相互に接合した光ファイバテープのピッチとしては、250μmであるのが一般的である。光ファイバの外径を細くした細径光ファイバにおいては、被覆径も細径化するので、従来の光ファイバテープよりも狭いピッチの光ファイバテープ作製が可能となる。したがって、前述したクラッド径40〜90μmの細径光ファイバを用いることが好ましい。細径光ファイバを用いた狭いピッチの光ファイバテープは、配線のフレキシビリティが高く、かつ省スペース収納が可能であり、光インターコネクションに適した光部品となる。
【0035】
上述した実施例1〜3における計算結果に示されるように、本発明の光ファイバは波長1100nmにおけるシングルモード光伝搬を可能とし、かつ、波長1100nmにおける曲げ損失特性及び接続損失特性に優れている。このような本発明の光ファイバを用いた光ファイバテープを伝送媒体として適用し、光源として発振波長1100nmのVCSELを使用した光インターコネクションシステムの構成例を図6に示す。図6に示す光インターコネクションシステムは、バックボード3と、該バックボード3にコネクタ接続部4によって接続されたプリント基板2とを備える。プリント基板2上には、光I/O1が実装され、該光I/O1は、上述した細径光ファイバテープ5を介してコネクタ接続部4と接続される。これによりプリント基板2とバックボード3と間での光接続が果たされる。細径光ファイバテープ5は、バックボード3上にも配置されており、これにより、光インターコネクションシステム同士の光接続が可能となる。
【実施例5】
【0036】
実施例1(表1のファイバA)の光ファイバを実際に製造した。なお、クラッド径は80μmとした。製造された光ファイバの詳細な屈折率プロファイル及び光学特性値を表2に示す。ほぼシミュレーション通りの特性を有する光ファイバが得られた。
【0037】
ファイバAはW型プロファイルを有しており、一般的に、長波長ほどMFDは大きくなり、実効屈折率は小さくなる。そのため、波長1200nmにおけるMFDは波長1100nmにおける値よりも大きくなるが、曲げ損失は波長1100nmの場合の方が小さい。曲げ損失のロスマージンを5dBとすると、使用波長が1100nmの場合には曲率半径1mmの曲げが5ターンまでは許容できる。一方、使用波長が1200nmの場合には曲率半径1mmの曲げが4ターンまでは許容できる。
【0038】
さらに、表2の光ファイバを用いて光ファイバテープを作製し、発振波長1200nmのVCSEL及び本発明の光ファイバを用いた、図6と同様の構造の光インターコネクションシステムを実際に構築した。VCSELの出力光パワーは−3dBm、受光器の受信感度は−16dBmであり、システムのダイナミックレンジ(曲げ損失と接続損失との和におけるロスマージン)は13dBである。
【0039】
図7に示すように、クラッド11の径を80μm、1次被覆樹脂12の外径を105μm、2次被覆樹脂13の外径を125μmとした。さらに、図8に示すように、ピッチP125μmにて12本平行に並べ、これを被覆樹脂21にて覆うことによりこれら光ファイバ10を接合して、細径光ファイバテープ20を作製した。被覆樹脂21が薄肉化されることによる損失増加量と、省スペース化の両要素を考慮に入れ被覆径H(厚さH)を170μmとした。ピッチPが125μmとされた光ファイバテープ20は従来の半分のサイズであり、非常にフレキシビリティが高く、また機器内において省スペース収納が可能である。被覆樹脂21の材料としては紫外線硬化樹脂を用いている。
【0040】
ピッチPはクラッド11の径が40μm、被覆外径とクラッド外径との差を20μmの細径光ファイバ10を用いれば60μmまで小さくすることができる。
【0041】
光ファイバテープ20の仕上がり寸法は、幅Wが1.55mm、厚さHが0.17mmとなった。接続相手となる光源のVCSELをピッチ125μm、12チャンネルにアレイ化することで、作製したファイバテープ20による一括光接続が可能となる。この構成においては、VCSELを直接変調することで、100Gbpsを超える超高速光通信が実現される。
【0042】
本実施例においては発振波長1200nmのVCSELを適用したが、上述した本発明の実施例に係る光ファイバは波長1100nmにおいてもシングルモード伝送が可能であり、発振波長1100nmのVCSELを適用した場合にも、光インターコネクションシステムを同様に構築できることは、当業者には明らかである。
【実施例6】
【0043】
本実施例では、被覆樹脂21の材料となる紫外線硬化樹脂として難燃性紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂を用いて、難燃テープ心線を作製した。ここで用いた難燃性紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂は、例えば次のように作製した。樹脂中に臭素、塩素などのハロゲン系添加剤、さらに三酸化アンチモン、トリフェニルアンチモンなどのアンチモン化合物、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムといった金属水和物、またリン酸エステルなどのリン化合物を加えることや、紫外線硬化樹脂を構成するプレポリマや、アクリルモノマー自体を臭素や塩素でハロゲン化し、さらにリンを含ませるなどして紫外線硬化樹脂の難燃化を検討した。これらの方法のなかで、臭素系難燃剤を加える方法が特に難燃化に有効であった。
【0044】
このようにして組成変更することにより難燃化が実現する理由としては、分解反応による生成物が樹脂の表面を覆うとか、燃える際に発生する分解ガスが空気との間に遮断層を形成するためと考えられる。また、ハロゲン含有化合物からのラジカルが燃焼の継続を阻止することや、さらに、架橋により樹脂が3次元化することなどが考えられる。
【0045】
テープ化用の紫外線硬化樹脂として難燃剤として水酸化アルミニウムを含む紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂をもちいて得られた光ファイバテープを、JIS C3005規格60度傾斜燃焼試験により評価した。その結果、ファイバに着火した炎は平均3.2秒程度で自然に消火し、規格を満足することができた。本実施例では、難燃紫外線硬化樹脂を用いたが、難燃紫外線硬化樹脂の代わりに難燃熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【実施例7】
【0046】
光ファイバ被覆樹脂のすべてまたは一部、及びテープ被覆樹脂を難燃紫外線硬化樹脂にすることで高い難燃性を得ることを検討した。その結果、少なくとも光ファイバのセカンダリ樹脂とテープ用樹脂に難燃剤を含む紫外線硬化型ウレタンアクリレート樹脂を用いて得られた光ファイバテープにより、JIS C3005規格60度傾斜燃焼試験において、着火した炎は平均2.6秒程度で自然に消火し、規格を満足することができた。
【0047】
また、UL1581規格垂直燃焼試験を行った結果、炎は平均5.7秒で自然に消火した。また、燃焼している滴下物もなく、前記UL規格を満足することができた。また、素線の状態で垂直燃焼試験を行った結果、炎は平均7.6秒で自然に消火し、素線、テープ心線の両方の状態で充分な難燃性を有していた。本実施例では難燃紫外線硬化樹脂を用いたが、難燃紫外線硬化樹脂の代わりに難燃熱可塑性樹脂を用いることもできる。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】同種のシングルモード光ファイバ同士の接続において、軸ずれに対する波長1550nmにおける接続損失を計算した結果を示す図である。
【図2】本発明の光ファイバのW型プロファイルを示す図である。
【図3】従来の光ファイバの単峰型プロファイルを示す図である。
【図4】本発明の光ファイバのWセグメント型プロファイルを示す図である。
【図5】本発明の光ファイバの擬似W型プロファイルを示す図である。
【図6】本発明の光ファイバを使用した光インターコネクションシステムの構成例を示す図である。
【図7】本発明の光ファイバの断面図である。
【図8】本発明の光ファイバテープの断面図である。
【符号の説明】
【0051】
1 光I/O
2 プリント基板
3 バックボード
4 コネクタ接続部
5 細径光ファイバテープ
10 光ファイバ
11 クラッド
12 1次被覆樹脂
13 2次被覆樹脂
20 光ファイバテープ
21 テープ用被覆樹脂



【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長1100nmにおけるモードフィールド径(MFD)が4μm以上であり、かつ1100nmにおいてシングルモード伝搬し、半径1mmで曲げたときの波長1100nmにおける曲げ損失が1dB/ターン以下であることを特徴とする、コア及びクラッドが石英系ガラスからなる光ファイバ。
【請求項2】
クラッド径が40μm〜90μmであることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ。
【請求項3】
前記コアが、第1コア及び前記第1コアを取り囲む第2コアからなり、前記コアの屈折率分布において、前記第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、前記第1コアの屈折率分布の形状を表すα値が1.5以上であり、前記第2コアの比屈折率差(Δ2)が−0.2%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項4】
前記コアが、第1コア、前記第1コアを取り囲む第2コア、及び前記第2コアを取り囲む第3コアからなり、前記コアの屈折率分布において、前記第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、前記第1コアの屈折率分布の形状を表すα値が1.5以上であり、前記第2コアの比屈折率差(Δ2)が0%であり、前記第3コアの比屈折率差(Δ3)が−0.2%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項5】
前記コアが、第1コア、前記第1コアを取り囲む第2コア、及び前記第2コアを取り囲む第3コアからなり、前記コアの屈折率分布において、前記第1コアの比屈折率差(Δ1)が0.5%以上、前記第1コアの屈折率分布の形状を表すα値が1.5以上であり、前記第2コアの比屈折率差(Δ2)が−0.2%以下、前記第3コアの比屈折率差(Δ3)が2%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の光ファイバ。
【請求項6】
前記光ファイバは紫外線硬化樹脂および熱硬化樹脂の少なくともいずれか一方でなる被覆を有し、前記紫外線硬化樹脂および熱硬化樹脂のうち少なくとも一部は難燃性を有するものであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光ファイバ。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の光ファイバが平行に並べられて相互に接合されていることを特徴とする光ファイバテープ。
【請求項8】
難燃紫外線硬化樹脂および難燃熱可塑性樹脂の少なくともいずれか一方でなるテープ被覆を有することを特徴とする請求項7に記載の光ファイバテープ。
【請求項9】
1100nm〜1200nmの発振波長を有する面発光半導体レーザからなる光源と、 請求項1〜6のいずれか1項に記載の光ファイバからなる伝送媒体とを具備することを特徴とする光インターコネクションシステム。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−33466(P2007−33466A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197894(P2005−197894)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】