説明

光ファイバジャイロ

【課題】 補助的な光ジャイロを有しながらも小型で安価な光ファイバジャイロを提供する。
【解決手段】 光ファイバジャイロ1は、主要な検出系である第1の光ジャイロ11と補助的な検出系である第2の光ジャイロ31と、から構成されている。第1の光ジャイロ11は、両端面から光を出射させる半導体レーザ12と、光ファイバをボビンに多重巻きして光ファイバコイル部16bを形成してなる感知コイル16を有し、半導体レーザ12の両端面12a,12bから出射した光を互いに反対方向に周回させる第1の光ファイバループ13と、を備えている。一方、第2の光ジャイロ31は、一端面から光を出射させるSLD32と、SLD32の一端面から出射した光を2方向に分配する光分配器33と、光分配器33により2方向に分配された光が一対の光結合器17,18を介して感知コイル16に導かれるように構成された第2の光ファイバループ34と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体レーザの両端面から出射した光を互いに反対方向に光ファイバループ内を周回させることにより回転角速度を検出する光ファイバジャイロに関し、詳しくは補助的な光ジャイロを備えた光ファイバジャイロに関するものである。
【背景技術】
【0002】
サニャック(Sagnac)効果を利用して物体の回転角速度(角速度)を計測する光ファイバジャイロが、航空機やロケットなどの分野を中心に多用されている。従来の光ファイバジャイロは、干渉型光ファイバジャイロと一般的に呼ばれ、一端面から光を出射させる光源と、光源が出射した光を2分岐する光結合器(光ファイバカプラ)と、2分岐された光を互いに反対方向に周回させる光ファイバループとを備えている。そして、光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光にサニャック効果がもたらす位相の変化(位相差)から角速度を計測するものである。(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これに対して、近年、両端面から光を出射させる半導体レーザを光ファイバループ内に配置させることにより、半導体レーザとともに光ファイバループがレーザの共振回路を構成する光ジャイロ(以下では、適宜、半導体リングレーザジャイロという)が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
図3は、特許文献2が開示する半導体リングレーザジャイロとしての光ジャイロ50の構成を示す概略図である。光ジャイロ50は、半導体光アンプ(SOA)51と、半導体光アンプ51の両端面51A,51Bにループ状に連結された光ファイバ52と、を備えている。この半導体光アンプ51は、その両端面51A,51Bからレーザ光CW,CCWを出射させるともに、光ファイバ52中を互いに反対方向に一周したレーザ光CW,CCWを誘導放出によって増幅し、その増幅したレーザ光CW,CCWを再び光ファイバ52へ出射させるものである。
【0005】
光ファイバ52中を伝搬するレーザ光CW,CCWの一部は、結合器53により光ファイバ54に導かれた後、結合器55によって重ね合わされる。重ね合わされたレーザ光CW,CCWは、光ファイバ56を介して光検出器57に導かれる。光検出器57では、重ね合わされたレーザ光CW,CCWを2乗検波し、レーザ光CW,CCW間の発振周波数の差に起因して生じるビート信号を検出する。このレーザ光CW,CCW間の発振周波数の差は、光ファイバ52が半導体光アンプ51とともにレーザの共振回路を構成していることにより生じるものである。すなわち、テーブル60の回転にともなうサニャック効果に起因して右回りと左回りのレーザ共振器長が変わることによって生じるものである。
【0006】
光検出器57により検出されたビート信号は、スペクトルアナライザ58に入力され、ビート周波数fが検出される。そして、検出されたビート周波数fと角速度Ωとの関係を示す次式から回転体(光ファイバループ)の角速度が検出器59において算出される。
=(4A/nλP)Ω
ただし、Aは、光ファイバ52によって囲まれる領域の面積であり、nは、光ファイバ52の屈折率であり、λは、レーザ光CW,CCWの波長であり、Pは、レーザ光CW,CCWのパス長であり、Ωは、角速度である。
【0007】
【特許文献1】特開平6−74775号公報
【特許文献2】特開2007−71614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記構成をなす半導体リングレーザジャイロは、ビート周波数から角速度を検出することから、本質的には検出感度の高い角速度の計測が可能である。しかしながら、本発明者が半導体リングレーザジャイロの小型化を目的に光ファイバループの小径化を検討したところ、例えば光ファイバのループ径が100mm程度(いわゆる手のひらサイズ)では角速度の検出が困難または不能になるという問題が発生した。
【0009】
また、半導体リングレーザジャイロには、製品寿命等により光源の光量が低下した場合に、正確な角速度の検出が困難になるおそれがあるという問題がある。この点、同一構成の検出装置をバックアップ用に備えることが考えられるが、その場合には検出装置のコストおよび容積が倍増するという問題がある。
【0010】
また、半導体リングレーザジャイロは、角速度が小さい環境下においては、いわゆるロックイン現象が生じ、角速度の検出が困難になるという問題がある。このロックイン現象を回避するために、機械式ディザ機構を設け、光ファイバループを機械的に振動させることが周知な手段として考えられるが、光ファイバに機械的な振動を与えることは検出信号のノイズ成分を増加させるおそれがあるという問題がある。また、機械式ディザ機構を設ける場合には、機械式ディザ機構を設置するスペースを要するという問題がある。
【0011】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、小型でありながら角速度の検出感度に優れ、かつ、検出装置のコストと容積を余り大きくすることなく補助的な光ジャイロを備えた半導体リングレーザ型の光ファイバジャイロを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、上記課題を解決するために、本発明に係る光ファイバジャイロの特徴は、移動体の角速度を検出する第1の光ジャイロと、前記移動体の角速度を補助的に検出する第2の光ジャイロと、を備え、前記第1の光ジャイロは、両端面から光を出射させる第1の光源と、光ファイバを多重巻きして構成された感知コイルを含み、前記第1の光源の前記両端面から出射した光を互いに反対方向に周回させ、前記第1の光源とともにレーザ共振回路を構成する第1の光ファイバループと、該第1の光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光によるビート周波数から角速度を検出するための第1の光検出部と、を有し、前記第2の光ジャイロは、一端面から光を出射させる第2の光源と、該第2の光源の前記一端面から出射した光を2方向に分配する光分配器と、該光分配器により2方向に分配された光が一対の光結合器を介して前記第1の光ファイバループを構成する前記感知コイルの両端部にそれぞれ導かれるように構成された第2の光ファイバループと、該第2の光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光の位相差から角速度を検出するための第2の光検出部と、を有することである。
【0013】
この場合、前記第1の光源および前記第2の光源の駆動を制御する制御回路部が、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出した際に、前記第1の光ジャイロの駆動を停止し、前記第2の光ジャイロを駆動させるように構成することができる。そして、前記制御回路部が、前記第1の光源が出射する光量の低下から、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出するように構成することができる。また、前記制御回路部が、前記第1の光ジャイロのロックイン現象の発生から、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出するように構成することができる。
【0014】
また、この場合、前記第2の光源を、スーパールミネッセンスダイオードとすることができる。
【0015】
ところで、第1の光ジャイロ(半導体リングレーザジャイロ)における角速度Ωとビート周波数ΔFbeat(f)との関係は、光ファイバループの形状を半径Rの円と仮定した場合には、前掲の式を展開することにより、ΔFbeat=(2R/nλ)Ωで表される。したがって、光ファイバループの形状が円の場合には、ビート周波数は光ファイバループの半径には依存するものの、光ファイバの全長(光ファイバループを構成する光ファイバの長さ)には依存しないことになる。しかしながら、光ファイバループの小径化にともなって光ファイバの全長が短くなるにしたがい、レーザ光のリング共振スペクトル(縦モード)の線幅FWHM(Full Width Half Maximum)が広くなる。リング共振スペクトルの線幅が広くなると、リング共振スペクトルの側帯波として観測されるビート信号がリング共振スペクトルに埋もれてしまう。このため、光ファイバの全長が所定の長さよりも短い場合には、ビート信号を検出できないことが明らかになった。そこで、本発明では、小径でありながら光ファイバの全長を長くするために、光ファイバを多重巻きして構成された感知コイルを第1の光ファイバループ内に設けている。光ファイバの全長を長くすることにより、リング共振スペクトルの線幅が狭小化され、リング共振スペクトルの側帯波として観測されるビート信号の検出が可能となる。これにより、小型でありながら角速度の検出感度に優れた光ファイバジャイロを実現することができる。
【0016】
また、かかる発明では、第1の光ジャイロに設けられた感知コイルを、第2の光ジャイロ(干渉型光ファイバジャイロ)の感知コイルとして共用する構成としている。これにより、検出装置のコストおよび容積を余り大きくすることなく補助的な光ジャイロを備えた半導体リングレーザジャイロを実現することができる。
【0017】
そして、補助的な光ジャイロを備えたことにより、第1の光源および第2の光源の駆動を制御する制御回路部が、第1のジャイロの動作不良を検出した際に、第1の光ジャイロ(第1の光源)の駆動を停止し、第2の光ジャイロ(第2の光源)を駆動させるように光ファイバジャイロを構成することができる。具体的には、第1の光ジャイロの第1の光源が製品寿命等に至り出射光量が所定値よりも低下した場合に、第2の光ジャイロを応急的に作動するバックアップ用の光ジャイロとして駆動させることができる。また、干渉型光ファイバジャイロは、前述の低角速度域でのロックイン現象が生じない。そこで、第1の光ジャイロがロックイン現象が発生する環境下に置かれた場合に、第1の光ジャイロから第2の光ジャイロに切り替えて第2の光ジャイロを補完的に駆動させることができる。これにより、機械式ディザ機構を設けることなく継続して角速度の検出が可能となる。
【0018】
本発明の他の特徴は、前記第1の光源から出射する光の波長と前記第2の光源から出射する光の波長とが互いに異なり、前記第2の光ジャイロを構成する前記光結合器が、2つの入力ポートから入力した光を1つの出力ポートから出力させるように構成されている波長多重分波合波器であることである。
【0019】
かかる発明によれば、第1および第2の光源が発する光を、結合損失を抑えて効率的に感知コイルに導くことができる。
【0020】
また、本発明の他の特徴は、前記第1の光ファイバループは、リング共振周波数Frlg(=C/nL)と、角速度の測定範囲の下限値Ωminに相当するビート周波数ΔFbeat_min(ビート周波数の下限値ΔFbeat_min)と、角速度の測定範囲の上限値Ωmaxに相当するビート周波数ΔFbeat_max(ビート周波数の上限値ΔFbeat_max)とが、(1)式の関係を満たすように構成されていることである。ここで、(1)式は、2ΔFbeat_max<Frlg≦10ΔFbeat_minであり、Cは光速、nは光ファイバの屈折率、Lは光ファイバの全長(第1の光ファイバループを構成する光ファイバの長さ)である。なお、半径rの円筒状ボビンに光ファイバを多重巻きして感知コイルを形成した場合のビート周波数の下限値ΔFbeat_minは、ΔFbeat_min=2rΩmin/nλ1(λ1は第1の光源から出射する光の波長)で表される。一方、ビート周波数の上限値ΔFbeat_maxは、ΔFbeat_max=2rΩmax/nλ1で表される。
【0021】
かかる発明によれば、第1の光ファイバループのリング共振周波数Frlgが角速度の測定範囲の上限値Ωmaxに相当するビート周波数ΔFbeat_maxの2倍より大きくなるように設定されている。これにより、ビート信号(ビート周波数に発生するビート信号)とリング共振スペクトルの側帯波とが重なることなく、角速度の測定範囲の上限まで精度よくビート信号を検出することが可能となる。また、リング共振周波数Frlgが角速度の測定範囲の下限値Ωminに相当するビート周波数ΔFbeat_minの10倍以下となるように設定されている。これにより、リング共振スペクトルの側帯波がリング共振スペクトルに埋もれることなく、角速度の測定範囲の下限まで精度よくビート信号を検出することが可能となる。すなわち、角速度の測定範囲の下限から上限まで連続して角速度を精度よく検出することが可能な半導体リングレーザジャイロを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
〔全体の構成〕
以下、本発明の一実施形態に係る光ファイバジャイロ1について図1を参照して説明する。図1は、光ファイバジャイロ1の全体構成を模式的に示す概念図である。光ファイバジャイロ1は、角速度の主要な検出系を構成する第1の光ジャイロ11と、補助的な検出系を構成する第2の光ジャイロ31と、光源の駆動を制御する制御回路部41とを備えている。なお、図中破線は電気信号線を示している。
【0023】
(第1の光ジャイロの構成)
第1の光ジャイロ11は、半導体リングレーザジャイロであり、両端面から光を出射させる第1の光源としての半導体レーザ12と、半導体レーザ12の両端面から出射した光を互いに反対方向に周回させる第1の光ファイバループ13と、第1の光ファイバループ13を図示右回りに周回する光CW1(以下、CW1光という)および図示左回りに周回する光CCW1(以下、CCW1光という)の一部をそれぞれ分岐させる光分岐器20と、光分岐器20により分岐されたCW1光およびCCW1光によるビート信号の周波数(ビート周波数)から角速度を検出するための第1の光検出部22とを備えている。
【0024】
半導体レーザ12は、本実施形態では、波長850nm(この波長をλ1とする)の光を発光するGaAs系の材料で形成されたファブリペロー型半導体レーザであり、スペクトル線幅は10MHz前後である。半導体レーザ12の両端面12a,12b(左側端面12a,右側端面12b)には反射防止膜が成膜されている。これにより、半導体レーザ12は、両端面12a,12bでの反射光を少なくした状態で両端面12a,12bから光を出射させることができる。また、半導体レーザ12には、出射光量をモニタする光量センサ12cが付属されている。
【0025】
第1の光ファイバループ13は、本実施形態では、コア径が5μm、屈折率が1.45、長さが340mの単一モード光ファイバを用いて形成されている。第1の光ファイバループ13は、半導体レーザ12の左側端面12aに一端が結合された第1の結合光ファイバ14と、半導体レーザ12の右側端面12bに一端が結合された第2の結合光ファイバ15と、光ファイバをコイル状に多重巻きしてなる感知コイル16と、第1の結合光ファイバ14の他端および第2の結合光ファイバ15の他端と感知コイル16とをそれぞれ連結する第1および第2の光結合器17,18とを備えている。
【0026】
一対の結合光ファイバ14,15は、半導体レーザ12の両端面12a,12bからそれぞれ出射した光を光ファイバループ13内に導くとともに、光ファイバループ13内を反対方向に周回する光を半導体レーザ12の両端面12a,12bから半導体レーザ12内に導くためのものである。
【0027】
感知コイル16は、半径rの円筒状のボビン16aと、ボビン16aに光ファイバを多重巻きしてなる光ファイバコイル部16bと、光ファイバの両端部(感知コイルの両端部)16c,16dとから構成されている。ボビン16aの半径rは、本実施形態では、30mmである。
【0028】
一対の光結合器17,18は、本実施形態では、2本の光ファイバを溶融延伸してなる2入力1出力型の光方向性結合器(いわゆる波長多重分波合波器)である。一対の光結合器17,18の一方の入力ポートに、一対の結合光ファイバ14,15の他端がそれぞれ結合され、出力ポートに感知コイルの両端部16c,16dがそれぞれ結合されている。これにより、一対の結合光ファイバ14,15を導波する光は、一対の光結合器17,18を介して感知コイルの両端部16c,16dに導かれる。そして、光ファイバコイル部16bを周回した光は、感知コイルの両端部16c,16dおよび一対の光結合器17,18を介して一対の結合光ファイバ14,15に導かれる。なお、この一対の光結合器17,18については、後に再度説明する。
【0029】
次に、光分岐器20は、本実施形態では、2本の光ファイバを溶融延伸してなる2入力2出力型の光方向性結合器である。光分岐器20は、本実施形態では、結合光ファイバ15が形成する経路内に配置され、光ファイバループ13内を周回するCW1光およびCCW1光の一部(本実施形態では、10%)を結合光ファイバ15からそれぞれ分岐させるものである。光分岐器20の分岐側(光ファイバループ13の外周側)の両端(入力および出力ポート)には、第1の光検出部22に連結するループ状の検出用光ファイバ21が連結されている。これにより、光分岐器20により分岐された2つの光は、検出用光ファイバ21内を互いに反対方向に周回した後、第1の光検出部22に導かれ互いに重ね合わされる。
【0030】
第1の光検出部22は、光の信号を電気信号に変換するフォトダイオード(受光素子)と、フォトダイオードからの出力信号を処理する検出回路とを備えている。検出回路は、CW1光とCCW1光とを重ね合わせることにより生成されるビート信号を検出し、そのビート信号の周波数に基づいて角速度が算出される。
【0031】
(第2の光ジャイロの構成)
第2の光ジャイロ31は、干渉型光ファイバジャイロであり、一端面から光を出射させる第2の光源としてのSLD(スーパールミネッセンスダイオード)32と、SLD32から出射した光を2方向に等分配するための光分配器33と、光分配器33により等分配された光を互いに反対方向に周回させる第2の光ファイバループ34と、第2の光ファイバループ34を図示右回りに周回する光CW2(以下、CW2光という)および図示左回りに周回する光CCW2(以下、CCW2光という)の位相差から角速度を検出するための第2の光検出部37とを備えている。
【0032】
SLD32は、本実施形態では、波長900nm(この波長をλ2とする)の光を発光する発光ダイオードである。
【0033】
光分配器33は、本実施形態では、2本の光ファイバを溶融延伸してなる2入力2出力型の光方向性結合器である。光分配器33の2つの入力ポートの一方にSLD32が結合され、他方に第2の光検出部37が結合されている。そして、光分配器33の2つの出力ポートには、第2の光ファイバループ34の両端がそれぞれ結合されている。
【0034】
第2の光ファイバループ34は、一対の連結光ファイバ35,36と、一対の光結合器17,18と、感知コイル16と、から構成されている。
【0035】
一対の連結光ファイバ35,36は、本実施形態では、第1の光ファイバループ13を構成する光ファイバと同一タイプの光ファイバを用いて、光分配器33の2つの出力ポートと一対の光結合器17,18の他方の入力ポートとをそれぞれ連結するように構成されている。
【0036】
一対の光結合器17,18は、前述のように、2入力1出力型の光方向性結合器(波長多重分波合波器)である。一対の光結合器17,18は、第1の光源である半導体レーザ12の波長λ1と第2の光源であるSLD2の波長λ2とが異なることを利用して、2つの入力ポートからそれぞれ入力された2つの光を、1つ(同一)の出力ポートから出力させるように構成されているものである。具体的には、一対の光結合器17,18の一方の入力ポートに第1の光ファイバループ13を構成する一対の結合光ファイバ14,15の他端がそれぞれ結合され、他方の入力ポートに第2の光ファイバループ34を構成する一対の連結光ファイバ35,36の他端がそれぞれ結合されている。これにより、半導体レーザ12およびSLD32が出射した光は、一対の光結合器17,18の出力ポートに結合された感知コイルの両端部16c,16dを介して光ファイバコイル部16bにいずれも結合損失を少なくして効率的に導かれる(合波される)。
【0037】
そして、光ファイバコイル部16bを周回した2つの光は、一対の光結合器17,18において波長λ1,λ2に応じて分岐される(分波される)。一対の光結合器17,18により分岐された波長λ2の光は、一対の連結光ファイバ35,36にそれぞれ導かれ、光分配器33を介して第2の光検出部37に導かれる。なお、サニャック効果による半導体レーザ12の波長λ1の変化量は、波長λ1と波長λ2との差に比べてはるかに小さく、一対の光結合器17,18では光の損失は生じない。
【0038】
第2の光検出部37は、光の信号を電気信号に変換するフォトダイオード(受光素子)と、フォトダイオードからの出力信号を処理する検出回路とを備えている。検出回路は、CW2光とCCW2光とによる干渉光の強度から位相差を検出し、その位相差に基づいて角速度が算出される。
【0039】
〔作動・効果〕
次に、上記の構成をなす光ファイバジャイロ1の作動・効果について図1を参照して説明する。
【0040】
まず、第1の光ジャイロ11を構成する第1の光源としての半導体レーザ12に制御回路部41から供給される電流を注入すると、半導体レーザ12の両端面12a,12bからCW1光およびCCW1光が出射する。半導体レーザ12の左側端面12aから出射したCW1光は、一方の結合光ファイバ14および一方の光結合器17を介して感知コイル16の一端部16cに導かれ、光ファイバコイル部16bを周回する。光ファイバコイル部16bを周回したCW1光は、感知コイル16の他端部16dから、他方の光結合器18および他方の結合光ファイバ15を介して半導体レーザ12の右側端面12bから半導体レーザ12内に入射する。このように、半導体レーザ12の左側端面12aから出射したCW1光が、半導体レーザ12と光ファイバループ13とにより構成される光周回路(レーザ共振回路)を右回り(CW)に周回することにより、レーザ発振する。
【0041】
一方、半導体レーザ12の右側端面12bから出射したCCW1光は、他方の結合光ファイバ15および他方の光結合器18を介して感知コイル16の他端部16dに導かれ、光ファイバコイル部16bを周回する。光ファイバコイル部16bを周回したCCW1光は、感知コイル16の一端部16cから、一方の光結合器17および一方の結合光ファイバ14介して半導体レーザ2の左側端面12aから半導体レーザ12内に入射する。このように、半導体レーザ12の右側端面12bから出射したCCW1光が、半導体レーザ12と光ファイバループ13とにより構成される光周回路を左回り(CCW)に周回することにより、レーザ発振する。
【0042】
そして、光ファイバループ13を周回するCW1光およびCCW1光の一部が光分岐器20および検出用光ファイバ21を介して第1の光検出部22に導かれる。光ファイバジャイロ1が取り付けられた移動体が回転を伴う移動を開始すると、サニャック効果によりCW1光とCCW1光の周波数(波長)に差が生じ、CW1光とCCW1光とを重ね合わせることによりビート信号が発生する。このビート信号の周波数(ビート周波数)ΔFbeatから前掲の式(ビート周波数と角速度との関係を示す式)を用いて角速度Ωが算出される。なお、本発明では、光ファイバによって囲まれる領域の面積累計Aを、半径rの感知コイル16のボビン16aの断面積πrとボビン16aに多重巻きされた光ファイバのターン数Nとの積であるNπrと近似することができる。また、パス長としての光ファイバの全長L(第1の光ファイバループ13を構成する光ファイバの長さ)は、感知コイル16の光ファイバコイル部16bを形成する光ファイバの長さ2πrNで近似することができる。したがって、ビート周波数ΔFbeatと角速度Ωとの関係は次式で表される。ここで、nは光ファイバの屈折率である。
Ω=(nλ1/2r)ΔFbeat
【0043】
ところで、上記の式から判断すると、半導体リングレーザ型の第1の光ジャイロ11においては、角速度Ωの検出感度は感知コイル16のボビン16aの半径rに依存するものの、光ファイバの全長L(または、ボビン16aに多重巻きされた光ファイバのターン数N)には依存しないことになる。ところが、本発明者の検討によると、ボビン16aの径を小さくすることにともない、検出装置の小型化が促進されるものの、ビート信号の検出が全く不能になるという現象が発生した。そこで、原因の解明および対策の検討を進めたところ、感知コイル16のボビン16aに光ファイバを多重巻きすることにより光ファイバの全長Lを長くすることが、ビート信号の検出に効果的であることが分かった。これは、光ファイバの全長Lが長いほど、リング共振スペクトル(レーザ光の縦モード)の線幅が狭くなることから、リング共振スペクトルの側帯波としても観測される(発生する)ビート信号が、リング共振スペクトルに埋もれることなく検出できることによるものである。
【0044】
そして、第1の光ジャイロ11が良好な感度でビート信号を検出するには、ビート信号とリング共振スペクトルとの関係に注目して、光ファイバの全長Lを所定の範囲に制御することが好ましいことが判明した。具体的には、ビート周波数ΔFbeatとリング共振周波数(1次のリング共振周波数)Frlgとが、2ΔFbeat_max<Frlg≦10ΔFbeat_min(より好ましくは、2.5ΔFbeat_max≦Frlg≦10ΔFbeat_min)の関係を満たすように光ファイバの全長Lを決定することが好ましい。ここで、ビート周波数ΔFbeat_minは、ビート周波数ΔFbeatの下限値(ジャイロに要求される角速度の測定範囲の下限値Ωminに相当するビート周波数であり、以下では、ビート周波数の下限値ΔFbeat_minという)であり、ビート周波数ΔFbeat_maxは、ビート周波数ΔFbeatの上限値(ジャイロに要求される角速度の測定範囲の上限値Ωmaxに相当するビート周波数であり、以下では、ビート周波数の上限値ΔFbeat_maxという)である。また、リング共振周波数FrlgはC/nLで表される。ここで、Cは光速である。なお、ビート周波数の下限値ΔFbeat_minは、ΔFbeat_min=2rΩmin/nλ1で表され、ビート周波数の上限値ΔFbeat_maxは、ΔFbeat_max=2rΩmax/nλ1で表される。
【0045】
ビート周波数の下限値ΔFbeat_minとリング共振周波数Frlgとが、Frlg≦10ΔFbeat_minの関係を満たす場合には、リング共振スペクトルの側帯波としてのビート信号が観測可能なレベルまで、リング共振スペクトルのスペクトル線幅を狭小化させることができる。また、 ビート周波数の上限値ΔFbeat_maxとリング共振周波数Frlgとが、2ΔFbeat_max<Frlgの関係を満たす場合には、ビート周波数に発生するビート信号のスペクトルと、リング共振スペクトルの両側に発生する側帯波のうち、周波数が低い側に発生する側帯波のスペクトルとが、互いに重ならないようにすることができる。このような理由から、上記条件を満たすように光ファイバの全長Lが決定された第1の光ジャイロ11は、ビート周波数の下限値ΔFbeat_minからビート周波数の上限値ΔFbeat_maxにわたって連続的に精度よく角速度を検出することができる。
【0046】
この効果を検証するために、実際に試作した第1の光ジャイロ11の性能を評価したところ、図2に示すように、ビート周波数ΔFbeat(3次のリング共振スペクトルの周波数と側帯波の周波数との差が相当)が60kHzから250kHzまで(角速度として、0.2rpmから0.8rpmまで)を精度よく検出できることが確認された。この場合のリング共振周波数Frlgは約600kHzであることから、2ΔFbeat_max<Frlg≦10ΔFbeat_minの関係を満たしている。
【0047】
次に、半導体レーザ12に付属する光量センサ12cからの信号により、半導体レーザ12の光量が所定値以下に低下したことにより、第1のジャイロ(半導体レーザ12)が動作不良の状態(角速度の検出が不能または検出精度が低下した状態)にあることを制御回路部41が感知した場合には、制御回路部41は、半導体レーザ12への通電を停止する。そして、第2の光ジャイロ31を駆動させるために、第2の光ジャイロ31の光源であるSLD32に通電しSLD32を発光させる。SLD32の一端面から出射した光は、光分配器33により2等分され、一対の連結光ファイバ35,36にそれぞれ導かれる。一方の連結光ファイバ35に導かれたCW2光は、一方の光結合器17を介して感知コイルの一端部16cに導かれ、光ファイバコイル部16bを周回する。光ファイバコイル部16bを周回したCW2光は、感知コイル16の他端部16dから他方の光結合器18、他方の連結光ファイバ36、および光分配器33を介して第2の光検出部37に導かれる。
【0048】
一方、他方の連結光ファイバ36に導かれたCCW2光は、他方の光結合器18を介して感知コイルの他端部16dに導かれ、光ファイバコイル部16bを周回する。光ファイバコイル部16bを周回したCCW2光は、感知コイルの一端部16cから一方の光結合器17、一方の連結光ファイバ35、および光分配器33を介して第2の光検出部37に導かれる。
【0049】
ここで、光ファイバジャイロ1が移動体とともに回転を伴う移動をしている場合には、第2の光ジャイロ31において、サニャック効果によりCW2光とCCW2光とに位相差が生じる。この位相差を第2の光検出部37が検出し、検出された位相差から角速度Ωが算出される。なお、干渉型光ファイバジャイロにおいては、サニャック効果により生じる位相差の大きさが、第2の光ファイバループを構成する光ファイバの長さに比例する。したがって、干渉型光ファイバジャイロを構成する第2の光ジャイロ31においても、光ファイバコイル部16bに光を周回させることにより精度のよい角速度の検出が可能となる。
【0050】
以上の作動説明からも理解できるように、本発明に係る光ファイバジャイロ1は、第1の光ジャイロ11が半導体レーザ12の寿命劣化等により動作不良の状態になった場合にも、第2の光ジャイロ31を駆動させることができることから、角速度の検出を継続させることができる。また、光ファイバジャイロ1は、第1の光ジャイロ11と第2の光ジャイロ31とが1個の感知コイル16を共用する構成としたことから、検出装置のコストおよび容積を余り大きくすることなく、補助的な光ジャイロを備えた光ファイバジャイロ1を構成することができる。
【0051】
〔変形例〕
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施の形態に限定されるものではなく、種々の変更および組み合わせが可能である。
【0052】
例えば、上記の作動説明では、半導体レーザ12の光量が低下することにより第1の光ジャイロ11が動作不良の状態になった際に、応急的(補助的)に第2の光ジャイロ31を使用する構成について説明したが、第2の光ジャイロ31の使用形態はこれに限定されるものではない。これに代えて、第1の光ジャイロ11がロックイン現象(動作不良の他の形態)を起こすレベルの低角速度の環境下に置かれたことが、第1の光検出部22での検出信号により判別された場合に、第2の光ジャイロ31を補完的(補助的)に使用するように構成してもよい。これにより、機械式ディザ機構を設けることなく、低い角速度を検出することが可能となる。また、角速度の測定範囲の下限値Ωminよりも小さい角速度の検出または角速度の測定範囲の上限値Ωmaxよりも大きい角速度の検出が必要になった場合に、第2の光ジャイロ31を使用するように構成してもよい。なお、第1の光ジャイロ11と第2の光ジャイロ31とを切り替えることなく、常時、第1の光ジャイロ11と第2の光ジャイロ31のいずれをも駆動させる構成としてもよい。
【0053】
また、上記の実施形態では、半導体レーザ12の光の波長とSLD32の光の波長とを相違させるとともに、一対の光結合器17,18として2入力1出力型の方向性結合器(波長多重分波合波器)を使用しているが、これに限定されるものではない。光の損失を考慮する必要がない場合には、半導体レーザ12から出射する光の波長とSLD32から出射する光の波長とを一致させるとともに、一対の光結合器17,18として使用される2入力1出力型の方向性結合器(波長多重分波合波器)に代えて2入力2出力型の方向性結合器を使用してもよい。
【0054】
また、第2の光ジャイロを構成する第2の光源32としてSLDを使用したが、これに限定されるものではなく、例えば、半導体レーザを使用してもよい。
【0055】
また、光ファイバループ3を構成する光ファイバとして、単一モード光ファイバを使用したが、これに限定されるものではなく、単一モード光ファイバに代えてマルチモード光ファイバを適用してもよい。また、感知コイル16のボビン16aの形状は、必ずしも円筒状である必要はなく、例えば、断面形状が楕円または多角形である筒状であってもよい。さらに、ボビン6aを用いることなく、空芯状に光ファイバを多重巻きして感知コイル16を形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の一実施形態に係る光ファイバジャイロ1の全体構成を模式的に示す概念図である。
【図2】第1の光ジャイロの角速度(回転数)とリング共振スペクトルの側帯波の周波数との関係を実測した結果を示す図である。
【図3】従来の半導体リングレーザジャイロの構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0057】
1 光ファイバジャイロ
11 第1の光ジャイロ(半導体リングレーザジャイロ)
12 第1の光源(半導体レーザ)
12a,12b 両端面
12c 光量センサ
13 第1の光ファイバループ
14,15 一対の結合光ファイバ
16 感知コイル
16a ボビン
16b 光ファイバコイル部
16c,16d 感知コイルの両端部
17,18 一対の光結合器
20 光分岐器
21 検出用光ファイバ
22 第1の光検出部
31 第2の光ジャイロ(干渉型光ファイバジャイロ)
32 第2の光源(SLD)
33 光分配器
34 第2の光ファイバループ
35,36 一対の連結光ファイバ
37 第2の光検出部
41 制御回路部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の角速度を検出する第1の光ジャイロと、前記移動体の角速度を補助的に検出する第2の光ジャイロと、を備え、
前記第1の光ジャイロは、両端面から光を出射させる第1の光源と、
光ファイバを多重巻きして構成された感知コイルを含み、前記第1の光源の前記両端面から出射した光を互いに反対方向に周回させ、前記第1の光源とともにレーザ共振回路を構成する第1の光ファイバループと、
該第1の光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光によるビート周波数から角速度を検出するための第1の光検出部と、を有し、
前記第2の光ジャイロは、一端面から光を出射させる第2の光源と、
該第2の光源の前記一端面から出射した光を2方向に分配する光分配器と、
該光分配器により2方向に分配された光が一対の光結合器を介して前記第1の光ファイバループを構成する前記感知コイルの両端部にそれぞれ導かれるように構成された第2の光ファイバループと、
該第2の光ファイバループ内を互いに反対方向に周回する2つの光の位相差から角速度を検出するための第2の光検出部と、を有することを特徴とする光ファイバジャイロ。
【請求項2】
前記第1の光源および前記第2の光源の駆動を制御する制御回路部を有し、該制御回路部が、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出した際に、前記第1の光ジャイロの駆動を停止し、前記第2の光ジャイロを駆動させるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項3】
前記制御回路部が、前記第1の光源が出射する光量の低下から、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項4】
前記制御回路部が、ロックイン現象の発生から、前記第1のジャイロが動作不良の状態にあることを検出するように構成されていることを特徴とする請求項2に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項5】
前記第1の光源から出射する光の波長と前記第2の光源から出射する光の波長とが互いに異なり、
前記第2の光ジャイロを構成する前記光結合器が、2つの入力ポートから入力した光を1つの出力ポートから出力させるように構成されている波長多重分波合波器であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項6】
前記第2の光源が、スーパールミネッセンスダイオードであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ。
【請求項7】
前記第1の光ファイバループは、リング共振周波数Frlgと、角速度の測定範囲の下限値に相当するビート周波数ΔFbeat_minと、角速度の測定範囲の上限値に相当するビート周波数ΔFbeat_maxとが、(1)式の関係を満たすように構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の光ファイバジャイロ。
2ΔFbeat_max<Frlg≦10ΔFbeat_min ・・・(1)式
ただし、Frlgは以下の通りである。
rlg=C/nL
ここで、Cは光速、nは光ファイバの屈折率、Lは第1の光ファイバループを構成する光ファイバの全長である。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−54220(P2010−54220A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−216677(P2008−216677)
【出願日】平成20年8月26日(2008.8.26)
【出願人】(000114215)ミネベア株式会社 (846)
【Fターム(参考)】