説明

光基準信号伝送装置および複合型光基準信号伝送装置

【課題】大きな光路長変動であっても、位相変動を補償することで光路長の変動の補償を行う。
【解決手段】レーザ光を2分岐する光分配器2と、変調用マイクロ波信号に基づき、光分配器2により分岐された一方のレーザ光の角周波数をシフトさせる光周波数シフタ3と、光周波数シフタ3から光サーキュレータ4および伝送光ファイバ5を介して出力されたレーザ光の一部を伝送光ファイバ5に反射し、残りを透過して光基準信号として出力する光部分反射鏡6と、光分配器2により分岐された他方のレーザ光と、光部分反射鏡6から伝送光ファイバ5および光サーキュレータ4を介して出力されたレーザ光とを合波する光合波器7と、光合波器7により合波されたレーザ光をマイクロ波信号に変換する光電変換手段8と、光電変換手段8により変換されたマイクロ波信号の位相と基準マイクロ波信号の位相とに基づき、変調用マイクロ波信号を生成する位相同期回路10とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光基準信号を光ファイバで伝送するシステムにおいて、光ファイバの長さの変動による光波の位相変動を補償する光基準信号伝送装置および複合型光基準信号伝送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光ファイバ中を光波が伝播する場合、光ファイバ周囲に温度変化や光ファイバに対する振動があると、光ファイバの伸び縮みなどが生じるため光路長が変動する。従って、光ファイバを介して光信号を伝送させた場合、光ファイバの光路長の変動により、光ファイバ伝送後の光波の位相が変動する。
このため、光基準信号などの光波を位相変動を抑えて伝送するためには、伝送路である光ファイバの光路長の変動を補償する必要がある。
【0003】
従来、この種の光ファイバ伝送システムにおいて、光ファイバの光路長の変動量を測定し、測定結果に基づき変動分を補償する方式が提案されている(例えば非特許文献1の図1参照)。
【0004】
この非特許文献1により開示された従来の光路長変動補償方式では、まず、レーザ(ECLD)から出力されたレーザ光が、第1の光カプラ(10dB coupler)により2分岐される。そして、分岐した一方のレーザ光が、第1の光サーキュレータ、光ファイバ(delay line)の長さを可変する光ファイバストレッチャ(fiber stretcher)、伝送路である上記光ファイバ、第2の光サーキュレータ(optical circulator)を順番に介して伝送される。そして、上記第2の光サーキュレータから出力されたレーザ光は第2の光カプラ(3dB coupler)で分岐される。この分岐した一方のレーザ光は基準光(光基準信号)として出力され、他方のレーザ光は音響光学光変調器(AOM)を経て、上記第2の光サーキュレータに戻され、第2の光サーキュレータより、上記光ファイバを往復する。
【0005】
この往復したレーザ光は、上記AOMにより角周波数がシフトされている。往復したレーザ光は、上記第1の光サーキュレータで光路が切り替えられ、第3の光カプラ(3dB coupler)において、上記第1の光カプラにより分岐された他方のレーザ光と合波される。
【0006】
そして、上記第3の光カプラから出力された合波光は、光電変換器(PD)により電気信号に変換される。ここで、変換された電気信号の角周波数は、上記AOMにより角周波数シフトされたマイクロ波信号の角周波数となる。上記光ファイバが温度変化などにより光路長が変動した場合、光電変換された電気信号のビート信号は光路長の変動に応じて位相が変動する。
【0007】
そして、基準信号源(synth.55MHz)からの基準信号と上記PDからのビート信号との位相を位相検波器(PSD又はDPFD)で比較し、ビート信号の位相を所望の位相と一致させるための例えば電圧などの制御信号を出力する。この制御信号は、ループフィルタを介して上記光ファイバストレッチャに入力され、制御信号に応じた量だけ光信号の位相がシフトされる。
【0008】
ここで、上記PDからのビート信号により得られる制御信号が、上記光ファイバストレッチャに入力されるという動作が繰り返されることにより、帰還回路が構成される。そして、この帰還回路により、擾乱による光路長の変動を補償する制御を行う。
従って、上記第2の光カプラで分岐された一方のレーザ光も高い位相安定性が得られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Musha,et.al.著、”Robust and precise length correction of 25−km fiber for distribution of local oscillator”、2005 Digest of the LEOS Summer Topical Meeting、TuB4.4、p.123,2005.、(Figure 1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来の光基準信号伝送装置では、伝送路である光ファイバの光路長(位相)変動に対して、光ファイバストレッチャにより、光ファイバの長さを直接伸び縮みさせることで光路長の変動を補償していた。このため、光路長の変動量に対する補償範囲は光ファイバストレッチャの長さ可変範囲に制限されている。通常、光ファイバストレッチャの可変範囲は数mm程度であり、長くてもcmオーダである。
【0011】
一方、光ファイバの遅延時間の温度特性は、数10ps/km/℃程度である。例えば、遅延の温度係数を10ps/km/℃と仮定すると、1kmのファイバで10℃の温度変動が生じた場合、100psの遅延時間変動が生じる。これはファイバ長約33mmに相当し、上記の光ファイバストレッチャの可変範囲を超える。さらに、温度変動範囲が拡大した場合は、ファイバ長が長くなると光ファイバストレッチャでは対応できなくなる。
【0012】
さらに、光ファイバストレッチャで遅延時間を制御する場合、光ファイバを圧電素子などで引張るため、応答速度も限られる。
このように、従来の構成では大きな光路長変動(遅延時間の変動に相当)に対応することは困難であるとともに、高速制御に対応できないという課題があった。
【0013】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、大きな光路長変動であっても、位相変動を補償することで光路長の変動の補償を行うことができる光基準信号伝送装置および複合型光基準信号伝送装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明に係る光基準信号伝送装置は、入力されたレーザ光を2分岐する光分配手段と、入力された変調用マイクロ波信号に基づいて、光分配手段により分岐された一方のレーザ光の角周波数をシフトさせる光周波数シフタと、光周波数シフタの後段に配置され、レーザ光の光路を選択的に切り替える光路切替手段と、光周波数シフタから光路切替手段および伝送光ファイバを介して出力されたレーザ光の一部を当該伝送光ファイバに反射し、残りを透過して光基準信号として出力する光部分反射手段と、光分配手段により分岐された他方のレーザ光と、光部分反射手段から伝送光ファイバおよび光路切替手段を介して出力されたレーザ光とを合波する光合波手段と、光合波手段により合波されたレーザ光をマイクロ波信号に変換する光電変換手段と、光電変換手段により変換されたマイクロ波信号の位相と基準マイクロ波信号の位相とに基づいて、変調用マイクロ波信号を生成する位相同期手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、上記のように構成したので、大きな光路長変動であっても、位相変動を補償することで光路長の変動の補償を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明の実施の形態1に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る光基準信号伝送装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】この発明の実施の形態2に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る複合型光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。図中、光ファイバを実線、電線を破線でそれぞれ描いている(以下同様)。
光基準信号伝送装置は、図1に示すように、レーザ1、光分配器(光分配手段)2、光周波数シフタ3、光サーキュレータ(光路切替手段)4、伝送光ファイバ5、光部分反射鏡(光部分反射手段)6、光合波器(光合波手段)7、光電変換手段8、基準信号源9および位相同期回路(PLL、位相同期手段)10から構成されている。
【0018】
レーザ1は、所定の角周波数のレーザ光を発光するものである。このレーザ1により発光されたレーザ光は光分配器2に出力される。
光分配器2は、レーザ1からのレーザ光を2つに分岐するものである。この光分配器2により分岐された一方のレーザ光は光周波数シフタ3に出力され、他方のレーザ光は光合波器7に出力されるものである。
【0019】
光周波数シフタ3は、外部(第2のマイクロ波分配器108)からの変調用マイクロ波信号に基づいて、光分配器2からのレーザ光の角周波数をシフトさせるものである。この光周波数シフタ3により角周波数がシフトされたレーザ光は光サーキュレータ4に出力される。
なお、光周波数シフタ3は、例えば音響光学素子に超音波を加えることで入力光の角周波数をシフトさせるAO変調器(AOM:Acoust Optic Modulator)や、LiNbO3によるMach−Zehnder型光変調器などにより実現することができる。これらは、数MHzからGHz以上の応答速度が実現できるので、高速な位相変動の補償が可能である。
【0020】
光サーキュレータ4は、光周波数シフタ3、伝送光ファイバ5および光合波器7と接続され、光周波数シフタ3からのレーザ光を伝送光ファイバ5に出力し、また、伝送光ファイバ5からのレーザ光を光合波器7に出力するものである。
伝送光ファイバ5は、光サーキュレータ4からのレーザ光を光部分反射鏡6に伝送し、また、光部分反射鏡6からのレーザ光を光サーキュレータ4に伝送するものである。
光部分反射鏡6は、伝送光ファイバ5からのレーザ光のうち、一部を伝送光ファイバ5に反射し、残りの部分を透過して基準光(光基準信号)として出力するものである。
【0021】
光合波器7は、光分配器2からのレーザ光と、光サーキュレータ4からのレーザ光とを合波するものである。この光合波器7により合波されたレーザ光は光電変換手段8に出力される。
光電変換手段8は、光合波器7からのレーザ光を電気信号(マイクロ波信号)に光電変換するものである。この光電変換手段8により変換されたマイクロ波信号は位相同期回路10の第2の周波数変換手段103に出力される。
基準信号源9は、マイクロ波の基準信号(基準マイクロ波信号)を発生するものである。この基準信号源9により発生された基準マイクロ波信号は位相同期回路10の第1のマイクロ波分配器101に出力される。
【0022】
位相同期回路10は、光電変換手段8からのマイクロ波信号の位相と基準信号源9からの基準マイクロ波信号の位相とに基づいて、光周波数シフタ3でのシフト角周波数を示す変調用マイクロ波信号を生成するものである。この位相同期回路10は、第1のマイクロ波分配器(マイクロ波分配手段)101、第1〜3の周波数変換手段102〜104、位相比較手段105、ループフィルタ(ローパスフィルタ)106、電圧制御型発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator、変調用マイクロ波生成手段)107および第2のマイクロ波分配器108から構成されている。
【0023】
第1のマイクロ波分配器101は、基準信号源9からの基準マイクロ波信号を2つに分岐するものである。この第1のマイクロ波分配器101により分岐された一方の基準マイクロ波信号は第1の周波数変換手段102に出力され、他方の基準マイクロ波信号は位相比較手段105に出力される。
第1の周波数変換手段102は、第1のマイクロ波分配器101からの基準マイクロ波信号の角周波数を3倍に変換するものである。この第1の周波数変換手段102により角周波数が変換された基準マイクロ波信号は第2の周波数変換手段103に出力される。
【0024】
第2の周波数変換手段103は、光電変換手段8からのマイクロ波信号と第1の周波数変換手段102からの基準マイクロ波信号とに基づいて、それらの周波数の差および位相差を持つ第1の差分マイクロ波信号を生成するものである。この第2の周波数変換手段103により生成された第1の差分マイクロ波信号は第3の周波数変換手段104に出力される。
【0025】
第3の周波数変換手段104は、第2の周波数変換手段103からの第1の差分マイクロ波信号と第2のマイクロ波分配器108からの変調用マイクロ波信号とに基づいて、それらの周波数の差および位相差を持つ第2の差分マイクロ波信号を生成するものである。この第3の周波数変換手段104により生成された第2の差分マイクロ波信号は位相比較手段105に出力される。
【0026】
位相比較手段105は、第1のマイクロ波分配器101からの基準マイクロ波信号と第3の周波数変換手段104からの第2の差分マイクロ波信号とを比較して位相変動量(位相差)を計測し、この位相差を電気信号に変換した位相差信号を生成するものである。この位相比較手段105により生成された位相差信号はループフィルタ106に出力される。
【0027】
ループフィルタ106は、位相比較手段105からの位相差信号に対して、短期間の変動分を抑圧するものである。ループフィルタ106により変動分が抑圧された位相差信号はVCO107に出力される。
VCO107は、ループフィルタ106からの位相差信号に基づいて、第2の差分マイクロ波信号と基準マイクロ波信号間の位相差を打ち消す方向に発振周波数を制御した変調用マイクロ波信号を生成するものである。このVCO107により生成された変調用マイクロ波信号は第2のマイクロ波分配器108に出力される。
【0028】
第2のマイクロ波分配器108は、VCO107からの変調用マイクロ波信号を2つに分岐するものである。この第2のマイクロ波分配器108により分岐された一方の変調用マイクロ波信号は光周波数シフタ3に出力され、他方の変調用マイクロ波信号は第3の周波数変換手段104に出力される。
【0029】
次に、上記のように構成された光基準信号伝送装置の動作について説明する。図2はこの発明の実施の形態1に係る光基準信号伝送装置の動作を示すフローチャートである。
光基準信号伝送装置の動作では、図2に示すように、まず、レーザ1はレーザ光(角周波数ωc)を出力し、光分配器2はこのレーザ光を2つに分岐する(ステップST1)。
【0030】
次いで、光周波数シフタ3は、第2のマイクロ波分配器108からの変調用マイクロ波信号に基づいて、光分配器2からのレーザ光の角周波数をシフトさせる(ステップST2)。ここで、光周波数シフタ3によるシフト角周波数(変調用マイクロ波信号の角周波数)がωmであった場合には、光周波数シフタ3から出力されたレーザ光の角周波数はωc+ωmとなる。
【0031】
次いで、光周波数シフタ3から出力されたレーザ光は、伝送光ファイバ5を往復した後、光サーキュレータ4を介して光合波器7に出力される(ステップST3)。すなわち、まず、光サーキュレータ4は、光周波数シフタ3からのレーザ光を伝送光ファイバ5に出力し、伝送光ファイバ5は、このレーザ光を光部分反射鏡6に伝送する。そして、光部分反射鏡6は、このレーザ光の一部を伝送光ファイバ5に反射し、残りの部分を透過する。なお、透過したレーザ光は基準光として出力される。そして、伝送光ファイバ5は、この反射光(レーザ光)を光サーキュレータ4に伝送し、光サーキュレータ4は、このレーザ光を光合波器7に出力する。
【0032】
ここで、伝送光ファイバ5に温度変化などの環境変動が生じていると、この伝送光ファイバ5を伝播したレーザ光の位相に変動が生じる。よって、光部分反射鏡6を透過したレーザ光および光部分反射鏡6を反射して光合波器7に出力されたレーザ光には位相変動が生じる。
【0033】
次いで、光合波器7は、光分配器2からのレーザ光と光サーキュレータ4からのレーザ光とを合波する(ステップST4)。ここで、光合波器7は、光分配器2からのレーザ光の角周波数ωcと、光サーキュレータ4からのレーザ光の角周波数ωc+ωmとの2つの周波数成分を合波する。
【0034】
次いで、光電変換手段8は、光合波器7からのレーザ光をマイクロ波信号に光電変換する(ステップST5)。ここで、光電変換手段8は、光合波器7により合波された2つの周波数成分(ωc、ωc+ωm)の差周波である角周波数ωmのマイクロ波信号を出力する。しかしながら、上述したように伝送光ファイバ5に環境変動が生じた場合には、このマイクロ波信号に位相変動が生じる。
【0035】
一方、マイクロ波信号の位相Φとその角周波数ωとの間には、式(1)の関係があることが知られている。
ω=dΦ/dt (1)
よって、位相変動ΔΦは式(2)と表される。
ΔΦ=∫ωdt (2)
これにより、光周波数シフタ3への変調用マイクロ波信号の角周波数ωを制御することで、光部分反射鏡6を透過したレーザ光の位相変動ΔΦを制御できることが分かる。そこで、光電変換手段8から出力されたマイクロ波信号を用いて、位相同期回路10にて角周波数ωの制御を行う(ステップST6)。
【0036】
以下では、図1の主要部分におけるレーザ光またはマイクロ波信号の周波数、位相を示しながら、位相同期回路10による角周波数制御について説明する。
まず、基準信号源9からの基準マイクロ波信号の角周波数をωmとし、VCO107からの変調用マイクロ波信号の角周波数をωm+ΔΦ0/Δtとすると、光周波数シフタ3により角周波数がシフトされて出力されたレーザ光の角周波数は、ωc+ωm+ΔΦ0/Δtとなる。
【0037】
そして、光周波数シフタ3からのレーザ光は、光サーキュレータ4を介して伝送光ファイバ5を伝搬する。ここで、伝送光ファイバ5の環境変動により光路長が変動したときの透過位相の変動量をΔΦ1とすると、光部分反射鏡6を透過したレーザ光(基準光)の角周波数は、ωc+ωm+ΔΦ0/Δt+ΔΦ1/Δtとなる。
【0038】
一方、光部分反射鏡6で反射されることで伝送光ファイバ5を往復したレーザ光の角周波数は、伝送光ファイバ5による位相変動を2回受けることになるため、ωc+ωm+ΔΦ0/Δt+2・ΔΦ1/Δとなる。
そして、光合波器7を介して光電変換手段8で光電変換されたマイクロ波信号は、レーザ1からのレーザ光(角周波数ωc)と位相変動を受けたレーザ光との差成分となり、その角周波数は、ωm+ΔΦ0/Δt+2・ΔΦ1/Δtとなる。
【0039】
一方、基準信号源9からの基準マイクロ波信号(角周波数ωm)の一部は、第1の周波数変換手段102で3倍の周波数に変換され、その角周波数は3ωmとなる。
そして、第2の周波数変換手段103として例えばミキサなどを用い、光電変換手段8からのマイクロ波信号と第1の周波数変換手段102からの基準マイクロ波信号との差成分を出力すると、式(3)に示すような角周波数の第1の差分マイクロ波信号が出力される。
3ωm−(ωm+ΔΦ0/Δt+2・ΔΦ1/Δt)=2ωm−ΔΦ0/Δt−2・ΔΦ1/Δt (3)
【0040】
さらに、第3の周波数変換手段104として例えばミキサなどを用い、第2の周波数変換手段103からの第1の差分マイクロ波信号とVCO107(第2のマイクロ波分配器108)からの変調用マイクロ波信号との差成分を出力すると、式(4)に示すような角周波数の第2の差分マイクロ波信号が出力される。
(2ωm−ΔΦ0/Δt−2・ΔΦ1/Δt)−(ωm+ΔΦ0/Δt)=ωm−2ΔΦ0/Δt−2・ΔΦ1/Δt (4)
【0041】
そして、この第2の差分マイクロ波信号の位相と基準信号源9からの基準マイクロ波信号の位相とを位相比較手段105で比較し、VCO107でその差を打ち消す方向に発振周波数を制御した変調用マイクロ波信号を生成する。
よって、位相比較手段105への両入力信号が等しくなった場合には式(5)が成り立つため、式(6)のような関係が成り立つ。
ωm=ωm−2ΔΦ0/Δt−2・ΔΦ1/Δt (5)
ΔΦ0/Δt=−ΔΦ1/Δt (6)
【0042】
このとき、上記の光部分反射鏡6を透過したレーザ光の角周波数(ωc+ωm+ΔΦ0/Δt+ΔΦ1/Δt)は、上式(6)によってωc+ωmとなるため、伝送光ファイバ5による位相変動成分を打ち消すことができる。なお、上記の説明では、固定の光路長(位相)の初期オフセット分は省略している。
【0043】
以上のように、この実施の形態1によれば、レーザ光の伝送先近傍で往復するレーザ光をモニタして、レーザ光の角周波数を制御するように構成したので、伝送光ファイバ5などの伝送後の位相変動を補償することができる。また、従来の構成では、光ファイバストレッチャなどにより直接伝送路の位相変動分の長さを補償していたため、光ファイバストレッチャなどの光路長制御デバイスの制御可能な長さ、応答速度が制限されていたが、実施の形態1に係る光基準信号伝送装置では、変調用マイクロ波信号の周波数制御により位相変動を補償できることから、位相補償可能な長さを容易に拡大することができる。
【0044】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。図3に示す実施の形態2に係る光基準信号伝送装置は、図1に示す実施の形態1に係る光基準信号伝送装置に第2の光周波数シフタ11を追加したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。また、図3では、位相同期回路10の内部構成の記載は省略している(以下同様)。
【0045】
第2の光周波数シフタ11は、レーザ1と光分配器2との間に配置され、外部(基準信号源9)からの基準マイクロ波信号に基づいて、レーザ1からのレーザ光の角周波数を、光周波数シフタ3とは反対方向にシフトさせるものである。この第2の光周波数シフタ11により角周波数がシフトされたレーザ光は光分配器2に出力される。
【0046】
ここで、実施の形態1と同様にレーザ1からのレーザ光の角周波数をωcとし、第2の光周波数シフタ11によるシフト角周波数(基準マイクロ波信号の角周波数)をωmとすると、第2の光周波数シフタ11から出力されたレーザ光の角周波数はωc−ωmとなる。
その後、このレーザ光は光分配器2により2分岐されて、一方は光周波数シフタ3に出力され、他方は光合波器7に出力される。ここで、光周波数シフタ3は第2の光周波数シフタ11とは反対方向に角周波数をシフトすることになるため、光周波数シフタ3によるシフト角周波数がωmであった場合には、光周波数シフタ3から出力されるレーザ光の角周波数はωcとなる。すなわち、レーザ1から出力されたレーザ光を、そのままの角周波数ωcで伝送することができる。その後、このレーザ光は、伝送光ファイバ5にて位相変動を受ける。
【0047】
ここで、伝送光ファイバ5が環境変動により光路長が変動したときの透過位相の変動量をΔΦ1とすると、光部分反射鏡6を透過したレーザ光(基準光)の角周波数は、ωc+ΔΦ0/Δt+ΔΦ1/Δtとなる。
一方、光部分反射鏡6により反射されることで伝送光ファイバ5を往復したレーザ光は、伝送光ファイバ5などによる位相変動を2回受けることになる。よって、伝送光ファイバ5を往復したレーザ光の角周波数は、ωc+ΔΦ0/Δt+2・ΔΦ1/Δとなる。
【0048】
そして、光合波器7を介して光電変換手段8で光電変換されたマイクロ波信号は、レーザ1からのレーザ光(角周波数ωc−ωm)と位相変動を受けたレーザ光との差成分となり、その角周波数は、ωm+ΔΦ0/Δt+2・ΔΦ1/Δtとなる。以降は、実施の形態1と同様である。
【0049】
以上のように、この実施の形態2によれば、光周波数シフタ3のシフト方向とは反対方向にレーザ光の角周波数をシフトさせる第2の周波数シフタ11を設けたので、実施の形態1における効果に加えて、レーザ1から出力した信号を、そのままの周波数で遠方に伝送することができる。
【0050】
実施の形態3.
図4はこの発明の実施の形態3に係る光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。図4に示す実施の形態3に係る光基準信号伝送装置は、図1に示す実施の形態1に係る光基準信号伝送装置の光サーキュレータ4を偏光ビームスプリッタ(PBS、光路切替手段)12に変更し、光部分反射鏡6を光合分波器(光合分波手段)13およびファラディ回転鏡(偏波回転手段)14に変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0051】
PBS12は、入力されたレーザ光を、その偏波方向に応じて、透過または反射するものである。ここで、PBS12は、光周波数シフタ3からのレーザ光を透過して伝送光ファイバ5に出力し、また、伝送光ファイバ5からの偏波方向が90度回転したレーザ光を反射して光合波器7に出力する。
【0052】
光合分波器13は、伝送光ファイバ5からのレーザ光を2つに分岐するものである。この光合分波器13により分岐された一方のレーザ光はファラディ回転鏡14に出力され、他方のレーザ光は基準光として出力される。また、光合分波器13は、ファラディ回転鏡14からの反射光(レーザ光)を伝送光ファイバ5に出力する。
ファラディ回転鏡14は、光合分波器13からのレーザ光の偏波方向を90度回転させて光合分波器13に反射するものである。
【0053】
この場合、光周波数シフタ3から出力されたレーザ光は、PBS12を透過(図4では左から右に進行)し、伝送光ファイバ5を介して光合分波器13で分岐されて、一方のレーザ光がファラディ回転鏡14に出力される。そして、ファラディ回転鏡14は、このレーザ光の偏波方向を90度回転させて光合分波器13に反射する。
【0054】
そして、この反射光(レーザ光)は、光合分波器13を介して伝送光ファイバ5で上記とは逆方向に伝送(図4では右から左に進行)されてPBS12に出力される。ここで、PBS12に到達したレーザ光の偏波方向は、PBS12を透過した際の偏波方向に対して90度傾いているため、PBS12により反射されて光合波器7に出力される(図4では下側に反射)。
【0055】
以上のように、この実施の形態3によれば、ファラディ回転鏡14により伝送光ファイバ5からのレーザ光の偏波方向を90度回転させて伝送光ファイバ5に反射するように構成したので、実施の形態1における効果に加えて、伝送光ファイバ5中で光の偏波方向が変動した場合であっても、往復する過程で偏波方向は直交させることができるため、ファイバ伝送中の偏波の変動を打ち消すことができる。
【0056】
実施の形態4.
図5はこの発明の実施の形態4に係る複合型光基準信号伝送装置の構成を示すブロック図である。図5に示す実施の形態4に係る複合型光基準信号伝送装置は、図1に示す実施の形態1に係る光基準信号伝送装置を複数組備えたものである(図5では2組の場合を示し、2組目の光基準信号伝送装置内の各機能部の符号に「a」を付している)。なお、レーザ1および基準信号源9は各光基準信号伝送装置で共有する構成となっている。
これにより、レーザ1から出力されたレーザ光を、位相を同期させた状態で複数の地点に伝送することが可能となる
【0057】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 レーザ、2 光分配器(光分配手段)、3 光周波数シフタ、4 光サーキュレータ(光路切替手段)、5 伝送光ファイバ、6 光部分反射鏡(光部分反射手段)、7 光合波器(光合波手段)、8 光電変換手段、9 基準信号源、10 位相同期回路(位相同期手段)、11 第2の光周波数シフタ、12 PBS(光路切替手段)、13 光合分波器(光合分波手段)、14 ファラディ回転鏡(偏波回転手段)、101 第1のマイクロ波分配器(マイクロ波分配手段)、102〜104 第1〜3の周波数変換手段、105 位相比較手段、106 ループフィルタ、107 VCO(変調用マイクロ波生成手段)、108 第2のマイクロ波分配器。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力されたレーザ光を2分岐する光分配手段と、
入力された変調用マイクロ波信号に基づいて、前記光分配手段により分岐された一方のレーザ光の角周波数をシフトさせる光周波数シフタと、
前記光周波数シフタの後段に配置され、レーザ光の光路を選択的に切り替える光路切替手段と、
前記光周波数シフタから前記光路切替手段および伝送光ファイバを介して出力されたレーザ光の一部を当該伝送光ファイバに反射し、残りを透過して光基準信号として出力する光部分反射手段と、
前記光分配手段により分岐された他方のレーザ光と、前記光部分反射手段から前記伝送光ファイバおよび前記光路切替手段を介して出力されたレーザ光とを合波する光合波手段と、
前記光合波手段により合波されたレーザ光をマイクロ波信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段により変換されたマイクロ波信号の位相と基準マイクロ波信号の位相とに基づいて、前記変調用マイクロ波信号を生成する位相同期手段と
を備えた光基準信号伝送装置。
【請求項2】
前記位相同期手段は、
前記基準マイクロ波信号を2分岐するマイクロ波分配手段と、
前記マイクロ波分配手段により分岐された一方の基準マイクロ波信号の角周波数を変換する第1の周波数変換手段と、
前記光電変換手段により変換されたマイクロ波信号と、前記第1の周波数変換手段により変換された基準マイクロ波信号との差成分である第1の差分マイクロ波信号を生成する第2の周波数変換手段と、
前記第2の周波数変換手段により生成された第1の差分マイクロ波信号と前記変調用マイクロ波信号との差成分である第2の差分マイクロ波信号を生成する第3の周波数変換手段と、
前記マイクロ波分配手段により分岐された他方の基準マイクロ波信号の位相と、前記第3の周波数変換手段により生成された第2の差分マイクロ波信号の位相とに基づいて、位相差信号を生成する位相比較手段と、
前記位相比較手段により生成された位相差信号に基づいて角周波数を制御した前記変調用マイクロ波信号を生成する変調用マイクロ波生成手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の光基準信号伝送装置。
【請求項3】
前記光路切替手段は光サーキュレータである
ことを特徴とする請求項1または請求項2記載の光基準信号伝送装置。
【請求項4】
前記光部分反射手段は、
入力されたレーザ光の偏波方向を90度回転させて反射する偏波回転手段と、
前記伝送光ファイバにより伝送されたレーザ光を分岐して前記偏波回転手段に出力し、当該偏波回転手段により反射されたレーザ光を当該伝送光ファイバに出力する光合分波手段とからなり、
前記光路切替手段は偏光ビームスプリッタである
ことを特徴とする請求項1から請求項3のうちのいずれか1項記載の光基準信号伝送装置。
【請求項5】
前記光分配手段の前段に配置され、前記基準マイクロ波信号に基づいて、入力されたレーザ光の角周波数を、前記光周波数シフタによるシフト方向とは反対方向にシフトさせる第2の光周波数シフタを備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の光基準信号伝送装置。
【請求項6】
前記第1の周波数変換手段は、前記マイクロ波分配手段により分岐された一方の基準マイクロ波信号の角周波数を3倍に変換する
ことを特徴とする請求項2から請求項5のうちのいずれか1項記載の光基準信号伝送装置。
【請求項7】
請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の光基準信号伝送装置を複数備え、前記各光基準信号伝送装置間で前記レーザ光および基準マイクロ波信号を共用とした
ことを特徴とする複合型光基準信号伝送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−30886(P2013−30886A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164206(P2011−164206)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】