説明

光増幅器

【課題】入力信号光パワーの変化があっても、利得の波長依存性を平坦に維持しつつ、利得の急激な変化を抑圧した光増幅器を提供する。
【解決手段】本発明の光増幅器は、信号光が増幅されるエルビウム添加ファイバと、前記エルビウム添加ファイバへの励起光を発生する半導体レーザと、前記信号光と前記励起光を合波する合波器と、前記エルビウム添加ファイバの入力信号光パワーおよび出力信号光パワーを検出する光パワー検出手段とを含む光増幅部を2つ以上備え、前記光パワー検出手段の検出結果に基づいて、各光増幅部の出力信号光パワーの検出値と入力信号光パワーの検出値との差である各光増幅部の利得の合計値に対して、増幅自然放出光補正値を加減算した結果が予め決めた固定の目標値となるように、前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流を制御するように構成された制御手段をさらに備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、信号光を増幅する光増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のインターネット通信需要の増加と光通信システムの低コスト化の要求に伴って、一本のファイバに複数の相異なる波長の信号光を多重して伝送する波長分割多重(WDM)伝送方式が導入されている。さらに、その方式を用いたシステムおよびネットワークが検討されている。このWDM技術により、単に伝送容量を増加させるだけでなく、ルーティングやリストレーションなどのネットワーク機能を実現することが検討されている。このようなネットワークをフォトニックネットワークと呼ぶ。また、WDM伝送方式は主に通信波長帯として1.5μm帯を使用するので、フォトニックネットワークで使用される光増幅器は主にEr添加ファイバ増幅器(EDFA)である。
【0003】
フォトニックネットワークでは、光通信ノード間距離の差によるスパンロスの差異があるだけでなく、ファイバへの接触、経年変化などによりスパンロスが変動したり、光パス切り替え、設備の増設撤去、光通信ノードの障害などにより入力波長数が変化したりする。スパンロス変動やチャネル数変化はネットワーク内で使用されるEDFA入力光パワーを変化させる。WDM伝送で使用されるEDFAは、複数の波長信号を各々等しい利得で増幅する必要があるので、信号波長帯で利得の波長依存性が平坦になるように設計される。しかしながら、ある信号入力光パワーで利得の波長依存性が平坦である場合に、EDFA入力パワーが変化するとEDFAの利得の波長依存性は平坦でなくなる(利得チルトが生じる)。利得チルトが生じると、十分な利得が得られない信号や逆に利得が大きくなりすぎる信号が生じ、伝送特性劣化をもたらすことがある。したがって、フォトニックネットワークで使用されるEDFAには、入力信号光パワーの変動・変化に対して常に一定の利得で且つ利得の波長依存性が平坦であるように制御(利得制御)される必要がある。
【0004】
これに対して、多段の光増幅部を有し、各光増幅部の間に光可変減衰器および利得等化フィルタを備える光増幅器が検討されている。例えば、非特許文献1を参照されたい。このような光増幅器では、入力信号光パワーの変動・変化によって光可変減衰器の減衰量を制御し、利得等化フィルタを変わる必要がなく、入力信号光パワーの変動・変化に対して常に一定で且つ波長依存性が平坦である利得を得ることができる。また、非特許文献1では、光増幅器は、監視波を用いて入力信号光の変化を監視することも検討されている。
【0005】
しかしながら、上記のような光増幅器において、各光増幅部および光可変減衰器などに対する制御は複雑かつ困難となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.Menashe et al., "Optical Amplifiers for Modern Networks," ICTON2006, pp. 115-118.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は前記事情に鑑みなされたもので、光伝送システムのスパンロスの変動や入力波長数の変化により入力信号光パワーの変化があっても、利得の波長依存性を平坦に維持しつつ、利得の急激な変化を抑圧した光増幅器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、このような目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、信号光が増幅されるエルビウム添加ファイバと、前記エルビウム添加ファイバへの励起光を発生する半導体レーザと、前記信号光と前記励起光を合波する合波器と、前記エルビウム添加ファイバの入力信号光パワーおよび出力信号光パワーを検出する光パワー検出手段とを含む光増幅部を2つ以上備え、前記光パワー検出手段の検出結果に基づいて、各光増幅部の出力信号光パワー検出値と入力信号光パワー検出値との差である各光増幅部の利得の合計値に対して、増幅自然放出光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)補正値を加減算した結果が予め決めた固定の目標値となるように、前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流を制御するように構成された制御手段をさらに備えることを特徴とする。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光増幅器であって、前記2つ以上の光増幅部のうち少なくとも1つの光増幅部において、前記合波器の前段および/または前記エルビウム添加ファイバの後段に光アイソレータをさらに備え、前記2つ以上の光増幅部の間に、前記光増幅器に入力される信号光のパワーの変化を補償するように減衰量が調整されて信号光の減衰を行う光可変減衰器と、前記光可変減衰器で減衰を受けた信号光に対して利得等化を行う利得等化フィルタとをさらに備え、前記制御手段は、前記光可変減衰器の減衰量を調整するようにさらに構成され、前記減衰量は、前記光パワー検出手段の検出結果に基づいて、最終段の光増幅部の出力信号光パワー検出値と第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値との差である、前記減衰量を含む前記光増幅器全体の利得に対して、前記ASE補正値を加減算した結果が、1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化する利得目標値となるように調整され、前記利得目標値は前記1波長あたりの入力信号光パワーの演算によって取得されることを特徴とする。
【0010】
また、請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の光増幅器であって、前記1波長あたりの入力信号光パワーは、信号光波長数と前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値との演算によって取得されることを特徴とする。
【0011】
また、請求項4に記載の発明は、請求項2に記載の光増幅器であって、前記第1段の光増幅部の前段に、監視波長の光と信号光とを分波する分波器が挿入され、フォトダイオードが前記分波器に接続されるように構成された、監視波長の光パワーを検出するための監視波長光パワー検出手段をさらに備え、前記1波長あたりの入力信号光パワーは、前記監視波長光パワー検出手段によって検出された監視波長の光パワーから取得されることを特徴とする。
【0012】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1乃至4に記載の光増幅器であって、前記ASE補正値は、前記光増幅器が発生する第1のASEの補正値と前記光増幅器より上流側の光増幅器が発生する第2のASEの補正値との演算によって取得されることを特徴とする。
【0013】
また、請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の光増幅器であって、前記第1のASEの補正値は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーに従って変化することを特徴とする。
【0014】
また、請求項7に記載の発明は、請求項6に記載の光増幅器であって、前記第1のASEの補正値は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー3dB毎に前記制御手段に事前に記憶されていることを特徴とする。
【0015】
また、請求項8に記載の発明は、請求項1乃至7に記載の光増幅器であって、前記制御手段は、前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流の比が一定となるように、前記駆動電流を制御することを特徴とする。
【0016】
また、請求項9に記載の発明は、請求項1乃至8に記載の光増幅器であって、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値が所定の入力信号光パワー値以下の場合に、前記各増幅部の半導体レーザへの駆動電流比が一定である制御と、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値が前記所定の入力信号光パワー値により大きい場合に、前記各増幅部の利得の波長依存性を平坦にする制御とを切り替えることを特徴とする。
【0017】
また、請求項10に記載の発明は、請求項1乃至9に記載の光増幅器であって、前記制御手段は、前記制御による前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流に、予め決めた固定値の第1のフィードフォワード駆動電流と、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーに従って変化する第2のフィードフォワード駆動電流とを付加することを特徴とする。
【0018】
また、請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の光増幅器であって、前記制御手段は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーの変化速度が所定の変化速度値を超えたという条件で、前記付加を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の光増幅器によれば、各光増幅部および光可変減衰器などに対して適切な制御を行うので、光伝送システムのスパンロスの変動や入力波長数の変化により入力信号光パワーの変化があっても、低雑音性を実現しながら利得の波長依存性を平坦に維持できると共に、利得の急激な変化を抑圧するという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明による光増幅器の構成例を示すブロック図である。
【図2】光増幅器自身で発生するASEの補正値の誤差の、入力信号光パワー間隔に対する依存性を示す図である。
【図3】本発明による、監視波を用いた光増幅器の構成例を示すブロック図である。
【図4】光可変減衰器の減衰量制御時の利得目標値の変化の様子を示す概念図である。
【図5】駆動電流比一定制御における半導体レーザの駆動電流の制御方法を示す概念図である。
【図6】(a)は駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御との1段目光増幅部利得の波長依存性を模式的に示す図であり、(b)は駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御との2段目光増幅部利得の波長依存性を模式的に示す図である。
【図7】駆動電流比一定制御及び光増幅部平坦利得制御の雑音指数を比較する図である。
【図8】駆動電流比一定制御及び光増幅部平坦利得制御の励起光パワーを比較する図である。
【図9】駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御を切り替える制御法における励起光パワーを示す図である。
【図10】駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御を切り替える制御法における雑音指数を示す図である。
【図11】フィードフォワード駆動電流において入力信号光パワーに比例する駆動電流を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は本発明による光増幅器の構成例を示すブロック図である。光増幅器100は、1段目の光増幅部100aと、光可変減衰器110と、利得等化フィルタ111と、2段目の光増幅部100bとが順次に接続されている。また、この光増幅器100は、1段目および2段目の光増幅部における励起半導体レーザの駆動電流と光可変減衰器110の減衰量とを制御する制御器112をさらに備える。
【0022】
1段目の光増幅部100aにおいて、入力された信号光を一方向に伝搬させる光アイソレータ102aと、信号光と励起光を合波する合波器103aと、増幅媒体とする、コアにエルビウムが添加されたエルビウム添加ファイバ104aと、増幅された信号光を一方向に伝搬させて出力する光アイソレータ105aとが順次に接続されている。また、エルビウム添加ファイバ104aへの励起光を発生させる励起光源とする半導体レーザ108aが、合波器103aに接続されている。加えて、光パワー検出値を制御器112に提供するために、1段目の光増幅部100aの入出力側にそれぞれ、光パワーの一部を分岐する分岐器101a、106aが挿入されており、さらに、光パワーを検出するフォトダイオード107a、109aが分岐器101a、106aに接続されている。2段目の光増幅部100bは、1段目の光増幅部100aと同様な構造としている。
【0023】
この構成例では、2つの光増幅部を有する光増幅器の構造を示したが、光増幅器は3つ以上の光増幅部を備えて、各光増幅部間に光可変減衰器および利得等化フィルタを備えることもできる。
【0024】
図1において、入力した信号光(複数波長が多重化されたWDM信号光)は、まず1段目の光増幅部100aで増幅された後、光可変減衰器110で減衰を受け、さらに利得等化フィルタ111を透過してその複数波長間の利得のばらつきが一定値以下に揃えられた後、2段目の光増幅部100bで増幅されて出力される。ここで、光可変減衰器110は、1波長あたりの入力信号光パワーに変化があった場合に、その変化量を補償するだけ減衰量を変化させることができる。それにより、後段の利得等化フィルタ111が入力信号光パワーの変化の影響を受けないように利得等化を行うことができる。従って、さらに後段の光増幅部100bで増幅されて出力される1波長あたりの出力信号光パワーは、1波長あたりの入力信号光パワーの変化に関わらず常に一定の値(制御誤差を含めると一定の範囲)となる。
【0025】
光増幅器100における制御器112は、各フォトダイオードで検出した光パワーに基づいて演算を実施し、その演算結果に基づいて励起光源である半導体レーザの駆動電流を調整するように機能する。以下に制御器112の動作を説明する。
【0026】
入力された各光増幅部の入出力パワー検出値は制御器112において対数変換される。すなわち、それぞれ1段目の増幅入力側はP1、1段目の増幅出力側はP4、2段目の増幅入力側はP3、2段目の増幅出力側はP2と変換される。或いは、各フォトダイオードにおける検出値(電流値)を光電変換後、LOGアンプで増幅することにより、同様の対数値を得ることもできる。
【0027】
制御器112は、1段目光増幅部の利得(P4−P1)と2段目光増幅部の利得(P2−P3)との合計値に対して、ASE補正値を加減算した結果が一定となるように、すなわち、
【0028】
【数1】

【0029】
が成り立つように、1段目の光増幅部100aにおける半導体レーザ108aの駆動電流I1、及び2段目の光増幅部100bにおける半導体レーザ108bの駆動電流I2を制御する。ここで、Gagcは予め決めた固定の目標値である。前述のように、光可変減衰器は入力信号光パワーの変化量を補償するように減衰量が制御されるので、各光増幅部の励起半導体レーザを制御する際には入力信号光パワーの変化量を考慮する必要がなくなる。また、
【0030】
【数2】

【0031】
は、ASE補正値である。ここで、
【0032】
【数3】

【0033】
は、複数の光増幅器を用いた多中継光伝送システムに光増幅器を使用する場合に、自身より上流側の光増幅器で発生するASEに対する固定の補正値である。なお、
【0034】
【数4】

【0035】
は、光増幅器で発生するASEに対する補正値であり、その値が入力信号光のパワーP1に従って変化するので、P1の関数として表示される。
【0036】
式(4)の値は、入力信号光パワーP1に従って変化するので、事前に一定の入力信号光パワーの間隔で計測して、制御器112内の記憶回路にテーブルとして保存しておく。それにより、制御器が入力信号光パワーの検出結果に従って保存したテーブルから式(4)の値を取得することができる。
【0037】
式(4)の誤差が大きくなると光増幅器制御誤差が大きくなるので、テーブル化に用いられる入力信号光パワーの間隔が入力信号光パワー検出精度(通常0.1dB程度)以下で式(4)の誤差が無いことが求められる。しかしながら、式(4)の誤差をなくすためには入力信号光パワー0.1dB毎に式(4)の値を制御器内の記憶回路にテーブル化すると、記憶回路の規模が大きくなる問題がある。従って、テーブル化に用いられる入力信号光パワーの間隔を広くする必要がある。
【0038】
図2に入力信号光パワーの間隔に対する式(4)の誤差の依存性を示す。利得制御の検出精度も入力信号光パワー検出精度程度(通常0.1dB程度)であるので、式(4)の誤差は0.1dB以下に抑制する必要がある。図2から、入力信号光パワー間隔が3.8dB以下であれば、式(4)の誤差は0.1dB以下に抑制することができる。通常、入力信号光パワー間隔は整数であると演算などに都合が良い場合が多いため、入力信号光パワー間隔3dB以下で式(4)の値を記憶回路にテーブル化し、補間演算により所望の入力信号光パワーに対する式(4)の値を得ることが好ましい。一方で、制御器内の記憶回路規模が十分大きくて入力信号光パワー0.1dB毎にテーブル化できる場合も、式(4)の値を計測する際に入力信号光パワー間隔3dB以下で行うことにより、計測を簡略化することができる。
【0039】
なお、光可変減衰器110の減衰量は、光増幅器全体の利得(P2−P1)に対して、ASE補正値を加減算した結果が、1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化する利得目標値となるように、すなわち、
【0040】
【数5】

【0041】
を満たすように制御器112によって制御することができる。ここで、式(5)の左辺は、光可変減衰器の減衰量を含む、自身及び上流側で発生するASEを補正した光増幅器全体の利得である。また、右辺の
【0042】
【数6】

【0043】
は、1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化する利得目標値であり、
【0044】
【数7】

【0045】
は、1波長あたりの入力信号光パワーである。光増幅器全体の利得目標値が1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化するのは、1波長あたりの出力信号光パワーを一定に保つために1波長あたりの入力信号光パワーの変化量を補償するためである。その補償は、光可変減衰器の減衰量を制御することにより行う。
【0046】
さらに、式(1)とともに、式(5)について説明する。式(5)−式(1)から、
【0047】
【数8】

【0048】
となる。式(8)の左辺の(P3−P4)は、利得等化フィルタ111から出力される信号光パワーの値と、光可変減衰器110に入力される信号光パワーの値との差である。すなわち、光可変減衰器110の減衰量と、利得等化フィルタ111による信号光パワーの増減値との和である。利得等化フィルタ111は所定の利得等化を行い、それによる信号光パワーの増減値が固定値であるので、(P3−P4)の変化は光可変減衰器110の減衰量の変化に相当する。式(8)の右辺第2項が固定値であるので、式(8)の右辺の変化は第1項の変化に相当し、すなわち、1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化する。従って、式(8)は、1波長あたりの入力信号光パワーが大きく(小さく)なった場合、光可変減衰器の減衰量をその分だけ大きく(小さく)することを示している。すなわち、光可変減衰器は入力信号光パワーの変化量を補償するように減衰量が制御される。
【0049】
式(7)に示される1波長あたりの入力信号光パワーは、制御器がオペレーションシステムから波長数情報Nchを取得し、さらに
【0050】
【数9】

【0051】
から取得することができる。
【0052】
或いは、光増幅器の入力側の伝送ファイバ損失に変化があった場合に、信号光と波長の異なる監視信号光を用いることより、1波長あたりの入力信号光パワーの変化を制御器に提供することもできる。図3に監視波を用いた光増幅器の構成例を示す。光増幅器300は、図1の光増幅器100において、1段目の光増幅部の前段に監視信号光と信号光を分波する分波器313が挿入されおり、さらに、フォトダイオード314が分波器313に接続されている。図3において、監視信号光は、分波器313を介してフォトダイオード314に入力され、フォトダイオード314によって検出された監視波長の光パワー値が制御器に提供される。監視波長光パワーの変化は1波長あたりの入力信号光パワーの変化と等しくなるので、監視波長光パワー検出値P5を利用して、光増幅器全体の利得目標値はGalc(P5)とすることができる。図4は、光可変減衰器の減衰量制御時の利得目標値の変化の様子を示す概念図である。図4に示されるように、光増幅器全体の利得目標値は、1波長あたりの入力信号光パワーまたは監視波長光パワー(いずれもdBm単位換算)に対して、比例(負の比例係数)する値となる。
【0053】
前述のように、1段目光増幅部の利得と2段目光増幅部の利得との合計値は式(1)を満たすように光増幅部の半導体レーザの駆動電流を制御する。それに加えて、1段目光増幅部と2段目光増幅部との間にもう1つの制約条件を設けて、光増幅部の半導体レーザの駆動電流をさらに制御し、その制約条件によって異なる制御方法となる。
【0054】
図5は、駆動電流比一定制御における半導体レーザの駆動電流の制御方法を示す概念図である。I1は1段目光増幅部の半導体レーザの駆動電流であり、I2は2段目光増幅部の半導体レーザの駆動電流である。図5に示されるように、それぞれの半導体レーザの駆動電流リミット以下では、I1/I2が一定となるように制御される。それで、このような制御方法を駆動電流比一定制御と呼ぶ。一方で、1段目の光増幅部の半導体レーザの駆動電流I1、及び2段目の光増幅部の半導体レーザの駆動電流I2の制御方法としては、それぞれの光増幅部で利得一定となるように、すなわち、各光増幅部は利得平坦な増幅状態になるようにI1及びI2を制御する(以下、光増幅部平坦利得制御と呼ぶ)方法もある。以下に説明するように、駆動電流比一定制御の方が利点がある。
【0055】
図6a、bに、駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御との各光増幅部利得の波長依存性を模式的に示している。ここで、駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御とで最大入力信号光パワーのときの駆動電流比R=I1/I2を同じとした。最大入力信号光パワーのとき、駆動電流比一定制御は光増幅部平坦利得制御と同じように、1段目の光増幅部及び2段目の光増幅部共に利得は波長に対して平坦な特性(平坦利得)となる(点線で示している利得曲線)。入力信号光パワーが最大値より小さくなると、光増幅部平坦利得制御では、1段目の光増幅部及び2段目の光増幅部共に利得は点線の利得曲線のまま変化しない。一方、駆動電流比一定制御では、実線の利得曲線で示されるように、1段目の光増幅部利得は増大(特に短波長側で大きく増大)し、2段目の光増幅部利得は減少(特に短波長側で大きく減少)する。しかしながら、結果として両者を合わせて平坦な利得特性が得られる。これは、駆動電流比一定のため、入力信号光パワーが低下したときに1段目の光増幅部では励起光パワーが過剰状態となる一方、2段目の光増幅部では励起光パワーが不足状態となるためである。
【0056】
入力信号光パワーが最大値より小さいときの駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御との雑音指数を比較すると、図7に示されるように、駆動電流比一定制御の方が小さく、低雑音となる。1段目の光増幅部の利得、雑音指数をそれぞれG1、NF1、2段目の光増幅部の雑音指数をNF2、光可変減衰器の減衰量を含む1段目の光増幅部と2段目の光増幅部間の透過率をLとすると、光増幅器の雑音指数NFは
【0057】
【数10】

【0058】
と表される。駆動電流比一定制御では、入力信号光パワーが小さくなると1段目の光増幅部利得G1が大きくなり、その結果、雑音指数NFが小さくなる。
【0059】
一方で、入力信号光パワーが最大値より小さいときの駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御との励起光パワーを比較すると、図8に示されるように、駆動電流比一定制御の方が励起光パワーが大きくなる。しかしながら、光増幅器には最大入力信号光パワーのときに必要な励起光パワーを発生する半導体レーザを搭載しているので、それ以下の励起光パワーであれば問題なく発生させることができる。従って、駆動電流比一定制御では光増幅部平坦利得制御に比べて励起光パワーが大きくなることは問題とはならない。
【0060】
ただし、入力信号光パワーが小さいときの励起光パワーを下げる必要がある場合は、励起光パワーが駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御とで同じになる入力信号光パワーを最大値から小さくすることにより、励起光パワーを下げることができる。図9において、その入力信号光パワーを
【0061】
【数11】

【0062】
で示している。式(11)の入力信号光パワーは、駆動電流比一定制御の励起光パワー曲線と光増幅部平坦利得制御の励起光パワー曲線との交点の入力信号光パワーであるので、以下、交点入力信号光パワーと呼ぶ。また、図9の太線で示されるように、入力信号光パワーが交点入力信号光パワー以下では駆動電流比一定制御、交点入力信号光パワーより大きいときは光増幅部平坦利得制御に切り替えるようにする。それにより、低雑音性を得ることができる。この切替方式の雑音指数を図10において太線で示している。交点入力信号光パワーが最大値より小さい図9を、駆動電流比一定制御と光増幅部平坦利得制御とで最大入力信号光パワーのときの駆動電流比を同じとした、すなわち交点入力信号光パワーが最大値である図8と比較すると、交点入力信号光パワーを最大値から小さくすることにより、駆動電流比一定制御の励起光パワーを下げることができることがわかる。図10に示されるように、入力信号光パワーが交点入力信号光パワー以下では、駆動電流比一定制御の方が雑音指数が小さく、入力信号光パワーが交点入力信号光パワーより大きいとき、光増幅部平坦利得制御の方が雑音指数が小さい。従って、上記の切替方式により、低雑音性を得ることができる。なお、交点入力信号光パワーの値は、所望の励起光パワー特性と所望の雑音指数特性とに基づいて事前に決定することができる。
【0063】
前述のように、制御器は、式(1)及び式(2)の演算によってフィードバック制御を行う。それに加えて、信号波長数が急激に変化したときに入力信号光パワーが急変する場合、例えば、入力信号光パワー変化速度が±10dB/μs以上となる場合に、制御器は、フィードフォワードの駆動電流値IFをフィードバック制御の駆動電流に付加することができる。フィードフォワードの駆動電流値IFは、
【0064】
【数12】

【0065】
と表され、ここで、
【0066】
【数13】

【0067】
は、予め決めた固定値のフィードフォワード駆動電流値であり、
【0068】
【数14】

【0069】
は、光パワー検出手段によって検出される入力信号光パワーに応じて変化するフィードフォワード駆動電流値であり、図11に示されるように入力信号光パワーに比例する。
【0070】
このフィードフォワード制御をフィードバック制御に付加することにより、信号波長数が最大96波から1波に急激に減少したときに、出力信号光パワー(入力が変化しなかった1波の出力信号光パワー)の変動を0.2dBに抑圧することができる。それにより、フィードバック制御のみの1.5dBに比べ、出力信号光パワー変動を小さくする効果がみられた。
【0071】
以上説明したように、本発明の光増幅器は、光伝送システムのスパンロスの変動や入力波長数の変化により入力信号光パワーの変化があっても、低雑音性を実現しながら利得の波長依存性を平坦に維持できると共に、利得の急激な変化を抑圧するという利点を有する。
【符号の説明】
【0072】
100、300 光増幅器
100a、300a 1段目光増幅部
100b、300b 2段目光増幅部
101a、106a、101b、106b、301a、306a、301b、306b 分岐器
102a、105a、102b、105b、302a、305a、302b、305b 光アイソレータ
103a、103b、303a、303b 合波器
104a、104b、304a、304b エルビウム添加ファイバ
107a、109a、107b、109b、307a、309a、307b、309b、314 フォトダイオード
108a、108b、308a、308b 半導体レーザ
110、310 光可変減衰器
111、311 利得等化フィルタ
112、312 制御器
313 分波器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号光が増幅されるエルビウム添加ファイバと、前記エルビウム添加ファイバへの励起光を発生する半導体レーザと、前記信号光と前記励起光を合波する合波器と、前記エルビウム添加ファイバの入力信号光パワーおよび出力信号光パワーを検出する光パワー検出手段とを含む光増幅部を2つ以上備え、
前記光パワー検出手段の検出結果に基づいて、各光増幅部の出力信号光パワー検出値と入力信号光パワー検出値との差である各光増幅部の利得の合計値に対して、増幅自然放出光(ASE:Amplified Spontaneous Emission)補正値を加減算した結果が予め決めた固定の目標値となるように、前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流を制御するように構成された制御手段をさらに備えることを特徴とする光増幅器。
【請求項2】
前記2つ以上の光増幅部のうち少なくとも1つの光増幅部において、前記合波器の前段および/または前記エルビウム添加ファイバの後段に光アイソレータをさらに備え、
前記2つ以上の光増幅部の間に、前記光増幅器に入力される信号光のパワーの変化を補償するように減衰量が調整されて信号光の減衰を行う光可変減衰器と、前記光可変減衰器で減衰を受けた信号光に対して利得等化を行う利得等化フィルタとをさらに備え、
前記制御手段は、前記光可変減衰器の減衰量を調整するようにさらに構成され、前記減衰量は、前記光パワー検出手段の検出結果に基づいて、最終段の光増幅部の出力信号光パワー検出値と第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値との差である、前記減衰量を含む前記光増幅器全体の利得に対して、前記ASE補正値を加減算した結果が、1波長あたりの入力信号光パワーに従って変化する利得目標値となるように調整され、前記利得目標値は前記1波長あたりの入力信号光パワーの演算によって取得されることを特徴とする請求項1に記載の光増幅器。
【請求項3】
前記1波長あたりの入力信号光パワーは、信号光波長数と前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値との演算によって取得されることを特徴とする請求項2に記載の光増幅器。
【請求項4】
前記第1段の光増幅部の前段に、監視波長の光と信号光とを分波する分波器が挿入され、フォトダイオードが前記分波器に接続されるように構成された、監視波長の光パワーを検出するための監視波長光パワー検出手段をさらに備え、
前記1波長あたりの入力信号光パワーは、前記監視波長光パワー検出手段によって検出された監視波長の光パワーから取得されることを特徴とする請求項2に記載の光増幅器。
【請求項5】
前記ASE補正値は、前記光増幅器が発生する第1のASEの補正値と前記光増幅器より上流側の光増幅器が発生する第2のASEの補正値との演算によって取得されることを特徴とする請求項1乃至4に記載の光増幅器。
【請求項6】
前記第1のASEの補正値は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーに従って変化することを特徴とする請求項5に記載の光増幅器。
【請求項7】
前記第1のASEの補正値は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー3dB毎に前記制御手段に事前に記憶されていることを特徴とする請求項6に記載の光増幅器。
【請求項8】
前記制御手段は、前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流の比が一定となるように、前記駆動電流を制御することを特徴とする請求項1乃至7に記載の光増幅器。
【請求項9】
前記制御手段は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値が所定の入力信号光パワー値以下の場合に、前記各増幅部の半導体レーザへの駆動電流比が一定である制御と、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワー検出値が前記所定の入力信号光パワー値により大きい場合に、前記各増幅部の利得の波長依存性を平坦にする制御とを切り替えることを特徴とする請求項1乃至8に記載の光増幅器。
【請求項10】
前記制御手段は、前記制御による前記各光増幅部の半導体レーザへの駆動電流に、予め決めた固定値の第1のフィードフォワード駆動電流と、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーに従って変化する第2のフィードフォワード駆動電流とを付加することを特徴とする請求項1乃至9に記載の光増幅器。
【請求項11】
前記制御手段は、前記第1段の光増幅部の入力信号光パワーの変化速度が所定の変化速度値を超えたという条件で、前記付加を行うことを特徴とする請求項10に記載の光増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−146785(P2012−146785A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3305(P2011−3305)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】