説明

光学デバイス用封止剤

【課題】硬化物の透明性に優れ、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機エレクトロルミネッセンス素子等の光学デバイスの光取り出し効率及び耐湿性を向上させることができる光学デバイス用封止剤を提供する。
【解決手段】カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光学デバイス用封止剤であって、前記カチオン重合性化合物は、1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び/又は1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物を含有し、前記光カチオン重合開始剤は、下記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する化合物を含有する光学デバイス用封止剤。
[化1]


式(1)中、mは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化物の透明性に優れ、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機エレクトロルミネッセンス素子等の光学デバイスの光取り出し効率及び耐湿性を向上させることができる光学デバイス用封止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
発光ダイオード素子の封止剤又はモールド剤として用いられる封止樹脂の屈折率は通常1.5前後であるが、光半導体の屈折率は2.5以上である。このため、光半導体と封止樹脂との界面で光が全反射し、効率良く光を取り出せないという課題があった。
【0003】
発光ダイオードにおける光の取り出し効率を向上させるため、封止樹脂を高屈折率化することが求められている。しかしながら、短波長の発光ダイオード用の封止樹脂の場合、臭素を導入して封止樹脂を高屈折率化する方法が考えられるが、環境負荷が大きいため採用できない。
また、封止樹脂を高屈折率化する方法として、硫黄等の比較的重い元素を含む硬化剤、例えば、ポリチオール系硬化剤で封止樹脂を硬化させる方法が考えられる。発光ダイオードにおいて光の取り出し効率を高める目的で、光半導体チップと電気的に接続しているパッケージ成型体の金属電極の少なくとも一部に光反射材としての機能を持たせることが好適に行われるが、硫黄等の比較的重い元素を含む硬化剤は、該金属電極に用いる材料との反応性が高いことが問題となっていた。具体的には、発光波長が350nm〜550nmの青色発光又は紫外線発光の発光ダイオードについて、電極の最表層に短波長の光に対する反射率が大きい銀や銀合金を積層した場合、例えば、上述したポリチオール系硬化剤を用いると、銀や銀合金との反応により硫化銀を形成し黒化し、電極表面の光反射率が低下するという問題があった。
【0004】
有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子ともいう)は、互いに対向する一対の電極間に有機発光材料層が挟持された構造を有する積層体(以下、単に積層体ともいう)を有し、該有機発光材料層に一方の電極から電子が注入されるとともに他方の電極から正孔が注入されることにより有機発光材料層内で電子と正孔とが結合して発光する。このように有機EL素子は自己発光を行うことから、バックライトを必要とする液晶表示素子等と比較して視認性がよく、薄型化が可能であり、更に直流低電圧駆動が可能であるという利点を有しており、次世代ディスプレイとして着目されている。
【0005】
しかし、積層体を構成する有機発光材料や電極は水分等による酸化により特性が劣化しやすく、大気中で駆動させると、発光特性が急激に劣化し寿命が短くなるという問題があった。そこで、一般的な有機EL素子では、積層体の上に乾燥剤が設置されたガラス又は金属からなる蓋を被せ、被せた蓋の周辺を接着剤(封止剤)で封止することにより水分の侵入を遮断する構造が採られていた。この方式では、積層体から発せられた光は蓋の反対側、即ち、有機EL素子の底部側から取り出されることからボトムエミッション方式とも呼ばれている(例えば、特許文献1)。
【0006】
近年、従来のボトムエミッション方式の有機EL素子に代わって、積層体から発せられた光を上面側から取り出すトップエミッション方式の有機EL素子が注目されている。トップエミッション方式は、開口率が高く、低電圧駆動となることから、長寿命化に有利であるという利点がある。トップエミッション方式の有機EL素子では、通常、積層体を2枚のガラス等の透明材料からなる透明防湿性基材により挟み込み、該透明防湿性基材間を封止剤で充填することにより封止している(例えば、特許文献2等)。しかしながら、トップエミッション方式の有機EL素子では、電極にITOなど高屈折率の使用しているため、電極と封止剤との屈折率差から、透明防湿性基材や封止剤として充分に透明性の高いものを用いた場合であっても、積層体から発せられた光の取り出し効率が必ずしも高くないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−14866号公報
【特許文献2】特開2001−357973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、硬化物の透明性に優れ、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機エレクトロルミネッセンス素子等の光学デバイスの光取り出し効率及び耐湿性を向上させることができる光学デバイス用封止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光学デバイス用封止剤であって、上記カチオン重合性化合物は、1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び/又は1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物を含有し、上記光カチオン重合開始剤は、下記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する化合物を含有する光学デバイス用封止剤である。
【0010】
【化1】

【0011】
式(1)中、mは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。
以下に本発明を詳述する。
【0012】
従来、発光ダイオードや有機EL素子においては、透明防湿性基材や封止剤の硬化物の透明性は高いほどよいとされていた。このため、透明防湿性基材としてはガラスが、封止剤としてはエポキシ樹脂等を硬化成分とする硬化性樹脂組成物が選択されていた。例えば、有機EL素子の場合、発光材料層から発せられた光は、上部電極である金属電極やITO電極や、水分から素子を保護する窒化ケイ素等のパッシベーション膜を通り、更に積層体を封止している封止剤を通って取り出される。ここで、電極に用いられるITO等やパッシベーション膜に用いられる窒化ケイ素等の膜の屈折率が1.7〜1.8程度であるのに対し、封止剤を構成する一般的な硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率は1.5程度であることから、有機発光材料層から発せられた光は屈折率の高い領域から屈折率の低い領域を通過することになる。本発明者は、このとき、封止剤と上部電極やパッシベーション膜との間の臨界角以上の広角に出射した光が界面で反射することで光の取り出し効率が損なわれていることを見出した。
そこで本発明者は、封止剤として、硬化物の透明性や耐湿性に優れるだけでなく、硬化物の屈折率が、上部電極であるITO等の透明電極や、水分から素子を保護する窒化ケイ素等のパッシベーション膜の屈折率に近いものを用いることにより、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機EL素子において充分に高い光の取り出し効率を得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明の光学デバイス用封止剤は、カチオン重合性化合物を含有する。
上記カチオン重合性化合物は、1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び/又は1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物を含有する。
上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び/又は上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物を含有することにより、得られる光学デバイス用封止剤の硬化物の屈折率を、上部電極であるITO等の透明電極や水分から素子を保護する窒化ケイ素等のパッシベーション膜の屈折率に近づけることができる。
【0014】
上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物としては、例えば、ビフェニルジグリシジルエーテル(三菱化学社製、「jER YL―6121」)テトラメチルビフェニルジグリシジルエーテル(三菱化学社製、「jER YX―4000」)、ビフェニルオキセタン(宇部興産社製、「ETERNACOLL OXBP」)等が挙げられる。
【0015】
上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物としては、例えば、ナフタレン型エポキシ樹脂(DIC社製、「EPICRON HP−4032D」)、アントラセン型エポキシ樹脂(三菱化学社製、「jER YX−8800」)、フルオレン型エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、「オグソールEG」)等が挙げられる。
【0016】
上記カチオン重合性化合物全体における上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物の合計の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%である。上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物の合計の含有量が20重量%未満であると、得られる光学デバイス用封止剤の硬化物の屈折率が不充分となることがある。上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物の合計の含有量のより好ましい下限は30重量%である。また、上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物の合計の好ましい上限は80重量%である。
【0017】
上記カチオン重合性化合物は、反応性希釈剤を含有することが好ましい。上記カチオン重合性化合物が上記反応性希釈剤を含有することにより、光学デバイス用封止剤の硬化物の屈折率を低下させることなく光学デバイス用封止剤の塗工性を向上させることができる。
上記反応性希釈剤は特に限定されず、例えば、ビフェニルモノグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「デナコールEX−142」)等が挙げられる。
【0018】
上記カチオン重合性化合物全体における上記反応性希釈剤の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は20重量%、好ましい上限は80重量%である。上記反応性希釈剤の含有量が20重量%未満であると、得られる光学デバイス用封止剤を塗工することが困難となることがある。上記反応性希釈剤の含有量が80重量%を超えると、得られる光学デバイスが耐湿性に劣るものとなることがある。上記反応性希釈剤の含有量のより好ましい上限は70重量%である。
【0019】
本発明の光学デバイス用封止剤は、更に、本発明の目的を阻害しない範囲において、上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物、上記1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物、及び、上記反応性希釈剤以外のその他のカチオン重合性化合物を含有してもよい。
上記その他のカチオン重合性化合物は特に限定されず、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、2,2’−ジアリルビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノール型エポキシ樹脂、プロピレンオキシド付加ビスフェノールA型エポキシ樹脂、スルフィド型エポキシ樹脂、エーテル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、アルキルポリオール型エポキシ樹脂、ゴム変性型エポキシ樹脂、グリシジルエステル化合物、ビスフェノールA型エピスルフィド樹脂等が挙げられる。
【0020】
本発明の光学デバイス用封止剤は、光カチオン重合開始剤を含有する。
上記光カチオン重合開始剤は、上記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する化合物を含有する。
上記式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する光カチオン重合開始剤は、中心アニオンがリンであることにより、得られる光学デバイス用封止剤の硬化物の着色を抑制することができ、また、C2n+1基を有することにより、酸強度が強くなる。従って、上記式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する光カチオン重合開始剤を用いた本発明の光学デバイス用封止剤は、無色透明で、硬化性が高く、高いガラス転移温度を有し、耐湿性に優れる硬化物を得ることができる。その結果、得られる光学デバイスの寿命を長くすることができ、信頼性を高めることができる。
【0021】
上記式(1)で表されるアニオン部分の分子量は特に限定されないが、好ましい下限は400である。上記式(1)で表されるアニオン部分の分子量が400未満であると、分子が移動しやすくなって、上記式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する光カチオン重合開始剤を光学デバイス用封止剤に用いた場合に、得られる光学デバイスに電極腐食が生じることがある。
【0022】
上記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する光カチオン重合開始剤は、更に、下記一般式(2)、下記一般式(3)又は下記一般式(4)で表されるスルホニウムカチオン部分を有することが好ましい。
【0023】
【化2】

【0024】
上記式(2)、(3)及び(4)中、R〜Rは、1価若しくは2価のフェニル基又はナフチル基を表し、互いに同一であってもよいし異なっていてもよい。上記フェニル基又は上記ナフチル基は、炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基、炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状のアルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、及び、カルボン酸アルキルエステル基(ここで、アルキル部分は炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状の残基である)から選択される1個以上の基で置換されていてもよい。
【0025】
上述したように、本発明の光学デバイス用封止剤に含有される光カチオン重合開始剤は、上記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分と、上記式(2)、(3)又は(4)で表されるスルホニウムカチオン部分とを有する化合物を含有することが好適である。なかでも、得られる光学デバイス用封止剤の硬化進行過程における着色防止効果や硬化物のガラス転移温度上昇効果等に優れることから、下記一般式(5)又は下記一般式(6)で表される光カチオン重合開始剤であることがより好適である。これらの光カチオン重合開始剤は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0026】
【化3】

【0027】
式(5)及び式(6)中、Xは、式(1)で表されるリン中心アニオン部分である。
また、上記式(5)及び(6)中、R〜R10は、それぞれ炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状のアルキル基、炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状のアルコキシル基、ハロゲン原子、水酸基、カルボキシル基、及び、カルボン酸アルキルエステル基(ここで、アルキル部分は炭素数が1〜12の直鎖状又は分枝鎖状の残基である)から選択される1個以上の基、又は、水素原子を表し、互いに同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0028】
上記光カチオン重合開始剤は特に限定されないが、波長300nm以上の光を吸収することが好ましく、波長300〜400nmの光を吸収することがより好ましい。上記光カチオン重合開始剤の吸収する光が波長300nm未満の光であると、高圧水銀灯や超高圧水銀灯等を光源とする通常の光を使用する場合に、上記光カチオン重合開始剤を用いた光学デバイス用封止剤の硬化が不充分となることがある。上記光カチオン重合開始剤の吸収する光が波長400nmを超える光であると、得られる光学デバイス用封止剤が硬化進行過程において着色することがある。
【0029】
上記光カチオン重合開始剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は0.3重量部、好ましい上限は5重量部である。上記光カチオン重合開始剤の含有量が0.3重量部未満であると、カチオン重合が充分に進行しなかったり、反応が遅くなりすぎたりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量が5重量部を超えると、硬化反応が速くなりすぎて、接着性が低下したり、得られる光学デバイス用封止剤の貯蔵安定性が悪くなったりすることがある。上記光カチオン重合開始剤の含有量のより好ましい下限は0.5重量部、より好ましい上限は3重量部である。
【0030】
本発明の光学デバイス用封止剤は、硬化物の屈折率を更に向上させるために、平均粒子径0.3μm以下の高屈折粒子を含有することが好ましい。
なお、本明細書において上記高屈折粒子とは、25℃におけるナトリウムD線の屈折率が1.60以上である粒子を意味する。
【0031】
上記高屈折率粒子としては上記カチオン重合性化合物との親和性に優れ、得られる光学デバイス用封止剤中に分散させることができるものであれば特に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化ジルコニア、酸化スズ等の粒子が挙げられる。
【0032】
上記高屈折率粒子の平均粒子径の上限は0.3μmである。上記高屈折率粒子の平均粒子径が0.3μmを超えると、得られる封止剤の硬化物が透明性に劣るものとなることがある。
なお、本明細書において上記高屈折率粒子の平均粒子径は、光散乱式粒度分布計(日機装社製、「ナノトラックUPA」)等を使用して測定することができる。
【0033】
本発明の光学デバイス用封止剤における上記高屈折率粒子の含有量は特に限定されないが、好ましい下限は5重量%、好ましい上限は50重量%である。上記高屈折率粒子の含有量が5重量%未満であると、得られる光学デバイス用封止剤の硬化物の屈折率を向上させる効果が充分に得られないことがある。上記高屈折率粒子の含有量が50重量%を超えると、粘度が上昇しすぎたり、得られる封止剤に着色や濁りが生じたりすることがある。上記高屈折率粒子の含有量のより好ましい下限は10重量%、より好ましい上限は30重量%である。
【0034】
本発明の光学デバイス用封止剤は、更に、硬化制御剤を含有することが好ましい。上記硬化制御剤を配合することにより、光照射から一定時間経過後に硬化させることができ、上記積層体を紫外線等により損傷することなく封止を行うことができる。
上記硬化制御剤は特に限定されないが、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール等のポリアルキレンオキサイドや、クラウンエーテル等のエーテル結合を有する化合物が好適である。
【0035】
上記硬化制御剤としてポリアルキレンオキサイドを用いる場合、上記ポリアルキレンオキサイドの末端は特に限定されず、水酸基であってもよいし、他の化合物によりエーテル化、エステル化されていてもよいし、エポキシ基等の官能基となっていてもよく、なかでも、上記カチオン重合性化合物と反応するため、水酸基、エポキシ基等となっていることが好適である。
更に、上記ポリアルキレンオキサイドとしては、ポリアルキレンオキサイド付加ビスフェノール誘導体も好適に用いられ、特に末端が水酸基又はエポキシ基を有する化合物がより好適に用いられる。
【0036】
上記硬化制御剤は、ポリエチレングリコール骨格及び/又はポリプロピレングリコール骨格を分子内に2つ以上有することが好ましい。
【0037】
上記硬化制御剤のなかでも、ポリエチレングリコール骨格を分子内に2つ以上有する硬化制御剤の市販品としては、例えば、「リカレジンBEO−60E」、「リカレジンEO−20」(いずれも新日本理化社製)等が挙げられる。
また、ポリプロピレングリコール骨格を分子内に2つ以上有する硬化制御剤の市販品としては、例えば、「リカレジンBPO−20E」、「リカレジンPO−20」(いずれも新日本理化社製)等が挙げられる。
【0038】
上記クラウンエーテルとしては、例えば、12−クラウン−4、15−クラウン−5、18−クラウン−6、ジシクロへキシル−18−クラウン−6等が挙げられる。
【0039】
上記硬化制御剤の含有量は特に限定されないが、上記カチオン重合性化合物100重量部に対して、好ましい下限は、0.1重量部、好ましい上限は10重量部である。上記硬化制御剤の含有量が0.1重量部未満であると、光照射後に充分な可使時間が得られないことがある。上記硬化制御剤の含有量が10重量部を超えると、カチオン重合が充分に進行しなかったり、反応が遅くなりすぎたりすることがある。上記硬化制御剤の含有量のより好ましい下限は0.2重量部、より好ましい上限は5重量部である。
【0040】
本発明の光学デバイス用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、増感剤を含有してもよい。上記増感剤は特に限定されず、例えば、カルボニル化合物、有機硫黄化合物、過硫化物、レドックス系化合物、アゾ化合物、アジド化合物、ハロゲン化合物、光還元性色素等が挙げられる。具体的には例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン誘導体や、ベンゾフェノン、2,4−ジクロルベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン誘導体や、2−クロルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン等のチオキサントン誘導体や、2−クロルアントラキノン、2−メチルアントラキノン等のアントラキノン誘導体等が挙げられる。これらの光増感剤は単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明の光学デバイス用封止剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、必要に応じて、粘接着性をより向上させるための粘接着性ポリマーや粘接着性付与剤(タッキファイヤー)、力学的物性や耐久性をより向上させるための充填剤、粘度を調整するための粘度調整剤、揺変性(チクソトロープ性)を付与するための揺変性付与剤(チクソトロープ剤)、力学的物性を改善するための物性調整剤、シランカップリング剤、補強材、増量剤、軟化剤(可塑剤)、タレ防止剤、酸化防止剤、熱安定剤、難燃剤、帯電防止剤、有機溶剤等の公知の各種添加剤を含有してもよい。
【0042】
本発明の光学デバイス用封止剤を製造する方法は特に限定されず、例えば、遊星式攪拌機、万能ミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、2本ロール、3本ロール、押出機等の公知の各種混練機を用いた従来公知の方法により、上記カチオン重合性化合物、上記光カチオン重合開始剤、及び、必要に応じて配合される添加剤を、常温下又は加熱下で、常圧下、加圧下又は不活性ガス気流下等の条件下で均一に混練する方法等が挙げられる。
【0043】
本発明の光学デバイス用封止剤は、光を照射することにより硬化する。
上記光を照射するための光源は特に限定されず、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、エキシマレーザ、ケミカルランプ、ブラックライト、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ、ナトリウムランプ、ハロゲンランプ、キセノンランプ、蛍光灯、太陽光、電子線照射装置等が挙げられる。これらの光源は、単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0044】
本発明の光学デバイス用封止剤に照射する光の波長は特に限定されないが、好ましい下限は250nm、好ましい上限は450nmである。上記光の波長が250nm未満であると、カチオン重合性化合物等の分解が起きることがある。上記光の波長が450nmを超えると、上記光カチオン重合開始剤の活性化に必要なエネルギーが充分に得られないことがある。上記光の波長のより好ましい下限は300nm、より好ましい上限は400nmである。
【0045】
本発明の光学デバイス用封止剤に照射する光の積算光量は特に限定されないが、好ましい下限は100mJ/cm、好ましい上限は5000mJ/cmである。上記積算光量が100mJ/cm未満であると、本発明の光学デバイス用封止剤が充分に硬化しないことがある。上記積算光量が5000mJ/cmを超えても、それ以上は硬化に寄与せず、封止剤や他の部材の劣化につながるおそれがある。上記積算光量のより好ましい下限は300mJ/cm、より好ましい上限は4000mJ/cmである。
【0046】
上記光源の使用に際しては、例えば、光カットフィルター等を用いて、熱線や波長300nm未満の光を除去することが好ましい。また、上記光源の光学デバイス用封止剤への照射手順としては、例えば、各種光源の同時照射、時間差をおいての逐次照射、同時照射と逐次照射との組み合わせ照射等が挙げられ、いずれの照射手段を用いてもよい。
また、本発明の光学デバイス用封止剤の硬化に際しては、カチオン重合性化合物のカチオン重合をより促進して、硬化時間をより短縮するために、光照射と同時に加熱を行ってもよい。光照射と同時に加熱を行う場合の加熱温度は特に限定されないが、50〜100℃程度であることが好ましい。
【0047】
本発明の光学デバイス用封止剤は、光を照射した後硬化反応が進行し、接着ができなくなるまでの可使時間が1分以上であることが望ましい。可使時間が1分より短いと、基板等を貼り合わせる前に硬化が進行してしまい、充分な接着強度を得られなくなることがあるからである。
【0048】
本発明の光学デバイス用封止剤は、硬化物の25℃におけるナトリウムD線の屈折率が1.60以上であることが好ましい。上記屈折率が1.60未満であると、得られる光学デバイスが光の取り出し効率に劣るものとなることがある。上記屈折率のより好ましい下限は1.62である。
【0049】
本発明の光学デバイス用封止剤は、JIS Z 0208に準拠して60℃、90%RHの条件下で測定した硬化物の透湿度が150g/m・24h/100μm以下であることが好ましい。上記透湿度が150g/m・24h/100μmを超えると、上記積層体に対する防湿性が不充分となり、得られる光学デバイスの寿命が短くなることがある。上記透湿度のより好ましい上限は100g/m・24h/100μm、更に好ましい上限は50g/m・24h/100μmである。
【0050】
本発明の光学デバイス用封止剤は、硬化物の波長380〜780nmの光における全光線透過率が80%以上であることが好ましい。上記全光線透過率が80%未満であると、得られる光学デバイスが光学的特性に劣るものとなることがある。上記全光線透過率のより好ましい下限は85%である。
【0051】
本発明の光学デバイス用封止剤を用いて光学デバイスを製造する方法は特に限定されず、従来公知の方法も用いることができ、例えば、有機EL素子の場合、以下の方法により製造することができる。
まず、本発明の光学デバイス用封止剤を、光を取り出す側の透明防湿性基材上に塗布し、この光学デバイス用封止剤に光を照射する。次いで、光学デバイス用封止剤が完全に硬化してしまう前に、他方の透明防湿性基材上に積層体が配置されたものを貼り合わせる。その後、更に80℃以下の温度で後養生して光学デバイス用封止剤を完全に硬化させる。また、本発明の光学デバイス用封止剤に光を照射した後、光を取り出す側の透明防湿性基材上に塗布し、他方の透明防湿性基材上に積層体が配置されたものを貼り合わせてもよい。更に、2枚の透明防湿性基材間に積層体を配置した間隙に、光を照射した本発明の光学デバイス用封止剤を充填してもよい。
本発明の光学デバイス用封止剤用いて得られる有機EL素子の一例を示す模式図を図1に示した。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、硬化物の透明性に優れ、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機エレクトロルミネッセンス素子等の光学デバイスの光取り出し効率及び耐湿性を向上させることができる光学デバイス用封止剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の光学デバイス用封止剤用いて得られる有機EL素子の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0055】
(実施例1)
(1)封止剤の調製
カチオン重合性化合物としてフルオレン型エポキシ樹脂(大阪ガスケミカル社製、「オグソールEG」)30重量部、ビフェニルモノグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、「デナコールEX−142」、反応性希釈剤)70重量部、光カチオン重合開始剤として4−(フェニルチオ)フェニルジフェニルスルホニウムトリス(ヘプタフルオロプロピル)トリフルオロホスフェート(式(6)においてR〜Rが水素原子、Xが式(1)においてm=3、n=3の構造のもの)1.0重量部、硬化制御剤として0.5重量部のジ−シクロヘキシル−18−クラウン−6、シランカップリング剤としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越シリコーン社製、「KBM−403」)0.2重量部、及び、増感剤として4−ベンゾイル−4’−メチルジフェニルサルファイド(日本化薬社製、「KAYACURE BMS」)0.2重量部を混合攪拌した後、セラミックス3本ロールミルにて分散させることによって封止剤を調製した。
【0056】
(実施例2〜10、比較例1〜4)
用いた材料及び配合量を表1〜3に示したものに変更したこと以外は実施例1と同様にして、封止剤を得た。
なお、表1〜3におけるナフタレン型エポキシ樹脂としてはEPICRON HP−4032D(DIC社製)を用い、ビフェニルオキセタンとしてはETERNACOLL OXBP(宇部興産社製)を用い、ビスフェノールA型エポキシ樹脂としてはjER 828(三菱化学社製)を用い、酸化ジルコニア粒子としてはナノジルコニア分散液(住友大阪セメント社製、屈折率2.17、平均1次粒子径7nm)を用い、酸化スズ粒子としてはCP001(テイカ社製、屈折率2.00、平均粒子径10nm)を用いた。
また、表1〜3におけるRP−2074(ローディア社製)はヨードニウムボレート系の光カチオン重合開始剤である。
【0057】
<評価>
実施例及び比較例で得られた封止剤及び有機EL素子について以下の評価を行った。結果を表1〜3に示した。
【0058】
(1)屈折率
実施例及び比較例で得られた封止剤を、PET樹脂フィルムにはさみ、2000mJ/cmの紫外線を照射した後、80℃のオーブンで30分加熱することにより、硬化物の厚さ100μmの測定用サンプルを作製した。得られた測定用サンプルについて、アッベ屈折率計(アタゴ社製、「NAR−1T」)を用いて25℃においてナトリウムD線の屈折率を測定した。
【0059】
(2)全光線透過率
分光光度計(日立製作所社製、「U−3000」、条件300〜800nm)を用いて、(1)で作製した測定用サンプルの波長380〜780nmにおける光線透過率を測定した。
【0060】
(3)透湿度
(1)で作製した測定用サンプルを直径6cmの円形に裁断した後、塩化カルシウムが設置されたJIS Z 0208に規定のカップの上に載置し、周辺を蝋で固定した。次いで、60℃、90%RHの雰囲気下に24時間放置した後、重量変化を測定して、透湿度を求めた。
【0061】
(4)光の取り出し効率評価
ITOがコーティングされたガラス基板に、実施例及び比較例で得られた封止剤を厚さ100μmとなるようはさみ込み、2000mJ/cmの紫外線を照射した後、80℃のオーブンで30分加熱することにより、反射率測定用サンプルを作製した。リファレンスとしてITOがコーティングされていないガラス基板を使用し、波長400nmにおける反射率測定用サンプルのITO界面の反射率を、分光光度計(日立製作所社製、「U−3000」)を用いて測定した。
【0062】
【表1】

【0063】
【表2】

【0064】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明によれば、硬化物の透明性に優れ、発光ダイオードやトップエミッション方式の有機エレクトロルミネッセンス素子等の光学デバイスの光取り出し効率及び耐湿性を向上させることができる光学デバイス用封止剤を提供することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 有機エレクトロルミネッセンス素子
2 積層体
3 透明防湿性基材
4 封止剤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン重合性化合物と光カチオン重合開始剤とを含有する光学デバイス用封止剤であって、
前記カチオン重合性化合物は、1分子中に2以上の環状エーテル構造を有するポリフェニル化合物及び/又は1分子中に2以上の環状エーテル構造を有する縮合多環芳香族化合物を含有し、
前記光カチオン重合開始剤は、下記一般式(1)で表されるリン中心アニオン部分を有する化合物を含有する
ことを特徴とする光学デバイス用封止剤。
【化1】

式(1)中、mは0〜5の整数であり、nは1〜6の整数である。
【請求項2】
カチオン重合性化合物は、反応性希釈剤を含有することを特徴とする請求項1記載の光学デバイス用封止剤。
【請求項3】
平均粒子径が0.3μm以下の高屈折粒子を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の光学デバイス用封止剤。
【請求項4】
硬化制御剤を含有することを特徴とする請求項1、2又は3記載の光学デバイス用封止剤。
【請求項5】
硬化物の25℃におけるナトリウムD線の屈折率が1.6以上であり、かつ、JIS Z 0208に準拠して60℃、90%RHの条件下で測定した硬化物の透湿度が150g/m・24h/100μm以下であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載の光学デバイス用封止剤。

【図1】
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【公開番号】特開2012−17368(P2012−17368A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−154204(P2010−154204)
【出願日】平成22年7月6日(2010.7.6)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】