説明

光学フィルムの製造方法、光学フィルムおよび液晶表示装置

【課題】ラビング処理後の長尺のプラスチックフィルムを巻き取ることによるラビング処理面における液晶の配向性への影響を可及的に防止することができる光学フィルムの製造方法、光学フィルムおよび液晶表示装置を提供する。
【解決手段】ラビング処理工程の後であって、液晶性分子の塗布工程の前に、長尺のプラスチックフィルムFのラビング処理面に剥離フィルムGが貼り合わされる。このときの剥離フィルムGには、ラビング処理面と対向する面とは反対側の面に粘着テープG2による凸部が形成されている。そして、長尺のプラスチックフィルムFおよび剥離フィルムGの積層体Hが巻き取られてロール体H’が形成される。このとき、剥離フィルムGの凸部が長尺プラスチックフィルムFの裏面(ラビング処理面とは反対側の面)に当接した状態で積層体Hが巻回される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置等の光学補償や反射防止などに用いられる光学フィルムの製造方法ならびにこれにより得られた光学フィルムおよび液晶表示装置に関し、特に、ラビング処理の後、プラスチックフィルムを巻き取る工程を有する光学フィルムの製造方法ならびにこれにより得られた光学フィルムおよび液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、基材の表面上に液晶材料を塗布して配向させることにより製造される種々の光学素子が知られている。このような光学素子の製造工程においては、液晶材料を基材表面上で配向させるため、例えば起毛布によって基材表面を一方向に擦るラビング処理を施すのが一般的である。例えば、光学素子が液晶セルである場合には、基材としてのガラス基板単位でラビング処理が施されることになる。しかしながら、基材としてプラスチックフィルムを用いる光学素子(光学フィルム)の場合には、裁断したフィルム単位でラビング処理を施すよりも、長尺のプラスチックフィルムを用いていわゆるロール・ツー・ロール方式で連続的にラビング処理を施す方が、製造効率ひいてはコスト面で圧倒的に有利である。
【0003】
したがって、光学フィルムを製造するに際し、上記のようなロール・ツー・ロール方式によって長尺のプラスチックフィルムに連続的にラビング処理を施す方法として、従来より種々の方法が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、鏡面仕上げをされた金属表面を有する搬送ベルトにて長尺のプラスチックフィルムを搬送しながら、搬送ベルト上に配置されたラビングロールで前記フィルム表面にラビング処理を施すことを特徴とするラビング方法が提案されている。ラビング処理を施す基材としては、一般的に、直鎖状の構造を有する材料、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)フィルムやポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなどが用いられている。
【0005】
このようなラビング処理の後、1つ又はそれ以上の官能基を有する液晶性分子を適宜の有機溶媒などを用いて溶液化し、ラビング処理を施したフィルムの表面に塗布した後、乾燥・配向させ、適宜の紫外線などを露光して架橋させて固定することにより光学フィルムを製造している。
【0006】
上記のようなラビング処理面に液晶性分子を塗布する工程の前に、ラビング処理面の電荷を均一にするために剥離フィルムを貼り合わせる処理を行うことも公知である(例えば、特許文献2参照)。このような剥離フィルムを貼り合わせることにより、ラビング処理面の電荷が均一となり、ラビング処理面に塗布される液晶の配向性が大きく向上する。
【0007】
一方、上記のような光学フィルムの製造工程においては、設備的および時間的な制約から上記一連の工程を連続して行わない場合がある。この際、ラビング処理後のラビング処理面に剥離フィルムを貼り合わせて積層体とした上で、当該積層体を搬送方向に直交する軸回りに巻き取ってロール体を形成し、これを保管することにより、光学フィルムの製造工程を分割している。
【特許文献1】特開2004−170454号公報
【特許文献2】特開2006−72298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記のように積層体を巻き取ってロール体とすることにより、長尺のプラスチックフィルムのラビング処理面に応力がかかってしまう。これにより、ラビング処理面の電荷が一様に帯電しなくなり、剥離フィルムを貼り合わせたにもかかわらず、液晶の配向性が乱れてしまうという問題があった。
【0009】
本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するべくなされたものであり、ラビング処理後の長尺のプラスチックフィルムを巻き取ることによるラビング処理面における液晶の配向性への影響を可及的に防止することができる光学フィルムの製造方法ならびにこれにより得られた光学フィルムおよび液晶表示装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するべく、本発明に係る光学フィルムの製造方法は、長尺のプラスチックフィルムの表面をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から回転軸を傾斜させたラビングロールによって擦るラビング処理工程と、長尺のプラスチックフィルムの前記ラビング処理された表面に、いずれか一方の面に凸部を有する剥離フィルムを当該剥離フィルムのいずれか他方の面がラビング処理された表面と対向するように貼り合わせて積層体を形成する工程と、前記積層体を巻き取り、ロール体にする工程と、前記ロール体から前記積層体を繰り出した後、前記長尺のプラスチックフィルムから前記剥離フィルムを剥離する工程と、長尺のプラスチックフィルムの前記ラビング処理された表面に液晶性分子を塗布する塗布工程とを有することを特徴とするものである。
【0011】
上記発明によれば、ラビング処理工程の後であって、液晶性分子の塗布工程の前に、長尺のプラスチックフィルムのラビング処理面に剥離フィルムが貼り合わされる。このときの剥離フィルムには、ラビング処理面と対向する面とは反対側の面に凸部が設けられている。そして、長尺のプラスチックフィルムおよび剥離フィルムの積層体が巻き取られてロール体が形成される。
このとき、剥離フィルムの凸部が長尺プラスチックフィルムの裏面(ラビング処理面とは反対側の面)に当接した状態で積層体が巻回される。
【0012】
このように、剥離フィルムのラビング処理面と対向する面とは反対側の面に凸部を設けることにより、積層体の巻き取り時に、剥離フィルムの凸部のない部分においては、長尺のプラスチックフィルムの裏面との接触が防止される。これにより、巻き取りによりラビング処理面にかかる応力が凸部のない箇所では生じ難くなる。したがって、ラビング処理後の長尺のプラスチックフィルムを巻き取ることによるラビング処理面における液晶の配向性への影響を可及的に防止することができる。
【0013】
好ましくは、前記剥離フィルムの凸部は、幅方向両端部に設けられる。
さらに好ましくは、前記剥離フィルムの凸部は、平坦な基材フィルムの幅方向両端部に貼り付けられた粘着テープにより形成される。
【0014】
この場合、剥離フィルムの凸部が幅方向両端部に設けられるため、長尺のプラスチックフィルムの幅方向中央部分において、ラビング処理面への応力を生じ難くすることができる。
したがって、光学フィルムの中央部分における液晶配向性を良好にすることができ、光学フィルムの品質をより高めることができる。
【0015】
好ましくは、前記ラビング処理工程において、金属表面を有する搬送ベルトによって前記長尺のプラスチックフィルムを支持して搬送するとともに、前記長尺のプラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構を配設し、前記バックアップロール機構は、前記搬送ベルトの搬送方向に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロールを備え、前記複数のバックアップロールは、前記ラビングロールの直下であって、前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設されている。
【0016】
この場合、ロール・ツー・ロール方式によって長尺のプラスチックフィルムに連続的にラビング処理を施すことが可能であるため、低コストで光学フィルムを製造することが可能である。また、ラビング処理を施す前のプラスチックフィルム表面に配向膜が形成された場合には、フィルム搬送時にきずが生じ難くなる上、ラビング処理を施す際に表面に異物が付着し難くなり、良好な光学フィルムの外観を維持することが可能である。
また、プラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構が、ラビングロールの直下であって、ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設された複数のバックアップロールを備えるため、ラビングロールの回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜していても、各バックアップロールは、プラスチックフィルムおよび搬送ベルトを介して、傾斜したラビングロールの直下に配設されることになる。
さらに、各バックアップロールが、搬送ベルトの搬送方向(プラスチックフィルムの搬送方向)に沿ってそれぞれ回転するため、各バックアップロールの回転が搬送ベルトの搬送方向への移動ひいてはプラスチックフィルムの搬送を阻害することもない。
したがって、例えラビングロールの回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜した状態でラビングロールの押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルトの平坦度が向上して弛みが生じ難く且つ搬送ベルトの移動が阻害されることもなく、安定した状態でラビング処理を施すことが可能である。この結果、プラスチックフィルムに均一な配向特性を付与することができ、ひいては均一な光学特性を有する光学フィルムを製造することが可能である。
【0017】
好ましくは、前記長尺のプラスチックフィルムのラビング処理された表面に対向する前記剥離フィルムの表面における剥離力は、0.5N/50mm以下である。
【0018】
また、本発明に係る光学フィルムは、上記の光学フィルムの製造方法によって得られたことを特徴とするものである。また、本発明に係る液晶表示装置は、前記光学フィルムを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る光学フィルムの製造方法によれば、剥離フィルムのラビング処理面と対向する面とは反対側の面に凸部を設けることにより、積層体の巻き取り時に、剥離フィルムの凸部のない部分においては、長尺のプラスチックフィルムの裏面との接触が防止される。これにより、巻き取りによりラビング処理面にかかる応力が凸部のない箇所では生じ難くなる。したがって、ラビング処理後の長尺のプラスチックフィルムを巻き取ることによるラビング処理面における液晶の配向性への影響を可及的に防止することができる。したがって、これにより得られた光学フィルムおよびこれを備えた液晶表示装置の品質を製造工程によらず高く保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を実施するためのラビング処理装置の概略構成を示す正面図である。図2は、図1に示すバックアップロール機構の概略構成を示す図であり、図2(a)は平面図を、図2(b)はバックアップロール近傍の斜視図を、図2(c)はフィルムの搬送方向から見た図をそれぞれ示す。図1に示すように、本実施形態に係るラビング処理装置100は、駆動ロール1,2と、駆動ロール1,2間に架設され、長尺のプラスチックフィルムFを支持して搬送する無限軌道の搬送ベルト3と、搬送ベルト3の上方において上下方向に昇降可能に配設されたラビングロール4と、プラスチックフィルムFを支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5とを備えている。なお、ラビング装置100の前後には、必要に応じて適切な静電気除去装置や除塵装置等を設置しても良い。
【0021】
搬送ベルト3は、長尺のプラスチックフィルムFを支持する側の表面が鏡面仕上げされた金属表面(搬送ベルト3全体を金属製としてもよい)とされている。斯かる金属としては、銅や鋼等の各種金属材料を用いることができるが、強度、硬度、耐久性の点よりステンレス鋼を用いることが好ましい。プラスチックフィルムFとの密着性を確保するため、鏡面仕上げの程度としては、表面粗さ(Ra)を0.02μm以下とすることが好ましく、より好ましくは、0.01μm以下とされる。また、プラスチックフィルムFの弛みを防止するには、これを支持する搬送ベルト3の弛みを防止する必要がある。搬送ベルト3の弛みを防止すると共に、駆動ロール1,2間に架設するためにある程度の可撓性を付与する必要があることに鑑みれば、搬送ベルト3の厚みは、0.5mm〜2.0mmとすることが好ましく、より好ましくは0.7mm〜1.5mmとされる。また、搬送ベルト3の弛みを防止すると共に、搬送ベルト3の張力強度を考慮すれば、搬送ベルト3に付与する張力は、0.5〜20kg重/mm2とすることが好ましく、より好ましくは、2〜15kg重/mm2とされる。
【0022】
ラビングロール4は、その外周面に起毛布4aが巻回されている。起毛布の材質や形状等は、ラビング処理を施されるプラスチックフィルムFの材質に応じて適宜選択すればよい。一般的には、起毛布4aとして、レーヨン、コットン、ナイロン、トリアセテート又はこれらの混合物等を適用することができる。本実施形態に係るラビングロール4の回転軸は、プラスチックフィルムFの搬送方向(図1の矢符Aで示す方向)に対して直角方向から傾斜(例えば、傾斜角度が0°を超え45°以下)させることができるように、すなわち、プラスチックフィルムFの長辺に対して任意の軸角度に設定できるように構成されている。また、ラビングロール4の回転方向は、ラビング処理の条件に応じて適宜選択可能である。なお、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の外径は、好ましくは130mm以上170mm以下(より好ましくは140mm以上160mm以下)に設定される。
【0023】
図2に示すように、バックアップロール機構5は、搬送ベルト3の搬送方向(図2(a)の矢符Aで示す方向)に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロール51を備えている。そして、各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設されている。
【0024】
このように、プラスチックフィルムFを支持する搬送ベルト3の下面を支持するバックアップロール機構5が、ラビングロール4の直下であって、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設された複数のバックアップロール51を備えるため、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルトの搬送方向に対して直角方向から傾斜している場合(例えば、図2(a)の直線C1がラビングロール4の回転軸である場合)であっても、各バックアップロール51は、プラスチックフィルムF及び搬送ベルト3を介して、傾斜したラビングロール4の直下に配設されることになる。さらに、各バックアップロール51が、搬送ベルト3の搬送方向(プラスチックフィルムFの搬送方向)に沿ってそれぞれ回転するため、各バックアップロール51の回転が搬送ベルト3の搬送方向への移動ひいてはプラスチックフィルムFの搬送を阻害することもない。従って、例えラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向から傾斜した状態でラビングロール4の押し込み量を大きくしたとしても、搬送ベルト3の平坦度が向上して弛みが生じ難く且つ搬送ベルト3の移動が阻害されることもなく、安定した状態でラビング処理を施すことが可能である。この結果、プラスチックフィルムFに均一な配向特性を付与することができ、ひいては均一な光学特性を有する光学フィルムを製造することが可能である。
【0025】
本実施形態に係るバックアップロール機構5は、好ましい構成として、ラビングロール4の回転軸と略平行な直線に沿って配設された台座部52と、搬送ベルト3表面の法線回りに回転可能に台座部52上に軸支された複数の支持部53とを更に備え、各バックアップロール51は、各支持部53に搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転可能に軸支されている。より具体的に説明すれば、本実施形態に係る支持部53は、軸部材54によって台座部53に軸支されており、軸部材54回りに回転可能とされている。また、本実施形態に係るバックアップロール51は、軸部材55によって支持部53に軸支されており、軸部材55回りに回転可能とされている。
【0026】
斯かる好ましい構成によれば、ラビングロール4の回転軸が搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向(図2(a)の直線C0の方向)から傾斜していても、バックアップロール機構5を構成する台座部52を同じ様に傾斜させる(すなわち、前記傾斜したラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿うように台座部52を傾斜させる)ことにより、搬送ベルト3の移動に伴って(搬送ベルト3下面から付与される摩擦力によって)支持部53に軸支されたバックアップロール51が搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する向きとなるように、台座部52に軸支された支持部53が自然に回転することになる。換言すれば、本実施形態のように、ラビングロール4の傾斜角度が固定ではなく、傾斜角度の設定値を変更したとしても、台座部52をラビングロール4と同様の傾斜角度に変更するだけで、各バックアップロール51がラビングロール4の直下に配設され且つ搬送ベルト3の搬送方向に沿って回転する状態にすることが可能である。
【0027】
さらに、図2(c)に示すように、本実施形態に係るバックアップロール機構5は、好ましい構成として、ラビングロール4の回転軸を搬送ベルト3の搬送方向に対して直角方向から傾斜させた場合に、これに伴って台座部52も傾斜するようにラビングロール4と台座部52とを連結する連結機構56を備えている。より具体的に説明すれば、本実施形態に係る連結機構56は、ラビングロール4を回転軸回りに回転可能に且つ上下方向に昇降可能に支持すると共に、台座部52を支持する断面略コの字状の枠体とされており、その頂部に取り付けられたモータMによって、図2(c)の矢符Bの方向に回転可能とされている。モータMによって、連結機構56が図2(c)の矢符Bの方向に回転することにより、連結機構56に支持されたラビングロール4及び台座部52は、同じ方向に同じ角度だけ回転(傾斜)することになる。したがって、ラビングロール4と台座部52とを個別に傾斜させる構成に比べて、設定が極めて容易となる。なお、本実施形態では、モータMを用いて自動的に連結機構56を回転させる構成について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、連結機構56を手動で回転させる構成を採用することも可能である。
【0028】
なお、本実施形態では、好ましい構成として、隣接する各バックアップロール51の回転軸方向の中心間距離L1(図2(a)参照)は、60mm以上200mm以下(より好ましくは、70mm以上150mm以下)に設定される。また、各バックアップロール51の回転軸方向の幅L2(図2(a)参照)は、20mm以上150mm以下(より好ましくは25mm以上70mm以下)に設定される。その他、隣接する各バックアップロール51の離間距離L3(図2(a)参照)は、40mm以上60mm以下(より好ましくは45mm以上55mm以下)に、各バックアップロール51の外径は70mm以上110mm以下(より好ましくは80mm以上100mm以下)に、台座部52の長さは1500mm以上2500mm以下(ただし、搬送ベルト3の幅よりも大きい値とされる)に、それぞれ設定される。
【0029】
以上に説明した構成を有するラビング装置100を用いてプラスチックフィルムFにラビング処理を施すに際し、所定のロール(図示せず)に巻回した状態の長尺のプラスチックフィルムFの先端が、複数の搬送ロール(図示せず)を経て搬送ベルト3上に供給される。そして、駆動ロール1,2を回転駆動させることにより、搬送ベルト3が図1の矢符Cで示す方向に移動し、これに伴いプラスチックフィルムFも搬送ベルト3と共に搬送され、ラビングロール4によってラビング処理が施されることになる。
【0030】
なお、本実施形態に係る製造方法の適用対象となるプラスチックフィルムFとしては、その表面をラビング処理するかあるいはその表面に形成した配向膜をラビング処理することにより、後述するように表面に塗布した液晶性分子を配向させることのできる機能が付与される限りにおいて、その材質に特に制限はない。
【0031】
例えば、プラスチックフィルムFとしては、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4−メチルペンテン−1)等のポリオレフィン、ポリイミド、ポリイミドアミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリケトンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリアリレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、セルロース系プラスチックス、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等からなるフィルムを挙げることができる。しかしながら、本実施形態に係る製造方法は、ブロッキングが生じ易いフィルム、例えばトリアセチルセルロースフィルム等に特に有効である。
【0032】
プラスチックフィルムFの表面に形成する配向膜としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアミド等を挙げることができる。また、配向膜の形成方法としては、例えば、スピンコート法、バーコート法、スロット代コート法、ディップコート法などを挙げることができる。また、形成される配向膜の厚みは、配向膜が形成される前のプラスチックフィルムFの表面粗さ等に応じて適宜設定可能であるが、好ましくは、0.1μm以上5μm以下(より好ましくは0.2μm以上3μm以下、さらに好ましくは0.3μm以上1μm以下)の厚みを有するものとされる。
【0033】
また、前記配向膜が形成される前のプラスチックフィルムFの表面粗さRzは、小さすぎるとフィルム搬送時にきずが生じ易くなる一方、大きすぎると、粗さ突起部にラビング処理を施すことが困難となり、異物が付着し易くなる。従って、好ましくは、120nm以上600nm以下(より好ましくは200nm以上500nm以下、さらに好ましくは300nm以上450nm以下)とされる。なお、本発明における表面粗さRzは、2001年度のJIS B0601で規定されている最大高さを意味する。
【0034】
なお、装置仕様等の関係上、一般的には、プラスチックフィルムFの搬送速度は1〜50m/min、好ましくは1〜10m/minの範囲で、ラビングロール4の回転数は1〜3000rpm、好ましくは500〜2000rpmの範囲で、ラビングロール4の押し込み量は100〜2000μm、好ましくは100〜1000μmの範囲とされる。なお、上記「ラビングロール4の押し込み量」とは、プラスチックフィルムF表面に対してラビングロール4の位置を変動させた場合において、ラビングロール4に巻回した起毛布の毛先が最初にプラスチックフィルムF表面に接した位置を原点(0点)とし、当該原点からプラスチックフィルムFに向けてラビングロール4を押し込んだ量(位置の変動量)を意味する。
【0035】
以上のようなラビング処理工程の後、本実施形態においては、プラスチックフィルムFの前記ラビング処理が施された表面(以下、ラビング処理面という)に、いずれか一方の面に凸部を有する剥離フィルムGを当該剥離フィルムGのいずれか他方の面が前記ラビング処理面と対向するように貼り合わせて積層体Hを形成する工程と、前記積層体Hを巻き取り、ロール体H’にする工程と、前記ロール体H’から前記積層体Hを繰り出した後、前記プラスチックフィルムFから前記剥離フィルムGを剥離する工程とが行われる。
本実施形態においては、より好ましい態様として前記剥離フィルムGの凸部が幅方向(搬送方向Aに直交する方向)の両端部に設けられるように構成される。さらに好ましい態様として、前記剥離フィルムGの凸部は、平坦な基材フィルムG1の幅方向両端部に貼り付けられた粘着テープG2により形成される。
【0036】
図3は、本実施形態における積層体形成工程およびロール体形成工程に使用される巻き取り機構を示す概念斜視図である。
この巻き取り機構6は、搬送ベルト3上で且つ前記バックアップロール機構5の搬送方向下流側に配設されている。巻き取り機構6とバックアップロール機構5との間には、ラビング処理が施されたプラスチックフィルムFのラビング処理面上に基材フィルムG1を形成する基材フィルム形成機構(図示せず)が配設される。
【0037】
まず、基材フィルム形成機構および巻き取り機構6により、プラスチックフィルムFのラビング処理面に剥離フィルムGが貼り合わされる。本実施形態においては、まず、プラスチックフィルムFのラビング処理面上に平坦な基材フィルムG1が形成される。
【0038】
基材フィルムG1は、プラスチックフィルムFに対し貼着および剥離可能とすべく、基材層と粘着層とを有している。基材フィルムG1の製造方法は、特に制限されないが、基材層と粘着層とを共押出し法によって成膜することが好ましい。共押出し法としては、フィルム製造などに一般的に用いられるインフレーション法、Tダイ法等に準じて行うことができる。その他の製造方法として、基材層に粘着層を塗工形成、転写する方法等により基材フィルムG1を形成する製法も採用できる。
【0039】
基材層を形成する材料としては、例えば、オレフィン系樹脂が挙げられる。オレフィン系樹脂は、オレフィン単独重合体系や複数のオレフィン、さらには他のモノマーを使用したブロック重合体、ランダム重合体等の共重合樹脂であり、具体的にはプロピレン系ポリマー、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、リニア低密度等のエチレン系ポリマー、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、リアクターTPOなどのオレフィン系ポリマー、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体等のオレフィンと他モノマーとのオレフィン系コポリマーが例示される。
【0040】
基材層には、劣化防止等を目的として、例えば酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等の光安定剤を添加してもよい。また帯電防止剤、その他例えば酸化カルシウムや酸化マグネシウム、シリカや酸化亜鉛、酸化チタンの如き充填剤、顔料、目ヤニ防止剤、滑剤、アンチブロッキング剤等の適宜な添加剤も配合することができる。
【0041】
基材層の厚さは、20〜300μm、好ましくは30〜250μm、より好ましくは40〜200μmであるが、これに限定されない。
【0042】
粘着層を形成する樹脂としては、エチレン・酢酸ビニル共重合体が好適である。その他に、粘着層を構成する材料としては、例えばゴム系、アクリル系やウレタン系などの公知の粘着剤を用いることができる。ゴム系ポリマーの例としては天然ゴム、ポリイソブチレン、ブチルゴム、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のジエン系ポリマーやそれらの水添物、エチレンプロピレンゴム、エチレン−α−オレフィンやエチレン−プロピレン−α−オレフィンやプロピレン−α−オレフィン等のオレフィン系ゴム、スチレン・ブタジエン・スチレン(SBS)やスチレン・イソプレン・スチレン(SIS)、スチレン・エチレン−ブチレン・スチレン(SEBS)、スチレン・エチレン−プロピレン・スチレン(SEPS)の如きA−B−A型ブロックポリマーや、スチレン・ブタジエン(SB)やスチレン・イソプレン(SI)、スチレン・エチレン−ブチレン共重合体(SEB)、スチレン・エチレン−プロピレン共重合体(SEP)の如きA−B型ブロックコポリマー、スチレン・ブタジエンラバー(SBR)の如きスチレン系ランダム共重合体や水添スチレン系ランダム共重合体(HSBR)、スチレン・エチレン−ブチレン共重合体・オレフィン結晶(SEBC)の如きA・B・O型のスチレン・オレフィン結晶系ブロックポリマー、オレフィン結晶・エチレン−ブチレン共重合体・オレフィン結晶(CEBC)の如きC・B・C型のオレフィン結晶系ブロックポリマーなどをベースポリマーとするものが挙げられる。
【0043】
粘着層の形成に際しては、粘着特性の制御等を目的に必要に応じて例えば軟化剤、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、リン酸エステル系化合物、粘着付与剤、老化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、その他例えば酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタンの如き充填剤や顔料などの適宜な添加剤を配合することができる。
【0044】
粘着層の厚さは、剥離力等に応じて適宜に決定してよく、一般には1〜50μmであり、好ましくは2〜40μm、特に好ましくは5〜20μmである。粘着層は必要に応じて、実用に供されるまでの間、セパレータなどを仮着して保護してもよい。
【0045】
前記基材フィルムG1は、前記プラスチックフィルムFのラビング処理面に貼り合わせるが、ラビング処理面が汚染されないように、ラビング処理工程の直後に、当該ラビング処理工程に引き続いて貼り合わせを行うのが好ましい。
【0046】
このようにして、基材フィルムG1をプラスチックフィルムFに貼り合わせた後、基材フィルムG1の幅方向両端部表面に、剥離フィルムGの凸部となる粘着テープG2を貼着する。
【0047】
粘着テープG2としては、公知のOPPテープ(二軸延伸ポリプロピレンテープ)等が挙げられるが、これに限られない。
【0048】
本実施形態においては、図3に示すように、基材フィルムG1が貼り合わされたプラスチックフィルムFを搬送する搬送ベルト3上で且つプラスチックフィルムFの幅方向(搬送方向Aに略直交する方向)両端部に、搬送方向Aに略直交する軸線を有し、前記基材フィルムG1の幅方向両端部表面に粘着テープG2を繰り出す粘着テープ繰り出し軸61が配設されている。この粘着テープ繰り出し軸61から繰り出された粘着テープG2の先端部が基材フィルムG1表面の搬送方向Aの下流側端部に貼着された状態で、基材フィルムG1が貼り合わされたプラスチックフィルムFを搬送させることにより、基材フィルムG1の幅方向両端部に粘着テープG2を貼着していく。これを実現する装置として公知のスリッタを適用することができる。本実施形態においては、搬送方向Aに沿って連続して粘着テープG2が貼着されるが、搬送方向Aの所定ピッチ毎に間隔を開けて貼着されることとしてもよい。
こうして基材フィルムG1とその表面に貼着された粘着テープG2とにより、幅方向両端部に凸部を有する剥離フィルムGがプラスチックフィルムFのラビング処理面に形成されることにより、積層体Hが形成される。
なお、本実施形態においては、粘着テープG2を基材フィルムG1に貼着することにより凸部を有する剥離フィルムGを形成することとしたが、これに限られず、例えば、幅方向両端部が幅方向中央部より厚みが厚いフィルムを一体形成することとしてもよい。
【0049】
この後、積層体Hは、巻き取られてロール体H’に形成される。
本実施形態においては、図3に示すように、搬送方向Aの粘着テープ繰り出し軸61よりさらに下流側に、搬送方向Aに対して略直交する方向に軸心を有し、積層体Hを巻き取るロール体回転軸62が配設され、当該ロール体回転軸62に積層体Hが巻き取られる。積層体Hを巻き取ることにより得られたロール体H’は、光学フィルムの製造ラインから外して保管することができるため、光学フィルムの製造工程をそこで一時中断することができる。
【0050】
図4は本実施形態において巻き取られたロール体のロール体回転軸を含む断面図である。
積層体Hが巻き取られることにより形成されたロール体H’は、剥離フィルムGの凸部(粘着フィルムG2)がプラスチックフィルムFの裏面(ラビング処理面とは反対側の面)に当接した状態となり、剥離フィルムGの凸部のない部分において空間部Jが形成される。
【0051】
本実施形態においては、図3および図4に示すように、剥離フィルムGの凸部が内側になるように巻き取る構成となっているが、前記凸部が外側になるように巻き取る構成としてもよい。
ただし、前記凸部が内側になるように巻き取ることにより、プラスチックフィルムFのすべての面において空間部Jが設けられることとなるため、プラスチックフィルムFのラビング処理面における液晶の配向性への影響を防止可能な範囲をより広くすることができる。
【0052】
このように、剥離フィルムGのラビング処理面と対向する面とは反対側の面に凸部を設けることにより、積層体Hの巻き取り時に、剥離フィルムGの凸部のない部分においては、長尺のプラスチックフィルムFの裏面との接触が防止される。
【0053】
これにより、巻き取りによりラビング処理面にかかる応力が凸部のない箇所では生じ難くなる。言い換えると、積層体Hを巻き取ることによる応力が前記空間部Jにより積層体Hの長手方向に拡散する。
したがって、ラビング処理後の長尺のプラスチックフィルムFを一時巻き取って保管する場合であっても、当該巻き取りによるラビング処理面における液晶の配向性への影響を可及的に防止することができる。
【0054】
本実施形態においては、剥離フィルムGの凸部が幅方向両端部に設けられるため、長尺のプラスチックフィルムFの幅方向中央部分において、ラビング処理面への応力を生じ難くすることができる。
したがって、光学フィルムの中央部分における液晶配向性を良好にすることができ、光学フィルムの品質をより高めることができる。
【0055】
光学フィルムの製造工程を再開する際には、ロール体H’から積層体Hを繰り出して、剥離フィルムG(基材フィルムG1および粘着テープG2)をプラスチックフィルムFから剥離する。本実施形態においては、プラスチックフィルムFから粘着テープG2が貼着された基材フィルムG1を粘着テープG2ごと剥離する。
【0056】
前記剥離フィルムGの剥離は、プラスチックフィルムFのラビング処理面が汚染されないように、後述する液晶性分子を塗布する直前に行うのが好ましい。剥離フィルムGの剥離方法は特に制限されないが、ラビング処理面の配向性を損わないように一定速度で剥離することが好ましい。例えば、180°ピールで行うのが好ましい。
【0057】
このとき、プラスチックフィルムFのラビング処理面に対向する前記剥離フィルムGの表面における剥離力は、0.5N/50mm以下であることが好ましい。これにより、剥離フィルムGを剥離した後のプラスチックフィルムFのラビング処理面は、プラスまたはマイナスのどちらかの電荷に一様に帯電し得る。
【0058】
以上のようにして再び繰り出されたプラスチックフィルムFのラビング処理面には、液晶性分子が塗布され、当該塗布した液晶性分子を硬化又は固化することによって光学フィルムが製造される。
【0059】
液晶性分子を塗布する際には、一般的に、液晶化合物が溶解された溶液が用いられる。前記溶液に含有される液晶分子としては、液晶ポリマー、液晶プレポリマー、液晶モノマーなどが適宜用いられる。
【0060】
液晶ポリマーを用いる場合、液晶ポリマー溶液をプラスチックフィルムFのラビング処理面に塗布した後、液晶相を示す温度領域以上になるまで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態のままで室温まで急冷することにより、光学異方性を示す液晶状態を固定化することが可能である。
【0061】
液晶プレポリマーや液晶モノマーを用いる場合、これらの溶液をプラスチックフィルムFのラビング処理面に塗布した後、液晶相を示す温度領域以上になるまで加熱し、乾燥させた後、液晶相を示す状態の温度まで冷却し、紫外線などを露光することにより架橋させて、光学異方性を示す液晶状態を固定化することが可能である。
【0062】
前記液晶モノマーとしては、例えば、以下の化学式(1)〜(16)の何れかで表されるモノマーを選択することが可能である。
【化1】



【化2】

【0063】
そして、液晶モノマー溶液には、好ましくは、重合剤や架橋剤が含まれる。これら重合剤及び架橋剤としては、特に制限されないが、例えば、以下のようなものが使用できる。前記重合剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)等が使用でき、前記架橋剤としては、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、金属キレート架橋剤等が使用できる。これらはいずれか一種類でもよいし、二種類以上を併用してもよい。
【0064】
液晶モノマー溶液の塗工液は、例えば、前記の液晶モノマーを、適当な溶媒に溶解・分散することによって調製できる。前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、塩化メチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、オルソジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、フェノール、p−クロロフェノール、o−クロロフェノール、m−クレゾール、o−クレゾール、p−クレゾールなどのフェノール類、ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、1,2−ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒、t−ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールのようなアルコール系溶媒、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドのようなアミド系溶媒、アセトニトリル、ブチロニトリルのようなニトリル系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンのようなエーテル系溶媒、あるいは二硫化炭素、エチルセルソルブ、ブチルセルソルブ等が使用できる。これらの中でも好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、MEK、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酢酸エチルセロソルブである。これらの溶剤は、例えば、一種類でもよいし、二種類以上を混合して使用してもよい。
【0065】
前記塗工液は、例えば、ロールコート法、スピンコート法、ワイヤバーコート法、ディップコート法、エクストルージョン法、カーテンコート法、スプレコート法等の従来公知の方法によって流動展開させればよく、この中でも、塗布効率の点からスピンコート、エクストルージョンコートが好ましい。
【0066】
液晶モノマー溶液の塗工液をプラスチックフィルムFのラビング処理面に塗布した後の加熱処理の温度条件は、例えば、用いる液晶モノマーの種類、具体的には液晶モノマーが液晶性を示す温度に応じて適宜決定できるが、通常、40〜120℃の範囲であり、好ましくは50〜100℃の範囲であり、より好ましくは60〜90℃の範囲である。前記温度が40℃以上であれば、通常、十分に液晶モノマーを配向することができ、前記温度が120℃以下であれば、例えば、耐熱性の面においてプラスチックフィルムFの選択肢が広がることになる。
【0067】
前記溶解する液晶化合物としては、塗布可能なものである限り特に制限されないが、例えば、棒状液晶化合物、平板状液晶化合物、或いは、これらの重合物が用いられる。より具体的には、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類などの液晶化合物や、これらの重合物が好ましく用いられる。
【0068】
以上に説明した本実施形態に係る製造方法によって製造される光学フィルムには、公知の方法を適宜適用することにより、位相差、色補償、視野角拡大、反射防止等の機能を付与することが可能であり、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、ELディスプレイ等の各種表示装置用の光学フィルムとして使用することが可能である。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を示すことにより、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0070】
<実施例1>
(1)ラビング処理
プラスチックフィルムFとして、親水化処理を施した易接着ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを使用し、その表面に厚み2.5μmのポリビニルアルコール(PVA)を配向膜として形成したフィルムに対して、図1および図2に示すラビング処理装置100を用いてラビング処理を施した。
なお、搬送ベルト3表面の鏡面仕上げはRa=0.01μm、駆動ロール1,2の外径は550mm、フィルムの搬送速度は5m/min、各バックアップロール51の外径は全て90mm、隣接する各バックアップロール51の回転軸方向の中心間距離L1は全て80mm、各バックアップロール51の回転軸方向の幅L2は全て30mmとした。また、ラビングロール4(起毛布4aを含む)の半径は76.89mmとし、レーヨン製の起毛布を巻回したものを用いた。ラビングロール4の回転軸はフィルムの搬送方向Aに対して直角方向から45°傾斜させ、各バックアップロール51は、ラビングロール4の直下であって、上記回転軸と平行な直線に沿って配置した。ラビングロール4の回転数は1500rpm、押し込み量は0.4mmとした。なお、配向膜の厚み測定には、大塚電子製の分光光度計:MCPD2000を用いた。後述する実施例2、比較例1,2についても同様である。
【0071】
ラビング処理後、プラスチックフィルムFのラビング処理面に、60μmの厚みを有する基材フィルムG1(サニテクト社製:PAC−3)を貼り合わせ、当該基材フィルムG1の幅方向両端部に厚みが50μmで幅が50mmの粘着テープG2(日東電工製:商品名「ダンプロンテープ(NO.3200)」)を貼着して積層体Hを形成した。その上で、積層体Hを巻き取りロール体H’とした。
【0072】
(2)光学フィルムの作製
ネマチック液晶層を示す重合性液晶化合物(BASF社製:商品名「PaliocolorLC242」)10gと、この重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製:商品名「イルガキュア907」)0.5gとレベリング剤0.06gとを、シクロペンタノン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【0073】
そして、前述のロール体H’を再び繰り出し、剥離フィルムG(基材フィルムG1および粘着テープG2)を剥離した上で、プラスチックフィルムFのラビング処理面に、上記の塗工液をバーコーターにより塗工した。その後、90℃で2分間加熱乾燥することにより、液晶を配向させた。
このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて20mJ/cmの光を照射し、該液晶層を硬化させることによって、nx>ny=nzの屈折率特性を有する正の一軸フィルムである光学補償層(コーティングAプレート)となる光学フィルム(位相差板)を形成した。光学補償層の厚み及び面内の位相差値は、塗工液の塗工量を変化させることにより調整し、厚みを1.4μm、目標とする面内位相差値Re[590]を140nmとした。なお、ny=nzより厚み方向位相差値Rth[590]も140nmである。
なお、Re[590]は、23℃における波長590nmの光で測定した光学補償層の面内の位相差値(=(nx−ny)×d(d:光学補償層の厚み(nm)))を意味する。また、Rth[590]は、23℃における波長590nmの光で測定した光学補償層の厚み方向の位相差値(=(nx−nz)×d(d:光学補償層の厚み(nm)))を意味する。
【0074】
<実施例2>
プラスチックフィルムFとして、ケン化処理を施したトリアセチルセルロース(TAC)フィルムを使用した以外は、実施例1に準じて光学フィルムを作製した。
【0075】
<比較例1>
粘着テープG2を貼着せずにロール体H’を形成したこと以外は、実施例1に準じて光学フィルムを作製した。
【0076】
<比較例2>
貼着テープG2を貼着せずにロール体H’を形成したこと以外は、実施例2に準じて光学フィルムを作製した。
【0077】
<評価結果>
(1)ムラレベル評価
実施例および比較例に係る光学フィルムについて、1mmピッチで幅方向2点間の位相差を原反幅1000mmにわたって測定した。この測定には、大塚電子製RETS−1200VAを用いた。そして、測定値から隣り合う位相差の差から位相差の差の平均値δ(Δnd)を算出し、評価した。
すなわち、
【数1】


ただし、x:幅方向i番目の位相差値とする。
このδ(Δnd)の値が小さいほどムラが少ない(目標とする面内位相差値Re[590]=140nmとのずれが少ない)と評価することができる。
【0078】
(2)コントラスト評価
実施例および比較例に係る光学フィルムをソニー社製:商品名「プレイステーションポータブル(PSP)」液晶セルに実装して、トプコン社製BM5を用いて黒輝度および白輝度を測定した上で、コントラスト比を算出し、評価した。
図5は、本実施例におけるコントラスト評価で用いた光学フィルムの実装状態を示す側方概念図である。
【0079】
まず、上記液晶セルの両面にそれぞれ、厚さ20μmのアクリル系粘着剤を介してネガティブCプレートを貼着した。
ネガティブCプレートは、以下のように作製した。
【0080】
すなわち、ネマチック液晶層相を示す重合性液晶材料(液晶モノマー)(BASF社製:商品名「PaliocolorLC242」)90重量部、カイラル剤(BASF社製:商品名「PaliocolorLC756」)10重量部、光重合開始剤(チバスペシャリティーケミカルズ社製:商品名「イルガキュア907」)5重量部、およびメチルエチルケトン300重量部を均一に混合し、液晶組成物を含有する塗工液を調製した。この液晶組成物を含有する塗工液を基材(二軸延伸PETフィルム)上にスピンコーティング法を用いてコーティングした。その後、80℃で3分間熱処理した上で、紫外線(20mJ/cm、波長365nm)を照射して重合処理し、nx=ny>nzの屈折率分布を有する長尺のネガティブCプレート(コレステリック配向固化層)を基材上に形成した。ネガティブCプレートの厚みは2.0μmであり、面内位相差値Re[590]は0nm、厚み方向位相差値Rth[590]は120nmであった。
なお、Re[590]は、23℃における波長590nmの光で測定したネガティブCプレートの面内の位相差値(=(nx−ny)×d(d:ネガティブCプレートの厚み(nm)))を意味する。また、Rth[590]は、23℃における波長590nmの光で測定したネガティブCプレートの厚み方向の位相差値(=(nx−nz)×d(d:ネガティブCプレートの厚み(nm)))を意味する。
【0081】
このようなネガティブCプレートを貼着した後、当該ネガティブCプレートの液晶セル貼着面とは反対側の表面に、厚さ12μmのアクリル系粘着剤を介して、上記光学フィルム(コーティングAプレート)をそれぞれ貼着した。
【0082】
さらに、貼着した光学フィルムのネガティブCプレート貼着面とは反対側の表面に、厚さ12μmのアクリル系粘着剤を介して、日東電工製の偏光板(TEG5465DU)を貼着して光学素子を形成した。
【0083】
このとき、上記光学素子の一方側の偏光板の吸収軸についての軸角度を0°とすれば、当該一方側の光学フィルム(コーティングAプレート)の遅相軸についての軸角度は、45°であり、他方側の偏光板の吸収軸についての軸角度は、90°であり、他方側の光学フィルムの遅相軸についての軸角度は、135°であるようにそれぞれ貼着した。
【0084】
上記の評価結果を表1に示す。
【表1】

【0085】
表1に示すように、比較例1および2に係る光学フィルムは、ムラレベルがδ(Δnd)=0.50nm以上である一方、液晶セル実装後のコントラストが600未満であり、実用レベルで問題があった。これに対して、実施例1および2に係る光学フィルムは、ムラレベルが0.50nm未満である一方、PSPセル実装後のコントラストが600以上であり、実用レベルで問題は生じない結果となった。
【図面の簡単な説明】
【0086】
【図1】図1は、本発明の一実施形態に係る光学フィルムの製造方法におけるラビング処理工程を実施するためのラビング処理装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】図2は、図1に示すバックアップロール機構の概略構成を示す図であり、図2(a)は平面図を、図2(b)はバックアップロール近傍の斜視図を、図2(c)はフィルムの搬送方向から見た図をそれぞれ示す。
【図3】図3は、本実施形態における積層体形成工程およびロール体形成工程に使用される巻き取り機構を示す概念斜視図である。
【図4】図4は、本実施形態において巻き取られたロール体のロール体回転軸を含む断面図である。
【図5】図5は、本実施例におけるコントラスト評価で用いた光学フィルムの実装状態を示す側方概念図である。
【符号の説明】
【0087】
5…バックアップロール機構
51…バックアップロール
52…台座部
53…支持部
56…連結機構
6…巻き取り機構
100…ラビング装置
A…搬送方向
F…プラスチックフィルム
G…剥離フィルム
G1…基材フィルム
G2…粘着テープ
H…積層体
H’…ロール体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺のプラスチックフィルムの表面をプラスチックフィルムの搬送方向に対して直角方向から回転軸を傾斜させたラビングロールによって擦るラビング処理工程と、
長尺のプラスチックフィルムの前記ラビング処理された表面に、いずれか一方の面に凸部を有する剥離フィルムを当該剥離フィルムのいずれか他方の面がラビング処理された表面と対向するように貼り合わせて積層体を形成する工程と、
前記積層体を巻き取り、ロール体にする工程と、
前記ロール体から前記積層体を繰り出した後、前記長尺のプラスチックフィルムから前記剥離フィルムを剥離する工程と、
長尺のプラスチックフィルムの前記ラビング処理された表面に液晶性分子を塗布する塗布工程とを有することを特徴とする光学フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記剥離フィルムの凸部は、幅方向両端部に設けられることを特徴とする請求項1記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記剥離フィルムの凸部は、平坦な基材フィルムの幅方向両端部に貼り付けられた粘着テープにより形成されることを特徴とする請求項2記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記ラビング処理工程において、金属表面を有する搬送ベルトによって前記長尺のプラスチックフィルムを支持して搬送するとともに、前記長尺のプラスチックフィルムを支持する搬送ベルトの下面を支持するバックアップロール機構を配設し、
前記バックアップロール機構は、前記搬送ベルトの搬送方向に沿ってそれぞれ回転する複数のバックアップロールを備え、前記複数のバックアップロールは、前記ラビングロールの直下であって、前記ラビングロールの回転軸と略平行な直線に沿って配設されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記長尺のプラスチックフィルムのラビング処理された表面に対向する前記剥離フィルムの表面における剥離力は、0.5N/50mm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法によって得られたことを特徴とする光学フィルム。
【請求項7】
請求項6記載の光学フィルムを有することを特徴とする液晶表示装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−268341(P2008−268341A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−108079(P2007−108079)
【出願日】平成19年4月17日(2007.4.17)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】