説明

光学基材及び反射防止フィルム

基材とハードコート層との屈折率差が大きくても干渉ジミが発生しないハードコート層付き光学基材及びこのハードコート層付き光学基材を用いた反射防止フィルムが提供される。透明基材上に、透明基材側から順番に、1層以上の干渉ジミ対策層が塗工され、その上にハードコート層が順次積層された光学基材において、該ハードコート層の550nmの光における複素屈折率をn−ikとしたときに、n=1.45〜1.59であり、kが実質的に0である。干渉ジミ対策層と透明基材との積層体の光学アドミッタンスを(x+iy)とした場合に、x、yが、(x−n+Y≦0.08の不等式を満たす。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、干渉ジミ防止用の光学基材に関し、特にワープロ、コンピュータ、テレビなどの各種ディスプレイ、液晶表示装置に用いる偏光版、透明なプラスチック類からなるサングラスのレンズ、度付きメガネのレンズ、カメラ用ファインダーのレンズなどの光学レンズ、各種計器のカバー、自動車や電車などの窓ガラス等において適用される干渉ジミ防止用の光学基材に関する。また、本発明は、この光学基材よりなる反射防止フィルムに関する。
【背景技術】
窓ガラス、パソコン、ワープロなどのディスプレイや、その他種々の商業ディスプレイなどには、ガラスやプラスチックなどの透明基板が使用されている。また、自動車の窓ガラスには飛散防止の為にフィルムを張ることが必要とされてきている。これらの表面は、手で引っ掻く、鉛筆等で引っ掻く、先の鋭い金属製品がぶつかるなどの物理的ストレスや、アルカリ洗浄剤や酸性洗剤などによる化学的なストレスが常にかかるため、これらのストレス、特に物理的なストレスを加えられても傷が付かないように、ハードコート層を設けるのが一般的である。
しかし、このように異なる種類の基材同士を積層した場合、かかる積層体に光を照射すると、屈折率の差によって特有の反射スペクトルが現われることが知られている。図1に、一般的なポリエステル樹脂フィルムであるPETフィルムに、ハードコート層を塗工した場合の反射スペクトルを示す。ここで、PETフィルムの屈折率は1.66、ハードコート層の屈折率は1.52、PETフィルムの膜厚は2.9μmである。図1からわかる通り、このハードコート層を塗工したPETフィルムに光が入射した場合、光の反射率は入射光の波長により周期的に変化する。このようなある特定の繰り返し周期の反射スペクトルを、以下、フリンジと称す。
このフリンジの周期は、長波長側では大きく、短波長側では短くなり、また、膜厚が厚いほど周期は短くなることが知られている。また、フリンジの振幅は基材とハードコート層の屈折率差に依存し、基材とハードコート層との屈折率差が大きいほど、振幅が大きくなる。
このフリンジにより、蛍光灯の反射光に斑模様が生じ、著しく外観が損なわれる(なお、この斑模様を以下、干渉ジミと称する。)。
上述した通り、基材とハードコート層との屈折率差が大きいほどフリンジの振幅が大きくなり、干渉ジミの濃淡が濃くなる。そして、この干渉ジミの濃淡が濃くなると、観者に著しい不快感が感取される。例えば、反射防止のために市販の反射防止フィルムをディスプレイ(PET製、屈折率1.66)表面に貼り付けた場合、ハードコート層とPETの屈折率差が大きいため、フリンジの振幅が大きく、反射光に干渉ジミがくっきりと生じる。特に、蛍光灯の蛍光塗料に希土類を用い、発光効率を高めたNEC製40ワット3波長昼白色蛍光灯FLR40SEX−N/M/36−HGで照らした場合、蛍光灯の発光波長が特定の波長(特に450nm,540nm,610nm)に限られているため、発光波長領域の反射率の差がはっきり出て、著しくくっきりとした干渉ジミが生じる。
以下に、干渉ジミの発生機構について説明する。
ハードコート層を塗工する際に、完全に均一な膜を塗工することは不可能であり、必ず局所的な膜厚差が生じる。その膜厚差は膜厚の1〜5%程度の範囲である。そして、上述の通り、膜厚によって反射スペクトルが異なるものとなり、その結果干渉ジミが生じる。
図2に、PETフィルム(屈折率1.66μm)に各膜厚のハードコート層(屈折率1.52)を塗工し、3波長蛍光灯の光を照射したときのハードコート層の膜厚と色との関係を示す。なお、図2において、x、yはXYZ色度図形におけるx、yである。図2のように、ハードコート層の膜厚が異なると、その場所での反射スペクトルが異なるため、反射色が変化する。これが、光の干渉ジミ(斑模様)の原因である。上述した通り、基材とハードコート層との屈折率の差が大きいと、反射スペクトルの振幅が大きいため、膜厚差による反射色の変化が大きくなり、その結果、干渉ジミの濃淡がはっきりしたものとなる。
従来、この斑模様の干渉ジミを無くすために、以下の3つの方法(1)〜(3)が行われている。
(1) 第1の方法は、ハードコート層の膜厚を非常に厚くするという方法である。ハードコート層の膜厚を非常に厚くすると、フリンジの周期が非常に短くなるため、ハードコート層の膜厚が局所的に異なっても、あまり色は変化しない。
しかし、このハードコート層を厚塗りする方法では、次のような欠点がある。まず、干渉ジミを見えなくするには、膜厚20μm〜30μm以上のハードコート層を塗工する必要がある。そのため、ハードコート層を硬化する際の硬化収縮が非常に大きくなり、塗工が難しく、コストも非常に高くなる。また、ハードコート層にクラックが入り易くなる。クラックを避けるため、ある程度柔らかいハードコート層を塗るという方法もあるが、その場合でもコストが非常に高くなる上に、塗工も難しい。また、柔らかいハードコート材料よりなるハードコート層は、硬度が低く、傷が付き易い。
(2) 第2の方法は、基材の屈折率をハードコート層の屈折率に近づけるという方法である。例えば、ハードコート層の屈折率は一般的には約1.49〜1.55程度なので、基材に屈折率が1.49のTACフィルムを用いる場合、基材とハードコート層との屈折率がほぼ同じなので、フリンジの振幅は非常に小さくなり、干渉ジミの濃淡が薄くなる。
但し、TACフィルムはPETフィルムと比較すると値段が著しく高い上に、フィルム自体が柔らかく、裂けやすい。塗工時にも、基材自体が柔らかいためにくぼみ等が生じて外観欠陥となる。また、ハードコート層を塗工しても、ハードコート層の下側のTACフィルムが柔らかいため、鉛筆硬度が低くなってしまう。
(3) 第3の方法は、ハードコート層の屈折率を基材の屈折率に近づけるという方法である。例えば、熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂からなるバインダーに、ZnO,TiO,CeO,Sb,SnO,ITO,In,Y,La,Al,HfO及びZrOからなる群から選ばれる少なくとも1種の高屈折率の金属酸化物超微粒子を適量混合したものをハードコート層とし、ハードコート層の屈折率を基材であるPETフィルムの屈折率(一般的には1.65程度)に近づけるという方法である。
しかし、この方法には次の如き種々の欠点がある。まず、ハードコート層の中に存在している金属酸化物超微粒子は通常有色であり、ハードコート性能を満足させるように3μm以上の膜厚でハードコート層を塗工すると、大抵は色がついてしまう。色を消すために(各波長の透過率を一定にするために)調色すると、透過率の減少につながる。また、シリカ以外の超微粒子を含有させた場合には、ハードコート層単体と比較して硬度が落ちる。また、最表面にあるハードコート層の屈折率を高くすると反射率が高くなり、その結果、透明光学基材にとって必要な程度の透過率が得られない。
このように、PETのような安価ではあるが屈折率が高く、ハードコート層との屈折率差が大きな基材にハードコート層(屈折率1.45〜1.60)を塗工したときにおいても、干渉ジミが見えない技術が必要である。
【発明の開示】
本発明は、基材とハードコート層との屈折率差が大きくても干渉ジミが発生しないハードコート層付き基材を提供することを目的とする。また、このハードコート層付き基材よりなる反射防止フィルムを提供することを目的とする。
本発明の光学基材は、透明基材上に、透明基材側から順番に、1層以上の干渉ジミ対策層が塗工され、その上にハードコート層が順次積層された光学基材において、該ハードコート層の540〜560nmの光における複素屈折率をn−ikとしたときに、n=1.45〜1.59であり、kが実質的に0であることを特徴とするものである。なお、kが実質的に0であるとは、色が全くつかなくなるように選定されたkの値であり、具体的には0.001以下である。
本発明においては、干渉ジミ対策層及び透明基材の2者のみよりなる干渉ジミ対策層付き透明基材の光学アドミッタンス(x+iy)の値を(n+i0)に近づけることによって、フリンジの振幅を0に近づけることができる。このフリンジの振幅を0にすると、干渉ジミは見えなくなる。
この干渉ジミ対策層は、2層以上塗工しても特に問題はないが、コスト上1層のみ塗工するのが好ましい。
本発明では、干渉ジミ対策層とハードコート層との界面の光学アドミッタンスを(x+iy)とした場合に、540〜560nmの少なくとも一部の波長において、[x−n+Y]の値が好ましくは0.08以下、より好ましくは0.03以下、特に好ましくは0.01以下である。
透明基材、各干渉ジミ対策層及びハードコート層の550nmにおける減衰係数kは、好ましくは0.001以下である。
干渉ジミ対策層は、熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂と、ZnO,TiO,CeO,Sb,SnO,ITO,In,Y,La,Al,HfO及びZrOからなる群から選ばれる少なくとも1種の超微粒子を該樹脂1重量部に対して0.1〜85の割合で含むことが好ましい。
本発明の一態様では、干渉ジミ対策層は、熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂を含み、且つ該熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂は、臭素、硫黄及びフェニル基の少なくとも1種を0.1〜60重量部含む。
該干渉ジミ対策層は、さらにシリカ微粒子を含有してもよい。シリカ微粒子の粒径は、好ましくは380nm以下である。シリカ微粒子の配合量は、好ましくは20〜80PHRである。
ハードコート層は塗工されたものであってもよい。
本発明の一態様では、該透明基材の屈折率が1.62〜1.68好ましくは約1.66であり、該ハードコート層の屈折率が1.50〜1.54好ましくは約1.52であり、該干渉ジミ対策層の屈折率が1.565〜1.605好ましくは約1.585であり、該干渉ジミ対策層の膜厚が80〜95nmである。
【図面の簡単な説明】
図1はPETフィルムとハードコート層との積層体の反射スペクトルである。
図2はPETフィルムとハードコート層との積層体におけるハードコート層の膜厚と反射色との関係を示すXYZ色度図である。
図3はハードコート層付き光学基材の断面図である。
図4はPET製透明基材と干渉ジミ対策層との積層体の光学アドミッタンスYがハードコート層の膜厚によって変化する様子を示す図面(admittance diagram)である。
図5はハードコート層の膜厚が1.537μmのときの透明基材と干渉ジミ対策層との積層体の反射スペクトルである。
図6は表1のハードコート層付き光学基材のうちのいくつかの反射スペクトルである。
図7は表1のハードコート層付き光学基材のうちのいくつかの反射スペクトルである。
発明の好ましい形態
以下、必要に応じて図面を参照しながら、実施の形態について詳細に説明する。
光学アドミッタンスYは、光波の電場成分Eと磁場成分Hとの比(Y=H/E)で定義されるものであり、光波が屈折率nの単一層内を進行する進行波である場合、該層の屈折率nと該層の光学アドミッタンスYとの間には、以下の関係がある。

ここで、εは真空の誘電率、μは真空の透磁率である。
なお、慣習的に真空中の光速及び透磁率を1とする単位系を用いるため、以下の通り光学アドミッタンスYは媒質の屈折率nと一致する。

ここまでは、屈折率nの単一層内を光波が進行する場合について説明したが、基板上に屈折率の異なる複数層の薄膜を積層させたフィルムの膜厚方向に光波が進行する場合は、進行波の一部が各層同士の界面で反射した後に進行波と逆方向に戻ってくるため(以下、進行方向と逆方向に戻る波を後退波と称す場合がある。)、各層内の光波は、進行波と、複数の界面における反射によって戻ってきた後退波との合成波となる。従って各層内の光波(合成波)の電場成分E及び磁場成分Hは進行波単独のものとは異なるものとなる。その結果、電場と磁場の比である光学アドミッタンスYも変化し、各層内における屈折率と光学アドミッタンスYとは一致しなくなる。
図3に、ハードコート層付き光学基材の断面図を示す。ハードコート層付き光学基材は、透明基材10と、該透明基材10上に積層された干渉ジミ対策層20、及び該干渉ジミ対策層上に積層されたハードコート層30とからなる。図3では、干渉ジミ対策層20は第1層1、第2層2、…、第n−1層n−1及び第n層nのn層からなる。干渉ジミ対策層20は1層でも多層でもよい。但し、塗工費用を考えると1層であることが好ましい。該光学基材内にハードコート層30側から光を入射した場合、透明基材10と第1層1との界面における光の電場成分及び磁場成分をそれぞれE、Hとし、該界面から第1層内に距離d離れた位置での光の電場成分及び磁場成分をそれぞれE、Hとすると、これらの間には、以下の関係がある。


ここで、
i:虚数単位
:第1層の複素屈折率
λ:入射光の真空中の波長
である。
従って、この位置での光学アドミッタンスYは、(3)式より以下のように表わされる。

ここで、Yは透明基材の光学アドミッタンスであり、Y=H/Eである。
(4)及び(5)式から明らかな通り、第1層1内の光学アドミッタンスYは、透明基材との界面からの距離dによって変化する。光学アドミッタンスが連続であることに注意して同様の操作を次々と行うことにより、第n層(nは自然数)の任意の点での光学アドミッタンスを算出することが可能である。
ハードコート層と該ハードコート層より1層手前の層nとの界面の光学アドミッタンスY及びハードコート層層終点、即ち、ハードコート層と、該ハードコート層の外側(例えば大気)との領域との界面の光学アドミッタンスYをそれぞれ

とする。ここで、ハードコート層は透明とみなせる場合、すなわちハードコート層の複素屈折率が実数nのみで表わせる場合、ハードコート層と第n層nとの界面の光学アドミッタンスYは以下の(8)、(9)式の通り表わされる。


ここで、

λ:入射光の真空中の波長
d :ハードコート層の膜厚
ここで、大気等の外側領域の光学アドミッタンスY(外側領域の屈折率(実数)nと一致する。)及びハードコート層層終点(ハードコート層と該外側領域との界面)の光学アドミッタンスYを用いて、反射率Rは以下のように表わすことができる。

従って、この光学アドミッタンスYがわかると、各波長ごとの反射率が求まる。
図4に、干渉ジミ対策層を設けず、PET製透明基材の上に直接ハードコート層を塗工した積層体に光波長550nmの光をハードコート層側から入射させた場合において、該積層体の光学アドミッタンスYがハードコート層の膜厚によって変化する様子を示す。図4において、横軸は光学アドミッタンスYの実数部Re[Y]、縦軸は虚数部1m[Y]を示す。PETの屈折率は1.66、ハードコート層の屈折率は1.52である。光学アドミッタンスYは、膜厚変化によってハードコート層単体の光学アドミッタンス(1.52,0)を中心としてPET単体の光学アドミッタンス(1.66,0)を通る円を描く。このとき、ハードコート層側から光を入射させたときの反射率は、(11)式及び空気の複素屈折率1.0+0iから計算できる。
実際の反射率は、このアドミッタンスダイアグラムの最終アドミッタンスY座標と、空気のアドミッタンス座標(1,0)との距離に比例する。
ハードコート層の膜厚が変化することによって、かかる透明基材とハードコート層との積層体の550nmの光波における反射率は6.16%から2.68%まで変化する。この場合、フリンジの振幅が6.16−2.68=3.48%と非常に高い値となり、干渉ジミの濃淡がはっきりと視認される。
図5に、ハードコート層の膜厚が1.537μmのときの透明基材とハードコート層との積層体の反射スペクトルを示す。図5の通り、屈折率1.66のPETの上に屈折率1.52のハードコート層を塗工すると、フリンジの振幅が3.48%と非常に高くなる。
次に、透明基材とハードコート層との間に干渉ジミ対策層を積層させたハードコート層付き光学基材の550nmにおけるフリンジ振幅について説明する。干渉ジミ対策層を1層とし、干渉ジミ対策層の屈折率を種々変化させて、干渉ジミ対策層の膜厚を550nmの波長に対して約1/4λとしたときの(x−n+yの値及び、その上に屈折率約1.52のハードコート層を塗工した場合の反射スペクトル及び干渉ジミの見え方を図6、図7及び表1に示す。

干渉ジミ対策層の材料としては、ジェイエスアール株式会社製高屈折率ハードコートKZ7987B(n=1.65)、及びKZ7349(n=1.55)の2種類を混合して用いた。両者の混合比を変えることによって屈折率を変化させた。
干渉ジミ対策層を塗工した後の、透明基材と干渉ジミ対策層との積層体の光学アドミッタンスをx+iyとし、ハードコート層の屈折率をnとしたとき、波長550nmにおいて(x−n+y<0.08を満たすと干渉ジミは薄くなる。特に、屈折率1.574の干渉ジミ対策層を用いた場合、550nmの波長における(x−n+yの値は0.025とはり、フリンジの振幅は0.2%となり、干渉ジミはほとんど見えなくなる。屈折率1.585の干渉ジミ対策層を用いた場合の550nm波長における(x−n+yの値は0.006となり、このときフリンジ振幅はほぼ0となり、干渉ジミは実質的に見えない。
このように、ハードコート層を塗工する前の、透明基材と干渉ジミ対策層との2者のみよりなる積層体の光学アドミッタンスをx+iyにて表したときに、(x−n+yの値を小さくすることによりフリンジの振幅を小さくすることができる。
なお、種々の実験の結果、波長550nmにおける(x−n+yの値を0.08以下にすることにより干渉ジミが十分に薄くなり、この(x−n+yの値を0.03以下にすると干渉ジミはほとんど視認されなくなり、0.01以下にすると干渉ジミは実質的に視認されなくなることが認められた。
前記の通り、この干渉ジミ対策層は、2層以上としてもよいが、コストを勘案すると1層で十分である。
以下、干渉ジミ対策層を1層とした光学基材について説明する。
一般的には、干渉ジミ対策層を1層塗工し、かつ、膜厚を550nmの光に対して1/4λ程度塗工する場合、干渉ジミ対策層の屈折率を、基材(PETなど)とハードコート層の屈折率のおよそ中間になるように調整すれば、(x−n+yの値は0に近づく。
干渉ジミ対策層は、バインダー中に金属酸化物微粒子を分散させたものが好ましい。この金属酸化物微粒子の体積割合を調整することにより、干渉ジミ対策層の屈折率を変化させることができる。
干渉ジミ対策層は、具体的には、バインダーである熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂と、屈折率が1.5以上の金属酸化物微粒子、例えば、ZnO(屈折率1.90)、TiO(屈折率2.3〜2.7)、CeO(屈折率1.95)、Sb(屈折率1.71)、SnO(屈折率1.997)、ITO(屈折率1.95)、In(屈折率2.00)、Y(屈折率1.87)、La(屈折率1.95)、Al(屈折率1.63)、HfO(屈折率2.00)、ZrO(屈折率2.05)からなる群から選ばれる少なくとも1種の超微粒子とから形成されるのが好ましい。超微粒子の平均粒径は5〜50nmが好ましく、5〜10nmがより好ましい。また、超微粒子はバインダーよりも屈折率が高いことが好ましい。
なお、これらの金属酸化物超微粒子を用いない場合でも、バインダーで樹脂の基本骨格の中に硫黄、臭素、フェニル基等が入っている熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂を用いると屈折率を高くすることができる。
干渉ジミ対策層を形成するための好ましい熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂としては、例えば、アクリレート系の官能基をもつもの、例えば、比較的低分子量のポリエステル、ポリエーテル、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン、ポリチオールポリエン系樹脂、多価アルコールなどの多官能化合物の(メタ)アクリレート(以下、アクリレートとメタアクリレートとを合わせて(メタ)アクリレートと記載する。)などのオリゴマー又はプレポリマー及び反応性の希釈剤であるエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、N−ビニルピロリドンなどの単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを比較的多量に含むものが使用される。
さらに、上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂として使用するときは、これらの中に光重合開始剤として、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類や、光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィンなどを混合して使用することが好ましい。
ハードコート層としては、例えば従来の熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂が使用される。ハードコート層の膜厚は、好ましくは0.5〜50μm、さらに好ましくは3〜20μmである。
厚みが薄過ぎるとJISで定められているところの鉛筆硬度を高く維持することが困難となる。一方、ハードコート層を必要以上に厚くすると、反射防止フィルムの可撓性を損なうばかりでなく、硬化時間が長くなって生産性を低下させ、製造コストを高くすることにもなる。
上記の要件を満たすハードコート層を形成するための好ましい熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂としては、例えば、アクリレート系の官能基をもつもの、例えば比較的低分子量のポリエステル、ポリエーテル、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン、ポリチオールポリエン系樹脂、多価アルコールなどの多官能化合物の(メタ)アクリレートなどのオリゴマー又はプレポリマー及び反応性の希釈剤であるエチル(メタ)アクリレート、エチルヘキシル(メタ)アクリレート、スチレン、ビニルトルエン、N−ビニルピロリドンなどの単官能モノマー、並びに多官能モノマー、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ヘキサンンジオール(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレートなどを比較的多量に含むものが使用される。
硬化時の硬化収縮を減らすためには、平均粒子径が100nm以下であるシリカ微粒子を上記反応性硬化物に混合することが多い。シリカ微粒子を含有させることにより、上記硬化収縮が小さくなる他、表面耐擦傷性の大幅な改善、ハードコート層の屈折率低下による反射率の低減(透過率の向上)等の効果が得られる。
シリカ微粒子の粒径が可視光の波長(380nm)よりも大きくなると、光が散乱して光学膜が白く濁って見えるところから、シリカ微粒子の粒径は380nm以下特に100nm以下例えば10〜100nmであることが好ましい。シリカ微粒子の混合量は樹脂100重量部に対し80重量部(PHR)以下、特に20〜80PHRであることが好ましい。80PHRよりも多いとシリカの量が多すぎ、膜の中に空隙が生じ、膜強度が著しく落ちることになる。なお、20PHR以上とすることにより、ハードコート層の耐擦傷性が十分に高くなる。
上記の電離放射線硬化型樹脂を紫外線硬化型樹脂として使用するときは、これらの中に光重合開始剤として、例えば、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ミヒラーベンゾイルベンゾエート、α−アミロキシムエステル、チオキサントン類や光増感剤としてn−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィンなどを混合して使用することが好ましい。
上記の電離放射線硬化型樹脂には、一般式RSi(OR’)で表される反応性有機ケイ素化合物(式中のR、R’は炭素数1〜10のアルキル基を表し、m+n=4である。)を含ませることもできる。ケイ素化合物としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−iso−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、テトラペンタエトキシシラン、テトラペンタ−iso−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−プロポキシシラン、テトラペンタ−n−ブトキシシラン、テトラペンタ−sec−ブトキシシラン、テトラペンタ−tert−ブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルエトキシシラン、ジメチルメトキシシラン、ジメチルプロポキシシラン、ジメチルブトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン等が挙げられる。
本発明の光学基材は、反射防止フィルムやASフィルムとして用いるのにきわめて好適である。
以上の通り、本発明によれば、透明基材の屈折率及びハードコート層の屈折率さえわかれば、透明基材とハードコート層との間に干渉ジミ対策層を塗工することで、光の干渉ジミを見えなくすることが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明基材上に、透明基材側から順番に、1層以上の干渉ジミ対策層が塗工され、その上にハードコート層が順次積層された光学基材において、
該ハードコート層の波長540〜560nmの光における複素屈折率をn−ikとしたときに、n=1.45〜1.59であり、kが実質的に0であることを特徴とする光学基材。
【請求項2】
請求項1において、干渉ジミ対策層とハードコート層との界面の光学アドミッタンスを(x+iy)とした場合に、540〜560nmの少なくとも一部の波長において、x、yが次の不等式を満たすものであることを特徴とする光学基材。
(x−n+Y≦0.08
【請求項3】
請求項1において、干渉ジミ対策層とハードコート層との界面の光学アドミッタンスを(x+iy)とした場合に、540〜560nmの少なくとも一部の波長において、x、yが次の不等式を満たすものであることを特徴とする光学基材。
(x−n+Y≦0.03
【請求項4】
請求項1において、干渉ジミ対策層とハードコート層との界面の光学アドミッタンスを(x+iy)とした場合に、540〜560nmの少なくとも一部の波長において、x、yが次の不等式を満たすものであることを特徴とする光学基材。
(x−n+Y≦0.01
【請求項5】
請求項1において、透明基材、各干渉ジミ対策層及びハードコート層の550nmにおける減衰係数kが、0.001以下であることを特徴とする光学基材。
【請求項6】
請求項1において、干渉ジミ対策層は、熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂と、ZnO,TiO,CeO,Sb,SnO,ITO,In,Y,La,Al,HfO及びZrOからなる群から選ばれる少なくとも1種の超微粒子を該樹脂1重量部に対して0.1〜85の割合で含むことを特徴とする光学基材。
【請求項7】
請求項1において、干渉ジミ対策層は、熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂を含み、且つ該熱硬化型樹脂及び/又は電離放射線型樹脂は、臭素、硫黄及びフェニル基の少なくとも1種を0.1〜60重量部含むことを特徴とする光学基材。
【請求項8】
請求項6において、該干渉ジミ対策層がさらにシリカ微粒子を含有することを特徴とする光学基材。
【請求項9】
請求項7において、該干渉ジミ対策層がさらにシリカ微粒子を含有することを特徴とする光学基材。
【請求項10】
請求項8において、シリカ微粒子の粒径が380nm以下である光学基材。
【請求項11】
請求項9において、シリカ微粒子の粒径が380nm以下である光学基材。
【請求項12】
請求項8において、シリカ微粒子の配合量が20〜80PHRである光学基材。
【請求項13】
請求項9において、シリカ微粒子の配合量が20〜80PHRである光学基材。
【請求項14】
請求項1において、ハードコート層は塗工されたものであることを特徴とする光学基材。
【請求項15】
請求項1において、該透明基材がPETフィルムであることを特徴とする光学基材。
【請求項16】
請求項1において、該透明基材の屈折率が1.62〜1.68好ましくは約1.66であり、
該ハードコート層の屈折率が1.50〜1.54好ましくは約1.52であり、
該干渉ジミ対策層の屈折率が1.565〜1.605好ましくは約1.585であり、
該干渉ジミ対策層の膜厚が80〜95nmであることを特徴とする光学基材。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項の光学基材よりなる反射防止フィルム。

【国際公開番号】WO2004/031814
【国際公開日】平成16年4月15日(2004.4.15)
【発行日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−541264(P2004−541264)
【国際出願番号】PCT/JP2003/012603
【国際出願日】平成15年10月1日(2003.10.1)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】