説明

光学的立体造形用樹脂組成物

【課題】 光照射時に高硬化感度を示し、短縮された造形時間で造形精度、寸法精度、耐久性、耐水性、耐湿性、力学的特性に優れる立体造形物を生産性良く製造でき、毒性が低く安全性に優れ、作業環境や地球環境の汚染や悪化を招かない光学的造形用樹脂組成物の提供。
【解決手段】 カチオン重合性有機化合物、ラジカル重合性有機化合物、光カチオン重合開始剤、光ラジカル重合開始剤及びオキセタン化合物を含有する光学的立体造形用樹脂組成物であって、光カチオン重合開始剤として、式:[S+(R1)a(R2)b(R3)c][P-6-n(Rf)n]mで表される芳香族スルホニウム化合物を含有する光学的立体造形用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学的立体造形用樹脂組成物および当該組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法に関する。より詳細には、本発明は、安全性に優れ且つ環境汚染のない、非アンチモン系の重合開始剤を用いた光学的立体造形組成物に関するものであり、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いることによって、高い硬化感度で、地球環境の汚染を防ぎながら、寸法精度、造形精度、靭性、他の力学的特性、耐水性、耐湿性に優れる光学的立体造形物を、安全に、しかも高い造形速度で生産性良く製造することができる。
【背景技術】
【0002】
近年、三次元CADに入力されたデータに基づいて液状の光硬化性樹脂組成物を立体的に光学造形する方法が、金型などを作製することなく目的とする立体造形物を良好な寸法精度で製造し得ることから、広く採用されるようになっている。
光学的立体造形法の代表的な例としては、容器に入れた液状光硬化性樹脂の液面に所望のパターンが得られるようにコンピューターで制御された紫外線を選択的に照射して所定厚みを硬化させ、ついで該硬化層の上に1層分の液状樹脂を供給し、同様に紫外線で前記と同様に照射硬化させ、連続した硬化層を得る積層操作を繰り返すことによって最終的に立体造形物を得る方法を挙げることができる。この光学的立体造形方法は、形状のかなり複雑な造形物をも容易に且つ比較的短時間に得ることが出来る。
【0003】
光学的立体造形に用いる樹脂または樹脂組成物については、活性エネルギー線による硬化感度が高いこと、低粘度で造形時の取り扱い性に優れること、経時的に水分や湿気の吸収が少なく硬化感度の低下がないこと、造形物の解像度が高く造形精度に優れていること、硬化時の体積収縮率が小さいこと、硬化して得られる造形物が力学的特性、耐久性、耐水性や耐湿性、耐熱性などに優れていることなどの種々の特性が要求される。
【0004】
光造形用の光硬化性樹脂組成物としては、従来、ラジカル重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物、カチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物、ラジカル重合性有機化合物とカチオン重合性有機化合物の両方を含む光硬化性樹脂組成物などの種々の光硬化性樹脂組成物が提案されて用いられている。その際に、ラジカル重合性有機化合物としては、例えば(メタ)アクリレート系化合物、ウレタン(メタ)アクリレート系化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート系化合物、ポリエーテル(メタ)アクリレート系化合物、エポキシ(メタ)アクリレート系化合物などが用いられ、またカチオン重合性有機化合物としては、例えば、各種エポキシ化合物、環状アセタール系化合物、ビニルエーテル系化合物、ラクトン類などが用いられている。
【0005】
上記したうちで、エポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物では、系内に存在する光カチオン重合開始剤が光照射によりカチオン種(H+)を生成し、それが連鎖的にエポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物に関与し、カチオン重合性有機化合物が開環して反応が進む。エポキシ化合物などのカチオン重合性有機化合物をベースとする光硬化性樹脂組成物を用いると、一般に、ラジカル重合性有機化合物をベースとする光硬化性樹脂組成物を用いた場合に比べて、得られる光硬化物の収縮率が小さく、寸法精度の良い造形物が得られる。
【0006】
カチオン重合性有機化合物を光重合させるための光カチオン重合開始剤としては、第VIIa族元素の芳香族スルホニウム塩(特許文献2を参照)、VIa族元素の芳香族オニウム塩(特許文献3を参照)、第Va族元素の芳香族オニウム塩(特許文献4を参照)などよりなる光カチオン重合開始剤が知られている。そのうちでも、カチオン重合性有機化合物を含む光硬化性樹脂組成物では、光カチオン重合開始剤として、アンチモンを含むスルホニウム塩が汎用されており、その代表例としては、下記の式(IVa)で表される化合物または式(IVb)で表される化合物、或いは式(IVa)で表される化合物と式(IVb)で表される化合物の混合物を挙げることができる。
【0007】
【化6】

【0008】
しかしながら、アンチモン化合物は、一般に有毒で、ヒ素や水銀と似た毒作用を示すことから、取り扱いに細心の注意を払う必要があり、しかも作業環境や地球環境の汚染などの心配がある。かかる点から、従来汎用されていたアンチモン系の光カチオン重合開始剤と同程度またはそれを凌駕する光重合開始能を有し、しかも毒性が少なく、安全性、取り扱い性に優れ、作業環境や地球環境の汚染を生ずることのない光カチオン重合開始剤を含む光学的立体造形用樹脂組成物が求められていた。
また、光造形物の用途の拡大に伴って、靭性に優れていて、曲げなどの外部応力が加えられても、破損しにくく、耐久性に優れる立体造形物を形成できる光学的立体造形用樹脂組成物が求められている。
【0009】
【特許文献1】特公平7−103218号公報
【特許文献2】特公昭52−14277号公報
【特許文献3】特公昭52−14278号公報
【特許文献4】特公昭52−14279号公報
【特許文献5】特開2002−241363号公報
【特許文献6】特開2001−81096号公報
【非特許文献1】ポール・エフ・ヤコブ(Paul F. Jacobs)著、「Rapid Prototyping & Manufacturing, Fundamentals of Stereo-Lithography」,“Society of Manufacturing Engineers”,1992年,p28−39
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アンチモン化合物などの有毒な成分を含まず、それによって安全性、取り扱い性に優れていて、作業環境や地球環境の汚染を生ずることのない光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
さらに、本発明の目的は、安全性に優れると共に、活性エネルギー線による硬化感度が高くて、短縮された活性エネルギー線照射時間で造形物を生産性良く製造することができ、しかも靭性に優れていて、衝撃、曲げなどの外部応力が加えられても破損が生じず耐久性に優れ、更に寸法精度、その他の力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などに優れる立体造形物を形成することのできる光学的立体造形用樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく本発明者らは鋭意検討を重ねてきた。その結果、カチオン重合性有機化合物、ラジカル重合性有機化合物、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤および活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤を含有する光学的立体造形用樹脂組成物において、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤として、従来汎用されていたアンチモンを含むスルホニウム塩の代わりに、フッ素化アルキル基を有するフルオロリン酸を対イオンとする非アンチモン系の芳香族スルホニウム化合物を光カチオン重合開始剤として配合すると、光学的立体造形用樹脂組成物中のカチオン重合性有機化合物の光カチオン重合が円滑に行われて、短縮された活性エネルギー線照射時間で、寸法精度、力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などの特性に優れる立体造形物が得られること、当該非アンチモン系の芳香族スルホニウム化合物の光カチオン重合開始剤として機能は、従来汎用されていたアンチモンを含むスルホニウム塩に比べても何ら遜色がないことを見出した。
【0012】
さらに、本発明者らは、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤として非アンチモン系の芳香族スルホニウム化合物を含有する前記光学的立体造形用樹脂組成物中に、オキセタン化合物を特定の割合で含有させると、活性エネルギー線による光学的立体造形用樹脂組成物の硬化を良好に行いながら、靭性に優れていて、曲げなどの外部応力が加えられても破損が生じず耐久性に優れ、しかも寸法精度、他の力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などに優れる立体造形物が得られることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)(i) カチオン重合性有機化合物(a)、ラジカル重合性有機化合物(b)、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(c)、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)およびオキセタン化合物(e)を含有する光学的立体造形用樹脂組成物であって;
(ii) 活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(c)が、下記の一般式(I);
【0014】
【化7】


[上記の式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して下記の式(i)〜(iv);
【0015】
【化8】


{式(ii)および式(iv)中、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す}
で表される基のいずれかであり、R3は下記の式(v);
【0016】
【化9】


で表される基であり、Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基であり、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数およびcは0または1であって、aとbとcの合計が3であり、mは1+cと同じ数であり、nは1〜5の整数である。]
で表される芳香族スルホニウム化合物であり;
(iii) オキセタン化合物(e)の含有量が、光学的立体造形用樹脂組成物の合計質量に対して1〜30質量%である;
ことを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物である。
【0017】
そして、本発明は、
(2) オキセタン化合物(e)が、1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物および1分子中にオキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物から選ばれる少なくとも1種である、前記(1)の光学的立体造形用樹脂組成物;および、
(3) モノオキセタン化合物が、下記の一般式(II);
【0018】
【化10】


(式中、R4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、pは1〜6の整数を示す。)
で表されるモノオキセタンモノアルコールであり、ポリオキセタン化合物が、下記の一般式(III);
【0019】
【化11】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、qは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物である前記(2)の光学的立体造形用樹脂組成物;
である。
【0020】
さらに、本発明は、
(4) カチオン重合性有機化合物(a):ラジカル重合性有機化合物(b)の含有割合が30:70〜90:10(質量比)であり、上記の一般式(I)で表される芳香族スルホニウム化合物をカチオン重合性有機化合物(a)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有し、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)をラジカル重合性有機化合物(b)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有する前記(1)〜(3)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物;および、
(5) 前記(1)〜(4)のいずれかの光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法;
である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物(以下「光造形用樹脂組成物」ということがある)は、活性エネルギー線による硬化感度が高く、短縮された造形時間で目的とする立体造形物を生産性よく製造することができる。
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、造形精度に優れており、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光造形を行うことによって、寸法精度、力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などの特性に優れる光学的立体造形物を円滑に製造することができる。
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物では、光カチオン重合開始剤として、毒性の低い、非アンチモン系の芳香族スルホニウム化合物(I)を用いているため、安全性、取り扱い性に優れ、作業環境や地球環境の汚染や悪化を生じない。
オキセタン化合物を含有する本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光造形を行うことによって、靭性に優れていて、衝撃、曲げなどの外部応力が加えられても破損しにくく、耐久性に優れる立体造形物を円滑に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の光造形用樹脂組成物は、活性エネルギー線の照射によって重合する活性エネルギー線重合性化合物として、カチオン重合性有機化合物(a)およびラジカル重合性有機化合物(b)を含有する。
なお、本明細書でいう「活性エネルギー線」とは、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などのような光学的造形用樹脂組成物を硬化させ得るエネルギー線をいう。
【0023】
本発明の光造形用樹脂組成物では、カチオン重合性有機化合物(a)として、前記した一般式(I)で表される芳香族スルホニウム化合物よりなる活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(c)[以下「カチオン重合開始剤(c)」または「カチオン重合開始剤」という]の存在下に活性エネルギー線を照射したときに、カチオン重合反応および/またはカチオン架橋反応を生ずる有機化合物であればいずれの化合物も使用できる。
本発明で用い得るカチオン重合性有機化合物(a)の代表例としては、エポキシ基を有する化合物、環状エーテル化合物、環状アセタール化合物、環状ラクトン化合物、スピロオルソエステル化合物、ビニルエーテル化合物などを挙げることができ、これらのカチオン重合性有機化合物は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明で用い得るカチオン重合性有機化合物(a)の具体例としては、
(1)脂環族エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物などのエポキシ化合物;
(2)エチレングリコールジビニルエーテル、アルキルビニルエーテル、3,4−ジヒドロピラン−2−メチル(3,4−ジヒドロピラン−2−カルボキシレート)、トリエチレングリコールジビニルエーテル等のビニルエーテル化合物;
(3)エポキシ化合物とラクトンとの反応により得られるスピロオルソエステル化合物;
などを挙げることができる。
【0025】
前記した脂環族エポキシ化合物としては、カチオン重合性有機化合物(a)として好ましく用いられる少なくとも1個の脂環族環を有する多価アルコールのポリグリシジルエーテル、或いはシクロヘキセンまたはシクロペンテン環含有化合物を過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化して得られるシクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物などを挙げることができる。より具体的には、脂環族エポキシ化合物として、例えば、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシル−3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−6−メチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシ−5−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルカルボキシレート、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジオクチル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ−2−エチルヘキシルなどを挙げることができる。
また、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)プロパン、1,1−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)エタンなども挙げることができる。
【0026】
前記した脂環族エポキシ化合物として好適に使用できる市販品としては、例えば、UVR−6100、UVR−6105、UVR−6110、UVR−6128、UVR−622(以上、ダウ社製)、セロキサイド2021、セロキサイド2021P、セロキサイド2081、セロキサイド2083、セロキサイド2085、セロキサイド2000、セロキサイド3000、サイクロマーA200、サイクロマーM100、エポリードGT−301、エポリードGT−302、エポリードGT−401、エポリードGT−403(以上、ダイセル化学工業株式会社製)、KRM−2110、KRM−2199(以上、旭電化株式会社製)などを挙げることができる。
【0027】
また、カチオン重合性有機化合物(a)として用い得る上記した脂肪族エポキシ化合物は特に限定されず、脂肪族エポキシ化合物としては、例えば、脂肪族多価アルコールまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖多塩基酸のポリグリシジルエステル、グリシジルアクリレートまたはグリシジルメタクリレートのビニル重合により合成したホモポリマー、グリシジルアクリレートおよび/またはグリシジルメタクリレートとその他のビニルモノマーとのビニル重合により合成したコポリマーなどを挙げることができる。代表的な具体的化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールのジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル、グリセリンのトリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンのトリグリシジルエーテル、ソルビトールのテトラグリシジルエーテル、ジペンタエリスリトールのヘキサグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールのジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールのジグリシジルエーテルなどの多価アルコールのグリシジルエーテル、また、プロピレン、トリメチロールプロパン、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル、脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステルなどが挙げられる。さらに、脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル、フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加することによって得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル、高級脂肪酸のグリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシ化ポリブタジエンなどを挙げることができる。
【0028】
また、前記芳香族エポキシ化合物としては特に制限されず、例えば、多価フェノールのまたはそのアルキレンオキサイド付加物のポリグリシジルエーテルなどを挙げることができ、具体的には、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、またはこれらに更にエチレンオキサイドやプロピレンオキサイドなどのアルキレンオキサイドを付加した化合物のグリシジルエーテル、ノボラック樹脂のグリシジルエーテルなどを挙げることができる。
【0029】
前記芳香族エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(市販品としてはそれぞれ、ジャパンエポキシレジン社製のエピコート828、旭電化社製のEP−4800など)、ビスフェノールFジグリシジルエ−テル(市販品としてはジャパンエポキシレジン社製のエピコート807、旭電化社製のEP−4900など)、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジグリシジルエ−テル(市販品としては、新日本理化社製のリカレジンBPO−20E、BPO−60E、旭電化社製のEP−4000など)、フェノールノボラック型エポキシ樹脂(市販品としては大日本インキ化学社製のN−730、N−770、東都化成社製のYDPN638など)が挙げられる。
また、前記脂肪族エポキシ化合物の市販品としては、例えば、ナガセゲムテック社製のEX−212、EX−313、EX−321、EX−411、EX−521、EX−614、EX−711,EX−811、EX−821、EX−851、EX−911、EX−941、EX−920、東都化成社製のYH−300、PG−202、PG−207などが挙げられる。
【0030】
本発明では、カチオン重合性有機化合物(a)として、上記したエポキシ化合物の1種または2種以上を用いることができ、特に、カチオン重合性有機化合物(a)の全質量に基づいて、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するポリエポキシ化合物を30質量%以上の割合で含むエポキシ化合物が好ましく用いられる。
【0031】
本発明の光造形用樹脂組成物では、ラジカル重合性有機化合物(b)として、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)[以下単に「ラジカル重合開始剤(d)」または「ラジカル重合開始剤」という]の存在下に、紫外線やその他の活性エネルギー線を照射したときにラジカル重合および/または架橋する有機化合物のいずれもが使用できる。ラジカル重合性有機化合物(b)の代表例としては、(メタ)アクリレート系化合物、不飽和ポリエステル化合物、ポリチオール化合物などを挙げることができ、これらのラジカル重合性有機化合物は単独で使用しても、または2種以上を併用してもよい。そのうちでも、本発明ではラジカル重合性有機化合物(b)として、1分子中に少なくとも1個以上の(メタ)アクリル基を有するアクリル系化合物が好ましく用いられ、具体例としては、エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応生成物、アルコール類の(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオールの(メタ)アクリル酸エステルなどを挙げることができる。
【0032】
上記したエポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応生成物としては、芳香族エポキシ化合物、脂環族エポキシ化合物および/または脂肪族エポキシ化合物と、(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリレート系反応生成物を挙げることができる。前記した(メタ)アクリレート系反応生成物のうちでも、芳香族エポキシ化合物と(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリレート系反応生成物が好ましく用いられ、具体例としては、ビスフェノールAやビスフェノールSなどのビスフェノール化合物またはそのアルキレンオキサイド付加物とエピクロルヒドリンなどのエポキシ化剤との反応によって得られるグリシジルエーテルを、(メタ)アクリル酸と反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート、エポキシノボラック樹脂と(メタ)アクリル酸を反応させて得られるエポキシ(メタ)アクリレート系反応生成物などを挙げることができる。
【0033】
また、上記したアルコール類の(メタ)アクリル酸エステルとしては、分子中に少なくとも1個の水酸基をもつ芳香族アルコール、脂肪族アルコール、脂環族アルコールおよび/またはそれらのアルキレンオキサイド付加体と、(メタ)アクリル酸との反応により得られる(メタ)アクリレートを挙げることができる。より具体的には、例えば、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、前記したジオール、トリオール、テトラオール、ヘキサオールなどの多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。そのうちでも、アルコール類の(メタ)アクリレートとしては、多価アルコールと(メタ)アクリル酸との反応により得られる1分子中に2個以上の(メタ)アクリル基を有する(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。また、前記した(メタ)アクリレート化合物のうちで、メタクリレート化合物よりも、アクリレート化合物が重合速度の点から好ましく用いられる。
【0034】
さらに、上記したポリエステル(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエステルと(メタ)アクリル酸との反応により得られるポリエステル(メタ)アクリレートを挙げることができる。また、上記したポリエーテル(メタ)アクリレートとしては、水酸基含有ポリエーテルとアクリル酸との反応により得られるポリエーテルアクリレートを挙げることができる。
【0035】
本発明の光造形用樹脂組成物は、カチオン重合性有機化合物(a)を重合および/または架橋させるためのカチオン重合開始剤(c)として、下記の一般式(I);
【0036】
【化12】


で表される芳香族スルホニウム化合物(I)を含有する。
芳香族スルホニウム化合物(I)は、式:[S+(R1a(R2b(R3c]で表されるカチオンと、式:[P-6-n(Rf)n]で表されるアニオンが、イオン結合した塩である。
芳香族スルホニウム化合物(I)において、R1およびR2は、それぞれ独立して下記の式(i)で表されるフェニル基、式(ii)で表される塩化フェニル基またはフルオロフェニル基、式(iii)で表される4−フェニルチオフェニル基或いは式(iv)で表される基[式(iv)中、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す]である。
【0037】
【化13】

【0038】
芳香族スルホニウム化合物(I)では、R1とR2は同じであっても、または異なっていてもよい。
また、芳香族スルホニウム化合物(I)において、R3は、下記の式(v)で表される4’−ジフェニルスルホニオ−4−フェニルチオフェニル基である。
【0039】
【化14】

【0040】
芳香族スルホニウム化合物(I)において、aおよびbはいずれも0〜3の整数、cは0または1であり、aとbとcの合計は3である。そのため、芳香族スルホニウム化合物(I)では、aとbの合計が3または2、cが0または1である。
【0041】
芳香族スルホニウム化合物(I)において、Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基である。Rfは、炭素数1〜8のアルキル基中の水素原子の一部がフッ素原子で置換されたフルオロアルキル基または炭素数1〜8のアルキル基中の水素原子のすべてがフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基のいずれであってもよい。そのうちでも、Rfは、炭素数1〜8のアルキル基中の水素原子のすべてがフッ素原子で置換されたパーフルオロアルキル基であることが、反応性の点から好ましく、好ましいRfの具体例としては、CF3−,C25−,CF3CF2CF2−,(CF32CF−,C49−,C511−,C613−,C715−,C817−などを挙げることができ、特にCF3−,C25−,CF3CF2CF2−,(CF32CF−,C49−が好ましい。
【0042】
芳香族スルホニウム化合物(I)において、nは1〜5の整数であり、アニオンの安定性の点から、nは1〜4の整数、特に2〜3の整数であることが好ましい。nが2以上の整数である場合は、2個以上のフルオロアルキル基Rfは同じであってもまたは異なっていてもよい。
【0043】
一般式(I)において、mは、1+cと同じ数である。
一般式(I)において、cが0であって、芳香族スルホニウム化合物(I)のカチオンがR3[上記の式(v)で表される基]を持たない場合は、mは1である。
また、一般式(I)においてcが1であって芳香族スルホニウム化合物(I)のカチオンがR3[上記の式(v)で表される基]を1個有する場合は、式:[S+(R1a(R2b(R3c]で表されるカチオンは2価のカチオンであり、当該2価のカチオンに、2個のアニオン:[P-6-n(Rf)n]がイオン結合している(m=2)。
【0044】
限定されるものではないが、芳香族スルホニウム化合物(I)における式:[S+(R1)a(R2b(R3c]で表されるカチオンの具体例としては、下記のカチオン(Ia1)〜(Ia7)を挙げることができる。
【0045】
【化15】

【0046】
また、芳香族スルホニウム化合物(I)における式:[P-6-n(Rf)n]で表されるアニオンの具体例としては、下記の(Ib1)〜(Ib11)で表されるアニオンを挙げることができる。
【0047】
【化16】

【0048】
そして、本発明で好ましく用いられる芳香族スルホニウム化合物(I)の具体例としては、下記の式(I−1)〜(I−11)で表される化合物のいずれか、下記の式(I−2)で表される化合物と式(I−9)で表される化合物の混合物などを挙げることができる。
【0049】
【化17】

【0050】
【化18】

【0051】
芳香族スルホニウム化合物(I)の製法は特に限定されず、例えば、下記の一般式(Va)で表されるスルホニウムクロリドと、下記の一般式(Vb)で表されるフルオロリン酸リチウムを、例えば、エーテルと水との混合溶媒中で混合した後、エーテル層を回収、回収したエーテル層を水洗することにより製造することができる。その際に、用いる原料である一般式(Va)で表されるスルホニウムクロリドは、例えば、特許文献5に記載されている方法で製造することができ、また一般式(Vb)で表されるフルオロリン酸リチウムは特許文献6に記載されている方法で製造することができる。
【0052】
【化19】


(上記の式中、R1、R2、R3、Rfは上記したのと同じ基であり、a、b、c、mおよびnは上記したと同じ数を示す。)
【0053】
本発明の光造形用樹脂組成物では、ラジカル重合性有機化合物(b)を重合および/または架橋させるための活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)[以下「ラジカル重合開始剤(d)」または「ラジカル重合開始剤」という]として、活性エネルギー線を照射したときにラジカル重合性有機化合物のラジカル重合を開始させ得る重合開始剤のいずれもが使用でき、例えば、ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物、ベンゾイル化合物、アセトフェノン系化合物、ベンゾインまたはそのアルキルエーテル系化合物、ベンゾフェノン系化合物、チオキサントン系化合物などを挙げることができる。
具体的には、ベンジルまたはそのジアルキルアセタール系化合物としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジル−β−メトキシエチルアセタールなどを挙げることができる。ベンゾイル化合物としては、例えば1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどを挙げることができる。
また、アセトフェノン系化合物としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシメチル−1−フェニルプロパン−1−オン、4’−イソプロピル−2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、p−tert−ブチルジクロロアセトフェノン、p−tert−ブチルトリクロロアセトフェノン、p−アジドベンザルアセトフェノンなどを挙げることができる。
【0054】
また、ベンゾイン系化合物としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどを挙げることができる。
また、ベンゾフェノン系化合物としては、例えば、ベンゾフェノン、o−ベンゾイル安息香酸メチル、ミヒラースケトン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノンなどを挙げることができる。
そして、チオキサントン系化合物としては、例えば、チオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントンなどを挙げることができる。
本発明では、1種または2種以上のラジカル重合開始剤(d)を所望の性能に応じて配合して使用することができる。
【0055】
本発明の光造形用樹脂組成物においては、造形速度の点から、カチオン重合性有機化合物(a):ラジカル重合性有機化合物(b)の含有割合が30:70〜90:10(質量比)であることが好ましく、40:60〜85:15(質量比)であることがより好ましい。また、本発明の光造形用樹脂組成物は、芳香族スルホニウム化合物(I)をカチオン重合性有機化合物(a)の質量に基づいて0.1〜10質量%、特に1〜5質量%の割合で含有し、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)をラジカル重合性有機化合物(b)の質量に基づいて0.1〜10質量%、特に1〜5質量%の割合で含有していることが好ましい。
【0056】
本発明の光造形用樹脂組成物は、反応速度を向上させる目的で、前記した芳香族スルホニウム化合物(I)、或いは芳香族スルホニウム化合物(I)およびラジカル重合開始剤と共に、必要に応じて光増感剤、例えばジブトキシアントラセンなどのジアルコキシアントラセン、チオキサントンなどを含有していてもよい。
【0057】
本発明の光造形用樹脂組成物は、上記した成分と共に、オキセタン化合物(e)を含有する。オキセタン化合物(e)としては、1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物および1分子中にオキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物のいずれもが使用できる。本発明の光造形用樹脂組成物は、オキセタン化合物(e)として、モノオキセタン化合物とポリオキセタン化合物のうちの一方のみを含有していてよいしまたは両方を含有していてもよい。
【0058】
モノオキセタン化合物としては、1分子中にオキセタン基を1個有する化合物であればいずれも使用でき、そのうちでも1分子中にオキセタン基を1個有し且つアルコール性水酸基を1個有するモノオキセタンモノアルコールが反応性、粘度の点から好ましく用いられる。特に、モノオキセタンモノアルコール化合物のうちでも、下記の一般式(II);
【0059】
【化20】


(式中、R4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、pは1〜6の整数を示す。)
で表されるモノオキセタンモノアルコールが入手性の点から好ましく用いられ、特に上記の一般式(II)においてpが1である下記の一般式(IIa);
【0060】
【化21】


(式中、R4は上記と同じ基を示す。)
が、入手の容易性、高反応性、粘度が低く取扱性に優れるなどの点からより好ましく用いられる。
【0061】
上記の一般式(II)および(IIa)において、R4の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。
本発明で好ましく用いられる上記の一般式(IIa)で表されるモノオキセタンモノアルコールの具体例としては、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−ノルマルブチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−プロピルオキセタンなどを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、入手の容易性、反応性などの点から、3−ヒドロキシメチル−3−メチルオキセタン、3−ヒドロキシメチル−3−エチルオキセタンがより好ましく用いられる。
【0062】
ポリオキセタン化合物としては、オキセタン基を2個以上有する化合物、例えばオキセタン基を2個、3個または4個以上有する化合物のうちのいずれもが使用でき、そのうちでもオキセタン基を2個有するジオキセタン化合物が好ましく用いられる。
特に、ジオキセタン化合物としては、下記の一般式(III);
【0063】
【化22】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、qは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物が、入手の容易性、反応性、低吸湿性、得られる硬化物の力学的特性などの点から好ましく用いられる。
【0064】
上記の一般式(III)において、R5の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチルを挙げることができる。また、R6の例としては、炭素数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキレン基(例えばエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、n−ペンタメチレン基、n−ヘキサメチレン基など)、式:−CH2−Ph−CH2−または−CH2−Ph−Ph−CH2−で表される2価の基、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基、トリシクロデカンジメタノール残基などを挙げることができる。
【0065】
上記の一般式(III)で表されるジオキセタン化合物の具体例としては、下記の式(IIIa)または式(IIIb)で表されるジオキセタン化合物を挙げることができる。
【0066】
【化23】


(式中、2個のR5は互いに同じか又は異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基を示す。)
【0067】
上記の式(IIIa)で表されるジオキセタン化合物の具体例としては、ビス(3−メチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−プロピル−3−オキセタニルメチル)エーテル、ビス(3−ブチル−3−オキセタニルメチル)エーテルなどを挙げることができる。
【0068】
また、上記の式(IIIb)で表されるジオキセタン化合物の具体例としては、上記の式(IIIb)において2個のR5が共にメチル、エチル、プロピル、ブチルまたはペンチル基で、R6がエチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ネオペンチレン基、n−ペンタメチレン基、n−ヘキサメチレン基など)、式:−CH2−Ph−CH2−または−CH2−Ph−Ph−CH2−で表される2価の基、水素添加ビスフェノールA残基、水素添加ビスフェノールF残基、水素添加ビスフェノールZ残基、シクロヘキサンジメタノール残基、トリシクロデカンジメタノール残基であるジオキセタン化合物を挙げることができる。
【0069】
そのうちでも、ポリオキセタン化合物としては、上記の式(IIIa)において、2個のR5が共にメチル基またはエチル基であるビス(3−メチル−3−オキセタニルメチル)エーテルおよび/またはビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルが、入手の容易性、低吸湿性、硬化物の力学的特性などの点から好ましく用いられ、特にビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテルがより好ましく用いられる。
【0070】
本発明の光造形用樹脂組成物は、光造形用樹脂組成物の合計質量(全質量)に基づいて、オキセタン化合物を1〜30質量%(2種以上のオキセタン化合物を含有する場合はその合計含有量)の割合で含有していることが必要であり、5〜25質量%の割合で含有していることが好ましい。
オキセタン化合物の含有量が1質量%未満であると、靭性に優れる光造形物が得られなくなり、更に硬化スピードも劣る。また、オキセタン化合物の含有量が30質量%を超えると、造形物の機械物性や熱変形温度が低下し易くなる。
【0071】
本発明の光造形用樹脂組成物は、オキセタン化合物の含有量が前記した1〜30質量%である限りは、1種類のオキセタン化合物のみを用いても、または2種類以上のオキセタン化合物を用いてもいずれでもよい。
本発明の光造形用樹脂組成物が、モノオキセタン化合物[特に上記の一般式(II)で表されるモノオキセタンモノアルコール]とポリオキセタン化合物[特に上記の一般式(III)で表されるジオキセンタン化合物]を95:5〜5:95の質量比で含有している場合には、オキセタン化合物(e)を含有していることによる光造形物の靭性の向上効果に加えて、光造形用樹脂組成物の水分および湿気の吸収率が極めて低くなって、光造形用樹脂組成物を湿度の高い状態で長期間保存した場合に、水分および湿気の吸収が少なくなって、当初の高い光硬化感度を長期にわたって維持できるという効果をも奏することができる。
【0072】
また、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、場合によりポリアルキレンエーテル系化合物を含有することができ、ポリアルキレンエーテル系化合物を含有していると、得られる立体造形物の耐衝撃性などの物性がより向上する。
ポリアルキレンエーテル系化合物としては、特に下記の一般式(VI);

A−O−(R7−O−)r−(R8−O−)s−A’ (VI)

[式中、R7およびR8は互いに異なる直鎖状または分岐状の炭素数2〜5のアルキレン基、AおよびA’はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、フェニル基、アセチル基またはベンゾイル基を示し、rおよびsはそれぞれ独立して0または1以上の整数(但しrとsの両方が同時に0にはならない)を示す。]
で表されるポリアルキレンエーテル系化合物が好ましく用いられる。
【0073】
上記の一般式(VI)で表されるポリアルキレンエーテル系化合物[以下「ポリアルキレンエーテル系化合物(VI)」ということがある]において、rおよびsの両方が1以上の整数で且つrとsの合計が3以上である場合には、オキシアルキレン単位(アルキレンエーテル単位):−R7−O−およびオキシアルキン単位(アルキレンエテール単位):−R8−O−はランダム状に結合していてもよいし、ブロック状に結合してもよいし、またはランダム結合とブロック状結合が混在していてもよい。
【0074】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(VI)において、R7およびR8の具体例としては、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基(テトラメチレン基)、イソブチレン基、tert−ブチレン基、直鎖状または分岐状のペンチレン基[例えば−CH2CH2CH2CH2CH2−,−CH2CH2CH(CH3)CH2−など]など]などを挙げることができる。そのうちでも、R7およびR8は、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基(テトラメチレン基)、n−ペンチレン基、式:−CH2CH2CH(CH3)CH2−で表される分岐状のペンチレン基のいずれかであることが好ましい。
【0075】
また、上記のポリアルキレンエーテル系化合物(VI)において、AおよびA’の具体例としては、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、アセチル基、ベンゾイル基などを挙げることができ、そのうちでもAおよびA’の少なくとも一方、特に両方が水素原子であることが好ましい。AおよびA’の少なくとも一方が水素原子であると、該ポリアルキレンエーテル系化合物を含有する光学的立体造形用樹脂組成物に活性エネルギー線を照射して硬化した際に、該ポリアルキレンエーテル系化合物の両端の水酸基がカチオン重合性有機化合物やラジカル重合開始剤などと反応して、ポリアルキレンエーテル系化合物が硬化した樹脂中で結合した状態になり、耐衝撃性などの特性がより向上する。
【0076】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(VI)において、オキシアルキレン単位の繰り返し数を示すr及びsは、ポリアルキレンエーテル系化合物の数平均分子量が500〜10,000、特に500〜5,000の範囲内になるような数であることが好ましい。
【0077】
上記のポリアルキレンエーテル系化合物(VI)の好適な例としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのランダム共重合体、式:−CH2CH2CH(R9)CH2O−(式中R9は低級アルキル基であり、好ましくはメチルまたはエチル基)で表されるアルキル置換基を有するオキシテトラメチレン単位(アルキル置換基を有するテトラメチレンエーテル単位)が結合したポリエーテル、前記オキシテトラメチレン単位と前記した式:−CH2CH2CH(R9)CH2O−(式中R9は低級アルキル基)で表されるアルキル置換基を有するオキシテトラメチレン単位がランダムに結合したポリエーテルなどを挙げることができる。島部は前記したポリアルキレンエーテル系化合物の1種または2種以上からなっていることができる。そのうちでも、数平均分子量が上記した500〜10,000の範囲にあるポリテトラメチレングリコールおよび/またはテトラメチレンエーテル単位と式:−CH2CH2CH(R9)CH2O−(式中R9は低級アルキル基)で表されるアルキル置換基を有するテトラメチレンエーテル単位がランダムに結合したポリエーテルが好ましく用いられ、その場合には、吸湿性が低くて寸法安定性や物性の安定性に優れる光造形物を得ることができる。
【0078】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物がポリアルキレンエーテル系化合物を含有する場合は、ポリアルキレンエーテル系化合物の含有量は、光学的立体造形用樹脂組成物の全質量に対して1〜30質量%であることが好ましく、2〜20質量%であることがより好ましい。また、前記含有量を超えない範囲で、同時に2種類以上のポリアルキレンエーテル系化合物を含有していてもよい。
【0079】
本発明の光学的造形用樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、顔料や染料等の着色剤、消泡剤、レベリング剤、増粘剤、難燃剤、酸化防止剤、充填剤(架橋ポリマー粒子、シリカ、ガラス粉、セラミックス粉、金属粉等)、改質用樹脂などの1種または2種以上を適量含有していてもよい。
【0080】
本発明の光学的造形用樹脂組成物を用いて光学的に立体造形を行うに当たっては、従来既知の光学的立体造形方法および装置のいずれもが使用できる。好ましく採用され得る光学的立体造形法の代表例としては、液状をなす本発明の光学的造形用樹脂組成物に所望のパターンを有する硬化層が得られるように活性エネルギー線を選択的に照射して硬化層を形成し、次いでこの硬化層に未硬化の液状光学的造形用樹脂組成物を供給し、同様に活性エネルギー光線を照射して前記の硬化層と連続した硬化層を新たに形成する積層操作を繰り返すことによって最終的に目的とする立体的造形物を得る方法を挙げることができる。
その際の活性エネルギー線としては、上述のように、紫外線、電子線、X線、放射線、高周波などを挙げることができる。そのうちでも、300〜400nmの波長を有する紫外線が経済的な観点から好ましく用いられ、その際の光源としては、紫外線レーザー(例えば半導体励起固体レーザー、Arレーザー、He−Cdレーザーなど)、高圧水銀ランプ、超高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、紫外線LED(発光ダイオード)、紫外線蛍光灯などを使用することができる。
【0081】
光学的立体造形用樹脂組成物よりなる造形面に活性エネルギー線を照射して所定の形状パターンを有する各硬化樹脂層を形成するに当たっては、レーザー光などのような点状に絞られた活性エネルギー線を使用して点描または線描方式で硬化樹脂層を形成してもよいし、または液晶シャッターまたはデジタルマイクロミラーシャッター(DMD)などのような微小光シャッターを複数配列して形成した面状描画マスクを通して造形面に活性エネルギー線を面状に照射して硬化樹脂層を形成させる造形方式を採用してもよい。
【0082】
本発明の光学的造形用樹脂組成物は、光学的立体造形分野に幅広く用いることができ、何ら限定されるものではないが、代表的な応用分野としては、設計の途中で外観デザインを検証するための形状確認モデル、部品の機能性をチェックするための機能試験モデル、鋳型を制作するためのマスターモデル、金型を制作するためのマスターモデル、試作金型用の直接型などを挙げることできる。特に、本発明の光学的造形用樹脂組成物は、精密な部品などの形状確認モデルや機能試験モデルの作製に威力を発揮する。より具体的には、例えば、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物などのモデル、母型、加工用などの用途に有効に用いることができる。
【実施例】
【0083】
以下に本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。以下の例中、「部」は質量部を意味する。
また、以下の例中、光造形用樹脂組成物の粘度、硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)の測定、並びに光造形して得られた光造形物の力学的特性[引張り特性(引張破断強度、引張破断伸度、引張弾性率)、降伏強度、曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率)]、収縮率、造形後の経時硬さ(表面硬度)および熱変形温度の測定または算出は、次のようにして行なった。
【0084】
(1)光造形用樹脂組成物の粘度:
光造形用樹脂組成物を25℃の恒温槽に入れて、光硬化性樹脂組成物の温度を25℃に調節した後、B型粘度計(株式会社東京計器製)を使用して測定した。
【0085】
(2)光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)及び作業硬化エネルギー(E10):
非特許文献1に記載されている理論にしたがって測定した。具体的には、光造形用樹脂組成物よりなる造形面(液面)に、半導体励起固体レーザのレーザ光(波長355nmの紫外光、液面レーザ強度100mW)を、照射スピードを6段階変化(照射エネルギー量を6段階変化)させて照射して光硬化膜を形成させた。生成した光硬化膜を光硬化性樹脂組成物液から取り出して、未硬化樹脂を取り除き、6段階のエネルギーに対応する部分の硬化膜の厚さを低圧のノギスで測定した。光硬化膜の厚さをY軸、照射エネルギー量をX軸(対数軸)としてプロットし、プロットして得られた直線の傾きから硬化深度[Dp(mm)]を求めると共に、X軸の切片を臨界硬化エネルギー[Ec(mJ/cm2)]とし、0.25mmの厚さに硬化させるのに必要な露光エネルギー量を作業硬化エネルギー[(E10/(mJ/cm2)]とした。
【0086】
(3)光造形物の引張り特性(引張破断強度、引張破断伸度、引張弾性率):
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片)を用いて、JIS K−7113にしたがって、試験片の引張破断強度(引張強度)、引張破断伸度(引張伸度)および引張弾性率を測定した。
【0087】
(4)光造形物の降伏強度:
上記(3)の引張り特性の試験において、光造形物が弾性から塑性に移る点における強度を降伏強度とした。
【0088】
(5)光造形物の曲げ特性(曲げ強度、曲げ弾性率):
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7171に準拠したバー形状の試験片)を用いて、JIS K−7171にしたがって、試験片の曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。
【0089】
(6)衝撃強度:
東洋精機株式会社製のデジタル・インパクト・テスター「型式DG−18」を使用して、JIS K−7110に準じて、ノッチ付きでアイゾット衝撃強度を測定した。
【0090】
(7)収縮率:
光硬化させる前の光造形用樹脂組成物(液体)の比重(d0)と、光硬化して得られた光硬化物の比重(d1)から、下記の数式により収縮率を求めた。

収縮率(%)={(d1−d0)/d1}×100
【0091】
(7)造形後の経時硬さ(表面硬度):
以下の実施例および比較例で作製した光造形物(JIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片)を用いて、高分子計器社製の「アスカーD型硬度計」を使用して、JIS K−6253に準拠して、デュロメーター法により試験片の表面硬度を経時的[造形後、1時間後、2時間後、1日後(24時間後)および4日後(96時間後)]に測定した。
【0092】
(8)光造形物の熱変形温度:
以下の実施例または比較例で作製した光造形物(JIS K−7171に準拠したバー形状の試験片)を用い、東洋精機社製「HDTテスタ6M−2」を使用して、試験片に1.813MPaの荷重を加えて、JIS K−7207(A法)に準拠して、試験片の熱変形温度を測定した。
【0093】
《製造例1》[芳香族スルホニウム化合物(I−1)の製造]
(1) 1リットルの三口フラスコにエーテル300mlと水150mlを入れ、下記の式(Ia−1)で表される4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムクロリド40.65gを溶解させた。滴下ロートから、150mlの水に溶解した下記の式(Ib−1)で表されるパーフルオロリン酸リチウム45.2gを撹拌しながら滴下した。滴下終了後、1時間撹拌した後、エーテル層と水層に層分離させ、エーテル層を回収した。
【0094】
【化24】

【0095】
(2) 回収したエーテル層を2回水洗した後、硫酸ナトリウムで乾燥し、次いでエーテルを除去して、目的とする下記の式(I−1)で表される芳香族スルホニウム化合物(I)を定量的収率で得た。
これにより得られた芳香族スルホニウム化合物(I)を、NMR装置(日本電子株式会社製「JNM−A400」)を使用して、19F−NMRを観測周波数357MHzでプロトン非デカップルで重クロロホルムを溶媒として測定した。ピーク位置の基準はトリフオロ酢酸の19Fピークを−76.5ppmとした。
その結果、40ppm(3F)、70ppm(12F)、172ppm(4F)にピークを観測し、下記の式(I−1)を有する芳香族スルホニウム化合物(I)[芳香族スルホニウム化合物(I−1)]であることを確認した。また、リン原子についても31P−NMRにて確認した。
【0096】
【化25】

【0097】
《製造例2》[芳香族スルホニウム化合物(I−2)の製造]
(1) 製造例1で使用したのと同じ上記の式(Ia−1)で表される4−フェニルチオフェニルジフェニルスルホニウムクロリドと下記の式(Ib−2)で表されるパーフルオロリン酸リチウムを用いて、製造例1と同様の操作を行って、下記の式(I−2)で表される芳香族スルホニウム化合物(I)[芳香族スルホニウム化合物(I−2)]を定量的収率で得た。
得られた芳香族スルホニウム化合物(I−2)を、製造例1と同様にして19F−NMR分析を行った結果、44ppm(1F)、80ppm(3F)、82ppm(6F)、88ppm(12F)、116ppm(6F)にピークを観測し、下記の式(I−2)を有する芳香族スルホニウム化合物(I)[芳香族スルホニウム化合物(I−2)]であることを確認した。また、リン原子についても31P−NMRにて確認した。
【0098】
【化26】

【0099】
【化27】

【0100】
《製造例3》[芳香族スルホニウム化合物(I−6)の製造]
(1) 下記の式(Ia−2)で表されるスルホニルクロライドと、製造例2で使用したのと同じ上記の式(Ib−2)で表されるパーフルオロリン酸リチウムを用いて、製造例1と同様の操作を行って、下記の式(I−6)で表される芳香族スルホニウム化合物(I)[芳香族スルホニウム化合物(I−6)]を定量的収率で得た。
【0101】
【化28】

【0102】
【化29】

【0103】
《実施例1》
(1) 3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート(米国 DOW社製「UVR−6105」)1,500部、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製「NKエステルA−BPE−4」;エチレンオキシド単位4モル付加)600部、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製「ATM−4E」)300部、ジシクロペンタジエンのジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DCP」)300部および3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン300部を混合して20〜25℃で約1時間撹拌して混合物を調製した(混合物の総質量3,000部)。
(2) 上記(1)で得られた混合物に、紫外線を遮断した環境下に、光ラジカル重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社製「イルガキュア−184」)を60部、および光カチオン重合開始剤として上記の製造例1で製造した芳香族スルホニウム化合物(I−1)[50部をプロピレンカーボネート(溶媒)50部に溶解したもの]90部を添加し、完全に溶解するまで室温(25℃)で約1時間混合撹拌して、光造形用樹脂組成物を製造した。この光学的立体造形用樹脂組成物の粘度を上記した方法で測定したところ368mPa・s(25℃)であった。
【0104】
(3) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、超高速光造形システム(ナブテスコ株式会社製「SOLIFORM500」)を使用して、半導体レーザー(定格出力400mW;波長355nm;スペクトラフィジックス社製)で、液面照射エネルギー100mJ/cm2の条件下に、スライスピッチ(積層厚み)0.10mm、1層当たりの平均造形時間2分で光学的立体造形を行って、物性測定用のJIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片とJIS K−7171に準拠したバー形状の試験片を作製し、その物性を上記した方法で測定した。その結果を下記の表1に示す。
また、これにより得られた試験片を目視により観察したところ、歪みの全くない、形状の良好な造形物であった。
【0105】
《比較例1》
光カチオン開始剤として、芳香族スルホニウム化合物(I−1)の代わりに、下記の式(IVa)と式(IVb)で表されるアンチモン含有スルホニウム塩の混合物からなるアンチモン系光カチオン開始剤(米国 DOW社製「UVI−6974」)を使用し、それ以外は、実施例1と全く同じにして光造形用樹脂組成物を製造し、それを用いて実施例1と同様にして光造形を行った。その結果を下記の表1に示す。なお、この比較例1で得られた試験片を目視により観察したところ、歪みのない、形状の良好な造形物であった。
【0106】
【化30】

【0107】
《実施例2》
(1) 実施例1で使用したのと同じ3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート1,450部、プロピレンオキシド変性ビスフェノールAジグリジルエーテル(新日本理化株式会社製「リカレジンBPO−20E」)300部、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(新中村化学工業株式会社製「NKエステルA−BPE−4」;エチレンオキシド単位4モル付加)400部、プロピレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(新中村化学工業株式会社製「ATM−4P」)300部、ジシクロペンタジエンのジアクリレート(新中村化学工業株式会社製「A−DPC」)250部およびビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル300部を混合して20〜25℃で約1時間各般して混合物を調製した(混合物の総質量3,000部)。
(2) 上記(1)で得られた混合物に、紫外線を遮断した環境下に、実施例1で使用したのと同じ光ラジカル重合開始剤(イルガキュア−184)を60部、および光カチオン重合開始剤として上記の製造例1で製造した芳香族スルホニウム化合物(I−1)[50部をプロピレンカーボネート(溶媒)50部に溶解したもの]90部を添加し、完全に溶解するまで室温(25℃)で約1時間混合撹拌して、光造形用樹脂組成物を製造した。この光学的立体造形用樹脂組成物の粘度を上記した方法で測定したところ320mPa・s(25℃)であった。
【0108】
(3) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(4)と同様にして光学的立体造形を行って、物性測定用のJIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片とJIS K−7171に準拠したバー形状の試験片を作製し、その物性を上記した方法で測定した。その結果を下記の表1に示す。
また、これにより得られた試験片を目視により観察したところ、歪みの全くない、形状の良好な造形物であった。
【0109】
《比較例2》
光カチオン開始剤として、芳香族スルホニウム化合物(I−1)の代わりに、それと同じ量の比較例1で使用したのと同じアンチモン系光カチオン開始剤(米国 DOW社製「UVI−6974」)を用いた以外は、実施例2と全く同じにして光造形用樹脂組成物を製造し、それを用いて実施例2と同様にして光造形を行った。その結果を下記の表1に示す。
なお、この比較例2で得られた試験片を目視により観察したところ、歪みのない、形状の良好な造形物であった。
【0110】
《実施例3》
(1) 実施例1で使用したのと同じ3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート1,500部、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(NKエステルA−BPE−4)600部、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ATM−4E)300部、ジシクロペンタジエンのジアクリレート(A−DCP)300部、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン150部、ビス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル150部およびポリテトラメチレングリコール(数平均分子量2,000)300部を混合して20〜25℃で約1時間撹拌して混合物を調製した(混合物の総質量3,300部)。
(2) 上記(1)で得られた混合物に、紫外線を遮断した環境下に、実施例1で使用したのと同じ光ラジカル重合開始剤(イルガキュア−184)を60部、および光カチオン重合開始剤として上記の製造例2で製造した芳香族スルホニウム化合物(I−2)[50部をプロピレンカーボネート(溶媒)50部に溶解したもの]90部を添加し、完全に溶解するまで室温(25℃)で約1時間混合撹拌して、光造形用樹脂組成物を製造した。この光学的立体造形用樹脂組成物の粘度を上記した方法で測定したところ380mPa・s(25℃)であった。
【0111】
(3) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)を上記した方法で測定したところ、下記の表1に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(4)と同様にして光学的立体造形を行って、物性測定用のJIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片とJIS K−7171に準拠したバー形状の試験片を作製し、その物性を上記した方法で測定した。その結果を下記の表1に示す。
また、これにより得られた試験片を目視により観察したところ、歪みの全くない、形状の良好な造形物であった。
【0112】
《比較例3》
光カチオン開始剤として、芳香族スルホニウム化合物(I−2)の代わりに、それと同じ量の下記の化学式(IVa)で表されるアンチモン系光カチオン開始剤(サンアプロ社製「CPI−101A」)を用いた以外は、実施例3と全く同じにして光造形用樹脂組成物を製造し、それを用いて実施例3と同様にして光造形を行った。その結果を下記の表1に示す。
【0113】
【化31】

【0114】
【表1】

【0115】
実施例1と比較例1の対比、実施例2と比較例2の対比、および実施例3と比較例3の対比から明らかなように、アンチモンを含有しない芳香族スルホニウム化合物(I)を光カチオン開始剤として用い、更にオキセタン化合物を含有する実施例1〜3の本発明の光造形用樹脂組成物は、アンチモンを含有する従来の光カチオン開始剤を用い、且つオキセタン化合物を含有する比較例1〜3の光造形用樹脂組成物と同等またはそれを凌駕する高い光硬化感度を有する。しかも、実施例1〜3の本発明の光造形用樹脂組成物を用いて得られる光造形物は、物性においても、アンチモンを含有する従来の光カチオン開始剤を用いた比較例1〜3の光造形用樹脂組成物から得られる光造形物と、同等であるかまたはそれを凌駕しており、特に曲げ強度および衝撃強度が比較例1〜3の光造形用樹脂組成物から得られた光造形物とほぼ同じであり、靭性に優れている。
【0116】
《実施例4》
(1) 実施例1で使用したのと同じ3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート1,500部、2,2−ビス[4−(アクリロキシジエトキシ)フェニル]プロパン(NKエステルA−BPE−4)600部、エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ATM−4E)300部、ジシクロペンタジエンのジアクリレート(A−DCP)300部、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン300部およびポリテトラメチレングリコール(数平均分子量2,000)300部を混合して20〜25℃で約1時間撹拌して混合物を調製した(混合物の総質量3,300部)。
(2) 上記(1)で得られた混合物に、紫外線を遮断した環境下に、実施例1で使用したのと同じ光ラジカル重合開始剤(イルガキュア−184)を60部、および光カチオン重合開始剤として上記の製造例3で製造した芳香族スルホニウム化合物(I−6)[50部をプロピレンカーボネート(溶媒)50部に溶解したもの]90部を添加し、完全に溶解するまで室温(25℃)で約1時間混合撹拌して、光造形用樹脂組成物を製造した。この光学的立体造形用樹脂組成物の粘度を上記した方法で測定したところ420mPa・s(25℃)であった。
【0117】
(3) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物の硬化深度(Dp)、臨界硬化エネルギー(Ec)および作業硬化エネルギー(E10)を上記した方法で測定したところ、下記の表2に示すとおりであった。
(4) 上記(2)で得られた光造形用樹脂組成物を用いて、実施例1の(4)と同様にして光学的立体造形を行って、物性測定用のJIS K−7113に準拠したダンベル形状の試験片とJIS K−7171に準拠したバー形状の試験片を作製し、その物性を上記した方法で測定した。その結果を下記の表2に示す。
また、これにより得られた試験片を目視により観察したところ、歪みの全くない、形状の良好な造形物であった。
【0118】
《比較例4》
光カチオン開始剤として、芳香族スルホニウム化合物(I−6)の代わりに、それと同じ量の、下記の式(IVc)で表されるアンチモン系光カチオン開始剤(旭電化株式会社製「SP172」)を用いた以外は、実施例4と全く同じにして光造形用樹脂組成物を製造し、それを用いて実施例4と同様にして光造形を行った。その結果を下記の表2に示す。
なお、この比較例4で得られた試験片を目視により観察したところ、歪みのない、形状の良好な造形物であった。
【0119】
【化32】

【0120】
【表2】

【0121】
実施例4と比較例4の対比から明らかなように、アンチモンを含有しない芳香族スルホニウム化合物(I)を光カチオン開始剤として用いた実施例4の本発明の光造形用樹脂組成物は、アンチモンを含有する従来の光カチオン開始剤を用いた比較例4の光造形用樹脂組成物と同等またはそれを凌駕する高い光硬化感度を有する。しかも、実施例4の本発明の光造形用樹脂組成物を用いて得られる光造形物は、物性においても、アンチモンを含有する従来の光カチオン開始剤を用いた比較例4の光造形用樹脂組成物から得られる光造形物と、同等であるかまたはそれを凌駕している。
【0122】
《比較例5》
実施例1で用いた光カチオン重合開始剤の代わりに、対イオンがPF6-である下記の化学式(VIIa)と(VIIb)で表される化合物の混合物(米国 DOW社製「UVI−6970」)を同じ量で用いた以外は、実施例1と全く同じにして光造形用樹脂組成物を製造し、それを用いて実施例1と同様にして光造形して試験片の作製を試みたが、対イオンがPF6-である下記のカチオン重合開始剤の場合は、十分な光硬化速度が得られず、光硬化に時間かけても、得られる硬化物は柔らかいままであり、実用性のある物性を示さないものであった。
【0123】
【化33】

【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明の光学的立体造形用樹脂組成物は、活性エネルギー線による硬化感度が高く、短縮された造形時間で目的とする立体造形物を生産性よく製造することができ、しかも造形精度に優れていて、靭性に優れていて耐久性があり、寸法精度、その他の力学的特性、耐水性、耐湿性、耐熱性などにも優れる光造形物を形成することができ、その上、毒性の低い、非アンチモン系の芳香族スルホニウム化合物(I)を光カチオン重合開始剤として含むため、安全性、取り扱い性に優れ、作業環境や地球環境の汚染や悪化を生じない。
そのため、本発明の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて、精密部品、電気・電子部品、家具、建築構造物、自動車用部品、各種容器類、鋳物、金型、母型などのためのモデルや加工用モデル、複雑な熱媒回路の設計用の部品、複雑な構造の熱媒挙動の解析企画用の部品、その他の複雑な形状や構造を有する各種の立体造形物を、高い造形速度および寸法精度で、安全に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i) カチオン重合性有機化合物(a)、ラジカル重合性有機化合物(b)、活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(c)、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)およびオキセタン化合物(e)を含有する光学的立体造形用樹脂組成物であって;
(ii) 活性エネルギー線感受性カチオン重合開始剤(c)が、下記の一般式(I);
【化1】


[上記の式(I)中、R1およびR2はそれぞれ独立して下記の式(i)〜(iv);
【化2】


{式(ii)および式(iv)中、Xは塩素原子またはフッ素原子を示す}
で表される基のいずれかであり、R3は下記の式(v);
【化3】


で表される基であり、Rfは炭素数1〜8のフルオロアルキル基であり、aは0〜3の整数、bは0〜3の整数およびcは0または1であって、aとbとcの合計が3であり、mは1+cと同じ数であり、nは1〜5の整数である。]
で表される芳香族スルホニウム化合物であり;
(iii) オキセタン化合物(e)の含有量が、光学的立体造形用樹脂組成物の合計質量に対して1〜30質量%である;
ことを特徴とする光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項2】
オキセタン化合物(e)が、1分子中にオキセタン基を1個有するモノオキセタン化合物および1分子中にオキセタン基を2個以上有するポリオキセタン化合物から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項3】
モノオキセタン化合物が、下記の一般式(II);
【化4】


(式中、R4はアルキル基、アリール基またはアラルキル基であり、pは1〜6の整数を示す。)
で表されるモノオキセタンモノアルコールであり、ポリオキセタン化合物が、下記の一般式(III);
【化5】


(式中、2個のR5は互いに同じかまたは異なる炭素数1〜5のアルキル基、R6は芳香環を有しているかまたは有していない2価の有機基、qは0または1を示す。)
で表されるジオキセタン化合物である請求項2に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項4】
カチオン重合性有機化合物(a):ラジカル重合性有機化合物(b)の含有割合が30:70〜90:10(質量比)であり、上記の一般式(I)で表される芳香族スルホニウム化合物をカチオン重合性有機化合物(a)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有し、活性エネルギー線感受性ラジカル重合開始剤(d)をラジカル重合性有機化合物(b)の質量に基づいて0.1〜10質量%の割合で含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学的立体造形用樹脂組成物を用いて光学的立体造形物を製造する方法。

【公開番号】特開2007−277327(P2007−277327A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−102755(P2006−102755)
【出願日】平成18年4月4日(2006.4.4)
【出願人】(391064429)シーメット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】