光学素子と光学装置
【課題】 可動部を小さく変位させることによって光ビームの進行方向を大きく変化させる光学素子を提供する。
【解決手段】 第1物体10と第2物体20とアクチュエータ42,58,90を備えている。第1物体10は、光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面14を持っている。第2物体20は、第1面14から射出された光ビームを入射する第2面21を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である。アクチュエータは、第1面14と第2面21が当接する第1位置関係(a)と、第1面14と第2面21が光ビームの半波長以上離反する第2位置関係(b)のいずれかに切換える。
光学素子2が置かれている雰囲気の屈折率がn0であるとすると、第1面14に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たす。
【解決手段】 第1物体10と第2物体20とアクチュエータ42,58,90を備えている。第1物体10は、光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面14を持っている。第2物体20は、第1面14から射出された光ビームを入射する第2面21を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である。アクチュエータは、第1面14と第2面21が当接する第1位置関係(a)と、第1面14と第2面21が光ビームの半波長以上離反する第2位置関係(b)のいずれかに切換える。
光学素子2が置かれている雰囲気の屈折率がn0であるとすると、第1面14に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たす。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子に関する。本発明は、その光学素子の複数個を利用して画像を提供する光学装置をも提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを入射して射出する光学素子であって、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子が開示されている。この光学素子は、光ビームを反射するミラーと(ビーム30と表現されている)と、ミラーを支える一対の梁(ヒンジ34,36と表現されている)と、ミラーの指向方向を切換えるアクチュエータ(電極42,46と表現されている)を備えている。この光学素子では、アクチュエータによってミラーの指向角度を切換えることによって、光ビームの進行方向を切換える。
【0003】
特許文献1は、上記の光学素子の複数個をマトリクス状に配列した光学装置をも開示している。この光学装置では、各光学素子(セルと表現されている)のアクチュエータを、他のセルのアクチュエータから独立に制御することができる。このために、セル毎に、そのセルから射出される光ビームを結像レンズに入射するか否かを制御することができる。この光学装置によると、結像レンズによって形成される像の画像を制御することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平6-258586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の光学素子と光学装置は多くの用途を持ち、例えば、投射型の画像表示装置、静電写真印刷装置、あるいは光学的情報処理装置等において広く用いられている。極めて有用なものであるが、耐久性に問題があることが分ってきている。
明るい像を得たいとする強い要求があり、そのためには口径の大きな結像レンズを使用する必要がある。口径が大きい場合、光ビームを結像レンズに入射するか否かを制御するためには、光ビームの進行方向を大きく変化させなければならない。光ビームの進行方向を大きく変化させるためにはミラーの指向角度を大きく変化させなければならず、ミラーを支える梁を大きく歪ませなければならない。特許文献1の光学素子では、ミラーを支える梁を大きく歪ませる必要があり、梁が疲労して変形しやすい。特許文献1の光学素子は耐久性に不満を残している。
【0006】
本発明では、光学素子の可動部を小さく変位させることによって光ビームの進行方向を大きく変化させることができる光学素子を提供する。本発明は、光学素子の可動部の歪を小さく抑え、疲労が蓄積しづらくする。
本発明はまた、個々の光学素子の耐久性が高い光学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、第1物体と、第2物体と、アクチュエータを備えている。
第1物体は、光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面を持っている。第2物体は、第1物体の第1面から射出された光ビームを入射する第2面を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である。アクチュエータは、第1物体の第1面と第2物体の第2面が当接する第1位置関係と、第1物体の第1面と第2物体の第2面が光ビームの半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換える。
光学素子が置かれている雰囲気、すなわち第1物体と第2物体を取り囲んでいる環境の屈折率がn0であるとすると、本発明の光学素子では、第1面に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たすように選択されている。
【0008】
上記式において(n0/n1)<sin θの条件を満たしていると、第1物体の第1面と第2物体の第2面の間に光ビームの半波長程度(あるいはそれ以上)の間隔を設けると、第1物体内を第1面に向かう光ビームは第1面で全反射される。第2物体の側に向けて進行することがない。
一方、sin θ<(n2/n1)の条件を満たしていると、第1物体の第1面と第2物体の第2面を当接させたときに、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されず、少なくとも一部が第2物体内に進行する。
アクチュエータが、第1面と第2面が当接する第1位置関係と、第1面と第2面が半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換えることから、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されて第2物体内に進行しない状態と、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されずに第2物体内に進行する状態が切換えられる。光学素子から射出される光ビームの進行方向を切換えることができる。
【0009】
この光学素子では、第1物体と第2物体が相対的に半波長程度の距離を変位することによって、光ビームの進行方向が切換えられる。ミラーの指向角度を変化させる方式で必要とされる変位量に比して、半波長程度の変位量は格段に小さい。本発明の光学素子では、可動部に発生する歪を小さく抑えることができ、疲労を蓄積しづらくすることができる。本発明の光学素子によると、高い耐久性が得られる。
【0010】
この光学素子は、種々の用途を持っている。例えば第1面で全反射した光ビームの光路上に受光装置を配置すれば、受光装置で受光するか否かを切換える光スイッチに利用することができる。第2物体内に進行する光ビームの光路上に受光素子を配置してもよい。
あるいはこの光学素子で、経過時間に応じて光ビームの進行方向を切換えると、特定方向に進行する光ビームを変調することもできる。変調器に利用することもできる。
【0011】
第1物体と第2物体は、その屈折率が雰囲気の屈折率よりも大きければよく、第1物体の屈折率と第2物体の屈折率が相違していてもよいし、同一であってよい。
例えば、第1物体を窒化シリコンとし、第2物体を酸化シリコンとすることができる。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを30°<θ<46°とすればよい。
第1物体と第2物体の双方を窒化シリコンとしてもよい。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを30°以上とすればよい。入射角は必ず90°以下であることから、入射角に関する上限値は実質的に存在しない。
第1物体を酸化シリコンとしてもよい。この場合、第2物体が窒化シリコンであってもよいし、第2物体もまた酸化シリコンであってよい。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを44°以上とすればよい。入射角は90°以下であることから、入射角に関する上限値は実質的に存在しない。
また第1物体と第2物体は、複数種類の材料から構成されていてもよい。例えば、第2物体の第2面側を酸化シリコンとし、その反対側に窒化シリコンを積層してもよい。酸化シリコンと窒化シリコンの積層界面で全反射しない入射角度で用いる場合には、第2物体の第2面側を窒化シリコンとし、その反対側に酸化シリコンを積層してもよい。
上記の光学素子のいずれによっても、第1物体と第2物体を当接させれば光ビームが第2物体内に進行し、第1物体と第2物体を離反させれば光ビームが第1面で全反射される結果を得ることができる。すなわち、その結果を実現する入射角の範囲が存在する。
【0012】
光ビームを生成する光源を第1物体内に作り込むこともできる。あるいは光源と第1物体を当接させることもできる。従って、第1物体が光ビームを入射する入射面を備えていることが不可欠ではない。しかしながら光源と第1物体を離反して配置する場合には、第1物体に光ビームを入射する入射面を形成しておく必要がある。
この場合、第1物体の第1面と入射面を非並行とすることによって、光ビームが入射面から第1物体内に進行し、第1物体内を進行した光ビームが第1面で全反射する入射角を得ることができる。
同様に、第2物体内を進行する光ビームを利用する受光素子を第2物体内に作り込むこともできる。あるいは第2物体と受光素子を当接させることもできる。従って、第2物体が光ビームを射出する射出面を備えていることが不可欠ではない。しかしながら第2物体と受光素子等を離反して配置する場合には、第2物体に光ビームを射出する射出面を形成しておく必要がある。
この場合、第2物体の第2面と射出面を非並行とすることによって、第1面と第2面が当接している状態の第2面から光ビームが第2物体内に進行し、第2物体内を進行した光ビームが射出面で全反射せずに第2物体外に射出される入射角を得ることができる。
【0013】
上記した光学素子の複数個を組み合わせて用いることによって、像に現れる画像を制御する光学装置を実現することもできる。すなわち、複数個の光学素子を一次元または二次元に配列し、個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能とすることによって、像に現れる画像を制御することができる。
光学素子を一次元に配列すれば一次元の画像を得ることができ、光学素子を二次元に配列すれば二次元の画像を得ることができる。
また、第1物体の第1面で全反射する光ビームを結像させることもできれば、第1物体の第1面から第2物体内に進行して第2物体の射出面から射出される光ビームを結像させることもできる。
なお、画像を構成するピクセルと単位となる光学素子が1対1に対応している必要は必ずしもない。2個の光学素子で1ピクセルを構成してもよいし、3個以上の光学素子で1ピクセルを構成してもよい。ピクセルを構成する光学素子が複数個であれば、その複数個の光学素子どうしの間では独立に制御する必要はない。隣接する光学素子から独立に制御可能であるという意味は、隣接するピクセルのための光学素子(あるいは光学素子群)から独立して制御できることを意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、可動部の微小な動き(可視光であれば250nm程度の動き)で光ビームの進行方向を大きく変化させることをできる。そのために、可動部が繰返して変形しても疲労が蓄積しづらく、光学素子の耐久性を高めることができる。
また本発明によると、複数個の光学素子を組み合わせて構成する光学装置の耐久性をも高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理しておく。
(特徴1)シリコン基板を利用して複数個の光学素子を同時に製造する。
(特徴2)シリコン基板を利用して複数個の光学素子が配置されている光学装置を製造する。
(特徴3)シリコン基板をTMAH(tetramethyl ammonium hydride)溶液で異方性エッチングして、第1物体の入射面を形成する。
(特徴4)シリコン基板を、J. Vac. Sci. Technol. B21(4), July/Aug 2003 pp 1240-1247 の技術で処理して、第2物体の射出面を形成する。
(特徴5)窒化シリコン(または酸化シリコン)と、シリコンと、窒化シリコン(または酸化シリコン)の積層構造を製造し、シリコン層をエッチングすることによって、第1物体を構成する窒化シリコン(または酸化シリコン)と、第2物体を構成する窒化シリコン(または酸化シリコン)の間に間隙を形成する。
(特徴6)第1物体を一対の梁によって支持し、第2物体を他の一対の梁によって支持する。第1物体を支持する梁と第2物体を支持する梁の間に電極対を設ける。電極対の間に電圧を印加すると第1物体と第2物体が当接する。電極対の間に電圧を印加しないと第1物体と第2物体の間に間隔が形成される。
【実施例】
【0016】
図1は、第1実施例の光学素子2を構成する第1物体10と第2物体20を例示している。第1物体10は、光ビームB1を入射する入射面11と、第1物体10内を進行した光ビームB2を射出する射出面14を備えており、その屈折率はn1である。第2物体20は、第1物体10内を進行した光ビームB2を入射する入射面21と、第2物体20内を進行した光ビームB4を射出する射出面24を備えており、その屈折率はn2である。第1物体10と第2物体20は、真空中または空気中で用いられる。従って雰囲気の屈折率n0は1である。n1>n0であり、n2>n0である。n1とn2の関係は拘束されず、n1>n2であってもよいし、n1<n2であってもよいし、n1=n2であってもよい。後記する入射角を選択することによって、意図した結果を得ることができる。
図1(b)に示すように、第1物体10の射出面14と第2物体10の入射面21は、密着する関係にある。また図1(a)に示すように、射出面14と入射面21は、離反する関係にある。後記するアクチュエータによって、図1(a)の位置関係と、図1(b)の位置関係のいずれかに切換えられる。図1(a)における射出面14と入射面21の間隔Gは、光ビームB1の波長の半分であり、極めて小さい。可視光に対する光学素子の場合、間隔Gは250nm程度で足りる。
第1物体10の入射面11と射出面14は非並行に調整されており、αの角度をなしている。同様に、第1物体20の入射面21と射出面24は非並行に調整されており、βの角度をなしている。
【0017】
この光学素子は、第1物体10の入射面11に光ビームB1を入射して用いる。図1では、その入射角(入射面11の法線12と光ビームB1の間の角度)をθ0としている。
入射角θ0が決まれば、スネルの法則によって、第1物体10内を進行する光ビームB2の屈折角θ1a(法線12と光ビームB2の間の角度)が決まる。光ビームB2の屈折角θ1aが決まれば、入射面11と射出面14のなす角度αを加味することによって、光ビームB2の射出面14に対する入射角θ1b(射出面14の法線13と光ビームB2の間の角度)が決まる。光ビームB2の射出面14に対する入射角θ1bが規定された場合は、上記を逆に計算することによって、その入射角θ1bを実現する入射角θ0を計算することができる。
【0018】
図1(a)の位置関係にある場合、スネルの法則等から、前記の入射角θ1bに関してsin θ1b>(n0/n1)の関係が成立していると、第1物体10内を進行する光ビームB2は、B3に示すように全反射することが知られている。
例えば、雰囲気の屈折率n0が1であり、第1物体10が窒化シリコンであれば、その屈折率n1がほぼ2であることから、sin θ1b>0.5であり、θ1b>30°であるときに、光ビームB2が全反射する。雰囲気の屈折率n0が1であり、第1物体10が酸化シリコンであれば、その屈折率n1がほぼ1.4であることから、sin θ1b>0.71であり、θ1b>44°であるときに、光ビームB2が全反射する。
前記したように、入射角θ1bが規定されたときに、その入射角θ1bを実現する入射角θ0を計算することができる。前記した範囲にある入射角θ1bを実現する入射角θ0を選択することによって、図1(a)の位置関係に調整した場合に、光ビームB2を射出面14で全反射する光学素子を実現することができる。
【0019】
図1(b)の位置関係にある場合、スネルの法則等から、前記の入射角θ1bに関してsin θ1b<(n2/n1)の関係が成立していると、第1物体10内を進行する光ビームB2が第2物体20内に進行することが知られている。
n2>n1またはn2=n1であれば、光ビームB2が第2物体20内に進行するために必要とされる入射角θ1bに関する条件は必ず満たされる。例えば第1物体が酸化シリコン(n1=1.4)であり、第2物体が窒化シリコン(n1=2.0)であれば、n2>n1であり、第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21を密着させれば、第1物体10内を進行した光ビームB2は、必ず第2物体20内に進行する。第1物体と第2物体の双方が窒化シリコンである場合、あるいは第1物体と第2物体の双方が酸化シリコンである場合も、n2=n1であり、第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21を密着させれば、第1物体10内を進行した光ビームB2は、必ず第2物体20内に進行する。すなわち、光ビームB2が第1物体10の射出面14で全反射されないようすることができる。
一方、n2<n1であっても、sin θ1b<(n2/n1)であれば、光ビームを第2物体20内に進行させることができる。例えば、第1物体が窒化シリコン(n1=2.0)であり、第2物体が酸化シリコン(n1=1.4)であっても、入射角θ1bが46°以下であれば、光ビームを第2物体20内に進行させることができる。すなわち、光ビームB2が第1物体10の射出面14で全反射されないようするすることができる。
【0020】
図25は、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない結果が得られる入射角θ1bの範囲を示している。第1物体と第2物体の屈折率を選択することによって、全反射する状態と全反射しない状態を切換えることができる光学素子を実現できることが確認される。なお入射角は必ず90°以下であり、上限が90°であると表示されている場合は、実質的には入射角に上限が存在しないことを意味している。
図25は、全反射する状態と全反射しない状態を切換えることができる光学素子の一例を示しているに過ぎず、これ以外の材料の組み合わせも当然に可能である。各種のガラスを利用することもできる。
一般的に、第1物体10の射出面14に対する光ビームB2の入射角θ1bに関して、(n0/n1)<sin θ1b<(n2/n1)の関係が満たす入射角θ0を選択すれば、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。あるいは、上記関係を満たす屈折率n1,n2を持つ材質を選択することによって、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。
【0021】
図26に例示するように、第1物体10内に光ビームB2を発生する発光素子90を作り込むことができる。従って、図26(a)の位置関係で全反射し、図26(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現するにあたって、第1物体10の入射面11に関する条件は必ずしも必要とされない。
同様に、第2物体20内に光ビームB4を受光する受光素子92を作り込むことができる。従って、図26(a)の位置関係で全反射し、図26(b)の位置関係で全反射しない光学素子を利用するにあたって、第2物体20の射出面24に関する条件は必ずしも必要とされない。
【0022】
図1に例示するように、光ビームB1の光源が第1物体10の外部にある場合、第1物体10が光ビームB1を入射する入射面11を備えている必要がある。この場合、第1物体10の入射面11と射出面14が並行であると、光ビームB1が入射面11では全反射せず、射出面14で全反射する結果を得ることができない。しかしながら、第1物体10の入射面11と射出面14を非並行とすると、光ビームB1が入射面11では全反射せず、射出面14で全反射する結果を得ることができる。第1物体10の入射面11と射出面14を非並行とすることによって、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。
同様に、第2物体10の入射面21と射出面24が並行であると、入射面21では光ビームB1が入射面21で全反射せず、射出面24でも全反射しない結果を得ることができない。しかしながら、第2物体10の入射面21と射出面24を非並行とすると、光ビームB2が入射面21で全反射せず、さらに光ビームB4が射出面24でも全反射しない結果を得ることができる。第2物体20の入射面21と射出面24を非並行とすることによって、図1(a)の位置関係で第2物体20に光ビームが進行せず、図1(b)の位置関係で第2物体20から光ビームが射出される光学素子を実現することができる。
【0023】
本発明の光学素子を単独で用いることもできるが、複数個の光学素子を1次元または2次元に配列することによって、像に現れる画像を制御する光学装置を構成することができる。個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能とすると、像に現れる画像を制御することができる。
【0024】
図2は、第1実施例の光学素子2の斜視図を示しており、(a)は第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21が、光ビームの半波長以上の距離だけ隔てられている状態を示し、(b)は第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21が密着している状態を示している。(a)では、入射ビームB1が全反射されてB3に示す光ビームとなり、(b)では、入射ビームB1が第2物体20内を進行してからB5に示す方向に射出されることを示す。
光ビームB5の光路上に受光素子等を配置すれば、(b)でオンして(a)でオフする利用の仕方ができる。光ビームB3の光路上に受光素子等を配置すれば、(a)でオンして(b)でオフする利用の仕方ができる。
複数個の光学素子が配置されている光学装置の場合、個々の光学素子から射出される光ビームB3を結像レンズに入射して像を形成してもよいし、個々の光学素子から射出される光ビームB5を結像レンズに入射して像を形成してもよい。
【0025】
光学素子2は、一対のサポート92a,92bを備えており、その間に第1層52と、第2層56が形成されている。第1層52の下面に第1ブロック50が形成されている。第2層56の上面に第2ブロック76が形成されている。第1ブロック50と第1層52と第2層56と第2ブロック76は、光ビームBに対して透明である。第1ブロック50と第1層52によって、第1物体10が構成されている。第2層56と第2ブロック76とによって、第2物体20が構成されている。
第1層52の下面の第1ブロック50の両サイドに、電極42a,42bが形成されている。第2層56の上面の第2ブロック76の両サイドに、電極58a,58bが形成されている。電極58aと電極42aは向かい合っている。電極58bと電極42bも向かい合っている。第2層56は非常に薄くて柔軟である。
電極58aと電極42a間、ならびに電極58bと電極42b間に電圧をかけないと、第2層56は平坦であり、(a)の位置関係をとる。電極58aと電極42a間、ならびに電極58bと電極42b間に電圧をかけて、電極間に静電引力を発生させると、薄くて柔軟な第2層56が第1層52に引き付けられ、(b)の位置関係をとる。第2層56のうち、電極58a,58bよりも外側の部分90a,90bが、変形する梁に相当する。
【0026】
第1ブロック50は、4つの傾斜側面50a,50b,50c,50dを備えており、4角錐形状である。いずれの傾斜側面に光ビームB1を入射してもよい。第2ブロック76も、4つの傾斜側面76a,76b,76c,76dを備えており、4角錐形状である。4つの傾斜側面76a,76b,76c,76dのうちの一つが射出面24となる。光ビームB1を4つの傾斜側面50a,50b,50c,50dのいずれに入射するかによって、傾斜側面76a,76b,76c,76dのうちのいずれかが射出面24となる。
【0027】
図3から図21は、光学素子2の製造プロセスを示している。
図3は、p型のシリコン基板40を用意した段階を示す。
図4は、n型不純物をシリコン基板40の表面の所定の領域に注入して拡散することによって、電極42a、42bとなるn型の拡散領域を形成した段階を示す。
図5は、開口44aを有する酸化シリコン膜44を形成した段階を示す。開口44aは、第1ブロック50を形成する位置の中央に設ける。
図6は、酸化シリコン44をエッチングせず、シリコン40をエッチングするエッチング材を用いて、シリコン基板40をエッチングした状態を示す。このエッチング工程では、Sensors and Actuator A, 34(1992) pp 51-57, Anisotropic etching of silicon in TMAH solution, Osamu Tabata, Ryouji Asahi, Hirofumi Funabashi, Keiichi Shimaoka, and Susumu Sugiyama に記載されている異方性エッチングを実施する。すると、シリコン基板40に、4つの傾斜面46a,46b等を有する4角錐形状のピット46が形成される。
図7は、酸化シリコン膜44を除去した段階を示している。
図8は、窒化シリコン膜48を形成した段階を示している。窒化シリコン膜48はピット46を充填する。
図9は、CMP(化学機械研磨)法で、窒化シリコン膜48を研磨した段階を示している。ピット46を充填した窒化シリコン膜48が残存し、4つの傾斜側面50a,50b等を持つ第1ブロック50が形成される。第1ブロック50は、窒化シリコンで形成されており、透明であり、傾斜側面50a,50b等を備えている。
図10は、窒化シリコン膜52を形成した段階を示している。窒化シリコン膜52は第1層52となる。
図11は、シリコン膜を形成してパターニングすることによって、後でエッチングして除去する犠牲層54を形成した段階を示す。犠牲層54は第1ブロック50を取り囲む範囲に形成する。犠牲層54は、後記する空洞80を形成する範囲に形成する。犠牲層54の厚みは、第2物体20に必要とされる変位量に等しくする。可視光用の光学素子2であれば、250nm程度の薄い犠牲層54を成膜すればよい。
図12は、窒化シリコン膜56を形成した段階を示している。窒化シリコン膜56は第2層56となる。
図13では、ポリシリコン58a,58bを形成し、ポリシリコン58a,58bにイオン注入して導電性を与える。導電性ポリシリコン58a,58bが、電極を形成する。電極58aは電極42aに向かい合う位置に形成され、電極58bは電極42bに向かい合う位置に形成される。電極58a,58bの一部は、犠牲層54の上部にまで達している。導電性ポリシリコン電極58a,58bの表面は酸化され、絶縁層60a,60bで覆われている。絶縁層60a,60bの表面を、ポリシリコン62a,62bで覆っておく。
図14は、電極42a、42bに対応する位置の窒化シリコン層56,52に貫通孔64a,64bを開け、そこにアルミ層を成膜してパターニングした段階を示す。この段階で、電極42aに導通するアルミ配線64aと、電極42bに導通するアルミ配線64bが形成される。また、図22に示すように、導電性のポリシリコン電極58a,58bは、導電性のポリシリコン配線58cによって接続されており、その配線58cに導通するアルミ配線66cもこの段階で形成される。アルミ配線66cを形成するのに先立って、図23に示すように、導電性のポリシリコン配線58cを被覆している絶縁膜60cに貫通孔を形成しておく。
図15は、酸化シリコン膜68を成膜してパターニングした段階を示す。
図16は、窒化シリコン膜70を成膜し、その表面にレジスト72をパターニングした段階を示す。レジスト72は、第2ブロック76を形成する位置に形成する。
図17は、J.Vac.Sci.Technol.B21(4), Jul/Aug 2003, pp 1240-1247, American Vacuum Society, Fabrication of controlled sidewall angles in thin films using isotropic etches, Shom Ponoth, Navnit Agarwal, Peter Persans, Joel Plawskyに記載の方法で窒化シリコン膜70と酸化シリコン膜68をエッチングしている段階を示す。具体的に説明すると、BHF溶液(buffered hydrofluoric acid溶液、NH4F:HF=10:1を用いる)を用いてエッチングする。図15に示した酸化シリコン膜68の製造工程でPECVD法(plasma enhanced chemical vapor deposition)を用い、SiH4 流量を400sccm(窒素中2%)とし、N2O流量を900sccmとし、RF powerを25Wとし、圧力を9Torrとし,温度を300℃とし、図16に示した窒化シリコン膜70の製造工程でPECVD法を用い、SiH4 流量を488sccm(窒素中2%)とし、He流量を2248sccmとし、RF powerを30Wとし、圧力を0.89Torrとし、温度を200℃としておくと、図17に示すエッチングによって、図1の角度βが20°となる傾斜斜面をエッチングすることができる。図18は、エッチングを終了した状態を示す。酸化シリコン68によって第2ブロック76が完成する。第2ブロック76は、傾斜角βが20°である4つの傾斜側面76a、76b等を備えている。
図18の工程後、窒化シリコン層56に図22に示す貫通孔78a,78bを形成する。
図19は、貫通孔78a,78bから犠牲層シリコン54をエッチングして空洞80を完成した段階を示す。このときに、ポリシリコン層62a,62bもエッチングされる。
図20は、シリコン基板40の裏面に、開口82aを有する窒化シリコン膜82を形成した段階を示す。
図21は、シリコン基板40の裏面の開口82aからシリコン基板40を異方性エッチングした段階を示す。この工程では、図7と同様の異方性エッチング技術を採用することができる。なお、この工程では、シリコン基板40の表面側をワックス等で保護するか、あるいは、シリコン基板40の表面側にエッチング液が接触しない治具を用いる。以上によって、図2に示す光学素子2が製造される。
【0028】
図22は、光学素子2の平面図を示しており、図23は、図2と図22のY−Y線断面図を示している。図3から図21は、X−X線断面を示している。
光学素子2のアルミ配線66cにプラス電圧を印加し、アルミ配線66a、66bにマイナスの電圧を印加すれば、電極42a、58aの間と、電極42b、58bの間に静電引力が作用し、図2(b)の位置関係となる。アルミ配線66cと、アルミ配線66a、66bの間に電圧をかけなければ、電極42a、58aの間と、電極42b、58bの間に静電引力が作用せず、図2(a)の位置関係となる。
図2では図示の明瞭化のために、梁90a,90bが大きく変形するように図示されているが、実際の変位量は極めて小さい。繰り返し使用しても、梁90a,90bに疲労が蓄積することがなく、高い耐久性が得られる。
【0029】
図24は、第1物体10と第2物体20の拡大図を示している。第1物体10は、窒化シリコンの第1ブロック50と窒化シリコンの第1層52で形成されている。全体が窒化シリコンで形成されている。それに対して、第2物体20は、窒化シリコンの第2層56と酸化シリコンの第2ブロック76で形成されている。第2物体10は、窒化シリコンと酸化シリコンで形成されている。窒化シリコンと酸化シリコンの界面に対する光ビームB4の入射角θが、sin θ<0.7(酸化シリコンの屈折率1.4/窒化シリコンの屈折率2.0)であれば、すなわち、入射角θが46°以下であれば、窒化シリコン内を進行する光ビームB4が窒化シリコンと酸化シリコンの界面で全反射されず、酸化シリコンを通過して酸化シリコンから射出される。第2物体20を複数種類の材料で形成してもよい。同様に、第1物体10を複数種類の材料で形成してもよい。
【0030】
光学素子2は、単独で用いることもできるが、複数個の光学素子2を1次元又は2次元に配列することによって、像に現れる画像を制御する光学装置を構成することができる。図27は、光学素子2を2次元に配置した光学装置4の一部を例示している。この実施例の場合、第2物体が半球形状をしている。第2物体が半球形状をしていれば、第2物体の中心から第2物体内に進行した光ビームは必ず第2物体から射出される。
図27の場合、画像を構成するピクセルと単位となる光学素子が1対1に対応している。このため、個々の光学素子のアクチュエータ(電極42と58と可動梁90)が、隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御できるように配線されている。
ただし、2個の光学素子で1ピクセルを構成してもよいし、3個以上の光学素子で1ピクセルを構成してもよい。ピクセルを構成する光学素子が複数個であれば、その複数個の光学素子の間では独立に制御する必要はない。この場合、複数個の光学素子の間では一斉に制御すればよい。単位となる複数個の光学素子群のためのアクチュエータ群が、隣接する単位となる複数個の光学素子群のためのアクチュエータ群から独立に制御できれば、ピクセル単位で制御することができる。
図27の場合、3列3行に配列されている9個の光学素子のうち、a1,b2,c2に示す3個の光学素子では第1物体と第2物体が密着して第2物体から光ビームB5が射出し、それ以外の光学素子では第1物体で光ビームを全反射している状態を例示している。a1,b2,c2から射出している光ビームを結像レンズに入射して投影すると、光ビームを射出している光学素子a1,b2,c2の配置位置に対応する映像が表示される。
図3以降で説明したように、本実施例の光学素子は、半導体製造技術で製造できる。ウエハを用いることによって、多数個の光学素子を一度に製造することができる。多数個の光学素子が2次元に配列されている光学装置を簡単に製造することができる。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図2】第1実施例の光学素子の斜視図を示す。
【図3】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図4】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図5】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図6】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図7】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図8】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図9】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図10】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図11】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図12】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図13】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図14】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図15】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図16】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図17】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図18】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図19】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図20】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図21】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図22】第1実施例の光学素子の平面図を示す。
【図23】第1実施例の光学素子の断面図を示す。
【図24】第1実施例の光学素子の拡大断面図を示す。
【図25】第1物体と第2物体の種類と、全反射する入射角の範囲と、全反射しない入射角の範囲を対比して示す。
【図26】第2実施例の光学素子の断面図を示す。
【図27】実施例の光学装置の一部斜視図を示す。
【符号の説明】
【0033】
2:光学素子
10:第1物体
11:入射面
14:射出面
20:第2物体
21:入射面
24:射出面
B1,B2,B3,B4、B5:光ビーム
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子に関する。本発明は、その光学素子の複数個を利用して画像を提供する光学装置をも提供する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、光ビームを入射して射出する光学素子であって、光ビームの進行方向を切換えることができる光学素子が開示されている。この光学素子は、光ビームを反射するミラーと(ビーム30と表現されている)と、ミラーを支える一対の梁(ヒンジ34,36と表現されている)と、ミラーの指向方向を切換えるアクチュエータ(電極42,46と表現されている)を備えている。この光学素子では、アクチュエータによってミラーの指向角度を切換えることによって、光ビームの進行方向を切換える。
【0003】
特許文献1は、上記の光学素子の複数個をマトリクス状に配列した光学装置をも開示している。この光学装置では、各光学素子(セルと表現されている)のアクチュエータを、他のセルのアクチュエータから独立に制御することができる。このために、セル毎に、そのセルから射出される光ビームを結像レンズに入射するか否かを制御することができる。この光学装置によると、結像レンズによって形成される像の画像を制御することができる。
【0004】
【特許文献1】特開平6-258586号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の光学素子と光学装置は多くの用途を持ち、例えば、投射型の画像表示装置、静電写真印刷装置、あるいは光学的情報処理装置等において広く用いられている。極めて有用なものであるが、耐久性に問題があることが分ってきている。
明るい像を得たいとする強い要求があり、そのためには口径の大きな結像レンズを使用する必要がある。口径が大きい場合、光ビームを結像レンズに入射するか否かを制御するためには、光ビームの進行方向を大きく変化させなければならない。光ビームの進行方向を大きく変化させるためにはミラーの指向角度を大きく変化させなければならず、ミラーを支える梁を大きく歪ませなければならない。特許文献1の光学素子では、ミラーを支える梁を大きく歪ませる必要があり、梁が疲労して変形しやすい。特許文献1の光学素子は耐久性に不満を残している。
【0006】
本発明では、光学素子の可動部を小さく変位させることによって光ビームの進行方向を大きく変化させることができる光学素子を提供する。本発明は、光学素子の可動部の歪を小さく抑え、疲労が蓄積しづらくする。
本発明はまた、個々の光学素子の耐久性が高い光学装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、第1物体と、第2物体と、アクチュエータを備えている。
第1物体は、光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面を持っている。第2物体は、第1物体の第1面から射出された光ビームを入射する第2面を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である。アクチュエータは、第1物体の第1面と第2物体の第2面が当接する第1位置関係と、第1物体の第1面と第2物体の第2面が光ビームの半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換える。
光学素子が置かれている雰囲気、すなわち第1物体と第2物体を取り囲んでいる環境の屈折率がn0であるとすると、本発明の光学素子では、第1面に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たすように選択されている。
【0008】
上記式において(n0/n1)<sin θの条件を満たしていると、第1物体の第1面と第2物体の第2面の間に光ビームの半波長程度(あるいはそれ以上)の間隔を設けると、第1物体内を第1面に向かう光ビームは第1面で全反射される。第2物体の側に向けて進行することがない。
一方、sin θ<(n2/n1)の条件を満たしていると、第1物体の第1面と第2物体の第2面を当接させたときに、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されず、少なくとも一部が第2物体内に進行する。
アクチュエータが、第1面と第2面が当接する第1位置関係と、第1面と第2面が半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換えることから、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されて第2物体内に進行しない状態と、第1物体内を第1面に向かう光ビームが第1面で全反射されずに第2物体内に進行する状態が切換えられる。光学素子から射出される光ビームの進行方向を切換えることができる。
【0009】
この光学素子では、第1物体と第2物体が相対的に半波長程度の距離を変位することによって、光ビームの進行方向が切換えられる。ミラーの指向角度を変化させる方式で必要とされる変位量に比して、半波長程度の変位量は格段に小さい。本発明の光学素子では、可動部に発生する歪を小さく抑えることができ、疲労を蓄積しづらくすることができる。本発明の光学素子によると、高い耐久性が得られる。
【0010】
この光学素子は、種々の用途を持っている。例えば第1面で全反射した光ビームの光路上に受光装置を配置すれば、受光装置で受光するか否かを切換える光スイッチに利用することができる。第2物体内に進行する光ビームの光路上に受光素子を配置してもよい。
あるいはこの光学素子で、経過時間に応じて光ビームの進行方向を切換えると、特定方向に進行する光ビームを変調することもできる。変調器に利用することもできる。
【0011】
第1物体と第2物体は、その屈折率が雰囲気の屈折率よりも大きければよく、第1物体の屈折率と第2物体の屈折率が相違していてもよいし、同一であってよい。
例えば、第1物体を窒化シリコンとし、第2物体を酸化シリコンとすることができる。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを30°<θ<46°とすればよい。
第1物体と第2物体の双方を窒化シリコンとしてもよい。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを30°以上とすればよい。入射角は必ず90°以下であることから、入射角に関する上限値は実質的に存在しない。
第1物体を酸化シリコンとしてもよい。この場合、第2物体が窒化シリコンであってもよいし、第2物体もまた酸化シリコンであってよい。この光学素子を真空中または空気中で用いる場合には、第1面に対する入射角θを44°以上とすればよい。入射角は90°以下であることから、入射角に関する上限値は実質的に存在しない。
また第1物体と第2物体は、複数種類の材料から構成されていてもよい。例えば、第2物体の第2面側を酸化シリコンとし、その反対側に窒化シリコンを積層してもよい。酸化シリコンと窒化シリコンの積層界面で全反射しない入射角度で用いる場合には、第2物体の第2面側を窒化シリコンとし、その反対側に酸化シリコンを積層してもよい。
上記の光学素子のいずれによっても、第1物体と第2物体を当接させれば光ビームが第2物体内に進行し、第1物体と第2物体を離反させれば光ビームが第1面で全反射される結果を得ることができる。すなわち、その結果を実現する入射角の範囲が存在する。
【0012】
光ビームを生成する光源を第1物体内に作り込むこともできる。あるいは光源と第1物体を当接させることもできる。従って、第1物体が光ビームを入射する入射面を備えていることが不可欠ではない。しかしながら光源と第1物体を離反して配置する場合には、第1物体に光ビームを入射する入射面を形成しておく必要がある。
この場合、第1物体の第1面と入射面を非並行とすることによって、光ビームが入射面から第1物体内に進行し、第1物体内を進行した光ビームが第1面で全反射する入射角を得ることができる。
同様に、第2物体内を進行する光ビームを利用する受光素子を第2物体内に作り込むこともできる。あるいは第2物体と受光素子を当接させることもできる。従って、第2物体が光ビームを射出する射出面を備えていることが不可欠ではない。しかしながら第2物体と受光素子等を離反して配置する場合には、第2物体に光ビームを射出する射出面を形成しておく必要がある。
この場合、第2物体の第2面と射出面を非並行とすることによって、第1面と第2面が当接している状態の第2面から光ビームが第2物体内に進行し、第2物体内を進行した光ビームが射出面で全反射せずに第2物体外に射出される入射角を得ることができる。
【0013】
上記した光学素子の複数個を組み合わせて用いることによって、像に現れる画像を制御する光学装置を実現することもできる。すなわち、複数個の光学素子を一次元または二次元に配列し、個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能とすることによって、像に現れる画像を制御することができる。
光学素子を一次元に配列すれば一次元の画像を得ることができ、光学素子を二次元に配列すれば二次元の画像を得ることができる。
また、第1物体の第1面で全反射する光ビームを結像させることもできれば、第1物体の第1面から第2物体内に進行して第2物体の射出面から射出される光ビームを結像させることもできる。
なお、画像を構成するピクセルと単位となる光学素子が1対1に対応している必要は必ずしもない。2個の光学素子で1ピクセルを構成してもよいし、3個以上の光学素子で1ピクセルを構成してもよい。ピクセルを構成する光学素子が複数個であれば、その複数個の光学素子どうしの間では独立に制御する必要はない。隣接する光学素子から独立に制御可能であるという意味は、隣接するピクセルのための光学素子(あるいは光学素子群)から独立して制御できることを意味する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、可動部の微小な動き(可視光であれば250nm程度の動き)で光ビームの進行方向を大きく変化させることをできる。そのために、可動部が繰返して変形しても疲労が蓄積しづらく、光学素子の耐久性を高めることができる。
また本発明によると、複数個の光学素子を組み合わせて構成する光学装置の耐久性をも高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に説明する実施例の主要な特徴を整理しておく。
(特徴1)シリコン基板を利用して複数個の光学素子を同時に製造する。
(特徴2)シリコン基板を利用して複数個の光学素子が配置されている光学装置を製造する。
(特徴3)シリコン基板をTMAH(tetramethyl ammonium hydride)溶液で異方性エッチングして、第1物体の入射面を形成する。
(特徴4)シリコン基板を、J. Vac. Sci. Technol. B21(4), July/Aug 2003 pp 1240-1247 の技術で処理して、第2物体の射出面を形成する。
(特徴5)窒化シリコン(または酸化シリコン)と、シリコンと、窒化シリコン(または酸化シリコン)の積層構造を製造し、シリコン層をエッチングすることによって、第1物体を構成する窒化シリコン(または酸化シリコン)と、第2物体を構成する窒化シリコン(または酸化シリコン)の間に間隙を形成する。
(特徴6)第1物体を一対の梁によって支持し、第2物体を他の一対の梁によって支持する。第1物体を支持する梁と第2物体を支持する梁の間に電極対を設ける。電極対の間に電圧を印加すると第1物体と第2物体が当接する。電極対の間に電圧を印加しないと第1物体と第2物体の間に間隔が形成される。
【実施例】
【0016】
図1は、第1実施例の光学素子2を構成する第1物体10と第2物体20を例示している。第1物体10は、光ビームB1を入射する入射面11と、第1物体10内を進行した光ビームB2を射出する射出面14を備えており、その屈折率はn1である。第2物体20は、第1物体10内を進行した光ビームB2を入射する入射面21と、第2物体20内を進行した光ビームB4を射出する射出面24を備えており、その屈折率はn2である。第1物体10と第2物体20は、真空中または空気中で用いられる。従って雰囲気の屈折率n0は1である。n1>n0であり、n2>n0である。n1とn2の関係は拘束されず、n1>n2であってもよいし、n1<n2であってもよいし、n1=n2であってもよい。後記する入射角を選択することによって、意図した結果を得ることができる。
図1(b)に示すように、第1物体10の射出面14と第2物体10の入射面21は、密着する関係にある。また図1(a)に示すように、射出面14と入射面21は、離反する関係にある。後記するアクチュエータによって、図1(a)の位置関係と、図1(b)の位置関係のいずれかに切換えられる。図1(a)における射出面14と入射面21の間隔Gは、光ビームB1の波長の半分であり、極めて小さい。可視光に対する光学素子の場合、間隔Gは250nm程度で足りる。
第1物体10の入射面11と射出面14は非並行に調整されており、αの角度をなしている。同様に、第1物体20の入射面21と射出面24は非並行に調整されており、βの角度をなしている。
【0017】
この光学素子は、第1物体10の入射面11に光ビームB1を入射して用いる。図1では、その入射角(入射面11の法線12と光ビームB1の間の角度)をθ0としている。
入射角θ0が決まれば、スネルの法則によって、第1物体10内を進行する光ビームB2の屈折角θ1a(法線12と光ビームB2の間の角度)が決まる。光ビームB2の屈折角θ1aが決まれば、入射面11と射出面14のなす角度αを加味することによって、光ビームB2の射出面14に対する入射角θ1b(射出面14の法線13と光ビームB2の間の角度)が決まる。光ビームB2の射出面14に対する入射角θ1bが規定された場合は、上記を逆に計算することによって、その入射角θ1bを実現する入射角θ0を計算することができる。
【0018】
図1(a)の位置関係にある場合、スネルの法則等から、前記の入射角θ1bに関してsin θ1b>(n0/n1)の関係が成立していると、第1物体10内を進行する光ビームB2は、B3に示すように全反射することが知られている。
例えば、雰囲気の屈折率n0が1であり、第1物体10が窒化シリコンであれば、その屈折率n1がほぼ2であることから、sin θ1b>0.5であり、θ1b>30°であるときに、光ビームB2が全反射する。雰囲気の屈折率n0が1であり、第1物体10が酸化シリコンであれば、その屈折率n1がほぼ1.4であることから、sin θ1b>0.71であり、θ1b>44°であるときに、光ビームB2が全反射する。
前記したように、入射角θ1bが規定されたときに、その入射角θ1bを実現する入射角θ0を計算することができる。前記した範囲にある入射角θ1bを実現する入射角θ0を選択することによって、図1(a)の位置関係に調整した場合に、光ビームB2を射出面14で全反射する光学素子を実現することができる。
【0019】
図1(b)の位置関係にある場合、スネルの法則等から、前記の入射角θ1bに関してsin θ1b<(n2/n1)の関係が成立していると、第1物体10内を進行する光ビームB2が第2物体20内に進行することが知られている。
n2>n1またはn2=n1であれば、光ビームB2が第2物体20内に進行するために必要とされる入射角θ1bに関する条件は必ず満たされる。例えば第1物体が酸化シリコン(n1=1.4)であり、第2物体が窒化シリコン(n1=2.0)であれば、n2>n1であり、第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21を密着させれば、第1物体10内を進行した光ビームB2は、必ず第2物体20内に進行する。第1物体と第2物体の双方が窒化シリコンである場合、あるいは第1物体と第2物体の双方が酸化シリコンである場合も、n2=n1であり、第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21を密着させれば、第1物体10内を進行した光ビームB2は、必ず第2物体20内に進行する。すなわち、光ビームB2が第1物体10の射出面14で全反射されないようすることができる。
一方、n2<n1であっても、sin θ1b<(n2/n1)であれば、光ビームを第2物体20内に進行させることができる。例えば、第1物体が窒化シリコン(n1=2.0)であり、第2物体が酸化シリコン(n1=1.4)であっても、入射角θ1bが46°以下であれば、光ビームを第2物体20内に進行させることができる。すなわち、光ビームB2が第1物体10の射出面14で全反射されないようするすることができる。
【0020】
図25は、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない結果が得られる入射角θ1bの範囲を示している。第1物体と第2物体の屈折率を選択することによって、全反射する状態と全反射しない状態を切換えることができる光学素子を実現できることが確認される。なお入射角は必ず90°以下であり、上限が90°であると表示されている場合は、実質的には入射角に上限が存在しないことを意味している。
図25は、全反射する状態と全反射しない状態を切換えることができる光学素子の一例を示しているに過ぎず、これ以外の材料の組み合わせも当然に可能である。各種のガラスを利用することもできる。
一般的に、第1物体10の射出面14に対する光ビームB2の入射角θ1bに関して、(n0/n1)<sin θ1b<(n2/n1)の関係が満たす入射角θ0を選択すれば、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。あるいは、上記関係を満たす屈折率n1,n2を持つ材質を選択することによって、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。
【0021】
図26に例示するように、第1物体10内に光ビームB2を発生する発光素子90を作り込むことができる。従って、図26(a)の位置関係で全反射し、図26(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現するにあたって、第1物体10の入射面11に関する条件は必ずしも必要とされない。
同様に、第2物体20内に光ビームB4を受光する受光素子92を作り込むことができる。従って、図26(a)の位置関係で全反射し、図26(b)の位置関係で全反射しない光学素子を利用するにあたって、第2物体20の射出面24に関する条件は必ずしも必要とされない。
【0022】
図1に例示するように、光ビームB1の光源が第1物体10の外部にある場合、第1物体10が光ビームB1を入射する入射面11を備えている必要がある。この場合、第1物体10の入射面11と射出面14が並行であると、光ビームB1が入射面11では全反射せず、射出面14で全反射する結果を得ることができない。しかしながら、第1物体10の入射面11と射出面14を非並行とすると、光ビームB1が入射面11では全反射せず、射出面14で全反射する結果を得ることができる。第1物体10の入射面11と射出面14を非並行とすることによって、図1(a)の位置関係で全反射し、図1(b)の位置関係で全反射しない光学素子を実現することができる。
同様に、第2物体10の入射面21と射出面24が並行であると、入射面21では光ビームB1が入射面21で全反射せず、射出面24でも全反射しない結果を得ることができない。しかしながら、第2物体10の入射面21と射出面24を非並行とすると、光ビームB2が入射面21で全反射せず、さらに光ビームB4が射出面24でも全反射しない結果を得ることができる。第2物体20の入射面21と射出面24を非並行とすることによって、図1(a)の位置関係で第2物体20に光ビームが進行せず、図1(b)の位置関係で第2物体20から光ビームが射出される光学素子を実現することができる。
【0023】
本発明の光学素子を単独で用いることもできるが、複数個の光学素子を1次元または2次元に配列することによって、像に現れる画像を制御する光学装置を構成することができる。個々の光学素子のアクチュエータを隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能とすると、像に現れる画像を制御することができる。
【0024】
図2は、第1実施例の光学素子2の斜視図を示しており、(a)は第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21が、光ビームの半波長以上の距離だけ隔てられている状態を示し、(b)は第1物体10の射出面14と第2物体20の入射面21が密着している状態を示している。(a)では、入射ビームB1が全反射されてB3に示す光ビームとなり、(b)では、入射ビームB1が第2物体20内を進行してからB5に示す方向に射出されることを示す。
光ビームB5の光路上に受光素子等を配置すれば、(b)でオンして(a)でオフする利用の仕方ができる。光ビームB3の光路上に受光素子等を配置すれば、(a)でオンして(b)でオフする利用の仕方ができる。
複数個の光学素子が配置されている光学装置の場合、個々の光学素子から射出される光ビームB3を結像レンズに入射して像を形成してもよいし、個々の光学素子から射出される光ビームB5を結像レンズに入射して像を形成してもよい。
【0025】
光学素子2は、一対のサポート92a,92bを備えており、その間に第1層52と、第2層56が形成されている。第1層52の下面に第1ブロック50が形成されている。第2層56の上面に第2ブロック76が形成されている。第1ブロック50と第1層52と第2層56と第2ブロック76は、光ビームBに対して透明である。第1ブロック50と第1層52によって、第1物体10が構成されている。第2層56と第2ブロック76とによって、第2物体20が構成されている。
第1層52の下面の第1ブロック50の両サイドに、電極42a,42bが形成されている。第2層56の上面の第2ブロック76の両サイドに、電極58a,58bが形成されている。電極58aと電極42aは向かい合っている。電極58bと電極42bも向かい合っている。第2層56は非常に薄くて柔軟である。
電極58aと電極42a間、ならびに電極58bと電極42b間に電圧をかけないと、第2層56は平坦であり、(a)の位置関係をとる。電極58aと電極42a間、ならびに電極58bと電極42b間に電圧をかけて、電極間に静電引力を発生させると、薄くて柔軟な第2層56が第1層52に引き付けられ、(b)の位置関係をとる。第2層56のうち、電極58a,58bよりも外側の部分90a,90bが、変形する梁に相当する。
【0026】
第1ブロック50は、4つの傾斜側面50a,50b,50c,50dを備えており、4角錐形状である。いずれの傾斜側面に光ビームB1を入射してもよい。第2ブロック76も、4つの傾斜側面76a,76b,76c,76dを備えており、4角錐形状である。4つの傾斜側面76a,76b,76c,76dのうちの一つが射出面24となる。光ビームB1を4つの傾斜側面50a,50b,50c,50dのいずれに入射するかによって、傾斜側面76a,76b,76c,76dのうちのいずれかが射出面24となる。
【0027】
図3から図21は、光学素子2の製造プロセスを示している。
図3は、p型のシリコン基板40を用意した段階を示す。
図4は、n型不純物をシリコン基板40の表面の所定の領域に注入して拡散することによって、電極42a、42bとなるn型の拡散領域を形成した段階を示す。
図5は、開口44aを有する酸化シリコン膜44を形成した段階を示す。開口44aは、第1ブロック50を形成する位置の中央に設ける。
図6は、酸化シリコン44をエッチングせず、シリコン40をエッチングするエッチング材を用いて、シリコン基板40をエッチングした状態を示す。このエッチング工程では、Sensors and Actuator A, 34(1992) pp 51-57, Anisotropic etching of silicon in TMAH solution, Osamu Tabata, Ryouji Asahi, Hirofumi Funabashi, Keiichi Shimaoka, and Susumu Sugiyama に記載されている異方性エッチングを実施する。すると、シリコン基板40に、4つの傾斜面46a,46b等を有する4角錐形状のピット46が形成される。
図7は、酸化シリコン膜44を除去した段階を示している。
図8は、窒化シリコン膜48を形成した段階を示している。窒化シリコン膜48はピット46を充填する。
図9は、CMP(化学機械研磨)法で、窒化シリコン膜48を研磨した段階を示している。ピット46を充填した窒化シリコン膜48が残存し、4つの傾斜側面50a,50b等を持つ第1ブロック50が形成される。第1ブロック50は、窒化シリコンで形成されており、透明であり、傾斜側面50a,50b等を備えている。
図10は、窒化シリコン膜52を形成した段階を示している。窒化シリコン膜52は第1層52となる。
図11は、シリコン膜を形成してパターニングすることによって、後でエッチングして除去する犠牲層54を形成した段階を示す。犠牲層54は第1ブロック50を取り囲む範囲に形成する。犠牲層54は、後記する空洞80を形成する範囲に形成する。犠牲層54の厚みは、第2物体20に必要とされる変位量に等しくする。可視光用の光学素子2であれば、250nm程度の薄い犠牲層54を成膜すればよい。
図12は、窒化シリコン膜56を形成した段階を示している。窒化シリコン膜56は第2層56となる。
図13では、ポリシリコン58a,58bを形成し、ポリシリコン58a,58bにイオン注入して導電性を与える。導電性ポリシリコン58a,58bが、電極を形成する。電極58aは電極42aに向かい合う位置に形成され、電極58bは電極42bに向かい合う位置に形成される。電極58a,58bの一部は、犠牲層54の上部にまで達している。導電性ポリシリコン電極58a,58bの表面は酸化され、絶縁層60a,60bで覆われている。絶縁層60a,60bの表面を、ポリシリコン62a,62bで覆っておく。
図14は、電極42a、42bに対応する位置の窒化シリコン層56,52に貫通孔64a,64bを開け、そこにアルミ層を成膜してパターニングした段階を示す。この段階で、電極42aに導通するアルミ配線64aと、電極42bに導通するアルミ配線64bが形成される。また、図22に示すように、導電性のポリシリコン電極58a,58bは、導電性のポリシリコン配線58cによって接続されており、その配線58cに導通するアルミ配線66cもこの段階で形成される。アルミ配線66cを形成するのに先立って、図23に示すように、導電性のポリシリコン配線58cを被覆している絶縁膜60cに貫通孔を形成しておく。
図15は、酸化シリコン膜68を成膜してパターニングした段階を示す。
図16は、窒化シリコン膜70を成膜し、その表面にレジスト72をパターニングした段階を示す。レジスト72は、第2ブロック76を形成する位置に形成する。
図17は、J.Vac.Sci.Technol.B21(4), Jul/Aug 2003, pp 1240-1247, American Vacuum Society, Fabrication of controlled sidewall angles in thin films using isotropic etches, Shom Ponoth, Navnit Agarwal, Peter Persans, Joel Plawskyに記載の方法で窒化シリコン膜70と酸化シリコン膜68をエッチングしている段階を示す。具体的に説明すると、BHF溶液(buffered hydrofluoric acid溶液、NH4F:HF=10:1を用いる)を用いてエッチングする。図15に示した酸化シリコン膜68の製造工程でPECVD法(plasma enhanced chemical vapor deposition)を用い、SiH4 流量を400sccm(窒素中2%)とし、N2O流量を900sccmとし、RF powerを25Wとし、圧力を9Torrとし,温度を300℃とし、図16に示した窒化シリコン膜70の製造工程でPECVD法を用い、SiH4 流量を488sccm(窒素中2%)とし、He流量を2248sccmとし、RF powerを30Wとし、圧力を0.89Torrとし、温度を200℃としておくと、図17に示すエッチングによって、図1の角度βが20°となる傾斜斜面をエッチングすることができる。図18は、エッチングを終了した状態を示す。酸化シリコン68によって第2ブロック76が完成する。第2ブロック76は、傾斜角βが20°である4つの傾斜側面76a、76b等を備えている。
図18の工程後、窒化シリコン層56に図22に示す貫通孔78a,78bを形成する。
図19は、貫通孔78a,78bから犠牲層シリコン54をエッチングして空洞80を完成した段階を示す。このときに、ポリシリコン層62a,62bもエッチングされる。
図20は、シリコン基板40の裏面に、開口82aを有する窒化シリコン膜82を形成した段階を示す。
図21は、シリコン基板40の裏面の開口82aからシリコン基板40を異方性エッチングした段階を示す。この工程では、図7と同様の異方性エッチング技術を採用することができる。なお、この工程では、シリコン基板40の表面側をワックス等で保護するか、あるいは、シリコン基板40の表面側にエッチング液が接触しない治具を用いる。以上によって、図2に示す光学素子2が製造される。
【0028】
図22は、光学素子2の平面図を示しており、図23は、図2と図22のY−Y線断面図を示している。図3から図21は、X−X線断面を示している。
光学素子2のアルミ配線66cにプラス電圧を印加し、アルミ配線66a、66bにマイナスの電圧を印加すれば、電極42a、58aの間と、電極42b、58bの間に静電引力が作用し、図2(b)の位置関係となる。アルミ配線66cと、アルミ配線66a、66bの間に電圧をかけなければ、電極42a、58aの間と、電極42b、58bの間に静電引力が作用せず、図2(a)の位置関係となる。
図2では図示の明瞭化のために、梁90a,90bが大きく変形するように図示されているが、実際の変位量は極めて小さい。繰り返し使用しても、梁90a,90bに疲労が蓄積することがなく、高い耐久性が得られる。
【0029】
図24は、第1物体10と第2物体20の拡大図を示している。第1物体10は、窒化シリコンの第1ブロック50と窒化シリコンの第1層52で形成されている。全体が窒化シリコンで形成されている。それに対して、第2物体20は、窒化シリコンの第2層56と酸化シリコンの第2ブロック76で形成されている。第2物体10は、窒化シリコンと酸化シリコンで形成されている。窒化シリコンと酸化シリコンの界面に対する光ビームB4の入射角θが、sin θ<0.7(酸化シリコンの屈折率1.4/窒化シリコンの屈折率2.0)であれば、すなわち、入射角θが46°以下であれば、窒化シリコン内を進行する光ビームB4が窒化シリコンと酸化シリコンの界面で全反射されず、酸化シリコンを通過して酸化シリコンから射出される。第2物体20を複数種類の材料で形成してもよい。同様に、第1物体10を複数種類の材料で形成してもよい。
【0030】
光学素子2は、単独で用いることもできるが、複数個の光学素子2を1次元又は2次元に配列することによって、像に現れる画像を制御する光学装置を構成することができる。図27は、光学素子2を2次元に配置した光学装置4の一部を例示している。この実施例の場合、第2物体が半球形状をしている。第2物体が半球形状をしていれば、第2物体の中心から第2物体内に進行した光ビームは必ず第2物体から射出される。
図27の場合、画像を構成するピクセルと単位となる光学素子が1対1に対応している。このため、個々の光学素子のアクチュエータ(電極42と58と可動梁90)が、隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御できるように配線されている。
ただし、2個の光学素子で1ピクセルを構成してもよいし、3個以上の光学素子で1ピクセルを構成してもよい。ピクセルを構成する光学素子が複数個であれば、その複数個の光学素子の間では独立に制御する必要はない。この場合、複数個の光学素子の間では一斉に制御すればよい。単位となる複数個の光学素子群のためのアクチュエータ群が、隣接する単位となる複数個の光学素子群のためのアクチュエータ群から独立に制御できれば、ピクセル単位で制御することができる。
図27の場合、3列3行に配列されている9個の光学素子のうち、a1,b2,c2に示す3個の光学素子では第1物体と第2物体が密着して第2物体から光ビームB5が射出し、それ以外の光学素子では第1物体で光ビームを全反射している状態を例示している。a1,b2,c2から射出している光ビームを結像レンズに入射して投影すると、光ビームを射出している光学素子a1,b2,c2の配置位置に対応する映像が表示される。
図3以降で説明したように、本実施例の光学素子は、半導体製造技術で製造できる。ウエハを用いることによって、多数個の光学素子を一度に製造することができる。多数個の光学素子が2次元に配列されている光学装置を簡単に製造することができる。
【0031】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施例の光学素子の動作原理を模式的に示す。
【図2】第1実施例の光学素子の斜視図を示す。
【図3】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図4】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図5】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図6】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図7】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図8】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図9】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図10】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図11】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図12】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図13】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図14】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図15】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図16】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図17】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図18】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図19】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図20】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図21】第1実施例の光学素子の製造プロセスを段階的に示す。
【図22】第1実施例の光学素子の平面図を示す。
【図23】第1実施例の光学素子の断面図を示す。
【図24】第1実施例の光学素子の拡大断面図を示す。
【図25】第1物体と第2物体の種類と、全反射する入射角の範囲と、全反射しない入射角の範囲を対比して示す。
【図26】第2実施例の光学素子の断面図を示す。
【図27】実施例の光学装置の一部斜視図を示す。
【符号の説明】
【0033】
2:光学素子
10:第1物体
11:入射面
14:射出面
20:第2物体
21:入射面
24:射出面
B1,B2,B3,B4、B5:光ビーム
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、
光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面を持っている第1物体と、
前記第1面から射出された光ビームを入射する第2面を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である第2物体と、
前記第1面と前記第2面が当接する第1位置関係と、前記第1面と前記第2面が前記光ビームの半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換えるアクチュエータを備えており、
前記光学素子が置かれている雰囲気の屈折率がn0であるときに、
第1面に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たしていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1物体が窒化シリコンであり、前記第2物体が酸化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが30°<θ<46°であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項3】
前記第1物体と第2物体の双方が窒化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが30°以上であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項4】
前記第1物体が酸化シリコンであり、前記第2物体が酸化シリコンまたは窒化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが44°以上であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項5】
前記第1物体が光ビームを入射する入射面を備えており、
前記第2物体が光ビームを射出する射出面を備えており、
前記第1面と前記入射面が非並行であり、
前記第2面と前記射出面が非並行であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学素子の複数個が配列されており、
個々の光学素子のアクチュエータが隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能なことを特徴とする光学装置。
【請求項1】
光ビームの進行方向を切換える光学素子であり、
光ビームに対して透明であり、屈折率がn1であり、光ビームを射出する第1面を持っている第1物体と、
前記第1面から射出された光ビームを入射する第2面を持っており、光ビームに対して透明であり、屈折率がn2である第2物体と、
前記第1面と前記第2面が当接する第1位置関係と、前記第1面と前記第2面が前記光ビームの半波長以上離反する第2位置関係のいずれかに切換えるアクチュエータを備えており、
前記光学素子が置かれている雰囲気の屈折率がn0であるときに、
第1面に対する光ビームの入射角θが、(n0/n1)<sin θ<(n2/n1)の関係を満たしていることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記第1物体が窒化シリコンであり、前記第2物体が酸化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが30°<θ<46°であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項3】
前記第1物体と第2物体の双方が窒化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが30°以上であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項4】
前記第1物体が酸化シリコンであり、前記第2物体が酸化シリコンまたは窒化シリコンであり、前記雰囲気が真空または空気であり、前記入射角θが44°以上であることを特徴とする請求項1の光学素子。
【請求項5】
前記第1物体が光ビームを入射する入射面を備えており、
前記第2物体が光ビームを射出する射出面を備えており、
前記第1面と前記入射面が非並行であり、
前記第2面と前記射出面が非並行であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の光学素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の光学素子の複数個が配列されており、
個々の光学素子のアクチュエータが隣接する光学素子のアクチュエータから独立に制御可能なことを特徴とする光学装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【公開番号】特開2009−244404(P2009−244404A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−88637(P2008−88637)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】
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