説明

光学素子の成形用金型

【課題】成形品の成形条件均一化を達成する光学素子の成形用金型を提供する。
【解決手段】光学素子材料に対し成形を行うには、金型組15をINポートロードロック室12に投入し、真空引きした後、窒素置換を行い、成型室8内に投入される。図示しない前記搬送ユニットにより、成型室に投入された金型組は、加熱ゾーン、プレスゾーン、冷却ゾーンヘと順次搬送され、成形が行われる。冷却された金型組は、OUTポートロードロック室13へと搬送され、成型室から取り出される。この金型組の上金型と下金型の外周面には、予め、耐酸化性皮膜が均一になるよう施されている。この耐酸化性皮膜の種類として、耐熱性が十分であれば、皮膜の色は特に問題にはならないが、酸化皮膜のように暗色好ましくは黒色とすることで、赤外線吸収率は向上するため、より少ない電力で目標温度まで加熱することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学素子素材を加熱軟化させてプレス成型する光学素子成形用金型に係り、特にその精度向上に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一対の上金型と下金型の間に光学素子素材が置かれた金型組に対して、加熱、加圧成形、冷却のプロセスがそれぞれ別々の場所にておこなわれる成形装置が開示されており、金型を効率良く加熱し、且つ高速、均一に加熱することのでき、このガラス成形装置では、上金型と下金型の間にガラス素材が置かれた金型組を、加熱、加圧して成形するガラス成形装置において、上記ガラス素材が置かれた金型組を囲む近傍に移動され、非接触で加熱する加熱手段を具備するものである。
【0003】
またこのガラス成形装置は、省電力で且つ高精度な加熱を実現することが可能となり、従来では成形が困難であった大型レンズや形状の複雑なレンズ等を安定的且つ高精度に成形することが可能となり、金型の破損も従来に比較して少なくすることが可能となるものである。
【0004】
この特許文献1示されるように、複数の金型組の加熱に輻射熱を利用した非接触加熱装置を使用する場合、各金型組の外周面の状態により、輻射熱の吸収率が異なる。そのため、複数の金型組を使用する場合、それぞれで吸収率が異なるため、厳密には成形条件が一定とはならない。各金型組の材質や使用の履歴、状況によって、表面の酸化度合いも変化し、均一な黒色とはならない場合もある。
【0005】
特に、新しい金型組の場合、光沢があるため、吸収率よりも反射率が高く、金型組の温度が上がりにくいが、使用するにつれて、表面が酸化し、不均一に変色し、反射率より吸収率が高くなる。そのため、金型の温度が上がりやすくなりしたがって、成形条件が変化する。このことは、金型組を交換する度に、成形条件を調整する必要があり、調整に手間がかかることを意味する。
【0006】
特に、引用文献1のような、加熱、加圧成形、冷却の各プロセスステージヘと金型組を順次搬送し成形を行う成形装置においては、金型組が各プロセスステージに滞留する時間は同一であるため、加熱時間は同じであり、同一条件で複数の金型を同時にかつ連続的に使用するため、金型組毎の輻射熱吸収率の違いにより、加熱温度が安定せず、結果として成形品の厚さ精度や面精度が安定しないということが問題となる。
【0007】
また、通常、生産性を向上させるため、金型組は連続的に投入されるため、複数の金型組が成形室内に投入されることになる。
新しい金型組を使用する場合、前述したように、外周面もある程度研磨加工を行うため、鏡面に近い状態となるが、使用するにつれて、酸化により変色してくる。
赤外線ランプヒータを使用した輻射加熱を行う場合、金型組外周面の状態によって赤外線の吸収率が変わり、金型の温まり方が大きく変わる。そのため、これまで使用していた金型組と、新しい金型組とでは、成形条件が大きく変わってしまう。また、酸化による変色は均一なものではなく、金型組毎でムラがあるため、金型組毎での加熱ムラが発生してしまう。
【0008】
また、本発明のテストによると、引用文献1に開示されたものでは、成形室内に複数の金型組を連続的に投入する装置構成上から、各金型組とも同一の成形条件にしなければならず、新旧の金型組を同時に使用すると新旧の金型組では、加熱条件でおよそ10℃の差があり、例えば外形6mm、厚さ2.35mmのレンズを成形する場合で、且つ黒色の金型組のみで連続成形したときには、成形品の厚さ精度は目標値±2〜4μmの範囲に入るが、そこに新しい金型組を入れると、成形品の厚さは目標値±10〜20μmの範囲か、それ以上の悪い結果となってしまう。
【0009】
これを回避するため、新しい金型組の外周面が、ほかの金型組と同色になるまで、光学素子材料を入れずにカラの成形を行う必要があった。その場合、金型組の成形面に施してある離型膜を傷めることなく、外周面のみ酸化させる必要があるため、安定して連続成形が出来るまでには、非常に時間がかかるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−131489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者は、上述した特許文献1に開示された成形装置における種々の問題点を解決せんとして鋭意研究、検討した結果、同一の光学素子を成形するための複数の金型組の外周面の輻射熱吸収率が同一で且つ使用により変化しないようにすることで前記問題点が基本的に解決できることに着眼した。
【0012】
したがって、本発明の目的は、同一の光学素子を成形するための複数の金型組外周面の輻射熱吸収率が同一で且つ使用により変化しないようにするため、予め各金型組外周面に均一に皮膜を形成して成形品に対する成形条件の均一化を達成する光学素子の成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記目的を達成するための本発明による光学素子の成形用金型は、
上金型と下金型の間に光学素子材料が置かれた金型組を加熱、加圧成形、冷却
の各プロセスステージヘと搬送し光学素子を成形する、輻射熱による非接触加熱装置を
具備する成形装置において使用されるものであって、
輻射熱エネルギー吸収率が均一で且つ使用による前記吸収率の低下が実質的に無視できる皮膜が前記上金型と下金型の外周面に形成されていることを特徴とする。
その場合、前記金型外周面には輻射熱エネルギー吸収率の高い黒色の処理を均一に
施すことが好ましい。
またその場合、前記金型組の外周面に施す均一な処理として、酸化皮膜若しくは耐酸
化性皮膜を形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、光学素子の成形用金型である各金型組の外周面に輻射熱エネルギー吸収率が均一で且つ使用による前記吸収率の低下が実質的に無視できる皮膜が形成されているので、成形される光学素子の成形条件は各金型組で変化することがなく高精度の成形品を連続的に生産することが可能となり、さらに、連続的に成形を行う際の成形品精度の安定性が向上し、不良品数の削減、良品率の向上等の効果が期待できる。
また、前記皮膜を酸化皮膜若しくは耐酸化性皮膜からなる黒色の輻射熱エネルギー吸収率の高い皮膜とすることにより前記輻射熱による非接触加熱装置の発生するエネルギーを効率的に利用することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による成形用金型を用いて光学素子を成形する成形装置の構成図である。
【図2】外周面に耐酸化性皮膜を形成した一対の金型組の断面図である。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の好適な実施例について図1、2により説明する。図1は、本発明による成形用金型を用いる光学素子成型装置を示す。この光学素子成型装置は、成型室8、1Nポートロードロック室(置換室)12、OUTポートロードロック室(置換室)13、真空ポンプ30、および窒素ガス供給ユニット40とから構成されている。なお、本実施例では、窒素ガスを不活性ガスとして用いている。
【0017】
成型室8の内部には、加熱ゾーンを形成するプレート1と赤外線ランプヒータ22を備えた加熱ユニット4、プレスゾーンを形成するプレート2、5、冷却ゾーンを形成するプレート3、6、取り入れゾーンを形成する1Nポートテーブル9、及び取り出しゾーンを形成するOUTポートテーブルl0がそれぞれ設けられている。各プレート1、2、3およびOUTポートテーブルl0上には、一対の金型組15が配置されており、各金型組15は図の左方から順次各処理ステージを経て右方へ搬送される。なお、参照符号2a、5aはプレート2、5にそれぞれ埋設されたシースヒータである。また、参照符号7a、7bは昇降用エアシリンダ、同11a、11bは前記テーブル9、10の昇降用シリンダである。参照符号20はプレス用としてプレート5の上下方向位置を制御するサーボモータを含むサーボユニットである。
【0018】
前記各ステージから隣接ステージへの金型組15の移送は図示しないが、例えば引用文献1の図2に示すような金型搬送ユニットを用いることができる。
図2は、金型組15の1例を示す。同金型組15は、通常、上金型16と下金型18と、位置決め用の部品で構成されており、図2の例ではピン17により位置決めを行う。参照符号19は成型前の光学素子材料である。この金型組15の上金型16と下金型18の外周面には、予め、耐酸化性皮膜が均一になるよう施されている。この耐酸化性皮膜の種類として、耐熱性が十分(成形温度以上)であれば、皮膜の概観(色)は特に問題にはならないが、酸化皮膜のように暗色好ましくは黒色とすることで、赤外線の吸収率は大きく向上するため、より少ない電力で目標温度まで短時間に加熱することが可能となる。
【0019】
光学素子材料19に対し成形を行うには、金型組15をINポートロードロック室12に投入し、真空引きした後、窒素置換を行い、成型室8内に投入される。図示しない前記搬送ユニットにより、成型室8に投入された金型組15は、加熱ゾーン、プレスゾーン、冷却ゾーンヘと順次搬送され、成形が行われる。冷却された金型組15は、OUTボートロードロック室13へと搬送され、成型室8から取り出される。通常、生産性を向上させるため、金型組15は連続的に投入されるため、図1に示すように、複数の金型組15が成形室8内に投入され、各ゾーンでの金型組15の滞留時間は同一である。
【0020】
以上本発明の好適な実施例について説明したが、本発明はこれらに限定されない。当業者であれば、これら図面に開示された好適実施例を種々変形することができる。
【符号の説明】
【0021】
1、2、3、5、6 プレート
4 赤外線ランプヒータユニット
7a、7b エアシリンダ
8 成型室
9 INポートテーブル
10 OUTポートテーブル
11a、11b テーブル昇降シリンダ
12 INボートロードロック室、
13 OUTポートロードロック室
15 金型組
16 上金型
17 位置決めピン
18 下金型
20 サーボモータユニット
22 赤外線ランプヒータ
30 真空ポンプ
40 窒素ガス供給ユニット・

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上金型と下金型の間に光学素子材料が置かれた金型組を加熱、加圧成形、冷却の各プロセスステージヘと搬送し光学素子を成形する、輻射熱による非接触加熱装置を具備する成形装置において使用されるものであって、
輻射熱エネルギー吸収率が均一で且つ使用による前記吸収率の低下が実質的に無視できる皮膜が前記上金型と下金型の外周面に形成されている光学素子の成形用金型。
【請求項2】
前記金型外周面には輻射熱エネルギー吸収率の高い処理を均一に施されている請求項1記載の光学素子の成形用金型。
【請求項3】
前記皮膜は酸化皮膜若しくは耐酸化性皮膜からなる黒色の輻射熱エネルギー吸収率の高い皮膜とすることにより前記輻射熱による非接触加熱装置の発生するエネルギーを効率的に利用することが可能である請求項1または2記載の光学素子の成形用金型。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−222221(P2010−222221A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74118(P2009−74118)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003458)東芝機械株式会社 (843)
【Fターム(参考)】