説明

光学素子用ポリマーブレンド及びその製造方法

フィルム又はシートの製造方法は、ポリマーアロイを、変形アロイに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度で変形することを含む。光学フィルム又はシート中のコメット欠陥及び脈状欠陥を実質的になくす方法は、ポリマーアロイを含むフィルム又はシートを、アロイに含まれるポリマー樹脂のガラス転移温度に近い温度でアニールすることを含む。組成物は、約1〜約99wt%の量の第1のポリマー樹脂、及び約1〜約99wt%の量の第2のポリマー樹脂を含み、ポリマー樹脂を、約350nm以上の複屈折リターデーション又は約150nm以下の複屈折リターデーションのポリマーアロイを生成するのに有効な変形力又はエネルギーで処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子用ポリマーブレンド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フィルムやシートなど高い光学品質のデバイスは、一般に光学素子、眼科用レンズなど多数の用途での利用が求められている。これら光学素子では、一般に偏光、フォトクロミズム、色調、色彩、装飾、表示、硬度、耐摩耗性、防曇性、X線記録能、写真撮影能、デジタル記憶能、調光能など追加の機能特性が利用される。これらの用途では、ある種の特定の機能特性を経済的かつコスト効率良く満足できるポリマーアロイを使用するのが一般に望ましい。しかし、ポリマーアロイには一般にコメット及び脈状欠陥の存在のような短所があり、フィルムはかかる高品質光学用途には不向きなものとなってしまう。そこで、一般に、光学素子に有効に利用し得るポリマーアロイ組成物を開発できれば望ましい。さらに、かかる欠陥が実質的に低減又は解消された光学フィルム及びレンズにポリマーアロイを加工する方法を開発できれば望ましい。
【特許文献1】米国特許第5180595号明細書
【特許文献2】米国特許第4778656号明細書
【特許文献3】米国特許第5502153号明細書
【特許文献4】米国特許第2465319号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第0442861号明細書
【特許文献6】英国特許第1559230号明細書
【特許文献7】特開平07−224218号公報
【特許文献8】米国特許第5230753号明細書
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
フィルム又はシートの製造方法は、ポリマーアロイを、変形アロイに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度で変形する段階を含む。
【0004】
別の実施形態では、光学フィルム又はシートのコメット及び脈状欠陥を実質的になくす方法は、ポリマーアロイを含むフィルム又はシートを、アロイに含まれるポリマー樹脂のガラス転移温度に近い温度でアニールする段階を含む。
【0005】
さらに別の実施形態では、組成物は、約1〜約99wt%の量の第1のポリマー樹脂と約1〜約99wt%量の第2のポリマー樹脂を含み、これらのポリマー樹脂を、約350nm以上の複屈折リターデーション又は約150nm以下の複屈折リターデーションのポリマーアロイを生成するのに有効な変形力又はエネルギーで処理する。
【0006】
さらに別の実施形態では、変形アロイに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でポリマーアロイを変形すること、或いは変形アロイに約150nm以下の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でポリマーアロイをアニールすることを含む方法によって光学素子を製造する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書では、約85%以上の透過率を有し、可視光スペクトル(すなわち波長約300nm〜約1000nm)の偏光で検査したときにコメット欠陥及び脈状欠陥のような欠陥を実質的に含まないポリマーアロイを含む組成物を開示する。本明細書では、コメットや脈状欠陥のような欠陥の数が低減し、或いはかかる欠陥を実質的に含まないポリマーアロイから、光学フィルム及び光学レンズを製造する方法を開示する。本明細書では、ポリマーアロイから製造した光学フィルム又はシートを含む光学素子に存在するコメットや脈状欠陥のような欠陥を低減又は解消する方法も開示する。
【0008】
これら組成物は、厚さ約5μm(0.2ミル)以上約1000μm(40ミル)以下のフィルムの使用が可能となるという利点をもつ。別の例示的実施形態では、これらのポリマーアロイは、厚さ約1001μm(40.04ミル)以上約40000μm(1600ミル)以下のシートに製造できる。本明細書では、ポリマーアロイ組成物並びに基材上の光学フィルムの形態で該ポリマーアロイを使用する方法であって、基材が最低限の耐熱性しか有しておらず、実質的な損傷も分解も起こさずにフィルムを基材に貼り付けることができる方法についても開示する。本明細書では、ポリマーアロイ組成物並びに基材上の光学フィルムの形態で該ポリマーアロイを使用する方法であって、基材をバック成形法によってフィルムに貼り付け、フィルムがバック成形プロセスで実質的な変形も分解も起こさない方法についても開示する。バック成形はオーバー成形とも呼ばれる。一実施形態では、最初に変形しておいたシート又はフィルムを、シートに約150nm以下の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でアニールすればよい。別の実施形態では、最初にアニールしておいたシートを、シートに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度で変形すればよい。
【0009】
本明細書でいうコメット欠陥とは、一般に、偏光可視光に露光したときにフィルム又はシートに用いたポリマー樹脂中の不均一部の周辺に形成される欠陥である。図1に、コメット欠陥と脈状欠陥の概略図を示す。この図にみられるように、コメット欠陥は、ポリマー樹脂の応力変形によって誘発された微結晶、核剤、微小気泡、劣化物、黒班や充填材などの不純物のような不均一部周辺に概して形成される欠陥である。コメット欠陥は、ポリマー樹脂の加工処理時に溶融せずに残った微結晶周辺に形成されることもある。コメット欠陥は、ポリマー樹脂の加工処理時に形成された微結晶周辺に形成されることもある。この図にみられるように、脈状欠陥は、一般に枝状又は樹状外観を有し、概してコメット欠陥のテール部に現れる繊維状の欠陥である。理論に束縛されるものではないが、コメット欠陥及び脈状欠陥の形成は、相分離、アロイ形成時の不均一などの要因に起因する(シート及びフィルム成形時の)メルトモルフォロジーの局所的なばらつきによって促進されると考えられる。これらの欠陥があると、フィルム又はシートは概して高品質光学用途には使用できなくなる。
【0010】
かかる高品質光学素子に用いられるポリマーアロイは一般に熱可塑性ポリマー樹脂のブレンドである。光学素子に使用し得る熱可塑性ポリマー樹脂は、オリゴマー、ポリマー、アイオノマー、デンドリマー、ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、星状ブロックコポリマー、ランダムコポリマーなどのコポリマー、又はこれらの熱可塑性ポリマー樹脂の1種以上を含む組合せである。熱可塑性ポリマー樹脂の好適な例は、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリオレフィン、ナイロン4,6、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、ナイロン6,12のようなポリアミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)(PCCD)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)(PTT)、ポリ(シクロヘキサンジメタノール−コ−エチレングリコールテレフタレート)(PETG又はPCTG)、ポリ(エチレンナフタレート)(PEN)、ポリ(ブチレンナフタレート)(PBN)のようなポリエステル、ポリイミド、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート(PC)、ポリスチレン、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリアクリレート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)のようなポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンエーテル、液晶ポリマーなど、或いはこれらのポリマー樹脂の1種以上を含む組合せである。
【0011】
テレフタル酸100モル%、モル比70:30のトランス異性体とシス異性体を含む1,4−シクロヘキサンジメタノール約1〜約99モル%及びエチレングリコール約1〜約99モル%のコポリマー(コポリマー全体はPCTGと呼ばれる)を含むブレンドのようなポリエステルのブレンドを、アロイに使用し得る。市販のPCTGとして、Eastman Chemical社から市販のEASTAR(登録商標)PCTGコポリエステル5445(登録商標)が挙げられる。ポリエステル−カーボネート(コポリエステル−ポリカーボネートとも呼ばれる。)(PPC)もポリマーアロイに使用し得る。Degussa Chemicals社から市販のTrogamidのような非晶質ポリアミドもポリマーアロイに使用し得る。好適に使用し得る別のブレンドは、シクロヘキサンジメタノール100モル%とテレフタル酸1〜100モル%とイソフタル酸1〜100モル%のコポリマーを含むブレンドである。
【0012】
好ましいポリマーアロイは、PC−PCCD、PC−PETG、PC−PET、PC−PBT、PC−PCT、PC−PCTG、PC−PPC、PC−PCCD−PETG、PC−PCCD−PCT、PC−PPC−PCTG、PC−PCTG−PETG、ポリフェニレンエーテル−ポリアミド、ポリフェニレンエーテルポリスチレンなどである。
【0013】
好ましいポリマーブレンドは、ポリカーボネート−脂環式ポリエステルブレンドである。本明細書で用いる「ポリカーボネート」、「ポリカーボネート組成物」及び「芳香族カーボネート鎖単位を含む組成物」という用語には、次の式(I)の構造単位を有する組成物が包含される。
【0014】
【化1】

式中、R基の総数の約60%以上は芳香族有機基であり、残りは脂肪族、脂環式又は芳香族基である。好ましくはRは芳香族有機基であり、さらに好ましくは次の式(II)の基である。
【0015】
【化2】

【0016】
式中、A及びAは各々単環式二価アリール基であり、YはAとAを0、1又は2原子で隔てる橋かけ基である。ある例示的な実施形態では、AとAの間には1原子が介在する。この種の基の例示的な具体例は、−O−、−S−、−S(O)−、−S(O)−、−C(O)−、メチレン、シクロヘキシルメチレン、2−[2.2.1]−ビシクロへプチリデン、エチリデン、イソプロピリデン、ネオペンチリデン、シクロヘキシリデン、シクロペンタデシリデン、シクロドデシリデン、アダマンチリデンなどである。別の実施形態では、AとAの間には原子が介在せず、その具体例はビスフェノール(OH−ベンゼン−ベンゼン−OH)である。橋かけ基Yはメチレン、シクロヘキシリデン又はイソプロピリデンのような炭化水素基又は飽和炭化水素基とし得る。
【0017】
ポリカーボネートは、カーボネート前駆体とジヒドロキシ化合物とのSchotten−Bauman界面反応で製造できる。通例、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムのような水性塩基を、ジヒドロキシ化合物を含むベンゼン、トルエン、二硫化炭素又はジクロロメタンのような水と非混和性の有機溶媒と混合する。反応促進のため、一般に相間移動剤が使用される。反応体混合物には、分子量調節剤を単独又は混合物として添加してもよい。枝分れ剤も単独又は混合物として添加し得るが、枝分れ剤については後述する。
【0018】
ポリカーボネートは、AとAの間に1原子が介在するジヒドロキシ化合物の界面反応で製造できる。本明細書で用いる「ジヒドロキシ化合物」という用語には、例えば次の一般式(III)のビスフェノール化合物が包含される。
【0019】
【化3】

式中、R及びRは各々独立に水素、ハロゲン原子又は一価炭化水素基を表し、p及びqは各々独立に0〜4の整数であり、Xは以下の式(IV)のいずれかの基を表す。
【0020】
【化4】

式中、R及びRは各々独立に水素原子又は一価線状若しくは環状炭化水素基を表し、Rは二価炭化水素基である。
【0021】
式(III)で表すことができる種類のビスフェノール化合物の具体例には、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「ビスフェノールA」ともいう。)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−n−ブタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−1−メチルフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシ−t−ブチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)プロパンなどのビス(ヒドロキシアリール)アルカン系列、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサンなどのビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン系列、並びにこれらのビスフェノール化合物の1種以上を含む組合せがある。
【0022】
式(III)で表すことができるその他のビスフェノール化合物には、Xが−O−、−S−、−SO−又は−SO−であるものがある。かかるビスフェノール化合物の具体例を幾つか挙げると、4,4′−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルフェニルエーテルなどのビス(ヒドロキシアリール)エーテル、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルフィドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルフィド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホキシドなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホキシド、4,4′−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4′−ジヒドロキシ−3,3′−ジメチルジフェニルスルホンなどのビス(ヒドロキシジアリール)スルホン、並びにこれらのビスフェノール化合物の1種以上を含む組合せである。
【0023】
ポリカーボネートの重縮合に利用し得るその他のビスフェノール化合物は、以下の式(V)で表されるものである。
【0024】
【化5】

式中、Rはハロゲン原子、炭素原子数1〜10の炭化水素基又はハロゲン置換炭化水素基であり、nは0〜4の値である。nが2以上の場合、Rは同一でも、異なるものでもよい。式(V)で表すことができるビスフェノール化合物の例は、レゾルシノール、3−メチルレゾルシン、3−エチルレゾルシン、3−プロピルレゾルシン、3−ブチルレゾルシン、3−t−ブチルレゾルシン、3−フェニルレゾルシン、3−クミルレゾルシン、2,3,4,6−テトラフロロレゾルシン、2,3,4,6−テトラブロモレゾルシンなどの置換レゾルシノール化合物、カテコール、ヒドロキノン、3−メチルヒドロキノン、3−エチルヒドロキノン、3−プロピルヒドロキノン、3−ブチルヒドロキノン、3−t−ブチルヒドロキノン、3−フェニルヒドロキノン、3−クミルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラメチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラ−t−ブチルヒドロキノン、2,3,5,6−テトラフロロヒドロキノン、2,3,5,6−テトラブロモヒドロキノンなどの置換ヒドロキノン、並びにこれらのビスフェノール化合物の1種以上を含む組合せである。
【0025】
以下の式(VI)で表される2,2,2′,2′−テトラヒドロ−3,3,3′,3′−テトラメチル−1,1′−スピロビ[1H−インデン]−6,6′−ジオールのようなビスフェノール化合物も使用し得る。
【0026】
【化6】

【0027】
好ましいビスフェノール化合物はビスフェノールAである。
【0028】
典型的なカーボネート前駆体としては、例えば、塩化カルボニル(ホスゲン)及び臭化カルボニルのようなハロゲン化カルボニル類、ビスハロホルメート類、例えばビスフェノールAのような二価フェノールのビスハロホルメート、ヒドロキノン類及びエチレングリコールやネオペンチルグリコールのようなグリコール類のビスハロホルメート、並びにジフェニルカーボネート、ジ(トリル)カーボネート及びジ(ナフチル)カーボネートのようなジアリールカーボネート類が挙げられる。界面反応に好ましいカーボネート前駆体は塩化カルボニルである。
【0029】
ホモポリマーではなくカーボネートコポリマーの使用が望まれる場合、2種以上の異なる二価フェノールの重合で得られるポリカーボネート、或いは二価フェノールとグリコール又はヒドロキシ末端もしくは酸末端ポリエステル又は二塩基酸又はヒドロキシ酸又は脂肪族二酸とのコポリマーを使用することもできる。一般に、有用な脂肪族二酸は炭素原子数2〜約40のものである。好ましい脂肪族二酸はドデカン二酸である。
【0030】
枝分れポリカーボネート及び線状ポリカーボネートと枝分れポリカーボネートのブレンドも有用である。枝分れポリカーボネートは重合時に枝分れ剤を添加することで製造できる。枝分れ剤には、3個以上の官能基を有する多官能性有機化合物があり、該官能基にはヒドロキシル、カルボキシル、無水カルボキシル、ハロホルミルがある。これらの枝分れ剤の1種以上を含む組合せも挙げられる。具体例には、トリメリト酸、無水トリメリト酸、トリメリト酸トリクロライド、トリス−p−ヒドロキシフェニルエタン、イサチン−ビスフェノール、トリス−フェノールTC(1,3,5−トリス((p−ヒドロキシフェニル)イソプロピル)ベンゼン)、トリス−フェノールPA(4(4(1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−エチル)α,α−ジメチルベンジル)フェノール)、4−クロロホルミル無水フタル酸、トリメシン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸など、並びにこれらの枝分れ剤の1種以上を含む組合せがある。枝分れ剤は、基材の全重量を基準にして、約0.05〜約2.0wt%のレベルで添加し得る。
【0031】
一実施形態では、ポリカーボネートはジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとの溶融重縮合反応でも製造し得る。ポリカーボネートの製造に利用し得る炭酸ジエステルの例は、ジフェニルカーボネート、ビス(2,4−ジクロロフェニル)カーボネート、ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)カーボネート、ビス(2−シアノフェニル)カーボネート、ビス(o−ニトロフェニル)カーボネート、ジトリルカーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなど、並びにこれらの炭酸ジエステルの1種以上を含む組合せである。好ましい炭酸ジエステルはジフェニルカーボネートである。
【0032】
好ましくは、ポリカーボネートの数平均分子量は約500〜約1000000g/モルである。この範囲内で、数平均分子量が約1000以上、好ましくは約5000g/モル以上、さらに好ましくは約10000g/モル以上であるのが望ましい。また、数平均分子量が約200000以下、好ましくは約100000以下、さらに好ましくは約65000g/モル以下、最も好ましくは約35000g/モル以下であるのも望ましい。数平均分子量はポリスチレン標準物質を用いて測定されれう。数平均分子量の例は、約14000g/モルである。
【0033】
ポリマーアロイでの使用に適した脂環式ポリエステルは、光学的透明性、向上した耐候性、耐薬品性及び低い吸水性を特徴とするものである。また、脂環式ポリエステルがポリカーボネート樹脂と良好な溶融相溶性を有することも概して望ましい。脂環式ポリエステルは、一般にジオールと二塩基酸又はその誘導体との反応で製造される。高品質光学フィルム用の脂環式ポリエステル樹脂の製造に有用なジオールは、直鎖、枝分れ又は脂環式ジオール、好ましくは直鎖又は枝分れアルカンジオールであり、2〜12の炭素原子を有し得る。
【0034】
好適な例には、エチレングリコール、プロピレングリコール(すなわち1,2−及び1,3−プロピレングリコール)、ブタンジオール(すなわち1,3−及び1,4−ブタンジオール)、ジエチレングリコール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,3−及び1,5−ペンタンジオール、ジプロピレングリコール、2−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール(特にそのシス及びトランス異性体)、トリエチレングリコール、1,10−デカンジオール、並びにこれらのいずれかの混合物がある。特に好ましいのは、ジメタノールビシクロオクタン、ジメタノールデカリン、脂環式ジオール又はその化学的等価物、特に1,4−シクロヘキサンジメタノール又はその化学的等価物である。1,4−シクロヘキサンジメタノールをジオール成分として使用する場合、約1:4〜約4:1比のシス及びトランス異性体の混合物を使用するのが一般に好ましい。この範囲内で、約1:3のシス/トランス異性体比を使用するのが一般に望ましい。
【0035】
脂環式ポリエステルポリマーの製造に有用な二酸は、飽和環の飽和炭素に各々結合した2個のカルボキシル基を有するカルボン酸を始めとする脂肪族二酸である。脂環式酸の好適な例には、デカヒドロナフタレンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸及びビシクロオクタンジカルボン酸がある。好ましい脂環式二酸は、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸及びトランス−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である。ポリエステルが脂環式環を有する1種以上のモノマーを含んでいれば、線状脂肪族二酸も有用である。線状脂肪族二酸の具体例は、コハク酸、アジピン酸、ジメチルコハク酸及びアゼライン酸である。二酸とジオールの混合物も脂環式ポリエステルの製造に使用し得る。
【0036】
シクロへキサンジカルボン酸及びその化学的等価物は、例えば、適当な触媒(ロジウムを炭素やアルミナのような担体に担持したものなど)を用いて、適当な溶媒(水や酢酸など)中で、イソフタル酸やテレフタル酸やナフタレン酸のような芳香族二酸及びその誘導体を室温・大気圧で水添することによって調製できる。また、反応条件下で酸が少なくとも部分的に可溶性であるような不活性液体媒質と、炭素やシリカに担持したパラジウム又はルテニウム触媒とを用いて製造することもできる。
【0037】
水素化では、通例、カルボン酸基がシス位又はトランス位にある2種類以上の異性体が得られる。シス異性体とトランス異性体は結晶化又は蒸留で分離することができ、結晶化に際してはn−へプタンのような溶媒を使用してもよいし、使用しなくてもよい。シス異性体の方がブレンドし易いが、トランス異性体の方が高い溶融温度及び結晶化温度を有しているので特に好ましい。シス/トランス異性体混合物も使用できるが、かかる混合物を使用する場合、トランス異性体がシス異性体とトランス異性体の合計重量を基準にして約75wt%以上をなし、残部がシス異性体であるのが好ましい。異性体混合物又は2種以上の二酸の混合物を使用する場合、コポリエステル又は2種のポリエステルの混合物を脂環式ポリエステルポリマーとして使用し得る。
【0038】
脂環式ポリエステルの製造には、これらの二酸のエステルを始めとする化学的等価物も使用し得る。二酸の化学的等価物の好適な例は、アルキルエステル(例えばジアルキルエステル)、ジアリールエステル、無水物、酸塩化物、酸臭化物など、或いはこれらの化学的等価物の1種以上を含む組合せである。好ましい化学的等価物には脂環式二酸のジアルキルエステルがあり、最も好ましい化学的等価物は酸のジメチルエステル、特にトランス−1,4−シクロへキサンジカルボン酸ジメチルである。
【0039】
トランス−1,4−シクロへキサンジカルボン酸ジメチルはテレフタル酸ジメチルの環水素化で得ることができ、シス位とトランス位にカルボン酸基を有する2種類の異性体が得られる。これらの異性体は分離することができ、トランス異性体が特に好ましい。異性体混合物も上述の通り使用し得る。
【0040】
ポリエステルポリマーは一般にジオール又はジオール等価成分と二酸又は二酸等価成分との縮合又はエステル交換重合で得られ、以下の式(VII)の繰返し単位を有する。
【0041】
【化7】

式中、Rは炭素原子数2〜12の直鎖、枝分れ又は脂環式アルカンジオール又はその化学的等価物の残基である炭素原子数2〜12のアルキル基又はシクロアルキル基を表し、Rは二酸から誘導される脱カルボキシル残基であるアルキル基又は脂環式基であるが、R又はRの少なくとも一方がシクロアルキル基であることが条件とされる。
【0042】
好ましい脂環式ポリエステルは、以下の式(VIII)の繰返し単位を有するポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)である。
【0043】
【化8】

式中、式(VII)のRがシクロヘキサン環であり、Rがシクロヘキサンジカルボキシレート又はその化学的等価物から誘導されるシクロヘキサン環であって、そのシス異性体、トランス異性体又はシス異性体とトランス異性体の混合物から選択される。脂環式ポリエステルポリマーは、一般に、適量(一般に最終生成物の全重量を基準にして約50〜400ppmのチタン)のチタン酸テトラ(2−エチルヘキシル)のような好適な触媒の存在下で製造できる。一般に、固有粘度約0.82〜約1.12、好ましくは約0.82〜約0.92のポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を使用するのが望ましい。
【0044】
ポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)が概してポリカーボネートとの好適なブレンドである。さらに、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)から製造されたフィルムは、プライマーを使用しなくても、ポリカーボネートと他の熱可塑性樹脂とのブレンドを含め、ポリカーボネート樹脂基材に対して優れた接着性を示す。
【0045】
BPAポリカーボネートが、本発明での使用に好ましい基材樹脂である。ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)とポリカーボネートのブレンドを含むフィルムは、本発明のキャップ層としても使用される。ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)フィルム上にポリカーボネートを積層、ホットプレス、インモールド加飾成形、溶融押出すること、両樹脂の共押出その他公知の結合又は接合技法によってフィルムをポリカーボネートに結合させると、これらはプライマーなしでもポリカーボネート基材に優れた接着性を示す。
【0046】
一般に、ポリカーボネート−ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)アロイは、試料を100℃で60分乾燥した後、265℃、荷重2.16kgで、オリフィスサイズ0.0825インチ及び滞留時間240秒で測定して、約5cm/10分(cc/10分又はml/10分)以上、約150cm/10分以下のメルトボリュームレートを有するのが望ましい。この範囲内で、一般に、265℃、荷重2.16kg、滞留時間4分で測定して、メルトボリュームレートが約7以上であるのが望ましく、好ましくは約9以上、さらに好ましくは約10cc/10分以上である。この範囲内で、メルトボリュームレートが約125以下であるのが望ましく、好ましくは約110以下、さらに好ましくは約100cc/10分以下である。
【0047】
一般に、ポリカーボネート−ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)アロイは、望ましくは約205℃以下、好ましくは約175℃以下、さらに好ましくは約150℃以下、最も好ましくは約125℃以下のガラス転移温度を有する。
【0048】
本発明の組成物には、さらに添加剤、例えば酸化防止剤、熱安定剤、離型剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、可塑剤、鉱物、例えばタルク、クレー、マイカ、バライト、ウォラストナイト、並びにベンゾトリアゾールのようなUV安定剤などの他の安定剤、補助的補強用充填剤、例えばフレーク状又はミルドガラスなど、難燃剤、顔料、追加の樹脂又はこれらの組合せを添加してもよい。本組成物に配合し得る各種添加剤は当業界で慣用されており、当業者に公知である。こうした添加剤の具体例は、R.Gachter and H. Muller, Plastics Additives Handbook, 4th edition, 1993にみられる。
【0049】
熱安定剤の例としては、トリフェニルホスファイト、トリス(2,6−ジメチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチル−フェニル)ホスファイト、トリス(混成モノ−及びジ−ノニルフェニル)ホスファイト、ジメチルベンゼンホスホネート及びトリメチルホスフェートがある。酸化防止剤の例としては、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート及びペンタエリトリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]がある。光安定剤の例としては、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノンがある。可塑剤の例としては、ジオクチル−4,5−エポキシ−ヘキサヒドロフタレート、トリス(オクトキシカルボニルエチル)イソシアヌレート、トリステアリン及びエポキシ化大豆油がある。帯電防止剤の例としては、グリセロールモノステアレート、ステアリルスルホン酸ナトリウム、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムがある。
【0050】
奪活剤を含む好ましい一群の安定剤は、無色透明/半透明な生成物を与える安定剤である。通例、かかる安定剤をフィルムの全重量を基準にして約0.001〜10wt%のレベル、好ましくは約0.005〜2wt%のレベルで使用する。好ましい安定剤としては、有効量の酸性リン酸塩;1以上の酸性水素を有する酸性、アルキル、アリール又は混成ホスファイト;第IB族又は第IIB族金属リン酸塩;リンのオキソ酸、酸性ピロリン酸金属塩又はこれらの混合物がある。特定の化合物の安定剤としての適性及びどの程度の量を安定剤として用いるべきかは、ポリエステル樹脂成分とポリカーボネートの混合物を調製し、溶融粘度、ガス発生、色安定性又はインターポリマーの形成への影響を調べることで簡単に決定できる。酸性リン酸塩としては、リン酸二水素ナトリウム、リン酸一亜鉛、リン酸水素カリウム、リン酸二水素カルシウムなどがある。亜リン酸塩(ホスファイト)は次の式(IX)のものがある。
【0051】
【化9】

式中、R、R及びRは、R、R及びRのうち少なくとも1つが水素であることを条件として、各々独立に水素、アルキル及びアリールからなる群から選択される。
【0052】
第IB族又は第IIB族金属のリン酸塩には、リン酸亜鉛などがある。リンのオキソ酸には、亜リン酸、リン酸、ポリリン酸、次亜リン酸がある。
【0053】
ポリ酸性ピロリン酸は次の式Xのものがある。
zx3n+1 (X)
式中、Mは金属であり、xは1〜12の数であり、yは1〜12の数であり、nは2〜10の数であり、zは1〜5の数であり、(xz)+yの和はn+2に等しい。好ましいMはアルカリ又はアルカリ土類金属である。
【0054】
最も好ましい奪活剤はリンのオキソ酸又は酸性有機リン化合物である。無機酸性リン化合物も奪活剤として使用できるが、これらはヘイズや透明性の低下を招くおそれがある。最も好ましい奪活剤はリン酸、亜リン酸又はこれらの部分エステルである。
【0055】
離型剤の例としては、ペンタエリトリトールテトラステアレート、ステアリルステアレート、蜜蝋、モンタンワックス及びパラフィンワックスがある。他の樹脂の例としては、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート及びポリフェニレンオキシドがあるが、これらに限られない。上述の添加剤の任意の組合せも使用できる。かかる添加剤は、組成物を形成する諸成分の混合時に適当な時点で混合すればよい。
【0056】
熱可塑性ポリマー樹脂は、ポリマーアロイの形成に適した任意の割合でブレンドすればよい。二元ブレンド、三元ブレンド及び4種以上の樹脂を有するブレンドもポリマーアロイに使用し得る。二元ブレンド又は三元ブレンドをポリマーアロイに使用する場合、アロイ中のポリマー樹脂の1種は、組成物の全重量を基準にして約1〜約99重量%(wt%)をなす。この範囲内で、ポリマー樹脂のうち1種を、組成物の全重量を基準にして、望ましくは約20以上、好ましくは約30以上、さらに好ましくは約40wt%以上の量で含む。この範囲内で、組成物の全重量を基準にして、望ましくは約90以下、好ましくは約80以下、さらに好ましくは約60wt%以下である。三元ブレンド又は4種以上のポリマー樹脂を有するブレンドを使用する場合、各ポリマー樹脂は望ましい任意の重量比で存在し得る。
【0057】
組成物の製造には、熱可塑性材料のブレンディングに関して公知のブレンディング操作のいずれも利用でき、例えばバンバリーミキサや押出機のような混練機でブレンドすればよい。添加順序は臨界的ではないが、すべての成分を十分にブレンディングすべきである。樹脂組成物を製造するには、成分を公知の方法のいずれかで混合すればよい。混合は、まず組成物の所望成分を予備混合し、次いで成分を溶融混合することによって実施し得る。予備混合では、乾燥材料を一緒に混合する。予備混合は、一般にタンブラーミキサ又はリボンブレンダを用いて実施される。ただし、所望に応じて、ヘンシェルミキサ又は同様の強力装置のような高剪断ミキサを用いて予備混合を実施してもよい。予備混合に続いて、溶融混合を行い、予備混合物を溶融してメルトとして再度混合する。別法として、予備混合を省略し、組成物の成分を、溶融混合装置の供給部に直接添加してもよい。溶融混合段階では、通例、諸成分を単軸又は二軸押出機、バンバリーミキサ、2本ロールミルなど、又はこれらの溶融混合装置の1以上を含む組合せで溶融混練する。
【0058】
コメット欠陥及び脈状欠陥のような欠陥を全く含まないポリマーアロイを製造するため、アロイを、かかるフィルムへの加工処理で通常実施されるよりも低温、低速でフィルムに変形するのが望ましい。一般に、かかる変形力を加える低温に関しては、一般にアロイのガラス転移温度未満の温度でアロイを変形させるのが望ましい。例えば、アロイの温度は必ずしも常にアロイのガラス転移温度(T)未満であるわけではないが、変形力を加える装置はアロイのガラス転移温度未満の温度に維持される。
【0059】
一実施形態例では、変形力は、剪断力、圧縮力、伸張力、又は所望に応じてこれらの力の2種又は3種すべての力の組合せである。これらの変形力は所望に応じて同時又は逐次加えてもよい。アロイと接触し、これらの変形力を加える機械部品の温度はアロイのTg未満の温度に維持するのが概して望ましい。別の実施形態例では、アロイと接触し、変形力を加える機械部分の温度はアロイのTgよりも望ましくは5℃、好ましくは10℃、さらに好ましくは15℃、最も好ましくは20℃低い温度に維持される。
【0060】
コメット欠陥又は脈状欠陥の数の低減したフィルム又はシートを製造するため、変形アロイに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な量でアロイを変形するのが概して望ましい。一般に、複屈折リターデーションは約400nm以上、好ましくは約550nm以上、好ましくは約750nm以上、さらに好ましくは約1000nm以上であるのが好ましい。
【0061】
上述の変形力の結果得られるフィルム又はシートの有する欠陥の数は、一般にコメット欠陥0.25個/cm以下、好ましくはコメット欠陥約0.2個/cm以下、さらに好ましくはコメット欠陥約0.1個/cm以下である。実質的にコメット欠陥のないフィルム又はシートであるのが最も好ましい。
【0062】
別の実施形態では、コメット欠陥及び脈状欠陥のような欠陥を有するポリマーアロイフィルム又はシートは、フィルム又はシートを(アロイ中の)ポリマー樹脂のガラス転移温度(T)に近い温度でアニールすることによって、実質的にコメット欠陥及び脈状欠陥のないものとすることができる。一実施形態では、フィルム又はシートを、ポリマーアロイの最高ガラス転移温度に近い温度でアニールするのが望ましい。別の実施形態では、フィルム又はシートを、ポリマーアロイの最低ガラス温度に近い温度でアニールするのが望ましい。さらに別の実施形態では、フィルム又はシートを、ポリマーアロイの略最高ガラス転移温度以上の温度にアニールするのが望ましい。例えば、TgAがポリマー樹脂Aのガラス転移温度で、TgBがポリマー樹脂Bのガラス転移温度で、アロイのガラス転移温度がTg(A+B)でTgB>Tg(A+B)>TgAとなるポリマーアロイに両者が含まれている場合、アロイをTgB以上の温度でアニールすると、アロイはコメット欠陥のない、すなわち欠陥のないものとなる。別の実施形態では、フィルム又はシートを、ポリマーアロイの形成に用いたポリマー樹脂の最高ガラス転移温度よりも最大約10℃低い温度にアニールするのが望ましい。さらに別の実施形態では、フィルムを、ポリマーアロイの形成に用いたポリマー樹脂の最高ガラス転移温度にほぼ等しい温度でアニールするのが望ましい。
【0063】
アロイ中の最高Tに近い温度でアニールすると、一般にアロイ中のコメット欠陥及び/又は脈状欠陥の数が低減又は最小限に抑制されるが、これが常に必要とされるわけではない。例えば、コメット欠陥及び/又は脈状欠陥が、低いガラス転移温度TgAを有するポリマー樹脂A又は樹脂AとBの界面でしか形成されないことが判明している場合、ほぼTgAに近く、略Tg(A+B)以下の温度に加熱するのが望ましいことがあり、或いはポリマーアロイを略Tg(A+B)〜略TgBの温度に加熱してコメット欠陥及び/又は脈状欠陥をなくすことが望ましいこともある。このように、ポリマーアロイから製造したフィルム又はシートのアニーリングを、ポリマーアロイの最低ガラス温度に近い温度で実施することもできる。例えば、アニーリングはポリマーアロイの最低ガラス温度よりも約10℃以上低い温度で実施し得る。
【0064】
ポリマーアロイフィルム又はシートのアニール時間は最長約30分であるのが概して望ましい。この範囲内で、一般にフィルムのアニール時間は、約10秒以上、好ましくは約60秒以上、好ましくは約1分以上、最も好ましくは約2分以上であるのが望ましい。同じくこの範囲内で、アニール時間は、約25分以下、好ましくは約20分以下、さらに好ましくは約15分以下であるのが望ましい。フィルム又はシートは、伝熱法、対流法、放射法又はこれらの加熱法の1以上を含む組合せを用いてアニールし得る。
【0065】
さらに別の実施形態例では、メルトボリュームレート約10cm/10分(cc/10分)以上のポリマーアロイから上述の方法で製造したフィルムを、温度感受性基材上に、基材を破壊又は損なわないように十分低い温度で成形することができる。基材上にフィルムを成形すると、複屈折リターデーション約350nm以上の多層複合体が得られる。アロイのメルトボリュームレートが高いので、アロイを約400°F以下の温度で成形できる。アロイは約400°F以下の低い温度で成形できるにもかかわらず、その固有の優れた機械的特性を保持し、基材に適切な保護を与える。アロイに耐衝撃性改良剤を添加することによって、アロイの特性をさらに向上させることができる。その上に約400°F以下の温度でアロイを成形することができる冷温基材の好適な例は、偏光サングラス用の偏光子である。一実施形態では、多層複合体を、約150nm以下の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度にアニールすればよい。
【0066】
一般に、コメット欠陥をもつフィルム又はシートをアニールして実質的にコメット欠陥のないものにする場合、フィルムは約150nm以下の複屈折リターデーションを有するのが好ましく、好ましくは約100nm以下、好ましくは約75nm以下、好ましくは約50nm以下、さらに好ましくは約25nm以下の複屈折リターデーションを有する。
【0067】
一実施形態では、ポリマーアロイの製造法において、ポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を含むブレンドをまず二軸押出機で押出す。押出物をペレット化し、乾燥する。次いで、ペレットを単軸押出機で押出し、単軸押出機からの押出物を、2本のロールを共に鏡面仕上げしたカレンダー用2本ロールミルに送る。かかるロールミルは鏡面/鏡面カレンダーロールミルと呼ばれる。ロールミルの表面はアロイの略Tg以下の温度に保持し、約350nm以上の複屈折リターデーションを生じるのに有効な速度でカレンダー加工を実施する。
【0068】
上述の方法で得られたフィルムは光学的に透明であり、温度約400°F以下に耐える基材上に成形できる高いメルトレートを併せもつ組成物として製造できる。こうして製造されたポリマーアロイは、コメットや脈状欠陥のような欠陥は全く有しておらず、光学素子、眼科用シート、顕微鏡などの光学用途に利用できるという利点がある。さらに、偏光、フォトクロミズム、色調、色彩、装飾、表示、硬度、耐摩耗性、防曇性、X線記録能、写真撮影能、デジタル記憶能、調光能などの機能特性の導入を促進する添加剤をポリマーアロイに添加してもよい。
【0069】
一実施形態では、上述の方法で得られたフィルムはその上に基材をバック成形してもよく、光学的に透明で、複屈折リターデーションが約350nm以上の多層複合体を製造することができる。一実施形態では、多層複合体は、約400nm以上、好ましくは約550nm以上、好ましくは約750nm以上、さらに好ましくは約1000nm以上の複屈折リターデーションを有し得る。バック成形は、複屈折リターデーション約350nm以上のフィルムを金型に入れ、次いでフィルム上で基材を成形するプロセスである。フィルム上に基材を射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、押出又はガスアシストブロー成形することもできる。
【0070】
多層複合体の基材は、フィルムと同様の組成を有するのが概して好ましい。一実施形態では、基材とフィルムの間の相溶性を高めるため、基材はフィルム中の1種以上のポリマー成分と同様の組成をもつ1種以上のポリマー成分を有する。別の実施形態では、フィルムと基材との相溶性を高めるべく、基材及び/又はフィルムは、フィルム及び/又は基材中の他の反応性官能基と各々反応し得る反応性官能基を有していてもよい。さらに別の実施形態では、フィルムと基材の結合させるため、基材とフィルムの間に接着剤を使用してもよい。接着剤は、多層複合体をUV(紫外線)に露光すると硬化し得るUV硬化性接着剤とし得る。その他上記に挙げたような添加剤をフィルムだけでなく、基材に添加してもよい。接着剤を使用する場合、フィルムと基材を所望に応じて積層してもよい。
【0071】
一実施形態では、バック成形は共押出法で実施される。共押出では、共押出前にフィルム及び基材用の所望の組成物を別々に予備混合してもよい。この場合、予備混合材料を二軸押出機、単軸押出機、バス混練機、ロールミルなどで溶融ブレンドしてから、後段の共押出用にペレット、シートなど適当な形状に成形すればよい。次いで、予備混合フィルム及び基材組成物を各々共押出用押出機に供給すればよい。
【0072】
一実施形態では、多層複合体の共押出法において、各押出機からのメルト流(押出物)をフィードブロックダイに送って、そこで各メルト流を一緒にしてからダイに送る。別の実施形態では、各押出機からのメルト流を内部混合型マルチマニホールドダイに供給する。各種メルト流は別々にダイに入り、最後のダイオリフィスの内部で合流する。さらに別の実施形態では、各押出機からのメルト流をマルチマニホールド外部混合型ダイに供給する。外部混合型ダイは、各種メルト流に全く別個のマニホールドと別個のオリフィスを備え、これらを通してメルト流はダイを別々に出て、ダイ出口を超えてすぐに合流する。これらの層を溶融している間にダイのすぐ下流で一緒にする。多層複合体の製造に用いられるダイの例はフィードブロックダイである。一実施形態例では、フィルムと基材の共押出に用いられる押出機は各々単軸押出機である。所望に応じて、共押出シートをロールミルで適宜カレンダー加工してもよい。
【0073】
共押出多層複合体の望ましい形態は、中実シート、多層シート及びプロファイルドシートを始めとする押出シートである。共押出シートの形成に用いられる追加の層の組成に特に制限はない。多層シートの構造又は幾何形状に特に制限はない。追加の層は、例えば製造を容易にするための蛍光剤及び/又は耐候性を向上させるための紫外線吸収剤を含んでいてもよい。多層複合体は、約0.5〜約15kg/mの重量を有し、好ましくは約0.5mm〜約15mm、好ましくは約1mm〜約12mmの厚さを有する。押出多層シートは、約0.5〜約8kgの重量及び約2〜約50mm、好ましくは約4〜約40mmの厚さを有するのが望ましい。
【0074】
多層複合体は、眼鏡、望遠鏡、顕微鏡のような光学素子用レンズの形成に使用し得る。レンズは、所望のレンズの形状を有する金型にフィルムを保持し、基材をバック成形することによって製造できる。或いは、多層複合体を所望の形状のレンズに熱成形することもできる。所望に応じて、追加の機械加工をレンズに施してもよい。
【0075】
基材として使用し得る熱可塑性ポリマーの好適な例は、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリベンゾオキサゾール、ポリオキサジアゾール、ポリベンゾチアジノフェノチアジン、ポリベンゾチアゾール、ポリピラジノキノキサリン、ポリピロメリトイミド、ポリキノキサリン、ポリベンズイミダゾール、ポリオキシンドール、ポリオキソイソインドリン、ポリジオキソイソインドリン、ポリトリアジン、ポリピリダジン、ポリピペラジン、ポリピリジン、ポリピペリジン、ポリトリアゾール、ポリピラゾール、ポリピロリジン、ポリカルボラン、ポリオキサビシクロノナン、ポリジベンゾフラン、ポリフタリド、ポリアセタール、ポリ無水物、ポリビニルエーテル、ポリビニルチオエーテル、ポリビニルアルコール、ポリビニルケトン、ポリハロゲン化ビニル、ポリビニルニトリル、ポリビニルエステル、ポリスルホネート、ポリスルフィド、ポリチオエステル、ポリスルホン、ポリスルホンアミド、ポリ尿素、ポリホスファゼン、ポリシラザンなど、或いはこれらの熱可塑性ポリマーの1種以上を含む組合せである。一実施形態では、多層複合体の製造に際して、フィルムがポリカーボネートとPCCDを含む場合、基材はポリカーボネート、ポリエステル或いはポリカーボネートとポリエステルのブレンド及び/又はコポリマーを含むのが望ましい。多層複合体は好ましくは射出成形で成形される。
【0076】
以下の実施例で、各種の材料及び装置を用いて耐環境コーティングの様々な実施形態の幾つかを製造するための組成物及び方法を例示するが、これらの実施例は例示にすぎず、限定的に解すべきではない。
【実施例】
【0077】
実施例1
本例は、偏光下で検査したときにコメットも脈状欠陥もないポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を含むポリマーアロイのフィルムを製造できることを実証するために実施した。さらに、この実験は、ポリマーアロイのフィルムをアニールして、存在するコメット欠陥及び/又は脈状欠陥を除去できることも実証するために実施した。フィルムは重量比1:1のポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)のアロイを、Werner and Pfleidererの70mm(メガコンパウンダー)二軸押出機で押出して製造した。ポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)との反応を最小限に抑えるため、リン酸を含む奪活剤を使用した。本例では、UV抑制剤は使用しなかった。アロイをまずペレット化し、約180°Fの温度で6時間乾燥した。次いで、乾燥ペレットを、スクリュー径4.5インチ(11.43cm)の単軸押出機で押出した。この単軸押出機は、L/D32:1で、フレキシブルリップダイを備えた1段バリヤ型押出機であった。押出条件を表1に示す。
【0078】
【表1】

【0079】
単軸押出機からの押出物を、高度鏡面仕上げ油冷ロールスタックに供給した。ロールスタックから出たフィルムは厚さ20ミルの両面艶出フィルムである。こうして得られたフィルムには、コメット欠陥及び/又は脈状欠陥がなかった。
【0080】
実施例2
本例のフィルムは、組成は上記の実施例1と同様であり、カレンダーロールの生産速度とロール温度以外は同様に加工処理した。すべての試料のデータを以下の表に示す。各試料について5回以上測定を行った。試料1、2及び3は、比較例であり、試料4は上記の実施例1で得た試料である。試料5は150℃で3分間アニールした試料である。
【0081】
【表2】

【0082】
表2から分かる通り、生産速度及びロール温度を下げると、コメット及び脈状欠陥が消失する。これは生産速度14.4フィート/分及びロール温度165℃でコメット欠陥又は脈状欠陥のないフィルムを製造した試料#4ではっきりと実証されている。同様に、試料#5では、150℃でアニールすると、コメット欠陥及び脈状欠陥がすべて除去される。一般に、アニールは好ましくはアロイの最高ガラス転移温度に近い温度で実施し得る。一実施形態では、ポリマーアロイをポリマーアロイの最高ガラス転移温度よりも約10℃以上低い温度でアニールするのが望ましい。別の実施形態では、ポリマーアロイをポリマーアロイの最高ガラス転移温度に等しい温度でアニールするのが望ましい。さらに別の実施形態では、ポリマーアロイをポリマーアロイの最高ガラス転移温度よりも高い温度でアニールするのが望ましい。さらに別の実施形態では、ポリマーアロイを束縛条件下でアニールするのが望ましい。
【0083】
表2の比較例でみられるコメット欠陥及び脈状欠陥は、対応フィルムを偏光下で検査すると図2でみられる。同様に、図2に示す試料#4及び試料#5は、偏光下で検査したときコメット欠陥及び脈状欠陥がないことを示している。試料#4のフィルムは高品質光学フィルムであり、約750〜約925nmの複屈折リターデーションを示す。150℃で15分間アニールした試料#5は150nm未満の複屈折リターデーションを示し、コメット欠陥及び/又は脈状欠陥はみられない。
【0084】
実施例3
本実施例は、メルトボリュームレート(MVR)の非常に高い(溶融粘度の低い)ポリカーボネート−ポリエステルブレンドを得ることができ、低温加工性に優れていることを実証するために実施した。かかるブレンドは、低耐熱性フィルム(つまり高温に付されると劣化するフィルム)の基材上に成形することができる。このブレンドは、高流動性ポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)とポリカーボネートオリゴマー(R2オリゴマー)とペンタエリトリトールテトラステアレートと予め10%に希釈したリン酸を含む。溶融粘度が低いにもかかわらず、これらのブレンドは、表3及び表4に示すように依然として良好な機械的及び物理的特性を有している。低い溶融粘度は概して劣悪な機械的及び物理的特性をもたらすので、これらの結果は一般に予想外である。ブレンドが低いアイゾット衝撃特性を有する場合、その特性を、表5に示すBlendex 415のような耐衝撃性改良剤の配合によって高めることができる。表6はPMMAとポリカーボネートの加工特性を対比したもので、メルトボリュームレートの高いポリマー樹脂が概して機械的特性を失うことが分かる。表7は、ブレンドの低温加工の容易さに焦点を当てた。表8(a)及び(b)は、ポリカーボネートオリゴマーを使用した表3及び表4に記載のブレンドと同様に低温で加工できるポリマーブレンドを低溶融粘度のポリカーボネートを用いても製造できることを示す。表9の組成物はすべて205℃未満の温度で加工でき、標記の割合の低溶融粘度ポリカーボネートがポリマーブレンドの機械的特性に与える影響を示す。
【0085】
以下、表3〜表9に示す試料で実施した試験を列挙する。
【0086】
光学特性(透過率及びヘイズ)はASTM D1003に準拠して測定する。
【0087】
黄色度は厚さ3.2mmの試験片をGardner XL−835測色計で測定するASTM D1925に準拠して求める。
【0088】
衝撃値はISO 180/1Aに準拠して厚さ3mmの試験片で測定する。
メルトボリュームレート(MVR)は、グラニュールから、ISO 1133(特記しない限り、265℃/2.16kg、滞留時間240秒、オリフィス0.0825インチ、100℃で60分乾燥)に準拠してcm/10分単位で測定した。
【0089】
ノッチ付アイゾット:この試験手順は、ASTM D256法に基づく。この場合、アイゾット方法Eで、ノッチなし試験片を試験してノッチなし衝撃強さを得る。試験結果は、試験片の単位幅当たりの吸収エネルギーとして報告し、フィート−ポンド/インチ(ft−lbs/in)単位で表す。最終試験結果は通例試験片5枚の試験結果の平均として算出する。
【0090】
ダイナタップ(多軸衝撃としても知られる)試験:この試験手順は、ASTM D3763法に基づく。この試験法は、材料が多軸変形条件下でどのような挙動を示すかに関する情報を与える。加えられる変形は高速打ち抜きである。この種の試験機器の供給業者の例はDynatup社である。試験結果として記載したのは、単位%で表したいわゆる延性、フィート×ポンド(ft−lbf)単位で表した衝撃エネルギー及び/又は全エネルギーft−lbfである。最終試験結果は通例試験片10枚の試験結果の平均として算出する。
【0091】
溶融粘度:この試験手順はASTM D1238法に基づく。使用する装置は、自動タイマーを備えた押出式プラストメーターである。かかる装置の典型例はTinius Olson MP 987である。試験前に、試料を150℃で1時間乾燥する。試験条件は、溶融温度266℃、全荷重5000g、オリフィス径0.0825インチ及び滞留時間5分である。試験結果はポアズ単位で表す。
【0092】
曲げ弾性率:この試験手順は、ASTM D790法に基づく。典型的な試験片の寸法は1/8インチ×1/2インチ×2−1/2インチである。最終試験結果は試験片5枚の試験結果の平均として算出した。試験は、単純支持梁に中心で荷重をかける3点荷重系を用いる。
【0093】
Instron社及びZwick社がこの種の試験を行うために設計された機器の代表的な製造業者である。曲げ弾性率は、弾性限度内での応力と歪との比であり、ポンド/平方インチ(psi)単位で表される。
【0094】
引張強さ:この試験手順は、ASTM D638法に基づく。この試験法では、標準ダンベル形状の試験片を使用する。最終試験結果を、試験片5枚の試験結果の平均として算出する。引張強さは、試験で観察された最大荷重を元の試験片の最小断面積で除すことによって算出する。結果をポンド/平方インチ(psi)単位で表す。Instron社及びZwick社がこの種の試験を行うために設計された機器の代表的な製造業者である。
【0095】
引張伸び:材料が引張応力下での破断に耐える能力は、ASTM D638に基づく。試料は射出成形品である。引張試験機は、試料を両端から引張り、試験片を引き離すのに要する力と、破断までに試料がどの程度伸びるかを測定する。プラスチックの極限伸びは、張力下で破断するまでにみられる長さの増加率(%)である。
【0096】
【表3】

【0097】
低温ブレンドは、所望の機械的特性を有するのが望ましい。表3に示す組成物、つまり試料#8、#9及び#11は、多軸衝撃試験結果にみられるように高い靭性値を示している。
【0098】
【表4】

【0099】
【表5】

【0100】
【表6】

【0101】
【表7】

【0102】
表7に示す組成を有するポリカーボネート−ポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)ブレンドの改善された低温加工性を図3に示す。表7は、低いTにみられるように、ポリカーボネートとポリエステルブレンドの低温加工の容易さが強調されている。この特性は、温度感受性の高い層表面でのバック成形のように加工上の制約のため高い加工温度を用いることができない場合に特に有用である。かかる一例は、205℃という低温での偏光サングラス用偏光子のバック成形である。
【0103】
表8(a)及び(b)は、ポリカーボネートオリゴマーを使用した表3及び表4に記載のブレンドと同様に低温で加工できるポリマーブレンドを低溶融粘度のポリカーボネートを用いても製造できることを示す。表9の組成物はすべて205℃未満の温度で加工でき、標記の割合の低溶融粘度ポリカーボネートがポリマーブレンドの機械的特性に与える影響を示す。
【0104】
【表8】

【0105】
【表9】

【0106】
【表10】

【0107】
これらの実験から、ポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサンジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を含む熱可塑性ブレンドは多数の利点を有していることが分かる。これらブレンドは低温で成形でき、そのため耐熱性の低い基材で使用することができる。これらのブレンドは、偏光で検査したときにコメットや脈状欠陥のような欠陥ももたない。したがって、これらは光学素子、眼科用シート、顕微鏡などの光学用途で好適に使用できる。かかる高品質光学フィルム及びシートの成形方法によって、約150nm以下の複屈折リターデーション又は約350nm以上の複屈折リターデーションで好適に形成できる。これらの方法によって、製造と同時に欠陥のないフィルムを形成することができる。フィルムに欠陥がみられたときは、欠陥を修正して光学用途に使用することができる。
【0108】
一般に、以上の実施例から、ポリカーボネートを約30〜約80wt%の量で含むブレンドは、約150nm以下又は約350nm以上の望ましい複屈折リターデーションを有する光学品質フィルムを製造できることが分かる。ポリカーボネートを約40〜約60wt%の量で含むブレンドは、約150nm以下又は約350nm以上の望ましい複屈折リターデーションを有する光学品質フィルムを製造できることも分かる。さらに、表8(a)、表8(b)及び表9に記載の組成物は、コメット及び脈状欠陥のないブレンド組成物からなるフィルムで、偏光子及び偏光サングラスに使用できるフィルムでのバック成形のような低温加工用途に使用できる。以上の実施例から、光学的に透明で実質的に脈状欠陥及び/又はコメット欠陥のないポリカーボネート及びポリエステルブレンドが、高流動性ポリカーボネートと、脂環式ジオール又はその等価物と脂環式ジカルボン酸又はその等価物とから誘導された低粘度ポリエステル樹脂とを含み、得られたブレンドが約200℃未満のT及び妥当な多軸衝撃強さを有していることも分かる。
【0109】
さらに、このフィルムは、偏光子用保護カバーなどの多層光学用途にも利用することができる。その有利な低温特性のため、このフィルム及びシートは、耐熱性の低い多層光学用途の他の成分を破壊又は劣化させずに、多層用途に使用できる。
以上、例示的な実施形態を参照して本発明を説明してきたが、本発明の技術的範囲から逸脱せずに様々な変更及び均等物による構成要素の置換をなし得ることは当業者には明らかであろう。また、本発明の要旨から逸脱せずに特定の状況又は材料を本発明の教示内容に適合させるため数多くの修正を行うこともできる。したがって、本発明はその最良の実施形態として開示した特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に属するあらゆる実施形態を包含する。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】コメット欠陥及び脈状欠陥を有するポリマーフィルム又はシートを示す概略図である。
【図2】(a)試料#2のコメット欠陥及び脈状欠陥、(b)コメット欠陥及び脈状欠陥のない試料#4、並びに(c)コメット欠陥及び脈状欠陥のない試料#5を示す写真である。
【図3】ポリカーボネート−ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)ブレンドで得られる低温加工性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム又はシートの製1造方法であって、変形アロイに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でポリマーアロイを変形することを含んでなる方法。
【請求項2】
前記ポリマーアロイが2種以上の樹脂を含む熱可塑性樹脂であって、ポリマーアロイが、オリゴマー、ポリマー、枝分れポリマー、デンドリマー、アイオノマー、コポリマー、星状ブロックコポリマー、グラフトコポリマー、ブロックコポリマー、ランダムコポリマー又はこれらのポリマーの1種以上を含む組合せを含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマーアロイがポリマー樹脂を含んでいて、ポリマー樹脂がポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリアセタール、ポリアクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリアミドイミド、ポリアリーレート、ポリアクリレート、ポリメタクリレート、ポリウレタン、ポリアリールスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンスルフィド、ポリ塩化ビニル、ポリスルホン、ポリエーテルイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリーレンエーテル、液晶ポリマー又はこれらの熱可塑性樹脂の1種以上を含む組合せである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記ポリエステルが、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)、ポリ(トリメチレンテレフタレート)、ポリ(シクロヘキサンジメタノール−コ−エチレングリコールテレフタレート)、テレフタル酸100モル%と1,4−シクロヘキサンジメタノール約1〜約99モル%とエチレングリコール約1〜約99モル%のコポリマーを含むブレンド、シクロヘキサンジメタノール100モル%とテレフタル酸1〜100モル%とイソフタル酸1〜100モル%のコポリマーを含むブレンド又はこれらのポリエステルの1種以上を含む組合せである、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマーアロイがポリカーボネート−ポリエステルブレンドを含んでいて、ポリカーボネート−ポリエステルブレンドがポリカーボネートとポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)とを含み、ポリスチレン標準物質を用いて測定したポリカーボネートの数平均分子量が約10000〜約35000g/モルであり、ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)の固有粘度が約0.82〜約1.12である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記ポリマーアロイが、ポリカーボネート−ポリ(シクロヘキサンジメタノール−コ−エチレングリコールテレフタレート)、ポリカーボネート−ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート−ポリブチレンテレフタレート、テレフタル酸100モル%と1,4−シクロヘキサンジメタノール約1〜約99モル%とエチレングリコール約1〜約99モル%のコポリマーを含むブレンドとポリカーボネート、ポリカーボネート−コポリエステル−カーボネート、ポリカーボネート−ポリメチルメタクリレート、テレフタル酸100モル%と1,4−シクロヘキサンジメタノール約1〜約99モル%とエチレングリコール約1〜約99モル%のコポリマーを含むブレンドとポリカーボネート、ポリカーボネート−ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)−ポリ(シクロヘキサンジメタノール−コ−エチレングリコールテレフタレート)、テレフタル酸100モル%と1,4−シクロヘキサンジメタノール約1〜約99モル%とエチレングリコール約1〜約99モル%のコポリマーを含むブレンドとポリカーボネート−コポリエステル−カーボネート、シクロヘキサンジメタノール100モル%とテレフタル酸1〜100モル%とイソフタル酸1〜100モル%のコポリマーを含むブレンド、又はこれらの1種以上を含む組合せを含む、請求項1記載の方法。
【請求項7】
変形アロイに約150nm以下の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でフィルム又はシートをアニールすることをさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項8】
前記フィルム又はシートが、偏光、フォトクロミズム、色調、色彩、装飾、表示、硬度、耐摩耗性、防曇性、X線記録、写真撮影、デジタル記憶、調光能力を有する光学素子又はこれらの光学素子の1種以上を含む組合せに用いられる、請求項1記載の方法。
【請求項9】
前記シート又はフィルムを基材に貼り付けて多層複合体を形成することをさらに含み、貼り付けが基材のバック成形又はシートもしくはフィルムと基材との共押出を含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
前記シート又はフィルムに基材をバック成形して多層複合体を形成する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
光学フィルム又はシートのコメット欠陥及び脈状欠陥を実質的になくす方法であって、ポリマーアロイを含むフィルム又はシートをアロイに含まれるポリマー樹脂のガラス転移温度に近い温度でアニールすることを含む方法。
【請求項12】
前記アニール温度が、ポリマーアロイに含まれるポリマー樹脂の略最高ガラス転移温度以上であるか、或いはアニールをアロイの最低ガラス温度よりも約10℃以上低い温度で実施する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記フィルム又はシートがアニール後に約150nm以下の複屈折リターデーションを有し、光透過率が約85%以上である、請求項11記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマーアロイが、ポリカーボネート及びポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)を含み、ポリスチレン標準物質を用いて測定したポリカーボネートの数平均分子量が約10000〜約35000g/モルであり、ポリ(1,4−シクロヘキサン−ジメタノール−1,4−シクロヘキサンジカルボキシレート)の固有粘度が約0.82〜約1.12である、請求項11記載の方法。
【請求項15】
前記シート又はフィルムに約350nm以上の複屈折リターデーションを付与するのに有効な温度でシート又はフィルムを変形することをさらに含む、請求項11記載の方法。
【請求項16】
前記シート又はフィルムを光学素子として用いられる基材に貼り付けることをさらに含み、貼り付けがバック成形又は共押出で達成される、請求項11記載の方法。
【請求項17】
約1〜約99wt%の量の第1のポリマー樹脂と、
約1〜約99wt%の量の第2のポリマー樹脂
を含む組成物であって、これらのポリマー樹脂を約350nm以上の複屈折リターデーション又は約150nm以下の複屈折リターデーションのポリマーアロイを生成するのに有効な変形力又はエネルギーで処理した組成物。
【請求項18】
請求項1記載の方法で製造される光学素子。
【請求項19】
請求項11記載の方法で製造される光学素子。
【請求項20】
請求項17記載の組成物から製造されるフィルム又はシート。
【請求項21】
請求項17記載の組成物から製造される光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−525693(P2007−525693A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514177(P2006−514177)
【出願日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【国際出願番号】PCT/US2004/013438
【国際公開番号】WO2004/098865
【国際公開日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】