光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法
【課題】蛍光タンパク質からの蛍光量を高い再現性で定量的に検出することができ、特に、外的な要因による微小な蛍光量変化を高い再現性で定量的に検出することができる光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法を提供する。
【解決手段】蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコア2を有する光導波路8を備える光導波路デバイス1のコア入射側端面2aより光導波路8内に蛍光タンパク質の励起光を導入し、光導波路デバイス1のコア出射側端面2bからの蛍光タンパク質の蛍光を検出する。
【解決手段】蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコア2を有する光導波路8を備える光導波路デバイス1のコア入射側端面2aより光導波路8内に蛍光タンパク質の励起光を導入し、光導波路デバイス1のコア出射側端面2bからの蛍光タンパク質の蛍光を検出する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質は、励起波長の光を照射することにより蛍光を発するタンパク質であり、蛍光タンパク質を発現する自然界の生体が存在する。蛍光タンパク質の代表的なものとしては、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発するタンパク質であるGFP(Green Fluorescent Protein、分子質量27kDa)などが知られている。
【0003】
近年では、従来の酵母内部で発現した蛍光タンパク質からの蛍光に比べて、酵母表面に蛍光タンパク質を発現させることにより蛍光量をさらに増加させる方法も開発されている。
【0004】
従来、蛍光タンパク質からの蛍光量を定量的に評価する方法としては顕微鏡を用いた目視による方法が一般的であるが、外的な要因による蛍光量変化を高い再現性で定量的に確認できる方法は未だ確立されていないのが現状である。
【0005】
蛍光タンパク質からの蛍光量の再現性の高い定量的評価を期待できる方法として、光導波路や光ファイバを利用することが検討されている。光導波路や光ファイバの分野では従来、エルビウムなどの無機希土類を内部に固定化して増幅器を構成し蛍光を観測する技術や、応力発光材料を利用した技術などが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、蛍光タンパク質を光導波路内に固定化できれば蛍光強度の向上が期待できるものの、生体由来の蛍光タンパク質を光導波路内に固定化するには技術的な困難を伴い、未だ実現されていないのが現状である。すなわち、光導波路の使用に際しては、最適屈折率の制御、低光損失、および蛍光タンパク質を発現する生体の生存状態での保持などが必要とされるが、このような要求を全て満足する光導波路は未だ提案されていない。
【0007】
蛍光検出に光導波路を利用する技術としては、光ファイバのクラッド先端、あるいは光導波路のコア表面またはクラッド表面に酵素などの生体触媒を固定化して生体反応に伴う蛍光量変化を検出する方法が検討されている。
【0008】
また、蛍光タンパク質を発現する生体を緩衝液に混入したものを光導波路のコアとして用いる方法も検討されている。
【特許文献1】特開2004−71511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前者の方法では、蛍光検出にエバネッセント光(漏れ光)を利用する方法などが採られているが、この場合の蛍光強度は微弱であり、蛍光の集光も非効率であるという問題点があった。そのため、再現性の高い定量的評価は困難であり、また肉眼観測や安価で低電圧駆動可能なシリコン検出器などによる検出が困難であった。
【0010】
また、後者の方法では、蛍光タンパク質を発現する生体を混入した緩衝液との屈折率の関係でARROW(Anti-resonant reflecting optical waveguide)と呼ばれる特殊な光導波路を使用する方法などが採られてきたが、長距離光通信で使用する単一モード光ファイバとの結合損失や光導波路自体の導波損失が大きく、蛍光も微弱であるという問題点があった。さらに、光ファイバを用いた全固体型パッケージングが困難であり、検出系も高電圧で駆動する大型の光電子増倍管などを使用する必要があった。このような理由から、この光導波路では蛍光を光導波路の側面から観測する方法が採られるが、従来の蛍光顕微鏡と比較した場合の優位性は少なく、また緩衝液中に混入した蛍光タンパク質を蛍光顕微鏡により肉眼観察する場合、観測可能な期間は1〜2日程度が限界であった。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、蛍光タンパク質からの蛍光量を高い再現性で定量的に検出することができ、特に、外的な要因による微小な蛍光量変化を高い再現性で定量的に検出することができる光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、本発明の光導波路デバイスは、蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコアを有する光導波路を備えることを特徴とする。
【0014】
第2に、上記第1の光導波路デバイスにおいて、蛍光タンパク質はGFP(Green Fluorescent Protein)であることを特徴とする。
【0015】
第3に、本発明の蛍光分析装置は、上記第1または第2の光導波路デバイスと、光導波路デバイスのコア入射側端面より光導波路内に蛍光タンパク質の励起光を導入するための励起光源と、光導波路デバイスのコア出射側端面からの蛍光タンパク質の蛍光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする。
【0016】
第4に、上記第3の蛍光分析装置において、光導波路デバイスの光導波路が単一モード光導波路であり、コア入射側端面およびコア出射側端面のうち少なくとも一方が単一モード光ファイバに接続されていることを特徴とする。
【0017】
第5に、本発明の化学物質の検出方法は、上記第3または第4の蛍光分析装置を用いた化学物質の検出方法であって、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とし、励起光源からの励起光を光導波路内に導入して光導波路からの蛍光タンパク質の蛍光を光検出器により検出し、光導波路内に浸透した化学物質による光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化により化学物質を検出することを特徴とする。
【0018】
第6に、上記第5の化学物質の検出方法において、化学物質はリン化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光導波路デバイスと蛍光分析装置によれば、光導波路の材料としてゾルゲルシリカを使用して蛍光タンパク質を内部に固定したので、直線状の光導波路におけるコア入射側端面より光導波路内の蛍光タンパク質を励起することで、蛍光タンパク質からの蛍光をコア出射側端面より光導波路の進行方向に検出することができ、高効率な蛍光検出が可能となる。
【0020】
これにより、蛍光タンパク質からの蛍光量を高い再現性で定量的に検出することができ、特に、外的な要因による微小な蛍光量変化を高い再現性で定量的に検出することができる。
【0021】
また、蛍光タンパク質を光導波路としてのゾルゲルシリカにドープすることで、蛍光タンパク質を光導波路内において長い寿命で保持することができ、蛍光タンパク質を発現する酵母等の微生物を光導波路内において長期間生存させることもできる。
【0022】
さらに、強い蛍光を検出できるため、大型で高価な大出力レーザや高電圧で駆動する光電子増倍管を用いた検出系を使用することなく、安価で小型の半導体レーザやシリコン検出器を使用した光集積化が可能となる。
【0023】
また、光導波路デバイスの光導波路を単一モード光導波路とすることにより、励起光の蛍光タンパク質に対する光照射強度を飛躍的に向上させることができると共に、長距離通信で使用されている単一モード光ファイバとの結合が可能となるため長距離ファイバセンサネットワークの構築が可能となる。
【0024】
本発明の化学物質の検出方法によれば、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とすることで、固体、液体、または気体の化学物質をゾルゲルシリカの光導波路内に浸透させることができ、それによる光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化を観測することで、リン化合物などの化学物質の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態における光導波路デバイスを概略的に示した図であり、(a)は斜視図、(b)は導波路軸方向の断面図である。同図に示すように本実施形態の光導波路デバイス1は、基板5上に設けられたクラッド3と、クラッド3に囲まれた導波路軸方向に延びるコア2とを備えており、公知のフォトリソグラフィーの手法等を利用して作製されたものである。
【0027】
光導波路8を構成するコア2は、低温処理したゲル状または多孔性のゾルゲルシリカに蛍光タンパク質を直接混入(ドープ)し、固定化したものである。
【0028】
ゾルゲルシリカとしては、低温処理によるものが好ましく、たとえばγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランと屈折率調整剤のジルコニウム(IV)-n-プロポキシドを用いて80℃の加熱処理を行うことで、加水分解と縮退が始まりガラス化と同時にアルコールが蒸発する。またUV照射によっても同様のガラス化が始まる。
【0029】
ゾルゲルガラスの多孔性については過去に報告がなされてきている(R. Armon et al.“Sol-gel as reaction matrix for bacterial enzymatic activity”, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 19, 289-292, 2000.)。一般的には低温処理でのゾルゲルシリカの多孔半径は大きくなるが(作花済夫著「ゾルゲル法の応用」アグネ承風社p. 93)、本発明ではたとえば多孔半径10〜100nm程度のゾルゲルシリカの使用が考慮される。また空気中の水蒸気との反応による導波路損失の変化についても報告されている(O. N. Mishechkin et al. “Passivation of organic-inorganic hybrid sol-gel”, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 34, 47-51, 2005.)
蛍光タンパク質は、励起波長の光を照射することにより蛍光を発するタンパク質であり、蛍光タンパク質を発現する自然界の生体が存在する。蛍光タンパク質の代表的なものとしては、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発するタンパク質であるGFP(Green Fluorescent Protein、分子質量27kDa)などが例示される。GFPは一般的な無機・有機蛍光物質と異なりタンパク質であるため、遺伝子の形で生きた細胞や生物に導入することもできる。
【0030】
クラッド3は、屈折率等を化学組成等により考慮して、たとえばコア3と同様にゾルゲルシリカにより作製することができる。
【0031】
本実施形態の光導波路デバイス1は、光導波路8を構成するコア2の入射側端面2aより励起光を入射し、コア2内の蛍光タンパク質を励起することで、出射側端面2bより導波路進行方向に蛍光タンパク質からの蛍光を取り出すことができる。
【0032】
蛍光タンパク質をドープするゾルゲルシリカは、低温処理を行った場合、ゲル状や多孔性とすることができるため、固体、液体、および気体の全てをゾルゲルシリカ内部に浸透させることができる。したがって、蛍光タンパク質を発現する酵素等の微生物をゾルゲルシリカにドープした場合、当該微生物は外部からの酸素交換によりゾルゲルシリカ内部で生存可能となり、蛍光タンパク質の光導波路デバイス1内での寿命を向上させることができる。
【0033】
また、固体、液体、または気体の化学物質を光導波路デバイス1に外部から接触させることで、当該化学物質を光導波路8内に浸透させることも可能である。たとえば農薬やサリン等のリン化合物を光導波路デバイス1に接触させることで光導波路8内にリン化合物が浸透した場合、酵母等の微生物に付着した有機リン加水分解酵素の反応により蛍光タンパク質からの蛍光量は変化し、この蛍光量変化からリン化合物の検出が可能となる。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態における蛍光分析装置を概略的に示した図である。本実施形態の蛍光分析装置10は、図1の光導波路デバイス1を備えており、さらに光導波路デバイス1のコア2内にドープされた蛍光タンパク質の励起光源としてArイオンレーザ11(波長488nm)を備えている。
【0035】
光導波路デバイス1のコア2の入射側端面2aには、単一モード光ファイバ13が光学的に接続されており、Arイオンレーザ11からの励起光はレーザファイバカプラ12から単一モード光ファイバ13を通過し光導波路デバイス1のコア2に入射されるようになっている。
【0036】
Arイオンレーザ11からの励起光により励起された光導波路デバイス1のコア2内の蛍光タンパク質は蛍光を発し、コア2の出射側端面2bより外部に出射する。光導波路デバイス1の出射側には、光学系として顕微鏡用対物レンズ14、ダイクロイックフィルタ15が順に配置されており、これらにより蛍光の集光および波長選択がされた後、シリコン検出器16により目的の蛍光が検出される。そしてシリコン検出器16により、あるいは目視により蛍光強度とその変化を観測することにより、センサとしての利用が可能とされる。
【0037】
本実施形態では、光導波路デバイス1の光導波路8を構成するコア2にGFPなどの蛍光タンパク質をドープしているので、蛍光強度を大幅に向上させることができる。通常のレーザ顕微鏡では強い光強度で照射可能な範囲は焦点付近のみであり焦点以外での蛍光が弱く、またLEDとシリコン検出器を使用した簡易型蛍光測定装置の原理では蛍光強度が弱く集光が困難であるため光ファイバ伝送が困難であるが、これらに比べて本実施形態では強い蛍光の観測が可能であり、たとえば波長488nmで20mW程度の弱い励起光を用いて、コア2内のGFPからの蛍光をシリコン検出器16により検出することができる。
【0038】
また、光導波路8を単一モード光導波路とし、単一モード光ファイバ13から直接に導波路デバイス1の光導波路8に光を結合する構造を適用している。このように単一モード光導波路を使用することにより、たとえばGFPなどの蛍光タンパク質をドープした4μm×4μmのコア2内のGFPを5mm長に渡り実質的に同等の光強度で励起することができる。
【0039】
さらに、光導波路デバイス1の光導波路8をコア2の入射端面2a、あるいは入射端面2aと出射端面2bの両方で光ファイバと接着することで光接続が可能であるため、光軸整合が不要となり、蛍光分析装置10全体として長寿命化および小型化し、可搬性を高めることができる。
【0040】
また、光導波路デバイス1のコア2に蛍光タンパク質を固定化しているので、蛍光タンパク質からの蛍光が光導波路8を通り出射側端面2bから導波路進行方向に出射するため、顕微鏡用対物レンズ14により蛍光を容易に集光することができ、たとえば光ファイバにより蛍光を伝送する構成とした場合、低光損失での伝送が容易である。
【0041】
さらに、光導波路デバイス1の光導波路8を構成するコア2にGFPなどの蛍光タンパク質をドープすることで蛍光強度を大幅に向上させることができるので、kV程度の高電圧を必要とする光電子増倍管などの大型検出装置を使用せずに、シリコン検出器16などの小型検出装置を用いると共に、励起光源として安価な半導体レーザなどを使用し、さらに低光損失である単一モード光ファイバ13を組み合わせて使用することにより、ビルなどの屋内外へのファイバネットワークを構築したバイオセンサとして蛍光分析装置10を構成することも可能とされる。すなわち、本発明の光導波路デバイス1の特徴を利用することで、長距離ファイバセンサネットワークの構築も可能となる。
【0042】
また、蛍光タンパク質の強い蛍光とゾルゲルシリカ内部での長期に渡る寿命により、たとえば30日以上の肉眼検出とシリコン検出器16での蛍光量変化の観測も可能である。
【0043】
さらに、外部からのリン化合物などを光導波路デバイス1に接触させることにより光導波路8内に浸透させ、蛍光タンパク質をドープしたコア2内のpHを変化させることにより、それに基づく蛍光量変化を観測することでリン化合物などの検出が可能となる。したがって、農薬などのリンに対する屋外でのバイオセンサとしての応用も可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
図1に示す構造のGFPドープゾルゲル光導波路デバイスを図3に示す方法により作製した。
【0045】
γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MAPTMS)と屈折率調整剤としてジルコニウム(IV)-n-プロポキシド(ZrPO)を用いて、Si/Zr混合率=88/12モル%の化学組成を有するゾルゲルクラッド作製用の溶液を使用し、図3(a)に示すSiO2/Si基板5上に当該溶液を2回スピンコートし、150℃/1hのベーキングを行い0.1 N HClによる加水分解と縮退によりガラス化を進行させ膜厚8μmの下部クラッド3aを形成した。
【0046】
次いでこの下部クラッド3a上に膜厚4μmの側面クラッド3bをスピンコートし、マスク6を介したUV照射とIPAによりエッチングを行い側面クラッド3bをパターニングした。その後、80℃/24hのベーキングを行うことにより、図3(b)に示すように側面クラッド3bにコア形成用溝部4を形成した。
【0047】
一方、フィルタ処理後のゾルゲルコア作製用の溶液(MAPTMS、ZrPO:Si/Zr混合率=85/15モル%)1mlにモデルGFP 2mgを混合し、室温で5分放置後、攪拌した。この溶液をコア形成用溝部4を含む範囲にスピンコートした後、図3(c)に示すように水銀ランプ365nm線を用いて照射強度9mW/cm2で9分間UV照射した。その後、端面をクリーブして直線的な端面を得、このようにして断面4μm×4μmのコア2を形成した光導波路デバイス1を作製した。
<実施例2>
実施例1で作製した光導波路デバイス1を用いて図2に示す構成を備えた蛍光分析装置10を構成し蛍光観測を行った。光導波路デバイス1のコア2内にドープしたGFPの励起光源としてArイオンレーザ11(波長488nm)を使用し、光導波路デバイス1のコア2の入射側端面2aに接着した単一モード光ファイバ13よりレーザファイバカプラ12を介して励起光を光導波路8内に導入するようにした。
【0048】
光導波路デバイス1の出射側には、光学系として顕微鏡用対物レンズ14(×20倍)、ダイクロイックフィルタ15(High Transmission at 511nm、Low Transmission at 488nm)、シリコン検出器16を順に配置した。
【0049】
この蛍光分析装置10について、光導波路デバイス1の光導波路8にドープしたGFPを励起し蛍光観測を行った。Arイオンレーザ11からの励起波長488nmのレーザ光を、単一モード光ファイバ13を介して光導波路デバイス1の光導波路8に入射し、波長511nmの蛍光をシリコン検出器16にて測定した。
【0050】
図4に、背景ノイズ補正後のシリコン検出器16による蛍光検出結果を示す。同図に示すように、励起光強度に依存して光導波路8内のGFPによる強い蛍光が観測された。また、シングルモードおよびスラブモードで肉眼観測により強い蛍光を確認した。
【0051】
図5、図6は、GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである。波長488nmおよび515nmのレーザ光に対するGFPドープゾルゲルシリカ光導波路(図5:導波路長5mm、図6:導波路長10mm)の光損失を測定した。
【0052】
GFP蛍光に相当する励起波長515nmにおいて導波路幅5μmに対して、導波路長5mmで30%程度の透過率を得た。励起波長515nmに対するデバイスの光導波損失は、導波路長5mmで-4〜-5dB程度、導波路長10mmで-5dB程度であることから、<1dB/5mmと見積もられる。励起波長488nmに対するデバイスの光導波損失は、導波路長5mmで-6dB程度、導波路長10mmで-10dB程度であることから、4dB/5mm程度と見積もられる。
【0053】
図7は、シリコン検出器の背景ノイズ測定結果を示すグラフである。図中横軸は、単一モード光ファイバ13から光導波路デバイス1内への入力パワー(mW)、縦軸はシリコン検出器16の設定510nm時の背景ノイズ(μW)を示す。
【0054】
図4と図7の結果より、背景ノイズレベルよりも1桁高いGFPの蛍光パワー検出に成功していることが分かる。そして以上より、従来は困難であったシリコン検出器16を用いた定量的な蛍光観測も可能であることが示された。
【0055】
図8は、光導波路デバイス1の作製後、冷蔵庫で保管し10日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。図9は19日後、図10は30日後の蛍光パワーを示す同様のグラフである。光導波路デバイス1は、10日経過後も肉眼でも強い蛍光を示し、19日経過後および30日経過後も肉眼で蛍光が観測された。
【0056】
図11は、光導波路デバイス1に緩衝液(pH=4.0)を滴下し、GFPをドープした光導波路8内に浸入させた後の蛍光変化を観測したグラフである。同図に示されるように、GFPをドープした光導波路8からの蛍光強度は緩衝液に対する依存性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態における光導波路デバイスを概略的に示した図であり、(a)は斜視図、(b)は導波路軸方向の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における蛍光分析装置を概略的に示した図である。
【図3】GFPドープゾルゲル光導波路デバイスの作製工程を示した図である。
【図4】背景ノイズ補正後のシリコン検出器による蛍光検出結果を示すグラフである。
【図5】GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである(導波路長5mm)。
【図6】GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである(導波路長10mm)。
【図7】シリコン検出器の背景ノイズ測定結果を示すグラフである。
【図8】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し10日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図9】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し19日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図10】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し30日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図11】光導波路デバイスに緩衝液を滴下しGFPをドープした光導波路内に浸入させた後の蛍光変化を観測したグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 光導波路デバイス
2 コア
2a 入射側端面
2b 出射側端面
3 クラッド
3a 下部クラッド
3b 側面クラッド
4 コア形成用溝部
5 基板
6 マスク
8 光導波路
10 蛍光分析装置
11 Arイオンレーザ
12 レーザファイバカプラ
13 単一モード光ファイバ
14 顕微鏡用対物レンズ
15 ダイクロイックフィルタ
16 シリコン検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光タンパク質は、励起波長の光を照射することにより蛍光を発するタンパク質であり、蛍光タンパク質を発現する自然界の生体が存在する。蛍光タンパク質の代表的なものとしては、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発するタンパク質であるGFP(Green Fluorescent Protein、分子質量27kDa)などが知られている。
【0003】
近年では、従来の酵母内部で発現した蛍光タンパク質からの蛍光に比べて、酵母表面に蛍光タンパク質を発現させることにより蛍光量をさらに増加させる方法も開発されている。
【0004】
従来、蛍光タンパク質からの蛍光量を定量的に評価する方法としては顕微鏡を用いた目視による方法が一般的であるが、外的な要因による蛍光量変化を高い再現性で定量的に確認できる方法は未だ確立されていないのが現状である。
【0005】
蛍光タンパク質からの蛍光量の再現性の高い定量的評価を期待できる方法として、光導波路や光ファイバを利用することが検討されている。光導波路や光ファイバの分野では従来、エルビウムなどの無機希土類を内部に固定化して増幅器を構成し蛍光を観測する技術や、応力発光材料を利用した技術などが知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、蛍光タンパク質を光導波路内に固定化できれば蛍光強度の向上が期待できるものの、生体由来の蛍光タンパク質を光導波路内に固定化するには技術的な困難を伴い、未だ実現されていないのが現状である。すなわち、光導波路の使用に際しては、最適屈折率の制御、低光損失、および蛍光タンパク質を発現する生体の生存状態での保持などが必要とされるが、このような要求を全て満足する光導波路は未だ提案されていない。
【0007】
蛍光検出に光導波路を利用する技術としては、光ファイバのクラッド先端、あるいは光導波路のコア表面またはクラッド表面に酵素などの生体触媒を固定化して生体反応に伴う蛍光量変化を検出する方法が検討されている。
【0008】
また、蛍光タンパク質を発現する生体を緩衝液に混入したものを光導波路のコアとして用いる方法も検討されている。
【特許文献1】特開2004−71511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、前者の方法では、蛍光検出にエバネッセント光(漏れ光)を利用する方法などが採られているが、この場合の蛍光強度は微弱であり、蛍光の集光も非効率であるという問題点があった。そのため、再現性の高い定量的評価は困難であり、また肉眼観測や安価で低電圧駆動可能なシリコン検出器などによる検出が困難であった。
【0010】
また、後者の方法では、蛍光タンパク質を発現する生体を混入した緩衝液との屈折率の関係でARROW(Anti-resonant reflecting optical waveguide)と呼ばれる特殊な光導波路を使用する方法などが採られてきたが、長距離光通信で使用する単一モード光ファイバとの結合損失や光導波路自体の導波損失が大きく、蛍光も微弱であるという問題点があった。さらに、光ファイバを用いた全固体型パッケージングが困難であり、検出系も高電圧で駆動する大型の光電子増倍管などを使用する必要があった。このような理由から、この光導波路では蛍光を光導波路の側面から観測する方法が採られるが、従来の蛍光顕微鏡と比較した場合の優位性は少なく、また緩衝液中に混入した蛍光タンパク質を蛍光顕微鏡により肉眼観察する場合、観測可能な期間は1〜2日程度が限界であった。
【0011】
本発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、蛍光タンパク質からの蛍光量を高い再現性で定量的に検出することができ、特に、外的な要因による微小な蛍光量変化を高い再現性で定量的に検出することができる光導波路デバイスと蛍光分析装置並びにそれを用いた化学物質の検出方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記の課題を解決するために、以下のことを特徴としている。
【0013】
第1に、本発明の光導波路デバイスは、蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコアを有する光導波路を備えることを特徴とする。
【0014】
第2に、上記第1の光導波路デバイスにおいて、蛍光タンパク質はGFP(Green Fluorescent Protein)であることを特徴とする。
【0015】
第3に、本発明の蛍光分析装置は、上記第1または第2の光導波路デバイスと、光導波路デバイスのコア入射側端面より光導波路内に蛍光タンパク質の励起光を導入するための励起光源と、光導波路デバイスのコア出射側端面からの蛍光タンパク質の蛍光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする。
【0016】
第4に、上記第3の蛍光分析装置において、光導波路デバイスの光導波路が単一モード光導波路であり、コア入射側端面およびコア出射側端面のうち少なくとも一方が単一モード光ファイバに接続されていることを特徴とする。
【0017】
第5に、本発明の化学物質の検出方法は、上記第3または第4の蛍光分析装置を用いた化学物質の検出方法であって、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とし、励起光源からの励起光を光導波路内に導入して光導波路からの蛍光タンパク質の蛍光を光検出器により検出し、光導波路内に浸透した化学物質による光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化により化学物質を検出することを特徴とする。
【0018】
第6に、上記第5の化学物質の検出方法において、化学物質はリン化合物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の光導波路デバイスと蛍光分析装置によれば、光導波路の材料としてゾルゲルシリカを使用して蛍光タンパク質を内部に固定したので、直線状の光導波路におけるコア入射側端面より光導波路内の蛍光タンパク質を励起することで、蛍光タンパク質からの蛍光をコア出射側端面より光導波路の進行方向に検出することができ、高効率な蛍光検出が可能となる。
【0020】
これにより、蛍光タンパク質からの蛍光量を高い再現性で定量的に検出することができ、特に、外的な要因による微小な蛍光量変化を高い再現性で定量的に検出することができる。
【0021】
また、蛍光タンパク質を光導波路としてのゾルゲルシリカにドープすることで、蛍光タンパク質を光導波路内において長い寿命で保持することができ、蛍光タンパク質を発現する酵母等の微生物を光導波路内において長期間生存させることもできる。
【0022】
さらに、強い蛍光を検出できるため、大型で高価な大出力レーザや高電圧で駆動する光電子増倍管を用いた検出系を使用することなく、安価で小型の半導体レーザやシリコン検出器を使用した光集積化が可能となる。
【0023】
また、光導波路デバイスの光導波路を単一モード光導波路とすることにより、励起光の蛍光タンパク質に対する光照射強度を飛躍的に向上させることができると共に、長距離通信で使用されている単一モード光ファイバとの結合が可能となるため長距離ファイバセンサネットワークの構築が可能となる。
【0024】
本発明の化学物質の検出方法によれば、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とすることで、固体、液体、または気体の化学物質をゾルゲルシリカの光導波路内に浸透させることができ、それによる光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化を観測することで、リン化合物などの化学物質の検出が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、本発明の一実施形態における光導波路デバイスを概略的に示した図であり、(a)は斜視図、(b)は導波路軸方向の断面図である。同図に示すように本実施形態の光導波路デバイス1は、基板5上に設けられたクラッド3と、クラッド3に囲まれた導波路軸方向に延びるコア2とを備えており、公知のフォトリソグラフィーの手法等を利用して作製されたものである。
【0027】
光導波路8を構成するコア2は、低温処理したゲル状または多孔性のゾルゲルシリカに蛍光タンパク質を直接混入(ドープ)し、固定化したものである。
【0028】
ゾルゲルシリカとしては、低温処理によるものが好ましく、たとえばγ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシランと屈折率調整剤のジルコニウム(IV)-n-プロポキシドを用いて80℃の加熱処理を行うことで、加水分解と縮退が始まりガラス化と同時にアルコールが蒸発する。またUV照射によっても同様のガラス化が始まる。
【0029】
ゾルゲルガラスの多孔性については過去に報告がなされてきている(R. Armon et al.“Sol-gel as reaction matrix for bacterial enzymatic activity”, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 19, 289-292, 2000.)。一般的には低温処理でのゾルゲルシリカの多孔半径は大きくなるが(作花済夫著「ゾルゲル法の応用」アグネ承風社p. 93)、本発明ではたとえば多孔半径10〜100nm程度のゾルゲルシリカの使用が考慮される。また空気中の水蒸気との反応による導波路損失の変化についても報告されている(O. N. Mishechkin et al. “Passivation of organic-inorganic hybrid sol-gel”, Journal of Sol-Gel Science and Technology, 34, 47-51, 2005.)
蛍光タンパク質は、励起波長の光を照射することにより蛍光を発するタンパク質であり、蛍光タンパク質を発現する自然界の生体が存在する。蛍光タンパク質の代表的なものとしては、オワンクラゲから単離された緑色の蛍光を発するタンパク質であるGFP(Green Fluorescent Protein、分子質量27kDa)などが例示される。GFPは一般的な無機・有機蛍光物質と異なりタンパク質であるため、遺伝子の形で生きた細胞や生物に導入することもできる。
【0030】
クラッド3は、屈折率等を化学組成等により考慮して、たとえばコア3と同様にゾルゲルシリカにより作製することができる。
【0031】
本実施形態の光導波路デバイス1は、光導波路8を構成するコア2の入射側端面2aより励起光を入射し、コア2内の蛍光タンパク質を励起することで、出射側端面2bより導波路進行方向に蛍光タンパク質からの蛍光を取り出すことができる。
【0032】
蛍光タンパク質をドープするゾルゲルシリカは、低温処理を行った場合、ゲル状や多孔性とすることができるため、固体、液体、および気体の全てをゾルゲルシリカ内部に浸透させることができる。したがって、蛍光タンパク質を発現する酵素等の微生物をゾルゲルシリカにドープした場合、当該微生物は外部からの酸素交換によりゾルゲルシリカ内部で生存可能となり、蛍光タンパク質の光導波路デバイス1内での寿命を向上させることができる。
【0033】
また、固体、液体、または気体の化学物質を光導波路デバイス1に外部から接触させることで、当該化学物質を光導波路8内に浸透させることも可能である。たとえば農薬やサリン等のリン化合物を光導波路デバイス1に接触させることで光導波路8内にリン化合物が浸透した場合、酵母等の微生物に付着した有機リン加水分解酵素の反応により蛍光タンパク質からの蛍光量は変化し、この蛍光量変化からリン化合物の検出が可能となる。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態における蛍光分析装置を概略的に示した図である。本実施形態の蛍光分析装置10は、図1の光導波路デバイス1を備えており、さらに光導波路デバイス1のコア2内にドープされた蛍光タンパク質の励起光源としてArイオンレーザ11(波長488nm)を備えている。
【0035】
光導波路デバイス1のコア2の入射側端面2aには、単一モード光ファイバ13が光学的に接続されており、Arイオンレーザ11からの励起光はレーザファイバカプラ12から単一モード光ファイバ13を通過し光導波路デバイス1のコア2に入射されるようになっている。
【0036】
Arイオンレーザ11からの励起光により励起された光導波路デバイス1のコア2内の蛍光タンパク質は蛍光を発し、コア2の出射側端面2bより外部に出射する。光導波路デバイス1の出射側には、光学系として顕微鏡用対物レンズ14、ダイクロイックフィルタ15が順に配置されており、これらにより蛍光の集光および波長選択がされた後、シリコン検出器16により目的の蛍光が検出される。そしてシリコン検出器16により、あるいは目視により蛍光強度とその変化を観測することにより、センサとしての利用が可能とされる。
【0037】
本実施形態では、光導波路デバイス1の光導波路8を構成するコア2にGFPなどの蛍光タンパク質をドープしているので、蛍光強度を大幅に向上させることができる。通常のレーザ顕微鏡では強い光強度で照射可能な範囲は焦点付近のみであり焦点以外での蛍光が弱く、またLEDとシリコン検出器を使用した簡易型蛍光測定装置の原理では蛍光強度が弱く集光が困難であるため光ファイバ伝送が困難であるが、これらに比べて本実施形態では強い蛍光の観測が可能であり、たとえば波長488nmで20mW程度の弱い励起光を用いて、コア2内のGFPからの蛍光をシリコン検出器16により検出することができる。
【0038】
また、光導波路8を単一モード光導波路とし、単一モード光ファイバ13から直接に導波路デバイス1の光導波路8に光を結合する構造を適用している。このように単一モード光導波路を使用することにより、たとえばGFPなどの蛍光タンパク質をドープした4μm×4μmのコア2内のGFPを5mm長に渡り実質的に同等の光強度で励起することができる。
【0039】
さらに、光導波路デバイス1の光導波路8をコア2の入射端面2a、あるいは入射端面2aと出射端面2bの両方で光ファイバと接着することで光接続が可能であるため、光軸整合が不要となり、蛍光分析装置10全体として長寿命化および小型化し、可搬性を高めることができる。
【0040】
また、光導波路デバイス1のコア2に蛍光タンパク質を固定化しているので、蛍光タンパク質からの蛍光が光導波路8を通り出射側端面2bから導波路進行方向に出射するため、顕微鏡用対物レンズ14により蛍光を容易に集光することができ、たとえば光ファイバにより蛍光を伝送する構成とした場合、低光損失での伝送が容易である。
【0041】
さらに、光導波路デバイス1の光導波路8を構成するコア2にGFPなどの蛍光タンパク質をドープすることで蛍光強度を大幅に向上させることができるので、kV程度の高電圧を必要とする光電子増倍管などの大型検出装置を使用せずに、シリコン検出器16などの小型検出装置を用いると共に、励起光源として安価な半導体レーザなどを使用し、さらに低光損失である単一モード光ファイバ13を組み合わせて使用することにより、ビルなどの屋内外へのファイバネットワークを構築したバイオセンサとして蛍光分析装置10を構成することも可能とされる。すなわち、本発明の光導波路デバイス1の特徴を利用することで、長距離ファイバセンサネットワークの構築も可能となる。
【0042】
また、蛍光タンパク質の強い蛍光とゾルゲルシリカ内部での長期に渡る寿命により、たとえば30日以上の肉眼検出とシリコン検出器16での蛍光量変化の観測も可能である。
【0043】
さらに、外部からのリン化合物などを光導波路デバイス1に接触させることにより光導波路8内に浸透させ、蛍光タンパク質をドープしたコア2内のpHを変化させることにより、それに基づく蛍光量変化を観測することでリン化合物などの検出が可能となる。したがって、農薬などのリンに対する屋外でのバイオセンサとしての応用も可能である。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
<実施例1>
図1に示す構造のGFPドープゾルゲル光導波路デバイスを図3に示す方法により作製した。
【0045】
γ-メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン(MAPTMS)と屈折率調整剤としてジルコニウム(IV)-n-プロポキシド(ZrPO)を用いて、Si/Zr混合率=88/12モル%の化学組成を有するゾルゲルクラッド作製用の溶液を使用し、図3(a)に示すSiO2/Si基板5上に当該溶液を2回スピンコートし、150℃/1hのベーキングを行い0.1 N HClによる加水分解と縮退によりガラス化を進行させ膜厚8μmの下部クラッド3aを形成した。
【0046】
次いでこの下部クラッド3a上に膜厚4μmの側面クラッド3bをスピンコートし、マスク6を介したUV照射とIPAによりエッチングを行い側面クラッド3bをパターニングした。その後、80℃/24hのベーキングを行うことにより、図3(b)に示すように側面クラッド3bにコア形成用溝部4を形成した。
【0047】
一方、フィルタ処理後のゾルゲルコア作製用の溶液(MAPTMS、ZrPO:Si/Zr混合率=85/15モル%)1mlにモデルGFP 2mgを混合し、室温で5分放置後、攪拌した。この溶液をコア形成用溝部4を含む範囲にスピンコートした後、図3(c)に示すように水銀ランプ365nm線を用いて照射強度9mW/cm2で9分間UV照射した。その後、端面をクリーブして直線的な端面を得、このようにして断面4μm×4μmのコア2を形成した光導波路デバイス1を作製した。
<実施例2>
実施例1で作製した光導波路デバイス1を用いて図2に示す構成を備えた蛍光分析装置10を構成し蛍光観測を行った。光導波路デバイス1のコア2内にドープしたGFPの励起光源としてArイオンレーザ11(波長488nm)を使用し、光導波路デバイス1のコア2の入射側端面2aに接着した単一モード光ファイバ13よりレーザファイバカプラ12を介して励起光を光導波路8内に導入するようにした。
【0048】
光導波路デバイス1の出射側には、光学系として顕微鏡用対物レンズ14(×20倍)、ダイクロイックフィルタ15(High Transmission at 511nm、Low Transmission at 488nm)、シリコン検出器16を順に配置した。
【0049】
この蛍光分析装置10について、光導波路デバイス1の光導波路8にドープしたGFPを励起し蛍光観測を行った。Arイオンレーザ11からの励起波長488nmのレーザ光を、単一モード光ファイバ13を介して光導波路デバイス1の光導波路8に入射し、波長511nmの蛍光をシリコン検出器16にて測定した。
【0050】
図4に、背景ノイズ補正後のシリコン検出器16による蛍光検出結果を示す。同図に示すように、励起光強度に依存して光導波路8内のGFPによる強い蛍光が観測された。また、シングルモードおよびスラブモードで肉眼観測により強い蛍光を確認した。
【0051】
図5、図6は、GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである。波長488nmおよび515nmのレーザ光に対するGFPドープゾルゲルシリカ光導波路(図5:導波路長5mm、図6:導波路長10mm)の光損失を測定した。
【0052】
GFP蛍光に相当する励起波長515nmにおいて導波路幅5μmに対して、導波路長5mmで30%程度の透過率を得た。励起波長515nmに対するデバイスの光導波損失は、導波路長5mmで-4〜-5dB程度、導波路長10mmで-5dB程度であることから、<1dB/5mmと見積もられる。励起波長488nmに対するデバイスの光導波損失は、導波路長5mmで-6dB程度、導波路長10mmで-10dB程度であることから、4dB/5mm程度と見積もられる。
【0053】
図7は、シリコン検出器の背景ノイズ測定結果を示すグラフである。図中横軸は、単一モード光ファイバ13から光導波路デバイス1内への入力パワー(mW)、縦軸はシリコン検出器16の設定510nm時の背景ノイズ(μW)を示す。
【0054】
図4と図7の結果より、背景ノイズレベルよりも1桁高いGFPの蛍光パワー検出に成功していることが分かる。そして以上より、従来は困難であったシリコン検出器16を用いた定量的な蛍光観測も可能であることが示された。
【0055】
図8は、光導波路デバイス1の作製後、冷蔵庫で保管し10日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。図9は19日後、図10は30日後の蛍光パワーを示す同様のグラフである。光導波路デバイス1は、10日経過後も肉眼でも強い蛍光を示し、19日経過後および30日経過後も肉眼で蛍光が観測された。
【0056】
図11は、光導波路デバイス1に緩衝液(pH=4.0)を滴下し、GFPをドープした光導波路8内に浸入させた後の蛍光変化を観測したグラフである。同図に示されるように、GFPをドープした光導波路8からの蛍光強度は緩衝液に対する依存性を示した。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の一実施形態における光導波路デバイスを概略的に示した図であり、(a)は斜視図、(b)は導波路軸方向の断面図である。
【図2】本発明の一実施形態における蛍光分析装置を概略的に示した図である。
【図3】GFPドープゾルゲル光導波路デバイスの作製工程を示した図である。
【図4】背景ノイズ補正後のシリコン検出器による蛍光検出結果を示すグラフである。
【図5】GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである(導波路長5mm)。
【図6】GFPドープゾルゲルシリカ光導波路の透過損失測定の結果を示すグラフである(導波路長10mm)。
【図7】シリコン検出器の背景ノイズ測定結果を示すグラフである。
【図8】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し10日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図9】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し19日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図10】光導波路デバイスの作製後、冷蔵庫で保管し30日経過後の蛍光パワーを示す寿命測定結果のグラフである。
【図11】光導波路デバイスに緩衝液を滴下しGFPをドープした光導波路内に浸入させた後の蛍光変化を観測したグラフである。
【符号の説明】
【0058】
1 光導波路デバイス
2 コア
2a 入射側端面
2b 出射側端面
3 クラッド
3a 下部クラッド
3b 側面クラッド
4 コア形成用溝部
5 基板
6 マスク
8 光導波路
10 蛍光分析装置
11 Arイオンレーザ
12 レーザファイバカプラ
13 単一モード光ファイバ
14 顕微鏡用対物レンズ
15 ダイクロイックフィルタ
16 シリコン検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコアを有する光導波路を備えることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
蛍光タンパク質はGFP(Green Fluorescent Protein)であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光導波路デバイスと、光導波路デバイスのコア入射側端面より光導波路内に蛍光タンパク質の励起光を導入するための励起光源と、光導波路デバイスのコア出射側端面からの蛍光タンパク質の蛍光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする蛍光分析装置。
【請求項4】
光導波路デバイスの光導波路が単一モード光導波路であり、コア入射側端面およびコア出射側端面のうち少なくとも一方が単一モード光ファイバに接続されていることを特徴とする請求項3に記載の蛍光分析装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の蛍光分析装置を用いた化学物質の検出方法であって、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とし、励起光源からの励起光を光導波路内に導入して光導波路からの蛍光タンパク質の蛍光を光検出器により検出し、光導波路内に浸透した化学物質による光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化により化学物質を検出することを特徴とする化学物質の検出方法。
【請求項6】
化学物質はリン化合物であることを特徴とする請求項5に記載の化学物質の検出方法。
【請求項1】
蛍光タンパク質を内部に固定したゾルゲルシリカからなるコアを有する光導波路を備えることを特徴とする光導波路デバイス。
【請求項2】
蛍光タンパク質はGFP(Green Fluorescent Protein)であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路デバイス。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光導波路デバイスと、光導波路デバイスのコア入射側端面より光導波路内に蛍光タンパク質の励起光を導入するための励起光源と、光導波路デバイスのコア出射側端面からの蛍光タンパク質の蛍光を検出する光検出器とを備えることを特徴とする蛍光分析装置。
【請求項4】
光導波路デバイスの光導波路が単一モード光導波路であり、コア入射側端面およびコア出射側端面のうち少なくとも一方が単一モード光ファイバに接続されていることを特徴とする請求項3に記載の蛍光分析装置。
【請求項5】
請求項3または4に記載の蛍光分析装置を用いた化学物質の検出方法であって、光導波路デバイスの光導波路を検出対象の化学物質に接触可能な状態とし、励起光源からの励起光を光導波路内に導入して光導波路からの蛍光タンパク質の蛍光を光検出器により検出し、光導波路内に浸透した化学物質による光導波路内のpH変化に基づく蛍光タンパク質からの蛍光量の変化により化学物質を検出することを特徴とする化学物質の検出方法。
【請求項6】
化学物質はリン化合物であることを特徴とする請求項5に記載の化学物質の検出方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2009−192274(P2009−192274A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−31117(P2008−31117)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年11月13日 インターネットアドレス「http://scitation.aip.org/getabs/servlet/GetabsServlet?prog=normal&id=APPLAB000091000020203507000001&idtype=cvips&gifs=yes」に発表
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2007年11月13日 インターネットアドレス「http://scitation.aip.org/getabs/servlet/GetabsServlet?prog=normal&id=APPLAB000091000020203507000001&idtype=cvips&gifs=yes」に発表
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【Fターム(参考)】
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